(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860806
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】光学用ポリカーボネート樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 64/06 20060101AFI20210412BHJP
C08G 64/08 20060101ALI20210412BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20210412BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
C08G64/06
C08G64/08
G02B1/04
C08L69/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-105857(P2016-105857)
(22)【出願日】2016年5月27日
(65)【公開番号】特開2017-210569(P2017-210569A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
【審査官】
三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−109950(JP,A)
【文献】
特開2003−090901(JP,A)
【文献】
特開2002−114842(JP,A)
【文献】
特開2003−048976(JP,A)
【文献】
特開昭62−260824(JP,A)
【文献】
特開2000−327766(JP,A)
【文献】
特開平02−018501(JP,A)
【文献】
特開平04−249201(JP,A)
【文献】
特開昭60−163007(JP,A)
【文献】
特開2009−080425(JP,A)
【文献】
特開昭53−089752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00− 64/42
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下
記式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位を含み、下記一般式(2)で表される構成単位が25〜75質量%含まれるポリカーボネート樹脂であって、かつ屈折率(ne線)が1.600以上、アッベ数(νe)が28.0以上、280℃条件での成形流動性示すQ値が2.0×10
−2cm
3/秒以上である光学用ポリカーボネート樹脂であって、
【化1】
【化2】
(一般式(2)中、R1〜R4は水素、メチル基またはフェニル基を表す。Xは単結合または下記式(3)で表される二価の基からなる群より選択される基である。)
【化3】
(式(3)中、R5及びR6は、水素、メチル基、又はアリール基であり、少なくとも一方はフェニル基、ナフチル基又はビフェニル基のいずれかである。)
前記一般式(2)で表される構成単位が、下記式
(7)である、光学用ポリカーボネート樹脂。
【化4】
【請求項2】
極限粘度が0.280〜0.500dL/gである請求項1に記載の光学用ポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記Q値が、20.2×10−2cm3/秒以上である、請求項1または2のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記Q値が、20.2×10−2cm3/秒以上29.0×10−2cm3/秒以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学用ポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
さらに、下記式(9)で表される構成単位からなるポリカーボネート樹脂と、請求項1
〜4のいずれか一項に記載の光学用ポリカーボネート樹脂とを含む光学用ポリカーボネート樹脂組成物。
【化5】
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学用ポリカーボネート樹脂を用いたメガネレンズ。
【請求項7】
請求項5に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を用いたメガネレンズ。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学用ポリカーボネート樹脂を用いたカメラレンズ。
【請求項9】
請求項5に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を用いたカメラレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリカーボネート樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れている汎用エンジニアリングプラスチックとして種々の分野で広く用いられている。その特徴のある用途の一つが、透明性に優れている特性を生かした光学分野での使用である。
【0003】
一般的なポリカーボネート樹脂はビスフェノールA(以下BPAと略称)から誘導されたものであり、比較的高い屈折率(nD、1.59)を有するため光学レンズ、特に耐衝撃性に優れることから北米を中心にメガネ用レンズとして使用されている。(非特許文献1)
【0004】
一方、我が国のメガネレンズ業界では屈折率(ne線)1.60未満のものはレンズの厚みが厚い中屈折レンズとして取り扱われるため、ポリカーボネート製レンズの屈折率を1.60以上にし、薄型高屈折率レンズとして付加価値を高めることが望まれていた。
【0005】
