特許第6860483号(P6860483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860483
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】細菌遺伝子の標的化削減
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20210405BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20210405BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C12N15/09 110
   C12N7/01ZNA
   A61K31/7088
   A61K35/76
   A61P31/04
【請求項の数】33
【全頁数】67
(21)【出願番号】特願2017-528575(P2017-528575)
(86)(22)【出願日】2015年11月26日
(65)【公表番号】特表2017-536831(P2017-536831A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】IL2015051154
(87)【国際公開番号】WO2016084088
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2018年8月31日
(31)【優先権主張番号】62/084,703
(32)【優先日】2014年11月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517181069
【氏名又は名称】テクノロジー イノベーション モメンタム ファンド(イスラエル)リミテッド パートナーシップ
【氏名又は名称原語表記】Technology Innovation Momentum Fund(israel)Limited Partnership
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】キムロン,エフド
(72)【発明者】
【氏名】ヨセフ,イド
(72)【発明者】
【氏名】マナー,ミリアム
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−519929(JP,A)
【文献】 Nat Biotechnol,2014年10月 5日,32(11),1146-1150
【文献】 Nat Biotechnol,2014年10月 5日,32(11),1141-1145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
A61K 31/7088
A61K 35/76
A61P 31/04
C12N 7/01
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含む少なくとも1つの遺伝要素を含む少なくとも1つの選択的構成要素であって、前記遺伝要素が溶菌性バクテリオファージまたは細菌を殺傷する毒性要素もしくはタンパク質をコードするベクターである選択的構成要素;及び
(ii)少なくとも1つのcas遺伝子及び少なくとも1つのクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)アレイを含む少なくとも1つの感受性亢進構成要素
を含むキットであって、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーが、細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれるプロトスペーサーを、前記細菌の前記病原性遺伝子を特異的に不活性化するように標的にし、且つ前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーが前記(i)の選択的構成要素内に含まれるプロトスペーサーを、前記選択的構成要素を特異的に不活性化するように標的にするキット。
【請求項2】
前記選択的構成要素が少なくとも1つの溶菌性バクテリオファージを含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記溶菌性バクテリオファージが、前記細菌病原性遺伝子内に含まれる少なくとも1つの核酸配列少なくとも70%の同一性をもつ少なくとも1つのプロトスペーサーを含む少なくとも1つの遺伝子改変バクテリオファージである請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記感受性亢進構成要素が少なくとも1つのcasタンパク質をコードする核酸配列を含む少なくとも1つの組み換えベクターを含み、前記ベクターが少なくとも1つの前記CRISPRアレイの核酸配列をさらに含む請求項1に記載のキット。
【請求項5】
前記ベクターが、前記溶菌性バクテリオファージ内に含まれる少なくとも1つの核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサー及び前記少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサーを含む少なくとも1つの遺伝子改変バクテリオファージであり、前記溶菌性ファージ及び前記病原性遺伝子の両方を標的にし、且つ不活化する請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記少なくとも1つの細菌病原性遺伝子が少なくとも1つの細菌内在性遺伝子である請求項1に記載のキット。
【請求項7】
前記少なくとも1つの細菌病原性遺伝子が少なくとも1つのエピクロモソーマル遺伝子である請求項1に記載のキット。
【請求項8】
少なくとも1つの前記病原性遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である請求項6及び7のいずれか1つに記載のキット。
【請求項9】
前記少なくとも1つの前記病原性遺伝子が少なくとも1つの病原性因子及び少なくとも1つの毒素をコードする遺伝子である請求項6及び7のいずれか1つに記載のキット。
【請求項10】
前記少なくとも1つの抗生物質耐性遺伝子が、CTX−M−15、ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM)−1、2、5、6、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ耐性因子(ESBL因子)、ベータラクタマーゼ、及びテトラサイクリンA(tetA)からなる群より選択される耐性因子をコードする請求項8に記載のキット。
【請求項11】
前記少なくとも1つのCRISPRスペーサーが、少なくとも1つのCTX−M−15のプロトスペーサー、少なくとも1つのNDM−1、2、5、6のプロトスペーサー、少なくとも1つのESBL因子のプロトスペーサー、少なくとも1つのベータラクタマーゼのプロトスペーサー、少なくとも1つのtetAのプロトスペーサー及び少なくとも1つの溶菌性バクテリオファージのプロトスペーサーの少なくとも1つを標的にする核酸配列を含む請求項10に記載のキット。
【請求項12】
少なくとも1つの前記CTX−M−15のプロトスペーサーが、配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列を含み、且つ少なくとも1つの前記NDM−1のプロトスペーサーが、配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列を含む請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記遺伝子改変された溶菌性バクテリオファージが、(a)配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列を含む少なくとも1つのCTX−M−15のプロトスペーサー、並びに(b)配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列を含む少なくとも1つのNDM−1のプロトスペーサーの少なくとも1つを含む請求項3に記載のキット。
【請求項14】
前記少なくとも1つのCRISPRスペーサーが前記溶菌性バクテリオファージの必須遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする請求項5に記載のキット。
【請求項15】
前記溶菌性バクテリオファージが少なくとも1つのT7様ウイルス及びT4様ウイルスである請求項5及び14のいずれか1つに記載のキット。
【請求項16】
前記T7様ウイルスが少なくとも1つの腸内細菌ファージT7である請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記遺伝子改変バクテリオファージがラムダ溶原性バクテリオファージである請求項5に記載のキット。
【請求項18】
前記少なくとも1つのcas遺伝子が、I型、II型、及びIII型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子の少なくとも1つである請求項1に記載のキット。
【請求項19】
前記少なくとも1つのcas遺伝子がI−E型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子である請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記少なくとも1つのI−E型cas遺伝子が、cse1、cse2、cas7、cas5e cas6、及びcas3遺伝子の少なくとも1つである請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記少なくとも1つのcas遺伝子が、II型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子である請求項18に記載のキット。
【請求項22】
前記II型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子がcas9遺伝子である請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記細菌が、少なくとも1つのエシェリキア・コリ、シュードモナス・エルギノーサ、スタフィロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、クロストリジウム・ディフィシル、エンテロコッカス・フェシウム、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマンニ、及びエンテロバクター属のいずれかの株の少なくとも1つの細菌である請求項1に記載のキット。
【請求項24】
前記細菌が、O157:H7、腸管付着性(EAEC)エシェリキア・コリ、腸管出血性(EHEC)エシェリキア・コリ、腸管侵入性(EIEC)エシェリキア・コリ、腸管病原性(EPEC)エシェリキア・コリ、毒素原性(ETEC)エシェリキア・コリ、及びびまん付着性(DAEC)エシェリキア・コリからなる群より選択される少なくとも1つのエシェリキア・コリ株である請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記溶菌性バクテリオファージが、スプレー剤、スティック、塗布剤、ゲル剤、クリーム、ウォッシュ、ワイプ、フォーム、石鹸、液剤、油、溶液、ローション剤、軟膏、又はペーストとして調合される請求項2及び5のいずれか1つに記載のキット。
【請求項26】
前記溶原性バクテリオファージが、スプレー剤、スティック、塗布剤、ゲル剤、クリーム、ウォッシュ、ワイプ、フォーム、石鹸、液剤、油、溶液、ローション剤、軟膏、又はペーストとして調合される請求項17に記載のキット。
【請求項27】
少なくとも1つの病原性遺伝子を含む遺伝要素の細菌間の水平伝播を干渉する方法であって、前記病原性遺伝子を内部にもつ細菌を含有する表面、物質、及び物品の少なくとも1つを、
(i)少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含む少なくとも1つの遺伝要素を含む少なくとも1つの選択的構成要素であって、前記遺伝要素が溶菌性バクテリオファージまたは細菌を殺傷する毒性要素もしくはタンパク質をコードするベクターである選択的構成要素;及び
(ii)CRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーが細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれるプロトスペーサーを前記細菌の前記病原性遺伝子を特異的に不活性化するように標的にし、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーが前記(i)の選択的構成要素内に含まれるプロトスペーサーを、前記選択的構成要素を特異的に不活性化するように標的にする、少なくとも1つのcas遺伝子及び少なくとも1つの前記CRISPRを含む少なくとも1つの感受性亢進構成要素;又は
(iii)(i)及び(ii)を含む少なくとも1つのキット
と接触させ、それによって前記病原性遺伝子を不活化し、且つその水平伝播を干渉する工程を含む方法。
【請求項28】
前記キットが請求項2〜26のいずれか一項で規定される通りである請求項27に記載の方法。
【請求項29】
病原性遺伝子を含有する細菌の細菌感染に起因する哺乳類対象の病的状況を予防する方法であって、前記対象の近くの表面、物質、及び物品の少なくとも1つを、
(i)少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含む少なくとも1つの遺伝要素を含む少なくとも1つの選択的構成要素であって、前記遺伝要素が溶菌性バクテリオファージまたは細菌を殺傷する毒性要素もしくはタンパク質をコードするベクターである選択的構成要素;及び
(ii)クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)アレイの少なくとも1つのスペーサーが細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれるプロトスペーサーを前記細菌の前記病原性遺伝子を特異的に不活性化するように標的にし、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーが前記(i)の選択的構成要素内に含まれるプロトスペーサーを、前記選択的構成要素を特異的に不活性化するように標的にする、少なくとも1つのcas遺伝子及び少なくとも1つの前記CRISPRを含む少なくとも1つの感受性亢進構成要素;又は
(iii)(i)及び(ii)を含む少なくとも1つのキット
と接触させ、それによって前記病原性遺伝子を標的にして不活化し、且つ前記病的状況を予防することを含む方法。
【請求項30】
前記キットが請求項2〜26のいずれか一項で規定される通りである請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つの表面、物質、及び物品を(ii)の前記感受性亢進構成要素と接触させること及びそれに続いて前記少なくとも1つの表面、物質、及び物品を(i)の前記選択的構成要素と接触させることを含む請求項29及び30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
感染性の疾患または状態に罹患している対象の治療のための、請求項1乃至26の何れか1項に記載のキット。
【請求項33】
少なくとも1つの抗生物質化合物と併用される、請求項32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明につながった研究は欧州連合第7次フレームワーク計画(EP7/2007−2013)/ERC助成契約第336079号の下で欧州研究機構から資金提供を受けてきた。
【0002】
本発明は、特異的に細菌の遺伝子を標的にして削減する方法に関する。より具体的には、本発明は、細菌の病原性遺伝子を標的にして削減する改変RNA誘導型ヌクレアーゼ(RGN)システムを用いるキット、システム、組成物、及び方法を提供する。
【0003】
背景参考文献
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5.Abuladze T,et al.(2008).Appl Environ Microbiol 74(20):6230−6238.
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21.Hale CR et al.(2009)Cell 139(5):945−956.
22.Datsenko KA et al.(2000)Proc Natl Acad Sci U S A 97(12):6640−6645.
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28.Bush K et al.(2011)Annu Rev Microbiol 65:455−478.
29.Brouns SJ et al.(2008)Science 321(5891):960−964.
30.Baba T et al.(2006)Mol Syst Biol 2:1−11.
31.Edgar R and Qimron U(2010)J Bacteriol 192(23):6291−6294.
本明細書において上記参考文献を承認することが、以下に開示される本発明の主題の特許性に何らかの形で関連することを意味すると推定されるべきではない。
【背景技術】
【0004】
細菌は広範囲の抗生物質を克服するよう進化してきており、大部分の従来の抗生物質に対する耐性メカニズムがいくつかの細菌で特定されてきた。新しい抗生物質の加速する開発は細菌耐性のペースに圧倒されている。例えば、アメリカ合衆国では院内感染の70%超は少なくとも1つの抗生物質に対して耐性がある細菌が関与し、日本ではスタフィロコッカス・アウレウスの臨床分離株の50%超は多剤耐性である。
【0005】
病原体の抗生物質耐性はヒトの健康に対する増大する懸念であり、生物的防除に再び関心が寄せられている。この療法は細菌の天敵であるファージを用いて病原体を死滅させる。しかし、主に組織への送達障壁及び細菌のファージに対する耐性に起因して、該療法は現在のところ実行可能ではない。生物的防除の利用に関する大きな懸念としては、脾臓/肝臓及び免疫系によるファージの中和、ファージの宿主の範囲が狭いこと、細菌のファージに対する耐性、並びにヒト及び動物での十分な薬物動態研究及び有効性研究が欠けていることなどが挙げられる。
【0006】
幾つかの研究は遺伝的手段としてファージを用いて細菌の抗生物質に対する感受性を上げた。1つの研究はグラム陰性エシェリキア・コリのファージM13を用いていくつかの遺伝子ネットワークを遺伝学工学的に標的にすることによって、抗生物質に対する細菌の感受性を上げた(1)。該研究では、M13によって仲介される遺伝子標的でSOS応答を破壊することによりさまざまな抗生物質に対する細菌の感受性が数倍高くなることが示された。また、抗生物質と併用したファージ仲介遺伝子伝播が病原性エシェリキア・コリに感染したマウスの生存期間を延ばすことも示した。全体として該研究は、ファージM13による伝播遺伝子により、細菌が弱められ、細菌が抗生物質によって死滅させられ易くなることを示した。最終結果は、ファージが病原体を直接的に死滅させるのに用いられる伝統的な生物的防除の実行に非常に似ている。
【0007】
異なる方法では、食用食品、植物、及び家畜に存在している病原体「殺菌剤」としてファージを利用する。これらの製品の保存可能期間を延ばすことにくわえて、その処理は時とし起こる疾患のアウトブレイクを防ぐことを目的としている。しかし、この戦略の実行はいくつかの障壁を克服しなければければならない。大部分のファージ感染の特徴の1つはその宿主の範囲が狭いことである。ファージの大部分は1つの種の細菌にしか感染せず、いくつかのファージは種内のある特定の株に限られる(2)。この特徴は他の細菌集団を破壊することなく特異的な病原体を標的にすることを可能にするので一方においては利点でありうる(2)。他方では、未感染病原体が未処理のまま残ることになると考えられるので、この狭い宿主範囲は重大な欠点となりうる。ファージの宿主範囲を広げる1つの方法は新しい宿主に感染するファージ変異体を選ぶことである。多くの場合、新しい宿主に適応する選ばれた変異体はその元の宿主に対する感染力も維持するので、その範囲が拡張される(3)。この問題を部分的に克服するさらなる方法は、拡張された範囲の同一細菌種を標的にするようにファージの混合物を使用することである。そのような方法の成功例は、製品ListShield、EcoShield、及びSalmoFreshの、それぞれリステリア・モノサイトゲネス、エシェリキア・コリ、及びサルモネラ・エンテリカに対するファージの混合物の使用であり、すべてUS食品医薬品局(FDA)により認可されている(4)。これらのファージ混合物は、食品及び表面の標的にされた病原体を効果的に全滅させることが示されている(5)。そのうえ、これらの製品はすべて、米国FDAから「すぐに食べられる状態(ready−to−eat)」認可を与えられており、消費者製品及び表面上にファージを塗り広げることが安全であることを示している(4)。
【0008】
ヨーロッパでは他のファージカクテルが食品添加物として認可されており、現在、ファージバイオテクノロジー会社によって開発中のものが多くある。それらの用途は、ファージは環境中に分散され、効率的にその環境中の病原体を標的にできることを示す。
【0009】
抗生物質に対する病原体の耐性は深刻さを増している問題であり、新規抗菌剤に対する喫緊の必要性につながっている。残念ながら、新しい抗生物質の開発は数多くの障害に直面し、したがって病原体が認可抗生物質に対して再度感受性をもつことになる方法には極めて重要な優位性がある。
【0010】
Lu and Collins(1)は、細菌が抗生物質により感受性をもつように細菌を弱める役割を果たす遺伝子改変バクテリオファージを教示する。Hagens and Blassi(6)は、殺菌剤として遺伝子改変繊維状ファージを教示する。発明者らは、優性感受性耐性遺伝子(dominant sensitive resistance gene)、例えば、30Sリボソームサブユニットタンパク質S12、ジャイレース、RNAポリメラーゼβサブユニット、及びチミジル酸シンターゼ、並びにくわえて亜テルル酸塩耐性遺伝子をコードする遺伝子改変バクテリオファージ並びに細菌の抗生物質に対する耐性を減らす際のそのバクテリオファージの使用を以前に記載した(7)。
【0011】
クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)及びその関連Casタンパク質(CRISPR−Cas)は、ヒト、霊長類、齧歯動物、魚類、ハエ、虫、植物、酵母、細菌細胞、及びバクテリオファージのゲノムを正確に削除及び編集する効率的なツールを提供することによって分子生物学に変革をもたらした。また、最近CRISPR−Casシステムは生きた動物において遺伝子疾患の表現型を矯正するのに使用されており、その利用が哺乳類におけるさまざまな治療方法に対して検討されている。それでもなお、抗生物質耐性遺伝子又は病原性細菌株の特有の集団を標的にするCRISPR−Casシステムの使用を示しているのは限られた研究のみである(8、10、11)。
【0012】
CRISPRは短いリピートのクラスターを含み、同じくらいの大きさの非反復配列が(スペーサーと呼ばれる)散在した遺伝子システムである。該システムのさらなる構成要素としてはCRISPR関連(cas)遺伝子及びリーダー配列が挙げられる。転写されたスペーサーはCasタンパク質をプロトスペーサーと呼ばれる外来核酸内の相同配列に誘導し、続いてプロトスペーサーが切断される。このシステムは原核生物に豊富であり、コンピューター解析により、CRISPRは今日までに配列が決定されている細菌ゲノムの〜40%及びアーキアゲノムの〜90%に見られることが示されている。
【0013】
CRISPRアレイ及びcas遺伝子は微生物種によって大きく異なる。直列反復配列は種の間で異なることが多く、配列の著しい相違はcas遺伝子でも見られる。リピート配列のサイズは24〜47bpの間でさまざまであり、スペーサーのサイズは26〜72bpでありうる。1つのアレイ当たりのリピートの数は2つから、現在の記録を保持するベルミネフロバクター・エイセニアエがもつ1つのアレイ当たり249個のリピートまである。ゲノムの多くは単一のCRISPR座をもつが、メタノカルドコックス・ヤンナスキイは18の遺伝子座をもつ。最後に、いくつかのCRISPRシステムでは6個のみ又はそれより少ないcas遺伝子が同定されているが、他は20個を超えるcas遺伝子を伴う。このような多様性にもかかわらず、CRISPRシステムの大部分でいくつかの特徴が保存されている。
【0014】
ファージ感染に応えて細菌がファージゲノム配列に由来する新しいスペーサーを組み込み、CRISPR媒介ファージ耐性をもたらすことがこれまでに示されている。その新しいリピート−スペーサーユニットはアレイのリーダー配列に近い端に付き、完全な耐性を与えるのにファージ配列と厳密に一致しなければならない(100%同一性)。そのようなファージ由来スペーサーをファージ感受性ストレプトコッカス・サーモフィルス株のCRISPRアレイに人工的に導入すると、該株はファージ耐性になった(12)。
実際に、天然CRISPRアレイに見出されるスペーサーは、ファージ及び他の染色体外要素に由来することが多い(13)。
【0015】
Marraffini et al. 2008(14)は、細菌性病原体の抗生物質耐性遺伝子及び病原性因子の拡散を妨げるCRISPRアレイの操作を教示する。Garneau et al.(9)は、CRISPRアレイは抗生物質耐性遺伝子をコードするプラスミドDNAを切断することを教示する。
【0016】
2つの最近の洗練された研究により、ファージ伝播可能CRISPR−Casシステムが病原体を特異的に死滅させる又は抗生物質に対して再び感受性をもたせることができることが示された(10、11)。また、これらの研究及び別の研究(8)はCRISPR−Casシステムは特異的な細菌集団を富化できることを示した。さらに、それらの研究は該システムを病原体に対して用いて感染した動物を効果的に治療しうることを示した。したがって、該システムは潜在的な抗菌剤として使用できることが示唆された。それにもかかわらず、これらの研究の結果から伝播可能なCRISPR−Casシステムの可能性が強調される一方で、該システムを直接的な抗微生物剤として使用するという概念は、さまざまな問題に苦しむ従来の生物的防除に似ている(15)。ファージによって特異的なDNAをこの病原体に送達することができるならば、溶菌性ファージで病原体を直接死滅させるのがより効率的であるという主張もありうる。そのうえ、抗生物質がこれらの感受性亢進病原体に対してカウンターセレクションする間に本明細書で提案するシステムを感染患者に使用して病原体に抗生物質に対する感受性を再びもたせることは、抗生物質によって選択される変異体を逃してしまうのでおそらく失敗する可能性が高いであろう。
【0017】
よって、細菌の耐性遺伝子を特異的に標的にし、且つさらに抗生物質に対する耐性の水平伝播を削減する効率的な抗微生物方法を開発する必要性が差し迫っている。
【発明の概要】
【0018】
本発明の第1の態様は、2つの要素又は構成要素を含むキット又はシステムに関する。第1の構成要素(i)は少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含む選択構成要素である。第2の構成要素(ii)は少なくとも1つのcas遺伝子及び少なくとも1つのクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)アレイを含む少なくとも1つの感受性亢進構成要素を含み、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーは、細菌の病原性遺伝子内に含まれるプロトスペーサーを、前記細菌の前記病原性遺伝子を特異的に不活性化するように標的にし、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーは前記(i)の選択構成要素内に含まれるプロトスペーサーを、前記選択構成要素を特異的に不活性化するように標的にする。そのような不活性化は、前記溶原性ファージに感染した細菌を選択構成要素に対して非感受性にし、且つ耐性をもたせることが留意されるべきである。
【0019】
本発明の第2の態様は、病原性遺伝子の細菌間の水平伝播を干渉する方法に関する。より具体的には、該方法は、そのような病原性遺伝子を内部にもつ細菌を含有する固体表面を、本発明の選択構成要素及び感受性亢進構成要素の少なくとも1つ又はそれを含むいずれのキット、具体的には本発明のキット又はシステムのいずれかと接触させる工程を含み、それによって病原性遺伝子を不活化し、その水平伝播を干渉する。
【0020】
さらに、本発明は、本発明の選択構成要素及び感受性亢進構成要素の少なくとも1つ又はそれを含むいずれのキット、具体的には本発明において提供されるキット又はシステムのいずれかを用いて、病原性遺伝子を含有する細菌の細菌感染に起因する哺乳類対象の病的状況を予防する方法を提供する。
【0021】
