(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
症状を処置する薬物の製造のための、請求項1の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用であって、前記症状は、皮膚炎症、乾癬、アトピー性皮膚炎、臓器、組織、または細胞移植に関連した炎症、肺炎症、喘息、および慢性閉塞性肺疾患を含む、急性および慢性の炎症、敗血症、糖尿病、糖尿病関連合併症、腎不全、糖尿病に関連した高脂血症性アテローム性動脈硬化症、神経細胞傷害、再狭窄、ダウン症候群、頭部外傷に関連した認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、アミロイドーシス、自己免疫疾患、創傷治癒、歯周病、神経障害、神経変性、血管透過性、腎障害、アテローム性動脈硬化症、網膜障害、勃起不全、腫瘍の浸潤、転移、ならびに骨粗鬆症からなる群から選択される、使用。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、式(I)の化合物:
【化2】
式(I)
または医薬的に許容されるその塩を提供する。別の実施形態では、本発明は、式(I)の化合物の塩酸塩を提供する。別の実施形態では、本発明は、式(I)の化合物の二塩酸塩を提供する。
【0014】
本発明の別の実施形態は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物を含む。
【0015】
本発明の一実施形態は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象に投与するステップを含む、RAGE介在性疾患を処置する方法を含む。
【0016】
本発明は、また、薬物製造における、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用を提供する。本発明は、また、以下に列記する症状の1つまたは複数を処置するための薬物の製造における、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用を提供する。別の実施形態は、RAGE介在性疾患を処置するための薬物の製造に、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を使用することを含む。さらなる実施形態は、RAGE介在性疾患の処置で使用するための、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む。一実施形態では、疾患はアルツハイマー病である。一実施形態では、このような処置は、アルツハイマー病の症状を和らげる。別の実施形態では、このような処置は、軽度から中程度のアルツハイマー病に罹患している対象の認知能力を改善する。
【0017】
用語「医薬的に許容される塩」は、本明細書で使用する場合、式(I)の化合物の無毒性の塩を指し、これは、概して、遊離塩基を適切な有機酸もしくは無機酸と反応させることにより、または、酸を適切な有機塩基もしくは無機塩基と反応させることにより調製される。代表的な塩としては、以下の塩:酢酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、重酒石酸塩、ホウ酸塩、臭化物、カルシウムエデト酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、塩化物、クラブラン酸塩、クエン酸塩、二塩酸塩、エデト塩、エジシル酸塩、エストレート塩、エシレート塩、フマル酸塩、グルセプテート塩、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリコリルアルサニル酸塩、ヘキシルレゾルシン酸塩、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヒドロキシナフトエ酸塩、沃化物、イソチオン酸塩、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、臭化メチル塩、硝酸メチル塩、硫酸メチル塩、マレイン酸一カリウム塩、ムカート、ナプシル酸塩、硝酸塩、N−メチルグルカミン塩、シュウ酸塩、パモ酸(エンボン酸)塩、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ポリガラクツロン酸塩、カリウム塩、サリチル酸塩、ナトリウム塩、ステアリン酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクル酸塩、トシル酸塩、トリエチオジド、トリメチルアンモニウム塩および吉草酸塩が挙げられる。酸性置換基、例えば−COOHなどが存在する場合、剤形として使用するために、アンモニウム塩、モルホリニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、バリウム塩、カルシウム塩などが形成され得る。アミノなどの塩基性基またはピリジルなどの塩基性ヘテロアリールラジカルが存在する場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、ピルビン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、安息香酸塩、桂皮酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ピクリン酸塩等の酸性塩が生成され得、該酸性塩は、Journal of Pharmaceutical Science, vol.
66, (1977) p. 1-19に記載の医薬的に許容される塩に関連した酸を含む。
【0018】
特に明記しない限り、本明細書に描く構造には、また、1つまたは複数の同位体濃縮原子の存在においてのみ異なる化合物も含まれることが意図される。例えば、重水素または三重水素による水素原子の置換、または、
13C−もしくは
14C−濃縮炭素による炭素原子の置換以外は本発明の構造を有する化合物は、本発明の範囲内である。
【0019】
式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩の、RAGEとその生理学的リガンドとの相互作用を阻害する能力は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を用いて、下記の実施例セクションに記載するのに似たアッセイを使用して立証された。さらに、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を調製するために使用される中間体も、RAGEとその生理学的リガンドとの相互作用を阻害するのに有用であり得る。
【0020】
本発明は、さらに、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩と、医薬的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。用語「医薬組成物」は、本明細書では、慣習的な無害の担体、希釈剤、アジュバント、溶媒等を含有する単位投薬量製剤において、例えば、経口的に、局所的に、非経口的に、吸入スプレーにより、または直腸的に哺乳動物宿主に投与することができる組成物を意味するために使用する。用語「非経口的な」は、本明細書で使用する場合、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、嚢内注射、または注入技法によるものが含まれる。
【0021】
本発明の化合物を含有する医薬組成物は、例えば、錠剤、トローチ、薬用ドロップ、水性もしくは油性の懸濁液、分散性の散剤もしくは顆粒剤、乳濁液、硬カプセル、軟カプセル、またはシロップもしくはエリキシルとして、経口使用に適した形態であり得る。経口使用向けに企図された組成物は、既知の任意の方法によって調製され得、そのような組成物は、医薬的に洗練され、味のよい製剤を提供するために、甘味剤、香味剤、着色剤、および保存剤からなる群より選択される1つまたは複数の薬剤を含有してよい。錠剤は、錠剤の製造に適した無害の医薬的に許容される賦形剤との混合物中に、有効成分を含有し得る。これらの賦形剤は、不活性希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム;造粒剤および崩壊剤、例えば、トウモロコシデンプンまたはアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン、またはアカシア;ならびに、潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクとすることができる。錠剤は、コーティングしてもよいし、胃腸管における分解および吸収を遅らせ、それにより持続作用をより長期間にわたり提供するために、既知の技法によってコーティングしてもよい。例えば、グリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートのような遅延物質を利用することができる。
