特許第6860861号(P6860861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860861
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】水素冷却システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 5/06 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   F17C5/06
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-8237(P2019-8237)
(22)【出願日】2019年1月22日
(65)【公開番号】特開2020-118199(P2020-118199A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大滝 勉
【審査官】 佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−148197(JP,A)
【文献】 特開2017−150810(JP,A)
【文献】 特開2004−116619(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0116663(US,A1)
【文献】 特開2009−144815(JP,A)
【文献】 特表2016−513780(JP,A)
【文献】 特表2018−536812(JP,A)
【文献】 特表2012−516980(JP,A)
【文献】 特開2015−158225(JP,A)
【文献】 特表2012−516984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 5/06
F17C 13/00
F28D 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性に優れ且つブラインを充填した容器と、当該容器に内蔵されてブラインと水素で熱交換する水素用熱交換器と、ブラインを冷却する冷凍機を含み、
冷凍機は、凝固したブラインが溶融する際に吸収する溶融熱で水素を冷却し以て冷却された水素温度を一定にするため、容器に充填されるブラインが冷媒により凝固される様に冷媒を冷却する機能を有し、
冷凍機で冷却された冷媒は容器内のブラインを凝固するため容器内に配置された冷媒循環配管を流れることを特徴とする水素冷却システム。
【請求項2】
前記水素用熱交換器は複数の板状部材を積層して構成され、板状部材には水素通路が形成されている請求項1の水素冷却システム。
【請求項3】
前記板状部材には、ブライン通過用の貫通孔が形成されている請求項2の水素冷却システム。
【請求項4】
断熱性に優れ且つブラインを充填した容器と、当該容器に内蔵されてブラインと水素で熱交換する水素用熱交換器と、ブラインを冷却する冷凍機を含み、
前記水素用熱交換器は複数の板状部材を積層して構成され、板状部材には水素通路が形成されており、
前記板状部材の外周部には、熱交換用のフィンが設けられていることを特徴とする水素冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素を冷却する技術に関し、特に、燃料電池を搭載した車両(燃料電池自動車:FCV)等に水素を充填する施設である水素ステーションにおける水素充填装置で、水素を冷却するのに好適に用いられる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を搭載した車両(燃料電池自動車:FCV)の開発・普及に伴い、水素ステーション(例えば、特許文献1参照)の設置個所を増加することが重要視されている。
水素ステーションには水素充填装置が設けられており、水素充填装置により、水素ステーションに到着した前記車両の車載タンク内に所定の圧力で水素を充填する。その際に、水素の充填を安全且つ効率的に行うため、水素充填装置から供給される水素の温度が低温(例えば、−35℃)となる様に冷却される。
