特許第6860904号(P6860904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860904太陽光発電モジュール評価方法、評価装置および評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860904
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】太陽光発電モジュール評価方法、評価装置および評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/15 20140101AFI20210412BHJP
   G01N 21/66 20060101ALI20210412BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20210412BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   H02S50/15
   G01N21/66
   G01R31/26 F
   G01N21/88 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-66163(P2017-66163)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-170853(P2018-170853A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年1月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】石河 泰明
(72)【発明者】
【氏名】モハマド・アミヌル・イスラム
【審査官】 桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−060369(JP,A)
【文献】 特開2016−072542(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059615(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第106301222(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04−31/078
H02S 50/00−50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入し、エレクトロルミネッセンスを検知することにより太陽光発電セル又はモジュールの品質を評価する方法において、
被評価太陽光発電セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する判定ステップと、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する評価ステップ、
を備え、
前記判定ステップは、被評価太陽光発電セル又はモジュールの短絡電流と同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜Iの範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を最小二乗直線で表し、該最小二乗直線の決定係数Rに対して閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定し、
前記評価ステップは、前記決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽光発電セル、前記決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生しつつある太陽光発電セル、又は前記決定係数Rが0.990未満の場合には、電圧誘起劣化現象が発生した太陽光発電セル、として評価することを特徴とする太陽光発電モジュール評価方法。
【請求項2】
被評価太陽光発電モジュールに対して電流を注入し、モジュール内に存在する電圧誘起劣化が発生した太陽光発電セル数が全体のセル数に占める割合が予め設定した値に達した場合に、被評価太陽光発電モジュールを電圧誘起劣化したと評価することを特徴とする請求項の太陽光発電モジュール評価方法。
【請求項3】
被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入する電流供給部と、
被評価太陽光発電セル又はモジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮影して画像データを出力する撮像部と、
被評価太陽光発電セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する判定部と、
前記判定部からの判定結果に基づいて、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する評価部、
を備え
前記判定部は、
被評価太陽光発電セル又はモジュールの短絡電流と同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜Iの範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を最小二乗直線で表し、該最小二乗直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定し、
前記評価部は、
前記決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽光発電セル、前記決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生しつつある太陽光発電セル、又は前記決定係数Rが0.990未満の場合には、電圧誘起劣化現象が発生した太陽光発電セル、として評価することを特徴とする太陽光発電モジュール評価装置。
