特許第6860412号(P6860412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860412木造建築物の構造躯体の接合方法、接合構造及び木造建築物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860412
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】木造建築物の構造躯体の接合方法、接合構造及び木造建築物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/26 20060101AFI20210405BHJP
   E04B 1/30 20060101ALI20210405BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20210405BHJP
   E04B 1/61 20060101ALI20210405BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   E04B1/26 E
   E04B1/26 G
   E04B1/30 Z
   E04B1/58 508T
   E04B1/58 508Z
   E04B1/58 508L
   E04B1/58 511L
   E04B1/61 506A
   E04H9/02 351
【請求項の数】22
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-93633(P2017-93633)
(22)【出願日】2017年5月10日
(65)【公開番号】特開2018-188902(P2018-188902A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】397048287
【氏名又は名称】株式会社エヌ・シー・エヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】村上 雅英
(72)【発明者】
【氏名】小谷 竜城
(72)【発明者】
【氏名】藤代 東
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋路
【審査官】 桐山 愛世
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−113780(JP,A)
【文献】 特開2001−303585(JP,A)
【文献】 特開平03−183873(JP,A)
【文献】 特開2014−185497(JP,A)
【文献】 特開2000−064426(JP,A)
【文献】 特開2013−068081(JP,A)
【文献】 特開2017−020211(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0304587(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04B 1/30
E04B 1/58
E04B 1/61
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置された構造を有する木造建築物において、前記柱脚用金具と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した際のエネルギーを消費させる木造建築物の構造躯体の接合方法であって、
前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体を設置した状態で、前記構造躯体側に埋設された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部を前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させ、
前記雄ネジ部外周に雌ネジ部材を軸方向に移動可能に螺着し、前記雌ネジ部材と前記天板の間に筒体を配置し、前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体を前記天板方向に締め付けるようにし、
前記柱脚用金具と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用して前記棒状金具が前記柱脚用金具に対して上動した際に前記筒体を塑性変形させることで引っ張り力のエネルギーを消費させるようにしたことを特徴とする木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項2】
基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置された構造を有する木造建築物において、前記柱脚用金具と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した際のエネルギーを消費させる木造建築物の構造躯体の接合方法であって、
前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体を設置した状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に支持された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部を前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させ、
前記雄ネジ部の下端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記天板の間に筒体を配置し、前記棒状金具がネジ作用によって上動させられることで前記ヘッド部によって前記筒体を前記天板方向に締め付けるようにし、
前記柱脚用金具と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用して前記棒状金具が前記柱脚用金具に対して上動した際に前記筒体を塑性変形させることで引っ張り力のエネルギーを消費させるようにしたことを特徴とする木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項3】
前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項4】
前記接続金具は前記天板上に同天板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記天板を連通して前記雄ネジ部が前記天板の下方に突出させられていることを特徴とする請求項3に記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項5】
前記柱脚用金具は前記基礎に埋設されたアンカーボルトによって固定されており、
前記柱脚用金具は底板を介して前記基礎上に載置され、前記底板に形成された透孔から前記アンカーボルトが前記底板上方に突出され、
前記アンカーボルトの雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記底板の間に第2の筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記第2の筒体が前記底板方向に締め付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項6】
2つの木質系構造躯体同士が接合される木造建築物の構造躯体の接合構造において、
一方の前記木質系構造躯体側の金属製の側部当接板に他方の前記木質系構造躯体が当接させられた状態で、他方の前記木質系構造躯体側に設けられた棒状金具の先端側が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられるとともに、前記側部当接板の裏面側には筒体が配置させられ、
他方の前記木質系構造躯体は前記棒状金具外周に螺着された雌ネジ又は前記棒状金具と一体的に形成されたヘッド部によって前記筒体もろとも前記側部当接板方向に締め付け固定されており、
前記側部当接板と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した際に、前記棒状金具が前記構造躯体とともに移動して前記筒体を塑性変形させることで引っ張り力のエネルギーを消費させることを特徴とする木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項7】
柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、
前記柱部材側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に連結された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、
前記雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記側部当接板の間に筒体が配置させられた状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられており、
前記側部当接板と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した際に、前記棒状金具が前記構造躯体とともに移動して前記筒体を塑性変形させることで引っ張り力のエネルギーを消費させることを特徴とする木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項8】
柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、
前記柱部材側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に配設された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、
前記雄ネジ部の先端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記側部当接板の間に筒体が配置させられ、前記棒状金具がネジ作用によって前記側部当接板方向に進出させられることで前記ヘッド部によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられており、
前記側部当接板と前記構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した際に、前記棒状金具が前記構造躯体とともに移動して前記筒体を塑性変形させることで引っ張り力のエネルギーを消費させることを特徴とする木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項9】
前記柱部材は鉄骨製又はコンクリート製であることを特徴とする請求項7に記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項10】
前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されていることを特徴とする請求項7又はに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項11】
前記接続金具は前記側部当接板に同側部当接板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記側部当接板を連通して前記雄ネジ部が前記側部当接板の裏面側に突出させられていることを特徴とする請求項10に記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項12】
前記棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設されていることを特徴とする請求項〜8のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項13】
前記棒状金具は外周に形成されたラグスクリュー部によって前記木質系構造躯体に食い込んで埋設されていることを特徴とする請求項12に記載の接合金具。
【請求項14】
前記雌ネジ部材と前記筒体の間にはワッシャが介在されていることを特徴とする請求項7に記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項15】
前記ヘッド部と前記筒体の間にはワッシャが介在されていることを特徴とする請求項8に記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項16】
前記筒体は金属製であることを特徴とする請求項6〜15のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造。
【請求項17】
請求項6〜15のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造を備えた木造建築物。
【請求項18】
前記棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項19】
前記雌ネジ部材と前記筒体の間にワッシャを介在させたことを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項20】
前記ヘッド部と前記筒体の間にワッシャを介在させたことを特徴とする請求項2に記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項21】
前記筒体は金属製であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合方法。
【請求項22】
請求項1〜6のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合方法によって構築された木造建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造建築物の構造躯体の接合方法、接合構造及び木造建築物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から木造建築物の構造躯体を連結固定するため、構造躯体の接合面に接合金具を配置することが行われている。
このような接合構造が開示された文献として特許文献1及び2を示す。特許文献1では構造躯体としての梁11の上に同じく構造躯体としての管柱12を連結するために接合金具としてのT字金具13を配置した接合構造が開示されている。また、例えば特許文献2では構造躯体としての土台25の上に同じく構造躯体としての管柱26を連結するために金具片11を組み立てた接合金具を配置した接合構造が開示されている。これら特許文献1及び2のような接合金具を用いた接合構造では、接合金具を使用しない構造に比べて段違いな接合強度で構造躯体を接合することができる。
ところで、木造建築物に非常に大きな引っ張り力が作用した際に、その力が直接構造躯体に伝達されると、変形能力が乏しい接合構造では構造躯体が脆性となってしまう。高い靭性能力を有する接合構造(接合金具)の一例として特許文献3を挙げる。特許文献3では例えば図6に示すように、柱部材2と接合部材1を使用してRC材9に固定するようにしている。接合部材1には変形部10が設けられているため、強い引っ張り力に対して断面積の小さい変形部10の部分が塑性変形して伸びることで変形能力を確保して、結果として接合部材1の靱性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−64426号公報
【特許文献2】特開2003−56075号公報
【特許文献3】特開2008−280786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この特許文献3のような構成では、一旦引っ張り力が作用して変形部10が伸びてしまった場合には、接合部材1を容易に交換することができない。また、大きな変形能力を確保するためには、変形部10の部分を長くする必要があり、剛性が低下する。さらに、引っ張り降伏で変形能力を確保する場合、想定外の外力が作用すると変形部10で破断する可能性もある。そのため、上述した課題を解決できる木造建築物の構造躯体の接合方法、接合構造及び木造建築物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、手段1として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体が設置された状態で、前記構造躯体側に埋設された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部が前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させられ、前記雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記天板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記天板方向に締め付けられているようにした。
