特許第6860922号(P6860922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6860922免疫機能の検査方法、がん患者の選別方法、がんの治療効果予測方法、細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤、腫瘍組織におけるエフェクター・メモリー(EM)とエフェクター(eff)の選択的機能向上剤、がん治療薬の効果のモニタリング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860922
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】免疫機能の検査方法、がん患者の選別方法、がんの治療効果予測方法、細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤、腫瘍組織におけるエフェクター・メモリー(EM)とエフェクター(eff)の選択的機能向上剤、がん治療薬の効果のモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20210412BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20210412BHJP
   G01N 33/84 20060101ALI20210412BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 31/616 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 35/644 20150101ALI20210412BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210412BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210412BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210412BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   G01N33/50 K
   G01N33/68
   G01N33/84 Z
   C12Q1/02
   A61K31/12
   A61K31/155
   A61K31/4375
   A61K31/616
   A61K35/644
   A61K39/395 T
   A61K45/00
   A61P35/00
   A61P43/00 105
   A61K39/00 H
   A61P43/00 121
   A61K39/395 N
   A61K39/395 E
   A61K39/395 D
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-567023(P2017-567023)
(86)(22)【出願日】2017年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2017005011
(87)【国際公開番号】WO2017138660
(87)【国際公開日】20170817
【審査請求日】2019年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-24363(P2016-24363)
(32)【優先日】2016年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-204284(P2016-204284)
(32)【優先日】2016年10月18日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「革新的がん医療実用化研究事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 平一郎
(72)【発明者】
【氏名】榮川 伸吾
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−221752(JP,A)
【文献】 特開2014−214093(JP,A)
【文献】 特開2001−288104(JP,A)
【文献】 MILLER R A,Diminished calcium influx in lectin-stimulated T cells from old mice,Journal of Cellular Physiology,1987年 8月,Vol.132 No.2,Page.337-342
【文献】 FESKE Stefan,Calcium signalling in lymphocyte activation and disease,Nature Reviews Immunology,2007年 9月,Vol.7 No.9,Page.690-702
【文献】 CERVEIRA Joana,An imaging flow cytometry-based approach to measuring the spatiotemporal calcium mobilisation in activated T cells,Journal of Immunological Methods,2015年 8月,Vol.423,Page.120-130
【文献】 SCHEPERS Eva,Flow cytometric calcium flux assay: Evaluation of cytoplasmic calcium kinetics in whole blood leukocytes,Journal of Immunological Methods,2009年 8月31日,Vol.348 No.1-2,Page.74-82
【文献】 Ariel Quintana,Calcium-dependent activation of T-lymphocytes,Pflugers Arch - Eur J Physiol,2005年,Vol.450 No.1,Page.1-12
【文献】 SHIMOZAWA Masahiro,T細胞活性化におけるカルシウムシグナリングの時空間定量解析,生物物理,2011年 5月18日,Vol.51 No.Supplement 1,Page.S104 3A0912
【文献】 SHIMOZAWA Masahiro ,T細胞活性化におけるカルシウムシグナリングと細胞内構造変化の時空間定量解析,生物物理,2012年 8月15日,Vol.52 No.Supplement 1,Page.S172 3PT181
【文献】 尾上かおる,カルシウムイオンと細胞生物学 Tリンパ球受容体刺激の伝達機構,細胞工学,1986年 1月,Vol.5 No.1,Page.3-13
【文献】 長尾陽子,カルシウム動態と細胞機能 免疫応答とカルシウム動態,生体の化学,1996年 3月,Vol.47 No.2,Page.121-127,88(2)
【文献】 FU Guo,Multiplexed labeling of samples with cell tracking dyes facilitates rapid and accurate internally controlled calcium flux measurement by flow cytometry,Journal of Immunological Methods,2009年10月31日,Vol.350 No.1-2,Page.194-199