その中で、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(以下BPAPと略称)から誘導されたポリカーボネートは、1.61を超える屈折率を有することが見出されている。しかしながら、BPAP型ホモポリカーボネートのみでは成形流動性が低いため、そのままではレンズ成形が難しいため、成形流動性を高めるビスフェノール類と共重合することで高屈折と成形流動性を両立する手法が知られている。(特許文献1、特許文献2)
【0006】
しかしながら、これらの手法では共重合相手に高価なビスフェノール類を用いるため、製造原価が高くなり、低価格化が進んでいるレンズ市場には必ずしも受け入れられるものではなかった。そのため、高屈折、成形流動性、耐衝撃性に優れるとともに安価に製造できるポリカーボネート系レンズ材料の開発の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−18501号公報
【特許文献2】特開2005−309108号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】本間精一編「ポリカーボネート樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社出版、1992年8月28日発行、第124頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、耐衝撃性のある、安価なレンズ材料となり得る光学用ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物を用いた各種レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、屈折率の高いビスフェノール類と安価なBPAとを特定の範囲で共重合したポリカーボネート樹脂とすることで、屈折率1.60以上で、かつ成形流動性も良好で、耐衝撃性や実用上必要なアッベ数を保持でき、安価なレンズ材料となりうる光学用ポリカーボネート樹脂を見出した。すなわち、本発明は、以下に示す光学用ポリカーボネート樹脂、光学用ポリカーボネート樹脂組成物、さらには同樹脂や樹脂組成物を用いたレンズに関するものである。
【0011】
<1> 下記一般式(1)で表される構成単位及び下記一般式(2)で表される構成単位を含み、下記一般式(2)で表される構成単位が25〜75質量%含まれるポリカーボネート樹脂であって、かつ屈折率(ne線)が1.600以上、アッベ数(νe)が28.0以上、280℃条件での成形流動性示すQ値が2.0×10
−2cm
3/秒以上である光学用ポリカーボネート樹脂である。
【化1】
【化2】
(一般式(2)中、R
1〜R
4は水素、メチル基またはフェニル基を表す。Xは単結合または下記式(3)で表される二価の基からなる群より選択される基である。)
【化3】
(式(3)中、R
5及びR
6は、水素、メチル基、又はアリール基であり、少なくとも一方はフェニル基、ナフチル基又はビフェニル基のいずれかである。)
<2> 極限粘度が0.280〜0.500dL/gである<1>に記載の光学用ポリカーボネート樹脂。
<3> 上記一般式(2)が、下記式(4)〜(8)からなる群より選ばれるいずれか1種以上である、上記<1>又は<2>に記載の光学用ポリカーボネート樹脂である。
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
<4> さらに、下記式(9)で表される構成単位からなるポリカーボネート樹脂と、上記<1>〜<3>のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂とを含む光学用ポリカーボネート樹脂組成物である。
【化9】
<5> <1>〜<3>のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂を用いたメガネレンズである。
<6> <4>に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を用いたメガネレンズである。
<7> <1>〜<3>のいずれかに記載の光学用ポリカーボネート樹脂を用いたカメラレンズである。
<8> <4>に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を用いたカメラレンズである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、光学特性に優れ、高耐衝撃性の光学用ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物を提供することができる。即ち、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂および樹脂組成物は、射出成形により容易且つ安価にメガネレンズやカメラレンズに加工することが可能である。また、これらのレンズは、従来のポリカーボネート樹脂を用いたレンズに比して、耐衝撃性や成形流動性を保持したまま、高屈折率を有する。
【0013】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂および樹脂組成物は、メガネレンズ、カメラレンズの他、fθレンズ、フレネルレンズ等種々のレンズ材料や位相差フィルムのような光学フィルム、シート材としても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、上記一般式(1)で表される構成単位及び上記一般式(2)で表される構成単位を含む。即ち、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、上記一般式(1)で表される構成単位及び上記一般式(2)で表される構成単位を含む共重合ポリカーボネート樹脂である。
