特許第6860286号(P6860286)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860286歯科インプラントのアバットメント及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860286
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】歯科インプラントのアバットメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20210405BHJP
   A61K 6/84 20200101ALI20210405BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
   A61K6/84
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-204726(P2015-204726)
(22)【出願日】2015年10月16日
(65)【公開番号】特開2017-74311(P2017-74311A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年10月4日
【審判番号】不服2020-5273(P2020-5273/J1)
【審判請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】515288236
【氏名又は名称】株式会社アトキンス
(73)【特許権者】
【識別番号】518353728
【氏名又は名称】墨 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 明弘
【合議体】
【審判長】 高木 彰
【審判官】 井上 哲男
【審判官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−63316(JP,A)
【文献】 特開昭63−158050(JP,A)
【文献】 特開2011−200570(JP,A)
【文献】 特開2000−254790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャー(5)に入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部(11)と、フィクスチャー(5)から出て歯肉(1)の歯肉貫通部(2)に配置されるチタン製の歯肉貫通部分(12)と、透光性のある乳白色の歯冠(6)が被るチタン製の被歯冠部分(13)とを含む歯科インプラントのアバットメントにおいて、
嵌合部(11)と歯肉貫通部分(12)と被歯冠部分(13)はチタンにより一体形成されており、
嵌合部(11)の表面には、酸化チタン膜が形成されておらず、
歯肉貫通部分(12)の表面に、ピンク色の干渉色を発する酸化チタン膜が形成されており、
被歯冠部分(13)の表面に、ゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜が形成されていることを特徴とする歯科インプラントのアバットメント。
【請求項2】
歯肉貫通部分(12)のピンク色は、L*a*b*表色系でL*が35〜55、a*が17〜42、b*が−20〜30の範囲である請求項記載の歯科インプラントのアバットメント。
【請求項3】
被歯冠部分(13)のゴールド色は、L*a*b*表色系でL*が70〜110、a*が−10〜10、b*が40〜75の範囲である請求項1又は2記載の歯科インプラントのアバットメント。
【請求項4】
顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャー(5)に入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部(11)と、フィクスチャー(5)から出て歯肉(1)の歯肉貫通部(2)に配置されるチタン製の歯肉貫通部分(12)と、透光性のある乳白色の歯冠(6)が被るチタン製の被歯冠部分(13)とを含む歯科インプラントのアバットメントの製造方法において、
嵌合部(11)にフィクスチャーのレプリカ(25)を結合した状態で、歯肉貫通部分(12)の表面と被歯冠部分(13)の表面とを同時に陽極酸化処理することにより、両表面にゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成した後、
被歯冠部分(13)の表面をマスキングし、歯肉貫通部分(12)の表面を酸洗いして歯肉貫通部分(12)の酸化チタン膜を除去してから陽極酸化処理することにより、歯肉貫通部分(12)の表面にピンク色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成することを特徴とする歯科インプラントのアバットメントの製造方法。
【請求項5】
顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャー(5)に入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部(11)と、フィクスチャー(5)から出て歯肉(1)の歯肉貫通部(2)に配置されるチタン製の歯肉貫通部分(12)と、透光性のある乳白色の歯冠(6)が被るチタン製の被歯冠部分(13)とを含む歯科インプラントのアバットメントの製造方法において、
