特許第6860595号(P6860595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860595赤外線を反射するエナメルを備えたガラス板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860595
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】赤外線を反射するエナメルを備えたガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20210405BHJP
   F24C 15/02 20060101ALI20210405BHJP
   F25D 23/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
   F24C15/02 F
   F25D23/02 304A
   F25D23/02 304E
【請求項の数】15
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-565405(P2018-565405)
(86)(22)【出願日】2017年6月14日
(65)【公表番号】特表2019-519459(P2019-519459A)
(43)【公表日】2019年7月11日
(86)【国際出願番号】FR2017051534
(87)【国際公開番号】WO2017216483
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2020年5月18日
(31)【優先権主張番号】1655538
(32)【優先日】2016年6月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ リュフィノ
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0202023(US,A1)
【文献】 特開2002−069326(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/162375(WO,A1)
【文献】 特表2004−511581(JP,A)
【文献】 特開2001−186967(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122678(WO,A1)
【文献】 米国特許第05898180(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
40/00−40/04
C03C 15/00−23/00
F24C 9/00−15/14
F25D 23/02
23/06−23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面上に低放射率透明コーティングを有し、このコーティング上に1種以上のセラミック顔料を含有するエナメル層を有しているテンパー処理した無機ガラス基材を含むガラス板であり、前記エナメル層が、前記低放射率層の一部分だけを覆い、別の部分を未被覆のままにしている、ガラス板であって、
前記セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも80wt%、特に少なくとも95wt%が、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度Lが30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ばれていることを特徴とする、ガラス板。
【請求項2】
前記エナメル層のセラミック顔料の合計含有量が、前記エナメル層の合計重量に対して、20wt%と40wt%の間、好ましくは30wt%と39wt%の間、特に35wt%と38wt%の間であることを特徴とする、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
近赤外線を反射する前記セラミック顔料の明度Lが、1と20の間、特に2と10の間であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラス板。
【請求項4】
近赤外線を反射する単数又は複数の前記セラミック顔料が、CI Pigment Black 27、CI Pigment Black 28、CI Pigment Black 30、CI Pigment Green 17、CI Pigment Brown 29、CI Pigment Brown 35、Al及びTiをドープしたクロム酸化物ヘマタイト、クロムフリーのマンガン、ビスマス、ストロンチウム及び/又はバナジウム酸化物スピネルにより形成される群より選ばれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項5】
近赤外線を反射する単数又は複数の前記顔料が、鉄クロマイト及び鉄ニッケルクロマイトから選ばれていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項6】
前記エナメル層の厚さが、5μmと40μmの間、好ましくは7μmと25μmの間、特に10μmと15μmの間であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項7】
前記エナメル層が、テンパー処理した前記無機ガラス板の端部近くの前記低放射率層の周縁部分を覆っていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項8】
