【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の免震建物の雨水処理構造は、水平方向に間隔を置いて隣接する建物の内、少なくとも一方の建物が免震建物である並列建物間において、
前記少なくとも一方の免震建物の、隣接する他方の建物側の面に縦樋が配置され、この縦樋の下端部の下方位置の、前記一方の免震建物の外壁から対向する前記他方の建物側へ犬走りが張り出しながら、前記外壁の面内方向に連続し、この犬走りの、対向する前記他方の建物側の端部に立上り部が連続して形成され、
前記犬走りの上面には前記外壁の面内方向のいずれか一方側、または両側に向けて上流側から下流側へかけて下向きの水勾配が付けられ、
前記立上り部付きの前記犬走りは前記縦樋の下端部から放出される雨水を受け、前記外壁の面内方向に排出する排水路を形成していることを構成要件とする。
請求項2に記載の免震建物の雨水処理構造は、請求項1に記載の発明において、前記縦樋の下端部の排出口が前記外壁の面内方向、または鉛直方向下方を向いていることを構成要件とする。
【0009】
「少なくとも一方の建物が免震建物である」とは、並列建物の内のいずれか一方の建物10が免震建物である場合と、
図1に示すように双方の建物10、20(30)が免震建物である場合(請求項2)があることを言う。請求項1では免震建物を「一方の建物10」と言い、その建物10に隣接する建物20、30を「他方の建物」と言っているが、「他方の建物20、30」も免震建物であることもある(請求項2)。請求項1での「一方」と「他方」は便宜的な区別に過ぎない。
【0010】
「他方の建物20、30」は
図5−(a)、(b)中、符号20で示す既存建物20である場合と、
図6−(a)、(b)中、符号30で示すように一方の建物(免震建物)10に隣接して将来、新設される予定の増築建物30である場合がある。他方の建物が既存建物20の場合、一方の建物(免震建物)10は新設建物として既存建物20に隣接して構築される。他方の建物が増築建物30の場合、一方の建物(免震建物)10を構築するときにはその免震建物10は
図6−(a)に示すように他方の建物10、30には隣接せずに単独で、独立して構築される。免震建物10の構築後、他方の建物としての増築建物30が既存の免震建物10に隣接して構築される。
【0011】
「一方の免震建物10(20、30)の、隣接する他方の建物20、30(10)側の面」は一方の建物10(20、30)の内、他方の建物20、30(10)側を向いた外壁面を指す。この外壁面の内、縦樋14(24)の下端部の下方位置から他方の建物20、30(10)側へ向けて犬走り12(22)が張り出し、外壁11(21)の面内方向に連続する。「外壁の面内方向」は建物10(20、30)の桁行方向、またはスパン方向である。外壁11(21)はそれに接続する柱16(26)を含むこともある。
【0012】
犬走り12(22)の連続する方向は犬走り12(22)の長さ方向であり、犬走り12(22)が外壁面から張り出す方向は犬走り12(22)の幅方向である。犬走り12(22)の長さ方向には、少なくとも一部の連続した区間、または全長が雨水の排水路になるため、犬走り12(22)の長さ方向の一部から雨水が流出しないよう、立上り部13(23)も排水路として使用される犬走り12(22)の連続した区間の全長に亘って形成される。立上り部13(23)は犬走り12(22)の幅方向の先端側から壁状に立ち上がる。
【0013】
犬走り12(22)の上面12a(22a)は外壁面(外壁11(21)の内周面11a(21a))に連続し、他方の建物20、30(10)側の端部に形成される立上り部13(23)の外壁面側の面(内周面13a(23a))にも連続することで、縦樋14(24)下端部から放出される雨水を外壁11(21)の面内方向の少なくともいずれかの側へ排出する排水路を形成する。排水路は犬走り12(22)の上面12a(22a)と、これに連続する外壁11(21)と立上り部13(23)の互いに対向する面(犬走り側を向いた内周面11a(21a)、13a(23a))から構成される。
【0014】