【請求項4】
被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入しながら、被評価太陽光発電セル又はモジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮影した画像データを入力する入力ステップと、
前記画像データから、被評価太陽光発電セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する判定ステップと、
上記判定の結果に基づいて、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する評価ステップと、
上記評価結果を出力する出力ステップ、
を、コンピュータに実行させるためのプログラムであり、
前記判定ステップは、
被評価太陽光発電セル又はモジュールの短絡電流と同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜Iの範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を最小二乗直線で表し、該最小二乗直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定し、
前記評価ステップは、
前記決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生していない太陽光発電セル、前記決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生しつつある太陽光発電セル、又は前記決定係数Rが0.990未満の場合には、電圧誘起劣化現象が発生した太陽光発電セル、として評価することを特徴とする太陽光発電モジュール評価プログラム。
【請求項5】
請求項の太陽光発電モジュール評価プログラムが搭載されたサーバコンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電モジュールの品質を評価する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電モジュール設置後の稼働状況検査技術としては、熱イメージを取得することによる電気的な劣化状況の診断技術や、同時に太陽光発電モジュールや複数枚のモジュールで構成される太陽光発電アレイに電流を注入し、太陽光発電アレイ等に光を照射することによる発光(フォトルミネッセンス)をカメラで撮像する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
しかしながら、熱イメージを取得する診断では、電気抵抗の増加箇所または漏れ電流が発生している箇所の取得はできるものの、発熱現象の切り分けや、抵抗変化以外の診断は難しいといった問題がある。また、太陽光発電モジュール等のフォトルミネッセンスでは、照射される光の面積は限定的であるため、光が照射された場所の状況が診断されるものの、太陽光発電アレイが広大な面積をもつ場合の診断には、極めて長い時間の測定が必要になるといった問題がある。
【0003】
また、太陽光発電モジュール等に電流を注入し、太陽光発電モジュール等からの発光(エレクトロルミネッセンス)による稼働状況検査技術が報告されている。(非特許文献1)。
一方で、近年、メガソーラーのような大規模な太陽光発電事業における太陽光発電モジュールにおいて、電圧誘起劣化(PID:Potential Induced Degradation)現象が報告されている。太陽光発電事業において、短期間で大幅な出力低下を招くおそれがあり、事前にPIDの可能性を確認することが重要とされている。PID現象は、実際に太陽光発電モジュールとして設置した後の実地使用で初めて現象が確認できるものであり、太陽光発電モジュールの製造時の品質管理では回避することが困難とされている。
【0004】
太陽光発電モジュールの場合、PID現象は短期間で大幅な出力低下が発生するが、エレクトロルミネッセンスでPID現象により出力が低下した太陽光発電モジュールを評価すると、発光強度の著しい低下もしくは発光しないこと等を確認できる。
しかしながら、PID現象による出力低下が起こらなければ、不良モジュールの検出は困難であるといった課題がある。そこで、太陽光発電モジュールの出力管理において、著しい出力低下が発生する前に、PID現象が進行している太陽光発電モジュールを検知することが要望される。なお、PID現象が進行している太陽光発電モジュールを検知するために、モジュールに注入される電流値は、検査される太陽光発電モジュールの短絡電流値と同等である。これは、太陽光発電セルからの発光原理から、注入電流と発光強度が比例関係にあることを利用しているものである(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−59781号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Fuyuki, et al., 42nd IEEE Photovoltaic Specialist Conference (2015) 1-3.
