特許第6861032号(P6861032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861032糖からエチレングリコールを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861032
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】糖からエチレングリコールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/141 20060101AFI20210412BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20210412BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   C07C29/141
   C07C31/20 A
   !C07B61/00 300
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-575912(P2016-575912)
(86)(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公表番号】特表2017-519792(P2017-519792A)
(43)【公表日】2017年7月20日
(86)【国際出願番号】EP2015064741
(87)【国際公開番号】WO2016001169
(87)【国際公開日】20160107
【審査請求日】2018年2月2日
【審判番号】不服2019-17452(P2019-17452/J1)
【審判請求日】2019年12月24日
(31)【優先権主張番号】14174976.2
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14174972.1
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ホルム・マーティン・スパングスベア
(72)【発明者】
【氏名】ターニング・エスペン
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0022912(US,A1)
【文献】 特開昭57−38732(JP,A)
【文献】 特開昭60−218341(JP,A)
【文献】 Green Chem.,vol.16,(2014),p.695−707
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールの製造方法であって、次のステップ
a.糖を熱分解して、熱分解生成物組成物を得、ここで前記熱分解生成物組成物は、ホルムアルデヒド、グリコールアルデヒド及びピルブアルデヒドを含むステップ;及び
b.触媒及び溶媒の存在下に熱分解生成物組成物を水素化するステップ;
を含み、ステップb.の反応の水素化圧が40bar以上であり、
前記触媒が、担持された触媒金属成分を含む、前記方法。
【請求項2】
水素化反応の生成物が精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖が、グルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、マンノース、アラビノース及びガラクトースからなる群から選択される一種以上の糖を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒が、水、アルコール、及び水とアルコールからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
アルコールが、メタノール、エタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群の一種以上から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
熱分解生成物組成物が、グリオキサール、アセトール及び酢酸からなる群から選択される一種以上のC2〜3含酸素化合物を更に含む、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
触媒が、ルテニウム、ルテニウム合金、パラジウム、白金及びニッケルからなる群から選択される金属成分を含む、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
触媒が、炭素担体に担持されたルテニウム触媒を含む、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