本発明の別の態様は、改変CRISPRを含む遺伝子改変溶原性バクテリオファージに関する。さらになお、本発明は、本発明のプロトスペーサー、具体的には本発明に記載の溶菌性ファージのいずれかを含むいずれの遺伝子改変溶菌性バクテリオファージを包含する。
【0022】
本明細書において使われる技術用語及び科学用語はすべて、別段特に規定がない限り本発明に係わる当業者に一般的に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書において記載されているものに類似する又は等価な方法及び材料は本発明の実施形態の実行又は試験に使用できるが、例示的な方法及び/又は材料を下に記載する。矛盾する場合には、定義も含めて特許明細書が優先することになる。くわえて、材料、方法、及び例は専ら例示であり、必ずしも限定することを目的としない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
添付の図面を参照して、本発明のいくつかの実施形態を単に例示の目的で本明細書に記載する。ここで図面に詳しく具体的に関連して、示される詳細は例として本発明の実施形態を例示的に考察する目的で示されていることが強調される。この点に関して、図面に伴う説明から、どのように本発明の実施形態が実行されうるかが当業者に明らかになる。
図面では:
図1図1.溶原化ファージの概略図 I−E型CRISPR関連遺伝子:cas3、cse1、cse2、cas7、cas5、及びcas6e(濃い色のバー)を、λ染色体(NCBI参照配列:NC_001416.1、配列番号36)の19014〜27480位のヌクレオチドに代わって挿入し、対照溶原化ファージλcas(最下段)を得た。λcas−CRISPRファージ(最上段)は、cas遺伝子にくわえて、遺伝子ndm−1(配列番号37、38、39でそれぞれ表わされるN、N、N)及びctx−M−15(配列番号40、41、42でそれぞれ表わされるC、C、C)を標的にするスペーサーをもつCRISPRアレイコードする。PT7、T7プロモーター。
図2図2A〜2D.耐性プラスミドを内部にもつ細菌と比較した溶原菌の競合的適応 図2Aは、λcas−CRISPRプロファージ及びpVecプラスミドをコードする細菌の1:1の比での混合培養を示す。 図2Bは、λcas−CRISPRプロファージ及びpCTXプラスミドをコードする細菌の1:1の比での混合培養を示す。 図2Cは、λcas−CRISPRプロファージ及びpNDMプラスミドをコードする細菌の1:1の比での混合培養を示す。 図2Dは、λcas−CRISPRプロファージ及びpNDM*+pCTXプラスミドをコードする細菌の1:1の比での混合培養を示す。 パネルA、B、C、及びDの細菌はLB中で32℃にて14時間共培養した。次いで細胞はLBに1/800希釈され、32℃でさらに14時間増殖した。混合培養から試料を図に示されている時点で取り、カナマイシン又はストレプトマイシン又はストレプトマイシン+ゲンタマイシン寒天プレートのいずれかにプレートし、溶原菌(カナマイシン)とプラスミドを内部にもつ細菌(パネルA、B、Cについてはストレプトマイシン又はパネルDについてはストレプトマイシン+ゲンタマイシン)を識別した。次いで、各株のCFU比は総耐性CFUのうちの各タイプの耐性CFUの数を計算することによって決定した。
図3図3.抗生物質耐性プラスミドの形質転換に対する溶原化効果 エシェリキア・コリK−12は、λcas(薄い灰色バー)又はλcas−CRISPR(濃い灰色バー)で溶原化された。これらの溶原菌を対照(pVEC)、ndm−1(pNDM)、又はctx−M−15(pCTX)をコードするプラスミドで形質転換し、ストレプトマイシンを補充した寒天プレートに播いた。バーは、培養液を連続希釈したものを播いた後に数えた1ml当たりのコロニー形成単位(CFU)の数の、3回の独立した実験の平均及び標準偏差を示す。
図4図4.溶原化による抗生物質耐性菌の感受性亢進 対照(pVEC)、ndm−1(pNDM)、ctx−M−15(pCTX)、又はndm−1+ctx−M−15(pNDM*/pCTX)をコードするプラスミドを内部にもつエシェリキア・コリK−12を、λcas(薄い灰色バー)又はλcas−CRISPR(濃い灰色バー)で処理し、5μg/mlテトラサイクリン及び0.2%アラビノースを補充したLBプレートに播いた。次いでコロニー(各株24個)を、ストレプトマイシン又はゲンタマイシンを含む又は含まない、5μg/mlテトラサイクリン及び0.2%アラビノースを補充したプレートに播種した。バーは、3回の独立した実験の、抗生物質のないプレートで増殖できるCFUの総数のうちのストレプトマイシン又はゲンタマイシンを含むプレートで増殖できないCFUとして記録したストレプトマイシン又はゲンタマイシン感受性細菌の%割合及び標準偏差を示す。
図5図5.溶菌性ファージからの保護に対する溶原化効果 エシェリキア・コリK−12をλcas(薄い灰色バー)又はλcas−CRISPR(濃い灰色バー)で溶原化した。これらの溶原菌を、標的プロトスペーサーを欠く対照T7−gp8又はndm−1の2つのプロトスペーサー(配列番号55で表わされるT7−N)若しくはctx−M−15の2つのプロトスペーサー(配列番号56で表わされるT7−C)若しくはそれぞれ1つずつのスペーサー(配列番号57で表わされるT7−N及び配列番号58で表わされるT7−C)をコードするT7ファージで感染した。バーは、ファージを連続希釈したものを播いた後に数えた1ml当たりのプラーク形成単位(PFU)の数の、3回の独立した実験の平均及び標準偏差を示す。
図6図6A〜6C.溶菌性ファージによる抗生物質感受性細菌の富化 図6Aは、抗生物質感受性菌を富化する手順の概略図を示す。細菌培養液を溶原化ファージと混ぜ、培養中に溶原菌と非溶原菌の両方が生じる。CRISPR−Casシステムは抗生物質耐性付与プラスミド及び溶菌性ファージ染色体を分解するので、溶原菌は抗生物質感受性で且つファージ耐性である。処理した培養を、溶原菌を選択的に死滅させ、且つ抗生物質感受性菌を富化する溶菌性ファージを含有する寒天に播種する。 図6B.ファージ耐性エシェリキア・コリの富化 対照(pVEC)、ndm−1(pNDM)、ctx−M−15(pCTX)又はndm−1+ctx−M−15(pNDM*/pCTX)をコードするプラスミドを内部にもつエシェリキア・コリK−12を、λcas(薄い灰色バー)又はλcas−CRISPR(濃い灰色バー)で処理し、パネルAに示されるスキームの通りにT7−N1C1(配列番号57で表わされる)をコーティングしたプレートに播いた。バーは3回の独立した実験で計数される1ml当たりの生存CPFUの数の平均及び標準偏差を示す。 図6C.抗生物質感受性エシェリキア・コリの富化 パネルBに記載の各培養の生存コロニー(20〜48CFU)をストレプトマイシン又はゲンタマイシンを含む又は含まないプレートに播種した。バーは、3回の独立した実験の、抗生物質のないプレートで増殖できるCFUの総数のうちのストレプトマイシン又はゲンタマイシンを含むプレートで増殖できないCFUとして記録したストレプトマイシン又はゲンタマイシン感受性細菌の%割合及び標準偏差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発明者らはCRISPR/Casシステムを用いて選択有利性を付与するとともに、遺伝子工学的手段として抗生物質に対する耐性又はいずれかの病原性を細菌に付与する特異的なDNAを破壊する。近年、CRISPR/Casシステムは細菌の獲得免疫系として機能することが示されている(16)。該システムの生体での役割は、外来DNA又はRNAを標的にすることによってファージによる攻撃及び望ましくないプラスミド複製から保護することである(16〜17)。CRISPR/Casは、CRISPRと呼ばれる独自のDNAアレイ中の短い相同DNA配列に基づいていずれのDNA分子も特異的に標的にするように合理的に設計できる(下記及び図1を参照)。CRISPRアレイの合理的な設計により、耐性決定因子をコードするいずれのDNA分子も標的可能になる。くわえて、もともとファージに対する防御機構として進化した該システムは、選ばれた溶菌性ファージから保護するように設計できる。これにより、本発明の発明者らは、細菌に有益である形質(すなわち、ファージ耐性を付与する遺伝子)を、薬剤耐性を失わせ、且つ耐性決定因子を削減するDNAと遺伝的に結びつけることができる。この遺伝的な結びつきから、溶菌性ファージを選択仲介物質として用いることによって感受性亢進細菌集団が選択可能になる。いくつかの実施形態では、溶菌性ファージは、本発明の改変CRISPRアレイシステムの少なくとも1つのスペーサーと同一性を示す配列を含有するように改変される。そのような選択に使用される人工ファージは最終的には抗生物質感受性及びファージ耐性を結びつける。感受性亢進コンストラクトとともに溶菌性ファージに対する防御をもつ細菌が生存する一方で、他の細菌は溶菌性ファージ、具体的には本発明の発生した(engendered)溶菌性ファージによって死滅させられることになる。組み込まれたコンストラクトは、既存の耐性遺伝子を能動的に完全消滅させ、且つこれらの遺伝子の病原体間の水平伝播を削減するよう設計される。感受性亢進構成要素がCRISPRアレイであり、選択要素が溶菌性ファージである2つの要素を併せもつ本明細書で提案されるCRISPR/Casシステムは薬剤耐性を失わせる遺伝的手段の構成要素のすべてを有する。
【0025】
より具体的には、本発明は抗生物質耐性菌の新たに出現した脅威に対抗する、上記の至らない点を克服する特異的且つ効果的な技術を提供する。病原体を直接的に標的にするのに代わって、洗練された方法が本明細書において提供され、その方法は表面上又はヒトの生来の細菌叢中の病原体を感受性にし、特異的な感受性集団を富化し、よって結果的に感染患者における従来からの抗生物質の使用を可能にする。この技術では、CRISPR−Casシステムは、抗生物質に対する耐性を付与する特異的なDNAを破壊し、同時に選択有利性を抗生物質感受性菌に付与するのに使用される。選択有利性は、未処理の細菌に対して選択することによる抗生物質感受性菌の集団の効率的な置換を可能にする。該方法は、処理した細菌を直接死滅させるのを目指すのではなく、むしろそれらの菌を抗生物質に対して感受性亢進し、未処理の細菌を死滅させることを目標にする点で従来のファージセラピーとは異なる。したがって、処理対するカウンターセレクションがない。選択有利性を利用することによって、処理の作用から逃れている細菌は選択因子によって死滅させられるので送達の効率が最大になる。この方法により、表面上又はヒト皮膚細菌叢中の病原体を感受性にし、同時にこれらの感受性亢進集団を富化することを発明者らは提案する。よって、これらの抗生物質感受性菌に感染した患者は、従来からの抗生物質で治療されることになるであろう。
【0026】
したがって、本発明の第1の態様は少なくとも2つの要素又は構成要素を含むキット又はシステムに関する。第1の構成要素(i)は少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含む選択的構成要素である。第2の構成要素(ii)は、少なくとも1つのcas遺伝子及び少なくとも1つのクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)アレイを含む少なくとも1つの感受性亢進構成要素を含む。CRISPRの少なくとも1つのスペーサーは細菌の病原性遺伝子を特異的に不活性化するように細菌の病原性遺伝子(細菌病原性遺伝子)内に含まれるプロトスペーサーを標的にすることが留意されるべきである。そのうえ、さらなる実施形態では、本発明のCRISPRの少なくとも1つのスペーサーは、(i)の選択的構成要素を特異的に不活性化するように選択的構成要素内に含まれるプロトスペーサーを標的にする。より具体的な実施形態では、前記細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子を標的にし、且つ非活性化するように、本発明のCRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーは、本明細書において「プロトスペーサー」と呼ばれる、細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子(又は前記遺伝子の一部)内に含まれる核酸配列に十分に相補的でありうる。
【0027】
本明細書において「選択構成要素」は、細菌細胞の特有な集団、具体的には、本発明のcas−CRISPRシステムをもつ細胞の集団、より具体的には、本発明の感受性亢進構成要素をもつ細菌細胞の集団を選択(selecting)、選択(choosing)、選択(electing)、又は富化することを可能にし、それを促進し、それをもたらし、且つそれに作用する本発明のキットの要素又は構成要素を指す。選択的構成要素は、例えば、選ばれた所望の集団(具体的な実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素をもついずれの集団又は細胞)だけが生存することを可能にし、且つ許容する条件をかけることによって所望の集団に選択有利性を提供する。
【0028】
本明細書において「感受性亢進構成要素」は、ある物質、例えば抗生物質に対する前記要素又は構成要素をもつ生物の感受性(sensitivity)若しくは感受性(susceptibility)の増加及び/又は耐性の減少を可能にする本発明のキットの要素を指す。より具体的な実施形態では、病原性細菌の遺伝子、例えば抗生物質に対する耐性をコードする遺伝子又は毒性化合物をコードする遺伝子を特異的に標的にし、不活化及び/又は破壊することによって、本発明の感受性亢進構成要素は細胞の感受性亢進及びその耐性がより少なく感受性がより多い細胞への転換を可能にする。ある実施形態では、「標的にすること」は、要素若しくは対象体又は要素若しくは対象体の群を標的になること、それ又はそれらを選択(elect)又は選択(choose)して作用を受け、選択(elected)又は選択(chosen)された対象体又は元素が攻撃、除去、分解、不活化、又は破壊されることとして理解されるべきである。
【0029】
そのうえ、本発明のCRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーは、選択的構成要素を標的にし、且つ不活性化するように、本発明のキットの選択的構成要素内に含まれる核酸配列(又はプロトスペーサー)に十分に相補的でありうる。「不活性化する」とは、選択的構成要素の作用を遅延させる、減少させる、阻害する、削減する、減衰させる、又は停止することを意味する。そのような不活性化は、前記感受性亢進要素を含む細菌を本発明のキットの選択的構成要素に対して非感受性にし、且つ耐性をもたせることが留意されるべきである。本明細書において十分な相補性とは、約10%〜100%のいずれの相補性、より具体的には、約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、及び100%の相補性を示すことが理解されるべきである。
【0030】
ある実施形態では、「相補性」は、それぞれ鍵と鍵穴原則に従う2つの構造体間の関係を指す。本質的に、相補性は2つのDNA又はRNA配列間で共有される特性であるのでDNA複製及び転写の基本原則であり、それらの配列が互いに逆平行の並べられたとき、配列中各のそれぞれの位置のヌクレオチド塩基は相補的であることになる(例えば、A及びT又はU、C及びG)。
【0031】
本発明は、そのいくつかの実施形態では、CRISPRコンストラクトを用いて細菌の遺伝子を下方制御する(例えば、削減する)キット及び方法に関する。より具体的には、本発明のキットの感受性亢進構成要素をもつ抗生物質感受性菌を含む細菌集団を富化するキット及び方法を本発明は提供する。
【0032】
本発明の実施形態の少なくとも1つを詳細に説明する前に、本発明は必ずしも以下の説明に記載される詳細又は実施例で例示される詳細への適用に限定されないことが理解されるべきである。本発明は他の実施形態が可能であり、且つさまざまなやり方で実行又は実施されることができる。
【0033】
本内容に関連して「細菌(bacteria)」(単数形は「細菌(bacterium)」)という用語は、いずれの種類の単細胞の微生物を指す。本明細書において「細菌」及び「微生物」という用語は互換可能である。本明細書においてこの用語は、その基本形状、具体的には、球形(球菌)、棒状(桿菌)、らせん状(らせん菌)、コンマ形(ビブリオ属)、又はコークスクリュー状(スピロヘータ属)に準じて一般的クラスに属する細菌、及び単細胞、対、鎖、又は群体として存在する細菌を包含する。
【0034】
本明細書において「細菌」という用語は、いずれの単細胞又は単細胞の塊若しくは凝集体として存在する原核微生物を指すことが留意されるべきである。より具体的な実施形態では、「細菌」という用語は、具体的にグラム陽性生物、グラム陰性生物、又は抗酸生物を指す。グラム陽性菌は細胞鑑別のグラム染色法に用いられるクリスタルバイオレット染色剤を保持すると理解することができ、したがって顕微鏡下で紫色であるように見える。グラム陰性菌はクリスタルバイオレットを保持せず、確かな同定を可能にする。言い換えれば、本明細書において「細菌」という用語は、細胞膜外側細胞壁に厚いペプチドグリカン層をもつ細菌(グラム陽性)、及び内側細胞質細胞膜と細胞外膜との間に挟まれているその細胞壁の薄いペプチドグリカン層をもつ細菌(グラム陰性)に適用される。さらにこの用語は、厚いペプチドグリカン層の存在に起因してグラム陽性に染色されるが外側細胞膜ももつため、一層(monoderm)(グラム陽性)と二層(diderm)(グラム陰性)細菌の過度期にある中間体として提案されている、デイノコッカス属などのいくつかの細菌に適用される。マイコバクテリウム属といった抗酸生物は、グラム染色法などの従来の方法で染色されないミコール酸と呼ばれる脂質物質を大量に細胞壁内に含有する。
【0035】
上述のように、本発明のキットは、少なくとも2つの構成要素、感受性亢進構成要素をもつ細菌集団、つまり抗生物質に対して感受性がある集団又は耐性が減少若しくは削減された集団である細菌集団の富化及び選択を可能にする選択的構成要素を含みうる。
【0036】
本発明の選択構成要素は、病原性細菌の遺伝子内に含まれる少なくとも1つのプロトスペーサーに少なくとも最小限の同一性(具体的には約70%以上)示す少なくとも1つのプロトスペーサーをもつ若しくは含む、且つ/又は本発明の感受性亢進構成要素内に含まれる少なくとも1つのスペーサーによって認識されるいずれの遺伝要素又はベクターでありうることが理解されるべきである。そのような選択的構成要素は、細菌細胞を害しうる、死滅させうる、又は削減しうる毒性要素又はタンパク質をさらにコードするプラスミドでありうる。より具体的に、その必須要素を不活化すること、そうでなければ細菌の増殖のための必須構成要素を破壊することによって細菌を死滅させる遺伝子をコードするDNA注入エンティティ、例えば、そのような遺伝子をコードし、ファージ産物に由来する特殊なタンパク質機構によって注入されるDNAであることもできる。
【0037】
さらにいくつかの具体的な実施形態では、本発明のキットで用いられる選択的構成要素は少なくとも1つの溶菌性バクテリオファージを含みうる。より具体的な実施形態では、そのようなバクテリオファージは感受性亢進構成要素のスペーサーの標的として機能を果たす少なくとも1つのプロトスペーサーを含む核酸配列を含みうる。
【0038】
バクテリオファージという用語は細菌などの原核生物に感染し複製するウイルスを意味する。「バクテリオファージ」という用語は「ファージ」という用語と同義語であることが留意されるべきである。ファージはDNA又はRNAゲノムを被包するタンパク質からなり、ほんの少数の遺伝子又は数百個の遺伝子をコードして、それによって比較的単純又は精巧な構造をもつビリオンを作りうる。よって、バクテリオファージは生物圏で最も一般的で且つ多様なエンティティの1つである。ファージは、形態及び核酸のタイプ(DNA又はRNA、一本鎖又は二本鎖、線状又は環状)を考慮して国際ウイルス命名委員会(ICTV)に従って分類される。これまでに細菌及び/又はアーキア(以前は古細菌として分類されていた原核生物のドメイン)に感染する約19のファージファミリーが認識されている。多くのバクテリオファージは特定の属又は種又は株の細胞に特異的である。
【0039】
上で述べたように、ある具体的且つ非限定的な実施形態では、本発明のキットの選択構成要素として用いられるバクテリオファージは溶菌性バクテリオファージでありうる。溶菌性バクテリオファージは、溶原経路に入るよりむしろ、溶菌サイクルの完了によって溶菌経路に進むものである。溶菌性バクテリオファージは細胞膜の溶解、細胞の破壊、及び他の細胞に感染できる子孫バクテリオファージ粒子の放出につながるウイルス複製を経る。
【0040】
ある実施形態では、本発明のキットの選択的構成要素の溶菌性バクテリオファージは、細菌病原性遺伝子内に含まれる少なくとも1つの核酸配列に少なくとも70%の同一性をもつ少なくとも1つのプロトスペーサーを含む遺伝子改変バクテリオファージでありうる。より具体的な実施形態では、そのようなバクテリオファージは、細菌病原性遺伝子内に含まれる少なくとも1つの核酸配列に約70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の同一性をもつ少なくとも1つのプロトスペーサーを含みうる。
【0041】
さらなる実施形態では、感受性亢進構成要素は、少なくとも1つのcasタンパク質をコードする組換え核酸配列を含む少なくとも1つの組み換えベクター含みうる。ベクターは少なくとも1つの前記CRISPRアレイの核酸配列をさらに含みうることが留意されるべきである。そのようなベクターは、ある実施形態では、本明細書において記載されているCRISPRシステムを含むいずれのプラスミド、コンストラクト、ファージミド、又は発生した(engendered)バクテリオファージでありうる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「組換えDNA」、「組換え核酸配列」、又は「組換え遺伝子」という用語は、本発明のCRISPRシステムの1つをコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。
【0043】
よって、いくつかの実施形態では、本発明の感受性亢進要素はcasタンパク質及び本発明の少なくとも1つの前記CRISPRアレイを含むいずれのベクターでありうる。本明細書において「ベクター」又は「媒体」は、プラスミドなどのベクター、ファージミド、ウイルス、バクテリオファージ、組み込み可能なDNA断片、及び組み込みDNA断片の宿主ゲノムへの組み込みを可能にする他の媒体又は組み込まれない遺伝要素の発現を可能にする他の媒体を包含する。典型的には、ベクターは、所望の核酸配列、及び好適な宿主細胞で認識され、所望のスペーサーの翻訳をもたらす作動可能に連結された遺伝子調節要素を含有する自己複製DNA又はRNAコンストラクトである。一般に、遺伝子調節要素は、原核生物のプロモーター系又は真核生物のプロモーター発現調節系を含むことができる。そのような系は、転写プロモーター、RNA発現のレベルを上げる転写エンハンサーを典型的に含む。ベクターは通常、ベクターが宿主細胞に依存せずに複製することを可能にする複製起点を含有する。さらにいくつかの代替的な実施例では、本発明で用いられる発現ベクターは、本発明の所望のCRISPRシステムの細菌染色体への組み込みに必要な要素を含んでもよい。
【0044】
したがって、制御及び調節要素という用語は、プロモーター、ターミネーター、及び他の発現制御要素を含む。そのような調節要素はGoeddel;[Goeddel., et al., Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)]に記載されている。例えば、それに作動可能に連結したときDNA配列の発現を制御する多様な発現制御配列のいずれかが、これらのベクターに用いられて本発明の方法を用いる所望のタンパク質をコードするDNA配列をいて発現しうる。
【0045】
ベクターは、適切な制限酵素切断部位、ベクター含有細胞選択用の抗生物質に対する耐性マーカー又は他のマーカーをさらに含みうる。プラスミドはベクターの最も一般的に使用される形であるが、等価な機能を果たし、且つ当該技術分野において公知である又は公知になるベクターの他の形が本明細書での使用に適応する。例えば、Pouwels et al.,Cloning Vectors:a Laboratory Manual(1985 and supplements),Elsevier,N.Y.及びRodriquez,et al.(eds.)Vectors:a Survey of Molecular Cloning Vectors and their Uses,Buttersworth,Boston,Mass(1988)を参照されたく、該文献は参照により本願明細書に組み込まれる。
【0046】
さらにいくつかの他の実施形態では、本発明の感受性亢進要素は本発明のCRISPRシステムを含むファージミドでありうる。本明細書において「ファージミド」はファージパッケージング部位をもつように改変されたプラスミドであり、ファージタンパク質もコードしうる。ファージミドは一般に、少なくともファージパッケージング部位及び複製起点(ori)を含みうる。いくつかの実施形態では、本開示のファージミドは、ファージパッケージング部位及び/又はファージパッケージングに関与するタンパク質をさらにコードしうる。
【0047】
さらになお、ある実施形態では、本発明の感受性亢進要素は遺伝子改変バクテリオファージでありうる。より具体的には、そのような遺伝子改変バクテリオファージは、前記溶菌性バクテリオファージ内に含まれる少なくとも1つの核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサー及び前記少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサー含みうる。そのように、本発明の感受性亢進構成要素は選択的構成要素として機能する溶菌性ファージ及び目的の病原性遺伝子の両方を標的にし、且つ/又は不活性化しうる。
【0048】
より具体的に、本発明の発明者らは、溶菌性バクテリオファージ(選択的構成要素として)又は溶原性バクテリオファージ(感受性亢進構成要素として)、具体的には温度感受性溶原性バクテリオファージの使用を企図する。本明細書において「溶原性ファージ」は、特定の温度(例えば、36℃以下、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、又は35℃)ではファージは溶原性に有利に働く一方で、より高い温度ではファージの溶菌生産(lytic production)が誘導される具体的な実施形態に関する。本明細書において上で述べたように、溶菌性ファージは溶菌サイクルを利用するファージである。溶菌サイクルは結果として感染した細胞及びその膜の崩壊をもたらす。溶菌性ファージサイクルと溶原性ファージサイクルの重要な違いは、溶菌性ファージでは、ウイルスDNAは細菌細胞内で別個の分子として存在し、宿主細菌のDNAとは別に複製することである。溶原性ファージサイクル中のウイルスDNAの位置は宿主細胞内であり、したがって、どちらの場合も、ウイルス/ファージは宿主DNA機構を利用して複製するが、溶菌性ファージサイクルではファージは宿主細胞とは別個の浮遊した分子である。
【0049】
いくつかの実施形態では、選択構成要素又は感受性亢進構成要素のいずれかとして本発明のキットに使用されるファージは、病原性タイプの細菌若しくは混合細菌集団中に病原性及び非病原性メンバーを有することができるタイプの細菌を選択的に感染するタイプのバクテリオファージ又は混合細菌集団中のさまざまなタイプの細菌の感染できるタイプのバクテリオファージでありうる。そのような混合細菌集団は病院環境表面に見られる。重要なことには、エンテロコッカス・フェシウム、スタフィロコッカス・アウレウス、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマンニ、シュードモナス・エルギノーサ、及びエンテロバクター属の複数種(本明細書ではESKAPE生物又は細菌とも呼ばれる)などの少数の耐性病原体が、先進国及び開発途上国でともに最も大きい割合を占める院内感染の原因である。それらの病原体は大部分の院内感染を引き起こし、事実上抗生物質の効果を免れている(18、19)。よって、これらの種に対する効率的且つ有効な治療又はそれらの種のわずか少数に対するものでさえも、耐性病原体感染に起因する死亡及び経済的負担を大きく減らしうる。
【0050】
よって、いくつかの実施形態では、本発明のキットに使用されるファージは、特定の細菌属、細菌種、又は細菌株に特異的なバクテリオファージでありうる。ある実施形態では、ファージは、エシェリキア・コリ、ストレプトコッカス属の複数の種、スタフィロコッカス属の複数の種、クロストリジウム属の複数の種、バチルス属の複数の種、サルモネラ属の複数の種、ヘリコバクター属の複数の種、ナイセリア属の複数の種(具体的には、ナイセリア・ゴノレア及びナイセリア・メニンギティディス)、又はシュードモナス・エルギノーサの少なくとも1つのメンバーでありうる細菌株に特異的でありうる。
【0051】