また、手段2として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具の天板上に前記構造躯体が設置された状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に支持された棒状金具の少なくとも下端寄りに形成された雄ネジ部が前記天板に形成された透孔から前記天板の下方に突出させられ、前記雄ネジ部の下端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記天板の間に筒体が配置され、前記棒状金具がネジ作用によって上動させられることで前記ヘッド部によって前記筒体が前記天板方向に締め付けられているようにした。
これらのような木造建築物の構造躯体の接合構造であれば、柱脚用金具と構造躯体との間に強い引っ張り力が作用した場合に棒状金具が構造躯体とともに上動し、棒状金具の上動に伴い筒体が、雌ネジ部材又はヘッド部と天板との間で例えば圧縮される。そこで、筒体以外の接合金具等が損傷するよりも低い引っ張り力で筒体が塑性座屈すること(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)によって、筒体以外の接合金具等に損傷が生じないようにすることができる。言い換えれば、引っ張りのエネルギーが筒体を圧縮して塑性変形等させるエネルギーとして消費されることとなる。これによって筒体以外の接合金具等の部材(金具類)を降伏させたり破壊させたりせず、靱性を確保することができる。また、このように筒体のみを塑性座屈させることで、筒体を含めた接合金具等(金具類)全体の見かけの靱性を確保することができ、構造躯体も破壊させずに強度と靱性を確保することができる。
更に、筒体を塑性座屈して、筒体が完全に板状に密着する(つぶれていわゆるペシャンコ状態になる)まで耐力は低下せず塑性変形できるため、短い筒体長さに対して大きな塑性変形(縮み)が実現でき、剛性の低下は少ない。
このように筒体を配置することによって、例えば材質、径、肉厚、材長等の形状要素の少なくとも1つ以上を変更要素として靱性を制御することができる。構造躯体側の接合金具に引っ張り力が作用する場合、筒体には引っ張り力が圧縮力に変換されて作用することとなる。その時、筒体は、圧縮力によって塑性座屈が生じるように性能を定めることがよい。つまり、筒体を所定の性能に設計することで靱性の制御が可能である。筒体の性能としては、例えば筒体の塑性座屈耐力が接合構造を構成している他の接合具が損傷しないように設定して、塑性変形による縮み量によって、見かけの接合構造の伸び量を確保することにより、大地震時に必要とされる接合構造の要求性能を満たすように設定することがよい。
手段1では棒状金具の雄ネジ部に螺着された雌ネジ部材がネジ作用による軸方向移動、つまり雌ネジ部材を回転させて棒状金具の軸方向に沿って移動させることで、筒体が天板方向に押圧されるように締め付けている。このような構成であれば構造躯体を柱脚用金具の上に設置してから天板の下方に突出させられた棒状金具に筒体を嵌挿させることが可能となる。
手段2では棒状金具を回転させることによって棒状金具自身がネジ作用によって上動することにより筒体が天板方向に押圧されるように締め付けている。つまり、構造躯体を柱脚用金具の上に設置してから天板の下方から棒状金具を連結させるようにするが、その連結の際に棒状金具に筒体を嵌挿させることとなる。手段2では別途雌ネジ部材を用意する必要がない。
【0006】
ここに「構造躯体」とは、木造建築物を建築する際の骨組み(架構を構成する部材)にあたる部分であって、例えば壁、柱、横架材(梁、桁等)、土台、母屋等を広くいう。また、ムク材でも集成材、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)と称される直交集成板であってもよい。
また、「棒状金具」は、外周の下端寄り(あるいは先端寄り)に雄ネジ部が形成されていれば特に外見の形状は限定されない。手段1ではヘッド部がなく、手段2ではヘッド部のある棒状金具となる。全長に渡って雄ネジ部が形成されていても、一部のみに雄ネジ部が形成されていてもよい。また、雄ネジ部が形成されていない部分の断面形状が円形でなくともよい。「棒状金具」は天板に形成された透孔から天板の下方に突出させられることから、少なくとも天板の下方位置には空間領域が形成されることとなる。棒状金具が構造躯体側に埋設される場合とは、ラグスクリューボルトや通常のボルトが構造躯体との間でネジ関係で食い込んで保持されるだけでなく、構造躯体側に形成された挿入孔内に棒状金具が挿入されて接着剤、合成樹脂等を介在させて保持される場合も含む。
「雌ネジ部材」は、例えばナット部材が挙げられる。雌ネジ部材は棒状金具の雄ネジ部と螺合可能であれば形状は問わない。
「筒体」は、上下に連通したリング状に構成された壁部からなる建築要素であって、木造建築物において圧縮力を受けた際に十分耐力を有する素材であれば材質は問わない。また、あらゆる方向の加重に対してなるべく偏りなく均等に応力が発生するように円筒形状であることがよい。円筒形は真円形状の円筒形であることがよいが、楕円でもよい。また、角形管であってもよい。また、筒体を構成する壁部は応力の偏りをなくすために継ぎ目がないことがよい。また、材質は、金属、セラミック等が一例として挙げられる。
これら用語の定義は以下の各手段でも同様である。
【0007】
また、手段3として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されているようにした。
つまり、棒状金具は接続金具と別体であって、両者を組み合わせて使用するようにしたものである。これによって、前もって木質系構造躯体内に接続金具を埋設することで、棒状金具を簡単に取り付けることが可能となる。また、例えば構造躯体を柱脚用金具の天板上に設置した棒状金具だけを後で後付けで取り付けることも可能となる。
また、手段4として、前記接続金具は前記天板上に同天板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記天板を連通して前記雄ネジ部が前記天板の下方に突出させられているようにした。
このように天板の上に接続金具側の板部を重ねることで、上方への引っ張り力に対する降伏応力を天板だけでなく接続金具側の板部でも担保することができるようになり、筒体が塑性変形するような靱性の制御を接続金具側の板部の厚さを変更することで行うことができる。
また、手段5として、前記柱脚用金具は前記基礎に埋設されたアンカーボルトによって固定されており、前記柱脚用金具は底板を介して前記基礎上に載置され、前記底板に形成された透孔から前記アンカーボルトが前記底板上方に突出され、前記アンカーボルトの雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記底板の間に第2の筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記第2の筒体が前記底板方向に締め付けられているようにした。
このように、柱脚用金具と基礎との間に強い引っ張り力が作用した場合に柱脚用金具が構造躯体とともに上動し、柱脚用金具の上動に伴い筒体が雌ネジ部材と底板との間で、例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。この手段では上記手段1〜4とともに、つまり2つの筒体の協働によって効果が担保される。2つの筒体の強度は一緒でもよく、異なっていてもよい。
【0008】
また、手段6として、基礎に固定された柱脚用金具の上に構造躯体が設置されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、 前記柱脚用金具は底板を介して前記基礎上に載置され、前記底板に形成された透孔から前記基礎に埋設されたアンカーボルトが前記底板上方に突出され、前記アンカーボルトの雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記底板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記底板方向に締め付けられているようにした。
このように、柱脚用金具と基礎との間に強い引っ張り力が作用した場合に柱脚用金具が構造躯体とともに上動し、柱脚用金具の上動に伴い筒体が雌ネジ部材と底板との間で、例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。この手段ではアンカーボルトに装着された1つの筒体だけで効果が担保されてもよい。
