特許第6860784号(P6860784)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860784
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20210412BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20210412BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B60N2/90
   A61B5/08
   A61B5/18
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-2090(P2017-2090)
(22)【出願日】2017年1月10日
(65)【公開番号】特開2018-111363(P2018-111363A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 生佳
(72)【発明者】
【氏名】成田 一真
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−061248(JP,A)
【文献】 特開2009−078630(JP,A)
【文献】 特開2013−255829(JP,A)
【文献】 特開2011−145147(JP,A)
【文献】 特開2011−169690(JP,A)
【文献】 特開2016−154759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
A61B 5/08
A61B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションと、前記シートクッションに連結されたシートバックとを備えた乗物用シートであって、
前記シートクッション又は前記シートバックの少なくとも一方に設けられた、乗物の室内に連通する開口部と、
前記開口部に連通する通気路と、
気体を前記開口部から前記通気路に向けて送風するべく、前記開口部よりも下流側に配置された送風機と、
前記開口部よりも下流側に配置され、乗員の生体ガスを検知可能なガス検知センサと
を備え
前記通気路は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックのパッド内に設けられた部分を含み、前記通気路における前記パッド内に設けられた部分を形成する壁面は非通気性に加工されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記通気路は、前記シートクッション又は前記シートバックの前記開口部を通過した気体が集約される1つの連通孔を有し、
前記連通孔は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面に略直交する方向に延在するように、該シートクッション又は該シートバックの前記パッド内に設けられ、
前記ガス検知センサは、前記連通孔に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記通気路の少なくとも一部は、ダクト管によって形成され、
前記ガス検知センサは、前記ダクト管内に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記ガス検知センサは、前記送風機の内部に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記通気路よりも下流に設けられた集気室を更に備え、
前記ガス検知センサは、前記集気室内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記送風機よりも下流に設けられたガスクロマトグラフィを更に備え、
前記ガス検知センサは、前記ガスクロマトグラフィに組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記開口部は、前記シートクッションに於ける乗員の臀部を支持するべき位置の近傍に設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記開口部は複数設けられ、
前記通気路は、複数の前記開口部の全てに接続するべく、前記開口部が形成された前記シートクッション又は前記シートバックの表面方向に沿って延在する配風通路と、前記シートクッション又は前記シートバックのパッド内に設けられて前記配風通路に連通する連通孔とを有し、
前記連通孔は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面からみて前記配風通路よりも小さい面積を有するとともに、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面に略直交する方向に延在することを特徴とする請求項に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記開口部及び前記配風通路は、前記シートクッション及び前記シートバックの双方に設けられており、
前記通気路は、前記シートクッション側の前記開口部及び前記配風通路を通過した気体と、前記シートバック側の前記開口部及び前記配風通路を通過した気体とが合流する合流部を有し、