近赤外線を反射する前記顔料が、平均直径が500nmと10μmの間、好ましくは600nmと5.0μmの間、特に700nmと3μmの間の粒子から形成されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項9】
前記エナメル層の1000nmでの反射率(標準規格ASTM E 903に従って測定される)が、13%より大きく、好ましくは15%より大きく、特に18%より大きいことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項10】
前記低放射率層の標準規格ISO 10292:1994(付属書A)に従って測定される放射率が、0.01と0.30の間、好ましくは0.03と0.25の間、特に0.05と0.20の間であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス板を少なくとも1枚含む、オーブンドア。
【請求項12】
複数の板を有するグレージングであること、かつ、前記ドアをオーブンに取り付けたときに前記低放射率層がオーブンの空洞部の方を向くことを特徴とする、請求項11に記載のオーブンドア。
【請求項13】
低放射率層で被覆したホウケイ酸ガラス製又はソーダ石灰ガラス製の板が、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス板と前記オーブンの前記空洞部との間に配置されて、後者を前記オーブンの前記空洞部から切り離していることを特徴とする、請求項11又は12に記載のオーブンドア。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス板を少なくとも1枚含む、冷蔵庫ドア。
【請求項15】
下記のことを含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス板を製造するための方法:
・面のうちの少なくとも1つの上に低放射率透明コーティングを有する無機ガラス基材を提供すること、
・前記低放射率透明コーティングの一部分のみに、ガラスフリットと1種以上のセラミック顔料とを含む着色したガラスペーストを適用し、前記セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも80wt%、特に少なくとも95wt%は、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度Lが30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ぶこと、
・こうして得られたガラス板を近赤外線源により照射して、それによりそれをその軟化点に近い温度まで加熱すること、
・前記ガラス板を熱によりテンパー処理すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーブン又は冷蔵庫のドアのための部分的にエナメルを施したガラス板、及びこのような板を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス張りのオーブンドア又はガラス張りの冷蔵庫ドアの分野では、これらが一体式のグレージングであれ、複数の板を有するグレージングであれ、ガラス板のうちの少なくとも1枚の少なく片面を低放射率の透明コーティングで覆って、それによりオーブンの断熱を向上させ、また作業時にオーブンのドアと接触した場合に火傷するリスクを低下させることが知られている。
【0003】
更に、美観上の理由から、ガラス板の縁にスクリーン印刷したフレーム、一般には黒色のフレームを用いて、ガラス板を部分的に不透明化することが慣例である。
【0004】
不透明なエナメルフレームを備えた低放射率の透明層を有するガラス板を利用することに対する要望が、特にオーブン製造メーカーの一部で、増加している。製造費用を低減するという理由から、このエナメル層は、ガラスの熱強化(焼成に続くテンパリング)の工程中に形成する必要がある。
【0005】
ところが、低放射率のガラス板の上に黒色又は暗色のエナメルフレームを作ることは、困難であることが分かる。具体的に言うと、着色したガラスペースト、例えば通例のクロム−銅酸化物スピネルタイプの黒色色素で着色したガラスペーストを、表面の一部に印刷した板を加熱する間には、テンパー処理した製品の平坦度の不足がしばしば観測され、また、得られたガラス板が、テンパー処理したソーダ石灰安全ガラスの破砕についての標準規格に整合しないことがしばしば観測される。ここで、エナメルで覆われたゾーンは、低放射率層で覆われているがエナメルでは覆われていないものとは異なる破砕プロファイルを有するが、標準規格のEN 1250−1は、ガラス板の全体にわたる均一な破砕を要求している。
【0006】
場合によっては、テンパリング(急速冷却)時にガラス板が割れることが観測されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の問題は、低放射率の透明コーティングがないときには存在せず、あるいはほとんど存在せず、そしてコーティングの放射率が低下すると目立ってくる。それらは、低放射率コーティングだけで覆われたゾーンと、低放射率コーティング及びエナメル層でおおわれたゾーンとが、赤外線の形で受け取る熱エネルギーの吸収の差によるものと考えられる。
【0008】
本発明は、近赤外線の反射率が大きいセラミック顔料をエナメルの着色のために使用すると、上述の問題を軽減し、あるいは解消することさえできるという発見を基にしている。
