特許第6860662号(P6860662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

特許6860662キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築
<>
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000002
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000003
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000004
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000005
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000006
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000007
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000008
  • 特許6860662-キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860662
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】キメラ生成物の同定のためのバーコードを付けられた環状ライブラリーの構築
(51)【国際特許分類】
   C40B 50/06 20060101AFI20210412BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20210412BHJP
   C40B 40/06 20060101ALI20210412BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20210412BHJP
【FI】
   C40B50/06
   C12N15/10 Z
   C40B40/06
   C12Q1/6869 Z
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-522579(P2019-522579)
(86)(22)【出願日】2017年10月24日
(65)【公表番号】特表2019-532090(P2019-532090A)
(43)【公表日】2019年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2017077111
(87)【国際公開番号】WO2018077847
(87)【国際公開日】20180503
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】62/415,245
(32)【優先日】2016年10月31日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ゲットゥシェ,トゥーミー
(72)【発明者】
【氏名】リチャードソン,アーロン
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/188192(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/105199(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/172632(WO,A1)
【文献】 特表2016−516410(JP,A)
【文献】 特表2008−515451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−90
C40B 50/06
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の標的分子を含む試料から標的核酸分子のライブラリーを作製する方法であって、該方法が、実質的にそれぞれの標的分子に関して以下の工程:
a.標的分子に単一のアダプターをライゲーションさせて環状分子を形成すること、ここで該アダプターは、2つのバーコード、該2つのバーコードの間に位置する2つのプライマー結合部位(ここで、該結合部位にアニーリングするプライマーは、互いから離れる方向を向くものである)、および該2つのプライマー結合部位の間に位置する核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含むものである;
b.該アダプターに相補的なフォワードプライマーを該標的分子の一方の鎖にアニーリングさせること;
c.該フォワードプライマーを該修飾ヌクレオチドに至るまで伸長させ、それにより第1鎖を生成すること;
d.該アダプターに相補的なリバースプライマーを該第1鎖にアニーリングさせること;ならびに、
e.該第1プライマーを伸長させ、それにより該第2鎖を生成し、そして該第1鎖および該第2鎖を含む二本鎖分子を形成すること、ここで、該2つのバーコードは該標的配列に隣接しているものである;
を含み、
ここで、該フォワードプライマーおよび該リバースプライマーの少なくとも一方が、該アダプターに相補的ではない追加のプライマー結合部位を含む5’フラップ配列を含むものである、前記方法。
【請求項2】
さらに追加のプライマーを該フォワードプライマー中の該フラップ配列に相補的な配列にアニーリングさせ、該追加のプライマーを伸長させ、それにより2つの追加のプライマー部位および該標的配列に隣接する該2つのバーコードを含む二本鎖分子を生成する工程を含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
工程a.における該標的分子および該アダプターが一本鎖である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a.における該標的分子および該アダプターが二本鎖であり、該環状分子が工程b.における該プライマーのアニーリングに対して少なくとも部分的に変性したプライマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該バーコードが4〜20塩基長のヌクレオチド配列である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する修飾ヌクレオチドが、脱塩基ヌクレオチド、タンパク質側鎖基を有するヌクレオチド、合成ヌクレオチドAraC(シタラビン)もしくはデオキシウラシル、イソグアニン、5−メチルイソシトシン、エチレングリコールスペーサー類、蛍光団のようなかさ高い類縁体を有するヌクレオチド、または非天然塩基対(UBP)“d5SICS−dNaM”核酸類縁体から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ライゲーションが、オーバーハングライゲーション、T−Aライゲーション、平滑末端ライゲーションおよびトポイソメラーゼに触媒されるライゲーションから選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該アダプターが一方の末端において光切断性リンカーを有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