【非特許文献2】T. Fuyuki, et al., J. Appl. Phys. 101, 023711 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した通り、PID現象による出力低下が発生した太陽光発電モジュールに対する従来の評価方法は、電流注入による太陽光発電モジュールからのエレクトロルミネッセンスを撮像し、非発光部分が発生していることでPID現象による出力低下と特定し診断している。そのため、著しい出力低下が発生する前に、PID現象が進行している太陽光発電モジュールを検知できるものではなく、出力低下を招く前に太陽光発電モジュールの交換が困難であるといった不都合がある。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、電圧誘起劣化(PID)現象が発生しつつある太陽光発電モジュールを一早く検知できる評価方法および評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、理論上、電流注入とそれによる発光強度は比例関係にあるはずのものが、PID現象を生じた太陽光発電モジュールでは比例関係からずれることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の太陽光発電モジュール評価方法は、被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入し、エレクトロルミネッセンスを検知することにより太陽光発電セル又はモジュールの品質を評価する方法において、セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定することにより、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する。
これまで明確な出力低下が発生してから、太陽光発電モジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮像し、非発光部を確認することで、出力低下した太陽光発電モジュールを特定していたのに対して、本発明によれば、明確な出力低下が起こる前に、PID現象が進行している太陽光発電モジュールを特定できるようになる。
【0011】
太陽光発電モジュールは、太陽の光エネルギーを吸収し直接電気に変えるエネルギー変換素子であり、シリコン(Si)等の半導体から構成される。半導体に光が照射されると日射強度に比例して発電する。Si系太陽光発電セルでは、電気的性質の異なる2種類(p型、n型)の半導体を重ね合わせた構造を備える。
本発明の太陽光発電モジュール評価方法は、光照射面にエミッタ層を有するp型Si系太陽光発電セル又はn型Si系太陽光発電セルに対して好適に用いられるが、その他のタイプの太陽光発電セルであっても構わない。
なお、本明細書において、セルは太陽光発電モジュールの基本単位で、太陽光発電素子そのものをいい、モジュールはセルを複数枚配列して屋外で利用できるよう樹脂や強化ガラスでパッケージ化したものをいい、アレイはモジュールを複数枚並べて接続したものをいう。
【0012】
本発明の太陽光発電モジュール評価方法における線形性の判定は、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内における注入電流量と発光強度との相関の線形性を判定することが好ましい。電流量Iの0.25倍未満では、発光強度が弱く、線形性の判定が困難な場合があるからである。
ここで、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量は、セル又はモジュールの出力端をショートしたときに流れる電流量、すなわち、負荷がない状態で流れる電流量と同等の電流量である。
そして、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しないものを、電圧誘起劣化(PID)が発生した又は発生しつつある太陽光発電セルとする評価する。理論上は、電流注入とそれによる発光強度は比例関係にあるはずが、PID現象を生じた太陽光発電セルやモジュールでは比例関係からずれるのである。
【0013】
また、本発明の太陽光発電モジュール評価方法における線形性の判定は、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を近似直線で表し、近似直線の決定係数Rに対して閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定することでもよい。なお、相関係数Rに対して閾値を設定することも可能であるが、相関係数Rの場合、係数値自体の変動はより小さいものになる可能性があり、変化の検出感度を高めるために、相関係数Rよりも決定係数Rを用いて線形性を判定するのが好ましい。
上記の近似直線は最小二乗法による最小二乗直線を用いることができる。そして、近似直線の決定係数Rに応じて、下記1)〜3)のように太陽光発電セルを評価する。
1)決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合は、電圧誘起劣化現象が発生していないと評価する。
2)決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生しつつあると評価する。
3)決定係数Rが0.990未満の場合には、電圧誘起劣化現象が発生したと評価する。
【0014】
本発明の太陽光発電モジュール評価方法において、被評価太陽光発電モジュールに対して電流を注入し、モジュール内に存在する電圧誘起劣化が発生した太陽光発電セル数が全体のセル数に占める割合が予め設定した値に達した場合に、被評価太陽光発電モジュールを電圧誘起劣化したと評価する。モジュール内には、セルが複数枚配列されているが、電圧誘起劣化が発生したと評価されるセル数が、モジュール内の全セル数の所定割合に達した場合は、モジュール自体が電圧誘起劣化したと評価することにするものである。なお、所定割合は10%が好適に用いられるが、使用環境や使用条件によって、15%以上や20%以上と設定することでもよい。
【0015】
次に、本発明の太陽光発電モジュール評価装置について説明する。
本発明の太陽光発電モジュール評価装置は、下記a)〜d)の構成を備える。下記の構成の装置によれば、明確な出力低下が起こる前に、PID現象が進行している太陽光発電モジュールを特定することが可能である。
a)被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入する電流供給部
