特許第6860437号(P6860437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860437機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860437
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20210405BHJP
   G06Q 50/08 20120101ALI20210405BHJP
   G16Z 99/00 20190101ALI20210405BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   G01M99/00 Z
   G06Q50/08
   G16Z99/00
   G01L1/00 M
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-132107(P2017-132107)
(22)【出願日】2017年7月5日
(65)【公開番号】特開2019-15572(P2019-15572A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 さやか
(72)【発明者】
【氏名】坂本 成弘
【審査官】 瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−064555(JP,A)
【文献】 特開2016−076113(JP,A)
【文献】 特開2003−027626(JP,A)
【文献】 特開2004−239614(JP,A)
【文献】 特開2012−189470(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0324356(US,A1)
【文献】 五十嵐 さやか 他,震源特性のばらつきを考慮した地震波群による地震リスク評価に関する基礎的検討,大成建設技術センター報,日本,大成建設株式会社,2016年,第49号,p.06−1〜06−8,URL,https://www.taisei.co.jp/giken/report/2016_49/paper/A049_006.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01L 1/00
G06Q 50/08
G16Z 99/00
E04H 9/00− 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設置されている機器システムの地震時における機能損傷と関連が高い地震動強さ指標を決定する方法であって、
上記機器システムを構成する各機器について各々の損傷を良く説明する指標および当該指標における耐力を設定するステップと、
上記機器システム全体の損傷を良く説明する地震動強さ指標の候補として地震による時刻歴応答波形を用いて算出可能な複数の指標を設定する指標設定ステップと、
予め地震動シミュレーションによって作成した上記建物の敷地に発生し得る複数の時刻歴地震波形を入力とした上記建物のモデルの地震応答解析を行って上記機器が設置されている階の時刻歴応答波形を算定する地震応答解析ステップと、
上記階における上記時刻歴応答波形から算定された上記各機器の損傷を良く説明する指標に関する応答と上記各機器の上記耐力との対比により上記各機器の損傷確率を得て上記機器システム全体の損傷確率を各々の上記時刻歴応答波形について算定する損傷確率算定ステップと、
各々の上記時刻歴地震波について上記候補として設定した上記地震動強さ指標の値を算出し、上記複数の時刻歴地震波形について算定された上記機器システム全体の損傷確率を大きさ順に整列させるとともに、各々の上記候補に挙げた上記地震動強さ指標における上記機器システム全体の損傷確率を当該地震動強さ指標の値の大きさ順に整列させ、同列位置にある上記損傷確率と上記地震動強さ指標における上記損傷確率との差分の絶対値を算出して、上記地震動強さ指標における上記損傷確率の分布のばらつきが最も小さい上記指標を上記機器システムの損傷を最も良く説明する上記地震動強さの指標として抽出する上記指標の検出ステップと、
を備えてなることを特徴とする機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に設置されている各種の機器システムの地震時における機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力施設等の重要構造物の耐震設計や耐震安全性の評価を行うために、地震の発生確率と建物および当該建物に設置されている機器類の物理的・機能的損傷の程度を関連付けて、ハザード評価、フラジリティ評価等により地震リスクを定量的に評価する確率論的地震リスク評価が活用されている(特許文献1、2)。