【文献】 LIU Shuang,The contribution of calcium release activated calcium channel in T cell proliferation and function,Journal of Pharmacological Sciences,2010年 2月15日,Vol.112 No.Supplement 1,Page.216P P2J-22-3
【文献】 KIMBALL P M,Two episodes of calcium uptake associated with T-lymphocyte activation,Cellular Immunology,1988年 4月15日,Vol.113 No.1,Page.107-116
【文献】 R S Lewis,Calcium signaling mechanisms in T lymphocytes,Annu Rev Immunol,2001年,Vol.19,Page.497-521
【文献】 Susan N Christo,The functional contribution of calcium ion flux heterogeneity in T cells,Review Immunol Cell Biol,2015年,Vol.93 No.8,Page.694-704
【文献】 馬場 義裕,免疫細胞におけるストア作動性カルシウム流入の役割,日薬理誌,2011年,Vol.137,Page.202-206
【文献】 Friedmann Kim S,Calcium signal dynamics in T lymphocytes: Comparing in vivo and in vitro measurements,Seminars in Cell & Developmental Biology,2019年,Vol.94,Page.84-93
【文献】 鵜殿 平一郎,「癌と免疫の対峙を代謝で読み解く腫瘍免疫学」−メトホルミンによる癌治療への異次元戦略−,生命健康科学研究所紀要,2018年,Vol.15,Page.1-17
【文献】 榮川伸吾,腫瘍局所における免疫疲弊CD8T細胞の機能回復を介したメトホルミンの抗腫瘍効果,日本がん免疫学会総会プログラム・抄録集,2013年 6月10日,Vol.17th,Page.114
【文献】 榮川伸吾,がん免疫抑制・免疫疲弊と新規治療 T細胞の免疫疲弊制御とがん免疫治療,癌と化学療法,2014年 9月15日,Vol.41 No.9,Page.1066-1070,要旨
【文献】 鵜殿平一郎,メトホルミンによる腫瘍局所の免疫疲弊解除,日本免疫治療学研究会学術集会プログラム・抄録集,2015年,Vol.12th,Page.22-23
【文献】 木村裕司,胃癌患者末梢血中CD8T細胞の多機能性と代謝の解析,日本がん学会免疫学会総会プログラム・抄録集,2017年,Vol.21st,Page.97
【文献】 JORGE EDUARDO DUQUE,Metformin as a Novel Component of Metronomic Chemotherapeutic Use: A Hypothesis,Journal of Experimental and Clinical Medicine,2012年,Vol.4 No.3,Page.140-144
【文献】 James S. Wiley,Extracellular Adenosine Triphosphate Increases Cation Permeability of Chronic Lymphocytic Leukemic Lymphocytes,Blood,1989年 4月,Vol.73 No.5,Page.1316-1323
【文献】 KATAYAMA Y,Ca2+ response in single human T cells induced by stimulation of CD4 or CD8 and interference with CD3 stimulation,J Immunol Methods,1993年11月 5日,Vol.166 No.1,Page.145-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
A61K 31/12
A61K 31/155
A61K 31/4375
A61K 31/616
A61K 35/644
A61K 39/00
A61K 39/395
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 43/00
C12Q 1/02
G01N 33/68
G01N 33/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法を行うがん患者を選別するための指標として、がん患者の末梢血に免疫刺激剤を適用後、一過性に末梢血単核球(PBMC)又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、その後刺激前の状態に戻るか、免疫刺激剤の適用後にPBMC又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇基調にあるかを決定するための方法。
【請求項2】
他のがん治療薬が、抗PD−1抗体、アスピリン、スタチン、クルクミン、ベルベリン、ロイヤルゼリー又はプロポリスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法のがん患者に対する治療効果を予測するための指標として、がん患者の末梢血に含まれる単核球(PBMC)を免疫刺激したときに細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇し、その後刺激前の状態に戻るか、免疫刺激剤の適用後にPBMC又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇基調にあるかを調べる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2016年2月12日に出願された日本国特許出願第2016−24363号明細書及び2016年10月18日に出願された日本国特許出願第2016−204284号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、免疫機能の検査方法、がん患者の選別方法、がんの治療効果予測方法、細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤、腫瘍組織におけるエフェクター・メモリー(EM)とエフェクター(eff)の選択的機能向上剤、がん治療薬の効果のモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0003】
がん免疫療法を適用するには、事前に免疫能を知る必要がある。
【0004】
末梢血リンパ球を抗原ペプチドで刺激培養し、1〜2週間後に増えてきたリンパ球の癌細胞に対する細胞傷害活性を測定する、或いは、刺激に用いたペプチドで再刺激を行い、IFNγ産生を測定していた。
【0005】
しかしながら、このような方法では、1〜2週間の培養期間が必要になるので、必ずしも患者体内のリアルタイムのリンパ球機能を反映しない。抗原ペプチドで刺激培養する過程は、時に非特異的なリンパ球増殖を誘発し、擬陽性の結果を示す場合が多々ある。
【0006】
特許文献1は、メトホルミンが化学療法剤の効果増強作用を有することを開示しているが、メトホルミン自身はがんの治療効果を有しないことが実施例で示されている。
【0007】
非特許文献1は、2型糖尿病治療薬であるメトホルミンの作用メカニズムを開示する。
【0008】
非特許文献2は、メトホルミンが抗がん作用を有することを示唆している。
【0009】
特許文献2は、メトホルミンを含むビグアニド系抗糖尿病薬が免疫疲弊CD8+T細胞の機能を改善することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2013-503171