触媒金属成分が、1:1〜1:15のホルムアルデヒド:触媒金属成分の比率で存在する、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
水素化が、40bar〜120barの圧力で行われる、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
水素化が、40℃〜160℃の温度で行われる、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
水素化におけるC含酸素化合物からエチレングリコールへの転化率が少なくとも70%である、請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
ステップb.におけるC含酸素化合物からエチレングリコールへの選択率が少なくとも75%である、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ステップa.の熱分解生成物組成物が、1:2〜1:20のホルムアルデヒド:グリコールアルデヒドの比率でホルムアルデヒドを含む、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
水素化の生成物が、0.01:1以下の1,2−ブタンジオール:エチレングリコール重量/重量比を含む、請求項1〜14のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
2ステッププロセスであり、そしてステップa.の熱分解生成物組成物がステップb.で直接水素化される、請求項1〜15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
熱分解生成物組成物中のC含酸素化合物の割合が10重量%以上である、請求項1〜16のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エチレングリコールは、モノサッカライド、例えば糖から発酵及び水素化分解プロセスを介した経路や、ヒドロホルミル化による経路などの様々な経路によって製造することができる。
【0002】
発酵経路は、グルコースを発酵してエタノール及び二酸化炭素とし、その後、エタノールをエチレンに、エチレンをエチレンオキシドに、そしてエチレンオキシドをエチレングリコールに転化する5ステップのプロセスである。この方法の一つの欠点は、発酵するグルコース1モル当たり、2モルの二酸化炭素が2モルのエタノールと共に生成し;これが、グリコール中に存在する炭素のうち理論的最大値で67%がエタノールに変換され得るという効果を持つことである。
【0003】
水素化分解経路は、US6,297,409B1(特許文献1)及びUS2008/0228014A1(特許文献2)に示されるように、グルコースをソルビトールに還元し、その後ソルビトールをエチレングリコールに水素化分解する2ステッププロセスである。エチレングリコールと比べてかなりの量のプロピレングリコールが、水素化分解プロセスを介して生成される。加えて、触媒の使用量はかなり多く、また一度使った触媒を再活性化するのは困難なようである。更に、生ずる副生成物、特にブタンジオール類は、目的の生成物から分離するのが困難である。特に、US2014/0039224A1(特許文献3)及びUS5,393,542B1(特許文献4)に示されるように、分離(精製)目的のための蒸留の工業的に好ましい方法は、副生成物が最終の生成物と非常に近い沸点を有し、目的の生成物が更に反応する恐れがあるため、適用が極めて難しい。
【0004】
ヒドロホルミル化経路は、US4,496,781B1(特許文献5)に示されるように、ホルムアルデヒド、一酸化炭素及び水素からグリコールアルデヒドを製造し、その後、グリコールアルデヒドを水素化してエチレングリコールにする2ステップ経路である。ホルムアルデヒドをグリコールアルデヒドから分離し、水素化反応を進行させるために、幾つかの抽出ステップがあるようである。
【0005】
それ故、糖からエチレングリコールを製造するための代替的な向上した高収率及び工業的に実行可能な方法を提供することが望ましい。追加的な利点の一つは、最終生成物または商業的に価値のある副生成物中に存在する糖の炭素原子の67%超の利用であろう。
【0006】
糖からのグリコールアルデヒドの製造及びグリコール類へのその後の水素化などの二つのステップを含むプロセスを介してエチレングリコールを製造し得ることは想到できたであろう。提案されたプロセスの二つのステップは、以下の段落に示されるように独立して成功しそうである。
【0007】