【0003】
水素を冷却するための従来のシステムが、図7で示されている。
図7において、水素冷却システム200は、水素充填装置本体40内に内蔵された水素熱交換器20、2次冷媒であるブラインを冷却するブライン蓄冷熱交換器21、1次冷媒であるフロンや液化二酸化炭素(CO)を冷却する冷凍機22(例えば空冷冷凍機)を有している。水素熱交換器20は、例えばマイクロチャンネルから成る熱交換器である。
ブライン蓄冷熱交換器21で冷却されたブラインは、冷媒循環配管24により水素熱交換器20に供給され、水素に冷熱を投入して所定の温度(例えば、−35℃)まで冷却する。冷媒循環配管24にはブライン循環用の循環ポンプ27が介装される。冷凍機22で冷却された1次冷媒(フロンや液化二酸化炭素)は、冷媒循環配管25によりブライン蓄冷熱交換器21に供給され、1次冷媒の冷熱はブライン蓄冷熱交換器21に貯蔵されてブラインを冷却する。
冷凍機22は冷却配管26によりクーリングタワー23に連通しており、クーリングタワー23は冷凍機22で発生した熱を排出する。
【0004】
図7で示す従来の水素冷却システム200では、1次側の冷却設備(冷凍機22、冷媒循環配管25)と2次側の冷却設備(ブライン蓄冷熱交換器21、冷媒循環配管24、循環ポンプ27)を具備しているので、冷却システム全体が大きくなり、レイアウトの自由度が制限される等の問題を有している。
また、充填時に常に水素が所定の温度(例えば−35℃)まで冷却されるようにするためには、ブライン蓄熱交換器21及び2次冷媒の循環配管24に介装された循環ポンプ27を連続して運転する必要があり(例えば、「24時間体制」で運転しなければならず)、水素冷却システム200が消費するエネルギーが多大であるという問題も存在する。
一方、システム全体がコンパクトで、且つ、断続運転により冷却するシステムでは、充填量が増加し及び/又は充填頻度が増加すると、被冷却物である水素を所定の温度(例えば−35℃)に冷却し続けることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−166635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、システム全体がコンパクトで、連続運転を必要とせず、しかも、被冷却物である水素を所定の温度(例えば−35℃)に冷却し続けることが出来る水素冷却システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水素冷却システム(100)は、断熱性に優れ且つブライン(B)を充填した容器(1:例えば真空断熱容器)と、当該容器(1)に内蔵されてブライン(B)と水素で熱交換する水素用熱交換器(2:水素プレクーラ)と、ブライン(B)を冷却する冷凍機(11)を含み、
冷凍機(11)は、凝固したブライン(B)が溶融する際に吸収する溶融熱で水素を冷却し以て冷却された水素温度を一定にするため、容器(1)に充填されるブライン(B)が冷媒により凝固される様に冷媒(フロン或いは液化CO)を冷却する機能を有し、
冷凍機(11)で冷却された冷媒は容器(1)内のブライン(B)を凝固するため容器(1)内に配置された冷媒循環配管(13A)を流れることを特徴としている。
【0008】
本発明において、前記水素用熱交換器(2、2−1)は複数の板状部材(2A、2−1A)を積層して構成され、板状部材(2A、2−1A)には水素通路(3、3−1)が形成されているのが好ましい。
そして、前記板状部材(2A)には、ブライン通過用の貫通孔(5)が形成されているのが好ましい。
また本発明の水素冷却システムは、断熱性に優れ且つブライン(B)を充填した容器(1)と、当該容器(1)に内蔵されてブライン(B)と水素で熱交換する水素用熱交換器(2、2−1)と、ブライン(B)を冷却して凝固する冷凍機(11)を含み、
