特許第6860280号(P6860280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860280
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】高出力炭酸ガスレーザー装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/02 20060101AFI20210405BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   A61C3/02 R
   A61B18/20
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-216060(P2014-216060)
(22)【出願日】2014年10月23日
(65)【公開番号】特開2016-83013(P2016-83013A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年9月15日
【審判番号】不服2019-16796(P2019-16796/J1)
【審判請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141598
【氏名又は名称】株式会社吉田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100069420
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 武
(72)【発明者】
【氏名】菊地 亙
(72)【発明者】
【氏名】関根 謙
(72)【発明者】
【氏名】小野 邦之
(72)【発明者】
【氏名】齋木 淑子
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 宮崎 基樹
【審判官】 栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−309927(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0059264(US,A1)
【文献】 特開平9−28715(JP,A)
【文献】 戸塚 靖則,他11名、口腔外科領域における炭酸ガスレーザー手術について、日本口腔外科学会雑誌、日本、1985.08発行、Vol.31,No.8、pp.1834−1840
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 3/02
A61B 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から患部の患部領域に向けて炭酸ガスレーザー光を照射するハンドピースと、
高出力の炭酸ガスレーザー光を出力する炭酸ガスレーザー発振部と、
水タンクおよび空気供給源を備える高出力炭酸ガスレーザー装置を構成するとともに、
前記ハンドピースに前記炭酸ガスレーザー発振部からの炭酸ガスレーザー光を導光する導光路を設けるとともに、
前記水タンクに一端を接続した水流路の他端をハンドピースに接続し、かつ前記空気供給源に一端を接続した空気流路をハンドピースに接続して、前記ハンドピースの先端から患部領域に向けて炭酸ガスレーザー光を照射するとともに当該炭酸ガスレーザー光の照射に組み合わせて前記水タンクと空気供給源からの水と空気を、
前記水流路と空気流路を介して前記ハンドピースの先端から噴射することができるように構成した高出力炭酸ガスレーザー装置において、
前記ハンドピースは、前記炭酸ガスレーザー発振部から発振される15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を、
前記患部領域に向けて照射する照射手段を備えるとともに当該15〜25Wの高出力炭酸ガスレーザー光の照射に組み合わせて前記水流路と空気流路を介して前記水タンクと空気供給源からの水と空気の混合ミストを前記患部領域に向けて噴射する噴射手段を備え、
前記ハンドピースの照射手段にて前記患部領域の切開又は蒸散を目的とする前記15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を照射することに組み合わせて前記ハンドピースの噴射手段にて前記ハンドピースの照射手段による切開又は蒸散に際する15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光の照射による効率の良い切開又は蒸散作用の維持促進を目的とする水と空気の混合ミストを噴射しつつ前記高出力の炭酸ガスレーザー光が照射される患部領域の患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することができるように制御する制御部を設けることにより、
