特許第6860272号(P6860272)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860272芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法
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  • 特許6860272-芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860272
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 45/02 20060101AFI20210405BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20210405BHJP
   C10B 57/04 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C10G45/02
   C10G45/08 Z
   C10B57/04 101
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-140365(P2019-140365)
(22)【出願日】2019年7月30日
(65)【公開番号】特開2020-26522(P2020-26522A)
(43)【公開日】2020年2月20日
【審査請求日】2019年7月30日
(31)【優先権主張番号】201810935100.1
(32)【優先日】2018年8月16日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519276903
【氏名又は名称】山東益大新材料股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】劉 涛
(72)【発明者】
【氏名】徐 金城
(72)【発明者】
【氏名】李 慎耐
(72)【発明者】
【氏名】李 永涛
(72)【発明者】
【氏名】郭 沖
【審査官】 三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第105482850(CN,A)
【文献】 特開2017−019915(JP,A)
【文献】 中国実用新案第206069784(CN,U)
【文献】 特表2007−511634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
C10B 1/00−57/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法であって、
超臨界抽出装置を介してFCCスラリーから抽出された芳香族化合物と、水素製造装置からの水素という2つの経路に分かれたものをミキサー内で均一に混合する工程であって前記芳香族化合物と前記水素の質量比が100/0.8〜100/0.5である工程と、
加熱炉内で加熱してから芳香族化合物水素化反応器内に入れ、加熱温度240〜280℃、圧力3.0〜8.0Mpaで、芳香族化合物水素化反応器内で脱硫、脱窒を行う工程と
反応生成物芳香族化合物水素化反応器の下部から流出して、高温高圧分離槽に入て気液分離する工程と
液相減圧してから高温低圧分離槽に入、更にフラッシュ蒸留する工程と
高温低圧分離気相低温低圧分離槽に入れる工程と
高温低圧分離槽の底部の液体減圧て精留塔に入れる工程と
高温高圧分離気相低温高圧分離槽に入、三相分離う工程と
油相減圧してから低温低圧分離槽に入れる工程と
低温低圧分離槽内でフラッシュ蒸留された液体及び低温低圧分離槽に入った高温低圧分離気相前記油相と熱交換た後、ストリップ塔に入れる工程と
ストリップ塔の塔底油精留塔に入、精留塔内において360℃以下軽質成分分離、精製された芳香族化合物を精留塔の底部から抽出して、石油系ニードルコークス原料得る工程を含む、芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族化合物と前記水素の質量比が100/0.7〜100/0.6、加熱温度が280、圧力が5.0〜.0Mpaである、ことを特徴とする請求項1に記載の芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法。
【請求項3】
芳香族化合物水素化反応器内での反応に用いられる触媒は、コバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒とが一定の比率で配合されたものであり、コバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒の質量比は2/3以下である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードルコークス生産の技術分野に属し、具体的には、芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
ニードルコークスは、高品質な炭素材料であり、粉砕後に細長い針状構造を呈する。ニードルコークスはその外観に金属光沢があり、内部が層状構造を有する。それは配向性、導電性、熱伝導性に優れているため、製鋼用超高出力電極を製造するための主な原料である。超高出力電極を採用した製鋼により、製錬時間を2/3短縮し、電力消費を50%削減することができる。