このタイプのファージの非限定的な例はλgt11ファージでありうる。そのcI遺伝子がcI857対立遺伝子に変更された他のλファージは類似の増殖パターンを呈するのでそれらも企図される。好ましくは、ファージは少なくとも1kbの外来DNA、より好ましくは、少なくとも5 kbの外来DNAの安定した挿入を許容するように選択される。別の実施形態によれば、ファージは最少遺伝子をもつ欠失変異体を含み、効率的に溶原化できる。
【0052】
さらなる細菌に感染できるファージを同定することは当業者の範囲内である。細菌の感染に用いるファージはグラム陽性、グラム陰性菌、又は抗酸生物などに組み込むことができうる。
【0053】
上で述べたように、いくつかの実施形態では、本発明のシステム又はキットの選択要素として機能する溶菌性ファージは遺伝子改変ファージでありうる。そのようなファージはプロトスペーサーである少なくとも1つの核酸配列を含むように遺伝子操作されうる。より具体的な実施形態では、そのようなプロトスペーサーは、少なくとも1つのプロトスペーサー、又は言い換えれば、細菌の病原性遺伝子又はそのいずれの断片、一部、若しくは部分内に含まれる核酸配列と少なくとも70%の同一性を示しうる。
【0054】
より具体的な実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素に含まれるベクターは、(選択的構成要素として機能する)溶菌性バクテリオファージ内に含まれる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサー及び前記細菌病原性遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサーを含む遺伝子改変溶原性バクテリオファージでありうる。
【0055】
さらに具体的な実施形態では、本発明のCRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーは、本発明の溶菌性遺伝子改変バクテリオファージ(選択的構成要素)内及び細菌の標的病原性遺伝子内にも含まれるプロトスペーサーである核酸配列に十分に相補的であるべきである。そのように、本発明の感受性亢進構成要素のCRISPRアレイは溶菌性ファージ及び標的病原性遺伝子の両方を標的にし、不活性化する。
【0056】
さらに他の具体的な実施形態では、本発明のCRISPRシステムによって標的にされる細菌の標的病原性遺伝子又はその遺伝子から転写されるいずれのRNAは、細菌の内在性遺伝子でありうる。本明細書において「内在性遺伝子」は特有の生物、今回の場合では細菌に由来するDNAを指し、したがって、その染色体DNAの一部でありうることが留意されるべきである。
【0057】
他の実施形態によれば、細菌の標的病原性遺伝子はエピクロモソーマル(epichromosomal)でありうる。いくつかの特定且つ非限定的な実施形態では、そのような非内在性遺伝子は水平伝播によって獲得されうる。本明細書において「エピクロモソーマル遺伝子」は、染色体外のDNAとして独立して複製できるか、又はある実施形態では、宿主染色体に組み込まれうるかのいずれかである、細菌の遺伝物質、具体的にはDNAのユニット、例えばプラスミドに関する。
【0058】
いくつかの具体的な実施形態では、細菌の少なくとも1つの標的病原性遺伝子は病原性因子又は毒素をコードする遺伝子であることよって前記細菌を病原性にする。本明細書において「病原性の」という用語は、細菌性疾患又は感染症を引き起こすことができる細菌を意味する。いくつかの実施形態では病原性菌は、免疫系機能が低下していない、ヒト対象、又は例えば限定されないが、哺乳類、齧歯動物、鳥、魚、爬虫類、昆虫、若しくは植物を含む他のいずれの生物で細菌性疾患又は感染症を引き起こすものである。典型的には、病原性菌は「病原性因子」と呼ばれるある種特定のタンパク質を産生するようである。病原性菌は、1つ以上の健康な宿主の組織に正常にコロニーを作り、一般に、病原性因子を発現しない、又は病原性菌に比べて相対的に少量の病原性因子を発現するので、普通の治療環境下で死滅することが望ましくない細菌と識別される。上で論じたように、本開示はいくつかの実施形態では、病原性因子をコードする細菌のDNA配列を対象とする標的RNAをコードする配列を含むCRISPRシステムを含む。そのような病原性因子としては、病原性の付着、保菌、浸潤、バイオフィルム形成に関与する細菌タンパク質、又は免疫応答阻害物質、又は毒素が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。病原性遺伝子の例としては、毒素(例えば、志賀毒素及びコレラ毒素)、溶血素、線毛及び非線毛(afimbrial)アドヘシン、プロテアーゼ、リパーゼ、エンドヌクレアーゼ、エンドトキシン及びエクソトキシン、細胞毒性因子、ミクロシン及びコリシン、並びに当該技術分野において同定されているものをコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。これら及び他の病原性因子をコードする多岐にわたる細菌タイプの細菌遺伝子の配列は当技術分野において公知である。病原性因子は、細菌染色体上、又は細菌内のプラスミド上、又は両方にコードされることができる。いくつかの実施形態では、病原性因子はスーパー抗原エンテロトキシン遺伝子などの細菌のスーパー抗原遺伝子によってコードされうる。その非限定的な例の1つはスタフィロコッカス・アウレウスSek遺伝子である。スタフィロコッカス・アウレウスのさらなる病原性因子としては、α溶血素、β溶血素、γ溶血素、ロイコシジン、パントン・バレンタイン型ロイコシジン(PVL)などの細胞溶解毒素;毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)などのエクソトキシン;SEA、SEB、SECn、SED、SEE、SEG、SEH、及びSEIなどのエンテロトキシン;並びにETA及びETBなどの表皮剥脱毒素が挙げられるが、これらに限定されない。他のタイプの細菌によって発現されるこれらの毒素すべてのホモログも病原性遺伝子標的として本明細書において企図される。
【0059】
より具体的に、本明細書において「毒素」という用語は、細菌によって産生される物質を意味し、エクソトキシン又はエンドトキシンのいずれかに分類できる。エクソトキシンは産生され、能動的に分泌され、エンドトキシンは細菌の一部に残る。通常、エンドトキシンは細胞外膜の一部であり、細菌が免疫系によって死滅するまで放出されない。
【0060】
本発明のいくつかの具体的且つ非限定的な実施形態によれば、細菌の病原性遺伝子は、actA(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_003210.1)、Tem(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_009980)、Shv(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_009648)、oxa−1(例としてジェンバンクアクセッション番号:NW_139440)、oxa−7(例としてジェンバンクアクセッション番号:X75562)、pse−4(例としてジェンバンクアクセッション番号:J05162)、ctx−m(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010870)、ant(3”)−Ia(aadA1)(例としてジェンバンクアクセッション番号:DQ489717)、ant(2”)−Ia(aadB)b(例としてジェンバンクアクセッション番号:DQ176450)、aac(3)−IIa(aacC2)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010886)、aac(3)−IV(例としてジェンバンクアクセッション番号:DQ241380)、aph(3’)−Ia(aphA1)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_007682)、aph(3’)−IIa(aphA2)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010170)、tet(A)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_005327)、tet(B)(例としてジェンバンクアクセッション番号:FJ411076)、tet(C)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010558)、tet(D)(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010558)、tet(E)(例としてジェンバンクアクセッション番号:M34933)、tet(Y)(例としてジェンバンクアクセッション番号:AB089608)、catI(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_005773)、catII NC_010119、catIII(例としてジェンバンクアクセッション番号:X07848)、floR(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_009140)、dhfrI(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_002525)、dhfrV(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010488)、dhfrVII(例としてジェンバンクアクセッション番号:DQ388126)、dhfrIX(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_010410)、dhfrXIII(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_000962)、dhfrXV(例としてジェンバンクアクセッション番号:Z83311)、suII(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_000913)、suIII(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_000913)、integron class 1 3’−CS(例としてジェンバンクアクセッション番号:AJ867812)、vat(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_011742)、vatC(例としてジェンバンクアクセッション番号:AF015628)、vatD(例としてジェンバンクアクセッション番号:AF368302)、vatE(例としてジェンバンクアクセッション番号:NC_004566)、vga(例としてジェンバンクアクセッション番号:AF117259)、vgb(例としてジェンバンクアクセッション番号:AF117258)、及びvgbB(例としてジェンバンクアクセッション番号:AF015628)からなる群より選択されうる。
【0061】
上で述べたように、本発明のキットは、いずれの病原性細菌遺伝子、例えば、耐性を与えるいずれの遺伝子又は言い換えれば、抗菌剤に対する細菌の感受性を阻害、低減、抑制、又は減衰するいずれの遺伝子も特異的に標的にしうる。本明細書において「抗菌剤」という用語は、(殺菌性又は静菌性いずれかの)抗菌活性をもついずれのエンティティ、すなわち増殖を阻害し、且つ/又は細菌、例えばグラム陽性菌及びグラム陰性菌を死滅させる能力をもついずれのエンティティを指す。抗菌剤は、抗菌剤が不在の場合と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は70%超え、例えば、75%、80%、85%、90%、95%、100%、又は30%と70%以上の間のいずれの整数の%の、増殖の阻害又は細菌の生存率の減少をもたらすいずれの薬剤でありうる。別の言い方をすれば、抗菌剤は、細菌などの微生物細胞の集団を、抗菌剤が不在の場合と比較して、少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は70%超え、又は30%と70%の間のいずれの整数の%だけ減少させるいずれの薬剤である。1つの実施形態では、抗菌剤は細菌細胞を特異的に標的にする薬剤である。別の実施形態では、抗菌剤は細菌細胞に特異的に発現される経路を変える(すなわち、阻害又は活性化又は増加する)。抗菌剤は、いずれの化学薬品、ペプチド(すなわち抗微生物ペプチド)、ペプチド模倣体、エンティティ若しくは部分、又はその混成物の類似体を含むことができ、例えば限定されないが、人工及び天然の非タンパク質様のエンティティが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗菌剤は化学的部分をもつ低分子である。例えば、化学的部分としては、非置換又は置換されたアルキル、マクロライド、レプトマイシン、及びその関連天然産物若しくはその類似体などの芳香族部分又はヘテロシクリル部分が挙げられる。抗菌剤は、所望の活性及び/又は特性をもつことが知られているいずれのエンティティであることができ、多様な化合物のライブラリから選択することができる。
【0062】
上で述べたように、本発明のキット、システム、及び方法の感受性亢進要素は、抗生物質に対する耐性を与えるいずれの遺伝子も標的にしうる。本明細書で使用される場合、「耐性」という用語は、細菌細胞集団が特異的な抗生物質化合物に対して100%耐性があることを示唆することを意味せず、抗生物質又はいずれのその誘導体に寛容である細菌を含む。より具体的に、「細菌耐性遺伝子」という用語は、約100%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、又は10%の抗生物質化合物からの保護を付与し、それによって前記抗生物質化合物に対するその感受性(susceptibility)及び感受性(sensitivity)を失わせる遺伝子を指す。
【0063】
よって、いくつかの実施形態では、細菌病原性遺伝子は、本明細書において上に記載されている抗菌化合物のいずれかに対する耐性を与えるいずれの遺伝子でありうる。
【0064】
さらになお、他の実施形態では、細菌の少なくとも1つの標的病原性遺伝子は抗生物質耐性因子をコードする遺伝子でありうる。
【0065】
本明細書において「抗生物質耐性遺伝子」という句は、例えば前記抗生物質化合物を破壊する酵素をコードすることによって、能動的に細胞外に出して抗生物質化合物が微生物に入るのを防ぐ表面タンパク質をコードすることによって、又は抗生物質の標的の変異形であることで抗生物質機能を阻止することによって、抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子を指す。
【0066】
多様な細菌がもつ抗生物質耐性遺伝子は当該技術分野において公知であり、所望の場合、いずれの特定の細菌にお抗生物質耐性遺伝子の配列は決定できる。ある非限定的な実施形態では、本開示は、抗生物質耐性遺伝子を含む細菌のDNA配列を対象とする標的RNAをコードするスペーサーを含むCRISPRシステムを含む。いくつかの実施形態では、耐性遺伝子はペニシリン類の抗生物質の狭域ベータラクタム抗生物質に対する耐性を付与する。その他の実施形態では、耐性遺伝子は、メチシリン(例えば、メチシリン若しくはオキサシリン)、又はフルクロキサシリン、又はジクロキサシリン、又はこれらの抗生物質のいくつか若しくは全部に対する耐性を付与する。よって、いくつかの実施形態では、CRISPRシステムは、日常会話的にもメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)として知られるようになっている菌中の抗生物質耐性遺伝子を選択的に標的にするのに好適である。MRSAは臨床現場において、大部分又はすべてのペニシリンに対して非感受性であるか、又は感受性が低いスタフィロコッカス・アウレウスの株を指す。その他の実施形態では、CRISPRシステムはバンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(VRSA)におけるバンコマイシン耐性を標的にするのに好適である。ある実施形態では、バンコマイシン耐性スタフィロコッカス・アウレウスは、リネゾリド(ZYVOX(商標))、ダプトマイシン(CUBICIN(商標))、及びキヌプリスチン/ダルホプリスチン(SYERCID(商標))の少なくとも1つに対する耐性もありうる。
【0067】
さらなる抗生物質耐性遺伝子としては、ホスホマイシン耐性遺伝子fosB、テトラサイクリン耐性遺伝子tetM、カナマイシンヌクレオチド転移酵素aadD、二機能性アミノグリコシド修飾酵素遺伝子aacA−aphD、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼcat、ムピロシン耐性遺伝子ileS2、バンコマイシン耐性遺伝子vanX、vanR、vanH、vraE、vraD、メチシリン耐性因子femA、fmtA、mecl、ストレプトマイシンアデニリルトランスフェラーゼspcl、spc2、antl、ant2、ペクチノマイシンアデニルトランスフェラーゼspd、ant9、aadA2、及び他のいずれの耐性遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
いくつかの具体的な実施形態では、病原性遺伝子は、いずれのβ−ラクタム抗生物質化合に対する耐性を付与する遺伝子をコードする遺伝子でありうる。より具体的な実施形態では、そのような遺伝子は少なくとも1つのβ−ラクタマーゼコードしうる。本明細書で使用される場合、「β−ラクタマーゼ」という用語は、(β−ラクタム抗生物質などの)β−ラクタム含有分子又はそれらの誘導体などのβ−ラクタマーゼ基質の切断を触媒できるタンパク質を指す。
【0069】
β−ラクタマーゼはそのアミノ酸配列に基づいて4つの分子クラス(A、B、C、及びD)に分けられる。クラスA酵素は分子量が約29kDaであり、ペニシリンを優先的に加水分解する。クラスA酵素の例としては、RTEM及びスタフィロコッカス・アウレウスのβ−ラクタマーゼが挙げられる。クラスB酵素としては、他のクラスのβ−ラクタマーゼと比べて幅広い基質プロファイルをもつ金属酵素が挙げられる。クラスC酵素は分子量が約39kDaであり、例えば、グラム陰性菌の染色体セファロスポリナーゼが挙げられ、該酵素は従来からのさまざまな抗生物質及び新設計の抗生物質の両方に対するグラム陰性菌の耐性の原因である。くわえて、クラスC酵素には、P99エンテロバクター・クロアカエのラクタマーゼも含まれ、該酵素は合衆国の病院においてこのエンテロバクター属の複数種が最も広く蔓延している細菌性因子の1つになっている原因である。クラスD酵素はセリン加水分解酵素であり、独自の基質プロファイルを示す。
【0070】
上で述べたように、より具体的な実施形態では、本発明のキット及びシステムは、いずれかのβ−ラクタム抗生物質に対する耐性を付与しうるいずれの遺伝子も対象としうる。本明細書において「β−ラクタム」又は「β−ラクタム抗生物質」という用語は、その分子構造にβ−ラクタム環を含有するいずれの抗生物質を指す。
【0071】
β−ラクタム抗生物質は、天然及び半合成ペニシリン、クラブラン酸、カルバペネム、ペニシリン誘導体(ペナム系)、セファロスポリン(セフェム系)、セファマイシン、及びモノバクタムなどのさまざまなクラスを含む抗生物質の幅広いグループであり、すなわち、その分子構造にβ−ラクタム環を含有するいずれの抗生物質である。β−ラクタム抗生物質は最も一般的に使用されている抗生物質グループである。厳密には抗生物質ではないが、多くの場合β−ラクタマーゼ阻害剤がこのグループに包含される。
【0072】
β−ラクタム抗生物質は、新生ペプチドグリカン層の前駆体NAM/NAG−ペプチドサブユニット上のD−アラニル−D−アラニン末端アミノ酸残基の類似体である。β−ラクタム抗生物質とD−アラニル−D−アラニンとの構造的類似性が、新生ペプチドグリカン層の最終的な架橋(ペプチド転移)を妨げ、細胞壁合成を中断させる。
【0073】
正常な状況では、ペプチドグリカン前駆体は細菌細胞壁を再構築するよう信号を送り、結果として自己溶解性細胞壁加水分解酵素の活性化の引き金となる。β−ラクタムによる架橋の阻害はペプチドグリカン前駆体の集積を生じさせ、それが新規のペプチドグリカンを産生することなく自己溶解性加水分解酵素による既存のペプチドグリカンの消化を誘発する。結果として、β−ラクタム抗生物質の殺菌作用がさらに高められる。
【0074】
一般に、β−ラクタムはそのコア環構造に従って分類され、グループ分けされる。各グループはさまざまなカテゴリーに分けられうる。「ペナム系」という用語は、ペニシリン抗生物質のメンバーの中心となる骨組み、すなわち、チアゾリジン環を含有するβ−ラクタムを記述するのに使用される。ペニシリンは五員環についたβ−ラクタム環を含有し、環の1つの原子が硫黄であり、環は完全に飽和している。ペニシリンとしては、ベンザチンペニシリン、ベンジルペニシリン(ペニシリンG)、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)、プロカインペニシリン、及びオキサシリンなどの狭域ペニシリンが挙げられうる。狭域ペニシリナーゼ耐性ペニシリンとしては、メチシリン、ジクロキサシリン、及びフルクロキサシリンが挙げられる。狭域β−ラクタマーゼ耐性ペニシリンとしてはテモシリンが挙げられうる。中程度のスペクトラムのペニシリンとしては、例えば、アモキシシリン及びアンピシリンが挙げられる。基質特異性拡張型ペニシリンとしては、アモキシシリン・クラブラン酸カリウム合剤(アモキシシリン+クラブラン酸)が挙げられる。そして最後に、ペニシリングループには、基質特異性拡張型ペニシリン、例えば、アズロシリン、カルベニシリン、チカルシリン、メズロシリン、及びピペラシリンも含まれる。
【0075】
このクラスの他のメンバーとしては、ピバンピシリン、ヘタシリン、バカンピシリン、メタンピシリン、タランピシリン、エピシリン、カルベニシリン、カリンダシリン、チカルシリン、アズロシリン、ピペラシリン、メズロシリン、メシリナム、ピブメシリナム、スルベニシリン、クロメトシリン、プロカインベンジルペニシリン、アジドシリン、ペナメシリン、プロピシリン、フェネチシリン、クロキサシリン、及びナフシリンが挙げられる。
【0076】
ピロリジン環を含有するβ−ラクタムはカルバペネムと呼ばれる。カルバペネムは飽和カルバペネムであるβ−ラクタム化合物である。カルバペネムは主に、カルバペネム抗生物質合成途中の生合成中間体として存在する。
【0077】
カルバペネムはβ−ラクタマーゼに対する耐性を高める構造をもち、したがって最も広いスペクトラムのβ−ラクタム抗生物質とみなされている。カルバペネムは構造的にペニシリンに非常に類似するが、その構造の1位の硫黄原子が炭素原子で置換されており、故にグループの名前がカルバペネムである。カルバペネム抗生物質はもともと、天然由来のストレプトマイセス・カトレア生成物であるチエナマイシから得られた。カルバペネムグループには、ビアペネム、ドリペネム、エルタペネム、イミペネム、メロペネム、パニペネム、及びPZ−601が含まれる。
【0078】
2、3−ジヒドロチアゾール環を含有するβ−ラクタムはペネム系と呼ばれる。ペネム系は構造がカルバペネムに類似している。しかし、ペネム系が硫黄をもつところに、カルバペネムは別の炭素をもつ。天然のペネム系はなく、すべて合成的に作られる。ペネム系の例はファロペネムである。
【0079】
3、6−ジヒドロ−2H−1、3−チアジン環を含有するβ−ラクタムはセフェム系と呼ばれる。セフェム系はβ−ラクタム抗生物質のサブグループであり、セファロスポリン及びセファマイシンを包含する。セファロスポリンは基質特異性拡張型半合成抗生物質であり、7−アミノセファロスポラン酸を共通してもつ。第一世代セファロスポリンはやはり中程度のスペクトラムとみなされ、例としてセファレキシン、セファロチン、及びセファゾリンが挙げられる。抗ヘモフィルス属活性を含む中程度のスペクトラムをもっていると考えられている第二世代セファロスポリンとしては、セファクロル、セフロキシム、及びセファマンドールが挙げられうる。抗嫌気性菌活性を含む中程度のスペクトラムを示す第二世代セファマイシンとしては、セフォテタン及びセフォキシチンが挙げられる。広域スペクトラムの活性をもつとみなされる第三世代セファロスポリンとしては、セフォタキシム及びセフポドキシムが挙げられる。
【0080】
最後に、グラム陽菌及びβ−ラクタマーゼ安定性の対する活性が増強された、広域スペクトラムとみなされている第四世代セファロスポリンとしては、セフェピム及びセフピロムが挙げられる。セファロスポリン類としてはさらに、セファドロキシル、セフィキシム、セフプロジル、セファレキシン、セファロチン、セフロキシム、セファマンドール、セフェピム、及びセフピロムが挙げられうる。
【0081】
セファマイシンはセファロスポリンに非常に似ており、時としてセファロスポリンとして分類される。セファロスポリンと同様に、セファマイシンはセフェム核(cephem nucleus)に基づいている。セファマイシンは当初ストレプトマイセス属によって産生されていたが、合成のものも製造されてきている。セファマイシンは7−アルファ位にメトキシ基をもち、セフォキシチン、セフォテタン、セフメタゾール、及びフロモキセフが挙げられる。
【0082】
1、2、3、4−テトラヒドロピリジン環を含有するβ−ラクタムはカルバセフェムと呼ばれる。カルバセフェムは、セファロスポリン、セフェムの構造をもとに合成的に作られる抗生物質である。カルバセフェムはセフェムに類似するが、硫黄の代わりに炭素が置き換わっている。カルバセフェムの例はロラカルベフである。
【0083】
モノバクタムはβ−ラクタム化合物であり、(大部分の他のβ−ラクタムが2つの環をもつのと対照的に)β−ラクタム環は1つのみであり、別の環に融合していない。モノバクタムはグラム陰性菌に対してのみ作用する。モノバクタムの他の例は、チゲモナム、ノカルディシンA、及びタブトキシンである。
【0084】
3、6−ジヒドロ−2H−1、3−オキサジン環を含有するβ−ラクタムは、オキサセフェム又はクラバムと呼ばれる。オキサセフェムはセフェムに類似した分子であるが、硫黄の代わりに酸素が置き換わっている。よってそれらはオキサペナムとしても知られる。オキサペナムの例はクラブラン酸である。それらは合成的に作られる化合物であり、天然には見つかっていない。オキサセフェムの他の例はモキサラクタム及びフロモキセフが挙げられる。
【0085】
β−ラクタム抗生物質の別のグループはβ−ラクタマーゼ阻害剤、例えば、クラブラン酸である。それらが示す抗菌活性はわずかであるが、それらはβ−ラクタム環を含有する。それらの唯一の目的はβ−ラクタマーゼに結合することによってβ−ラクタム抗生物質の不活性化を防ぐことであり、したがってそれらはβ−ラクタム抗生物質とともに共投与される。臨床に用いられるβ−ラクタマーゼ阻害剤としては、クラブラン酸及びそのカリウム塩(通常、アモキシシリン又はチカルシリンと組み合わせて)、スルバクタム、並びにタゾバクタムが挙げられる。
【0086】
したがって、本発明のキットは、抗生物質耐性遺伝子を標的にして破壊することによって、本明細書において上に示された抗生物質化合物のいずれかに対する細胞集団の感受性亢進を導くことが理解されるべきである。よって、そのような感受性亢進は前記化合物に対する細菌の感受性を上げ、それによって必要とされる量の減少につながりうる有効性を高めることが理解されるべきである。本発明のキット及び本明細書において開示されている抗生物質化合物のいずれかとの併用治療も本発明によって企図される。さらにいくつかのさらなる実施形態では、本発明のキットは少なくとも1つの抗生物質化合物をさらに含みうる。より具体的な実施形態では、そのような化合物は、本発明によって開示されている抗生物質化合物のいずれかでありうる。
【0087】
より具体的な実施形態では、本発明のキットの標的病原性遺伝子である抗生物質耐性因子又は遺伝子は、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ耐性因子(ESBL因子)、CTX−M−15、ベータラクタマーゼ、ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM)−1,2,5,6 及びテトラサイクリンA(tetA)のいずれか1つでありうる。
【0088】
ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM−1)は、細菌を現在使用されているすべてのβ−ラクタム抗生物質に対して耐性があるようにする酵素である。NDM−1耐性スペクトラムは、抗生物質耐性細菌感染症の治療の中心であるカルバペネムファミリーの抗生物質を包含する。NDM−1の遺伝子は、カルバペネマーゼと呼ばれるβ−ラクタマーゼ酵素をコードする大きな遺伝子ファミリーの1つのメンバーである。カルバペネマーゼを産生する細菌は治療が難しいことで有名である。重要なことには、NDM−1の遺伝子は水平遺伝子伝播によって細菌の1つ株から別の株へ広がることができるので、容易に拡散しうる。ある具体的且つ非限定的な実施形態では、NDM−1タンパク質はタンパク質_id CAZ39946.1のクレブシエラ・ニューモニエのメタロベータラクタマーゼ遺伝子blaNDM−1でありうる。いくつかの具体的な実施形態では、前記NDM−1タンパク質は配列番号75で表わされる核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含みうる。さらにいくつかのさらなる具体的な実施形態では、本発明のNDM−1タンパク質は配列番号74で表わされるアミノ酸配列を含みうる。
