特許第6860877号(P6860877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニッピの特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京医科歯科大学の特許一覧

特許6860877骨芽細胞の分化促進剤および骨形成促進剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860877
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】骨芽細胞の分化促進剤および骨形成促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/39 20060101AFI20210412BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20210412BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20210412BHJP
   C07K 5/083 20060101ALN20210412BHJP
   C07K 5/087 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   A61K38/39ZNA
   A61K38/06
   A61P19/08
   !C07K5/083
   !C07K5/087
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-193980(P2016-193980)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-52899(P2018-52899A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】多賀 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】楠畑 雅
(72)【発明者】
【氏名】後藤 希代子
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊治
(72)【発明者】
【氏名】船戸 紀子
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/017474(WO,A1)
【文献】 Tsuruoka N et al.,Promotion by collagen tripeptide of type I collagen gene expression in human osteoblastic cells and fracture healing of rat femur,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2007年,Vol.71, No.11,p.2680-2687,doi:10.1271/bbb.70287
【文献】 Kimira Y et al.,Collagen-derived dipeptide prolyl-hydroxyproline promotes differentiation of MC3T3-E1 osteoblastic cells,Biochemical and Biophysical Research Communications,2014年,Vol.453, No.3,p.498-501,doi:10.1016/j.bbrc.2014.09.121
【文献】 Liu J et al.,Bovine collagen peptides compounds promote the proliferation and differentiation of MC3T3-E1 pre-osteoblasts,PLoS One,2014年,Vol.9, No.6,e99920,doi:10.1371/journal.pone.0099920
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
la−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−GlyおよびThr−Hyp−Glyからなる群から選択される1以上のペプチド、またはその医学的に許容可能な塩を含有する、骨芽細胞の分化促進剤。
【請求項2】
記ペプチドが、Ala−Hyp−GlyまたはLeu−Hyp−Glyのいずれかであるペプチド、またはその医学的に許容可能な塩を含有する、請求項1に記載の骨芽細胞の分化促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の骨芽細胞の分化促進剤を含む、骨形成促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X−Hyp−Gly(式中Xは、Gly、HypおよびGlu以外のアミノ酸残基)で示されるトリペプチドまたはその医学的に許容可能な塩を含有する、骨芽細胞の分化促進剤および骨形成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、細胞内で−(Gly−X−Y)−(式中、XおよびYはそれぞれ同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の繰り返し構造を有するポリペプチド鎖として合成され、Yに位置するProはほとんどがヒドロキシプロリン(Hyp)へと水酸化される。