(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電力網内に余剰の電気エネルギーを貯蔵する方法であって、前記余剰の電気エネルギーを水素に変換するステップと、電気分解装置が、天然ガスシステムの天然ガスパイプラインの最大水素濃度によって決定される水素注入の最大速度より小さい速度で、前記水素を前記天然ガスシステム中に注入するステップとを含む、方法。
電力網の運転に必要な量以上に電気を生産するために発電機を運転するステップと、水素を製造するために余剰の電気を天然ガスシステムに接続された電気分解装置が、消費するステップと、前記電気分解装置が、前記天然ガスシステムの天然ガスパイプラインの最大水素濃度によって決定される水素注入の最大速度より小さい速度で前記天然ガスシステムへ放出するステップと、を含む、電力網の運転方法。
天然ガスシステムの天然ガスパイプラインの最大水素濃度によって決定される水素注入の最大速度より小さい流速で前記天然ガスシステムへ水素を放出する電気分解装置と、
水素濃度センサを備えた前記天然ガスパイプラインへの放出パイプにガスメータと、
を有する天然ガスシステム。
前記ガスメータにより決定された流速及び前記水素濃度センサにより決定された水素濃度に関するデータが、前記水素のWAUB指数を考慮して、等価な天然ガスの流速に変換される、請求項10に記載の天然ガスシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の議論は、本願発明に従う詳細な記述へ読者を導くものであって、それを制限したり規定したりすることを意図するものではない。
【0006】
電気分解装置はエネルギーシステムの中で運転されて、例えば、電力網サービス、エネルギー貯蔵、または燃料を提供するか、或いは再生可能資源による電力で水素を製造する。電気分解装置は、頻繁または迅速に変化する電気消費速度で運転されるか、または指定の電力消費量で運転されるようになっていてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある場合にはプロセスが、電気分解装置を提供するステップと、ある期間に指定の電力消費を指示する一連の給電を受けるステップとを持っている。この給電は少なくとも30分に1回発生してもよい。電気分解装置はこの給電に応じて運転される。給電に応じた運転中に電気分解装置で製造される水素は、天然ガスシステムに放出される。
【0008】
ある場合には、エネルギーシステムは電力網と電気分解装置と天然ガスシステムを持っている。電気分解装置は、電力網サービスを行うように運転されて、水素を天然ガスシステム中へ放出する。
【0009】
ある場合には、プロセスは、電気分解装置を提供するステップと、電力網運用者からの給電指令または電力網サービス契約に従って電気分解装置を運転するステップと、そのような運転中に製造された水素を天然ガスパイプラインへ放出するステップとを含んでいる。
【0010】
ある場合には、電力網内に余剰の電気エネルギーを貯蔵する方法が、余剰エネルギーを水素に変換するステップと、その水素を天然ガスシステム中に注入するステップとを含んでいる。
【0011】
ある場合には、電気の仮想移動を行う方法が、電力網の第一の場所で作動する電気分解装置を通じて水素製造のために電気を消費するステップと、その水素を第一の場所で天然ガスシステム中へ注入するステップと、第二の場所で天然ガスシステムから天然ガスを抽出するステップと、その天然ガスを電気を生産するために燃焼させるステップと、製造された電気を電力網の第二の場所へ供給するステップとを含む。
【0012】
ある場合には、水素の仮想販売の市場取引方法が、水素を製造するために電気分解装置を介して電気を消費するステップと、その水素を天然ガスシステム中に注入するステップと、天然ガスシステム中に注入された水素量を計量するステップと、顧客によって天然ガスシステムから引き出された天然ガス量を計量するステップと、引き出された天然ガス量の少なくとも一部に等価な水素消費量に対して顧客に料金請求するステップとを含む。任意選択により、電気には再生可能資源から実際に製造されたかまたは製造されたとみなされる電気が含まれてもよい。
【0013】
ある場合には、電気分解装置はそれぞれが別個の電源を有する複数のスタックアセンブリを持っている。任意選択により、電気分解装置は異なる電力消費速度で同時に複数のスタックアセンブリを運転できるように適合されたコントローラを持っている。
【0014】
ある場合には、電気分解装置は共通のガス分離器に向かって上向きに通気する複数のスタックアセンブリを持っている。
【0015】
ある場合には、電気分解装置にはコントローラと電気メータがある。コントローラは、所定速度で電気を消費するようにDC電源を運転できるようになっている。任意選択により、電気が所定の値段以下で入手できる場合にはコントローラは電気を所定速度で消費するようにDC電源を運転してもよい。
【0016】
ある場合には、電力網の運転方法は、インバランスエネルギーを取り込むステップと、そのインバランスエネルギーを天然ガスシステムに接続された電気分解装置により消費するステップとを含む。
【0017】
ある場合には、電力網の運転方法は、電力網の運転に必要な量以上に電気を生産するために発電機を運転するステップと、天然ガスシステムに接続された電気分解装置によりその余剰の電気を消費するステップとを含む。さらに、余剰電気を生産しない場合のすべてのコストを差し引いた余剰電気の限界費用を、水素の市場価格と比較するステップが含まれてもよい。
【0018】
ある場合には、第一の期間において、水素を製造するために電気分解装置を通じて電気を消費して、その水素を天然ガスシステム中に注入するステップと、第二の期間において、電気を生産するために天然ガスを燃焼させるステップとがプロセスに含まれている。
【0019】
ある場合には、天然ガスシステムに水素濃度センサを備えた顧客ガスメータが含まれていてもよい。流速と水素濃度に関するデータが、等価な天然ガスの流速に変換される。
【0020】
ある場合には、天然ガス燃料補給ステーションまたは天然ガス燃焼発電ステーションを運転する方法が、パイプラインから引き出された天然ガス中の水素濃度を計測するステップと、指定の水素濃度の混合ガスを製造するために水素を添加するステップとを含んでいる。
【0021】
ある場合には、天然ガス燃料補給ステーションまたは天然ガス燃焼発電ステーションを運転する方法が、水素とパイプラインから引き出された天然ガスの混合気を濃縮するステップと、指定の水素濃度の混合ガスを製造するために天然ガスを添加するステップとを含んでいる。
【0022】
ある場合には、電気分解装置の運転方法が、ガスパイプライン中に注入可能な最大水素量に関するデータを受信するステップと、a)最大水素量を製造する電気量より多くは消費しないように電気分解装置を制御するか、b)過剰の水素を通気するか、c)製造可能な対応する最大水素量を示す信号を電力網運用者へ送信するかのステップと、を含む。そのデータはパイプライン中の天然ガスの流速を含んでもよい。
【0023】
上記の複数のケースにおいて記述した要素とステップは、複数のケースで記述した複数の組み合わせにおいて、また上記の複数のケースの内の任意のものと別のケースまたは以下での詳細な説明における任意の要素またはステップとの組み合わせにおいて、あるいはその他の組み合わせにおいて使用され得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
