特許第6860196号(P6860196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6860196-塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860196
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/56 20060101AFI20210405BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20210405BHJP
   C01F 7/74 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C01F7/56 A
   B01D21/01 102
   C01F7/74
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-8191(P2017-8191)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-115097(P2018-115097A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小高 篤志
(72)【発明者】
【氏名】有賀 茂美
(72)【発明者】
【氏名】西村 珠季
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−024694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/56
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法において、
Al濃度が5質量%以上、かつ30質量%以下で塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを混合してアルミナゲル懸濁液を調製する第1工程と、
前記アルミナゲル懸濁液を、塩基度が65%以下の塩基性塩化アルミニウム溶液と混合して混合液を得る第2工程と、
前記混合液中のアルミナゲルを溶解させて塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液を得る第3工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記アルカリ塩として、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩を用いることを特徴とする塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度は、65%を超え、かつ90%未満であることを特徴とする請求項1に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液は、80℃以上の温度で1時間以上熟成した履歴を有することを特徴とする請求項1または2に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程を行う際、前記第2工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の温度を25℃から80℃にしておくことを特徴とする請求項1から3までの何れか一項に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程を行う際、前記混合液の温度を80℃以下にしておくことを特徴とする請求項4に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程、前記第2工程、および前記第3工程のうちの少なくとも1つの工程において硫酸塩を添加し、前記第3工程で得られる前記塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根の濃度比(SO/Al)を5質量%以上、かつ35質量%以下とすることを特徴とする請求項1から5までの何れか一項に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程では、前記混合液を加熱して前記アルミナゲルを溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得た溶液を25℃から80℃の温度で熟成させる熟成工程と、を行い、
