【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
まず、
図7乃至
図10を参照して、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、炭酸ガスレーザー光Lの患部への照射と、水、空気からなる流体の患部への噴射との組み合わせによる
患部領域における患部組織の変化についての原理的説明を行う。
【0024】
生体組織、例えば歯茎組織等は、その多くが水分であるため、単位面積当たりの熱エネルギーが大きいとされている炭酸ガスレーザー光Lの波長(例えば10.6μm等)が有効に作用するところである。
【0025】
図7に概念的に示すように、炭酸ガス(CO
2)レーザー光Lが、生体の歯茎組織等の患部領域51に照射されると、照射された患部領域51は、一定範囲の蒸散領域52を中央にして、その外側に炭化層53、タンパク凝固層54、温熱層55というように分布する。
【0026】
この場合、ある一定以上の単位面積当たりのエネルギーが投入されない患部領域51は蒸散には至らない。
【0027】
その変化は患部細胞の種類によって水分量や細胞膜の厚さ等が異なり、その変化も一様ではないため蒸散するエネルギー量を定義することは難しい。
【0028】
上述した場合の炭酸ガスレーザー光Lのエネルギー分布(ガウシアン分布)について考察すると、これを
図8に概念的に示すように表すことができる。
【0029】
尚、
図8左欄において、横軸は蒸散領域52を中央とする患部領域51の距離要素、縦軸は炭酸ガスレーザー光LのエネルギーEの高低を概念的に表している。
【0030】
また、
図8右欄においては、炭酸ガスレーザー光Lのエネルギー分布と、蒸散領域52、炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55の分布を斜視図態様で概念的に表している。
【0031】
すなわち、炭酸ガスレーザー光Lのエネルギーが大きい中央部分が蒸散領域52に対応し、エネルギーが小さくなる裾の部分が炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55に対応する
【0032】
このように、組織蒸散(レーザー光の場合、切開も同じ)をした場合に、投入エネルギーが蒸散には至らない領域に前記炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55が生成する。
【0033】
さらに詳述すると、ある領域の患部組織が蒸散する場合には、蒸散した患部組織ととともに多くの熱量は飛び去るが、若干残ったエネルギーが熱となり、残った患部組織の表面に薄い炭化層53やタンパク凝固層54が生成し、さらにその外側に温熱層55が生成するのである。
【0034】
ところで、高出力の炭酸ガスレーザー光Lの場合、短時間で高エネルギーを与えると同じ蒸散でも炭化層53の生成は少ないが(中央領域)、炭酸ガスレーザー光Lの低エネルギー部分に相当する中央領域の外側領域では、
図9に概念的に示すように、炭化層53ができ易い。
【0035】
これは前述の通り、患部組織が蒸散する場合には、蒸散した患部組織とともに多くの熱量は飛び去るが、若干残ったエネルギーが熱となり、残った患部組織の表面に薄い炭化層53を形成するためである。
【0036】
本発明の実施例においては、高出力炭酸ガスレーザー装置1からの高出力の炭酸ガスレーザー光Lの照射と、水と空気との併用で混合ミスト状とした流体(水)の膜を張ることとの組み合わせを実施する。
【0037】
これにより、
図10に概念的に示すように、高出力の炭酸ガスレーザー光Lが照射された中央部分はそのエネルギーが高いため水の膜が蒸発し、かつ、その患部組織も蒸散させることができる。
【0038】
一方、低エネルギーの炭酸ガスレーザー光Lが照射された中央部分より外側の患部領域51では、水の膜によりそのエネルギーの多くが吸収され、その領域の患部組
織を炭化させるほどのエネルギーは残らないため、炭化層53ができ難くなる。
【0039】
この段階でも混合ミスト状とした水が供給され、かつ、炭酸ガスレーザー光Lの照射は継続するので、連続して冷却と蒸散が起こり、この結果、連続であっても熱の蓄積が少なく蒸散が可能となる。
【0040】
これにより、
患部領域51の患部組
織において、
図10に概念的に示すように、炭化層53の生成が少ない蒸散(切開)状態を実現することが可能となる。
【0041】
以上述べたように、炭酸ガスレーザー光Lの出力が、例えば15W以上の高出力炭酸ガスレーザー装置1に水と空気の混合ミストの噴霧を組み合せることによって、切開時に十分なエネルギーが患部領域51に伝わり、かつ、患部領域51での冷却状態を保ち、患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することで、効率の良い切開又は蒸散作用を実現でき、結果として患部領域51に対する治療の効率を上げることが可能となるものである。
【0042】
尚、実際の高出力炭酸ガスレーザー装置1の炭酸ガスレーザー光Lの出力は、例えば15〜25Wに設定される。
【0043】
次に、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1の具体的構成例について、
図1乃至
図5を参照して説明する。
【0044】
本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1は、
図1に示すように、例えば直方体箱型上に構成した装置本体42と、前記装置本体42に内装され、この高出力炭酸ガスレーザー装置1全体の制御を行う制御部43と、例えば波長10.6μmで、高出力(例えば15W〜25W)の炭酸ガスレーザー光Lを出力する炭酸ガスレーザー発信
部44と、前記装置本体42とは別体に構成され、先端から患部に向けて炭酸ガスレーザー光Lを照射するように構成した
図2にも示すハンドピース5と、炭酸ガスレーザー発信
部44、ハンドピース5間に接続され、炭酸ガスレーザー発信
部44からの炭酸ガスレーザー光Lを前記ハンドピース5に導光するマニピュレータ又はファイバーからなる導光路45と、装置本体42の動作に必要な各種操作入力及び各種情報表示を行う操作表示部46と、装置本体42に内装されるとともに、
患部領域に向けて噴射するための水を収納した水タンク47と、装置本体42に内装されるとともに、