前記ハンドピースの15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光の照射手段と水と空気の混合ミストの噴射手段との組み合わせにより、前記患部領域の切開時に十分なエネルギーが当該患部領域に伝わり、かつ患部領域の冷却状態を保ち、患部領域における患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制しつつ効率の良い切開又は蒸散作用を実現し、前記患部領域に対する治療効率を向上することができるように構成したことを特徴とする高出力炭酸ガスレーザー装置。
【請求項2】
前記ハンドピースの照射手段の前記炭酸ガスレーザー発振部から発振される15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を導光する導光路は各関節にレーザー光を反射させるミラーを設けたマニピュレータにより構成したことを特徴とする請求項1記載の高出力炭酸ガスレーザー装置。
【請求項3】
前記ハンドピースは、ハンドピース本体と当該ハンドピース本体に、先端にヘッドを取り付けたハンドピース先端部を着脱自在に装着するとともに前記ハンドピース先端部の外周に、前記水タンクおよび空気供給源に、その一端を接続した前記水流路と空気流路のそれぞれの他端を結束ベルト等の取り付け具により着脱自在に取り付け、それぞれの開放端より前記患部領域に向けて水と空気の混合ミストを噴射することができるように形成することにより、前記ハンドピースの噴射手段を構成したことを特徴とする請求項1または2記載の高出力炭酸ガスレーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力炭酸ガスレーザー装置に関し、詳しくは、例えば歯茎等の患部に対して、高出力の炭酸ガスレーザー光の照射とともに水と空気からなる流体を噴射することにより、患部の炭化、熱変性を抑制しつつ患部の切開等の治療効率を高めるようにした高出力炭酸ガスレーザー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭酸ガスレーザー装置から患部に向けて照射される炭酸ガスレーザー光は、単位面積当たりの熱エネルギーが、他の種類のレーザー光より高いとされ、例えば患部である歯肉の切開、口腔内殺菌、凝血等用として多く用いられている。
【0003】
特許文献1には、本発明に関連する技術として、ハンドピースに接続されて、水に対する吸収特性の高い治療用レーザー光を照射するチップ本体部と該チップ本体部に連接されるチップ先端部とを備えたレーザー照射チップにおいて、前記チップ本体部は、前記治療用レーザを導光するファイバと、水流路と、エア流路とを備え、前記チップ先端部は、前記チップ本体部との連接部と、前記チップ本体部の水流路に連通する水導通路と、前記チップ本体部のエア流路に連通するエア導通路と、前記ファイバの先側部を挿通し得るファイバガイド部と、水エア混合室とを備え、水導通路及びエア導通路からの水及びエアは、水エア混合室で混合され、噴射端から水及びエアの混合ミストが前記治療用レーザー光の照射方向に、該治療用レーザー光と略平行に噴射されるように構成されているレーザー照射チップが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1においては、請求項に係る発明を水及びエアの混合ミスト生成する機構を持つレーザー照射チップに限定している。
【0005】
また、特許文献1の実施形態で、レーザー照射源として、Er:YAGレーザー、CO(炭酸ガス)レーザー、Er.Cr:YSGGレーザー、Ho:YAGレーザーを挙げ さらに〔発明の効果〕として「水膜を形成して効率の良い切削を実施」と記載している。
【0006】
Er:YAGレーザーの場合は、水と反応させて爆発を起こすことで切削するという原理説明があり、このことを指すのか、治療患部の冷却目的なのか、不明である。
【0007】
また、歯科分野で用いられる低出力COレーザーの場合は、水膜にエネルギーが吸収されてしまうので、良好な切削には繋がらない。あくまで治療患部を冷却する効果しかなく、水膜の形成は本来不要である。
【0008】
さらに、特許文献1の低出力COレーザーの場合、混合ミストの噴霧による切削効率が良くなる明確な理由は開示されていない。
【0009】
歯科分野で用いられる低出力(例えば10W以下の出力)COレーザー装置においては、空気のみの冷却で十分であり、混合ミストの噴霧による冷却では冷え過ぎてしまう、あるいは水によるエネルギーの吸収により、思うような切開能が得られなかった。