前記第3工程で前記硫酸塩を添加する場合には、前記熟成工程でのみ前記硫酸塩を添加することを特徴とする請求項6に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程で得られた前記塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根の濃度比(SO/Al)を15質量%以上、かつ30質量%以下とすることを特徴とする請求項6または7に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程で得られた塩基性塩化アルミニウム溶液は、塩基度が50%以上、かつ85%以下であることを特徴とする請求項1から8までの何れか一項に記載の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用水、排水、上下水の水処理等に利用される高塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩基性塩化アルミニウムの製造技術としては、塩化アルミニウム系の溶液と硫酸塩水溶液とを混合した後、カルシウム化合物を添加して硫酸イオンを石膏として除去する方法や、塩化アルミニウム系の溶液と硫酸塩水溶液とを混合し、易溶解性の水酸化アルミニウムを溶解する方法等が挙げられる。また、残留アルミニウムを少なくする塩基性塩化アルミニウムの製造方法として、塩基度を高くする事で、残留アルミニウムを低減することが提案されている(特許文献1、2、3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−10727号公報
【特許文献2】特許第2574735号公報
【特許文献3】特許第4953458号公報
【特許文献4】特許第3194176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、凝集性が低いという問題点がある。特許文献3に記載の技術では、塩基度の上昇とともに残留アルミニウムの減少が見られるが、それに伴って凝集性が低くなる傾向がある。しかも、生産工程において反応液の増粘が発生するため、反応のコントロールが難しい。特許文献4に記載の技術では、脱塩工程を必要とすることから、製造コストの上昇を避けることができない。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、残留アルミニウムを低くすることができるとともに凝集性に優れ、かつ、製造コストを低減することができ塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法において、Al濃度が5質量%以上、かつ30質量%以下で塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを混合してアルミナゲル懸濁液を調製する第1工程と、前記アルミナゲル懸濁液を、塩基度が65%以下の塩基性塩化アルミニウム溶液と混合して混合液を得る第2工程と、前記混合液中のアルミナゲルを溶解させて塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液を得る第3工程と、を有し、前記第1工程では、前記アルカリ塩として、アルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩を用いることを特徴とする。
【0007】
本発明では、第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が65%を超えるため、ポリマー化したアルミニウムイオンが増加し、残留アルミニウムが減少する。また、第1工程では、塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液によってアルミナゲル懸濁液を調製するため、凝集性が優れている。また、本発明では、脱塩工程を行う必要がないことから、工程数が少ない。それ故、製造コストを低減することができる。さらに、溶解性に優れているので、溶解温度を抑えること、および溶解時間を短くすることが可能である。それ故、エネルギーコストを抑え、生産性の向上を実現することができる。
また、ポリマー種が増加するため、塩基性塩化アルミニウム溶液を水処理剤として用いた場合にろ過水濁度を下げることができる。
【0008】
本発明において、前記第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度は、65%を超え、かつ90%未満である態様を採用することができる。
【0009】
本発明において、前記第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液は、80℃以上の温度で1時間以上熟成した履歴を有する態様を採用することができる。かかる態様によれば、ポリマー種と低分子のモノマー種とが混在している状態を、ポリマー種に移行させることができる。従って、この液から生成されるアルミナゲル懸濁液は、ポリマー状態を保持したゲルの形態となる。
【0010】
本発明において、前記第2工程を行う際、前記第2工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の温度を25℃(常温)から80℃にしておくことが好ましい。かかる態様によれば、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができ、かつ、ろ過水濁度を下げることができる。但し、第2工程で得られる混合液の塩基度が65%未満の場合は、第2工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液を60℃以上に加熱することにより、増加させたポリマーイオンが減少することがある。従って、混合液の塩基度が50%〜65%未満の場合には塩基性塩化アルミニウムを25℃〜60℃とし、混合液の塩基度が65%以上の場合には塩基性塩化アルミニウムを40〜80℃とすることにより、増加させたポリマーイオンを温存させた混合液、または増加させた混合液を得ることが可能となる。