【0022】
経口使用のための製剤は、また、不活性な固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリンと有効成分が混合された硬ゼラチンカプセルとして、または、水もしくは油性媒体、例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油と有効成分が混合された軟ゼラチンカプセルとして提示することができる。
【0023】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物中に、活性化合物を含有し得る。そのような賦形剤は、懸濁剤、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントガム、およびアラビアガムであり;分散剤または湿潤剤は、レシチンなどの天然のホスファチド、またはポリオキシエチレンステアレートなどの、酸化アルキレンと脂肪酸の縮合物、またはヘプタデカエチル−エネオキシセタノールなどの、酸化エチレンと長鎖脂肪族アルコールの縮合物、またはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの、酸化エチレンと脂肪酸およびヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合物、またはポリエチレンソルビタンモノオレエートなどの、酸化エチレンと脂肪酸および無水ヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合物とすることができる。水性懸濁液は、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香味剤、およびショ糖またはサッカリンなどの1つまたは複数の甘味剤も含有してよい。
【0024】
油性懸濁液は、有効成分を植物油、例えば、ヒマシ油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはヤシ油に、または流動パラフィンなどの鉱油に懸濁させることによって製剤化することができる。油性懸濁液は、濃化剤、例えば、ミツロウ、固形パラフィン、またはセチルアルコールを含有してよい。味のよい経口調製物を提供するために、上記のような甘味剤および香味剤を加えてよい。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加によって保存することができる。
【0025】
水の添加による水性懸濁液の調製に適した分散性の散剤および顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤、および1つまたは複数の防腐剤との混合物中で、活性化合物を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤は、すでに上記で言及したものによって例示される。追加の賦形剤、例えば、甘味剤、香味剤、および着色剤も存在してよい。
【0026】
本発明の医薬組成物はまた、水中油型乳濁液の形態とすることもできる。油相は、植物油、例えば、オリーブ油もしくはヒマシ油、または鉱油、例えば、流動パラフィン、またはこれらの混合物とすることができる。適切な乳化剤は、アラビアゴムまたはトラガカントゴムなどの天然に存在するゴム、ダイズ、レシチンなどの天然に存在するホスファチド、およびソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトール無水物より誘導されるエステルまたは部分エステル、およびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの前記部分エステルと酸化エチレンの縮合物とすることができる。乳濁液は、甘味剤と香味剤も含有してよい。
【0027】
シロップとエリキシルは、甘味剤、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、またはショ糖とともに製剤化することができる。そのような製剤は、また、粘滑剤、保存剤、香味剤、および着色剤も含有してよい。医薬組成物は、水性または油性の滅菌注射用懸濁液の形態とすることができる。この懸濁液は、上記の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して、既知の方法に従って製剤化することができる。滅菌注射用製剤は、また、非経口的に許容される無毒性の希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液、例えば、1,3−ブタンジオール溶液とすることもできる。利用することができる許容される媒体および溶媒としては、水、リンゲル溶液、および生理食塩液がある。さらに、無菌の不揮発性油剤が溶媒または懸濁媒体として便利に利用される。この目的で、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを使用して、任意の低刺激性不揮発性油を利用することができる。さらに、注射用製剤において、オレイン酸などの脂肪酸も用途がある。
【0028】
本組成物はまた、本発明の化合物を直腸投与するための坐剤の形態とすることもできる。これらの組成物は、常温では固体であるが直腸温度では液体なり、したがって直腸で溶けて薬物を放出する、適切な非刺激性賦形剤と薬物を混合することによって調製することが可能である。このような材料には、例えば、ココア脂とポリエチレングリコールが含まれる。
【0029】
局所使用のために、本発明の化合物を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液または懸濁液、ローション、眼軟膏および点眼剤または点耳剤、浸透性の包帯ならびにエアロゾル等が考えられる。これらの局所製剤は、防腐剤、薬物浸透を促進する溶媒、ならびに軟膏およびクリーム中の皮膚軟化剤などの、適切な慣習的添加剤を含有してよい。この製剤は、クリームまたは軟膏基剤およびローション用のエタノールまたはオレイルアルコールなどの、適合可能な慣習的担体も含有してよい。このような担体は、製剤の約0.1%〜約99%として存在してよい。より一般的には、担体は、製剤の最大約80%を形成しよう。この適用目的のため、局所適用剤には、洗口剤とうがい薬が含まれる。
【0030】
本発明の化合物は、また、標的可能薬物担体として、可溶性ポリマーに結合させることができる。そのようなポリマーには、ポリビニルピロリドン、ピラン共重合体、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド−フェノール、ポリヒドロキシエチルアスパルタミドフェノール、またはパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシドポリリジンが含まれ得る。さらに、本発明の化合物は、薬物の制御放出を達成するのに有用な生分解性ポリマーの一群、例えば、ポリ乳酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、およびヒドロゲルの架橋または両親媒性のブロックコポリマーに結合させることができる。
【0031】
吸入による投与では、本発明による化合物は、簡便には、適切な噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ヘプタフルオロプロパン、二酸化炭素、または他の適切なガスを使用して、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示の形態で送達される。加圧エアロゾルの場合、投与量単位は、目盛り量を送達するバルブを提供することによって決定することができる。吸入器または注入器で使用するための、ゼラチンなどのカプセルおよびカートリッジは、本発明の化合物と乳糖またはデンプンなどの適切な粉末基剤との粉末混合物を含有して製剤化することができる。
【0032】
RAGEとその生理学的リガンドとの相互作用に拮抗する化合物は、RAGE受容体の阻害に応答し得る疾患または症状を処置するのに潜在的に有用である。
【0033】