【0010】
上記の理由から、従来、低出力COレーザー装置を含むCOレーザー装置において水と空気の混合ミストを併用する装置は存在しないものと考えられる。
【0011】
特許文献2には、エルビウム・ヤグレーザー光源と、レーザー光を患部に指向させるハンドピースと、レーザー光源から出射したレーザー光をハンドピースに導光する導光用ファイバとを備えたレーザー治療装置において、レーザー光が照射される患部に、気体と液体との混合流体を噴霧状態で供給する手段を備えるレーザー治療装置が開示されている。
【0012】
しかし、特許文献2は、エルビウム・ヤグレーザー光源を備えるレーザー治療装置に関するものであり、COレーザー装置において水と空気の混合ミストを併用する装置を開示するような内容ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2013−226274号公報
【特許文献2】特開平7−51287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする問題点は、患部領域に対して高出力の炭酸ガスレーザー光の照射とともに水と空気からなる流体を噴射することにより、患部領域の炭化、熱変性を抑制しつつ患部領域のうちの所望部位の切開等の治療効率を向上し得るようにした高出力炭酸ガスレーザー装置が存在しない点である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ハンドピース先端から患部に向けて高出力の炭酸ガスレーザー光を照射する高出力炭酸ガスレーザー装置であって、前記ハンドピースは、前記患部に向けて水と空気からなる流体を噴射する水流路と空気流路とを備えることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明は、先端から患部の患部領域に向けて炭酸ガスレーザー光を照射するハンドピースと、高出力の炭酸ガスレーザー光を出力する炭酸ガスレーザー発振部と、水タンクおよび空気供給源を備える高出力炭酸ガスレーザー装置を構成するとともに、前記ハンドピースに前記炭酸ガスレーザー発振部からの炭酸ガスレーザー光を導光する導光路を設けるとともに、前記水タンクに一端を接続した水流路の他端をハンドピースに接続し、かつ前記空気供給源に一端を接続した空気流路をハンドピースに接続して、前記ハンドピースの先端から患部領域に向けて炭酸ガスレーザー光を照射するとともに当該炭酸ガスレーザー光の照射に組み合わせて前記水タンクと空気供給源からの水と空気を、前記水流路と空気流路を介して前記ハンドピースの先端から噴射することができるように構成した高出力炭酸ガスレーザー装置において、前記ハンドピースは、前記炭酸ガスレーザー発振部から発振される15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を、前記患部領域に向けて照射する照射手段を備えるとともに当該15〜25Wの高出力炭酸ガスレーザー光の照射に組み合わせて前記水流路と空気流路を介して前記水タンクと空気供給源からの水と空気の混合ミストを前記患部領域に向けて噴射する噴射手段を備え、前記ハンドピースの照射手段にて前記患部領域の切開又は蒸散を目的とする前記15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を照射することに組み合わせて前記ハンドピースの噴射手段にて前記ハンドピースの照射手段による切開又は蒸散に際する15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光の照射による効率の良い切開又は蒸散作用の維持促進を目的とする水と空気の混合ミストを噴射しつつ前記高出力の炭酸ガスレーザー光が照射される患部領域の患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することができるように制御する制御部を設けることにより、前記ハンドピースの15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光の照射手段と水と空気の混合ミストの噴射手段との組み合わせにより、前記患部領域の切開時に十分なエネルギーが当該患部領域に伝わり、かつ患部領域の冷却状態を保ち、患部領域における患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制しつつ効率の良い切開又は蒸散作用を実現し、前記患部領域に対する治療効率を向上することができるように構成したことを特徴とするもので、15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を患部領域に照射し、切開又は蒸散作用の向上により切開、蒸散の処理速度を速めて治療効率を向上するとともに、当該15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光の照射による前記治療効率を、前記ハンドピースを備える水と空気からなる混合ミストの前記患部領域への噴射手段によって、患部領域の患部組織の炭化や熱変性を抑制し熱影響を緩和しつつ促進することができる高出力炭酸ガスレーザー装置を提供することができる。