【0089】
さらになお、本明細書においてCTX−M−15は、エシェリキア・コリ、クレブシエラ・ニューモニエ、及びサルモネラ属の複数種で最初に記載され、他のエンテロバクター科、及びシュードモナス・エルギノーサを含むエンテロバクター科ではない種で急速に出現した広域スペクトラムのβ−ラクタマーゼ(ESBL)のCTX−Mファミリー(セフォタキシマーゼ(CTX−M−ases))のメンバーである。このファミリーには、CTX−M−3、CTX−M−9、CTX−M−14、及びCTX−M−15酵素が含まれる。いくつかの具体的な実施形態では、CTX−M−15が標的として使用され、本発明のキットは、タンパク質_id AAL02127.1のエシェリキア・コリベータラクタマーゼCTX−M−15でありうる。いくつかの具体的な実施形態では、前記CTX−M−15タンパク質は、配列番号77で表わされる核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含みうる。さらにいくつかのさらなる具体的な実施形態では、本発明のCTX−M−15タンパク質は配列番号76で表わされるアミノ酸配列を含みうる。
【0090】
いくつかの実施形態によれば、本発明のキット又はシステムの感受性亢進要素のCRISPRアレイの少なくとも1つのスペーサーは、CTX−M−15の少なくとも1つのプロトスペーサー、NDM−1の少なくとも1つのプロトスペーサー、及び溶菌性ファージゲノム内に含まれる少なくとも1つの核酸配列の少なくとも1つを標的にする核酸配列を含みうる。
【0091】
本明細書において先に記載された耐性付与遺伝子のいずれかの約10〜約50個のヌクレオチド、具体的には、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、56、47、48、49、若しくは50個のヌクレオチド、又はより具体的に、約35個のヌクレオチドを含むいずれの配列、部分配列(sub−sequence)、又は断片が、プロトスペーサーとして、つまり、本発明の感受性亢進構成要素に対する、具体的には該要素内に含まれる特定のスペーサーに対する標的として用いられうることが理解されなければならない。いくつかの具体的な実施形態では、NDM−1及びCTX−M−15遺伝子の少なくとも1つ並びに具体的には配列番号74及び77のいずれか1つでそれぞれ表わされる核酸配列をもつ又は含むものの約10〜約50個のヌクレオチドを含むいずれの配列、部分配列、または断片が適切且つ効果的なプロトスペーサーとして用いられうる。いくつかの具体的な実施形態では、そのようなプロトスペーサーは少なくとも1つのプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含みうる。さらなる具体的な実施形態では、そのようなPAM配列は、AAA、AAC、AAG、AAT、CAG、GAA、GAC、GAG、TAA、TAC、TAG、AGA、AGC、AGG、GGG、TGG、ATA、ATC、ATG、ATT、CTG、GTG、TTGのいずれか1つでありうる。さらにいくつかの他の実施形態では、そのようなPAMはAWGであってよく、そこでは「W」は「A」又は「T」のいずれか1つでありうる。さらになお、ある実施形態では、本発明のプロトスペーサーはプロトスペーサー配列の5’末端に前記PAM配列の1つを最後に含みうる。
【0092】
さらにいくつかの他の特定且つ非限定的な実施形態では、本発明のCRISPRシステム、具体的にはその感受性亢進構成要素は、CTX−M−15の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的にする少なくともスペーサーの少なくとも1つを含みうる。より具体的な実施形態では、そのようなプロトスペーサーは配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列(本明細書においてそれぞれC1、C2、及びC3とも呼ばれる)含みうる。NDM−1の少なくとも1つのプロトスペーサーを標的する少なくとも1つのスペーサー。具体的には、そのようなプロトスペーサーは、配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列(本明細書においてそれぞれN1、N2、及びN3とも呼ばれる)を含みうる。
【0093】
さらになお、本発明のキットの選択的構成要素である遺伝子改変溶菌性ファージは、(a)CTX−M−15の少なくとも1つのプロトスペーサーの少なくとも1つの少なくとも1つのプロトスペーサーを含みうる。いくつかの具体的な実施形態では、そのようなプロトスペーサーは、配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列(本明細書においてそれぞれC1、C2、及びC3とも呼ばれる)を含みうる。さらにいくつかの他の実施形態では、遺伝子改変された溶菌性ファージは、くわえて又は代わりに、(b)NDM−1の少なくとも1つのプロトスペーサーを含みうる。より具体的な実施形態では、そのようなプロトスペーサーは、配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列(本明細書においてそれぞれN1、N2、及びN3とも呼ばれる)を含みうる。ある実施形態では、配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列を含むNDM−1のプロトスペーサーは、それぞれ配列番号37、38、及び39で表わされるスペーサーによって標的にされうることが留意されるべきである。さらになお、配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列を含むCTX−M−15のプロトスペーサーは、それぞれ配列番号40、41、及び42で表わされるスペーサーによって標的にされうる。
【0094】
ある実施形態では、本発明の選択構成要素は少なくとも1つの溶菌性ファージを含みうる。いくつかの実施形態では、本発明のそのような溶菌性ファージは、少なくとも1つのT7様ウイルス及びT4様ウイルスでありうる。さらなる具体的な実施形態では、本発明のキットによって使用される溶菌性ファージは、T7様ウイルス、具体的には少なくとも1つの腸内細菌ファージT7でありうる。バクテリオファージT7は溶菌生活環をもつDNAウイルスである。こられのファージは、カウドウイルス目、ポドウイルス科、及びT7様ウイルス属に属する。
【0095】
いずれの好適な溶菌性ファージが、本発明のキット、システム、及び方法によって使用されうることが理解されるべきである。1つの非限定的な例は、ミオウイルス科のメンバーであるファージでありうる。ミオウイルス科のメンバーは、首によって隔てられた頭部と尾部の特徴的な構造をもつ非エンベロープファージである。ミオウイルス科ゲノムは長さが約33.6〜170Kbの直鎖DNAであり、オペロンで転写される最高200〜300個のタンパク質をコードする。ミオウイルス科の大半が溶菌性ファージであり、溶原性になる(宿主細菌のゲノムに組み込まれるようになる又は細菌の細胞質中に環状レプリコンを形成するようになる)ために必要な遺伝子を欠くが、多くの溶原性の種が知られている。ミオウイルス科は4つの亜科に分けられており、それらのうち本発明の内容に最も関連するのはTevenvirinae亜科(Teequatrovirinaeとも、Taxonomy ID:1198136)であり、とりわけ該亜科にT4様ウイルスファージが属する。
【0096】
したがって、より具体的な実施形態では、溶菌性ファージは少なくとも1つの宿主DNAを分解するバクテリオファージ、例えばTevenvirinaeファージのいずれかのメンバーでありうる。
【0097】
Tevenvirinaeのメンバーは、短いスパイク及び6本の長い捩れた尾繊維をもつ基盤とともに、長さが約110nmの首輪(collar)を伴う中程度に細長い頭部及び長さが114nmの尾部を特徴とする類似した形をもつ。この亜科は頭部形態に基づいて2つの属(すなわちT4様ウイルスとSchizot4様ウイルス)に分けられ、属内ではタンパク質の相同性に基づいて種が多くのグループに分けられている。完全なTevenvirinae系統は、T4様ウイルス属及びSchizot4様ウイルス属のファージを含む。
【0098】
具体的には、本発明は、例えば、アシネトバクターファージ133、エロモナスファージ25、エロモナスファージ31、エロモナスファージ44RR2.8t、エロモナスファージ65、エロモナスファージAeh1、腸内細菌ファージSV14、広義の腸内細菌ファージT4、広義のビブリオファージnt−1、未分類T4様ウイルス種(国際ウイルス分類委員会ICTVに準ずる)を含むT4様ウイルスバクテリオファージに関する。より具体的には、本発明は、腸内細菌ファージC16、腸内細菌ファージFSアルファ、腸内細菌ファージMV 72、腸内細菌ファージMV SS、腸内細菌ファージMV12、腸内細菌ファージMV13、腸内細菌ファージMV14、腸内細菌ファージMV9、腸内細菌ファージPST、腸内細菌ファージT2、腸内細菌ファージT4、腸内細菌ファージT6亜種を含む広義の腸内細菌ファージT4種由来のバクテリオファージに関し、且つアシネトバクターファージAc42、アシネトバクターファージAcj61、アシネトバクターファージAcj9、アシネトバクターファージZZ1、エロモナスファージAes002、エロモナスファージAes007、エロモナスファージAes012、エロモナスファージAes120、エロモナスファージAes123、エロモナスファージAes144、エロモナスファージAes151、エロモナスファージAes508、エロモナスファージAes509、エロモナスファージAes512、エロモナスファージAes516、エロモナスファージAes517、エロモナスファージCC2、エロモナスファージファイAS4、エロモナスファージファイAS5、エロモナスファージPX29、バークホルデリアファージ42、シトロバクターファージMiller、クロノバクターファージvB_CsaM_GAP161、シアノファージ2B096、シアノファージ2Bnp、シアノファージ2Gdp、シアノファージ4B092、シアノファージ4B09p、シアノファージ5Bd2、シアノファージ5Bnp、シアノファージ6Bnp、シアノファージ7E02p、シアノファージ7G09p、シアノファージ7Gmp、シアノファージ8B026、シアノファージ8B092、シアノファージ8G092、シアノファージP−TIM3、シアノファージS−TIM4、腸内細菌ファージ1、腸内細菌ファージAc3、腸内細菌ファージAR1、腸内細菌ファージBaker、腸内細菌ファージBp7、腸内細菌ファージCC31、腸内細菌ファージCEV1、腸内細菌ファージDD VI、腸内細菌ファージELY−1、腸内細菌ファージGEC−3S、腸内細菌ファージHX01、腸内細菌ファージIME08、腸内細菌ファージime09、腸内細菌ファージJS、腸内細菌ファージJS10、腸内細菌ファージJS98−C3、腸内細菌ファージJSE、腸内細菌ファージK3、腸内細菌ファージKC69、腸内細菌ファージLZ1、腸内細菌ファージLZ10、腸内細菌ファージLZ2、腸内細菌ファージLZ3、腸内細菌ファージLZ4、腸内細菌ファージLZ5、腸内細菌ファージLZ6、腸内細菌ファージLZ7、腸内細菌ファージLZ8、腸内細菌ファージLZ9、腸内細菌ファージM1、腸内細菌ファージMi、腸内細菌ファージMV BS、腸内細菌ファージnvv1、腸内細菌ファージOx2、腸内細菌ファージPhi1、腸内細菌ファージPol、腸内細菌ファージRB1、腸内細菌ファージRB10、腸内細菌ファージRB14、腸内細菌ファージRB15、腸内細菌ファージRB16、腸内細菌ファージRB18、腸内細菌ファージRB2、腸内細菌ファージRB21、腸内細菌ファージRB23、腸内細菌ファージRB25、腸内細菌ファージRB26、腸内細菌ファージRB27、腸内細菌ファージRB3、腸内細菌ファージRB30、腸内細菌ファージRB32、腸内細菌ファージRB33、腸内細菌ファージRB42、腸内細菌ファージRB43、腸内細菌ファージRB49、腸内細菌ファージRB5、腸内細菌ファージRB51、腸内細菌ファージRB6、腸内細菌ファージRB61、腸内細菌ファージRB62、腸内細菌ファージRB68、腸内細菌ファージRB69、腸内細菌ファージRB70、腸内細菌ファージRB8、腸内細菌ファージRB9、腸内細菌ファージSC1、腸内細菌ファージSCI、腸内細菌ファージSV76、腸内細菌ファージTuIa、腸内細菌ファージTuIb、腸内細菌ファージU4、腸内細菌ファージU5、腸内細菌ファージvB_EcoM−VR7、腸内細菌ファージvB_EcoM_ACG−C40、エシェリヒアファージe11/2、エシェリヒアファージIME08、エシェリヒアファージLw1、エシェリヒアファージLZ、エシェリヒアファージLZ1、エシェリヒアファージLZ9、エシェリヒアファージvB_EcoM_JS09、エシェリヒアファージvB_EcoM_PhAPEC2、エシェリヒアファージwV7、クレブシエラファージKP15、クレブシエラファージKP27、ファージLZ、ファージLZ11、プロクロロコッカスファージP−SSM2、プロクロロコッカスファージP−SSM4、サルモネラファージS16、セラチアファージPS2、シゲラファージShfl2、シゲラファージSP18、シノリゾビウムファージファイM12、ステノトロホモナスファージIME13、ステノトロホモナスファージSmp14、シネココックスファージメタG−MbCM1、シネココックスファージS−MbCM100、シネココックスファージS−MbCM6、シネココックスファージS−MbCM7、シネココックスファージS−PM2、シネココックスファージS−RSM4、シネココックスファージsyn9、及びエルシニアファージPST亜種を含む未分類T4様ウイルス種由来のバクテリオファージに関する(国際ウイルス分類委員会ICTVに準ずる)。
【0099】
本発明の選択構成要素は、エシェリキア・コリに感染するいずれの溶菌性ファージも含みうることが理解されるべきである。さらにいくつかの他の実施形態では、そのような溶菌性ファージはいずれの病原性細菌を標的にするいずれのファージでもありうる。
【0100】
上で述べたように、本発明の選択要素は、本明細書において先に記載された細菌を死滅させる因子及び少なくとも1つのプロトスペーサーをコードするDNA配列でありうる。さらにいくつかの他の具体的且つ非限定的な実施形態では、選択構成要素は少なくとも1つの溶菌性バクテリオファージ、具体的には遺伝子改変溶菌性ファージを含みうる。いくつかの具体的な実施形態では、そのような溶菌性ファージは少なくとも1つのT7バクテリオファージでありうる。いくつかの特定且つ非限定的な実施形態では、本発明のキットにおいて選択的構成要素として使用される溶菌性ファージは、配列番号46で表わされる1つのNDM−1のプロトスペーサーN1及び配列番号49で表わされるCTX−M−15のプロトスペーサーC1を含むT7遺伝子改変されたファージでありうる。前記ファージは本明細書においてT7−N1C1と呼ばれる。いくつかの実施形態では、組換え又は遺伝子改変溶菌性ファージT7−N1C1は配列番号57で表わされる核酸配列を含みうる。さらに別の実施形態では、本発明の選択要素は遺伝子改変溶菌性ファージ、具体的には、それぞれ配列番号46及び47で表わされる2つのNDM−1のプロトスペーサーN1及びN2を含むT7バクテリオファージでありうる。前記ファージは本明細書においてT7−N1N2と呼ばれる。いくつかの実施形態では、組換え又は遺伝子改変溶菌性ファージT7−N1N2は配列番号55で表わされる核酸配列を含みうる。さらになお、本発明の選択要素は遺伝子改変溶菌性ファージ、具体的には、それぞれ配列番号50及び49で表わされる2つのCTX−M−15のプロトスペーサー、例えばC2及びC1を含むT7バクテリオファージでありうる。前記ファージは本明細書においてT7−C2C1と呼ばれる。いくつかの実施形態では、組換え又は遺伝子改変溶菌性ファージT7−C2C1は配列番号56で表わされる核酸配列を含みうる。さらに別の実施形態では、本発明の選択要素は遺伝子改変された溶菌性ファージ、具体的には、配列番号50で表わされる1つのCTX−M−15のプロトスペーサーC2及び配列番号47で表わされるNDM−1のプロトスペーサーN2を含むT7バクテリオファージでありうる。前記ファージは本明細書においてT7−C2N2と呼ばれる。いくつかの実施形態では、組換え又は遺伝子改変溶菌性ファージT7−C2N2は配列番号58で表わされる核酸配列を含みうる。
【0101】
いくつかの代替的な実施例では、本発明のキット又はシステムの選択構成要素は非改変ファージでありうる。故に、本発明の感受性亢進構成要素のCRISPRアレイは、そのようなファージを標的にするように設計されるべきである。したがって、少なくとも1つのCRISPRスペーサーは前記溶菌性ファージの必須遺伝子内に含まれる核酸配列に十分に相補的でなければならない。
【0102】
よっていくつかの実施形態では、少なくとも1つのCRISPRスペーサーは前記溶菌性ファージの必須遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする。いくつかの具体的な実施形態では、そのような溶菌性ファージはT7様ウイルス及びT4様ウイルスの少なくとも1つでありうる。より具体的な実施形態は腸内細菌ファージT7及び腸内細菌ファージT4の少なくとも1つに関する。より具体的な実施形態では、本発明のキット又はシステムの選択構成要素として使用される溶菌性ファージはT4及びT7の少なくとも1つでありうる。そのような具体的な場合では、CRISPRアレイはこれらのファージを標的にしてその核酸配列を認識するスペーサーを含みうる。
【0103】
いくつかの具体的且つ非限定的な実施形態では、そのようなスペーサーはT7バクテリオファージのプロトスペーサーを標的にするスペーサーを含みうる。より具体的な実施形態は、配列番号43、44、及び45のいずれか1つを含むスペーサーに関する。さらにより具体的な実施形態では、そのようなスペーサーは、それぞれ配列番号52、53、及び54のいずれか1つの核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にする。より具体的な実施形態では、これらのプロトスペーサーは本発明の溶菌性ファージ内に含まれる。
【0104】
本発明はそのさらなる態様として、本明細書において以前に記載されている遺伝子改変又は遺伝子操作溶菌性バクテリオファージのいずれか1つをさらに包含することが理解されるべきである。
【0105】
いくつかの実施形態によれば、本発明のキット又はシステムの感受性亢進構成要素のために使用されるバクテリオファージはラムダファージでありうる。より具体的な実施形態では、そのようなファージはラムダ溶原性ファージでありうる。
【0106】
より具体的な実施形態では、溶原性ファージの例は、配列番号36で表わされる核酸配列(NCBI参照配列:NC_001416.1)をもつラムダファージでありうる。
【0107】
例として、本発明のキット及びシステムに使用されるバクテリオファージとしては、溶菌性バクテリオファージ又は溶原性バクテリオファージにいずれかである、いずれの院内細菌に感染できるそれらのバクテリオファージが挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
別の例として、バクテリオファージとしては、例えば限定されないが、プロテオバクテリア門、フィルミクテス門、及びバクテロイデス門のいずれか1つなどの細菌に感染できるバクテリオファージ(溶菌性又は溶原性)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0109】
さらなる例として、バクテリオファージとしては、以下の属に属する細菌に感染できるバクテリオファージが挙げられるが、それらに限定されない:エシェリキア・コリ、シュードモナス属、ストレプトコッカス属、スタフィロコッカス属、クロストリジウム属、エンテロコッカス属、クレブシエラ属、アシネトバクター属、及びエンテロバクター属。
【0110】
また、他の微生物及び特に上に列挙されているESKAPE生物に感染する他の溶菌性ファージも、それらの生物を標的にするキットにおいて選択因子として使用されうる。選択因子は、ファージカプシドを通して又は他の方法によって注射される殺菌因子をコードするDNAであることもできる。さらにいくつかの他の実施形態では、他の微生物及び特に上に列挙されているESKAPE生物に感染する他の溶原性ファージも、これらの生物を標的にするキットにおいて感受性亢進構成要素として使用されうる。より具体的には、いずれのバクテリオファージ、溶菌性ファージ又は溶原性バクテリオファージのいずれも、本発明の目的、具体的には本発明の選択構成要素及び感受性亢進構成要素として適用可能でありうることが理解されるべきである。特に関心があるのは、「ESKAPE」病原体のいずれかを特異的に標的にするバクテリオファージである。本明細書で使用される場合、これらの病原体としては、エンテロコッカス・フェシウム、スタフィロコッカス・アウレウス、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマニ、シュードモナス・エルギノーサ、及びエンテロバクター属が挙げられるが、これらに限定されない。ほんの数例を挙げれば、これらのバクテリオファージとしては、溶菌性または溶原性のどちらでも、スタフィロコッカス・アウレウスに特異的なバクテリオファージ、具体的には、vB_Sau My D1、vB_Sau My 1140、vB_SauM 142、Sb−1、vB_SauM 232、vB_SauS 175、vB_SauM 50、vB_Sau 51/18、vB_Sau.M.1、vB_Sau.M.2、vB_Sau.S.3、vB_Sau.M.4、vB_Sau.S.5、vB_Sau.S.6、vB_Sau.M.7、vB_Sau.S.8、vB_Sau.S.9、vB_Sau.M.10、vB_Sau.M.11の少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。さらにいくつかのさらなる実施形態では、クレブシエラ・ニューモニエに特異的な溶菌性バクテリオファージ又は溶原性バクテリオファージも本発明に適用可能でありうる。より具体的な実施形態では、これらのファージとしては、vB_Klp 1、vB_Klp 2、vB_Klp.M.1、vB_Klp.M.2、vB_Klp.P.3、vB_Klp.M.4、vB_Klp.M.5、vB_Klp.M.6、vB_Klp.7、vB_Klp.M.8、vB_Klp.M.9、vB_Klp.M.10、vB_Klp.P.11、vB_Klp.P.12、vB_Klp.13、vB_Klp.P.14、vB_Klp.15、vB_Klp.M.16が挙げられうるが、これらに限定されない。さらになお、ある実施形態では、シュードモナス・エルギノーサに特異的なバクテリオファージが、本発明の選択構成要素及び/若しくは感受性亢進構成要素又はこれらの構成要素を用いるいずれのキット若しくは方法に適用可能でありうる。そのようなバクテリオファージの非限定的な例としては、vB_Psa.Shis 1、vB_PsaM PAT5、vB_PsaP PAT14、vB_PsaM PAT13、vB_PsaM ST−1、vB_Psa ст 27、vB_Psa ст 44 K、vB_Psa ст 44 M、vB_Psa 16、vB_Psa Ps−1、vB_Psa 8−40、vB_Psa 35 K、vB_Psa 44、vB_Psa 1、vB_Psa 9、vB_Psa 6−131 M、vB_Psa ст 37、vB_Psa ст 45 S、vB_Psa ст 45 M、vB_Psa ст 16 MU、vB_Psa ст 41、vB_Psa ст 44 MU、vB_Psa ст 43、vB_Psa ст 11 K、vB_Psa 1638、vB_Psa Ps−2、vB_Psa 35 CT vB_Psa 35 M、vB_Psa S.Ch.L、vB_Psa R1、vB_Psa SAN、vB_Psa L24、vB_Psa F8、vB_Psa BT −4、vB_Psa BT−2(8)、vB_Psa BT−1(10)、vB_Psa BT−4−16、vB_Psa BT−5、vB_Psa F−2、vB_Psa B−CF、vB_Psa Ph7/32、vB_Psa Ph7/63、vB_Psa Ph5/32、vB_Psa Ph8/16、vB_Psa Ph11/1、vB_Psa、vB_Psa 3、vB_Psa 4、vB_Psa 5、vB_Psa 6、vB_Psa 7、vB_Psa.P.15、vB_Psa.17、vB_Psa.M.18、vB_Psa.28、vB_Psa.M.2、vB_Psa.M 3、vB_Psa.23、vB_Psa.P.8、vB_Psa.M.PST7、vB_Psa.M.C5、vB_Psa.M.D1038が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、アシネトバクター・バウマニに特異的なバクテリオファージが本発明に適用可能でありうる。そのような溶菌性ファージ又は溶原性ファージとしては、vB_Aba B37、vB_Aba G865、vB_Aba G866、vB_Aba U7、vB_Aba U8、vB_Acb 1、vB_Acb 2のいずれか1つが挙げられうる。さらにいくつかのさらなる実施形態では、エンテロバクター属に特異的なバクテリオファージが本発明のキット及び方法に使用されうる。具体的には、vB_Eb 1、vB_Eb 2、vB_Eb 3、vB_Eb 4バクテリオファージのいずれか1つである。さらにいくつかのさらなる実施形態では、エンテロコッカス・フェカリス特異的バクテリオファージが使用されうる。いくつかの非限定的な例としては、vB_Ec 1、vB_Ec 2、vB_Enf.S.4、vB_Enf.S.5バクテリオファージのいずれか1つが挙げられる。
【0111】