糖を熱分解すると、グリコールアルデヒドなどの含酸素化合物(oxygenate compounds)を含む熱分解生成物組成物を獲得し得ることは既知である(US7,094,932B2(特許文献6));この熱分解生成物組成物は、典型的には、ホルムアルデヒド、グリコールアルデヒド、グリオキサール、ピルブアルデヒド及びアセタールを初めとしたC〜C含酸素化合物を含む。この反応の主生成物はグリコールアルデヒドである(US7,094,932B2(特許文献6))。この反応の溶媒は水である。
【0008】
純粋なグリコールアルデヒドを水素化してエチレングリコールとし得ることも知られている。US4,200,765B1(特許文献7)は、過酷な条件で、すなわち高圧[3000psi(約345bar)]、高温[150℃]で、有機溶媒[N−メチルピロリジン]及び炭素担持型パラジウム[Pd/C]触媒を用いて長期間[5時間]でのグリコールアルデヒドの水素化を開示している。US4,321,414B1(特許文献8)及びUS4,317,946B1(特許文献9)は、均一系ルテニウム触媒を用いたグリコールアルデヒドの水素化を開示しており、そしてUS4,496,781B1(特許文献5)は、溶媒としてのエチレングリコール及び微量のアセトニトリル中での、低圧(500psi(約35bar)]、高温[160℃]で炭素担持型ルテニウム触媒[Ru/C]を用いた連続流水素化を開示している。
【0009】
示したように、とりわけグリコールアルデヒドを得るためのグルコースの熱分解及び純粋なグリコールアルデヒドの水素化の二つのステップは、独立して可能のようである。しかし、熱分解生成物組成物を水素化するためには、熱分解生成物組成物からホルムアルデヒドを除去するために困難な分離プロセスを使用する必要がある。なぜならば、ホルムアルデヒドは、水素化触媒の既知の毒であるからである(US5,210,337B1(特許文献9))。US5,393,542B1(特許文献4)は、複数の蒸留ステップ及びその後の溶媒誘発析出を含む、グリコールアルデヒドを得るための例示的な精製プロセスを開示している。それ故、組成物中にはかなりの量でホルムアルデヒドが存在しているため、熱分解ステップの生成物(熱分解生成物組成物)を水素化することはできない。
【0010】
必要なプロセスステップ数を増やすであろうホルムアルデヒドの除去の要求に加えて、例えば水などの非毒性の溶媒を使用することも工業的に非常に有利であろう。それ故、非毒性の溶媒を用いてかつ前の(熱分解)反応の溶媒中で、ホルムアルデヒドの存在下に水素化ステップを行うことができるようになることは非常に有利であろう。
【0011】
グリコールアルデヒドの水素化に関連して、有機溶媒中で高収率を得るための適当な反応条件は提供されているものの、溶媒として水を用いた反応はあまり上手くいかないようである。US5,393,542B1(特許文献4)は、90℃以上の温度に曝し及び水が溶媒である時の、グリコールアルデヒド(2−ヒドロキシアセトアルデヒド)の熱分解を開示している。
【0012】
EP0002908B1(特許文献10)は、110℃で水溶液中で様々な触媒を用いた時のグリコールアルデヒドの水素化反応の収率(転化率及び選択率)の変動を開示している:ラネーニッケル[転化率100%、選択率49.4%]、10%Pd/C[転化率62%、選択率61%]及び10%Pt/C[転化率100%、選択率73%]。液状の水中に使用される触媒の追加的な欠点の一つは、触媒に対する負担である。特に、高温下(>160℃)では、多くの担体が安定しておらず、溶解するか、分解するかまたは表面積が減少する(Energy & Fuels 2006,20,2337−2343(非特許文献1))。それ故、特殊な触媒が必要であり、そして長期の触媒性能がしばしば問題となり、その結果、触媒を頻繁に(約3〜6ヶ月)交換する必要がある。その結果、特に工業的規模及び工業的条件では、触媒の長寿命を保証するためにはマイルドな反応条件が好ましいものとなる。
【0013】
加えて、触媒の選択は、その触媒が存在する時のグリコールアルデヒドの分解に影響を及ぼす:US5,210,337B1(特許文献9)は、グリコールアルデヒドが「アンジップ(unzip)」してホルムアルデヒドを生成し、その結果、水素化触媒が被毒される問題を開示している。US5,210,337B1(特許文献9)に説明されるように、グリコールアルデヒドが自己縮合するかまたは他のC〜C含酸素化合物と縮合し得ることも可能である。追加的に、触媒の選択及びグリコール生成物の安定性も、グリコールアルデヒドの還元の程度に影響を及ぼし得る。触媒がグリコールアルデヒドを還元してエタノールまたはエタンとし得ること、すなわちグリコールアルデヒドを過剰に還元することがあり得る。
【0014】
