(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記植物細胞が、植物の一部であり、並びに、前記細胞を工程c)の暴露に供した後に、該細胞を培養して植物とし、及び前記植物の表現型を決定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
i.前記非生物学的ストレスは、熱、寒冷、干ばつ、沈水/水過剰、風、紫外線(UV照射)、核放射線、塩分、重金属、土壌pH、組織培養条件、及び、リン、窒素、光又はCO2の欠乏、から選択され、及び/又は
ii.前記生物学的ストレスは、真菌、細菌、ウイルス、昆虫、草食動物による創傷及び生物学的競合の負の影響から選択され、及び/又は
iii.前記化学的ストレスは、除草剤、除草剤解毒剤、殺虫剤、殺菌剤、植物二次代謝物及び植物防御を誘導する合成又は天然化合物から選択される、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
前記DNAメチル化の阻害剤が、5−アザシチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン及びゼブラリンから選択される、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
複数の植物における前記増加した遺伝的及び/又はエピジェネティクス的な変異が、前記生物が暴露された前記非生物学的、生物学的又は化学的ストレスに対する前記生物の増加した抵抗性をもたらす、
請求項6〜13のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は薬理学的処置及び熱ストレスにおけるONSEN染色体外DNAの蓄積を示す。(a)野生型(WT)及びnrpb2−3植物におけるコントロールストレス(CS)、熱ストレス(HS)処置、及びα−アマニチン(A、5μg/ml)又はゼブラリン(Z、10μM)での処置の直後にqPCRにより測定されたONSEN DNAの集積(平均±標準誤差、n=6 生物学的反復、ACTIN2に対する値)。(b)コントロールストレス(CS:24時間 6℃)、熱ストレス(HS:24時間 6℃及び24時間 37℃)処置、及びA(5μg/ml)、Z(40μM)又はそれらの併用(A&Z)の処置の直後にコロンビア(Col)WTの苗において定量PCR(qPCR)により測定されたONSENのコピー数(平均±標準誤差、n=3 生物学的反復)。二重の処置(A&Z)は、ONSENの非常に強い熱ストレス依存活性化をもたらし、結果として最大700のONSEN染色体外DNAのコピー数をもたらした。
【
図2】
図2はONSEN動員のストレス依存性を示す。グラフは、CSに続いて、WT、nrpb2−3及びnrpd1植物においてA(5μg/ml)、Z(40μM)又はAとZとの併用(A&Z)の化学処置後のシロイヌナズナ(A.thaliana)の苗におけるONSENコピー数を示している。qPCRより測定したONSENコピー数(平均±標準誤差、n=3 生物学的反復、ACTIN2に対する値)。この結果はONSEN染色体外DNAの産生は熱ストレス依存であることを示している。
【
図3ab】
図3は、メチルトランスフェラーゼ及びPol IIの同時阻害がnrpd1変異体を模倣することを示している。(a)CS後、WT及びnrpd1変異体の未処置及び、A(5μg/ml)、Z(40μM)又はA&Z処置したWT苗におけるONSEN LTR、及びsoloLTRの非対称メチル化分析。GHHメチル化感受性制限酵素DdeIで消化されていない(入力)又は消化後に使用されたゲノムDNAから得られたPCR産物。ACTIN2は、完全なDdeI消化のためのコントロールとして含まれている。A(5μg/ml)及びZ(40μM)を用いたA&Z二重処置は、nrpd1変異体に匹敵するONSEN及びsoloLTRでのDNAメチル化の非常に強い減少をもたらした。(b)WT及びnrpd1変異体におけるCS、HS及び、A(5μg/ml)、Z(40μM)又はA&Zの併用の処置を加えたHSの直後のONSEN転写を示すノーザンブロット。ミドリ染色されたアガロースゲルは、ローディングコントロールとして示された。熱ストレス及び、A(5μg/ml)とZ(40μM)との二重処置後の全長ONSEN転写物のレベルは、nrpd1変異体に匹敵する。
【
図3c】(c)CS、HS及び、A(5μg/ml)、Z(40μM)又はA&Z併用の処置を加えたHSの直後のWT植物、rdr6植物、dcl2/3/4植物及びnrpd1変異体植物の苗におけるqPCRにより測定されたONSEN DNAの集積。この結果はPol IIがDICER様酵素の活性な上流であることを示している。
【
図4a】
図4は野生型シロイヌナズナ属(Arabidopsis)植物におけるONSENの薬剤誘導動員を示す。(a)HS(HSコントロール)並びに、A(5μg/ml)及びZ(40μM)とHSとを処置したWT植物(HS+A&Z)のF2世代における新規ONSEN挿入を確認するトランスポゾンディスプレイ。挿入されたONSENコピーはqPCRによる測定(上部)、及びトランスポゾンディスプレイによる検出(下部)を行った。7つの個々に選択された非関連植物のONSENコピー数を示す。HS+A&Z処置されたCol WT植物において、qPCRによって測定された8より多いコピー数(上部)及びトランスポゾンディスプレイ上での観測された追加のバンドは、追加されたONSENコピーの新規挿入を示す。Mは1kbサイズのマーカーである。
【
図4b】(b)qPCRにより測定されたF1、F2及びF3世代におけるONSENコピー数(n=3 技術的反復、ACTIN2に対する値)。系統1−7において8より多いコピー数は追加のONSENコピーの挿入を示す。
【
図4cd】(c)及び(d) 長日条件下(c)及び短日条件下(d)で育成した場合のHS+A&Zにより誘導された、均一及びストレス依存的の両方の表現型変動性を示す新規ONSEN挿入を含むF2植物の写真。(c)及び(d)における表現型の図と同様に(b)におけるライン6のF3世代についてのqPCRデータも、このラインの不毛及び消失により欠損している。新規ONSEN挿入を有する系統(系統1−7)において観測された表現型の例は、短日条件下の高いバイオマス(系統3)、長日条件下の早期開花(ライン7)及びクロロフィル蓄積の減少(系統1)を含む。要約すると、このデータセットは、A&Z処置は、効率的で爆発的なONSEN転移をもたらす。新しいONSEN挿入は、数世代にわたり安定して遺伝し、そして表現型の変化を引き起こす。
【
図5】
図5は、熱ストレスを与えた及び処置した植物のF1プールにおけるONSENコピー数の増加を示す。独立した実験において(記号a−c)、親植物にA(5μg/ml)及びZ(40μM)の併用処置及び熱ストレスを与えた。有意にONSENコピー数が増加した(>10)プールは濃いグレーで強調した。qPCRにより測定されたONSENコピー数(平均±標準誤差、n=3 技術的反復、ACTIN2に対する値)。熱ストレスを与えた、及びA+Zで処置した野生型植物の試験したF1プールのうち、およそ29.4%は、ONSENコピー数の有意な増加を示した。
【
図6a】
図6は、確認された新規ONSEN挿入の概要を示す。(a)広域のゲノム分布。
【