前記水素用熱交換器(2−1)は複数の板状部材(2−1A)を積層して構成され、板状部材(2−1A)には水素通路(3−1)が形成されており、
記板状部材(2−1A)の外周部には、熱交換用のフィン(6)が設けられていることを特徴としている。
【0009】
本発明の実施に際して、水素用熱交換器(2、2−1:水素プレクーラ)を構成する積層体(2A、2−1A)は、拡散接合により層同士が接合されているのが好ましい。
そして本発明の実施に際して、水素用熱交換器(2、2−1:水素プレクーラ)は熱伝導性が高い材料、例えばベリリウム銅で製造されるのが好ましい。
本明細書において、前記容器(1:例えば真空断熱容器)、水素用熱交換器(2:水素プレクーラ)を含む機器を熱交換装置(10、10−1)と表示する場合がある。
【発明の効果】
【0010】
上述の構成を具備する本発明の水素冷却システム(100)によれば、図7で示す従来技術における2次側冷媒の循環系統(ブライン蓄冷熱交換器21、冷媒循環配管24、循環ポンプ27)が省略されており、冷凍機(11)で冷却された冷媒(図7の従来技術では1次冷媒であるフロン或いは液化CO)は、直接、熱交換装置(10、10−1)に供給される。
そして本発明の水素冷却システム(100)では、水素冷却用冷媒(ブライン)を充填した真空断熱容器(1)は蓄冷槽として作用するので、水素冷却用冷媒を冷却する冷凍機(11)が作動するべき時間を大幅に短縮することができる。
冷凍機(11)で冷却された冷媒(フロン或いは液化CO)を熱交換装置(10、10−1)に供給するのは、水素充填時或いは熱交換装置(10、10−1)に充填されている水素冷却用冷媒が完全に融解する場合のみであり、そのため従来技術(図7参照)とは異なり、冷媒(フロン或いは液化CO)を冷却する冷凍機(11:空冷冷凍機)を24時間連続して運転する必要が無く、消費エネルギーを抑制することが出来る。
【0011】
ここで本発明では、真空断熱容器(1)内に水素冷却用冷媒を充填し、水素用熱交換器(2:水素プレクーラ)を内蔵することにより、外部から断熱されている。そのため、外部からの熱により蓄冷槽である真空断熱容器(1)内の温度が上昇することはない。
【0012】
本発明の水素冷却システム(100)によれば、被冷却物質である水素を直接冷却するのは水素冷却用冷媒(凝固したブライン或いは固液二相のブライン)である。冷凍機(11)は冷媒(フロン或いは液化CO)を冷却し、冷却された冷媒は熱交換装置(10、10−1)内の水素冷却用冷媒(ブライン)を冷却して凝固する。
そして、水素冷却用冷媒内に浸漬された水素用熱交換器(1:水素プレクーラ)において、水素冷却用冷媒の潜熱(溶解熱)と水素の顕熱とが熱交換されて、水素が冷却される。
そして本発明の水素冷却システム(100)によれば、蓄冷槽として作用する熱交換装置(10、10−1)は、溶解潜熱を蓄冷することになり、潜熱は顕熱に比較して遥かに熱量が大きいので、冷凍に関する機器を小型化して、設置スペースを小さくしても、水素を冷却するべき温度まで確実に冷却することが出来る。
【0013】
ここで、固相の水素冷却用冷媒が液相に融解する融解温度は一定であるため、熱交換装置(10、10−1)内の水素冷却用冷媒が全て融解しない限り、水素冷却用冷媒の温度は一定(ブラインの融解温度は、ブラインの種類、成分毎に一定)となる。一定温度の水素冷却用冷媒により水素が冷却されるので、本発明によれば、従来技術で行われている様な複雑で且つ高等な温度制御をすること無く、冷却された水素の温度は一定になる。
ここで、水素冷却用冷媒の融解温度は、その成分を調整することにより、適宜調節することが可能である。本発明では、水素の冷却するべき温度に対応して、事前に水素冷却用冷媒を成分調整することにより、供給するべき水素の温度(例えば−35℃)に対応して、水素冷却用冷媒の融解温度を一定(例えば−40℃)にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る水素冷却システムを適用した水素充填装置のブロック図である。
図2図1の水素冷却システムに用いられる熱交換装置のブロック図である。