【0015】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、上記一般式(1)で表される構成単位を誘導するBPA、上記一般式(2)で表される構成単位を誘導する高屈折のビスフェノール類及び炭酸エステル形成化合物を反応させることによって、製造することができるものである。具体的にはポリカーボネートを製造する際に用いられている公知の方法、例えばビスフェノール類とホスゲンとの直接反応(ホスゲン法)、あるいはビスフェノール類とビスアリールカーボネートとのエステル交換反応(エステル交換法)などの方法で製造することができる。
【0016】
炭酸エステル形成化合物としては、例えばホスゲンや、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネートなどのビスアリールカーボネートが挙げられる。これらの化合物は2種類以上併用して使用することも可能である。
【0017】
ホスゲン法においては、通常酸結合剤および溶媒の存在下において、BPA及び上記一般式(2)で表される構成単位を誘導する高屈折のビスフェノール類をホスゲンと反応させる。酸結合剤としては、例えばピリジンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが用いられ、また溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルムなどが用いられる。さらに、縮重合反応を促進するために、トリエチルアミンのような第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩などの触媒を、また重合度調節には、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等一官能基化合物を加えることが好ましい。また、所望に応じ亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイトなどの酸化防止剤や、フロログルシン、イサチンビスフェノールなど分岐化剤を小量添加してもよい。反応は通常0〜150℃、好ましくは5〜40℃の範囲とするのが好ましい。反応時間は反応温度によって左右されるが、通常0.5分〜10時間、好ましくは1分〜2時間である。また、反応中は、反応系のpHを10以上に保持することが好ましい。
【0018】
一方、エステル交換法においては、BPA及び上記一般式(2)で表される構成単位を誘導する高屈折のビスフェノール類をビスアリールカーボネートとを混合し、減圧下で高温において反応させる。反応は通常150〜350℃、好ましくは200〜300℃の範囲の温度において行われ、また減圧度は最終で好ましくは133Pa以下にして、エステル交換反応により生成した該ビスアリールカーボネートから由来するフェノール類を系外へ留去させる。反応時間は反応温度や減圧度などによって左右されるが、通常1〜24時間程度である。反応は窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、所望に応じ、分子量調節剤、酸化防止剤や分岐化剤を添加して反応を行ってもよい。
【0019】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、上記一般式(2)で表される構成単位が25〜75質量%含まれるポリカーボネート樹脂である。即ち、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、全構成単位の内、上記一般式(2)で表される構成単位の割合が25〜75質量%の範囲であり、好ましくは30〜75質量%の範囲である。かかる範囲において、光学用樹脂としての耐衝撃性が保持できる。
【0020】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、屈折率(ne線)が1.600以上、好ましくは1.600以上1.650以下であり、アッベ数が28.0以上であり、好ましくは28.0以上29.1以下である。屈折率が1.600未満では、レンズとしての付加価値が低くなり、アッベ数が28.0未満であると強度の近視、遠視用レンズにおいて、色収差を感じやすくなる。ここで、屈折率は小数点4桁目を四捨五入、アッベ数は小数点2桁目を四捨五入した値を表す。
【0021】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、280℃条件での成形流動性示すQ値が、2.0×10
−2cm
3/秒以上である。即ち、高化式フローテスターを使用した280℃、15.69MPa、オリフィス直径1mm×長さ10mmの条件で測定される流動性指標Q値が、2.0×10
−2cm
3/秒以上であり、好ましくは2.0×10
−2cm
3/秒以上29.0×10
−2cm
3/秒以下である。2.0×10
−2cm
3/秒以上で、レンズ成形に必要な成形流動性が得られる。
【0022】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、極限粘度が0.280〜0.500dL/gの範囲が好ましい。かかる範囲において、レンズ成形に必要な流動性と機械的強度の保持することができる。
【0023】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂における上記一般式(2)で表される構成単位は、原料となる高屈折ビスフェノール類および炭酸エステル形成化合物を用いて重合し得られるものであって、高屈折ビスフェノール類(ビフェノール類も含む)としては、具体的には、4,4‘−ビフェノール、2,4’−ビフェノール、2,2‘−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4‘−ビフェノール、3,3’−ジフェニル−4,4‘−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)スルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン等が挙げられる。中でも、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン(以下BPAPと略称)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(以下BPBPと略称)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(以下BPSと略称)、2,4‘−ジヒドロキシジフェニルスルホン(以下2,4−BPSと略称)、4,4‘−ビフェノール(以下BPと略称)が屈折率と価格のバランスが良く好ましい。これらの高屈折ビスフェノール類は、単独で用いてもよいし、2種類以上併用することも可能である。