本発明は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象に投与するステップを含む、処置方法を提供する。本実施形態の一実施形態では、本発明は、RAGEとその生理学的リガンドとの相互作用を阻害する方法を提供する。本実施形態の別の実施形態において、本発明は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、乾癬、アトピー性皮膚炎などの皮膚炎症、臓器、組織、または細胞移植に関連した炎症、および喘息および慢性閉塞性肺疾患が含まれる肺炎症が含まれる急性および慢性の炎症、敗血症、糖尿病、糖尿病関連合併症、腎不全、糖尿病に関連した高脂血症性アテローム性動脈硬化症、神経細胞傷害、再狭窄、ダウン症候群、頭部外傷に関連した認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、アミロイドーシス、自己免疫疾患、創傷治癒、歯周病、神経障害、神経変性、血管透過性、腎障害、アテローム性動脈硬化症、網膜障害、アルツハイマー病、勃起不全、腫瘍の浸潤および/または転移、ならびに骨粗鬆症からなる群より選択される疾患を処置する方法を提供する。
【0034】
別の実施形態では、対象は糖尿病に罹患している。別の実施形態では、対象は、I型糖尿病(T1D)に罹患している。別の実施形態では、対象は、II型糖尿病(T2D)に罹患している。
【0035】
上記で述べたように、本発明の化合物は、糖尿病の合併症の処置において有用であり得る。腎不全では、高血糖症および全身または局所的な酸化ストレスに関連した他の症状の存在時に、炎症部位において、終末糖化産物(AGE)の形成を最終的に引き起こす巨大分子の非酵素的糖酸化反応が高まることが示されている(Dyer, D., et al., J. Clin. Invest., 91: 2463-2469 (1993); Reddy, S et al., Biochem., 34: 10872-10878 (1995); Dyer, D et al., J. Biol. Chem., 266:11654-11660 (1991); Degenhardt, T., et al., Cell Mol. Biol., 44:1139-1145 (1998))。脈管構造におけるAGEの蓄積は、透析関連アミロイドーシスの患者で、AGE−β2−ミクログロブリンからなるアミロイドが関節に見出されるように局部的にも(Miyata, T., et al., J. Clin. Invest., 92: 1243-1252 (1993); Miyata, T., et al., J. Clin. Invest., 98:1088-1094 (1996))、糖尿病患者の脈管構造および組織によって例示されるように全身的にも(Schmidt, A-M., et al., Nature Med., 1:1002-1004 (1995))、起こり得る。糖尿病患者におけるAGEの経時的な進行性の蓄積は、AGE沈着部位で、内因性のクリアランス機序が有効に機能し得ないことを示唆する。このように蓄積したAGEには、細胞の特性をいくつかの機序によって改変させる能力がある。正常な組織および脈管構造ではRAGEが低レベルで発現しているが、その受容体のリガンドが蓄積される環境では、RAGEが上方制御されるようになることが示されている(Li, J. et al., J. Biol. Chem., 272: 16498-16506 (1997); Li, J., et al., J. Biol. Chem., 273, 30870-30878 (1998); Tanaka, N., et al., J. Biol. Chem. 275:25781-25790(2000))。糖尿病患者の脈管構造の内皮、平滑筋細胞、および浸潤単核食細胞では、RAGEの発現が増加する。また、細胞培養における諸研究により、AGE−RAGEの相互作用が、血管構造のホメオスタシスにおいて重要な細胞特性に、変化を引き起こすことが証明されている。
【0036】
また、上記で述べたように、本発明の化合物は、アミロイドーシスおよび/またはアルツハイマー病を処置するのに有用であり得る。RAGEは、βシートの原線維物質へ、そのサブユニットの組成(アミロイド−βペプチド、Aβ、アミリン、血清アミロイドA、プリオン由来ペプチド)に関わらず結合する細胞表面受容体であるようである(Yan, S. -D., et al., Nature, 382:685-691 (1996); Yan, S-D., et al., Nat. Med., 6:643-651 (2000))。アミロイドの沈着は、RAGE発現の亢進を生じさせることが示されている。例えば、アルツハイマー病(AD)患者の脳では、神経細胞と膠細胞においてRAGEの発現が増加する(Yan, S. -D., et al., Nature 382:685-691 (1996))。RAGEとAβの相互作用の結果は、神経細胞と膠細胞で全く異なるようである。Aβ−RAGE相互作用の結果として、サイトカインの運動性および発現の増加に反映されるように、小膠細胞が活性化される一方で、初期のRAGE媒介性神経細胞活性化は、後の細胞傷害によって相殺される。Aβの細胞相互作用におけるRAGEの役割についてのさらなる証拠は、受容体が遮断された際に、Aβ誘発性脳血管収縮と、脳血管関門を通過するペプチドの脳実質への移動が阻害されることに関連する(Kumar, S., et al., Neurosci. Program, p141 (2000))。RAGE−アミロイド相互作用の阻害が、細胞性RAGEと細胞ストレスマーカーの発現(ならびに、NF−κB活性化)を減少させ、アミロイド沈着を減衰させることが示されているが(Yan, S-D., et al., Nat. Med., 6:643-651 (2000))、これは、RAGE−アミロイド相互作用が、アミロイドが濃縮された環境(初期段階であっても)とアミロイド蓄積の両方において、細胞特性の混乱の一因となることを示唆する。
【0037】
アルツハイマー病のマウスモデルを使用する他の研究では、RAGEアンタゴニストはプラークの形成と認知欠失を逆転させる可能性があることが示されている。米国特許出願公開第2005/0026811号明細書では、低分子RAGEアンタゴニストを使用して、アルツハイマー病のマウスにおいてAβ沈着の進行を阻害し、既存のプラーク量を減少させた(米国特許出願公開第2005/0026811号明細書、581−590頁)。
【0038】
また、細胞アッセイと動物研究の両方で、血液脳関門(BBB)を通る循環性Aβの経細胞輸送をRAGEが媒介することが示されている。このようなAβの経細胞輸送の増加は、神経細胞の酸化ストレスと持続的な脳血流量の低下を引き起こす。RAGEの影響は、RAGEモジュレーター(例えば、抗RAGE抗体またはsRAGE)によって阻害することが可能である(例えば、Mackic et al., J. Clin. Invest., 102: 734-743 (1998)を参照;また、Kumar et al., Neurosci., Program, p 141 (2000)を参照)。これらの知見は、追加の研究によって確認された(例えば、米国特許第6,825,164号明細書、17カラム48行〜18カラム43行;Deane et al., Nature Medicine, 9:907-913 (2003)を参照)。脳潅流の低下は、Aβと相乗的に作用し得る虚血性病変を促進して、認知症を悪化させる可能性がある。また、不十分な脳血流量は、脳血液関門を通るAβ輸送を変化させて、それによりAβクリアランスを低下させ、Aβの脳内蓄積を促進する場合がある(Girouard and Iadecola, J. Appl. Physiol., 100, 328-335 (2006)の332頁を参照)。従って、RAGEアンタゴニストによって促進される脳血流の増加は、アルツハイマー病の諸症状を抑えるかまたはその発症の開始を遅らせる、またはその両方の可能性がある。例えば、RAGEアンタゴニストは、アルツハイマー型認知症に罹患している対象の認知能力の欠失を遅らせるかもしくは緩やかにする、または認知能力を改善する、またはその両方の可能性がある。
【0039】
上記で述べたように、本発明の化合物は、炎症を処置するのに有用であり得る。例えば、S100/カルグラニュリンは、接続ペプチドによって連結した2つのEFハンド領域を特徴とする、近縁のカルシウム結合ポリペプチドのファミリーを含むことが示されている(Schafer, B. et al., TIBS, 21:134-140 (1996); Zimmer, D., et al., Brain Res. Bull., 37: 417-429 (1995); Rammes, A., et al., J. Biol. Chem., 272: 9496-9502 (1997); Lugering, N., et al., Eur. J. Chem. Invest., 25:659-664 (1995))。S100/カルグラニュリンはシグナルペプチドを欠くが、特に、嚢胞性線維症や関節リウマチのような慢性免疫/炎症反応部位で、細胞外間隙へ接近することが長く知られている。RAGEは、S100/カルグラニュリンファミリーの多くのメンバーの受容体であって、リンパ細胞や単核食細胞などの細胞に対する炎症誘発効果を媒介する。また、遅延型過敏反応、IL−10ヌルマウスの大腸炎、コラーゲン誘導性関節炎、および実験自己免疫脳炎のモデルに関する諸研究は、RAGE−リガンド相互作用(おそらくS100/カルグラニュリンとの)が、限定するわけではないが、関節リウマチや多発性硬化症などの炎症性疾患に関係するような炎症カスケードにおいて、中心に近い役割を担うことを示唆する。