図3図2の熱交換装置の説明断面図である。
図4図3の熱交換装置のさらに詳細な説明斜視図である。
図5図2の熱交換装置の複数の板状部材が積層されている状態を示す説明図であり、図5(A)が積層された個々のプレートの断面を示し、図5(B)は水素の供給および戻りを模式的に示している。
図6図2の熱交換装置の変形例を示す説明斜視図である。
図7】従来の水素冷却システムを適用した水素充填装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示す水素冷却システムは、水素充填装置本体40に設けられた熱交換装置10と、ブライン(水素冷却用冷媒)を冷却する冷凍機11(空冷冷凍機)を有している。ここで、熱交換装置10は、真空断熱容器1(図2参照)と、水素用熱交換器2(水素プレクーラ、図2参照)を含んで構成されている。水素用熱交換器2は真空断熱容器1に内蔵されており、水素冷却用冷媒(ブライン)と水素で熱交換せしめている。なお図1において、符号41は水素充填ノズルを示す。
真空断熱容器1は断熱性に優れた材料で構成され、内部にブラインが充填されており、蓄冷槽として機能する。
【0016】
熱交換装置10の真空断熱容器1と冷凍機11は、冷媒循環配管13により接続される。冷凍機11で冷却された冷媒、すなわちフロン或いは二酸化炭素(CO)は、冷媒循環配管13により、直接、熱交換装置10の真空断熱容器1に供給され、冷媒が保有する冷熱により、真空断熱容器1内に充填されたブラインを冷却し、凝固する。
冷凍機11は冷却配管14によりクーリングタワー12に連通しており、冷却の際に発生した熱を排出している。なお、後述する様に、冷凍機11に大きな冷却能力は必要なく、空冷方式に構成して、クーリングタワー12を省略することも可能である。
図1に示す実施形態の水素冷却システム100では、図7の従来技術の水素冷却システム200におけるブライン循環系統(2次側冷媒の循環系統:ブライン蓄冷熱交換器21、冷媒循環配管24、循環ポンプ27)が省略されている。
【0017】
次に、熱交換装置10について説明する。
熱交換装置10の真空断熱容器1(図2)に内蔵された水素用熱交換器2(水素プレクーラ、図2参照)において、冷却するべき水素は、水素プレクーラ2の周囲に充填されたブラインと熱交換を行い、ブラインが保有する冷熱が投入されて冷却される。
冷凍機11で冷却された冷媒(ブライン冷却用冷媒:フロン或いは液化CO)は熱交換装置10の真空断熱容器1内に直接供給され、ブラインは当該冷媒と熱交換することにより冷却される。
冷凍機11で冷却されたブライン冷却用冷媒は、水素充填時或いは真空断熱容器1内に充填されているブラインが完全に融解した場合に、真空断熱容器1内に供給される。そのため、冷凍機11は断続的に冷媒を冷却すれば良く、図7の従来技術の様に、冷凍機を24時間連続して運転する必要が無い。
【0018】
上述した様に、水素を冷却するブラインは、熱交換装置10の真空断熱容器1内に、固相或いは固液二相の状態で充填されている。
真空断熱容器1内のブラインが全て融解しない限り(完全に液相の状態にならない限り)、ブラインの温度は一定であり、一定温度のブラインにより水素を一定温度に冷却することが出来る。
【0019】
ここでブラインの融解温度は、ブラインの種類、成分毎に一定であり、ブラインの成分調整により適宜調節することが可能である。したがって、水素を冷却するべき温度に対応して、ブラインを成分調整すれば、真空断熱容器1内のブラインを一定の所定温度に保持することが出来る。例えば、供給するべき水素の温度を−35℃とする場合は、ブラインの融解温度が例えば−40℃となる様に、ブラインの成分調整を行う。ブラインの融解温度を−40℃に成分調整すれば、真空断熱容器1内のブラインの温度は−40℃に保持される。
発明者の実験によれば、冷凍機11で冷却された冷媒(フロン或いは液化CO)で真空断熱容器1内のブラインを−40℃に冷却するためには、空冷冷凍機11を数分間程度運転すれば良い。
【0020】