図6b1】(b)選択されたHS+A&Zで処置したWT植物(系統#3)のF2世代における新しいONSEN挿入を有するゲノム領域のクローズアップ。ONSEN挿入の方向は中央矢印で示す。
【
図7a】
図7はイネ(O.sativa)におけるHoubaレトロトランスポゾンの薬剤誘導活性化を示す。コントロール条件(C)、A(5μg/ml)、Z(40μM)及びA&Z併用における育成後の苗から抽出したDNAのモビローム解析。(a)1つのHouba因子において解読した配列を整列した後に得られた、未処置のコントロール植物と比較し、正規化した被覆深度の詳細。
【
図7bcd】(b)プライマーの局在のスキーム(黒色バー:Houba因子、矢印:PCRプライマー、box:LTR)。(c)Houbaの染色体外環状形態は、A&Zの両方で処置した植物中において、
図4bで示すプライマーを用いたインバースPCRを使用して特異的に検出される。(d)環状葉緑体DNA上の特異的PCRをローディングコントロールとして示す。ローリングサークル増幅されたtotal DNAを鋳型として使用した。これらの結果は、イネにおけるHoubaトランスポゾンの効率的なA&Z依存性動員を実証している。
【
図8a】
図8は処置されたシロイヌナズナ属(Arabidopsis)苗のF2世代における増加した熱耐性を示す。熱ストレス処置のみ(コントロール)、又は熱ストレス処置かつA(5μg/ml)及びZ(40μM)で処置(#1−3)のいずれかの野生型の植物のF2子孫における反復熱ストレス(42℃)に対する耐性。(a)2つの生物学的複製物を示す(I及びII)。
【
図8b】(b)生存する苗のパーセンテージ(平均±標準誤差、n=2 生物学的反復)。熱ストレスのみの処置をした植物(生存する苗10%)のF2と比較して、熱ストレス及びA&Z処置をした植物に由来するF2苗は、熱耐性が有意に増加した(生存する苗>60%)。これは熱ストレス応答性トランスポゾンのA&Z依存性動員が、熱ストレスにより適合した植物を生産することができることを実証している。
【
図9】
図9は薬理学的処置及び熱ストレスに対するONSEN染色体外DNAの用量依存的蓄積を示す。ONSENコピー数は、コントロールストレス(CS)、熱ストレス(HS)、及び異なるμg/ml濃度のα−アマニチンでの処置の直後のコロンビア(Col)野生型の苗において、qPCRにより測定した(平均±標準誤差、n=3 技術的反復)。これは、動員されたトランスポゾンの数は、処置のために使用されるAの量によって調節され得ることを示す。
【
図10ab】
図10は、植物及びヒト細胞をAで処置することによって誘導されたDNAメチル化レベルでのエピジェネティクス的な変化を示す。(a)コントロールストレス(CS:24時間 6℃)、熱ストレス(HS:24時間 6℃及び24時間 37℃)、及びA(20μg/ml)、Z(10μM)又はそれらの併用(A&Z)での処置の直後のWT(Col)苗における薬理学的処置及び熱ストレスに対するONSEN LTRでのメチル化の減少を示すミドリ染色アガロースゲル。未消化のDNAをローディングコントロール(入力)のためのPCR鋳型として使用した。DdeIで消化したDNAにおけるPCRは、A、Z又はA&Z併用での処置後のDNAメチル化の減少を示す。(b)Aを含む、又は含まない培地中で増殖させたCS植物において実施したバイサルファイトシーケンシングで評価したONSEN LTRでのCHHメチル化状態。
【
図10cd】(c)コントロール培地及びAを0.5μg/ml含む培地中で増殖させたヒトA549癌細胞において評価したLINE−1 DNAメチル化レベル。これはAが、植物及びヒト細胞における強力なDNA脱メチル化剤として使用され得ることを示す。
【
図11】
図11は、薬理学的処置及びフラジェリン処置を併用した処置に対するONSEN染色体外DNAの蓄積を示す。コントロールストレス直後、フラジェリン(flg22)単独で、又はフラジェリンとA(5μg/ml)、Z(40μM)若しくはそれらの併用(A&Z)とを組合せた処置の5時間後のCol野生型の苗において定量PCR(qPCR)により測定したONSENコピー数(平均±標準誤差、n=3 技術的反復)。
【
図12】
図12は、薬理学的処置及びフラジェリン処置の併用に対するATCOPIA17の活性化を示す。コントロールストレス直後、フラジェリン(flg22)単独で、又はフラジェリンとA(5μg/ml)、Z(40μM)若しくはそれらの併用(A&Z)とを組合せた処置の5時間後のCol野生型の苗中のtotal DNAにおいて定量PCR(qPCR)により測定したONSENコピー数(平均±標準誤差、n=3 技術的反復)。
【
図13】
図13は、薬理学的処置及び熱ストレスに対するONSEN染色体外DNAの蓄積を示す。ONSENコピー数は、コントロールストレス(CS:24時間 6℃)、熱ストレス(HS:24時間 6℃及び24時間 37℃)並びに、α−アミニチン(A、20μg/ml)、ゼブラリン(Z、10μM)及びそれらの併用(A&Z)処置を加えたHSの直後の野生型の苗中のtotal DNAにおいて定量PCR(qPCR)により測定した。この結果は、A及びZの相対濃度に依存しない処置の堅牢性を実証する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、本明細書において、真核生物における転移因子を動員することができる薬剤に基づく処置を提供する。さらに、この処置と特定のストレスとの併用は、この特定のストレスに応答する特定のTEの動員(mobilization)をもたらす。この処置は、処置された生物において活性化されたTEの染色体外DNA(ecDNA)の高い蓄積をもたらす。さらに、処置された生物の子孫は、ゲノム中に多数のTEコピーの安定した挿入を示し、処置の一部であるストレスへの抵抗性を増大させる。したがって、本発明の方法は、TE防御を不活性化するための遺伝的変異の必要性を克服し、ゆえに実質的に任意の真核生物において転移因子を効率的に活性化することができる。本発明は、ゲノムのサイズ及び構造におけるTEを介した変異の導入、内在性遺伝子発現の調節、遺伝子形質導入、雑種強勢、相同的組換え並びにストレス適応を可能にする。さらに本発明は新規な機能的TEの同定を可能にする。
【0011】
本発明の第1の側面によれば、真核細胞の、特にゲノム内の転移因子の動員(mobilization)のための方法を提供する。該方法は、
a)1つ又は複数の休止の、すなわち不活性な転移因子を含む真核細胞を提供し、
b)細胞を転写の阻害剤と接触させ、及び任意に細胞を付加的にDNAメチル化阻害剤と接触させ、
それにより、1つ又は複数の動員された転移因子を有する真核細胞を得る、
ことを含む。
【0012】
