特許第6860489号(P6860489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860489PHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物、およびそれを用いたPHAの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860489
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】PHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物、およびそれを用いたPHAの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20210405BHJP
   C12P 7/62 20060101ALI20210405BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210405BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P7/62
   !C12N15/09 Z
   C12R1:01
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-542721(P2017-542721)
(86)(22)【出願日】2016年9月15日
(86)【国際出願番号】JP2016004222
(87)【国際公開番号】WO2017056442
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-190269(P2015-190269)
(32)【優先日】2015年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 新吾
(72)【発明者】
【氏名】指輪 仁之
(72)【発明者】
【氏名】藤木 哲也
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/133468(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133231(WO,A1)
【文献】 特開2015−029484(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/146195(WO,A1)
【文献】 LU X. et al.,FEMS Microbiol.Lett.,2005,243(1),p.149-155,第154頁左欄下から第一段落−右欄等
【文献】 TSUGE T. et al.,FEMS Microbiol.Lett.,2007,277(2),p.217-222,要約、Table 1,2等
【文献】 TSUGE T. et al.,Macromol.Biosci.,2007,7(6),p.846-854,要約、Table 3、Fig.2等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12P 1/00−41/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aeromonas属に由来する、3−ヒドロキシヘキサン酸に対する基質特異性が異なる2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有し、Cupriavidus属を宿主とする形質転換体である微生物であって、
前記PHA合成酵素のうち3−ヒドロキシヘキサン酸に対する基質特異性が高い方のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、
配列番号1に記載するアミノ酸配列において149番目のアスパラギンがセリンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、
配列番号1に記載するアミノ酸配列において171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、又は、
配列番号1に記載するアミノ酸配列において149番目のアスパラギンがセリンに置換され、かつ、171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であり、
前記PHA合成酵素のうち3−ヒドロキシヘキサン酸に対する基質特異性が低い方のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、
配列番号1に記載するアミノ酸配列を有する野生型PHA合成酵素をコードする遺伝子、又は、
3−ヒドロキシヘキサン酸に対する基質特異性が前記野生型PHA合成酵素と同等又は低くなるように前記野生型PHA合成酵素に対して人為的改変が導入された改変型PHA合成酵素をコードする遺伝子である、微生物。
【請求項2】
前記Aeromonas属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、モノマーユニットとして3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸を含む共重合PHAを合成可能PHA合成酵素をコードする遺伝子を含む、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
前記改変型PHA合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1に記載するアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、かつPHA合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1又は記載の微生物。
【請求項4】
前記PHA合成酵素のうち3−ヒドロキシヘキサン酸に対する基質特異性が低い方のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1に記載するアミノ酸配列において505番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項5】
前記微生物が、さらに、Cupriavidus属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する、請求項1〜4いずれか1項に記載の微生物。
【請求項6】
前記宿主が、Cupriavidus necatorである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物が、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子をさらに有しており、当該R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子の発現が強化されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の微生物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物を培養することにより、融点が互いに異なる3種類以上のPHAを前記微生物の細胞内で生産する工程を含む、PHA混合品の製造方法。
【請求項9】
前記PHA混合品に含まれるPHAのうち1種類以上が、少なくとも3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合PHAである、請求項に記載のPHA混合品の製造方法。
【請求項10】
前記PHA混合品に含まれるPHAのうち最も融点の高いPHAが、160℃でアニール処理後のDSCにおいて160〜185℃に吸熱ピークを呈するPHAである、請求項8又は9に記載のPHA混合品の製造方法。
【請求項11】
前記PHA混合品に含まれるPHAのうち最も融点の低いPHAが、DSCにおいて90〜135℃に吸熱ピークを呈するPHAである、請求項8〜10のいずれか1項に記載のPHA混合品の製造方法。
【請求項12】
PHA混合品に含まれるPHAのうち融点が中間的であるPHAの少なくとも1種類が、130℃でアニール処理後のDSCにおいて136〜155℃に吸熱ピークを呈するPHAである、請求項8〜11のいずれか1項に記載のPHA混合品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PHAを細胞内で生産するための微生物、およびそれを用いたPHAの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(Polyhydroxyalkanoate;以下、「PHA」と略す)は、多くの微生物種の細胞内にエネルギー貯蔵物質として生産、蓄積される熱可塑性ポリエステルである。微生物によって様々な天然の炭素源から生産されるPHAは、土中や水中の微生物により完全に生分解されるため、自然界の炭素循環プロセスに取り込まれることになる。したがって、PHAは生態系への悪影響がほとんどない環境調和型のプラスチックであると言える。近年、環境汚染、廃棄物処理、石油資源の観点から、合成プラスチックが深刻な社会問題となるに至り、PHAが環境にやさしいグリーンプラスチックとして注目され、その実用化が切望されている。
【0003】
微生物中に最初に発見されたPHAは、3−ヒドロキシ酪酸(3−hydroxybutyrate;以下、「3HB」と略す)のホモポリマーであるポリヒドロキシブチレート(Poly−3−hydroxybutyrate;以下、「PHB」と略す)である。PHBは高結晶性であり、結晶化度が高いため硬くて脆く、しかも融点付近の温度(180℃)で速やかに熱分解するため、溶融加工性が低く実用範囲は極めて限られるという問題を有している。
【0004】
そこで、PHBの結晶化度を下げて脆性を改善するため、他の3−ヒドロキシアルカン酸をPHB骨格中に導入する試みがなされた。その一つとして、3HBと3−ヒドロキシヘキサン酸(3−hydroxyhexanoate;以下、「3HH」と略す)の共重合ポリエステルPoly(3HB−co−3HH)(以下、「PHBH」と略す)が発見された。3HBと比べて長い側鎖構造を持つ3HHをモノマーユニットとして含有するPHBHは、PHBと比べて結晶化度が低いため、しなやかで柔らかい物性を有し、脆性が改善されている。しかもPHBHは融点が低いため、溶融加工性の改善も期待できる。しかし、PHBHは結晶固化速度が非常に遅く、加熱溶融後室温まで冷却しても、しばらくは柔らかく粘性を持つことや、粘着性があるため成形時にすぐに離型しないということがわかった。そのためPHBHの実用化には、連続的な加工が難しいという課題がある。また、結晶固化速度の速い既存の汎用樹脂の加工に使用している加工機器が、PHBHの加工に利用できない場合があることも明らかとなった。フィルムやシート、繊維、発泡体、成形品、不織布への加工では、溶融加工したポリマーを冷却する際に当該ポリマーの結晶固化速度が速いことが、生産工程の連続化、ひいては生産性の向上と低コストに繋がるため非常に重要である。