【0009】
また、手段7として、柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱部材側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に連結された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、前記雄ネジ部外周には雌ネジ部材が軸方向に移動可能に螺着され、前記雌ネジ部材と前記側部当接板の間に筒体が配置された状態で前記雌ネジ部材のネジ作用による軸方向移動によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられているようにした。
また、手段8として、柱部材に横架材又は斜材からなる木質系構造躯体が支持されている木造建築物の構造躯体の接合構造において、前記柱脚用金具側の金属製の側部当接板に前記構造躯体が当接させられた状態で、前記構造躯体側に軸方向に移動可能に配設された棒状金具の少なくとも先端寄りに形成された雄ネジ部が前記側部当接板に形成された透孔から前記側部当接板の裏面側に突出させられ、前記雄ネジ部の先端側にはヘッド部が一体的に形成され、前記ヘッド部と前記側部当接板の間に筒体が配置され、前記棒状金具がネジ作用によって前記側部当接板方向に進出させられることで前記ヘッド部によって前記筒体が前記側部当接板方向に締め付けられているようにした。
これらのような木造建築物の構造躯体の接合構造であれば、柱部材と横架材又は斜材との間に強い引っ張り力や曲げ力が作用した場合に棒状金具が構造躯体とともに移動し、棒状金具の移動に伴い筒体が、雌ネジ部材又はヘッド部と側部当接板との間で例えば圧縮されて座屈したり(つまり永久ひずみが残って塑性変形すること)破壊されたりすることによって筒体を含めた接合金具等の部材(金具類)の全体のみかけの変形能力を確保することができる。言い換えれば、引っ張りのエネルギーが筒体を圧縮して塑性変形等させるエネルギーとして消費されることとなる。これによって筒体以外の部材を破壊させたり座屈させたりせず、靱性を確保することができる。また、このように筒体以外の接合金具等の部材の靱性を確保することで構造躯体も破壊させずに強度を確保することができる。
このように筒体を配置することによって、例えば材質、径、肉厚、材長等の形状要素の少なくとも1つを変更要素として靱性を制御することができる。ここで靱性の制御とは、構造躯体側の接合金具の降伏応力や、構造躯体が金具によって破壊されることに対する耐力等と比べて小さい力でかつ所定の圧縮力以上の力で筒体が圧縮されて塑性変形等することが求められるため、そのような関係となるように筒体の形状を決定することである。
「金属製の側部当接板」は金属製の側部当接板自体が柱脚用金具の一部である場合や、別体で構成された側部当接板を柱脚用金具に装着するようにしてもどちらでもよい。
手段では棒状金具の雄ネジ部に螺着された雌ネジ部材がネジ作用による軸方向移動、つまり雌ネジ部材を回転させることで棒状金具の軸方向に沿って移動させることで、筒体が側部当接板方向に押圧されるように締め付けている。このような構成であれば木質系構造躯体(横架材又は斜材)を側部当接板に当接させてから側部当接板の裏面側に突出させられた棒状金具に筒体を嵌挿させることが可能となる。
手段では棒状金具を回転させることによって棒状金具自身がネジ作用によって進出(移動)て筒体がヘッド部によって天板方向に押圧されるように締め付けている。つまり、木質系構造躯体(横架材又は斜材)を側部当接板に当接させてから側部当接板の裏面側から棒状金具を連結させるようにするが、その際に棒状金具に筒体を嵌挿させることとなる。手段では別途雌ネジ部材を用意する必要がない。
【0010】
また手段9として、前記柱部材は鉄骨製又はコンクリート製であるようにした。
鉄骨製又はコンクリート製の柱部材は頑丈であるため横方向の引っ張り力が作用した際に、木質系構造躯体である横架材又は斜材との関係で柱部材が破壊されることがなく、横架材又は斜材側の強度のみを計算すればよいこととなる。柱部材が鉄骨製であれば、例えばH鋼やL鋼やチャンネル鋼のような型鋼の側面をそのまま側部当接板とすることが可能であり、本発明の構造躯体の接合構造を実現することが容易である。コンクリート製であっても外周に側部当接板を堅固に配置することが可能である。
また、手段10として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に埋設されている接続金具と連結されているようにした。
つまり、棒状金具は接続金具と別体であって、両者を組み合わせて使用するようにしたものである。これによって、前もって木質系構造躯体内に接続金具を埋設することで、棒状金具を簡単に取り付けることが可能となる。また、例えば構造躯体を柱脚用金具の天板上に設置した棒状金具だけを後付けで取り付けることも可能となる。
また、手段11として、前記接続金具は前記側部当接板に同側部当接板に対して重複状に載置される板部を有し、前記棒状金具は前記板部と前記側部当接板を連通して前記雄ネジ部が前記側部当接板の裏面側に突出させられているようにした。
このように側部当接板に接続金具側の板部を重ねることで、引っ張り力に対する降伏応力を側部当接板だけでなく接続金具側の板部でも担保することができるようになり、筒体が塑性変形するような靱性の制御を接続金具側の板部の厚さを変更することで行うことができる。
【0011】
また、手段12として、前記棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設されているようにした。
棒状金具は木質系構造躯体内に直接埋設することは、コストや作業上好ましい。
また、手段13として、前記棒状金具は外周に形成されたラグスクリュー部によって前記木質系構造躯体に食い込んで埋設されているようにした。
このような棒状金具であれば、構造躯体にラグスクリュー部によって食い込み状に螺着されることとなり、引っ張り力(引き抜き力)に対して他の接合金具がなくとも固定可能である。
また手段14として、前記雌ネジ部材と前記筒体の間にはワッシャが介在されているようにした。
また手段15として、前記ヘッド部と前記筒体の間にはワッシャが介在されているようにした。
このようなワッシャによって筒体に作用する圧縮力(又は荷重)が平均化される。
また手段16として、前記筒体は金属製であるようにした。
筒体が金属製であると、圧縮されることで破壊せずに降伏して座屈されてその位置に留まらせることができる。
また、手段1〜16のいずれかに記載の木造建築物の構造躯体の接合構造を備えた木造建築物を構築するようにした。木造建築物は特にCLTを床材や壁材として使用した多層階の木造建築物を構築することがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構造躯体と基礎との間あるいは柱と構造躯体である横架材又は斜材との間に大きな引っ張り力が発生した際に、その引っ張り力は筒体を圧縮して座屈させるエネルギーとして消費されるため、筒体以外の接合部分に使用される金具類には、大きな損傷を与えることなく、筒体を含めた接合金具等全体の見かけの靱性が確保でき、また、剛性低下も少なく、結果として構造躯体の引っ張り性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用する第1の接合金具の斜視図。
図2】同じ実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用する第2の接合金具の斜視図。
図3】同じ実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用する柱脚用金具の(a)は斜視図、(b)はA−A線における断面図。
図4】同じ実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用するパイプの(a)は斜視図、(b)は縦断面図。
図5】(a)は実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造において第1及び第2の接合金具を壁パネルへ連結させる直前の状態を説明する説明図、(b)は壁パネルの底面図。
図6】実施形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造において第1及び第2の接合金具を壁パネルへ連結した状態の説明図。
図7図6の状態の壁パネルを柱脚用金具の上に設置する直前の状態を説明する説明図。