その後、3本のポリペプチド鎖が三重螺旋構造を形成して細胞外へと分泌され、さらにコラーゲン線維となって皮膚、腱、骨などの様々な結合組織に沈着し、主要な細胞外マトリックスタンパク質として機能する。これらの結合組織から抽出したコラーゲンやゼラチン(熱変性コラーゲン)にクロストリジウム属やグリモンティア属由来のコラゲナーゼを作用させると、N末端がGlyの、Gly−X−Yで示されるトリペプチドを生成する。これら微生物由来コラゲナーゼは、YとGlyとの間を切断するエンドプロテアーゼであり、トリペプチドのN末端はGlyとなる。これに対し、C末端がGlyのコラーゲン/ゼラチン由来のトリペプチドも存在する(特許文献1)。コラーゲンまたはゼラチンに、ProまたはHypのC末端側に隣接するアミノ酸残基とその次のアミノ酸残基との間のペプチド結合を切断するショウガ根茎由来酵素を添加すると、X−Hyp−Glyで示されるペプチドを生成することができるという。
【0003】
X−Hyp−Glyで示されるトリペプチドとして、Ala−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Glyなどがある。これらトリペプチドを含むコラーゲン加水分解物を経口摂取すると、血中のX−Hyp−Gly濃度が対照のコラーゲン加水分解物を経口摂取した場合と比較して有意に上昇するとの報告がある(非特許文献1)。近年、コラーゲン加水分解物を経口摂取することにより、Pro−HypやX−Hyp−Gly型トリペプチドなどのコラーゲン由来オリゴペプチドが血中で非常に高濃度で検出されることが報告され、それらペプチドの効果効能に注目が集まっている。X−Hyp−Gly型トリペプチドの生理作用としては、Ala−Hyp−Gly、Pro−Hyp−Glyのコラーゲン合成促進効果(特許文献2)、Glu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−Gly、Ala−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Pro−Hyp−Glyのエラスチン産生促進効果(特許文献3)、Glu−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ala−Hyp−GlyのジペプチジルペプチダーゼIV阻害活性(特許文献4)、Pro−Hyp−Gly、Glu−Hyp−Gly、Ala−Hyp−Gly、Ser−Hyp−Glyのアンジオテンシン変換酵素阻害効果(非特許文献2)などが報告されている。
【0004】
また、コラーゲン加水分解物摂取による骨代謝改善(特許文献5)、コラーゲン加水分解物による骨分化促進効果(非特許文献3、非特許文献4)などの報告もある。また、コラーゲン加水分解組成物に代えて、Pro−Hypによる骨分化促進効果も報告されている(非特許文献5)。
【0005】
更に、Glu−Hyp−Glyを用いた、前駆軟骨細胞または骨芽細胞の増殖促進剤もある(特許文献6)。ペプチド固相合成法で調製したGlu−Hyp−Glyをマウス正常骨芽細胞MC3T3−E1に10nmol/mlで添加してアルカリホスファターゼ活性(以下、ALP活性と称する。)を測定したところ、対照に対して1.8倍という高い骨芽細胞の分化促進作用が示され、および対照に対して1.7倍という高い骨芽細胞の増殖促進率が示されたという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/17474号
【特許文献2】特開2010−024200号公報
【特許文献3】特開2014−141450号公報
【特許文献4】国際公開第2012/102308号
【特許文献5】特開2013−124221号公報
【特許文献6】特開2015−59087号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Taga Y, et al., ”Efficient absorption of X-hydroxyproline (Hyp)-Gly after oral administration of a novel gelatin hydrolysate prepared using ginger protease”, J. Agric. Food Chem., (2016) 64(14):2962-2970
【非特許文献2】鶏コラーゲン加水分解物摂取後のヒト血中ペプチドの動態とACE阻害作用、日本食品科学工学会誌、2009年、56巻6号、p326−333
【非特許文献3】Guillerminet F, et al., "Hydrolyzed collagen improves bone metabolism and biomechanical parameters in ovariectomized mice: an in vitro and in vivo study", Bone, (2010) 46(3):827-834.
【非特許文献4】Liu J, et al., "Bovine collagen peptides compounds promote the proliferation and differentiation of MC3T3-E1 pre-osteoblasts", PLoS One, (2014) 9(6):e99920.