さらにいくつかのさらなる実施形態では、バチルス・アンシラシスに特異的に感染するバクテリオファージ、例えば、vB_BaK1、vB_BaK2、vB_BaK6、vB_BaK7、vB_BaK9、vB_BaK10、vB_BaK11、vB_BaK12、vB_BaGa4、vB_BaGa5、vB_BaGa6も、本発明に適用可能でありうる。さらになお、ブルセラ・アボルタスに特異的なバクテリオファージ、例えば、Tb、vB_BraP IV、vB_BraP V、vB_BraP VI、vB_BraP VII、vB_BraP VIII、vB_BraP IX、vB_BraP X、vB_BraP XII、vB_BraP 12(b)、vB_BraP BA、vB_BraP 544、vB_BraP 141я、vB_BraP 141m、vB_BraP 19я、vB_BraP 19m、vB_BraP 9、ブルセラ・カニスに特異的なバクテリオファージ、具体的にはvB_BrcP 1066、クロストリジウム・ペルフリンゲンスA.B.C.D.Eに特異的なバクテリオファージ、例えば、vB_CpPI、vB_CpII、vB_CpIII、vB_CpIV、デスルホビブリオ・ブルガリスに特異的なバクテリオファージ、具体的には、vB_DvRCH1/M1、vB_DvH/P15、vB_DvH/M15、エンテロコッカス・フェカリスに特異的なもの、具体的には、vB_Ec 1、vB_Ec 2、vB_Enf.S.4、vB_Enf.S.5、エシェリキア・コリに特異的なバクテリオファージ、具体的には、vB_Eschc.pod 9、vB_Eschc.Pod 4、vB_Eschc.Shis 7、vB_Eschc.Shis 14、vB_Eschc.Shis 5、vB_Eschc.My 2、PhI−1、PhI−2、PhI3、PhI4、PhI5、T2、T4、T5、DDII、DDVI、DDVII、vB_Eschc.Shis 7/20、vB_Eschc.Shis 1161、vB_Eschc.Shis 8963、vB_Eschc 4、vB_Eschc 11/24、vB_Eschc.Shis 18、vB_Shis 3/14、vB_Sau A、vB_Shis G、vB_Eschc.Shis W、vB_Shis GE25、vB_Eschc.Shis 8962、vB_Eschc 90/25、vB_Eschc 5/25、vB_Eschc 12/25、vB_Eschc H、T3、T6、T7、vB_Eschc 4、vB_Eschc 121、vB_Eschc BaK2、vB_Eschc L7−2、vB_Eschc L7−3、vB_Eschc L7−7、vB_Eschc L7−8、vB_Eschc L7−9、vB_Eschc L7−10、vB_Eschc Φ8、vB_Eschc.Shis 20、vB_Eschc.Shis 25、vB_Eschc.Shis 27、vB_Eschc.Shis MY、vB_Eschc 11、vB_Eschc 12、vB_Eschc 13、vB_Eschc 17、vB_Eschc 18、vB_Eschc 19、vB_Eschc 20、vB_Eschc 21、vB_Eschc 22、vB_Eschc 23、vB_Eschc 24、vB_Eschc 25、vB_Eschc 26、vB_Eschc 27、vB_Eschc 28、vB_Eschc 29、vB_Eschc 30、vB_Eschc 31、vB_Eschc 32、vB_Eschc 34、vB_Eschc 35、vB_Eschc 37、vB_Eschc 38、vB_Eschc 39、vB_Eschc 44、vB_Eschc 45、vB_Eschc 46、vB_E.coli.M.1、vB_E.coli.M.2、vB_E.coli.P.3、vB_E.coli.P.4、vB_E.coli.P.5、vB_E.coli.P.6、vB_E.coli.P.7、vB_E.coli.P.8、サルモネラ・パラチフスに特異的なファージ、具体的には、vB_SPB Diag 1、vB_SPB Diag 2、vB_SPB Diag 3、vB_SPB Diag 3b、vB_SPB Diag Jersey、vB_SPB Diag Beecles、vB_SPB Diag Taunton、vB_SPB DiagB.A.O.R、vB_SPB Diag Dundee、vB_SPBDiagWorksop、vB_SPB Diag E、vB_SPB Diag D、vB_SPB Diag F、vB_SPB Diag H、サルモネラ・チフィ・アブドミナリスに特異的 vB_Sta Diag A、vB_Sta Diag B1、vB_Sta Diag B2、vB_Sta Diag C1、vB_Sta Diag C2、vB_Sta Diag C3、vB_Sta Diag C4、vB_Sta Diag C5、vB_Sta Diag C6、vB_Sta Diag C7、vB_Sta Diag D1、vB_Sta Diag D2、vB_Sta Diag D4、vB_Sta Diag D5、vB_Sta Diag D6、vB_Sta Diag D7、vB_Sta Diag D8、vB_Sta Diag E1、vB_Sta Diag E2、vB_Sta Diag E5、vB_Sta Diag E10、vB_Sta Diag F1、vB_Sta Diag F2、vB_Sta Diag F5、vB_Sta Diag G、vB_Sta Diag H、vB_Sta Diag J1、vB_Sta Diag J2、vB_Sta Diag K、vB_Sta Diag L1、vB_Sta Diag L2、vB_Sta Diag M1、vB_Sta Diag M2、vB_Sta Diag N、vB_Sta Diag O、vB_Sta Diag T、vB_Sta Diag Vi1、vB_Sta Diag27、vB_Sta Diag 28、vB_Sta Diag 38、vB_Sta Diag 39、vB_Sta Diag 40、vB_Sta Diag 42、vB_Sta Diag 46、サルモネラ・チフィリウム、具体的には、vB_Stm.My 11、vB_Stm.My 28、vB_Stm.Shis 13、vB_Stm.My 760、vB_Stm.Shis 1、IRA、vB_Stm 16、vB_Stm 17、vB_Stm 18、vB_Stm 19、vB_Stm 20、vB_Stm 21、vB_Stm 29、vB_Stm 512、vB_Stm Diag I、vB_Stm Diag II、vB_Stm Diag III、vB_Stm Diag IV、vB_Stm Diag V、vB_Stm Diag VI、vB_Stm Diag VII、vB_Stm Diag VIII、vB_Stm Diag IX、vB_Stm Diag X、vB_Stm Diag XI、vB_Stm Diag XII、vB_Stm Diag XIII、vB_Stm Diag XIV、vB_Stm Diag XV、vB_Stm Diag XVI、vB_Stm Diag XVII、vB_Stm Diag XVIII、vB_Stm Diag XIX、vB_Stm Diag XX、vB_Stm Diag XXI、vB_Stm Diag 1、vB_Stm Diag 2、vB_Stm Diag 3、vB_Stm Diag 4、vB_Stm Diag 5、vB_Stm Diag 6、vB_Stm Diag 7、vB_Stm Diag 8、vB_Stm Diag 9、vB_Stm Diag 10、vB_Stm Diag 11、vB_Stm Diag 12、vB_Stm Diag 13、vB_Stm Diag 14、vB_Stm Diag 15、vB_Stm Diag 16、vB_Stm Diag 17、vB_Stm Diag 18、vB_Stm Diag 19、vB_Stm Diag 20、vB_Stm Diag 21、vB_Stm Diag 22、vB_Stm Diag 23、vB_Stm Diag 24、vB_Stm Diag 25、vB_Stm Diag 26、vB_Stm Diag 27、vB_Stm Diag 28、vB_Stm Diag 29、vB_Stm Diag 30、vB_Stm Diag 31、vB_Stm Diag 32、vB_Stm Diag 33、vB_Stm Diag 34、vB_Stm Diag 35、vB_Stm Diag 36、vB_Stm Diag 37、vB_Stm Diag 38、vB_Stm Diag 39、vB_Stm Diag 40、vB_Stm Diag 41、vB_Stm Diag 42、vB_Stm Diag 43、vB_Stm Diag 44、vB_Stm Diag 45、vB_Stm Diag 46、vB_Stm Diag 47、vB_Stm Diag 48、vB_Stm Diag 49、vB_Stm Diag 50、vB_Stm Diag 51、vB_Stm Diag 52、vB_Stm Diag 53、vB_Stm Diag 54、vB_Stm Diag 55、vB_Stm Diag 56、vB_Stm Diag 57、vB_Stm Diag 58、vB_Stm Diag 59、vB_Stm Diag 60、vB_Stm Diag 61、vB_Stm Diag 62、vB_Stm Diag 63、vB_Stm Diag 64、vB_Stm Diag 65、vB_Stm.P.1、vB_Stm.P.2、vB_Stm.P.3、vB_Stm.P.4、シゲラ・ソネイ、具体的には、vB_Shs.Pod 3、vB_Eschc.Shis 7/20、vB_Eschc.Shis 1161、vB_Eschc.Shis 8963、vB_Eschc.Shis 8962、vB_Shis GE25、vB_Eschc.Shis W、vB_Shis G、vB_Shis 3/14、vB_Eschc.Shis 18、vB_Shis 1188、vB_Shis 1188 Γ、vB_Shis 1188 Y、vB_Shis 1188 X、vB_Shis 5514、vB_Shis L7−2、vB_Shis L7−4、vB_Shis L7−5、vB_Shis L7−11、vB_Shis K3、vB_Shis TuI A、vB_Shis Ox2、vB_Shis SCL、vB_Shis Bak C2、vB_Shis 4/1188、vB_Shis 8962、vB_Shis 8963、vB_Shis XIV、vB_Shis 116、vB_Shis 106/8、vB_Shis 20、vB_Shis 90/25、vB_Shis 87/25、vB_Shis 16/25、vB_Shs 7、vB_Shs 38、vB_Shs 92、vB_Shs 1391、vB_Shs.P.1、vB_Shs.P.2、vB_Shs.P.3。いずれの病原性細菌、及び具体的には本明細書において開示されるいずれの病原性細菌に特異的ないずれのバクテリオファージは、溶菌性でも溶原性でも、本発明のキット及び方法又はそのいずれの構成要素、具体的には選択構成要素及び感受性亢進構成要素に適用可能でありうることがさらに理解されるべきである。
【0112】
CRISPR−Casシステムは外来DNA又はRNAを標的にすることによってファージによる攻撃や望ましくないプラスミド複製を防ぐために原核生物で進化してきた。(16、20、21)。エシェリキア・コリCRISPR−Casシステムは、細菌ゲノム内のリピート配列の間に存在するスペーサーと呼ばれる短い相同DNA配列に基づいてDNA分子を標的にする。これらのスペーサーは、CRISPR関連(Cas)タンパク質を外来DNA内のプロトスペーサーと呼ばれる一致配列(及び/又は相補的配列)に導く。その後該配列は切断される。スペーサーは、例えば耐性遺伝子及び溶菌性ファージをコードするものなどのいずれのDNA配列を標的にするように合理的に設計されることができる。これにより、細菌に有益である形質(すなわち、ファージ耐性を付与する要素)を、薬剤耐性を失わせる形質(すなわち耐性遺伝子を削減する要素)と遺伝的に結びつけることができる。この遺伝的なつながりにより、溶菌性ファージを選択因子として用いることによって、感受性亢進細菌集団を選択することが可能になる。溶菌性ファージに対する防御と感受性亢進コンストラクトの両方をもつ細菌は処理された表面上で生き残り、一方でそれらの因子を欠く細菌は溶菌性ファージによって死滅させられる。本発明の組み込みコンストラクトは、既存の耐性遺伝子を活発に絶つだけでなく、細菌間の遺伝子の水平伝播を削減するように設計される。
【0113】
いくつかのさらなる実施形態では、溶原性バクテリオファージはCRISPRリーダー配列をコードする核酸配列をさらに含む。
【0114】
上述のように、本発明のキットの感受性亢進構成要素は、少なくとも1つのCas遺伝子及びCRISPRシステムを含みうる。CRISPRシステムに関して、当業者なら認識すると思われるように、天然のCRISPR遺伝子座には、一般に「リピート」と呼ばれる短い反復配列を多く含む。リピートはクラスター内で生じ、単一のCRISPR遺伝子座において最高で249個のリピートが特定されて、通常「スペーサー」と呼ばれる独自の介在配列が規則的に配置されている。典型的には、CRISPRリピートは長さが約24〜47塩基対(bp)とさまざまであり、部分的に回分配列をもつ。いくつかの実施形態では、本発明のキットの感受性亢進構成要素に含まれるCRISPRリピートは、約20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、又は60個以上の塩基対をもつリピートを含みうる。リピートは一般に、反復ユニット(1つのゲノム当たり最高で約20個又はそれより多い)クラスター内に配置されている。スペーサーは2つのリピートの間に位置し、典型的には、各スペーサーは長さが約20bp以下から72bp以上である独自の配列をもつ。よって、ある実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素に使用されるCRISPRスペーサーはそれぞれ、20〜72個のヌクレオチド(nt)を含みうる。より具体的に、約20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、又は72個以上である。多くのスペーサーは既知のファージ配列と同一であるか、又は高い相同性をもつ。リピート及びスペーサーにくわえて、CRISPR遺伝子座はリーダー配列、及び多くの場合、少なくとも1つの関連Cas遺伝子、具体的には2〜6個又はそれ以上の関連Cas遺伝子のセットも含む。典型的には、リーダー配列は最初のリピートの5’末端に直接隣接する最高で550bpのATリッチ配列である。新しいリピート−スペーサーユニットはほとんどの場合、リーダーと最初のリピートの間でCRISPR遺伝子座に付加されると考えられている。
【0115】
上述のように、本発明のキット又はシステムの感受性亢進要素として用いられる改変溶原性ファージは、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)アレイをcas遺伝子と一緒に含んでCRISPRシステムを形成する。本明細書で使用される場合、SPIDR(スペーサー散在直列反復配列(Spacer Interspersed Direct Repeats)としても知られるCRISPRアレイは、通常は特定の細菌種に特異的である、最近記述されたDNA遺伝子座のファミリーを構成する。CRISPRアレイは、エシェリキア・コリで最初に確認された、散在短鎖配列反復(interspersed short sequence repeat)(SSR)の異なるクラスである。その後数年の間に、同様のCRISPRアレイが、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、ハロフェラックス・メディテラネイ、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ、サーモトガ・マリティマ、並びに他の細菌及びアーキアで見つかった。既知のCRISPRシステムのいずれか、特に、本明細書において開示されているCRISPRシステムにいずれかの使用を本発明は企図することが理解されるべきである。
【0116】
本明細書で使用される場合、「CRISPRアレイポリヌクレオチド」という句は、相補的な遺伝子を下方制御(例えば、削減)できるように十分なCRISPRリピートを含むDNA又はRNA断片を指す。
【0117】
1つの実施形態によれば、CRISPRアレイポリヌクレオチドは、その間に1つのスペーサーをもつ少なくとも2つのリピートを含む。さらにいくつかのさらなる実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素のCRISPRアレイは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個、又はそれより多く、具体的には、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200個又はそれより多くのスペーサーを含みうる。さらに、本発明の感受性亢進構成要素のスペーサーは同一のスペーサーでも異なるスペーサーのいずれでもよいことが理解されるべきである。多くの実施形態では、これらのスペーサーは同一の的細菌病原性遺伝子を標的にしてもよく、異なる標的細菌病原性遺伝子を標的にしてもよい。さらにいくつかの他の実施形態では、そのようなスペーサーは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100個、又はそれより多くの病原性細菌の遺伝子を標的にしうる。
【0118】
例示的な実施形態では、CRISPRアレイポリヌクレオチドは、最初のCRISPRリピートの最初のヌクレオチドで始まり、最後の(末端)リピートの最後のヌクレオチドで終わる、すべてのCRISPRリピートを含む。
【0119】
さまざまなコンピューターソフトウェア及びウェブ資源が、CRISPRシステム、つまりCRISPRアレイの解析及び同定に利用可能である。これらのツールとしては、PILERCR、CRISPR Recognition Tool、及びCRISPRFinderなどのCRISPR検出用ソフトウェア、CRISPRdbなどの前分析(pre−analyzed)CRISPRのオンラインリポジトリ、並びにPygramなどの微生物のゲノムのCRISPRを閲覧するツールが挙げられる。
【0120】
配列が決定されている細菌ゲノム及びアーキアゲノムのそれぞれ約40%及び90%にCRISPRシステムが見出されることが明らかになってきており、本発明の発明者は、すべてのそのようなCRISPRシステムからのCRISPRアレイの使用を企図する。
【0121】
1つの実施形態によれば、CRISPRアレイポリヌクレオチドは、目的遺伝子を下方制御(例えば削減)するように置き換えられるスペーサー(又は複数のスペーサー)とは別に、天然の(野生型)配列に100%の相同性のある核酸配列を含む。
【0122】
別の実施形態によれば、CRISPRアレイポリヌクレオチドは、目的の遺伝子を下方制御するように置き換えられるスペーサー(又は複数のスペーサー)とは別に、天然の(野生型)配列に99%の相同性のある核酸配列を含む。さらにいくつかの他の実施形態では、CRISPRアレイポリヌクレオチドは、目的の遺伝子及び具体的にはそれによってコードされるRNAを下方制御する又は削減するように置き換えられるスペーサー(又は複数のスペーサー)とは別に、天然の(野生型)配列に98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、又は50%の相同性のある核酸配列を含む。
【0123】
本明細書で使用される場合、「スペーサー」という用語は、CRISPRアレイの複数の単鎖直列反復配列(すなわち、CRISPRリピート)の間に見出される非反復スペーサー配列を指す。いくつかの好ましい実施形態では、CRISPRスペーサーは2つの同一CRISPRリピートの間に位置する。いくつかの実施形態では、CRISPRスペーサーは、2つのCRISPRリピート間に位置するDNA伸長における配列解析によって同定される。
【0124】
いくつかの好ましい実施形態では、CRISPRスペーサーは回分配列であり、2つの同一の短鎖直列反復配列の間に自然に存在する。本発明のスペーサーは2つの同一リピート間又は非同一リピート間に位置又は存在しうることが留意されるべきである。
【0125】
「遺伝子の部分」又は「遺伝子内に含まれる核酸配列」という句は、遺伝子のコーディング領域又は非コーディング領域に由来する部分に関する。
【0126】
本明細書において、「十分に相補的な」という句は、遺伝子の発現を下方制御できるように十分に相補的であるスペーサーの配列を指す。
【0127】
本発明のこの態様の1つの実施形態によれば、遺伝子の部分及び具体的には前記遺伝子によってコードされるRNAに十分に相補的である配列は、該遺伝子に少なくとも約70、約75、約80、約85、若しくは約90%同一であり、又は該遺伝子に少なくとも約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、若しくは約99%同一である。いくつかの好ましい実施形態では、配列は遺伝子に100%相補的である。
【0128】
CRISPRシステムによってコードされる標的RNAはCRISPR RNA(crRNA)でありうる。CRISPRスペーサーによってコードされる標的RNAの配列は、本明細書において「プロトスペーサー」とも呼ばれる細菌の病原性遺伝子の標的配列を対象とする(すなわち、該配列と同一又は相補である断片ももつ)という要件による以外、特に制限されない。そのようなプロトスペーサーは、本発明の感受性亢進システム内に含まれるCRISPRスペーサーによってコードされる標的RNAの配列に十分な相補性をもつ核酸配列を含む。
【0129】
いくつかの実施形態では、crRNAは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、又は40ntのスペーサー(標的)配列を含むか又は該配列から成り、その後に19〜36ntのリピート配列が続く。具体的且つ非限定的な実施形態では、標的スペーサーは、代表的なスペーサー配列が本明細書において示されている遺伝子のいずれか1つを標的にする断片を含む又は該断片から成ることになる。
【0130】
いくつかの実施形態では、本発明のCRISPRシステムのスペーサーは標的RNAをコードしうることが留意されるべきである。「標的RNA」は、それをコードするCRISPRシステムの部分から転写されるとき、細菌染色体のDNA配列又は標的にされる細菌内のプラスミド上の配列と同一(RNAについてはTがUに置き換わることを除く)であるか又は該配列に相補的である(及びよって「標的にする」)、少なくともRNA配列の断片を含むRNAである。本開示のCRISPRシステムは2つ以上の標的RNAをコードすることができ、該標的RNAは細菌染色体若しくはプラスミドの1つ以上の配列又はその組み合わせを対象とすることができる。よって標的RNAの配列は、本発明の感受性亢進要素、具体的には本発明の遺伝子改変ファージがもつCRISPRシステムによって何が標的にされるかを左右する。
【0131】
本発明の改変CRISPRアレイは、1つ以上のCasタンパク質(すなわちcas遺伝子)をコードする核酸配列も含みうる。
【0132】
本明細書で使用される場合、「cas遺伝子」という用語は、Casタンパク質をコードする隣接CRISPRアレイに一般に結合する(coupled)、結合する(associated)、又は近くにある(close to)、又は近くにある(in the vicinity of)遺伝子を指す。
【0133】
典型的には、CRISPRアレイはcas1〜cas4と呼ばれる4つの遺伝子の近くに見出される。これらの遺伝子の最も一般的な配列はcas3−cas4−cas1−cas2である。Cas3タンパク質はヘリカーゼであると思われ、Cas4はRecBファミリーのエキソヌクレアーゼに似て、システインリッチモチーフを含有し、DNAとの結合を示唆している。cas1遺伝子(NCBI COGs データベースコード:COG1518)は、CRISPRシステムの全部に共通するマーカーとしての役割を果たす(パイロコッカス・アビシのCRISPRシステム以外のすべてのCRISPRシステムに連結する)ので特に注目に値する。cas2はまだ特徴づけがされていない。cas1〜4は典型的には、CRISPR遺伝子座に近接すること及び細菌種及びアーキア種にわたって幅広く分布することを特徴とする。すべてのcas1〜4遺伝子がすべてのCRISPR遺伝子座と結合するとは限らないが、それらの遺伝子は複数のサブタイプに見出される。
【0134】
くわえて、多くの細菌種には、CRISPR構造体に結合する、本明細書においてcas IB、cas5、及びcas6と呼ばれる3つの遺伝子の別クラスターが存在する。いくつかの実施形態では、cas遺伝子は、cas1、cas2、cas3、cas4、cas IB、cas5、並びに/又はcas6、その断片、変異体、ホモログ及び/若しくは誘導体から選択される。いくつかのさらなる実施形態では、2つ以上のcas遺伝子の組み合わせ、例えばいずれの好適な組み合わせが用いられる。
【0135】
いくつかの実施形態ではcas遺伝子はDNAを含み、他の実施形態ではcasはRNAを含む。いくつかの実施形態では核酸はゲノムに由来し、他の実施形態では核酸は合成又は組換えによって作られる。いくつかの実施形態では、cas遺伝子はセンス鎖であれ、アンチセンス鎖であれ、それらの組み合わせであれ、二本鎖又は一本鎖である。
【0136】
いくつかの実施形態では、cas遺伝子は、cas4又はcas6などの、リーダー配列又はCRISPR遺伝子座の5’末端にある最初のCRISPRリピートに最も近いcas遺伝子であることが好ましい。
【0137】
所与の一連のcas遺伝子又はタンパク質は典型的には特定のCRISPRアレイ内の所与の反復配列と結合することが理解されるであろう。よって、cas遺伝子は所与のDNAリピートに特異的であると思われる(すなわち、cas遺伝子と反復配列は機能的なペアを形成する)。
【0138】
さらになお、CRISPR−Casシステムの主要な3つのタイプ:I型、II型、及びIII型を詳細に記載する。
【0139】
I型CRISPR−Casシステムは、恐らくさまざまな組成物とカスケード(Cascade)様複合体を形成するタンパク質をコードする遺伝子にくわえて、別々のヘリカーゼ及びデオキシリボヌクレアーゼ活性をもつ大きなタンパク質をコードするcas3遺伝子を含有する。これらの複合体は、Casタンパク質の大きなスーパーファミリーを形成し、少なくとも1つのRNA認識モチーフ(RRM;フェレドキシンフォールドドメインとしても知られる)及び特徴的なグリシンリッチループを含有するrepeat−associated mysterious proteins(RAMPs)に包含されてきた多くのタンパク質を含有する。RAMPスーパーファミリーは、包括的な配列及び構造比較に基づいて大きなCas5及びCas6ファミリーを包含する。さらに、Cas7(COG1857)タンパク質は別の異なるRAMPスーパーファミリー内の大きなファミリーである。
【0140】
I型CRISPR−CasシステムはDNAを標的にすると思われ、標的切断はCas3のHDヌクレアーゼドメインによって触媒される。数種のI型CRISPR−CasシステムではCas4のRecBヌクレアーゼドメインはCas1に融合されているので、Cas4はむしろ代わってスペーサー獲得における役割に担う可能性がありうる。いずれのI型CRISPR−Casシステム、具体的には、I−A、B、C、D、E、及びF型のいずれか1つが本発明に適用可能でありうることが留意されるべきである。
【0141】
II型CRISPR−Casシステムは、「HNH」型システム(ストレプトコッカス属様;ナイセリア・メニンギティディスA群血清型株Z2491又はCASS4のNmeniサブタイプとしても知られ)を含み、そのシステムでは、遍在するCas1及びCas2にくわえて、単一で非常に大きなタンパク質であるCas9はcrRNAを生成し、標的DNAを切断するのに十分であると思われる。Cas9は少なくとも2つのヌクレアーゼドメイン、アミノ末端近くにRuvC様ヌクレアーゼドメイン、及びタンパク質の中程にHNH(又はMcrA様)ヌクレアーゼドメインを含有するが、これらのドメインの機能はまだ解明されていない。しかし、HNHヌクレアーゼドメインは制限酵素に富み、エンドヌクレアーゼ活性をもつので、標的切断の役割を担っている可能性が高い。
【0142】
II型システムは、トランス活性化型crRNA(tracrRNA)とpre−crRNA中のリピートの一部の二本鎖形成を伴う独特のメカニズムを通してpre−crRNAを切断する。続いて、pre−crRNAプロセシング経路の最初の切断がこのリピート領域で起こる。この切断はCas9の存在下で、ハウスキーピング、二本鎖RNA特異的リボヌクレアーゼIIIによって触媒される。さらになお、II型システムはcas9、cas1、cas2、csn2、及びcas4遺伝子の少なくとも1つを含むことが留意されるべきである。いずれのII型CRISPR−Casシステム、具体的には、II−A又はB型のいずれか1つが本発明に適用可能でありうることが理解されるべきである。
【0143】
III型CRISPR−Casシステムは、ポリメラーゼ及び少なくともいくつかのRAMPがカスケード複合体に類似したスペーサー−リピート転写産物のプロセシングに関与すると思われるRAMPモジュール(modules)を含有する。III型システムは、(Mtube又はCASS6としても知られる)III−A型及び(ポリメラーゼ−RAMPモジュールとしても知られる)III−B型のサブタイプにさらに分けることができる。スタフィロコッカス・エピデルミデスに関して生体内で示されているように、III−A亜型システムはプラスミドを標的にでき、この亜型にコードされるポリメラーゼ様タンパク質(COG1353)のHDドメインが標的DNAの切断に関与しているようである。フリオサス種由来のIII−B亜型システムについて示されているように、少なくともインビトロではIII−B型CRISPR−CasシステムがRNAを標的にできる有力な証拠がある。III型CRISPRシステムに属するいずれのcas遺伝子、例えば、cas6、cas10、csm2、csm3、csm4、csm5、csm6、cmr1、cmr3、cmr4、cmr5、cmr6、cas1、及びcas2のいずれか1つが本発明の目的に使用されうることが理解されるべきである。さらになお、III−A型またはIII−B型システムのいずれか1つが、本発明のキット、構成要素、及び方法に使用されうる。特に関心があることには、内在性病原性遺伝子が本発明のキット及び方法によって標的にされる具体的な場合、III−B型システムが使用されうる。
【0144】
3つのタイプのCRISPRシステムは、アーキア及び真正細菌の主要な系統のなかで明らかに不均一な分布を示す。特に、II型システムはいまのところ真正細菌のみで見出され、一方でIII型システムはアーキアでより多くみられる。
【0145】
典型的には、リピートクラスターの前に、種内では保存されているが種間では保存されていない、長さが数百塩基対のATリッチ領域である「リーダー」配列がある。CRISPR関連(「cas」)遺伝子は、それらの遺伝子座に結合する一連の保存されたタンパク質コーディング遺伝子であり、通常、アレイの片側に存在する。数種のCRISPR遺伝子座のスペーサー配列の解析から、スペーサーがバクテリオファージ及びプラスミドなどの外来可動遺伝要素由来の配列に一致することが明らかになった。配列が決定されている細菌のゲノムの約40%及び配列が決定されているアーキア(原核生物)のゲノムの約90%が、少なくとも1つのCRISPR遺伝子座を含有する。
【0146】
CRISPR−Cas免疫系は自己免疫反応を避けるために自己と非自己を区別しなければならない。「I型及びII型CRISPR−Casシステム」では、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含有する外来DNAは分解の標的とされるが、宿主のCRISPR遺伝子座の潜在的な標的はPAMを含有せず、それによってRNA誘導型干渉複合体から回避される。
【0147】
上で述べたように、ある実施形態では、本発明のキットの感受性亢進構成要素は少なくとも1つのcas遺伝子を含みうる。より具体的な実施形態では、そのようなcas遺伝子は、少なくとも1つのI型、II型、及びIII型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子でありうる。
【0148】
いくつかの具体的な実施形態では、そのような少なくとも1つのcas遺伝子はI−E型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子でありうる。「I−E型CRISPR」システムは、K型エシェリキア・コリに生来そなわっているものを指す。該システムは、ファージ感染を阻害し、プラスミドを抜き、接合要素伝播を防ぎ、且つ細胞を死滅させることが示されている。このCRISPR機構は、特異的な細胞内DNAを誘導可能で且つ標的を定めた方法で、残りのDNAを完全なまま残して分解するのに使用することができる。
【0149】
