【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例にもとづいてさらに詳細に説明するが、本発明はその内容に限定されるものではない。なお、実施例中におけるロバチレリン三水和物の投与量(用量)については、特に他の記載が無い限り、フリー体換算値を表す。実施例中における健康成人男性及び脊髄小脳変性症患者については、特に他の記載が無い限り、日本人であり、二次性に運動失調を呈する患者(例えば、脳血管障害、脳腫瘍等を伴う患者)は含まれていない。
【0039】
実施例1
健康成人男性を対象とした反復投与試験
1.試験方法
健康成人男性50例(各群8例及びプラセボ10例)を対象として、ロバチレリン三水和物0.25、0.5若しくは1.0 mg又はプラセボを1日1回、又はロバチレリン三水和物0.25、若しくは0.5 mg又はプラセボを1日2回、それぞれ朝食後又は夕食後に9日間反復経口投与した。
2.評価項目
FT
3、FT
4、TSH、及びプロラクチン(PRL)の血清中濃度(平均値)、並びに有害事象等を評価した。
3.結果
各投与群の1日目、5日目及び9日目のFT
3及びFT
4の血清中濃度(平均値)の推移を
図1及び
図2にそれぞれ示す。
FT
3値については、0.25 mgの1日2回投与群(0.25 mg/bid)の値の推移と0.5 mgの1日1回投与群(0.5 mg/qd)の値の推移を比べると、0.5 mg/qd群のFT
3値の方が全体的に低く推移した。また、0.5 mgの1日2回投与群(0.5 mg/bid)の値の推移と1 mgの1日1回投与群(1 mg/qd)の値の推移を比べると、1 mg/qd群のFT
3値の方が全体的に低く推移した。
FT
4値については、0.25 mgの1日2回投与群(0.25 mg/bid)の値の推移と0.5 mgの1日1回投与群(0.5 mg/qd)の値の推移を比べると、同等若しくは0.5 mg/qd群のFT
4値の方がやや低く推移した。また、0.5 mgの1日2回投与群(0.5 mg/bid)の値の推移と1 mgの1日1回投与群(1 mg/qd)の値の推移を比べると、1 mg/qd群のFT
4値の方が全体的に低く推移し、0.5 mgの1日2回投与群においては、5日目と9日目にFT
4値の基準値を上回る継続的な上昇が認められた。
【0040】
以上の解析から、1日用量を1日2回に分けて投与する用法に比べ、1日用量を1日1回で投与する用法により、ロバチレリン三水和物の反復投与による甲状腺ホルモンの上昇への影響が低減されることが示された。したがって、1日用量を1日1回で投与する用法により、
ロバチレリン三水和物の反復投与に伴う甲状腺ホルモンの上昇による副作用発現のリスクを低減できることが示された。
【0041】
実施例2
ヒトにおける薬物動態試験
健康成人男性48例(各群6例及びプラセボ12例)を対象として、ロバチレリン三水和物 0.1、0.3、1、2.5、5若しくは10 mg又はプラセボを空腹時に単回投与した。このときの未変化体のロバチレリンの薬物動態を解析した結果、0.1〜10 mgまでの用量範囲において、ロバチレリンのCmax(最高血漿中濃度)、AUC
0-∞(0〜無限大時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積)及びAe
0-48(0〜48時間までの尿中累積排泄量)は線形性を示した。
【0042】
実施例1及び2の結果から、ロバチレリン又はその薬理学的に許容される塩の用法については、1日用量を1日2回に分けて投与する用法に比べ、1日1回で投与する用法の方が、
反復投与による甲状腺ホルモンの上昇による副作用のリスクを低減できることが推察された。
【0043】
実施例3
脊髄小脳変性症患者を対象とした臨床試験(第II相試験)
1.試験方法
脊髄小脳変性症患者225例を対象として、ロバチレリン三水和物 0.4、0.8、1.6若しく
は3.2 mg又はプラセボを1日1回、朝食後に24週間経口投与した(二重盲検法)。
2.有効性評価項目及び安全性評価項目
有効性評価項目は、SARA合計スコア変化量(検証期最終評価時のSARA合計スコア(検証期における最終観測値)−前観察期終了時のSARA合計スコア)等とし、安全性評価項目は、有害事象及び副作用の発現状況、生理学的検査(血圧、脈拍等)、内分泌学的検査(FT
3、FT
4等)等とした。