本明細書の文脈において、転移因子、又はトランスポゾンという用語は、分子遺伝学の分野で知られるその意味で使用される;それらは、ゲノム内のそれらの位置を変化させることができる(カットアンドペースト機構)、又はゲノム内に挿入する自身の新規コピーを作製することができる(コピーアンドペースト機構)生物のゲノム中のDNA配列を指す。転移は、その因子の増殖をもたらすことができ、それによりゲノムのサイズに影響を及ぼすことができる。レトロトランスポゾンとも呼ばれるクラス1トランスポゾン及びDNAトランスポゾンと呼ばれるクラス2トランスポゾンの2クラスのトランスポゾンが存在する。レトロトランスポゾンは、まず、宿主細胞によって提供される分子装置によってRNAに転写され、次いで、相補的DNA(cDNA)と呼ばれるRNAコピーの二本鎖DNAに逆転写され、ゲノム内の新規の位置に挿入される。それらは、レトロウイルスと、逆転写酵素の依存性といったいくつかの特徴を共有する。DNAトランスポゾンはRNA中間体を有さず、トランスポゼース(トランスポザーゼ)によってゲノム中の新しい位置に移される。ゲノム中のトランスポゾンの大部分は、不活性であり、そして複製又は位置を変化させない。したがって、トランスポゾンの活性化はまた、トランスポゾンの動員(mobilization)とも呼ばれる。特定のストレスに反応するトランスポゾンの例を表1に示す。これらのトランスポゾンは、ある程度までは示されたストレスによって活性化させる。しかし、本発明の方法の使用は、提供した実施例において見られるとおり、これらのトランスポゾンをより大きな程度に動員する。
【0013】
本発明の任意の側面の一実施態様において、クラス1トランスポゾンが動員される。
【0014】
本発明の任意の側面の一実施態様において、クラス2トランスポゾンが動員される。
【0015】
本明細書の文脈において、DNAメチル化という用語は、分子生物学及び分子遺伝学の分野で知られるその意味で使用される;それは真核生物では主にシトシンで生じる、DNAへのメチル基の付加を指す。DNAのメチル化はDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)によって触媒され、新たに合成されたDNA鎖上にメチル化パターンを伝達するのに必要な維持メチル化と、新規のメチル化とに分けられる。DNAのメチル化は遺伝子発現の不活性化及びトランスポゾンのサイレンシングに関連する。DNAメチル化は次世代に引き継がれることが可能であり、したがってエピジェネティクス的な変化の共通の形態を示す。
【0017】
一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤は外因性化合物である。
【0018】
一実施態様において、転写の阻害剤は外因性化合物である。
【0019】
一実施態様において、外因性化合物は、1000u以下、特に920u以下の分子量を有する低分子化合物である。
【0020】
本明細書の文脈において、外因性化合物という用語は、技術的に加えない限り、生理条件下で細胞中に存在しない分子を指す。
【0021】
一実施態様において、メチル化の阻害剤は、少なくともいくつかの生理条件下で少なくともいくつかの細胞中には、ほんの僅かな量で存在するかもしれないが、本発明の方法においては細胞生理条件の有意な影響を及ぼすために、はるかに高い濃度で添加される。これを達成するために、化合物は、細胞の内部で観測されるDNAメチル化の阻害剤の濃度より少なくとも10倍高くなるように選択された濃度で細胞の培地中に存在する。
【0022】
一実施態様において、転写の阻害剤は、細胞の内部で観測される転写の阻害剤の濃度の少なくとも10倍、100倍、1000倍又はさらに10,000倍となるように選択された濃度で培地中に存在し、及び生理学的条件下の細胞中に存在する。
【0023】
一実施態様において、本明細書で開示される任意の側面又は実施態様として特定される本発明の方法は、
c)細胞を非生物学的ストレス、生物学的ストレス又は化学的ストレスにさらす、
工程c)をさらに含む。
【0024】
本明細書の文脈において、非生物学的ストレスという用語は、特定の環境において生物に対する非生存因子の負の影響を指す。非生存変数はその正常な変動範囲を超えて環境に影響を与える。非生物学的ストレスの非限定的な例は、熱、寒冷、干ばつ、水没/水過剰、風、紫外線(UV照射)、核放射線、塩分、重金属、土壌pH、組織培養条件及びリン、窒素、光、CO
2等の欠乏である。対照的に生物学的ストレスという用語は、真菌、細菌、ウイルス、昆虫、草食動物による創傷及び生物学的競合などの負の影響を指す。
【0025】
化学的ストレスという用語は、生物における化学物質(「ストレス要因」)の負の影響を指す。これら物質はまた、非生物学的又は生物学的ストレスを模倣するストレス模倣物質である物質を含んでもよい。化学的ストレスの非限定的な例は、除草剤、除草剤解毒剤、殺虫剤、殺菌剤、植物二次代謝物、植物防御を誘導する合成又は天然化合物である。
【0026】
除草剤解毒剤という用語は、単子葉植物を除草剤の損傷から選択的に保護し、一方で双子葉植物は除草剤によって影響を受ける化合物を指す。イネ、コムギ、トウモロコシなどのような一般的な作物性植物だけでなく、飼料牧草、サトウキビ及び竹は単子葉植物であり、一方で大部分の雑草種は双子葉植物である。除草剤解毒剤は播種前に種子の被覆として、農業の土壌を調製するために、又は栽培植物の葉に適用してもよい。2つの後者の場合、除草剤解毒剤は、除草剤と一緒に適用することができる。一般的な除草剤解毒剤の例は、ベノキサコール(Benoxacor)(CAS 98730−04−2)、クロキントセット−メキシル(Cloquintocet−mexyl)(CAS 99607−70−2)、シオメトリニル(Cyometrinil)(CAS 63278−33−1)、ジクロルミド(Dichlormid)(CAS 37764−25−3)、フェンクロラゾール−エチル(Fenchlorazole−ethyl)(CAS 103112−35−2)、フェンクロリム(Fenclorim)(CAS 3740−92−9)、フルラゾール(Flurazole)(CAS 72850−64−7)、フルキソフェニム(Fluxofenim)(CAS 88485−37−4)、フリラゾール(Furilazole)(CAS 121776−33−8)、メフェンピルジエチル(Mefenpyr−diethyl)(CAS 135590−91−9)、MG 191(CAS 96420−72−3)、ナフタル酸無水物(Naphthalic anhydride)(CAS 81−84−5)、MON−13900(CAS 121776−33−8)、LAB 145138(CAS 79260−71−2)及びオキサベトリニル(Oxabetrinil)(CAS 74782−23−3)である。
【0027】
一実施態様において、転移因子はレトロトランスポゾンである。
【0028】
一実施態様において、細胞は多細胞生物の一部である。一実施態様において真核細胞は、非ヒト生物の一部である。
【0029】
一実施態様において、真核細胞は植物細胞である。一実施態様において、植物細胞はシロイヌナズナ属(Arabidopsis)、特にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)である。
【0030】
一実施態様において、植物細胞は、作物性植物の一部、特にイネ、サトウキビ、トウモロコシ、コムギ、ライムギ、オオムギ、オートムギ又はキビなどの植物を含むイネ科の植物の一部である。一実施態様において、本方法は、前記細胞を単離し、細胞の表現型が変化したかどうかを決定する後段の工程を含む。
【0031】
一実施態様において、真核細胞は多細胞生物、特に植物の一部であり、そして、細胞を工程c)の暴露に供した後、細胞を培養して多細胞生物を生じさせ、多細胞生物の表現型を決定する。
【0032】
一実施態様において、生物の表現型は、ストレス要因に対する耐性を決定することを含み、前記ストレス要因は工程c)において適用されるストレスを引き起こすものである。