雨水が触れる少なくとも犬走り12(22)の上面12a(22a)と、外壁11(21)の内周面11a(21a)及び立上り部13(23)の内周面13a(23a)である排水路面には雨水の浸透を防止するための何らかの防水処理が施される。防水処理は雨水が直接、接触する表面である排水路面(犬走りの上面、及び外壁と立上り部の互いに対向する内周面)に塗膜防水として施される他、外壁11(21)と立上り部13(23)付き犬走り12(22)の躯体自体に防水コンクリートが使用されることによっても施される。
【0015】
排水路を構成する排水路面は縦樋14(24)の下端部の排出口14a(24a)から放出される雨水を集めながら、外壁11(21)の面内方向のいずれか一方側、または両側に向けて排出するため、犬走り12(22)の上面12a(22a)には上流側から下流側へかけて下向きの水勾配が付けられる。
図2、
図3に示すように外壁11(21)の面内方向の両側に雨水を排出する場合、犬走り12(22)の上面12a(22a)の最も高い位置は外壁面内方向両側を除く面内方向中間部に形成される。犬走り12(22)の上面12a(22a)を通じて排出される雨水は縦樋14(24)から放出される分と、直接、犬走り12(22)上に落下する分が含まれる。
【0016】
排水路としての犬走り12(22)の貯水量は犬走り12(22)の幅が大きい程、大きく、縦樋14(24)から放出される雨水を受け止め易くなる。一方、犬走り12(22)の幅が大きければ、隣接する建物20、30(10)との間に確保すべき距離も大きくなり、隣接する建物10、20(30)を互いに接近させようとすることに制限が掛かる。
【0017】
このような制限を排除する上では、縦樋14(24)の下端部の排出口14a(24a)を
図2に示すように犬走り12(22)の連続する方向(外壁11(21)の面内方向)に向ければ、排出口14a(24a)からの雨水が犬走り12(22)の連続する方向に誘導されるため、排出口14a(24a)からの雨水が犬走り12(22)から漏れる可能性が低下する上、犬走り12(22)を通じた排水が促進される。この結果、縦樋14(24)から放出される雨水の受け止め能力を高める目的で犬走り12(22)の幅を大きくする必要から解放され、隣接する建物10、20(30)を互いに接近させることが可能になる。また排出口14a(24a)を鉛直方向下方に向ければ、少なくとも犬走り12(22)の幅方向への飛散は防止されるため、犬走り12(22)の連続する方向に向ける場合と同様の効果が期待される。
【0018】
以上のように免震建物10の外壁11から他方の建物20(30)側へ張り出す犬走り12自体が雨水の排水路として利用されることで、雨水の排水処理上、一方の建物10である免震建物が他方の建物20(30)に依存する関係にはならない。このため、縦樋14から放出される雨水を他方の建物20(30)に流す必要がなくなる結果、他方の建物20(30)に排出溝を形成する必要も生じない。免震建物10内で発生する雨水の処理が他方の建物20(30)に依存する関係にはならないことで、隣接する建物10、20
(30)が共に免震建物である場合(請求項
3)にも、免震建物10、20(30)単位で雨水の排水を処理することができるため、隣接する建物10、20(30)に排水を依存する場合のように排水処理が困難になることはない。
【0019】
一方の建物(免震建物)10内で発生する雨水の処理が他方の建物20(30)に依存しないことで、一方の免震建物10と他方の建物20(30)の構築時期が相違する場合に、すなわち前記のように他方の建物20が既存で、免震建物10が新設で構築される場合に、新設の免震建物10を他方の既存建物20に隣接させながら構築しつつも、建物10、20毎に雨水を処理できる関係を成立させることが可能である。同様に、
図5−(a)、(b)に示すように免震建物10の構築後、将来的に増築建物30を免震建物10に隣接させて構築しながらも、増築建物30が免震建物であるか否かに拘わらず、建物10、30毎に雨水を処理できる関係を成立させることも可能になる。
【0020】
隣接する建物10、20(30)が共に免震建物である場合(請求項