【0005】
そこでPHBHの結晶固化速度を速める試みがされてきた。そのための一般的な方法として、結晶核剤を添加する方法が試みられている。例えば、特許文献1ではPHBHに結晶核剤として窒化ホウ素を使用し結晶化促進効果が得られている。しかし、これは高価な材料であり、しかも生分解性を持たない。このため、より安価で生分解性のある結晶核剤が検討された。
【0006】
特許文献2および3では、PHBHに対してより高い融点を有し、しかも生分解性であるPHBを結晶核剤として添加して、結晶固化速度を速くする技術が開示されている。この先行文献では、PHBHとPHBの混合法として、例えばPHBHとPHBを熱クロロホルム等の溶媒に溶解、混合後、クロロホルムを蒸発させることによるポリマーの析出や、2種類のポリマーをドライアイスで冷却しながら粉砕し混合する方法、PHBは溶融しないでPHBHのみ融解させた状態での混合、乾燥ポリマー粉末のミキシングによる混合などが試みられている。しかしながら、溶媒に溶解して混合する方法では、PHBHの溶解や晶析のために非常に大量の溶媒が必要となり、コスト高となる。また、PHBHとPHBの混合法として、メタノールで晶析し混合ポリマーを回収する方法も知られているが、この方法では、晶析時にポリマーと結晶核剤の溶解度の違いから、均一に分散した状態で晶析が行われないなどの可能性があり、実用的でない。ポリマーを粉砕後混合する方法や乾燥ポリマー粉末をミキシングする方法では、ポリマーを均一に混合することは困難であり、結晶核剤の効果が低下することが予想される。特にPHBHおよび結晶核剤の粒子径は小さいほどよく混合し、また核形成部位の数が多くなるため高い効果が期待されるが、上記の混合法では微粒子での混合効果は期待できない。さらに、PHBをPHBH中に均一に分散させるためにはPHBの融点以上での加工が必要となるが、一般的なPHBの融点は高く、しかも上記のようにその融点付近の温度で熱分解するため、PHBをPHBH中に分散させる際の熱によるPHBやPHBHの劣化、分子量低下などの問題が避けがたい。
【0007】
これらの問題を解消するため、培養を制御することで微生物にPHBHと結晶核剤となるPHAを混ざった状態で生産させる手法が発明された。例えば特許文献4では、培養途中で炭素源を変化させることで、PHBHと、PHBまたは3HHモノマーの共重合比率の低いPHBHの混合物を微生物に生産させる手法が報告されている。また非特許文献1では、特定の植物油と吉草酸ナトリウムを炭素源として培養することで、3HBと3−ヒドロキシ吉草酸(3−hydroxyvalerate;以下、「3HV」と略す)の共重合ポリエステルPoly(3HB−co−3HV)(以下、「PHBV」と略す)とPHBの混合物を細胞内で共生産できることが示唆されている。これらの方法では、PHB等の結晶核剤成分を別途生産する必要がなく、コスト的にも大きなメリットがある。しかしながら、培養途中で炭素源を変化させる特許文献4の方法では非連続的に2種類のPHAが生産されるため培養制御が非常に難しく、さらに生産性も低いため安定したポリマーの生産が困難である。また非特許文献1の方法では、特定の植物油を使った場合にしか目的の効果が得られない上に、2種類のPHAの混合量比を制御することが難しく、実用的でない。
【0008】
その他に、2種類のPHAを細胞内共生産した例として、以下の報告がある。例えば非特許文献2は、Pseudomonas(シュードモナス)属の野生株61−3株が3つのPHA合成酵素をコードする遺伝子を有することを報告している。この3つのPHA合成酵素のうち、2つは炭素鎖長6〜12の3−ヒドロキシアルカン酸(以下、「中鎖ヒドロキシアルカン酸」と略す)を基質とし、残る1つは3HBのみを基質とする。そのため、この61−3株をオクタン酸やドデカン酸などの脂肪酸を含む培地で培養すると、中鎖ヒドロキシアルカン酸を主成分とするPHA(以下、「中鎖PHA」と略す)とPHBが細胞内で共生産されることになる。また非特許文献3と4では、中鎖PHAを合成するPseudomonas oleovorans(シュードモナス オレオボランス)に対し、様々な細菌由来のPHB合成酵素をコードする遺伝子を導入すると、中鎖PHAとPHBが細胞内で共生産されることが報告されている。また非特許文献5では、PHBを合成するRalstonia eutropha(ラルストニア ユートロファ)に対し、Allochromatium vinosum(アロクロマチウム ビノサム)由来の中鎖PHA合成酵素をコードする遺伝子を導入すると、PHBと中鎖PHAが細胞内で共生産されることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−157878号公報
【特許文献2】特表平8−510498号公報
【特許文献3】国際公開第2002/50156号公報
【特許文献4】特開2004−250629号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wing−Hin Lee, Ching−Yee−Loo,Christopher T. Nomura, Kumar Sudesh, Bioresource Technology, vol.99, pp.6844−6851, (2008)
【非特許文献2】Hiromi Matsusaki, Sumihide Manji, Kazunori Taguchi, Mikiya Kato, Toshiaki Fukui, Yoshiharu Doi, Journal of Bacteriology, vol.180, pp.6459−6467, (1998)
【非特許文献3】Arnulf Timm, David Byrom, Alexander Steinbuchel, Applied Microbiology and Biotechnology, vol.33, pp.296−301, (1990)
【非特許文献4】Matthias Liebergesell, Frank Mayer, Alexander Steinbuchel, Applied Microbiology and Biotechnology, vol.40, pp.292−300, (1993)
【非特許文献5】Kawalpreet K. Aneja, RichardD. Ashby, Daniel K. Y. Solaiman, Biotechnology Letters, vol.31, pp.1601−1612, (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、結晶化の遅いPHA共重合体の結晶化速度を向上させ、射出成形、フィルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡などの加工におけるPHA共重合体の溶融加工性を改善し、生産性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Aeromonas(アエロモナス)属に由来する、異なる2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物を用いることで、融点が互いと異なる3種類以上のPHAを同一細胞内で共生産させることができ、さらに、得られるPHA混合品の結晶化速度が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の第1は、Aeromonas(アエロモナス)属に由来する、異なる2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物に関する。前記Aeromonas属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子としては、モノマーユニットとして3HBと3HHを含む共重合PHAを合成可能でかつ3HHに対する基質特異性が異なる少なくとも2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子であるのが好ましい。また、前記Aeromonas属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、それぞれ配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子および前記アミノ酸配列に対して90%以上の配列相同性を有し、かつPHA合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群より選択されるのが好ましい。さらに、前記PHA合成酵素のうち3HHに対する基質特異性が高い方のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1に記載するアミノ酸配列において149番目のアスパラギンがセリンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、および/または、配列番号1に記載するアミノ酸配列において171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であるのが好ましい。また、前記PHA合成酵素のうち3HHに対する基質特異性が低い方のPHA合成酵素をコードする遺伝子が、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であるか、配列番号1に記載するアミノ酸配列において505番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であるのが好ましい。さらにCupriavidus(カプリアビダス)属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物であるのが好ましい。また本発明の微生物は、Cupriavidus属に属する微生物を宿主とする形質転換体であるのが好ましく、前記Cupriavidus属に属する微生物が、Cupriavidus necator(カプリアビダス ネカトール)であるのが好ましい。さらに、微生物がR体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子をさらに有しており、当該R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子の発現が強化されているのが好ましい。
【0014】
