特許第6860829号(P6860829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860829強化ガラスの製造方法および強化ガラス製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860829
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】強化ガラスの製造方法および強化ガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20210412BHJP
   C03C 17/23 20060101ALI20210412BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
   C03C17/23
   C03C3/083
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-523991(P2018-523991)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2017022089
(87)【国際公開番号】WO2017221805
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2020年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-123480(P2016-123480)
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】梶岡 利之
(72)【発明者】
【氏名】深田 睦
(72)【発明者】
【氏名】木下 清貴
(72)【発明者】
【氏名】川本浩佑
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/088856(WO,A1)
【文献】 特表2005−529056(JP,A)
【文献】 特表2014−510012(JP,A)
【文献】 特開2014−208570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−23/00
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス表層のイオンを交換する強化ガラスの製造方法であって、
前記ガラスの表面の一部に前記イオンの透過を抑制するイオン透過抑制膜を成膜する工程と、
前記イオン透過抑制膜が成膜された前記ガラスの表面のうち、前記イオン透過抑制膜が成膜された成膜箇所と前記イオン透過抑制膜が成膜されていない非成膜箇所との双方に第一の溶融塩を接触させて前記イオンを交換する第一イオン交換工程と、
前記第一イオン交換工程の後に、前記イオン透過抑制膜が成膜された前記ガラスの表面のうち、前記成膜箇所と前記非成膜箇所との双方に第二の溶融塩を接触させて前記イオンを交換する第二イオン交換工程とを備え、
前記第一の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をαとし、前記第二の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をβとした場合、α<βであることを特徴とする、強化ガラスの製造方法。
【請求項2】
α≦10.5であることを特徴とする、請求項1に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項3】
9≦β≦12であることを特徴とする、請求項1または2に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記ガラスを前記第一イオン交換工程において350〜500℃の前記第一溶融塩に0.1〜150時間浸漬した後、前記第二イオン交換工程において350〜500℃の前記第二溶融塩に0.1〜72時間浸漬し、
前記第一イオン交換工程における浸漬時間は前記第二イオン交換工程における浸漬時間より長いことを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス表層のイオンはナトリウムイオンであり、
前記第一溶融塩および前記第二溶融塩は何れもカリウムイオンを含み、
前記ガラスの主面にのみ前記イオン透過抑制膜を成膜し、
前記イオン透過抑制膜は質量%でSiOを70%以上含む組成を有し、