【0024】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、上記式(9)で表される構成単位からなるポリカーボネート樹脂と、前述の光学用ポリカーボネート樹脂とを含む。即ち、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂は、光学特性などの必要な物性を保持する範囲で、上記式(9)で表される構成単位からなるポリカーボネート樹脂、即ちビスフェノールAから誘導される一般のポリカーボネート樹脂と、前述の光学用ポリカーボネート樹脂とをブレンドし、光学用ポリカーボネート樹脂組成物とすることが好ましい。
光学用ポリカーボネート樹脂組成物は、一般のポリカーボネート樹脂を好ましくは60質量%以下含み、極限粘度は0.280〜0.480dL/gの範囲であることが好ましい。特に光学用ポリカーボネート樹脂組成物として0.280〜0.500dL/gの範囲になるように本願の光学用ポリカーボネート樹脂と一般のポリカーボネート樹脂とをブレンドすることが、Q値と耐衝撃性のバランスのため好ましい。
【0025】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法、即ちブレンドする方法としては、固体を溶融して混合する方法と樹脂を溶解した液体を混合する方法がある。
前者は、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂と一般のポリカーボネート樹脂の粉体やペレットを機械式ブレンダー等で混合した後、単軸または2軸押出機を用いてペレット状の樹脂組成物を得る方法である。混合は容易であるものの、一度の押出では混合が不十分で白濁したペレットが得られる場合がある。その場合は透明になるまで、2回以上ブレンド、押出を繰り返すことが好ましい。また、混合を促進するためダルメージスクリューやニーディングディスクセグメントを有するスクリュー等の混合性能を高めたスクリューを用いてもよい。
一方、後者は、発明の光学用ポリカーボネート樹脂と一般のポリカーボネート樹脂を溶媒に溶解し、得られた樹脂溶液を溶液状態で混合し、その後脱溶媒することで、粉体またはペレット状の樹脂組成物を得るものである。前者と後者を比較した場合、均一混合が容易であることから、樹脂を溶解した液体を混合する方法が好ましい。
樹脂溶液は、本発明の光学用ポリカーボネート樹脂と一般のポリカーボネート樹脂を同じ溶媒に溶解して混合してもよいし、別々に樹脂を溶解した液体を混合してもよい。混合比を容易に変動できることから、別々に樹脂を溶解した液体を混合することが好ましい。
【0026】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を前述の液体を混合する方法でブレンドして製造する場合の溶媒としては、ハロゲン系有機溶媒としては例えばジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられ、非ハロゲン系有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソホロン等の環状ケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。好ましくは、沸点が低く脱溶媒が容易であることから、ジクロロメタンが好ましい。また溶媒は単独で用いても、2種以上の混合溶媒で用いても良い。さらには各種酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を同時に混合することも可能である。
【0027】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂および樹脂組成物には、所望に応じ、レンズ成形に必要な離形剤や成形時の着色を抑制する酸化防止剤、成形後の環境劣化を抑制する酸化防止剤や紫外線吸収剤、色調を変更するブルーイング剤や各種染顔料を添加することが好ましい。さらには、本光学用ポリカーボネート樹脂組成物の特性を保持する範囲で、流動改質剤や耐衝撃性向上剤など各種物性向上剤を添加してもよい。
【0028】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂および樹脂組成物は、湿色成形、圧縮成形、押出成形、射出成形等の公知の成形方法によりメガネレンズやカメラレンズ等としてレンズ加工することが可能である。特に、従来のポリカーボネートレンズと同様に射出成形に好適である。レンズは、公知の方法で研磨、カット可能で、意匠性の高いメガネレンズにも応用可能である。
【0029】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂および樹脂組成物から得られたレンズは、従来のポリカーボネートとほぼ同等クラスの耐衝撃性を有する。少なくともASTM D256準拠アイゾット衝撃試験(ノッチ無し)で破壊されない耐衝撃性を保持する。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0031】
<屈折率およびアッベ数の測定方法>
株式会社アタゴ製のアッベ屈折計を用い、20℃において、射出成形品のe線(546.1nm)を測定した。また、F‘線(488nm)、C’線(643.9nm)の屈折率を測定し、アッベ数(νe)を計算した。
【0032】
<流動性(Q値)測定方法>