嵌合部(11)にフィクスチャーのレプリカ(25)を結合した状態で、歯肉貫通部分(12)の表面と被歯冠部分(13)の表面とを同時に陽極酸化処理することにより、両表面にゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成した後、
被歯冠部分(13)の表面をマスキングし、歯肉貫通部分(12)の表面のみをさらに陽極酸化処理することにより、歯肉貫通部分(12)の表面の酸化チタン膜をピンク色の干渉色を発するものに変えることを特徴とする歯科インプラントのアバットメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科インプラントのアバットメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科インプラントは、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャーと、歯冠が被る支台であるアバットメントと、アバットメントに被った上部構造である歯冠とからなる。また、フィクスチャー体にこれとは別体のアバットメント体を接続する2ピースタイプと、フィクスチャー部とアバットメント部とを一体とした1ピースタイプとがある。
【0003】
アバットメントの材料としては、チタン、チタン合金、ジルコニア、金合金等が知られており、チタン又はチタン合金は生体適合性、強度等の点で適している。以後、本願で「チタン」というときは、チタンも、チタン合金も包含するものとする。
【0004】
しかしながら、チタン製のアバットメントは、表面がチタン特有のシルバーグレイ色なので、ピンク色の歯肉を透かしてやや見えてしまい、歯肉が黒ずんで見えて審美性を損なうという問題があった。より詳しくは、患者の歯肉の歯欠損部位には、歯が抜ける若しくは歯科医が抜歯することにより又は歯科医が塞がった歯肉に開けることにより、歯肉貫通部(穴)が形成される。アバットメントは、この歯肉貫通部に配置される歯肉貫通部分と、歯冠が被る被歯冠部分とを備え、歯冠が被らない歯肉貫通部分のシルバーグレイ色が歯肉を透かして見えてしまうのである。
【0005】
そこで、チタン製のアバットメントの表面を陽極酸化処理し、形成される酸化チタン膜が歯肉色に近いピンク色の干渉色を発するようにして、上記問題を解決する技術が開発された。
【0006】
非特許文献1には、互いに色調が異なる5通りの歯肉色に近いピンク色にそれぞれ陽極酸化した5枚のチタンプレートよりなるシェードガイド(濃淡見本)を作成し、患者の歯肉色を光学的に測定して、測定色を前記シェードガイドに照らし合わせる手法が開示されている。
【0007】
特許文献1には、チタン製のアバットメントの表面の色調をL*a*b*表色系で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40、b*が−20〜10の範囲とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The International Journal of Periodontics & Restorative Dentistry Volume22,Number 5,2014 「患者固有の粘膜色に着色したアバットメント:ケースシリーズ」
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−170723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
歯冠の材料には、金属、メタルボンド(中が金属で外はセラミックス)、ハイブリッドセラミックス(セラミックスとプラスチックの混合)、オールセラミックス等がある。透光性のない金属やメタルボンドでは、次に述べる問題は生じないが、透光性のある乳白色のハイブリッドセラミックスやオールセラミックスでは、次に述べる問題が生じる。
【0011】
すなわち、チタン製のアバットメントの歯肉貫通部分と被歯冠部分とをピンク色にすると、被歯冠部分のピンク色が、透光性である歯冠を透かして見えてしまい、歯冠の審美性を損なう。
また、チタン製のアバットメントの歯肉貫通部分と被歯冠部分とをピンク色にしてから、歯冠の接着向上のために被歯冠部分をサンドブラスト処理した場合には、同処理で露出した被歯冠部分のチタンのシルバーグレイ色が、透光性である歯冠を透かして見えてしまい、歯冠の審美性を損なう。
【0012】
以上の諸問題は、チタン製のアバットメントの問題として述べたが、ジルコニア、金合金等よりなるアバットメントでも、色の差や、程度の差こそあれ、問題となることがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、歯肉の審美性も歯冠の審美性も損なわないアバットメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明のアバットメントは、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャーに入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部と、フィクスチャーから出て歯肉の歯肉貫通部(穴)に配置されるチタン製の歯肉貫通部分と、透光性のある乳白色の歯冠が被るチタン製の被歯冠部分とを含む歯科インプラントのアバットメントにおいて、