【0003】
このような確率論的地震リスク評価のうち、簡易な評価方法として、ある一つの地震動強さ(最大加速度や最大速度)を指標としたハザード評価とフラジリティ評価を用いて、確率論的に地震リスクを評価する手法が知られている。ところが、上記簡易な評価手法によっては、地盤や建物・機器類が非線形的な応答を呈するなど、複雑な挙動を示す場合には、充分な地震リスクの評価精度や信頼性を得ることが難しい。
【0004】
そこで、下記非特許文献1においては、対象敷地に発生し得る多数の時刻歴地震動群を、断層モデルを用いた詳細な地震動シミュレーションによって評価し、それらを入力とした地震動応答解析の結果に基づいて建物の機能損傷の確率を評価する方法が提案されている。
【0005】
上記確率論的地震リスク評価によれば、対象敷地に発生し得る地震動強さとその頻度の関係を示す地震ハザードに調和し、かつ断層の破壊性状や地震動の伝播特性に係るパラメータといった断層モデルに関する各種震源特性の不確実さを考慮した時刻歴地震波群を作成し、これを入力地震動として地震動応答解析に基づいて建物の機能損傷確率を評価しているために、より高い精度と信頼性に基づく地震リスクの評価が期待されている。
【0006】
ところで、このような時刻歴地震波群を地震リスク評価に用いるためには、それらが対象敷地の地震ハザードを表現する地震波の集合であること、すなわち対象敷地の地震ハザードに調和する地震波群であることが必要である。この結果、対象敷地に起こり得る全ての時刻歴地震波群を再現するために、対象敷地周りの複数の震源を対象とした多数の地震動シミュレーションが必要となって解析負荷が大きいという問題点がある。
【0007】
また、一般的に上記特許文献1、2等に見られる従来の地震リスク評価では、地震動強さと建物の壊れやすさの関係を示すフラジリティ曲線において、上記地震動強さの指標として一般に最大加速度や最大速度を用いて評価を行う場合が多い。さらに、下記非特許文献2においても、原子力施設を対象とした地震リスク評価において、ハザード曲線の地震動強さ指標として、原子力施設の機器システムの損傷を良く説明できる指標であるとの理由から最大加速度が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3708456号公報
【特許文献2】特開2011−118510号公報
【非特許文献1】Nishida et al.: Hazard-consistent ground motions generated with a stochastic fault-rupture model, Journal of Nuclear Engineering, 2016
【非特許文献2】亀田弘行,石川裕:ハザード適合マグニチュード・震央距離による地震危険度解析の拡張,土木学会論文集,1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般的な建物に設置された設備等の機器システムは、通常固有振動数が異なる複数の機器類で構成されているため、最大加速度や最大速度といったこれまで慣用的に用いられてきた地震動強さ指標が必ずしも機器システム全体の損傷を良く表すとは限らない。例えば、機器システムの中に、短周期の指標で損傷し易い機器Aと長周期の指標で損傷し易い機器Bが混在している場合に、機器Bが相対的に壊れ易い場合には、長周期の指標のほうが機器システム全体の損傷を良く説明できる場合もある。
【0010】
また、どのような地震動強さ指標が機器システム全体の損傷を良く説明できるかについては,システムの機器構成や各機器類がその耐力に至る主たる要因、設置されている建物の応答性状等にも依存するため、これまでの慣用に従って安直に最大加速度や最大速度を地震動強さ指標として選定して地震リスク評価用の地震波群を作成すると、地震リスクに影響する震源数が増え、作成する地震波群が膨大となるとともに、それらを用いた地震応答解析に基づく地震リスク評価の解析負荷も大きくなるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の機器類で構成される機器システムが設置された建物を対象とした地震リスク評価を、現実的に実施可能な解析負荷によって実施することが可能になる機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、建物に設置されている機器システムの地震時における機能損傷と関連が高い地震動強さ指標を決定する方法であって、上記機器システムを構成する各機器について各々の損