特許第6860997号(P6860997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860997
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20210412BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20210412BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20210412BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08L53/00
   C08L71/12
   C08K5/04
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-167004(P2016-167004)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-35218(P2018-35218A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 希
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−270968(JP,A)
【文献】 特開2008−038052(JP,A)
【文献】 特表2003−535180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン系樹脂及び(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂の総量100質量部と、
(C)混和剤1〜20質量部と、
(D)高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物0.01〜0.5質量部と、
を含む樹脂組成物であって、
任意に含まれる難燃剤の含有量が、樹脂組成物100質量%に対して10質量%以下であり、
前記樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際に、クロロホルムに溶解する画分全量(100質量%)中に存在する前記(D)成分の割合(XD(B+C))が、0.13〜0.80質量%であり、
樹脂組成物中に含まれる前記(A)成分及び前記(B)成分の総量が、樹脂組成物の全体量に対して、80〜99質量%であり、
前記(C)成分が、水素添加ブロック共重合体、ポリスチレンブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体、及びポリフェニレンエーテルブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対する、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、及び前記(D)成分の各含有量(質量部)を、それぞれY(A)、Y(B)、Y(C)、Y(D)とした時、下記式(1)の関係を満たす、請求項1に記載の樹脂組成物。
6,000≧[{Y(D)−XD(B+C)×(Y(B)+Y(C))/100}/Y(A)]×10≧500 ・・・(1)
【請求項3】
前記(A)成分と及び前記(B)成分の総量100質量部に対する、前記(A)成分の含有量が、30〜98質量部である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が高級脂肪酸金属塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、低比重で安価なプラスチックであり、耐薬品性、耐溶剤性、成形加工性等に優れるため、自動車部品や電気・電子機器部品及び家庭用電気製品等に使用されている。
【0003】
一方、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、難燃性、耐熱性、寸法安定性、非吸水性及び電気特性に優れたエンジニアリングプラスチックとして知られているが、溶融流動性が悪く成形加工性に劣り、かつ、耐溶剤性、耐衝撃性に劣るという欠点がある。
【0004】
これらのポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂のそれぞれの長所を兼ね備え、欠点を補う目的で種々の組成物が提案されており、例えば特許文献1〜4には、機械的強度を改良する技術が提案されている。
【0005】
具体的には、高結晶ポリプロピレン系樹脂と中結晶ポリプロピレン系樹脂を特定の比率で併用する技術(特許文献1)、ポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂との混和剤として特定の構造を有する水添ブロック共重合体を用いる技術(特許文献2)が提案されている。また、ポリプロピレン系樹脂とポリフェニレンエーテル系樹脂を溶融混練する際に、まずポリフェニレンエーテル系樹脂と混和剤の溶融物にポリプロピレン系樹脂を添加してさらに溶融混練する技術(特許文献3)、溶融混練する際に発生する熱劣化物を低減する目的でポリアミン化合物とアクリレート系化合物を添加する技術(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−12799号公報
【特許文献2】特開平9−12804号公報
【特許文献3】特開平9−302167号公報
【特許文献4】特開2010−138215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二次電池電槽等の用途に用いられる樹脂組成物においては、更に優れた耐熱クリープ特性、靱性等の性能が求められているのが現状である。
【0008】
すなわち、例えば自動車エンジンルームのような高温環境下といった過酷な環境で使用されることが多い二次電池電槽等の材料等として使用される樹脂組成物には、高いレベルの耐熱クリープ特性が求められ、また、二次電池電槽等は、大型化・薄肉化等といった形状面での要求も増えてきており、それに伴って靭性に対する要求も高まってきている。
【0009】
一般的に、耐熱クリープ特性と靭性は相反する特性であり、これらを高いレベルで両立させることは困難であった。
さらに、これらに加え、成形後の外観に対する要求も高まってきている。
【0010】
そこで本発明においては、耐熱クリープ特性と靭性とのバランスに優れ、外観が良好な成形品が得られる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、組成物中に特定の化合物を一定量含有し、且つ当該化合物がポリフェニレンエーテル相及びポリプロピレン相にそれぞれ一定濃度存在することにより、耐熱クリープ特性と靭性とのバランスに優れ、且つ外観が良好な成形品が得られる樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
(A)ポリプロピレン系樹脂及び(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂の総量100質量部と、
(C)混和剤1〜20質量部と、
(D)高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物0.01〜0.5質量部と、
を含む樹脂組成物であって、
任意に含まれる難燃剤の含有量が、樹脂組成物100質量%に対して10質量%以下であり、
前記樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際に、クロロホルムに溶解する画分全量(100質量%)中に存在する前記(D)成分の割合(XD(B+C))が、0.13〜0.80質量%であり、
樹脂組成物中に含まれる前記(A)成分及び前記(B)成分の総量が、樹脂組成物の全体量に対して、80〜99質量%であり、
前記(C)成分が、水素添加ブロック共重合体、ポリスチレンブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体、及びポリフェニレンエーテルブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする、樹脂組成物
【0013】
[2]