b)太陽光発電セル又はモジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮影して画像データを出力する撮像部
c)セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する判定部
d)判定部からの判定結果に基づいて、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する評価部
【0016】
上記c)の判定部は、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内における注入電流量と発光強度との相関の線形性を判定し、上記d)の評価部が、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しないものを、電圧誘起劣化が発生した又は発生しつつある太陽光発電セルとして評価することが好ましい態様である。
【0017】
また、上記c)の判定部は、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を近似直線で表し、近似直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定し、上記d)の評価部は、近似直線が最小二乗直線である場合において、決定係数Rの範囲に応じて、上述の1)〜3)のように太陽光発電セルを評価することでもよい。
【0018】
次に、本発明の太陽光発電モジュール評価プログラムについて説明する。
本発明の太陽光発電モジュール評価プログラムは、下記の入力ステップ、判定ステップ、評価ステップおよび出力ステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムである。
・入力ステップは、被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入しながら、セル又はモジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮影した画像データを入力する。
・判定ステップは、入力した画像データから、セル又はモジュールの注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する。
・評価ステップは、判定ステップにおける判定結果に基づいて、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価する。
・出力ステップは、評価ステップにおける評価結果を出力する。
【0019】
ここで、判定ステップは、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内における注入電流量と発光強度との相関の線形性を判定し、評価ステップは、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しないものを、電圧誘起劣化が発生した又は発生しつつある太陽光発電セルとして評価する。
【0020】
また、判定ステップは、セル又はモジュールの短絡電流と略同等の注入電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を近似直線で表し、近似直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定し、評価ステップは、近似直線が最小二乗直線である場合において、決定係数Rの範囲に応じて、上述の1)〜3)のように太陽光発電セルを評価することでもよい。
【0021】
本発明のサーバコンピュータは、上述の本発明の太陽光発電モジュール評価プログラムが搭載され、ネットワークに接続されており、クライアントコンピュータからネットワークを介して、画像データ(被評価太陽光発電セル又はモジュールに対して電流を注入しながらセル又はモジュールのエレクトロルミネッセンス像を撮影した画像データ)が送られた場合に、画像データに基づいて被評価太陽光発電モジュールの評価を行い、評価結果をクライアントコンピュータに返送する。
本発明のサーバコンピュータによれば、クライアント・サーバシステムを用いて、電圧誘起劣化(PID)現象が発生しつつある太陽光発電モジュールを一早く検知できる評価サービスを提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の太陽光発電モジュール評価方法等によれば、明確な出力低下が起こる前に、電圧誘起劣化(PID)現象が進行している太陽光発電モジュールを特定できるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】太陽光発電モジュール評価方法の一実施形態のフロー図
図2】太陽光発電モジュール評価方法の他の実施形態のフロー図
図3】太陽光発電モジュール評価装置の機能ブロック図
図4】EL強度と注入電流量との相関グラフ(1)
図5】EL強度と注入電流量との相関グラフ(2)
図6】決定係数Rを用いたセル評価の説明図(1)
図7】決定係数Rを用いたセル評価の説明図(2)
図8】決定係数RとEL強度の効果比較の説明図
図9】PID現象が発生したセルが含まれている割合と出力保持率との相関グラフ
図10】太陽光発電モジュール評価サーバのシステム構成例
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0025】
図1は、太陽光発電モジュール評価方法の一実施形態のフローを示している。図1に示すように、まず、評価対象の太陽光発電モジュールに電流を注入しながらエレクトロルミネッセンス(EL)像を撮影した画像データを入力する(S01:入力ステップ)。次に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内における注入電流量と発光強度との相関の線形性を判定する(S02:判定ステップ)。ここで、Iは短絡電流密度相当の電流量のことである。そして、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しないものを、電圧誘起劣化(PID)現象が発生した又は発生しつつある太陽光発電セルとして評価し(S03:評価ステップ)、太陽光発電モジュールの劣化度合いの評価結果を出力する(S04:出力ステップ)。