前記送風機は、前記合流部よりも下流側に配置されたことを特徴とする請求項8に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記ガス検知センサによって検知されたガスの種類及び濃度に基づき、生体情報に分析し、乗員の健康状態を判定する判定手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の乗物用シート。
【請求項11】
前記開口部及び前記通気路は、当該乗物用シートの表面に対して空気を吸引又は送風して湿度を調整するエアーベンチレーションシステムに於ける空気の通路を形成することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の乗物用シート。
【請求項12】
前記ガス検知センサによるガスの検知は、乗物の始動時及び/又は所定の時間間隔毎に行われ、前記エアーベンチレーションシステムは、その他の時間に作動可能であることを特徴とする請求項11に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両等の乗物に設置されるガス検知センサを備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飲酒運転や酒気帯び運転を防止するため、車両の運転者から放出されるアルコールを検知する様々な手段が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、運転者が、ステアリングに設けられたパイプを使って呼気をアルコールセンサに吹きかける手段が記載されている。特許文献2には、測定対象者の指を接触させることによって、指から発散された皮膚ガス中のアルコール濃度を検出する手段が記載されている。特許文献3には、空調装置の送風によって、乗員の雰囲気ガスを車室内の天井やヘッドレスト取り付けたアルコール検知センサに送ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−247406号公報
【特許文献2】特開2012−198648号公報
【特許文献3】特開2009−132347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の手段のように、乗員がセンサに呼気を吹きかける手段は、乗員に煩わしさを感じさせる。特許文献2に記載の手段のように、皮膚を接触させるセンサを用いた場合も、乗員に所定の動作を要求するため、煩わしさが生じる。
【0006】
特許文献3のように乗員の雰囲気ガスを利用する手段であれば、乗員に煩わしい動作を要求しない。しかしながら、アルコールのように比較的高い濃度で雰囲気ガス中に存在し得るガス成分でなければ検出することができない。人の皮膚から放出されるにおい、すなわち、気体中の成分は、濃度が低いため、特許文献3に記載の手段では検知することができない。人のにおいはその人の体調によって変化することが知られているおり、これを検知できれば、健康管理に役立てることができる。
【0007】
上記問題を鑑み、本発明は、乗員に煩わしい動作を要求することなしに、低濃度の人から分泌されるガス(生体ガス)を検知することのできるように構成された、ガス検知センサを備えた装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、ガス検知センサを備えた装置として、シートを利用することに想到した。本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係るシート(1)は、シートクッション(2)と、前記シートクッションに連結されたシートバック(3)とを備えた乗物用シートであって、前記シートクッション又は前記シートバックの少なくとも一方に設けられた、乗物の室内に連通する開口部(12)と、前記開口部に連通する通気路(20)と、気体を前記開口部から前記通気路に向けて送風するべく、前記開口部よりも下流側に配置された送風機(17)と、前記開口部よりも下流側に配置され、乗員の生体ガスを検知可能なガス検知センサ(21)とを備え、前記通気路は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックのパッド(7)内に設けられた部分を含み、前記通気路における前記パッド内に設けられた部分を形成する壁面は非通気性に加工されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、シートクッション又はシートバックに開口部が設けられ、送風機によって開口部近傍の気体を吸い込むため、シートに着座した乗員の皮膚から分泌される気体が周囲の空気と混合して薄まる前に得ることができる。そのため、乗員の皮膚から分泌される気体が比較的高濃度で収集されるため、その成分をガス検知センサで検知しやすくなる。
【0010】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記通気路は、前記シートクッション又は前記シートバックの前記開口部を通過した気体が集約される1つの連通孔(14)を有し、前記連通孔は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面に略直交する方向に延在するように、該シートクッション又は該シートバックの前記パッド(7)内に設けられ、前記ガス検知センサは、前記連通孔に設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、乗物の振動がパッドによって吸収されるため、ガス検知センサの固定性が向上する。