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対する、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、及び前記(D)成分の各含有量(質量部)を、それぞれY(A)、Y(B)、Y(C)、Y(D)とした時、下記式(1)の関係を満たす、[1]に記載の樹脂組成物。
6,000≧[{Y(D)−XD(B+C)×(Y(B)+Y(C))/100}/Y(A)]×10≧500 ・・・(1)
【0014】
[3]
前記(A)成分及び前記(B)成分の総量100質量部に対する、前記(A)成分の含有量が、30〜98質量部である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0015】
[4]
前記(D)成分が高級脂肪酸金属塩である、[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱クリープ特性と靭性とのバランスに優れ、外観が良好な成形品が得られる樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、樹脂組成物の耐熱クリープ性の評価で用いたテストピースの形状を示す概略図(正面図)である。
図2図2は、樹脂組成物の成形品外観の評価で用いた平板の形状を示す概略図(平面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0020】
[樹脂組成物]
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン系樹脂及び(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂の総量100質量部と、
(C)混和剤1〜20質量部と、
(D)高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物0.01〜0.5質量部と、
を含む樹脂組成物であって、
上記樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際に、クロロホルムに溶解する画分全量(100質量%)中に存在する上記(D)成分の割合(XD(B+C))が、0.13〜0.80質量%である。
【0021】
−(A)ポリプロピレン系樹脂−
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン系樹脂を少なくとも含有することが好ましい。
(A)成分としては、プロピレンホモポリマー、プロピレンと他のモノマーとの共重合体、これらの変性物等が挙げられる。(A)成分は、結晶性であることが好ましく、結晶性プロピレンホモポリマー又は結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体であることがより好ましい。また、(A)成分は、結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体との混合物であってもよい。
(A)成分は、一種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
プロピレンと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等のα−オレフィン等が挙げられる。その重合形態は、特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であってもよい。
【0023】
上記結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の製造方法としては、例えば、重合の第一工程で結晶性プロピレンホモポリマー部分を合成し、重合の第二工程以降でプロピレン、エチレン、及び必要に応じて併用される他のα−オレフィンを、結晶性プロピレンホモポリマー部分と共重合させて得る方法等が挙げられる。
【0024】
(A)成分の製造方法としては、特に限定されず、触媒存在下でプロピレンやその他のモノマーを重合させる方法等の公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、上記触媒とアルキルアルミニウム化合物との存在下、重合温度0〜100℃、重合圧力3〜100気圧の範囲で、プロピレンやその他のモノマーを重合させる方法が挙げられる。
(A)成分の製造に用いる上記触媒としては、三塩化チタン触媒、塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等が挙げられる。(A)成分の製造において、重合体の分子量を調整するために、水素等の連鎖移動剤を添加してもよい。
【0025】
(A)成分の製造における重合の方式としては、バッチ式、連続式いずれの方式も選択できる。重合方法は、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合、スラリー重合、無溶媒下モノマー中での塊状重合、ガス状モノマー中での気相重合等の方法等から選択できる。
【0026】
(A)成分の製造において、上記触媒の他に、ポリプロピレンのアイソタクティシティや重合活性を高めるため、第三成分として、電子供与性化合物を内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。上記電子供与性化合物としては、公知のものが使用でき、例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル、芳香族モノカルボン酸エステル、アルコキシエステル等のエステル化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸エステル;ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のリン酸誘導体;芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン等のアルコキシシラン;各種エーテル類;各種アルコール類;各種フェノール類;等が挙げられる。
【0027】
(A)成分は、未変性のポリプロピレン系樹脂をα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(酸無水物やエステルも含む)等の変性剤により変性したものであってもよい。変性したポリプロピレン系樹脂としては例えば、未変性のポリプロピレン系樹脂をα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体でグラフト化・付加させたもの等が挙げられる。
具体例としては、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が、ポリプロピレン系樹脂全体の0.01〜10質量%程度の割合で、ポリプロピレン系樹脂にグラフト又は付加しているもの等が挙げられる。変性ポリプロピレン系樹脂は、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、30〜350℃の範囲で、上記した未変性のポリプロピレン系樹脂と変性剤とを反応させることによって、得られる。本実施形態では、未変性のポリプロピレン系樹脂と変性ポリプロピレン系樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0028】
(A)成分のメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kgf)は、0.01〜300g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることがより好ましく、0.1〜30g/10分であることがさらに好ましい。MFRを上記範囲とすることによって、流動性形成、剛性や耐熱クリープのバランスを取ることができる。
また、MFRがこれらの範囲のポリプロピレン系樹脂であれば、単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(A)成分の融点は、163℃以上であることが好ましく、165℃以上であることがより好ましく、167℃以上であることがさらに好ましい。(A)成分の融点を上記数値範囲とすることにより、熱履歴後(例えば、80℃24時間の熱履歴後)の剛性及び耐熱クリープ特性を一層向上させることができる。