さらにいくつかの他の実施形態では、本発明の溶原性ファージ内に含まれる少なくとも1つのI−E型cas遺伝子は、cse1、cse2、cas7、cas5、cas6e、及びcas3遺伝子の少なくとも1つでありうる。ある実施形態では、cse1、cse2、cas7、cas5、cas6e、及びcas3遺伝子の少なくとも1つにくわえて、本発明の感受性亢進構成要素はcas1及びcas2遺伝子の少なくとも1つをさらに含みうる。
【0150】
いくつかの具体的な実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素のcas遺伝子はcse1遺伝子を含む。より具体的な実施形態では、そのようなcse1遺伝子は、タンパク質id AAC75802.1で表わされるエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株のCse1タンパク質をコードする。より具体的な実施形態では、cse1遺伝子は配列番号60で表わされる核酸配列を含みうる。より具体的な実施形態では、cse1遺伝子は、配列番号67で表わされるアミノ酸配列を含むCse1タンパク質をコードする。さらにいくつかのさらなる実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素はcse2遺伝子を含む。より具体的な実施形態では、そのようなCse2タンパク質は、タンパク質id AAC75801.1で表わされるエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株でありうる。さらなる実施形態では、本発明に用いられるCse2タンパク質は配列番号61で表わされる核酸配列によってコードされうる。より特定の実施形態では、cse2タンパク質は配列番号68で表わされるアミノ酸配列を含みうる。さらになお、ある実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素はcas7を含みうる。より具体的な実施形態では、前記cas7 タンパク質は、id AAC75800.1のエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株Cas7タンパク質でありうる。いくつかの実施形態では、Cas7タンパク質は配列番号62で表わされる核酸配列によってコードされる。一層さらなる実施形態は、配列番号69で表わされるアミノ酸配列を含むCas7タンパク質に関する。
【0151】
さらになお、本発明の感受性亢進構成要素はcas5を含みうる。より具体的に、id AAC75799.2のエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株Cas5タンパク質である。いくつかの実施形態では、Cas5タンパク質は配列番号63で表わされる核酸配列によってコードされる。さらなる実施形態では、Cas5タンパク質は配列番号70で表わされるアミノ酸配列を含む。
【0152】
さらにいくつかのさらなる実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素はcas6eを含みうる。より具体的な実施形態では、Cas6eタンパク質はid AAC75798.1のエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株Cas6eタンパク質でありうる。ある実施形態では、本発明で用いられるCas6eタンパク質は配列番号64で表わされる核酸配列によってコードされうる。さらなる実施形態では、Cas6eタンパク質は配列番号71で表わされるアミノ酸配列を含みうる。いくつかのさらなる実施形態では、本発明の溶原性ファージはcas3遺伝子をさらに含む。より具体的な実施形態では、cas3遺伝子はid AAC75803.1のエシェリキア・コリK−12株MG1655亜株Cas3タンパク質をコードする。さらなる実施形態では、Cas3タンパク質は配列番号65で表わされる核酸配列によってコードされる。さらなる実施形態では、Cas3タンパク質は配列番号72で表わされるアミノ酸配列を含みうる。
【0153】
本発明のキット及び特に本発明によるその感受性亢進構成要素は、本明細書において以前に記載されているように使用されるcasタンパク質に対して少なくとも50%、少なくとも60%及び具体的には65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上の配列相同性又は同一性をもつ、複数のCRISPR−casタンパク質オーソログ又はホモログに適用されることが留意されるべきである。
【0154】
さまざまな種から候補オーソログ又は機能的ホモログを同定及び単離する周知の方法が多くあり、その大部分がヌクレオチド又はタンパク質レベルの配列類似性を利用する。次いで、単離された候補は、シークエンシング及びNCBI(国立生物工学情報センター)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)などの慣例的なソフトウェアプログラム、DNASTAR(ウィスコンシン州マディソン)製のLASERGENEバイオインフォマティクスコンピューティングスイート(computing suite)、又は他の方法(例えば、Methods in Gene Biotechnology(CRC Press,Inc.1997)中のWu et al.(eds.)「Information Superhighway and Computer Databases of Nucleic Acids and Proteins」及びBishop(ed.)「Guide to Human Genome Computing」第2版(Academic Press,Inc.1998)を用いる配列比較に供される。
【0155】
上で述べたように、ある実施形態では、本発明のキット、システム、及び方法によって用いられるCRISPRカスケード遺伝子は、エシェリキア・コリI−E型CRISPRシステムに関するものでありうる。それでもなお、上にも示されているように、他のいずれのCRISPRシステムも本発明の目的に適用可能でありうることが理解されるべきである。
【0156】
よって、さらにいくつかのさらなる代替的な実施例では、本発明のキット及びシステムで使用される少なくとも1つのcas遺伝子は、II型CRISPRシステム(II−A型又はII−B型のいずれか)の少なくとも1つのcas遺伝子でありうる。より具体的な実施形態では、本発明のキットによって使用されるII型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子はcas9遺伝子でありうる。そのようなシステムはcas1、cas2、csn2、及びcas4遺伝子の少なくとも1つをさらに含みうることが理解されるべきである。
【0157】
Cas9による2本鎖DNA(dsDNA)切断は「II型CRISPR−Cas」免疫系の顕著な特徴である。CRISPR関連タンパク質Cas9は、RNA:DNA相補性を利用して配列特異的2本鎖DNA(dsDNA)切断の標的部位を識別するRNA誘導性DNAエンドヌクレアーゼである。標的にされるDNA配列は、短い回文配列リピートで分けられる一連のB30〜40bpのスペーサーであるCRISPRアレイによって特定される。アレイはpre−crRNAとして転写され、Casタンパク質複合体と結合してプロトスペーサーとして知られる相補的DNA配列を標的にするより短いcrRNAにプロセスされる。これらのプロトスペーサー標的は、標的認識に必要なプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)として知られるさらなる隣接配列ももたなければならない。結合した後、Casタンパク質複合体はDNAエンドヌクレアーゼとして機能して標的において両鎖を切断し、それに続いてDNA分解がエキソヌクレアーゼ活性によって起こる。
【0158】
いくつかの具体的な実施形態では、ストレプトコッカス・ピオゲネスM1 GASのCas9、具体的にはタンパク質id:AAK33936.1のCas9が本発明のキットに適用されうる。いくつかの実施形態では、Cas9タンパク質は配列番号66で表わされる核酸配列によってコードされうる。さらなる具体的な実施形態では、Cas9タンパク質は配列番号73で表わされるアミノ酸配列を含みうる。上で述べたように、該方法の使用は少し改めればさらに拡大されうることが理解されるべきである。例えば、該システムは特異的なファージを標的にすることによってファージ溶原化及び形質導入を特異的に削減するように設計され、よって病原性遺伝子伝播の大きな源を減らしうる。この方法の別の変更は、可動要素上で伝播されるものよりもむしろ、染色体上の要素によってコードされる耐性遺伝子(本明細書において内在性遺伝子とも呼ぶ)を扱うことができる。そのようなケースでは、宿主を死滅させることになるのでDNAを標的にすることは伝播されるCRISPR−Casに対してカウンターセレクションすることになる。しかし、耐性要素の削減はRNAを標的にするCRISPR−Casシステム、例えばIII−B型システムを用いてやはり達成することができる。病原体を死滅させないので、RNAを標的にすることはコードされる遺伝子によって付与される耐性を削減することになり、送達されている溶原性ファージに対するカウンターセレクションを回避することになる。よって、遺伝子操作されたスペーサーの柔軟性及び使い易さは、さまざまな型のCRISPR−Casシステムの利用可能性と併せて、該方法の多くの有用なバリエーションを可能にしうる。この点において、発明者らが高い頻度で使用されるII−A亜型よりもむしろCRISPR−CasI−E亜型を使用したということは、所望の結果が別のサブタイプでも得られうることを示す。よって、いくつかの実施形態では、エピクロモソーマル又は染色体外病原性遺伝子を標的に対して、CRISPR−CasI型、II型、及びIII−A型システムが使用されうる。しかし、内在性遺伝子又は染色体遺伝子である場合、III−B型システムが、本発明の構成要素、キット、及び方法に適用可能でありうる。
【0159】
さらになお、ある具体的且つ非限定的な実施形態では、本発明の感受性亢進構成要素の遺伝子改変溶原性ファージラムダはIYMMPh3と表わされるファージでありうる。さらにより具体的な実施形態では、そのような遺伝子改変ファージは配列番号59で表わされる核酸配列を含みうる。
【0160】
本発明は、細菌性病原体の病原性遺伝子を標的にし、破壊する効率的なキット、システム、及び方法を提供する。より具体的に、そのような細菌又は細菌集団は抗生物質耐性菌でありうる。特に関心があるのは院内感染症に係わるいずれの細菌である。「院内感染症」という用語は病院内感染症を指し、具体的には、発症が表面などの病院環境及び/又は医療関係者に好発して起こる感染であり、入院中の患者に感染する。院内感染症は潜在的に抗生物質に対して耐性がある生物に起因する感染症である。院内感染症は罹病率及び死亡率に影響を及ぼし、大きな経済的負担を引き起こす。抗生物質に対する耐性のレベルが上がっていること及び病院入院患者の病気の重症度が高くなっていることを考慮すると、この問題は早急な解決が必要である。
【0161】
アメリカ合衆国で、疾病管理予防センターはあらゆるタイプの微生物に起因するおおよそ170万件の病院関連感染症あると推定した。グラム陰性菌による感染症は年間の患者の死亡の3分の2を占める推定されている。現在、グラム陰性菌クロストリジウム・ディフィシルは、合衆国及び欧州における院内下痢症の主因として認識されている。他の一般的な院内生物としては、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、バンコマイシン耐性腸球菌、耐性腸内細菌、シュードモナス・エルギノーサ、アシネトバクター属、及びステノトロホモナス・マルトフィリアが挙げられる。
【0162】
院内感染病原体は、グラム陽菌(スタフィロコッカス・アウレウス、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)、グラム陽性球菌(エンテロコッカス・フェカリス及びエンテロコッカス・フェシウム)、グラム陰性桿状生物(クレブシエラ・ニューモニエ、クレブシエラ・オキシトカ、エシェリキア・コリ、プロテウス・エルギノーサ、セラチア属の複数の種)、グラム陰性桿菌(エンテロバクター・アエロゲネス、エンテロバクター・クロアカエ)、好気性グラム陰性球桿菌(アシネトバクター・バウマニ、ステノトロホモナス・マルトフィリア)、及びグラム陰性好気性桿菌(ステノトロホモナス・マルトフィリア、以前はシュードモナス・マルトフィリアとして知られていた)に細かく分けられうる。多くのなかでも、シュードモナス・エルギノーサは極めて重大な院内感染グラム陰性好気性桿状病原体である。
【0163】
本発明のいくつかの実施形態は、エシェリキア・コリ、シュードモナス・エルギノーサ、スタフィロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、クロストリジウム・ディフィシル、エンテロコッカス・フェシウム、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマンニ、及びエンテロバクター属の複数種(具体的にはESKAPE細菌)の少なくとも1つのいずれの株の細菌における病原性遺伝子を標的にして削減するのに使用する本発明のキット又はシステムに関する。
【0164】
より具体的な実施形態では、細菌は、シュードモナス・エルギノーサ、ストレプトコッカス・ピオゲネス、クロストリジウム・ディフィシル、及びスタフィロコッカス・アウレウスのいずれか1つでありうる。
【0165】
さらなる実施形態では、本発明による本明細書において言及される細菌としては、エルシニア・エンテロコリチカ、エルシニア・シュードツベルクローシス、サルモネラ・チフィ、シュードモナス・エルギノーサ、ビブリオ・コレラエ、シゲラ・ソネイ、ボルデテラ・パータシス、プラスモディウム・ファルシパルム、クラミジア・トラコマチス、バチルス・アンシラシス、ヘリコバクター・ピロリ、及びリステリア・モノサイトゲネスが挙げられうる。
【0166】
他の特定の実施形態では、本発明のキット又はシステムは、いずれのエシェリキア・コリ株、具体的には、O157:H7、腸管付着性(EAEC)エシェリキア・コリ、腸管出血性(EHEC)エシェリキア・コリ、腸管侵入性(EIEC)エシェリキア・コリ、腸管病原性(EPEC)エシェリキア・コリ、毒素原性(ETEC)エシェリキア・コリ、及びびまん付着性(DAEC)エシェリキア・コリのいずれか1つで使用するのに特に適する。
【0167】
本発明のキット又はシステムのいずれのユニット又は構成要素又は要素は、いずれの組成物、調製物、又は装置に含まれるか存在しうることが理解されるべきである。
【0168】
さらになお、本発明によって使用されるいずれの組成物又は調製物は、少なくとも1つの本発明のキット、又は少なくとも1つのその要素、構成要素、若しくはユニットを含みうることが理解されるべきである。より具体的な実施形態では、キット又はそのいずれの要素若しくは構成要素、例えば、少なくとも1つの選択的構成要素及び少なくとも1つの感受性亢進構成要素は、いずれの好適な比率で存在しうる。例えば、約0.0001〜10,000:0.0001〜10,000である。より具体的には、0.0001:10000及び10000:0.0001である。ある実施形態では、異なる病原性遺伝子及び/又は異なる病原性細菌を対象にするキットのカクテルが使用されうる。いくつかの実施形態では、本開示は、細菌集団内の細菌の病原性細菌遺伝子を標的にする本発明の遺伝子改変ファージにCRISPRシステムを含む。細菌集団は病原性及び非病原性メンバーを伴う1つのタイプの細菌を含むことができ、又は細菌集団は複数の細菌種を含むことができ、ある特定の種のみが集団に病原性及び非病原性メンバーをもつ。いくつかの実施形態では、混合細菌集団は少なくとも2つの異なる株又は種の細菌を含みうる。その他の実施形態では、混合細菌集団は2つの異なるタイプの細菌から最高で1000又はそれ以上の異なるタイプまでの細菌を含みうる。本発明のキット及びシステムは病原性遺伝子を含む細菌のみを特異的に標的にし、いずれの同種又は異種性の細菌集団の前記病原性遺伝子の特異的で且つ標的化された削減をもたらしうる。
【0169】
本明細書で提示されている原理証明は、限られた対抗手段しか開発されてきていない、新たに出現している薬剤耐性病原体の脅威を減少させることに向けた一歩である。簡便な遺伝子工学を用いて、細菌は認可され且つ有用な抗生物質に対して感受性をもつことができることが示された。システムは病院環境表面の簡単な処理であり、手指消毒剤において、及びおそらくプロバイオティクス食品添加物として有用であり、病院環境表面及び医療関係者の正常な細菌叢に常在する病原体の耐性を失わせる。耐性病原体を選び抗生物質及び除菌剤とは対照的に、本明細書で提案する処理は感受性病原体を富化及び選択する。そのうえ、実施例に示されるように、該システムは耐性決定因子を水平に伝播又は受容できない病原体を富化することによって抗生物質に対する耐性の拡散を縮小しうる。富化された、感受性のある集団は、新たに導入された耐性病原体がそれらの生態的地位を上回ることによって定着するのを防ぎうる。
【0170】
CRISPR−Casシステムは目的のいずれの遺伝子を削減するようにプログラムできるので、該システムはいずれの抗生物質耐性遺伝子の伝播を制限するのにも使用されうる。
実際に、抗生物質耐性遺伝子の削減に必要なスペーサーの短い配列は、単一アレイでの数十のそのようなスペーサーの構築を可能にし、よって耐性が現われている膨大な数の抗生物質の使用を再び可能にする。また、選択に使用されることになるいくつかの溶菌性ファージに対する保護も同時にプログラムでき、よってこれらの溶菌性ファージから免れた非感受性亢進変異体の発生を低減することができる。そのうえ、該システムは病原性遺伝子をもつ溶原性ファージ又はいずれのプラスミド若しくはDNA要素を標的にするのに使用されうる。RNAを標的にするCRISPR−Casシステムを用いることによって、該システムは病原体自体によってコードされる病原性遺伝子を標的にすることさえできる。
【0171】
プラスミドDNA及び溶菌性ファージに対するCRISPR−Casシステムの作用は十分に確立されている。それでもなお、病原体を抗生物質に対して感受性にし、且つ耐性決定因子の水平遺伝子伝播を減らすツールとしてCRISPR−Casシステムを臨床現場において使用することは新規である。本明細書において提供される原理証明は、溶原性ファージ病原体の大半にみつかり、適合性のあるCRISPR−Casシステムは多くの病原体で機能するはずであるので、さまざまな病原体−ファージ系に適用することができる。抗生物質及び生物的防除とは対照的に、本明細書で提案するシステムを広く使用することは、細菌を抗生物質に対してより耐性にするのではなく、より感受性にすることによって院内感染症の性質を変える可能性があることになる。
【0172】
本発明の発明者らは、上記溶原性バクテリオファージを、表面、例えば固体表面若しくは液体表面、又は固体担体、いずれの物質、又はいずれの物品上の細菌集団に感染させ、それらの上に存在する抗生物質非感受性細菌を抗生物質に対して感受性にすることを企図する。
【0173】
本発明の感受性亢進構成要素として機能を果たす溶原性バクテリオファージのカクテルは、表面、例えば、固体表面若しくは液体表面、又は固体担体、いずれの物質、又はいずれの物品に塗布されうる。各溶原性バクテリオファージは異なる宿主特異性をもち、CRISPRアレイのスペーサーの抗生物質耐性遺伝子に対する相同配列をコードすることによってそれぞれはそれらの遺伝子を特異的に標的にするCRISPRアレイをもつ。アレイをもつ細菌を選択及び富化するために、アレイは溶菌性ファージに対するスペーサーももち、よってこれらの薬剤から細菌を保護しうる。これらの溶菌性ファージは環境に噴霧され、病原体が感受性亢進CRISPRアレイを得るように選択圧をかけてうる。溶原性バクテリオファージは、細菌に毒性のある因子を発現するように改変されていないので、その宿主に対して殺菌性ではないことが理解されるであろう。
【0174】
次いで、富化された抗生物質感受性集団は、その生態的地位を上回ることによって新たに導入された耐性病原体の定着を干渉しうると推定される。本発明の方法は、ファージを使用して病原体を直接的に死滅させないという意味で従来の生物的防除と異なる。結果的に、使用ファージは溶菌性ファージに対する耐性を含むので、使用ファージに対する選択は無く、むしろ該ファージを内部にもつ病原体に対する選択がある。そのうえ、該方法患者体内でのファージの使用を避け、よって生物的防除の毒性に関する問題並びに脾臓及び免疫系によるファージ中和などの他の欠点を克服する。この処置の長期の使用は結果として、病院関係者の生来の細菌叢(皮膚、呼吸器、及び消化管)も置き換えて少ない耐性病原体をもつことになる。
【0175】
よって、ある実施形態では、本発明のキット又はシステムの感受性亢進構成要素として使用される溶原性バクテリオファージは、スプレー剤、スティック、塗布剤、ゲル剤、クリーム、ウォッシュ、ワイプ、フォーム、石鹸、油、溶液、ローション剤、軟膏、手指消毒剤、又はペーストとして調合されうることが理解されるべきである。
【0176】
さらに他の実施形態では、本発明のキット又はシステムの選択構成要素として使用される溶菌性バクテリオファージは、スプレー剤、スティック、塗布剤、ゲル剤、クリーム、ウォッシュ、液剤、ワイプ、フォーム、石鹸、油、溶液、ローション剤、軟膏、又はペーストとして調合されうる。
【0177】
ある実施形態では、本発明のキットの感受性亢進構成要素の溶原性バクテリオファージ及び本発明のキットの選択的構成要素として機能を果たす溶菌性バクテリオファージは同時に適用されてもよく、それぞれ順番に適用されてもよいことが留意されるべきである。代替的に、溶原性バクテリオファージ及び溶菌性バクテリオファージは連日適用されてもよい。これらの構成要素はそれぞれ、少なくとも1つの医薬的に許容可能な担体、賦形剤、補助剤、及び/又は希釈剤を随意に含みうる、組成物、製剤、又は、媒体内に含まれうることがさらに留意されるべきである。さらに、慣用の手順に従って組成物は外用又は内服するように構成されることが理解されるべきである。必要に応じて、組成物は可溶化、又はその適用を容易にするいずれの化合物も含んでもよい。
【0178】
本発明の活性薬剤は、中性又は塩の形態として調合することができる。医薬的に許容可能な塩としては、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどの遊離アミノ基とともに形成される塩、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離カルボキシル基とともに形成される塩が挙げられる。
【0179】
さらになお、本発明のキット及びシステム及びそのいずれの構成要素は、好ましくは、1〜7日毎に、1日1回の投与又は1日複数回の投与として適用されうる。そのような適用は、1日に1回、2回、3回、4回、5回、若しくは6回行われてもよく、又は1日に1回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、又はさらに1か月に1回でもよいことが具体的に企図される。本発明のキット又はそのいずれの構成要素の適用は、最長で1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週、3週、4週、1か月、2か月、3か月、又はさらに長く続きうる。具体的には、適用は1日〜1か月続きうる。最も具体的には、適用は1日〜7日続きうる。さらにいくつかの他の実施形態では、本発明のキット及びシステム又はそのいずれの構成要素の適用は、日常的な手順、具体的には、例えば、病院環境における、表面、物品、又はいずれの物質を処理する日々の手順でありうる。
【0180】
本発明のキット及びシステム並びにそのいずれの構成要素の単回又は複数回の適用は、必要とされる量及び頻度に応じて適用される。いずれにしても、本発明のキット及びシステム並びにそのいずれの構成要素は、病原性細菌の遺伝子の水平伝播を効果的に防ぎ、最も重要なことに、前記病原性遺伝子を含む細菌に起因する哺乳類対象のいずれの病的障害を防ぐのに十分な量を与えるべきである。好ましくは、有効量は1度に適用されうるが、結果が達成されるまで定期的に適用されてもよい。
【0181】
病院の表面は細菌集団の複合混合物を含有し、そのいくつかはさまざまな種に属する耐性病原体である。表面に噴霧することは、これらの病原体を標的にする効果的な方法でありうる。ある実施形態では、噴霧される液体は溶原性CRISPRCasをコードするファージ及び溶菌性ファージの両方を含有すべきである。送達は、病院内の石鹸又はその他の手指消毒剤に添加された液体の形でも行われうる。これらの送達方法は患者に組織の内部でのファージの使用を回避し、よって生物的防除の毒性に関する問題及び他の欠点を克服する。
【0182】
上で述べたように、この方法は病院環境表面及び医療関係者の皮膚細菌叢を標的にする手指消毒剤、石鹸、又は他の液体を処理するのに適用されうる。耐性病原体を選ぶ抗生物質及び消毒剤とは対照的に、本明細書で提案する処理は感受性病原体を富化及び選択する。具体的には、この方法は抗生物質に対する耐性が生死にかかわる状況である免疫機能が低下した患者が入院している医療部にさらに広めうる。耐性病原体を選ぶ抗生物質及び消毒剤とは対照的に、本明細書で提案する処理は感受性病原体を富化及び選択する。そのうえ、該システムは耐性決定因子を水平に受容又は伝播できない病原体を富化するので抗生物質に対する耐性の蔓延をさらに減らしうる。富化された、感受性のある集団は、新たに導入された耐性病原体がそれらの生態的地位を上回ることによって定着するのを防ぎうる。
【0183】
細菌細胞を、耐性を付与するプラスミドを標的にする特異的なCRISPR−Casコンストラクトと接触させることは、複合細菌集団中の同一株内の抗生物質耐性病原体と抗生物質感受性病原体とを識別できることがさらに留意されるべきである。
【0184】
本発明の第2の態様は、病原性遺伝子の細菌間の水平伝播を干渉する方法に関する。より具体的には、該方法は、そのような病原性遺伝子を内部にもつ細菌を含有する固体表面を(i)本発明に記載の少なくとも1つの選択的構成要素、(ii)本発明の少なくとも1つの感受性亢進構成要素、並びに(iii)少なくとも1つの(i)及び(ii)を含むいずれのキットの少なくとも1つと接触させ、それによって病原性遺伝子を不活化し、その水平伝播を干渉する工程を含む。いくつかの実施形態では、本発明のキット又はシステムは本明細書において先に記載されたもののいずれかでありうる。
【0185】
よって本発明は、細菌集団内の病原性遺伝子の水平伝播を防止、低減、減衰、阻害、及び削減する方法を提供する。本明細書において「遺伝子の水平伝播(Horizontal gene transfer)」(HGT)は従来の生殖以外の方法で生物間の遺伝子の伝播を指す。遺伝子の水平伝播(lateral gene transfer)(LGT)とも呼ばれ、有性生殖又は無性生殖を介した親世代から子孫への遺伝子の伝達である垂直伝播と対照をなす。上で述べたように、水平遺伝子伝播は、細菌の抗生物質に対する耐性及び病原性の伝達の一番の理由である。この水平遺伝子伝播は多くの場合、溶原性バクテリオファージ及びプラスミドが係わる。1つの種の細菌の抗生物質に対する耐性の原因である遺伝子は、さまざまな機構を通して(例えばF線毛を介して)別の種の細菌で伝播されることができる。より具体的な実施形態では、本発明のキット及び方法によって干渉、阻害、削減、又は低減される水平伝播は、細菌接合の過程において細胞間のDNAの伝播を可能にする接合線毛によって影響されるHGTでありうる。より具体的には、線毛は典型的には直径が6〜7nmである。接合の間、供与菌から現れる線毛は受容菌を捕捉し、それを近づけ、最終的には交配橋(mating bridge)の形成を引き起こし、ドナーからレシピエントへのDNAの伝播を可能にする直接接触及び制御細孔の形成を確立する。時に、伝播されたDNAは(多くの場合プラスミドにコードされる)抗生物質耐性遺伝子から成る。さらに、本発明の方法及びキットは、病原性遺伝子の伝播、具体的には細胞間の水平伝播につながるいずれの経路又は機構を干渉しうることが理解されるべきである。さらに、本発明の方法は、形質導入、自然形質転換能(natural competence)、又はトランスポゾンのいずれかによって仲介されるHGTを干渉するのに適用可能でありうることが留意されるべきである。
【0186】
本発明による水平伝播を干渉することは、細菌間の病原性遺伝子のいずれの伝播(例えば水平伝播)を、約1%〜99.9%、具体的には、約1%〜約5%、約5%〜10%、約10%〜15%、約15%〜20%、約20%〜25%、約25%〜30%、約30%〜35%、約35%〜40%、約40%〜45%、約45%〜50%、約50%〜55%、約55%〜60%、約60%〜65%、約65%〜70%、約75%〜80%、約80%〜85%、約85%〜90%、約90%〜95%、約95%〜99%、又は約99%〜99.9%のいずれか1つだけ、削減、阻害、低減、抑制、減少、減衰、又は遅延のいずれかすることを包含しうることが理解されるべきである。
【0187】
より具体的な実施形態では、そのような干渉は、本発明のキット及び方法の不在下で起こる伝播と比べて、細菌病原性遺伝子の水平伝播の少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は約100%でありうる。
