(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱伝導性粒子を含有する熱伝導性フィラーであって、前記熱伝導性粒子が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムのうちのいずれか一種以上であり、粒径がレーザー回折法で測定した平均粒径で0.5〜100μmの範囲にあり、前記熱伝導性粒子の表面に屈折率制御層を設け、前記屈折率制御層が酸化ケイ素(熱伝導性粒子が酸化ケイ素の場合を除く)、酸化アルミニウム(熱伝導性粒子が酸化アルミニウムの場合を除く)およびそれらの複合酸化物のうちの一種以上から選ばれ、前記熱伝導性粒子と前記屈折率制御層の屈折率の差が0.15以下であることを特徴とする熱伝導性フィラー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高い透明性と熱伝導性を兼ね備えた樹脂材料を与える熱伝導性フィラーを開発することにある。また、本発明の別の目的は、該熱伝導性フィラーを用いた透明熱伝導性樹脂組成物を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題の解決へ向けて鋭意検討した結果、熱伝導性粒子の表面に、屈折率制御層を設けたものを用いることで、透明性と熱伝導性を兼ね備えた樹脂材料が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記[1]〜[7]に記載の事項を特徴とするものである。
[1]熱伝導性フィラーであって、熱伝導性粒子の表面に屈折率制御層を設けたことを特徴とする熱伝導性フィラー。
[2]屈折率制御層が、SiおよびAlのうち少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする前記[1]に記載の熱伝導性フィラー。
[3]屈折率制御層の厚みが、0.05〜1μmの範囲にあることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の熱伝導性フィラー。
[4]熱伝導性粒子の粒径が平均粒径で0.5〜100μmの範囲にあることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱伝導性フィラー。
[5]熱伝導性粒子の熱伝導率が3W/mK以上であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱伝導性フィラー。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱伝導性フィラーを含有する樹脂組成物。
[7]前記熱伝導性フィラーの含有量が樹脂組成物の5〜95wt%の範囲にあることを特徴とする前記[6]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱伝導性フィラーからなる樹脂組成物は、透明性と熱伝導性を兼ね備えているため、LED照明周りやディスプレー周りなどの透明部材の熱の問題を解決することにつながる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の熱伝導性フィラーは、熱伝導性粒子の表面に屈折率制御層を設けたものであることを特徴とする。熱伝導性フィラーとは、樹脂等のマトリクスに添加して熱伝導性を高めるための粒子のことを言う。本発明の熱伝導性フィラーを構成する熱伝導性粒子の熱伝導率は3W/mK以上であることが好ましい。該粒子の熱伝導率が3W/mKより小さいと、本発明の熱伝導性フィラーを樹脂等のマトリクスに添加した際に熱伝導性を高める効果が小さい。熱伝導性粒子の熱伝導率は5W/mK以上であることが好ましく、7W/mK以上であることがより好ましい。
【0008】
本発明の熱伝導性フィラーを構成する熱伝導性粒子は、有機系、無機系を問わず使用可能であるが、無機系のものは熱伝導率が高く好ましい。無機系のフィラーとしては、金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、窒化物、炭化物などが挙げられる。これらのうち、酸化物、水酸化物、炭酸塩が好ましい。
【0009】
酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0010】
水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0011】
炭酸塩としては、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0012】