【0011】
本発明において、前記第3工程を行う際、前記混合液の温度を80℃以下にしておくことが好ましい。かかる態様によれば、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができ、かつ、ろ過水濁度を下げることが可能となる。但し、混合液の塩基度が65%未満の場合は、60℃以上に加熱することにより、増加させたポリマーイオンが減少することがある。従って、混合液の塩基度50〜65%未満の場合には25℃〜60℃とし、混合液の塩基度が65%以上の場合には40〜80℃とすることにより、増加させたポリマーイオンを温存させた溶液、または増加させた溶液を得ることが可能となる。
【0012】
本発明において、前記第1工程、前記第2工程、および前記第3工程のうちの少なくとも1つの工程で硫酸塩を添加し、前記第3工程で得られる前記塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根の濃度比(SO/Al)を5質量%以上、かつ35質量%以下とすることが好ましい。かかる態様によれば、凝集性を高めることができる。
【0013】
本発明において、前記第3工程では、前記混合液を加熱して前記アルミナゲルを溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得た溶液を25℃(常温)から80℃の温度で熟成させる熟成工程と、を行い、前記第3工程で前記硫酸塩を添加する場合には、前記熟成工程でのみ前記硫酸塩を添加することが好ましい。アルミナゲル懸濁液を調製した以降、加熱する際、加熱温度が高い程、および加熱時間が長い程、増粘しにくくなるが、凝集性能が低下する。これに対して、アルミナゲル懸濁液を調製した以降、加熱する際、加熱温度が低い程、および加熱時間が短い程、増粘しやすくなるが、凝集性能が上昇する。また、加熱する際、硫酸濃度が高い程、増粘しやすくなる。本発明では、第3工程のうち、アルミナゲル懸濁液を溶解させる溶解工程までは、硫酸根が存在しない状態あるいは硫酸根の濃度が低い状態としておき、アルミナゲル懸濁液が溶解した後の熟成工程において、最終的な硫酸根の濃度を調整する。このため、アルミナゲル懸濁液を溶解させる溶解において、加熱温度が低く、加熱時間が短くても、反応液の増粘を抑えることができる。すなわち、アルミナゲル懸濁液が溶解する前の溶解工程までに最終濃度まで硫酸根を添加すると、反応
液が増粘するが、本発明では、アルミナゲル懸濁液が溶解した後の熟成工程で硫酸根の最終濃度を調整するため、反応液の増粘を抑制することができる。従って、反応のコントロールが容易である。また、粘度上昇を抑えるために長時間の加熱や高温での加熱を行う必要がないので、生産性およびエネルギーコストを向上することができる。また、最終的な硫酸根の濃度を調整した熟成工程で熟成を行うので、凝集性が高いとともに、未溶解のゲルが部分的に残ることを回避することができる。また、硫酸根の添加後に熟成を行うため、経時安定性を向上することができる。また、第3工程において、硫酸根の添加後の熟成を過剰な温度で行うと、沈澱を生じやすいが、本発明では、熟成工程の温度を80℃以下に設定してあるため、沈殿の発生が起こりにくい。
【0014】
本発明において、前記第3工程で得られた前記塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根の濃度比(SO/Al)を15質量%以上、かつ30質量%以下とする態様を採用することができる。
【0015】
本発明において、前記第3工程で得られた塩基性塩化アルミニウム溶液は、塩基度が50%以上、かつ85%以下である態様を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、第1工程で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が65%を超えるため、ポリマー化したアルミニウムイオンが増加し、残留アルミニウムが減少する。また、第1工程では、塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液によってアルミナゲル懸濁液を調製するため、凝集性が優れている。また、本発明では、脱塩工程を行う必要がないことから、工程数が少ない。それ故、製造コストを低減することができる。さらに、溶解性に優れているので、溶解温度を抑えること、および溶解時間を短くすることが可能である。それ故、エネルギーコストを抑え、生産性の向上を実現することができる。また、ポリマーが増加することによって、塩基性塩化アルミニウム溶液を水処理剤として用いた場合にろ過水濁度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明を適用した硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面等を参照しながら、本発明の実施の形態に係る塩基性塩化アルミニウム溶液(ポリ塩化アルミニウム)の製造方法を説明する。本発明に係る塩基性塩化アルミニウムは、以下の一般式で表される。
