【実施例】
【0043】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、菌株の育種、PHAのモノマー組成分析、結晶化の評価方法は以下の通りである。
【0044】
(菌株の育種)
本明細書の実施例、製造例、参考例、および比較例における遺伝子操作は、Green,M.R. and Sambrook,J.,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual Fourth Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkに記載されている方法で行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主などは市場の供給者から購入し、その取扱説明書にしたがって使用することができる。なお、実施例等に用いられる酵素は、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0045】
(PHAに含まれるモノマーユニットの共重合比率の分析)
得られたPHAのモノマー組成分析はガスクロマトグラフィーによって測定した。得られたPHAあるいはその混合品約20mgに2mLの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mLのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することによってメチルエステル化した。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mLのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中の3HBメチルエステルと3HHメチルエステルの組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析し、3HHモノマー比率を算出した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μLを注入した。温度条件は、初発温度100℃から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200℃から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。なお、この分析方法により測定されるモノマーユニットの共重合比率は、PHA混合品に含まれるPHA全体の平均値となる。
【0046】
(PHAの結晶化の評価)
得られたPHAの結晶化は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製DSC220)を用いて測定を行うことにより評価した。示差走査熱量測定において、2〜5mgのPHA又はその混合品を25℃から170℃まで10℃/分で昇温して5分間保持したあと、170℃から25℃まで10℃/分で冷却した。その後、25℃で5分間保持した後、再度170℃まで10℃/分で昇温した。冷却時に得られた発熱曲線における結晶化ピーク温度(Tc)および結晶化発熱量(Hc)から結晶化のし易さを評価した。結晶化ピーク温度(Tc)が高く、結晶化発熱量(Hc)が大きいほど結晶化が優れている。
【0047】
(融点90〜135℃のPHA成分の融点の測定)
培養後精製して得られたPHAに含まれる低融点成分の融点を以下の方法で測定した。示差走査熱量測定において、2〜5mgのPHA又はその混合品を25℃から170℃まで10℃/分で昇温して5分間保持したあと、170℃から25℃まで10℃/分で冷却した。その後、25℃で5分間保持した後、再度170℃まで10℃/分で昇温した。2回目の昇温時に得られた吸熱曲線において、90〜135℃にピークトップがあるピークを低融点成分とし、そのピークトップ温度を融点(Tm−Low)とした。
【0048】
(アニール法による融点160〜185℃のPHA成分の融点及び含量の測定)
培養後精製して得られたPHAについて、示差走査熱量計を用いて以下の方法でアニール法による評価を行った。
【0049】
DSCにおいて、4.5〜5.5mgのPHA又はその混合品を、23℃から160℃まで10℃/分の速度で昇温し、160℃で30分保持してアニール処理を行った後に、23℃まで10℃/分の速度で降温し、その後、23℃から200℃まで10℃/分の速度で昇温したときのDSC曲線を得た。当該2回目の昇温時に得られたDSC曲線において、160〜185℃にピークトップを有する吸熱ピークについて、吸熱ピーク熱量を測定した。またそのピークトップ温度を、高融点成分の融点(Tm−High)とした。
【0050】
上記方法で測定した吸熱ピーク熱量を、別途作成した検量線と比較することにより、PHA混合品中に含まれる融点160〜185℃のPHA成分の含量を推定した。検量線の作成方法を以下に示す。
【0051】
後述する比較例1と同様の方法で、PHBH(3HH共重合比率10.4モル%)を生産した。また、同じく比較例3と同様の方法で、PHBを生産した。次に、得られたPHBHとPHBを混合し、次の様にして共生産品を擬似的に再現したPHBH/PHB混合品を作製した。まずPHBHとPHBをそれぞれクロロホルムに10g/Lの濃度で溶かし、各ポリマー溶液を得た。次にPHBHとPHBの重量比が90:10となるように、各ポリマー溶液を混合した。ヘキサン400mLに対して、攪拌しながら穏やかに混合ポリマー溶液100mLを添加した。析出したポリマーを濾過分別し、60℃で乾燥してPHBH/PHB混合品を得た。同様の方法で、PHBHとPHBの重量比が93:7、85:15、80:20であるPHBH/PHB混合品を得た。得られた4種のPHBH/PHB混合品についてDSCを行い、160℃より高い部分の融解熱量を測定した。得られた160℃より高い部分の融解熱量の結果から、PHA混合品中のPHB含量を推定するための検量線を作成した。
【0052】
(アニール法による融点136〜155℃のPHA成分の融点及び含量の測定)
培養後精製して得られたPHAについて、示差走査熱量計を用いて以下の方法でアニール法による評価を行った。
【0053】
DSCにおいて、4.5〜5.5mgのPHA又はその混合品を、23℃から130℃まで10℃/分の速度で昇温し、130℃で30分保持してアニール処理を行った後に、23℃まで10℃/分の速度で降温し、その後、23℃から200℃まで10℃/分の速度で昇温したときのDSC曲線を得た。当該2回目の昇温時に得られたDSC曲線において、136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークについて、吸熱ピーク熱量を測定した。またそのピークトップ温度を、中融点成分の融点(Tm−Mid)とした。
【0054】
上記方法で測定した吸熱ピーク熱量を、別途作成した検量線と比較することにより、PHA混合品中に含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量を推定した。検量線の作成方法を以下に示す。
【0055】
