特許第6860481号(P6860481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860481
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】春化非依存的なリシアンサス植物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20210412BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20210412BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210412BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20210412BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20210412BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   A01H5/10
   C12N5/10
   A01H1/00 A
   A01H5/00 A
【請求項の数】19
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2017-526617(P2017-526617)
(86)(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公表番号】特表2017-535268(P2017-535268A)
(43)【公表日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】IL2015051140
(87)【国際公開番号】WO2016084077
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年10月3日
(31)【優先権主張番号】62/083,912
(32)【優先日】2014年11月25日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517166398
【氏名又は名称】イッサム リサーチ デベロプメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アムラッド,アビチャイ
(72)【発明者】
【氏名】バンデル,クフィル
(72)【発明者】
【氏名】プレバン,ツィリ
(72)【発明者】
【氏名】ザミル,ダニ
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/143749(WO,A1)
【文献】 大分県農林水産研究センター研究報告(農業編)、2008年、第2号、65〜84頁
【文献】 PHYSIOLOGIA PLANTARUM,2011年 4月,VOL:141, NR:4,PAGE(S):383 - 393,URL,http://dx.doi.org/10.1111/j.1399-3054.2011.01447.x
【文献】 Plant Biotechnol.,2010年,27(5),pp.489-493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2に由来するQTLを含む遺伝要素を含む観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物であって、
前記QTLが、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2上の約30cM〜約40cMの間に位置する少なくとも1つのマーカーを含み、
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号3に記載される核酸配列を含むマーカーEG_0075、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018、および配列番号40に記載される核酸配列を含むマーカーS1_18474044からなる群より選択され、
前記QTLが、前記観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物に春化非依存性を付与する、
観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項2】
前記遺伝要素が、春化非依存性を付与する前記QTLからなる、請求項1に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項3】
前記植物が、前記QTLを有さない観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物では抽苔に必要とされる低温処理を受けなくても抽苔する、請求項1〜2のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項4】
前記QTLが、配列番号1〜2、4〜14、16〜39および41〜42のいずれか1つに記載される核酸配列を含む少なくとも1つの追加的なマーカーをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項6】
前記マーカーが、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2上の位置34.53167046に位置する、請求項5に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項7】
前記遺伝要素が、前記観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物の連鎖群2の中に組み込まれている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項8】
前記QTLがさらに、導入されたQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物における2回目の一斉開花の間の茎の数と比較して、2回目の一斉開花の間の花茎の数を増加させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項9】
前記植物が、導入されたQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物と比較して同等の農学的形質を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項10】
前記植物が、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)染色体に由来する有害な遺伝学的引き込みを有さない、請求項1〜9のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項11】
前記植物が、春化非依存性を付与する前記QTLまたはその一部を含む遺伝要素に関してホモ接合型である近交系植物である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項12】
前記植物が、春化非依存性を付与する前記QTLまたはその一部を含む遺伝要素に関してヘテロ接合型である雑種植物である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物の種子であって、
前記種子から生育した植物が、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2に由来するQTLを含む遺伝要素を含み、
前記QTLが、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2上の約30cM〜約40cMの間に位置する少なくとも1つのマーカーを含み、
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号3に記載される核酸配列を含むマーカーEG_0075、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018、および配列番号40に記載される核酸配列を含むマーカーS1_18474044からなる群より選択され、
前記QTLが、前記植物に春化非依存性を付与する、
種子。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の植物から得られた細胞または組織培養物であって、
前記細胞または組織培養物から発育した植物が、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2に由来するQTLを含む遺伝要素を含み、
前記QTLが、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2上の約30cM〜約40cMの間に位置する少なくとも1つのマーカーを含み、
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号3に記載される核酸配列を含むマーカーEG_0075、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018、および配列番号40に記載される核酸配列を含むマーカーS1_18474044からなる群より選択され、
前記QTLが、前記植物に春化非依存性を付与する、
細胞または組織培養物。
【請求項15】
抽苔に関して春化要求性のない観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物を作製するための方法であって、
(a)ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2に由来するQTLを含む遺伝要素を観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物に導入するステップであって、
前記QTLが、ユーストマ エグザルタトゥム(E.exaltatum)の連鎖群2上の約30cM〜約40cMの間に位置する少なくとも1つのマーカーを含み、
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号3に記載される核酸配列を含むマーカーEG_0075、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018、および配列番号40に記載される核酸配列を含むマーカーS1_18474044からなる群より選択され、
前記QTLが、前記観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物に春化非依存性を付与する、
ステップ;および
(b)前記観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物のゲノムにおける前記少なくとも1つのマーカーの存在を検出するステップ;
を含み、それにより、抽苔および/または開花に関して春化要求性のない観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物を作製する、方法。
【請求項16】