嵌合部と歯肉貫通部分と被歯冠部分はチタンにより一体形成されており、
嵌合部の表面には、酸化チタン膜が形成されておらず、
歯肉貫通部分の表面に、ピンク色の干渉色を発する酸化チタン膜が形成されており、
被歯冠部分の表面に、ゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜が形成されていることを特徴とする。
対象とする歯冠は、透光性のある乳白色の歯冠(例えば、ハイブリッドセラミックスやオールセラミックス)である。
【0015】
[作用]
このアバットメントによれば、歯肉貫通部分の表面がピンク色なので、これがピンク色の歯肉を透かして見えても、歯肉のピンク色の見え方にほとんど影響せず審美性を損なわない。また、被歯冠部分の表面がゴールド色なので、これが透光性のある乳白色の歯冠を透かして見えても、歯冠の乳白色の見え方にほとんど影響せず審美性を損なわない。
【0016】
本発明において、アバットメントがチタン製であり、歯肉貫通部分の表面の酸化チタン膜が前記ピンク色の干渉色を発し、被歯冠部分の表面の酸化チタン膜が前記ゴールド色の干渉色を発することが好ましい。前記のとおり、チタンは生体適合性、強度等の点で適しており、また、酸化チタン膜は膜厚の調整で発色をコントロールできるからである。
この点を詳述すると、酸化チタン膜自体は無色透明であるが、様々な波長の光を含む白色光が、酸化チタン膜を経てチタンの表面で反射した光と、酸化チタン膜の表面で反射した光とが干渉作用を起こし、強められた波長の光が色となって見える。これが干渉色である。強められる波長は酸化チタン膜の厚さにより決まるため、その膜厚をコントロールすることにより目的の色を得ることができる。
【0017】
歯肉貫通部分のピンク色は、その色調を患者の歯肉のピンク色に応じて変えることができるので特に限定されないが、L*a*b*表色系でL*が35〜55、a*が17〜42、b*が−20〜30の範囲であれば、多くの患者に対応できる。
【0018】
被歯冠部分のゴールド色は、その色調を患者の天然歯に合わせた歯冠の乳白色に応じて変えることができるので特に限定されないが、L*a*b*表色系でL*が70〜110、a*が−10〜10、b*が40〜75の範囲であることが好ましい。ゴールド色は反射色でもよいため、L*が100を超えてもよい。
【0019】
(2)本発明のアバットメントの製造方法は、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャーに入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部と、フィクスチャーから出て歯肉の歯肉貫通部に配置されるチタン製の歯肉貫通部分と、透光性のある乳白色の歯冠が被るチタン製の被歯冠部分とを含む歯科インプラントのアバットメントの製造方法において、
嵌合部にフィクスチャーのレプリカを結合した状態で、歯肉貫通部分の表面と被歯冠部分の表面とを同時に陽極酸化処理することにより、両表面にゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成した後、
被歯冠部分の表面をマスキングし、歯肉貫通部分の表面を酸洗いして歯肉貫通部分の酸化チタン膜を除去してから陽極酸化処理することにより、歯肉貫通部分の表面にピンク色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成することを特徴とする。
【0020】
(3)本発明の別のアバットメントの製造方法は、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャーに入って嵌合する根元のチタン製の嵌合部と、フィクスチャーから出て歯肉の歯肉貫通部に配置されるチタン製の歯肉貫通部分と、透光性のある乳白色の歯冠が被るチタン製の被歯冠部分とを含む歯科インプラントのアバットメントの製造方法において、
嵌合部にフィクスチャーのレプリカを結合した状態で、歯肉貫通部分の表面と被歯冠部分の表面とを同時に陽極酸化処理することにより、両表面にゴールド色の干渉色を発する酸化チタン膜を形成した後、
被歯冠部分の表面をマスキングし、歯肉貫通部分の表面のみをさらに陽極酸化処理することにより、歯肉貫通部分の表面の酸化チタン膜をピンク色の干渉色を発するものに変えることを特徴とする。
【0021】
[作用]
これらの製造方法によれば、歯肉の歯肉貫通部に配置される歯肉貫通部分の表面がピンク色であり、歯冠が被る被歯冠部分の表面がゴールド色であるアバットメントを、少ないマスキング工程回数で効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、歯肉の審美性も歯冠の審美性も損なわないアバットメントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は実施例のアバットメントの正面図、(b)は同アバットメントの使用状態の正面図である。