本発明の第2は、上記微生物を培養することにより、融点が互いに異なる3種類以上のPHAを前記微生物の細胞内で生産する工程を含む、PHA混合品の製造方法に関する。前記PHA混合品に含まれるPHAのうち1種類以上が、少なくとも3−ヒドロキシ酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含有する共重合PHAであるのが好ましい。また、前記PHA混合品に含まれるPHAのうち最も融点の高いPHAが、160℃でアニール処理後のDSCにおいて160〜185℃に吸熱ピークを呈するPHAであり、前記PHA混合品に含まれるPHAのうち最も融点の低いPHAが、DSCにおいて90〜135℃に吸熱ピークを呈するPHAであり、PHA混合品に含まれるPHAのうち融点が中間的であるPHAの少なくとも1種類が、130℃でアニール処理後のDSCにおいて136〜155℃に吸熱ピークを呈するPHAであるのがそれぞれ好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、結晶化の遅いPHA共重合体の結晶化速度を向上できるので、射出成形、フィルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡などの加工におけるPHA共重合体の溶融加工性または加工速度を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0017】
本発明は、Aeromonas属に由来する、異なる2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する微生物(以下、「本発明の微生物」と略す)に関する。Aeromonas属に由来するPHA合成酵素は、Aeromonas属に由来する野生型PHA合成酵素であってもよいし、Aeromonas属に由来する野生型PHA合成酵素に対して人為的改変を施した改変型PHA合成酵素であってもよい。
【0018】
本発明の微生物は、Aeromonas属に由来する異なる2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する限り、特に限定されないが、いずれの遺伝子も、モノマーユニットとして3HBと3HHを含む共重合PHAを合成可能なPHA合成酵素をコードする遺伝子であるのが好ましく、この場合、これらPHA合成酵素は、3HHに対する基質特異性が互いと異なる少なくとも2種類のPHA合成酵素であるのが好ましい。本明細書においては、3HHに対する基質特異性が互いと異なる2種類のPHA合成酵素のうち、3HHに対する基質特異性の高い方のPHA合成酵素を「PHA合成酵素A」と、3HHに対する基質特異性の低い方のPHA合成酵素を「PHA合成酵素B」とそれぞれ定義する。なお、ここでいう「3HHに対する基質特異性が高い」とは、当該PHA合成酵素が、共重合PHAの合成においてモノマーユニットとして3HHを取り込む能力が他のPHA合成酵素より高いことを意味する。また、本発明の微生物がAeromonas属に由来する3種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有する場合は、当該PHA合成酵素が示す3HHに対する基質特異性を基準に、これら3種類以上の酵素を適宜2つのグループに分けて各グループをPHA合成酵素AまたはPHA合成酵素Bとみなしてもよいし、中間的な基質特異性を有するPHA合成酵素がある場合には、それをPHA合成酵素A及びPHA合成酵素Bとは別のPHA合成酵素として取り扱ってもよい。
【0019】
本発明において、PHA合成酵素Aをコードする遺伝子及びPHA合成酵素Bをコードする遺伝子は、いずれも、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するPHA合成酵素をコードする遺伝子、または前記アミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の配列相同性を有し、かつPHA合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であるのが好ましい。本発明においては、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するAeromonas caviae(アエロモナス キャビエ)由来の野生型PHA合成酵素、及び、当該野生型PHA合成酵素に対しアミノ酸の置換、挿入、欠失などの人為的改変を施し、その改変の種類や程度などによって3HHに対する基質特異性を変化させた改変型PHA合成酵素から、PHA合成酵素A及びPHA合成酵素Bを選択し、組み合わせて用いることが好ましい。
【0020】
PHA合成酵素Aは、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するAeromonas caviae由来の野生型PHA合成酵素よりも3HHに対する基質特異性が高いことが好ましく、3HHに対する基質特異性が高くなるように前記野生型PHA合成酵素に対して人為的改変が導入された改変型PHA合成酵素であることがより好ましい。その一例として、本発明の微生物が有するPHA合成酵素Aをコードする遺伝子としては、配列番号1に記載するアミノ酸配列において149番目のアスパラギンがセリンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、配列番号1に記載するアミノ酸配列において171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子などが挙げられる。なかでも、配列番号1に記載するアミノ酸配列において149番目のアスパラギンがセリンに置換され、かつ、171番目のアスパラギン酸がグリシンに置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が特に好ましい。そのような遺伝子としては配列番号13に示される塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。
【0021】
一方、PHA合成酵素Bは、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有する野生型PHA合成酵素と比べて、3HHに対する基質特異性が同等か、又はそれ未満であることが好ましい。具体的には、PHA合成酵素Bをコードする遺伝子として、配列番号1に記載するアミノ酸配列を有する野生型PHA合成酵素をコードする遺伝子、または、3HHに対する基質特異性が同等又は低くなるように前記野生型PHA合成酵素に対して人為的改変が導入された改変型PHA合成酵素をコードする遺伝子であることが好ましい。後者の具体例としては、配列番号1に記載するアミノ酸配列において505番目のアラニンが他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が好ましい。前記他のアミノ酸としては、例えば、トリプトファン等が挙げられる。
【0022】
本発明の微生物において、Aeromonas属由来の2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を同一細胞内に保有させる方法としては特に限定されない。本発明の微生物は自然界でこれまでに発見されていないが、遺伝子組み換え技術などを用いて、宿主となる微生物に前記PHA合成酵素をコードする遺伝子を導入することで本発明の微生物を製造することができる。例えば、Aeromonas属に属する微生物を宿主とし、Aeromonas属由来の別のPHA合成酵素(当該宿主が保有するPHA合成酵素とは異なるPHA合成酵素)をコードする遺伝子を1種類以上導入しても良いし、Aeromonas属とは異なる属の微生物を宿主とし、Aeromonas属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を2種類以上導入しても良い。また、宿主となる微生物は、Aeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有していても良い。一例として、Cupriavidus属に属する微生物に、Aeromonas属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を2種類、またはそれ以上導入するのが好ましい。その場合、Cupriavidus属に属する微生物が本来有するPHA合成酵素をコードする遺伝子については、そのまま存在していても良く、破壊または欠失していても良い。
【0023】
本発明の微生物は、Aeromonas属由来の2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子の他に、Aeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有していても良い。一例として、本発明の微生物は、Cupriavidus属由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有することが好ましく、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるCupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子、または前記アミノ酸配列に対して90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の配列相同性を有し、かつPHA合成酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有することがより好ましい。これにより、PHA共重合体の結晶化速度をより向上させることができる。
【0024】
本発明の微生物が有する、Aeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子は、1つであっても良いし、複数であっても良い。
【0025】
Aeromonas属由来やAeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を宿主に導入する場合、本発明の微生物が当該PHA合成酵素をコードする遺伝子を保持する形式としては、プラスミドで保持する形式であっても良いし、染色体の任意の位置に導入する形式であっても良いし、これらの形式を併用しても良い。ただしプラスミドで保持する形式の場合、培養中にプラスミドが脱落する可能性があるため、染色体上に保持する形式がより好ましい。
【0026】
