【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体が設置された状態で、前記構造躯体側に埋設された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部が前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させられ、前記雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記天板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記天板方向に締め付けられているようにした。
また、手段2として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体が設置された状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に支持された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部が前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させられ、前記雄ネジ部の下端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記天板の間に筒体が配置され、前記棒状金具がネジ作用によって上動させられることで前記ヘッド部によって前記筒体が前記天板方向に締め付けられているようにした。
これらのような木造建築物の構造躯体の接合構造であれば、柱脚用金具と構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した場合に棒状金具が構造躯体とともに上動し、棒状金具の上動に伴い筒体が、雌ネジ部材又はヘッド部と天板との間で例えば圧縮される。そこで、筒体以外の接合金具等が損傷するよりも低い引っ張り力で筒体が塑性座屈すること(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)によって、筒体以外の接合金具等に損傷が生じないようにすることができる。言い換えれば、引っ張りのエネルギーが筒体を圧縮して塑性変形等させるエネルギーとして消費されることとなる。これによって筒体以外の接合金具等の部材(金具類)を降伏させたり破壊させたりせず、靱性を確保することができる。また、このように筒体のみを塑性座屈させることで、筒体を含めた接合金具等(金具類)全体の見かけの靱性を確保することができ、構造躯体も破壊させずに強度と靱性を確保することができる。
更に、筒体を塑性座屈して、筒体が完全に板状に密着する(つぶれていわゆるペシャンコ状態になる)まで耐力は低下せず塑性変形できるため、短い筒体長さに対して大きな塑性変形(縮み)が実現でき、剛性の低下は少ない。
このように筒体を配置することによって、例えば材質、径、肉厚、材長等の形状要素の少なくとも1つ以上を変更要素として靱性を制御することができる。構造躯体側の接合金具に引っ張り力が作用する場合、筒体には引っ張り力が圧縮力に変換されて作用することとなる。その時、筒体は、圧縮力によって塑性座屈が生じるように性能を定めることがよい。つまり、筒体を所定の性能に設計することで靱性の制御が可能である。筒体の性能としては、例えば筒体の塑性座屈耐力が接合構造を構成している他の接合具が損傷しないように設定して、塑性変形による縮み量によって、見かけの接合構造の伸び量を確保することにより、大地震時に必要とされる接合構造の要求性能を満たすように設定することがよい。
手段1では棒状金具の雄ネジ部に螺着された雌ネジ部材がネジ作用による軸方向移動、つまり雌ネジ部材を回転させて棒状金具の軸方向に沿って移動させることで、筒体が天板方向に押圧されるように締め付けている。このような構成であれば構造躯体を柱脚用金具の上に設置してから天板の下方に突出させられた棒状金具に筒体を嵌挿させることが可能となる。
手段2では棒状金具を回転させることによって棒状金具自身がネジ作用によって上動することにより筒体が天板方向に押圧されるように締め付けている。つまり、構造躯体を柱脚用金具の上に設置してから天板の下方から棒状金具を連結させるようにするが、その連結の際に棒状金具に筒体を嵌挿させることとなる。手段2では別途雌ネジ部材を用意する必要がない。
【0006】
ここに「構造躯体」とは、木造建築物を建築する際の骨組み(架構を構成する部材)にあたる部分であって、例えば壁、柱、横架材(梁、桁等)、土台、母屋等を広くいう。また、ムク材でも集成材、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)と称される直交集成板であってもよい。
また、「棒状金具」は、外周の下端寄り(あるいは先端寄り)に雄ネジ部が形成されていれば特に外見の形状は限定されない。手段1ではヘッド部がなく、手段2ではヘッド部のある棒状金具となる。全長に渡って雄ネジ部が形成されていても、一部のみに雄ネジ部が形成されていてもよい。また、雄ネジ部が形成されていない部分の断面形状が円形でなくともよい。「棒状金具」は天板に形成された透孔から天板の下方に突出させられることから、少なくとも天板の下方位置には空間領域が形成されることとなる。棒状金具が構造躯体側に埋設される場合とは、ラグスクリューボルトや通常のボルトが構造躯体との間でネジ関係で食い込んで保持されるだけでなく、構造躯体側に形成された挿入孔内に棒状金具が挿入されて接着剤、合成樹脂等を介在させて保持される場合も含む。