(A)成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)(パーキンエルマー社製、商品名「DSC−2型」)にて昇温速度20℃/分及び降温速度20℃/分の条件で測定することにより求めることができる。具体的には、まず、試料約5mgを20℃で2分間保持した後、昇温速度20℃/分で230℃まで昇温させて、230℃で2分間保持する。そして、降温速度20℃/分で20℃まで降温させて、20℃で2分間保持する。この場合における、昇温速度20℃/分で昇温させたときに現れる吸熱ピークのトップピークの温度を、融点として求めることができる。
【0030】
−(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂−
本実施形態の樹脂組成物は、(B)ポリフェニレンエーテル(PPE)系樹脂を少なくとも含有することが好ましい。
(B)成分としては、以下に限定されるものではないが、下記一般式(1)で表される繰り返し単位構造を有するホモ重合体及び/若しくは共重合体;又はそれらの変性体であることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の第1級又は第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基を表す。)
【0031】
(B)成分の還元粘度(0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)は、特に限定されないが、0.15〜0.7g/dLであることが好ましく、0.2〜0.6g/dLであることがより好ましい。
(B)成分の還元粘度が上記範囲であると、本実施形態の樹脂組成物において、優れた耐衝撃性及び耐熱性が得られる。(B)成分の還元粘度は、重合時の触媒量、重合時間等の生産条件により調整することができる。
(B)成分は、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物であってもよい。
【0032】
(B)成分としては、特に限定されず、公知のものを用いてもよい。例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等のホモ重合体;2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)等との共重合体;等が挙げられる。中でも、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
(B)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(B)成分の製造方法は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、米国特許第3306874号明細書に記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、例えば、2,6−キシレノールを酸化重合する方法、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載された方法等が挙げられる。
【0034】
(B)成分は、未変性の上記ポリフェニレンエーテル系樹脂を、スチレン系モノマー又はその誘導体等の変性剤により変性したものであってもよい。この場合、例えば、未変性のポリフェニレンエーテル系樹脂をスチレン系モノマー又はその誘導体でグラフト化又は付加させたもの等が挙げられる。変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系モノマー又はその誘導体とを反応させることによって得られる。
【0035】
ポリフェニレンエーテル系樹脂の上記変性剤としては、例えば、スチレン系モノマー、α,β−不飽和カルボン酸、及びそれらの誘導体(例えば、エステル化合物、酸無水化合物等)が挙げられる。上記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
【0036】
上記変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の具体例としては、例えば、スチレン系モノマー又はその誘導体が0.01〜10質量%の割合でグラフト化又は付加した、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。
【0037】
(B)成分は、未変性ポリフェニレンエーテル系樹脂と変性ポリフェニレンエーテル系樹脂とを併用してもよい。未変性のポリフェニレンエーテル系樹脂と変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の混合割合は、特に限定されず、任意の割合で混合できる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法では、(B)成分に、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及びハイインパクトポリスチレンからなる群より選ばれる1種以上を添加してもよい。特に、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂100質量部に対して、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及びハイインパクトポリスチレンからなる群より選ばれる1種以上を、それらの総量で、400質量部を超えない範囲で混合したものが好適である。
【0039】
−(C)混和剤−
本実施形態の樹脂組成物は、(C)混和剤を少なくとも含有する。(C)混和剤を含有することで、(A)成分と(B)成分との相溶性を改善することができる。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物は、(C)成分を含有することにより、(A)成分を含むマトリックス相と、(B)成分を含む分散相とを形成することができる。これにより、得られる樹脂組成物の耐熱クリープ性を、一層向上させることができる。樹脂組成物のモルホロジーは、例えば、透過型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0041】
マトリックス相は、少なくとも(A)成分を含む成分から構成されていることが好ましく、例えば、(A)成分と(D)成分とを含む成分から構成されていてもよいし、(A)成分と(C)成分と(D)成分とを含む成分から構成されていてもよい。分散相は、少なくとも(B)成分を含む成分から構成されていることが好ましく、例えば、(B)成分と(D)成分とを含む成分から構成されていてもよいし、(B)成分と(C)成分と(D)成分とを含む成分から構成されていてもよい。本実施形態の樹脂組成物は、例えば、マトリックス相(例えば、(A)成分を含む相、(A)成分と(D)成分とを含む相、(A)成分と(C)成分と(D)成分とを含む相等)と、分散相(例えば、(B)成分を含む相、(B)成分と(D)成分とを含む相、(B)成分と(C)成分と(D)成分とを含む相等)を構成する分散粒子を有していてもよい。(C)成分は、分散相に包含されているだけでなく、本発明の効果が損なわれない程度に、マトリックス相中にも一部が包含されていてもよい。本実施形態の樹脂組成物は、(B)成分を含む分散相中に一定濃度の(D)成分が含まれるモルホロジーをとることで、分散相に含まれる(B)成分が、熱的に一層安定な分散状態をとることができ、それによって本実施形態の効果が一層向上するものと推測される(但し、本実施形態の作用はこれに限定されない。)。
【0042】
(C)成分としては、(A)成分に対する相溶性が高いセグメントブロック鎖と、(B)成分に対する相溶性が高いセグメントブロック鎖と、を有する共重合体であることが好ましい。相溶性が高いとは、相分離しない状態であればよい。
【0043】
(B)成分に対する相溶性が高いセグメントブロック鎖としては、例えば、ポリスチレンブロック鎖、ポリフェニレンエーテルブロック鎖等が挙げられる。
(A)成分に対する相溶性が高いセグメントブロック鎖としては、例えば、ポリオレフィンブロック鎖、エチレンとα−オレフィンとの共重合体エラストマーブロック鎖等が挙げられる。
なお、本明細書において、(C)成分は、(A)成分及び(B)成分の範囲に含まれないものとする。
【0044】
