(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860573
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】新規なケイ化モリブデン系組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/58 20060101AFI20210405BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20210405BHJP
C01B 33/06 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
C04B35/58 092
H05B3/14 D
C01B33/06
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-532734(P2018-532734)
(86)(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公表番号】特表2019-507084(P2019-507084A)
(43)【公表日】2019年3月14日
(86)【国際出願番号】EP2016081752
(87)【国際公開番号】WO2017108694
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年10月23日
(31)【優先権主張番号】15201647.3
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ストレーム, エリック
【審査官】
田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−506365(JP,A)
【文献】
特表2012−526355(JP,A)
【文献】
特開平10−324571(JP,A)
【文献】
特表平07−507178(JP,A)
【文献】
特表2003−500812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/58
H05B 3/14
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al2O3と、1−7wt%のベントナイトと、残分のMo1−xCrxSi2(ここで、xは0.05−0.25である)とを含むケイ化モリブデン系組成物であって、Al2O3が0.01−0.06wt%の量で存在することを特徴とする、ケイ化モリブデン系組成物。
【請求項2】
ベントナイトが2−6wt%の量で存在する、請求項1に記載のケイ化モリブデン系組成物。
【請求項3】
ベントナイトが2−5wt%の量で存在する、請求項1又は2に記載のケイ化モリブデン系組成物。
【請求項4】
xが0.10−0.20である、請求項1から3の何れか一項に記載のケイ化モリブデン系組成物。
【請求項5】
xが0.15−0.20である、請求項1から4の何れか一項に記載のケイ化モリブデン系組成物。
【請求項6】
Al2O3が0.02−0.05wt%の量にある、請求項1から5の何れか一項に記載のケイ化モリブデン系組成物。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載のケイ化モリブデン系組成物から製造された焼結ケイ化モリブデン系化合物を含む、発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を含むケイ化モリブデン系組成物、及び高温用途におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ化モリブデン(MoSi
2)系材料は、高温炉での用途に関してよく知られている。これらの材料から作製された発熱体は、空気中において、高温、例えば1800℃超で、二酸化ケイ素(シリカ)保護層が形成されるため、良好な性能を示す。
【0003】
ケイ化モリブデン系材料を空気中において加熱すると、モリブデン及びケイ素がどちらも酸化される。酸化モリブデンは、揮発性になり蒸発し、ケイ素は、材料上に酸化物層を形成し、この酸化物層は、材料が腐食及びその他の摩耗劣化を起こすのを防止する。しかしながら、低温では、酸化モリブデンが表面層に残り、そのため、連続的な二酸化ケイ素層の形成が妨害される。これは、発熱体の材料(MoSi
2)の連続的な消費につながり得る。この現象は、「ペスティング」又は「ペスト」と呼ばれている。
【0004】
MoSi
2を含む発熱体にクロムを添加することにより、450℃での加熱材料の劣化が低減されることが示された。また、モリブデン酸クロムが形成されることにより、クロムで合金化されたMoSi
2を含む発熱体の材料消費が減速することも示された。
【0005】
MoSi
2に基づく発熱体に対してなされた以上の進歩にもかかわらず、特に工業炉においてMoSi
2系発熱体が劣化する問題が依然として存在する。工業炉内には、様々な温度域、一般的には高温域及び低温域がある。したがって、工業炉内に含まれるMoSi
2系発熱体も、様々な温度域を有する。高温域では、シリカがすぐに形成されるため、ペスティングによる問題はない。しかしながら、低温域では、ペスティングによる問題があり、これは、MoSi
2系発熱体のこれらの部分が腐食などに曝されることを意味し、これは最終的に、発熱体の欠陥につながる。ペスティングに係る別の問題は、発熱体に欠陥が生じた場合に、表面酸化物の部分が炉内に落下し、加熱材料を汚し得ることである。
【0006】
本開示の目的は、上記の問題をなくすか、又は少なくとも低減することである。
【発明の概要】
【0007】
したがって、本開示により、Al
2O
3と、1−7重量%(wt%)のベントナイトと、残分のMo
1−xCr
xSi
2(ここで、xは0.05−0.25である)とを含むケイ化モリブデン系組成物であって、Al
2O
3が0.01−0.06重量%(wt%)の量で存在することを特徴とする、組成物が提供される。というのも、驚くべきことに、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を少し添加することにより、優れた耐ペスト性を有するケイ化モリブデン系組成物ができあがることが分かったからである。