【0012】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記通気路の少なくとも一部は、ダクト管(15,16,19)によって形成され、前記ガス検知センサは、前記ダクト管内に設けられていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ダクト管は容易に取り外すことができるため、ダクト管に設けられたガス検知センサのメンテナンスが容易となる。
【0014】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記ガス検知センサは、前記送風機の内部に組み込まれていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ガス検知センサと送風機との電源を共有できる。
【0016】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記通気路よりも下流に設けられた集気室(5)を更に備え、前記ガス検知センサは、前記集気室内に配置されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、集気室で圧力を高めることにより、乗員の皮膚から分泌された気体成分の濃度を高めることができ、気体成分の検知可能な範囲を増大させることができる。
【0018】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記送風機よりも下流に設けられたガスクロマトグラフィを更に備え、前記ガス検知センサは、前記ガスクロマトグラフィに組み込まれていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、低濃度の気体成分であっても検知可能となる。
【0020】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成の何れかに於いて、前記開口部は、前記シートクッションに於ける乗員の臀部を支持するべき位置の近傍に設けられていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、効率的に体内ガス(おなら)を収集することができる。
【0022】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記の第1の構成於いて、前記開口部は複数設けられ、前記通気路は、複数の前記開口部の全てに接続するべく、前記開口部が形成された前記シートクッション又は前記シートバックの表面方向に沿って延在する配風通路(13)と、前記シートクッション又は前記シートバックのパッド内に設けられて前記配風通路に連通する連通孔とを有し、前記連通孔は、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面からみて前記配風通路よりも小さい面積を有するとともに、前記開口部が設けられた前記シートクッション又は前記シートバックの表面に略直交する方向に延在することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、シートクッション又はシートバックに支持される乗員の身体部位の近傍の広範囲から気体を収集することができる。
【0024】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記開口部及び前記配風通路は、前記シートクッション及び前記シートバックの双方に設けられており、前記通気路は、前記シートクッション側の前記開口部及び前記配風通路を通過した気体と、前記シートバック側の前記開口部及び前記配風通路を通過した気体とが合流する合流部(15a)を有し、前記送風機は、前記合流部よりも下流側に配置されたことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、シートクッション及びシートバックのそれぞれの開口部で収集する気体を1つの送風機で1箇所に集めて分析することができるため、機材の構成を簡素にすることができる。
【0026】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成の何れかに於いて、前記ガス検知センサによって検知されたガスの種類及び濃度に基づき、生体情報に分析し、乗員の健康状態を判定する判定手段(22)を更に備えることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、乗員の健康状態に起因する事故を抑制することができ、乗員の健康管理を行うことができる。
【0028】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成の何れかに於いて、前記開口部及び前記通気路は、当該シートの表面に対して空気を吸引又は送風して湿度を調整するエアーベンチレーションシステムに於ける空気の通路を形成することを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、効率的に、ガス検知機能及び湿度調整機能を車両に設けることができる。