【非特許文献5】Kimira Y, et al., "Collagen-derived dipeptide prolyl-hydroxyproline promotes differentiation of MC3T3-E1 osteoblastic cells", Biochem. Biophys. Res. Commun., (2014) 453(3):498-501.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献5では、Pro−HypによりMC3T3−E1細胞の分化が促進され、特許文献6ではGlu−Hyp−Glyにより、MC3T3−E1細胞のALP活性が増加したというが、より分化能や骨形成促進作用に優れ、また工業的に多量に生産可能なペプチドの開発が望まれる。
【0009】
上記現状に鑑み、本発明は、X−Hyp−Gly(式中Xは、Pro、Gly、HypおよびGlu以外のアミノ酸残基)で示されるトリペプチドを含む、骨芽細胞の分化促進剤を提供することを目的とする。
【0010】
また本発明は、X−Hyp−Gly(式中Xは、Gly、HypおよびGlu以外のアミノ酸残基)で示されるトリペプチドを含む、骨形成促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、X−Hyp−Gly(式中Xは、Pro、Gly、HypおよびGlu以外のアミノ酸残基)で示されるトリペプチドについて詳細に検討したところ、これらが骨芽細胞の分化促進作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、Ala−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−GlyおよびThr−Hyp−Glyからなる群から選択される1以上のペプチドまたはその医学的に許容可能な塩を含有する、骨芽細胞の分化促進剤を提供するものである。
【0014】
また本発明は、前記トリペプチドが、Ala−Hyp−GlyまたはLeu−Hyp−Glyのいずれかであるペプチド、またはその医学的に許容可能な塩を含有する、前記骨芽細胞の分化促進剤を提供するものである。
【0015】
更に、本発明は、前記骨芽細胞の分化促進剤を含む、骨形成促進剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Ala−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−GlyおよびThr−Hyp−Glyからなる群から選択される1以上のペプチドを含む骨分化促進剤等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、Ala−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−GlyおよびThr−Hyp−Glyからなる群から選択される1以上のペプチド、またはその医学的に許容可能な塩を含有する、骨芽細胞の分化促進剤である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
(1)X−Hyp−Gly
本発明で使用するトリペプチドは、X−Hyp−Glyで示され、Xは、Pro、Gly、HypおよびGlu以外のアミノ酸残基である。好ましくは、Ala−Hyp−Gly、Phe−Hyp−Gly、Leu−Hyp−Gly、Ser−Hyp−Gly、Thr−Hyp−Glyである。上記式で示されるトリペプチドを生成するには、特許文献4を参照して、コラーゲンやゼラチンの−(Gly−X−Y)−で示されるペプチド鎖に、1次酵素としてコラゲナーゼや黄色コウジカビ由来プロテアーゼを作用させ、次いで2次酵素としてN末端から2番目にプロリンまたはヒドロキシプロリン以外のアミノ酸が存在する場合にN末端からアミノ酸を遊離させるペプチダーゼを作用させてもよい。また、ProまたはHypのC末端側に隣接するアミノ酸残基とその次のアミノ酸残基との間のペプチド結合を切断するショウガ根茎由来酵素を添加し、その単独の酵素反応によってより簡便かつ多量にX−Hyp−Glyで示されるペプチドを生成することができる。X−Hyp−Glyで示されるペプチドは、これらのペプチド組成物から液体クロマトグラフィーその他の方法で精製して調製することができる。
【0019】
また、「固相合成法」や「液相合成法」などの公知のペプチド合成法によって製造することもできる。固相合成法としては、Fmoc法、Boc法の何れであってもよい。表面をアミノ基で修飾した樹脂ビーズを固相として用い、縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を用いる。トリペプチドのC−末端にあたるGlyのN−末端をFmoc基で保護し、上記樹脂ビーズのアミノ基とペプチド結合させる。固相を溶媒で洗浄し、その後、固相に結合しているGlyのFmoc基の脱保護を行う。溶媒で樹脂ビーズを洗浄後、Fmoc−Hyp−OH、DICおよびHOBtをそれぞれ反応溶液に加える。反応後、樹脂ビーズを溶媒で洗浄し、N−末端のFmoc基を脱保護し、溶媒で樹脂ビーズを洗浄する。その後、Fmoc−X−OH、DICおよびHOBtをそれぞれ加え、固相上でペプチドを合成する。合成後に、N−末端のFmoc基を除去し、減圧乾燥した後に得られた乾燥樹脂ビーズをTFAで処理し、樹脂ビーズからX−Hyp−Gly粗生成物をTFAに溶出させる。得られた粗生成物を精製水に溶解し、液体クロマトグラフィー等で精製し、X−Hyp−Glyを単離する。