【特許文献2】特開2014-214093
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Nature 439, 682-687 (2006)
【非特許文献2】J Exp Clin Med 2012; 4(3): 140-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、免疫系の賦活及び評価に有効な技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、以下の免疫機能の検査方法、がん患者の選別方法、がんの治療効果予測方法、細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤、腫瘍組織におけるエフェクター・メモリー(EM)とエフェクター(eff)の選択的機能向上剤、がん治療薬の効果のモニタリング方法を提供するものである。
項1. ヒト被験者の末梢血を採取し、免疫刺激剤を適用後、末梢血単核球(PBMC)又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度の推移を検査し、免疫刺激剤の適用後に一過性にPBMC又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、その後刺激前の状態に戻る場合に全身の免疫機能が低下していると判断し、免疫刺激剤の適用後にPBMC又はCD8T細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇基調にある場合に全身の免疫機能は正常であると判断される、免疫機能の検査方法。
項2. 項1の検査方法で全身の免疫機能が低下していると判断されたがん患者を、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法を行うがん患者として選別、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法を適用するがん患者の選別方法。
項3. 他のがん治療薬が、抗PD−1抗体、アスピリン、スタチン、クルクミン、ベルベリン、ロイヤルゼリー又はプロポリスである、項2に記載の患者の選別方法。
【0014】
項4. 下記工程(1)〜(2)を含む、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法のがん患者に対する治療効果を予測する方法:
(1)がん患者から採取された末梢血に含まれる単核球(PBMC)を免疫刺激したときに細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇するか、持続的に上昇するかを評価する工程、及び
(2)免疫刺激時のPBMCの細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇した後速やかに下降する場合、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法が治療効果を示す可能性が高いと予測する工程。
項5. 下記工程(1)〜(2)を含む、がん患者の治療方法:
(1)がん患者から採取された末梢血に含まれる単核球(PBMC)を免疫刺激したときに細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇するか、持続的に上昇するかを評価する工程、
(2)免疫刺激時のPBMCの細胞内カルシウムイオン濃度が一過性に上昇した後速やかに下降する場合、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と他のがん治療薬の併用療法が治療効果を示す可能性が高いと予測する工程、及び
(3)工程(2)において治療効果を示す可能性が高いと予測した患者に、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種並びに他のがん治療薬を投与する工程。
項6. フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、免疫刺激によるCD8T細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤。
項7. 腫瘍組織内のCD8T細胞の細胞内カルシウムイオン濃度を選択的に上昇させる、項6に記載の免疫刺激によるCD8T細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇剤。
【0015】
項8. フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、腫瘍組織におけるエフェクター・メモリー(EM)とエフェクター(eff)の選択的機能向上剤。
項9. フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、腫瘍組織内のグルコース濃度が0.5〜1.5mMであるがん患者に投与されるがん治療薬。
項10. 以下の工程1)〜工程3)を含む、がん治療薬の効果のモニタリング方法:
工程1)がん組織から腫瘍内リンパ球を分離する工程、
工程2)分離された腫瘍浸潤リンパ球のグルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルを解析する工程、及び
工程3)解析されたGlut1の発現レベルに基づき、がん患者に既に投与していたがん治療薬が有効か否かを判定/評価する工程
(ここで、がん組織は、がん治療薬を投与後にがん患者から摘出されたものである。)。
項11. がん治療薬が、がんワクチン、免疫チェックポイント阻害薬、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる、項9に記載のがん治療薬の効果のモニタリング方法。
項12. Glut1発現レベルをフローサイトメーターにより解析する、項10又は11に記載のがん治療薬の効果のモニタリング方法。
項13. 腫瘍浸潤リンパ球がCD8T細胞である、項10〜12のいずれか1項に記載のがん治療薬の効果のモニタリング方法。
項14. 工程3が、分離された腫瘍浸潤リンパ球を2時間以上、0.1mM以上のグルコース濃度の培地中で培養し、その後グルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルを解析する、項10〜13のいずれか1項に記載のがん治療薬の効果のモニタリング方法。
【発明の効果】
【0016】
がんは、体内の一部に限局し、腫瘍組織内には少数の免疫細胞は存在するものの、末梢血を採取してもがんに接触した免疫細胞は大幅に希釈されて正常値又はそれに近い数値を示すと思われるが、実際には、がん患者の末梢血の免疫細胞はがんと関係のない抗原を含めて全体的に機能低下していることが示された。免疫細胞の機能低下は、放射線治療、加齢、遺伝的要因、偏った食生活、睡眠不足などにより促進されるが、末梢血免疫細胞の細胞内カルシウム濃度を測定することで全身の免疫状態が簡単に評価できることになる。また、全身の免疫状態の評価により、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくはこれらと他のがん治療薬、例えば抗PD−1抗体の併用療法を適用するがん患者を選別することができる。
【0017】
また、がん患者において、免疫刺激を受けたときのCD8T細胞を含むPBMCの細胞内カルシウムイオン濃度は健常者と比較してかなり低いので、免疫刺激時のカルシウムイオン濃度を上げることは免疫療法の成功に繋がる。カルシウムイオン濃度は、健常人のレベルを有意に超えることはないので、免疫系の過剰な活性化による炎症、アレルギー等の副作用は問題にならない。