【0033】
一実施態様において、工程c)において適用されるストレスを引き起こすストレス要因に対する耐性は、本発明の方法を適用後に増加する。
【0034】
本発明の第2の側面によれば、真核生物の集団において遺伝的及び/又はエピジェネティクス的な変異を増加させるための方法が提供される。本方法は、
i.真核生物を提供し、
ii.該真核生物に
DNAメチル化の阻害剤及び/又は
転写の阻害剤
を接触させ、
iii.真核生物を増殖させ、増加した遺伝的及び/又はエピジェネティクス的な変異を有する真核生物集団を得る工程
を含む。
【0035】
本方法は、真核生物内の休止状態、すなわち不活性な、現在は転写又は逆転写されていない転移因子を動員する。発明者の知見によれば、全ての真核生物はそのゲノム内に休止状態の転移因子を含み、用語「真核生物」は、「休止状態の転移因子を含む真核生物」と同義である。
【0036】
一実施態様において、本方法は、本明細書中に列挙した特定の転移因子のいずれかの1つを含んでいる真核生物に使用される。
【0037】
本発明の第2の側面の一実施態様において、本方法は工程iiに次いで、
ii.a 真核生物を非生物学的ストレス、生物学的ストレス又は化学的ストレスに暴露する、
工程ii.aをさらに含む。
【0038】
一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤及び/又は転写の阻害剤は、極性溶媒、特に極性非プロトン性溶媒、より特にジメチルスルホキシド(DMSO)の溶液として提供される。
【0039】
一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤及び/又は転写の阻害剤は、極性溶媒、特に水溶液として提供される。
【0040】
一実施態様において、本方法は、
a.いずれかの遺伝的及び/又はエピジェネティクス的な変化を決定し、又は
b.いずれかの表現型における変化、特に工程ii.aにおいて適用したいずれかのストレスへの耐性を決定すること、
を含む後段の工程ivを含み、
前記変化は、構成する個々の真核生物において若しくは真核生物の集団体表的なサンプルについて、又は集団を構成する真核生物全てについて決定する。
【0041】
本発明の第1及び第2の側面の一実施態様において、非生物学的ストレスは、熱、寒冷、干ばつ、水没/水過剰、風、紫外線(UV照射)、核放射線、塩分、重金属、土壌pH、組織培養条件及び欠乏(リン、窒素、光、CO
2など)から選択される。
【0042】
本発明の第1及び第2の側面の一実施態様において、生物学的ストレスは、真菌、細菌、ウイルス、昆虫、草食動物による創傷及び生物学的競合の負の影響から選択される。負の影響を有する真菌の非限定的な例としては、フィトフトラ・インフェスタンス(Phytophthora infestans)(ポテト枯病)及びイネイモチ病菌(Magnaporthe grisea)(イネイモチ病)であろう。負の影響を有する細菌の非限定的な例としては、灰色カビ病菌(Botrytis cinerea)(灰色カビ)、ピアス病菌(Xylella fastidios)(Olive Quick Decline Syndrome)及びプクシニア属(Puccinia spp)(小麦錆)である。負の影響を有するウイルスの非限定的な例としては、タバコモザイクウイルス及びトマト黄化壊疽ウイルスである。負の影響を有する昆虫についての非限定的な例としては、ヨウトガ(Mamestra brassicae)(Cabbage moth)、アメリカタバコガ(Helicoverpa zea)(corn earworm)、アワノメイガ(Ostrinia nubilalis)(European corn borer)である。生物学的競合のために負の影響を有する他の生物の非限定的な例は、ハマウツボ属(Orobanche)(broomrape)及びオオブタクサ(Ambrosia trifida)(giant ragweed)である。
【0043】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、化学的ストレスは、除草剤、除草剤解毒剤、殺虫剤、殺菌剤、植物二次代謝物、植物防御を誘導する合成又は天然の化合物から選択される。植物防御を誘導する化合物の非限定的な例は、フランジェリン(天然化合物、細菌エリシター; フェリックスら、1999、Plant J.)、フランジェリンの保存されたN末端部分の22アミノ酸配列(flg22)、サリチル酸及び類似体、例えばBion(登録商標)(合成類似体を有する天然化合物;(ボルトら,2009,Annu. Rev.Phytopathol.;フリードリヒら,1996,Plant J.))、ジャスモン酸及びジャスモン酸メチルエステル(天然化合物;コーエンら,1993,Phytopathology)エチレン(天然化合物;ヴァンルーンら, 2006, Trends Plant Sci.)、アブシジン酸(天然化合物;マウク−マニとマウク,2005,Curr.Opin.Plant Biol.)及びテルペン及び緑葉揮発性物質(天然化合物;アンシッカーらによるレビュー, 2009, Curr Opin Plant Biol)のような揮発性物質である。
【0044】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤はヌクレオシド類似体である。
【0045】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤は、5−アザシチジン、5−アザ−2’−デオキシシチジン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン及びゼブラリンから選択される。
【0046】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、転写の阻害剤は、RNAポリメラーゼ阻害剤、特にRNAポリメラーゼII阻害剤、RNAポリメラーゼIV阻害剤又はRNAポリメラーゼV阻害剤、より特にRNAポリメラーゼII阻害剤である。
【0047】
本発明の第1及び第2の態様の一実施態様において、RNAポリメラーゼII阻害剤は、
− アマトキシン、特にα−アマニチン(CAS 23109−05−9)、
− アマトキシンの誘導体、特にα−アマニチンオレエート(alpha−amanitin oleate)、
− ヌクレオシド類似体、特に5,6−ジクロロ−1−β−D−リボフラノシルベンズイミダゾール(DRB; CAS 53−85−0)、
− アクチノマイシンD(CAS 50−76−0)、
− フラボピリドール(CAS 146426−40−6)、
− トリプライド(CAS 38748−32−2)
から選択される。
【0048】
本明細書中で開示される本発明のいずれかの側面の一実施態様において、アマトキシン、特にα−アマニチンは、0.0005μg/ml〜50μg/ml、特に0.001μg/ml〜25μg/ml、より特に0.005μg/ml〜20μg/ml、さらにより特に0.005μg/ml〜5μg/mlの濃度で使用される。
【0049】
本明細書中で開示される本発明のいずれかの側面の一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤、特にゼブラリンは、5μM〜100μM、特に10μM〜80μM、より特に10μM〜40μM、さらにより特に20μM〜40μMの濃度で使用される。