水の電気分解は、本明細書では電気分解と称するが、電気エネルギーを水素の形の化学エネルギーに変換する。水素は、本質的に純粋な燃料または工業化学物質として消費される場合、最も価値のあるものである。ただし水素は他のガスと混合された場合にも価値があり、その価値は水素濃度とともにほぼ減少する傾向にある。水素はまた変換して電気に戻すこともできる。さらにある状況においては、電気分解装置の電力消費能力を利用して、例えば、電力網とも呼ばれる相互接続された伝送システムの均衡や制御を支援するような、価値の高いサービスを提供することも可能である。水素は燃料または工業化学物質とみなし得るが、エネルギーの貯蔵または輸送のための媒体と見ることもできる。電気分解装置は水素製造装置とみなすことができ、また電力網サービスを提供するための装置とみなすこともできる。
【0026】
電力網サービスは、アンシラリーサービス(ancillary services)またはアンシラリーリザーブ(ancillary reserves)とも呼ばれるが、これには信頼性の高い電力網運転の維持を支援する様々なサービスが含まれる。電力網システムの運用者は、独立システム運用者(ISO)や電気システム運用者(ESO)、伝送システム運用者(TSO)と呼ばれることもあるが、様々な種類の電力網サービスに対する契約を提供することができる。電力網サービスには、電力網運用者の制御区域管理を支援する運転や、制御区域間でのエネルギー伝送の低減または促進のいずれかに利用可能な運転が含まれる。本明細書において特に関心があるのは、電力網サービス契約のあるものにおいては、電力網全体の生産と消費をバランスさせる目的で、例えば短期間のインバランスを回避または修正するために、電力網運用者が発する給電指令に対して変動負荷の所有者が応答を要求されることである。発電機と制御可能負荷とはいずれも、潜在的に電力網サービスを提供し得る電力網の資産であるとみなされる。電力網における最も重要な負荷は、工業プロセスであることが多い。この工業プロセスは定常状態において最も効率的に運転される傾向にある。したがって電力網サービスの提供に利用され得る工業プロセスは僅かしかなく、その電力網サービスの潜在的価値は一般的には小さい。
【0027】
電力網サービスを提供するためには、少なくとも電力消費が可変速度で運転されるプロセスを必要とする。a)電力消費の潜在的変化の速度、頻度または大きさが増大する場合、b)そのプロセスが指定の電力消費速度で正確に運転可能である場合、またはc)そのプロセスを電力網運用者が制御可能である場合には、可変負荷により提供可能な電力網サービスの潜在価値は増大する。
【0028】
電力消費の変化の速度、頻度及び大きさは、電力網サービスの価値に関係する。それは迅速、頻繁または大量に消費または生産を変更することができる負荷または発電資産はごく僅かしかないからである。太陽パネルや風車などの再生可能エネルギー生成資産は、従来型の発電資産に比べるとより頻繁、急速、かつ大幅に変動する。したがって、再生可能発電資産を電力網に高水準に組み込むためには、他の資産を頻繁、迅速、かつ相応の程度にまで変更できる能力を対応して増大させることが要求される。
【0029】
給電指令に正確に対応することが可能な負荷は、精度の低い資産に比べてより高速かつ単純にインバランスの解決策を提供する助けとなるので、指定の電力消費速度で正確に運転できることには価値がある。市場ベースのシステムにおいては、低いコストは指定の消費にしか適用されないことがある。
【0030】
電力網運用者が制御を強化すれば、制御可能な負荷によって解決し得る課題の範囲が大きくなるであろう。例えば、普通の中断可能な負荷への電力は、緊急時には電力網の電圧が最小値より低くならないようにするために切断可能であるが、電力網運用者は、その後負荷の復旧については正確な制御ができない。もし負荷の中断期間も制御でき、またその負荷を利用して電力網の過電圧を防止することが可能であれば、それは電力網運用者にとって大きな価値となるであろう。電力網運用者からの給電が、資産所有者に受理が任されているのではなく、実質的に必須であるか、ほとんど常に追従される場合には、この価値はより高いものである。実際の制御として、負荷運用者への給電指令ではなく、電力網運用者が負荷コントローラへ制御信号を送信することが可能である場合には、これもより高い価値を与える。電力網運用者が命令を送るか、または所望速度の電力消費を指定する制御信号を送信することが可能な可変制御であれば、単に負荷の完全停止ができるということよりもより大きな価値が提供される。
【0031】
上記の一つ以上の利点を与えることが可能であればプロセスは有益であるが、その多くは提供することが難しい。電力消費変化の速度、頻度及び大きさに関しては、効率的なプロセス運転の範囲が限られていること、そのプロセス中に機械部品が使用されていること、および製品を製造する必要があること、という一つ以上により、大部分の工業プロセスにおいて変更要求への応答能力は限られている。機械部品は定常状態で運転されなければ、摩耗や故障の頻度が上がる。製品の生産速度は、物理的または市場の制約を満たすことが必要である。指定の電力消費速度で運転可能かどうかに関しては、工業プロセスの多くは生産速度を指定して制御されており、電力消費を指定した制御はなされていない。電力網運用者による制御に関しては、そうすることが他の制約条件に応じてプロセスを最適化しようとする工業管理者能力に干渉する。
【0032】
電力網サービスを提供できる潜在能力を上げるためには、電気分解装置が、頻繁、迅速または広範な可変速度の電気消費速度で運転されるか、指定の電力消費で運転されるか、電力網運用者による制御を許容するか、の一つ以上の機能を持つように構成されることが好ましい。
【0033】
典型的な大規模系統運用機関が管理する電力網へのサービスを提供しない場合にも、これらの属性の一つまたは複数は有用であり得る。例えば再生可能エネルギーから水素を製造するために、電気分解装置は発電機へ直接、または小規模電力網内において接続されることがある。発電機は例えば、風車、太陽パネル、太陽熱装置またはバイオガス燃焼発電機であってもよい。そのような直接システムまたはバッファ最小のシステムにおいては、実時間に製造中のいかなる電力量ででも電気分解装置の運転が可能な程度にまで、電気エネルギー貯蔵の必要性を小さくすることができる。
【0034】
別の実施例では、複数のエネルギー発生機または負荷との間での直接契約が可能な電力網、またはグリッド運用者からの給電指令またはサービス要求をオークションまたはほかの市場へ提供する電力網に、電気分解装置が接続されることもある。これらの場合には、契約された安い電気料金は、指定の時間と購入されたエネルギー量にだけ適用される。電気消費の時間や量の契約と実態との食い違いは、電気分解装置運用者による支払増加という結果になり易い。契約では時間と共に段階的に変わる料金で電気購入が指定されるので、電気分解装置がその指定された段階に正確に追従することができれば、電気コストは最小となる。そのためには、指定された一つの消費速度から次の消費速度へ正確に迅速な変化をすることが必要となる。さらに、エネルギー購入を、再生可能な供給源または温室効果ガス発生の低い供給源に由来するものとして認証または指定することができるシステムにおいては、クレジットやオフセットや他の恩典を請求するには、再生可能エネルギーの製造または購入に関するデータと実際の使用電気を記録したデータとの間に高いレベルの対応を必要とすることがある。
【0035】
実質的な純水素、あるいは少なくとも高濃度の水素に対する強い市場要求が存在することで、製造の抑制と電力網サービスへの提供価値とのバランスを取ることが必要となり得る。他方、純粋または高濃度水素の市場が充足されているか、電力網の提供によって付随的に充足されそうである場合には、いかなる特定量であれ更なる水素製造を提供するよりも電力網サービスを提供することの方がより価値が大きくなり得る。電気分解装置を天然ガスシステムに接続することで、電気分解装置が実質的に任意の時間に製造し得る実質的に任意量の水素を、受け入れ可能な市場と物理的貯蔵及び輸送システムとが提供される。そうすれば電気分解装置は、水素製造のタイミングと量を実質的に心配することなしに、最高価値の電力網サービスを提供するように制御可能となる。
【0036】