後述する比較例1と同様の方法で、PHBH−A(3HH共重合比率10.4モル%)を生産した。また、同じく比較例2と同様の方法で、PHBH−B(3HH共重合比率5.0モル%)を生産した。次に、得られたPHBH−Aについて、上記分析方法で融点136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークの熱量を測定した。同様に、PHBH−Bについても融点136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークの熱量を測定した。PHBH−Aに含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量が0重量%、PHBH−Bに含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量が100重量%となると仮定し、検量線を作成した。
【0056】
(製造例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、染色体上のphaJ4b遺伝子の上流にphaJ4b遺伝子の発現を強化するための発現調節配列を挿入することを目的とし、発現調節配列挿入用プラスミドを作製した。C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号7および配列番号8で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。ポリメラーゼはKOD−plus(東洋紡社製)を用いた。同様に配列番号9および配列番号10で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。さらに同様に、配列番号11および配列番号12で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた3種のDNA断片を鋳型とし、配列番号7および配列番号10で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をSmiIで消化した。このDNA断片を、特開2007−259708号公報に記載のベクターpNS2X−sacBをSmiIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼ(東洋紡社製)を用いて連結し、phaJ4b遺伝子より上流のDNA配列、phaC1プロモーターとphaC1SD配列からなる発現調節配列、およびphaJ4b遺伝子配列を有する発現調節配列挿入用プラスミドpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bを作製した。
【0057】
次に発現調節配列挿入株を作製した。発現調節配列挿入用プラスミドpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bを大腸菌S17−1株(ATCC47055)に導入し、KNK−005 ΔphaZ1,2,6株(国際公開第2014/065253号参照)とNutrient Agar培地(DIFCO社製)上で混合培養して接合伝達を行った。KNK−005 ΔphaZ1,2,6株は、C. necator H16株を宿主とし、配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有し、PHA分解酵素をコードする遺伝子であるphaZ1、phaZ2、およびphaZ6が破壊された菌株である。
【0058】
上記接合伝達後の菌株から、250mg/Lのカナマイシン硫酸塩を含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)上で生育する菌株を選択し、前記プラスミドがKNK−005 ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(DIFCO社製)で2世代培養した後、15%のショ糖を含むNutrient Agar培地で生育する菌株を選択した。得られた菌株からphaJ4b遺伝子の直上流に、phaC1プロモーターとphaC1SD配列からなる発現調節配列が挿入されたものをPCRにより選別し、うち1株をKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株は、染色体上のphaZ1,およびphaZ6遺伝子を全長欠失し、phaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有し、phaJ4b遺伝子の直上流にphaC1プロモーター(REPプロモーター)とphaC1SD(REP−SD)配列からなる発現調節配列が挿入された菌株である。
【0059】
(製造例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株のphaZ1遺伝子を欠失した領域に、PHB生産用の遺伝子発現カセットを導入することを目的とし、DNA挿入用プラスミドを作製した。まずC. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号14および配列番号15で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。同様に配列番号16および配列番号17で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号14および配列番号17で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をSmiIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacBをSmiIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号18記載のDNA配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1ULを作製した。
【0060】
次に、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19および配列番号20で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。得られた断片をMunIおよびSpeIで消化し、pNS2X−sacB−dZ1ULをMunIおよびSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号21記載の改変SD配列REP−SDMからなる発現調節配列、phaC
Re遺伝子配列、およびphaZ1構造遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−SDM−phaC
Reを作製した。
【0061】
次にpCR(R)2.1−TOPO(R)(インビトロジェン社製)を鋳型とし、配列番号22および配列番号23で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。同様に配列番号24および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号22および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をMunIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacB−dZ1UL−SDM−phaC
ReをMunIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、lacN15プロモーターおよびREP−SDMからなる発現調節配列、phaC