【0030】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る乗物用シートは、上記構成に於いて、前記ガス検知センサによるガスの検知は、乗物の始動時及び/又は所定の時間間隔毎に行われ、前記エアーベンチレーションシステムは、その他の時間に作動可能であることを特徴とする。
【0031】
この構成によれば、時間ごとに、ガス検知機能と湿度調整機能とが使い分けられるため、それぞれに最適な風量を設定することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、シートを利用することにより、乗員に煩わしい動作を要求することなしに、低濃度の生体ガスを検知することのできるように構成された、ガス検知センサを備えた装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態に係るシートを示す断面図
図2】実施形態に係るシートを示す斜視図
図3】実施形態に係るシートのシートクッションのパッドの分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図1〜3を参照して、本発明の実施形態に係るシート1について説明する。
【0035】
シート1は、車両の運転席に設置されるものであり、車体に支持されるシートクッション2と、シートクッション2に連結されたシートバック3と、シートバック3に連結されたヘッドレスト4とを備える。シート1は、シートクッション2の下方に配置された集気室5に、シート1に着座した乗員から分泌される生体ガスを送るように構成される。
【0036】
シートクッション2は、車体に支持されてシートクッションの骨格を形成するフレーム6と、フレーム6に支持されたパッド7と、パッド7の表面を覆う表皮材8とを有する。パッド7は、フレーム6に支持されたパッド本体9と、パッド本体9の上面の一部に積層される配風通路形成片10と、配風通路形成片10の上面に積層され、かつ表皮材8に覆われる開口形成片11とを有する。配風通路形成片10及び開口形成片11は、パッド本体9と同種の素材から構成される。
【0037】
開口形成片11は、シートクッション2の着座面に沿って延在する板状の部材である。開口形成片11には、シート1に着座した乗員の臀部から大腿部に対応する部分に沿って、列をなすように複数の開口部12が設けられている。開口部12が車室内に連通するように、表皮材8の開口部12に整合する部分は、織布等の通気性を有する素材からなるか、又は、各々の開口部12の少なくとも一部に整合するように設けられた孔(図示せず)を有する。
【0038】
配風通路形成片10は、板状の部材である。配風通路形成片10は、配風通路形成片10を上下方向に貫通するように設けられた、一繋がりの溝を有し、この溝がパッド本体9と開口形成片11とに挟まれることによって、開口部12に連通する配風通路13が形成される。配風通路13は、複数の開口部12が並んだ方向に沿って延在する2つの流入部13aと、2つの流入部をその後端側で連結する連結部13bと、連結部の後方に設けられた1つの流出部13cとを有する。開口部12が複数設けられ、配風通路13の流入部13aがその全ての開口部12に連通することによって、乗員の臀部から脚部にかけての広範囲から生体ガスを含む気体を収集することができる。
【0039】
パッド本体9は、上下方向に於いて流出部13cに整合する位置に、上下方向に貫通する連通孔14が設けられている。開口部12、配風通路13及び連通孔14を画成する壁面は、パッド7を構成する空隙の多い素材からなるため、これらの壁面を非通気性に加工することが好ましい。
【0040】
シートクッション2に設けられた開口部12、配風通路13及び連通孔14と同様の構成が、シートバック3にも設けられる。シートバック3の開口部12は、シート1に着座した乗員の背中に沿って延在する。シートバック3の配風通路13及び連通孔14の形状や、開口部12に対する配置及び向きは、シートクッション2に設けられたものと同様であるため、図示及び詳細な説明を省略する。なお、開口部12、配風通路13及び連通孔14をシートクッション2にのみ設けるように変更してもよく、これらをシートバック3にのみ設けるように変更してもよい。
【0041】
シートクッション2の連通孔14には、第1ダクト管15の一端側が接続されている。第1ダクト管15の連通孔14に取り付けられた端部は、取付を容易にするため、また、シートクッション2の振動を許容できるようにするため、可撓性を有する蛇腹状になっていることが好ましい。また、シートバック3の連通孔14には、第2ダクト管16の一端側が接続されている(図示せず)。第2ダクト管16の他端側は、第1ダクト管15の中間部15aに接続されており、第2ダクト管16の内部は、第1ダクト管15の内部に連通しているため、シートバック3の開口部12から流入した気体が、シートクッション2の開口部12から流入した気体に合流する。
【0042】
第1ダクト管15の他端側は、送風機17が内部に設置された送風室18に接続されている。送風室18と集気室5とは、第3ダクト管19が両者に接続されることで、互いに内部が連通している。送風機17は、開口部12を上流側とし、集気室5を下流側とするように気体を流す。
【0043】
配風通路13、連通孔14、第1ダクト管15の内部、第2ダクト管16の内部、送風室18の内部、及び第3ダクト管19の内部が、開口部12から集気室5に至る通気路20を構成する。集気室5には、送られてきた気体を排出する排出口に圧力弁(図示せず)が設けられており、集気室5では、気体が圧縮されて、生体ガスの成分濃度が高められる。