【0009】
米国特許第5898180号明細書には、可視光−NIR光源で、例えばハロゲン石英ランプなどで加熱されるオーブンの内側コーティングとして使用することを意図したエナメルが開示されている。これらのエナメルは、0.6μm〜5μmにわたる波長範囲で80%より大きい反射率を有すると記載されている。この文献に挙げられた可視光及び赤外線を反射する顔料は、TiO、ZnO、ZrO及びSbである。これらは、美的理由からオーブンドアのエナメルとしては使用できない白色顔料である。具体的に言うと、この分野では、市場の需要は、ほぼ例外なく、非常に暗い色のエナメル、好ましくは黒色のエナメルを好む傾向がある。
【0010】
したがって、本発明の基礎をなす課題は、可視スペクトルにおいて非常に吸収性でもあり、かつ熱によるテンパリングの前にグレージングを加熱するのに使用される赤外線の波長範囲において十分に反射性でもある顔料を見いだすということである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の第1の主題は、片面上に低放射率コーティングを有し、このコーティング上に1種以上のセラミック顔料を含有するエナメル層を有しているテンパー処理した無機ガラス基材を含むガラス板であり、前記エナメル層が低放射率透明コーティングの一部分だけを覆い、別の部分を未被覆のままにしている、ガラス板であって、セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%が、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度Lが30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ばれていることを特徴とする、ガラス板である。
【0012】
低放射率コーティングとエナメル層とを有している無機ガラス基材は、原則として、オーブン又は冷蔵庫ドアでの使用に適合する、テンパー処理された又はテンパー処理可能な任意の無機ガラス製でよい。それは、好ましくは、厚さが2mmと6mmの間の、好ましくは2.5mmと4.5mmの間の、ソーダ石灰ガラスである。
【0013】
低放射率コーティング自体は、知られている。それらは一般に、透明導電性酸化物(TCO)の、例えばフッ素をドープした又はアンチモンをドープした酸化スズ、又は混合インジウムスズ酸化物などの、1つ以上の層から形成される。それらはまた、誘電体層の間に配置された少なくとも1つの金属薄層、例えば銀層、を含む積層体であってもよい。
【0014】
低放射率コーティングの厚さは、一般に5nmと250nmの間であり、特に5nmと150nmの間である。
【0015】
標準規格ISO 10292:1994(付属書A)に従って測定されるそれらの放射率は、有利には0.01と0.30の間、好ましくは0.03と0.25の間、特に0.05と0.20の間である。
【0016】
暗色のエナメル層は、低放射率コーティングの一部分のみを覆い、このコーティングのほかの部分は未被覆のままにしておく。エナメル層により覆われる低放射率コーティングの表面は、好ましくは、低放射率コーティングの全表面のうちの10%と60%の間、特に15%と50%の間、より優先的には20%と40%の間に相当する。エナメル層は、好ましくは、テンパー処理した無機ガラス板の端部に近い、周縁部分の上の低放射率コーティングを、ガラス板の端面に延在する暗色のフレーム又は額縁様式でもって覆う。
【0017】
このエナメル層は、好ましくは可視光に対して不透明である。
【0018】
次の式:
D=−logI/I
で定義されるその光学密度(D)は、好ましくは1.8と5の間、特に2.0と4の間、とりわけ2.2と3の間であり、式中のIは、可視光のスペクトル全体にわたる透過エネルギー強度であり、Iは、可視光のスペクトル全体にわたる入射エネルギー強度である。
【0019】
エナメル層の厚さは。有利には5μmと40μmの間、好ましくは7μmと25μmの間、特に10μmと15μmの間である。
【0020】
エナメル層は、ガラス質のバインダー及びセラミックの顔料から形成される。できるだけ薄くてかつ不透明なエナメルを作製できることを目的に、エナメルのセラミック顔料の体積分率をできるだけ増加させることが有利である。とは言え、ある限度を超えると、顔料含有量の増加は、エナメル層の不充分な凝集及び機械的弱体化を招く。このため、エナメル層のセラミック顔料の合計含有量は、一般に約40wt%を超えるべきでない。
【0021】
1つの好ましい実施形態において、エナメル層のセラミック顔料の合計含有量は、エナメル層の合計重量に対して、20wt%と40wt%の間であり、好ましくは30wt%と39wt%の間、特に35wt%と38wt%の間である。
【0022】
エナメル層に含まれる全ての顔料が、必ずしも先に定義したように赤外線を反射する顔料であるとは限らない。しかし、そのような顔料を使用する有益な効果を認めるためには、それらは存在する全てのセラミック顔料のうちの少なくとも50wt%に相当することが必要である。好ましくは、それらは、存在する全てのセラミック顔料のうちの少なくとも80wt%、特に少なくとも90wt%、理想的には少なくとも95wt%に相当する。
【0023】
赤外線を効果的に反射するためには、セラミック顔料の粒子は過度に小さくてはならない。それらの直径は、有利には、反射される赤外線の波長と同じオーダーである。
【0024】
したがって、本発明で使用するNIR反射性顔料は、有利には、平均直径が500nmと10μの間、好ましくは600nmと5.0μmの間、特に700nmと3μmの間の粒子から形成される。