(C)成分としては、例えば、水素添加ブロック共重合体、ポリスチレンブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体、及びポリフェニレンエーテルブロック鎖−ポリオレフィンブロック鎖を有する共重合体からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、熱安定性に一層優れる観点から、水素添加ブロック共重合体が好ましい。(C)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記水素添加ブロック共重合体としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックaと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックbと、を含むブロック共重合体の少なくとも一部が水素添加された水素添加ブロック共重合体等が挙げられる。
【0046】
水素添加ブロック共重合体の好ましい具体例としては、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックaと、1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の総量が30〜90%である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックb1と、を含む水素添加ブロック共重合体であることが好ましい。重合体ブロックb1における共役ジエン化合物の1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の総量は、ポリフェニレンエーテル系樹脂との相溶性の観点から、30〜90%であることが好ましい。
【0047】
重合体ブロックaは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックであることが好ましい。
重合体ブロックaにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、重合体ブロックa中に、ビニル芳香族化合物単位を、50質量%を超えて含有することをいう。そして、成形流動性、耐衝撃性、ウェルド及び外観に一層優れる観点から、重合体ブロックa中にビニル芳香族化合物単位を70質量%以上含有することが好ましい。
【0048】
重合体ブロックaを構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0049】
重合体ブロックaの数平均分子量は、特に限定されないが、15,000以上であることが好ましい。また、50,000以下であることが好ましい。重合体ブロックaの数平均分子量を上記範囲とすることにより、本実施形態の樹脂組成物の耐熱クリープ性をより優れたものとできる。
重合体ブロックaの数平均分子量の測定は、GPC(移動相:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)によって行うことができる。
【0050】
重合体ブロックbは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、又は共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックであることが好ましい。
重合体ブロックbにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、重合体ブロックb中に共役ジエン化合物単位を、50質量%を超えて含有することをいう。そして、成形流動性、耐衝撃性、ウェルド及び外観に一層優れる観点から、重合体ブロックb中に共役ジエン化合物単位を70質量%以上含有することが好ましい。
【0051】
重合体ブロックbを構成する共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
重合体ブロックbのミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)については、重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物に含まれるビニル結合量の総量に対する、1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の総量(以下、「全ビニル結合量」と称する場合がある。)は、30〜90%であることが好ましく、45〜90%であることがより好ましく、65〜90%であることがさらに好ましい。
重合体ブロックbにおける共役ジエン化合物の全ビニル結合量を上記範囲とすることで、ポリプロピレン系樹脂との相溶性が一層優れる。特に、全ビニル結合量を30%以上とすることで、樹脂組成物中の(A)成分の分散性を一層優れたものにできる。全ビニル結合量を90%以下とすることで、(A)成分の優れた分散性を維持しながら、経済性にも優れる。
特に、重合体ブロックbがブタジエンを主体とする重合体ブロックである場合には、重合体ブロックbにおけるブタジエンの全ビニル結合量が65〜90%であることが好ましい。
全ビニル結合量は、赤外分光光度計によって測定することができる。算出方法は、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて行うことができる。
【0053】
(C)成分は、重合体ブロックaと、重合体ブロックbとを少なくとも含むブロック共重合体の水素添加ブロック共重合体であることが好ましい。
【0054】
(C)成分における重合体ブロックaを「a」、重合体ブロックbを「b」と表すと、(C)成分としては、例えば、a−b、a−b−a、b−a−b−a、(a−b−)Si、a−b−a−b−a等の構造を有する、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。(a−b−)Si中のSiとは、四塩化ケイ素、四塩化スズ等といった多官能カップリング剤の反応残基、又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基等である。
【0055】
重合体ブロックaと重合体ブロックbとを含むブロック共重合体の分子構造は、特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0056】
重合体ブロックa及び重合体ブロックbは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物又は共役ジエン化合物の分布が、ランダム状、テーパード状(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状、又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0057】
重合体ブロックa又は重合体ブロックbのいずれかが繰り返し単位中に2個以上ある場合は、それら2個以上の重合体ブロックは、それぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0058】
(C)成分の水素添加ブロック共重合体は、成形流動性、耐衝撃性、ウェルド及び外観に一層優れる観点から、水素添加前のブロック共重合体中に含まれるビニル芳香族化合物に由来する構成単位が、20〜95質量%であることが好ましく、30〜80質量%であることがより好ましい。ビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有量は、紫外線分光光度計によって測定することができる。
【0059】
水素添加前のブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000であることが好ましく、10,000〜800,000であることがより好ましく、30,000〜500,000であることがさらに好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、移動相:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)によって測定できる。
【0060】
水素添加前のブロック共重合体の分子量分布は、10以下であることが好ましい。分子量分布は、GPC(GPC、移動相:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)によって測定した、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)の比を求めることによって算出できる。
【0061】