以下においては、電力網と電気分解装置と天然ガスシステムを持つエネルギーシステムについて説明する。電気分解装置で製造される水素の一部は高付加価値の市場で使用されてもよいが、天然ガスシステム中に水素を注入することも可能である。電気分解装置の設計によって電力網サービスを提供する運転が容易となる。このシステムによって、天然ガスシステム中に注入される水素から価値が引き出せるようになる。
【0037】
図1は電気分解装置12を持つエネルギーシステム10を示す。電気分解装置12は制御区域16内で電力網14に接続されている。電力網14はさらにインターチェンジ伝送ライン18を介して他の電力網制御区域へ接続されている。制御区域16内では電力網14に様々な容量の内部伝送ライン20も含まれている。インターチェンジ伝送ライン18の制御区域16内にある部分は、内部伝送ライン20であるとも考えることができる。
【0038】
伝送ライン20は発電機22と負荷24に接続されている。電気分解装置12もまた一つの負荷24である。電力網運用者26は、制御区域16内での電力の生産と消費のバランスを維持し、必要があればインターチェンジ伝送ライン18を介して他の制御区域と電力のやり取りをするように備える責任がある。電力網運用者26は一つ以上の通信リンク28を介して一つ以上の発電機22や負荷24と様々な程度で通信することができる。電力運用者は発電機22や負荷24の少なくともあるものに対して様々な程度で制御を行う。制御される発電機22や負荷24を資産と呼んでもよい。
【0039】
通信リンク28は例えば電力網運用者26が給電指令を送り、制御下の資産22、24から給電指令の受け入れ、拒否、または修正受入れを示すメッセージを受信するようになっていてもよい。または、通信リンク28が資産22、24へ、マシーン使用可能形式で電子信号を直接送達してもよい。更に別の形として、例えば、給電指令やサービス要求の市場提供、すなわち指定の発電機22や電力網14からの電力を指定の原価や値段や時間で広く一般に提供申し入れすること、の特質として、通信リンク28は間接的であるかもしれない。資産22、24は命令や要求や電気量に対して入札または契約を必要とし、仲介人や自動オークションシステムなどの仲介者を介してその責務の確認を受信することもある。
【0040】
他の発電機22や負荷24は、その電力網運用者26の実質的に制御範囲外で作動してよい。非管理下の発電機22や負荷24は典型的にはメータを介して電力網に接続され、それにより電力網運用者26はメータを介して接続された発電機22と負荷24の生産や消費を最低限知ることが可能となる。
【0041】
これに代わって、電力網14が別の形態をとることがある。例えば、遠隔地域においては、電力網14が一つの制御区域16内に含まれていて、他の電力網14や制御区域16とは相互接続されていないこともある。専用または個人所有の電気システムまたは電気システムの一部において、電気分解装置12は伝送ライン20を介してより直接的に発電機22に接続されていてもよい。これらの両方の場合においては、電力運用者26の機能は、これらの機能が実質的に自動化される程度にまでに単純化され得る。電力運用者26は、人を雇ってプログラマブルデバイスを使用する代理機関や会社ではなく、むしろプログラマブル・ロジック・コントローラやコンピュータやその他のプログラマブルデバイスであってよい。
【0042】
別の代替例では、負荷集約装置が電気分解装置12を含む複数の負荷24の運転の少なくとも一部の部分を管理して、複数の負荷の連結された能力に基づいて電力網サービスを提供してもよい。集約装置は複数の電気分解装置12または一つ以上の電気分解装置12と一つ以上の負荷24の混合体を管理してもよい。この場合、負荷集約装置は個人会社であってよいし、または電力運用者26とは別の事業体であってもよいが、負荷集約装置は電力網運用者26と電気分解装置運用者の一部であるとみなすことができる。
【0043】
電力網運用者26は制御区域16内の電気の生産と消費のバランスを取り、中でも電力網14内の電圧がほぼ一定となるようにする。さらに、各伝送ライン18、20によって搬送される電気量が、各伝送ライン18、20の最大容量未満であるようにしなければならない。
図1において電力網運用者26は、生産と消費のバランスと伝送上の制約との両方に対する管理責任がある。任意選択として、伝送制約は電力運用者26と協働する一つ以上のその他の運用者によって制御されてもよい。この場合、その他の運用者は電力網運用者26の一部であるとみなしてもよい。電力網運用者26は、電力網のバランスや制御を支援するため、または伝送制約を管理するための制御可能な負荷として電気分解装置12を利用してもよい。例えば、電力網14の一領域で過剰に生産された電気を電気分解装置12で消費して、電力網14の過電圧を防止するか、伝送ライン18、20を流れる電流が容量オーバーになることを防止するかのいずれか、あるいはその両方を行うことができる。
【0044】
電力網運用者26は、インバランス市場やレギュレータを介して、他の制御区域16との間の電気の移送を手配してもよい。電力網運用者26は、一般的にはそのような移送を回避しようとする。それは、電力網運用者26が電気を取り込む(インポートする)必要があるときはインバランスエネルギーが割高なタイミングであることが多いからである。電力網運用者26が電気を送出(エクスポート)する必要があるときは電気の値段が低いか採算割れにすらなっているタイミングであることが多い。
【0045】
電力網運用者26は電気分解装置12を利用して、そのままでは送出するしかないエネルギーや、別の制御区域から採算割れの値段で購入可能なエネルギーを吸収することができる。電力網運用者26はまた、生産を絞ることが困難であるか無駄が多くなる発電機22を、電気分解装置12がその生産された電気を消費可能な程度で継続運転させることも可能である。電気分解装置12のそのような利用は、電力網運用者26による給電指令によるか、または市場からの売込みによるものであってよい。
【0046】
エネルギーシステム10には天然ガスシステム30が含まれる。電気分解装置12は水素出口32を介して天然ガスシステム30に接続されている。天然ガスシステム30は様々な容量のパイプライン34を含み、それによって天然ガス供給部42からガス消費者40へ天然ガスが搬送される。天然ガスシステム30にはまた、天然ガスをパイプライン34の外部に貯蔵するための一つ以上の貯蔵器36が含まれていてもよい。任意選択で、水素出口32は、天然ガスシステム30を経由しないでガス消費者40へ水素を搬送する、水素パイプライン38へ接続されていてもよい。
図1において、天然ガスシステム30は図を簡単にするために制御区域16から離れて示されている。天然ガスシステム30と制御区域16は地上で重なり合う可能性がある。具体的にガス消費者40は、制御区域16内の負荷24または発電機22であってもよい。
【0047】
電気分解装置12は伝送ライン20から電気を受け取り、少なくともある時間の間は水素を製造する。水素の一部または全部は水素出口32から天然ガスパイプライン34の中へ注入される。こうして、電気分解装置12は電気エネルギーを水素に変換し、その水素を天然ガスシステム30内に貯蔵することによって、エネルギーシステム10内にエネルギーを貯蔵する。場合によっては、水素は天然ガス燃焼発電機22であるガス消費者40によって燃焼させられて、結果的に電気に再変換されることもある。制御区域16のある部分において電気分解装置12を利用して電気を水素に変換し、制御区域16の別の部分で天然ガス燃焼発電機22により相応の電気を生産すれば、天然ガスシステム30を介した電気の仮想移動が提供される。
【0048】
水素が実際にいつ天然ガス燃焼発電機22に到達するか否かには無関係に、水素が天然ガス消費に取って代わり、天然ガスシステム30への天然ガス入力の必要性を低減する。経営、課金、追跡、課税、炭素オフセット、炭素クレジット、またはその他のシステムやプロセスにおいて、水素は任意のガス消費者40によって任意の時に燃焼されたとみなすことができる。