前記イオン透過抑制膜の膜厚は5〜400nmであることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記第二イオン交換工程の後に前記イオン透過抑制膜を除去する工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1から5の何れか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記ガラスは、ガラス組成として質量%で、SiO 45〜75%、Al 1〜30%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%を含有するガラス板であることを特徴とする、請求項1から6の何れか1項に記載の強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスの製造方法および強化ガラス製造装置に関し、より具体的には、イオン交換法によってガラス板の化学強化を行う強化ガラスの製造方法および強化ガラスの装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォンやタブレットPCなどの電子機器に搭載されるタッチパネルディスプレイには、カバーガラスとして化学強化された強化ガラス板が用いられている。
【0003】
このような強化ガラス板は、一般的に、アルカリ金属を組成として含むガラス板を強化液で化学的に処理し、表面に圧縮応力層を形成することによって製造される。このような強化ガラス板は、主面に圧縮応力層を有するために主面への衝撃耐性が向上している。一方、このような強化ガラス板の内部には、主面の圧縮応力層に対応して引張応力層が形成されるが、この引張応力が大きくなりすぎると、これに起因して端面のクラックが進展することによる破損(所謂、自己破壊)が生じやすくなる。また、このような引張応力を小さくするためにガラス板表面の圧縮応力層を全体的に浅く形成した場合、端面において十分な耐衝撃性を得られないという問題があった。
【0004】
上記のような問題を解決すべく、強化ガラス板の主面と端面の圧縮応力のバランスを適切に設定して内部引張応力を適切な範囲で低減する技術が開発されている。例えば、特許文献1には、主面に予めイオン交換を抑制する膜を形成して、化学強化の進度を端面に比べて抑制することによって、相対的に主面より端面の圧縮応力層を深く形成し、端面における強度を向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−208570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強化ガラスのイオン交換に使用される溶融塩は、繰り返し使用される事によって液質が徐々に変化する。そのため、引用文献1の技術のように、イオン交換を抑制する膜を形成した場合、イオン交換に用いられる強化液の液質によっては、イオン交換を抑制する膜を形成した箇所において化学強化が過度に抑制され、当該箇所において十分な圧縮応力層が得られない場合があった。
【0007】
一方で、イオン交換に用いられる強化液の液質によっては、イオン交換を抑制する膜が早期に侵食され、イオン交換を抑制する効果を得られない場合があった。
【0008】
すなわち、高い強度を有する強化ガラスを安定して生産する方法については未だ改良の余地があった。
【0009】
本発明は、このような事情を考慮して成されたものであり、高い強度を有する強化ガラス板を安定して製造可能とする強化ガラスの製造方法および強化ガラス製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の強化ガラスの製造方法は、ガラス表層のイオンを交換する強化ガラスの製造方法であって、ガラスの表面の少なくとも一部にイオンの透過を抑制するイオン透過抑制膜を成膜する工程と、イオン透過抑制膜が成膜されたガラスの表面に第一の溶融塩を接触させてイオンを交換する第一イオン交換工程と第一イオン交換工程の後に、イオン透過抑制膜が成膜されたガラスの表面に第二の溶融塩を接触させてイオンを交換する第二イオン交換工程とを備え、第一の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をαとし、第二の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をβとした場合、α<βであることを特徴とする。
【0011】