前記遺伝要素が、春化非依存性を付与する前記QTLからなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記QTLが、配列番号1〜2、4〜14、16〜39および41〜42のいずれか1つに記載される核酸配列を含む少なくとも1つの追加的なマーカーを含む、請求項1516のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのマーカーが、配列番号15に記載される核酸配列を含むマーカーS1_74154018である、請求項1517のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記QTLを含む前記遺伝要素が、前記観賞用ユーストマ グランディフロラム(E.grandiflorum)作物植物の連鎖群2の中に導入される、請求項1518のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽苔および開花の誘導に低温処理(春化)を必要としない作物のリシアンサス(ユーストマ グランディフロラム(Eustoma grandiflorum))植物、ならびに、それを作製するための手段および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リシアンサス(リンドウ科のユーストマ グランディフロラム)は、国際市場では比較的新しい花の作物であり、切り花として、また鉢植えとして、広く利用されている。その天然に存在する植物の一般名称は、テキサスブルーベル、プレイリーローズおよびプレイリーゲンティアンである。リシアンサスは、自家受粉および他家受粉の能力を備えた二倍体の生物であり、商業市場におけるほぼ全ての種子がF雑種である。E.grandiflorum種は、北米の大平原諸州の草原に起源を持ち、春または初夏に開花する一年生または二年生と説明されている。ユーストマ属の他の既知の種はE.exaltatumだけであり、これは、E.grandiflorumとの他家受粉が可能である。20世紀後半からの30年未満の期間の間に、リシアンサスは実質的に無名の植物から世界における切り花用作物のトップ10のうちの一つとなった。
【0003】
野生型の花壇用の表現型(bedding phenotype)を現代の切り花用作物へと形質転換する試みは1930年代初頭まで遡り、主に日本で行われた。しかし、1977年になってやっと、最初のF1雑種(1984年頃の国際市場に「Yodel」という名称で一連の品種が紹介された)の開発に伴って重大なブレークスルーが起こった。鉢植えまたは花壇用の植物のための、または切り花市場のための、改良品種を目的とした育種プログラムが1980年代後半から始まっている。現在、リシアンサス市場では、切り花用の品種に主に焦点が当てられている。
【0004】
作物植物としてのリシアンサスの導入は遅れており、不適切な生育パターン、花の収量の低さ、均一性の欠如および長い生育期間を含め、栽培上の課題および経済的課題に直面している。この作物への関心が高まっていることから、科学文献が並行して増加している。しかし、この作物は未だに、経済的および栽培的に重要であるものの研究上の大きな関心を持たれない作物である「孤児作物」の花卉栽培の例と考えられている。
【0005】
限られた研究では、リシアンサスにおける形質遺伝の調査に専念しているが、これらのいずれも、分子情報と遺伝メカニズムを組み合わせたものではなかった。Ecker等(Ecker R et al.,1993.Genet.Anal.256:253−257;Ecker R et al 1994.Euphytica 78:193−197)は、生育速度、葉のサイズ、茎の直径および節の数に対する明確な雑種強勢効果を示した。広範な遺伝的バックグラウンドを有する種々の近交系、F、FおよびBCの集団で実験が行われた。開花に低温を必要とする遺伝子型と必要としない遺伝子型との間での交配から生じたF、FおよびBCの集団の解析に基づいて、種子休眠の遺伝についてのモデルが提唱された。このモデルには、累積的効果を有する6つの二対立遺伝子の遺伝子座が含まれ、これらにおいて、少なくとも9つの「休眠をもたらす(dormancy-conferring)」アレルの存在が、表現型としての種子休眠の誘導に必要である(Ecker R et al 1994.Plant Breed.113:335−339)。
【0006】
リシアンサスは、条件的な長日植物と考えられており、光周期の影響は軽微であると考えられているものの、実験により、短日が開花に対して遅延効果を有し得ること、および、抽苔に対して負の二次的効果も有し得ることが示されている(Harbaugh B K.,1995.HortScience.30:1375−1377)。
【0007】
リシアンサスにおいて生育および開花誘導に影響する主な環境要因は温度である(Ohkawa K and Sasaki E.,1999.Acta Hortic.482:423−426)。リシアンサスの実生が最初の生育段階で14日間超、20℃超の温度に曝されると、ロゼットでの生育が起こり、花茎の伸長が遅延する。ロゼット葉を有する植物は、抽苔することがなく、非常に遅く散発的に開花し、これは、農業生産には適合しない。少なくとも4週間にわたる15℃未満の低温への曝露(「春化」と呼称されるプロセス)は高温の負の影響を排除することが証明されている(Ohkawa K et al.,1991.Sci.Hortic.(Amsterdam).48:171−176)。ジベレリン酸(GA)は、リシアンサスを含むいくつかの植物で茎の伸長を調節することによって春化効果において重要な役割を果たすことが見出された(Hisamatsu T et al.,1998.J.Japanese Soc.Hortic.Sci.67:866−871)。低温は、アラビドプシス タリアナ(Arabidopsis thaliana)およびリシアンサスの栄養生長期のロゼット(vegetative rosette)においてGAの生合成を開始させGA感受性を高め得る(Oka M et al.,2001.Plant Sci.160:1237−1245)。また、還元型グルタチオン(GSH)も、おそらくGAの上流で抽苔の調節に影響することによって、リシアンサスにおける春化への応答において役割を有することが示されている(Yanagida M et al.,2004.Plant Cell Physiol.45:129−37)。
【0008】
春化要求性において役割を果たす可能性があるいくつかの周知の遺伝子のリシアンサスでのホモログが調査されている(Nakano Y et al.,2011.Physiol.Plant.141:383−93)。遺伝子は、アラビドプシスの春化メカニズムにおけるその機能に基づいて選択された。FLOWERING LOCUS C(FLC)は、MADSボックス転写因子をコードし、春化によって抑制される開花の重要な抑制因子である。FLOWERING LOCUS T(FT)およびOVEREXPRESSION OF CONSTANS 1(SOC1)は、FLCによって抑制される花成のプロモーターである。リシアンサスの相同遺伝子の機能が、遺伝子組換えアラビドプシス植物においてユーストマの遺伝子を過剰発現させることによって調べられた。春化された植物および春化されていない植物についての種々の組織および時間における発現解析により、EgFLCL(E.grandiflorum FLC−like)が低温によってアップレギュレートされ、従って、低温処理前に豊富に発現しており春化によって発現抑制されるアラビドプシスのFLCとは異なるということが示された。EgSOC1L(E.grandiflorum SOC1−like)およびEgFTL(E.grandiflorum FT−like)は、春化後の温暖な長日条件によって誘導されるオオムギのHv−FT1で観察されるのと同様のパターンで、春化後の温かい温度および長日条件によって誘導された(Hemming et al., 2008)。これらの発見は、ユーストマにおける春化による開花調節が、アラビドプシス タリアナに関して発展したパラダイムとはかなり異なるということを示唆する(Nakano et al.,2011、上記のものと同じ文献)。
【0009】
リシアンサスの若い実生を少なくとも4週間にわたって15℃未満の温度に曝露させるという要件は、特に他の点ではリシアンサスの切り花の生産に非常に適しているイスラエルのような温暖な気候の国では、時間および資金の面で栽培者には重荷である。
【0010】
従って、商業的に成功している系統の表現型を維持しつつも春化に非感受性であって抽苔および開花に低温処理を必要としないリシアンサス(ユーストマ グランディフロラム)植物の必要性は未だに満たされておらず、また、そのようなリシアンサス植物を有することは非常に有利であろう。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、春化要求性が調節された観賞用リシアンサス(ユーストマ グランディフロラム)植物を提供する。具体的には、本発明は、春化に依存せずに抽苔および開花するリシアンサス植物を提供し、これは、農業的な商業用途に非常に適している。
【0012】
本発明は、観賞用作物であるリシアンサス E.grandiflorumのゲノム中への野生型ユーストマ エグザルタトゥム(Eustoma exaltatum)の連鎖群(linkage group)(LG)2に相当する染色体の最小セグメントの遺伝子移入が、この作物植物に必要であることが知られている低温への曝露がなくても抽苔および開花が起こるようにE.grandiflorumの春化要求性を改変したという予想外の発見に部分的に基づく。使用された野生型E.exaltatum寄託物(accession)は春化非依存性であり、上記のQTLまたはその一部を有さないE.grandiflorum植物では抽苔に必要とされる低温処理を受けなくても抽苔する。
【0013】
E.exaltatumのLG−2セグメントは、約25〜約45cMの間に位置する少なくとも1つのマーカーに関連するQTLを含む。本発明の遺伝子移入されたE.grandiflorum植物は、他の点では、その外観および農業上の要件において選りすぐりの植物と類似する。さらに、E.grandiflorumへのE.exaltatum由来のQTLの遺伝子移入は、この種に典型的な2回目の一斉開花(flowering flush)における花茎の数の増加をもたらす。
【0014】
一態様によれば、本発明は、ユーストマ エグザルタトゥムの連鎖群(LG)2に由来するQTLまたはその一部を含む遺伝要素を含む観賞用ユーストマ グランディフロラム作物植物を提供し、ここで、QTLまたはその一部は、春化非依存性をE.grandiflorum植物に付与する。
【0015】
特定の実施形態によれば、QTLまたはその一部を含むE.exaltatum植物は春化非依存性である。特定の例示的実施形態によれば、春化非依存性のE.exaltatumはE.exaltatum系統14_30 P1RIであり、その種子は2015年11月23日に寄託番号NCIMB42491でNCIMB Ltd.に寄託された。
【0016】
一部の実施形態によれば、遺伝要素は、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部からなる。
【0017】