【0018】
がん細胞数は常に増加しているので、その増加よりもがん細胞を死滅させる速度が上回ることががんの完全緩解に必要である。フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と抗PD−1抗体は、各々がんの完全緩解に必要とされる免疫細胞(effとEM)の数を大きく増大し、かつ、3つのサイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)のうち2種以上のサイトカイン産生能が高く活性なCD8T細胞の割合を選択的に増加させることができ、1種以下のサイトカインを産生するCD8T細胞の数はむしろ減少する。その結果、がん細胞に対する免疫力を格段に高めることができる。さらに、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と抗PD−1抗体を組み合わせると免疫細胞数を相乗的に増加できる。
【0019】
がんの免疫療法にはエフェクターT細胞(eff)とエフェクター・メモリーT細胞(EM)が重要であり、セントラル・メモリーT細胞(CM)は癌ワクチン等を施工しない限りは重要ではないので、effとEMの数及び機能を選択的に増加させる本発明は、がんの免疫療法の治療成績を上げるために有効である。
【0020】
さらに、グルコース濃度は、1mM程度の低濃度である腫瘍組織が知られており、このような低グルコース環境下でも免疫機能が賦活されるので、このような低グルコース状態のがんを有するがん患者の治療に特に適している。
【0021】
がん治療薬の効果のモニタリングは、がん治療薬をがん患者に投与した後に、がん患者から腫瘍組織を摘出し、摘出したがん組織から分離した腫瘍浸潤リンパ球(特に腫瘍浸潤CD8Tリンパ球)のグルコーストランスポーター発現レベルを調べ、がん治療薬が有効か否かを判定もしくはがん治療薬の有効性を評価して実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】マウス腫瘍浸潤リンパ球における細胞内カルシウムイオン検出。
図2】抗原特異的腫瘍浸潤CD8 T細胞のメモリー形質の検出および各細胞分画におけるグルコース取り込みの評価。中央図において、セントラル・メモリーT細胞(CM)エフェクター・メモリーT細胞(EM)及びエフェクターT(eff)を示す。右図において、エフェクター・メモリーT細胞(EM)とエフェクターT細胞(eff)とが、2-NBDGを取り込んでいることが分かる。
図3】ヒト末梢血単核球における細胞内カルシウムイオン検出。
図4】低グルコース下でのヒトCD8 T細胞における多機能性解析。末梢血リンパ球(PBMC)w/o 10μMメトホルミンを6時間培養した。次いで、洗浄後、各グルコース濃度で12時間培養した。最後の6時間はPMA刺激の下で培養した。培養後、細胞内サイトカインを抗体で染色し、FACS解析を行なった。がん患者末梢血CD8T細胞は、予めメトホルミンで処理することにより、1.0mMという 低濃度のグルコース環境下でも、その多機能性の回復が認められる。
図5】がんの縮小に対するフェンホルミンとアスピリンの併用効果。
図6】メトホルミン投与による腫瘍浸潤CD8T細胞のグルコーストランスポーター(Glut1)の発現増加。メトホルミン投与により、腫瘍浸潤CD8T細胞のグルコーストランスポーター(Glut1)の発現が増加する。
図7】Glut1を発現するCD8T細胞の多機能性。左図より、Glut1陽性の細胞集団の多くは多機能性を有することが分かる。右図より、単位腫瘍あたりのGlut1陽性でかつ多機能性を有する集団はメトホルミン投与群で増加することが分かる。以上より、Glut1を発現するCD8T細胞は、IFNγ, TNFα, IL-2を同時に産生できる多機能性を有する細胞集団であることが分かる。
図8】Glut1発現の経時変化
図9】グルコース濃度を変化させたときのGlut1発現
図10】メトホルミンによるがん患者末梢血CD8T細胞のカルシウム濃度上昇。
図11】併用療法の効果の検証結果。
図12】併用療法の効果の検証結果。
図13】併用療法の効果の検証結果。
図14】併用療法の効果の検証結果。
【発明を実施するための形態】
【0023】
末梢血免疫細胞(単核球(PBMC)、特にCD8T細胞)の細胞内カルシウム濃度のベースラインは健常人とがん患者でほぼ同じくらいである。一方、PMA(フォルボールミリスチン酸アセテート)、イオノマイシン(ionomycin)などの免疫刺激剤を用いて刺激すると、健常人の免疫細胞は細胞内カルシウム濃度が50〜150秒間緩やかに上昇し、必要なサイトカインを放出することができ、正常な免疫機能を維持できていることが分かる。一方、がん患者の免疫細胞は免疫刺激剤を用いて刺激すると一過性に細胞内カルシウム濃度が上昇するが、その後速やかに低下する。このことは、がん患者を含む免疫機能が低下したヒトは、腫瘍組織だけでなく、全身の免疫系が機能低下を起こしている。免疫機能は、がんの保有、加齢、放射線治療、過度の過労、睡眠不足、ストレスなどで低下することがあり、本発明の免疫機能の評価方法は、このような可能性のある全ての被験者が対象になり、健康状態のチェック、免疫機能に関係するがん治療薬のモニタリングに有用である。また、がんが再発すれば全身の免疫機能が低下することが予測され、がんの再発のマーカーとしても利用され得る。
【0024】
カルシウム濃度を測定する末梢血の免疫細胞としては、単核球(PBMC)もしくはCD8T細胞が挙げられる。これら細胞内のカルシウム濃度は、抗CD8抗体、Fluo4,FuraRedを用いて染色し、洗浄後フローサイトメータで測定することにより決定できる。これら細胞内のカルシウム濃度は、抗CD8抗体、Fluo4,FuraRedを用いて染色し、洗浄後フローサイトメータで測定することにより決定できる。
【0025】
グルコーストランスポーターの発現レベルを評価する免疫細胞としては、腫瘍浸潤リンパ球が挙げられ、好ましくは腫瘍浸潤CD8Tリンパ球が挙げられる。末梢血単核球(PBMC)は、腫瘍組織と異なり血中グルコース濃度は十分に高いため既にグルコーストランスポーターの発現レベルは高く、本検査には向かない。グルコーストランスポーターの発現レベルは、抗グルコーストランスポーター抗体、抗CD3抗体、抗CD8抗体などを用いて染色し、洗浄後フローサイトメーターで解析することにより決定できる。
【0026】
本発明において、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンと併用可能ながん治療薬としては、特に限定されないが、例えば抗PD−1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬、アスピリン、スタチン類、クルクミン、ベルベリン、ロイヤルゼリー、プロポリス、がんワクチンなどが挙げられ、抗PD−1抗体、アスピリンがより好ましい。さらにグルコーストランスポーターが上昇する抗がん剤も併用可能ながん治療薬に含まれる。
【0027】
本発明のモニタリング方法の対象となるがん治療薬としては、1種のみであってもよく、2種以上のがん治療薬の組み合わせ(併用薬)であってもよい。モニタリング方法の対象となるがん治療薬としては、免疫系に作用するがん治療薬であれば特に限定されないが、例えばフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンなどのビグアニド系抗糖尿病薬の単独投与、或いは、フェンホルミン、ブホルミン又はメトホルミンと、抗PD−1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬、アスピリン、スタチン類、クルクミン、ベルベリン、ロイヤルゼリー、プロポリス、がんワクチンからなる群から選択される少なくとも1種の併用薬などが挙げられ、抗PD−1抗体とビグアニド系抗糖尿病薬の併用薬、アスピリンとビグアニド系抗糖尿病薬の併用薬が好ましい。