追加的に、温度、基質の濃度並びに存在する触媒の量及び同一性の上昇が、グリコールアルデヒドの水素化反応の収率(転化率及び選択率)に影響を与えることも既知である。Handbook of Heterogeneous Catalytic Hydrogenation for Organic Synthesis,Shigeo Nishimura,ISBN:978−0−471−39698−7,April 2001(非特許文献2)。
【0015】
実証されているように、糖の熱分解及びその後の水素化を介した糖からのエチレングリコールの工業的規模の製造方法は、二つの視点から妨げられる。一方の視点は、首尾のよい水素化を可能とするために、熱分解生成物組成物からホルムアルデヒドを除去するという要求である。他方の視点は、高収率のマイルドな反応条件の提供である。更に、工業的かつ商業的に実行可能な方法を提供するためには、非毒性の溶媒を利用し、かつ工業的に実行可能な技術を用いてエチレングリコール生成物から分離可能な最小量の副生成物を生ずる高収率の2ステッププロセスを提供することが望ましい。エチレングリコール生成物から副生成物を分離できるということは、エチレングリコールを、ポリマー製造などのプロセスに使用することを可能にする。ポリマー製造は、基質が非常に純粋な形であることを要求する。
【0016】
糖の熱分解から得ることができる熱分解生成物組成物を、最小量の副生成物でかつホルムアルデヒドを含む熱分解生成物組成物から直接、マイルドな条件において高収率で水素化し得ることがここに見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US6,297,409B1
【特許文献2】US2008/0228014A1
【特許文献3】US2014/0039224A1
【特許文献4】US5,393,542B1
【特許文献5】US4,496,781B1
【特許文献6】US7,094,932B2
【特許文献7】US4,200,765B1
【特許文献8】US4,321,414B1
【特許文献9】US5,210,337B1
【特許文献10】EP0002908B1
【特許文献11】WO2014/066052A1
【特許文献12】US8,177,980B2
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Energy & Fuels 2006,20,2337−2343
【非特許文献2】Handbook of Heterogeneous Catalytic Hydrogenation for Organic Synthesis,Shigeo Nishimura,ISBN:978−0−471−39698−7,April 2001
【発明の概要】
【0019】
糖の熱分解から得ることができる熱分解生成物組成物を、水素化反応の前にホルムアルデヒド(すなわちC−含酸素化合物)を除去することなく、マイルドな反応条件においてかつ最小量の副生成物をもって、水素化条件に付しそして高収率(高い転化率、かつ高い選択率)を得ることができることが見出された。更に、エチレングリコールが、比較的高い圧力及び温度においてより安定しており、かつ副生成物としての1,2−ブタンジオールが比較的少量で生成されることが見出された。
【0020】
本発明は、エチレングリコールを含む組成物を製造するための方法であって、次のステップ:
a.糖を熱分解して、熱分解生成物組成物を得るステップ;及び
b.ステップa.の熱分解生成物組成物を触媒、水素及び溶媒の存在下に水素化して、(水素化)生成物組成物を得るステップ;
c.任意選択的に、ステップb.で得られた(水素化)生成物組成物からエチレングリコールを分離(精製)するステップ、
を含む、前記方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一つの観点は、ステップa.におけるC−含酸素化合物の存在である。ステップa.は「糖を熱分解して、C−含酸素化合物を含む熱分解生成物組成物を得るステップ」とも言える。その代わりに、ステップa.は「糖を熱分解して、ホルムアルデヒドを含む熱分解生成物組成物を得るステップ」とも言える。
【0022】
本発明の生成物は、エチレングリコールを含むステップb.の(水素化)生成物組成物であり得る。(水素化)生成物組成物とは、エチレングリコールを含むステップb.の生成物を意味する。ステップb.の(水素化)生成物組成物はさらに未反応の基質を含み得る。その代わりに、本発明の生成物は、精製されたステップb.の生成物、すなわちステップcの生成物であってよい。
【0023】