【0008】
また、本開示により、先に又は以下に規定されているケイ化モリブデン系組成物から製造された焼結ケイ化モリブデン系化合物を含む発熱体、及び先に又は以下に規定されているケイ化モリブデン系組成物から製造された焼結ケイ化モリブデン系化合物を含有する物体を備える炉が提供される。したがって、これらの発熱体は、改善された耐ペスト性を有し、かつ改善された寿命も有し、またこれにより、維持コストがより低下する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ケイ化モリブデンの様々な組成物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、Al
2O
3と、1−7wt%のベントナイトと、残分のMo
1−xCr
xSi
2(ここで、xは0.05−0.25である)とを含むケイ化モリブデン系組成物であって、Al
2O
3が0.01−0.06wt%の量で存在する、組成物を提示する。
【0011】
ベントナイトは、主にモンモリロナイトから成るケイ酸アルミニウム粘土である。様々な種類のベントナイトがあり、これらはそれぞれ、主要な各元素に従って命名される。工業的な目的について、ベントナイトの主な分類は2つ存在する(ナトリウムベントナイト及びカルシウムベントナイト)。したがって、本開示において、「ベントナイト」という用語は、あらゆる種類のケイ酸アルミニウム、例えばナトリウムベントナイト及びカルシウムベントナイトを含むことを意図している。ベントナイトは、組成物の加工性を改善し、かつ例えば押出成形による発熱体の製造を可能にするために、1−7重量%(wt%)の量でケイ化モリブデン系組成物に添加される。一実施態様によると、ベントナイトは、2−6wt%、例えば2−5wt%の量で存在する。
【0012】
本ケイ化モリブデン系組成物の残分は、Mo
1−xCr
xSi
2である。一実施態様によると、先に又は以下に規定されている組成物は、少なくとも90重量%(wt%)のMo
1−xCr
xSi
2、例えば少なくとも92wt%のMo
1−xCr
xSi
2、例えば少なくとも94wt%のMo
1−xCr
xSi
2を含む。一実施態様によると、先に又は以下に規定されている組成物は、Mo
1−xCr
xSi
2を92.94−98.99、例えば94.98−97.95の範囲で含む。さらに、本開示によると、ケイ化モリブデンの一部(x)のモリブデンは、クロムにより置換されており、ここでxは、0.05−0.25である。置換により、先に又は以下に規定されているケイ化モリブデン系組成物の耐酸化性が400−600℃の温度範囲において改善され、これにより劣化が低減される。一実施態様によると、xは、0.10−0.20、例えば0.15−0.20の範囲にある。
【0013】
先に又は以下に規定されているケイ化モリブデン系組成物は、酸化アルミニウムとしても知られるアルミナ(Al
2O
3)を少量含む。驚くべきことに、少量(0.01−0.06wt%)のアルミナの添加は、耐ペスト性に対して大きな影響を及ぼすことを示した(
図1参照)。ペスト酸化はたいてい、炉が長時間にわたり稼動した後に生じるため、したがって、炉が数時間にわたり稼動するまでは、ペストを見つけることはできない。
図1は、ケイ化モリブデンの様々な組成物を示し、
図1から分かるように、不所望な酸化物の成長速度が速いほど、線の傾きが大きくなる。本開示によるケイ化モリブデン系組成物は、この傾きが極めて小さく、それにより、極めて低い酸化物成長速度を有し、かつそれにより、改善された耐ペスト性を有する。一実施態様によると、Al
2O
3の量は、0.02−0.05wt%である。
【0014】
本開示による発熱体は、様々な形状及び大きさで容易に製造可能であり、かつ有利には、工業炉内の既存の発熱体と交換可能である。ケイ化モリブデン系化合物を含む発熱体又は任意の他の物体は、先に又は以下に規定されているケイ化モリブデン組成物を焼結することにより製造される。焼結は、2つの工程で実施され得る。第一の焼結は、不活性雰囲気、例えば水素、窒素又はアルゴンにおいて、1000−2000℃の温度範囲で、かつ20−240分の時間範囲内で行う。第二の焼結プロセスの間に、この組成物を、1000−1600℃の温度範囲にある空気中において、1−20分にわたり加熱する。
【0015】
さらに、本開示を以下の非限定的な実施例により説明する。
【実施例】
【0016】
モリブデン、ケイ素及びクロムの粉末の混合物を作製し、アルゴン雰囲気で加熱して、MoSi
2及びMo
0.85Cr
0.15Si
2をそれぞれ形成した。反応生成物を粉砕して、5μmの平均粒径にした。引き続き、ケイ化物粉末を、5wt%のベントナイト(BYKから購入したBentolite−L)及び水と混合し、Mo
0.85Cr
0.15Si
2の場合には、0.02、0.035、0.05、0.1又は0.2wt%のAl
2O
3(Sumitomoから購入したAKP−30)を添加して、押出成形用のペーストを形成した。
【0017】
得られた組成物を押出成形して、直径9mmの棒にして、引き続き、これを、水素中で1時間にわたり1375℃で乾燥及び予備焼結した。最終的な焼結(5分にわたる空気中での1500℃への抵抗加熱)を実施して、完全密度を達成した。
【0018】
各組成物の試料を研削して、最終的な焼結の間に形成されたSiO
2保護スケールを除去した。潜在的酸化生成物を集め、かつこれらを重量測定において含めるために、試料を個別にアルミナ試料ホルダに置いた。FeCrAl発熱体を用いて450℃に加熱され、かつセラミックファイバー絶縁体と併用された電気炉内に、これらの試料を置いた。試料及びホルダを秤量して、暴露時間に応じた個別の重量の変化を監視した。
【0019】
試験結果は、
図1に示されている。ペスト酸化はたいてい、炉が長時間、例えばおよそ1000時間稼動した後に生じる。良好とみなされる発熱体は、不要な酸化物の成長速度が遅く、そのため、発熱体の重量変化が少ないはずである。重量変化が大きいほど、より厚い酸化物が形成され、発熱体の欠陥のリスクが高まる。
図1から分かるように、線の傾きが大きいほど、酸化物の成長速度が速く、発熱体がより速く消費される。