図2において、熱交換装置10は真空断熱容器1を有しており、真空断熱容器1の内壁面に螺旋状の冷媒循環配管13Aが配置されている。冷媒循環配管13Aは、熱交換装置10の外部において冷媒循環配管13(図1)と連通して冷凍機11に連通している。冷媒循環配管13A内には、冷凍機11で冷却された冷媒(フロン或いは液化CO)が流れている。冷凍機11で冷却された冷媒は矢印IRで示す様に真空断熱容器1に供給され、ブラインBを冷却して、矢印ORで示す様に真空断熱容器1から出て、冷凍機11に戻る。
図2における符号Bは真空断熱容器1内に充填されたブラインであり、ブラインBは、水素の冷却するべき温度(例えば−35℃)に対応した融解温度(例えば−40℃)となる様に成分調整されている。ブラインBを充填した真空断熱容器1は蓄冷槽として作用し、冷凍機11(図1)の作動時間を大幅に短縮することができる。
【0021】
真空断熱容器1に充填されたブラインB内には、水素用熱交換器2(水素プレクーラ)が浸漬されており、図2では、水素用熱交換器2は円柱形状で表現されている。しかし、水素用熱交換器2を円柱形状以外の形状(例えば角柱形状)に構成しても良い。
水素用熱交換器2において、ブラインBの潜熱(溶解熱)と水素の顕熱とが熱交換され、水素が所定の温度(例えば−35℃)に冷却される。水素を冷却する際に、水素は矢印IHで示す様に水素充填装置本体40側(図1)から水素用熱交換器2内に供給され、矢印OHで示す様に水素用熱交換器2から出て水素充填装置本体40に戻り、充填ノズル41(図1)を介して、図示しない燃料電池自動車の車載タンク内に充填される。
真空断熱容器1内にブラインBを充填し、ブラインBの中に水素用熱交換器2(水素プレクーラ)を浸漬することにより、ブラインB及び水素用熱交換器2は外部から断熱され、外部からの熱により真空断熱容器1内の温度が上昇することが防止される。
【0022】
熱交換装置10或いは真空断熱容器1は蓄冷槽として作用し、ブラインBの溶解潜熱を蓄冷する。そしてブラインBの溶解潜熱は水素の顕熱に比較して遥かに熱量が大きいので、冷凍に関する機器(冷凍機11、冷媒循環配管13、クーリングタワー12等)を小型化して、設置スペースを小さくしても、水素を所定の温度まで確実に冷却することが出来る。
上述した様に、熱交換装置10のブラインBが完全に融解して液相となるまで、ブラインBの温度は一定温度すなわち融解温度(例えば−40℃)に保たれる。したがって、ブラインBの温度管理が簡単で、且つブラインBの定温性(例えば−40℃)も向上する。
そして、熱交換装置10はブラインBの溶解潜熱を蓄熱する蓄冷槽として作用するため、真空断熱容器1内のブラインBが完全に融解した場合や、水素充填時に冷却が必要な場合でなければ、冷凍機11を作動させる必要はなく、冷凍機11の作動エネルギーを節約することが出来る。
【0023】
図3において、真空断熱容器1内にブラインBが充填されており、ブラインBの中に水素用熱交換器2(水素プレクーラ)を浸漬させている。真空断熱容器1の内壁面近傍には冷媒循環配管13Aが螺旋状に配置されており、冷媒循環配管13A内にはブライン冷却用冷媒(フロン或いは液化CO)が流れている。
図3で示す通り、冷媒循環配管13Aは真空断熱容器1の内壁面に近接しているが、水素用熱交換器2の外側面とは隔離する様に配置されている。冷媒循環配管13Aを流れる冷媒によりブラインBのみを冷却し、冷媒循環配管13Aを流れる冷媒と水素が熱交換をしない様にするためである。
冷凍機11(図1)で冷却された冷媒は、矢印IRで示す様に真空断熱容器1内に供給され、螺旋状の冷媒循環配管13A内を流過してブラインBを冷却し、矢印ORで示す様に冷凍機11に戻る。
【0024】
図3において、水素用熱交換器2は、複数の板状部材2A(図3図5の例では円板状)を積層して構成されており、それぞれの板状部材2Aには、水素通路3(図3では図示せず:図4図5参照)が形成されている。水素充填装置本体40(図1)から図示しない燃料電池自動車に充填される水素を冷却する際、図3の矢印IHの様に水素用熱交換器2内に供給され、ブラインBにより冷却された後、矢印OHで示す様に水素充填系(図示せず)に戻されて充填ノズル41(図1)に供給される。