なお、SARA個別スコア((歩行(0〜8点)、立位(0〜6点)、坐位(0〜4点)、言語障害(0〜6点)、指追い試験(0〜4点)、鼻指試験(0〜4点)、手の回内・回外運動(0〜4点)、及び踵すね試験(0〜4点)(なお、いずれも0が正常である))の合計をSARA合計
スコアとした。
3.解析結果
(1)有効性
極度の外れ値を示した1例を除いた純粋小脳型脊髄小脳変性症患者(各群23〜28例、合
計126例)のSARA合計スコア変化量(平均値)において、用量依存的な改善が認められ(
表1)、ロバチレリン三水和物 1.6 mg以上の用量において、プラセボに比して優れた運
動失調の改善効果が示唆された。
【0044】
【表1】
(2)安全性
Fisherの直接確率計算法により実薬群とプラセボ群の比較を行った結果、ロバチレリン三水和物 3.2 mg投与群において、副作用発現率に有意差が認められた(P=0.002)。FT
3
及びFT
4の値は、ロバチレリン三水和物 3.2 mg投与群では、基準値上限をわずかに超える上昇が継続して認められた。中止率は、プラセボが15.6%であり、1.6 mg投与群が17.8%であり、3.2 mg投与群が28.9%であった。
【0045】
以上より、脊髄小脳変性症の患者は長期にわたる薬剤の服用が必要であるので、3.2 mgは、運動失調の改善効果は認められるものの、甲状腺ホルモンの推移及び副作用発現状況より、初回投与量(開始用量)としては過量と考えられ、治療期における臨床使用可能な最大用量であると考えられた。また、ロバチレリン三水和物 0.4〜0.8 mgの用量は、安全性は認められるものの、脊髄小脳変性症における運動失調の改善効果が弱いことが示された。これらから、脊髄小脳変性症患者における臨床推奨用量は、1.6 mgと考えられた。
【0046】
実施例4
純粋小脳型脊髄小脳変性症患者を対象とした臨床試験(第III相試験)
1.試験方法
運動失調を有する脊髄小脳変性症患者であって、純粋小脳型(SCA6、SCA31又は皮質性
小脳萎縮症(CCA))の患者を対象として、ロバチレリン三水和物 1.6若しくは2.4 mg、
又はプラセボを1日1回、朝食後に28週間経口投与した(二重盲検法、1.6 mg投与群:124
例、2.4 mg投与群:122例、プラセボ:123例)。
本試験においては運動失調に対するロバチレリン三水和物の有効性を適切に評価するため、純粋小脳型の脊髄小脳変性症患者のうち、SARA歩行スコアが2点以上6点以下であり、SARA合計スコアが6点以上の患者を対象とした。
2.有効性評価項目及び安全性評価項目
実施例3と同様の項目を有効性及び安全性の評価項目とした。脊髄小脳変性症は自然悪化していく疾患であるため、悪化を遅延させることも治療において重要である。そのため、0週時と比較してSARAスコアが悪化した例を悪化例とし、SARA合計スコア又はSARA個別
スコアにおける悪化率(悪化例/全例数)を算出した。
3.結果
(1)有効性
2.4 mg投与群において、薬物投与前に比べSARA合計スコアの改善が認められた(SARA合計スコア変化量=-1.22)。それに加え、2.4 mg投与群において、SARA個別スコアの解析
から、ロバチレリンは特に歩行障害及び立位障害(ふらつき)に対して改善効果を示すことが認められた(
図3)。これらの改善効果は、筋力が低下しプラセボ効果が生じにくい65歳以上の高齢者においてより鮮明であった(SARA合計スコア変化量=-1.39、SARA歩行
スコア変化量=-0.19、SARA立位スコア変化量=-0.54)。また、SARA合計スコアにおける、プラセボの悪化率は30.9%であるのに対し、2.4 mg投与群の悪化率は23.8%であった。
一方、1.6 mg投与群において、薬物投与前に比べSARA合計スコアの改善が認められたも
のの(SARA合計スコア変化量=-0.75)、プラセボに比してSARA合計スコアの改善は認め
られなかった。また、プラセボに比してSARA歩行スコア及びSARA立位スコアの改善も認められなかった(
図3)。
(2)安全性
FT
3及びFT
4の値は、1.6 mg投与群及び 2.4 mg投与群では、投与後4週目に正常範囲上限まで上昇したが、それ以後、さらなる上昇は認められなかった(
図4及び
図5)。中止率は、プラセボが4.9%であり、1.6 mg投与群が16.0%であり、2.4 mg投与群が19.8%であ
った。