傷を良く説明する指標および当該指標における耐力を設定するステップと、上記機器システム全体の損傷を良く説明する地震動強さ指標の候補として地震による時刻歴応答波形を用いて算出可能な複数の指標を設定する指標設定ステップと、予め地震動シミュレーションによって作成した上記建物の敷地に発生し得る複数の時刻歴地震波形を入力とした上記建物のモデルの地震応答解析を行って上記機器が設置されている階の時刻歴応答波形を算定する地震応答解析ステップと、上記階における上記時刻歴応答波形から算定された上記各機器の損傷を良く説明する指標に関する応答と上記各機器の上記耐力との対比により上記各機器の損傷確率を得て上記機器システム全体の損傷確率を各々の上記時刻歴応答波形について算定する損傷確率算定ステップと、各々の上記時刻歴地震波について上記候補として設定した上記地震動強さ指標の値を算出し、上記複数の時刻歴地震波形について算定された上記機器システム全体の損傷確率を大きさ順に整列させるとともに、各々の上記候補に挙げた上記地震動強さ指標における上記機器システム全体の損傷確率を当該地震動強さ指標の値の大きさ順に整列させ、同列位置にある上記損傷確率と上記地震動強さ指標における上記損傷確率との差分の絶対値を算出して、上記地震動強さ指標における上記損傷確率の分布のばらつきが最も小さい上記指標を上記機器システムの損傷を最も良く説明する上記地震動強さの指標として抽出する上記指標の検出ステップと、を備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、機器システムを構成する各機器について、当該機器の損傷と関連性を有し、かつ時刻歴応答波形を用いて算出可能な複数の指標を設定し、これら複数の指標の中から、上記機器システムの損傷に起因する建物の機能的損傷を最も良く説明する(すなわち、建物機能損傷と関連性が高い)指標を検出することができるために、これによって検出された上記指標を用いて、選定した機器システムの機能損傷に大きな影響を及ぼす震源を対象として地震動リスク評価用の地震波群を作成し、これを入力とした機器システムの機能損傷評価を実施することにより、現実的に実施可能な解析負荷によって、上記機器システムが設置された建物を対象とした地震リスク評価を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を説明するためのフローチャートである。
図2】(a)は建物と機器システムを構成する各機器の配置図、(b)は機器システムの接続状況を示すツリー図である。
図3】建物のモデルと各機器の設置位置の対応を示す図である。
図4】断層モデルによる地震動評価のイメージ図であって、(a)は断層モデルのパラメータを示す図、(b)は地震動リスク評価用地震波群の作成の概念図である。
図5図3の建物のモデルに対して地震応答解析を行って各機器の耐力と比較する状態を示す概念図である。
図6】複数の時刻歴地震波の各々について算出された複数の指標における損傷確率の分布のばらつきを示すグラフである。
図7】複数の地震動強さ指標から最適の指標を検出する方法を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法を、図2に示す給水システム(機器システム)が設置された建物10の当該給水システムの損傷に伴う建物機能損傷を対象として、地震ハザード等に調和した地震波群を用いて地震リスクを評価する場合に適用した一実施形態について説明する。
【0016】
先ず前提として、この地震動強さ指標の検出方法は、全体を統括制御するCPU(主制御部)に入出力制御部を介して、RAMや記憶装置、キーボードやマウス等の入力装置、および入出力データを表示するモニタが接続された汎用のコンピュータによって実行されるものである、
【0017】
ここで、上記記憶装置には、建物において機能損傷評価の対象となる機器システムおよびこれを構成する各機器の配置および接続状況の情報と、上記建物に対する地震応答解析を行うためのモデルと、この地震応答解析時の入力となる時刻歴地震波形群と、この地震動強さ指標の検出方法を実行するための実行プログラム等が格納されている。
【0018】
図2は、本実施形態において上記記憶装置に格納されている、4階の建物10における機能損傷評価の対象となる給水システム(機器システム)、およびこれを構成する水槽1〜3、配管4およびポンプ5(各機器)の配置および接続状況を示すものであり、図2(b)に示すように、この給水システムは、水槽2、3が並列に、またこれらと他の水槽1およびポンプ5が配管4を介して直列に接続されており、この給水システムの損傷確率は、同図に示す系が損傷する確率として表される。
【0019】
