【実施例1】
【0025】
本発明に係る鋼矢板の補修構造10は、
図1、
図2に示したように、既設鋼矢板1に被掛止レール2が横方向に設けられている。
前記被掛止レール2に相互に噛合可能な掛止レール3を備えたパネル材4が、その掛止レール3と前記被掛止レール2とが係合された状態で前記既設鋼矢板1に対面配置されている。
前記対面配置された既設鋼矢板1(以下適宜、鋼矢板1と略す。)とパネル材4との間にコンクリート5等の充填材が充填されてなる。
ちなみに、本
参考例に係るパネル材4の高さは、
図2Cが分かりやすいように、鋼矢板1の高さよりも低く設定されている。これは、鋼矢板1の補修は、通常、腐食が集中する干満帯の上面よりも高ければ足りるからである。
【0026】
本発明の実施対象とする鋼矢板1の代表的形態を図
10A〜Cに示すが、本発明は、図
10A〜Cに示すタイプの鋼矢板に限らず、被掛止レール2を固定可能な定着面Xを備えたすべての鋼矢板に対して実施できる。ちなみに一例として、
図1に係る補修構造は、図
10Aタイプの鋼矢板を実施対象とし、後述する
図4に係る補修構造は、図
10Bタイプの鋼矢板を実施対象としている。
【0027】
本
参考例に係る被掛止レール2は、チャンネル鋼が用いられ、これを鋼矢板1に対して水平方向(横方向)に位置決めし、当該鋼矢板1と溶接等の接合手段により一体化されている。
この被掛止レール2は、前記チャンネル鋼の開口部を上向きに設定し、要所で継ぎ足して一連の溝形状レールに形成して実施されている。
前記被掛止レール2は、一例として40×20×2.3(mm)のSS400が用いられているが、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
また、前記被掛止レール2は、鉛直方向に所定の間隔をあけて3段構成で実施しているが、被掛止レール2や掛止レール3の部材剛性、補修面積等に応じて適宜設計変更可能である。ちなみに本
参考例では、鋼矢板1の下端から300mmの部位に最下段レール2を固定し、各レール2、2間は700mmの間隔をあけて固定されている。
なお、本
参考例において、最下段レール2を鋼矢板1の下端から300mmの部位に設定したのは、仮に400mm程度離すと、コンクリート5の充填要領(打設要領)にもよるが、コンクリート5の充填圧(打設圧)によりパネル材4の下端部が変形する虞があり、これを未然に防止するためである。
【0028】
一方、本
参考例に係る掛止レール3は、前記被掛止レール2と一対をなすチャンネル鋼が用いられ、これをパネル材4に対して水平方向に位置決めし、当該パネル材4とリベット6留めやビス留め等の固定手段により一体化されている。
この掛止レール3は、経済性、合理性を考慮して前記被掛止レール2と同一断面形状の鋼材を用い、前記被掛止レール2と互いに噛み合うように開口部を下向きに設定し、要所で継ぎ足して一連の溝形状レールに形成して実施されている。
前記掛止レール3は、前記被掛止レール2に対応する3段構成で実施しているが、もちろん被掛止レール2の配置、数量に応じて適宜設計変更される。
【0029】
本
参考例に係るパネル材4は、キーストンプレートと称される金属製波形軽量パネル材4aが好適に用いられる。このキーストンプレート4aは、大量生産されており部材単価が安く、軽量で作業性がよい利点がある。
本
参考例に係るキーストンプレート4aは、一例として、コンクリート5の充填圧に対して変形しない程度の剛性を備えた、高さ2000mm、幅650mm、有効幅630mm、波高25mm、板厚が1.0mmの市販品を採用している。このキーストンプレート4aは、補修部位に応じて護岸延長方向に一部ラップさせてリベット6留めで連結する手法で、所要の大きさのパネル材4を構成することができる。
ちなみに本