図8図6の状態の壁パネルを柱脚用金具の上に設置した状態を説明する説明図。
図9】(a)は実施形態2の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用するラグスクリューボルトの正面図、(b)は(a)のB−Bにおける断面図。
図10】同じ実施形態2の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用する柱脚用金具の(a)は斜視図、(b)はC−C線における断面図。
図11】実施形態2の木造建築物の構造躯体の接合構造においてラグスクリューボルトを柱材へ食い込ませる直前の状態を説明する説明図。
図12図11の状態からラグスクリューボルトを柱材へ食い込ませた状態を説明する説明図。
図13図12の状態の柱材を柱脚用金具の上に設置する直前の状態を説明する説明図。
図14図12の状態の柱材を柱脚用金具の上に設置した状態を説明する説明図。
図15】本発明の実施形態3の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用する接合金具の斜視図。
図16】(a)は実施形態3の木造建築物の構造躯体の接合構造において梁の端面に接合金具を連結させる際の連結構造の説明をする分解斜視図。
図17】実施形態3の木造建築物の構造躯体の接合構造において図16の梁を柱材に連結させる際の連結構造の説明をする分解斜視図。
図18】実施形態4の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用するボックス型金具の(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は(b)におけるD−D断面図。
図19】実施形態4の木造建築物の構造躯体の接合構造においてボックス型金具を取り付けた柱材に図16の梁を連結させる際の連結構造の説明をする説明図。
図20】(a)は他の実施形態の木造建築物の構造躯体の接合構造において梁の端面にラグスクリューボルトを柱材へ食い込ませる直前の状態を説明する説明図、(b)は同じく食い込ませた状態を説明する説明図。
図21】他の実施形態の木造建築物の構造躯体の接合構造において、柱脚用金具をアンカーボルトに固定するとともに柱材を柱脚用金具の上に設置する際の固定方法を説明する説明図。
図22図21の状態から柱脚用金具をアンカーボルトに固定し、柱材を柱脚用金具の上に設置した状態を説明する説明図。
図23】(a)は他の実施形態の木造建築物の構造躯体の接合構造で使用するラグスクリューボルトの正面図、同じく(b)は側面図。
図24図23のラグスクリューボルトを使用して柱材を柱脚用金具の上に設置した状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態である木造建築物の構造躯体の接合構造について図面に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1の接合構造において使用する第1の接合金具1である。第1の接合金具1はベースプレート2と、ベースプレート2上に立設された差し込みプレート3とから構成されている。差し込みプレート3は溶接によってベースプレート2上に固定されている。尚、図示においては溶接の跡(いわゆるビード)は省略されている。平面視において長方形に構成されたベースプレート2には四方の点対称となる位置に表裏に連通する4つの透孔4が形成されている。ベースプレート2上の各透孔4の近傍には突起5が形成されている。突起5は後述するボルト27が透孔4挿通された際に正六角形形状のヘッド部27aの対辺の外側で対角の内側となる位置に形成されている。
差し込みプレート3はベースプレート2の上面に対して直交状に延出されており、後述するドリフトピン28が挿通される複数の金具側ピン孔6が形成されている。
本実施の形態では一例としてベースプレート2は左右幅260mm、前後幅150mm、厚み32mmに構成されており、差し込みプレート3は高さ300mm、幅240mmに構成されている。
図2は実施の形態1の接合構造において使用する第2の接合金具7である。第2の接合金具7も第1の接合金具1と同様にベースプレート8と、ベースプレート8上に立設された差し込みプレート9とから構成されている。差し込みプレート9は溶接によってベースプレート8上に固定されている。尚、図示においては溶接の跡(いわゆるビード)は省略されている。平面視において長方形に構成されたベースプレート8には四方の点対称となる位置に表裏に連通する4つの透孔10が形成されている。第1の接合金具1と同様に各透孔10の近傍に突起12が形成されている。第2の接合金具7のベースプレート8は第1の接合金具1のベースプレート2と同形状に構成されている。差し込みプレート9はベースプレート8の上面に対して直交状に延出されており、第1の接合金具1と同様にドリフトピン28が挿通される複数の金具側ピン孔11が形成されている。本実施の形態では第2の接合金具7の差し込みプレート9は第1の接合金具1の差し込みプレート3よりも上下幅(背)が短く構成されており、それに応じて金具側ピン孔11の数も第1の接合金具1の差し込みプレート3より少なく構成されている。
本実施の形態では一例としてベースプレート9は左右幅260mm、前後幅150mm、厚み32mmに構成されており、差し込みプレート3は高さ140mm、幅240mmに構成されている。
【0015】
図3は実施の形態1の接合構造において使用する柱脚用金具13である。柱脚用金具13は天板14と、天板14に対して平行に配置された天板14の下方に配置される底板15と、天板14と底板15との間に間隔を空けて配設された2種類の脚板16、17とから構成されている。天板14には2つの第1の接合金具1及び1つの第2の接合金具7を連結固定する際に使用される4×3の合計12の透孔18が形成されている。底板15には柱脚用金具13を基礎側に連結固定するための12の透孔19が形成されている。
第1の脚板16は柱脚用金具13の前後方向中央において長手方向に沿って延出され天板14と底板15と同長さで構成されている。本実施の形態では天板14、底板15及び第1の脚板16は一体的に形成されたH鋼を利用している。第2の脚板17は、天板14と底板15の間において第1の脚板16から第1の脚板16と直交する方向に延出される鋼板である。第2の脚板17は第1の脚板16を挟んだ前後方向にそれぞれ9枚ずつ配置されている。各第2の脚板17は天板14と底板15に対して上下位置で溶接によって接合されている。また、第2の脚板17基部端面は第1の脚板16の側面に溶接によって接合されている。尚、図示においては溶接の跡(いわゆるビード)は省略されている。天板14と底板15に形成された各透孔18、19は、第1の脚板16と二枚の第2の脚板17の三方から包囲された空間に面してそれぞれ1つずつが配置されている。一例として本実施の形態では天板14及び底板15は前後幅150mm、左右幅1000mm、天板14及び底板15の間隔(高さ)294mmに構成されている。
図4(a)(b)は実施の形態1の接合構造において使用する筒体としてのパイプ21である。パイプ21は継ぎ目のない鉄系合金から構成されており、一例として本実施の形態では肉厚3mm、外径50mm、長さ50mmとされている。このようなパイプ21の形状は、具体的にこれら金具38等を使用した接合構造において、引っ張り力が発生した場合にパイプ21以外の上記金具の降伏応力よりも小さい力であって、かつ所定の圧縮力以上の力で筒体が圧縮されて降伏し座屈(塑性変形)するように決定する必要がある。以下の実施の形態でも同様である。
【0016】
これら金具等を使用した接合構造について図5図7に基づいて説明する。
本実施の形態では木造建築物の壁パネルWを2つの第1の接合金具1及び1つの第2の接合金具7と柱脚用金具13を使用して基礎Bに連結固定する場合を一例として説明する。本実施の形態では一例としての壁パネルWは5層構造のCLTパネルを適時カットして使用する。
図5(a)(b)に示すように、壁パネルWの下端面(底面)Waには中央に第2の接合金具7を配置してその左右に第1の接合金具1を係合させるための切り欠き23が形成され、各切り欠き23に面して3つのスリット24が下端面Waから壁パネルW内部にかけて形成されている。壁パネルWの下端面Waであって各スリット24の周囲には凹部25が透孔4、10に対応する位置に形成されている。切り欠き23の厚みと幅はベースプレート2、8の厚みと一辺の長さと同サイズに構成されている。各スリット24の内部空間の厚みと幅及び奥行きは接合金具1、2の差し込みプレート3、9の厚み、幅及び長さと同サイズに構成されている。壁パネルWには各スリット24に交差して木部側ピン孔26が形成されている。木部側ピン孔26は壁パネルWの表裏面にかけて形成されている。木部側ピン孔26は差し込みプレート3、9に形成された金具側ピン孔6、11に対応する位置に形成されている。