3)、各建物10、20(30)の隣接する建物20(30)、10側に犬走り12、22が形成され、他方の建物(免震建物)20、30(10)の、隣接する一方の免震建物10(20、30)側の面にも縦樋14(24)が配置される。
【0021】
各建物10、20(30)に形成される犬走り12、22の形態は同じであり、各建物10、20(30)における縦樋14、24の下端部の下方位置の、他方の建物20(30)、10の外壁21、11から対向する一方の免震建物10、20(30)側へ犬走り22、12が張り出しながら、外壁21、11の面内方向に連続する。犬走り22、12の、対向する一方の免震建物10、20(30)側の端部に立上り部23、13が連続して形成される。立上り部23、13付きの犬走り22、12は縦樋24、14の下端部から放出される雨水を受け、外壁21、11の面内方向に排出する排水路を形成する(請求項
3)。
【0022】
請求項
3では互いに対向する外壁面から隣接する建物(免震建物)側へ犬走り12、22が張り出すことから、双方の犬走り12、22が同一レベル等、少なくとも立上り部13、23を含む幅方向の先端部が互いに衝突し合う高さにあれば、上記のように隣接する建物10、20を互いに接近させることに制限が生じる。
【0023】
そこで、請求項
3においていずれか一方の免震建物10(20、30)における犬走り12(22)の立上り部13(23)の上面13b(23b)と、他方の免震建物20、30(10)における犬走り22(12)の下面22b(12b)との間に段差を形成することで(請求項
4)、双方の犬走り12、22を平面上(平面で見たとき)、重ねる(重複させる)ことができるため、隣接する建物10、20(30)を互いに接近させることが可能になる。
【0024】
「一方の免震建物の立上り部の上面と、他方の免震建物の犬走りの下面との間に段差を形成する」とは、一方の犬走り12(22)の立上り部13(23)の上面13b(23b)が、他方の犬走り22(12)の下面22b(12b)の下に位置することを言い、双方の立上り部13、23が衝突することなく、双方の犬走り12、22が互いに重なり合えることを言う。
【0025】
双方の犬走り12、22が互いに重なり合えることで、一方の犬走り12(22)が他方の犬走り22(12)の下に潜るように両犬走り12、22を組み合わせることができる結果、両免震建物10、20(30)の外壁面を互いに接近させることが可能であるため、敷地面積内での建築面積を最大に確保することが可能になり、敷地を有効に活用することが可能になる。
【0026】
請求項
4では
図1に概要を示すように他方の免震建物20(30)の立上り部23の上面23bと、一方の免震建物10の犬走り12の下面12bとの間に段差が形成されることで、上記のように隣接する建物10、20(30)の犬走り12、22を平面上、重ねることができる。この場合、犬走り12、22の立上り部13、23の少なくとも一部が犬走り12、22の幅方向に重なれば、平面上、重なった領域に落下する雨水を相対的に上側に位置する犬走り12(22)が受け止め、排出することができる。
【0027】
但し、
図1に詳しく示すように双方の犬走り12、22の立上り部13、23が平面上、重ならない場合には、両立上り部13、23の外周面13c、23c間に空隙が生じるため、この空隙から犬走り12、22下の空間内に雨水を落下させることになる。
【0028】
この犬走り12、22下への雨水の落下を回避する上では、
図1に示すように上側に位置する犬走り12(22)の立上り部13(23)の外周面13c(23c)に空隙を上方から塞ぐ、犬走り12の長さ方向に連続する形状等のカバー材19が固定される。
図1ではカバー材19に山形鋼を使用しているが、カバー材19の断面形状は問われない。また空隙の閉塞上は、カバー材19の底面は下側に位置する犬走り22(12)の立上り部23(13)の上面23b(13b)に密着(接触)することが望ましいが、下側に位置する犬走り22(12)の立上り部23(13)の内周面23a(13a)より外壁21(11)側へ張り出す十分な長さがあれば、必ずしも密着する必要はない。