【0040】
RAGEは、また、限定するわけではないが、アトピー性皮膚炎、湿疹、および乾癬などの炎症性皮膚疾患にも関係している。特に、乾癬は、炎症性の痒い病変を特徴とする。乾癬は、関節リウマチにおいて見られるものに類似した関節症性症状を伴う場合がある。乾癬を多遺伝子性の自己免疫障害であるとするかなりの証拠がある。乾癬の病変には、サイトカイン、特にIL−1とIL−8が豊富であり、そのいずれも強力な炎症誘発性メディエーターである。特に、IL−8は、好中球の走化性因子であり;好中球はまた、S100タンパク質、つまり免疫および炎症反応の伝播に関係するRAGEのリガンドの1つを合成し、分泌することが知られている。プソリアシン(S100A7)は、S100遺伝子ファミリーの新たなメンバーであり、乾癬性の皮膚より単離された分泌タンパク質である。Semprini et al. (Hum. Genet. 2002 Oct, 111(4-5), 310-3)は、乾癬の遺伝的感受性と、皮膚におけるS100タンパク質の顕著な過剰発現との繋がりを示した。そのため、RAGEのモジュレーターが乾癬の免疫応答を制御することが期待される。
【0041】
上記で述べたように、本発明の化合物は、腫瘍と腫瘍転移を処置するのに有用であり得る。例えば、アムホテリシンは、RAGEと相互作用することが示されている、高泳動群Iの非ヒストン染色体DNA結合タンパク質である(Rauvala, H., et al., J. Biol. Chem., 262: 16625-16635 (1987); Parkikinen, J., et al., J. Biol. Chem. 268:19726-19738 (1993))。アムホテリシンは、線溶系のプロテアーゼ複合体アセンブリの表面として機能するだけでなく、神経突起伸長を促進することが示されている(細胞可動性に貢献することも知られている)。さらに、原発腫瘍モデル(C6神経膠腫)、ルイス肺癌転移モデル(Taguchi, A., et al., Nature 405:354-360 (2000))、およびv−Ha−ras導入遺伝子を発現するマウスにおいて自然発生する乳頭腫(Leder, A., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 87:9178-9182 (1990))では、RAGEを遮断するという局所的な腫瘍増殖阻害効果が観測されている。
【0042】
気道炎症は、喘息の発病において重要である。このような炎症は、喘息状態の減退の主要因子であるだけでなく、喘息の重症度の有意な増悪および増加をもたらす場合がある。喘息の重篤な増悪では、好中球および好酸球の蓄積および活性化を伴う、強くて機序的に不均一な炎症反応がある。好中球は、S100タンパク質、つまり、免疫応答および炎症の伝播に関係するRAGEの主要なリガンドの重要な供給源である。そのため、RAGEのモジュレーターは、喘息の処置において治療価値を保有することが期待される。さらに、S100−RAGE相互作用によって推進される、肺における免疫応答の伝播ステップは、肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患において傷害性プロテアーゼの重要な供給源である、好中球などの炎症性細胞の活性化および/または動員をもたらすと予測される。そのため、RAGEモジュレーターは、慢性閉塞性肺疾患の処置において潜在能力を有することが期待される。
【0043】
本明細書に使用する場合、句「治療的に有効な量」は、求められている対象の治療反応を引き起こす薬物または薬剤の量を意味するものとする。
【0044】
これらの方法において、治療的に有効な量を構成するものに影響を及ぼし得る因子としては、限定するわけではないが、対象のサイズおよび体重、治療薬の生分解性、治療薬の活性、奏効領域のサイズ、ならびにそのバイオアベイラビリティが挙げられる。この句には、そのような量を受けていない対応する対象と比較した場合に、処置の改善、治癒、もしくは副作用の改善、または疾患もしくは障害の進行速度の低下をもたらす量が含まれる。
【0045】
別の実施形態において、本発明は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、再狭窄を処置する方法を提供する。
【0046】
ある実施形態において、本発明は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、急性または慢性炎症を処置する方法を提供する。
【0047】
ある実施形態において、本発明は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、頭部外傷に関連した認知症を治療する方法を提供する。ある実施形態では、対象の認知能力が改善される。別の実施形態では、対象の認知能力は維持される。別の実施形態では、対象の認知能力の喪失速度が緩やかになる。
【0048】
ある実施形態において、本発明は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、アルツハイマー病を処置する方法を提供する。アルツハイマー病に関して、本発明は、根底にある認知症プロセスの経過を変えるのに有用であると考えられる。アルツハイマー病は、NINCDSおよびDSM判定基準、ミニメンタルステート検査および臨床的認知症尺度によって、特定の限度内で診断され得る。本発明の一実施形態には、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を投与するステップを含む、認知パフォーマンスを改善することが含まれる。認知能力は、当該技術分野で既知であるアルツハイマー病評価尺度(ADAS−cog)(これは、認知機能を0〜70の尺度でスコア化して、スコアが高いほど認知障害が大きいことを示す)の認知サブスケールで評価することができる。従って、スコアの低下は認知改善を実証する。本発明の一実施形態には、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与して、ADAS−cogスコアを低下させることを必要とする対象の、ADAS−cogスコアを低下させることが含まれる。そのような対象は、アルツハイマー型認知症、軽度〜中等度のアルツハイマー病、または重篤なアルツハイマー病に罹患しているヒトであり得る。
【0049】
さらに、アルツハイマー病の進行は、また、ヒトにおいて、4つの機能領域:全般、認知、行動、および日常生活の動作の検査を通して評価することもできる。そのような評価は、Clinician's Interview Based Impression of Change(CIBICまたはCIBICプラス)を使用して実施することができる。本発明の一実施形態には、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を投与するステップを含む、対象の機能の改善が含まれる。一実施形態において、対象の機能とは、全般、認知、行動、および日常生活の動作の1つまたは複数である。
【0050】
別の実施形態において、本発明は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象に投与するステップを含む、1型または2型糖尿病の発症を遅らせる方法を提供する。該方法は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、1型糖尿病の発症前または2型糖尿病の発症前に投与するステップを含み得る。
【0051】
別の実施形態では、本発明は、膵臓の機能を保護するように、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象に投与するステップを含む、1型または2型糖尿病の発症を遅らせる方法を提供する。膵臓の機能には、インシュリンを分泌するβ細胞の能力の保護が含まれ得る。前記方法は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、1型糖尿病の発症前または2型糖尿病の発症前に投与するステップを含み得る。
【0052】
ある実施形態では、本発明は、対象における創傷治癒の速度を未処置の創傷に比べて改善するように、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、糖尿病対象における創傷治癒を改善する方法を提供する。