一部の実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の25〜45cMの間に広がる区間内に位置する少なくとも1つのマーカーと関連している。一部の実施形態によれば、マーカーは、表1に列挙されるマーカーのいずれか1つである。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。
【0018】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の30〜40cMの間に広がる区間内に位置する少なくとも1つのマーカーと関連している。一部の実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、配列番号1〜42のいずれか1つに記載される核酸配列を含む。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。
【0019】
一部の実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、配列番号3に記載される核酸配列を含む。他の実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、配列番号15に記載される核酸配列を含む。さらなる実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、配列番号40に記載される核酸配列を含む。
【0020】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部は、マーカーS1_74154018と関連している。特定の例示的実施形態によれば、マーカーは、E.exaltatumの連鎖群2上の位置34.53167046に位置する。一部の実施形態によれば、マーカーは、配列番号15に記載される核酸配列CAGCTCTTTCATCACTGTGAGGCTCATAGTCTGGCTGTTCTGCATCTGAATTTGAAACACGTGCを含む。
【0021】
さらなる実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含む遺伝要素は、観賞用E.grandiflorumの連鎖群2に相当する染色体内に組み込まれる。特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部を含む遺伝要素は、連鎖群2に相当するE.grandiflorumの染色体上の約25cM〜約45cMの位置に組み込まれる。
【0022】
一部の実施形態によれば、QTLまたはその一部はさらに、導入されるQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用E.grandiflorum植物における2回目の一斉開花での茎の数と比較して、2回目の一斉開花での花茎の数を増加させる。
【0023】
特定の実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含む遺伝要素を含む観賞用E.grandiflorum植物は、導入されるQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用E.grandiflorum植物と比較して同等の農学的形質を有する。特定の実施形態によれば、農学的形質は、限定されるものではないが、小花柄の長さ、生育速度、収量、非生物的ストレスに対する耐性および病原体に対する耐性から選択される。特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部を含む遺伝要素は、E.grandiflorumの選りすぐりの栽培品種に導入される。本発明のE.grandiflorumは観賞用作物植物であるが特定の系統および/または品種に限定されないということが理解されるべきである。
【0024】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部を含むE.grandiflorumの花の小花柄の長さは、導入されるQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用E.grandiflorum植物の小花柄の長さと同等である。
【0025】
さらに別の実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含む遺伝要素を含む観賞用E.grandiflorum植物は、E.exaltatumの染色体に由来する有害な遺伝学的引き込み(genetic drag)を有さない。
【0026】
特定の実施形態によれば、植物は、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含む遺伝要素に関してホモ接合型である近交系植物である。他の実施形態によれば、植物は、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含む遺伝要素に関してヘテロ接合型である雑種植物である。QTLまたはその一部に関してヘテロ接合型である植物は、本明細書に記載されるように、低温処理を受けなくても抽苔できるということが明確に理解されるべきである。
【0027】
種子、切り枝、および繁殖に使用できる任意の他の植物の部分(単離された細胞および組織培養物を含む)も本発明の範囲内に包含される。上記の種子または他の繁殖用材料から生産された植物は、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部を含むということが理解されるべきである。
【0028】
本発明は、E.exaltatumの連鎖群2上に位置するQTLと恒常的に春化されているという表現型との間の、これまでに知られていなかった関連性を開示し、これは、E.grandiflorumのゲノム中に形質転換された際に、導入されるQTLまたはその一部を有さない対応する観賞用E.grandiflorum植物には必要であることが知られている春化のための低温に曝露されなくても抽苔および開花する能力をもたらす。
【0029】
従って、別の態様によれば、本発明は、春化非依存性を付与する核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供し、ここで、核酸配列は、E.exaltatum植物の連鎖群2に相当する染色体のセグメントに由来し、このE.exaltatum植物は、抽苔および開花に春化を必要としない。
【0030】
特定の実施形態によれば、E.exaltatumのセグメントは、25cMと45cMとの間に位置する核酸配列またはその一部を含む。特定の実施形態によれば、E.exaltatumのセグメントは、表1に列挙される遺伝子マーカーのいずれか1つの核酸配列を含む。他の実施形態によれば、E.exaltatumのセグメントは、30cMと40cMとの間に位置する核酸配列またはその一部を含む。これらの実施形態によれば、セグメントは、配列番号1〜42のいずれか1つに記載される核酸配列またはそれらの組み合わせを含む。
【0031】
特定の例示的実施形態によれば、核酸配列は、配列番号15に記載される核酸配列を含む、遺伝子マーカーS1_74154018の配列を含む。
【0032】
さらに別の態様によれば、本発明は、抽苔に関して春化要求性のない観賞用E.grandiflorumを作製するための方法であって、
ユーストマ エグザルタトゥムの連鎖群2に由来するQTLまたはその一部を含む遺伝要素をE.grandiflorumに導入することを含み、
QTLまたはその一部がE.grandiflorum植物に春化非依存性を付与し、それにより、開花に関して春化要求性のない観賞用E.grandiflorumを作製する、
方法を提供する。
【0033】
特定の実施形態によれば、QTLまたはその一部を含むE.exaltatum植物は春化非依存性である。
【0034】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部を含む春化非依存性のE.exaltatum植物はE.exaltatum系統14_30 P1RIであり、その種子は2015年11月23日に寄託番号NCIMB42491でNCIMB Ltd.に寄託された。
【0035】
一部の実施形態によれば、遺伝要素は、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部からなる。
【0036】
一部の実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の約25〜約45cMに位置する少なくとも1つのマーカーまたはそれらの任意の組み合わせと関連している。一部の実施形態によれば、少なくとも1つの遺伝子マーカーは、表1に列挙される群から選択される。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。他の実施形態によれば、QTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の約30〜約40cMに位置する少なくとも1つのマーカーまたはそれらの任意の組み合わせと関連している。これらの実施形態によれば、少なくとも1つの遺伝子マーカーは、配列番号1〜42のいずれか1つに記載される核酸配列を含む。
【0037】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部は、配列番号15に記載される核酸配列を含む、マーカーS1_74154018と関連している。
【0038】
特定の実施形態によれば、QTLまたはその一部を含む遺伝要素は、E.grandiflorumの連鎖群2に相当する染色体中に導入される。特定の例示的実施形態によれば、セグメントは、E.grandiflorumの連鎖群2の約25cM〜約45cMの位置に導入される。
【0039】
QTLまたはその一部を含む遺伝要素をE.grandiflorumに導入するために、当業者に公知の任意の方法を使用してよい。
【0040】
特定の例示的実施形態によれば、遺伝要素は、遺伝子移入によって導入される。
【0041】
他の実施形態によれば、遺伝要素は、形質転換によって導入される。
【0042】
特定の実施形態によれば、春化処理に依存せずに抽苔するE.grandiflorum植物の選択は、E.grandiflorum植物のゲノム中の本明細書に記載されるE.exaltatum由来のQTLまたはその一部の存在を検出することによって行われる。QTLまたはその一部を検出するために、当技術分野で公知の任意の方法を使用してよい。特定の例示的実施形態によれば、検出は、本明細書に記載されるようなQTL内に位置するマーカーを識別することによって行われる。
【0043】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の説明および図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、出蕾初期(段階1)から老化(段階9)まで定義される9つの異なる発達段階を示す。写真は、E.grandiflorumのピンク親株とE.exaltatumとの間での交配から得られたF雑種の花を示す。
図2A図2は、抽苔せずにロゼットの状態である植物(図2A)および抽苔した植物(図2B)を示す。
図2B図2は、抽苔せずにロゼットの状態である植物(図2A)および抽苔した植物(図2B)を示す。
図3A図3は、花の種々の表現型を示す。図3A:雄しべ数の変化。
図3B図3は、花の種々の表現型を示す。図3B:柱頭裂片上の変化。