【0049】
図2はエネルギーシステム10の一部、特に電気分解装置12と天然ガスシステム30の接続部を更に詳細に示す。図示した電気分解装置12は、コア50と中間貯蔵器52と圧縮機54を含む。電気分解装置12によっては天然ガスシステム30内に注入するのに充分な高圧力で水素を出力する運転が可能であるので、中間貯蔵器52と圧縮機54は推奨されるものの任意選択である。ただし、可変電力消費状態でコア50と天然ガスパイプライン34とを直接接続すると、電気分解装置スタック内に持続的な高圧力と圧力変動をもたらしやすい。このいずれの状態も水素の漏えいの可能性と程度を上昇させるが、水素をパイプライン圧力よりも低く製造して圧縮機54を設けることで回避可能である。
【0050】
図2に示す、コア50と電気分解装置12の他の部分と電気分解装置12の外部領域との間の部品の分割は任意である。例えば、中間貯蔵器52と圧縮機54はコア50内の周辺機器内に組み込むことが可能である。または、中間貯蔵器52と圧縮機54は、電気分解装置12を収納している建物の外部、さらには遠隔地にすら配置することもできる。
【0051】
図2において、電気分解装置のコア50が天然ガスシステム30の天然ガスパイプライン34内の圧力よりも低い圧力で水素を製造する。例えば、コア50は約100psigの水素を製造し得る。中間貯蔵器52がある場合には、中間貯蔵器は製造された水素を集積することを第一の目的としている。そうして、圧縮機54を頻繁に、つまり水素製造速度に合わせて作動させる必要がないようにし、またコア50内で吸引が生じないためのバッファを提供するようにしている。圧縮機54は例えば容積移送式ポンプであってよい。中間貯蔵器52と流体連通している貯蔵圧力計66が中間貯蔵器内の圧力を監視する。圧力計66が高圧設定値に到達したことを示すと、圧縮機54がスイッチオンされる。圧力計66が低圧設定値に到達したことを示すと、圧縮機54がスイッチオフされる。調整弁68のある循環ループ70を追加して、圧縮機の出力圧力が指定の最大値を超えないようになっていてもよい。
【0052】
水素出口32は、出口弁56とガスメータ58を介してガスパイプライン34の中へつながっている。出口弁56は例えば背圧調整器であって、天然ガスパイプライン34内の最大となりそうな圧力より高く設定された最小圧力、例えば500psig〜800psigを水素圧力が超えたときにのみ開くようになっていてよい。任意選択により、出口弁56は天然ガスパイプライン34内の実際の圧力を電子的または気圧式に検知して、天然ガスパイプライン34内の圧力に安全係数を加えたものに最小圧力が追従するように調節してもよい。これにより水素を過度に圧縮してエネルギーを消耗することが回避される。ガスメータ58は、一つ以上の課金または管理目的のために、ガスパイプライン内に流入する水素量を記録する。任意選択により、2つ以上のガスメータ58があって、1つが電気分解装置12の運用者によって所有、使用され、1つが天然ガスシステム30の運用者によって所有、使用されてもよい。またはこれに代わって、この両方の運用者が一つの会社であって、一つのガスメータ58からのデータを共有してもよい。ガスメータ58は随時手動で読み出されてもよいが、好ましくはガスメータ58が典型的には定期的なポーリング間隔でデータを送信可能となっている。
【0053】
電気分解装置のコア50には、水−水素分離器とガス乾燥機が含まれている。電気分解装置12内の湿度センサが、電気分解装置12を出る前の水素がガスパイプライン基準にまで下がっていることをチェックする。酸素センサが、水素中に電気分解装置安全基準またはガスパイプライン基準を超える酸素が含まれていないことを確認する。これらの内部センサに加えて、天然ガスシステム運用者は、ガスパイプライン34への入力点付近に独自の酸素と湿度のセンサを必要とすることもある。任意選択により、水素に例えば抗脆化添加物のような添加物が添加されて、天然ガスシステム30内の材料またはガス消費者40が使用する材料との水素の適合性を向上させるようになっていてもよい。
【0054】
電気分解装置12は、一つ以上の制御プロセスを実行する一つ以上のコントローラ60を持っている。一つの制御プロセスにおいて、コントローラ60が水素注入の時間的な最大速度を決定し、電気分解装置12が最大速度以上で水素注入することを防止する。最大速度は、例えば2容積%〜20容積%の前以って選択された最大水素濃度によって決定されてもよく、それが天然ガスシステムの全部品に適用される。この場合、水素を受け取る天然ガスパイプライン34内ではこの最大水素濃度を超えることはできない。したがって水素の注入速度はいかなる時でもその時のその天然ガスパイプライン34内の天然ガス流速の最大パーセンテージを超えることはできない。この条件をチェックするために、コントローラ60がパイプライン34に接続された天然ガスパイプライン流量計62からの信号Aと、ガスメータ58からの信号Bを受信する。上流には電気分解装置12も水素製造器もないと仮定して、コントローラ60は信号Bが表す流れを、信号Aが表す流れに最大パーセンテージをかけたものと比較する。
【0055】
最大水素注入速度の判定、すなわち最大の許容水素濃度を既に超過したか、超過しようとしているかの判定、のための様々な他の方法を利用することも可能である。例えば、上流に水素製造器がある場合には、コントローラ60は水素出口32の上流の水素センサに接続されて、水素出口32よりも上流のガスパイプライン34内の水素濃度を更に考慮するようにすることができる。あるいは、コントローラ60は水素出口32の下流の水素センサに接続されて、水素濃度が最大水素濃度を超えたかどうかを直接チェックしてもよい。また別の場合には、コントローラ60または電気分解装置運用者は、天然ガスシステム30を管理する事業体から取得した、ガスパイプライン34内の天然ガス流速を示す情報、または、直接または計算処理後の、天然ガスシステム30がもっと水素を受容できるかどうかの情報に応じてもよい。情報が天然ガスシステム30を管理する事業体から取得される場合、天然ガスシステム30のすべての部品に適用される単一の最大水素濃度には限定されない、最大注入速度をその事業体は決定することが可能なこともある。この場合、最大注入速度は、例えば貯蔵器36や流入する天然ガス流によるガスパイプライン34の下流での希釈を考慮してもよい。任意選択により、水素パイプライン38は貯蔵器36に水素を直接輸送してもよく、その場合更なる水素の注入が可能かどうかは貯蔵器36内の水素濃度が選択された最大濃度を超えるかどうかで判定されてもよい。
【0056】
コントローラ60は、ガスメータ58または内部ガスメータが表示する水素製造速度と、最大注入速度を連続的またはポーリング間隔で比較する。水素の製造速度が最大注入速度より低い限りは、製造速度は他の因子で決定することができる。しかし、水素の製造速度が最大注入速度を超える場合には、コントローラ60は運用者に警報を送ってもよいし、または例えば電気分解装置12内のDC電源への信号を利用して電気分解装置12の電力消費を直接減少させてもよい。任意選択により、コントローラ60または電気分解装置運用者は、電気分解装置12が電力消費を減少させつつあることを示す信号を電力網運用者26へ送信してもよい。
【0057】
電気分解装置12は好ましくは、ガスパイプライン34内の代表的な流れに対して、最大水素注入速度が超えられることは殆どないような大きさになっている。あるいはまた、水素パイプライン38は、電気分解装置12を遠隔の大きなガスパイプライン34に接続するか、または貯蔵器36へ直接接続するように用いられてもよい。任意の中間貯蔵器52を用いて、時には最大注入速度を超える速度で水素が製造可能となるようになっていてもよい。ただしそれでもコントローラ60は、ある時間における正味の水素製造速度を減少させる必要がある場合もある。水素の正味の製造速度は、実際の水素製造速度を減少させるか、製造された水素の一部を大気中に通気することによって減少させることができる。水素の通気は好ましくはないが、水素は通気された酸素または大気中にある酸素と再結合して水を形成するので、環境に対する実害はない。