本発明の強化ガラスの製造方法において、α≦10.5であることが好ましい。
【0012】
本発明の強化ガラスの製造方法において、9≦β≦12であることが好ましい。
【0013】
本発明の強化ガラスの製造方法において、ガラスを第一イオン交換工程において350〜500℃の第一溶融塩に0.1〜150時間浸漬した後、第二イオン交換工程において350〜500℃の第二溶融塩に0.1〜72時間浸漬し、第一イオン交換工程における浸漬時間は第二イオン交換工程における浸漬時間より長いことが好ましい。
【0014】
本発明の強化ガラスの製造方法において、ガラス表層のイオンはナトリウムイオンであり、第一溶融塩および第二溶融塩は何れもカリウムイオンを含み、ガラスの主面にのみイオン透過抑制膜を成膜し、イオン透過抑制膜は質量%でSiO2を70%以上含む組成を有し、イオン透過抑制膜の膜厚は10〜1000nmであることが好ましい。
【0015】
本発明の強化ガラスの製造方法において、第二イオン交換工程の後にイオン透過抑制膜を除去する工程をさらに備えることが好ましい。
【0016】
本発明の強化ガラスの製造方法において、ガラスは、ガラス組成として質量%で、SiO2 45〜75%、Al23 1〜30%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜20%を含有するガラス板であることが好ましい。
【0017】
本発明の強化ガラス製造装置は、ガラス表層のイオンを交換するための第一溶融塩を収容した第一塩浴槽と、ガラス表層のイオンを交換するための第二溶融塩を収容した第二塩浴槽とを備え、第一の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をαとし、第二の溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をβとした場合、α<βであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、液質の異なる複数種の溶融塩を用いて複数回のイオン交換を行うことで、成膜された箇所においても十分にイオン交換を行い高い圧縮応力を得られる。また、各工程で用いる溶融塩の液質を適切に調整することによって、イオン透過抑制膜の急激な侵食を防止し、イオン交換を適切に抑制できる。したがって、高い強度を有する強化ガラス板を安定して製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本発明の強化ガラスの製造方法の一例に含まれる工程を示す図である。
図1B】本発明の強化ガラスの製造方法の一例に含まれる工程を示す図である。
図1C】本発明の強化ガラスの製造方法の一例に含まれる工程を示す図である。
図1D】本発明の強化ガラスの製造方法の一例に含まれる工程を示す図である。
図1E】本発明の強化ガラスの製造方法の一例に含まれる工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の強化ガラスの製造方法について説明する。図1は、本発明の強化ガラスの製造方法の一例を示す図である。
【0021】
先ず、図1Aに示す準備工程の処理を実施する。準備工程は、元ガラスG1を準備する工程である。元ガラスG1は、イオン交換法を用いて強化可能な板状のガラスである。
【0022】
元ガラスG1は、ガラス組成として質量%で、SiO2 45〜75%、Al23 1〜30%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜20%を含有することが好ましい。上記のようにガラス組成範囲を規制すれば、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立し易くなる。
【0023】
元ガラスG1の板厚は、例えば、1.5mm以下であり、好ましくは1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、0.7mm以下、0.6 mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0 .1mm以下である。強化ガラス基板の板厚が小さい程、強化ガラス基板を軽量化することでき、結果として、デバイスの薄型化、軽量化を図ることができる。なお、生産性等を考慮すれば元ガラスG1の板厚は0.01mm以上であることが好ましい。
【0024】
元ガラスG1の主面の寸法は、例えば、480×320mm〜3350×3950mmである。ここで、主面とは、板厚方向に対向する表面を意味する。