「雌ネジ部材」は、例えばナット部材が挙げられる。雌ネジ部材は棒状金具の雄ネジ部と螺合可能であれば形状は問わない。
「筒体」は、上下に連通したリング状に構成された壁部からなる建築要素であって、木造建築物において圧縮力を受けた際に十分耐力を有する素材であれば材質は問わない。また、あらゆる方向の加重に対してなるべく偏りなく均等に応力が発生するように円筒形状であることがよい。円筒形は真円形状の円筒形であることがよいが、楕円でもよい。また、角形管であってもよい。また、筒体を構成する壁部は応力の偏りをなくすために継ぎ目がないことがよい。また、材質は、金属、セラミック等が一例として挙げられる。
これら用語の定義は以下の各手段でも同様である。
【0007】
また、手段3として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されているようにした。
つまり、棒状金具は接続金具と別体であって、両者を組み合わせて使用するようにしたものである。これによって、前もって木質系構造躯体内に接続金具を埋設することで、棒状金具を簡単に取り付けることが可能となる。また、例えば構造躯体を柱脚用金具の天板上に設置した棒状金具だけを後で後付けで取り付けることも可能となる。
また、手段4として、前記接続金具は前記天板上に同天板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記天板を連通して前記雄ネジ部が前記天板の下方に突出させられているようにした。
このように天板の上に接続金具側の板部を重ねることで、上方への引っ張り力に対する降伏応力を天板だけでなく接続金具側の板部でも担保することができるようになり、筒体が塑性変形するような靱性の制御を接続金具側の板部の厚さを変更することで行うことができる。
また、手段5として、前記柱脚用金具は前記基礎に埋設されたアンカーボルトによって固定されており、前記柱脚用金具は底板を介して前記基礎上に載置され、前記底板に形成された透孔から前記アンカーボルトが前記底板上方に突出され、前記アンカーボルトの雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記底板の間に第2の筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記第2の筒体が前記底板方向に締め付けられているようにした。
このように、柱脚用金具と基礎との間に強い引っ張り力が作用した場合に柱脚用金具が構造躯体とともに上動し、柱脚用金具の上動に伴い筒体が雌ネジ部材と底板との間で、例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。この手段では上記手段1〜4とともに、つまり2つの筒体の協働によって効果が担保される。2つの筒体の強度は一緒でもよく、異なっていてもよい。
【0008】
また、手段6として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、 前記柱脚用金具は底板を介して前記基礎上に載置され、前記底板に形成された透孔から前記基礎に埋設されたアンカーボルトが前記底板上方に突出され、前記アンカーボルトの雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記底板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記底板方向に締め付けられているようにした。
このように、柱脚用金具と基礎との間に強い引っ張り力が作用した場合に柱脚用金具が構造躯体とともに上動し、柱脚用金具の上動に伴い筒体が雌ネジ部材と底板との間で、例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。この手段ではアンカーボルトに装着された1つの筒体だけで効果が担保されてもよい。
【0009】
また、手段7として、柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱部材側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に連結された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、前記雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記側部当接板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられているようにした。
また、手段8として、柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に配設された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、前記雄ネジ部の先端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記側部当接板の間に筒体が配置され、前記棒状金具がネジ作用によって前記側部当接板方向に進出させられることで前記ヘッド部によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられているようにした。