(C)成分中の共役ジエン化合物に由来する二重結合の水素添加率は、特に限定されないが、耐熱性に一層優れる観点から、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。水素添加率は、NMRによって測定できる。
【0062】
(C)成分の水素添加ブロック共重合体の製造方法は、特に限定されず、公知の製造方法を採用してもよい。例えば、特開昭47−011486号公報、特開昭49−066743号公報、特開昭50−075651号公報、特開昭54−126255号公報、特開昭56−010542号公報、特開昭56−062847号公報、特開昭56−100840号公報、特開平02−300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び米国特許第4501857号明細書等に記載の製造方法が挙げられる。
【0063】
(C)成分の水素添加ブロック共重合体は、上記した水素添加ブロック共重合体を、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)でグラフト化又は付加させた、変性水素添加ブロック共重合体であってもよい。
【0064】
変性水素添加ブロック共重合体は、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃の範囲で、上記した水素添加ブロック共重合体とα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体とを反応させることによって得られる。この場合、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%の割合で水素添加ブロック共重合体にグラフト化又は付加していることが好ましい。さらに、上記の水素添加ブロック共重合体と変性水素添加ブロック共重合体との任意の割合の混合物であってもよい。
【0065】
−(D)高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物−
本実施形態の樹脂組成物は、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する。上記(D)成分としては、耐衝撃性、引張伸び、成形品の外観に一層優れる観点から、高級脂肪酸金属塩が好ましい。
(D)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、「高級脂肪酸」とは、炭素数8以上の脂肪族モノカルボン酸をいう。
【0066】
上記高級脂肪酸の炭素数は8〜40であることが好ましい。上記高級脂肪酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐状の、脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。例えば、高級脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、エルカ酸、オレイン酸、ラウリン酸、モンタン酸等が挙げられる。
これら高級脂肪酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
上記高級脂肪酸金属塩としては、上記高級脂肪酸の金属塩が挙げられる。
高級脂肪酸と塩を形成する金属元素としては、元素周期律表の第1族元素(アルカリ金属)、第2族元素(アルカリ土類金属)、第3族元素、亜鉛、アルミニウム、等が挙げられる。中でも、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウムが好ましい。
【0068】
上記高級脂肪酸金属塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸金属塩、モンタン酸金属塩、ベヘン酸金属塩、ラウリン酸金属塩、パルミチン酸金属塩等が挙げられ、具体的には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸ナトリウム、ベヘン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム等が挙げられる。上記高級脂肪酸金属塩としては、モンタン酸金属塩、ベヘン酸金属塩及びステアリン酸金属塩が好適に用いられ、中でも、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸マグネシウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸亜鉛が好ましく、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムがより好ましく、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛が、さらに好ましい。
これら高級脂肪酸金属塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
上記高級脂肪酸エステルとは、上述した高級脂肪酸とアルコールとのエステル化物である。
上記高級脂肪酸エステルとしては、炭素数8〜40の脂肪族モノカルボン酸と炭素数8〜40の脂肪族アルコールとのエステル化物が好ましい。上記脂肪族アルコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール等が挙げられる。
上記高級脂肪酸エステルとしては、例えば、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル等が挙げられる。
これら高級脂肪酸エステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
−その他の材料−
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、無機充填材を含んでいてもよい。
上記無機充填材としては、例えば、エチレンビスステアリン酸アマイド、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、セラミックス繊維、ボロンウィスカ繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ウォラストナイト、ゾノトライト、アパタイト、ガラスビーズ、フレーク状ガラス、酸化チタン等の繊維状、粒状、板状、あるいは針状の無機質強化材、シランカップリング剤等の表面処理剤を用いて公知の方法で表面処理した無機充填剤等が挙げられる。ただし、天然鉱石系充填材は、しばしば鉄元素を微量ながら含有することがあるので、精製して鉄元素を除いたものを選定して用いることが好ましい。中でも、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズが好ましい。
上記無機充填材は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0071】
上記無機充填材の配合量は、樹脂組成物の全体量に対して、2〜60質量%であることが好ましく、3〜50質量%であることが好ましく、5〜45質量%であることがさらに好ましい。配合量が上記範囲であると、機械的強度、温度変化(例えば、−30℃から120℃への変化)による線膨張係数が小さくなって優れた寸法精度に優れ、及び異方性を保持した成形品が得られる。
【0072】
本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤を含んでいてもよい。
上記添加剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド、ポリエステル、(A)成分以外のポリオレフィン等の他の熱可塑性樹脂、可塑剤((A)成分以外の低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステルアミド類等)、帯電防止剤、核剤、流動性改良剤、補強剤、各種過酸化物、展着剤、ヒンダードフェノール系酸化劣化防止剤に代表される有機系熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
上記添加剤の含有量は、樹脂組成物の全体量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0073】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)〜(D)成分を基本成分として構成される。
