【実施例】
【0027】
以下、本発明を具体化した歯科インプラントのアバットメントの実施例と、その色決定に便利に使用できる新規のシェードガイドについて、
図1〜
図3を参照して説明する。なお、実施例で記す材料、構成、数値は例示であって、適宜変更できる。
【0028】
まず、インプラント治療する患者の口腔状態例について簡単に説明すると、
図3(b)に示すように、歯肉1の歯欠損部位には、歯が抜ける若しくは歯科医が抜歯することにより又は歯科医が塞がった歯肉に開けることにより、歯肉貫通部2(穴)が形成される。その左右には天然歯3,3が並ぶ。
【0029】
インプラントは、
図1(b)に示すように、顎骨に固定する人工歯根であるフィクスチャー5と、歯冠が被る支台であるアバットメント10と、アバットメントに被った上部構造である歯冠6とからなり、同図示例は、フィクスチャー体にこれとは別体のアバットメント体を接続する2ピースタイプである
。歯冠6は、乳白色のハイブリッドセラミックス又はオールセラミックスであり、透光性である。
【0030】
実施例のアバットメント10は、
図1(a)(b)に示すように、フィクスチャー5に嵌合する根元の嵌合部11と、フィクスチャー5から出て、歯肉1の歯肉貫通部2に配置される歯肉貫通部分12と、歯肉貫通部分12より先の、歯冠6が被る被歯冠部分13とからなり、これらはチタンにより一体形成されている。嵌合部11は回転防止用の六角部14を備える。歯肉貫通部分12は被歯冠部分13との境に向かうにつれて拡径する形状である。被歯冠部分13は山形状である。但し、これら各部は前記のとおり適宜の形状に形成できる。
【0031】
歯肉貫通部分12の表面は、同表面に陽極酸化処理により形成された酸化チタン膜による光の干渉で発色するピンク色である。被歯冠部分13の表面は、同表面に陽極酸化処理により形成された酸化チタン膜による光の干渉で発色するゴールド色である。
図1〜
図3で、クロスハッチングはピンク色を表し、通常の斜めハッチングはゴールド色を表している。
【0032】
歯肉貫通部分12のピンク色と被歯冠部分13のゴールド色を、オリンパス株式会社製の歯科用測色装置「Crystaleye Spectrophotometer」(略称クリスタルアイ、7バンドLED光源を用いたスペクトル推定方式)を用いて色測定したところ、L*a*b*表色系で次の[表1]のとおりであった。ここで、歯肉貫通部分12のピンク色は、3箇所の測定部位の平均値である。被歯冠部分13のゴールド色は反射色のため、3箇所の測定部位で測定値がかなりばらついたので、そのばらつきの範囲で示した。
【0033】
【表1】
【0034】
このアバットメント10によれば、
図1(b)に示すように、歯肉貫通部分12の表面がピンク色なので、ピンク色の歯肉1を通して見えてはいてもほぼ分からないため、歯肉1のピンク色をほとんど変えて見せることがなく審美性を損なわない。また、被歯冠部分13の表面がゴールド色なので、透光性のある乳白色の歯冠6を通して見えてはいてもほぼ分からないため、歯冠6の乳白色をほとんど変えて見せることがなく審美性を損なわない。
【0035】
このアバットメント10は、次のようにして製造することができる。
(1)嵌合部11と歯肉貫通部分12と被歯冠部分13とからなるアバットメント10を、チタンにより一体形成する。形成方法は、特に限定されないが、強度や精密性の点で切削加工が好ましい。さらに、必要に応じて研削、研磨等により形状を調整する。
(2)アバットメント10の嵌合部11に、フィクスチャーの例えば石膏からなるレプリカ25を結合する。
(3)アバットメント10を脱脂する。
(4)アバットメント10を酸洗いする。上記形成後にチタンの表面は空気中でまだらに酸化し、その酸化物は次の陽極酸化処理の均一性を損なうため、酸洗いにより除去する。酸洗いにはフッ酸や、フッ酸・硝酸混合液等の公知の酸を用いることができる。
【0036】
(5)
図2(a)に示すように、レプリカ25付のアバットメント10を陽極に、通電性の良い金属電極20を陰極にしてそれぞれ電解液21に浸し、電源装置22により直流電圧をかけて、レプリカ25に嵌合した嵌合部11以外の歯肉貫通部分12の表面と被歯冠部分13の表面を陽極酸化処理する。両表面には、表面部のチタンと陽極で電解発生した酸素とが結びつき、