Al(OH)(SOCl3a+d+2e−b−2c
但し、Xはアルカリ金属、Yはアルカリ土類金属を表す。また、本発明における塩基度は、下式で示される。
100×b/3a
【0019】
また、以下の説明では、塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法として、硫酸根を含有する硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法を説明する。
【0020】
(製造方法)
図1は、本発明を適用した硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法を示す説明図である。本形態では、図1に示す方法によって、塩基度が50%以上の硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液を製造する。例えば、硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液として、塩基度が50%以上、かつ85%以下の硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液を製造する。硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根は、濃度比(SO
/Al)を5質量%以上、かつ35質量%以下である。本本形態において、硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根は、濃度比(SO/Al)で15質量%以上、かつ30質量%以下である。
【0021】
(配合比の参考例
本発明の参考例で使用する各材料の配合比は、例えば以下の通りである。
塩基性塩化アルミニウム溶液(第1工程ST1) 112〜139質量部
アルミン酸ナトリウム(第1工程ST1) 35〜46質量部
塩基性塩化アルミニウム(第2工程ST2) 372〜398質量部
硫酸アルミニウム溶液(第3工程ST3) 132質量部
但し、
第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液
Al=23質量%、塩基度=83%、SO=0%
第2工程ST2で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液
Al=14質量%、塩基度=45%、SO=0%
アルミン酸ナトリウム
Al=24質量%、Na/Alモル比=1.2
硫酸アルミニウム溶液
Al=8質量%
【0022】
(配合比の実施例
本形態で使用する各材料の配合比は、例えば以下の通りである。
塩基性塩化アルミニウム溶液(第1工程ST1) 192〜228質量部
アルミン酸ナトリウム(第1工程ST1) 26〜41質量部
炭酸ナトリウム(第1工程ST1) 11質量部
塩基性塩化アルミニウム(第2工程ST2) 270〜307質量部
硫酸アルミニウム溶液(第3工程ST3) 91質量部
但し、
第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液
Al=23質量%、塩基度=83%、SO=0%
第2工程ST2で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液
Al=14質量%、塩基度=45%、SO=0%
アルミン酸ナトリウム
Al=21質量%、Na/Alモル比=1.4
硫酸アルミニウム溶液
Al=8質量%
【0023】
本形態では、図1に示すように、塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液を製造するにあたって、まず、第1工程ST1では、Al濃度が5質量%以上、かつ30質量%で塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを混合してアルミナゲル懸濁液を調製する。第1工程ST1では、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩との反応温度が低いほどアルミナゲル懸濁液の溶解性が良い。従って、第1工程ST1では、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩との反応を、例えば、50℃未満の温度で行うのが良く、好ましくは40℃未満が良い。
【0024】
本形態において、第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度は、65%を超え、かつ90%未満である。また、第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液は、80℃以上の温度で1時間以上熟成した履歴を有する。
【0025】
かかる塩基性塩化アルミニウム溶液としては、塩酸溶液、塩化アルミニウム溶液、塩基