本実施形態の樹脂組成物中に含まれる(A)成分及び(B)成分の総量は、樹脂組成物の全体量に対して、80〜99質量%であることが好ましく、80〜98質量%であることがより好ましい。
【0074】
(A)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の総量100質量部中において、30〜98質量部であることが好ましく、30〜95質量部であることがより好ましい。(A)成分の配合量が30質量部以上であると、成形加工性、耐熱クリープ特性に一層優れる。
【0075】
(B)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分と(B)成分の総量100質量部中において、(B)成分の配合量は、2〜70質量部であることが好ましく、5〜70質量部であることがより好ましい。(B)成分の配合量が2質量部以上であると、耐熱性に一層優れる。
【0076】
(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の総量100質量部に対して、1〜20質量部であり、1〜15質量部であることが好ましい。(C)成分の配合量が上記範囲であると、耐熱クリープ特性と耐衝撃性のバランスに優れる。
【0077】
(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の総量100質量部に対して、0.01〜0.5質量部であり、0.03〜0.5質量部であることが好ましく、0.05〜0.5質量部であることがより好ましく、0.1〜0.5質量部であることがさらに好ましい。(D)成分の配合量が上記範囲であると、耐熱クリープ特性と耐衝撃性のバランスに優れ、成形品外観の良い樹脂組成物を得ることができる。
【0078】
以下、本実施形態の樹脂組成物の特性について詳細に記載する。
−クロロホルムに溶解する画分に存在する(D)成分の濃度XD(B+C)
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際に、クロロホルムに溶解する画分全量(100質量%)中に存在する上記(D)成分の割合(XD(B+C))が、0.13〜0.80質量%であり、0.15〜0.80質量%であることが好ましく、0.17〜0.80質量%であることがより好ましい。XD(B+C)が上記範囲にあると、耐熱クリープ特性と耐衝撃性のバランスに優れ、成形品外観の良い樹脂組成物を得ることができる。
なお、XD(B+C)は、以下の方法で測定することができる。
本実施形態の樹脂組成物を液体窒素中で凍結粉砕した後、篩にかけ、目開き500μmのメッシュをパスし、且つ355μmのメッシュを通らない紛体を採取する。この紛体約5gにクロロホルム20mLを添加し、常温にて1時間撹拌した後、ろ紙にて濾過してろ液を採取する。これを60℃に加温して乾固させ、さらに真空乾燥機にて80℃、2.5時間乾燥した抽出物の重量を測定する。この抽出物をクロロホルムに溶解する画分とみなした。この操作により得られたクロロホルム可溶画分中に抽出された(D)成分の濃度は、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析)、GC(ガスクロマトグラフィー)、あるいはHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
ここで、本実施形態の樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際、クロロホルムに溶解する画分に含まれる成分としては、主に分散相を構成する成分が挙げられ、具体的には、(B)成分、(B)成分中に含有される(D)成分、及び(A)成分中に含有される(D)成分の一部が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物では、分散相を構成する成分を主とするクロロホルムに溶解する画分中に、適度に(D)成分が含まれているため、マトリックス相と分散相とに適度に(D)成分が存在する成形品を得ることができる。そのため、得られる成形品は、靭性に優れる。
【0079】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対する、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の各含有量(質量部)を、それぞれY(A)、Y(B)、Y(C)、Y(D)とした時、下記式(1)の関係を満たすことが好ましい。
6,000≧[{Y(D)−XD(B+C)×(Y(B)+Y(C))/100}/Y(A)]×10≧500 ・・・(1)
中でも、6,000≧[{Y(D)−XD(B+C)×(Y(B)+Y(C))/100}/Y(A)]×10≧600を満たすことがより好ましい。
樹脂組成物中の各含有量が上記の関係を満たすと、引張(呼び)破壊歪みのバラツキの極めて少なく、成形品外観に一層優れた成形品が得られる樹脂組成物を得ることができる。
なお、本明細書において、[{Y(D)−XD(B+C)×(Y(B)+Y(C))/100}/Y(A)]×10を、式Mと称する場合がある。
ここで、式Mは、マトリックス相を構成する(A)成分中の(D)成分の大まかな濃度(質量ppm)を表している。上記式Mにより算出される(A)成分中の(D)成分の大まかな濃度が500以上(好ましくは600以上)であると、溶融時の金属剥離性が高くなり、押出機、成形機中のデッドスペースに滞留しにくくなり、長時間高温にさらされる樹脂が少なく熱劣化する樹脂が少なくなるため、黒点が少ない外観が良好な成形品が得られ、且つコンタミによる靭性低下を抑制することができる。また、上記式Mにより算出される(A)成分中の(D)成分の大まかな濃度が6000以下であると、シルバー等の成形外観不良が発生しにくくなる。
【0080】
[樹脂組成物の製造]
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、種々の溶融混練機や混練押出機等を用いて製造する方法等が挙げられる。
【0081】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法において、樹脂組成物をクロロホルムに溶解させた際に、クロロホルムに溶解する画分に存在する上記(D)成分の濃度をXD(B+C)としたときに、XD(B+C)が0.13〜0.80質量%となる製造法の一例を以下に示す。
製造方法1:(工程1−1)及び(工程1−2)を含む製造方法。
(工程1−1)(B)成分全量、(C)成分全量、及び(D)成分の15〜100質量%を溶融混練し、混練物を得る工程、
(工程1−2)(工程1−1)で得られた上記混練物に対して、(A)成分全量、及び(D)成分の残り(但し、工程(1−1)で(D)成分を全量添加した場合を除く)を添加し、溶融混練する工程。
製造方法2:(工程2−1)及び(工程2−2)を含む製造方法。
(工程2−1)(A)成分の一部、(B)成分全量、(C)成分全量、及び(D)成分の15〜100質量%を溶融混練し、混練物を得る工程、
(工程2−2)(工程2−1)で得られた上記混練物に対して、(A)成分の残り、及び(D)成分の残り(但し、工程(2−1)で(D)成分を全量添加した場合を除く)を添加し、溶融混練する工程。
【0082】
これらの製造方法において、(工程1−1)又は(工程2−1)における(D)成分の添加量は、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。(D)成分の添加量を上記範囲にすることにより、式Mの値が500〜6,000の範囲になり易く、また、耐熱クリープ特性と耐衝撃性のバランスに優れるだけでなく、引張(呼び)破壊歪みのバラツキが極めて少ない樹脂組成物を得ることができる。
また、製造方法1における工程(1−1)において、(D)成分の添加量が15質量%以上であると、成形品の外観にも優れる樹脂組成物を得ることができる。
【0083】
製造方法2では、(A)成分を(工程2−1)と(工程2−2)とに分割して添加する。この時、工程(2−1)において、成分(A)の5〜50質量%を添加することが好ましく、成分(A)の10〜50質量%を添加することがより好ましい。上記割合で添加することにより、耐熱クリープ特性と耐衝撃性のバランスが特に優れた樹脂組成物を得ることができる。
また、工程(2−2)において、成分(A)の50〜95質量%を添加することが好ましく、成分(A)の50〜90質量%を添加することがより好ましい。
【0084】