【0003】
現状において、ニードルコークスを生産するための優れた原料がないため、中国国内で高品質な石油系ニードルコークスを生産することができない。石油系ニードルコークスの原料は、石油化学会社で接触分解装置により生産された重油−FCCスラリーであるが、現状ほとんどのFCCスラリー中の硫黄含有量は、0.5%を超えており、スラリーを脱硫処理しない限り、生産されたニードルコークス中の硫黄含有量は0.5%を超えてしまい、後続の顧客の要件を満たすことができない。
【0004】
現状において、FCCスラリーのさらなる処理は精密フィルタによる濾過であるが、機械的不純物をフィルタで簡単に除去するだけで、ニードルコークスから生成されたアスファルテンを除去することができず、スラリー中の硫黄含有量を低減させることもできないため、ニードルコークス生産における原料基準を満たすことができないという欠陥があり、ニードルコークス製品の品質向上を図ることは不可能である。
【0005】
現状で一般的に使用されている水素化装置は、水素化脱硫、脱窒、脱酸素、オレフィンおよび芳香族炭化水素の水素化飽和、ならびに水素化脱金属化などの反応が同時に進行し、脱硫と同時に芳香族炭化水素も飽和しているが、この場合ニードルコークス生産における原料の基準を満たすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は上記ニードルコークス生産における原料の硫黄含有量が高いなどの品質上の欠点に対して、芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
芳香族化合物の水素化による石油系ニードルコークス原料の製造方法であって、超臨界抽出装置を介してFCCスラリーから抽出された芳香族化合物と、水素製造装置からの水素という2つの経路に分かれたものをミキサー内で均一に混合し、加熱炉内で加熱してから芳香族化合物水素化反応器内に入れ、水素化温度が240〜320℃、圧力が3.0〜8.0Mpaで、芳香族化合物水素化反応器内で脱硫、脱窒を行い、反応生成物は、芳香族化合物水素化反応器の下部から流出して、高温高圧分離槽に入って気液分離され、液相は、減圧されて高温低圧分離槽に入り、更にフラッシュ蒸留され、高温低圧分離気相は低温低圧分離槽に入り、高温低圧分離槽の底部の液体は減圧されて精留塔に入り、高温高圧分離気相は、低温高圧分離槽に入り、三相分離が行われ、油相は減圧されて低温低圧分離槽に入り、低温低圧分離槽内でフラッシュ蒸留された液体及び低温低圧分離槽に入った高温低圧分離気相は、水素化軽油と熱交換されてからストリップ塔に入り、
ストリップ塔の塔底油は、精留塔に入り、精留塔内で360℃以下の軽質成分が分離され、精製された芳香族化合物を精留塔の底部から抽出すると、石油系ニードルコークス原料が得られる。
芳香族化合物と水素の質量比は100/0.8〜100/0.5、加熱温度は280〜320℃、圧力は5.0〜7.0Mpaであることがさらに好ましい。
【0008】
芳香族化合物水素化反応器に用いられる触媒は、芳香族化合物の水素化特性に応じて、コバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒とが一定の比率で配合されたものであり、コバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒の質量比は2/3以下であることがさらに好ましい。
【0009】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
(1)芳香族化合物の水素化によってニードルコークス原料を製造することで、硫黄含有量が異なるFCCスラリーはいずれも処理されてニードルコークス生産用の原料として使用できるようになり、石油系ニードルコークス原料の選択における問題を解決する。
【0010】
(2)従来の水素化の目的とは異なり、硫黄および窒素を除去しても、芳香族炭化水素が飽和しないことを保証するために、以下の簡単な水素化処理が行われる。1つは操作条件の制御であり、低圧低温水素化温度を240〜320℃、圧力を3.0〜8.0MPaとする。もう1つは触媒の選択であり、芳香族化合物から硫黄分のみを除去し、水素化飽和が進行しない触媒を選択し、このような触媒は特定の比率に調整されたものであり、処理された芳香族化合物の硫黄含有量は0.3m%未満、芳香族化合物の損失は2m%未満である。
【0011】
(3)本特許請求においては、水素化により軽度の脱硫と芳香族化合物の不飽和になるという特定の目的があるため、触媒の活性や脱硫性があまり高くないとともに、芳香族炭化水素が飽和していないことが求められ、そのため芳香族化合物水素化装置に1台の反応器が設けられ、1台の芳香族化合物水素化反応器で、従来の2台または3台の反応器による作業を可能にする。
【0012】
(4)高温低圧分離プロセスを用いることで、エネルギー消費を削減する。本プロセスは、不凝縮ガスの発生量が少なく、操作圧力が低く、循環水素濃度が温度から受ける影響が小さく、そのため高温高圧分離フローが用いられる。低温高圧分離フローに比べて、同じ熱伝達温度差において、熱回収率が高く、熱エネルギーが20〜30%増加する。よって加熱炉の負荷を大幅に軽減し、燃料消費を30%〜40%削減できる。同時に、加熱や冷却が繰り返されることがないため、この熱交換フローはシンプルで、高圧部の熱交換面積を縮小することができる。