【0058】
水素の製造速度を実際に減少させるには、一般的には電気の消費速度を減少させる必要がある。電力消費を抑えることは受け入れ可能であることが多いが、場合によっては電気分解装置12が所定量の電力を消費する契約または給電指令のもとにあるか、電気分解装置12が電力網サービスを行っている最中であることもある。このような場合には、計画外の電力消費削減は電力網14に実害を与えるか、電力運用者26または電気分解装置運用者に経済的損害を与える可能性がある。このような場合には電気分解装置運用者は水素の通気を選択することもある。
【0059】
計画外の電力消費削減や水素通気を回避するために、コントローラ60または電気分解装置の運用者またはその他の人や物が、ある期間にわたって続くことが想定される最大注入速度の予測を行ってもよい。この予測は、ガスパイプライン34内の現在の流速、ガスパイプライン34を流れる流速の現在の動向、過去のデータ、または天然ガス運用者から受信する情報、の一つ以上に基づくことができる。電気分解装置12が電力網運用者26によってあるレベルの制御を受けている場合、または電力網運用者26によって完全に制御されている場合には、この予測は使用可能な電力消費量に換算されて電力網運用者26に提供されてもよい。あるいはまた、電気分解装置運用者またはコントローラ60が、予測に基づいて電力網運用者26からの給電指令または電力網サービス要求を拒否または変更することもあり得る。別の場合には、電気分解装置運用者が予測に基づいてエネルギー契約を入札にかけることもできる。電気分解装置運用者は予測に安全係数を掛けることもあるし、予測が間違った場合には水素を通気する可能性を受け入れることもあり、また水素を通気する必要性を生じることが予測される電力消費給電指令または契約を引き受けることさえあり得る。
【0060】
ガスメータ58はパイプライン34に加えられた水素量を記録する。実際の水素の販売においては、天然ガスシステム30の運用者がそのメータ58の読みをもとに、契約または規則で確定された値段で水素に対する支払いを電気分解装置運用者にしてもよい。水素は天然ガスと混合し、その後は天然ガスとみなされる。任意選択により、パイプライン34と消費者40との間にある消費者ガスメータ64は、水素濃度センサを含んでもよい。メータ64または天然ガスシステム運用者によって運転されるコンピュータは、課金のために、実際のガス流速を調節して等価の発熱量を有する水素なしの天然ガスの流速を提供してもよい。あるいは、パイプライン34中への水素注入により生じる、メータ64を流れるガスの発熱量低下の推定値に基づいて、天然ガスシステム運用者は電気分解装置12より下流の一群の消費者40に対して調整を行ってもよい。
【0061】
ガス消費者40に対する実際の水素の販売は、計算または実測による流速と水素濃度情報とを用いて、実際に顧客によって消費された水素量を算出することによって行われてもよい。水素はまた、水素パイプライン38を通して、あるいはタンカートラックによって消費者40へ売ることも可能である。
【0062】
あるいは、水素の仮想販売を消費者40に対して行うことも可能である。様々な消費者40から引き出されたガスの量は、消費者ガスメータ64で記録される。ガスメータ58によって記録された積算量が水素の製造量以下の場合、各消費者40により消費されたガスの一部またはすべては水素であるとみなされる。消費者40は、電気分解装置運用者または天然ガスシステム運用者に対して、みなし水素に対する料金を支払う。水素の製造量とみなし消費量とはある期間においてはバランスすることもバランスしないこともあり得る。製造量とみなし消費量とが同一でない場合には、その期間に水素は貯蔵されたか天然ガスシステム30から引き出されたものとみなされる。
【0063】
任意選択により、水素の再販業者が電気分解装置運用者から水素を購入して、消費者40に販売する契約をすることもできる。水素再販業者による購入は、電気分解装置運用者へ支払われて、ガスメータ58に記録された流量から差し引かれる。残りの水素は天然ガスシステム運用者またはその他の顧客へ販売されてもよい。消費者40は、使用メータ64が示すガス使用量の一部または全部に対して、水素再販業者へ支払いをする。消費者40により使用された残りのガスのコストは、天然ガスシステム運用者に支払われる。
【0064】
これらのプロセスのすべてにおいて、水素の伝送または貯蔵に対する手数料が天然ガスシステム運用者に支払われることもある。水素は、水素としてまたは発熱量で等価な天然ガス量として課金されてもよい。
【0065】
水素はまた、その製造に使用された電力源に基づく属性を持って製造されたとみなされるか、またはタグ付けされることが可能である。例えば、電気分解装置12は電力網14に接続されるよりも、風力発電所や太陽発電設備やその他の特定の発電機22だけに接続されてもよい。より現実的には、電気分解装置12は発電機22と電力網14のその他の部分との間の伝送ライン20に接続することができる。電力網14から伝送ライン20への流れ、すなわち正味の流れがないと仮定すると、水素は特定の発電機22によって製造されたとタグ付けすることができる。電力網14から流入する流れ、すなわち正味の電流があるとしても、水素の一部は特定の発電機22によってその発電で製造されたとタグ付けすることができる。電気契約が市場で売買され、その契約が発電機22を指定している場合には、対応する量の水素はその指定された発電機22によって製造されたとタグ付けすることができる。
【0066】
タグ付けされた水素は、タグを考慮した条件のもとで実売または仮想販売をすることができる。例えば、風力、太陽光、バイオガスまたは合成ガスのような再生可能エネルギー源で運転される発電機22によって製造されたとしてタグ付けされた水素に対して、消費者40はより高い値段を支払うことを合意することがある。または、炭素クレジットや炭素オフセット、課税クレジット、またはその他の再生可能エネルギーに関する経済上や規則上の属性が、タグ付けされた水素に結び付いてもよい。タグ付けされた水素の製造と使用に関するデータはコンピュータに収集されて、タグ付けされた水素の売上請求書やほかの経済上または規則上の属性への転換の記録を算出するために使用される。水素の再販業者が関与する場合、再販業者はタグ付けされた水素のみの仮想購入をすることもあり得る。タグ付けされた水素の属性は再販業者に譲渡されて、その業者がその後顧客にその属性を譲渡することができる。このように、再販業者は再生可能資源からのみ製造された水素の仮想販売を提供することができる。この仮想販売は、実際には天然ガスの配送で行われて、実際の水素は別のどこかで天然ガス使用を置き換える、ということもあり得る。代替的には、再販業者が、炭素クレジット、炭素オフセントまたはその他のタグ付けされた水素を購入したことによる恩典を顧客に請求させてもよい。
【0067】
電気分解装置12は好ましくは高容量の伝送ライン20に接続されている。具体的には、電気分解装置12はインターチェンジ伝送ライン18に接続されているかその付近にあってもよい。インターチェンジ伝送ライン18はインバランス市場を介して別の制御区域へ電気を売買できるように構成されているので、電力網14は過剰の電気をこれらのライン18へ回送できるように構成されている。インターチェンジライン18の近くに配置された電気分解装置12は、電力網運用者26がインバランス市場で採算割れの値段で売却しなければならないことが多い過剰電力を消費するのに好適な場所にある。そのような電気分解装置12は、電力網運用者26が内部の伝送ライン20に過負荷をかけないで、インターチェンジライン18を介して流入インバランスエネルギーを購入または購入を認可することができるようにも配置される。