複数の標的分子を含む試料中の標的核酸を配列決定する方法であって、該方法が、以下の工程:
a.標的核酸分子のライブラリーを、該試料から、単一の二本鎖アダプターを実質的にそれぞれの二本鎖標的分子にライゲーションして二本鎖環状分子を形成することにより作製すること、ここで、該アダプターが、2つのバーコード、該2つのバーコードの間に位置する2つのプライマー結合部位(ここで、該結合部位にアニーリングするプライマーは、互いから離れる方向を向くものである)、および該2つのプライマー結合部位の間に位置する核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含むものである;
b.該二本鎖環状標的分子の少なくとも一部を変性させること;
c.該アダプターに相補的なフォワードプライマーを該標的分子の一方の鎖にアニーリングさせること;
d.該フォワードプライマーを該修飾ヌクレオチドに至るまで伸長し、それにより第1鎖を生成すること;
e.該アダプターに相補的なリバースプライマーを該第1鎖にアニーリングさせること;
f.該第1プライマーを伸長し、それにより該第2鎖を生成し、そして該第1鎖および該第2鎖を含む二本鎖分子を形成すること、ここで、該2つのバーコードは該標的配列に隣接しているものである;
g.工程f.からの該二本鎖分子を増幅すること;ならびに、
h.工程g.からの増幅産物を配列決定すること;
を含み、
ここで、該フォワードプライマーおよび該リバースプライマーの少なくとも一方が、該アダプターに相補的ではない追加のプライマー結合部位を含む5’フラップ配列を含む、前記方法。
【請求項10】
工程f.の後に、追加のプライマーを該フォワードプライマー中の該フラップ配列に相補的な配列にアニーリングさせ、該追加のプライマーを伸長し、それにより2つの追加のプライマー部位および該標的配列に隣接する該2つのバーコードを含む二本鎖分子を生成する工程f1.を含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
工程g.における増幅が、該追加のプライマーを用いて実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程h.における配列決定が、該追加のプライマーを用いて実施される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列決定の分野に関する。より詳細には、本発明は、核酸配列決定のためのバーコードを付けられた鋳型ライブラリーの作製の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸配列決定法の現世代は、標的分子のライブラリーを利用し、それからそれぞれの個々の分子が配列決定される。ライブラリー中のそれぞれの分子は、選択された配列決定法および配列決定機器に必要な人工配列にコンジュゲートされた分析されるべき標的配列を含む。人工配列は、一般に個々の分子または分子の群に独特の目印を付けるために用いられるヌクレオチドの短い配列であるバーコードを含む。
【0003】
ユニーク分子バーコードは、多数の使用を有する。それぞれの個々の核酸分子のマーキングおよび追跡は、極めて稀な配列、例えば患者の血液中に痕跡量で存在し、癌の非侵襲的早期検出および正確なモニタリングのために用いられる環状腫瘍DNA(ctDNA)の検出を可能にする(Newman, A., et al., (2014) An ultrasensitive method for quantitating circulating tumor DNA with broad patient coverage, Nature Medicine doi:10.1038/nm.3519を参照)。単一の標的分子の全子孫は、同じバーコードで印を付けられ、バーコードを付けられたファミリーを形成する。従って、バーコードは、エラー補正のために用いられることができる。バーコードを付けられたファミリーの全てのメンバーにより共有されていない配列におけるバリエーションは、人為産物であり真の変異ではないものとして破棄される。バーコードは、ファミリー全体が元の試料において単一の分子に相当するため、位置の重複排除および標的の定量化のために用いられることもできる(Newman, A., et al., (2016) Integrated digital error suppression for improved detection of circulating tumor DNA, Nature Biotechnology 34:547参照)。
【0004】
バーコードが可能にするエラー補正は、配列決定アッセイの感度を大きく高めてきた。配列決定の人為産物、例えばポリメラーゼのエラーは、もはや稀な点変異の検出に対する障壁ではない。同時に、バーコードは、ヒトの悪性腫瘍における別の一般的なタイプの変異である転座(遺伝子融合)の検出には有益ではなかった。Mertens, et al. (2015) The emerging complexity of gene fusions in cancer, Nat. Rev. Cancer 15:371; F. Mitelman, et al. (2007) The impact of translocations and gene fusions on cancer causation, Nat. Rev. Cancer 7:233参照。バーコードは典型的には標的分子の両方の末端にランダムにライゲーションされるため、どの5’バーコードが本来どの3’バーコードと関係しているのかは分からない。これは、キメラ分子がPCR中の鋳型スイッチングにより生成されるため、ライブラリー調製の増幅工程の間に問題を引き起こす。配列決定ライブラリー中に存在する人為的に生成されたキメラ分子は、元の試料中に存在していた可能性のある本物の遺伝子融合と識別できない。これは、癌における重要なドライバー変異であり得る低頻度の遺伝子融合を検出する能力を直接制限する。人為的遺伝子融合を追跡および排除して真の変異の検出を可能にするためのバーコードに基づく方法が、必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Newman, A., et al., (2014) An ultrasensitive method for quantitating circulating tumor DNA with broad patient coverage, Nature Medicine doi:10.1038/nm.3519
【非特許文献2】Newman, A., et al., (2016) Integrated digital error suppression for improved detection of circulating tumor DNA, Nature Biotechnology 34:547
【非特許文献3】Mertens, et al. (2015) The emerging complexity of gene fusions in cancer, Nat. Rev. Cancer 15:371
【非特許文献4】F. Mitelman, et al. (2007) The impact of translocations and gene fusions on cancer causation, Nat. Rev. Cancer 7:233