【0026】
次に、図4図5のEL強度と注入電流量との相関グラフを参照して、本実施例の太陽光発電モジュール評価方法について説明する。ここで、評価対象の太陽光発電モジュールは、短絡電流密度36.5mA/cm、開放端電圧0.616V、曲線因子0.730、変換効率16.4%の特性スペックのp型多結晶Si太陽光発電セルを使用し、ガラス/EVA/セル/EVA/バックシートとなるようにラミネートしたモジュール構造のものである。PID現象の加速試験の条件は、85℃、85RH%、−1000Vである。
図4図5では、横軸は注入電流密度(mA/cm)、縦軸はEL強度を示している。横軸の目盛の右端の40(mA/cm)は、評価対象の太陽光発電モジュールにおける短絡電流相当の電流密度である。また、横軸の目盛の左端の10(mA/cm)は、短絡電流相当の1/4(=0.25)倍の電流密度である。
PID現象が発生していないセルでは、短絡電流をIとすると、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しているのに対して、PID現象が発生しているセルでは、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例していない。
図5では、図4のグラフにおいて、プロット毎に10(mA/cm)と40(mA/cm)のEL強度を結ぶ直線(点線で表記)を加えたものである。PID現象が発生していないセルでは、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しているのに対して、PID現象が発生しているセルでは、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例していないということが明確に確認できる。
【実施例2】
【0027】
図2は、太陽光発電モジュール評価方法の他の実施形態のフローを示している。図2に示すように、まず、評価対象の太陽光発電モジュールに電流を注入しながらEL像を撮影した画像データを入力する(S101)。次に、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度との相関を最小二乗直線で近似する(S102)。そして、最小二乗直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定する(S103)。決定係数R(S104)が0.995以上1以下の範囲である場合(S105)は、電圧誘起劣化(PID)現象が発生していないと評価される(S106)。決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲である場合(S107)は、PID現象が発生しつつあると評価される(S108)。そして、決定係数Rが0.990未満(S109)ある場合は、PID現象が発生したと評価される(S110)。以上により、モジュールの評価結果を出力する(S111)。
【0028】
次に、図6図7を参照して、本実施例の太陽光発電モジュール評価方法の決定係数を用いたセル評価について説明する。また、図8を参照して、決定係数とEL強度の効果比較について説明する。そして、図9を参照して、PID現象が発生したセルが含まれている割合と出力保持率との相関グラフを参照して、本実施例の太陽光発電モジュール評価方法が早い段階で劣化検知できる技術であることを説明する。
評価対象の太陽光発電モジュールの仕様は、実施例1と同じである。PID現象の加速試験の条件は、実施例1と同様、85℃、85RH%、−1000Vである。図6図7では、横軸は注入電流密度(mA/cm)、縦軸はEL強度を示している。横軸の目盛の40(mA/cm)は、評価対象の太陽光発電モジュールにおける短絡電流相当の電流密度である。また、横軸の目盛の左端は、実施例1と異なり0(mA/cm)から始めている。横軸の目盛の10(mA/cm)は、短絡電流相当の1/4(=0.25)倍の電流密度である。図6図7のグラフにおいて、y=ax+b(但し、a,bは係数)の表記があるが、これは近似直線である最小2乗直線を表す式であり、Rは最小2乗直線の決定係数である。
【0029】
図6は、PID現象が発生していないセルと発生しているセルの2つのプロットに関して、注入電流密度が10〜40(mA/cm)の範囲で、注入電流量と発光強度との相関を最小2乗直線で近似して、決定係数Rを求めたものである。PID現象が発生していないセルにおける決定係数Rは0.9981であり、PID現象が発生しているセルにおける決定係数Rは0.9905であった。ここで、決定係数Rが0.9905のセルでは出力が1%低下していた。
【0030】
図7は、PID現象が発生していないセルのプロットと発生しているセルの3つのプロットに関して、注入電流密度が10〜40(mA/cm)の範囲で、注入電流量と発光強度との相関を最小2乗直線で近似して、決定係数Rを求めたものである。PID現象が発生していないセルにおける決定係数Rは0.9979であり、PID現象が発生しているセルにおける決定係数Rは0.9905,0.9794および0.9648であった。ここで、決定係数Rが0.9794のセルでは出力が5%低下、決定係数Rが0.9648のセルでは出力が6%低下していた。
【0031】
上述の説明から、短絡電流密度相当の電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を最小2乗直線で近似した場合、決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合は、PID現象が発生していないと評価できる。また、決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、出力低下が少なく、PID現象が発生しつつあると評価できる。さらに、決定係数Rが0.990未満の場合には、出力低下が大きくなり、PID現象が発生したと評価できる。