【0068】
天然ガスの値段が電気を天然ガスに転換すること自体では利益が出ないような場合に、電気分解装置12が主として電力網サービスを提供するように運転されてよい。このモードでは、電力網サービス提供の副産物として水素が製造されて販売される。ただしそれ以外の場合には製造されない。電気分解装置は給電されていない限り、またはある指定の期間において非常に安価に電気が供給される場合以外は休止される。電気分解装置12は電力網運用者26による要求に従って運転されるように契約されるか、電力網運用者26の直接管理下に置かれてもよい。5分以上の時間の長さの電力網サービスを提供する場合、電力網運用者26は給電指令と確認メッセージによって電気分解装置運用者と通信してもよい。給電指令は、電話、eメール、または専用データリンクで送られてよく、未来の一つ以上の期間における一つ以上の所望の消費速度が指定される。同一または別の通信形式で送られる確認メッセージは、電気分解装置12が給電指令の指定通りに電力を消費可能であるか消費する予定であることを示すか、あるいは電気分解装置12は給電指令の一部にのみ適合できることを示す。給電指令の期間中は、電気分解装置12による実際の消費量を記録するメータ84(
図3参照)からの情報もまた電力網運用者26に送信される。
【0069】
電気分解装置12が周波数制御などの短時間の電力網サービスを提供しているとき、命令と確認メッセージは電力網運用者26と電気分解装置のコントローラ60との間で直接送信される。これらのメッセージは専用通信リンク28上で送信されてもよい。
【0070】
ある状況においては、少なくとも水素に対する充分な需要がある限り、標準条件の電気分解装置を全出力運転しても、水素に対する市場価格によって利益が出せる。例えば、ハワイやシンガポールのような島においては天然ガスはタンカーで輸入されるか、島内で生産されなければならず、天然ガスの値段は一般的に高い。また、車両用燃料や加熱用燃料、工業用化学品として、廃水処理や合成ガスの品質向上において、また車両用天然ガスの添加物や天然ガス燃焼発電ステーションにおける天然ガス燃焼用添加物としても水素に何らかの市場がある。水素はまたプロパンに混合して、天然ガスと似たWAUB指数を有する混合ガスの提供に利用することができる。これらの場合には、電気分解装置12は、中断可能負荷であること、または負荷破壊または見かけ上の電力生産のために制御されることによって電力網サービスを提供可能である。
【0071】
図3は電気分解装置12の様々な電気部品を示している。電気分解装置12には一組のスタックアセンブリ80がある。次に各スタックアセンブリ80には複数の電気分解装置スタックがあってもよい。スタックは例えばアルカリ性または高分子電解質膜(PEM)スタックであってよい。PEMスタックはほぼ0に近い電圧で運転可能であるので好ましい。他方、アルカリ性スタックは一般的にはその最大消費電力のかなりのパーセンテージ、例えば50%未満では作動できない。PEMスタックはまた、より大きな電力密度を持ち、より高圧で水素を製造するように設計されることが多い。その一方で、ハイドロジェニクス社から販売されているようなアルカリ性スタックの一部は、セルフポンピング式に設計されている。このセルフポンピング機能は、水ポンプまたは流れ制御弁の速度を頻繁に変える必要がないので、電力網サービスを行う時に有益であり得る。
【0072】
電力は、AC−ACの降圧変圧器82を介して、電力網14の伝送ライン18、20から電気分解装置12へ供給される。降圧変圧器82は、伝送ライン18、20の電圧を制御区域16内の標準の降圧電圧、例えば120Vまたは220Vにまで下げる。全体の電力消費は主電気メータ84で追跡される。AC電気はメインバス86を介して電気分解装置12内の様々な部品で使用可能となる。
【0073】
各スタックアセンブリ80は、付属のDC電源90とスタック補助メータ88とを介してメインバス86に個別に接続されている。DC電源90は好ましくは広い電圧範囲と大きな電流容量と耐久性のある可変出力機構とを備えるべきである。好適な電源の1つは、AEGパワーソリューションズ社製のThyrobox H2(登録商標)電源である。これらの電源は、最大15,000AのDC1V〜DC400Vの間の直流出力を持ち、サイリスタをベースとする可変出力機構となっている。サイリスタ機構は固体素子装置であり、高速の電力変化が長期間にわたって継続することによって摩耗するような可動部品を持っていない。適切な電力を供給することが要求される場合には、各スタックアセンブリ80に複数の電源が備えられてもよい。
【0074】
電気分解装置12にはまた周辺機器94もあり、そのいくつかの部分は
図4に関連してさらに説明される。周辺機器94用の電力は、メインバス86から周辺機器用補助メータ92を通って供給される。
【0075】
例えば周波数制御の電力網サービスを提供するために運転する場合、主コントローラ60は電気分解装置12が指定量の電力を消費するようにDC電源90を運転しようとする。電力量は、通信リンク28を介して給電または市場提供を考慮している運用者によって指定されてもよいし、または通信リンク28を介した電力網運用者26による直接制御によって指定されてもよい。コントローラ60は、周辺機器94に必要な電力量だけDC電源90によって消費される電力を減らしてもよい。この電力量は、例えば全体の指定された電力消費のパーセンテージとして見積もられてもよいし、あるいは周辺機器メータ92をポーリングすることによって決定されてもよい。消費されるべき残りの電力は、複数のDC電源90の間で分割される。スタック補助メータ88の読みが、各電源90からの所望出力を調整するための内部制御ないしはフィードバックループに利用されて、スタック補助メータ88により決定される実際の消費電力が、指定された電力消費の予定した部分に一致するようにしてもよい。これらの内部ループは各DC電源90に接続された補助コントローラと、それに付属するスタック補助メータ88において作用してもよい。任意選択により、主メータ84の読みが制御信号を調節するために外部制御またはフィードバックループに利用されて、主メータ84で決定される電気分解装置12による全電力消費が指定された量に一致するようにされてもよい。例えば周波数制御においては、電力網運用者26は一連の給電を送り、各給電が指定の期間における所望の電力消費を示してもよい。コントローラ60は給電が実際の電力消費のタイミングと量にできるだけ正確に、または少なくとも適用期間の90%において、少なくとも指定の電力消費の例えば10%の許容範囲内で一致させるようにする。給電への追従の許容範囲は電力網管理者26によって直接指定されるか、または既定の許容範囲を超えた運転に対するペナルティとして指定されてもよい。
【0076】
付属する電源90と共に複数のスタックアセンブリ80を提供することで、複数のスタックアセンブリ80を同時に異なる電力消費で運転することが可能となる。コントローラ60はいくつかの運転モードを実施するようにプログラムされてもよい。コントローラ60は、運用者の要求もしくは制御により、または指定の電力網サービス契約に対して、もしくは予測や契約した将来の電力消費や値段に対してプログラムされた応答として、複数の運転モードの中から選択する。
【0077】