【発明の概要】
【0006】
ある態様において、本発明は、複数の標的分子を含む試料から標的核酸分子のライブラリーを作製する方法であり、その方法は、実質的にそれぞれの標的分子に関して以下の工程を含む:標的分子に単一のアダプターをライゲーションさせて環状分子を形成し(ここで、アダプターは、2つのバーコード、2つのバーコードの間に位置する2つのプライマー結合部位(ここで、その結合部位にアニーリングするプライマーは、互いから離れる方向を向く)およびその2つのプライマー結合部位の間に位置する核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む);アダプターに相補的なフォワードプライマーを標的分子の一方の鎖にアニーリングさせ;フォワードプライマーを修飾ヌクレオチドに至るまで伸長し、それにより第1鎖を生成し;アダプターに相補的なリバースプライマーを第1鎖にアニーリングさせ;第1プライマーを伸長し、それにより第2鎖を生成し、そして第1鎖および第2鎖を含む二本鎖分子(ここで、2つのバーコードは標的配列に隣接している)を形成する。ある態様において、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの少なくとも一方は、アダプターに相補的ではなく追加のプライマー結合部位を含む5’フラップ配列を含む。次いで、方法は、さらに追加のプライマーをフォワードプライマー中のフラップ配列に相補的な配列にアニーリングさせ、そして追加のプライマーを伸長し、それにより2つの追加のプライマー部位および標的配列に隣接する2つのバーコードを含む二本鎖分子を生成する工程を含む。ある態様において、標的分子およびアダプターは、一本鎖である。他の態様において、標的分子およびアダプターは、二本鎖であり、環状分子は、プライマーのアニーリングに対して少なくとも部分的に変性したプライマーである。ある態様において、バーコードは、4〜20塩基長のヌクレオチド配列である。核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する修飾ヌクレオチドは、脱塩基ヌクレオチド、タンパク質側鎖基を有するヌクレオチド、合成ヌクレオチドAraC(シタラビン)もしくはデオキシウラシル、イソグアニン、5−メチルイソシトシン、エチレングリコールスペーサー類、蛍光団のようなかさ高い類縁体を有するヌクレオチド、または非天然塩基対(UBP)“d5SICS−dNaM”核酸類縁体から選択されることができる。ライゲーションは、オーバーハングライゲーション、T−Aライゲーション、平滑末端ライゲーションおよびトポイソメラーゼに触媒されるライゲーションから選択されることができる。ある態様において、アダプターは、一方の末端において光切断性リンカーを有する。これらの態様において、リンカーは、一方の末端にライゲーションしており、他方の末端におけるライゲーションを可能にするために紫外光に曝露される。ある態様において、追加のプライマーは、配列決定プライマーである。
【0007】
ある態様において、本発明は、標的核酸分子のライブラリーであり、ここで、それぞれの分子は、標的配列および標的配列の末端に連結されているアダプターを含む環状分子であり、アダプターは、以下のものを含む:2つのバーコード;2つのバーコードの間に位置する2つのプライマー結合部位(ここで、その結合部位にアニーリングするプライマーは、互いから離れる方向を向く);その2つのプライマー結合部位の間に位置する核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する少なくとも1つの修飾ヌクレオチド。ある態様において、バーコードは、4〜20塩基長のヌクレオチド配列である。核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する修飾ヌクレオチドは、脱塩基ヌクレオチド、タンパク質側鎖基を有するヌクレオチド、合成ヌクレオチドAraC(シタラビン)もしくはデオキシウラシル、イソグアニン、5−メチルイソシトシン、エチレングリコールスペーサー類、蛍光団のようなかさ高い類縁体を有するヌクレオチド、または非天然塩基対(UBP)“d5SICS−dNaM”核酸類縁体から選択されることができる。
【0008】
他の態様において、本発明は、複数の標的分子を含む試料中の標的核酸を配列決定する方法であり、その方法は、以下の工程を含む:標的核酸分子のライブラリーを、試料から、単一の二本鎖アダプターを実質的にそれぞれの二本鎖標的分子にライゲーションして二本鎖環状分子を形成することにより作製し(ここで、アダプターは、2つのバーコード、2つのバーコードの間に位置する2つのプライマー結合部位(ここで、その結合部位にアニーリングするプライマーは、互いから離れる方向を向く)およびその2つのプライマー結合部位の間に位置する核酸ポリメラーゼによる鎖合成の終結を達成する少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む);二本鎖環状標的分子の少なくとも一部を変性させ;アダプターに相補的なフォワードプライマーを標的分子の一方の鎖にアニーリングさせ;フォワードプライマーを修飾ヌクレオチドに至るまで伸長し、それにより第1鎖を生成し;アダプターに相補的なリバースプライマーを第1鎖にアニーリングさせ;第1プライマーを伸長し、それにより第2鎖を生成し、および第1鎖および第2鎖を含む二本鎖分子(ここで、2つのバーコードは標的配列に隣接している)を形成し;二本鎖分子を増幅し;そして二本鎖分子の増幅産物を配列決定する。ある態様において、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの少なくとも一方は、アダプターに相補的ではなく追加のプライマー結合部位を含む5’フラップ配列を含む。ある態様において、方法は、さらに、第1プライマーの伸長後に追加のプライマーをフォワードプライマー中のフラップ配列に相補的な配列にアニーリングさせ、そして追加のプライマーを伸長し、それにより2つの追加のプライマー部位および標的配列に隣接する2つのバーコードを含む二本鎖分子を生成することを含む。ある態様において、増幅または配列決定は、追加のプライマーを用いて実施されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明に従う一本鎖のバーコードを付けられたライブラリー分子の図である。
図2図2は、フォワードプライマーを用いた第1鎖合成の開始の図である。
図3図3は、第1鎖合成および終結の図である。
図4図4は、完成した第1鎖の図である。
図5図5は、第1鎖を鋳型として用いるリバースプライマーによる第2鎖合成の開始の図である。
図6図6は、完成した第2鎖の図である。
図7図7は、第2鎖を鋳型として用いる次のラウンドのフォワードプライマーによる第1鎖合成の開始の図である。
図8図8は、完成した配列決定鋳型分子の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
以下の定義は、本開示の理解を助ける。
【0011】
用語“試料”は、標的核酸を含有する、または含有することが推定されるあらゆる組成物を指す。これは、個人から分離された組織または流体の試料、例えば皮膚、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、血球、器官および腫瘍を含み、個々の患者から、またはモデル生物から採取された細胞から確立されたインビトロ培養物の試料も含み、ホルマリン固定されパラフィン包理された組織(FFPET)およびそれらから単離された核酸も含む。試料は、無細胞材料、例えば無細胞DNA(cfDNA)または循環腫瘍DNA(ctDNA)を含有する無細胞血液画分も含むことができる。