【0025】
序文において示したように、本発明で使用するNIR反射性セラミック顔料は、暗色であり、好ましくは黒に近い色である。したがって、それらは、米国特許第5898180号明細書に記載された、可視光と近赤外線の両方を非常に効果的に反射する(赤外線の拡散反射率が80%より大きい)白色顔料と異なる。
【0026】
着色料又は顔料の色合いは、通常、3つの量(L、A、及びB)により定義されるCIEのL色空間で定義され、そのうちの最初のLは明度を表す。Lの値の範囲は、黒についての0から白についての100までである。
【0027】
本発明で使用する近赤外線を反射するセラミック顔料の明度Lは、好ましくは1と20の間、特に2と10の間である。
【0028】
本発明で使用することができる近赤外線(NIR)を反射する暗色のセラミック顔料の例としては、次の製品を挙げることができる。
・Ferro社によりV−780 Cool Colors IR Brown Black及びV−799 Cool Colors IR Blackの名称で販売されているAl及びTiドープのクロムヘマタイト。
・BASF社により7890 Meteor Black及び9875 Meteor Plus HS Jet Blackの商標名で、又はShepherd社によりBlack 411の商標名で販売されている銅−クロム−マンガンブラックスピネル(CI Pigment Black 28)。
・Meteor Plus Jet Black(BASF社)、Heucodur Brown 869(Heubach社)、Heucodur Black 953(Heubach社)、Heucodur Black 963の名称で入手可能な銅−クロム−マンガン−バリウムスピネル(CI Pigment Black 28)。
・Ferro社からGEODE V−774 Cool Colors HS Black、GEODE V−775 Cool Colors IR Black、GEODE V−776 Cool Colors IR Black、GEODE V−778 Cool Colors IR Black、GEODE 10204 IR Eclipse IR Black、及びO−1775B Ebonyの名称で入手可能な、又はShepherd社からBlack 10C909及びBlack 30C940の名称で入手可能なクロム酸化物ヘマタイト(CI Pigment Green 17)。
・Ferro社によりGEODE 10456 Blackの名称で、又はHeubach社によりHeucodur Black 950の名称で販売されているクロム−鉄−ニッケルブラックスピネル(CI Pigment Black 30)。
・Shepherd社によりBlack 411の商品名で、又はBASF社により9880 Meteor Plus High IR Jet Black、9882 Meteor Plus Black、9887 Meteor Plus High IR Black、9889 Meteor Plus High IR Blackの商標名で販売されている鉄−クロム酸化物スピネル(CI Pigment Brown 29)。
・Heucodur Black 955(Heubach社)の名称で入手可能なコバルト−クロム−鉄スピネル(CI Pigment Black 27)。
・Heucodur Black 9−100(Heubach社)の名称で入手可能な銅−クロム−鉄スピネル(CI Pigment Black 28)。
・Heucodur Black 910(Heubach社)の名称で入手可能なクロム酸化物ヘマタイト(CI Pigment Green 17)。
・7895 Meteor High IR Black、Heucodur Black 920(Heubach社)及びHeucodur Black 940(Heubach社)の名称で入手可能な鉄−クロマイトブラックスピネル(CI Pigment Brown 35)。
・9880 Meteor High IR Black、9882 Meteor Plus Black、9887 Meteor Plus High IR Black、9889 Meteor Plus High IR Blackの名称で入手可能な鉄−クロム−マンガンスピネル(CI Pigment Brown 29)。
・GEODE 10201 Eclipse Black(Ferro社)、GEODE 10202 Eclipse Black(Ferro社)及びGEODE 10203 Eclipse Black (Ferro社)の名称で入手可能なクロムフリーのマンガン、ビスマス、ストロンチウム及び/又はバナジウムスピネル。
【0029】
これらの顔料のうちで、鉄クロマイト(CI Pigment Brown 35及びCI Pigment Brown 29)と鉄−ニッケルクロマイト(CI Pigment Brown 30)が、とりわけ好ましい。
【0030】
エナメル層の少なくとも60wt%を構成するガラス質のバインダーは、顔料の粒子間の結合と、低放射率コーティングへのエナメル層の接着をもたらす。バインダーは、一般に、熱によるテンパリング前にガラス板が加熱される温度より少なくとも50℃低い軟化点を有するガラスフリットを溶融させることにより得られる。ガラス質バインダーの軟化点は、好ましくは590℃未満である。
【0031】
先に明示したとおりのガラス質バインダーとセラミック顔料とをベースとする本発明のエナメル層の1000nmでの反射率(ASTM E 903により測定される)は、好ましくは13%より大きく、特に15%より大きく、より好ましくは18%より大きい。それは、一般には70%未満である。