これらのような木造建築物の構造躯体の接合構造であれば、柱部材と横架材又は斜材との間に強い引っ張り力や曲げ力が作用した場合に棒状金具が構造躯体とともに移動し、棒状金具の移動に伴い筒体が、雌ネジ部材又はヘッド部と側部当接板との間で例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。言い換えれば、引っ張りのエネルギーが筒体を圧縮して塑性変形等させるエネルギーとして消費されることとなる。これによって筒体以外の部材を破壊させたり座屈させたりせず、靱性を確保することができる。また、このように筒体以外の接合金具等の部材の靱性を確保することで構造躯体も破壊させずに強度を確保することができる。
このように筒体を配置することによって、例えば材質、径、肉厚、材長等の形状要素の少なくとも1つを変更要素として靱性を制御することができる。ここで靱性の制御とは、構造躯体側の接合金具の降伏応力や、構造躯体が金具によって破壊されることに対する耐力等と比べて小さい力でかつ所定の圧縮力以上の力で筒体が圧縮されて塑性変形等することが求められるため、そのような関係となるように筒体の形状を決定することである。
「金属製の側部当接板」は金属製の側部当接板自体が柱脚用金具の一部である場合や、別体で構成された側部当接板を柱脚用金具に装着するようにしてもどちらでもよい。
手段
7では棒状金具の雄ネジ部に螺着された雌ネジ部材がネジ作用による軸方向移動、つまり雌ネジ部材を回転させることで棒状金具の軸方向に沿って移動させることで、筒体が側部当接板方向に押圧されるように締め付けている。このような構成であれば木質系構造躯体(横架材又は斜材)を側部当接板に当接させてから側部当接板の裏面側に突出させられた棒状金具に筒体を嵌挿させることが可能となる。
手段
8では棒状金具を回転させることによって棒状金具自身がネジ作用によって進出(移動)
して筒体が
ヘッド部によって天板方向に押圧されるように締め付けている。つまり、木質系構造躯体(横架材又は斜材)を側部当接板に当接させてから側部当接板の裏面側から棒状金具を連結させるようにするが、その際に棒状金具に筒体を嵌挿させることとなる。手段
8では別途雌ネジ部材を用意する必要がない。
【0010】
また手段9として、前記柱部材は鉄骨製又はコンクリート製であるようにした。
鉄骨製又はコンクリート製の柱部材は頑丈であるため横方向の引っ張り力が作用した際に、木質系構造躯体である横架材又は斜材との関係で柱部材が破壊されることがなく、横架材又は斜材側の強度のみを計算すればよいこととなる。柱部材が鉄骨製であれば、例えばH鋼やL鋼やチャンネル鋼のような型鋼の側面をそのまま側部当接板とすることが可能であり、本発明の構造躯体の接合構造を実現することが容易である。コンクリート製であっても外周に側部当接板を堅固に配置することが可能である。
また、手段10として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されているようにした。
つまり、棒状金具は接続金具と別体であって、両者を組み合わせて使用するようにしたものである。これによって、前もって木質系構造躯体内に接続金具を埋設することで、棒状金具を簡単に取り付けることが可能となる。また、例えば構造躯体を柱脚用金具の天板上に設置した棒状金具だけを後付けで取り付けることも可能となる。
また、手段11として、前記接続金具は前記側部当接板に同側部当接板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記側部当接板を連通して前記雄ネジ部が前記側部当接板の裏面側に突出させられているようにした。
このように側部当接板に接続金具側の板部を重ねることで、引っ張り力に対する降伏応力を側部当接板だけでなく接続金具側の板部でも担保することができるようになり、筒体が塑性変形するような靱性の制御を接続金具側の板部の厚さを変更することで行うことができる。
【0011】
また、手段12として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設されているようにした。
棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設することは、コストや作業上好ましい。
また、手段13として、前記棒状金具は外周に形成されたラグスクリュー部によって前記木質系構造躯体に食い込んで埋設されているようにした。
このような棒状金具であれば、構造躯体にラグスクリュー部によって食い込み状に螺着されることとなり、引っ張り力(引き抜き力)に対して他の接合金具がなくとも固定可能である。
また手段14として、前記雌ネジ部材と前記筒体の間にはワッシャが介在されているようにした。
また手段15として、前記ヘッド部と前記筒体の間にはワッシャが介在されているようにした。
このようなワッシャによって筒体に作用する圧縮力(又は荷重)が平均化される。
また手段16として、前記筒体は金属製であるようにした。
筒体が金属製であると、圧縮されることで破壊せずに降伏して座屈されてその位置に留まらせることができる。
また、手段1〜16のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造を備えた木造建築物を構築するようにした。木造建築物は特にCLTを床材や壁材として使用した多層階の木造建築物を構築することがよい。