また、上記以外の接合金具として図5図7に示すように周知のボルト27、ワッシャ29、ナット30及びナット32を使用する。ボルト27は正六角形の外形を有するヘッド部27aとボルト本体となる外周に雄ネジが形成された雄ネジ部27bとから構成されている。ボルト27はボルト本体が長い第1の接合金具1用と、相対的にボルト本体が短い第2の接合金具7用の二種類が用意される。ナット30、32は外周にジグを係合させるための外周に六角形の面が形成され、ナットを連通する透孔内周面には雌ネジが形成されている。
【0017】
まず、作業者は壁パネルWの下端面Waに2つの第1の接合金具1及び1つの第2の接合金具7を装着する。その装着前に図5(a)に示すように、2つの第1の接合金具1及び1つの第2の接合金具7に対して上方(つまりベースプレート2、8の差し込みプレート3、9が立設されている側)から透孔4、10にボルト27を先端側から落とし込むようにする。ボルト27はヘッド部27aによって透孔4、10周囲に係止され吊り下げ状にベースプレート2、8上に支持され、その吊り下げ支持状態で雄ネジ部27bの下部寄りがベースプレート2、8の下方に突出する。次いで、壁パネルWの下端面Waの3つの切り欠き23に、中央に第2の接合金具7、その左右に第1の接合金具1を配置し、差し込みプレート3、9をスリット24内に挿入する。差し込みプレート3、9がスリット24内に正確に収まることで各ボルト27のヘッド部27aは凹部25内に収容される。ベースプレート2、8が切り欠き23内に収まることで、ベースプレート2、8の下面と壁パネルWの下端面Waと面一となる。この状態で金具側ピン孔6、11と木部側ピン孔26が照合されるため、作業者がピン孔6、11、26にドリフトピン28を壁パネルW前面側から打ち込むことで、図6に示すように壁パネルWに対する第1の接合金具1と第2の接合金具7の取り付け作業が完了する。このように前もって壁パネルWの下端面Waに2つの第1の接合金具1及び1つの第2の接合金具7を装着し、ボルト27の雄ネジ部27bが下端面Waから突出した状態としておく。
【0018】
次いで、基礎B上に固定された柱脚用金具13の上に壁パネルWを設置する。壁パネルWは次のように柱脚用金具13上に固定される。
柱脚用金具13を設置する位置には計12本のアンカーボルトAが立設されている。アンカーボルトAの位置は柱脚用金具13の底板15に形成した透孔19の位置と一致する。作業者はこのアンカーボルトAが柱脚用金具13の底板15の透孔19内に挿通されるように導く。そして、ワッシャ29を介してナット30をアンカーボルトAに螺着させ、図示しないジグによってナット30をアンカーボルトAとのネジ作用によって基礎B方向に移動させることで締め付けて柱脚用金具13を基礎B上に固定するようにする。
このような柱脚用金具13に対して、作業者は壁パネルWを下端面Waから突出するボルト27の雄ネジ部27bが天板14に形成した透孔18内に挿通されるように導く。壁パネルWを柱脚用金具13の天板14上に設置した状態で、壁パネルWの各ボルト27の雄ネジ部27bは対応する天板14の透孔18を挿通して天板14の下方に露出される。そして、図7に示すように、第1の接合金具1のボルト27の雄ネジ部27bに対してワッシャ29、パイプ21、ワッシャ29の順に装着し、最後にナット32を雄ネジ部27bに螺着させる。そして、ナット32を雄ネジ部27bとのネジ作用によって天板14方向に移動させることでパイプ21を天板14方向に締め付け、第1の接合金具1ともども壁パネルWを柱脚用金具13上に固定するようにする。尚、ボルト27のヘッド部27aはナット32の締め付けの際に突起5と干渉する位置関係となるため、ボルト27がナット32と連れ回りすることはない。
また、第2の接合金具7に対してはパイプ21を使用せず1枚のワッシャ29を介してナット32をボルト27の雄ネジ部27bに螺着させる。そして、ナット32を雄ネジ部27bとのネジ作用によって天板14方向に移動させることでパイプ21を天板14方向に締め付け、第2の接合金具7ともども壁パネルWを柱脚用金具13上に固定するようにする。ボルト27が連れ回りしないことは上記と同様である。以上の工程で壁パネルWの柱脚用金具13上での設置作業が完了する。
このように構成された木造建築物の構造躯体の接合構造において、上記金具(第1の接合金具1、第2の接合金具7、柱脚用金具13、パイプ21、ボルト27等)は上下方向の引っ張り力や横方向の剪断力に対して作用して靱性を確保する。そして、地震のような瞬間的な強い引っ張り力が作用して壁パネルWが柱脚用金具13に対して上方に持ち上げられた際にはパイプ21が圧縮されて座屈(塑性変形)することで、引っ張り力のなす仕事を、パイプ21を座屈させるエネルギーとして消費させる。
【0019】
(実施の形態2)
次に実施の形態1の木造建築物の構造躯体の接合構造のバリエーションとして実施の形態2について説明する。
図9は実施の形態2の接合構造において使用するラグスクリューボルト35である。ラグスクリューボルト35はラグスクリュー部35aを外周に備えたネジ部材である。本実施の形態2では一例としてラグスクリューボルト35は全長30cmとされ、ラグスクリュー部35aが20cmにわたって形成されている(全長の66%程度)。ラグスクリュー部35aにおけるねじのピッチは本実施の形態2では一例として6.0mmで、内径(谷径)16.7mm、外径(山径)21.2mmとされている。ラグスクリュー部35aに隣接した位置にはナット部35bが形成されている。ナット部35bはラグスクリューボルト35を回動させる際に図示しないジグが係合される部分であり外径が正六角形状に構成されている。ナット部35bの幅(軸方向高さ)は一例として1.5cmとされている。ナット部35bに隣接した基端側領域には雄ネジ部35cが8.5cmにわたって形成されている(全長の27%程度)。雄ネジ部35cにおけるねじのピッチは本実施の形態2では一例として1.0mmで、内径(谷径)14.91mm、外径(山径)16.0mmとされている。
図10は実施の形態2の接合構造において使用する柱脚用金具37である。柱脚用金具37は天板38と、天板38に対して平行に配置された天板38の下方に配置される底板39と、天板38と底板39との間に間隔を空けて配設された3枚の脚40とから構成されている。天板38には4の透孔41が形成されている。底板39には柱脚用金具37を基礎側に連結固定するための2つの透孔42が形成されている。天板38の左右方向及び前後方向の中央位置にはジベル43が溶接によって固着されている。一例として本実施の形態2の柱脚用金具37では天板38及び底板39は前後幅150mm、左右幅650mm、天板38及び底板39の間隔(高さ)294mmに構成されている。
【0020】
次にこれら金具等を使用した接合構造について図11図14に基づいて説明する。尚、実施の形態2の接合構造で使用されるパイプ21、ワッシャ29、ナット32等については実施の形態1と同じ構成であるため、詳しい説明は省略する。本実施の形態では木造建築物の柱材Pをラグスクリューボルト37と柱脚用金具37を使用して基礎Bに連結固定する場合を一例として説明する。本実施の形態では柱材Pはムク材を使用する。柱材Pの下端面Paにはラグスクリューボルト35のラグスクリュー部35aの案内孔44とジベル43の外形に対応する凹部45が形成されている。
まず、作業者は図11に示すように、図示しないジグを使用して前もってラグスクリューボルト35のラグスクリュー部35aを案内孔44を利用して柱材P内に食い込ませるようにする。つまり、柱材Pの下端面Paからラグスクリューボルト35の雄ネジ部35cを突出させた状態としておく(図12の状態)。
【0021】
次いで、基礎B上に固定された柱脚用金具37の上に柱材Pを設置させる。柱脚用金具37は次のように基礎B上に固定される。柱脚用金具37を設置する位置には4本のアンカーボルトAが立設されている。アンカーボルトAの位置は柱脚用金具37の底板39に形成した透孔42の位置と一致する。作業者はこのアンカーボルトAが柱脚用金具37の底板39の透孔42内に挿通されるように導く。そして、ワッシャ29を介してナット30をアンカーボルトAに螺着させ、ナット30を図示しないジグによってアンカーボルトAとのネジ作用によって基礎B方向に移動させることで締め付け柱脚用金具37を基礎B上に固定するようにする。