【0012】
用語“核酸”は、DNA、RNAおよびそれらの下位カテゴリー、例えばcDNA、mRNA等を含むヌクレオチド(例えばリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチド、天然および非天然両方)のポリマーを指す。核酸は、一本鎖であることも二本鎖であることもでき、一般に5’−3’ホスホジエステル結合を含有するであろうが、ある場合には、ヌクレオチド類縁体が、他の結合を有し得る。核酸は、天然存在塩基(アデノシン、グアノシン、シトシン、ウラシルおよびチミジン)ならびに非天然塩基を含むことができる。非天然塩基の一部の例は、例えばSeela et al., (1999) Helv. Chim. Acta 82:1640において記載されている非天然塩基を含む。非天然塩基は、特定の機能、例えば核酸二重鎖の安定性の増大、ヌクレアーゼ消化の阻害またはプライマー伸長もしくは鎖重合の遮断を有することができる。
【0013】
用語“ポリヌクレオチド”および“オリゴヌクレオチド”は、互換的に用いられている。ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖核酸である。オリゴヌクレオチドは、より短いポリヌクレオチドを記載するために時々用いられる用語である。オリゴヌクレオチドは、少なくとも6ヌクレオチドまたは約15〜30ヌクレオチドで構成されることができる。オリゴヌクレオチドは、当該技術で既知のあらゆる適切な方法により、例えばNarang et al. (1979) Meth. Enzymol. 68:90-99; Brown et al. (1979) Meth. Enzymol. 68:109-151; Beaucage et al. (1981) Tetrahedron Lett. 22:1859-1862; Matteucci et al. (1981) J. Am. Chem. Soc. 103:3185-3191において記載されているような直接的な化学合成を含む方法により調製される。
【0014】
用語“プライマー”は、標的核酸中の配列(“プライマー結合部位”)にハイブリダイズして核酸の相補鎖に沿った合成の開始点の役目をそのような合成に適した条件下で果たすことができる一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。プライマー結合部位は、それぞれの標的に特有であることができ、または全ての標的に付加されることもできる(“ユニバーサルプライミング部位”または“ユニバーサルプライマー結合部位”)。
【0015】
用語“アダプター”は、別の配列にその配列に追加の特性を導入するために付加されることができるヌクレオチド配列を意味する。アダプターは、典型的には一本鎖もしくは二本鎖であることができる、または一本鎖部分および二本鎖部分の両方を有することができるオリゴヌクレオチドである。アダプターは、バーコードおよびユニバーサルプライマーまたはプローブ部位のような配列を含有することができる。
【0016】
用語“ライゲーション”は、2つの核酸鎖を連結する縮合反応を指し、ここで、一方の分子の5’−ホスフェート基が、別の分子の3’−ヒドロキシル基と反応する。ライゲーションは、典型的にはリガーゼまたはトポイソメラーゼにより触媒される酵素反応である。ライゲーションは、2つの一本鎖を連結して1つの一本鎖分子を作り出すことができる。ライゲーションは、それぞれが二本鎖分子に属する2つの鎖を連結し、そうして2つの二本鎖分子を連結することもできる。ライゲーションは、二本鎖分子の両方の鎖を別の二本鎖分子の両方の鎖に連結し、そうして2つの二本鎖分子を連結することもできる。ライゲーションは、二本鎖分子内の鎖の2つの末端を連結し、そうして二本鎖分子中のニックを修復することもできる。
【0017】
用語“バーコード”は、検出および同定されることができる核酸配列を指す。バーコードは、様々な核酸中に組み込まれることができる。バーコードは、試料中でバーコードを組み込んでいる核酸がバーコードに従って識別または分類されることができるように十分に長く、例えば2、5、10ヌクレオチドである。
【0018】
用語“多重識別子”および“MID”は、標的核酸の源(例えば、その核酸が由来する試料、それは、多数の試料からの核酸が組み合わせられる際に必要とされる)を同定するバーコードを指す。同じ試料からの全ての、または実質的に全ての標的核酸は、同じMIDを共有するであろう。異なる源または試料からの標的核酸が、混合され、同時に配列決定されることができる。MIDを用いて、その配列の読みは、その標的核酸が由来する個々の試料に割り当てられることができる。
【0019】
用語“ユニーク分子識別子”および“UID”は、それが結合している核酸を同定するバーコードを指す。同じ試料からの全ての、または実質的に全ての標的核酸は、異なるUIDを有するであろう。同じ元の標的核酸に由来する子孫(例えば増幅産物)の全てまたは実質的に全ては、同じUIDを共有するであろう。
【0020】
用語“ユニバーサルプライマー”および“ユニバーサルプライミング結合部位”または“ユニバーサルプライミング部位”は、プライマーおよび異なる標的核酸中に存在する(典型的には、インビトロで付加された)プライマー結合部位を指す。例えば、ユニバーサルプライミング部位は、複数の標的核酸にライゲーションされたアダプター中に含まれていることができる。ユニバーサルプライミング部位は、例えば標的特異的プライマーの5’末端に付加されることにより、標的特異的(非ユニバーサル)プライマーの一部であることもできる。ユニバーサルプライマーは、ユニバーサルプライミング部位に結合してそこからのプライマー伸長を方向付けることができる。
【0021】
本明細書で用いられる際、用語“標的配列”、“標的核酸”または“標的”は、検出または分析されるべき試料中の核酸配列の部分を指す。標的という用語は、標的配列の全てのバリアント、例えば1以上の変異体バリアントおよび野生型バリアントを含む。
【0022】
用語“配列決定”は、標的核酸中のヌクレオチドの配列を決定するあらゆる方法を指す。
【0023】
核酸配列決定は、臨床診療へと急速に展開している。最新の配列決定技術は、単一分子配列決定を利用し、極めて稀な標的の検出を可能にする。例えば、核酸配列決定は、患者の血流中に流入した稀な腫瘍DNAを検出するために用いられてきた。個々の分子の検出は、典型的には米国特許第7,393,665号、第8,168,385号、第8,481,292号、第8,685,678号および第8,722,368号において記載されているような分子バーコードを必要とする。ユニーク分子バーコードは、典型的にはインビトロ操作の最も早い工程の間に患者の試料中のそれぞれの分子に付加される短い人工配列である。バーコードは、分子およびその子孫に印を付ける。ユニーク分子バーコード(UID)は、多数の使用を有する。バーコードは、例えば生検を用いずに癌を検出およびモニターするために患者の血流中の環状腫瘍DNA(ctDNA)分子の存在および量を評価するために試料中のそれぞれの個々の核酸分子を追跡することを可能にする(Newman, A., et al., (2014) An ultrasensitive method for quantitating circulating tumor DNA with broad patient coverage, Nature Medicine doi:10.1038/nm.3519)。