【0020】
上記X−Hyp−Glyで示されるトリペプチドは、塩を形成するものであってもよい。塩は、医学的に許容可能な塩であることが好ましい。「医学的に許容可能な塩」とは、薬理学的に許容可能であり、投与された対象に対して略無毒である塩形態をいう。例えば、無毒の有機酸塩または無機酸塩がある。無機酸としては、塩化水素酸、硫酸、またはリン酸などがある。有機酸としては、カルボン酸、ホスホン酸、スルホン酸があり、たとえば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシブチル酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸、サリチル酸、フマル酸、琥珀酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、グルタル酸、2−または3−グリセロリン酸、ならびに当業者には周知の他の鉱物の酸がある。また、無機塩基や有機塩基との塩であってもよい。無機塩基としては、アルカリまたはアルカリ土類金属(たとえば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、またはマグネシウム)水酸化物、アンモニア、アンモニウム水酸化物などがある。また、有機塩基としては、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン、N−メチルグルカミン、ベンジルアミン、ピペリジン、ピロリジンなどがある。
【0021】
(2)骨芽細胞の分化促進剤
上記X−Hyp−Glyで示されるトリペプチドやその医学的に許容可能な塩は、骨芽細胞の分化促進剤として使用することができる。
骨組織が形成されることを骨化といい、膜内骨化と軟骨内骨化とに大別される。膜内骨化は頭蓋骨等で観察され、間葉系細胞が直接、骨芽細胞に分化して骨基質を産生する骨形成様式をいう。一方、軟骨内骨化とは、未分化間葉系細胞が軟骨細胞に分化して軟骨原基を形成し、軟骨細胞が肥大軟骨細胞に分化し、周囲の軟骨膜に含まれる細胞が骨芽細胞に分化し、これらによって石灰化した軟骨組織を骨組織に置換する骨形成様式をいう。何れの骨形成過程でも骨芽細胞が関与する点で共通する。骨芽細胞の分化が促進されると骨形成が促進される。
【0022】
マウス頭蓋冠由来MC3T3−E1細胞は、胎児マウスの頭蓋骨より樹立された前駆骨芽細胞株である。骨芽細胞へと分化誘導されるとアルカリホスファターゼ(ALP)を発現するため、骨芽細胞の分化の指標としてALP活性が用いられている。よって、MC3T3−E1細胞培養時にサンプルを添加し、未処置対照に対するサンプル添加時のALP活性を求めると、骨芽細胞への分化に対する作用を調べることができる。骨芽細胞の分化誘導は、生体を構成する種々の骨形成にポジティブに寄与して骨形成が促進されると考えられる。ただし、ALP活性の上昇と細胞増殖とは同義ではない。一般の細胞分化の過程では増殖が止まってから分化が起こり、MC3T3−E1細胞も同様である。後記する実施例に示すように、前記X−Hyp−Glyは、骨芽細胞の分化を促進し、ゆえに骨芽細胞の分化促進剤として使用することができる。
【0023】
(3)骨形成促進剤
前記X−Hyp−Glyやその医学的に許容可能な塩は、骨形成促進剤として使用することができる。上記したように、前記X−Hyp−Glyで示されるトリペプチドやその医学的に許容可能な塩は、骨芽細胞の分化促進作用があり、この分化促進作用によって骨形成を促進することができる。
【0024】
(4)剤型等
骨芽細胞の分化促進剤や骨形成促進剤は、経口的、または非経口的に投与することができる。経口投与の場合は、前記X−Hyp−Glyで示されるトリペプチドやその医学的に許容可能な塩をそのまま散剤、顆粒剤、丸剤としてもよく、表面に糖衣その他で加工したコーティング剤や、カプセルに充填したカプセル剤、適当な溶媒に溶解した経口液剤や懸濁剤、乳化剤によって乳化してなる乳剤などの何れであってもよい。非経口投与の場合は、ローション剤、軟膏剤、貼付剤(パップ剤)、注射剤、坐剤、点鼻剤等がある。
【0025】
上記骨芽細胞の分化促進剤や骨形成促進剤には、剤型に応じて賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、保存料、抗酸化剤、界面活性剤、pH調整剤、保湿剤、増粘剤、無機充填剤、結合剤、希釈剤、着色料、香料、紫外線吸収剤などを添加してもよい。なお、X−Hyp−Glyとしては、コラーゲン含有食品を分解して精製したものに限定されず、精製を行わずX−Hyp−Glyを含有するタンパク質加水分解物を使用してもよい。
【0026】
骨芽細胞の分化促進剤や骨形成促進剤として使用する際の上記ペプチドの投与量は、対象の状態や体重、剤型、投与経路等によって異なるが、成人1日当たり、経口投与の場合は、1〜5000mg、好ましくは2〜2000mg、より好ましくは5〜500mgである。患部に直接投与する場合は、0.1〜500mg、好ましくは0.2〜200mg、より好ましくは0.5〜50mgである。製剤は、1日1〜数回に分けて投与してもよく、または1〜数日に1回投与してもよい。
【0027】
上記骨芽細胞の分化促進剤や骨形成促進剤は、飲食物に添加してもよい。このような飲食物として、野菜やフルーツ、乳酸菌などを含むジュースその他の飲料、ゼリー、ヨーグルト、プリン、アイスクリームなどの半流動性食品などがあり、また他の食材に混練して固形食品に調製してもよい。