【0050】
本発明の第2の側面の一実施態様において、複数の真核生物中の増加した遺伝的及び/又はエピジェネティクス的な変異は、該生物が暴露された非生物学的又は生物学的ストレスに対する該生物の耐性の増加をもたらす。換言すれば、例えば化学的変異原から予想されるように、遺伝的及びエピジェネティクス的な変異における増加はランダムではない。該増加は、本方法において使用されるストレスに対する耐性に対して方向付けられている。例えば、非生物学的ストレスである熱を用いると、優先的に熱耐性の生物をもたらす。理論によって縛られることは望まないが、本発明者らは、前もって適用したストレスに対応することができる新しい遺伝子調節経路を作製する遺伝子近傍でゲノム中に優先的にトランスポゾンは挿入されると仮定する。これにより、それぞれのストレスによって活性化される遺伝子において遺伝的多様性がもたらされ、それにより、それぞれのストレスに対する増加した耐性が得られるかもしれない。
【0051】
本発明の第3の側面によれば、本発明の第1及び第2の側面に記載の方法における組成物の使用が提供される。該組成物はDNAメチル化の阻害剤及び転写の阻害剤を含む。
【0052】
一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤はヌクレオシド類似体である。
【0053】
一実施態様において、DNAメチルメチル化の阻害剤は、5−アザシチジン(CAS 320−67−2)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(CAS 2353−33−5)、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン(CAS 10356−76−0)、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン(CAS 62488−57−7)及びゼブラリン(CAS 3690−10−6)から選択される。
【0054】
一実施態様において、転写の阻害剤は、RNAポリメラーゼ阻害剤、特にRNAポリメラーゼII阻害剤、RNAポリメラーゼIV阻害剤又はRNAポリメラーゼV阻害剤、より特にRNAポリメラーゼII阻害剤である。
【0055】
一実施態様において、RNAポリメラーゼII阻害剤は、
− アマトキシン、特にα−アマニチン(CAS 23109−05−9)、
− アマトキシンの誘導体、特にα−アマニチンオレエート(alpha−amanitin oleate)、
− ヌクレオシド類似体、特に5,6−ジクロロ−1−β−D−リボフラノシルベンズイミダゾール(DRB; CAS 53−85−0)、
− アクチノマイシンD(CAS 50−76−0)、
− フラボピリドール(CAS 146426−40−6)、
− トリプライド(CAS 38748−32−2)
から選択される。
【0056】
一実施態様において、アマトキシン、特にα−アマニチンは0.5nM〜55μM、特に1nM〜27.5μM、より特に5nM〜20μM、さらにより特に5nM〜5μMの濃度で使用される。
【0057】
本明細書中で開示される本発明のいずれかの側面の一実施態様において、転写の阻害剤、特にα−アマニチンの、DNAメチル化の阻害剤、特にゼブラリンに対するモル濃度比は、0.000005〜11、より特に0.000125〜2、さらにより特に0.000125〜0.125である。
【0058】
一実施態様において、モル濃度比は濃度a及び濃度bに依存し、それらは以下の通りである:
a)DNAメチル化の阻害剤、特にゼブラリンは5μM〜100μM、特に10μM〜80μM、より特に10μM〜40μM、さらにより特に20μM〜40μMの濃度で使用される。
b)アマトキシン、特にα−アマニチンは、0.0005μg/ml〜50μg/ml、特に0.001μg/ml〜25μg/ml、より特に0.005μg/ml〜20μg/ml、さらにより特に0.005μg/ml〜5μg/mlの濃度で使用される。
【0059】
本発明の第4の側面は、本発明の第1及び第2の側面に記載の方法において使用するためのキットを提供する。パーツキットは、DNAメチル化の阻害剤及び転写の阻害剤を含む。
【0060】
一実施態様において、DNAメチル化の阻害剤はヌクレオシド類似体である。
【0061】
一実施態様において、DNAメチルメチル化の阻害剤は、5−アザシチジン(CAS 320−67−2)、5−アザ−2’−デオキシシチジン(CAS 2353−33−5)、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン(CAS 10356−76−0)、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン(CAS 62488−57−7)及びゼブラリン(CAS 3690−10−6)から選択される。
【0062】
一実施態様において、転写の阻害剤は、RNAポリメラーゼ阻害剤、特にRNAポリメラーゼII阻害剤、RNAポリメラーゼIV阻害剤又はRNAポリメラーゼV阻害剤、より特にRNAポリメラーゼII阻害剤である。
【0063】
一実施態様において、RNAポリメラーゼII阻害剤は、
− アマトキシン、特にα−アマニチン(CAS 23109−05−9)、
− アマトキシンの誘導体、特にα−アマニチンオレエート(alpha−amanitin oleate)、
− ヌクレオシド類似体、特に5,6−ジクロロ−1−β−D−リボフラノシルベンズイミダゾール(DRB; CAS 53−85−0)、
− アクチノマイシンD(CAS 50−76−0)、
− フラボピリドール(CAS 146426−40−6)、
− トリプライド(CAS 38748−32−2)
から選択される。
【0064】
例えば、生物又は阻害剤の型のような単一の分離可能な特徴についての選択肢が、本明細書の「実施態様」としてどこに示されている場合でも、そのような選択肢は自由に組合せて、本明細書で開示する本発明の別々の実施態様を形成することができると理解される。
【0065】
本発明は、以下の実施例及び図面によりさらに説明され、それからさらなる実施態様及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明することを意図しているが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0066】
本発明者らは、真核生物においてTEを活性化及び動員する高効率な方法を発見した。処置は、高度に保存された真核生物の機構:DNAメチル化及び転写をターゲットとする薬物を含む。
【0067】
実施例1
TE動員性におけるPol IIの役割を調査するために、本発明者らは、十分に特徴付けられたシロイヌナズナ属(Arabidopsis)の熱応答性コピア(copia)様ONSENレトロトランスポゾン(イトウ H.ら、Nature、2011,472:115−119)を選択した。本発明者らは、最初にPol II欠損植物が、増強されたTE活性を示すかどうかを試験した。この目的のために、本発明者らは、NRPB2タンパク質レベルの蓄積が減少した低形質のnrpb2−3変異対立遺伝子を利用した(ソウ B.ら、Genes Dev、2009,23:2850−2860)。リアルタイムPCRを用いて、熱ストレス(本明細書ではHSと呼ぶ)によるnrpb2−3苗への適用は、野生型と比較してONSEN ecDNAの軽度の増加をもたらすことが判明した(