【0028】
本発明において、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンと、抗PD−1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬、アスピリン、スタチン類、クルクミン、ベルベリン、ロイヤルゼリー、プロポリス、がんワクチンから選択される他のがん治療薬は、適切な製剤用担体とともに合剤を作製して投与してもよく、別々の製剤を組み合わせて投与してもよい。合剤および別々の製剤は、経口剤でも非経口剤でもよく、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、吸入剤、液剤、ドリンク剤、注射剤、坐剤などが挙げられる。このような製剤にはさらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定剤のような補助剤を加えてもよい。また懸濁剤として投与することも可能である。
【0029】
また錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤等の固形製剤を調製するには、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、デンプン、ショ糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース等の担体、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、グリセリン等の添加剤を加えて常法により行うことができる。またセルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアルコールフタレート、スチレン−無水マレイン酸共重合体、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等の腸溶性物質の有機溶媒あるいは水中溶液を吹き付けて、腸溶性被膜を施して、腸溶性製剤として製剤化することもできる。薬学上許容しうる担体には、その他通常、必要により用いられる補助剤、芳香剤、安定剤又は防腐剤を含むことができる。
【0030】
上記のようながん治療薬は、免疫機能を賦活することができるが、免疫機能が低下している患者により有効である。従って、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンと他のがん治療薬を用いてがん化学療法を行う場合、末梢血免疫細胞の免疫刺激により細胞内カルシウム濃度があまり上がらない、免疫機能が低下したがん患者に有効であると予測できる。
【0031】
フェンホルミンは、抗糖尿病薬として使用される場合には乳酸アシドーシスなどの副作用が問題となるが、がん治療に用いる場合には、投薬期間と休薬期間があるので副作用は問題にならない。
【0032】
ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンは、免疫刺激を行ったときのCD8T細胞中のカルシウム濃度を上昇させることができる(図1)。免疫刺激を行わない場合には、ビグアニド系抗糖尿病薬の有無にかかわらず細胞内のカルシウム濃度は変化しない。また、健常人よりも免疫系を有意に活性化することはない。すなわち、ビグアニド系抗糖尿病薬は、免疫系が働く必要があるときにカルシウム濃度を上昇させる潜在的な能力を高める作用がある。腫瘍組織(Tumor)に存在するCD8T細胞中のカルシウム濃度はリンパ節(LN)よりもさらに低く、免疫刺激よってもほとんど上昇しないが、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンの存在下では、免疫刺激に応じてCD8T細胞中のカルシウム濃度を大きく上昇させることができる(図1)。このために必要なビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンの投与量は、成人1日当たりフェンホルミン、ブホルミンでは100〜150mg程度、またメトホルミンは、500〜2250mg程度である。
【0033】
ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンは、腫瘍組織の局所に存在し得るエフェクター(eff)とエフェクター・メモリー(EM)の糖の取り込みを高めることができ、二次リンパ組織に存在し、がん細胞を直接攻撃しないセントラル・メモリー(CM)の糖の取り込みは促進しない。すなわち、がんの排除に必要なT細胞(effとEM)を効率的に活性化することができ、特に、ビグアニド系抗糖尿病薬で処理しない場合、腫瘍組織にはほとんど存在せず、がん細胞を排除する能力が高いエフェクター(eff)の数及び割合を大幅に高めることができる。effとEMの活性化に必要なビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミンの投与量は、成人1日当たり100〜150mg程度、メトホルミンの投与量は、成人1日当たり500〜2250mg程度である。
【0034】
腫瘍組織では、グルコース濃度が1mM程度あるいはそれ以下であることが知られている(Cell 162:1217-1228, 2015)。図4に示すように、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンは、腫瘍組織中のグルコース濃度が0.1mMではCD8T細胞のサイトカイン産生能を促進することができず、腫瘍組織中のグルコース濃度と同程度の1mMでCD8T細胞のサイトカイン産性能を促進することができ、栄養不良の腫瘍組織でCD8T細胞の活性を高め、がん細胞を殺すことができる。したがって、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンは、グルコース濃度が、0.5〜1.5mM程度、好ましくは0.8〜1.2mM程度、特に好ましくは1mM程度の腫瘍組織を有するがん患者に対するがん治療薬として有用である。
【0035】
本発明において他のがん治療薬を組み合わせて等よする場合、他のがん治療薬の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。
【0036】
がん治療薬のモニタリングは、以下の工程1)〜3)により行うことができる。
工程1)がん組織から腫瘍内リンパ球を分離する工程、
工程2)分離された腫瘍浸潤リンパ球のグルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルを解析する工程、及び
工程3)解析されたGlut1の発現レベルに基づき、がん患者に既に投与していたがん治療薬が有効か否かを判定/評価する工程
(ここで、がん組織は、がん治療薬を投与後にがん患者から摘出されたものである。)。
【0037】