【0017】
請求項2記載の発明は、前記ハンドピースの照射手段の前記炭酸ガスレーザー発振部から発振される15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を導光する導光路は各関節にレーザー光を反射させるミラーを設けたマニピュレータにより構成したことを特徴とするもので、前記ハンドピースの15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光を照射する照射手段におけるファイバーからなる前記導光路の場合はレーザー光の伝送ロスが多くなることから、これを前記マニピュレータを使用することにより伝送効率を向上し、前記ハンドピースの照射手段の作用効果を向上することができ、前記請求項1における高出力炭酸ガスレーザー装置の作用効果を適切に達成することができる。
【0018】
請求項3記載の発明は、前記ハンドピースは、ハンドピース本体と当該ハンドピース本体に、先端にヘッドを取り付けたハンドピース先端部を着脱自在に装着するとともに前記ハンドピース先端部の外周に、前記水タンクおよび空気供給源に、その一端を接続した前記水流路と空気流路のそれぞれの他端を結束ベルト等の取り付け具により着脱自在に取り付け、それぞれの開放端より前記患部領域に向けて水と空気の混合ミストを噴射することができるように形成することにより、前記ハンドピースの噴射手段を構成したことを特徴とするもので、前記ハンドピースにおける前記照射手段に加える前記噴射手段の構成を簡易化しつつ請求項1または2記載の作用効果を達成することができる。
【0019】
尚、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、炭酸ガスレーザー光の出力を、15W〜25Wの高出力とする構成の基に、患部領域の炭化、熱変性を抑制し熱影響を緩和しつつ目的とする患部領域の切開、蒸散の処理速度を早め、治療効率を高めることが可能な高出力炭酸ガスレーザー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は本発明の実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置の概略構成図である。
図2図2は本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置における炭酸ガスレーザー光を患部に照射するともに水と空気からなる流体を患部に噴射するハンドピースの一例を示す概略正面図である。
図3図3図2に示すハンドピースにおけるハンドピース先端部の概略正面図である。
図4図4図2に示すハンドピースの概略断面図である。
図5図5は本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置におけるハンドピース本体、継ぎ部材、内筒を示す概略正面図である。
図6図6は本実施例の変形例に係るハンドピースにおける水流路と空気流路とを付加したハンドピース先端部を示す概略斜視図である。
図7図7は高出力の炭酸ガスレーザー光が、生体の患部領域に照射され場合の蒸散領域、炭化層、タンパク凝固層及び温熱層の生成形態を概念的に示す概略説明図である。
図8図8は生体の患部領域に照射された高出力の炭酸ガスレーザー光のエネルギー分布を断面形態及び斜視図形態で概念的に示す概略説明図である。
図9図9は高出力の炭酸ガスレーザー光が照射された患部領域における炭酸ガスレーザー光のエネルギーの高低と炭化層生成の難易の度合いとの関係を概念的に示す概略説明図である。
図10図10は患部領域において高出力の炭酸ガスレーザー光の照射と、水と空気とを混合ミスト状とした流体(水)による膜を張ることとを組み合わせた場合における炭酸ガスレーザー光のエネルギーの高低に応じた蒸散に有効な領域と炭化層ができ難い領域とを概念的に示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、患部領域の炭化、熱変性を抑制しつつ患部領域のうちの所望部位の切開等の治療効率を向上させるという目的を、ハンドピース先端から患部に向けて高出力の炭酸ガスレーザー光を照射する高出力炭酸ガスレーザー装置であって、前記ハンドピースは、前記患部に向けて水と空気からなる流体を噴射する水流路と空気流路とを備え、前記炭酸ガスレーザー光の出力は15W以上であり、前記水流路及び空気流路をハンドピース内部に備え、又は、前記水流路及び空気流路の噴射端側をハンドピース先端に着脱自在に備える構成により実現した。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