性塩化アルミニウム溶液、または塩酸溶液と塩化アルミニウム溶液と塩基性塩化アルミニウム溶液との混合液のいずれか1種に金属アルミニウムを溶解した溶液を用いる。その際、金属アルミニウムを溶解した溶液(塩基性塩化アルミニウム溶液)については、80℃以上の温度で1時間以上熟成させる。
【0026】
また、第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液としては、塩酸溶液、塩化アルミニウム溶液、塩基性塩化アルミニウム溶液、または塩酸溶液と塩化アルミニウムと塩基性塩化アルミニウムとの混合液に対して、アルミン酸アルカリ溶液、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、またはアルミン酸アルカリとアルカリ金属炭酸塩との混合液を溶解した溶液を用いてもよい。その際、各材料を溶解した溶液(塩基性塩化アルミニウム溶液)については、80℃以上の温度で1時間以上熟成させる。
【0027】
また、第1工程ST1では、アルカリ塩として、アルミン酸アルカリ溶液、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、またはアルミン酸アルカリとアルカリ金属炭酸塩との混合液のいずれかを用いる。この場合、張水下、pHを5〜11の範囲に維持しつつ、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを同時に添加、混合し、アルミナゲル懸濁液を調製する方法を採用することができる。この場合、特にpHを7〜11、より好ましくは8〜10のアルカリ側に維持することで、第2工程ST2における未溶解分が極めて少量となる。従って、残渣をほとんど含まない硫酸根含有塩基性塩化アルミニウムが得られるため、濾過等により残渣を除去する工程が不要となる。また、第1工程ST1では、pHを5以下に維持しつつ、塩基性塩化アルミニウム溶液にアルカリ塩を添加する方法を採用してもよい。
【0028】
本形態では、アルカリ塩として、アルミン酸アルカリ溶液と炭酸ナトリウム(アルカリ金属炭酸塩)との混合液を用いる。この場合、アルカリ金属炭酸塩の使用量は、例えば、最終的に得られる硫酸根含有塩基性塩化アルミニウムのAlに対し、CO/Alのモル比で0.01〜0.5となる量、好ましくは0.01〜0.2となる量である。
【0029】
この場合、張水下、pHを5〜11の範囲に維持しつつ、塩基性塩化アルミニウム溶液の一部、およびアルカリ金属炭酸塩を同時に反応容器に添加、混合した後、pHを5〜11の範囲に維持しつつ、塩基性塩化アルミニウム溶液の残部、およびアルミン酸アルカリを同時に反応容器に添加、混合してアルミナゲル懸濁液を調製する。かかる方法によれば、塩基性塩化アルミニウム溶液の中和にアルカリ金属炭酸塩およびアルミン酸アルカリを使用するため、アルカリ金属炭酸塩の使用量を少なくしても、溶解性に優れるアルミナゲルを得ることができる。また、アルカリ金属炭酸塩の使用量を低減することができるので、アルカリ金属を脱塩処理によって除去しなくても、アルカリ金属炭酸塩に起因する硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液の経時安定性の低下を抑制することができる。また、混合液を調製する際のpHを7〜11、より好ましくは8〜10のアルカリ側に維持すれば、後で行う第3工程ST3における未溶解分が極めて少量となる。従って、残渣をほとんど含まない硫酸根含有塩基性塩化アルミニウムが得られるため、濾過等により残渣を除去する工程が不要となる。
【0030】
また、塩基性塩化アルミニウム溶液およびアルカリ塩を同時に混合手段に供給して瞬間的に混合し、混合手段による部分中和混合によって、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを反応させてもよい。この場合に用いる混合手段としては、例えば、ヒューガルポンプ、ラインミキサー、ホモミキサー等を用いることができる。これらの混合手段を用いれば、第1工程に要する時間を短縮することができる。また、第2工程において溶解性に優れるアルミナゲル懸濁液を得ることができる。
【0031】
また、本形態のように、アルカリ塩として、アルカリ金属炭酸塩およびアルミン酸アルカリの双方を用いる場合、第1工程ST1では、pHを5以下に維持しつつ、塩基性塩化アルミニウム溶液にアルミン酸アルカリを添加した後、アルミナゲル懸濁液の塩基度が50%〜85%となるまでアルカリ金属炭酸塩を添加してもよい。かかる方法によれば、塩基性塩化アルミニウム溶液の中和にアルミン酸アルカリを使用し、その後、アルカリ金属炭酸塩を使用するため、アルカリ金属炭酸塩の使用量を少なくしても、溶解性に優れるアルミナゲルを得ることができる。また、アルカリ金属炭酸塩の使用量を少なくすることができるので、アルカリ金属炭酸塩に起因する硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液の経時安定性の低下を抑制することができる。
【0032】