図1a)。この結果は、Pol IV又はPol Vに影響を及ぼさない強力なPol II阻害剤である、α−アマニチン(本明細書ではAと呼ぶ。)を5μg/ml用いたPol IIの薬理学的不活性化後のONSEN ecDNAにおいて観測された増加によって裏付けられる(ハーグ J.R.ら,Mol Cell,2012,48:811−818)(
図1a、b)。RNAポリメラーゼII(Pol II)による転写はα−アマニチン、その誘導体又は他のPol II阻害剤によって阻害される。全体的なDNAメチル化の阻害は、ゼブラリン又は5−アザ−2’−デオキシシチジン(及びその誘導体)による処置によって達成される。Pol IIを介したTE活性の抑制とDNAメチル化との間の相互作用を試験するために、本発明者らは、適度な量のゼブラリン(本明細書ではZと呼ぶ。野生型植物については40μM、nrpb2−3植物についてはnrpb2−3苗の生存率を確保するために10μM)、植物中の活性なDNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤を添加した培地で野生型及びnrpb2−3植物を育成し(ボーべック T.ら,Plant J,2009,57:542−554)、そしてそれらをHSに暴露した。HS中の培地中のZの存在は、一般的にONSEN ecDNAの生産を増強した。注目すべきことに、ecDNA蓄積における誘導された増加は、nrpb2−3バックグラウンドにおいて、より明確であった(
図1a)。これは、DNAメチル化及びPol II転写活性の両方がONSEN ecDNAの生産の抑制に寄与することを示した。異なる薬剤の添加によってDNAメチル化及びPol IIの両方を特異的に阻害することができるため、本発明者らは、野生型植物のA及びZの両方での同時の処置は、熱ストレス処置後ONSENを強力に活性化し、動員することができるかどうかを試験した。本発明者らは、各薬剤を個別に及び両方を併用して補充したMS培地でWT苗を育成した。熱ストレスを与えた及びZ処置したnrpb2−3苗におけるONSENの強力な活性化と一致して、WTの併用処置(A+Z)は、nrpd1変異体に匹敵するONSEN ecDNAの非常に高く(
図1b)、HS依存性の(
図2)蓄積を生じた(
図3c)。
【0068】
実施例2
HS後のONSENの活性化の増加の根底にある、DNAレベルで薬剤が有する効果をより理解するために、本発明者らは、それらが、選択されたONSEN内因性遺伝子座(AT1TE12295)の長い末端反復(LTR)で、及び関連性のない十分に特徴付けられたRdDM標的(soloLTR)で、DNAメチル化にどのように影響を与えるかを評価した。植物をA又はZでの個別に処置すると、CS後のONSEN LTRでのCHHのメチル化レベルは減少した(
図3a)。2つの薬剤を併用することでnrpd1変異体に匹敵するDNAメチル化の減少がもたらされた。SoloLTRでのDNAメチル化は、薬物処置に対する異なる応答を示し、DNAメチル化レベルの減少はA及びZ併用の処置に共する植物のみで観測された。次いで、発明者らは、CHHメチル化においての減少の程度が、HS直後の増加したONSEN転写レベルと一致するかどうかをノーザンブロットによって調査した。本発明者らは、Z単独での処置がHS直後に最も高いONSEN転写レベルをもたらすことを見出した(
図3b)。この観測から、本発明者はこれらの付加的なZ誘導転写は、ONSEN ecDNAの生産のための適切な鋳型ではないと結論付けた(
図1及び
図3を比較)。
【0069】
ショウジョウバエ(Drosophila)において、Pol IIを介したアンチセンス転写がDicer−2依存的方法でTE由来siRNAの生産をもたらすことが示されている(ラッソ J.ら、Genetics,2016,202:107−21)。シロイヌナズナ属(Arabidopsis)についてのこの概念を支持して、最近の刊行物えは、ddm1バックグランドにおけるONSENの制御において、DCL3の重要性を指摘した(パンダ Kら、Genome Biol,2016,17:1−19)。Pol II阻害の効果もDicer依存的であるかどうかを明らかにするために、本発明者らは、HSを適用したAについて、rdr6変異体及びdcl2/3/4三重変異体(4つの植物dicer様酵素、DCLsのうち3つを欠損)の両方を育成し、ONSEN ecDNAを測定した。本発明者らは、Aがrdr6変異体においては依然としてecDNAの蓄積を増強するのに対して、dcl2/3/4三重変異体においては、Pol IIの阻害の効果がないことを見出した(
図3c)。この発見は、Pol IIがDCLsによって触媒する処理工程の上流に作用するという概念を支持する。
【0070】
実施例3
植物における内因性TEの動員は、これまで非常に非効率的であり、したがって、基礎研究及び植物育種においてのその使用を制限している。これまでにHS処置した野生型植物においてONSENの転移は観測されていない(イトウ,H.ら. Nature,2011,472:115−119)。A&Z薬剤処置がnrpd1におけるような同程度にまでONSEN ecDNAの蓄積を増加させたため、本発明者らは、併用薬物処置が野生型植物において効率的なONSENの動員をもたらすことができるかどうか試験した。最初に、本発明者らは、A&Z処置及び熱ストレスを受けた植物の子孫において、新しいONSENコピーが検出されるかどうか、及びその頻度をリアルタイムPCRによって評価した。本発明者らは、試験したF1プール(n=51)の29.4%において新しいONSENの挿入を発見し、該プールの平均コピー数は52にまで達していた(
図5)。次いで本発明者らは、トランスポゾンディスプレイ(
図4a)、リアルタイムPCR(
図4b)及び選択された高コピー系統(#3)においていくつかの挿入のシークエンシング(
図6)によって、独立した個々の高コピー植物のサブセットにおいて、安定した新規のONSENを確認した。HS、A及びZの併用は、RdDM欠損植物において、前に観測されたのと同様の染色体外ONSENコピー数をもたらした。本発明者らは、処置した植物の27%の子孫において新規のONSENの挿入を検出した。qPCR測定によれば、A、Z及びHS処置した植物のF2及び連続した世代の個々の植物において、最大90±6個の挿入されたコピーが観測された(
図4a)。これらの挿入はトランスポゾンディスプレイによりさらに確認された。3世代にわたるONSENコピー数のさらなる増加は観測されず、新しい挿入は安定しており、ONSENはもはや転移しないことを示した(
図4b)。
【0071】
TE挿入は、エピジェネティクス的標識の補充、又は3’LTRから隣接領域内へストレス依存的な読み出し転写のいずれかによって、遺伝子を遮断又はそれらの発現を変更することができる(リシュ D.、Nat Rev Genet,2013,14:49−61)。これを試験するために、本発明者らは、長日条件及び短日条件下で、上記選択された高コピー数系統のF2世代を育成した。本発明者らは、異なる育成条件に応じて、多くの系統が明瞭及び均質な表現型(植物の大きさ、クロロフィル含量及び開花時期、