【0024】
ユニーク分子バーコードは、配列決定エラーの補正のために用いられることもできる。単一の標的分子の全子孫は、同じバーコードで印を付けられ、バーコードを付けられたファミリーを形成する。バーコードを付けられたファミリーの全てのメンバーにより共有されていない配列におけるバリエーションは、人為産物であり真の変異ではないものとして破棄される。バーコードは、ファミリー全体が元の試料において単一の分子に相当するため、位置の重複排除および標的の定量化のために用いられることもできる(Newman, A., et al., (2016) Integrated digital error suppression for improved detection of circulating tumor DNA, Nature Biotechnology 34:547)。
【0025】
バーコードが可能にするエラー補正は、配列決定アッセイの感度を大きく高めてきた。配列決定の人為産物、例えばポリメラーゼのエラーは、もはや稀な点変異の検出に対する障壁ではない。同時に、バーコードは、ヒトの悪性腫瘍における別の一般的なタイプの変異である転座(遺伝子融合)の検出には有益でなかった。F. Mertens, et al. (2015) The emerging complexity of gene fusions in cancer, Nat. Rev. Cancer 15:371; F. Mitelman, et al. (2007) The impact of translocations and gene fusions on cancer causation, Nat. Rev. Cancer 7:233を参照。バーコードは典型的には標的分子の両方の末端にランダムにライゲーションされるため、どの5’バーコードが本来どの3’バーコードと関係しているのかは分からない。これは、キメラ分子がPCR中の鋳型スイッチングにより生成されるため、ライブラリー調製の増幅工程の間に問題を引き起こす。配列決定ライブラリー中に存在する人為的に生成されたキメラ分子は、元の試料中に存在していた可能性のある本物の遺伝子融合と識別できない。これは、癌における重要なドライバー変異であり得る低頻度の遺伝子融合を検出する能力を直接制限する。人為的遺伝子融合を追跡および排除して真の変異の検出を可能にするためのバーコードに基づく方法が、必要とされている。
【0026】
ある態様において、本発明は、核酸配列決定のためのバーコードを付けられた環状分子のライブラリーである。
【0027】
ある態様において、本発明は、環状のバーコードを付けられた核酸分子のライブラリーの作製により核酸を配列決定する方法である。
【0028】
ある態様において、本発明は、元の試料中に存在する遺伝子融合分子を確証する(authenticate)ためにバーコードを利用する、核酸配列決定におけるエラー補正の方法である。この態様のバリエーションにおいて、本発明は、元の試料中に存在していたのではなく核酸配列決定の工程の間に生成された人工遺伝子融合分子を排除するためにバーコードを利用する、核酸配列決定におけるエラー補正の方法である。
【0029】
本発明は、試料中の標的核酸を核酸配列決定により検出することを含む。多数の核酸(試料中の全ての核酸を含む)が、本明細書で記載される方法および組成物を用いて検出されることができる。ある態様において、試料は、対象または患者に由来する。ある態様において、試料は、対象または患者から例えば生検により得られた固形組織または固形腫瘍の断片を含むことができる。試料は、体液(例えば尿、痰、血清、血漿またはリンパ液、唾液、痰、汗、涙、脳脊髄液、羊水、滑液、心膜液、腹腔液、胸水、嚢胞液、胆汁、胃液、腸液または糞便試料)を含むこともできる。試料は、正常細胞または腫瘍細胞が存在し得る全血または血液画分を含むことができる。ある態様において、試料、特に液体試料は、無細胞材料、例えば無細胞腫瘍DNAまたは腫瘍RNAを含む無細胞DNAまたはRNAを含むことができる。ある態様において、試料は、無細胞試料、例えば無細胞腫瘍DNAまたは腫瘍RNAが存在する無細胞血液由来試料である。他の態様において、試料は、培養された試料、例えば培養物または培養物中の細胞由来もしくは培養物中に存在する感染性因子由来の核酸を含有するかもしくは含有することが疑われる培養上清である。ある態様において、感染性因子は、細菌、原生動物、ウイルスまたはマイコプラズマである。
【0030】
標的核酸は、試料中に存在し得る対象の核酸である。ある態様において、標的核酸は、遺伝子または遺伝子断片である。ある態様において、遺伝子、遺伝子断片および遺伝子間領域全て(全ゲノム)が、標的核酸を構成する。ある態様において、ゲノムの一部のみ、例えばゲノムのコード領域のみ(エキソーム)が、標的核酸を構成する。ある態様において、標的核酸は、遺伝的バリアント、例えば多型(一塩基多型またはバリアント(SNVのSNP)を含む)または結果として例えば遺伝子融合をもたらす遺伝的再編成の座位を含有する。ある態様において、標的核酸は、バイオマーカー、すなわちそのバリアントが疾患または病気と関係する遺伝子を含む。他の態様において、標的核酸は、特定の生物に特徴的であり、その生物または病原性生物の特徴(例えば薬剤感受性または薬剤耐性)の同定を助ける。さらに他の態様において、標的核酸は、ヒトの対象に特徴的であり、例えば対象の特有のHLAまたはKIR遺伝子型を定めるHLAまたはKIR配列である。
【0031】
本発明の一態様において、1つまたは複数の標的核酸は、本発明の鋳型構成に変換される。ある態様において、標的核酸は、天然に一本鎖形態で存在する(例えば、mRNA、マイクロRNA、ウイルスRNAを含むRNA;または一本鎖ウイルスDNA)。他の態様において、標的核酸は、天然に二本鎖形態で存在する。当業者は、本発明の方法が多数の態様を有することを認識するであろう。一本鎖標的核酸は、図1において示されているように本発明の構造に変換されることができる。二本鎖標的核酸は、それぞれの鎖が図1において描かれているようなものである二本鎖構造に変換されることができる。あるいは、一本鎖標的核酸は、本明細書で開示される方法の残りの工程に従う前に、まず二本鎖形態に変換されることができる。より長い標的核酸は、断片化されることができるが、一部の適用において、より長い標的核酸は、より長い読みを達成することが所望され得る。ある態様において、標的核酸は、自然に断片化されている(例えば、循環無細胞DNA(cfDNA)または化学分解されたDNA、例えば保存された試料中に存在するDNA)。
【0032】