例えば、電気分解装置12は一次または二次の周波数制御サービスなどの電力網安定化サービスを提供することができる。そこでは指定の電力消費が、5サイクルから5もしくは10分の期間にわたり、または予測できないそれより長期間にわたり変動することが予想される。例えば、一次周波数制御サービス契約において、指定の電力消費は4秒ごとに変動し得る。これは北米電力網14での自動発電制御(AGC)信号間の時間である。二次周波数制御サービス契約においては、指定の電力消費は5から10分ごとに変動し得る。これらの場合、コントローラ60は、すべてのスタックアセンブリ80をほぼ同一の出力レベルで運転する。このように、電力変動の全量が最大数のスタックアセンブリ80に分散されて、各スタックアセンブリ80に最小の割合が課せられるようにする。余分のスタックアセンブリ80は停止するかスタンバイにされてよい。例えば、5つのスタックアセンブリ80を持つ1MWの電気分解装置12の場合、0.5MWの一次周波数制御を提供する契約は、3つのスタックアセンブリ80を、契約の充足に必要なほぼ同一出力レベルで運転することによって対応される。残りの2つのスタックアセンブリ80は、停止されるかスタンバイにされる。ただしこの2つの残ったスタックアセンブリ80は、余分の水素を製造しても十分に利益が出る低価格で電気を購入できる機会が生じた場合には起動することができる。
【0078】
二次または三次の周波数制御サービスを行う場合、5分〜30分の間、例えば二次調整に対しては5分〜10分の間、三次調整に対して15分〜30分の間、にわたって指定の電力消費が変動することが予想される。ある期間における変動の最大量は予測可能であることもある。この場合、そして指定の電力消費における変化がまれにしかないか予測可能な他のサービスであれば、コントローラ60は、周波数制御期間における予想される最小消費である、公称ベースライン消費を生じるのに必要なスタックアセンブリ80の数を決定する。ここで周波数制御期間は電力網サービス契約の全期間であってもよいし、その一部分であってもよい。そうして、コントローラはこれらのスタックアセンブリ80を全出力で運転する。コントローラはその周波数制御期間に予想される追加的な消費を行うのに十分なだけのスタックアセンブリ80の第二の数を予測する。コントローラはこれらのスタックアセンブリ80を消費電力可変で運転する。こうして、制御ループ内の発振や誤差の影響が低減される。さらに定常状態で運転することで、スタックアセンブリ80に生じる摩耗が一般的に小さくなる。残りのスタックアセンブリ80はいずれも停止またはスタンバイにされる。ただし、余分の水素を製造しても収益が得られるほど低い価格で電気を購入できる機会が生じた場合には、これらの残りの2つのスタックアセンブリは起動されてもよい。
【0079】
一例として、1MWの電気分解装置12が5つのスタックアセンブリ80を持っているとする。
電気分解装置12は、一つのスタックアセンブリ80から最大0.2MWのアクティブな周波数制御を提供し、残りの4つのスタックアセンブリ80で0〜0.8MWの間のベースライン消費をすることも可能である。1MWを消費する間はすべてのスタックアセンブリ80が運転される。所要のベースライン消費が0.6MWに下がると、一つのスタックアセンブリ80を、停止もしくはスタンバイモードとするか、またはアクティブな周波数制御を提供するように運転することが可能である。ベースライン消費を提供する場合は、アクティブな周波数制御に必要のないスタックアセンブリ80のすべてにベースライン消費を分散させるのではなく、可能な限り多くのスタックアセンブリ80を停止またはスタンバイにすることが好ましい。しかし電気分解装置12がベースライン消費なしで1MWの周波数制御を行う必要がある(すなわち指定の電力出力が、急激または予想困難な状態で0.8MWだけ変動することが予想される)場合には、すべてのスタックアセンブリ80が同じ変動出力レベルで運転される。
図4に関連してこの後さらに説明するように、電力消費と水素製造が可変であるにも拘わらず、水素は実質的に一定圧力で製造される。
【0080】
別の運転モードにおいては、電気分解装置12が水素製造またはエネルギー裁定取引(アービトラージ)モードを行うために運転される。水素製造で利益が出せる値段で電気が入手できるときはいつでも、すべてのスタックアセンブリ80が全出力で運転される。電気価格が高すぎて水素売却では利益を得ることができない場合には、すべてのスタックアセンブリ80が停止またはスタンバイモードにされる。任意選択により、水素製造をした場合に得られるであろう利益を、電力網サービス提供による利益と比較することができる。電力網サービス提供から期待される利益には、電力網サービスを提供している間に製造される水素の推定価値を上乗せすることができる。電力網サービスの価値が高い場合には、電気分解装置能力の十分な部分が電気網サービス提供に割り当てられる。残りのスタックアセンブリ80のすべては水素製造すなわち裁定取引モードで運転可能である。任意選択により、一つ以上のスタックアセンブリ80が水素製造すなわち裁定取引モードで運転されている場合、コントローラ60は一つ以上のスタックアセンブリ80の起動と停止をするようにプログラムされて、指定の値段以下で電気が入手される間中、一つ以上のスタックアセンブリ80を運転するようになっていてもよい。
【0081】
自動電力網サービスモードにおいては、コントローラ60は電力網電圧メータ96または他の電力網状態センサにリンクされていてもよい。電力網電圧が上昇しつつあるか高い場合には、コントローラ60は、最大電力消費に到達するか電力網電圧が目標範囲内で安定化するまで電力消費を上げる。反対に、電力網電圧が低下しつつあるか低い場合には、コントローラ60は電力網電圧が目標範囲内で安定化するまで電力消費を減らす。
【0082】
図4は電気分解装置12の周辺機器94の様々な要素を示している。各スタックアセンブリ80には、スタックアセンブリ80内または酸素出口102内にサーモスタット90がある。サーモスタット90は、スタックアセンブリ80につながる水入力ライン104の流れ制御弁100に接続されている。スタック温度コントローラ106あるいは主コントローラ60などの別のコントローラが流れ制御弁100を変調して、スタックアセンブリの温度を指定範囲内に維持する。水の流れは一組の平行ポンプ108から供給される。ポンプ108の数は最大設計水流を提供するのに必要な数より1つ多く、一つのポンプ108が供用から外されてもよいようになっている。流れ制御弁100を利用して個別スタックアセンブリ80の温度を制御することにより、ポンプ108の運転速度のばらつきが減り、一つのポンプセットを複数のスタックアセンブリ80に使用することが可能となる。スタックアセンブリ80を通る水流もまた、スタックアセンブリ80が停止またはスタンバイモードと運転モードとの間を遷移すると、自動的に停止と再スタートを行う。
【0083】
酸素を含む余剰の冷却水が製造され、酸素出口102から酸素分離器110へ移動する。酸素分離器110内の圧力は、酸素制御器112によってほぼ一定レベルに維持される。分離された水114は、ラジエータ116とファン118などの冷却装置を介してポンプ108に戻る。ファン118の速度を制御して、ポンプ108に到達する水が所望温度となるようにする。再循環弁120がポンプ108に引き込まれる流れに応じて変調され、流れ制御弁100を閉じることでポンプ108に圧力がかかる場合に水の再循環を可能とする。ポンプ108の速度、あるいは稼働するポンプ108の数を減らしてもよいが、ポンプ108の速度が繰り返し変化すると、急激に摩耗が起きる。
【0084】
水素は各スタックアセンブリの水素出口122から製造されて、水素分離器124へ移動する。分離された水126は補給水タンク128へ流入する。補給水タンク128はまた必要な場合には脱イオン補給水130を受け取る。酸素分離器110内の水位が指定の最低値にまで低下すると、ポンプ108が補給水を水再循環回路に汲み入れる。
【0085】
水素分離器124内の圧力は、水素制御器132によって決定される。製造された水素は中間貯蔵タンク52に収集される。中間貯蔵タンク52内の圧力は、常に水素分離器124内の圧力よりも低い。但し
図2を再度参照すると、圧縮機54が運転されて、中間貯蔵タンク内の圧力が水素分離器124のゲージ圧力の指定割合、例えば80%、より下には下がらないようになっていて、圧力エネルギーの損失を低減する。電気分解装置12から出る酸素は、圧力回復タービンまたはその他の装置を通過して圧力エネルギーを回復してもよい。