【0025】
元ガラスG1は、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形され、その主面Sが研磨されていないものであることが好ましい。このように成形された元ガラスG1であれば低コストで高い表面品位を有する強化ガラス板を得られる。なお、元ガラスG1の成形方法や加工状態は任意に選択しても良い。例えば、元ガラスG1はフロート法を用いて成形され、主面Sおよび端面Eは研磨加工されたものであっても良い。
【0026】
次いで、上記準備工程の後、図1Bに示す成膜工程の処理を実施する。成膜工程は、元ガラスG1の表面の少なくとも一部にイオン透過抑制膜Mを形成して膜付ガラスG2を得る工程である。イオン透過抑制膜Mは、後述の強化工程において、元ガラスG1表層のイオン交換を行う際にイオンの透過を抑制する膜層である。本実施形態では、膜付ガラスG2は、表裏の主面Sにのみイオン透過抑制膜Mが形成され、端面Eは露出した状態とされている。
【0027】
イオン透過抑制膜Mの材質としては、イオン交換されるイオンの透過を抑制可能であれば任意の材質を用いて良い。交換されるイオンがアルカリ金属イオンである場合、イオン透過抑制膜Mは、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物、金属酸炭化物、金属炭窒化物などの膜であることが好ましい。より詳細には、イオン透過抑制膜Mの材質としては、例えば、SiO2、Al23、SiN、SiC、Al23、AlN、ZrO2、TiO2、Ta25、Nb25、HfO2、SnO2の中から1種類以上を含む膜とすることができる。
【0028】
特にSiO2をイオン透過抑制膜Mの主成分とすれば、安価且つ容易にイオン透過抑制膜Mを形成可能であり、反射防止膜としても機能し得るため、好ましい。イオン透過抑制膜Mは、SiO2のみから成る膜として良い。具体的には、イオン透過抑制膜Mは質量%でSiO2を99%以上含有する組成を有するものとして良い。
【0029】
イオン透過抑制膜Mの厚さは、好ましくは5〜300nm、より好ましくは20〜200nm、さらに好ましくは20〜150nm、40〜120nm、最も好ましくは80〜100nmである。イオン透過抑制膜Mの厚さを上記範囲とすることにより、イオンを透過してしまったり、イオンを遮断し過ぎたりすることなく、好適にイオン交換を行うことができる。
【0030】
イオン透過抑制膜Mの成膜方法は、スパッタ法や真空蒸着法などのPVD法(物理気相成長法)、熱CVD法やプラズマCVD法などのCVD法(化学気相成長法)、ディップコート法やスリットコート法などのウェットコート法を用いることができる。特にスパッタ法、ディップコート法が好ましい。スパッタ法を用いた場合、イオン透過抑制膜Mを容易に均一に形成できる。イオン透過抑制膜Mの成膜箇所は任意の手法で設定して良い。例えば、非成膜箇所(本実施形態では端面E)に予めマスクを施した状態で成膜を行う等して良い。
【0031】
次いで、上記成膜工程の後、図1Cに示す第一イオン交換工程の処理を実施する。第一イオン交換工程は、膜付ガラスG2をイオン交換法により化学強化して膜付強化ガラスG3を得る工程である。具体的には、アルカリ金属イオンを含む溶融塩T1に膜付ガラスG2を浸漬してイオン交換する。本実施形態における溶融塩T1は、例えば、硝酸カリウム溶融塩である。
【0032】
溶融塩T1は、当該溶融塩T1を水と混合して当該溶融塩の濃度が20質量%の水溶液とした際の当該水溶液の水素イオン濃度指数をαとした場合、α≦10.5となる塩であることが好ましい。なお、本発明において水素イオン濃度指数は、水溶液の温度が25℃の状態で測定された値である。αを上記のように調整することで、イオン透過抑制膜Mの損耗を抑制し、イオン透過抑制膜Mが成膜された箇所における膜付ガラスG2のイオン交換を抑制できる。また、膜付ガラスG2のイオン透過抑制膜Mが成膜されていない箇所においては、当該膜が成膜された箇所に比べてガラス表面から内部の深い領域までイオン交換を行うことができる。
【0033】
上記αは、好ましくは5〜10、より好ましくは5.5〜9.5、さらに好ましくは6〜9である。αは、例えば、溶融塩を一旦冷却固化し、粉砕し、計量して、上記水溶液を作成することにより測定できる。
【0034】