【0188】
さらに本発明は、病原性遺伝子を含有する細菌の細菌感染に起因する哺乳類対象の病的状況を予防する方法を提供する。該方法は、対象の近くの少なくとも1つの固体表面若しくは液体表面、物質、物品、又は担体を、(i)本発明に記載の少なくとも1つの選択的構成要素、(ii)本発明の少なくとも1つの感受性亢進構成要素、並びに(iii)少なくとも1つの(i)及び(ii)を含むいずれのキットの少なくとも1つと接触させ、それによって、そのような対象の環境に存在する細菌に含まれうる病原性遺伝子を標的にて不活化することを含む。そのように、本発明の方法は細菌のこれらの病原性遺伝子の不活性化につながり、それによって、少なくとも1つの完全なままの病原性遺伝子を発現している細菌に起因しうる病的状況を予防する。いくつかの実施形態では、本発明に記載のキットはいずれも、いずれの本発明の方法に使用されうる。
【0189】
いくつかの具体的な実施形態では、本発明の方法は、表面、具体的には、固体表面若しくは液体表面、物品、又は(具体的には、対象の近くの)いずれの物質を、本発明の感受性亢進構成要素である溶原性バクテリオファージと接触させる工程、それに続いて該固体表面を本発明のキット又はシステムの選択構成要素である溶菌性バクテリオファージと接触させる工程を伴う。
【0190】
本明細書において「接触させること」という用語は、細菌細胞と直接的又は間接的に接触するように本発明の溶原性バクテリオファージ(及び随意に溶菌性バクテリオファージ)を適切に配置することを指す。よって、本発明の溶原性バクテリオファージ(及び随意に溶菌性バクテリオファージ)を望ましい表面に適用すること及び/又は細菌細胞に直接適用することの両方を、本発明は企図する。
【0191】
表面を本発明のキット、及び具体的には溶原性バクテリオファージ(感受性亢進構成要素)及び溶菌性バクテリオファージ(選択的構成要素)と接触させることは、例えば、噴霧、展着、湿らせること(wetting)、浸漬、浸し塗り(dipping)、塗装、超音波溶接、溶接、結合形成、又は接着を含む当該技術分野において公知のいずれかの方法を用いて達成することができる。
【0192】
本発明は多様な表面を本発明のバクテリオファージと接触させること想定し、例えば、布、繊維、フォーム、フィルム、コンクリート、石材、ガラス、金属、プラスチック、ポリマーなどが挙げられる。
【0193】
特定の実施形態によれば、バクテリオファージは、病院、ホスピス、老人ホーム、又は他のそのような介護療養施設にある表面と接触する。
【0194】
保健に関連する他の表面としては、浄水、貯水、及び配水に係わるそれらの物品並びに食品加工に係わるそれらの物品の内面及び外面が挙げられる。よって本発明は、食品又は飲料工場内の固体表面を被覆すること想定する。
【0195】
また、保健に関連する表面としては、栄養、衛生、又は疾患予防をもたらすことに係わる家庭用品の内面及び外面を挙げることができる。よって、本発明のバクテリオファージは便器、カテーテル、経鼻胃管チューブ、人工呼吸器などを消毒するのにも使用されうる。
【0196】
その他の実施形態では、本発明のキットは処置を受ける対象の近くに適用されうる。「処置を受ける対象の近く」という表現は、本発明によるキットが抗生物質耐性遺伝子の水平伝播を防ぐために適用されうる前記対象を囲む外周に関する。したがって、理解される。「前記対象の近く」は、前記対象の最大で少なくとも約1センチメートル(cm)、2cm、3cm、4cm、5cm、6cm、7cm、8m、9m、10cm、20cm、30cm、40cm、50cm、60cm、70cm、80cm、90cm、1メートル(m)、2m、3m、4m、5m、6m、7m、8m、9m、10m、11m、12m、13m、14m、15m、16m、17m、18m、19m、20m、30m、40m、又はさらに50mの範囲内に存在するあらゆる対象を包含する。また、「前記対象の近く」という用語は、処置を受ける対象の前記範囲のそれらが置かれる前に本発明のキットが適用される対象体にも関する。
【0197】
1つの実施形態によれば、本発明のキット又はいずれの構成要素若しくはいずれのバクテリオファージは、固体表面に、12時間毎、毎日、週に6回、週に5回、週に4回、週に3回、週に2回、又はさらに週に1回適用されうる。
【0198】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は本明細書において上で本発明によって規定されているキット及びシステムのいずれかを使用しうることが理解されるべきである。より具体的に、いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの選択構成要素は、感受性亢進構成要素の少なくとも1つのスペーサーによって認識される少なくとも1つのプロトスペーサーを含むいずれのDNA配列及び少なくとも1つの毒性因子又はいずれの殺菌因子をコードする配列でありうる。さらにいくつかの他の実施形態では、選択的構成要素は少なくとも1つの溶菌性バクテリオファージを含みうる。いくつかの具体的な実施形態では、そのような溶菌性バクテリオファージは、前記細菌病原性遺伝子内に含まれる少なくとも1つの核酸配列に少なくとも70%の同一性をもつ少なくとも1つのプロトスペーサーを含む少なくとも1つの遺伝子改変バクテリオファージでありうる。さらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素は、少なくとも1つのcasタンパク質をコードする核酸配列を含む少なくとも1つの組み換えベクターを含みうる。そのようなベクターは、少なくとも1つの前記CRISPRアレイの核酸配列をさらに含みうる。
【0199】
さらになお、そのようなベクターは、前記溶菌性バクテリオファージ内に含まれる少なくとも1つの核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサー及び前記少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサーを含み、それによって、溶菌性ファージと前記病原性遺伝子の両方を標的にして不活化する少なくとも1つの遺伝子改変バクテリオファージでありうる。
【0200】
ある実施形態では、標的細菌病原性遺伝子は少なくとも1つの細菌の内在性遺伝子又は代替的にエピクロモソーマル遺伝子でありうる。ある実施形態では、病原性遺伝子は抗生物質耐性遺伝子でありうる。代替的に、病原性遺伝子は少なくとも1つの病原性因子及び少なくとも1つの毒素をコードする遺伝子でありうる。ある実施形態では、本発明の方法で使用されるキットによって標的にされる抗生物質耐性遺伝子は、CTX−M−15、ニューデリー・メタロβラクタマーゼ(NDM)−1、2、5、6、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ耐性因子(ESBL因子)、ベータラクタマーゼ、及びテトラサイクリンA(tetA)からなる群より選択される耐性因子をコードしうる。より具体的な実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素の少なくとも1つのCRISPRスペーサーは、CTX−M−15の少なくとも1つのプロトスペーサー、NDM−1、2、5、6の少なくとも1つのプロトスペーサー、ESBL因子の少なくとも1つのプロトスペーサー、ベータラクタマーゼの少なくとも1つのプロトスペーサー、tetAの少なくとも1つのプロトスペーサー、及び溶菌性バクテリオファージの少なくとも1つのプロトスペーサーの少なくとも1つを標的にする核酸配列を含みうる。
【0201】
より具体的に、少なくとも1つのCTX−M−15のプロトスペーサーは、配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列を含みうる。少なくとも1つの前記NDM−1のプロトスペーサーは、配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列を含みうる。
【0202】
さらにいくつかのさらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの選択構成要素として用いられる遺伝子改変溶菌性バクテリオファージは、(a)配列番号49、50、及び51のいずれか1つで表わされる核酸配列を含む少なくとも1つのCTX−M−15のプロトスペーサー及び(b)配列番号46、47、及び48のいずれか1つで表わされる核酸配列を含む少なくとも1つのNDM−1のプロトスペーサーの少なくとも1つを含みうる。
【0203】
ある種特定で且つ代替的な実施例では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素は、溶菌性バクテリオファージの必須遺伝子内に含まる核酸配列を標的にする少なくとも1つのCRISPRスペーサーを含みうる。より具体的に、そのような溶菌性バクテリオファージは、少なくとも1つのT7様ウイルス及びT4様ウイルスでありうる。いくつかの具体的な実施形態では、そのようなT7様ウイルスは少なくとも1つの腸内細菌ファージT7でありうる。
【0204】
さらにいくつかの他の実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素は、バクテリオファージ、具体的にはラムダ溶原性バクテリオファージを含みうる。さらになお、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素の少なくとも1つのcas遺伝子は、I型、II型、及びIII型CRISPRシステムの少なくとも1つの、少なくとも1つのcas遺伝子でありうる。
【0205】
いくつかの具体的な実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素は、I−E型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子を含みうる。より具体的な実施形態では、そのようなI−E型cas遺伝子は、cse1、cse2、cas7、cas5e cas6、及びcas3遺伝子の少なくとも1つでありうる。いくつかの代替的な実施例では、本発明の方法で使用されるキットの感受性亢進構成要素の少なくとも1つのcas遺伝子は、II型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子でありうる。より具体的な実施形態では、II型CRISPRシステムの少なくとも1つのcas遺伝子はcas9遺伝子でありうる。さらに、本発明の方法及びキットは、エシェリキア・コリ、シュードモナス・エルギノーサ、スタフィロコッカス・アウレウス、ストレプトコッカス・ピオゲネス、クロストリジウム・ディフィシル、エンテロコッカス・フェシウム、クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクター・バウマンニ、及びエンテロバクター属の複数種の少なくとも1つのいずれかの株の少なくとも1つの細菌を標的にしうることが留意されるべきである。より具体的な実施形態では、そのような細菌は、O157:H7、腸管付着性(EAEC)エシェリキア・コリ、腸管出血性(EHEC)エシェリキア・コリ、腸管侵入性(EIEC)エシェリキア・コリ、腸管病原性(EPEC)エシェリキア・コリ、毒素原性(ETEC)エシェリキア・コリ、及びびまん付着性(DAEC)エシェリキア・コリからなる群より選択される少なくとも1つのエシェリキア・コリ株でありうる。
【0206】
さらなる実施形態では、本発明の方法で使用されるキットの溶原性バクテリオファージ及び溶菌性バクテリオファージの少なくとも1つは、スプレー剤、スティック、塗布剤、ゲル剤、クリーム、ウォッシュ、ワイプ、フォーム、石鹸、液剤、油、溶液、ローション剤、軟膏、又はペーストとして調合されうる。
【0207】
本発明の別の態様は、遺伝子改変された、溶原性バクテリオファージに関する。より具体的には、溶原性バクテリオファージは少なくとも1つのCRISPRアレイを含みうる。より具体的な実施形態では、少なくとも1つのCRISPRのスペーサーは、細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子を標的にして不活性化するように、細菌の少なくとも1つの病原性遺伝子内に含まれる核酸配列(すなわち前記遺伝子の一部)に相補的である。さらに、前記CRISPRの少なくとも1つのスペーサーアレイは、溶菌性ファージ標的にして不活性化するように、溶菌性バクテリオファージ内に含まれる核酸配列に十分に相補的であることが留意されるべきである。そのように、本発明の溶原性ファージに感染した細菌は溶菌性ファージに対して非感受性であり、且つ耐性がある。
【0208】
本発明の一層さらなる態様は、本発明に記載の遺伝子改変溶菌性ファージのいずれかに関する。
【0209】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」又は「核酸配列」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)などの核酸のポリマーを指す。本明細書で使用される場合、「核酸」(又は同様に核酸分子又はヌクレオチド)はまた、いずれのDNA又はRNAポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成された断片、並びにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用、及びエキソヌクレアーゼ作用のいずれかによって生成された断片、一本鎖又は二本鎖のいずれも指す。核酸分子は、天然ヌクレオチド(DNA及びRNAなど)、又は天然ヌクレオチドのアナログ(例えば、天然ヌクレオチドのアルプァ−エナンチオマー形態)、又は修飾ヌクレオチド、又はそのいずれの組み合わせである単量体から構成されることができる。本明細書においてこの用語は、cDNA、すなわち、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)の作用によってRNA鋳型から作られる相補的DNA又はコピーDNAも包含する。
【0210】
これに関連して、「単離ポリヌクレオチド」は生物のゲノムから分離されている核酸分子である。例えば、本発明のキットで用いられるcas遺伝子又はそのいずれの誘導体若しくはホモログ、及び本発明のキットのCRISPRスペーサー及びリピート内に含まれる配列をコードする、細胞のゲノムDNAから分離されたDNA分子は、単離DNA分子である。単離核酸分子の別の例は、生物のゲノムに組み込まれない化学的に合成された核酸分子である。特定の種から単離された核酸分子はその種の染色体の完全DNA分子より小さい。
【0211】
さらに本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えDNAコンストラクト、具体的には、本発明のcas−CRISPRシステム、又はそのいずれのバリアント、ホモログ、若しくは誘導体をコードするものに関する。本発明のコンストラクトは、プロモーター、調節及び制御要素、翻訳、発現、及び他のシグナルなどの、本発明の核酸配列に作動可能に連結されたさらなる要素をさらに含みうる。本明細書で使用される場合、「組換えDNA」又は「組換え遺伝子」という用語は、本発明のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む核酸を指す。
【0212】
さらになお、本発明は、治療有効量の本発明のキット、随意に少なくとも1つの抗生物質化合物、具体的には本明細書において先に開示した抗生物質のいずれかと併用して、感染症を患う被験者に投与する工程を含む治療方法をさらに提供する。さらに、留意されるべきである。本発明のキット又はそのいずれの構成要素の適用は、感染性の病気又は疾患を罹患している対象のための補完治療レジメンを形成しうる。
【0213】
感染性の疾患に関連する障害においては、「治療」という用語は、前記感染性の疾患に関連する障害の強度又は頻度の削減、縮小、又は減少のうち1つ以上を指しうる。治療は、前記感染性に関連する障害、発生が始まるときに行われることもあり、又は、例えば1〜14日毎の投与による継続して投与を行って前記疾患になりやすい個人における感染性の疾患の発生を予防する若しくは減少させることもある。
【0214】
「予防」という用語は、研究者、獣医、医師、又は他の臨床医により組織、系、動物、又はヒトにおいて防止されることが求められる生物学的又は医学的事象の発生、具体的には感染症に関連する障害の発生又は再発のリスクの防止又は低減を指す。「予防的に有効な量」という用語は、その目的を達成することになる医薬組成物の量を意味することを意図される。よって、特定の実施形態では、本発明の方法は予防、すなわち感染症に関連する状態の予防に特に有効である。よって、前記組成物を投与された対象は前記感染性の状態に関連する症状を経験する可能性が低い。過去にそれらを既に経験した対象で再発する可能性も低い。
【0215】
本明細書において言及される「寛解」という用語は、本発明による組成物及び方法によってもたらされる症状の軽減及び被験者の状態の改善に関し、前記改善は、細菌感染症に関連する病理過程の阻害、それらの程度の著しい減少、又は病気の対象の生理状態の改善という形で現れうる。
【0216】
「阻害する」という用語及びこの用語もすべての変形は、病理症状又は病理過程の進行及び増悪を制限すること又は抑えることを包含するのを意図され、前記病理過程症状又は過程は関連する。
【0217】
「削減する」という用語は、随意に下記の本発明の方法に従った、病理症状及び考えられる病理学的因果関係の実質的な根絶又は除去に関する。
【0218】
「遅延」、「発症を遅らせること」、「遅らせる」という用語及びそれらの変形は、病的障害又は感染症、及びそれらの症状の進行及び/又は増悪を遅くすること、本発明による治療の不在下よりも遅れて出現するようにそれらの進行、さらなる増悪、又は発症を減速させることを包含することを意図する。
【0219】
本明細書において「方法」という用語は、所与の課題を達成するやり方、手段、手法、及び手順を指し、例えば、公知又は公知のやり方、手段、手法、及び手順から化学、薬理学、生物学的製剤、生化学、及び医学分野の実務者によって容易に開発されるやり方、手段、手法、及び手順が挙げられるが、それらに限定されない。
【0220】
本明細書において「治療すること」という用語は、疾患の進行を阻止すること、実質的に阻害すること、遅くすること、若しくは逆に向かわせること、疾患の臨床的若しくは審美的症状を実質的に改善すること、又は疾患の臨床的若しくは審美的症状の出現を実質的に予防することを含む。
【0221】
本明細書において「病気」、「障害」、「疾患」などは対象の健康に関して互換可能に使用され、そのような用語のそれぞれすべてに帰する意味をもつ。
【0222】
本発明はそれを必要としている対象又は患者の治療に関する。「患者」又は「それを必要としている対象」は、上記病原体に感染する可能性があり、本明細書に記載の防止的及び予防的キット、システム、及び方法が望まれるいずれの生物を意味し、例えば、ヒト、イヌ及びネコの対象、ウシ、サル、ウマ、及びネズミ対象、げっ歯類、飼育鳥類、水産養殖、魚、及びエキゾチックな観賞魚などの飼育哺乳類並びに非飼育哺乳類が挙げられる。治療を受ける対象はいずれの爬虫類又は動物園の動物でもありうることが理解されるべきである。より具体的には、本発明のキット及び方法は、哺乳類の病的状況の予防を意図されている。「哺乳類対象」は、本明細書で提案する治療が望まれるいずれの哺乳類を意味し、例えば、ヒト、ウマ、イヌ、及びネコ対象、最も具体的にはヒトが挙げられる。具体的には非ヒト対象の場合において、本発明の方法は、注射、飲料水、飼料、スプレー、強制経口投与を介した投与及びそれを必要としている対象の消化管への直接投与を用いて行われうることが留意されるべきである。
【0223】
さらになお、本発明は、前記細菌集団に本発明のキット及びそのいずれの構成要素を適用することによって、少なくとも1つの抗生物質化合物に対して細菌集団を感受性亢進する又は前記集団の感受性を上げる方法をさらに提供することが留意されるべきである。
【0224】
さらにいくつかのさらなる態様では、本発明は、本発明のキット及びそのいずれの構成要素を用いて少なくとも1つの抗生物質化合物に対する細菌又は細菌集団の耐性を予防又は低減する方法を提供する。
【0225】
さらに本発明は、前記細菌を含む表面上に本発明のキット又はそのいずれの構成要素を適用することによって病原性細菌のアウトブレイクを処理する方法を提供する。
【0226】
明確にするために別々の実施形態の文脈で記載されている本発明のある特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供されることもありうることが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明のさまざまな特徴は、別々に又はいずれの好適な部分的組み合わせで又は他のいずれの本発明の記載実施形態に適するように提供されることもありうる。さまざまな実施形態と関連して記載されているある特徴は、実施形態がそれらの要素なしに実施可能でない限り、それらの実施形態の本質的な特徴とみなされるべきではない。
【0227】
本明細書において上で詳細に記載され、且つ下記の請求項で特許請求されている本発明のさまざまな実施形態及び態様が以下の例で実験的に裏付けられる。
【0228】
本明細書において用いられる科学用語及び技術用語はすべて、別段特に規定がない限り当該技術分野において一般的に使用される意味を有する。本明細書において与えられる定義は本明細書において頻繁に使用されるある用語の理解を促進するものであり、本開示の範囲を制限することを意味しない。
【0229】
本明細書において「約」という用語は±10%を指す。
「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「含む(includes)」、「含むこと(including)」、「有すること(having)」という用語及びそれらの活用形は、「含むが限定されないこと(including but not limited to)」を意味する。「から本質的になる」という用語は、さらなる構成要素、工程、及び/又は部品が、特許請求されているシステム、キット、組成物、方法、又は構造の基本的且つ新規の特徴を実質的に変えない限り、組成物、方法、又は構造は、さらなる構成要素、工程、及び/又は部品を含みうることを意味する。
【0230】
本明細書において「約」という用語は、最大で1%、より具体的に5%、より具体的に10%、より具体的に15%、及び場合によっては最大で20%まで、参照される値の上下に外れうる値を示し、ずれの範囲は、連続範囲を構成する整数値及び該当する場合、非整数値を含む。本明細書において「約」という用語は±10%を指す。
【0231】
「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」、「含む(includes)」、「含むこと(including)」、「有すること(having)」という用語及びそれらの活用形は、「含むが限定されないこと(including but not limited to)」を意味する。この用語は、「からなる」及び「から本質的になる」という用語を包含する。「から本質的になる」という句は、さらなる構成要素及び/又は工程が、特許請求されている組成物又は方法の基本的且つ新規の特徴を実質的に変えない限り、組成物又は方法は、さらなる構成要素及び/又は工程を含みうることを意味する。本明細書並びに後に続く実施例及び請求項の全体にわたって、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語及び「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を包含することを意味するが、他のいずれの整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを意味しないことが理解されるであろう。
【0232】
本発明のさまざまな実施形態は範囲の形式で表わされることが留意されるべきである。範囲の形式での記載は便宜上且つ簡潔さのためだけであることが理解されるべきであり、本発明の範囲上の柔軟性のない限定と解釈されるべきではない。したがって、範囲の記載は、その範囲内の個々の数値だけでなく、可能性のある部分的な範囲すべてを具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1〜6などの範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分的な範囲並びに範囲内の個別の数、例えば、1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示しているとみなされるべきである。これは範囲の幅にかかわりなく当てはまる。数値の範囲が本明細書においてが示されるときはいつでも、示された範囲内の挙げられた数値(分数又は整数)いずれも含むことを意味する。第1の示された数字と第2の示された数字「に及ぶ/の間の範囲」及び第1の示された数字から第2の示された数字「に及ぶ/の範囲」という句は、本明細書において互換可能に使われ、第1及び第2の示された数字並びにその間のすべての分数及び整数を含むことを意味する。
【0233】
明確にするために別々の実施形態の文脈で記載されている本発明のある特徴は、単一の実施形態で組み合わせて提供されることもありうることが理解される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明のさまざまな特徴は、別々に又はいずれの好適な部分的組み合わせで又は他のいずれの本発明の記載実施形態に適するように提供されることもありうる。さまざまな実施形態と関連して記載されているある特徴は、実施形態がそれらの要素なしに実施可能でない限り、それらの実施形態の本質的な特徴とみなされるべきではない。
【0234】
本明細書において上で詳細に記載され、且つ下記の請求項で特許請求されている本発明のさまざまな実施形態及び態様が以下の例で実験的に裏付けられる。
【0235】
開示及び記載されて、本発明は本明細書において開示されている方法工程及び組成物は多少変化しうるので、特定の例、方法工程、及び組成物に限定されないことが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の請求項及びその等価物によってのみ限定されることになるので、本明細書において使用される専門用語は特定の実施形態を記載する目的でのみ使用され、限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0236】
本明細書及び添付の請求項において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容から明らかでそうでないと指示がない限り、複数の指示対象を含むことが留意されなければならない。
【0237】
以下の例は発明者らによって本発明の態様の実施の際に採用された手法の代表的なものである。これらの手法は本発明を実行するための好ましい実施形態の例示である一方で、本開示を踏まえて、多くの変更が本発明の趣旨及び意図される範囲を逸脱することなくなされうることを当業者なら理解するであろうことが理解されるべきである。
【実施例】
【0238】
次に、以下の例を参照して上記明細書とともに本発明のいくつかの実施形態を非限定的に説明する。
【0239】
