(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860809
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】印体ユニット
(51)【国際特許分類】
B41K 1/50 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
B41K1/50 J
B41K1/50 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-192369(P2016-192369)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-51997(P2018-51997A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180080
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【弁護士】
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】三矢 貴幸
【審査官】
加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−328828(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3008344(JP,U)
【文献】
米国特許第07810428(US,B2)
【文献】
米国特許第08925454(US,B2)
【文献】
特開2016−139205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K1/00−1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース体にインキ吸蔵体を収容し、枠体に張設した多孔質膜の印字体を前記インキ吸蔵体に対向して形成した印体ユニットであって、前記印字体と前記インキ吸蔵体とを離隔させる弾性体を前記ケース体と前記枠体との間に備えたことを特徴とする印体ユニット。
【請求項2】
前記弾性体が、前記インキ吸蔵体と前記印字体とを常時離隔する方向に付勢する弾性反発体である、請求項1に記載の印体ユニット。
【請求項3】
前記弾性体が、前記ケース体と前記枠体との間に介装した弧状の板バネである、請求項1又は2に記載の印体ユニット。
【請求項4】
前記弾性体を圧縮させることで、前記インキ吸蔵体と前記印字体とが接触する位置に前記枠体が移動可能とした、請求項1〜3の何れか1項に記載の印体ユニット。
【請求項5】
前記ケース体にホルダを取り付けたときに、前記弾性体が圧縮し、前記印字体を前記インキ吸蔵体に接触させた状態で前記枠体を保持することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の印体ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の印字体とインキ吸蔵体とを有する印体ユニット及びそれを備える印判に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印判を販売する店頭などに設置したサーマル加工機を用いて、顧客がデザインした印面パターンをその場で加工し、これによりオリジナルの印判を手軽に受け取ることができるサービスが提供され評判を呼んでいる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この種の印判は、印字体(ステンシル)が多孔質膜で形成される。印字体には、加工機のサーマルヘッドにより、インキ浸透率が大きい捺印部と、インキ浸透率が小さい非捺印部とが高精度に加工される。印字体の背面には、ケース体内のインキ吸蔵体が当接し、これにより印字体にインキが供給される。
【0004】
ところで、未加工の印字体にインキが含浸した状態では、熱加工制御が困難であるとともに、加工時にサーマルヘッドやフィルム等の部材を汚損する等の不具合が生じるおそれがある。このような不具合を防ぐため、例えば特許文献2及び3には、印字体とインキ吸蔵体とが当接しない位置に保持され、印字体の枠に外力を加えこれらを嵌合させることで、印字体とインキ吸蔵体とを当接させるようにした印判及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−139205号公報
【特許文献2】米国特許第7810428号明細書
【特許文献3】米国特許第8925454号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2及び3に記載の印判は、印字体をケース体に嵌合する構成であるため、市場での流通時に不測の外力が加えられると、印字体とケース体とが嵌合し、その結果印字体へのインキの浸透が開始してしまう場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、枠体やケース体に不測の外力が加えられたとしても、印字体へのインキの浸透を防ぐことで、印面の熱加工制御性を十分確保することができる等の印体ユニット又はそれを備える印判を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、ケース体にインキ吸蔵体を収容し、枠体に張設した多孔質膜の印字体を前記インキ吸蔵体に対向して形成した印体ユニットであって、前記印字体と前記インキ吸蔵体とを離隔させる弾性体を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記構成の印体ユニットにおいて、前記弾性体が、前記インキ吸蔵体と前記印字体とを常時離隔する方向に付勢する弾性反発体であること、更には、前記弾性体が、前記ケース体と前記枠体との間に介装した弧状の板バネであることが好ましい。
【0010】
また、上記構成の印体ユニットにおいて、前記弾性体を圧縮させることで、前記インキ吸蔵体と前記印字体とが接触する位置に前記枠体が移動可能であることが好ましい。
【0011】