図4c及びd)を示したことを観測した。
【0072】
実施例4
本発明者らは、Pol IIが植物中のTEの抑制において、より一般的な役割を果たすかどうかを試験した。シロイヌナズナ属(Arabidopsis)と比較して、その顕著に異なるエピジェネティクス的なランドスケープにより、本発明者らは、遺伝的に十分に特徴付けられた単子葉イネ、O.sativaを選択した(カワハラ Y.ら、2013,Rice,6:4−10)。薬剤誘導動員されたTEを捕捉するために、本発明者らは、薬剤なし、Aのみ、Zのみ又はAとZとの併用のずれかを補充したMS培地で育成したイネ作物(O.sativa)の苗において、染色体外環状DNA(eccDNA)を特異的にシークエンシングできる方法を用いて、活性のあるモビロームを特徴付けた。eccDNAはLTRレトロトランスポゾンのライフサイクルの副産物である。このアプローチを使用して、本発明者らは、A及びZの両方で植物を処置した場合のみ高く活性化されるように、コピア(copia)様レトロトランスポゾン、Houbaを同定した(
図7a)。シークエンシングデータは、Houba LTR上のeccDNA特異的PCRによって確認した(
図7b及びc)。
【0073】
実施例5
A単独での処置はシロイヌナズナ属(Arabidopsis)におけるDNAメチル化を減少させたため(
図3a)、本発明者らはこの処置の堅牢性及び一般性の試験を試みた。堅牢性を確認するために、植物をA(20μg/ml)、Z(10 μg/ml)及びA&Zで処置した。Aのみがこのより高い濃度でDNAメチル化を強く減少させ(
図10a)、この結果は、バイサルファイトシークエンシング(bisulfite sequencing)(各サンプルについて10個の配列決定したクローンの平均)によるCHHコンテキストにおけるDNAメチル化の集積によって、さらに支持された。Aは高度に保存されたRNA Pol II酵素を阻害し、そしてAはまたヒト細胞中でも活性であるため、本発明者らはA549ヒト癌細胞株においてDNAメチル化に対するAの効果を試験した。細胞内の全体的なDNAメチル化含量を評価し、未処置細胞又はZ処置細胞と比較した。増殖培地にA(0.5μg/ml)を補充すると、DNAメチル化が40%減少した。この減少はDNA脱メチル化剤Z(350μM)での処置と同等であった(
図10c)。次いで、本発明者らはまた、長鎖散在反復配列(long interspersed element 1)(LINE−1)トランスポゾンでのDNAメチル化レベルを評価した。LINE−1では、Aは、ZよりもDNAメチル化の減少に対してより一層顕著な効果を示した(それぞれ40%対20%の減少)。これらの結果は、転写の阻害剤が、真核細胞における強力なDNA脱メチル化剤として使用され得ることを実証する。
【0074】
植物及び育成条件
4℃で2日間層別化した後、それぞれ24℃(昼)及び22℃(夜)で、長日条件(16時間の明り)下で、1%スクロースを含み、かつpH5.8である滅菌した1/2MS培地(コントロール培地)でシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)植物(アクセッション Col−0)を育成した。イネ(Oryza sativa)植物は、27℃(夜)及び28℃(昼)で16時間、1%スクロースを含み、かつpH5.8である滅菌した1/2MS培地(コントロール培地)で育成した。
【0075】
連続する世代を分析するために、苗を土壌に移し、苗が成熟するまで、サンヨー MLR−350育成チャンバー内で、24℃(昼)及び22℃(夜)で、長日条件(16時間の明り)下で、育成した(シロイヌナズナ(A.thaliana))。
【0076】
表現型分類のために、シロイヌナズナ(A.thaliana)植物を24℃(昼)及び22℃(夜)で、長日条件(16時間の明り)下で、並びに、21℃(昼)及び18℃(夜)で、短日条件(10時間の明り)下で、育成した。
【0077】
シロイヌナズナ属(Arabidopsis)苗のエピジェネティクス的な変化の誘導と、転移因子の活性化と安定な挿入は、ゼブラリン(終濃度:10〜40μM)、α−アマニチン(終濃度:0.005〜20μg/ml)又は両方の化学物質を併用して含有する1/2MS培地(誘導培地)上で、それらを発芽させ成長させることによって強化された。
【0078】
熱応答レトロトランスポゾンONSENの転移を誘発するために、育成チャンバー内(サンヨー)で制御された条件下で、7日齢の苗を6℃で24時間寒冷ショックにさらし、次いで37℃で24時間熱ストレス(熱ストレス、HS)を与えた。コントロール植物は、6℃で24時間寒冷処置をした後、24℃(昼)及び22℃(夜)の長日条件に戻した(CS、コントロールストレス、イトウら、2011に記載)。
【0079】
生物学的ストレス応答を誘発するために、9日齢のシロイヌナズナ属(Arabidopsis)苗を5μg/ml α−アマニチン及び40μM ゼブラリンで9日間育成し、そしてflg22(10μM)を噴霧した。5時間のインキュベーション後、苗の地上に出ている部分からtotal DNAを抽出し、TEコピー数をqPCRによって評価した。
【0080】
ONSEN及びCOPIA17コピー数を測定するためのtotal DNAにおけるqPCR
苗及び成体植物からtotal DNAを、DNeasy Plant Mini Kit(キアゲン)を用いて単離した。
【0081】
CS/HS及び未処置/処置された苗におけるONSENの染色体外DNAのコピー数の測定に備えて、熱ストレス直後に根を切断し、DNA抽出まで、植物を直ちに液体窒素中で凍結させた。
【0082】
コントロール及び高コピー系統のF1〜F3世代のONSENコピー数を追跡するために、本葉からDNAを抽出した。
【0083】
ONSEN転移頻度の推定のために、HS+A&Z処置した植物の子孫の少なくとも8つの苗からなるプールのtotal DNAを単離した。DNA濃度はQubit蛍光光度計(Thermo Fisher Scientific)を用いて測定した。
【0084】
ONSENのコピー数は、Light−Cycler 480(ロシュ)を用い、終容量10μlのTaqMan master mixを用いて、total DNAにおいてqPCRで測定した。ACTOPIA17コピー数は、Light−Cycler 480 (Roche)を用い、XYBR 421 Green I Master Mixを用いて定量PCR(qPCR)により測定した。Actin2 (At3g18780)は標準化のための標準遺伝子として使用した。qPCRのためのプライマー及びプローブを表2に示す。
【0085】
モビローム−配列分析(mobilome−seq analysis)のために、3つのイネ(O.sativa)苗の地上に出ている部分からDNAを以前に報告されたとおりに抽出した(メット M.ら、EMBOJ,1999,18:241−248)。
【0086】