本発明の微生物は、上記Aeromonas属由来やAeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子の発現を調整/制御する発現調節配列をその遺伝子の上流に有しているのが好ましい。そのような発現調節配列としては特に限定されず、宿主の本来有する発現調節配列を用いても良いし、公知のプロモーターやシャイン・ダルガノ配列(SD配列)、あるいはそれらの改変体などを適宜組み合わせて使用することも出来る。本発明の微生物において、PHA合成酵素をコードする遺伝子に使用される発現調節配列としては、例えば、lacプロモーター、配列番号4記載のtrpプロモーター、lacUV5プロモーター、tacIIプロモーター、ticプロモーター、配列番号5記載のtrcプロモーター、配列番号32記載のlacN15プロモーター(lacプロモーターの改変体)、Cupriavidus necator由来のphaCABオペロンのプロモーター(REPプロモーター)やその改変体、Cupriavidus necator由来のphasinをコードするphaP1遺伝子のプロモーターなどと、配列番号6に記載のCupriavidus necator由来のphaC1遺伝子のSD配列(REP−SD)やその改変体とを組み合わせて使用することもできるし、配列番号3に記載のCupriavidus necator由来のphaCABオペロンの発現調節配列や、その他任意の公知の発現調節配列を利用することもできる。さらに、上記の発現調節配列に対し、塩基の欠失、置換、挿入により改変を加えた発現調節配列も使用することもできる。本発明においては、使用する上記発現調節配列を適宜選択することで、それぞれのPHA合成酵素の細胞内存在量を調整し、得られるPHA各成分の生産量とその割合をコントロールすることができる。
【0027】
本発明の微生物は、さらに、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子を有していることが好ましく、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼが強化されていることがより好ましい。R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼを強化する方法としては特に限定されないが、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子の発現を強化する方法が好ましい。R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子の発現を強化する方法としては、例えば宿主が有するR体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子のプロモーターを強発現プロモーターに置換しても良いし、強発現プロモーターを遺伝子の上流に挿入しても良いし、プロモーターを一部改変して発現を強化しても良い。あるいは、プラスミドで保持する形式、または染色体の任意の位置に導入する形式によって、R体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子を宿主に導入しても良い。ただしプラスミドで保持する形式の場合、培養中にプラスミドが脱落する可能性があるため、染色体上に保持する形式がより好ましい。この際、導入するR体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子は、宿主由来であっても良いし、宿主以外の生物由来であっても良いし、あるいはそれらの遺伝子を人工的に改変した遺伝子であっても良いし、導入する遺伝子が複数あっても良い。例えば、宿主がCupriavidus necatorである場合、染色体上にはR体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子としてphaJ4a、phaJ4b、phaJ4cの3つが存在するが、これら3つのうち1つまたは複数についてその発現を強化することができる。発現を強化する方法の一例として、phaJ4bの直上流に強発現プロモーターとSD配列からなる発現調節配列を挿入する方法がある。ここで使用する発現調節配列としては、例えば配列番号3に記載のphaCABオペロンの発現調節配列を用いることができる。あるいは、配列番号4に記載のtrpプロモーターあるいは配列番号5記載のtrcプロモーターを、配列番号6記載のSD配列と連結して用いても良い。これらDNAの導入、挿入、又は置換の方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、宿主となる微生物の染色体上に存在するR体特異的エノイル−CoAヒドラターゼをコードする遺伝子の直上流にあるプロモーターを置換、あるいは直上流に別のプロモーターを挿入するには、相同組換え法等が利用できる。
【0028】
本発明の微生物において、宿主は特に限定されないが、一例としてAcinetobacter(アシネトバクター)属、Aeromonas属、Alcaligenes(アルカリゲネス)属、Allochromatium(アロクロマチウム)属、Azorhizobium(アゾリゾビウム)属、Azotobacter(アゾトバクター)属、Bacillus(バチルス)属、Burkholderia(バークホルデリア)属、Candida(カンジダ)属、Caulobacter(カウロバクター)属、Chromobacterium(クロモバクテリウム)属、Comamonas(コマモナス)属、Cupriavidus属、Ectothiorhodospira(エクトチオロドスピラ)属、Escherichia(エシェリキア)属、Klebsiella(クレブシエラ)属、Methylobacterium(メチロバクテリウム)属、Nocardia(ノカルディア)属、Paracoccus(パラコッカス)属、Pseudomonas属、Ralstonia(ラルストニア)属、Rhizobium(リゾビウム)属、Rhodobacter(ロドバクター)属、Rhodococcus(ロドコッカス)属、Rhodospirillum(ロドスピリルム)属、Rickettsia(リケッチア)属、Saccharomyces(サッカロミセス)属、Sinorhizobium(シノリゾビウム)属、Sphingomonas(スフィンゴモナス)属、Synechocystis(シネコシスティス)属、Thiococcus(チオコッカス)属、Thiocystis(チオキスチス)属、Vibrio(ビブリオ)属、Wautersia(ウォーテルシア)属、Zoog/Loea(ゾオグ/ロエア)属に属する微生物を宿主として用いることが好ましい。宿主とする微生物としては、この中でもAeromonas属、Alcaligenes属、Cupriavidus属、Escherichia属、Pseudomonas属、Ralstonia属等に属する微生物がより好ましく、Cupriavidus属、Escherichia属、Ralstonia属に属する微生物がより好ましく、Cupriavidus属に属する微生物がさらにより好ましく、Cupriavidus necatorが特に好ましい。
【0029】
本発明の微生物を培養することにより、当該微生物の細胞内に、融点が互いと異なる3種類以上のPHAを生産させ、菌体からPHAを回収することで、これら融点が互いと異なる3種類以上のPHAを含むPHA混合品を製造することができる。
【0030】
培養時の炭素源としては、本発明のPHA生産微生物が資化可能であればどんな炭素源でも使用可能であるが、好ましくは、グルコース、フルクトース、シュークロースなどの糖類;パーム油、パーム核油、コーン油、やし油、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤトロファ油などの油脂やその分画油類、あるいはその精製副産物;ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸などの脂肪酸やそれらの誘導体等が好ましい。より好ましくは、パーム油、パーム核油などの植物油脂のほか、パーム油やパーム核油を分別した低融点分画であるパームオレイン、パームダブルオレインやパーム核油オレイン、また特に食糧との競合を避ける観点から、PFAD(パーム油脂肪酸蒸留物)やPKFAD(パーム核油脂肪酸蒸留物)、菜種油の脂肪酸蒸留物といった油脂の精製副産物等が挙げられる。
【0031】
本発明のPHAの生産においては、上記炭素源、炭素源以外の栄養源である窒素源、無機塩類、そのほかの有機栄養源を含む培地を用いて、前記微生物を培養することが好ましい。窒素源としては、例えばアンモニア、尿素、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等が挙げられる。無機塩類としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。そのほかの有機栄養源としては、例えばグリシン、アラニン、セリン、スレオニン、プロリン等のアミノ酸、ビタミンB1、ビタミンB12、ビタミンC等のビタミン等が挙げられる。
【0032】
培養温度、培養時間、培養時pH、培地等の条件は、使用する微生物において通常使用されるような培養条件でよい。
【0033】
本発明において、菌体からのPHA混合品の回収方法は、特に限定されないが、例えば次のような方法により行うことができる。培養終了後、培養液から遠心分離機等で菌体を分離し、その菌体を蒸留水およびメタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHA混合品を抽出する。このPHA混合品を含んだ有機溶剤溶液から、濾過等によって菌体由来の不溶物を除去し、その濾液にメタノールやヘキサン等の貧溶媒を加えてPHA混合品を沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHA混合品を回収する。
【0034】
一般に、PHA合成酵素はダイマーとして機能することが知られている。本発明の微生物は、Aeromonas属由来の2種類以上のPHA合成酵素をコードする遺伝子を有するため、PHA合成酵素ダイマーとしては、同じPHA合成酵素2分子からなるホモダイマーだけでなく、異なる2種類のPHA合成酵素が組み合わされた1種類以上のヘテロダイマーも形成可能である。その場合、それぞれのPHA合成酵素ダイマーは異なる基質特異性を有するため、本発明の微生物を培養することによって生産されるPHAは、共重合比率の異なる3種以上のPHA混合品(以下、「本発明のPHA混合品」と略す)となる。このようなPHA混合品は、一般に、融点の異なる3種類以上のPHAを含む。これらAeromonas属由来のPHA合成酵素により作られたPHAとしては、少なくとも3HBと3HHをモノマーユニットとして含有する共重合PHAであるのが好ましい。
【0035】
一方、Aeromonas属由来のPHA合成酵素は、Aeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素とはダイマーを形成しない。そのため、本発明の微生物がAeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子をさらに有する場合には、上記Aeromonas属由来のPHA合成酵素により作られたPHAとは異なる融点を持つ別のPHAも生産されることとなる。この場合のAeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素により作られたPHAとしては、3HBのホモポリマーであるPHBであっても良いし、PHBHやPHBVなどの共重合PHAであっても良いが、PHBであるのが好ましい。