第一イオン交換工程における溶融塩T1の温度は任意に定めて良いが、例えば、350〜500℃、好ましくは370〜480℃、より好ましくは380〜450℃、さらに好ましくは380〜400℃である。特に溶融塩T1の温度が400℃以下であれば、温度に起因するαの値の変動を抑制し易くなる。また、膜付ガラスG2を溶融塩T1中に浸漬する時間は任意に定めて良いが、例えば、0.1〜150時間、好ましくは0.3〜100時間、より好ましくは0.5〜50時間である。
【0035】
上記第一イオン交換工程では、膜付ガラスG2の表面のナトリウムイオンと溶融塩T1中のカリウムイオンとが交換され、表面に圧縮応力層Cを有する膜付強化ガラスG3が得られる。ここで、膜付ガラスG2の表面のうち、イオン透過抑制膜Mが設けられた部位(主面S)は、元ガラスG1の表面が露出した露出部Eに比べてイオン交換が抑制されるため、圧縮応力層の深さが小さくなる。換言すれば、露出部Eは、イオン透過抑制膜Mが設けられた部位に比べてイオン交換が進み易く、圧縮応力層の深さが大きくなる。このように、膜付強化ガラスG3は、主面に比べ端面の圧縮応力層の深さが大きくなるため、全面的に強化された強化ガラスに比べて内部の引張応力が小さく且つ端部においては高い耐衝撃性を有する。したがって、端部からのクラックの進展に起因する破損を好適に抑制できる。
【0036】
しかしながら、上記第一イオン交換工程の処理のみでは、イオン透過抑制膜Mによってイオン交換が抑制された箇所において十分な圧縮応力を得られない場合がある。そのため、次いで、上記第一イオン交換工程の後に、以下に説明する第二イオン交換工程の処理を実施し、イオン透過抑制膜Mの成膜箇所における圧縮応力を大きくする。
【0037】
第二イオン交換工程は、図1Dに示すように、膜付ガラスG2をイオン交換法により再度化学強化する工程である。具体的には、アルカリ金属イオンを含む溶融塩T2に膜付強化ガラスG3を浸漬してイオン交換し、膜付強化ガラスG4を得る。本実施形態における溶融塩T2は、例えば、硝酸カリウム溶融塩である。
【0038】
溶融塩T2は、当該溶融塩T2を水と混合して当該溶融塩の濃度が20質量%の水溶液とした際の当該水溶液の水素イオン濃度指数をβとした場合、α<βとなる塩である。βの値をこのような範囲とすることで、成膜箇所において適度にイオン交換を行うことができ、成膜箇所における圧縮応力を増加させることが可能である。
【0039】
なお、上記βは、9〜12であることが好ましく、より好ましくは9.5〜11.5、さらに好ましくは10〜11である。βの値は上述αと同様の方法で測定できる。βの値が上記範囲内であれば、第二イオン交換工程においてガラス表面の白濁等の好ましくない変質を防止できる。
【0040】
第二イオン交換工程における溶融塩T2の温度は任意に定めて良いが、例えば、350〜500℃、好ましくは370〜480℃、より好ましくは380〜450℃である。溶融塩T2の温度が450℃以下であれば、温度に起因するαの値の変動を抑制し易くなる。また、膜付強化ガラスG3を溶融塩T2中に浸漬する時間は任意に定めて良いが、例えば、0.1〜72時間、好ましくは0.3〜50時間、より好ましくは0.5〜24時間である。
【0041】
上記第二イオン交換工程では、βの値がαより高く設定されていることによって、第一イオン交換工程に比べて、イオン透過抑制膜Mの成膜箇所におけるイオン交換が進行し易くなっている。そのため、第二イオン交換工程の処理を経た膜付強化ガラスG4は、処理前の膜付強化ガラスG3に比べてイオン透過抑制膜Mの成膜箇所における圧縮応力が大きくなる。また、膜付強化ガラスG4は、膜付強化ガラスG3に比べてイオン透過抑制膜Mの成膜箇所における圧縮応力層が深くなる。
【0042】
本発明では、αおよびβを上記範囲に調整する調整工程を第一イオン交換工程および第二イオン交換工程各々の前工程や後工程において実施することが好ましい。調整工程では、例えば、溶融塩T1或いはT2に添加物を加えることによってαおよびβを調整できる。添加物は、例えば、塩基性物質である。本発明において塩基性物質は、水と混合した場合に水素イオン指数(pH)が7より大となる物質である。添加物としては、例えば、KOH、NaOH等を単体あるいは組み合わせて用いることができる。
【0043】
イオン透過抑制膜Mが電子デバイスの保護コートや反射防止膜としても機能する場合には、膜付強化ガラスG4は、そのまま電子部品等に搭載して製品として使用することも可能であるが、用途に応じてイオン透過抑制膜Mを除去しても良い。すなわち、第二イオン交換工程の後に、膜付強化ガラスG4からイオン透過抑制膜Mを除去する除去工程を実施して良い。
【0044】