参考例では、市販された1枚のキーストンプレート4aの上下方向に、予め、使用するキーストンプレート4aの幅寸よりは狭い(短い)幅寸600mmの掛止レール3を、前記被掛止レール2と等間隔で上下に3段構成でリベット6留めにより固定してユニット化したものを必要数量用意し、作業の効率化を図っている(
図3参照)。
【0030】
なお、
図3B中の符号7は充填状態確認用の孔を示しているが、当該孔7の作用効果等については段落[0035]で説明する。
本
参考例では、市販のキーストンプレート4aを採用しているが、市販のキーストンプレート4aには、高さ1000〜4000mmのバリエーションがあり、鋼矢板1の補修領域に応じて適宜柔軟に対応することができる。例えば、補修部位の高さ(例えば、干満帯の上面)が高い場合等は、高さに応じて種々のサイズを適宜継ぎ足したり、逆に低い場合は高さ1000mmのキーストンプレートを使用したり、或いは切断加工したりして調整する工夫は適宜行われるところである。
【0031】
前記鋼矢板1とパネル材4とが形成する空間に充填する充填材は、本
参考例ではコンクリート5を用いているがモルタル等の固化材でも同様に実施できる。
【0032】
次に、上記鋼矢板の補修構造を実現するための補修工法について説明する。
先ず、本補修工法に着手する準備段階として、水の切り回し作業、高圧洗浄作業等を必要に応じて行う。
前記準備が整った段階で、既設鋼矢板1に、横方向に延びる被掛止レール2を、前記した所定の部位に溶接(等の接合手段)で接合する位置出し作業を行う。この位置出し作業は、補修領域(補修部位)にわたり、被掛止レール2を適宜継ぎ足して一連に設けると共に、必要な段数(本
参考例では3段)を接合するまで繰り返し行う。
前記位置出し作業と相前後して、又は同時期に、前記パネル材4の設置部位に砕石をひき、底版コンクリートを敷き詰める(図示省略)等のレベル出し作業も行う。
【0033】
次に、前記パネル材4を、その掛止レール3を前記被掛止レール2に噛み合わせて掛け止めることにより既設鋼矢板1に対面するように配置する。本
参考例では、前記したように、予め掛止レール3とキーストンプレート4aとを一体化してなるユニットを用い(
図3参照)、当該ユニットの掛止レール3を被掛止レール2に掛け止める作業をユニットの数量に応じて横方向に繰り返し行うことにより補修領域の鋼矢板1に対面配置させる。そして、当該掛止状態のまま、隣接するキーストンプレート4a、4a同士を一部ラップさせてリベット6留めにより連結する作業を繰り返し行うことによりパネル材4を形成する。本実施例に適用可能な1枚のキーストンプレート4aの大きさは、幅650×高さ1000〜4000mmと広いので、補修領域における鋼矢板1の全面を単純な掛け止め作業で速やかに覆うことができる。
かくして、前記パネル材4は、前記底版コンクートの上面に鉛直方向に起立する安定した姿勢を保持しつつ、鋼矢板1にパネル材4自体の荷重を負荷させることなく、その掛止レール3を被掛止レール2に単に掛け留めた状態で、護岸延長方向に沿って隙間なく連続する構成を実現する。
【0034】
しかる後、前記パネル材4の両端部と補修領域の鋼矢板1との間に形成される空隙部を閉塞する型枠(図示省略)を設置することにより、前後左右の側面部は、鋼矢板1とパネル材4と左右の型枠とで閉塞され、底面部は前記底版コンクートで閉塞された空間内に上方からコンクリート5を充填(打設)し、当該空間内をコンクリート5で充填(通常は充満)させた後に養生し、もって、鋼矢板の補修構造を構築する。
なお、前記コンクリート5の充填作業は、パネル材4の下端部が充填圧で変形し、コンクリート5が漏れる防止や未充填部を設けないように充填量、充填速度を適宜調整しながら行う。
【0035】
前記した未充填部を設けないための工夫として、本