まず、図7乃至図10を参照して、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、炭酸ガスレーザー光Lの患部への照射と、水、空気からなる流体の患部への噴射との組み合わせによる患部領域における患部組織の変化についての原理的説明を行う。
【0024】
生体組織、例えば歯茎組織等は、その多くが水分であるため、単位面積当たりの熱エネルギーが大きいとされている炭酸ガスレーザー光Lの波長(例えば10.6μm等)が有効に作用するところである。
【0025】
図7に概念的に示すように、炭酸ガス(CO)レーザー光Lが、生体の歯茎組織等の患部領域51に照射されると、照射された患部領域51は、一定範囲の蒸散領域52を中央にして、その外側に炭化層53、タンパク凝固層54、温熱層55というように分布する。
【0026】
この場合、ある一定以上の単位面積当たりのエネルギーが投入されない患部領域51は蒸散には至らない。
【0027】
その変化は患部細胞の種類によって水分量や細胞膜の厚さ等が異なり、その変化も一様ではないため蒸散するエネルギー量を定義することは難しい。
【0028】
上述した場合の炭酸ガスレーザー光Lのエネルギー分布(ガウシアン分布)について考察すると、これを図8に概念的に示すように表すことができる。
【0029】
尚、図8左欄において、横軸は蒸散領域52を中央とする患部領域51の距離要素、縦軸は炭酸ガスレーザー光LのエネルギーEの高低を概念的に表している。
【0030】
また、図8右欄においては、炭酸ガスレーザー光Lのエネルギー分布と、蒸散領域52、炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55の分布を斜視図態様で概念的に表している。
【0031】
すなわち、炭酸ガスレーザー光Lのエネルギーが大きい中央部分が蒸散領域52に対応し、エネルギーが小さくなる裾の部分が炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55に対応する
【0032】
このように、組織蒸散(レーザー光の場合、切開も同じ)をした場合に、投入エネルギーが蒸散には至らない領域に前記炭化層53、タンパク凝固層54及び温熱層55が生成する。
【0033】
さらに詳述すると、ある領域の患部組織が蒸散する場合には、蒸散した患部組織ととともに多くの熱量は飛び去るが、若干残ったエネルギーが熱となり、残った患部組織の表面に薄い炭化層53やタンパク凝固層54が生成し、さらにその外側に温熱層55が生成するのである。
【0034】
ところで、高出力の炭酸ガスレーザー光Lの場合、短時間で高エネルギーを与えると同じ蒸散でも炭化層53の生成は少ないが(中央領域)、炭酸ガスレーザー光Lの低エネルギー部分に相当する中央領域の外側領域では、図9に概念的に示すように、炭化層53ができ易い。
【0035】
これは前述の通り、患部組織が蒸散する場合には、蒸散した患部組織とともに多くの熱量は飛び去るが、若干残ったエネルギーが熱となり、残った患部組織の表面に薄い炭化層53を形成するためである。
【0036】
本発明の実施例においては、高出力炭酸ガスレーザー装置1からの高出力の炭酸ガスレーザー光Lの照射と、水と空気との併用で混合ミスト状とした流体(水)の膜を張ることとの組み合わせを実施する。
【0037】
これにより、図10に概念的に示すように、高出力の炭酸ガスレーザー光Lが照射された中央部分はそのエネルギーが高いため水の膜が蒸発し、かつ、その患部組織も蒸散させることができる。
【0038】
一方、低エネルギーの炭酸ガスレーザー光Lが照射された中央部分より外側の患部領域51では、水の膜によりそのエネルギーの多くが吸収され、その領域の患部組織を炭化させるほどのエネルギーは残らないため、炭化層53ができ難くなる。
【0039】
この段階でも混合ミスト状とした水が供給され、かつ、炭酸ガスレーザー光Lの照射は継続するので、連続して冷却と蒸散が起こり、この結果、連続であっても熱の蓄積が少なく蒸散が可能となる。
【0040】
これにより、患部領域51の患部組織において、図10に概念的に示すように、炭化層53の生成が少ない蒸散(切開)状態を実現することが可能となる。
【0041】