除去工程では、図1Eに示すように膜付強化ガラスG4からイオン透過抑制膜Mを除去して強化ガラスG5を得る。
【0045】
具体的には、膜付強化ガラスG4にエッチング液を付着させてイオン透過抑制膜Mを除去する。イオン透過抑制膜MがSiO2を含有する膜である場合、例えば、フッ素、TMAH、EDP、KOH、NAOH等を含む溶液をエッチング液として用いることができ、特にフッ酸溶液をエッチング液として用いることが好ましい。なお、イオン透過抑制膜Mの剥離方法は上記に限らず、ガラス板に設けられた膜を除去する方法として周知の方法を用いて良く、例えば、研磨等の機械加工によってイオン透過抑制膜Mを除去しても良い。
【0046】
剥離工程では、一方の主面側のイオン透過抑制膜Mのみを除去しても良いし、両方の主面のイオン透過抑制膜Mを除去しても良い。また各主面においてイオン透過抑制膜Mを部分的に除去しても良いし、イオン透過抑制膜Mを全て除去しても良い。
【0047】
イオン透過抑制膜Mを片面側や部分的に除去する場合、スプレーやロール、刷毛等を用いてエッチング液を部分的に付着させたり、膜付強化ガラスG4に部分的にマスキングを施してエッチング液に浸漬させたりして該膜の除去が可能である。
【0048】
イオン透過抑制膜Mを全て除去する場合は膜付強化ガラスG4全体をエッチング液に浸漬すると良い。このように膜付強化ガラスG4全体をエッチング液に浸漬すれば、破損の原因となるマイクロクラックを減少させてさらに強度を向上した強化ガラスG5を得られる場合がある。
【0049】
以上に説明した通り、本発明の実施形態に係る強化ガラスの製造方法によれば、端面からの破損の少ない膜付強化ガラスG4、強化ガラスG5を安定して効率良く製造できる。
【0050】
なお、上述したイオン透過抑制膜Mの材質は一例であり、第一イオン交換工程において交換されるイオンの透過を抑制可能な膜であれば任意の材質を用いて良い。
【0051】
また、膜付ガラスG2におけるイオン透過抑制膜Mの成膜箇所は任意に定めて良い。例えば、元ガラスG1が予め面取り加工されている場合には、面取り面を除く主面にイオン透過抑制膜Mを形成して良い。
【0052】
また、上記に示した任意の工程の前後において、切断加工、端面加工、および孔あけ加工の何れかの加工を実施する加工工程を設けても良い。また、上記に示した任意の工程の前後において、ガラス板に洗浄および乾燥処理を適宜行なって良い。
【0053】
また、上記実施形態では溶融塩T1、T2が、硝酸カリウム溶融塩である場合を一例として説明したが、これに限らずガラスのイオン交換に用いられる周知の溶融塩を代替して、或いは組み合わせて用いて良い。例えば、溶融塩T1、T2は、硝酸カリウム溶融塩と硝酸ナトリウム溶融塩の混合塩であっても良い。
【0054】
また、上記実施形態ではナトリウムイオンとカリウムイオンとを交換して化学強化する場合を例示したが、任意のイオンの交換により化学強化しても良い。例えば、リチウムイオンとナトリウムイオンとを交換したり、リチウムイオンとカリウムイオンとを交換したりして化学強化しても良い。この場合、元ガラスG1は、ガラス組成として、質量%でLiO2を0.5〜7.5%含有することが好ましく、例えば3.0%或いは4.5%含有する。
【0055】
また、上記第一イオン交換工程および第二イオン交換工程における処理温度や浸漬時間等の処理条件は、膜付強化ガラスG4および強化ガラスG5に要求される特性に応じて適宜定めて良い。なお、上記処理条件は、膜付強化ガラスG4および強化ガラスG5の主面Sの圧縮応力層の深さが、露出部Eの圧縮応力層の深さより小さくなるよう調整することが好ましい。
【0056】
また、上記第一イオン交換工程と第二イオン交換工程の間または第二イオン交換工程の後にさらに追加の強化工程を複数工程設けても良い。第一イオン交換工程と第二イオン交換工程の間に追加する強化工程において使用する溶融塩は、当該溶融塩を水と混合して濃度を20質量%の水溶液とした場合の水素イオン濃度指数をγとした場合、γ<βとなる溶融塩であることが好ましい。
【0057】