溶融混練機や混練押出機としては、特に限定されず、公知の混練機を用いることができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機等の多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等の加熱溶融混練機が挙げられる。中でも、二軸押出機が好ましい。具体的には、コペリオン社製の「ZSK」シリーズ、東芝機械社製の「TEM」シリーズ、日本製鋼所社製の「TEX」シリーズ等の混練押出機が挙げられる。
【0085】
押出機を用いる場合、その種類や規格等は特に限定されず、適宜に公知の押出機を用いることができる。押出機のL/D比(バレル有効長(L)/バレル内径(D))は、20〜75であることが好ましく、30〜60であることがより好ましい。
押出機としては、原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口が設けられ、その下流に第1真空ベントが設けられ、その下流に第2原料供給口が設けられ、更にその下流に第2真空ベントが設けられたもの等が好ましい。押出機は、これらの下流に、第3原料供給口や第3真空ベント等が更に設けられたものであってもよい。押出機の原料供給口の総数やそれらの配置は、樹脂組成物の材料の種類の数等を考慮して適宜設定することができる。
【0086】
第2原料供給口への原料供給方法は、特に限定されないが、押出機の第2、第3の原料供給口の開放口からの単なる添加供給よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて添加供給する方法が、一層安定であるため、好ましい。
【0087】
溶融混練温度やスクリュー回転数は、特に限定されないが、通常、溶融混練温度が200〜370℃であり、スクリュー回転数が100〜1200rpmであることが好ましい。
【0088】
[成形品]
本実施形態の樹脂組成物の成形品は、公知の成形方法によって成形することにより、製造することができる。上記成形方法としては、特に限定されず、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形及び流延成形等の方法が挙げられる。
具体的には、シリンダー温度が(A)成分の融点以上330℃以下の範囲内に調整された射出成形機のシリンダー内で樹脂組成物を溶融させ、所定の形状の金型内に射出することによって、所定の形状の成形品を製造する方法、シリンダー温度が上記の範囲内に調整された押出機内で樹脂組成物を溶融させ、口金ノズルより紡出することによって、繊維状の成形品を製造する方法、シリンダー温度が上記の範囲内に調整された押出機内で樹脂組成物を溶融させ、Tダイから押し出すことにより、フィルム状やシート状の成形品を製造する方法等が挙げられる。
上記方法で製造された成形品は、表面に、塗料、金属や他種のポリマー等からなる被覆層を形成してもよい。
【0089】
本実施形態の樹脂組成物から得られる成形品は、耐熱クリープ特性と靭性とのバランスに優れ、外観が良好な成形品が得られるため、自動車部品や電気・電子機器部品、家庭用電気製品として用いることができ、特に、自動車外装・外板部品、自動車内装部品、自動車アンダーフード部品、二次電池電槽、プリンターのインク周辺部品に好適である。また、耐薬品性、成形加工性、耐熱性、寸法安定性、低吸水性、電気的特性にも優れる本実施形態の樹脂組成物から得られる成形品は、これらの用途に特に好適である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例に用いた測定方法及び原材料を以下に示す。
【0091】
(各特性の測定方法)
(1)メルトボリュームフローレート
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物ペレットを用い、ISO1133に準じて、250℃、荷重10kgfで、メルトボリュームフローレート(cm/10分)を測定した。測定値が高い値であるほど耐熱性に優れていると判定した。
【0092】
(2)ノッチ付きシャルピー衝撃強さ
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)により、シリンダー温度を240〜280℃、金型温度を60℃に設定して、JIS K7139 A型の多目的試験片を成形した。ギアーオーブンを用いて、当該多目的試験片を80℃の環境下に24時間静置し、熱履歴処理を行った。熱履歴処理後の当該多目的試験片からさらに試験片を切り出し、ISO179に準じて23℃の温度条件下でシャルピー衝撃強さを評価した。
5個の試験片を成形して、試験片毎に1回の測定を行い、その平均値をノッチ付きシャルピー衝撃強さ(kJ/m)とした。この値が高い値であるほど、耐衝撃性に優れていると判定した。
【0093】
(3)引張試験
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−80EPN)により、シリンダー温度を240〜280℃、金型温度を60℃に設定して、JIS K7139 A型の多目的試験片を成形した。ギアーオーブンを用いて、当該多目的試験片を80℃の環境下に24時間静置し、熱履歴処理を行った。熱履歴処理後の当該多目的試験片を、引張試験測定用試験片として用いて、引張試験をISO527に準じて行い、引張強さ(MPa)及び引張(呼び)破壊歪み(%)を測定した。
15個の試験片を成形して、試験片毎に1回の測定を行い、その平均値を引張強さ(MPa)及び引張(呼び)破壊歪み(%)とした。この値が高い値であるほど、引張強さ又は引張破壊歪みに優れていると判定した。
また、15回の引張(呼び)破壊歪みの測定値の標準偏差をとり、引張(呼び)破壊歪みのバラツキとした。この値が小さい値であるほど、バラツキが少ないと判定した。
【0094】
(4)耐熱クリープ性
後述する実施例及び比較例で製造した樹脂組成物ペレットを用い、射出成形機(東洋機械金属(株)製:TI50G2)により、シリンダー温度を245℃、金型温度を60℃に設定して、クリープ測定用テストピースを得た。ギアーオーブンを用いて、クリープ測定用テストピースを80℃の環境下に24時間静置し、熱履歴処理を行った。なお、クリープ測定用テストピースとしては、図1に示す形状のダンベル成形品(厚さ1mm)を用いた。図1は、実施例で用いたテストピースの簡略正面図を示す。クリープ測定用テストピーステストピース1の幅Lは65mm、幅Lは40mm、幅Lは22mm、高さHは10mmとした。
熱履歴処理後のクリープ測定用テストピースを用いてクリープ測定を行った。クリープ試験機(安田精機製作所社製、「145−B−PC型」)を用いて、チャック間距離を40mm、試験荷重を応力12.25MPa相当、試験温度を80℃、試験時間を165時間の条件でクリープ測定(耐熱クリープ性試験)を行った。そして、以下の式で求めた歪(%)を、耐熱クリープ性とした。耐熱クリープ性の値が低い値であるほど、耐熱クリープ性に優れていると判定した。
歪(%)=(165時間後のテストピースのチャック間距離の変位)/(チャック間距離)×100
【0095】
(5)成形品外観(金型温度60℃)
射出成形機(住友重機械社製:SE−130B)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度60℃として図2に示す平板を製造した。平板の大きさは、350mm×100mm(厚さ2mm)であった。図2中、領域A及びBは射出成形時にゲートと繋がっている部分であり、各ゲート直径は0.8mmφであった。当該平板のゲート周辺及びウェルド部の、シルバーストリークス発生の有無を目視で確認した。シルバーストリークスがない場合を成形品外観が良好、ある場合を成形品外観が不良と判定した。
【0096】
(6)XD(B+C)
実施例、比較例で得られた樹脂組成物を、液体窒素中で凍結粉砕した後、篩にかけ、目開き500μmのメッシュをパスし、且つ355μmのメッシュを通らない紛体を採取した。そして、この紛体約5gにクロロホルム20mLを添加し、常温にて1時間撹拌した後、ろ紙にて濾過してろ液を採取した。得られたろ液を60℃に加温して乾固させ、さらに真空乾燥機にて80℃、2.5時間乾燥し、抽出物の重量(g)を測定した。この抽出物をクロロホルムに溶解する画分とみなした。
得られた抽出物を、成分(d−1)の場合にはICP発光分光を用いてカルシウム量を定量し、成分(d−2)はGC分析法、成分(d−3)は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、(D)成分の含有量(g)を測定した。ここで得られた(D)成分の含有量及び抽出物の質量から、クロロホルムに溶解する画分中の(D)成分の濃度(質量%)を算出した。