【0053】
ある実施形態において、本発明は、対象の炎症を低減するように、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、臓器、組織、または複数の細胞の第一部位から第二部位への移植に関連する炎症を、対象において処置するための方法を提供する。ある実施形態において、第一部位と第二部位は、異なる対象にある。別の実施形態では、第一部位と第二部位は、同じ対象にある。別の実施形態において、移植される臓器、細胞、または組織には、膵臓、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、骨髄、血液、骨、筋肉、動脈、静脈、軟骨、甲状腺、神経系の細胞もしくは組織、または幹細胞が含まれる。
【0054】
ある実施形態において、本発明は、対象の腎障害を低減するように、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を対象へ投与するステップを含む、T1Dに罹患している対象の腎障害を低減する方法を提供する。
【0055】
別の実施形態では、少なくとも1つの式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、単独で、または1つもしくは複数の既知の治療薬と組み合わせて利用する。
【0056】
本明細書で使用する場合、句「対象」は、前記の疾患または病態の1つまたは複数に罹患しているかまたはそうした危険にさらされている哺乳動物対象を指し、一実施形態群では、ヒトを指す。
【0057】
本発明のさらなる実施形態において、本発明のRAGE阻害剤は、アジュバント治療処置において、または他の既知の治療薬との組合せ治療処置において使用することができる。
【0058】
以下は、本発明のRAGE阻害剤と組み合わせて利用することができるアジュバントおよび追加治療薬の非包括的リストである:
【0059】
抗がん剤の薬理学的分類:
1.アルキル化剤:シクロホスファミド、ニトロソ尿素、カルボプラチン、シスプラチン、プロカルバジン
2.抗生物質:ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン
3.代謝拮抗薬:メトトレキセート、シタラビン、フルオロウラシル
4.植物アルカロイド:ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、パクリタキセル
5.ホルモン剤:タモキシフェン、酢酸オクトレオチド、フィナステリド、フルタミド
6.生物学的応答調節剤:インターフェロン、インターロイキン、抗腫瘍抗体。
【0060】
関節リウマチ(炎症)処置の薬理学的分類
1.鎮痛剤:アスピリン
2.NSAID(非ステロイド性抗炎症薬):イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク
3.DMARD(疾患修飾性抗リウマチ薬):メトトレキセート、金製剤、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン
4.生物学的応答調節剤、DMARD:エタネルセプト、インフリキシマブ、グルココルチコイド。
【0061】
糖尿病処置の薬理学的分類
1.スルホニル尿素:トルブタミド、トラザミド、グリブリド、グリピジド
2.ビグアニド:メトホルミン
3.種々の経口剤:アカルボース、トログリタゾン
4.インスリン
【0062】
アルツハイマー病処置の薬理学的分類
1.コリンエステラーゼ阻害剤:タクリン、ドネペジル
2.抗精神病薬:ハロペリドール、チオリダジン
3.抗うつ剤:デシプラミン、フルオキセチン、トラゾドン、パロキセチン
4.抗痙攣薬:カルバマゼピン、バルプロ酸
5.NMDA受容体アンタゴニスト:メマンチン
【0063】
さらなる実施形態において、本発明は、RAGE媒介性疾患を処置する方法を提供し、該方法は、治療的に有効な量の式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、アルキル化剤、代謝拮抗薬、植物アルカロイド、抗生物質、ホルモン剤、生物学的応答調節剤、鎮痛薬、NSAID、DMARD、グルココルチコイド、スルホニル尿素、ビグアニド、インスリン、コリンエステラーゼ阻害剤、抗精神病薬、抗うつ薬、抗痙攣薬、およびNMDA受容体アンタゴニストからなる群より選択される治療薬と組み合わせて対象へ投与するステップを含む。
【0064】
さらなる実施形態において、本発明は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、植物アルカロイド、抗生物質、ホルモン剤、生物学的応答調節剤、鎮痛薬、NSAID、DMARD、グルココルチコイド、スルホニル尿素、ビグアニド、インスリン、コリンエステラーゼ阻害剤、抗精神病薬、抗うつ薬、抗痙攣薬、およびNMDA受容体アンタゴニストからなる群より選択される1つまたは複数の治療薬をさらに含む、上記の本発明の医薬組成物を提供する。
【0065】
このような他の治療薬は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩と同様の経路または異なる経路によって投与してよい。式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、別の治療薬と組み合わせて使用する場合、組成物は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、その他の治療薬と組み合わせて含有し得る。あるいは、別個の投与製剤を使用する場合、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩と、1つまたは複数の追加の治療薬は、本質的に同じ時期(例えば、同時に)または別々にずらした時期に(例えば、連続的に)投与してよい。
【0066】
一般的に言って、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、約0.003〜500mg/処置する対象の体重1kgという投与量レベルで投与することができる。ある実施形態では、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、1日あたり約0.003mg〜200mg/体重1kgの投与量範囲で投与することができる。ある実施形態では、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を、1日あたり約0.1〜100mg/体重1kgまたは1日あたり約0.05〜2mg/体重1kgの投与量範囲で投与することができる。担体材料と組み合わさって単回投薬量を生成し得る有効成分の量は、処置される宿主と特定の投与形式に応じて変動し得る。例えば、ヒトへの経口投与を意図した製剤は、全組成物の約5〜95パーセントで変動し得る適正で簡便な量の担体材料とともに1mg〜2グラムの式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を含有し得る。皮膚への局所投与を意図した剤形は、0.1%〜99%という化合物と局所賦形剤の比で調製することができる。吸入投与を意図した剤形は、化合物の吸入投与量を送達するのに適した担体に0.01〜200mgの化合物である。全身に送達される化合物の単位剤形は、概して、約5mg〜約500mgの有効成分か、または、約1mg〜約500mgの有効成分を含有し得る。この投与量は、処置する対象の具体的な病態に基づいて臨床医が個別化することができる。このように、任意の特定の対象の具体的な投与量レベルは、利用する具体的な化合物の活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排出速度、薬物組合せ、奏功領域のサイズ、および治療を受ける特定の疾患の重症度を含む、種々の要因に左右されることが理解されよう。
【0067】
本発明の化合物は、実施例において以下で説明する方法を含む、当業者に周知の種々の方法によって作製することができる。
【0068】
別の実施形態において、本発明は、また、本発明の化合物の調製方法とともに、本発明の化合物の調製における中間体として有用な化合物の合成方法も提供する。
【0069】
ある実施形態を参照して本発明について記載し、例示しているが、本発明はまた、上記の実施形態のいずれかに記載される要素の任意の組合せまたはサブセットを使用し得る他の実施形態も提供する。
【実施例】
【0070】