がん治療薬のモニタリングは、3種のサイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)の産生量を検出することで実行できるが、これらのサイトカインの産生量の検出は煩雑である。本発明者は、グルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルが3種のサイトカインの産生量と相関することを見出したので、グルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルを検出することでがん治療薬をモニタリングすることができる。がん組織の摘出は、手術により行ってもよく、バイオプシーなどにより行ってもよい。グルコーストランスポーター(Glut1)発現レベルの解析は、がん患者から分離した腫瘍浸潤リンパ球をグルコース濃度が0.1mM以上の培地で2時間以上培養後に行うことが望ましい。がん患者からの分離直後の腫瘍浸潤リンパ球ではGlut1発現レベルが必ずしも高くなく、グルコース濃度が0.1mM以上の培地で培養することによりGlut1発現レベルを高め、Glut1発現レベルの解析を容易にすることができる。培地中のグルコース濃度は、0.1mM程度以上、好ましくは1mM程度以上、より好ましく5mM程度以上、さらに好ましく5〜25mM程度、特に好ましく10〜25mM程度、特に15〜25mM程度である。培養時間は、1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましく2〜24時間、さらに好ましく3〜12時間程度、特に好ましく4〜8時間程度である。培養時間はGlut1発現レベルが高くなるように設定され、グルコース濃度が高い場合にはより短くてもよく、グルコース濃度が低い場合にはより長時間の培養が望ましい。
【0038】
モニタリング対象のがん治療薬の投与期間は1日以上であればよく、特に限定されないが、例えば1〜50日、好ましくは2〜30日が挙げられる。
【0039】
免疫細胞は、腫瘍組織から得られたリンパ球特にCD8T細胞が好ましく使用できる。
【0040】
治療効果の評価対象となるがん治療薬としては、がんワクチン、免疫チェックポイント阻害薬、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンが挙げられる。
【0041】
がん治療薬の治療対象のがんとしては、グルコース濃度が低い固形がんが挙げられ、例えばメラノーマ、頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌などが挙げられる。
【0042】
がん局所にはCD8T細胞の数は非常に少ないが、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミン及び抗PD−1抗体は、いずれもがん局所でのCD8T細胞の数を大きく増やすことができる。さらに、ビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミン、メトホルミンと抗PD−1抗体を併用すると、さらにCD8T細胞の数を増大できるだけでなく、3つのサイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)の2種以上を産生するCD8T細胞の割合を非常に高めることができる。このような効果を得るためのビグアニド系抗糖尿病薬であるフェンホルミン、ブホルミンの投与量は、成人1日当たり100〜150mg程度、メトホルミンの投与量は、500〜2250mg程度であり、抗PD−1抗体の投与量は、成人1回当たりの投与量は2 mg/kg程度である。
【0043】
本発明は、さらに以下の発明を提供するものである。
・抗PD−1抗体を有効成分として含み、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と組み合わせて投与することを特徴とする、腫瘍組織でのCD8T細胞数増加剤。
・腫瘍組織でのCD8T細胞数を増加するための抗PD−1抗体とフェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の組み合わせ。
・抗PD−1抗体と併用するための、フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む腫瘍組織でのCD8T細胞数増加剤。
・フェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種と併用するための、抗PD−1抗体を含む腫瘍組織でのCD8T細胞数増加剤。
・抗PD−1抗体とフェンホルミン、ブホルミン及びメトホルミンからなる群から選ばれる少なくとも1種を併用することを記載した腫瘍組織でのCD8T細胞数を増加するための手順書。
【実施例】
【0044】
本発明は以下の実施例によってさらに例示されるが、これらはさらなる限定として解釈されるべきではない。
【0045】
実施例1
2x105 MO-5(OVA発現B16メラノーマ細胞株)をC57BL/6マウスに皮内移植し、移植7日後に自由飲水により5 mg/mlメトホルミンの経口投与を開始した。投与開始後7日目(移植後14日目)にリンパ節(LN)及び腫瘍組織(Tumor)を切除し、リンパ節のリンパ球及び腫瘍浸潤リンパ球を回収した。細胞をFCS(-)RPMIで洗浄後、抗マウスCD3抗体BV510、抗マウスCD8抗体APC-Cy7、1 μM Fluo4、1 μM Fura Redで30分、37℃で染色した。染色後、37℃で保温したFCS(-)RPMIで洗浄し、洗浄後フローサイトメーターにより細胞内カルシウムイオンのバックグラウンドを30秒間測定した。バックグラウンド測定後、ただちに100 ng/ml PMAおよび5 μM ionomycinにより刺激し、刺激によるマウスCD8 T細胞内のカルシウムイオンの上昇を測定した(図1)。腫瘍組織(Tumor)では、メトホルミン非投与群(−)にはPMA/ ionomycin刺激によっても細胞内カルシウム濃度はほとんど上昇しないが、メトホルミン投与群(+)ではPMA/ ionomycin刺激により細胞内カルシウム濃度は大きく上昇することが確認された。
【0046】
リンパ節(TN)では、PMA/ ionomycin刺激前でもある程度高い細胞内カルシウムレベルを有し、メトホルミン投与群(+)と非投与群(−)のいずれもPMA/ ionomycin刺激により細胞内カルシウム濃度は大きく上昇するが、その程度はメトホルミン投与群(+)の方が大きかった。
【0047】
図1の結果から、メトホルミンは、免疫刺激により細胞内カルシウム濃度を高める作用があり、特に腫瘍組織内のCD8T細胞でその作用が顕著であることが明らかになった。
【0048】
実施例2
抗原特異的腫瘍浸潤CD8 T細胞のメモリー形質の検出および各細胞分画におけるグルコース取り込みの評価
2x105 MO-5をC57BL/6マウスに皮内に移植し、移植後7日後に自由飲水により5 mg/mlメトホルミンの経口投与を開始した。投与開始後7日目(移植後14日目)に腫瘍組織を切除し、腫瘍浸潤リンパ球を分離した。分離後、0.1%BSA/PBSで洗浄し、抗マウスCD8抗体APC-Cy7、抗マウスCD62L抗体BV421、抗マウスCD44抗体PerCP、抗マウスKLRG1抗体APC、および400 μM 2-NBDG(2-[N-(7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl) amino]-2-deoxy-d-glucose)を30分、4℃で染色した。0.1%BSA/PBSで洗浄し、フローサイトメーターにより抗原特異的腫瘍浸潤CD8 T細胞の頻度、メモリー形質(CD44, CD62L, KLRG1)および各細胞分画におけるデオキシグルコース(2-NBDG)の取り込みを解析した(図2)。図2に示すように、メトホルミンは、腫瘍浸潤CD8 T細胞のメモリー形質に関し、エフェクター(eff)とエフェクター・メモリー(EM)の数及び割合を増加して解糖系を活性化させるが、セントラル・メモリーの数を及び割合を減少して解糖系を不活性化させることが明らかになった。
【0049】
実施例3
健常人とがん患者の凍結保存されたヒトPBMC(ヒト末梢血単核球)を解凍し、FCS(-)RPMIで洗浄後、1x106 PBMCを抗ヒトCD8抗体APC-Cy7、1 μM Fluo4、1 μM Fura Redで30分、37℃で染色した。染色後、37℃で保温したFCS(-)RPMIで洗浄し、洗浄後フローサイトメーターにより細胞内カルシウムイオンのバックグラウンドを30秒間測定した。バックグラウンド測定後、ただちに100 ng/ml PMAおよび5 μM イオノマイシンにより刺激し、刺激によるヒトCD8 T細胞内のカルシウムイオンの上昇を測定した。結果を図3に示す。健常人とがん患者のPBMCのPMA/イオノマイシンによる刺激前のレベルと刺激直後の上昇については、差異はないが、その後の経過は、健常人では持続的に上昇し、がん患者では急速に下降する点で大きく異なる。