【0086】
スタックアセンブリ80のシールは長期間にわたって印加される圧力の結果により、また印加される圧力の変動により、摩耗することがある。電気分解装置12を電力網サービスの提供に使用する場合、スタックにかかる電力は頻繁に変動するので、対応する圧力変動を回避することが有益である。
【0087】
シールにかかる圧力は、複数のスタックアセンブリ80を共通のガス分離容器124、110へ通気することでより全体としてより一定に保持される。特に、一つ以上のスタックアセンブリ80が水素を製造している場合、圧力制御器112、132はスタックアセンブリ80からガスを流出させつつガス分離容器124、110内を安定した圧力とすることができる。一つのスタックアセンブリ80で製造されたガスの変動は、ガス分離容器124、110の大きさによって減衰される。従って、各スタックアセンブリがガス分離容器を備えているプラントに比べて、システム全体として圧力制御装置が少なくて済み、また圧力制御装置の動きも小さくて済む。酸素制御器112と水素制御器132の間に生じる圧力は、スタックアセンブリ80の膜の両側にほぼ等しい圧力を維持する。
【0088】
スタックのガス出口はスタックの頂部にあり、水はスタック内を上向きに流れる。スタックの電源が切られると、残留ガスの泡は上向きに流れてガス分離器110、124へ向かう。水はガス分離器110、124から下に流れ出てスタックアセンブリ80に入る。スタック内の水は残留した水素と酸の反応を防止し、例えば触媒などのスタック内の材料を劣化させたり、スタックが燃料電池に変換されたりすることを防止する。水はまたスタック内の圧力を保持して、圧力変動を低減する。このようにして、周辺機器内のその他の変更を必要とせずに、スタックへの電力を下げることが可能である。
【0089】
図5では、消費者40は水素濃縮抽出装置134を通してパイプライン34からガスを引き出すことができる。複数のメータ64によって、パイプライン34から引き出されたガス量、パイプライン34に戻されたガス量、そして消費者40に配送されたガス量が計量可能となっている。遮断弁136により抽出装置134を任意選択的にバッチモードで運転することが可能となる。水素を除去されたガスは、圧縮機138によってパイプライン34に戻すことができる。
【0090】
消費者40は、例えば天然ガス燃料補給ステーションや天然ガス燃焼発電ステーションであってよい。家庭用燃焼炉などの一般的なガス燃焼器具の運転を実質的に変化させないで、例えば最大約5%の可変低濃度の水素を、天然ガスに添加することが可能である。ただし、エンジンはその燃料組成の変更にはより敏感である場合がある。天然ガスエンジンとしては、発電用のガス燃焼タービンや車両の内燃エンジンがある。ここでは最大約15%までの中程度の水素濃度は天然ガスエンジンの運転に有益であり、二酸化炭素や汚染物質の排出を低減できる。
【0091】
天然ガスエンジンの制御装置には、燃料中の水素濃度や、燃料中の水素濃度に応答したエンジン性能、またはその両方を検出して、それに応じて反応するものもある。また、車両用の燃料補給ステーションや天然ガス燃焼タービン用の補給システムにおいては、天然ガスを水素で濃縮して、パイプライン34中の水素濃度よりも高い概ね一定濃度の一つ以上のグレードとして供給してもよい。
【0092】
例えば、パイプライン34から引き出された天然ガスの水素濃度を計測して、所望濃度に達するまで所要量の水素を添加して、5%または10%の水素濃縮された天然ガス製品を製造することができる。任意選択により、所要量を事前計算することに加え、またはその代わりに、水素濃度センサをモニタすることによって水素の所望量を決定することが可能である。この場合、パイプライン34から引き出された天然ガス中の水素濃度の計測は省略できる。追加する水素は、水素パイプライン38、タンクローリー、その場での電気分解、または水蒸気改質などのその場での天然ガス変換によって提供可能である。電気分解装置12を燃料補給ステーションや発電ステーションと共存させるか、または水素パイプライン38に接続することにより、天然ガス濃縮に水素を直接提供することも可能である。
【0093】
またはこれに代わって、水素濃度を増減させた混合ガスをパイプライン34から抽出装置134を介して抽出することもできる。抽出された混合ガスが所望濃度以上の水素を含む場合、パイプライン34からの非濃縮ガスで水素を希釈して目標濃度とすることが可能である。
【0094】
抽出装置134では、例えば、パラジウムまたはパラジウム銀合金製の膜などの水素選択性膜によって水素濃縮ガスを取り除くことができる。パイプラインガスはまた圧縮してその一成分のみを液化させることによりガス分離を行うことも可能である。水素濃縮天然ガスは、抽出装置134の吸収剤によって取出してもよい。吸収剤は、ランタンニッケルや鉄−チタンなどの金属を形成する金属水素化物、またはカーボンナノチューブであってよい。この場合、抽出装置134は吸収剤で充填されたタンクである。操作弁136と圧縮機138とにより、パイプラインガスはタンクをパイプライン圧力で通過し、それによって水素が金属水素化物として捕捉される。次にタンクがパイプライン34から分離されて、消費者40へ送出される。抽出装置134の圧力が下げられると、吸収された水素は再び解放されて水素濃縮天然ガスが生成される。
【0095】
燃料補給ステーションや発電プラントから引き出された水素量は、天然ガスとは別に課金するためにモニタされてもよい。水素または水素濃縮天然ガスは、異なる値段、炭素クレジットまたは再生可能エネルギー恩典を持っていてもよい。燃料補給ステーションはこの恩典を顧客に譲渡するか、低排出燃料または部分的な再生可能燃料の購入オプションを顧客に提供してもよい。
【0096】
複数の電気分解装置12を有するエネルギーシステム10において、2つ以上の電気分解装置12の運転は一つの連合体として一緒に制御されてもよい。例えば、電力網14が過剰電気を消費してほしい場合に連合体のコントローラは、電気伝送の制約がより少ないか、パイプラインに注入可能な水素量に関する制約が少ないか、またはより高価値の水素使用市場に寄与しやすい一つの電気分解装置12を運転させることができる。
【0097】
任意選択により、水素はパイプラインに間接的に使用または注入されてもよい。具体的には、水素はメタン製造プロセスへ投入されてもよい。そうしてメタンがガスパイプラインに注入されるか、車両燃料補給ステーションまたは発電ステーションへ供給されてもよい。水素は、例えばサバティエプロセスによってメタンに変換可能である。サバティエプロセスでは、水素の他に二酸化炭素の供給源が必要である。二酸化炭素は、エンジンや燃焼炉からの排ガスから、またはバイオガスから、または別の炭素隔離プロセスから抽出可能である。あるいはその代わりに、例えばバイオマスからのメタン製造に使用される分解器のような嫌気性分解器に水素を添加することによって、水素をメタンに変換することが可能である。分解器中で水素は二酸化炭素と結合してメタンを生成し、分解器のメタン出力を増大させる。または、嫌気性分解器により製造されたバイオガスから分離された二酸化炭素に、水素を分解器の外で結合させてもよい。
【0098】
水素をメタンに変換することにより、水素のポテンシャルエネルギーの約20%が消費される。ただしこの損失の一部は廃熱として回収され得る。さらに、メタンは天然ガスパイプライン中に無制限に注入することができる。メタンはまた、エネルギー密度が水素の約3倍であり、既存の天然ガス燃料自動車の主要燃料である。従って場合によってはメタンへの変換は好ましい。具体的には、水素製造コストの少なくとも一部が電力網サービスの提供により負担されるか、メタン化プロセスにおける二酸化炭素の消費が炭素クレジットなどの恩典を提供するか、または水素または水素製造のために使用される電気が、そうでない場合には廃棄されてしまうような場合には、メタン製造は水素の有望な利用法であり得る。