【0044】
ガス検知センサ21は、集気室5に配置されており、車内に設けられたECU22に検知したガスの情報を送信することができる。ECU22は、受信した情報を分析して、分析結果を、スピーカー(音声又は警報)やディスプレイ等の車室内に設置された出力手段(図示せず)に出力し、又は、携帯型又は固定型の情報端末に送信することができる。
【0045】
人の体調や病気と、体臭として分泌されるにおい及びにおいの主成分との間には関連がある。例えば、糖尿病を患っているときや体脂肪が燃焼しているときは、甘い匂いの体臭がして、その主成分はケトン体(アセトン)である。胃の障害があるときは、卵が腐ったような体臭がして、その主成分は、硫化水素である。胃や肝臓の機能に障害があるときは、アンモニア臭、ねずみ臭又はどぶ臭のような体臭がして、その主成分はアンモニアである。がんの人は、化学調味料や腐ったにおいの体臭がして、その主成分は、メタンチオールやVSC(揮発性硫黄化合物)であり、その他の成分も含まれるが明らかになっていない。二日酔いのときは、アルコール臭の体臭がして、その主成分はアセトアルデヒドである。疲労しているときは、アンモニア臭の体臭がして、その主成分はアンモニアである。てんかんの人には、腐ったにおいの体臭がするといわれているが、その主成分は明らかになっていない。
【0046】
ガス検知センサ21は、乗員の口、鼻、皮膚、肛門等から排出された気体成分、すなわち、生体ガスの種類及び濃度を検地して、その結果をECU22に送る。ECU22は、その結果を分析し、上述のような体調及び症状と気体成分との関係に基づき、乗員の健康状態を判断し、必要に応じて出力する。ガス検知センサ21として、例えば、電気化学式、半導体式、熱線式、赤外線吸収式、又は人口脂質膜式等のセンサを使用することができる。
【0047】
皮膚から排出される生体ガスは微量であるが、開口部12が、着座した乗員の体表面の近傍に位置するため、周囲の空気によって希釈される前に、微量な生体ガスを比較的高濃度で得ることができる。汗をかきやすい大腿部や背中を支持するべき部分の近傍に開口部12を設けたことにより、汗に含まれる生体ガスを更に高濃度で得ることができる。また、シートクッション2の開口部12の一部は、乗員の臀部を支持すべき位置の近傍にあるため、多様な成分を含んで多様な生体情報を得ることができる体内ガス(おなら)を高濃度で得ることができる。ガス検知センサ21にガスクロマトグラフィを使用すれば、更に微量の生体ガスでも検知することができる。また、集気室5にフィルターを設けて、検知対象ガスを捕集してもよい。
【0048】
ガス検知センサ21は、他の位置に設置することもできる。例えば、図1に二点鎖線で示すように、連通孔14や、第1ダクト管15(第2ダクト管16又は第3ダクト管19でも可)に取り付けてもよく、送風機17に組み込んでもよい。連通孔14に取り付けた場合は、車両が振動しても、パッド7によってその振動が吸収されるため、固定性が向上する。第1ダクト管15に取り付けた場合は、管部材は容易に取り外すことができるため、ガス検知センサ21のメンテナンスが容易となる(第2ダクト管16又は第3ダクト管19に取り付けた場合も同様)。送風機17に組み込んだ場合は、電源を送風機17と共有することができる。これらの場合は、集気室5は不要となる。
【0049】
開口部12、通気路20及び送風機17は、シート1の表面に対して空気を吸引又は送風することにより、汗むれを防止し、湿度を調整するエアーベンチレーションシステム(AVS)と共通する構成であるため、効率的に、ガス検知機能及び湿度調整機能を車両に設けることができる。なお、エアーベンチレーションシステムに於いて、シート1の表面に対して空気を吸引する構成(プル式)のときは、送風機17や通気路20をそのまま使い、シート1の表面に対して空気を送風する構成(プッシュ式)のときは、送風機17が軸流式等の逆回転によって反対方向に送風可能なものであればこれを逆回転させ、そうではない遠心式等のものであれば、切り替え用の送風経路を設け、又は他の送風機を設置する。
【0050】
シート1を用いた乗員の健康状態の確認は、車両の始動時に行われることが好ましく、運転時間の経過に伴う変化を確認するため、所定の間隔毎に、また、連続的に行ってもよい。開口部12、通気路20及び送風機17等が、エアーベンチレーションシステムを兼ねる場合は、ガスの検知及び湿度の調整にそれぞれ最適な風量を設定するため、ガスの検知は、車両の始動時及び/又は所定の時間間隔毎に行われ、その他の時間に湿度調整を行えることが好ましい。
【0051】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。本発明に係るシートは、車両の助手席や後部座席のシートに適用してもよく、航空機等の車両以外の乗物のシートにも適用してもよい。開口部の位置をずらしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:シート
2:シートクッション
3:シートバック
5:集気室
7:パッド
9:パッド本体
12:開口部
13:配風通路
14:連通孔
15:第1ダクト管
15a:中間部(合流部)
16:第2ダクト管
17:送風機
19:第3ダクト管
20:通気路
21:ガス検知センサ
22:ECU(判定手段)
図1
図2
図3