甲状腺ホルモンの推移及び副作用発現状況より、ロバチレリン三水和物1.6 mg及び 2.4
mgは、臨床的に問題となる事象は認められず、長期にわたる服用が可能な用量と考えら
れた。
【0047】
上記第III相試験の結果、ロバチレリン三水和物 2.4 mgは、甲状腺ホルモンの推移及び副作用発現状況より、長期間にわたる服用が可能であり、副作用のリスクを考慮した運動失調(特に歩行障害)の改善によるベネフィットを最大化できる用量であることがはじめて示された。
一方、ロバチレリン三水和物 1.6 mgは安全性が認められ、1.6 mg投与群には十分な運
動失調の改善効果が認められた患者もいるものの、予想外に歩行障害及び立位障害に対する十分な改善効果は示されなかった。
【0048】
実施例5
純粋小脳型脊髄小脳変性症患者を対象とした長期継続投与試験
1.試験方法
第III相試験(実施例4)を完了した患者を対象として、ロバチレリン三水和物1.6 mg
又は2.4 mgを1日1回、52週間経口投与した(非盲検並行群間比較試験)。
2.有効性評価項目及び安全性評価項目
実施例4と同様の項目を有効性及び安全性の評価項目とし、同様にSARA合計スコア又はSARA個別スコアにおける悪化率(悪化例/全例数)を算出した。
3.解析結果
実施例4(第III相試験)の2.4 mg投与群の患者であって、その後もロバチレリン三水
和物2.4 mgが投与された患者(投与期間:計52週)における運動失調の改善効果を解析した。52週間投与が完了した患者(81例)において、52週時のSARA合計スコア変化量は-1.41を示し、ロバチレリン三水和物2.4 mgの長期的な運動失調の改善効果が認められた。ま
た、同患者群において、SARA合計スコアにおける52週時の悪化率は21.0%であり、SARA個別スコア(歩行)における52週時の悪化率は9.9%であった。
【0049】
脊髄小脳変性症は自然悪化していく難病であるが、上記の通りロバチレリンが長期継続投与された患者において、SARA合計スコアにおける52週時の悪化率は21.0%に留まっていた。したがって、ロバチレリンを投与することにより、脊髄小脳変性症における運動失調の悪化を遅延させることができる可能性が示唆された。
【0050】
実施例6
脊髄小脳変性症患者を対象とした試験(既存薬からロバチレリンへの切り替え試験)
1.試験方法
脊髄小脳変性症患者を対象としたロバチレリンの臨床試験に参加歴のある脊髄小脳変性症患者のうち、SARA歩行スコアが2点以上6点以下であり、SARA合計スコアが6点以上の患
者を対象にした。前記患者に、ロバチレリン三水和物 1.6又は2.4 mgを1日1回、朝食後に24週間経口投与した(無作為化非盲検並行群間比較試験)。
なお、治療期開始前4週間を前観察期とし、前観察期開始前より脊髄小脳変性症の既存
薬であるタルチレリン又はプロチレリン製剤(TRH製剤)を服用していた場合は、その用
法・用量を変更せずに前観察期終了時までその薬剤を投与した。
2.有効性評価項目及び安全性評価項目
実施例4と同様の項目を有効性及び安全性の評価項目とした。
3.解析結果
前観察期開始前よりタルチレリンを服用していた純粋小脳型脊髄小脳変性症患者(切替群)におけるロバチレリン三水和物の有効性を解析した。ロバチレリン三水和物の改善効果は、投与後4週から早期に認められ、ロバチレリン三水和物1.6 又は2.4 mgが投与され
た切替群において、ロバチレリン三水和物の投与前(タルチレリンでの治療期)に比して、有意なSARA合計スコアの改善も認められた(1.6 mg切替群のエンドポイントでのSARA合計スコア変化量=-1.34(P<0.01)、2.4 mg切替群のエンドポイントでのSARA合計スコア変化量=-1.35(P<0.01))(
図6)。
【0051】
脊髄小脳変性症は神経・筋疾患の指定難病として定められた難病であり、その既存の薬剤としてはTRH製剤及びタルチレリンしか存在せず、脊髄小脳変性症の新たな治療剤が求
められていた。実施例6より、ロバチレリンは、脊髄小脳変性症における運動失調の治療剤として、タルチレリンを上回る改善効果を有することが示唆された。
【0052】
これまで運動失調の評価スケールであるSARAを用いた臨床試験において、脊髄小脳変性症における運動失調に対する改善効果が確認された薬剤は存在しなかった。そのような状況下、SARAにより脊髄小脳変性症における運動失調に対するロバチレリンの改善効果が示された。