【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の第1の主題は、片面上に低放射率コーティングを有し、このコーティング上に1種以上のセラミック顔料を含有するエナメル層を有しているテンパー処理した無機ガラス基材を含むガラス板であり、前記エナメル層が低放射率透明コーティングの一部分だけを覆い、別の部分を未被覆のままにしている、ガラス板であって、セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%が、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度L
*が30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ばれていることを特徴とする、ガラス板である。
【0012】
低放射率コーティングとエナメル層とを有している無機ガラス基材は、原則として、オーブン又は冷蔵庫ドアでの使用に適合する、テンパー処理された又はテンパー処理可能な任意の無機ガラス製でよい。それは、好ましくは、厚さが2mmと6mmの間の、好ましくは2.5mmと4.5mmの間の、ソーダ石灰ガラスである。
【0013】
低放射率コーティング自体は、知られている。それらは一般に、透明導電性酸化物(TCO)の、例えばフッ素をドープした又はアンチモンをドープした酸化スズ、又は混合インジウムスズ酸化物などの、1つ以上の層から形成される。それらはまた、誘電体層の間に配置された少なくとも1つの金属薄層、例えば銀層、を含む積層体であってもよい。
【0014】
低放射率コーティングの厚さは、一般に5nmと250nmの間であり、特に5nmと150nmの間である。
【0015】
標準規格ISO 10292:1994(付属書A)に従って測定されるそれらの放射率は、有利には0.01と0.30の間、好ましくは0.03と0.25の間、特に0.05と0.20の間である。
【0016】
暗色のエナメル層は、低放射率コーティングの一部分のみを覆い、このコーティングのほかの部分は未被覆のままにしておく。エナメル層により覆われる低放射率コーティングの表面は、好ましくは、低放射率コーティングの全表面のうちの10%と60%の間、特に15%と50%の間、より優先的には20%と40%の間に相当する。エナメル層は、好ましくは、テンパー処理した無機ガラス板の端部に近い、周縁部分の上の低放射率コーティングを、ガラス板の端面に延在する暗色のフレーム又は額縁様式でもって覆う。
【0017】
このエナメル層は、好ましくは可視光に対して不透明である。
【0018】
次の式:
D=−logI/I
0
で定義されるその光学密度(D)は、好ましくは1.8と5の間、特に2.0と4の間、とりわけ2.2と3の間であり、式中のIは、可視光のスペクトル全体にわたる透過エネルギー強度であり、I
0は、可視光のスペクトル全体にわたる入射エネルギー強度である。
【0019】
エナメル層の厚さは。有利には5μmと40μmの間、好ましくは7μmと25μmの間、特に10μmと15μmの間である。
【0020】
エナメル層は、ガラス質のバインダー及びセラミックの顔料から形成される。できるだけ薄くてかつ不透明なエナメルを作製できることを目的に、エナメルのセラミック顔料の体積分率をできるだけ増加させることが有利である。とは言え、ある限度を超えると、顔料含有量の増加は、エナメル層の不充分な凝集及び機械的弱体化を招く。このため、エナメル層のセラミック顔料の合計含有量は、一般に約40wt%を超えるべきでない。
【0021】
1つの好ましい実施形態において、エナメル層のセラミック顔料の合計含有量は、エナメル層の合計重量に対して、20wt%と40wt%の間であり、好ましくは30wt%と39wt%の間、特に35wt%と38wt%の間である。
【0022】
エナメル層に含まれる全ての顔料が、必ずしも先に定義したように赤外線を反射する顔料であるとは限らない。しかし、そのような顔料を使用する有益な効果を認めるためには、それらは存在する全てのセラミック顔料のうちの少なくとも50wt%に相当することが必要である。好ましくは、それらは、存在する全てのセラミック顔料のうちの少なくとも80wt%、特に少なくとも90wt%、理想的には少なくとも95wt%に相当する。
【0023】
赤外線を効果的に反射するためには、セラミック顔料の粒子は過度に小さくてはならない。それらの直径は、有利には、反射される赤外線の波長と同じオーダーである。
【0024】