図3C図3は、花の種々の表現型を示す。図3C:小花柄の長さ。
図3D図3は、花の種々の表現型を示す。図3D:萼片の長さ。
図4図4は、2種の組換え近交系(RI)マッピング集団の作製の概略図を提示する。
図5図5は、組み合わされた組換え近交系リシアンサス集団の推定マーカー連鎖を示す。線は連鎖(高いLODスコアまたは低い組換え割合)を示し、バックグラウンドは、連鎖していないマーカー(低いLODスコアまたは高い組換え割合)を示す。
図6図6は、4500個のSNPマーカーおよび69個の連鎖群から構成されるリシアンサスの連鎖地図を示す。
図7図7はマンハッタンプロットを示す:シーケンシングによる遺伝子型決定(genotype-by-sequencing)(GBS)のデータを用いて構築した組み合わされたホモ接合型RI連鎖地図上のリシアンサスロゼット形成QTL。
図8図8は、GBSデータを用いて構築した組み合わされたホモ接合型RI連鎖地図の連鎖群2上のリシアンサスロゼット形成QTLの詳細図を示す。
図9図9は、抽苔している植物の平均数についての、S1_74154018のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型である植物(1)とE.exaltatumのS1_74154018アレルに関してホモ接合型である植物(3)との比較を示す。
図10図10はマンハッタンプロットを示す:シーケンシングによる遺伝子型決定(GBS)のデータを用いて構築した組み合わされたヘテロ接合型RI連鎖地図上のリシアンサスロゼット形成QTL。
図11図11は、GBSデータを用いて構築した組み合わされたヘテロ接合型RI連鎖地図の連鎖群2上のリシアンサスロゼット形成QTLの詳細図を示す。
図12図12は、抽苔している植物の平均数についての、S1_74154018のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型である植物(1)とS1_74154018のE.grandiflorumアレルを1つおよびS1_74154018のE.exaltatumアレルを1つ含むヘテロ接合型植物(2)との比較を示す。
図13A図13は、春化非依存性アレルを含む雑種のヘテロ接合型植物(F1pと命名)の抽苔および春化依存性の商業品種の抽苔を示す。図13A:抽苔の割合。
図13B図13は、春化非依存性アレルを含む雑種のヘテロ接合型植物(F1pと命名)の抽苔および春化依存性の商業品種の抽苔を示す。図13B:開花しているF1p植物の写真。
図13C図13は、春化非依存性アレルを含む雑種のヘテロ接合型植物(F1pと命名)の抽苔および春化依存性の商業品種の抽苔を示す。図13C:ロゼット葉表現型を有するRosita3 Green植物の写真。
図14図14は、S1_74154018のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型である植物(1)とE.exaltatumアレルに関してホモ接合型である植物(3)との間での、2回目の一斉開花における植物あたりの茎の平均数の比較を示す。
図15図15は、抽苔している植物の平均数についての、EG_0075のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型である植物(1)とE.exaltatumのEG_0075アレルに関してホモ接合型である植物(3)との比較を示す。
図16図16は、抽苔している植物の平均数についての、S1_18474044のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型である植物(1)とE.exaltatumのS1_18474044アレルに関してホモ接合型である植物(3)との比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
定義
用語「植物」は、本明細書において、その最も広い意味で使用される。この用語はまた、植物の発育の任意の段階で存在する構造に大規模に分化する複数の植物細胞も指す。このような構造には、限定されるものではないが、根、茎、シュート、葉、花、花弁、果実等が包含される。特定の例示的実施形態によれば、(特にユーストマ グランディフロラムに関連して)本明細書で互換的に使用される用語「観賞用植物」または「観賞用作物植物」は、その切り花のための商業栽培に好適な系統および園芸植物または鉢植え植物として好適な系統を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「植物の部分」は通常、単一細胞および細胞組織(それからリシアンサス植物が再生し得る、植物中で完全なままである植物細胞、細胞塊および組織培養物など)を含め、リシアンサス植物の部分を指す。植物の部分の例としては、限定されるものではないが、花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、葯、花、果実、茎、シュート、および種子に由来する、単一細胞および組織;ならびに花粉、胚珠、葉、胚、根、根端、葯、花、果実、茎、シュート、若枝、根茎、種子、プロトプラスト、カルス等が挙げられる。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「抽苔」は、栄養生長期またはロゼット期から花序期または生殖生長期への移行を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「春化」は、それによって一部の植物における花の誘導が、植物を低温に一定期間曝露させることで促進されるプロセスを指す。特定の実施形態によれば、リシアンサス(ユーストマ)に関連する場合、用語「春化」は、最初の生育段階にある実生を20℃未満(時には18℃未満または15℃未満)の低温に曝露させることを含む。用語「最初の生育期」は、最初の葉の出現から少なくとも約3週間または約4週間またはそれ以上の期間を指す。本明細書で使用される場合、用語「春化非依存性」または「春化非依存的」は、本質的に春化処理がなくても抽苔および開花する、商業栽培のための当技術分野で公知の最適条件下で栽培されるリシアンサス植物に適用される。
【0049】
用語「遺伝子座(locus)」(複数形「loci」)は、本明細書では、所与の遺伝子が所与の種の染色体上において占める位置と定義される。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「連鎖群」は、同一染色体上に位置する遺伝子または遺伝形質の全てを指す。連鎖群内では、互いに十分に近接している遺伝子座同士は遺伝的交雑において連鎖を示すことになる。乗り換えの確率は染色体上での遺伝子間の物理的距離に伴って上昇するため、連鎖群内で互いの位置がはるかに離れている遺伝子同士は、直接的な遺伝学的試験において検出可能な連鎖を全く示さない可能性がある。用語「連鎖群」は、大抵の場合、染色体の割り当てがまだ行われていない遺伝系において連鎖した挙動を示す遺伝子座を指すために使用される。従って、本発明の背景において、用語「連鎖群」は、染色体(の物理的実体)と同義である。
【0051】
用語「QTL」は、本明細書では、当技術分野で認識されている意味で使用される。用語「春化非依存性を付与するQTL」は、春化非依存性をコードする少なくとも1つの遺伝子または少なくとも調節領域(すなわち春化非依存性に関与する1つ以上の遺伝子の発現を制御する染色体の領域)と関連している、ユーストマの特定の染色体上に位置する領域を指す。その遺伝子の表現型の発現は、例えば、低温処理を必要としない抽苔および/または2回目の一斉開花における花の数の増加であってよい。QTLは、例えば、その産物が春化非依存性を付与する1つ以上の遺伝子を含んでよい。あるいは、QTLは、例えば、その産物が植物のゲノム中の他の遺伝子座の遺伝子の発現に影響を与えることで春化非依存性を付与する調節遺伝子または調節配列を含んでよい。本発明のQTLは、1つ以上の分子ゲノムマーカーを用いてそれぞれのE.exaltatum寄託物のゲノム中におけるその遺伝学的位置を示すことによって定義されてよい。1つ以上のマーカーは次に、特定の遺伝子座を示す。遺伝子座間の距離は通常、同一染色体上の遺伝子座間での乗り換えの頻度により測定され、センチモルガン(cM)として表される。2つの遺伝子座が離れるにつれて、それらの間で乗り換えが起こる可能性が高くなる。逆に、2つの遺伝子座が近接している場合、それらの間では乗り換えが起こりにくい。一般に、1センチモルガン(Kosambiの地図関数(cM))は、遺伝子座(マーカー)間での1%の組換えに概ね相当する。QTLを複数のマーカーによって示すことができる場合、端点のマーカー間の遺伝学的距離がQTLのサイズを示す。
【0052】
用語「天然の遺伝的バックグラウンド」は、本明細書では、QTLの元の遺伝的バックグラウンドを示すために使用される。このようなバックグラウンドは、ユーストマ エグザルタトゥム(特に、開花に春化を必要としないE.exaltatum)のゲノムである。従って、E.exaltatum系統14_30 P1RIは、本発明のQTLの天然の遺伝的バックグラウンドを代表する。別の種のユーストマの対応する染色体上の同じ位置または異なる位置へのE.exaltatumの連鎖群2に由来するQTLまたはその一部を含むDNAの導入を伴う方法は、その天然の遺伝的バックグラウンドにない当該QTLまたはその一部をもたらすことになる。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「ヘテロ接合型」は、異なるアレルが相同染色体上の対応する遺伝子座に存在する場合に存在する遺伝学的状態を意味する。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「ホモ接合型」は、同一のアレルが相同染色体上の対応する遺伝子座に存在する場合に存在する遺伝学的状態を意味する。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「雑種」は、遺伝的に異なる2個体の間での交配(限定されるものではないが、2種の近交系統の間での交配を含む)の任意の子孫を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「近交系」は、実質的にホモ接合型である個々の植物または植物系統を意味する。
【0057】
用語「遺伝子移入」、「遺伝子移入された」および「遺伝子移入する」は、ある種、品種または栽培品種の遺伝的バックグラウンドから別の種、品種または栽培品種のゲノム中への遺伝子座または形質遺伝子座の所望のアレル(複数可)の伝播に対して適用される。1つの方法では、所望のアレル(複数可)は、2つの親の間での性的交配によって遺伝子移入でき、ここで、親の一方は、そのゲノム中に所望のアレルを有する。所望のアレルは、所望の遺伝子または複数の遺伝子、マーカー遺伝子座、QTL等を含み得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「集団」は、共通の遺伝学的起源を有する遺伝学的に不均一な植物のコレクションを指す。
【0059】
用語「遺伝子操作」、「形質転換」および「遺伝子改変」は全て、本明細書では、別の生物のDNA(通常は染色体DNAまたはゲノム)中への単離されたクローン化遺伝子の導入に関して、または植物ゲノム内での遺伝子の改変に対して、使用される。
【0060】