本発明は、1つの標的核酸の両方の末端にライゲーションされ、そうして環状分子を形成する1つのアダプター分子の使用を含む。ある態様において、アダプターは、一本鎖標的核酸分子にライゲーションされた一本鎖である。ある態様において、一本鎖核酸のライゲーションは、スプリントオリゴヌクレオチドを用いて実施される(例えば米国出願公開第20120003657号を参照)。他の態様において、一本鎖核酸または部分的に一本鎖の核酸のライゲーションは、5’および3’末端の一本鎖領域(オーバーハング)を用いて実施される(例えば米国出願公開第20140193860号を参照)。他の態様において、アダプターは、二本鎖標的核酸分子にライゲーションした二本鎖分子である。二本鎖分子のライゲーションは、当該技術で周知であり(Green M., and Sambrook, J., Molecular Cloning, 2012 CSHL Pressを参照)、一般的方法における向上が、本明細書で記載される。ある態様において、二本鎖ライゲーションは、平滑末端ライゲーションである。他の態様において、二本鎖ライゲーションは、T−Aライゲーションまたは他のオーバーハングライゲーションである。他の態様において、二本鎖ライゲーションは、トポイソメラーゼにより駆動される。
【0033】
ある態様において、二本鎖アダプターは、光切断性スペーサーを2つの末端の一方において有する。この構成では、一方の末端のみがライゲーション反応においてライブラリー分子にライゲーションすることができるであろう。ライゲーション期間の後、反応は、長波長UV(約350nm)に曝露され、光切断性スペーサーを切り落とし、アダプターのリン酸化された5’末端を残すであろう。ライゲーション反応は、環状鋳型を形成し続けることができる。ある態様において、光切断後、反応は、鋳型濃度を低減して環への自己ライゲーションを促進するために希釈される。この態様において、ライゲーションは、結果として低減した人為産物形成(例えばDNA1−アダプター−DNA2またはアダプター1−DNA−アダプター2)およびより大きい標的核酸分子の回収率(より大きいGE(ゲノム当量(genome equivalent)))をもたらす。
【0034】
ある態様において、アダプター分子は、インビトロで合成された人工配列である。他の態様において、アダプター分子は、インビトロで合成された天然存在配列である。さらに他の態様において、アダプター分子は、単離された天然存在分子または単離された非天然存在分子である。
【0035】
ある態様において、アダプターは、1以上のバーコードを含む。バーコードは、試料の源を同定するために用いられる多重試料ID(MID)であることができ、ここで、試料は混合されている(多重化されている)。バーコードは、それぞれの元の分子およびその子孫を同定するために用いられるユニーク分子ID(UID)の役目を果たすこともできる。バーコードは、UIDおよびMIDの組み合わせであることもできる。ある態様において、単一のバーコードが、UIDおよびMIDの両方として用いられる。
【0036】
ある態様において、それぞれのバーコードは、予め定められた配列を含む。他の態様において、バーコードは、ランダム配列を含む。バーコードは、1〜20ヌクレオチド長であることができる。
【0037】
本発明の態様において、ライブラリー分子は、標的核酸にライゲーションしているアダプター中に含まれる少なくとも2つのバーコードを含有する。本発明のある態様において、バーコードは、約4〜20塩基長であり、従って、それぞれが同一のバーコードの異なる対を有する96〜384の異なるアダプターが、ヒトゲノム試料に付加される。当業者は、バーコードの数が試料の複雑さ(すなわち独特の標的分子の期待される数)に依存することを認識していると考えられ、それぞれの実験に関して適切な数のバーコードを作製することができるであろう。
【0038】
ある態様において、本発明は、環状のバーコードを付けられた分子のライブラリーを作製するためのアダプターのプールを含む。プール内のアダプターは、プール中の他のバーコードから少なくとも1または少なくとも3編集距離離れている同一のバーコードの対を有する。当業者は、どの編集距離が個々の実験に関して最適であるかを配列決定技術の典型的なエラー率に基づいて決定することができるであろう。一般に、より大きい編集距離は、より少ないバーコードが1つのプールにおいて用いられることができることを意味する。しかし、配列決定技術または製造プロセスが高いエラー率を有する場合、より大きい編集距離が必要とされるであろう。例えば、アダプターを作るために用いられるオリゴヌクレオチド製造プロセスは、高いエラー率を有し得る。同様に、合成による配列決定の作業の流れにおけるDNA増幅またはプライマー伸長において用いられる核酸ポリメラーゼは、高いエラー率を有し得る。これらのエラー率は、プールのアダプター中のバーコード間の編集距離を増大させることを要求するであろう。逆に、上記の方法のそれぞれの正確さの向上は、プールのアダプター中のバーコード間の編集距離を低下させることを可能にするであろう。
【0039】
ある態様において、本発明は、アダプターのプール全体を含有する単一のバイアルにより表される製品を含む。あるいは、製品は、プールの1以上のアダプターが別々のバイアル中に存在するキットを含むことができる。
【0040】
アダプターは、さらに少なくとも1つのユニバーサルプライマーに関するプライマー結合部位を含む。2つのプライマー結合部位が存在する場合、2つのプライマーは、逆方向を向いている。当業者は、二本鎖アダプター配列が一方または両方の鎖においてプライマー結合部位を有するであろうことを認識しているであろう。プライマー結合部位は、プライマーに相補的な配列であり、それにプライマーが結合して鎖の伸長を促進することができる。同時に、当業者は、一本鎖アダプター配列が第1プライマーに関するプライマー結合部位および第2プライマーと一致する配列を有するであろうことを認識しているであろう。
【0041】
ある態様において、アダプターは、それぞれの鎖のコピーおよびそれに続く2つの鎖のPCR増幅を可能にするように逆方向を向いている2つのプライマー結合部位を有する。他の態様において、アダプターは、一方の鎖のみのコピーを可能にするために1つのプライマー結合部位のみを有する。ある態様において、1ラウンドより多くのコピーが望ましい。数回のラウンドが、同じプライマーまたは異なるプライマーを用いて実施されることができる。アダプターは、いくつかのプライマー結合部位(例えば第1プライマー結合部位に対して内側の第2プライマー結合部位)を有することができる。あるいは、フォワードプライマーおよびリバースプライマーの一方または両方は、アダプターに相補的ではなく追加のプライマー結合部位を含む5’フラップ配列を含むことができる。
【0042】
ある態様において、アダプターは、核酸合成終結(STOP)部位を含む。その部位は、核酸ポリメラーゼにより迂回されることができない1以上のヌクレオチドまたはヌクレオチド類縁体を含む。ある態様において、STOP部位は、脱塩基ヌクレオチド、タンパク質側鎖基を有するヌクレオチド、合成ヌクレオチドAraC(シタラビン)もしくはデオキシウラシル、イソグアニン、5−メチルイソシトシン、エチレングリコールスペーサー類、蛍光団のようなかさ高い類縁体を有するヌクレオチド、または非天然塩基対(UBP)“d5SICS−dNaM”核酸類縁体から選択される1以上のヌクレオチドおよびヌクレオチド類縁体である(Malyshev, D., et al., (2012) Efficient and sequence-independent replication of DNA containing a third base pair establishes a functional six-letter genetic alphabet. P.N.A.S. 109 (30): 12005参照)。当業者は、ターミネーターヌクレオチドは特定の核酸ポリメラーゼに特異的であることができ、一方で他の核酸ポリメラーゼはその同じターミネーターを迂回することができる可能性があることを、理解しているであろう。