【0050】
ヒトPBMCは、末梢血の採血により容易に測定でき、メトホルミン、或いはメトホルミンと他の薬剤との併用効果は、図3のがん患者のタイプの場合に高く、健常人の場合には高くないので、ヒトPBMCのカルシウム濃度を測定することで患者を選別することができる。末梢血は、がん細胞と接触している単核球の割合は非常に低いと考えられるので、この結果は予想外である。
【0051】
また、ヒトPBMCのカルシウム濃度ががん患者のタイプだと再発の可能性が高いか再発しており、健常人のタイプだと再発の可能性が低いなどの評価をすることが可能である。
【0052】
実施例4
がん患者の凍結保存されたヒトPBMCを解凍し、FCS(-)RPMI 10 μMメトホルミン存在下で6時間培養し、培養後分離し、FCS(-)Glc(-)RPMIで洗浄した。洗浄後、0.1、1、10 mM Glcの含有したRPMIを用いて、1 μM モネンシン存在下で50 ng/ml PMAおよび2 μM イオノマイシンにより6時間刺激培養した。細胞を分離し、抗ヒトCD8抗体APC-Cy7で細胞表面分子を染色し、細胞透過処理を行い、抗ヒトIL-2 抗体APCおよび、抗ヒトTNFα抗体BV510、抗マウスIFNγ抗体FITCにより細胞内サイトカインを染色し、フローサイトメーターにより解析した(図4)。3つのサイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)を産生しているCD8T細胞は、グルコース濃度に依存し、グルコース濃度が0.1mMでは最も低く、メトホルミンの有無により差異はないが、グルコース濃度が1mMの場合には、メトホルミンにより3つのサイトカイン(IL-2、TNFα、IFNγ)を産生しているCD8T細胞の数は有意に上昇することが明らかになった。
【0053】
低栄養の腫瘍組織ではグルコース濃度が1mM程度であることが知られているので、メトホルミンは、このような低栄養の腫瘍組織でのCD8T細胞の多機能性の回復が認められた。
【0054】
実施例5
腫瘍移植実験(フェンホルミン,アスピリン処置)
OVA発現B16メラノーマ細胞株MO5 (2.5×105) をC57BL/6マウスの背部に皮内接種した。一群5匹のマウスで、未処置の群(C)をはじめ、腫瘍細胞接種10 日後からアスピリン単独、フェンホルミン(Phen)単独、アスピリンとフェンホルミンの併用投与群の4群を作製した。フェンホルミンは、メトホルミンと同様ビグアナイド系の薬物である。フェンホルミンは、腫瘍細胞接種10 日目から0.5%含有食餌として与えた。さらに4 日ごとに餌を通常の餌と交換した。即ち、10日目から14日目、18日目から22日目のみフェンホルミン含有食餌を与えた。 14日目から18日目と22日目から26日目の間はフェンホルミンを含まない通常の食餌を与えた。このような投与法を選択した理由は、フェンホルミンの連日投与では副作用によりマウスの死亡例が出るからである。また、フェンホルミンは自由飲水で与えた場合、マウスは水を飲まなくなるために食餌として与えた。
【0055】
一方、アスピリン(600μg/mL) は、自由飲水によって処置し、飲水は10日目から継続的に行った。フェンホルミン単独でも強い腫瘍増殖抑制効果が認められるが、アスピリンとの併用により効果が増強した(図5)。
【0056】
実施例6
8週齢のBALB/c に腫瘍(MethA) 2 x 106個を皮内注射し、day7からメトホルミン(5 mg/mL) を自由飲水によって継続摂取させ,治療後3日(day10)および6 日後(day13)に腫瘍浸潤 T 細胞(TIL)を分離し, 抗CD8抗体、抗グルコーストランスポーター(Glut1) 抗体で染色した。また、PMA/Ionomycin/Monencin存在下で6 時間刺激培養後に抗CD8抗体、抗グルコーストランスポーター(Glut1) 抗体で染色し、フローサイトメーターにより解析した。結果を図6に示す。PMA刺激によりGlut1の発現は増加する傾向にあるものの、PMA刺激(-)を含め、あらかじめメトホルミンを投与しておいた群ではGlut1陽性集団の明らかな増加が認められた。
【0057】
実施例7
図6におけるGlut1陽性集団の多機能性について解析を行った。多機能性のあるCD8T細胞は、最も強力なエフェクターT細胞である。
【0058】
8週齢のBALB/c に腫瘍(MethA) 2 x 106個を皮内注射し,day 7からメトホルミン(5 mg/mL) を自由飲水によって継続摂取させ, 治療後3日(day10)および6 日後(day13)に腫瘍浸潤 T 細胞(TIL)を分離し, PMA/Ionomycin/Monencin存在下で6 時間刺激培養後に抗CD8抗体、抗グルコーストランスポーター(Glut1) 抗体、および細胞内サイトカイン(IL-2/TNFα/IFNγ) の各種抗体で染色しフローサイトメーターにより解析した。その結果、Glut1陽性集団では多機能性を有するものが多く認められた(図7)。この比率はメトホルミン服用により増加する。これらの事実から、腫瘍浸潤CD8T細胞のGlut1発現をフローサイトメーターでみることにより、多機能性検査を行わなくてもその免疫状態を推測することができる。また、メトホルミン投与などのある免疫治療を行い、その結果CD8T細胞のGlut1発現が増加すれば、「免疫効果がある」という判定を下すことも可能である。
【0059】
実施例8
8週齢のBALB/cマウスに同系腫瘍 MethA(2 x 106個)を皮内注射し,day7からメトホルミン(5 mg/mL), N-アセチルシステイン(NAC,10 mg/mL) の投与を開始した。治療3日後に腫瘍浸潤 T 細胞(TIL)を分離し、37 ℃で0,1,3,6 時間培養を行い, その後, CD3,CD8,グルコーストランスポーター(Glut1)の各種抗体で染色し,フローサイトメーターにより解析した(図8)。
【0060】
結果)腫瘍から分離直後のCD8TILはGLUT-1の発現はこれまでの方法によれば、分離後即座に抗体で染色しフローサイトメーターで解析する手法が用いられたが、その方法ではGlut-1の検出は難しい。しかしながら、図8の矢印で示すように3時間ないし6時間in vitroで培養することにより検出が可能になることが判明した。即ち、メトホルミン投与しておいたマウスのCD8TILでは、6時間培養により非常に高いレベルのGLUT-1発現が見られるようになった。一方、メトホルミン非投与群ではGLUT-1発現上昇は見られない。
【0061】
以上より、CD8TIL のin vitro 3〜6時間培養によるGLUT-1発現上昇の有無はメトホルミン効果の有無を予測できるモニタリング法になりうることが判明した。GLUT-1はグルコース取込みの受容体であり、GLUT-1の細胞膜における発現上昇は解糖系亢進を意味する。T細胞活性化に伴う細胞質カルシウムイオン濃度の上昇は、解糖系亢進により維持されるため、この場合のGLUT-1発現上昇は細胞質カルシウムイオン濃度上昇と同義と考えることができる。
【0062】
また、GLUT-1発現上昇はメトホルミン投与と同時に抗酸化剤であるNアセチルシステイン(NAC)を投与することにより、有意に抑制された。従って、CD8TILの解糖系亢進(即ちGLUT-1の発現上昇)という現象は、活性酸素(reactive oxygen species; ROS)に依存すると考えられる。
【0063】
実施例9