Re遺伝子配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−PlacN15SDM−phaC
Reを作製した。なおlacN15プロモーターは配列番号32に記載の塩基配列を有し、Escherichia coli由来のlacプロモーターのスペーサー領域に改変を加えて発現強度を弱めた変異型プロモーターである。
【0062】
上記発現調節配列の挿入時と同様の方法で、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株としてpNS2X−sacB−dZ1UL−PlacN15SDM−phaC
Reを用いてphaZ1遺伝子欠失領域にPHB生産用の遺伝子発現カセットを挿入した。得られた株はKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株は、染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6を全長欠失し、phaZ2伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、phaJ4b遺伝子の直上流にREPプロモーターおよびREP−SD配列からなる発現調節配列が挿入され、phaZ1遺伝子を欠失した領域にlacN15プロモーター、REP−SDM配列、およびCupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子であるphaC
Re構造遺伝子配列が挿入され、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有する菌株である。
【0063】
(製造例3)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株のphaZ1遺伝子を欠失した領域に、PHB生産用の遺伝子発現カセットを導入することを目的とし、DNA挿入用プラスミドを作製した。まず、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号26および配列番号20で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。得られた断片をMunIおよびSpeIで消化し、製造例1で作製したpNS2X−sacB−dZ1ULをMunIおよびSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号6記載のSD配列REP−SDからなる発現調節配列、phaC
Re遺伝子配列、およびphaZ1構造遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−SD−phaC
Reを作製した。
【0064】
次にpCR(R)2.1−TOPO(R)を鋳型とし、配列番号27および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をEcoRIとMunIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacB−dZ1UL−SD−phaC
ReをMunIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、lacプロモーターおよびREP−SDからなる発現調節配列、phaC
Re遺伝子配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−Plac−phaC
Reを作製した。
【0065】
製造例1と同様の方法で、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株としてpNS2X−sacB−dZ1UL−Plac−phaC
Reを用いてphaZ1遺伝子欠失領域にPHB生産用の遺伝子発現カセットを挿入した。得られた株はKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株は、染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6を全長欠失し、phaZ2伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、phaJ4b遺伝子の直上流にREPプロモーターおよびREP−SD配列からなる発現調節配列が挿入され、phaZ1遺伝子を欠失した領域にlacプロモーター、REP−SD配列、およびphaC
Re構造遺伝子配列が挿入され、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有する菌株である。
【0066】
(製造例4)phaC
Ac発現用プラスミド、pCUP2−REP−phaC
Acの作製
Aeromonas caviae由来の野生型PHA合成酵素をコードする遺伝子phaC
Acを発現するためのプラスミドを作製した。まず、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号28および配列番号29で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。次に、A. caviae株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号30および配列番号31で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号28および配列番号31で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をEcoRIとSpeIで消化した。このDNA断片を、特開2007−259708号公報記載のpCUP2ベクターをMunIとSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、REPプロモーターおよびREP−SDからなる発現調節配列、phaC
Ac遺伝子配列を有するphaC
Ac発現用プラスミドpCUP2−REP−phaC
Acを作製した。
【0067】
(製造例5)製造例1記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株とする、phaC
Ac発現用プラスミド導入株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株をNutrient Broth培地で一晩培養した。得られた培養液0.5mLをNutrient Broth培地100mLに接種し、30℃で3時間培養した。得られた培養液を氷上で速やかに冷却し、菌体を回収して氷冷した蒸留水で良く洗浄した後、得られた菌体を2mLの蒸留水に懸濁した。菌体液を製造例4で作製したpCUP2−REP−phaC
Acプラスミド溶液と混合し、キュベットに注入してエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションは、MicroPulserエレクトロポレーター(バイオ・ラッド社製)を使用し、電圧1.5kV、抵抗800Ω、電流25μFの条件で行った。エレクトロポレーション後、菌体溶液を回収して5mLのNutrient Broth培地を添加し、30℃で3時間培養した。得られた培養液を、100mg/Lのカナマイシン硫酸塩を含むNutrient Agar培地に塗布した。30℃で3日間培養し、得られたコロニーからpCUP2−REP−phaC