【0036】
本発明のPHA混合品に含まれるPHAのうち、最も融点の高いPHA(A)は、Aeromonas属由来のPHA合成酵素により作られた共重合PHAであっても良いし、Aeromonas属とは異なる属の生物由来のPHA合成酵素により作られたPHBあるいは共重合PHAであっても良い。PHA(A)が共重合PHAである場合、PHA(A)はPHBHであってもPHBVであっても、それ以外の共重合体であっても良いが、PHA(A)は、モノマーユニットとして3HBを95モル%以上含むものが好ましく、3HBを97モル%以上含むものがより好ましく、3HBを99モル%以上含むものがさらに好ましい。また、PHA(A)は、160℃以上に融点を有するものが好ましいが、PHA混合品に含まれるPHA(A)の含有量が低い場合は、通常のDSCにおいては明確な吸熱ピークを有さないこともある。その場合、PHA混合品を後述の実施例の方法に準じて160℃でアニール処理し、その後のDSCにおいて160〜185℃に吸熱ピークを呈するPHAであるのが好ましい。
【0037】
本発明のPHA混合品に含まれるPHAのうち、最も融点の低いPHA(B)は、共重合PHAであることが好ましく、Aeromonas属由来のPHA合成酵素により作られた共重合PHAであることがより好ましく、少なくとも3HBと3HHをモノマーユニットとして含有する共重合PHAであるのがさらに好ましい。その場合、PHA(B)は、モノマーユニットとして3HHを7モル%以上含むものが好ましく、3HHを8モル%以上含むものがより好ましく、3HHを10モル%以上含むものがさらに好ましい。また、PHA(B)は、モノマーユニットとして3HBを80モル%以上含むものが好ましい。なお、PHA(B)は、3HBと3HH以外に、3−ヒドロキシプロピオン酸、3HV、4−ヒドロキシ酪酸などをモノマーユニットとして含んでいても良いが、PHBHであるのがより好ましい。PHA(B)は、DSCにおいて90〜135℃に吸熱ピークを呈するPHAであることが好ましい。
【0038】
本発明のPHA混合品に含まれるPHAのうち、PHA(A)の融点とPHA(B)の融点の中間にある融点を示すPHA(C)は、共重合PHAであることが好ましく、Aeromonas属由来のPHA合成酵素により作られた共重合PHAであることがより好ましく、少なくとも3HBと3HHをモノマーユニットとして含有する共重合PHAであることがさらに好ましい。なお、PHA(C)は1種類でもよく、2種類以上の混合物であっても良い。PHA(C)は(混合物である場合はその全体として)、モノマーユニットとして3HBを90モル%以上含むものが好ましく、3HBを92モル%以上含むものがより好ましく、3HBを93モル%以上含むものがさらに好ましい。また、PHA(C)は、モノマーユニットとして3HHを3モル%以上含むものが好ましく、3HHを4モル%以上含むものがより好ましく、3HHを5モル%以上含むものがさらに好ましい。PHA(C)は、3HBと3HH以外に、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ酪酸などをモノマーユニットとして含んでいても良い。PHA(C)は、PHA(A)とPHA(B)の中間的な融点として通常136〜155℃の間に融点を有するが、PHA混合品に含まれるPHA(C)の含有量が低い場合は、通常のDSCにおいては明確な吸熱ピークを有さないこともある。その場合、PHA混合品を後述の実施例の方法に準じて130℃でアニール処理し、その後のDSCにおいて136〜155℃に吸熱ピークを呈するPHAであることが好ましい。
【0039】
本発明のPHA混合品において、最も融点の低いPHA(B)が主要なポリマー成分を形成する。最も融点の高いPHA(A)の含有量は特に限定されないが、PHA(A)、PHA(B)及びPHA(C)の合計を100重量%とした時に、0.01〜10重量%が好ましく、0.05〜8重量%がより好ましい。中間的な融点を有するPHA(C)の含有量も特に限定されないが、PHA(A)、PHA(B)及びPHA(C)の合計を100重量%とした時に、1〜30重量%が好ましく、2〜25重量%がより好ましい。
【0040】
本発明により生産されるPHA混合品は、結晶化速度が改善されたものであるが、その他の添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料・顔料などの着色剤、可塑剤、滑剤、無機充填剤、帯電防止剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、難燃剤等を必要に応じて含有することができる。また、他の結晶核剤を含有してもよい。
【0041】
以上のようにして得られる樹脂組成物を成形加工することにより成形体を製造することができる。成形加工方法としては従来公知の方法でよく、例えば射出成形、フィルム成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡などが挙げられる。なお、本発明の製造方法によって得られるPHA混合品は、結晶化速度が改善されているだけでなく、融点の異なる3種類以上のPHAが分子レベルで分散しているため、共重合PHAと結晶核剤となる高融点PHAをそれぞれ個別に生産してブレンドした場合に比べて、より簡易な方法で結晶核剤を微細に分散させられるだけでなく、より低い温度、例えば170℃以下の温度で成形加工することも可能である。
【0042】
前記成形体は、例えば各種容器、包装材、農園芸用のフィルム、医療材料等に用いることが出来る。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、菌株の育種、PHAのモノマー組成分析、結晶化の評価方法は以下の通りである。
【0044】
(菌株の育種)
本明細書の実施例、製造例、参考例、および比較例における遺伝子操作は、Green,M.R. and Sambrook,J.,2012,Molecular Cloning:A Laboratory Manual Fourth Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkに記載されている方法で行うことができる。また、遺伝子操作に使用する酵素、クローニング宿主などは市場の供給者から購入し、その取扱説明書にしたがって使用することができる。なお、実施例等に用いられる酵素は、遺伝子操作に使用できるものであれば特に限定されない。
【0045】
(PHAに含まれるモノマーユニットの共重合比率の分析)
得られたPHAのモノマー組成分析はガスクロマトグラフィーによって測定した。得られたPHAあるいはその混合品約20mgに2mLの硫酸−メタノール混液(15:85)と2mLのクロロホルムを添加して密栓し、100℃で140分間加熱することによってメチルエステル化した。冷却後、これに1.5gの炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて中和し、炭酸ガスの発生がとまるまで放置した。4mLのジイソプロピルエーテルを添加してよく混合した後、遠心して、上清中の3HBメチルエステルと3HHメチルエステルの組成をキャピラリーガスクロマトグラフィーにより分析し、3HHモノマー比率を算出した。ガスクロマトグラフは島津製作所GC−17A、キャピラリーカラムはGLサイエンス社製NEUTRA BOND−1(カラム長25m、カラム内径0.25mm、液膜厚0.4μm)を用いた。キャリアガスとしてHeを用い、カラム入口圧100kPaとし、サンプルは1μLを注入した。温度条件は、初発温度100℃から200℃まで8℃/分の速度で昇温、さらに200℃から290℃まで30℃/分の速度で昇温した。なお、この分析方法により測定されるモノマーユニットの共重合比率は、PHA混合品に含まれるPHA全体の平均値となる。
【0046】
(PHAの結晶化の評価)
得られたPHAの結晶化は、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製DSC220)を用いて測定を行うことにより評価した。示差走査熱量測定において、2〜5mgのPHA又はその混合品を25℃から170℃まで10℃/分で昇温して5分間保持したあと、170℃から25℃まで10℃/分で冷却した。その後、25℃で5分間保持した後、再度170℃まで10℃/分で昇温した。冷却時に得られた発熱曲線における結晶化ピーク温度(Tc)および結晶化発熱量(Hc)から結晶化のし易さを評価した。結晶化ピーク温度(Tc)が高く、結晶化発熱量(Hc)が大きいほど結晶化が優れている。
【0047】
(融点90〜135℃のPHA成分の融点の測定)
培養後精製して得られたPHAに含まれる低融点成分の融点を以下の方法で測定した。示差走査熱量測定において、2〜5mgのPHA又はその混合品を25℃から170℃まで10℃/分で昇温して5分間保持したあと、170℃から25℃まで10℃/分で冷却した。その後、25℃で5分間保持した後、再度170℃まで10℃/分で昇温した。2回目の昇温時に得られた吸熱曲線において、90〜135℃にピークトップがあるピークを低融点成分とし、そのピークトップ温度を融点(Tm−Low)とした。
【0048】
(アニール法による融点160〜185℃のPHA成分の融点及び含量の測定)
培養後精製して得られたPHAについて、示差走査熱量計を用いて以下の方法でアニール法による評価を行った。
【0049】
DSCにおいて、4.5〜5.5mgのPHA又はその混合品を、23℃から160℃まで10℃/分の速度で昇温し、160℃で30分保持してアニール処理を行った後に、23℃まで10℃/分の速度で降温し、その後、23℃から200℃まで10℃/分の速度で昇温したときのDSC曲線を得た。当該2回目の昇温時に得られたDSC曲線において、160〜185℃にピークトップを有する吸熱ピークについて、吸熱ピーク熱量を測定した。またそのピークトップ温度を、高融点成分の融点(Tm−High)とした。
【0050】
上記方法で測定した吸熱ピーク熱量を、別途作成した検量線と比較することにより、PHA混合品中に含まれる融点160〜185℃のPHA成分の含量を推定した。検量線の作成方法を以下に示す。
【0051】