また、上記記憶装置に格納されている上記建物10の地震応答解析を行うためのモデルとしては、図3に示すような質点系モデルが用いられている。なお、この建物モデルとして、他のフレームモデルやソリッドモデルを用いてもよい。
【0020】
さらに、上記記憶装置には、上記地震応答解析時の入力となる時刻歴地震波形群として、上述した非特許文献1において開示されている、震源を断層モデルとして表現した地震動シミュレーションにより作成された、上記建物10の敷地に発生し得る複数の時刻歴地震波形1〜Nが格納されている。
【0021】
上記非特許文献1によれば、この時刻歴地震波群は、図4に示すように、震源を断層モデルとして表現するとともに、上記断層モデルにおけるマグニチュード、断層長さおよび断層面積を含む巨視的震源特性、並びに平均応力降下量、アスペリティ位置および面積、破壊開始点、媒質のQ値等を含む微視的震源特性に起因する不確実さを考慮した地震動シミュレーションを行うことによって作成することができる。この際に、上記時刻歴地震波形の作成対象となる震源は、ある地震動強さ指標の距離減衰式に基づく地震ハザード評価に基づき、評価地点に大きな地震動強さを及ぼす複数の震源が対象となる。
【0022】
また、上記非特許文献1による時刻歴地震波群は、上記巨視的震源特性についてロジックツリーのパスの重み付け設定により考慮されるとともに、上記微視的震源特性について各震源特性に関する既往研究に基づいて設定した各震源特性の分布、および中央値(平均値)、自然対数標準偏差(標準偏差)を用いたモンテカルロシミュレーションにより考慮された複数の断層モデルのサンプルを生成させ、各々の断層サンプルに対して、統計的グリーン関数法等を用いた地震動シミュレーションを行うことによって作成されている。
【0023】
次に、図1図7に基づいて、本実施形態の地震動強さ指標の検出方法を、上記記憶装置に格納されている実行プログラムの機能とともに具体的に説明する。
先ず、上記給水システム全体の損傷を良く説明する地震動強さ指標の候補として、下表1に示すように複数の地震動強さの指標1〜Mを設定しておく(指標設定ステップS1)。
【0024】
この際に、上記指標1〜Mとしては、地震による時刻歴応答波形を用いて算出可能な指標であれば、いかなる指標を用いてもよく、一般的な最大加速度、最大速度の他、スペクトル強度、応答スペクトルの特定の周波数での応答等、上記機器の特性に対応させて異なる指標を設定することが望ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
次いで、上記記憶装置に格納されている上記給水システムを構成する各機器(水槽1〜3、配管4およびポンプ5)について、下表2に示すように、各機器の損傷を良く説明する(損傷と相関が高い)地震動強さ指標と、当該指標における耐力を確定値または確率値によって設定する(各機器の耐力の設定ステップS2)。
【0027】
ちなみに、本実施形態においては、上記地震動強さ指標として、水槽1〜3およびポンプについては応答加速度を、配管については層間変形角を設定しており、また各々の地震動強さ指標における上記耐力については、中央値および対数正規分布による確率分布として設定している。
【0028】
【表2】
【0029】
以上の条件の入力に基づき、上記実行プログラムは、以下の演算処理を実行する。
先ず、上述した記憶装置に格納されている地震動シミュレーションによって作成した上記建物10の敷地に発生し得る複数の時刻歴地震波1〜Nを入力として、図3に示した建物10の質点系モデルの地震応答解析を行って、水槽1〜3、配管4およびポンプ5が設置されている階の時刻歴応答波形を算定する(地震応答解析ステップS3)。
【0030】
そして、図5に示すように、各階における上記時刻歴応答波形から水槽1〜3、配管4およびポンプ5の損傷を良く説明する指標(応答加速度、最大層間変形角)に対応する応答を算出し、得られた応答の値と表1に示した水槽1〜3、配管4およびポンプ5の耐力とを比較して、上記各機器の損傷確率を得る(各機器の損傷確率算定ステップS4)。
【0031】
【数1】
である。なお、fC(x)dxは、耐力Cの確率密度分布である。
【0032】
そして次に、上記給水システム全体の損傷確率を、各々の上記時刻歴応答波形1〜Nについて算定する(機器システム全体の損傷確率算定ステップS5)。
上記給水システム全体の損傷確率は、図2(b)に示したシステムツリーに基づいてAND・ORの論理演算に基づき算定する。図2(b)においては、1Fの水槽2および水槽3が並列接続され、これらの1F並列水槽2、3、1Fポンプ5、1F〜4F直列配管4、RF水槽1が直列接続されたシステムであることから,下記(1)〜(3)式に基づき算定する。
【0033】
【数2】