これらのうち、水酸化物が好ましい。水酸化物の中でも、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく、このうち水酸化マグネシウムがとくに好ましい。
【0013】
熱伝導性粒子の形状は、とくに限定はされず、球状、棒状、板状、鱗片状、針状、繊維状、中空状、角状、塊状のものなどを用いることができる。
【0014】
熱伝導性粒子は、レーザー回折法で測定した平均粒径が0.5〜100μmの範囲にあることが好ましい。熱伝導性粒子の平均粒径が0.5μmを下回ると、透明性と熱伝導性の両立が困難となり、100μmを上回ると、樹脂組成物の強度等の力学的特性が損なわれる。熱伝導性粒子の平均粒径は1〜50μmの範囲にあることが好ましく、5〜30μmの範囲にあることがより好ましい。
【0015】
熱伝導性粒子の平均粒径は、レーザー回折法で測定する。
【0016】
本発明の熱伝導性フィラーを構成する屈折率制御層は、熱伝導性粒子とは異なる屈折率を有する成分からなることを特徴とする。屈折率制御層の成分としては、有機系、無機系、あるいは有機と無機の複合物のいずれでも良いが、無機系、あるいは有機と無機の複合物のいずれかであることが好ましく、無機系であることがより好ましい。屈折率制御層としては、Si、AlおよびTiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiおよびAlのうち少なくとも1種の元素を含むことがより好ましい。更には、屈折率制御層が、酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびそれらの複合酸化物から選ばれることが好ましい。また、屈折率制御層は単一成分から構成されても、複数の成分から構成されても良い。複数の成分から構成される場合は、多層構造であっても良いし、最内面から最表面へ向けて少しずつ成分が異なる傾斜構造であっても良い。
【0017】
屈折率制御層の厚みは0.05〜1μmの範囲にあることが好ましい。屈折率制御層の厚みが0.05μmを下回ると、本発明の熱伝導性フィラーを樹脂等のマトリクスに添加した際に透明性を高める効果が小さくなり、1μmを上回ると熱伝導性を高める効果が小さくなる場合がある。屈折率制御層の厚みは、0.1〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。また、屈折率制御層は、熱伝導性粒子を完全に覆っていることが好ましいが、完全に覆っていなくても良い。屈折率制御層の形状は、必ずしも層状でなくても良く、粒子形状で熱伝導性粒子に付着していても良い。粒子形状の場合は、粒径が0.05〜1μmの範囲にあることが好ましく、0.1〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0018】
熱伝導性粒子と屈折率制御層の屈折率差は絶対値で0.15以下であることが好ましい。該屈折率差が0.15を上回ると屈折率制御層の効果が極端に低下し、本発明の熱伝導性フィラーを樹脂等のマトリクスに添加した際に透明性を高める効果が小さくなる。屈折率制御層が複数層から構成される場合は、屈折率制御層の最内面の屈折率と熱伝導性粒子との屈折率差とする。該屈折率差は、0.10以下であることがより好ましく、0.05以下であることが更に好ましく、0.01未満であることが尚更好ましい。
【0019】
本発明の熱伝導性フィラーは、熱伝導性粒子と屈折率制御層がともに金属化合物から選ばれることが好ましい。この場合、熱伝導性粒子を構成する金属成分の含有量(M1)と屈折率制御層を構成する金属成分の含有量(M2)の比、M2/M1が各金属の原子数濃度比で0.1以上であることが好ましい。それぞれ、複数の金属成分からなる場合はこれらの合算値とする。原子数濃度比が0.1より小さいと屈折率制御層を設けた効果が小さい。原子数濃度比は0.5〜5.0であることが好ましく、1.0〜2.5であることがより好ましい。原子数濃度比は、エネルギー分散型X線分析(EDS)で測定する。
【0020】
本発明の熱伝導性フィラーの製造方法としては、溶媒中で熱伝導性粒子と屈折率制御層の成分を混合する方法、金属アルコキシドを用いたゾルゲル法のように、溶媒中で屈折率制御層を形成する方法、熱伝導性粒子に屈折率制御層の成分をスプレー等でコーティングする方法、あるいは熱伝導性粒子と屈折率制御層の成分をボールミルやミキサー等で機械的に混合する方法などが挙げられる。これらのうち、ゾルゲル法が均一な粒子が精度高く得られるため好ましい。
【0021】