また、上記構成の印体ユニットにおいて、前記ケース体にホルダを取り付けたときに、前記弾性体が圧縮し、前記印字体を前記インキ吸蔵体に接触させた状態で前記枠体を保持することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケース体にインキ吸蔵体を収容し、枠体に張設した多孔質膜の印字体を前記インキ吸蔵体に対向して形成した印体ユニットが、印字体とインキ吸蔵体とを離隔させる弾性体を備えるようにした。そのため、枠体やケース体に不測の外力が加えられたとしても、印字体とインキ吸蔵体とが接触せず、印字体へのインキの浸透を未然に防ぐことができる。また、ケース体と枠体だけではホルダと枠体とが最終嵌合した状態にならず、ケース体にホルダを取り付けた場合に弾性体が圧縮し、印字体をインキ吸蔵体に接触させた状態で枠体を保持することができるようにした。したがって、印字体にインキが浸透しない状態で印面の熱加工を確実に行うことができ、印面加工時の不具合を引き起こす要因を排除して、印面の熱加工制御性を十分確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態による、ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニットの外観斜視図である。
【
図2】ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニットの断面図である。
【
図5】(a)は、ケース体と枠体とが嵌合時の印体ユニットの側面図である。(b)は、ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状時の印体ユニットの側面図である。
【
図6】(a)は、ケース体と枠体とが嵌合時の印体ユニットの斜視図である。(b)は、ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合時の印体ユニットの斜視図である。
【
図7】ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニットのアタッチメントへの設置を説明するための斜視図である。
【
図8】ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニットをサーマル加工機に設置した状態を示す斜視図である。
【
図9】ホルダと枠体とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニットのサーマル加工機への設置を更に説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、多孔質印判を構成する印体ユニットの好適な実施形態を説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態による、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニット10の外観斜視図である。
図2は、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニット10の断面図である。なお、
図2は、ホルダ30がケース体16に嵌合した最終嵌合状態が図示されている。
【0015】
本実施形態による印体ユニット10は、印判を販売する店頭などに設置される専用のサーマル加工機50(
図8及び9参照)を用いて、例えば顧客が注文又はデザインした印面のデータに基づいて印面パターンを精度良く加工することができる、というものである。そのために、印体ユニット10は、多孔質膜で形成される印字体12と、印字体12の背面に接触してインキを浸透させて供給するインキ吸蔵体15とを備えている。後述する加工機50のサーマルヘッドを駆動制御することで、多孔質膜の印字体12には、インキの浸透率が大きい捺印部とインキの浸透率が小さい非捺印部とが加工され、これにより高精度の印面パターンが形成される。
【0016】
印字体12である多硬質膜は、サーマルヘッドにより表面が加熱溶融し固化できる多孔質材であれば特に限定されない。この多孔質材の原材料として、例えばスチレン系、塩化ビニル系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ウレタン系等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。多孔性を得るためには、加熱加圧ニーダー、加熱ロール等により、デンプン、食塩、硝酸ナトリウム、炭酸カルシウム等の充填材と原材料樹脂とを混練し、シート状にして冷却後、水又は希酸水にて前記充填材を溶出する。この方法により作製される多孔質材の溶融温度は原材料樹脂と同じである。また、顔料、染料、無機質等の副成分を樹脂に添加することで、多孔質材の溶融温度の調整が可能である。本実施形態による多孔質材の溶融温度は70℃〜120℃である。
【0017】
印字体12を構成する多硬質膜の気孔率及び気孔径は、混練される溶解物質の粒径やそれらの含有量により調整することができる。本実施形態による多硬質膜の気孔率は50%〜80%であり、気孔径は1μm〜20μmである。多硬質膜を2層構造にし、インキ吸蔵体15側の気孔率を50μm〜100μmとしてもよい。
【0018】
本実施形態による印体ユニット10は、上述の印字体12を設ける枠体13と、インキ吸蔵体15を収容するケース体16とを備えて構成される。
【0019】
図3に枠体13の斜視図を示す。枠体13は、例えば樹脂により一体成型される部材である。
図1(a)に図示したように、多孔質膜から形成される印字体12は、略四角形の枠体13の開口部13aを閉塞するように張設される。例えば、印字体12の外縁部が枠体13の開口端の前面に接着され、好ましくは融着されている。また、枠体13には、後述するホルダ30に係合する例えば4本の係合肢14が、印面とは反対側に延びて一体形成されている。
【0020】
図4にケース体16の斜視図を示す。ケース体16は、上述の枠体13と略同形で同寸法の外形を有するフランジ部16aを備える概ね厚板状の樹脂部材からなる。
図2の断面図に示したように、インキ吸蔵体15は、フランジ部16aの内側の壁17で囲われる中央に面接着される。また、壁17とフランジ部16aとの境界付近に、上述した枠体13の係合肢14を通すための孔18が4か所に貫通形成されている。
【0021】
なお、インキ吸蔵体15の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、アクリルニトリルブタジエンゴム等の弾力性のある発泡体又は不織布を採用することができる。
【0022】