例えば、アルキル化デオキシグアニン(N7およびN2)は、一般にTaq DNAポリメラーゼに関する合成ターミネーターである。Ponti, M., et al. (1991) Measurement of the sequence specificity of covalent DNA modification by antineoplastic agents using Taq DNA polymerase, Nucl. Acids Res. 19:2929参照。同様に、DNA中のデオキシウラシルは、一部のポリメラーゼの失速を引き起こし、一方で他のポリメラーゼはそれを迂回する。Wardle, J., et al. (2008) Uracil recognition by replicative DNA polymerases is limited to the archaea, not occurring with bacteria and eukarya, Nucl. Acids Res. 36 (3):705-711。
【0043】
ある態様において、本発明は、酵素を利用する。酵素は、DNAポリメラーゼ(配列決定ポリメラーゼを含む)、DNAリガーゼおよびターミナルトランスフェラーゼを含むことができる。
【0044】
ある態様において、DNAポリメラーゼは、通常ではない塩基、すなわち本発明において用いられるSTOP部位において効率的に合成を終結させる高忠実度DNAポリメラーゼである。高忠実度DNAポリメラーゼの例は、古細菌のポリメラーゼ、例えば(ピュロコックス・フリオスス(Pyrococcus furiosus)由来の)Pfuである。他の態様において、Taqポリメラーゼが、用いられる。ある態様において、ポリメラーゼは、3’−5’エキソヌクレアーゼ活性を有する。他の態様において、ポリメラーゼは、鎖置換活性を有しない。
【0045】
ある態様において、本発明は、DNAリガーゼも利用する。ある態様において、T4 DNAリガーゼまたは大腸菌DNAリガーゼが、用いられる。
【0046】
ある態様において、本発明は、鋳型非依存性DNAポリメラーゼ、例えばターミナルトランスフェラーゼまたは1以上のヌクレオチドを鋳型非依存性の様式で付加する活性を有するDNAポリメラーゼも利用する。ある態様において、本発明は、哺乳類のターミナルトランスフェラーゼまたはTaqポリメラーゼを用いる。
【0047】
ある態様において、本発明は、増幅工程を含む。この工程は、線形または指数関数的増幅、例えばPCRを含むことができる。増幅は、等温であることができ、または熱サイクルを含むこともできる。ある態様において、増幅は、指数関数的であり、PCRを含む。ユニバーサルプライマー、すなわちアダプター中の結合部位にハイブリダイズするプライマーの単一の対が、用いられる。同じアダプターを有するライブラリー中の全ての分子は、同じプライマーのセットを用いて増幅されることができる。ユニバーサルプライマーを用いるPCRは、配列バイアスを低減してきたため、増幅サイクルの数は、制限される必要がない。ユニバーサルプライマーが用いられる増幅サイクルの数は、少ないことができるが、その後の工程に必要とされる生成物の量に応じて10、20または約30サイクル以上もの高い数であることもできる。
【0048】
配列決定
環状のバーコードを付けられた分子のライブラリーおよびそのライブラリーから生成された線状増幅産物は、核酸配列決定を施されることができる。配列決定は、当該技術で既知のあらゆる方法により実施されることができる。特に好都合なのは、高スループット単一細胞配列決定である。そのような技術の例は、Illumina HiSeqプラットフォーム(Illumina、カリフォルニア州サンディエゴ)、Ion Torrentプラットフォーム(Life Technologies、ニューヨーク州グランドアイランド)、SMRTを利用するPacific BioSciencesプラットフォーム(Pacific Biosciences、カリフォルニア州メンローパーク)またはナノポア技術を利用するプラットフォーム、例えばOxford Nanopore Technologies(英国オックスフォード)またはRoche Genia(カリフォルニア州サンタクララ)により製造されたプラットフォームおよび合成による配列決定を含むかまたは含まないあらゆる他の現在存在するかまたは将来のDNA配列決定技術を含む。配列決定工程は、プラットフォーム特異的配列決定プライマーを利用することができる。これらのプライマーに関する結合部位は、増幅工程において用いられる増幅プライマーの5’部分中に導入されることができる。プライマー部位がバーコードを付けられた分子のライブラリー中に存在しない場合、そのような結合部位を導入する追加の短い増幅工程が、実施されることができる。
【0049】
ある態様において、配列決定工程は、配列分析を含む。ある態様において、分析は、配列の整列の工程を含む。ある態様において、整列は、複数の配列、例えば同じバーコード(UID)を有する複数の配列からコンセンサス配列を決定するために用いられる。ある態様において、バーコード(UID)は、全てが同一のバーコード(UID)を有する複数の配列からコンセンサスを決定するために用いられる。他の態様において、バーコード(UID)は、人為産物、すなわち同一のバーコード(UID)を有する一部の配列中に存在するが全ての配列中に存在するわけではないバリエーションを排除するために用いられる。PCRエラーまたは配列決定エラーの結果として生じるそのような人為産物は、排除されることができる。
【0050】
ある態様において、試料中のそれぞれの配列の数は、試料中のそれぞれのバーコード(UID)を有する配列の相対的な数を定量化することにより定量化されることができる。それぞれのUIDは、元の試料中の単一の分子に相当し、それぞれの配列バリアントと関係している異なるUIDの計数は、元の試料中のそれぞれの配列の割合を決定することができる。当業者は、コンセンサス配列を決定するために必要な配列の読みの数を決定することができるであろう。ある態様において、関連する数は、正確な定量結果のために必要なUIDあたりの読み(“配列深度”)である。ある態様において、所望の深度は、UIDあたり5〜50回の読みである。
【0051】
ある態様において、バーコード(UID)は、遺伝子融合を検出し、人為産物を排除して遺伝子融合事象を模擬実験するために用いられる。ある態様において、配列分析は、標的配列の読みを既知のゲノム配列に整列させる工程を含む。それぞれの読みは、対象のゲノムへの標的配列のマッピングおよび両方の末端における同一のバーコード(UID)を含有しなければならない。真の遺伝子融合分子は、標的ゲノムの異なる領域への標的配列マッピングを有するが両方の末端において同一のバーコード(UID)を有するであろう。標的ゲノムの異なる領域への標的配列マッピングを有するが両方の末端において異なるバーコードを有する分子は、人為産物であり、真の遺伝子融合分子ではない。
【0052】
本発明者らは、そのような人為産物がインビボに存在する稀な遺伝子融合分子の頻度に近いかそれを超える頻度で生じることを観察している。特定の理論により束縛されるわけではないが、本発明者らは、そのような人為産物がライブラリー分子を用いたPCRの間に生じるという仮説を立てた。ユニバーサルプライマーの伸長は、あるライブラリー分子上で開始され、鋳型スイッチを経て第2のライブラリー分子上で継続する可能性がある。結果として生じる融合分子は、2つのユニバーサルプライマーに関する結合部位を有し、その後のPCRのサイクルにおいて増幅されるであろう。本発明に従うバーコードマッチングの使用は、配列決定データからそのような分子を同定して排除する。人為産物の排除は、はるかに高い感度および特異性での真の遺伝子融合事象の検出を可能にする。