Geneclean kit(MPBio、アメリカ合衆国)を用いて、製造元取扱説明書にしたがって、各試料についてゲノムDNA5μgを精製した。PlasmidSafe DNase(Epicentre、アメリカ合衆国)を用いて、17時間37℃インキュベーションを行ったこと以外は製造元取扱説明書にしたがって、精製遺伝子産物からecDNAを単離した。0.1容量の3M酢酸ナトリウム(pH5.2)、2.5容量のエタノール及び1μlのグリコーゲン(フィッシャー、アメリカ合衆国)を添加し、−20℃で一晩インキュベートすることによってDNAサンプルを沈殿させた。沈殿した環状DNAを、Illustra TempliPhi kit(GEヘルスケア、アメリカ合衆国)を使用して、28℃で65時間インキュベーションを行ったこと以外は製造元取扱説明書にしたがってランダムローリングサークル増幅により増幅した。DNAの濃度は、DNA PicoGreen kit(インビトロジェン、アメリカ合衆国) を用い、LightCycler480(ロシュ、アメリカ合衆国)を用いて、測定した。Nextera XT library kit (イルミナ、アメリカ合衆国)を用いて、製造元取扱説明書にしたがって、各試料から増幅されたecDNAを1ナノグラム使用して、ライブラリーを調製した。高感度DNAバイオアナライザーチップ(アジレントテクノロジーズ、アメリカ合衆国)を使用して、DNAの品質及び濃度を測定した。試料をプールし、MiSeqプラットフォーム(イルミナ、アメリカ合衆国)上にロードし、2×250ヌクレオチド対末端シークエンシングを行った。FASTQファイルの品質管理は、FastQCツール(version 0.10.1)を用いて評価した。オルガネラ環状ゲノムに由来する読み取りを除去するために、読み取りは、センシティブローカルマッピング(−−sensitive local mapping)でBowtie2 version 2.2.2 71プログラムを使用して、ミトコンドリア及び葉緑体ゲノムに対して、198マッピングした。マッピングされていない読み取りは、以下のパラメーターを使用して、参照ゲノムIRGSP1.0(http://rgp.dna.affrc.go.jp/E/IRGSP/ Build5.html)に対してマッピングした:−−センシティブローカル、−k1。核ゲノムに挿入されたミトコンドリア及び葉緑体ゲノムの両方から得られたDNAをマスクした(1,697,400bp)。TE含有領域は、イネ(O.sativa)において、194,224,800bpにわたる。最後に、各ライブラリーについて、豊富なゲノム領域に対応するa.bamアラインメントファイルを統計分析のために考慮し、インテグラミックゲノムミクスビュアー(IGV)ソフトウェア(https://www.broadinstitute.org/igv/home)で可視化した。
【0087】
表2:染色体外ONSEN DNAコピーの総数を測定するためのqPCR(TaqMan、ライフテクノロジーズ)に使用されたプライマー及びプローブの配列。Actin2は、正規化のためのコントロール遺伝子として使用した。
【表2】
【0088】
新しいONSENコピーの挿入を確認するトランスポゾンディスプレイ
熱ストレス及び処置した植物のゲノム内へのONSEN TEの追加コピーの安定な挿入は、2011年イトウらの文献に記載されているGenomeWalker Universal kit(クロンテック ラボラトリーズ)に基づく簡略化トランスポゾンディスプレイによって確認した。
【0089】
HS+/−A&ZのF2世代由来の成体植物由来のtotal DNA 300ngをDNeasy Plant Mini Kit (キアゲン)で抽出し、平滑切断制限酵素(Dra I)で消化した。消化したDNAを、High Pure PCR Product Purification Kit(ロシュ)で精製した後、アニールしたGenWalkAdapters1&2へライゲーションした。PCRのために、アダプター特異的プライマーAP1及びONSEN特的プライマーCopia 78 3’LTRを使用した。PCR産物は、ミドリグリーン核酸染色溶液で染色した2%アガロースゲル上で分離した。配列情報については表2及び3を参照する。
【0090】
新規挿入のクローニング、シークエンシング及びジェノタイピング
新しいONSEN挿入ゲノム領域を同定するために、トランスポゾンディスプレイのPCR産物は、High Pure PCR Product Purification Kit (Roche)を用いて精製し、pGEM−Tベクター(Promega)に連結し、大腸菌へ形質転換した。青白選択後、陽性クローンを挿入増幅及びシークセンシング(StarSEQ)のために使用した。得られた配列をGeneious 8.2.1で分析し、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)参照ゲノムに対してBLASTを行った。ONSEN特的プライマー「Copia 78TEディスプレイ 3’LTR」と、表2及び3に列挙したプライマーとの組合せで、新規のONSEN挿入を証明するための標準的なジェノタイピングPCRを実施した。
【0091】
表3:プライマーの名称、目的及び配列
【表3】
【0092】
染色体外Houba DNAにおけるPCR
環状Houbaコピーの存在は、シークエンシングにも使用されたローリングサークル増幅テンプレート 7ngに対するインバースPCRによって証明した。葉緑体DNAに特異的なPCRをローディングコントロールとした。PCR産物を、ミドリグリーン核酸染色溶液(Nippon Genetics Europe)で染色した1%アガロースゲルで分離した。プライマー配列は表4に示す。
【0093】
表4:染色体外HoubaDNAの総数を測定するためのPCRについて使用したプライマー及びプローブの配列
【表4】
【0094】
RNA分析及びノーザンブロット
TRI Reagent(シグマ)を用いて、製造元取扱説明書にしたがって、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)苗の大部分からtotal RNAを単離した。RNA濃度を測定し(Qubit RNA HS Assay Kit、サーモフィッシャー)、15μgのRNAを変性1.5%アガロースゲル上で分離し、Hybond−N+(GE ヘルスケア)膜上でブロットし、ゲル精製してP32ラベル化した全長ONSEN転写物に特異的なプローブ(Megaprime DNA Labelling System、GEヘルスケア)(配列については表3参照)25ngでハイブリダイズした。
【0095】
DNAメチル化分析
シロイヌナズナ属(Arabidopsis)苗から単離したtotalゲノムDNA 20ngを、メチル化感受性制限酵素、DdeI(NEB)で、一晩37℃で消化した。60℃で20分間、熱不活性化後、消化したDNAをchopPCRの鋳型として使用した。Actin2は、消化のコントロールとした。未消化のDNAをローディングコントロールとして使用した。PCR産物は、1%アガロースゲル上で分離し、ミドリグリーンで染色した。
【0096】
A549ヒト癌細胞株について、処置なし、又はZ(350μM)若しくはA(0.5μg/ml)のいずれかを補充した培地で細胞を増殖し、QiaAmp(登録商標)DNA mini Kit(キアゲン、フランス)を用いてDNAを抽出した。次いで、5−mC DNA ELISA Kit(Zymo Research)を用いて、製造元取扱説明書にしたがって5−メチルシトシンの存在を定量することで、全体的なDNAメチル化を評価した。LINE−1トランスポゾンでのDNAメチル化は、Global DNA Methylation Assay−LINE−1 kit(Active Motif)で評価した。