用語「分子マーカー」または「DNAマーカー」は、本明細書では互換的に使用され、核酸配列の特徴における差異を可視化するための方法において使用される分子指標を指す。このような指標の例は、特定の遺伝学的位置および染色体上での位置を規定する、多様性アレイ技術(diversity array technology)(DArT)マーカー、制限断片長多型(RFLP)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、一塩基多型(SNP)、挿入変異、マイクロサテライトマーカー、配列特徴的増幅領域(sequence-characterized amplified regions)(SCAR)、切断増幅多型配列(cleaved amplified polymorphic sequence)(CAPS)マーカー、もしくはアイソザイムマーカー、または本明細書に記載されるマーカーの組み合わせ、である。本発明において使用されるDNAマーカーは大抵、シーケンシングによる遺伝子型決定(GBSマーカー)である。
【0061】
一態様によれば、本発明は、ユーストマ エグザルタトゥムの連鎖群2に由来するQTLまたはその一部を含む遺伝要素を含む観賞用作物ユーストマ グランディフロラム植物を提供し、ここで、QTLまたはその一部はE.grandiflorum植物に春化非依存性を付与する。
【0062】
本発明は、商業的に適した切り花用作物を生産するためには生育段階初期における低温条件が必須であることがこれまで知られていたリシアンサスにおいて春化非依存性に関連する量的形質遺伝子座(QTL)を初めて開示する。QTLは、リシアンサスの非商業種であるユーストマ エグザルタトゥムにおいて見出された。膨大な数の表現型およびそれらに関連する遺伝子型の解析の結果、春化の必要性を本質的に失わせるQTLは、春化非依存性の表現型を有するE.exaltatum植物の連鎖群2上に位置することが見出された。本発明の過程で使用された植物は、E.exaltatum系統14_30 P1RIであった。この系統の種子は、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関であるNCIMB Ltd.(Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen,AB21 9YA,スコットランド)に寄託されている。寄託日は2015年11月23日であった。種子の寄託物は、本出願の出願日前に存在していた材料の代表的なサンプルである。NCIMB I.D.番号はNCIMB 42491である。
【0063】
特定の実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の25〜45cMの間に広がる区間内に位置する少なくとも1つのマーカーと関連している。特定の実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、以下の表1に提示されるマーカーから選択される。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。
【0064】
【表1】
【0065】
特定の例示的実施形態によれば、春化非依存性を付与するQTLまたはその一部は、E.exaltatumの連鎖群2上の30〜40cMの間に広がる区間内に位置する少なくとも1つのマーカーと関連している。特定の実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、以下の表2に列挙されるマーカーから選択される。これらの実施形態によれば、少なくとも1つのマーカーは、配列番号1〜42のいずれか1つに記載される核酸配列を含む。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。
【0066】
【表2】
【0067】
遺伝単位「QTL」は、本発明による、リシアンサス植物が抽苔および開花するために春化を必要とするという定量可能な表現型形質に直接関連するゲノム上の領域を示す。QTLは遺伝単位「遺伝子」とは異なるものであり、QTL上において、その表現型の発現は、予測不能な多数の要因に左右される。本発明で同定された、いくつかのQTLマーカーは、公知の遺伝子内に位置することが見出されている(表1を参照のこと)。これらの遺伝子は、本発明によって初めて開示される春化非依存性というQTLの遺伝性形質において役割を果たすかもしれないし、果たさないかもしれない。
【0068】
特定の形質は、特定のマーカーまたは特定の複数のマーカーと関連している。本発明において開示されるマーカーは、QTLの位置を示し、さらに、植物における春化非依存性という特定の表現型形質の存在と相関する。ゲノム上でのQTLの位置を示す連続したゲノムマーカーは原則的には任意または非限定的であるということが留意されるべきである。一般に、QTLの位置は、表現型形質との統計学的相関を示すマーカーの連続した連なりによって示される。その連なりの外側にマーカーが見出されると(すなわち、そのマーカーが非常に離れているために、そのマーカーとQTLとの間の領域で組換えが高頻度に起こり、その結果、マーカーの存在が表現型の存在と統計学的に有意なようには相関しない、ということを示す特定の閾値未満のLODスコアを有するマーカー)、QTLの境界が設定される。従って、その特定された領域内に位置する他のマーカーによってQTLの位置を示すことも可能である。本発明の例示的マーカーのLODスコアは、上記の表2に示されている。
【0069】
本発明のさらなる実施形態によれば、連続したゲノムマーカーはまた、個々の植物におけるQTLの存在(従って表現型の存在)を示すために使用されてもよい。すなわち、それらは、マーカー支援選抜(MAS)法において使用できる。原則として、潜在的に有用なマーカーの数は限られているが、多数のマーカーが使用されてもよい。当業者であれば、本出願において開示されるものに加えて、さらなるマーカーを容易に同定できる。QTLと連鎖している任意のマーカー(例えば、特定の閾値を越える確立したLODスコアを有しており、そのため、そのマーカーとQTLとの間での組換えが交配において全くまたはほぼ全く起こらないということを示すマーカーが広がるゲノム領域の物理的境界内に含まれるもの)ならびにQTLに対して連鎖不平衡である任意のマーカーが、MAS法において使用されてよい。従って、QTLに関連するものとして本発明において同定されたマーカー(マーカーS1_74154018を含む)は、MAS法における使用に好適なマーカーの単なる例である。さらに、QTL(または、その特定形質付与部分)が、別の遺伝的バックグラウンドに(すなわち、別の植物種のゲノム中に)遺伝子移入される場合、その後、その形質が子孫に存在するにもかかわらず一部のマーカーが子孫においてもはや見出されないことがある。これは、このようなマーカーが元の親系統のみにおいてQTLの特定形質付与部分を表すゲノム領域の外側にあるということ、および、新しい遺伝的バックグラウンドが、異なるゲノム構成を有するということを示す。
【0070】
特定の実施形態によれば、本発明のQTLと関連しているマーカーは表1に列挙される。他の実施形態によれば、本発明のQTLと関連しているマーカーは表2に列挙され、これらは、配列番号1〜42に記載される核酸配列を有する。一部の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部は、配列番号3に記載される核酸配列を有するマーカーEG0075、配列番号15に記載される核酸配列を有するマーカーS1_74154018、および配列番号40に記載される核酸配列を有するマーカーS1_18474044からなる群より選択されるマーカーと関連している。それぞれの可能性が本発明の別個の実施形態を表す。
【0071】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部は、マーカーS1_74154018と関連している。特定の実施形態によれば、マーカーは、配列番号15に記載される核酸配列を含む。
【0072】
作物種E.grandiflorumのゲノム中へのQTLの遺伝子移入は、最初に低温に曝露されなくても抽苔して花茎を発達させる植物をもたらした。予想外にも、この遺伝子移入は、生育パターンおよび生じた花に対して有害な作用をほとんどまたは全く及ぼさなかった。さらに、この遺伝子移入は、春化要求性に影響を与えただけでなく、リシアンサスの商業栽培において一般的に誘導される2回目の一斉開花における植物あたりの花茎の数の増加をもたらした。まとめると、農業栽培に絡む費用を低減し、収量を上げるという、これら2つの形質は、大きな商業的価値をもたらす。
【0073】
リシアンサスの抽苔に関しての春化の必要性を失わせるQTLまたはその一部を含む遺伝要素の導入は、当業者に公知の任意の方法で行われてよい。作製されたE.grandiflorumにおいて、QTLを含むセグメントは、その天然のバックグラウンドにないということが明白に理解されるべきである。
【0074】
本明細書に開示されるように春化要求性を低減または排除できる本発明のQTLまたはその任意の部分を含む核酸(好ましくはDNA)配列が、観賞用E.grandiflorumを作製するために使用されてよい。特定の実施形態によれば、QTLは、適切な抽苔および開花に春化を必要とするE.grandiflorum(典型的には、商業栽培に好適な品種)に導入される。本発明の教示によれば、上記の核酸配列は、E.exaltatumドナー植物に由来する。
【0075】
春化非依存性を付与するQTLまたはその一部は、当技術分野で公知の任意の方法を用いてドナー植物から単離されてよい。
【0076】
春化非依存性を付与するQTL配列またはその一部は、当業者に公知の任意の方法によってレシピエントのリシアンサス植物に導入されてよい。特定の実施形態によれば、QTLまたはその一部は、QTLドナーをレシピエントのリシアンサス(特にE.grandiflorum)と交配させることによって(すなわち遺伝子移入によって)導入できる。あるいは、QTLまたはその一部を含む単離された核酸配列は、以下で説明されるように形質転換によって導入できる。任意選択で、形質転換の後に、QTLを含む子孫であって春化非依存性を示す子孫の選抜がなされる。
【0077】
本発明のQTLは単離されてよく、その核酸配列は、当業者に公知の任意の方法によって決定されてよい。例えば、QTLまたはその春化非依存性付与部分を含む核酸配列がE.exaltatumドナー植物から、上記植物のゲノムを断片化して本明細書に開示される上記QTLを示す1つ以上のマーカーを有する断片を選択することによって単離されてよい。その後に、または代替的に、上記植物から得られたゲノム核酸試料またはゲノム断片から上記QTLを含む核酸配列を増幅するために、上記QTLを示すマーカー配列(またはその一部)が、例えばPCRを用いて、増幅プライマーとして使用されてよい。次に、増幅された配列が、単離されたQTLを得るために精製されてよい。次に、QTLの核酸配列および/またはそれに含まれる任意のさらなるマーカーの核酸配列が、標準的な配列決定法によって取得されてよい。
【0078】
本発明の特定の態様によれば、春化非依存性を付与する核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供され、ここで、核酸配列は、E.exaltatum植物の連鎖群2に相当する染色体のセグメントに由来し、このE.exaltatum植物は、抽苔および開花に春化を必要としない。