インキ吸蔵体15においては、時間が経つと、例えばインキの粘性が高まる等の理由により、印字体12へのインキ浸透効率が落ちる傾向にある。そのため、インキ吸蔵体15を目付量の異なる2層で形成することが好ましい。例えば、ポリオレフィン系繊維(PP+PE)でインキ吸蔵体を形成した場合、ケース体16側の第一層の目付量を0.1〜0.15g/cm
2とし、印字体12側の第二層の目付量を0.2〜0.3g/cm
2とすることが好ましい。つまり、印字体12側の密度を高くすることにより、毛細管力の差によるインキの流れを作ることができ、これにより多孔質膜(印字体12)へのインキの浸透時間を安定的に短くすることができる。
【0023】
なお、インキ吸蔵体15が2層の場合、第一層と第二層を熱融着により接着することが好ましい。また、接着剤により2層を部分的に接着してもよい。また、これらを接着せず、各層の接合面に凹凸を設ける等の加工を施して、位置ずれを防止するようにしてもよい。
【0024】
印体ユニット10は、予めインキを含浸させたインキ吸蔵体15を収容するケース体16に、印字体12を有する枠体13を嵌合させた状態で市場に流通し顧客に提供される商品である。しかし、印体ユニット10が顧客に提供される前に、例えば何らかの不測の外力によりインキ吸蔵体15と印字体12とが接触すると、インキ吸蔵体15から印字体12へのインキの浸透が開始し、印面加工時に不具合を生じさせるおそれがある。そのため、本実施形態の印体ユニット10は、印字体12とインキ吸蔵体15との不測の接触を防ぎ、仮に接触したとしてもこれらを離隔させる方向に付勢力を常時作用させる反発弾性体を備えている。ここで、ホルダ30がケース体16と予め嵌合した状態であると、不測の外力が加えられた時にノッチ30aと爪部14aとが嵌合し、印字体12へインキの浸透が開始してしまう可能性があるため、ホルダ30とケース体16は別体であることが好ましい。
【0025】
このような反発弾性体は、ケース体16と枠体13との間に介装される、例えば
図4に示す円弧状の板バネ20とすることができる。板バネ20を圧縮させることで、インキ吸蔵体15と印字体12とが接触する位置に枠体13を移動させることができる。
【0026】
本実施形態による印体ユニット10は、ホルダ30を枠体13に最終嵌合させることで組み立てられる構造を有している。ここで、
図5(a)及び
図6(a)に、ケース体16と枠体13とが嵌合した状態の斜視図と側面図を示す(流通時)。
図5(b)及び
図6(b)に、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態の斜視図と側面図を示す(使用時)。
【0027】
図5(a)及び
図6(a)に示すように、ケース体16と枠体13とが嵌合しているだけの状態では、板バネ20の弾性反発力がケース体16と枠体13との間に作用し、インキ吸蔵体15と印字体12とは接触していない。
【0028】
ケース体16と枠体13とが嵌合した状態から、板バネ20の弾性反発力に抗して、枠体13をケース体16側に押し込むと、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態にさせることができる。この最終嵌合した状態では、
図2に図示したように、枠体13から延びる係合肢14先端の爪部14aが、ホルダ30の内部でノッチ30aに係合する。このとき、印字体12がインキ吸蔵体15に接触し、インキの浸透を開始させることができる。更に、圧縮した板バネ20の弾性反発力が、枠体13の爪部14aでホルダ30をケース体16側に引き付ける方向に作用している。そのため、ホルダ30を一旦、枠体13に嵌合した最終嵌合状態にさせると、ケース体16と印字体12とは不可逆的に外れない状態となる。
【0029】
以上のように構成した印体ユニット10に、サーマル加工機50を使用して印面加工を行う手順について説明する。
図7に示すように、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態にさせた印体ユニット10を、アタッチメント51の収納部52内に嵌め込んで確実にセットする。このアタッチメント51は長方形の板状のものであり、サーマル加工機50のトレー53に収納可能な構造となっている。
【0030】
次いで、
図8に示すように、アタッチメント51をサーマル加工機50のトレー53内に収納すると、その後はサーマル加工機50の中でプログラムの指示に従い、サーマルヘッドにより印字体12に印面が形成されることとなる。このサーマルヘッドによる印面加工においては、入力したデータに基づいて高精度に印面パターンが作成されることとなる。
なお、
図9に示すように、サーマル加工機50に予め収納したアタッチメント51に、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態にさせた印体ユニット10をセットしてから加工を行うこともできる。
【0031】
そして、印面の加工が終了した後は、サーマル加工機50からアタッチメント51を引き出して、ホルダ30と枠体13とが嵌合した最終嵌合状態の印体ユニット10を取り出すことができる。
【0032】
以上説明した実施形態の印体ユニット10によれば、ケース体16と枠体13との間に弾性体を備えたことにより、印字体12とインキ吸蔵体15とを、弾性体の変形距離だけ離隔させることができる。そのため、未加工の印体ユニット10に不測の外力が加えられたとしても、印字体12とインキ吸蔵体15とが接触せず、印字体12へのインキの浸透を未然に防ぐことができる。これにより、印面加工時の不具合を引き起こす要因を排除し、印面の熱加工制御性を十分確保することができる。
【0033】
また、弾性体が、インキ吸蔵体15と印字体12とを常時離隔する方向に付勢する弾性反発体であること、そして好ましくは弧状の板バネ20であることにより、仮に、弾性反発力よりも強い外力が一時的に作用して印字体12とインキ吸蔵体15とが接触したとしても、その反発力によってこれらが押し戻すことができるので、印字体12へのインキの浸透開始をより確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0034】
10 印体ユニット 12 印字体
13 枠体 14 係合肢
14a 爪部 15 インキ吸蔵体
16 ケース体 16a フランジ部
17 壁 18 孔
20 板バネ(弾性反発体) 30 ホルダ
30a ノッチ 40 キャップ
50 サーマル加工機 51 アタッチメント