以上述べたように、炭酸ガスレーザー光Lの出力が、例えば15W以上の高出力炭酸ガスレーザー装置1に水と空気の混合ミストの噴霧を組み合せることによって、切開時に十分なエネルギーが患部領域51に伝わり、かつ、患部領域51での冷却状態を保ち、患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することで、効率の良い切開又は蒸散作用を実現でき、結果として患部領域51に対する治療の効率を上げることが可能となるものである。
【0042】
尚、実際の高出力炭酸ガスレーザー装置1の炭酸ガスレーザー光Lの出力は、例えば15〜25Wに設定される。
【0043】
次に、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1の具体的構成例について、図1乃至図5を参照して説明する。
【0044】
本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1は、図1に示すように、例えば直方体箱型上に構成した装置本体42と、前記装置本体42に内装され、この高出力炭酸ガスレーザー装置1全体の制御を行う制御部43と、例えば波長10.6μmで、高出力(例えば15W〜25W)の炭酸ガスレーザー光Lを出力する炭酸ガスレーザー発信44と、前記装置本体42とは別体に構成され、先端から患部に向けて炭酸ガスレーザー光Lを照射するように構成した図2にも示すハンドピース5と、炭酸ガスレーザー発信44、ハンドピース5間に接続され、炭酸ガスレーザー発信44からの炭酸ガスレーザー光Lを前記ハンドピース5に導光するマニピュレータ又はファイバーからなる導光路45と、装置本体42の動作に必要な各種操作入力及び各種情報表示を行う操作表示部46と、装置本体42に内装されるとともに、患部領域に向けて噴射するための水を収納した水タンク47と、装置本体42に内装されるとともに、患部領域に向けて噴射するための空気(圧力空気)を生成するエアーコンプレッサー等からなる空気供給源48と、前記水タンク47に一端を接続し、前記ハンドピース5に他端を接続した例えばパイプ材からなる水流路49と、前記空気供給源48に一端を接続し、前記ハンドピース5に他端を接続した例えばパイプ材からなる空気流路50と、を有している。
高出力レーザー光の場合、ファイバーからなる導光路45の場合はレーザー光の伝送ロスが多くなることから、各関節にレーザー光を反射させるミラーを設けたマニピュレータを使用した方が伝送効率がファイバーの場合よりも良好となるという利点がある。
【0045】
前記ハンドピース5は、図2乃至図5に示すように、ハンドピース本体2と、先端にヘッド25を取り付けたハンドピース先端部3とを着脱可能に構成している。
【0046】
前記ハンドピース本体2は、筒体状に形成され、その外周を本体側グリップ4として機能させるようになっている。
【0047】
前記ハンドピース本体2の先端側には継ぎ部材11が配置され、この継ぎ部材11に対して、レーザー光を集光するレンズ8がカートリッジ7内にレンズ押さえ9により固定されたレンズ固定部10を装着している。
【0048】
前記継ぎ部材11の先端側には、ハンドピース先端部3を構成する内筒12と、この内筒12の外側に位置する外筒13と配置している。
【0049】
前記内筒12は、前記ハンドピース5内で伝送される炭酸ガスレーザー光Lの導光路32を形成するようになっている。
【0050】
また、この内筒12は、外径が先端に向かって例えば4段に漸次縮径する形状としている。
【0051】
一方、前記外筒13は、その内径が前記内筒12の外径より大きい径に形成され、内筒12の外径との間に隙間、即ち流体流路14が形成されるようになっている。
【0052】
また、前記外筒13の外周部は先細の外筒側グリップ15として機能するようになっている。
【0053】
この外筒13のハンドピース本体2側の端部と、前記継ぎ部材11の先端側とは、固定リング16を用いて連結している。
【0054】
前記固定リング16と継ぎ部材11との連結部は、図5に示す継ぎ部材11側の螺旋状溝17に対し、固定リング16側に設けられたロックピン18が係合され、回転することによりマーク17aの位置にて固定され、また逆回転することにより取り外しができる着脱自在な構成となっている。
【0055】
前記固定リング16と外筒13との連結部は、図4に示すようにストッパーリング19及びOリング20を介して回転自在に嵌合されている。
【0056】
前記外筒13の外周部は、外筒側グリップ15として機能するようになっている。
【0057】
さらに、前記外筒13の先端には、炭酸ガスレーザー光Lを反射して患部領域51に照射する反射ミラー21が配置されるとともに、三方リング24を嵌着したヘッド25を配置している。
【0058】