図2(b)に示すように酸化チタン膜が生成する。電解液21には、公知の様々な水溶液、非水溶液、溶融塩等を用いることができ、例えば10〜20質量%リン酸水溶液を用いることができる。また、電圧、電流、液温、処理時間等を調節することにより、酸化チタン膜の膜厚を自由にコントロールすることができる。両表面の酸化チタン膜がゴールド色の干渉色を発するようになったら、一旦、電圧を止める。
【0037】
(6)
図2(c)に示すように、レプリカ25付のアバットメント10を電解液21から取り出し、水洗した後、被歯冠部分13をワックス等よりなるマスキング24で覆う。そして、露出した歯肉貫通部分12を酸洗いし、歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜を除去する。
【0038】
(7)レプリカ25付のアバットメント10を再び電解液21に浸し、露出した歯肉貫通部分12の表面を陽極酸化処理する。同表面には、表面部のチタンと陽極で電解発生した酸素とが結びつき、
図2(c)に示すように酸化チタン膜が生成する。この酸化チタン膜がピンク色の干渉色を発するようになり、それが目的のピンク色になったら陽極酸化処理を終了する。
【0039】
(8)レプリカ25付のアバットメント10を電解液21から取り出し、レプリカ25とマスキング24を取り除いて、洗浄・滅菌すれば、アバットメント10が完成する。
【0040】
なお、上記の製造方法に限定されず、例えば上記(6)でマスキング24をした後に、酸洗いをせず、よって歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜が付いたまま、上記(7)の陽極酸化処理を行ってもよい。歯肉貫通部分12のゴールド色の酸化チタン膜は、陽極酸化処理の続行により膜厚を増してやがてピンク色の干渉色を発するようになり、それが目的のピンク色になったら陽極酸化処理を終了する。
【0041】
[シェードガイド]
ところで、歯肉1のピンク色は、患者によって色調が微妙に異なる。そのため、歯肉貫通部分12のピンク色が歯肉1のピンク色と合わないと、その歯肉貫通部分12が歯肉の歯肉貫通部2に配されたときに歯肉1のピンク色がやや変わって見えることもあり得る。
そこで、歯肉貫通部分12のピンク色を、歯肉1のピンク色が変わって見えないような色調にすることが好ましい。その色決定を適切かつ容易に行えるようにするために、予め次のようなシェードガイド(濃淡見本)を作製して使用した。
【0042】
このシェードガイド30は、
図3(a)に示すように、ピン表面が互いに色調の異なる5通りのピンク色である5本の棒状のガイドピン31よりなり、各ガイドピン31はその少なくとも先端部が、歯肉1の歯肉貫通部2に入る直径を備えているものである。詳しくは、各ガイドピン31は、直径3mm、長さ20mmのチタン製の丸棒であり、各ピンク色はピン表面に形成された酸化チタン膜による干渉色である。5本のガイドピン31(1番〜5番とする)の各ピンク色を、前記歯科用測色装置「Crystaleye Spectrophotometer」を用いて色測定したところ(各3箇所の測定部位の平均値)、L*a*b*表色系で次の[表2]のとおりであった。
【0043】
【表2】
【0044】
このシェードガイド30の使用方法は、次のとおりである。
図3(b)に示すように、1番〜5番のガイドピン31を順に1本ずつ、ホルダー32で一端をつかんで患者の口腔内に入れ、他端(先端部)を歯肉1の歯肉貫通部2に差し込む。
そして、同図に太線円で示した、ガイドピン31の先端部が透けて見える部位の歯肉1のピンク色を目視観察して、患者本来の歯肉1のピンク色に対して一番変わって見えないのは、1番〜5番のガイドピン31のいずれを差し込んだ場合であるかを判定し、判定したガイドピン31のピンク色を歯肉貫通部分12のピンク色として決定する。
【0045】
前述した歯肉貫通部分12の陽極酸化処理は、この決定したピンク色を目的色として行えばよい。また、各ガイドピン31の陽極処理条件を記録しておけば、それを参考にして歯肉貫通部分12の陽極酸化処理を行うことができ、便利である。
【0046】
このシェードガイド30は、アバットメント10と同様に、次のようにして製造することができる。
(1)ガイドピン31をチタンにより形成する。
(2)ガイドピン31を脱脂する。
(3)ガイドピン31を酸洗いする。
(4)ガイドピン31を陽極に、通電性の良い金属電極を陰極にしてそれぞれ電解液に浸し、電源装置により直流電圧をかけて、ガイドピン31を陽極酸化処理する。
【0047】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。