上述した強化ガラスの製造方法は、上記溶融塩T1を収容した塩浴槽X1および上記溶融塩T2を収容した塩浴槽X2を備えた強化ガラス製造装置を用いて実施することができる。塩浴槽X1、X2は、例えば、上部を開口した金属製筐体からなる槽であり、溶融塩Tで満たされる内部空間を有する。当該強化ガラス製造装置は、塩浴槽X1内に膜付ガラスG2を、塩浴槽X2内に膜付強化ガラスG3を各々収容可能な形状および寸法で構成され、且つ膜付ガラスG2を支持可能な支持装置(図示せず)をさらに備えて良い。支持装置は、例えば、ステンレス鋼等の金属フレームによって構成された治具である。支持装置に膜付ガラスG2を支持させた状態で、塩浴槽X1内の溶融塩T1に浸漬させることによって、上記第一イオン交換工程の処理を実施できる。また、支持装置に膜付強化ガラスG3を支持させた状態で、塩浴槽X2内の溶融塩T2に浸漬させることによって、上記第二イオン交換工程の処理を実施できる。なお、強化ガラス製造装置は上記成膜工程の処理を実施する成膜装置(図示せず)をさらに備えた構成であって良い。成膜装置としては周知のスパッタ成膜装置等を用いることができる。
【0058】
ここで、強化ガラスの応力特性は、例えば折原製作所製FSM−6000を用いて測定することができる。アルミノシリケート系ガラスの圧縮応力層の深さが100μmを超える場合や、リチウムイオンとナトリウムイオンのイオン交換を行った場合は、強化ガラスの応力特性は、例えば折原製作所製SLP−1000を用いて測定することができる。強化ガラスを切断する等して断面試料を作製できる場合は、例えばフォトニックラティス社製WPA−microや東京インスツルメンツ社製Abrioを用いて内部応力分布を観測し、応力深さを確認することが望ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0060】
表1において、No.1〜3は本発明の実施例を示し、No.4〜7は比較例を示している。
【0061】
【表1】
【0062】
表1中の各試料は以下のようにして作製した。先ず、ガラス組成として質量%で、SiO2 61.6%、Al23 19.6%、B23 0.8%、Na2O 16%、K2O 2%を含有するようガラス原料を混合および溶融し、オーバーフローダウンドロー法を用いて厚さ0.8mmの板状に成形し、スクライブ割断によって50×50mm寸法の矩形状に切り出して端面研削および研磨を行い、複数の元ガラスG1を得た。次いで、質量%でSiO2100%の組成を有し、厚さ200nmのイオン透過抑制膜Mを上記得られた元ガラスG1の表裏の両主面全体にスパッタ法を用いて成膜して膜付ガラスG2を得た(成膜工程)。次いで、得られた膜付ガラスG2を、表1中の条件で硝酸カリウム溶液に浸漬して化学強化することにより膜付強化ガラスG3を得た(第一イオン交換工程)。次いで、得られた膜付強化ガラスG3を、表1中の条件で硝酸カリウム溶液に浸漬して化学強化することにより膜付強化ガラスG4を得た(第二イオン交換工程)。次いで、得られた膜付強化ガラスG4の表面を洗浄後、研磨してイオン透過抑制膜を除去し、強化ガラスG5を得た(除去工程)。
【0063】
なお、No.6、7においては第二イオン交換工程を省略した。
【0064】
上記のようにして得た各ガラス試料について、下記測定試験を行った。
【0065】
強化ガラスG5の主面に形成された圧縮応力層の圧縮応力CS、当該主面の圧縮応力層の深さDOL1、および端面の圧縮応力層の深さDOL2は、応力計(折原製作所製のFSM−6000LEおよびFsmXP)で測定した。また、DOL2からDOL1を減算した値をΔDOLとして求めた。ΔDOLの値が大きいほど、内部引張応力が小さく自己破壊し難く、且つ、端面において高い強度を有するガラスであるといえる。
【0066】
表1に示すように、比較例である試料No.4、5は、αの値がβより大きいために第一イオン交換工程中でイオン交換抑制膜Mが激しく損耗してしまい、成膜箇所のDOLが大きくなった結果、実施例に比べΔDOLの値が小さくなっていた。また、比較例である試料No.6、7は、第二イオン交換工程を実施しておらず且つαの値が比較的大きいために第一イオン交換工程中にイオン交換抑制膜Mが激しく損耗し、成膜箇所においてイオン交換が十分に抑制されなかった結果、実施例に比べΔDOLの値が小さくなっていた。すなわち、比較例である試料No.4〜7は、いずれも実施例に比べて自己破壊し易いガラスであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の強化ガラス板およびその製造方法は、タッチパネルディスプレイ等に用いられるガラス基板およびその製造方法等として有用である。
【符号の説明】
【0068】
G1 元ガラス
G2 膜付ガラス
G3、G4 膜付強化ガラス
G5 強化ガラス
M イオン透過抑制膜
T1 第一溶融塩
T2 第二溶融塩
X1 第一塩浴槽
X2 第二塩浴槽
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E