【0079】
単離された核酸配列を用いた植物の形質転換は一般に、植物細胞において機能するであろう発現ベクターの構築を伴う。本発明の教示によれば、このようなベクターは、本発明のQTLまたはその一部を含む。典型的には、ベクターは、調節エレメントの制御下にあるか調節エレメントに機能可能に連結されている、QTLまたはその一部を含む。特定の実施形態によれば、調節エレメントは、プロモーター、およびエンハンサーおよび翻訳終結配列からなる群より選択される。ベクター(複数可)はプラスミドの形態であってよく、リシアンサス植物に核酸配列を形質転換するのに好適であることが当技術分野で知られている形質転換法を用いる抽苔に春化を必要としない遺伝子組換えE.grandiflorum植物を作製するための方法において、単独で、または他のプラスミドと組み合わせて、使用され得る。
【0080】
発現ベクターは、マーカーを含む形質転換された細胞をネガティブ選択によって(その選択マーカー遺伝子を含まない細胞の増殖を阻害することによって)、あるいはポジティブ選択によって(そのマーカー遺伝子がコードする産物をスクリーニングすることによって)、回収することを可能にする、調節エレメント(プロモーターなど)に機能可能に連結された少なくとも1つのマーカー(レポーター)遺伝子を含み得る。植物の形質転換のための数多くの一般的に使用される選択マーカーが当技術分野で公知であり、これらには、例えば、抗生物質または除草剤であってよい選択用化学物質を代謝的に解毒する酵素をコードする遺伝子、または阻害剤に非感受性である変化した標的をコードする遺伝子が含まれる。マンノース選択などの、いくつかのポジティブ選択の方法が当技術分野で公知である。あるいは、形質転換された植物におけるQTLの存在は、QTL関連マーカーをプローブとして用いて特定される。
【0081】
本発明による核酸配列を用いて植物細胞を形質転換するための方法は、当技術分野で公知である。本明細書で使用される場合、用語「形質転換」または「形質転換する」は、外来の核酸配列(ベクターなど)がレシピエント細胞に侵入してレシピエント細胞を、形質転換された遺伝子改変細胞または遺伝子組換え細胞に変えるプロセスを表す。形質転換は、安定(核酸配列は、植物のゲノム中に組み込まれ、そのために、安定した遺伝性の形質を示す)または一過性(核酸配列は、形質転換された細胞によって発現されるが、そのゲノム中には組み込まれず、そのために、一過性の形質を示す)であってよい。典型的な実施形態によれば、本発明の核酸配列は、植物細胞に安定に形質転換される。
【0082】
単子葉植物および双子葉植物の両方に外来遺伝子を導入する様々な方法が存在する(例えば、Potrykus I.1991.Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol 42:205−225;Shimamoto K.et al.,1989.Nature 338:274−276)。
【0083】
植物のゲノムDNA中への外因性DNAの安定な組み込みの主要な方法には、2つの主な手法が包含される:
【0084】
アグロバクテリウムによる遺伝子導入:アグロバクテリウムによる系には、植物のゲノムDNA中に組み込まれる画定されたDNAセグメントを含むプラスミドベクターの使用が含まれる。植物組織への植菌の方法は、植物の種類およびアグロバクテリウム送達系に応じて異なる。広く使用されている手法は、植物全体への分化の開始のための良好な源となる任意の組織外植片を用いて実施できるリーフディスク法である(Horsch et al.,1988.Plant Molecular Biology Manual A5, 1−9,Kluwer Academic Publishers,Dordrecht)。補足的手法は、減圧浸潤と組み合わせたアグロバクテリウム送達系を利用する。
【0085】
直接的核酸導入:植物細胞内への直接的核酸導入には様々な方法が存在する。エレクトロポレーションでは、プロトプラストが短時間、強力な電場に曝露され、小さな孔が開いてDNAの侵入が可能となる。マイクロインジェクションでは、マイクロピペットを用いて核酸を細胞内に直接、機械的に注入する。微粒子照射では、硫酸マグネシウム結晶またはタングステン粒子などの微小発射体上に核酸が吸着され、この微小発射体が細胞または植物組織中へと物理的に加速される。核酸を植物に導入するための別の方法は、標的細胞の超音波処理によるものである。あるいは、植物内に発現ベクターを導入するためにリポソームまたはスフェロプラストの融合が利用されている。
【0086】
リシアンサスの標的組織の形質転換の後に、上述の選択マーカー遺伝子の発現が、当技術分野において現在周知である再生と選択の方法を用いる形質転換された細胞、組織および/または植物の優先的選択を可能にする。
【0087】
あるいは、本発明の教示によるQTLまたはその一部は、春化非依存性を付与する核酸配列を事前に単離することなく形質転換されてもよい。
【0088】
特定の例示的実施形態によれば、QTLまたはその一部の導入は、抽苔および開花に春化を必要とするE.grandiflorumにE.exaltatumの連鎖群のセグメントを遺伝子移入することによって実施される。
【0089】
特定の実施形態によれば、方法は、
a.抽苔および開花に低温処理を必要とするE.grandiflorum植物の親系統と、抽苔および開花に低温処理を必要としないE.exaltatum植物と、を提供する工程であって、マーカーS1_74154018に関連するQTLをE.exaltatum植物が含む、工程;
b.E.grandiflorum植物の親系統をE.exaltatum植物と交配させてF後代植物を作製する工程;
c.F後代植物を自家受粉させてF集団を作製する工程;
d.F集団をE.grandiflorumの親系統と少なくとも1回戻し交配させて、戻し交配集団を作製する工程;
e.マーカーS1_74154018と関連するQTLを含むE.grandiflorum植物を戻し交配集団から選択する工程;
を含む。
【0090】
特定の実施形態によれば、F集団をE.grandiflorumの親系統と戻し交配させる工程(d)を5回繰り返して、戻し交配集団5を作製する。
【0091】
一部の実施形態によれば、マーカーS1_74154018と関連するQTLを含むE.grandiflorum植物は、抽苔および開花に春化を必要としない。
【0092】
マーカーS1_74154018と関連するQTLを含むE.grandiflorum植物の選択は、当技術分野で公知の任意の方法によって実施されてよい。
【0093】
一部の実施形態によれば、QTLを含む植物の選択は、本明細書に記載されるQTLと関連するマーカーの存在を検出することを含む。
【0094】
検出の方法は、
上記のQTLに連鎖しているマーカー(好ましくは、上記のQTLと連鎖していることが本明細書において特定されたマーカーから選択されるもの)の核酸配列にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下でハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを提供する工程、
上記のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを、戻し交配集団の植物から得られたゲノム核酸と接触させる工程、および
上記のゲノム核酸への上記のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの特異的ハイブリダイゼーションの存在を検出する工程、
を含んでよい。
【0095】
あるいは、QTLの核酸配列が決定されたならば、当業者は、上記のQTLの核酸配列にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下でハイブリダイズできる特異的ハイブリダイゼーションプローブまたはオリゴヌクレオチドを設計してよく、春化非依存性であると思われるリシアンサス植物において本発明のQTLの存在を検出するための方法において、このようなハイブリダイゼーションプローブを使用してよい。
【0096】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」なる表現は、その条件下でプローブまたはポリヌクレオチドが、典型的には核酸の複合混合物中で、その標的の部分配列(subsequence)にハイブリダイズするが他の配列には本質的に全くハイブリダイズしないであろう条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列に左右され、環境が違えば異なるであろう。より長い配列は、より高い温度にて、特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションについての詳細な手引きは、Tijssen(Tijssen P.1993 Hybridization With Nucleic Acid Probes.Part I.Theory and Nucleic Acid Preparation.In:Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology.Elsevier)に記載されている。一般的に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度pHにおける特定の配列についての熱的融点(thermal melting point)(Tm)より約5〜10℃低いように選択される。Tmは、その温度において、標的に相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする(定義されたイオン強度、pH、および核酸濃度の下での)温度である(標的配列が過剰に存在すると、Tmにおいて、プローブの50%が平衡状態で占拠される)。ストリンジェントな条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3において約1.0M ナトリウムイオン未満、典型的には約0.01〜1.0M ナトリウムイオン濃度(または他の塩)であり、温度が、短いプローブ(例えば10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃であり、長いプローブ(例えば50ヌクレオチド超)については少なくとも約60℃である条件であろう。また、ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成されてもよい。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドのハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は以下のものであることが多い:50%ホルムアミド、5xSSCおよび1%SDSで42℃にてインキュベート、または5xSSC、1%SDSで65℃にてインキュベート、ならびに0.2xSSCおよび0.1%SDSで65℃にて洗浄。PCRの場合、低ストリンジェントな増幅には、約36℃の温度が典型的である。但し、アニーリング温度は、プライマーの長さに応じて約32℃〜48℃の間で変動してよい。ハイブリダイゼーションのパラメータを決定するためのさらなる指針が、多数の参考文献に記載されている(例えば、Current Protocols in Molecular Biology, eds.Ausubel,et al.1995)。