本発明の熱伝導性フィラーは、シランカップリング剤などで表面処理されていても良い。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、樹脂と本発明の熱伝導性フィラーとからなる。本発明の熱伝導性フィラーの屈折率制御層の屈折率は、樹脂と熱伝導性粒子のそれぞれの屈折率の間の値であることが好ましい。屈折率制御層は、単一層でも良いが、複数層から構成され、熱伝導性粒子から樹脂の間を段階的に屈折率が変化するようにすると樹脂の透明性に優れるため好ましい。更に、最内面から最表面へ向けて少しずつ成分が異なる傾斜構造であるとより好ましい。
【0023】
樹脂と屈折率制御層の屈折率差は絶対値で0.15以下であることが好ましい。該屈折率差が0.15を上回ると樹脂組成物の透明性が極端に低下する。屈折率制御層が複数層から構成される場合は、屈折率制御層の最表面の屈折率と樹脂との屈折率差とする。該屈折率差は、0.10以下であることがより好ましく、0.05以下であることが更に好ましく、0.01未満であることが尚更好ましい。また、樹脂と熱伝導性粒子の屈折率差は絶対値で0.35以下であることが好ましい。該屈折率差が0.35を上回ると、屈折率制御層の効果が極端に小さくなる。該屈折率差は、0.25以下であることがより好ましく、0.15以下であることが更に好ましく、0.05以下であることが尚更好ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物を構成する熱伝導性フィラーは、1種類のものを単独で用いても良いし、2種類以上のものを共存して用いても良い。2種類以上のものを共存して用いると熱伝導性と透明性の両立の観点から好ましい。ここで2種類以上のフィラーとは、異なる種類のフィラーを2種類以上用いても良いし、同種のフィラーで平均粒径が異なるものを共存して用いても良い。とくに、透明性の観点からは、後者の方がより好ましい。
【0025】
また、本発明の熱伝導性フィラーに加えて、それ以外の熱伝導性フィラーを少量共存して用いることは、本発明の目的を損なわない範囲であれば可能である。この場合の熱伝導性フィラーとしては、例えば、CNT、セルロースナノファイバーや無機系のナノ粒子、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化インジウムスズなどが挙げられる。
【0026】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で熱伝導性フィラー以外のフィラーが含まれていても良い。このようなフィラーとしては、難燃剤、耐衝撃性改善剤、補強剤、耐候性改善剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料、染料等が使用可能である。
【0027】
本発明の樹脂としては、とくに限定はされないが、各種の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂等のゴム系樹脂などを用いることができる。このうち、透明性と耐熱性の観点からシリコーン樹脂が好ましい。また、溶融成形可能な熱可塑性樹脂を使用すると工程が簡素化されるため好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、EVA樹脂、EVOH樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ASA樹脂、AES樹脂、PMMA等のアクリル樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、SBC樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、液晶ポリマー、PPS、PEEK、PPE、ポリサルフォン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。樹脂としては、樹脂単体で透明性が高いものが好ましく、非晶性の樹脂がより好ましい。共重合ポリマーは共重合比を変えることで樹脂の屈折率を調整することができるため好ましく、このような樹脂として、MS樹脂、MBS樹脂、透明ABS樹脂などを挙げることができる。
【0028】
樹脂は1種類を単独で用いても良いし、2種類以上の樹脂を共存して用いても良い。2種類以上の樹脂を共存して用いて、樹脂の屈折率を調整することができる。この場合、2種類以上の樹脂が分子レベルで相溶することが透明性の観点から好ましく、このような組み合わせとして、例えば、PMMA/AS樹脂、PMMA/PVDF、PVC/AS樹脂などが挙げられる。
【0029】