次に、第2工程ST2では、アルミナゲル懸濁液を、塩基度が65%以下(例えば、塩基度が30%を超え、55%未満)の塩基性塩化アルミニウム溶液と混合して混合液を得る。かかる塩基性塩化アルミニウム溶液は、例えば、塩酸と水酸化アルミニウムを加圧加熱反応した液や、金属アルミニウムを塩酸または低塩基度の塩化アルミニウムに溶解した液等を用いることができる。第2工程ST2を行う際、塩基性塩化アルミニウム溶液を25℃から80℃の温度に設定しておき、かかる温度の塩基性塩化アルミニウム溶液に対してアルミナゲル懸濁液を加える。かかる態様によれば、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができ、かつろ過水濁度を下げる事が可能となる。
【0033】
次に、第3工程ST3では、混合液中のアルミナゲルを溶解させて塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液を得る。第3工程ST3を行う際、混合液の温度を80℃以下にしておく。かかる態様によれば、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができる。本形態において、第3工程ST3では、温度が80℃以下の条件で混合液を加熱してアルミナゲルを溶解させる溶解工程ST31と、溶解工程ST31で得た溶液を25℃から80℃の温度で熟成させる熟成工程ST32とを行う。
【0034】
溶解工程ST31では、混合液を25℃から80℃の温度、例えば65℃の温度に加熱しながら、0.1時間〜10時間撹拌し、アルミナゲルを溶解させる。本形態において、溶解工程ST31では、アルミナゲルの溶解を例えば2時間以内とすることが好ましい。溶解工程ST31での溶解時間が長い程、凝集性能が低下するが、溶解時間が2時間以内であれば、凝集性能の低下を抑制することができる。但し、溶解工程ST31での溶解時間が短い方が、凝集性能が向上するので、溶解時間は1時間以内であることが好ましい。第1工程ST1から溶解工程ST31までを行う際、アルミナゲル懸濁液の調製直後〜48時間以内にアルミナゲル溶解させる方が好ましい。調製直後は溶解性が良いが、経時で徐々に溶解性が悪くなる。常温でおよそ48時間以上経過すると、溶解工程ST31での溶解に長時間を要し、そのため凝集性が低下しやすい。
【0035】
また、熟成工程ST32での熟成温度は低い方が、凝集性が高いので、熟成温度は70℃以下、例えば65℃であることが好ましい。本形態において、熟成工程ST32では、熟成時間が例えば2時間以内である。
【0036】
(硫酸根の添加)
このように構成した塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法において、本形態では、第1工程ST1、第2工程ST2、および第3工程ST3のうちの少なくとも1つの工程において硫酸塩を添加し、第3工程ST3で得られる塩基性塩化アルミニウム溶液(硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液)における硫酸根の濃度比(SO/Al)を5質量%以上、かつ35質量%以下、例えば、15質量%以上、かつ30質量%以下とする。その場合、第1工程ST1のみで硫酸根を添加する態様、第2工程ST2のみで硫酸根
を添加する態様、第3工程ST3のみで硫酸根を添加する態様を採用することができる他、第1工程ST1、第2工程ST2、および第3工程ST3のうちの2つの工程または3つの工程で硫酸根を添加する態様を採用することができる。但し、第3工程ST3で硫酸根を添加する場合、第2工程ST2で調整した混合液における硫酸根の濃度は、濃度比(SO/Al)で5質量%〜10質量%であることが好ましい。第2工程ST2で調整した混合液における硫酸根の濃度が、濃度比(SO/Al)で10質量%を超える場合、製造中に増粘するリスクが高くなる。これに対して、第2工程が終了した時点で溶液での硫酸根の濃度を濃度比(SO/Al)で10質量%以下に制限しておけば、反応液の増粘を抑制することができる。この場合でも、最終的な硫酸根の濃度は第3工程ST3で調整することができる。
【0037】
第1工程ST1で硫酸根を添加する場合、塩基性塩化アルミニウム溶液として、硫酸根を含有する塩基性塩化アルミニウム溶液を用いる。または、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを混合してアルミナゲル懸濁液を調製する際に、硫酸アルミニウム等によって硫酸根を添加してもよい。
【0038】
第2工程ST2で硫酸根を添加する場合、塩基性塩化アルミニウム溶液として、硫酸根を含有する塩基性塩化アルミニウム溶液を用いる。または、アルミナゲル懸濁液を塩基度が65%以下の塩基性塩化アルミニウム溶液と混合して混合液を得る際に、硫酸アルミニウム等によって硫酸根を添加してもよい。
【0039】
第3工程ST3で硫酸根を添加する場合、混合液を加熱してアルミナゲルを溶解させる溶解工程ST31で、硫酸アルミニウム等によって硫酸根を添加する。または、溶解工程ST31で得た溶液を25℃〜80℃の温度で熟成させる熟成工程ST32で、硫酸アルミニウム等によって硫酸根を添加してもよい。本形態では、第3工程ST3で硫酸根を添加する場合、溶解工程ST31で硫酸根を添加せずに、熟成工程ST32でのみ硫酸根を添加する。かかる態様によれば、溶解工程ST31で得た溶液の硫酸根が濃度比(SO/Al)で5質量%未満とすることができるので、非常に増粘しにくく、凝集性能が良い。