【0013】
(5)脱硫および脱窒は芳香族化合物水素化反応器内で行われ、除去率は80%以上に達し、硫黄含有量が0.2%未満になることを保証する。
【0014】
(6)低圧、低温である場合、機器に対する要件が低く、投資が大幅に削減され、システムの安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】は本発明のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的、特徴、利点を更に明白にし、わかり易くするために、以下に図面を参照しながら、本発明の技術的解決手段について明瞭、且つ全面的に説明する。言うまでもなく、以下に説明する実施例は本発明の実施例の一部に過ぎず、全ての実施例ではない。本特許請求の実施例に基づき、当業者が創造的な労力を費やすことなく得られたその他の全ての実施例は、いずれも本特許の保護範囲に属する。
【0017】
(実施例1)
山東益大新材料有限公司では、超臨界抽出装置を介して山東1区のFCCスラリー(硫黄含有量が1.5%)から抽出された芳香族化合物と、水素製造装置からの水素という2つの経路に分かれたものをミキサー内で均一に混合し(質量比が100:0.8)、加熱炉内で320℃まで加熱して芳香族化合物水素化反応器(反応器と略称)内に入れて、反応器の入口圧力は、7.0MPaであり、反応器に添加されたコバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒の比率は1:3であり、反応器内で脱硫および脱窒が行われ、除去率は87%以上、硫黄含有量は0.2%である。反応生成物は、反応器の下部から流出して、高温高圧分離槽に入り気液分離され、液相は減圧してから高温低圧分離槽に入り、更にフラッシュ蒸留され、高温低圧分離気相は低温低圧分離槽に入り、高温低圧分離槽の底部の液体は減圧されて精留塔に入る。高温高圧分離気相は低温高圧分離槽に入り、三相分離が行われ、油相は減圧してから低温低圧分離槽に入り、低温低圧分離槽内でフラッシュ蒸留された液体及び低温低圧分離槽に入った高温低圧分離気相は、水素化軽油と熱交換された後、ストリップ塔に入り、ストリップ塔の塔底油は精留塔に入り、精留塔内で360℃以下の軽質成分が分離され、精製された芳香族化合物は精留塔の塔底から抽出され、ニードルコークスを生産するための良質な原料となる。
表1 ニードルコークス原料指標
(実施例2)
山東益大新材料有限公司では、超臨界抽出装置を介して東北1区のFCCスラリー(硫黄含有量が1.1%)から抽出された芳香族化合物と、水素製造装置からの水素とを100:0.7の質量比で混合してから、加熱炉内で280℃まで加熱してから芳香族化合物水素化反応器(反応器と略称)内に入れて、反応器の入口圧力は6.0MPaであり、反応器に添加されたコバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒の比率は1:3であり、反応器内で脱硫および脱窒が行われ、除去率は68%以上、硫黄含有量は0.35%である。反応生成物は、反応器の下部から流出して、高温高圧分離槽に入って気液分離され、液相は減圧してから高温低圧分離槽に入り、更にフラッシュ蒸留され、高温低圧分離気相は低温低圧分離槽に入り、高温低圧分離槽の底部の液体は、減圧されて精留塔に入る。高温高圧分離気相は低温高圧分離槽に入り、三相分離が行われ、油相は減圧後に低温低圧分離槽に入り、低温低圧分離槽内でフラッシュ蒸留された液体及び低温低圧分離槽に入った高温低圧分離気相は、水素化軽油と熱交換された後、ストリップ塔に入り、精留塔内で360℃以下の軽質成分が分離され、精製された芳香族化合物は精留塔の塔底から抽出され、ニードルコークスを生産するための良質な原料となる。
表2 ニードルコークス原料指標
(実施例3)
山東益大新材料有限公司では、超臨界抽出装置を介して上海2区のFCCスラリー(硫黄含有量2%)から抽出された芳香族化合物と、水素製造装置からの水素とを100:0.6の質量比で混合し、加熱炉内で280℃まで加熱してから芳香族化合物水素化反応器(反応器と略称)内に入れて、反応器の入口圧力は5.0MPaであり、反応器に添加されたコバルト−モリブデン触媒とニッケル−モリブデン触媒の比率は2:3であり、反応器内で脱硫および脱窒が行われ、除去率は78%以上、硫黄含有量は0.45%である。反応生成物は、反応器の下部から流出して、高温高圧分離槽に入って気液分離され、液相は減圧してから高温低圧分離槽に入り、更にフラッシュ蒸留され、高温低圧分離気相は低温低圧分離槽に入り、高温低圧分離槽の底部の液体は、減圧されて精留塔に入る。高温高圧分離気相は低温高圧分離槽に入り、三相分離が行われ、油相は減圧してから低温低圧分離槽に入り、低温低圧分離槽内でフラッシュ蒸留された液体及び低温低圧分離槽に入った高温低圧分離気相は、水素化軽油と熱交換された後、ストリップ塔に入り、精留塔内で360℃以下の軽質成分が分離され、精製された芳香族化合物は精留塔の塔底から抽出され、ニードルコークスを生産するための良質な原料となる。
表3 ニードルコークス原料指標
FCCスラリーに硫黄をどれほど含むかに関わらず、本特許請求に基づきそれを処理して得られたニードルコークス原料の指標がいずれも安定しており、いずれの指標もニードルコークスの生産における基準(ニードルコークスの硫黄含有量が≦0.5%であることが要求される)に達していることが分かる。
図1