糖とは、モノサッカライド及びジサッカライドからなる群から選択される一種以上の糖を意味し;好ましくは糖とは、グルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、マンノース、アラビノース及びガラクトースからなる群から選択される一種以上の糖を意味する。好ましくは、糖はモノサッカライドであり、そしてグルコースである。糖は溶液の形であってよく、この際、その糖溶液は糖及び溶媒を含む。
【0024】
糖溶液の溶媒は、水、または水とアルコールからなる群から選択される溶媒である。アルコールとは、メタノール及びエタノールからなる群から選択される一種以上のアルコールを意味する。例えば、糖溶液は、水性糖溶液、好ましくは水性グルコース溶液として存在してよい。
【0025】
ステップb.の溶媒は、水;アルコール、または水とアルコールからなる群から選択される溶媒である。アルコールとは、メタノール、エタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群から選択される一種以上のアルコールを意味する。
【0026】
ステップb.の溶媒は、水とアルコールとの混合物であってよい。溶媒が水とアルコールの場合には、水及びアルコールは、95:5、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、及び30:70かまたはそれ以上の比率である。
【0027】
ステップa.の熱分解生成物組成物は、粗製熱分解生成物組成物としても知られ得る。熱分解生成物組成物は、グリコールアルデヒドなどの含酸素化合物を含み、そしてUS7,094,932B2(特許文献6)に従い製造し得る。熱分解生成物組成物はC〜C含酸素化合物を含む。C〜C含酸素化合物とは、一つ、二つまたは三つの炭素原子の炭素鎖長を含む含酸素化合物を意味する。例えば、C含酸素化合物は、一つの炭素原子の炭素鎖長を含み、例えばホルムアルデヒド及びギ酸であり;C含酸素化合物は二つの炭素原子の炭素鎖長を含み、例えばグリコールアルデヒド、グリオキサール及び酢酸であり;C含酸素化合物は、三つの炭素原子の炭素鎖長を含み、例えばピルブアルデヒド及びアセトールである。C〜C含酸素化合物組成物とは、ホルムアルデヒド、グリコールアルデヒド、グリオキサール、ピルブアルデヒド及びアセトールからなる群から選択される一種以上の化合物を含む組成物を意味する。好ましくは、熱分解生成物組成物はC含酸素化合物を含む。典型的には、C〜C含酸素化合物を含む組成物のC含酸素化合物の割合は、例えば10重量%以上、30重量%以上である。ステップa.の熱分解生成物組成物がホルムアルデヒド及びグリコールアルデヒドを含む場合には、ステップa.の熱分解生成物組成物中に存在するホルムアルデヒド:グリコールアルデヒドの重量/重量比は、約1:2〜約1:20;1:2〜1:20;1:7〜1:14;1:8〜1:12;1:9〜1:10であってよい。1:2〜1:20の範囲は、1:2〜1.69;1:2〜約1:7;1:2〜1:7の範囲を含んでよい。1:2〜1:20の範囲は、1:14〜1:20;約1:14〜1:20;1:14.1〜1:20の範囲を含んでよい。ステップa.の熱分解生成物組成物中に存在するホルムアルデヒド:グリコールアルデヒドの重量/重量比は、例えばキシロース及びフルクトース糖基質から得ることができる熱分解生成物組成物では、1:2〜1:20であり得る。
【0028】
ステップb.の水素化は、触媒金属成分、例えばルテニウム、ルテニウム合金、パラジウム、白金またはニッケルを含む触媒の存在下に行われる。触媒金属成分は、炭素などの担体によって担持されている。既知の触媒には、炭素担体上に担持されたルテニウムなどがある。例えば、ステップb.の水素化は、炭素担体に担持されたルテニウム触媒などの触媒の存在下に行ってよい。例えば、ステップb.の水素化は、炭素担体上に担持された5%または10%ルテニウム触媒などの触媒の存在下に行ってよい。0.5〜2%のルテニウムを含むルテニウム合金触媒の例は、WO2014/066052A1(特許文献11)に開示されている。
【0029】
ステップb.の触媒は、反応溶液中に、1:1〜15:1、1:1〜11:1、1:1〜10:1、1:1〜7:1、1:1〜5:1、3.0:1〜15:1、3.1:1〜15:1、3.2:1〜15:1のホルムアルデヒド:触媒金属成分の重量/重量比で存在してよい。
【0030】
ステップb.の水素化は、約30bar〜90bar、30bar〜120bar、40bar〜120bar、40bar〜140bar、約90bar〜150bar、好ましくは50bar〜150barの圧力下に行ってよい。圧力とは水素分圧を意味する。
【0031】
ステップb.の水素化は、40〜160℃、50〜140℃、60〜130℃、好ましくは80〜120℃の温度で行ってよい。
【0032】