図2】(a)は同アバットメントの陽極酸化処理の概略図、(b)は歯肉貫通部分と被歯冠部分とにゴールド色を発する酸化チタン膜を形成したときの正面図、(c)は歯肉貫通部分にピンク色を発する酸化チタン膜を形成したときの正面図である。
図3】(a)は実施例に用いるシェードガイドの斜視図、(b)は同シェードガイドの使用状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.アバットメント
アバットメントの材料は、チタンである。前記のとおり、「チタン」はチタン合金を包含する。
嵌合部の形状やフィクスチャーへの固定構造は、特に限定されず、また、回転防止用の六角部を備えるものでも備えないものでもよい。
歯肉貫通部分や被歯冠部分の形状も、特に限定されず、歯冠の形状に対応して適宜の形状に形成できる。
歯肉貫通部分と被歯冠部分とは、一体のものでも、別体を接続したものでもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体化した歯科インプラントのアバットメントの実施例と、その色決定に便利に使用できる新規のシェードガイドについて、図1図3を参照して説明する。なお、実施例で記す材料、構成、数値は例示であって、適宜変更できる。
【0028】
まず、インプラント治療する患者の口腔状態例について簡単に説明すると、図3(b)に示すように、歯肉1の歯欠損部位には、歯が抜ける若しくは歯科医が抜歯することにより又は歯科医が塞がった歯肉に開けることにより、歯肉貫通部2(穴)が形成される。その左右には天然歯3,3が並ぶ。
【0029】
インプラントは、図1(b)に示すように、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャー5と、歯冠が被る支台であるアバットメント10と、アバットメントに被った上部構造である歯冠6とからなり、同図示例は、フィクスチャー体にこれとは別体のアバットメント体を接続する2ピースタイプである。歯冠6は、乳白色のハイブリッドセラミックス又はオールセラミックスであり、透光性である。
【0030】
実施例のアバットメント10は、図1(a)(b)に示すように、フィクスチャー5に嵌合する根元の嵌合部11と、フィクスチャー5から出て、歯肉1の歯肉貫通部2に配置される歯肉貫通部分12と、歯肉貫通部分12より先の、歯冠6が被る被歯冠部分13とからなり、これらはチタンにより一体形成されている。嵌合部11は回転防止用の六角部14を備える。歯肉貫通部分12は被歯冠部分13との境に向かうにつれて拡径する形状である。被歯冠部分13は山形状である。但し、これら各部は前記のとおり適宜の形状に形成できる。
【0031】
歯肉貫通部分12の表面は、同表面に陽極酸化処理により形成された酸化チタン膜による光の干渉で発色するピンク色である。被歯冠部分13の表面は、同表面に陽極酸化処理により形成された酸化チタン膜による光の干渉で発色するゴールド色である。図1図3で、クロスハッチングはピンク色を表し、通常の斜めハッチングはゴールド色を表している。
【0032】
歯肉貫通部分12のピンク色と被歯冠部分13のゴールド色を、オリンパス株式会社製の歯科用測色装置「Crystaleye Spectrophotometer」(略称クリスタルアイ、7バンドLED光源を用いたスペクトル推定方式)を用いて色測定したところ、L*a*b*表色系で次の[表1]のとおりであった。ここで、歯肉貫通部分12のピンク色は、3箇所の測定部位の平均値である。被歯冠部分13のゴールド色は反射色のため、3箇所の測定部位で測定値がかなりばらついたので、そのばらつきの範囲で示した。
【0033】
【表1】
【0034】
このアバットメント10によれば、図1(b)に示すように、歯肉貫通部分12の表面がピンク色なので、ピンク色の歯肉1を通して見えてはいてもほぼ分からないため、歯肉1のピンク色をほとんど変えて見せることがなく審美性を損なわない。また、被歯冠部分13の表面がゴールド色なので、透光性のある乳白色の歯冠6を通して見えてはいてもほぼ分からないため、歯冠6の乳白色をほとんど変えて見せることがなく審美性を損なわない。
【0035】
このアバットメント10は、次のようにして製造することができる。
(1)嵌合部11と歯肉貫通部分12と被歯冠部分13とからなるアバットメント10を、チタンにより一体形成する。形成方法は、特に限定されないが、強度や精密性の点で切削加工が好ましい。さらに、必要に応じて研削、研磨等により形状を調整する。
(2)アバットメント10の嵌合部11に、フィクスチャーの例えば石膏からなるレプリカ25を結合する。
(3)アバットメント10を脱脂する。
(4)アバットメント10を酸洗いする。上記形成後にチタンの表面は空気中でまだらに酸化し、その酸化物は次の陽極酸化処理の均一性を損なうため、酸洗いにより除去する。酸洗いにはフッ酸や、フッ酸・硝酸混合液等の公知の酸を用いることができる。
【0036】