【0034】
さらに、上記時刻歴地震波1〜Nについて、上記候補として設定した地震動強さ指標1〜Mの値を算出する。
下表3は、このようにして得られた上記時刻歴地震波1〜Nにおける上記候補として設定した地震動強さ指標1〜Mの値、および各時刻歴地震波1〜Nについて算定された給水システム(機器システム)の損傷確率を示すものである。
【0035】
【表3】
【0036】
次に、複数の時刻歴地震波形1〜Nについて、算定された上記給水システム全体の損傷確率を、図6中に●で示すように、小さいものから順に整列させる。さらに、上記候補に挙げた地震動強さ指標1〜Mにおける上記給水システム全体の損傷確率を、図中○で示すように、各々地震動強さ指標1〜Mの値の小さいものから順に整列させる。なお、図中の○は、上記地震動強さ指標1〜Mのうちの1つを示している。
【0037】
そして、複数の時刻歴地震波形1〜Nについて算定された給水システム全体の損傷確率(●)と、候補に挙げた地震動強さ指標1〜Mにおける給水システム全体の損傷確率(○)との差分の絶対値ε〜εを算定する。
【0038】
次いで、地震動強さ指標k(k=1〜M)に対する給水システムの損傷確率の分布のばらつきσを、下記(4)式で評価し、候補とした複数の地震動強さ指標1〜Mの中で最もσが小さい指標を、下記(5)式によって給水システムの損傷を最も良く説明できる最適な地震動強さ指標Iとして検出する(指標の検出ステップS6)。
【0039】
【数3】
【0040】
なお、上記指標の検出ステップS6において、給水システムの損傷を最も良く説明できる最適な地震動強さ指標Iを算定するために必要な時刻歴地震波形の数が充分に得られていない場合には、上記地震応答解析ステップS3に用いる時刻歴地震波形をさらに作成する。
【0041】
また、上記地震動強さ指標Iは算出されたものの、時刻歴地震波形が作成された各震源において同じ指標Iが得られていない場合には、再度指標設定ステップS1に戻って、候補となる上記地震動強さ指標を追加し、同様の実行プログラムによる演算を実施する。
【0042】
さらに、上記指標の検出ステップS6において最終的に選定された指標が、断層モデル地震波群の作成対象とする震源を決定する際に用いた地震動強さ指標と同じであることを確認する。そして、両者が同じである場合には、指標の検出ステップS6において検出された指標Iが、給水システムの損傷を最も良く説明できる最適な地震動強さ指標Iであるとして上記実行プログラムによる処理が終了する。これに対して、両者が異なる場合には、対象震源の範囲が変わる可能性があるため、選定指標の距離減衰式に基づきハザードを再評価し、対象震源の構成を確認する。
【0043】
以上説明したように、上記構成からなる機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法によれば、給水システムを構成する水槽1〜3、配管4およびポンプ5について、これらの機器類の損傷と関連性を有し、かつ時刻歴応答波形を用いて算出可能な複数の指標1〜Mを候補として設定し、これら複数の指標1〜Mの中から、上記給水システムの損傷に起因する建物10の機能的損傷を最も良く説明する(すなわち、建物機能損傷と関連性が高い)指標Iを検出することができるために、これによって検出された上記指標Iを用いて、選定した機器システムの機能損傷に影響を及ぼす震源を対象として地震動リスク用地震波群を作成し、これを入力とした上記給水システムの機能損傷評価を実施することにより、下表4に示すように、建物10の機能損傷と関連性が高い指標Iを検出せずに地震波群を作成した(a)比較手法よりも大幅に少ない解析負荷によって、上記給水システムが設置された建物を対象とした地震リスク評価を実施することができる。
【0044】
【表4】
【0045】
なお、上記実施形態においては、本発明に係る機器システムの機能損傷と関連が高い地震動強さ指標の検出方法を、図2に示す建物10の給水システムの損傷に伴う建物機能損傷を対象として地震リスクを評価する場合に適用した例についてのみ説明したが、いうまでもなく本発明はこれに限るものでは無く、様々な規模の建物における各種の機器システムの損傷評価に用いる最適な地震動強さの検出に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1〜3 水槽(機器)
4 配管(機器)
5 ポンプ(機器)
10 建物
S1 指標設定ステップ
S2 各機器の耐力の設定ステップ
S3 地震応答解析ステップ
S4 各機器の損傷確率算定ステップ
S5 機器システム全体の損傷確率算定ステップ
S6 指標の検出ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7