樹脂の屈折率としては、1.4〜1.7の範囲にあることが好ましく、1.4〜1.6の範囲にあることがより好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、フィラーの添加量が5〜95wt%の範囲にあることが好ましい。フィラーの添加量が5wt%を下回ると樹脂組成物の熱伝導率が低くなり、95wt%を上回ると、均一な樹脂組成物が得られにくくなるとともに透明性が低下する。添加量は、10〜90wt%の範囲にあることがより好ましく、30〜90wt%の範囲にあることが更に好ましく、50〜80wt%の範囲にあることがとくに好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に限定はされないが、一軸あるいは多軸の混練機、ラボプラストミル、ニーダーやダイナミックミキサー等のバッチ式ミキサー、ロール混練機等で樹脂とフィラーを所定の配合で混練する方法や、溶媒を用いて、溶解あるいは懸濁した状態で混合する方法等が用いられ、このうち溶媒を用いずに混練機やミキサーで混合する方法が好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形等の成形方法で成形することができ、板状、フィルム状、シート状の他にも各種の3次元形状の成形品とすることができる。また、封止剤、塗料や接着剤のような形態で用いることもできる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はもとよりこれらの例に限定されるものではない。
【0034】
実施例および比較例において、評価は以下のように行った。
(1)熱伝導率
京都電子工業(株)QTM−500にて、うす膜測定用ソフトを用いて熱伝導率を測定した。
(2)全光線透過率
スガ試験機(株)のヘーズメータHZ−2を用いて測定した。
【0035】
[実施例1]
エタノール中で水酸化マグネシウム(平均粒径1μm 熱伝導率8W/mK 屈折率1.56)とテトラエトキシシランを触媒とともに混合した後、室温にて24時間攪拌し、白色のスラリーを得た。溶質をろ取した後、80℃で12時間真空乾燥した後、200℃で30時間真空乾燥し、水酸化マグネシウム(熱伝導性粒子)に酸化Si(屈折率制御層)をコーティングした粒子を得た。SEM観察の結果、屈折率制御層の厚みは0.4μmであった。EDSの結果、屈折率制御層を構成する金属成分Siと熱伝導性粒子を構成する金属成分Mgの原子数濃度比(Si/Mg比)は2.2であった。屈折率制御層の屈折率は1.45であった。
【0036】
[実施例2]
エタノール中で水酸化マグネシウム(平均粒径1μm 熱伝導率8W/mK 屈折率1.56)とテトラエトキシシランおよび塩化アルミニウムを触媒とともに混合した後、室温にて24時間攪拌し、白色のスラリーを得た。溶質をろ取した後、80℃で12時間真空乾燥した後、200℃で30時間真空乾燥し、水酸化マグネシウム(熱伝導性粒子)にSiとAlの複合酸化物(屈折率制御層)をコーティングした粒子を得た。SEM観察の結果、屈折率制御層の厚みは0.2μmであった。EDSの結果、屈折率制御層を構成する金属成分SiとAlの合計と熱伝導性粒子を構成する金属成分Mgの原子数濃度比((Si+Al)/Mg比)は1.3であった。SiとAlの原子数濃度比(Si/Al比)は3であった。屈折率制御層の屈折率は1.53であった。
【0037】
[実施例3]
シリコーン樹脂(2液混合タイプ 硬化後屈折率1.41)50重量部と実施例1で得られた粒子50重量部をダイナミックミキサーで混合した後、プレス成形機を用いて、120℃にてプレス成形を行い、引き続きオーブン中で150℃で4時間加熱し、外形100mmX50mmで厚み0.5mmのシート状の成形品を得た。該成形品を用いて熱伝導率と全光線透過率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例4]
実施例1で得られた粒子の代わりに、実施例2で得られた粒子を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1で得られた粒子の代わりに、屈折率制御層を設ける前の水酸化マグネシウムを用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1で得られた粒子を添加せずに実施例3と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
各実施例と比較例を比較すると、本発明の熱伝導性フィラーを用いた樹脂組成物は、フィラーを用いなかったものよりも熱伝導率が高く、また、屈折率制御層を設けないフィラーを用いたものと比べて熱伝導率は同等で全光線透過率が高くなっており、熱伝導性と透明性を兼ね備えていることがわかった。