Acが導入された菌株を取得した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株と命名した。
【0068】
(製造例6)製造例2記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株を親株とする、phaC
Ac発現用プラスミド導入株の作製
製造例5と同様の方法で、製造例2で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株に、製造例4で作製したpCUP2−REP−phaC
Acを導入した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株と命名した。
【0069】
(製造例7)製造例3記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株を親株とする、phaC
Ac発現用プラスミド導入株の作製
製造例5と同様の方法で、製造例3で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株に、製造例4で作製したpCUP2−REP−phaC
Acを導入した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株と命名した。
【0070】
(参考例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株による、PHA混合品の生産
製造例2で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株を以下の条件で培養、精製し、PHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0071】
(培養)
菌株は以下のように培養した。
【0072】
種培地の組成は、10g/L 肉エキス、10g/L バクトトリプトン、2g/L イーストエキス、9g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.5g/L リン酸二水素カリウム、pH6.8とした。
【0073】
前培養培地の組成は、11g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.9g/L リン酸二水素カリウム、12.9g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの)、50mg/Lカナマイシンとした。炭素源には、パームダブルオレイン油を25g/Lの濃度で用いた。
【0074】
PHA生産培地の組成は、5.78g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.01g/L リン酸二水素カリウム、4.37g/L 硫酸アンモニウム、1.5g/L 硫酸マグネシウム七水和物、7.5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(II)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの)とした。炭素源はパームシングルオレイン油を用いた。
【0075】
各菌株のグリセロールストック50μLを種培地10mlに接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールしながら、28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0076】
PHA生産培養は以下のように行った。まず2LのPHA生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製MDL−1000型)に前培養種母を25%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度32℃、攪拌速度450rpm、通気量3.0L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。培養は45〜54時間行った。
【0077】
(精製)
培養終了時に、培養ブロスをサンプリングし、遠心分離によって菌体を回収、エタノールで洗浄後真空乾燥し、乾燥菌体を取得した。
【0078】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣を濾別し、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンに対し上記濃縮液を徐々に添加し、1時間穏やかに攪拌した。析出したPHAを濾別後、50℃で3時間真空乾燥し、精製PHAとして取得した。
【0079】
(参考例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株に代えて、製造例3で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6株を用いて、参考例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0080】
(実施例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株に代えて、製造例5で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株を用いて、参考例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。ただし、種培地としてカナマイシン硫酸塩を50mg/Lとなるよう添加したものを使用した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0081】
(実施例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re,ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株に代えて、製造例6で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株を用いて、実施例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0082】
(実施例3)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re,ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株に代えて、製造例7で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaC
Re ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaC
Ac株を用いて、実施例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0083】
(比較例1)KNK−631株による、PHBHの生産
培養生産にはKNK−631株(国際公開第2009/145164号参照)を用いた。
培養は以下のように行った。
【0084】