【0053】
本発明は、図1〜8においてより詳細に表されている。図1は、本発明に従う一本鎖の(変性した)ライブラリー分子を描いている。単一の二本鎖アダプターの二本鎖標的分子へのライゲーションは、結果として二本鎖環状分子をもたらし、それは、変性して図1において示されている構造をもたらすことができる。BCは、アダプター中に存在するバーコードである。それぞれのアダプターは、2つの同一のバーコードを含有する。ある態様において、異なるバーコードが、用いられることができる。どちらの場合においても、バーコード(または2つのバーコードの組み合わせ)は、ライブラリー調製において用いられるアダプターの間で独特である。それぞれのライブラリーおよびその子孫は、2コピーの同じ独特のバーコードまたは2つのバーコードの独特の組み合わせにより独特に同定されることができる。RおよびFは、それぞれリバースおよびフォワード配列決定プライマーに関する結合部位である。当業者は、(図1において描かれているような)核酸の一本鎖は一方のプライマー(図1中のFプライマー)に関する結合部位(相補配列)および逆を向いているプライマー(図1中のRプライマー)と同一の配列を含有し、一方で相補鎖(図1中で示されていない)は、Fプライマーと同一の配列およびRプライマーに対する結合部位(相補配列)を有するであろうことを、すぐに理解するであろう。STOPは、本明細書でさらに記載される鎖合成ターミネーターである。
【0054】
場合により、図1において示されている環状鋳型は、常磁性ビーズを用いて試料から単離されることができる。アダプター分子に相補的な伸長不能な捕捉プローブが、試料に添加される。2つの捕捉プローブが、環状分子のそれぞれの鎖を捕捉するために用いられることができる。捕捉プローブは、3’末端においてビオチン化されており、ストレプトアビジンでコートされた常磁性ビーズで捕捉されることができる。プローブは、次の構造を有することができる:
F’−−− R’ −−− ビオチン 3’ および
R −−− F −−− ビオチン 3’
【0055】
図2は、第1鎖合成の開始を描いており、ここで、Fプライマーは、ライブラリー分子中のプライマー結合部位に結合する。プライマーは、5’末端において追加の非相補配列を有する。追加の配列は、機能的要素、例えば配列決定プライマー結合部位(P5)を含有することができる。図3は、第1鎖合成およびSTOPにおける終結を描いている。図4は、図3の二重鎖環状分子ならびに分離した(変性した)新しく合成された第1鎖、配列決定プライマー結合部位(P5)、フォワードプライマーの配列(F)、2つのバーコード(BC)により隣接された標的配列およびリバースプライマーに関する結合部位(R)を描いている。STOPは、新しく合成された第1鎖中には存在しない。
【0056】
図5は、第1鎖合成の開始を描いており、ここで、Rプライマーは、第1鎖中のプライマー結合部位に結合する。プライマーは、追加の非相補的配列をその5’末端において有する。その追加の配列は、機能的要素、例えば配列決定プライマー結合部位(P7)を含有することができる。図6は、第2鎖合成を描いており、それは、配列決定プライマー結合部位P5を含む第1鎖の全ての要素をコピーする。図7は、次のラウンドの第1鎖合成の開始を描いており、ここで、P5配列決定プライマーは、第2鎖中のその結合部位に結合する。
【0057】
図8は、さらなる工程、例えば増幅および配列決定のための準備ができた最終的な線状二本鎖ライブラリー分子を描いている。二本鎖分子は、配列決定(または増幅)プライマー結合部位P5およびP7ならびにバーコード(BC)を含有する。その分子は、最初のフォワードおよびリバースプライマー結合部位FおよびRも保持している。二本鎖ライブラリー分子は、この分子およびその子孫を試料中の全ての他の分子およびそれらの子孫と区別する独特のバーコード(またはバーコードの独特の組み合わせ)により特性付けられる。
【実施例】
【0058】
実施例1(仮想例)
バーコードを付けられた環状分子のライブラリーの作成
この実施例では、DNAが、試料から単離される。単離されたDNAは、場合により断片化され、環状分子の最適な大きさに関して大きさを選択される。大きさの選択の工程は、稀な標的核酸が存在する場合、省略されることができる。ある場合には、RNAが、試料から単離され、cDNAへと逆転写され、その後の工程では試料から直接単離されたDNAのように処理される。
【0059】
DNAは、T4 DNAポリメラーゼにより末端修復されてA尾部が付加される(A−tailed)。A尾部の付加は、その後の効率的なライゲーションを可能にし、平滑ライゲーション由来の厄介な問題を回避する。
【0060】
次に、二本鎖リンカーが、DNAを入力して環状分子を形成するためにライゲーションされる。二本鎖リンカーは、次の構造を有し:
5’P[T]−BC−−R−−STOP−−F−−−BC−−3’
3’BC’−R’--STOP−−F’−−BC’−[T]5’P
式中、5’Pは、5’−ホスフェートであり、[T]は、付加されたTであり、それは標的分子の3’末端のAと塩基対合し、BCは、バーコードであり、STOPは、ターミネーターヌクレオチドであり、RおよびFは、それぞれリバースおよびフォワードプライマー結合部位である。場合により、試料は、環化しなかったDNAおよび過剰なアダプター(試料中に残っている遊離末端を有するあらゆるDNA)を除去するためにT7エキソヌクレアーゼで処理される。
【0061】
場合により、環状鋳型は、常磁性ビーズを用いて試料から単離されることができる。伸長不能な捕捉プローブが、環状分子のそれぞれの鎖を捕捉するために用いられる。捕捉プローブは、3’末端においてビオチン化されており、ストレプトアビジンでコートされた常磁性ビーズを用いて捕捉される。捕捉プロセスは、熱変性、ビーズへの結合、ビーズに捕捉されたDNAの磁石を用いた溶液からの取り出し、ビーズの任意の洗浄および高温での変性によるビーズに結合した捕捉プローブからの溶離の工程を含む。
【0062】
次いで、単離された環状鋳型は、PCRにより増幅される。PCRは、アダプター中のプライマー結合部位に相補的なプライマーを用いて実施される。それぞれのプライマーは、アダプター中の結合部位に非相補的であり配列決定機器および技術の選択に応じて配列決定プライマー結合部位またはフローセル結合配列を含有する5’フラップを有する。PCRは、線状分子を生成する。環状鋳型分子のそれぞれの鎖中のSTOP塩基は、ポリメラーゼによる環の完成を妨げる。
【0063】
次に、線状鋳型から得られた配列決定データが、分析される。標的ゲノムの異なる領域への標的配列マッピングを有するが両方の末端において同一の(または以前は合致していた)バーコードを有する分子は、真の遺伝子融合分子として検出される。標的ゲノムの異なる領域への標的配列マッピングを有するが両方の末端において異なる(または以前は合致していなかった)バーコードを有する分子は、人為産物であり、それは配列決定データから破棄される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8