(5)図2(a)に示すように、レプリカ25付のアバットメント10を陽極に、通電性の良い金属電極20を陰極にしてそれぞれ電解液21に浸し、電源装置22により直流電圧をかけて、レプリカ25に嵌合した嵌合部11以外の歯肉貫通部分12の表面と被歯冠部分13の表面を陽極酸化処理する。両表面には、表面部のチタンと陽極で電解発生した酸素とが結びつき、図2(b)に示すように酸化チタン膜が生成する。電解液21には、公知の様々な水溶液、非水溶液、溶融塩等を用いることができ、例えば10〜20質量%リン酸水溶液を用いることができる。また、電圧、電流、液温、処理時間等を調節することにより、酸化チタン膜の膜厚を自由にコントロールすることができる。両表面の酸化チタン膜がゴールド色の干渉色を発するようになったら、一旦、電圧を止める。
【0037】
(6)図2(c)に示すように、レプリカ25付のアバットメント10を電解液21から取り出し、水洗した後、被歯冠部分13をワックス等よりなるマスキング24で覆う。そして、露出した歯肉貫通部分12を酸洗いし、歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜を除去する。
【0038】
(7)レプリカ25付のアバットメント10を再び電解液21に浸し、露出した歯肉貫通部分12の表面を陽極酸化処理する。同表面には、表面部のチタンと陽極で電解発生した酸素とが結びつき、図2(c)に示すように酸化チタン膜が生成する。この酸化チタン膜がピンク色の干渉色を発するようになり、それが目的のピンク色になったら陽極酸化処理を終了する。
【0039】
(8)レプリカ25付のアバットメント10を電解液21から取り出し、レプリカ25とマスキング24を取り除いて、洗浄・滅菌すれば、アバットメント10が完成する。
【0040】
なお、上記の製造方法に限定されず、例えば上記(6)でマスキング24をした後に、酸洗いをせず、よって歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜が付いたまま、上記(7)の陽極酸化処理を行ってもよい。歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜は、陽極酸化処理の続行により膜厚を増してやがてピンク色の干渉色を発するようになり、それが目的のピンク色になったら陽極酸化処理を終了する。
【0041】
[シェードガイド]
ところで、歯肉1のピンク色は、患者によって色調が微妙に異なる。そのため、歯肉貫通部分12のピンク色が歯肉1のピンク色と合わないと、その歯肉貫通部分12が歯肉の歯肉貫通部2に配されたときに歯肉1のピンク色がやや変わって見えることもあり得る。
そこで、歯肉貫通部分12のピンク色を、歯肉1のピンク色が変わって見えないような色調にすることが好ましい。その色決定を適切かつ容易に行えるようにするために、予め次のようなシェードガイド(濃淡見本)を作製して使用した。
【0042】
このシェードガイド30は、図3(a)に示すように、ピン表面が互いに色調の異なる5通りのピンク色である5本の棒状のガイドピン31よりなり、各ガイドピン31はその少なくとも先端部が、歯肉1の歯肉貫通部2に入る直径を備えているものである。詳しくは、各ガイドピン31は、直径3mm、長さ20mmのチタン製の丸棒であり、各ピンク色はピン表面に形成された酸化チタン膜による干渉色である。5本のガイドピン31(1番〜5番とする)の各ピンク色を、前記歯科用測色装置「Crystaleye Spectrophotometer」を用いて色測定したところ(各3箇所の測定部位の平均値)、L*a*b*表色系で次の[表2]のとおりであった。
【0043】
【表2】
【0044】
このシェードガイド30の使用方法は、次のとおりである。
図3(b)に示すように、1番〜5番のガイドピン31を順に1本ずつ、ホルダー32で一端をつかんで患者の口腔内に入れ、他端(先端部)を歯肉1の歯肉貫通部2に差し込む。
そして、同図に太線円で示した、ガイドピン31の先端部が透けて見える部位の歯肉1のピンク色を目視観察して、患者本来の歯肉1のピンク色に対して一番変わって見えないのは、1番〜5番のガイドピン31のいずれを差し込んだ場合であるかを判定し、判定したガイドピン31のピンク色を歯肉貫通部分12のピンク色として決定する。
【0045】
前述した歯肉貫通部分12の陽極酸化処理は、この決定したピンク色を目的色として行えばよい。また、各ガイドピン31の陽極処理条件を記録しておけば、それを参考にして歯肉貫通部分12の陽極酸化処理を行うことができ、便利である。
【0046】
このシェードガイド30は、アバットメント10と同様に、次のようにして製造することができる。
(1)ガイドピン31をチタンにより形成する。
(2)ガイドピン31を脱脂する。
(3)ガイドピン31を酸洗いする。
(4)ガイドピン31を陽極に、通電性の良い金属電極を陰極にしてそれぞれ電解液に浸し、電源装置により直流電圧をかけて、ガイドピン31を陽極酸化処理する。
【0047】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 歯肉
2 歯肉貫通部
3 天然歯
5 フィクスチャー
6 歯冠
10 アバットメント
11 嵌合部
12 歯肉貫通部分
13 被歯冠部分
14 六角部
20 金属電極
21 電解液
22 電源装置
24 マスキング
25 レプリカ
30 シェードガイド
31 ガイドピン
図1
図2
図3