Mux−UV2488マルチチャネルUV−Vis検出器(215nMと254nMで記録する)と、Sepax GP−C18、4.6x50mm;5ミクロン粒度カラムを使用するLeap Technologies HTS PAL Autoサンプラーとを装備し、4つのWaters1525バイナリHPLCポンプを駆動する、並列MUX(商標)システムでの勾配溶出を使用して、LC−MSデータを得る。概して、3分間の勾配を、25%のB(97.5%アセトニトリル、2.5%水、0.05%TFA)と75%のA(97.5%水、2.5%アセトニトリル、0.05%TFA)から100%のBまで行う。システムは、エレクトロスプレーイオン化を使用するWaters Micromass ZQ質量分析計に接続している。MassLynxソフトウェアを利用する。全てのMSデータを、特記しない限り、ポジティブモードで得た。報告するm/zデータは、概して、M+イオンに対し約±1以内で正確である。
【0071】
1H NMRデータは、Varian Mercury400MHz分光計で得て、化学シフトは、残留溶媒プロトンシグナル(たとえば、CDCl
3中残留CHCl
3)または内部参照としてのTMSシグナルのいずれかを使用して参照した。一部の実験ではマイクロ波加熱手順を使用し、この場合、高温での加圧ガラス反応容器の使用を含むDISCOVER(登録商標)マイクロ波合成システム(CEM,Matthews,NC,USA)を使用した。
【0072】
略語
本明細書で使用するいくつかの共通の略語の定義は、以下の通りである。本明細書は、また、その意味が関連する技術分野で周知である他の略語も利用する場合がある。
d=日
DCM=ジクロロメタン
DMAP=4−(ジメチルアミノ)−ピリジン
g=グラム
h=時間
Hz=ヘルツ
L=リットル
LC=液体クロマトグラフィー
LCMS,LC−MS=液体クロマトグラフィー−質量分光学
M=モル
m/z=質量/荷電比
mg=ミリグラム
min=分
mL=ミリリットル
mM=ミリモル
mmol=ミリモル
mol=モル
MS=質量分析法
N=規定
NMP=N−メチルピロリジノン
NMR=核磁気共鳴分光法
ppm=百万分率
rtまたはRT=室温
TFA=トリフルオロ酢酸
THF=テトラヒドロフラン
【0073】
一般的手順
以下の手順は、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を作製するのに有用な合成の実行についての指示を提供する。該手順は、本来、一般的なものである。ある溶媒の置換、スケールの調整などは、当業者の知識に従い、可能である。式(I)の化合物または中間体の合成に組み込まれた場合、一般的手順は、より小さいスケールまたはより大きいスケールに調整された可能性がある。
【0074】
手順A:アミド結合の減少
THF(1mL)中のアミド(1モル)の溶液とボラン−THFコンプレックス(1.44mmol)を、マイクロ波反応容器に入れた。反応物を、300ワットで、12分間、連続冷却なしで140℃まで加熱した。冷却後、10mLのメタノールを加えることにより反応物を急冷し、30分間撹拌した。溶媒を減圧下で蒸発させ、粗生成物をN,N−ジメチルエチルアミン(10mmol)と共に1時間撹拌した。減圧下でアミンを蒸発させた後、粗生成物を酢酸エチル(20mL)にとり、水(2X5mL)、鹹水(2X5mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した生成物を得た。粗生成物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0075】
手順B:スルホンアミドの合成
DCM(1mL)中のアミン(1mmol)の撹拌溶液に、トリエチルアミン(3mmol)、続いてスルホニルクロリド(1.2〜1.5mmol)をN
2雰囲気下で加えた。これに、触媒量のDMAP(0.1mmol)を加えた。結果として生じる反応物を室温で2時間撹拌した。反応混合物をDCM(10mL)で希釈し、水(2x5mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。粗スルホンアミドを、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0076】
手順C:BOC基の除去
DCM(1mL)中のカルバメート(1mmol)の撹拌溶液に、ジオキサン中の4N HCl(5mL)を加えた。反応物を室温で30分間撹拌した。溶媒を減圧下で取り除いた。残渣をエチルエーテルで粉末にし、沈殿固形物を濾過し、真空下で乾燥させた。
【0077】
手順D:アルデヒドまたはケトンの還元的アミノ化
DCM(5ml)中のアルデヒドまたはケトン(1mmol)とアミン(1.5mmol)の混合物を、室温で15分間撹拌した。これにNaBH(OAc)
3(5mmol)を1ロットで加え、反応混合物を、全てのカルボニル誘導体が消費されたとLCMSにより判断されるまで、撹拌した。反応混合物を、飽和NaHCO
3溶液(10ml)で急冷し、30分間撹拌した。有機層を分離させ、水層をDCM(5mL)で抽出した。混合有機層を鹹水(5mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。粗アミンをシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0078】
手順E:1−N−置換3,5−ジメチルピラゾールの合成
2.4−ペンタンジオン(83mmol)とアルキルまたはアリールヒドラジンヒドロクロリド(66.4mmol)の混合物を、80mlのマイクロ波反応容器中のエタノール(20mL)に入れた。この溶液にp−トルエンスルホン酸一水和物(3.32mmol)を加え、反応物をマイクロ波反応器において150℃で12分間、300ワットで、連続冷却なしで加熱した。溶媒を蒸発させ、残渣をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0079】
手順F:1−N−置換3,5−ジメチルピラゾールのクロルスルホン化
DCM(20mL)中のN−置換−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール(100mmol)の0〜5℃(氷槽)の撹拌溶液に、クロロスルホン酸(900mmol)をN
2雰囲気下で滴下した。冷槽を取り除いた。反応混合物を室温にし、次に、2時間90℃まで加熱した。室温まで冷却した後、反応物を注意深く300gの氷に注いだ(注意:クロロスルホン酸は水と激しく反応する)。混合物を酢酸エチルまたはDCM(2x200mL)で抽出した。混合有機層を水(50mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0080】
中間体の調製
式(I)の化合物またはその塩を作製する際、ある中間体化合物を合成することが有用であり得る。これらの中間体の合成手順を、例示のために排他的に提供する。当業者であれば理解するだろうが、以下の手順は、そのような中間体を作製する排他的手段ではありえない。
【0081】
中間体1:1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニルクロリド
ステップ1:1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾールを、シクロヘキシルヒドラジンヒドロクロリドおよび2,4−ペンタンジオンより、手順Eを使用して調製した。生成物を、シリカゲルにおいてヘキサン中の12%酢酸エチルを使用して精製した。
【0082】
ステップ2:1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾールより、手順Fを使用して、1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニルクロリド(中間体1)を調製した。生成物を、シリカゲルにおいてヘキサン中の10%酢酸エチルを使用して精製した。
【0083】
中間体2:4−ホルミル−N−イソブチル−N−(4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル)−ベンゼンスルホンアミドヒドロクロリド
ステップ1:4−イソブチルカルバモイル−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルを、1−tert−ブトキシカルボニル−4−フェニル−ピペリジン−4−カルボン酸およびイソブチルアミンより、手順Eに従って調製した。LCMS: m/z 362 [M + 2].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.37-7.41 (m, 4H), 7.27-7.36 (m, 1H), 5.20 (br t, 1H), 3.50 (m, 4H), 2.96 (t, 2H), 2.34 (m, 2H), 2.03 (br d, 2H), 1.58-1.71 (m, 1H), 1.44 (s, 9H), 0.72 (d, 6H) ppm.