【0097】
〔実施例及び比較例で使用した原材料〕
【0098】
[(A)ポリプロピレン系樹脂]
(a−1)
数平均分子量12万、重量平均分子量128万、分子量分布(Mw/Mn)10.7、融点168℃、密度0.90g/cm、MFR0.4g/10分(230℃、2.16kgf)のポリプロピレン樹脂。
(a−2)
数平均分子量12万、重量平均分子量128万、分子量分布(Mw/Mn)10.7、融点166℃、密度0.90g/cm、MFR0.4g/10分(230℃、2.16kgf)であり、ステアリン酸カルシウム含有量が0.05wt%であるポリプロピレン樹脂。
【0099】
なお、分子量、及び分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフ(以下、GPC)で測定した。
<GPC条件>
測定装置:ゲル浸透クロマトグラフ Alliance GPC 2000型(Waters社製)
カラム:TSKgel GMH6−HT(東ソー製)×2本+TSKgel GMH6−HTL(東ソー製)×2本を直列に接続
流速:1.0mL/分
検出器:示差屈折計(RI)
溶媒:o−ジクロロベンゼン
カラム温度:140℃
試料濃度:0.15%
注入量:0.5mL
分子量校正:ポリスチレン換算
【0100】
[(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂]
(b−1)
国際公開第2011/105504号の実施例1と同様に、以下のようにPPEを調製した。
重合槽底部に酸素含有ガス導入のための鉄製スパージャー、ステンレス製撹拌タービン翼及びステンレス製バッフルを備え、重合槽上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた2000リットルのジャケット付きのステンレス製重合槽に、13NL/分の流量で窒素ガスを吹き込みながら、160.8gの酸化第二銅、1209.0gの47%臭化水素水溶液、387.36gのジ−t−ブチルエチレンジアミン、1875.2gのジ−n−ブチルアミン、5707.2gのブチルジメチルアミン、826kgのトルエン、124.8kgの2,6−ジメチルフェノールを入れ、均一溶液となり、かつ反応器の内温が25℃になるまで撹拌した。
次に、重合槽へ1312NL/分の速度で乾燥空気をスパージャーより導入を始め、重合を開始した。142分間通気し、重合終結時の内温が40℃になるようコントロールした。重合終結時の重合液は溶液状態であった。
上記乾燥空気の通気を停止し、重合混合物にエチレンジアミン四酢酸4ナトリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の2.5質量%水溶液を100kg添加し、70℃で150分間重合混合物を撹拌した後静置し、液−液分離(GEA製ディスク型遠心分離機)により有機相と水相を分離した。
得られた有機相を室温にした後、メタノールを過剰に加えてポリフェニレンエーテルを析出したスラリーを作製した。その後、バスケットセントル(タナベウィルテック製0−15型)を用い濾過した。
濾過後、過剰のメタノールをバスケットセントル内にいれ、再度濾過し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次に、湿潤ポリフェニレンエーテルを、10mmの丸穴メッシュをセットしたフェザミル(ホソカワミクロン社製FM−1S)に投入し粉砕後、コニカルドライヤーを用い150℃、1mmHgで1.5時間保持し、乾燥状態のPPE粉体を得た。このPPEの還元粘度は0.52dL/g(0.5g/dL、クロロホルム溶液、30℃測定)であった。
【0101】
[(C)混和剤]
(c−1)
ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンの構造を有する水素添加ブロック共重合体。水素添加前のブロック共重合体中に含まれるスチレン単位量は43%、ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量は75%、ポリスチレン鎖の数平均分子量は20,000、ポリブタジエン部分の水素添加率は99.9%であった。
水素添加ブロック共重合体は、n−ブチルリチウムを開始剤とし、テトラヒドロフランを1,2−ビニル結合量の調節剤として用い、シクロヘキサン溶媒中で、スチレンとブタジエンとをアニオンブロック共重合させることにより、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体を得た。次に、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリドとn−ブチルリチウムとを水素添加触媒として用いて、得られたスチレン−ブタジエン系ブロック共重合体を、水素圧5kg/cm、温度50℃の条件で水素添加した。なお、ポリマー構造は、モノマーの仕込み量及び仕込み順序を調整することで制御した。分子量は、触媒量を調整することで制御した。1,2−ビニル結合量は、1,2−ビニル結合量の調節剤の添加量及び重合温度を調整することで制御した。水素添加率は、水素添加時間を調整することで制御した。
ポリブタジエン部分の1,2−ビニル結合量は、赤外分光光度計によって測定し、Analytical Chemistry,Volume21,No.8,August 1949に記載の方法に準じて算出した。結合スチレン量は、紫外線分光光度計によって測定した。
ポリスチレン鎖の数平均分子量は、GPC(移動相:クロロホルム、標準物質:ポリスチレン)によって行った。ポリブタジエン部の水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)によって測定した。
【0102】
[(D)高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、及び高級脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種以上の化合物]
(d−1)ステアリン酸カルシウム、 融点:155℃、金属含有量:6.7質量%
(d−2)ステアリン酸、融点:69℃、中和価:196
(d−3)ステアリン酸ステアリル、融点:55℃
【0103】
[その他の材料]
エチレンビスステアリン酸アマイド、融点:143℃
【0104】
〔実施例1〜10、及び比較例1〜8〕
上流側、下流側に3ヶ所の供給口を有する二軸押出機[TEM58SS:東芝機械社製、L/D=53.8]を用いた。供給口位置は、押出機シリンダーの全長を1.0とした時、上流からL=0の位置の供給口を第1原料供給口(上流供給口)、L=0.4の位置の供給口を第2原料供給口(下流供給口)とし、押出機のバレル設定温度を270〜320℃、スクリュー回転数を450rpm、吐出量を400kg/時間の条件にて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットを用いて、上述の各評価を行った。その製造方法の詳細及び評価結果を下記表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
実施例1〜10においては、成形流動性、耐衝撃性、引張伸び、耐熱クリープ性のバランスに優れ、引張伸びのバラツキが少なく、成形品の外観も良好であることが分かった。
一方、比較例1は、(D)成分の添加量が本発明の範囲未満となったため、衝撃強度と引張伸びの劣ったものとなった。
また、比較例2、3、6及び7は、(D)成分の添加量は本発明の範囲内にあるものの、XD(B+C)の値が本発明の範囲未満となったため、衝撃強度と引張伸びの劣ったものとなった。
比較例4、5は、(D)成分の添加量が本発明の範囲を超えているため、成形品の外観に劣っていた。
比較例8は、(D)成分を含まず、その他の材料を用いたため、衝撃強度と引張伸びの劣ったものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の樹脂組成物は、自動車部品や電気・電子機器部品、家庭用電気製品、特に自動車外装・外板部品、自動車内装部品、自動車アンダーフード部品、二次電池電槽、プリンターのインク周辺部品として、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2