各板状部材2Aには、ブラインB通過用の複数の貫通孔5が形成されており、複数の貫通孔5は、水素用熱交換器2の上端から下端まで連続して形成されており、それぞれの板状部材2Aに形成されている。図3では明確に示されていないが、貫通孔5内のブラインBは水素用熱交換器2の下端近傍において、他の貫通孔5内に流入し、或いは水素用熱交換器2外に流出する。
上述した様に、ブラインBは、水素用熱交換器2の外側及び内側(貫通孔5内)を流過して、水素用熱交換器2内を流通する水素と熱交換を行い、所定の温度に冷却する。
【0025】
さらに図4を参照して、熱交換装置10について説明する。
図4の熱交換装置10において、真空断熱容器1内に配置された水素用熱交換器2は、円盤状の機器2A(板状部材)を複数積層しており、各々の板状部材2Aには、水素通路3とブライン通過用の貫通孔5が形成されている。図4において上下方向水素通路3A1、3A2と水平方向水素通路3Bが示されているが、符号3は用いられていない。本明細書において、「水素通路3」と言う文言は、上下方向水素通路3A1、3A2と水平方向水素通路3Bの総称として用いられており、水素通路3は図示されていない。
図4では水素用熱交換器2における最上層の板状部材2Aを示すが、より下層の板状部材2Aについても、水素通路3及びブライン通過用の貫通孔5が形成されている。
水素通路3は、水素用熱交換器2の上下方向(図4の上下方向)に形成された上下方向水素通路3A2と、水平方向に形成された水平方向水素通路3Bを含み、上下方向水素通路3A2と水平方向水素通路3Bは接続されている。なお、図5を参照して後述する様に、上下方向水素通路は、供給側上下方向水素通路3A1と戻り側上下方向水素通路3A2を含んでいる。
【0026】
供給側の上下方向水素通路3A1は、各板状部材2Aにおける半径方向中心近傍を貫通しており、最上層の板状部材2Aから最下層の板状部材2Aまで上下方向に連続して設けられている。水素を水素用熱交換器2に供給する側の上下方向水素通路3A1の上端は水素供給配管4Aと接続しており、水素供給配管4Aは水素充填装置40(図1)に連通している。
一方、水素用熱交換器2から水素充填装置40に水素を戻す側の上下方向水素通路3A2は、図5を参照して説明する様に、それぞれの板状部材2Aにおいて、半径方向外縁近傍箇所を貫通して形成されており、最下層の板状部材2Aから最上層の板状部材2Aまで上下方向に連続している。戻り側の上下方向水素通路3A2の上端は水素戻り配管4Bと接続され、水素戻り配管4Bは水素充填ノズル41(図1)側に連通している。
【0027】
図4で示す様に、板状部材2Aにおいて、水平方向水素通路3Bは水平方向全体に亘って細かく且つ概略均一となる様に配置されている。また、水平方向水素通路3Bは、板状部材2Aにおいて、水平方向水素通路3Bは、その一端が半径方向中心近傍に設けられており、他端が半径方向外縁近傍の端部に設けられている。そして、水平方向水素通路3Bの半径方向中心近傍における端部は上下方向水素通路3A1に連通しており、半径方向外縁近傍の端部は上下方向水素通路3A2に連通している。
板状部材2Aにおいて、水平方向水素通路3Bと干渉しない位置(重複しない位置)に、ブラインBが通過するための複数の貫通孔5が設けられている。貫通口5は、最上層の板状部材2Aから最下層の板状部材2Aまで、上下方向に連続して形成されている。
上述した様にブラインB中に水素用熱交換器2が浸漬されているので、水素用熱交換器2の周囲にはブラインBが充填されている。ブラインBの中にはブライン冷却用の冷媒が流れる冷媒循環配管13Aが螺旋状に配置されている。図4では、冷媒循環配管13Aを一部のみ示している。
【0028】
図4において、水素供給配管4Aにより水素は、板状部材2Aに供給され(矢印IH)、水素用熱交換器2において、供給側の上下方向水素通路3A1、積層された板状部材2Aの各々における水平方向水素通路3B、戻り側の上下方向水素通路3A2を流過し、水素戻り配管4Bに戻り(矢印OH)、水素充填ノズル41(図1)に供給される。