【0032】
本発明のもう一つの主題は、上述のとおりの本発明によるガラス板を少なくとも1枚含むオーブンドアである。
【0033】
このオーブンドアは、詳しくは、そのドアをオーブンの空洞部の前方に取り付けたときに、低放射率透明コーティングが好ましくはオーブンの空洞部の方に面する、複数のシートを備えたグレージングである。
【0034】
複数のシートを備えたグレージングによって閉じられたそのようなオーブンにおいて、本発明のテンパー処理されたガラス板は、好ましくは、ソーダ石灰ガラス基材を含み、かつ好ましくは、オーブンの空洞部と直接接触しないように配置される。具体的に言うと、オーブンの空洞部と本発明のガラス板との間に、ソーダ石灰ガラス板よりも温度の変動に対して相対的により耐久性のあるガラス板を挿入することが好ましい。
【0035】
一実施例において、本発明のオーブンドアは、低放射率層で被覆されたホウケイ酸ガラス製又はソーダ石灰ガラス製の板であって、オーブンの空洞部と本発明によるガラス板との間に配置され、したがって後者をオーブンの空洞部から切り離す板を更に含む。
【0036】
本発明のもう一つの主題は、上述のとおりの本発明によるガラス板を少なくとも1枚含む冷蔵庫ドアである。
【0037】
本発明の最後の主題は、片面上の低放射率コーティングと、このコーティング上の、1種以上のセラミック顔料を含有するエナメル層とを有しているテンパー処理した無機ガラス基材を含む、オーブン又は冷蔵庫ドアのためのガラス板を製造するための方法であって、次の工程を含む方法である:
・面のうちの少なくとも1つの上に低放射率透明コーティングを有する無機ガラス基材を提供する工程、
・前記低放射率透明コーティングの一部分のみに、ガラスフリットと1種以上のセラミック顔料とを含む着色したガラスペーストを適用する工程であって、前記セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも80wt%、特に少なくとも95wt%を、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度Lが30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ぶ、ガラスペースト適用工程、
・こうして得られたガラス板をNIR放射線源により照射して、それによりそれをその軟化点に近い温度まで加熱する工程、
・前記ガラス板を熱によりテンパリングする工程。
【0038】
無機ガラス基材は、好ましくはフロートガラスであって、ガラス板を結合させるべきオーブン又は冷蔵庫のドアの寸法に事前に切断されている。それは、少なくとも一方の面を、好ましくは両面を、低放射率透明コーティングで、例えばマグネトロンスパッタリングにより又は化学気相成長(CVD)により堆積させた透明導電性酸化物で、覆われている。
【0039】
着色したガラスペーストは、微粉砕したガラスフリットをポリマーの有機溶剤溶液及びセラミック顔料と混合することにより、既知の方法で調製される。
【0040】
その後、ガラスペーストを、例えばスクリーン印刷により、低放射率透明コーティングの一部分に数十μmの湿潤厚さで適用する。
【0041】
印刷した層の乾燥後に、集成体を数分で600℃と800℃の間の温度にし、その後連続式又は揺動式のテンパリング炉でテンパリングする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】標準的な黒色顔料を含有しているエナメル及び赤外線を反射する黒色顔料を含有しているエナメルの紫外線−可視光−赤外線反射スペクトルを示す図である。
図2】標準規格EN 1250−1による破砕後の本発明によるガラス板の写真である。
【実施例】
【0043】
下記の表に示した重量組成を有する2種類のガラスペーストを調製する。
【0044】
【表1】
【0045】
ガラス//Si/SiO/ITO/Si/SiO/TiOの一連の層で形成された、放射率が0.2のコーティング(SGG EkoVision II)を面のおのおのに有するソーダ石灰ガラス基材(寸法50c×50cm)の端部に、これらの2種類のペーストをフレームの形でもってスクリーン印刷する。
【0046】
ペーストの粘度は約80ポアズであり、層の厚さは約27μmである。印刷した基材をその後、約130℃の温度の赤外線炉で、有機溶剤が完全に蒸発するまで乾燥させる。
【0047】
次に、2枚のガラス板を、波長が約5μmまでの赤外線を放射する電気抵抗器を用いて4分間にわたり670℃の温度にし、その後冷風の流れを使って急冷する。
【0048】
図1は、標準的な黒色顔料を含有しているエナメル及び赤外線を反射する黒色顔料を含有しているエナメルの紫外線−可視光−赤外線反射スペクトルを示している。
【0049】
比較のガラス板を標準規格EN 1250−1による破砕試験にかけると、低放射率コーティングだけにより覆われたゾーンにおけるよりも黒色エナメルにより覆われたゾーンで、ガラスの破片が有意に小さいことが観測される。これらのゾーン間での大きさの差は、ガラス板が破砕試験を満足しないと判定されるようなものである。
【0050】
本発明によるガラス板を標準規格EN 1250−1による同じ破砕試験にかけると、エナメルで覆われたゾーンにおけるガラスの破片は、エナメルで覆われていないゾーンで観測されるものと同じような寸法を有する。図2は、本発明によるそのようなガラス板の、標準規格EN 1250−1による破砕後の写真を示している。
図1
図2