後述する比較例1と同様の方法で、PHBH(3HH共重合比率10.4モル%)を生産した。また、同じく比較例3と同様の方法で、PHBを生産した。次に、得られたPHBHとPHBを混合し、次の様にして共生産品を擬似的に再現したPHBH/PHB混合品を作製した。まずPHBHとPHBをそれぞれクロロホルムに10g/Lの濃度で溶かし、各ポリマー溶液を得た。次にPHBHとPHBの重量比が90:10となるように、各ポリマー溶液を混合した。ヘキサン400mLに対して、攪拌しながら穏やかに混合ポリマー溶液100mLを添加した。析出したポリマーを濾過分別し、60℃で乾燥してPHBH/PHB混合品を得た。同様の方法で、PHBHとPHBの重量比が93:7、85:15、80:20であるPHBH/PHB混合品を得た。得られた4種のPHBH/PHB混合品についてDSCを行い、160℃より高い部分の融解熱量を測定した。得られた160℃より高い部分の融解熱量の結果から、PHA混合品中のPHB含量を推定するための検量線を作成した。
【0052】
(アニール法による融点136〜155℃のPHA成分の融点及び含量の測定)
培養後精製して得られたPHAについて、示差走査熱量計を用いて以下の方法でアニール法による評価を行った。
【0053】
DSCにおいて、4.5〜5.5mgのPHA又はその混合品を、23℃から130℃まで10℃/分の速度で昇温し、130℃で30分保持してアニール処理を行った後に、23℃まで10℃/分の速度で降温し、その後、23℃から200℃まで10℃/分の速度で昇温したときのDSC曲線を得た。当該2回目の昇温時に得られたDSC曲線において、136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークについて、吸熱ピーク熱量を測定した。またそのピークトップ温度を、中融点成分の融点(Tm−Mid)とした。
【0054】
上記方法で測定した吸熱ピーク熱量を、別途作成した検量線と比較することにより、PHA混合品中に含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量を推定した。検量線の作成方法を以下に示す。
【0055】
後述する比較例1と同様の方法で、PHBH−A(3HH共重合比率10.4モル%)を生産した。また、同じく比較例2と同様の方法で、PHBH−B(3HH共重合比率5.0モル%)を生産した。次に、得られたPHBH−Aについて、上記分析方法で融点136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークの熱量を測定した。同様に、PHBH−Bについても融点136〜155℃にピークトップを有する吸熱ピークの熱量を測定した。PHBH−Aに含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量が0重量%、PHBH−Bに含まれる融点136〜155℃のPHA成分の含量が100重量%となると仮定し、検量線を作成した。
【0056】
(製造例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株の作製
まず、染色体上のphaJ4b遺伝子の上流にphaJ4b遺伝子の発現を強化するための発現調節配列を挿入することを目的とし、発現調節配列挿入用プラスミドを作製した。C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号7および配列番号8で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。ポリメラーゼはKOD−plus(東洋紡社製)を用いた。同様に配列番号9および配列番号10で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。さらに同様に、配列番号11および配列番号12で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた3種のDNA断片を鋳型とし、配列番号7および配列番号10で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をSmiIで消化した。このDNA断片を、特開2007−259708号公報に記載のベクターpNS2X−sacBをSmiIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼ(東洋紡社製)を用いて連結し、phaJ4b遺伝子より上流のDNA配列、phaC1プロモーターとphaC1SD配列からなる発現調節配列、およびphaJ4b遺伝子配列を有する発現調節配列挿入用プラスミドpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bを作製した。
【0057】
次に発現調節配列挿入株を作製した。発現調節配列挿入用プラスミドpNS2X−sacB+phaJ4bU−REP−phaJ4bを大腸菌S17−1株(ATCC47055)に導入し、KNK−005 ΔphaZ1,2,6株(国際公開第2014/065253号参照)とNutrient Agar培地(DIFCO社製)上で混合培養して接合伝達を行った。KNK−005 ΔphaZ1,2,6株は、C. necator H16株を宿主とし、配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有し、PHA分解酵素をコードする遺伝子であるphaZ1、phaZ2、およびphaZ6が破壊された菌株である。
【0058】
上記接合伝達後の菌株から、250mg/Lのカナマイシン硫酸塩を含むシモンズ寒天培地(クエン酸ナトリウム2g/L、塩化ナトリウム5g/L、硫酸マグネシウム七水和物0.2g/L、リン酸二水素アンモニウム1g/L、リン酸水素二カリウム1g/L、寒天15g/L、pH6.8)上で生育する菌株を選択し、前記プラスミドがKNK−005 ΔphaZ1,2,6株の染色体上に組み込まれた株を取得した。この株をNutrient Broth培地(DIFCO社製)で2世代培養した後、15%のショ糖を含むNutrient Agar培地で生育する菌株を選択した。得られた菌株からphaJ4b遺伝子の直上流に、phaC1プロモーターとphaC1SD配列からなる発現調節配列が挿入されたものをPCRにより選別し、うち1株をKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株は、染色体上のphaZ1,およびphaZ6遺伝子を全長欠失し、phaZ2遺伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有し、phaJ4b遺伝子の直上流にphaC1プロモーター(REPプロモーター)とphaC1SD(REP−SD)配列からなる発現調節配列が挿入された菌株である。
【0059】
(製造例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株のphaZ1遺伝子を欠失した領域に、PHB生産用の遺伝子発現カセットを導入することを目的とし、DNA挿入用プラスミドを作製した。まずC. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号14および配列番号15で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。同様に配列番号16および配列番号17で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号14および配列番号17で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をSmiIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacBをSmiIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号18記載のDNA配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1ULを作製した。
【0060】
次に、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19および配列番号20で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。得られた断片をMunIおよびSpeIで消化し、pNS2X−sacB−dZ1ULをMunIおよびSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号21記載の改変SD配列REP−SDMからなる発現調節配列、phaCRe遺伝子配列、およびphaZ1構造遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−SDM−phaCReを作製した。
【0061】
次にpCR(R)2.1−TOPO(R)(インビトロジェン社製)を鋳型とし、配列番号22および配列番号23で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。同様に配列番号24および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号22および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をMunIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacB−dZ1UL−SDM−phaCReをMunIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、lacN15プロモーターおよびREP−SDMからなる発現調節配列、phaCRe遺伝子配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−PlacN15SDM−phaCReを作製した。なおlacN15プロモーターは配列番号32に記載の塩基配列を有し、Escherichia coli由来のlacプロモーターのスペーサー領域に改変を加えて発現強度を弱めた変異型プロモーターである。
【0062】
上記発現調節配列の挿入時と同様の方法で、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株としてpNS2X−sacB−dZ1UL−PlacN15SDM−phaCReを用いてphaZ1遺伝子欠失領域にPHB生産用の遺伝子発現カセットを挿入した。得られた株はKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株は、染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6を全長欠失し、phaZ2伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、phaJ4b遺伝子の直上流にREPプロモーターおよびREP−SD配列からなる発現調節配列が挿入され、phaZ1遺伝子を欠失した領域にlacN15プロモーター、REP−SDM配列、およびCupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子であるphaCRe構造遺伝子配列が挿入され、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有する菌株である。