このように固定された柱脚用金具37に対して、作業者はその天板39上に、柱材Pを設置する。天板38に形成した透孔41の位置は柱材Pの下端から突出するラグスクリューボルト35の雄ネジ部35cの位置と一致する。図13に示すように、作業者は雄ネジ部35cが柱脚用金具37の天板38の透孔41内に挿通されるように導く。柱材Pが柱脚用金具37の天板38上に設置された状態で各ラグスクリューボルト35の雄ネジ部35cの位置と一致する。作業者は雄ネジ部35cが柱脚用金具37の天板38の雄ネジ部35cは天板38の下方に露出される。また、ジベル43は凹部45に嵌合される。
そして、各雄ネジ部35cに対してワッシャ29、パイプ21、ワッシャ29の順に装着し、最後にナット32を雄ネジ部35cに螺着させる。そして、ナット32を雄ネジ部35cとのネジ作用によって天板14方向に移動させることでパイプ21を天板14方向に締め付け接合金具1ともども柱材Pを柱脚用金具37上に固定するようにする(図14の状態)。以上の工程で柱材Pの柱脚用金具37上での設置作業が完了する。
このように構成された木造建築物の構造躯体の接合構造において、上記金具(ラグスクリューボルト35、柱脚用金具37、パイプ21、ナット32等)は上下方向の引っ張り力や横方向の剪断力に対して作用して靱性を確保する。そして、地震のような瞬間的な強い引っ張り力が作用して柱材Pが柱脚用金具37に対して上方に持ち上げられた際にはパイプ21が圧縮されて座屈(塑性変形)することで、引っ張り力のなす仕事を、パイプ21を座屈させるエネルギーとして消費させる。
【0022】
(実施の形態3)
次に実施の形態3の木造建築物の構造躯体の接合構造について説明する。
図15は実施の形態3の接合構造において使用する接合金具51である。接合金具51はベースプレート52と、ベースプレート52上に立設された差し込みプレート53とから構成されている。差し込みプレート53は溶接によってベースプレート52上に固定されている。尚、図示においては溶接の跡(いわゆるビード)は省略されている。平面視において正方形に構成されたベースプレート52には四方の点対称となる位置に表裏に連通する4つの透孔54が形成されている。ベースプレート52上の各透孔54の近傍には突起55が形成されている。突起55は後述するボルト27が透孔54挿通された際に正六角形形状のヘッド部27aの対辺の外側で対角の内側となる位置に形成されている。ベースプレート52の平面形状は後述する梁Tの端面Ta形状と一致する。
差し込みプレート53はベースプレート52の上面に対して直交状に延出されており、後述するドリフトピン28が挿通される複数の金具側ピン孔56が形成されている。尚、実施の形態3の接合構造で使用されるパイプ21、ワッシャ29、ナット32、ドリフトピン28等については実施の形態1と同じ構成であるため、詳しい説明は省略する。
【0023】
本実施の形態では木造建築物の柱材Pと梁Tとを接合金具51を使用して連結固定する場合を一例として説明する。本実施の形態では一例として柱材Pは断面H形状のH鋼を使用し、梁Tはむく材を使用する。
図16(a)に示すように、梁Tの端面Taにはスリット57が形成されている。端面Taであって各スリット57の周囲には接合金具51のベースプレート52の透孔54に対応する位置に凹部58が形成されている。各スリット57の内部空間の厚みと幅及び奥行きは接合金具51の差し込みプレート53の厚み、幅及び長さと同サイズに構成されている。梁Tにはスリット57に交差した木部側ピン孔59が形成されている。木部側ピン孔59は梁Tの左右側面にかけて形成されている。木部側ピン孔59は差し込みプレート53に形成された金具側ピン孔56に対応する位置に形成されている。
このような仕口が形成された梁Tの端面Taに対して、まず接合金具51を装着する。作業者は、差し込みプレート53が立設されている側から透孔54に計4本のボルト27をワッシャ29を介して嵌挿する。ボルト27はヘッド部27aによって透孔54周囲に係止されるため、透孔54から脱落することはない。この支持状態で雄ネジ部27bの下部寄りがベースプレート52の前方に突出する。次いで、梁Tの端面Taに形成されたスリット57に差し込みプレート53を挿入する。差し込みプレート53がスリット24内に正確に収まることで各ボルト27のヘッド部27aも凹部58内に収容される。
この状態で金具側ピン孔56と木部側ピン孔59が照合されるため、作業者がこれらピン孔56、59にドリフトピン28を側面gから打ち込むことで、図16(b)に示すように梁Tに対する接合金具51の取り付け作業が完了する。これによって梁Tの端面Taに接合金具51が装着され、端面Taから4本のボルト27の雄ネジ部27bが突出されることとなる。
図17に示すように、柱材Pの梁Tの取り付け位置、つまり、梁Tが当接する側の平面部分(側部当接板)には梁Tの端面Taから突出する4本のボルト27の雄ネジ部27bに対応する透孔60が形成されている。
【0024】
このような構成において、作業者は梁Tの端面Taから突出するボルト27の雄ネジ部27bが柱材Pの取り付け位置の透孔60に挿通されるように導く。そして、接合金具51のボルト27の雄ネジ部27bに対してワッシャ29、パイプ21、ワッシャ29の順に装着し、最後にナット32を雄ネジ部27bに螺着させる。そして、ナット32を雄ネジ部27bとのネジ作用によって柱材P方向に移動させることでパイプ21を柱材P方向に締め付け、接合金具51ともども梁Tを柱材Pに固定するようにする。
このように構成された木造建築物の構造躯体の接合構造において、上記金具(接合金具51、パイプ21、ボルト27等)は水平方向の引っ張り力や曲げ力に対して作用して靱性を確保する。そして、地震のような瞬間的な強い引っ張り力が作用して梁Tが柱材Pに対して強く引き抜き力が作用した際にはパイプ21が圧縮されて座屈(塑性変形)することで、引っ張り力のなす仕事を、パイプ21を座屈させるエネルギーとして消費させる。
【0025】
(実施の形態4)
次に実施の形態3の木造建築物の構造躯体の接合構造のバリエーションとして実施の形態4について説明する。
実施の形態4も実施の形態3と同様柱材Pと梁Tの接合構造の一例であるが、鉄筋コンクリート製の柱材Pを使用する。接合金具51を装着した梁T側の構成は実施の形態3と同じであるため説明は省略する。
図18(a)〜(c)は実施の形態4の接合構造において使用するボックス型金具61である。ボックス型金具61は上板61a、底板61b、側部当接板となる前板61c、柱材Pに面した背面板61dの長方形の4枚の鋼板が直交した直方体形状の扁平なボックス型の外観の本体62を備えている。本体62内部には左右領域を分断するように上板61a、底板61b、前板61c、背面板61dに端面が接する補強板61eが固着されている。図18(a)に示すように、前板61cには梁Tと連結固定するための4つの透孔63が形成されている。背面板61dには柱材Pと連結固定するための4つの透孔64が形成されている。尚、実施の形態3の接合構造で使用されるパイプ21、ワッシャ29、ナット32、ドリフトピン28等については実施の形態1と同じ構成であるため、詳しい説明は省略する。
【0026】
図19に示すように、作業者は鉄筋コンクリート製の柱材Pに埋設された4本のアンカーボルトA(図示では2本)に対してボックス型金具61の背面板61dの透孔64が嵌挿されるように導き、ワッシャ29を介してナット30をアンカーボルトAに螺着させ、ナット30を図示しないジグによってアンカーボルトAとのネジ作用によって背面板61d方向に移動させることでボックス型金具61を柱材Pに固定する。
このような柱材Pに対して、作業者は梁Tの端面Taから突出するボルト27の雄ネジ部27bがボックス型金具61の透孔63に挿通されるように導く。そして、接合金具51のボルト27の雄ネジ部27bに対してワッシャ29、パイプ21、ワッシャ29の順に装着し、最後にナット32を雄ネジ部27bに螺着させる。そして、ナット32を雄ネジ部27bとのネジ作用によって前板61c方向に移動させることでパイプ21を前板61c方向に締め付け、接合金具51ともども梁Tをボックス型金具61に固定するようにする。
このように構成された木造建築物の構造躯体の接合構造において、上記金具(接合金具51、ボックス型金具61、パイプ21、ナット32等)は水平方向の引っ張り力や曲げ力に対して作用して靱性を確保する。そして、地震のような瞬間的な強い引っ張り力が作用して梁Tが柱材Pに対して強く引き抜き力が作用した際にはパイプ21が圧縮されて座屈(塑性変形)することで、引っ張り力のなす仕事を、パイプ21を座屈させるエネルギーとして消費させる。
【0027】
(実施の形態5)
次に実施の形態2の木造建築物の構造躯体の接合構造のバリエーションとして実施の形態5について説明する。