【0084】
ステップ2:4−イソブチルカルバモイル−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルより、手順Aに従って、4−(イソブチルアミノ−メチル)−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルを調製した。LCMS: m/z 348 [M + 2].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.32-7.38 (m, 4H), 7.20-7.24 (m, 1H), 3.64 (br d, 2H), 3.10-3.17 (m, 2H), 2.65 (s, 2H), 2.05-2.23 (m, 4H), 1.78-1.84 (m, 2H), 1.55-1.62 (m, 1H), 0.1.44 (s, 9H), 0.72 (d, 6H) (NHヒドロゲンは見えない) ppm.
【0085】
ステップ3:4−(イソブチルアミノ−メチル)−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルおよび4−ホルミルベンゼンスルホニルクロリドより、手順Bに従って、4−{[(4−ホルミル−ベンゼンスルホニル)−イソブチル−アミノ]−メチル}−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルを調製した。LCMS: m/z 516 [M + 2].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 10.08 (s, 1H), 7.96-7.99 (m, 2H), 7.90-7.92 (m, 2H), 7.33-7.38 (m, 4H), 7.23-7.25 (m, 1H), 3.91 (br d, 2H), 3.44 (br d, 2H), 2.76-2.98 (m, 2H), 2.20-2.42 (m, 4H), 1.83 (br s, 2H), 0.1.44 (s, 9H), 1.31-1.38 (m, 1H), 0.29 (d, 6H) ppm.
【0086】
ステップ4:4−{[(4−ホルミル−ベンゼンスルホニル)−イソブチル−アミノ]−メチル}−4−フェニル−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルより、手順Cに従って、4−ホルミル−N−イソブチル−N−(4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル)−ベンゼンスルホンアミドヒドロクロリド(中間体2)を調製した。LCMS: m/z 416 [M + 2].
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 10.08 (s, 1H), 9.49 (br d, 2H), 7.94-8.00 (m, 4H), 7.36-7.40 (m, 4H), 7.28-7.32 (m, 1H), 3.71 (s, 2H), 3.45-3.52 (m, 1H), 2.92-2.97 (m, 2H), 2.55-2.58 (m, 2H), 2.26-2.36 (m, 4H), 2.06 (br s, 1H), 1.25-1.31 (m, 1H), 0.23 (d, 6H) ppm.
【0087】
N−[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−N−イソブチル−4−{[(ピペリジン−4−イルメチル)−アミノ]−メチル}−ベンゼンスルホンアミドジヒドロクロリドの合成
【化3】
【0088】
ステップ1:4−ホルミル−N−イソブチル−N−(4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル)−ベンゼンスルホンアミドヒドロクロリド(中間体2)および1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニルクロリド(中間体1)を使用し、手順Bを使用して、N−[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−4−ホルミル−N−イソブチル−ベンゼンスルホンアミドを調製することができる。この生成物は、シリカゲルにおいてヘキサン中の30%酢酸エチルを使用して精製することができる。
【0089】
ステップ2:N−[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−4−ホルミル−N−イソブチル−ベンゼンスルホンアミドおよび4−アミノメチルピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルより、手順Dを使用して、4−[(4−{[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−イソブチル−スルファモイル}−ベンジルアミノ)−メチル]−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルを調製することができる。この生成物は、シリカゲルにおいてDCM中の2%2N NH
3/MeOHを使用して精製することができる。
【0090】
ステップ3:4−[(4−{[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−イソブチル−スルファモイル}−ベンジルアミノ)−メチル]−ピペリジン−1−カルボン酸tert−ブチルエステルより、手順Cを使用して、標題の化合物(N−[1−(1−シクロヘキシル−3,5−ジメチル−1H−ピラゾール−4−スルホニル)−4−フェニル−ピペリジン−4−イルメチル]−N−イソブチル−4−{[(ピペリジン−4−イルメチル)−アミノ]−メチル}−ベンゼンスルホンアミドジヒドロクロリド)を調製することができる。この生成物を、エチルエーテルで粉末に、乾燥して、生成物を得ることができる。LCMS: m/z 754.7 [M + 2].
1HNMR (400 MHz, CD
3OD):δ 7.78 (d, 2H), 7.66 (d, 2H), 7.37-7.30 (m, 4H), 7.24-7.18 (m, 1H), 4.13 (s, 2H), 4.12-4.04 (m, 1H), 3.44- 3.39 (m, 6H), 3.04-2.97 (m, 2H), 2.82 (d, 2H), 2.68-2.61 (m, 2H), 2.44 (s, 3H), 2.34 (br d, 2H), 2.30 (s, 3H), 2.26 (d, 2H), 2.04-1.69 (m, 13H), 1.52-1.40 (m, 4H), 1.31-1.22 (m, 1H), 0.28 (d, 6H) (HCl陽イオンのプロトンは見えない) ppm.