【0063】
(製造例3)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株のphaZ1遺伝子を欠失した領域に、PHB生産用の遺伝子発現カセットを導入することを目的とし、DNA挿入用プラスミドを作製した。まず、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号26および配列番号20で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。得られた断片をMunIおよびSpeIで消化し、製造例1で作製したpNS2X−sacB−dZ1ULをMunIおよびSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、配列番号6記載のSD配列REP−SDからなる発現調節配列、phaCRe遺伝子配列、およびphaZ1構造遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−SD−phaCReを作製した。
【0064】
次にpCR(R)2.1−TOPO(R)を鋳型とし、配列番号27および配列番号25で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をEcoRIとMunIで消化した。このDNA断片を、pNS2X−sacB−dZ1UL−SD−phaCReをMunIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、phaZ1遺伝子より上流のDNA配列、lacプロモーターおよびREP−SDからなる発現調節配列、phaCRe遺伝子配列、およびphaZ1遺伝子より下流のDNA配列を有するDNA挿入用プラスミドpNS2X−sacB−dZ1UL−Plac−phaCReを作製した。
【0065】
製造例1と同様の方法で、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株としてpNS2X−sacB−dZ1UL−Plac−phaCReを用いてphaZ1遺伝子欠失領域にPHB生産用の遺伝子発現カセットを挿入した。得られた株はKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株と命名した。KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株は、染色体上のphaZ1遺伝子およびphaZ6を全長欠失し、phaZ2伝子の16番目のコドンから終止コドンまでを欠失し、phaJ4b遺伝子の直上流にREPプロモーターおよびREP−SD配列からなる発現調節配列が挿入され、phaZ1遺伝子を欠失した領域にlacプロモーター、REP−SD配列、およびphaCRe構造遺伝子配列が挿入され、染色体上に配列番号13に記載の塩基配列を有するPHA合成酵素遺伝子を有する菌株である。
【0066】
(製造例4)phaCAc発現用プラスミド、pCUP2−REP−phaCAcの作製
Aeromonas caviae由来の野生型PHA合成酵素をコードする遺伝子phaCAcを発現するためのプラスミドを作製した。まず、C. necator H16株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号28および配列番号29で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。次に、A. caviae株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号30および配列番号31で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行った。上記PCRで得られた2種のDNA断片を鋳型とし、配列番号28および配列番号31で示したDNAをプライマーペアとしてPCRを行い、得られた断片をEcoRIとSpeIで消化した。このDNA断片を、特開2007−259708号公報記載のpCUP2ベクターをMunIとSpeIで消化したDNA断片と、DNAリガーゼを用いて連結し、REPプロモーターおよびREP−SDからなる発現調節配列、phaCAc遺伝子配列を有するphaCAc発現用プラスミドpCUP2−REP−phaCAcを作製した。
【0067】
(製造例5)製造例1記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株を親株とする、phaCAc発現用プラスミド導入株の作製
製造例1で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6株をNutrient Broth培地で一晩培養した。得られた培養液0.5mLをNutrient Broth培地100mLに接種し、30℃で3時間培養した。得られた培養液を氷上で速やかに冷却し、菌体を回収して氷冷した蒸留水で良く洗浄した後、得られた菌体を2mLの蒸留水に懸濁した。菌体液を製造例4で作製したpCUP2−REP−phaCAcプラスミド溶液と混合し、キュベットに注入してエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションは、MicroPulserエレクトロポレーター(バイオ・ラッド社製)を使用し、電圧1.5kV、抵抗800Ω、電流25μFの条件で行った。エレクトロポレーション後、菌体溶液を回収して5mLのNutrient Broth培地を添加し、30℃で3時間培養した。得られた培養液を、100mg/Lのカナマイシン硫酸塩を含むNutrient Agar培地に塗布した。30℃で3日間培養し、得られたコロニーからpCUP2−REP−phaCAcが導入された菌株を取得した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaCAc株と命名した。
【0068】
(製造例6)製造例2記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株を親株とする、phaCAc発現用プラスミド導入株の作製
製造例5と同様の方法で、製造例2で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株に、製造例4で作製したpCUP2−REP−phaCAcを導入した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株と命名した。
【0069】
(製造例7)製造例3記載のKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株を親株とする、phaCAc発現用プラスミド導入株の作製
製造例5と同様の方法で、製造例3で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株に、製造例4で作製したpCUP2−REP−phaCAcを導入した。得られた菌株を、KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株と命名した。
【0070】
(参考例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株による、PHA混合品の生産
製造例2で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株を以下の条件で培養、精製し、PHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0071】
(培養)
菌株は以下のように培養した。
【0072】
種培地の組成は、10g/L 肉エキス、10g/L バクトトリプトン、2g/L イーストエキス、9g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.5g/L リン酸二水素カリウム、pH6.8とした。
【0073】
前培養培地の組成は、11g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.9g/L リン酸二水素カリウム、12.9g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの)、50mg/Lカナマイシンとした。炭素源には、パームダブルオレイン油を25g/Lの濃度で用いた。
【0074】
PHA生産培地の組成は、5.78g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.01g/L リン酸二水素カリウム、4.37g/L 硫酸アンモニウム、1.5g/L 硫酸マグネシウム七水和物、7.5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(II)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの)とした。炭素源はパームシングルオレイン油を用いた。
【0075】
各菌株のグリセロールストック50μLを種培地10mlに接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールしながら、28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0076】
PHA生産培養は以下のように行った。まず2LのPHA生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社製MDL−1000型)に前培養種母を25%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度32℃、攪拌速度450rpm、通気量3.0L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。培養は45〜54時間行った。
【0077】
(精製)
培養終了時に、培養ブロスをサンプリングし、遠心分離によって菌体を回収、エタノールで洗浄後真空乾燥し、乾燥菌体を取得した。
【0078】
得られた乾燥菌体1gに100mLのクロロホルムを加え、室温で一昼夜攪拌して、菌体内のPHAを抽出した。菌体残渣を濾別し、エバポレーターで総容量が30mLになるまで濃縮後、90mLのヘキサンに対し上記濃縮液を徐々に添加し、1時間穏やかに攪拌した。析出したPHAを濾別後、50℃で3時間真空乾燥し、精製PHAとして取得した。
【0079】