水素は、水素用熱交換器2を流れている間に、貫通孔5内のブラインB及び水素用熱交換器2の周囲に充填されたブラインBと熱交換し、所定の温度(例えば−35℃)まで冷却される。
ブライン冷却用冷媒であるフロン或いは液化COは、冷凍機11(図1)で冷却されて真空断熱容器1内に供給され(矢印IR)、冷媒循環配管13Aを流れる間にブラインBを冷却し、矢印ORで示す様に真空断熱容器1から冷凍機11に戻る。
【0029】
複数の板状部材2Aを積層して図示の実施形態で用いられる水素用熱交換器2を構成するに際しては、例えば公知の拡散接合技術を適用することが出来る。
図示の実施形態では、水素用熱交換器2(板状部材2A)は例えばベリリウム銅で構成されている。ベリリウム銅は、ステンレスに比較して熱伝導性が良好であり、水素脆性が無いからである。
【0030】
水素用熱交換器2を構成する個々の板状部材2Aの断面が図5(A)に示されている。
図5(A)において、供給側の上下方向水素通路3A1、戻り側の上下方向水素通路3A2は、全ての板状部材2Aで連続して形成されている。上述した様に、供給側の上下方向水素通路3A1は上端において水素供給配管4A(図5では図示せず)と接続され、戻り側の上下方向水素通路3A2は上端において水素戻り配管4B(図5では図示せず)と接続されている。
水素充填装置本体側から供給された水素は、矢印IHで示す様に上下方向水素通路3A1に供給され、矢印OHで示す様に上下方向水素通路3A2を介して戻される。
【0031】
図4で説明した様に、水平方向水素通路3Bは、半径方向中心近傍の端部において上下方向水素通路3A1に連通し、半径方向外縁近傍の端部において上下方向水素通路3A2に連通している。
水平方向水素通路3B、上下方向水素通路3A1、上下方向水素通路3A2は、各層の板状部材2Aにおいて同様に形成されているが、水素流路が連続して連通している状態が保たれているのであれば、板状部材2Aの各層における水素通路の形状を不均一にすることも出来る。
水素用熱交換器2の最下層においては、板状部材2Aは配置されておらず、水素通路が形成されていない円盤状部材2Bが配置されている。円盤状部材2Bの上面を最下層の板状部材2Aの下面に当接させることにより、水素が最下層の板状部材2Aから水素用熱交換器2の外部に漏出しない様にするためである。
【0032】
水素の供給および戻りの態様を示す図5(B)において、水素の流れは矢印で示されている。図5(B)では3層の板状部材2Aにおける水素の流れを示している。
図5(B)において、右側は水素供給側を示しており、左側は水素戻り側を示している。
水素充填装置本体側から供給された水素は(矢印IH)、上下方向水素通路3A1を上方から下方に向かって流れ、板状部材2Aの各層において水平方向水素通路3Bを流れ、ブラインBと熱交換を行って、冷却される。
一方、水素戻り側(図5(B)の左側)では、水素は上下方向水素通路3A2を下方から上方に向かって流れ、板状部材2Aの各層で、水平方向水素通路3Bを流れてブラインと熱交換を行って冷却された水素と合流する。そして、矢印OHで示す様に水素用熱交換器2の上方から図5では図示しない充填ノズル41に戻る。
【0033】
図6では、熱交換装置の返礼を示している。
図6の変形例に係る熱交換装置10−1では、図2図6で示すのとは異なる水素用熱交換器2−1(水素プレクーラ)を有している。説明の煩雑を回避するため、図6において、図2図5と同様な機器には同様な符号を用いている。
図6で示す水素用熱交換器2―1は、図2図3で示す水素用熱交換器2と同様に、真空断熱容器1内に充填されたブラインBに浸漬されており、複数の板状部材2−1Aを積層して構成されている。それぞれの板状部材2−1Aは断面略正方形の矩形板状に形成されている。ただし、水素用熱交換器2−1Aを角柱形状以外の形状(例えば円柱形状)で構成することも出来る。