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製)を使用して、温度280℃、圧力15.69MPaで、直径1mm×長さ10mmのノズル穴(オリフィス)より流出する溶融樹脂量(単位:×10
-2cm
3/秒)を測定した。
【0033】
<極限粘度の測定方法>
ポリカーボネート樹脂のジクロロメタン0.5質量/体積%溶液を20℃、ハギンズ定数0.45にて、ウベローデ粘度管を用いて求めた。
【0034】
<射出成形試験>
小型射出成形機((株)新興セルビック製C.Mobile)を用いて、射出圧283MPa、射出速度20mm/秒、樹脂温度320℃、金型温度100℃、にてASTM D256準拠アイゾット衝撃試験片(ノッチ無し)と直径28mm、厚さ3mmの円形試験片の射出成形を行った。
【0035】
<全光線透過率>
JIS K7136に準拠し、日本電色工業製のヘーズメーターを用い、3mm厚射出成形品の全光線透過率を測定した。
【0036】
<アイゾット衝撃試験>
ASTM D256に準拠し、東洋精機株式会社製衝撃試験機を用い、2Jハンマー、25℃下でアイゾット試験片(ノッチ無し)の衝撃試験を行った。
【0037】
合成例1
100リットル反応容器に、8.0質量/質量%の水酸化ナトリウム水溶液34リットルを加え、BPAP2413g(本州化学工業株式会社製、8.32mol)とBPA2663g(新日鉄住金化学株式会社製、11.68mol)とハイドロサルファイト10gを加え溶解した。これにジクロロメタン22リットルを加え、15℃に保ちながら撹拌しつつ、ホスゲン2600gを30分かけて吹き込んだ。
吹き込み終了後、1分間激しく撹拌して反応液を乳化させ、p−ターシャルブチルフェノール111g(以下PTBPと略称、0.74mol)を加え、さらに10分間撹拌後、20mlのトリエチルアミンを加え、さらに50分撹拌を継続し重合させた。
重合液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返し、精製した重合樹脂液を得た。得られた樹脂液濃度をジクロロメタンで希釈し10.0質量/質量%に調整した。得られた樹脂液を45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.423dL/gであった。
【0038】
合成例2
BPAPを4101g(14.14mol)、BPAを1336g(5.86mol)、PTBPを150g(1.00mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した。得られた樹脂液の内、10kgを45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.342dL/gであった。
【0039】
合成例3
BPAPの代わりにBPBP1288g(本州化学工業株式会社製、3.66mol)を用い、BPAを3726g(16.34mol)、PTBPを181.5g(1.21mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.344dL/gであった。
【0040】
合成例4
BPAPの代わりにBPBP2830g(8.04mol)を用い、BPAを2727gg(11.96mol)、PTBPを150g(1.00mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.323dL/gであった。
【0041】
合成例5
BPAPの代わりに、BPS1511g(日華化学株式会社製、6.04mol)を用い、BPAを3183g(13.96mol)、PTBP150g(1.00mol)に変更し、さらにモノマーと同時にベンジルトリエチルアンモニウムクロリド5gを用いた以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.380dL/gであった。
【0042】
合成例6
BPAPの代わりに、2,4−BPS1511g(日華化学株式会社製、6.04mol)を用い、BPAを3183g(13.96mol)、PTBP150g(1.00mol)に変更し、さらにモノマーと同時にベンジルトリエチルアンモニウムクロリド5gを用いた以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.376dL/gであった。
【0043】
合成例7
BPAPの代わりに、BPS908g(3.63mol)、BP659g(本州化学工業株式会社製、3.54mol)を用い、BPAを2923g(12.82mol)、PTBP158g(1.05mol)に変更し、さらにモノマーと同時にベンジルトリエチルアンモニウムクロリド5gを用いた以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.361dL/gであった。
【0044】
合成例8
BPAを用いず、BPAPを5800g(20.00mol)、PTBPを100g(0.67mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.421dL/gであった。
【0045】
合成例9
BPAPの代わりにBPBP5132g(14.58mol)を用い、BPAを1236g(5.42mol)、PTBPを146g(0.97mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.341dL/gであった。
【0046】
合成例10
BPAPの代わりにBPBP1123g(3.19mol)を用い、BPAを3833g(16.81mol)、PTBPを180g(1.20mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.337dL/gであった。
【0047】
合成例11
BPAPを用いず、BPAを4560g(20.00mol)、PTBPを124g(0.83mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.444dL/gであった。