(参考例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株に代えて、製造例3で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6株を用いて、参考例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0080】
(実施例1)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaCAc株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株に代えて、製造例5で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaCAc株を用いて、参考例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。ただし、種培地としてカナマイシン硫酸塩を50mg/Lとなるよう添加したものを使用した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0081】
(実施例2)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe,ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaCAc株に代えて、製造例6で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株を用いて、実施例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0082】
(実施例3)KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe,ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株による、PHA混合品の生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1,2,6/pCUP2−REP−phaCAc株に代えて、製造例7で作製したKNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::Plac−phaCRe ΔphaZ2,6/pCUP2−REP−phaCAc株を用いて、実施例1と同様の方法でPHA混合品を生産した。得られたPHA混合品について、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHA混合品について結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0083】
(比較例1)KNK−631株による、PHBHの生産
培養生産にはKNK−631株(国際公開第2009/145164号参照)を用いた。
培養は以下のように行った。
【0084】
種母培地の組成は10g/L 肉エキス、10g/L バクトトリプトン、2g/L イーストエキス、9g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.5g/L リン酸二水素カリウム、pH6.8、50mg/L カナマイシン硫酸塩とした。
【0085】
前培養培地の組成は11g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、1.9g/L リン酸二水素カリウム、12.9g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、25g/L パーム核油オレイン、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの。)、とした。
【0086】
PHA生産培地の組成は3.85g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、0.67g/L リン酸二水素カリウム、2.91g/L 硫酸アンモニウム、1g/L 硫酸マグネシウム七水和物、5mL/L 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に16g/L 塩化鉄(III)六水和物、10g/L 塩化カルシウム二水和物、0.2g/L 塩化コバルト六水和物、0.16g/L 硫酸銅五水和物、0.12g/L 塩化ニッケル六水和物を溶かしたもの。)、0.5g/L BIOSPUMEX200K(消泡剤:コグニスジャパン社製)とした。炭素源としてはパーム核油を分別した低融点画分であるパーム核油オレインを用いた。流加用のリン酸塩水溶液としては、40g/L リン酸水素二ナトリウム12水和物、6.9g/L リン酸二水素カリウム、となるよう調製したものを用いた。
【0087】
KNK−631株のグリセロールストック(50μL)を種母培地(10mL)に接種して24時間培養し、1.8Lの前培養培地を入れた3Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−300型)に1.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度33℃、攪拌速度500rpm、通気量1.8L/分とし、pHは6.7〜6.8の間でコントロールしながら28時間培養した。pHコントロールには7%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。
【0088】
次に、PHAの生産培養は4.3LのPHA生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MDL−1000型)に前培養種母を5.0%(v/v)接種した。運転条件は、培養温度28℃、攪拌速度600rpm、通気量6L/分とし、pHは6.7から6.8の間でコントロールした。pHコントロールには14%水酸化アンモニウム水溶液を使用した。炭素源は培養全般を通じ、パーム核油オレインを、比基質供給速度が0.1〜0.12(g油脂)×(g正味乾燥菌体重量)−1×(h)−1となるように流加した。ここで、比基質供給速度とは、単位時間に正味の菌体重量あたり供給される油脂の量、つまり、正味の乾燥菌体重量あたりの油脂流加速度として定義される培養変数である。また、正味の乾燥菌体重量とは、全乾燥菌体重量から含有するポリエステル重量を差し引いた乾燥菌体重量である。すなわち、比基質供給速度は以下の式より求められる値である。
比基質供給速度=油脂流加速度(g/h)/正味の乾燥菌体重量(g)=単位時間あたりの油脂の供給量(g/h)/(全乾燥菌体重量(g)−ポリエステル含有量(g))
また、リン酸塩水溶液を培養20時間目以降、C/P比が600〜800となるような流速にて連続的に添加した。培養は約64時間行った。これによりPHAを生産した。得られたPHAについて、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。また、得られたPHAについて結晶化速度の評価を行い、結果を表2に示した。
【0089】
(比較例2)KNK−005株による、PHBHの生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株に代えて、KNK−005株(米国特許第7384766号公報参照)を用いて、参考例1と同様の方法でPHBHを生産した。得られたPHBHについて、モノマーユニットの共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHA成分の推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。
【0090】
(比較例3)C. necator H16株による、PHBの生産
KNK−005 REP−phaJ4b ΔphaZ1::PlacN15SDM−phaCRe ΔphaZ2,6株に代えて、C. necator H16株を用いて、参考例1と同様の方法でPHBを生産した。得られたPHBについて、平均モノマー共重合比率を測定し、かつアニール法により、融点136〜155℃のPHAの推定含有量、および融点160〜185℃のPHA成分の推定含有量を算出した。結果を表1に示した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
まず表1について、参考例1および参考例2の結果から、Aeromonas caviae由来の1種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子と、Cupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合には、融点110℃付近の低融点PHA成分と、融点160℃以上の高融点PHA成分が共生産されるが、融点136〜155℃の中融点PHA成分は生産されなかった。
【0094】
一方、実施例1〜3の結果から、Aeromonas属由来の基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合(実施例1)、あるいはこれら2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子に加えてCupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子もさらに共発現した場合(実施例2および実施例3)には、低融点PHA成分および高融点PHA成分に加え、中融点PHA成分も生産されることが明らかとなった。
【0095】
また、PHAの結晶化評価結果について、表2に示した。まず、低融点PHA成分および高融点PHA成分を共生産した場合(参考例1および参考例2)には、低融点PHA成分を生産した比較例1と比べて、Tcの上昇、およびHcの増加が認められた。このことから、低融点PHA成分および高融点PHA成分を共生産すると、PHBHの結晶化が速くなることがわかる。
【0096】
一方、Aeromonas属由来で、基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子を共発現した場合(実施例1)には、融点の異なる3種のPHBHが生産され、比較例1と比べてHcの増加が認められた。このことから、融点の異なる3種のPHBHを共生産すると、PHBHの結晶化が速くなることが明らかとなった。
【0097】
さらに、Aeromonas属由来で、基質特異性の異なる2種類のPHA合成酵素をコードする遺伝子に加えて、Cupriavidus necator由来のPHA合成酵素をコードする遺伝子も共発現した場合(実施例2および実施例3)には、明らかなTcの上昇、およびHcの増加が認められた。特に、実施例2と実施例3の比較から、高融点PHA成分の含量が少ない場合であっても、中融点PHA成分の含量が多ければ、PHAの結晶化は速くなることが明らかとなった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]