図6の水素用熱交換器2―1は、板状部材2−1Aの外周部に複数の熱交換用のフィン6を備えている。フィン6は板状部材2−1Aと一体に設けても良いし、別体とすることが出来る。板状部材2−1及びフィン6は、熱伝導性が良好であり、水素脆性が無いベリリウム銅で構成されるのが好ましい。
【0034】
それぞれの板状部材2−1Aには、上下方向水素通路3−1A1、3−1A2と水平方向水素通路3−1Bが形成されているが、図2図6の実施形態とは異なり、ブライン通過用の貫通孔は形成されていない。図6は水素用熱交換器2−1で最上層の板状部材2−1Aについて示すが、下層の板状部材2−1Aについても同様である。
上下方向水素通路3−1A1は水素用熱交換器2−1に水素を供給する側の水素通路として設けられており、上下方向水素通路3−1A2は水素用熱交換器2−1から水素を戻す側の水素通路として設けられている。上下方向水素通路3−1A1、3−1A2は、板状部材2−1A内の水平方向水素通路3−1Bと連通している。
【0035】
明確に示されないが、供給側の上下方向水素通路3−1A1は、最上層の板状部材2−1Aから最下層の板状部材2−1Aまで上下方向に連続して配置されており、上下方向水素通路3−1A1の上端は水素充填装置本体側の図示しない供給側水素供給配管と接続されている。
一方、戻り側の上下方向水素通路3−1A2も、最下層の板状部材2−1Aから最上層の板状部材2−1Aまで上下方向に連続して設けられている。そして、戻り側の上下方向水素通路3−1A2の上端は水素充填装置本体側の図示しない戻り側水素戻り配管と接続されている。
【0036】
図6に示す様に、水平方向水素通路3−1Bは、それぞれの板状部材2−1Aにおいて、板部材2−1Aの水平方向全体に亘って蛇行する様に形成されている。そして水平方向水素通路3−1Bは、それぞれの板状部材2−1Aにおいて、一端が供給側の上下方向水素通路3−1A1に接続され、他端は戻り側の上下方向水素通路3−1A2に接続される。
図6の熱交換装置10−1においても、ブラインB中にはブライン冷却用冷媒が流れる冷媒循環配管13Aが螺旋状に配置されている。ただし、図6では冷媒循環配管13Aの一部のみを示す。
【0037】
図6において、矢印IHで示す様に、水素充填装置本体側の図示しない水素供給配管、供給側の上下方向水素通路3−1A1を介して、水素が水素用熱交換器2−1の板状部材2−1Aに供給される。そして、供給側の上下方向水素通路3−1A1、各板状部材2−1Aの水平方向水素通路3−1B、戻り側の上下方向水素通路3−1A2を流過し、矢印OHで示す様に水素充填装置本体側の図示しない水素戻り配管を介して戻される。
水素用熱交換器2−1を流れる間に、水素は、周囲に充填されたブラインBと熱交換して冷却される。その際、板状部材2−1Aの外周面に設けられたフィン6の作用で、熱交換効率が向上する。
また、ブライン冷却用冷媒は、図2図4で示すのと同様に、冷凍機11(図1)で冷却されて真空断熱容器1内に供給され(矢印IR)、冷媒循環配管13Aを流れてブラインBを冷却した後、真空断熱容器1から冷凍機11に戻る(矢印OR)。
図6に示す実施形態の変形例におけるその他の構成、作用効果は、図2図5の実施形態と同様である。
【0038】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
水素用熱交換器(水素プレクーラ)についても、図示の実施形態のものに限定されず、例えば、扁平な板状の金属製長尺材の内部に複数の微小通路を形成した構造、いわゆる「マイクロチャンネル構造」を採用しても良い。
【符号の説明】
【0039】
1・・・真空断熱容器
2、2−1・・・水素用熱交換器(水素プレクーラ)
2A、2−1A・・・板状部材
3、3−1・・・水素通路
5・・・水素冷却用冷媒通過用の貫通孔
6・・・熱交換用のフィン
10、10−1・・・熱交換装置
11・・・冷凍機
100・・・水素冷却システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7