実施の形態5では実施の形態2において基礎B上にアンカーボルトAを介して柱脚用金具37を固定する際にパイプ21を配置するものである。図21に示すように、基礎B上において柱脚用金具37の底板39の透孔42から上方に突出するアンカーボルトAに対してワッシャ29、パイプ21、ワッシャ29の順に装着し、最後にナット32をアンカーボルトAの外周に螺着させる。そして、ナット32をアンカーボルトAとのネジ作用によって底板39方向に移動させることでパイプ21を底板39方向に締め付け柱脚用金具37を基礎B上に固定するようにする(図22の状態)。
このように構成された木造建築物の構造躯体の接合構造において、上記金具(アンカーボルトA、柱脚用金具37、パイプ21、ナット32等)は上下方向の引っ張り力や横方向の剪断力に対して作用して靱性を確保する。そして、地震のような瞬間的な強い引っ張り力が作用して柱脚用金具37が基礎Bに対して上方に持ち上げられた際にはパイプ21が圧縮さて座屈(塑性変形)することで、引っ張り力のなす仕事を、パイプ21を座屈させるエネルギーとして消費させる。柱材Pと柱脚用金具37の関係は上記実施の形態2の作用と同様である。実施の形態5では上下のパイプ21の協働によって金具の靱性が確保されることとなる。
【0028】
以上のような実施の形態によって次のような効果が奏される。
(1)実施の形態1、2及び5においては、上下方向の強い引っ張り力が作用した際に、パイプ21が圧縮されて座屈することによって、引っ張り力のエネルギーが消費されるため、パイプ21の構造躯体や金具等にダメージが及びにくくなり、結果として構造躯体の引っ張り性能を向上させることができる。
また、実施の形態3及び4においても、横方向に強い引っ張り力が作用した際に、パイプ21が圧縮されて座屈することによって、引っ張り力のエネルギーが消費されるため、パイプ21の構造躯体や金具等にダメージが及びにくくなり、構造躯体の引っ張り性能を向上させることができる。更に、実施の形態3及び4のような梁と柱のような接合構造では、引っ張りだけではなく、接合部に曲げ力も作用するが、このような曲げ力に対してもパイプ21は圧縮されて座屈するため、やはり曲げ力のエネルギーが消費されることとなり、パイプ21の構造躯体や金具等にダメージが及びにくくなり、結果として構造躯体の引っ張り性能を向上させることができる。
(2)実施の形態1ではパイプ21は柱脚用金具13の天板14とナット32の間に挟まれて引っ張り荷重を圧縮力として受けることになるが、この際に荷重を伝達する天板14に密着して第1の接合金具1のベースプレート2が配置されるため、パイプ21を挟むために強い力のかかる天板14がベースプレート2によって補強されることとなる。また、補強という観点だけでなく、パイプ21を配置して強い引っ張り力を受ける際に柱脚用金具13の天板14の設計を変更しなくとも第1の接合金具1側でベースプレート2の厚みを調整することで対応できるため、有利である。実施の形態3及び4においても同様である。
(3)実施の形態1では強い引っ張り力に対しては主として第1の接合金具1のパイプ21が圧縮されて座屈することによって構造躯体に作用する力を制限し、同時に横方向の剪断力については第1の接合金具1だけでなく、第2の接合金具7によって保持されることとなるため、基礎近くにかかる外力に対する構造の強度が保たれることとなる。
(4)実施の形態2では強い引っ張り力に対してはパイプ21で変形能力を確保すると同時に横方向の剪断力についてはジベル43が柱材Pに係合されているため、剪断方向の耐力が向上する。上記(3)と同様基礎近くにかかる外力に対する構造の強度が保たれることとなる。
【0029】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記実施の形態では木造建築物の構造躯体の一部の接合だけを説明したが、例えば多層階の木造建築物全体をこのような接合構造で構築することが可能である。
・上記の金具類の形状やサイズは一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更して実施することは自由である。
・実施の形態1及び3において使用するボルト27の数は強度計算に応じて適宜変更して使用することは自由である。また、これに応じて使用するパイプ21の数も変更可能である。
・実施の形態1や実施の形態3、4にボルト27の代わりにヘッド部27aのないラグスクリューボルト35を使用してもよい。
・上記実施の形態3及び4では梁Tの端面Taに対して、接合金具51をボルト27ともども装着するようにしていたが、図20(a)及び(b)に示すように梁Tの端面Taに案内孔66を形成し、例えば実施の形態2のラグスクリューボルト35と同様のラグスクリューボルト67を実施の形態2と同様に4本埋設して実施の形態3及び4に適用して使用するようにしてもよい。柱材Pをラグスクリューボルト37と柱脚用金具37
・上記実施の形態2及び4ではパイプ21を締め付けるためにナット32とともに図9に示すようなラグスクリューボルト35を使用したが、例えば図23に示すようなラグスクリューボルト71を使用してもよい。図23のラグスクリューボルト71はラグスクリュー部71aとネジのない軸部71bとを有し、軸部71bの先端にラグスクリューボルト71と一体的にヘッド部71cが形成されている。そして、ナット32を使用せずにこのヘッド部でパイプ21を締め付けるような構成とするものである。こ例えば実施の形態2のようなケースにおいて柱脚用金具37にこのラグスクリューボルト71を使用して柱材Pを固定する際には次のような工法を採る。柱脚用金具37を基礎に固定する前に、柱材Pを先に柱脚用金具37の天板38上に設置(当接)させておき、天板38の下側にパイプ21を配置し、パイプと天板39介してラグスクリューボルト71をラグスクリュー部71a側から柱材Pに食い込ませるように進出させ、パイプ21をヘッド部71cで天板39側に締め付けるようにする。そして、その後にアンカーボルトAを介して柱脚用金具37を基礎B側に固定する。図24はこのような工法によって柱材Pに柱脚用金具37を連結固定し、更に柱脚用金具37を基礎Bに固着した状態である。
・上記実施の形態3及び4では柱材Pに梁Tを接合する例を挙げたが、柱材Pに斜材を接合する場合に適用するようにしてもよい。
・上記実施の形態4では柱材Pにコンクリートを使用し、このコンクリート製の柱材Pにボックス型金具61を固着するようにしていたが、木製の柱材Pにボックス型金具61を例えばボルトを使用して固着するようにして、本発明の構造材とするようにしてもよい。
・実施の形態5においては柱脚用金具37の上下位置にパイプ21を配置するようにしたが、アンカーボルトA側だけにパイプ21を配置するようにしてもよい。
・実施の形態5において上下の2つのパイプ21の形状(径・厚み・長さ等)要素や素材をそれぞれ別のもの(つまり異なる強度とする)として構成するようにしてもよい。
・パイプ21の材質も上記のような鉄系の合金以外の金属材料であってもよい。また、圧縮以外の引っ張り力に対するエネルギーの消費と言うことであれば金属と同等の強度を発揮するセラミックを使用してもよい。
・ワッシャ29は均等な荷重をパイプ21に与える上で金具の一部として配設することがよいが、パイプ21のみで均等な荷重の実現が可能であればなくともよい。
【0030】
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成には限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
また、意匠出願への変更出願により、全体意匠または部分意匠について権利取得する意思を有する。図面は本装置の全体を実線で描画しているが、全体意匠のみならず当該装置の一部の部分に対して請求する部分意匠も包含した図面である。例えば当該装置の一部の部材を部分意匠とすることはもちろんのこと、部材と関係なく当該装置の一部の部分を部分意匠として包含した図面である。当該装置の一部の部分としては、装置の一部の部材としてもよいし、その部材の部分としてもよい。
【符号の説明】
【0031】
13、37…柱脚用金具、14、38…天板、18、41…透孔、21…筒体としてのパイプ、27…棒状金具としてのボルト、27a…ヘッド部、27b…雄ネジ部、32…雌ネジ部材としてのナット、28…雌ネジ部材としてのナット、35、67…棒状金具としてのラグスクリューボルト、A…アンカーボルト、B…基礎、P…構造躯体としての柱材、W…構造躯体としての壁パネル。
図1
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