【0091】
一般的な結合アッセイ
以下は、1つの可能性のあるスクリーニング方法である。100mMの重炭酸ナトリウム/炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.8)中のS100bまたはβ−アミロイド(500ng/100μL/ウェル)を、NUNC Maxisorp flat bottom 96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに充填する。プレートを4℃で一晩インキュベーションする。ウェルを吸引し、1%のウシ血清アルブミン(BSA)(300μL/ウェル)を含有する50mMのイミダゾール緩衝生理食塩水(pH7.2)(5mMのCaCl
2/MgCl
2を有する)を用いて、室温で1時間処理する。ウェルを吸引する。
【0092】
テスト化合物をナノピュア水(濃度:10−100μM)に溶解する。DMSOを共溶媒として使用することができる。4%DMSO中のテスト化合物溶液25μLを、75μLのsRAGE(6nM FAC)と共に各ウェルに加え、サンプルを37℃で1時間インキュベーションする。ウェルを155mMのNaCl pH7.2緩衝生理食塩水で数回洗浄し、各洗浄の間で数秒間浸漬させる。
【0093】
0.2%のウシ血清アルブミンと5mM CaCl
2を含有する5mLの50mMイミダゾール緩衝生理食塩水(pH7.2)に対して、10μLのビオチン標識ヤギF(ab’)2抗マウスIgG.(8.0x10−4mg/mL,FAC)、5μLのAlk−phos−ストレプトアビジン(3x10−3mg/mL FAC)、5mLにつき0.42μLのsRAGEに対するモノクローナル抗体(FAC6.0x10−3mg/mL)を加えることにより、非放射性検出を実施する。この混合物を室温で30分間インキュベーションする。
【0094】
各ウェルへ100μLの複合体を加えて、インキュベーションを室温で1時間進行させる。ウェルを洗浄緩衝液で数回洗浄して、各洗浄の間で数秒間浸漬させる。1Mジエタノールアミン(HClでpHを9.8へ調整)中の100μL 1mg/mL(pNPP)を加える。暗所において室温で30分〜1時間発色させる。10μLの停止溶液(50%エタノール中0.5〜1.0N NaOH)でこの反応を停止させ、マイクロプレートリーダーを405nmで用いて、吸光度を分光光学的に測定する。
【0095】
S100bまたはβ−アミロイドをRAGEリガンドとして利用して、上記に記載のものに類似した手順を使用するアッセイで塩酸塩である式(I)の化合物をスクリーニングし、式(I)の化合物が以下に示すIC50濃度を持つことを発見した。アッセイでのIC50(μM)値は、50%のシグナルが阻害された際の化合物濃度を表す。
【0096】
【表1】
【0097】
機能性アッセイ
以前より、文献が、THP−1細胞がRAGEリガンドに応答してTNFαを分泌することについて言及してきた(Yeh C-H, et al. Diabetes. Vol. 50, June 2001, pp.1495-1504)。以下のアッセイ法を使用して、RAGEシグナリングのアンタゴニストとして有用である、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩を特定することができる。
【0098】
骨髄細胞株、THP−1(ATTC#TIB−202)を、ウシ胎児血清(最終体積濃度が10%になるまで補充)とペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco,Cat#.15140−122)とを補充したRPMI−1640培地(ATCC,Cat#30−2001)において培養する。あるいは、1.5g/Lの重炭酸ナトリウム(Gibco#25080−094)、4.5g/Lグルコース、10mMのHEPES(Cellgro#25−060−L1)および1.0mMのピルビン酸ナトリウム(Gibco#11360−070)を含有するように調節した2mM L−グルタミン(Gibco#12381−018)を補充し、0.05mMの2−メルカプトエタノール、90%ウシ胎児血清、ATCC指示あたり10%を補充した、RPMI 1640(Bio−Whitaker#12−702F)を使用して、培地を配合することができる。培養時に、培養細胞を5X10
4〜1X10
6生細胞/mLの濃度で維持することができる。細胞倍加時間は約20時間であり、細胞は3〜4日毎に受け渡さなければならない。
【0099】
THP−1細胞を遠心分離によりまず収集し、次に、血清を含まないペニシリンストレプトマイシンを含有するRPMIで1回洗浄する。細胞を血清なしのRPMIに、最終濃度が5x10
5〜1x10
6細胞/mLになるまで再懸濁する。細胞を96ウェル組織培養プレート(Corning,CSL3599)に、各ウェルにつき50,000−100,000細胞で、100μLのRPMIに分注する。細胞のプレーティングに続き、化合物を分注し、連続してDMSOを使用して希釈する。DMSOおよび化合物の濃度をRPMIで調節して、細胞培養液中のDMSOの最終濃度が0.5%と同程度とすることができる。典型的には、化合物は、培養液に加える前に50μLのRPMIに入れて希釈してよい。化合物を細胞とともに37℃、5%CO
2で30分間インキュベーションして、培養液において化合物を平衡化する。30分のプレインキュベーションの後、細胞を最終濃度が100μg/mLのウシS100bで刺激する。この物質は、ウシS100b(Calbiochem,#59290)をRPMIに、最終濃度が0.4mg/mLになるまで溶解させることにより調製することができる。アッセイは、RAGE融合タンパク質の存在下で、または、ポジティブコントロールとしてsRAGEありで、または、ネガティブコントロールとしてヒトIgG(Sigma#I4506)ありで、実行することができる。
【0100】
THP−1細胞により分泌されたTNF−αの量を、商業的に利用可能なELISAキット(R&D Systems,Minneapolis,MN#DY210)を使用して、細胞培養物に刺激タンパク質を加えた24時間後に測定することができる。全ての試薬および標準物質は、製造業者が指示するように調製することができる。次に、100μLの標準物質、培地コントロール、または培地サンプルを、適切なELISAウェルに加えることができる。プレートを室温(22〜25℃)で2時間インキュベーションすることができる。次に、プレートを吸引し、400μLの洗浄緩衝液(PBS+0.1% Tween−20)で洗浄し、これをあと3回繰り返し、全部で4回洗浄することができる。次に、100μLのTNF−α検出コンジュゲートを各ELISAウェルに加え、室温で1時間インキュベーションすることができる。次にプレートを吸引し、400μLの洗浄緩衝液で洗浄し、これをあと3回繰り返し、全部で4回洗浄することができる。次に、西洋わさびペルオキシダーゼとコンジュゲートしたストレプトアビジン調製物100μLを各ウェルに加え、20分間インキュベーションすることができる。次にプレートを吸引し、400μLの洗浄緩衝液で洗浄し、これをあと3回繰り返し、全部で4回洗浄することができる。100μLのTMB基質溶液(Sigma,T0440−1L)を加えることにより発色を開始させ、10〜20分間インキュベーションすることができる。100μLの1Mリン酸を加えることにより、発色を停止させることができる。プレートを30分以内で450nmで読み取ることができる。S100bの刺激では、125−250pg/mLがバックグラウンドを上回って見られる。
【0101】
塩酸塩である式(I)の化合物を、上記に記載のものに類似した手順を使用する、S100bが介在するTHP−1細胞からのTNF放出の阻害アッセイにおいてスクリーニングし、式(I)の化合物が約0.5μMのIC50濃度を持つことを発見した。
【0102】
本発明について、該発明のある好適な実施形態を参照して記載し、例示してきたが、当業者であれば、本発明の要旨および範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および置き換えを本発明になし得ることを理解しよう。例えば、RAGE媒介性疾患について処置される哺乳動物の反応性の変動の結果として、本明細書に記載する好ましい投与量以外の有効な投与量が適用可能であり得る。同様に、観測される具体的な薬理学的応答は、選択される特定の活性化合物、または医薬担体が存在するか否か、ならびに利用する製剤の種類と投与形式に従って、そしてそれに応じて変動し得、そのような予測される結果の変動または差異は、本発明の目的および実施に従って検討される。