【0032】
図8は、決定係数RとEL強度の効果比較を示すグラフである。図8の横軸は変換効率低下率であり、縦軸(左)はEL強度(セル平均値)/カウントであり、縦軸(右)は決定係数Rである。図8に示すように、決定係数Rのプロットは左下がりであり、変換効率低下率が0%から6%と大きくなるに従い、決定係数Rが1付近から0.965に線形的に変化していることが確認できる。これから、決定係数Rが変換効率低下を計測するパラメータとして利用できることがわかる。
一方、EL強度は、変換効率低下率が増加するに従って、単調に低下し、特に、変換効率低下が進むに従って、EL強度低下の度合が弱くなり、検出感度が低くなる。EL強度は、電極抵抗の増加や、セル割れなど、急激な特性劣化に繋がらない劣化現象によっても低下し、PID現象を直接的に検知・判断することは困難である。
【0033】
図9は、PID現象が発生したセルが含まれている割合と出力保持率との相関を示すグラフである。図9のグラフにおいて、比較例とは、短絡電流相当の電流を注入した時に明らかに発光しないセルを劣化したセルと評価する従来方法のことであり、実施例とは、本実施例の太陽光発電モジュール評価方法で劣化したセルと評価するものである。
PID現象が発生したセルが含まれている割合が20%未満において、比較例と実施例とを比べると、比較例では出力保持率が75%以下に下がっているのに対して、実施例では出力保持率が95%程度を維持していることが確認できる。これから、本実施例の太陽光発電モジュール評価方法が早い段階で劣化検知できる技術であることがわかる。
なお、実施例ではPID現象が発生したセルが含まれている割合が50%を超えたとしても、出力保持率が75%以上を維持できている。
【実施例3】
【0034】
図3は、太陽光発電モジュール評価装置の機能ブロック図を示している。太陽光発電モジュール評価装置1は、電流供給部2、撮像部3、判定部4および評価部5から構成される。電流供給部2は、評価対象の太陽光発電モジュール6に対して電流を注入する。撮像部3は、モジュール6のエレクトロルミネッセンス(EL)像を撮影して画像データを出力する。判定部4は、撮像部3の画像データを用いてモジュール6の注入電流量と各セルの発光強度との相関の線形性を判定する。評価部5は、判定部からの判定結果に基づいて、各セルの電圧誘起劣化度合いを評価し、評価結果を出力する。によれば、太陽光発電モジュール評価装置1では、モジュール6で明確な出力低下が起こる前に、PID現象が進行しているか否かを評価できる。
【0035】
判定部4は、上述の実施例1のフローと同じく、モジュール6の短絡電流密度相当の電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内における注入電流量と発光強度との相関の線形性を判定する。そして評価部5は、0.25I〜Iの範囲内における注入電流量と発光強度とが比例しないものを、電圧誘起劣化が発生した又は発生しつつある太陽光発電セルとして評価する。
【0036】
また、判定部4は、上述の実施例2のフローと同じく、モジュール6の短絡電流密度相当の電流量をIとした場合に、0.25I〜I(電流量Iの0.25倍〜1倍)の範囲内において、注入電流量と発光強度との相関を最小2乗直線で近似し、最小2乗直線の決定係数Rに閾値を設定して、設定された閾値に応じて線形性を判定する。そして評価部5は、決定係数Rが0.995以上1以下の範囲の場合は、電圧誘起劣化現象が発生していないと評価し、また、決定係数Rが0.990以上0.995未満の範囲の場合には、電圧誘起劣化現象が発生しつつあると評価し、決定係数Rが0.990未満の場合には、電圧誘起劣化現象が発生したと評価する。
【実施例4】
【0037】
図10は、太陽光発電モジュール評価サーバのシステム構成例を示している。太陽光発電モジュール評価サーバ8は、LAN等のネットワーク7に接続されており、クライアント端末(9a〜9c)からの要求に応じて、太陽光発電モジュールの評価結果を提供する。
図10に示す例では、評価対象である太陽光発電モジュール6(太陽光発電セル6aが複数枚配列されている)に対して、図示しない電流供給部から電流が注入されて、エレクトロルミネッセンス(EL)現象が生じ、モジュール6のEL像をカメラ12で撮影している。撮影した画像データは、クライアント端末9aが通信ケーブル10を介して取り込む。クライアント端末9aは、撮影した画像データをサーバ8にネットワーク7を介して送信する。サーバ8は、撮影した画像データを受信し、クライアント端末9aの要求に応じて、取得した画像データを用いて、実施例1又は実施例2の太陽光発電モジュール評価方法によって、モジュール6の評価を行い、評価結果をクライアント端末9aに応答する。
クライアント端末9bは、サーバ8に対して画像データを送らないものの、サーバ8に保管されている太陽光発電モジュールの評価結果を閲覧できる。また、クライアント端末9cは、カメラ12からモジュール6のEL像の画像データを無線通信11で取り込んでいる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、設置後の実地使用されている太陽光発電モジュール評価装置に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 太陽光発電モジュール評価装置
2 電流供給部
3 撮像部
4 判定部
5 評価部
6 太陽光発電モジュール
6a 太陽光発電セル
7 ネットワーク
8 太陽光発電モジュール評価サーバ
9a,9b,9c クライアント端末
10 通信ケーブル
11 無線通信
12 カメラ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10