【0040】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、第1工程ST1で用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が65%を超えるため、ポリマー化したアルミニウムイオンが増加し、残留アルミニウムが減少し、かつ、ろ過水濁度を下げることが可能となる。また、第1工程ST1では、塩基度が65%を超える塩基性塩化アルミニウム溶液によってアルミナゲル懸濁液を調製するため、凝集性が優れている。また、本形態では、脱塩工程を行う必要がないことから、工程数が少ない。それ故、製造コストを低減することができる。
【0041】
また、第2工程ST2を行う際、第2工程STで用いる塩基性塩化アルミニウム溶液の温度を80℃以下にしておく。かかる態様によれば、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができ、かつ、ろ過水濁度を下げることが可能となる。また、第3工程ST3を行う際、混合液の温度を80℃以下にしておく。このため、ポリマー化したアルミニウムイオンを増加させることができるので、残留アルミニウムを減少させることができ、かつ、ろ過水濁度を下げる事が可能となる。
【0042】
また、第1工程ST1、第2工程ST2、および第3工程ST3のうちの少なくとも1つの工程で硫酸塩を添加し、第3工程ST3で得られる塩基性塩化アルミニウム溶液における硫酸根の濃度比(SO/Al)を5質量%以上、かつ35質量%以下とする。このため、塩基性塩化アルミニウムの凝集性を高めることができる。
【0043】
また、第3工程ST3で硫酸塩を添加する場合には、熟成工程ST32でのみ硫酸塩を添加する。アルミナゲル懸濁液を調製した以降、加熱する際、加熱温度が高い程、および加熱時間が長い程、増粘しにくくなるが、凝集性能が低下する。これに対して、アルミナゲル懸濁液を調製した以降、加熱する際、加熱温度が低い程、および加熱時間が短い程、増粘しやすくなるが、凝集性能が上昇する。また、加熱する際、硫酸濃度が高い程、増粘しやすくなる。そこで、本形態では、第3工程ST3のうち、アルミナゲル懸濁液を溶解させる溶解工程ST31までは、硫酸根が存在しない状態あるいは硫酸根の濃度が低い状態としておき、アルミナゲル懸濁液が溶解した後の熟成工程ST32において、最終的な硫酸根の濃度を調整する。このため、アルミナゲル懸濁液を溶解させる溶解において、加熱温度が低く、加熱時間が短くても、反応液の増粘を抑えることができる。すなわち、アルミナゲル懸濁液が溶解する前の溶解工程ST31までに最終濃度まで硫酸根を添加すると、反応液が増粘するが、本形態では、アルミナゲル懸濁液が溶解した後の熟成工程で硫酸根の最終濃度を調整するため、反応液の増粘を抑制することができる。従って、反応のコントロールが容易である。また、粘度上昇を抑えるために長時間の加熱や高温での加熱を行う必要がないので、生産性およびエネルギーコストを向上することができる。また、最終的な硫酸根の濃度を調整した熟成工程ST32で熟成を行うので、凝集性が高いとともに、未溶解のゲルが部分的に残ることを回避することができる。また、硫酸根の添加後に熟成を行うため、経時安定性を向上することができる。また、第3工程ST3において、硫酸根の添加後の熟成を過剰な温度で行うと、沈澱を生じやすいが、本形態では、熟成工程ST32の温度を80℃以下に設定してあるため、沈殿の発生が起こりにくい。
【0044】
また、本形態では、第1工程ST1において、アルカリ塩として、アルカリ金属炭酸塩を用いるため、第3工程ST3でのアルミナゲルの溶解性を高めることができる。従って、省エネルギーの生産方法で、凝集性能に優れ、安定性に優れた硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液を得ることができる。
【0045】
(他の実施の形態)
第1工程ST1で塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを同時に添加、混合し、アルミナゲル懸濁液を調製する際、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩の供給口をそれぞれ3点以上に分ける方法を採用してもよい。かかる態様によれば、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩の供給が分散され、均一に混合しやすくなり、第3工程ST3において溶解性に優れるアルミナゲル懸濁液を得ることができる。
【0046】
上記実施の形態では、硫酸根含有塩基性塩化アルミニウム溶液を製造する態様を中心に説明したが、硫酸根を含有しない塩基性塩化アルミニウム溶液を製造する場合に本発明を適用してもよい。この場合、第1工程ST1、第2工程ST2、および第3工程ST3での硫酸塩の添加を行わない。
【符号の説明】
【0047】
ST1…第1工程、ST2…第2工程、ST3…第3工程、ST31…溶解工程、ST32…熟成工程
図1