全体として、本明細書で用いられる専門用語及び本発明で用いられる実験室における方法は、分子的、生化学的、微生物学的及び組み換えDNA技術を含む。そのような手法は文献で細部まで詳しく説明されている。例えば、”Molecular Cloning:A laboratory Manual”Sambrook et al.,(1989);”Current Protocols in Molecular Biology”Volumes I−III Ausubel,R.M.,ed.(1994);Ausubel et al.,”Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,Baltimore,Maryland(1989);Perbal,”A Practical Guide to Molecular Cloning”,John Wiley & Sons,New York(1988);Watson et al.,”Recombinant DNA”,Scientific American Books,New York; Birren et al.(eds)”Genome Analysis:A Laboratory Manual Series”,Vols.1−4, Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号、同第4,683,202号、同第4,801,531号、同第5,192,659号、及び同第5,272,057号に記載の方法論;”Cell Biology:A Laboratory Handbook”,Volumes I−III Cellis,J.E.,ed.(1994);”Culture of Animal Cells−A Manual of Basic Technique”by Freshney,Wiley−Liss,N.Y.(1994),Third Edition;”Current Protocols in Immunology” Volumes I−III Coligan J.E.,ed.(1994);Stites et al.(eds),”Basic and Clinical Immunology”(8th Edition),Appleton & Lange,Norwalk,CT(1994);Mishell and Shiigi(eds),”Selected Methods in Cellular Immunology”,W.H.Freeman and Co.,New York(1980);利用可能な免疫アッセイは特許及び科学文献に広く記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号、同第3,839,153号、同第3,850,752号、同第3,850,578号、同第3,853,987号、同第3,867,517号、同第3,879,262号、同第3,901,654号、同第3,935,074号、同第3,984,533号、同第3,996,345号、同第4,034,074号、同第4,098,876号、同第4,879,219号、同第5,011,771号、及び同第5,281,521号を参照されたい;”Oligonucleotide Synthesis”Gait,M.J.,ed.(1984);“Nucleic Acid Hybridization”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1985);”Transcription and Translation”Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1984);”Animal Cell Culture”Freshney,R.I.,ed.(1986);”Immobilized Cells and Enzymes”IRL Press,(1986);”A Practical Guide to Molecular Cloning”Perbal,B.,(1984);並びに”Methods in Enzymology”Vol.1−317,Academic Press;”PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications”,Academic Press,San Diego,CA (1990);Marshak et al.,”Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual”CSHL Press(1996)を参照されたい。これらはすべて、本明細書において完全に記載されているかのごとく参照により組み込まれる。他の一般的な参考文献は本文書全体にわたって提供される。該文献中の手順は当該技術分野において周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。該文献に含まれる情報はすべて、参照により本願明細書に組み込まれる。
【0240】
実験手順
試薬、株、及びプラスミド
ルリア−ベルターニ(LB)培地(10g/Lトリプトン、5g/Lイースト抽出物、及び5g/L NaCl)並びに寒天は、Acumedia製であった。2YT培地は、1.6%(w/v)バクト−トリプトン(Acumedia)、1%(w/v)バクト−イースト抽出物(Acumedia)、及び0.5%(w/v)NaCl(Acumedia)を蒸留水中に含有した。抗生物質、リゾチーム、L−アラビノース、及びマルトースは、Calbiochem製であった。塩化ナトリウム及び硫酸マグネシウムはメルク製であった。制限酵素、ライゲーション酵素、及びPhusion(登録商標)ハイフィデリティーDNAポリメラーゼは、ニュー・イングランド・バイオラボ製であった。本研究で用いた細菌株、プラスミド、及びファージを表1に載せる。
【0241】
表1.細胞株、プラスミド、及びファージ

【0242】
プラスミド構築
プラスミドは標準的な分子生物学手法を用いて構築した。DNAセグメントはPCRによって増幅した。制限酵素によるPCR産物及びベクターの標準的な切断は製造業者の取扱説明書に従って行なった。GenScript社によって合成されたpIYEC1プラスミドはCRISPRアレイをコードし、該CRISPRアレイはT7プロモーターで転写され、以下をコードする:ndm−1遺伝子を標的にする3つのスペーサー(N、N、N、スペーサーは配列番号37、38、39で表わされ、それらに対応するプロトスペーサーは配列番号46、47、48で表わされる)、ctx−M−15遺伝子を標的にする3つスペーサー(C、C、C、スペーサーは配列番号40、41、42で表わされる。前記スペーサーは配列番号49、50、51のいずれか1つの核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にする)、及びT4ファージゲノムを標的にする3つのスペーサー(T1、T2、T3、スペーサーは配列番号43、44、45で表わされる。前記スペーサーは、配列番号52、53、54のいずれか1つの核酸配列を含むプロトスペーサーを標的にする)。pIYEC2はクロラムフェニコール耐性マーカーもコードすること以外pIYEC1と同様である。pIYEC2を構築するには、オリゴヌクレオチドIY344F及びIY344Rを用いてpKD3(22)のクロラムフェニコール耐性マーカーを増幅した。増幅したDNA及びpIYEC1をともにHindIIIで切断し、ライゲーションしてpIYEC2を得た。pNDM及びpCTXプラスミドを、ndm−1又はctx−M−15をコードするPCR断片を、複製起点並びにpNDMにはオリゴヌクレオチドIY246F及びIY246R並びにpCTXにはIY346F及びIY346Rを用いてプラスミドpCas1+2(23)から得られたstrマーカーを含有する別のPCR断片にライゲーションすることによって構築した。プラスミドpVECは、無関係のDNA断片を複製起点及びプラスミドpCas1+2由来のstrマーカーにライゲーションすることによって構築した。プラスミドpTRX1、pTRX2、pTRX3、pTRX4、及びpTRX5は、プロトスペーサーをT7ゲノムに挿入するよう構築した(表1)。それらのプラスミドは、trxAを欠く宿主で増殖するT7様の正の選択マーカーであるtrxA遺伝子を所望のプロトスペーサーに隣接してコードし、後にT7遺伝子の末尾部分1.3及びT7遺伝子の先頭部分1.4に対応するDNA配列の50bp上流及び下流が続く。表2及び表3に示したプライマーを用いてフリッパーゼ認識標的部位に隣接するtrxA遺伝子をコードするT7ファージをPCR増幅することによってプラスミドを構築した。結果として得られたPCR産物をプライマーIY260F及びIY260Rを用いるPCR様の鋳型として用いた(配列番号24及び25、表2)。最終PCR断片をpGEM−Tベクター(プロメガ)にライゲーションした。構築したプラスミドが所望の断片をコードすることをDNAシークエンシングで確認した。
【0243】
表2.オリゴヌクレオチドプライマー

【0244】
相同組換えに基づく遺伝子工学
短い相同性のある隣接末端を用いた相同組換えを以前に記載されている通りに(24)実施した。T7制御下でのCRISPR干渉に必要な6つのcas遺伝子を挿入するために、発明者らは最初にT7プロモーターをエシェリキア・コリK−12のcas3及びcse1遺伝子の上流にクローニングした。pSIM6プラスミドを内部にもつエシェリキア・コリRE1001(表1)を一晩培養したものを、100μg/mLアンピシリンを補充した50mLの新鮮なLBに32℃で1:100希釈し、OD600が0.4〜0.6に達するまで通気した。次いで培養物を組換え酵素の発現のために振盪水浴で42℃にて15分間熱誘導した後、氷水中で10分間インキュベーションした。次いで培養物を4600×gで4℃にて10分間遠心分離した。上澄みを除去し、ペレットを氷冷再蒸留水(ddHO)で3回洗った。ペレットを200μLの氷冷ddH2Oに再懸濁し、氷上に保持した。次に培養物を、cas3(断片T7cas3::kan)及びcse1(断片T7cse1::cm)遺伝子の元のプロモーターに隣接する50bpの配列に隣接するカナマイシン耐性マーカー又はクロラムフェニコール耐性マーカーのいずれかに融合したT7プロモーターをコードする〜500ngのPCR産物でエレクトロポレーションした。T7cas3::kan断片は、プライマーRK41F及びT7プロモーターをその5’末端にコードするプライマーであるRK41R(表1)を用いることによってBW25113ΔyeeX(表1)のFRT部位をコードするカナマイシン耐性遺伝子をPCR増幅することによって構築した。次いでPCR断片を、cas3のすぐ横の5’領域に50−bp相同性をコードするRK42F及びRK42R(表1)で増幅した。T7cse1::cm断片は、プライマーRK43F及びT7プロモーターをその5’末端にコードするプライマーであるRK43R(表1)を用いることによってpKD3プラスミド(表1)のFRT部位をコードするクロラムフェニコール断片をPCR増幅することによって構築した。次いでcse1のすぐ横の5’領域の50−bp相同性をコードするPCR断片をRK44F及びRK44R(表1)を用いて増幅した。これらの断片のエレクトロポレーションは、0.2cmキュベット中の50μL分注量のエレクトロコンピテント細菌を用いて25μF、2.5kV、及び200Ωで実施した。エレクトロポレーション後、1mLの2YT培地をキュベットに加え、続いて32℃で3時間通気した。次いで、25μg/mLカナマイシン及び17.5μg/mLクロラムフェニコールを補充したLB寒天プレートに培養物を播種し、32℃で一晩インキュベーションした。組換えコロニーを25μg/mLカナマイシン及び17.5μg/mLクロラムフェニコールプレートにストリークし、42℃でインキュベーションして温度感受性pSIM6プラスミドを削減した。単一のコロニーが所望の置換をコードしていることを、RK33R及びRK29Rを用いてDNAシークエンシングで確認した。T7プロモーター下にcas3及びcse1をコードする操作されたカセット全体をRE1001株に形質導入し、両抗生物質マーカーを用いて選択してRK6471株を得た。
【0245】
cas遺伝子を以前に記載のように(25)削除した。簡単に記載すると、エシェリキア・コリDY378をプライマーIY80F及びIY80R(表1及び表2)を用いてプラスミドpKD3を増幅することによって生成したPCR産物の約500ngを用いてエレクトロポレーションした。この増幅したDNAは、一方の末端がcas3プロモーターの50bpの配列、もう一方の末端がCRISPRリーダー配列の50bpに隣接するクロラムフェニコール耐性マーカーをコードする。所望の組換え体を、17μg/mlクロラムフェニコールを補充したLB寒天プレートで選択した。次いで(26)に記載のようにP1形質導入を用いて該削除をIYB5101に移し、IYB5666を得た。
【0246】
T7プロモーター下のcas遺伝子をコードするλファージを構築するために、IYB5297/pSIM6を一晩培養したものを、適切な抗生物質を含む25mLのLB培地に50倍に希釈し、32℃で0.5のOD600まで増殖させた。次に培養物を、λプロファージ及びプラスミドの両方の組換え酵素を発現するために振盪水浴中で42℃にてきっちり4分間熱誘導した。誘導された試料を直ちに氷スラリー上で冷やし、次いで4600×gで4℃にて10分間ペレットを生じさせた。ペレットを氷冷ddHOで2回洗い、200μLの氷冷ddHOに再懸濁し、エレクトロポレーションするまで氷上に保持した。エレクトロポレーションは、プライマーIY333F及びIY333Rを用いてRK6471のゲノムDNAを増幅することによって得たPCR産物をゲル精製したものの〜1600ngを用いて行った。25μLの分注量のエレクトロコンピテント細胞を、0.2cmキュベット中の25μF、2.5kV、及び200Ωでの各エレクトロポレーションに使用した。エレクトロポレーション後、細菌を振盪水浴中で1mLのLBに32℃で1時間増殖させ、17μg/mLクロラムフェニコールを含有する選択プレートに播種した。クロラムフェニコール耐性マーカーをプラスミドpCP20(24)によってコードされるフリッパーゼ組換え酵素を用いて除去し、クロラムフェニコール感受性コロニーを42℃でファージ誘発に使用した。結果として得られたファージλcasはT7プロモーターから転写され、6つのcas遺伝子をコードするがCRISPRアレイを欠き、これを使用してBL21−AIを溶原化してIYB5614を得た。改変CRISPRアレイを、プライマーIY347F及びIY347RでのpIYEC2の増幅から得たPCR断片を用いることによって上記のようにIYB5614/pSIM6に挿入した。結果として生じた株、IYB5656は、T7プロモーターから転写され、6つのcas遺伝子並びにndm−1、ctx−M−15、及びT4ファージゲノムに対するスペーサーをコードするCRISPRアレイをコードするλcas−CRISPRを内部にもつ。
表3.細菌、ファージ、及びプラスミドの構築に使用したオリゴヌクレオチド及び鋳型
【0247】
【0248】
バクテリオファージT7の相同組換え
プラスミドpTRX1、pTRX2、pTRX3、pTRX4、及びpTRX5を用いることによって(29)に記載のように、所望のプロトスペーサーをコードするT7ファージを構築した。
【0249】
形質転換効率アッセイ
エシェリキア・コリIYB5670及びIYB5671を一晩培養したものを、25μg/mLカナマイシン及び10μg/mLクロラムフェニコールを補充した10mLのLB培地に1:50で希釈し、32℃で通気した。培養のOD600が0.2に達したとき、0.2%L−アラビノースを加え、培養がOD600が0.5〜0.6に達するまで32℃でインキュベーションした。次いで細菌を4℃にて4600×gで遠心分離し、上澄みを破棄し、細菌を1mLの氷冷ddHOに再懸濁し、1.5mLチューブに移した。細胞を4℃にて13000×gで1分間遠沈した。さらなる洗浄ステップの後、細胞を250μLの氷冷ddHOに懸濁した。次に細菌細胞(50μL)を氷冷した0.2mmエレクトロポレーションキュベット(バイオ・ラッド)中で12ngのpVEC、pNDM、又はpCTXプラスミドと混ぜた。混合物にバイオ・ラッド・マイクロパルサー内で200Ω、25μF、及び1.8kVにて電気パルスをかけた。パルスをかけてすぐに、0.2%L−アラビノースを含有する0.1mLの2YTブロス培地を加え、細胞を32℃で1時間通気した。反応のさまざまな希釈を、50μg/mLストレプトマイシン及び0.2%L−アラビノースを補充したLB寒天プレートにプレートした。プレートを32℃で一晩インキュベーションした。選択プレートに出現したコロニーを数え、1mLあたりのCFU数を適宜計算した。
【0250】
溶菌性ファージ増殖効率のアッセイ
エシェリキア・コリIYB5670及びIYB5671を一晩培養したものを、25μg/mLカナマイシンを補充した10mLのLB培地に1:50で希釈し、32℃で通気した。培養のOD600が0.2に達したとき、0.2%L−アラビノースを加え、培養をOD600が0.5〜0.6に達するまで32℃でインキュベーションした。細菌を遠心分離によって採取し、OD600が〜3まで濃縮した。1mLの濃縮した培養IYB5670及びIYB5671を0.2%L−アラビノースを補充した10mLの軟寒天と混ぜ、25μgのカナマイシン及び0.2%L−アラビノースを補充したLB寒天プレート上に塗り広げた。寒天が固まった後、プレートを32℃で40分間インキュベーションした。15μLのファージ希釈液を軟寒天上にプレートし、乾燥させ、次いで32℃で15時間インキュベーションした。プラーク形成単位をいくつかの希釈について数え、その1mLあたりの数を適宜計算した。
【0251】
溶原化
pNDM、pCTX、又は対照プラスミド(pVEC)を内部にもつIYB5666を一晩培養したものを、50μg/mLのストレプトマイシン、10mM MgSO、及び0.2%(w/v)マルトースを補充したLB培地に1:50希釈した。培養物をOD600が0.5まで増殖させ、次いで13000gで1分間遠心分離した。上澄みを捨て、10mM MgSO及び0.2%(w/v)マルトースを補充したLB培地にペレットを再懸濁した。1.5mLチューブ中で、10μLの処理した培養物を10μLのファージλcas又はλcas−CRISPRと〜10の感染多重度で混合し、室温にて30分間インキュベーションした。次いで0.2%L−アラビノースを補充した60μLのLB培地を加え、その後培養物を32℃でさらに2.5時間通気した。次いで培養を1:10希釈した後、84μLを5μg/mLのテトラサイクリン及び0.2%L−アラビノースを含有するLBプレート並びに5.5×10個のT7−Cファージを含有する3mLの軟寒天に塗り広げた。プレートを32℃で36時間インキュベーションした。プラスミド消失を決定するために、20〜48個の生存コロニーを0.1mLのLBに再懸濁し、プレートレプリケーターを用いて懸濁液を、5μg/mLテトラサイクリン及び0.2%L−アラビノースを補充した、50μg/mLストレプトマイシンを含むLB寒天プレート又は含まないプレートに播いた。ストレプトマイシンの無い培地では増殖したがストレプトマイシンを有する培地では増殖しなかったものをストレプトマイシンに対して感受性があるコロニーと判断した。
【0252】
実施例1
λファージによるCRISPR−Casシステム送達
CRISPR/Casシステムは、ファージ、プラスミド、又は他の寄生的な要素などの核酸の転移を制限するために細菌において進化してきた。これらのシステムは約30bpの短いリピートのアレイからなり、リピートにはスペーサーと呼ばれる同様のサイズの配列が隣接する(図1)。スペーサーは望ましくない核酸の分子「標識」としての機能を果たす。該システムが侵入DNA分子のいずれかの部分と配列が同一であるスペーサーをコードする場合、そのDNA分子は細胞から削減されることになる(26、27)。その削減は、アラインメントを「感知」し、且つ侵入分子を標的にして破壊する特定のタンパク質によって行われる。最近、CRISPRアレイ近傍の単一遺伝子から成るCRISPR/Casシステムがエシェリキア・コリで機能していることが報告された(27)。そのシステムはCRISPRアレイ中のスペーサーと同一の配列をもつプラスミドを標的にすることが示された。
【0253】
本発明のシステムは2つの構成要素又は要素を含み、第1の構成要素は、病原性遺伝子、例えば、抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子のCRISPR媒介不活性化を誘導するよう設計された溶原性ファージである感受性亢進要素である。したがって、抗生物質耐性遺伝子の不活性化は、細菌をそのような抗生物質に対して感受性があるようにする。本発明のシステムの第2の構成要素は、選択に用いられる溶菌性ファージである。本発明のいくつかの実施形態は、本発明の感受性亢進構成要素の溶原性ファージのCRISPRアレイのスペーサーによって認識される病原性遺伝子のプロトスペーサーと同一なプロトスペーサーを含む遺伝子改変された溶菌性ファージを包含する。
【0254】
抗生物質耐性遺伝子をもつ細菌を感受性亢進するために、(図1の示されるように)ndm−1及びctx−M−15遺伝子を標的にする伝播可能なCRISPR−Casシステムを最初に構築した。これらの遺伝子は、多くの場合耐性病原体に対して効果のある抗生物質の最終選択であるβ−ラクタム抗生物質、カルバペネムに対する耐性を付与する基質特異性拡張型β−ラクタマーゼをコードする(28)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、エシェリキア・コリのI−E型CRISPRシステムのCRISPRカスケード遺伝子(cse1、cse2、cas7、cas5、及びcas6e)並びにcas3を増幅した。PCR産物は相同組換えによってλプロファージに導入された。これらの遺伝子は、標的にされるプロトスペーサーをコードするDNA分子を削減するのに十分なタンパク質をコードする(29)。図1に図示されるように、耐性遺伝子ndm−1及びctx−M−15の保存配列を標的にするスペーサーをコードするCRISPRアレイはまた、同じ溶原菌のcas遺伝子のすぐ下流に導入された。次いでプロファージを誘導し、その子孫を用いてナイーブ型エシェリキア・コリ菌体を溶原化した。よって、遺伝子ndm−1及びctx−M−15をコードするプラスミドを標的にして破壊するよう設計された改変CRISPR−Casシステムは、溶原化により細菌に伝播可能であった。
【0255】
溶原化された細菌は耐性プラスミドを内部にもつ細菌を打ち負かすことができ、伝播されたプロファージの遺伝的適応度コストが試験したプラスミドより小さいことを示した(図2)。
【0256】
実施例2
溶原化された細菌は形質転換を阻止する
CRISPR−Casシステムをコードするλファージ(λcas−CRISPR)又は陰性対照としてCRISPRアレイを欠く同様のファージ(λcas)で溶原化されたナイーブ型エシェリキア・コリを形質転換受容可能にし、対照プラスミド又はndm−1又はctx−M−15をコードするプラスミドで形質転換し、すべてストレプトマイシン耐性を付与した。形質転換効率はストレプトマイシン耐性を獲得したコロニーを数えることによって決定した。λcasの溶原菌と比較して、λcas−CRISPRの溶原菌は対照プラスミドで同じくらい良好に形質転換された。対照的に、図3に示されるように、これらの溶原菌は標的にされたプラスミドでは約3桁劣った効率で形質転換された。これらの結果は、溶原化されたCRISPR−Casシステムは細菌に伝播でき、さらにこのシステムはプラスミド形質転換による抗生物質耐性要素の水平遺伝子伝播を特異的に妨げることを明らかに示す。
【0257】
溶原化が既に確立された耐性プラスミドも抜くことができることを示すために、発明者らは耐性菌を溶原化し、プラスミドの消失を判断した。プラスミドはλcas−CRISPRで溶原化された細菌から特異的に抜けたが、λcasで溶原化された細菌からは抜けなかった(図4)。総合して、これらの結果は、CRISPR−Casシステムは溶原性ファージによって細菌に伝播して抗生物質に対する耐性要素の水平遺伝子伝播を特異的に防止できることを示す。
【0258】
実施例3
溶菌性バクテリオファージからの保護
感受性亢進CRISPR−Casシステムの所望の特徴は、それを内部にもつ病原体に利点を同時に付与できることである。例えば、溶菌性ファージに対する耐性は、それに曝された感受性亢進病原体の選択及び富化を可能にするであろう。したがって、発明者らは次に、伝播されたCRISPR−Casシステムによって標的にされるndm−1及びctx−M−15スペーサーと同一のプロトスペーサーをコードする溶菌性T7ファージを遺伝子組操作した。よって、これらの改変ファージは、耐性遺伝子と同時に標的にされることになるであろう。これらの類似したプロトスペーサーは、溶原菌がファージ耐性も失うことなく感受性亢進要素を失う可能性がないことを確実にするために意図的にクローニングした。くわえて、ファージの天然の配列よりもむしろ、合成プロトスペーサーを標的にすることは、溶原菌に野生型ファージに対する保護を与えず、よって自然生態系のバランスに干渉しない。ナイーブ型エシェリキア・コリをλcas−CRISPR又はλcasで溶原化し、次いで細菌に改変T7ファージを感染させた。図5に明らかに示されるように、対照λcasファージで溶原化した細菌と比較して、λcas−CRISPRで溶原化した細菌は対照T7−gp8ファージの増殖に抵抗しなかった。対照的に、これらの溶原菌は、ndm−1(T7−N−N、配列番号55)の2つのプロトスペーサー若しくはctx−M−15(T7−C、配列番号56)の2つのプロトスペーサーのいずれか、又はそれぞれ1つずつ(T7−N、配列番号57若しくはT7−C、配列番号58)をコードするT7ファージの増殖に少なくとも4桁強く抵抗した(図5)。これらの結果は、溶原化されたCRISPR−Casシステムは細菌に伝播され、改変T7バクテリオファージから保護できること、よって抗生物質に対する病原体の感受性亢進を溶菌性ファージに対する耐性と結びつけることができることを示す。そのうえ、該システムは人工マッチングプロトスペーサーをコードするファージに対してのみ耐性を付与し、該システムは自然生態系の相互作用に干渉しないことを示す。
【0259】
実施例4
感受性亢進細菌の溶菌性ファージ選択
伝播されたCRISPR−Casシステムはプラスミド形質転換を防止し、且つ同時に溶原化された細菌を溶菌性ファージから保護した。これは溶原化が抗生物質耐性菌を感受性亢進するのに使用でき、感受性亢進細菌の集団が溶菌性ファージによって富化されうることを示す。病院環境表面又は皮膚細菌叢に適用されうる治療をシミュレーションするために、対照、ctx−M−15、又はndm1をコードするプラスミドを内部にもつ細菌を次に増殖させた。
【0260】
次いで、CRISPR−Casシステム(λcas−CRISPR)又は対照(λcas)ファージをコードする溶原化しているファージを培養に加えた。次いで、溶原化された細菌がCRISPR−Cas媒介保護を有するT7−N溶菌性ファージを含有する寒天プレートに培養物を塗った。一晩インキュベーションした後、生存コロニーを数えた(図6A)。すべての培養において、対照λcas ファージで処理したものと比較して、標的にするλcas−CRISPRファージで処理したコロニーの20倍を超える多くが改変T7−Nファージに耐性を示した(図6B)。λcas−CRISPR又はλcasにいずれかで処理したファージ耐性コロニーを、ストレプトマイシンを含むプレート又はストレプトマイシンの無いプレートに播種して、抗生物質に対する耐性を付与するプラスミドの消失について試験した。予想通り、標的にされないプラスミド(pVEC)を内部にもつ培養物は、どちらのタイプの溶原化でもストレプトマイシン耐性のままであった。しかし、λcas−CRISPRで溶原化され、且つ標的にされたプラスミド(pNDM又はpCTX)を内部にもつ細菌のすべてが同時にストレプトマイシンに対して感受性が高くなり、一方でλcasで処理した細菌のすべてがその耐性を維持した(図6C)。そして最後に、同一細菌における多剤耐性も削減できることを示すために、発明者らは2つの異なる抗生物質耐性プラスミド(pNDM+pCTX)を内部にもつ細菌を用いて上記手順を繰り返した。予想通り、この場合でも、λcas−CRISPRで処理した細菌培養物は抗ファージスペーサーをもつので溶菌性ファージに耐性を示した(図6B)。溶菌性ファージ感染から生存し、且つλcas−CRISPRで処理された細菌は両耐性プラスミドが抜け、一方でλcasで処理された生存細菌は耐性プラスミドを維持した(図6C)。まとめると、これらの実験は、CRISPR−Casシステムを送達する改変溶原性ファージが溶菌性ファージとともに使用して、複数の耐性決定因子の同時消失を促進し、それらの水平伝播を減らし、且つ両特徴を呈する細菌集団を富化できるという原理証明を提供する。まとめると、これらの実験は、CRISPR−Casシステムを送達する改変溶原性ファージを溶菌性ファージとともに使用して、複数の耐性決定因子の消失を促進し、それらの水平伝播を減らし、且つ両特徴を呈する細菌集団を富化することが実行可能であることを示す。
【0261】
実施例5
生体内試験
次に本発明の発明者らは、該技術が薬剤耐性病原体によるマウスの感染症を減らすことができるかを試験する。病室をシミュレートするのにマウスケージを使用し、患者をシミュレートするのにマウスを用いる。ESBL耐性病原体をケージ全体にわたって塗り広げる。改変ファージがケージ内の薬剤感受性病原体集団を富化する効率は、感受性亢進ファージを噴霧し、その後溶菌性ファージ数日間を噴霧することによって評価する。次にマウスをこれらのケージ又は未処理のケージに入れる。細菌性疾患を発症するマウスは抗生物質で処置する。ファージ処理したケージのマウスは抗生物質で治癒するのに対し、対照ケージのマウスは細菌性疾患のため死ぬことが予想される。
【0262】
CRISPRシステムはファージによって水平伝播される志賀毒素及びコレラ毒素などの病原性因子を標的にでき、それによって病原体感染の重症度を軽減できることが留意されるべきである。くわえて、RNA分子を標的にするCRISPR/Casシステムは、ゲノムの耐性決定因子及び病原性因子を標的にするのに利用できる。細菌ゲノムは完全なままである一方で特異的な病原性遺伝子のみが発現停止するので、RNAを標的にするシステムはカウンターセレクションなしに使用することができる。これらの可能性が発明者らによって検討される。
【0263】
本発明をその具体的な実施形態とともに説明してきたが、多くの代替手段、変更、及び変形が当業者に明らかであろうことは明白である。したがって、添付の請求項の趣旨及び広い範囲内にあるそのような代替手段、変更、及び変形をすべて包含することが意図される。
【0264】
本明細書で言及された刊行物、特許、及び特許出願はすべて、それぞれ個々の刊行物、特許、又は特許出願が具体的かつ個別に参照により本願明細書に組み込まれると示されるように、同じ程度に参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。くわえて、本願におけるいずれの参考文献の引用又は確認は、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用可能であるという承認であるとみなされるべきでない。セクション見出しが使用されている場合は、それらの見出しは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]