患部領域に向けて噴射するための空気(圧力空気)を生成するエアーコンプレッサー等からなる空気供給源48と、前記水タンク47に一端を接続し、前記ハンドピース5に他端を接続した例えばパイプ材からなる水流路49と、前記空気供給源48に一端を接続し、前記ハンドピース5に他端を接続した例えばパイプ材からなる空気流路50と、を有している。
高出力レーザー光の場合、ファイバーからなる導光路45の場合はレーザー光の伝送ロスが多くなることから、各関節にレーザー光を反射させるミラーを設けたマニピュレータを使用した方が伝送効率がファイバーの場合よりも良好となるという利点がある。
【0045】
前記ハンドピース5は、
図2乃至
図5に示すように、ハンドピース本体2と、先端にヘッド25を取り付けたハンドピース先端部3とを着脱可能に構成している。
【0046】
前記ハンドピース本体2は、筒体状に形成され、その外周を本体側グリップ4として機能させるようになっている。
【0047】
前記ハンドピース本体2の先端側には継ぎ部材11が配置され、この継ぎ部材11に対して、レーザー光を集光するレンズ8がカートリッジ7内にレンズ押さえ9により固定されたレンズ固定部10を装着している。
【0048】
前記継ぎ部材11の先端側には、ハンドピース先端部3を構成する内筒12と、この内筒12の外側に位置する外筒13と配置している。
【0049】
前記内筒12は、前記ハンドピース5内で伝送される炭酸ガスレーザー光Lの導光路32を形成するようになっている。
【0050】
また、この内筒12は、外径が先端に向かって例えば4段に漸次縮径する形状としている。
【0051】
一方、前記外筒13は、その内径が前記内筒12の外径より大きい径に形成され、内筒12の外径との間に隙間、即ち流体流路14が形成されるようになっている。
【0052】
また、前記外筒13の外周部は先細の外筒側グリップ15として機能するようになっている。
【0053】
この外筒13のハンドピース本体2側の端部と、前記継ぎ部材11の先端側とは、固定リング16を用いて連結している。
【0054】
前記固定リング16と継ぎ部材11との連結部は、
図5に示す継ぎ部材11側の螺旋状溝17に対し、固定リング16側に設けられたロックピン18が係合され、回転することによりマーク17aの位置にて固定され、また逆回転することにより取り外しができる着脱自在な構成となっている。
【0055】
前記固定リング16と外筒13との連結部は、
図4に示すようにストッパーリング19及びOリング20を介して回転自在に嵌合されている。
【0056】
前記外筒13の外周部は、外筒側グリップ15として機能するようになっている。
【0057】
さらに、前記外筒13の先端には、炭酸ガスレーザー光Lを反射して患部領域51に照射する反射ミラー21が配置されるとともに、三方リング24を嵌着したヘッド25を配置している。
【0058】
前記三方リング24は、その中央部に導光路32を経て伝送される炭酸ガスレーザー光Lの出射孔22を備えるとともに、出射孔22の周りに例えば3個の噴出孔23を設けている。
【0059】
前記継ぎ部材11には、接続口27及び接続口28が並列配置に設けられ、前記接続口27には前記空気流路50が接続され、前記接続口28には前記水流路49が接続されるようになっている。
【0060】
前記接続口27から供給される空気は、連絡孔29及びカートリッジ7に形成された空間30を経て内筒12内の導光路32内に至り、さらに、前記出射孔22から噴射される。
【0061】
一方、接続口28から供給される水は、連絡孔31を経て内筒12と外筒13との間に形成された流体流路14、三方リング24の噴出孔23から噴射されて、前記空気と混合し、混合ミストとして患部領域に向けて噴射されるようになっている。
【0062】
すなわち、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1においては、前記ハンドピース5内に、内部空気流路及び内部水流路を備える構成としている。
【0063】
上述した構成の本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、患部領域51の切開時には、前記炭酸ガスレーザー発信
部44を動作させて炭酸ガスレーザー光Lを出力させ、前記導光路45を経てハンドピース5内の導光路32に伝送し、さらに、前記外筒13の先端に設けた反射ミラー21により炭酸ガスレーザー光Lを患部領域51に照射する。
【0064】
また、前記空気供給源48から空気流路50を経て接続口27に至り、さらに、連絡孔29、カートリッジ7に形成された空間30、内筒12内の導光路32内を経て前記出射孔22を経た空気を患部領域51に噴射する。
【0065】
さらに、前記水タンク47から水流路49を経て接続口28に至り、さらに、前記連絡孔31、流体流路14、三方リング24の噴出孔23を経た水を患部領域51に噴射する。
これにより、前記空気と水は混合され、混合ミストとして患部領域51に向けて噴射されることになる。
【0066】
上述した構成の本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1によれば、既述した原理説明から明らかなように、例えば出力が15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光Lの患部領域51への照射と、水と空気との混合ミストの患部領域51への噴射とを組み合わせることにより、患部領域51の切開時に十分なエネルギーがこの患部領域51に伝わり、かつ、患部領域51での冷却状態を保ち、患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することで、効率の良い切開又は蒸散作用を実現でき、結果として患部領域51に対する治療の効率を確実に上げることができる。
【0067】
図6はハンドピース先端部3の外周に、前記水流路49と空気流路50の先端部を例えば結束ベルト等からなる取り付け具56を用いて取り付け、高出力の炭酸ガスレーザー光Lの患部領域51への照射と、水と空気との混合ミストの患部領域51への噴射とを可能とした構成の変形例のハンドピース5Aを示すものである。
【0068】
本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、
図6に示すような構成の変形例のハンドピース5Aを採用した場合においても、上述した
図4に示すハンドピース5を用いた場合と同様な効果を発揮させることができる。