【0048】
合成例12
BPAPを用いず、BPAを4560g(20.00mol)、PTBPを187g(1.25mol)に変更した以外は、合成例1と同様の重合、精製を行った。
得られた樹脂液は、ジクロロメタンで希釈し濃度を10質量/質量%に調整した後、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、樹脂粉末を得た。得られた樹脂の極限粘度は0.339dL/gであった。
【0049】
実施例1
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体に、離型剤ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン株式会社製;商標名S−100A)を0.05質量%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(株式会社AEDEKA製;商標名LA−31)を0.15質量%、ホスファイト系酸化防止剤(株式会社AEDEKA製;商標名アデカスタブPEP−36)を0.03質量%、アントラキノン系青色染料(ランクセス株式会社製;商標名マクロレックスブルーRR)を0.0001質量%加え、ブレンダーにて混合した。
得られた樹脂組成物をベント付き単軸20mm押出機(L/D34.5フルフライトスクリュー)にて300℃にて押出、ペレットを得た。得られたペレットを小型射出成形機にて320℃で、直径28mm、厚さ3mmの円形射出成形品とASTM 準拠アイゾット衝撃片(63.5×3.0×12.7mm)を射出成形にて得た。得られたペレットおよび射出成形品を用いて、Q値、全光線透過率、屈折率、アッベ数、アイゾット衝撃値の測定を行った。
【0050】
実施例2
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例2のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0051】
実施例3
合成例2のポリカーボネート樹脂溶液7kgと合成例11のポリカーボネート樹脂溶液3kgを20リットル容器に入れ、撹拌機にて均一に混合した。得られた混合樹脂溶液を45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。得られた粉体に、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0052】
実施例4
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例3のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0053】
実施例5
合成例4のポリカーボネート樹脂溶液5.5kgと合成例12のポリカーボネート樹脂溶液4.5kgを20リットル容器に入れ、撹拌機にて均一に混合した。得られた混合樹脂溶液を45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、120℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。得られた粉体に、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0054】
実施例6
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例5のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0055】
実施例7
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例6のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0056】
実施例8
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例7のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0057】
比較例1
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例8のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形を行ったが、ゲート付近で樹脂が詰まってしまい、各種試験が行える試験片は得られなかった。
【0058】
比較例2
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例9のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形を行ったが、充填不足の射出成形品しか得られず、各種試験が行える試験片は得られなかった。
【0059】
比較例3
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成例10のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0060】
比較例4
合成例1のポリカーボネート樹脂粉体の代わりに、合成11のポリカーボネート樹脂粉体を用いた以外は、実施例1と同様に各種添加剤をブレンドし、押出、射出成形、各種分析を行った。
【0061】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光学用ポリカーボネート樹脂及び樹脂組成物は、メガネレンズ、カメラレンズの他、fθレンズ、フレネルレンズ等種々のレンズ材料や位相差フィルムのような光学フィルム、シート材としても利用可能である。特に耐衝撃性を生かしたスポーツグラス、保護メガネ、車載用レンズへの応用が可能である。また、比較的アッベ数が低いためフリント系レンズとしての特性が優れており、コンパクトカメラや携帯端末用カメラ用構成レンズとしても好適である。