参考例では、パネル材4(キーストンプレート4a)の要所に前記充填状態確認用の孔7を穿設している。すなわち、前記充填材5の充填作業に先行して、前記パネル材4における充填不良を生じ易い部位の対応する位置に充填状態確認用の孔7を設けておく。当該孔7から充填材5が漏出されたことを作業員が目視で確認することにより、充填不良を生じ易い部位にも充填材5が確実に充填されていることが分かる。この孔7は、リベット6留めの際に用いるドリル等によって穿設され、充填材5が充填されたことを作業員が目視で確認した後はリベット6等で閉塞される。
なお、前記充填状態確認用の孔7の穿設部位(前記充填不良を生じ易い部位)は、充填口(充填ホース)から距離が離れている区域(の特には上部)、充填材5が回り込みにくいレール材(被掛止レール2、掛止レール3)の直下部、或いはパネル材4で補修する領域の四隅部等を指す。
前記充填状態確認用の孔7の大きさは、コンクリート流出が多くなることを防ぎながら充填状況を確認できる大きさ、具体的には、砂やセメントミルクの漏出(排出)は可能とするが、礫は目詰まりを生じやすい径(φ)3〜10mmに設定されている。本出願人が行った確認試験では、径(φ)が5mmのときに最も良好な結果が得られた。
また、前記充填状態確認用の孔7の穿設時期は、補修領域における鋼矢板1に対しパネル材4を対面配置に設置した後に穿設してもよいし、
図3Bに示すように、予めキーストンプレート4aに穿設しておいてもよい。
【0036】
次に、上述した鋼矢板の補修工法および補修構造のバリエーションについて説明する。
【0037】
前記キーストンプレート4aに代えて、平板状の軽量パネル材で実施する場合も上述した補修工法と同様の工程を経て鋼矢板の補修構造を構築することができ
る。
【0038】
前記鋼矢板1の外面が背面側の地盤の土圧作用により倒れ込み(前傾)等して変形している場合は、上位側(最上位)に設ける被掛止レール2及び/又は掛止レール3の幅寸(突き出し寸法)を下位側に設けるそれらよりも短く設定することにより容易に対応できる。
【0039】
図4に示すように、設計上、鋼矢板11(図
10Bタイプ)が護岸延長方向に沿って湾曲(カーブ)している場合は、被掛止レール2の設置部位、幅寸(変位裕度)、又は長さ、掛止レール3の設置部位、幅寸(変位裕度)、長さ、および隣接するキーストンプレート4a、4a同士の連結位置等をシミュレーション解析等に基づき適宜調整し、容易かつ確実に鋼矢板11の湾曲形状に沿って追従可能な補修構造を実現できる(
図4B参照)。
【0040】
図1〜
図4に係る
参考例は、被掛止レール2と掛止レール3とを共に同形同大の断面コ字形のチャンネル鋼(C形鋼)を用いて実施しているが、これに限定されず、
図5A〜Hに例示したように、例えばリップ付きチャンネル鋼、Z形鋼、異形チャンネル鋼、又はH形鋼を適宜組み合わせて互いに噛合可能な構成で実施することもできる。
【0041】
図1〜
図4に係る
参考例は、被掛止レール2と掛止レール3とを共にレール状で実施しているが、これに限定されず、
図6には、被掛止レール2の代わりに短尺の被掛止部材12を用いた実施例、
図7には、掛止レール3の代わりに差し込み部を有する短尺の掛止部材13を用いた実施例を示したように、少なくとも一方がレール状であればよい(掛止状態は、
図6、
図7のほか、
図2Cを援用して参照)。上述したように、前記パネル材4は、鋼矢板1にパネル材4自体の荷重を負荷させる構造ではなく、単に掛け留める構成で実施されるので、短尺化した被掛止部材12や掛止部材13であっても、強度上何ら問題もなく十分に実施できる。
この短尺化した被掛止部材12や掛止部材13は、図示例のほか、前記被掛止レール2や掛止レール13と併用することにより、前記鋼矢板11が護岸延長方向に沿って湾曲(カーブ)している場合に特に効果的に適用できる利点がある。
また、被掛止部材12、掛止部材13は、断面コ字形のチャンネル鋼に限らず、前記したように、相手材(被掛止レール2、掛止レール3)に対して互いに噛合可能な、断面Z字形、断面H字形等の鋼材でも同様に実施することができる。(
図5を援用して参照)。
[実施例1]