前記三方リング24は、その中央部に導光路32を経て伝送される炭酸ガスレーザー光Lの出射孔22を備えるとともに、出射孔22の周りに例えば3個の噴出孔23を設けている。
【0059】
前記継ぎ部材11には、接続口27及び接続口28が並列配置に設けられ、前記接続口27には前記空気流路50が接続され、前記接続口28には前記水流路49が接続されるようになっている。
【0060】
前記接続口27から供給される空気は、連絡孔29及びカートリッジ7に形成された空間30を経て内筒12内の導光路32内に至り、さらに、前記出射孔22から噴射される。
【0061】
一方、接続口28から供給される水は、連絡孔31を経て内筒12と外筒13との間に形成された流体流路14、三方リング24の噴出孔23から噴射されて、前記空気と混合し、混合ミストとして患部領域に向けて噴射されるようになっている。
【0062】
すなわち、本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1においては、前記ハンドピース5内に、内部空気流路及び内部水流路を備える構成としている。
【0063】
上述した構成の本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、患部領域51の切開時には、前記炭酸ガスレーザー発信44を動作させて炭酸ガスレーザー光Lを出力させ、前記導光路45を経てハンドピース5内の導光路32に伝送し、さらに、前記外筒13の先端に設けた反射ミラー21により炭酸ガスレーザー光Lを患部領域51に照射する。
【0064】
また、前記空気供給源48から空気流路50を経て接続口27に至り、さらに、連絡孔29、カートリッジ7に形成された空間30、内筒12内の導光路32内を経て前記出射孔22を経た空気を患部領域51に噴射する。
【0065】
さらに、前記水タンク47から水流路49を経て接続口28に至り、さらに、前記連絡孔31、流体流路14、三方リング24の噴出孔23を経た水を患部領域51に噴射する。
これにより、前記空気と水は混合され、混合ミストとして患部領域51に向けて噴射されることになる。
【0066】
上述した構成の本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1によれば、既述した原理説明から明らかなように、例えば出力が15〜25Wの高出力の炭酸ガスレーザー光Lの患部領域51への照射と、水と空気との混合ミストの患部領域51への噴射とを組み合わせることにより、患部領域51の切開時に十分なエネルギーがこの患部領域51に伝わり、かつ、患部領域51での冷却状態を保ち、患部組織の炭化や熱変性の発生を抑制することで、効率の良い切開又は蒸散作用を実現でき、結果として患部領域51に対する治療の効率を確実に上げることができる。
【0067】
図6はハンドピース先端部3の外周に、前記水流路49と空気流路50の先端部を例えば結束ベルト等からなる取り付け具56を用いて取り付け、高出力の炭酸ガスレーザー光Lの患部領域51への照射と、水と空気との混合ミストの患部領域51への噴射とを可能とした構成の変形例のハンドピース5Aを示すものである。
【0068】
本実施例に係る高出力炭酸ガスレーザー装置1において、図6に示すような構成の変形例のハンドピース5Aを採用した場合においても、上述した図4に示すハンドピース5を用いた場合と同様な効果を発揮させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、歯科治療のうちの外科手術(歯茎や粘膜の切開、蒸散)、根管治療、顎関節症の治療等に広範に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 高出力炭酸ガスレーザー装置
2 ハンドピース本体
3 ハンドピース先端部
4 本体側グリップ
5 ハンドピース
5A ハンドピース
7 カートリッジ
8 レンズ
9 レンズ押さえ
10 レンズ固定部
11 継ぎ部材
12 内筒
13 外筒
14 流体流路
15 外筒側グリップ
16 固定リング
17 螺旋状溝
17a マーク
18 ロックピン
19 ストッパーリング
20 Oリング
21 反射ミラー
22 出射孔
23 噴出孔
24 三方リング
25 ヘッド
27 接続口
28 接続口
29 連絡孔
30 空間
31 連絡孔
32 導光路
42 装置本体
43 制御部
44 炭酸ガスレーザー発信部
45 導光路
46 操作表示部
47 水タンク
48 空気供給源
49 水流路
50 空気流路
51 患部組織
52 蒸散領域
53 炭化層
54 タンパク凝固層
55 温熱層
56 取り付け具
L 炭酸ガスレーザー光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10