【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0029】
(製造例1)
ショウガ根茎の外皮を除去して細切後−30℃で凍結保存し、この凍結ショウガに対し5倍量(重量/容量)の冷アセトンを添加してホモジナイザーで十分破砕した。この破砕液をろ過して残渣を分取し、再度5倍量の冷アセトンで洗浄・ろ過してから室温で風乾して、ショウガ酵素粉末を得た。
ウシ皮膚由来I型コラーゲン溶液を60℃で30分間加熱して調製したウシゼラチン溶液に、塩酸を加えてpH4.0に調整し、2mMとなるようにジチオトレイトールを添加して5%ゼラチン溶液を調製した。これに、1/10量の前記ショウガ酵素粉末を添加し、振盪しながら50℃で16時間反応させた。反応終了後、ショウガ酵素粉末をろ過により除き、ろ液をさらに限外ろ過(Vivaspin 20−10K、GEヘルスケア社製)した。回収したろ液を凍結乾燥し、ペプチド組成物を得た。このペプチド組成物の重量平均分子量は590であった。ついで、下記LC/MS測定条件で分析し、主要なX−Hyp−Gly型トリペプチドの生成量を定量した。ゼラチン1gあたりの主要なトリペプチドの生成量を表1に示す。
【0030】
(結果)
ショウガ根茎由来酵素を用いることでゼラチンから様々なX−Hyp−Gly型トリペプチドが多量に生成された。中でもAla−Hyp−Glyの生成量は7.49mg/g、Leu−Hyp−Glyの生成量は7.99mg/gと、他のX−Hyp−Gly型トリペプチドと比較し、特に高いペプチド生成が示された。
【0031】
(1)LC/MS測定条件
高速液体クロマトグラフ:1200Series(Agilent Technologies)、
質量分析装置:3200QTRAP(AB Sciex)、
分析カラム:Ascentis Express F5 5μm, 4.6mmi.d.×250mm(SUPELCO)、
カラム温度:40℃、
移動相:A液;10mM酢酸アンモニウム、B液;100%アセトニトリル、
グラジエント条件:
0〜7.5分:A液100%、
7.5〜20分:A液100〜25%;B液0〜75%、
20〜25分:A液25%;B液75%、
25〜30分:A液100%、
流速:0.4mL/min、
(2)質量分析条件:
イオン化:ESI、ポジティブ、
分析モード:Multiple Reaction Monitoring(MRM)モード、
イオンスプレー電圧:3kV、
イオンソース温度:700℃
【0032】
【表1】
【0033】
(実施例1)
マウス頭蓋冠由来骨芽細胞株MC3T3−E1細胞を用いて、表1に記載される各X−Hyp−Gly型トリペプチドの骨芽細胞分化促進効果について評価を行った。なお、表1に記載されるトリペプチドは、Anygen社のカスタム合成サービスにより化学合成したものを使用した。
MC3T3−E1細胞は、10%ウシ胎児血清含有アルファMEM中に5×10細胞/ウェルの条件で24−ウェル細胞培養プレート中に準備した。翌日、細胞がコンフルエントになっていることを確認後、培地を分化培地(10%透析済みウシ胎児血清(Thermo Scientific社製)、100μg/mLアスコルビン酸、10mMグリセロール2−リン酸二ナトリウム含有アルファMEM)で置換し、表1に示すトリペプチドを終濃度200nmol/mLになるように添加した。対照には、トリペプチドに代えて蒸留水を同量添加した。2日おきに分化培地を交換し、表1に示すトリペプチドを終濃度200nmol/mLになるように添加した。6日間培養後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、3.7%ホルムアルデヒドにて固定した。
【0034】
PBS、Tween20を含むトリス緩衝生理食塩水、Tween20を含むTNM溶液(0.1M Tris−HCl、pH9.5、0.1M NaCl、0.05M MgCl)で洗浄後、NBT/BCIP(18.75mg/mL p−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド、9.4mg/mL 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸p−トルイジン塩を67%メチルスルホキシド(v/v)に溶解した液)をTNM溶液で50倍希釈し、各ウェルに300μLずつ添加してALP染色を行った。Image Jにてウェル中でALP陽性を示す面積を数値化した。
【0035】
N=3で独立して2回くりかえし、計6サンプルの平均値および標準誤差を、対照を1とした相対評価で示した。t検定にて、対照に対してp<0.05で統計的有意差ありと設定した。結果を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
トリペプチドに代えてPro−Hyp(Bachem社製)を使用した以外は実施例2と同様に操作し、ALP活性を算出した。結果を表2に示す。
【0037】
(結果)
MC3T3−E1細胞に各X−Hyp−Gly型トリペプチドおよびPro−Hypを添加すると、それぞれALP活性が上昇した。さらに、ALP活性の上昇はPro−Hypでは対照に対して1.4倍であったのに対し、各トリペプチド全てでそれ以上のALP活性の上昇を示した。MC3T3−E1細胞は、骨芽細胞へと分化誘導されるとALPを発現するため、各トリペプチドは、骨芽細胞の分化誘導作用が高いと考えられる。中でもAla−Hyp−GlyおよびLeu−Hyp−Glyは特に高い骨芽細胞の分化誘導作用を持つことが示された。
【0038】
【表2】