種母培地の組成は10g/L 肉エキス、10g/L バクトトリプトン、2g/L イーストエキス、9g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.5g/L リン酸二水素カリウム、pH6.8、50mg/L カナマイシン硫酸塩とした。
【0085】
前培養培地の組成は11g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.9g/L リン酸二水素カリウム、12.9g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、25g/L パーム核油オレイン、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの。)、とした。
【0086】
PHA生産培地の組成は3.85g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、0.67g/L リン酸二水素カリウム、2.91g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの。)、0.5g/L BIOSPUMEX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。炭素源としてはパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを用いた。流加用のリン酸塩水溶液としては、40g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、6.9g/L リン酸二水素カリウム、となるよう調製したものを用いた。
【0087】
KNK−631株のグリセロールストック(50μL)を種母培地(10mL)に接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/分とし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0088】
次に、PHAの生産培養は4.3LのPHA生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−1000型)に前培養種母を5.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度600rpm、通気量6L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は培養全般を通じ、パーム核油オレインを、比基質供給速度が0.1〜0.12(g油脂)×(g正味乾燥菌体重量)
−1×(h)
−1となるように流加した。ここで、比基質供給速度とは、単位時間に正味の菌体重量あたり供給される油脂の量、つまり、正味の乾燥菌体重量あたりの油脂流加速度として定義される培養変数である。また、正味の乾燥菌体重量とは、全乾燥菌体重量から含有するポリエステル重量を差し引いた乾燥菌体重量である。すなわち、比基質供給速度は以下の式より求められる値である。
比基質供給速度=油脂流加速度(g/h)/正味の乾燥菌体重量(g)=単位時間あたりの油脂の供給量(g/h)/(全乾燥菌体重量(g)−ポリエステル含有量(g))
また、リン酸塩水溶液を培養20時間目以降、C/P比が600〜800となるような流速にて連続的に添加した。培養は約64時間行った。これによりPHAを生産した。得られたPHAについて、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHAについて結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0089】
(比較例2)KNK−005株による、PHBHの生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株に代えて、KNK−005株(米国特許第7384766号公報参照)を用いて、参考例1と同様の方法でPHBHを生産した。得られたPHBHについて、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。
【0090】
(比較例3)C. necator H16株による、PHBの生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaC
Re ΔphaZ2,6株に代えて、C. necator H16株を用いて、参考例1と同様の方法でPHBを生産した。得られたPHBについて、平均モノマー共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHAの推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
まず表1について、参考例1および参考例2の結果から、Aeromonas caviae由来の1種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子と、Cupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合には、融点110℃付近の低融点PHA成分と、融点160℃以上の高融点PHA成分が共生産されるが、融点136〜155℃の中融点PHA成分は生産されなかった。
【0094】
一方、実施例1〜3の結果から、Aeromonas属由来の基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合(実施例1)、あるいはこれら2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子に加えてCupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子もさらに共発現した場合(実施例2および実施例3)には、低融点PHA成分および高融点PHA成分に加え、中融点PHA成分も生産されることが明らかとなった。
【0095】
また、PHAの結晶化評価結果について、表2に示した。まず、低融点PHA成分および高融点PHA成分を共生産した場合(参考例1および参考例2)には、低融点PHA成分を生産した比較例1と比べて、Tcの上昇、およびHcの増加が認められた。このことから、低融点PHA成分および高融点PHA成分を共生産すると、PHBHの結晶化が速くなることがわかる。
【0096】
一方、Aeromonas属由来で、基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合(実施例1)には、融点の異なる3種のPHBHが生産され、比較例1と比べてHcの増加が認められた。このことから、融点の異なる3種のPHBHを共生産すると、PHBHの結晶化が速くなることが明らかとなった。
【0097】
さらに、Aeromonas属由来で、基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子に加えて、Cupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子も共発現した場合(実施例2および実施例3)には、明らかなTcの上昇、およびHcの増加が認められた。特に、実施例2と実施例3の比較から、高融点PHA成分の含量が少ない場合であっても、中融点PHA成分の含量が多ければ、PHAの結晶化は速くなることが明らかとなった。