したがって、本発明で使用するNIR反射性顔料は、有利には、平均直径が500nmと10μの間、好ましくは600nmと5.0μmの間、特に700nmと3μmの間の粒子から形成される。
【0025】
序文において示したように、本発明で使用するNIR反射性セラミック顔料は、暗色であり、好ましくは黒に近い色である。したがって、それらは、米国特許第5898180号明細書に記載された、可視光と近赤外線の両方を非常に効果的に反射する(赤外線の拡散反射率が80%より大きい)白色顔料と異なる。
【0026】
着色料又は顔料の色合いは、通常、3つの量(L
*、A
*、及びB
*)により定義されるCIEのL
*a
*b
*色空間で定義され、そのうちの最初のL
*は明度を表す。L
*の値の範囲は、黒についての0から白についての100までである。
【0027】
本発明で使用する近赤外線を反射するセラミック顔料の明度L
*は、好ましくは1と20の間、特に2と10の間である。
【0028】
本発明で使用することができる近赤外線(NIR)を反射する暗色のセラミック顔料の例としては、次の製品を挙げることができる。
・Ferro社によりV−780 Cool Colors IR Brown Black及びV−799 Cool Colors IR Blackの名称で販売されているAl及びTiドープのクロムヘマタイト。
・BASF社により7890 Meteor Black及び9875 Meteor Plus HS Jet Blackの商標名で、又はShepherd社によりBlack 411の商標名で販売されている銅−クロム−マンガンブラックスピネル(CI Pigment Black 28)。
・Meteor Plus Jet Black(BASF社)、Heucodur Brown 869(Heubach社)、Heucodur Black 953(Heubach社)、Heucodur Black 963の名称で入手可能な銅−クロム−マンガン−バリウムスピネル(CI Pigment Black 28)。
・Ferro社からGEODE V−774 Cool Colors HS Black、GEODE V−775 Cool Colors IR Black、GEODE V−776 Cool Colors IR Black、GEODE V−778 Cool Colors IR Black、GEODE 10204 IR Eclipse IR Black、及びO−1775B Ebonyの名称で入手可能な、又はShepherd社からBlack 10C909及びBlack 30C940の名称で入手可能なクロム酸化物ヘマタイト(CI Pigment Green 17)。
・Ferro社によりGEODE 10456 Blackの名称で、又はHeubach社によりHeucodur Black 950の名称で販売されているクロム−鉄−ニッケルブラックスピネル(CI Pigment Black 30)。
・Shepherd社によりBlack 411の商品名で、又はBASF社により9880 Meteor Plus High IR Jet Black、9882 Meteor Plus Black、9887 Meteor Plus High IR Black、9889 Meteor Plus High IR Blackの商標名で販売されている鉄−クロム酸化物スピネル(CI Pigment Brown 29)。
・Heucodur Black 955(Heubach社)の名称で入手可能なコバルト−クロム−鉄スピネル(CI Pigment Black 27)。
・Heucodur Black 9−100(Heubach社)の名称で入手可能な銅−クロム−鉄スピネル(CI Pigment Black 28)。
・Heucodur Black 910(Heubach社)の名称で入手可能なクロム酸化物ヘマタイト(CI Pigment Green 17)。
・7895 Meteor High IR Black、Heucodur Black 920(Heubach社)及びHeucodur Black 940(Heubach社)の名称で入手可能な鉄−クロマイトブラックスピネル(CI Pigment Brown 35)。
・9880 Meteor High IR Black、9882 Meteor Plus Black、9887 Meteor Plus High IR Black、9889 Meteor Plus High IR Blackの名称で入手可能な鉄−クロム−マンガンスピネル(CI Pigment Brown 29)。