8週齢のBALB/cマウスに同系腫瘍 MethA(2 x 106個)を皮内注射し, day7からメトホルミン(5 mg/mL)の投与を開始した. 治療3日後に腫瘍浸潤 T 細胞(TIL)を分離し、グルコース濃度 0, 0.1, 1.2, 6.1, 12.5, 25 mM の培養液下で 37 ℃,0,1,3,6 時間培養を行い, その後, CD3,CD8,グルコーストランスポーター(Glut1)の各種抗体で染色し,フローサイトメーターにより解析した(図9)。
【0064】
結果)腫瘍から分離後のCD8TILはin vitroで6時間培養することによりGLUT-1の発現上昇を認めるが、これは培養液中のグルコース濃度に比例することがわかった。とりわけ、グルコース6.1mM、理想的には25mM において最も高いレベルのGlut-1 が観察された。グルコース25mM とは通常の培養液中のグルコール濃度に匹敵する。
【0065】
また、腫瘍内におけるグルコース濃度に匹敵するグルコース濃度0.1mM でも14.3%のCD8TIL がGlut-1 を発現した。グルコース濃度0.1mM は、腫瘍内におけるグルコース濃度に匹敵する。従って、メトホルミン投与により、腫瘍内でもCD8TIL は解糖系が亢進し、腫瘍を攻撃できることが推測される。
【0066】
一方で全くグルコースが存在しない場合(グルコース濃度0mM)は、CD8TIL のGlut-1は発現しない。メトホルミン投与しておいたマウスから分離したCD8TILは、6時間in vitro培養することにより有意にGlut-1の発現が上昇してくるが、これは培養液中のグルコース濃度に比例することがわかった。培養液中グルコース濃度は、6.1mM以上、25mMにおいて最も高いGlut-1の発現上昇が見られることがわかった。
【0067】
腫瘍浸潤CD8T 細胞(CD8TIL)のエフェクター機能は、その解糖系亢進の有無に依存することがこれまでの研究から明らかにされている。しかしながら、CD8TIL の代謝状況を解析することは非常に困難であった。 本手法、即ちCD8TIL を25mM グルコース存在下で6 時間培養した後にGlut-1 の発現レベルをフローサイトメーターで観察する手法は、CD8TIL の解糖系上昇の有無を極めて簡便かつ鋭敏に検出できる優れた検査法であると結論できる。この手法はメトホルミンに限らず、例えばがんワクチンや免疫チェックポイント阻害薬など、あらゆるがん免疫療法の効果をモニタリングできる普遍的な手法であると考えられる。
【0068】
実施例10
腫瘍浸潤リンパ球(TIL) 回収と培養プロトコル
バイオプシー等によりがん患者から腫瘍塊(3〜4mm径)を摘出し, Medimachine(アズワン株式会社製)にて機械的に2分間破砕後, 細胞液を回収し, 1200rpm, 5〜10 分間遠心する。その後, 上清を捨てて, RPMI培養液にて(牛胎児血清は凝集を生じる場合があるのでここでは入れない), 5×105 /mL となるように細胞液を調製し, 24 well plateに5×105 /mL/well の細胞数を入れて6時間培養する。6時間後に細胞を回収し、抗体で染色する過程に移行する。
【0069】
実施例11
ステージ Iのがん患者、ステージIIaのがん患者及びステージIVのがん患者において、メトホルミンの投与前後におけるPMA刺激によるカルシウム濃度亢進の変化を測定した。メトホルミンの投与前及び図示した投与スケジュールによるメトホルミン投与後にヒトPBMC(ヒト末梢血単核球)を採取し、実施例3と同様にして100 ng/ml PMAおよび5 μM イオノマイシンにより刺激し、刺激によるヒトCD8 T細胞内のカルシウムイオンの上昇を測定した。具体的には、末梢血から比重分離法により末梢血単核球(PBMC)を分離し、1x106 個のリンパ球を 1 μg/ml 抗ヒトCD8抗体および1 μM Fluo4/FuraRed存在下で37℃30分間インキュベートした。その後、AIM-V培地により洗浄する。洗浄後AIM-Vを加え、未刺激(刺激前)のリンパ球を20秒間FACSCantoIIにより取り込みベースライン・データを取り込んだ。その後、100 ng/ml PMA/ 2 μM ionomycinを加えて刺激を入れ、直ちにFACSCantoIIにより取り込み、刺激後のデータとして取り込んだ。これにより細胞質カルシウム濃度に応じた波形を検出した。
【0070】
結果を図10に示す。ステージ I, IIa, IVのいずれにおいてもメトホルミンとの培養によりPMA刺激によるカルシウム濃度亢進が認められる。同時に行ったサイトカイン多機能性の上昇と同様の結果となった。
【0071】
実施例12
腫瘍移植実験(Met,アスピリン,アバシミブ及び2剤併用)
OVA発現B16メラノーマ細胞株MO5 (2.5×105) をC57BL/6マウスの背部に皮内接種した。腫瘍細胞接種7 日後にメトホルミン(0.5%)は飼料によって、アスピリン(600μg/mL)は自由飲水によって、アバシミブ(15 mg/kg)は隔日腹腔内投与によってマウスに与えた。
結果を図11に示す。これらの処置開始後、6日目の腫瘍の長径、短径を計測し、腫瘍の体積(mm3)を算出した。メトホルミンとアスピリンの併用、あるいはメトホルミンとアバシミブの併用は、単剤よりも腫瘍抑制効果が高いことが分かる。
【0072】
実施例13
腫瘍移植実験(3剤併用,抗PD-1抗体, Met, アスピリン)
3LL 細胞(2.0×105) をC57BL/6マウスの背部に皮内接種した。腫瘍細胞接種5 日後に抗PD-1抗体 (10 mg/kg) を腹腔内投与によって1 回目投与後も6 日ごとに投与し合計4 回となるよう処置をした。メトホルミン(0.5%)は飼料によって、アスピリン(600μg/mL)は自由飲水によって処置をした。処置開始後、腫瘍の長径、短径を計測し、腫瘍の体積(mm3)を算出した。
結果を図12に示す。アスピリンの併用は、抗PD-1抗体+メトホルミンの腫瘍抑制効果を高めることが分かった。
【0073】
実施例14
腫瘍移植実験(3剤併用,抗PD-1抗体, Met, NDGA)
3LL 細胞(2.0×105) をC57BL/6マウスの背部に皮内接種した。腫瘍細胞接種5 日後に抗PD-1抗体 (10 mg/kg) を腹腔内投与によって1 回目投与後も6 日ごとに投与し合計4 回となるよう処置をした。また、メトホルミンとNDGA (Nordihydroguaiaretic acid)はメトホルミン(0.5%)飼料あるいはメトホルミン(0.5%)とNDGA(0.1%) 混合飼料によって処置をした。処置開始後、腫瘍の長径、短径を計測し、腫瘍の体積(mm3)を算出した。また、生存期間を観察した。
結果を図13に示す。NDGAの併用は、抗PD-1抗体+メトホルミンの腫瘍抑制効果を高め、生存期間を延長することが分かった。
【0074】
実施例15
腫瘍移植実験(4,5剤併用)
OVA発現B16メラノーマ細胞株MO5 (2.5×105) をC57BL/6マウスの背部に皮内接種した。腫瘍細胞接種7 日後にメトホルミン(0.5%)とNDGA(0.1%) は混合飼料によってそしてアスピリン(600μg/mL)は自由飲水によって処置をした。さらに抗PD-1抗体 (10 mg/kg) は腹腔内投与によって1 回目投与後も6 日ごとに投与し合計4 回となるよう処置をした。またアバシミブ(15 mg/kg)は腹腔内投与によって1 回目投与後も2 日ごとに計測終了日まで処置を行った。処置開始後、腫瘍の長径、短径を計測し、腫瘍の体積(mm3)を算出した。また、生存期間を観察した。
結果を図14に示す。メトホルミン+NDGA+アスピリン+アバシミブは、腫瘍増大を強く抑制し、生存期間を延長することが分かった。また、メトホルミン+NDGA+アスピリン+アバシミブ+抗PD-1抗体は、さらに強く腫瘍増大を強く抑制し、生存期間を延長(5匹中2匹は腫瘍の完全退縮をみた)することが分かった。
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