【0097】
以下の実施例は、より完全に本発明の一部の実施形態を説明するために提示される。しかし、これらは、本発明の広い範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される原理の多くの変形および改変を容易に考案できる。
【実施例】
【0098】
材料および方法
【0099】
植物材料
the Robert H. Smith Faculty of Agriculture,Food and Environment,The Hebrew University of Jerusalemのリシアンサスプロジェクトには、6つの異なる育種企業の50種を超える商業用雑種に由来する数百種の異なる育種系統および遺伝資源、ならびに様々な供給源から取得された野生型のE.grandiflorumおよびE.exaltatumが含まれる。
【0100】
実生の作製および植物の生育条件
特にHishtil Ltd.IsraelのNehalim苗畑(イスラエル)で、360または406の標準的なリシアンサス播種用トレイにおいて播種を実施した。Hishtil Ltd.Company(イスラエル)の施設で実生を生育させた。2010年まではNehalimのHishtil苗畑で実生を生育させ、2011年からはSusya(イスラエル)で生育させた。標準的な商業用雑種が生育する条件の下で実生を生育させ、標準的なリシアンサスの低温(春化)要求性を満たした。
【0101】
典型的には、Rehovot(イスラエル)に位置するthe Faculty of Agriculture,Food and Environment of the Hebrew University of Jerusalemの農場において選択および種子生産を実施した。開花期は必ず、播種の時期に応じて春から夏(4月から8月)に生じた。標準的なリシアンサス用プロトコルに従って、ならびに生育条件および生育段階に合わせて、潅水および施肥を実施した。特定の症状発現の後にのみ、および開花の開始前にのみ、作物保護処理を実施した。表現型の特徴付けに使用される植物において、最初の花を折り取った。2回目の開花期に収穫を実施した。
【0102】
花の受粉および種子の取扱い
自家受粉:
1.段階3(蕾が膨らみ始める;花弁が萼片よりも高い)〜段階6(外に出た雄しべ;閉じた柱頭;図1)の間の花を紙袋で覆った。
2.花を覆ってから5〜14日後に袋を開けて手作業で自家受粉を実施した。受粉の後、再び花を紙袋内に封じた。
【0103】
手作業での自家受粉によって生産された種子のみが、真の自家受粉種子であるとみなされた。
【0104】
他家受粉:
1.段階3の花(蕾が膨らみ始める;花弁が萼片よりも高い;図1)を手作業で開いて、葯を除去した。除雄された花をそれぞれ、紙袋内に封じた。
2.葯の除去から7〜14日後にそれぞれの花の紙袋を開けて、雄親の葯を柱頭に付着させることによって、あるいは70%エタノールで滅菌したブラシであって花粉で覆ったブラシを用いて、柱頭に花粉を手作業で塗布した。手作業での受粉の後、再び花を紙袋内に封じた。
【0105】
(自家受粉および他家受粉の両方について)受粉から50〜75日後に、果実を紙袋内に回収し、37〜45℃のインキュベーターまたは乾燥器の中に入れて乾燥を完了させた。播種するまで、±7℃および湿度30%にて種子を保存した。
【0106】
表現型の特徴付け
本明細書に記載される形質は、多数の形質を特徴付けるという、表現型に関する大規模な試みに基づいており、その試みに基づいて、遺伝的集団の特徴付けのための詳細な表現型カタログを作成するために113の形質が選択された。
【0107】
種々の表現型の特徴を規格化するために、いくつかの用語についての共通言語を定義する必要があった。
【0108】
花に関する段階:図1に示されるように、出蕾初期から老化までの9つの異なる発達段階が定義された。
段階1:閉じた蕾。萼片は花弁よりも高い(長い)。
段階2:蕾の膨化の開始。萼片および花弁は、ほぼ同じ長さである。
段階3:大きな蕾。萼片は花弁よりも短い。膨らんだ蕾。
段階4:開き始めた花弁。雄しべは完全には成熟していない。
段階5:花が開き始める。花弁同士が分かれている。雄しべは外に出ていない。柱頭は閉じている。
段階6:開いた花。外に出た雄しべ。閉じた柱頭。
段階7:開花期。外に出た雄しべ。開いた柱頭。
段階8:花が萎れ始める。花弁が色あせ、閉じ始める。
段階9:老化。
【0109】
分枝:2つ以上の葉の対を有する分枝のみが分枝と定義された。
【0110】
花蕾:苞葉から生じて1cm超の長さである花蕾のみが花蕾と定義された。
【0111】
開花時期:最初の花が発達段階6(開いた花;外に出た雄しべ;閉じた柱頭;図1)に達した日。
【0112】
収穫時期:2番目の花が発達段階7(開花期;図1)に達した日。
【0113】
抽苔:栄養生長から開花への植物の移行は、茎の出現および伸長によって特定された(図2)。抽苔の度合は、3つの異なる時点によって定義された。
(a)抽苔18週[抽苔(18)]:播種から18週間後における系統ごとの抽苔した植物の割合。
(b)抽苔20週[抽苔(20)]:播種から20週間後における系統ごとの抽苔した植物の割合。
(c)抽苔22週[抽苔(22)]:播種から22週間後における系統ごとの抽苔した植物の割合。
【0114】
2回目の一斉開花に関連した形質:最初の一斉開花の花を収穫した後の植物であって2回目の一斉開花に至るまでの生育の間の植物を表すいくつかの形質。
(a)2回目の一斉開花の生存率[SF.survival]:系統ごとの、収穫後に生き延びて2回目の一斉開花があった植物の割合。
(b)植物あたりの2回目の一斉開花時の茎数[SF.S_PLN]:2回目の一斉開花における植物あたりの分枝(brunches)の数。
(c)2回目の一斉開花におけるロゼット形成率[SF.rosettin]:系統ごとの、最初の収穫の後にロゼットを示して抽苔しなかった植物(図2A)の割合。
(d)2回目の一斉開花までの日数[SF.days]:系統ごとの、最初の収穫から2回目の収穫(2回目の一斉開花時の収穫)までの最小日数。
【0115】
花の器官のサイズ:花の種々の器官のサイズは、ローラー(2011年中)を用いて、または画像解析(2012年中)によって、測定された。
(a)小花柄の長さ[Pedicel.LN]:全ての時期においてローラーによって測定された、主茎上の花を保持する最後の節間の長さ(図3C)。
【0116】
4つの主な実験を通じて表現型解析を実施した。
【0117】
2011年、温室:プラスチック製の温室内で加熱することなく8リットルのペール容器において植物を水耕栽培した。使用した栽培用培地は「Odem93」(Tuff Marom Golan Ltd.、イスラエル)(凝灰岩が2/3、泥炭が1/3)であった。それぞれの組換え近交系統(RIL)を、温室内にランダムに配置された3つの容器に植え付けた。容器はそれぞれ、5株のRIL複製体(RIL replicate)を含んだ(RILごとに合計15株の複製体)。さらに、ファミリーレベルでの育種および特徴付けのために、単一の容器に各RIL由来の6株の複製体を植え付けた。温室の総面積は150mであった。植え付けの日付は2011年2月15日であった。開花は2011年4月22日に開始した。
【0118】
2012年、温室:2011年の実験に関して記載したのと同一の様式および同じ温室で植物を栽培した。この年の実験は戻し交配系統(BCL)であるF5BC1を含んだため、スペースの制約が原因で、各系統を2つの容器にのみ植え付けた(系統ごとに合計10株の複製体)。植え付けの日付は2012年1月12日であった。開花は2011年4月15日に開始した。
【0119】
2012年、ネットハウス:ネットハウス内で、粗い凝灰岩層の上の薄い凝灰岩層という2相の栽培用培地を含む大きな一列のプラスチック容器において植物を水耕栽培した。単一の場所に、系統ごとに6株の複製体を植え付けた。1mあたり30株の植物という密度で植物を栽培した。ネットハウスの総面積は100mであった。植え付けの日付は2012年1月12日であった。開花は2012年5月22日に開始した。
【0120】
2013年、SHTIL NETO温室:プラスチック製の温室内で、泥炭を含む大きな実生トレイ(1.5インチ)において植物を栽培した。177種の異なる系統(系統ごとに合計11株の複製体)。播種の日付−2013年7月29日;抽苔の終了−2013年10月20日。
【0121】
発芽から収穫までの栽培期間全体を通じて表現型解析を実施した。主な解析は、開花期に焦点を当て、以下のように実施された:祝日等の特定のイベントは別として週に3回(日曜日、火曜日および木曜日)、各植物で最初に開いた花を記録し、撮影し、取り除いた。生育し続けて収穫時期(上記で定義した通り)に達した植物を収穫した。収穫した植物の表現型決定は、収穫の日およびその翌日に実施した。収穫された植物に関して実施されなかった他の表現型決定解析ならびに花瓶に入れた切り花の表現型決定、および育種作業は、収穫日とは別の日に実施した。
【0122】
DNA抽出
新鮮な若葉を採取し、直ちに液体窒素で凍結させた。凍結させた組織は、DNA抽出まで−80℃に保持した。標準的なマイクロプレップのプロトコル(Fulton T M et al.,1995.Plant Mol.Biol.Report.13:207−209)を用いてDNA抽出を実施した。
【0123】
QTL解析
それぞれの集団および実験について別々に、平均化した列データに対してQTLマッピング解析を実施した。RILにおける特定のマーカーについてのヘテロ接合体遺伝子型は、マーカーの解析から除外した。実験における系統ごとの形質スコアを平均化することによって、順序(ordinal)形質および二元(表現型の有無)形質の両方を、名称を付けた性質を有する形質に変換した。Shapiro−Wilk検定を実施して各形質の分布の正規性仮定を調べ、形質を、正規と非正規の表現型分布を示すものとして分類した。正規および非正規の表現型分布のための方法(Borman K W and Sen S.,2009.A guide to QTL mapping with R/qtl 1st ed.(Springer New York))に従ってLODスコアを算出した。一般に、正規分布の形質については、一方向ANOVA(マーカー回帰)に類似するlog10尤度比検定を適用し、非正規分布の形質については、Kruskal−Wallis検定の統計量を2で割ったもの(ln10)を用いた。計算は全て、R統計ソフトウェアによって行われた。RILにおけるホモ接合体野生型アレルまたはBCLにおけるヘテロ接合体アレルに起因する差の百分率としてQTLの効果(Effect)を算出した。
【数1】
式中:μ(gra)=QTLに関してホモ接合体のE.grandiflorum植物の形質平均値;μ(exs)=QTLに関してホモ接合体のE.exaltatum植物の形質平均値;μ(het)=QTLに関してヘテロ接合体の植物についての形質平均値。
【0124】
QTLの割り当ては、いくつかの段階で行われた:
1.複数の集団のうちの1つにおける複数の実験のうちの少なくとも1つでLODスコアが2.5という閾値を超える、表現型と遺伝子型との関連性が選択された。
2.QTLについての以前の発見(Lander E S and Schork N J.,1994.Science 265(5181):2037−2048.)のおかげで閾値を低くすることができるため、段階1で選択された関連性について1を超えるLODスコア(<0.031のp値)を示す実験は全て、QTLを示す実験と断定された。