・GEODE 10201 Eclipse Black(Ferro社)、GEODE 10202 Eclipse Black(Ferro社)及びGEODE 10203 Eclipse Black (Ferro社)の名称で入手可能なクロムフリーのマンガン、ビスマス、ストロンチウム及び/又はバナジウムスピネル。
【0029】
これらの顔料のうちで、鉄クロマイト(CI Pigment Brown 35及びCI Pigment Brown 29)と鉄−ニッケルクロマイト(CI Pigment Brown 30)が、とりわけ好ましい。
【0030】
エナメル層の少なくとも60wt%を構成するガラス質のバインダーは、顔料の粒子間の結合と、低放射率コーティングへのエナメル層の接着をもたらす。バインダーは、一般に、熱によるテンパリング前にガラス板が加熱される温度より少なくとも50℃低い軟化点を有するガラスフリットを溶融させることにより得られる。ガラス質バインダーの軟化点は、好ましくは590℃未満である。
【0031】
先に明示したとおりのガラス質バインダーとセラミック顔料とをベースとする本発明のエナメル層の1000nmでの反射率(ASTM E 903により測定される)は、好ましくは13%より大きく、特に15%より大きく、より好ましくは18%より大きい。それは、一般には70%未満である。
【0032】
本発明のもう一つの主題は、上述のとおりの本発明によるガラス板を少なくとも1枚含むオーブンドアである。
【0033】
このオーブンドアは、詳しくは、そのドアをオーブンの空洞部の前方に取り付けたときに、低放射率透明コーティングが好ましくはオーブンの空洞部の方に面する、複数のシートを備えたグレージングである。
【0034】
複数のシートを備えたグレージングによって閉じられたそのようなオーブンにおいて、本発明のテンパー処理されたガラス板は、好ましくは、ソーダ石灰ガラス基材を含み、かつ好ましくは、オーブンの空洞部と直接接触しないように配置される。具体的に言うと、オーブンの空洞部と本発明のガラス板との間に、ソーダ石灰ガラス板よりも温度の変動に対して相対的により耐久性のあるガラス板を挿入することが好ましい。
【0035】
一実施例において、本発明のオーブンドアは、低放射率層で被覆されたホウケイ酸ガラス製又はソーダ石灰ガラス製の板であって、オーブンの空洞部と本発明によるガラス板との間に配置され、したがって後者をオーブンの空洞部から切り離す板を更に含む。
【0036】
本発明のもう一つの主題は、上述のとおりの本発明によるガラス板を少なくとも1枚含む冷蔵庫ドアである。
【0037】
本発明の最後の主題は、片面上の低放射率コーティングと、このコーティング上の、1種以上のセラミック顔料を含有するエナメル層とを有しているテンパー処理した無機ガラス基材を含む、オーブン又は冷蔵庫ドアのためのガラス板を製造するための方法であって、次の工程を含む方法である:
・面のうちの少なくとも1つの上に低放射率透明コーティングを有する無機ガラス基材を提供する工程、
・前記低放射率透明コーティングの一部分のみに、ガラスフリットと1種以上のセラミック顔料とを含む着色したガラスペーストを適用する工程であって、前記セラミック顔料のうちの少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも80wt%、特に少なくとも95wt%を、1000nmでの反射率が標準規格ASTM E 903に従って測定して少なくとも40%に等しく、かつ明度L
*が30未満である、近赤外線(NIR)を反射するセラミック顔料から選ぶ、ガラスペースト適用工程、
・こうして得られたガラス板をNIR放射線源により照射して、それによりそれをその軟化点に近い温度まで加熱する工程、
・前記ガラス板を熱によりテンパリングする工程。
【0038】
無機ガラス基材は、好ましくはフロートガラスであって、ガラス板を結合させるべきオーブン又は冷蔵庫のドアの寸法に事前に切断されている。それは、少なくとも一方の面を、好ましくは両面を、低放射率透明コーティングで、例えばマグネトロンスパッタリングにより又は化学気相成長(CVD)により堆積させた透明導電性酸化物で、覆われている。
【0039】
着色したガラスペーストは、微粉砕したガラスフリットをポリマーの有機溶剤溶液及びセラミック顔料と混合することにより、既知の方法で調製される。
【0040】
その後、ガラスペーストを、例えばスクリーン印刷により、低放射率透明コーティングの一部分に数十μmの湿潤厚さで適用する。
【0041】
印刷した層の乾燥後に、集成体を数分で600℃と800℃の間の温度にし、その後連続式又は揺動式のテンパリング炉でテンパリングする。