3.いくつかの隣接するマーカーが同じ形質と相関していた場合、その形質についての主なQTLは、連鎖が観察された実験の数に基づいて、およびLODスコアによって、選択された。そのQTLが1つのネットハウス実験だけで検出された場合、そのQTLは除かれた。これは、この実験が、実験設計(系統ごとに1プロットのみ)に起因する生物学的反復数の少なさおよび/またはscirtothripsの蔓延に影響される植物の数の多さの影響を受け、従ってその信頼性が低いためである。
【0125】
QTL地図については、いくつかの密接に関連した形質が同じ遺伝子座に関連している場合にQTLを表すように形質を選択した。割り当てられた形質は、より多くの実験において有意性を示した形質であったか、有意な実験が同数の場合には、より高い平均LODスコアを有する形質であった。いくつかの有意な実験の場合において、地図上に示されるべき効果を以下の順序で選択した:1.白集団、2012;2.白集団、2011;3.ピンク集団、2012;4.ピンク集団、2011。
【0126】
実施例1:組換え近交系統(RIL)
2006年中に、商業用雑種ならびにE.grandiflorumおよびE.exaltatumの野生型寄託物に由来する種々の純系間で140超の交配を実施した(the Hebrew University of Jerusalem(イスラエル)のコレクション)。2007年におけるF集団およびそれらの親の表現型の特徴付けは、本明細書に提示される研究で使用される2種の種間組換え近交系統(RIL)の選択を可能にした。その選択は、主に(A)表現型から観察される親系統のホモ接合性;(B)Fの均一性;および(C)親系統の表現型の特徴、に基づいていた。最終的に、2種の遺伝学的遺伝子移入集団を徹底的調査のために選択した。
【0127】
E.exaltatumとピンク花および白花の栽培バックグラウンドに由来する2種のE.grandiflorumの系統との間での交配から2種のRIL集団を作製した。親系統の主な特徴は以下の通りである。
E.exaltatum:単一の小さな紫色の花、株立ちで生長、遅い開花、強い概日リズム挙動、ロゼットを形成する傾向が無い細い葉および細い茎。交配に使用された寄託物は非常に高い均一性を示し、これは、それがホモ接合型の純系であることを意味した。
E.grandiflorumピンク:中程度のサイズの単一の花、強いピンク色、弱い頂芽優勢、短い節間、花の収量が多い、ロゼット化傾向、および、全体として典型的な夏品種の生育(良好な熱耐性、遅い生育)。
E.grandiflorum白:大きな八重咲きの白い花、多くの花弁、強い頂芽優勢、花の収量が少ない、および、全体として典型的な冬品種の生育(抽苔に中程度の温度を必要とする;速い生育)。
戻し交配系統(BCL)を作製するために、FRIL系統をそれらのE.grandiflorum親株と戻し交配させた。2種のRILの構築についての概要を図4に示す。
【0128】
実施例2:表現型のデータ
2つの場所において、2つの別個の後代について表現型観察を実施した。2011年には、1つの場所における2つのRIL集団を特徴付けした。2012年には、2つの場所における2つのRIL集団および2つのBCL集団を特徴付けした(表3)。実験は必ず親系統およびF後代を含み、統計解析は、ランダムに植え付けられた複数の反復物に基づいていた(上述の材料および方法を参照のこと)。
【0129】
【表3】
【0130】
実施例3:遺伝子地図
RIL集団のそれぞれについて、利用可能な遺伝子マーカーを用いて2つの遺伝子地図を構築した。
【0131】
Cornell Universityのthe Institute of Genomic Researchのサービスとして利用可能なシーケンシングによる遺伝子型決定(GBS)のプラットフォーム(Elshire R J et al.2011.PLoS One 6:e19379)を用いてDNA多型データを作成した。このようなプラットフォームを用いて、マーカー検出およびスコア付けを同時に行い、厳密な品質管理を通過した数千個のSNPを検出した。the University of Wisconsin−Madison,Department of Biostatistics&Medical InformaticsのKarl W.Bromanによって開発およびコンパイルされ、およびTechnical Report #214(In:Broman K W and Sen S A. Guide to QTL Mapping with R/qtl. New York:Springer;2009)に記載された、R/qtlの遺伝子地図構築ツールを用いてSNPをマッピングした。マーカーの全てのペアについての推定組換え割合(左上の三角形)およびLODスコア(右下の三角形)のプロットを作成した(図5)。約4500種のマーカーが、隣接するマーカー同士の間の最長距離が組換え価20%未満となるように決定されたマーカーから構成される69種の連鎖群をもたらした(図6)。このカットオフは、連鎖群を誤って統一するのを防ぐために選択された。
【0132】
実施例4:春化非依存性を付与するQTLの特定
複雑な表現型の種々の構成要素の詳細を表示して複雑な隠れた生物学的事実を明らかにする一連のプログラムを発達させたPhenome Networks(Rehovot、イスラエル)(Zamir D.,2013.PLoS Biol.11:e1001595)のバイオインフォマティクス機能を用いてQTLを特定した。Phenome Networksは、適切な統計モデルを集団の遺伝学的構造に合致させる多数のR関数およびアルゴリズムを利用する。組み合わされた両方の集団に由来するホモ接合型RIにのみ基づく2013年のShtil Netoでの実験において解析されたように、春化のための主要なQTL(Lod20)は連鎖群2上に位置するということが図7から明らかである。連鎖群2の詳細な図(図8)は、QTLの効果が、その連鎖群上の30〜40cMの間の区間内においてピークを迎えることを示す。
【0133】
抽苔の表現型に影響を及ぼす最も強力なマーカーの1つがS1_74154018(配列番号15に記載される核酸配列を有する)であった。図9に示されるように、遺伝子型1(E.grandiflorumアレルに関してホモ接合型)を有する植物のグループでは約15%の植物が抽苔を示し、残りの85%の植物がロゼットを形成して開花しなかったのに対し、遺伝子型3(E.exaltatumアレルに関してホモ接合型)を有するグループでは90%近い植物が抽苔した。これは、連鎖群2上でのQTLの位置を裏付ける。表4は、効果の再現性を示すホモ接合型RIについて実施された全ての実験からの抽苔データの概要を提示する。位置30.5046992に位置する遺伝子マーカーEG_0075(配列番号3に記載される核酸配列を有する)について図15に示されるように、および位置38.2014392に位置する遺伝子マーカーS1_18474044(配列番号40に記載される核酸配列を有する)について図16に示されるように、特定されたQTLの端の近傍に位置するマーカーでも同様の結果が得られた。
【0134】
【表4】
【0135】
予想外にも、QTLを春化非依存性と結びつける非常に類似した観察結果が、ヘテロ接合型RI雑種で見出された。この場合には、RIとそれぞれのE.grandiflorum親株との雑種の種子を発芽させた。図10は、春化についての主要なQTL(Lod20)が、ホモ接合型集団の場合(図7)に示されたように、連鎖群2上に位置することを示し、QTLの効果は、その連鎖群上の30〜40cMの間の区間内においてピークを迎えた(図11)。図12は、遺伝子型1(S1_74154018のE.grandiflorumアレルに関してホモ接合型)を有する植物では約40%の植物が抽苔し、残りの60%の植物がロゼットを形成して開花しなかったのに対し、遺伝子型2を有するグループ(S1_74154018のE.grandiflorumアレルを1つおよびS1_74154018のE.exaltatumアレルを1つ含むヘテロ接合型植物)では90%近い植物が抽苔したということを示す。表5は、効果の再現性を示すヘテロ接合型RIを用いて実施された全ての実験からの抽苔データの概要を提示する。
【0136】
これらの結果は、ホモ接合型の状態の場合にのみ有効であることが示されていた、これまでに知られている春化関連遺伝子とは逆に、春化に対する非感受性と関連するQTLが優性であるということを明確に実証する。
【0137】
【表5】
【0138】
この発見は、ファイトトロンにおいて高温条件(28℃を12時間および34℃を12時間という1日のサイクル)下で3ヵ月間、E.exaltatumの春化非依存性アレルに関してヘテロ接合型である雑種植物(F1pと命名)を栽培することによって、さらに確かめられた。主要な商業品種(Rosita White、Rosita2 Purple、Aube Pink Flush、Piccolo2 Hot Lips、Rosita3 Green、Eosita3 PinkおよびTzili)を対照として使用した。図13で明確に示されるように、春化に依存する品種では最大で約28%が抽苔したのに対し、80%超のヘテロ接合型雑種植物が抽苔した。
【0139】
実施例5:さらなる表現型に対する、春化非依存性を付与するQTLの効果
野生型または祖先の植物から有益な形質を何度も遺伝子移入しようとする試みは、ドナーから受け入れ側の植物への望ましくない形質の遺伝学的引き込みが著しいという問題に直面する。しかし、本発明の植物では、望ましくない形質の引き込みを無視できただけでなく、QTLが、リシアンサスの生育パターンに典型的である2回目の一斉開花における茎の数にポジティブな影響を与えた。図14は、遺伝子型1(E.grandiflorumアレルに関してホモ接合型)を有する植物では2回目の一斉開花における植物あたりの茎が平均で2.5本に過ぎないのに対し、遺伝子型3(E.exaltatumアレルに関してホモ接合型)の植物では2回目の一斉開花における植物あたりの茎が平均で3.5本であることを示す。
【0140】
QTLは、QTLを含む植物において僅かに増大するという小花柄の長さに対する僅かに負の影響を有した。このような増大は、壊れやすい花を弱体化させるため、望ましくない。しかし、この影響は、小花柄が非常に短いという適切な遺伝的バックグラウンドを有するリシアンサス植物にQTLを導入することで克服される可能性がある。
【0141】
特定の実施形態についての上記の説明は、本発明の一般的性質を極めて完全に明らかにし、その結果、他者は現在の知識を適用することで、過度の実験を伴うことなく、および包括的概念から逸脱することなく、このような特定の実施形態を容易に改変し、および/または様々な用途に適合させることができる。従って、このような適合および改変は、開示される実施形態の等価物の意味および範囲内に包含されるべきであり、また、そのように意図される。本明細書で使用される表現または用語は、説明を目的としており、限定を目的としたものではないということが理解されるべきである。開示される様々な機能を実行するための手段、材料、および工程は、本発明から逸脱することなく様々な代替的形態をとってよい。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15
図16
【配列表】
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