ステップa.の熱分解生成物のC−含酸素化合物からのエチレングリコールの収率(転化率及び選択率)は、40%超、50%超、70%超である。
【0033】
ステップa.の熱分解生成物組成物のC含酸素化合物からエチレングリコールへの転化率(ステップb.)は、70%以上;80%以上であり得る。
【0034】
転化率とは、熱分解生成物組成物のC含酸素化合物から他の一種または複数種の化合物への変換を意味する。
【0035】
ステップa.の熱分解生成物組成物のC含酸素化合物からエチレングリコールへの選択率は、75%以上;85%以上、好ましくは95%以上であり得る。
【0036】
選択性とは、熱分解生成物組成物のC含酸素化合物から、エタノールまたはエタンなどの他の化合物ではなくてエチレングリコールへの変換を意味する。
【0037】
ステップb.の生成物は、0.01:1以下、0.005:1以下、0.004:1以下、0.003:1以下であってよい1,2−ブタンジオール(1,2−BDO):エチレングリコール重量/重量比を含む。
【0038】
本発明のプロセスは2ステップである。「2ステップ」プロセスとは、二つの化学的変換、すなわち糖の熱分解及びグルコースの熱分解から得ることができるグリコールアルデヒドの水素化を介した、糖からエチレングリコールへの転化を意味する。本発明の更に別の態様の一つは、ステップa.の熱分解生成物組成物がステップb.で直接水素化される2ステッププロセスである。例えば、C〜C含酸素化合物を含むステップa.の熱分解生成物組成物は、水素化ステップ(ステップb.)のための出発組成物として使用される。例えば、ステップa.の生成物は水素化される。
【0039】
精製は、ステップb.の(水素化)生成物組成物の特定の化学生成物の分離、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール及び他の化合物の分離を意味する。例示的な分離方法は、US8,177,980B2(特許文献12)及びUS2014/0039224A1(特許文献3)に開示されている。このような分離(精製)方法は、クロマトグラフィ及び蒸留であってよい。
【0040】
本発明に従い製造されるエチレングリコールは化学品として使用してよい。例えば、エチレングリコールは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル樹脂、繊維及びフィルムを初めとしたポリマーの製造にモノマーとして使用し得る。またエチレングリコールは、防氷剤、冷却剤、特に冷凍装置の冷却剤、凍結防止剤または溶媒としても使用し得る。これらの用途については、http://www.dow.com/ethyleneglycol/prod/meg.htmに記載の通りである。
【実施例】
【0041】
例1
〜C含酸素化合物を含む熱分解生成物組成物を、US7094932B2(特許文献6)に記載のようにして、10重量%水性グルコース(D−グルコース一水和物;Sigma Aldrich)溶液の熱分解によって得た。この熱分解生成物組成物の組成を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
例2〜4:
表1に記載の例1の熱分解生成物組成物(15.5g)を、5%のRuを炭素に担持してなる触媒(Sigma Aldrich、0.20g)と共にオートクレーブ中に仕込んだ。このオートクレーブを水素で三回洗浄し、次いで表2に記載の各々の圧力に水素で加圧した。この混合物を15分間の間で室温から80℃に加熱し、そして6時間攪拌した。次いで、このオートクレーブを室温に冷却して、水素圧の減少を記録した。
【0044】
この水素化生成物混合物を、濾過によって触媒から単離し、そしてHPLC及びGCで分析した。
【0045】
エチレングリコールの最大理論収率は、グリオキサール及びグリコールアルデヒド両方からのエチレングリコールへの水素化をベースとする。
【0046】
【表2】
【0047】
例2〜4は、水素圧を高めるとエチレングリコールの収率が大きく向上したことを示している。追加的に、例4は、US20080228014A1(特許文献2)に示されるような水素化分解経路を介したエチレングリコールの製造[1,2−BDO:エチレングリコール比=0.08]と比べて、本発明の方法によって製造された1,2−BDOの低い収率を示している。
【0048】
参考例5〜8:
例2〜4に記載の方法を、基質(例1の熱分解生成物組成物)としてエチレングリコールまたはプロピレングリコールを用いて繰り返した。圧力は、30または90bar、温度は120℃または140℃、反応時間は3時間とした。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3は、水素化反応条件下で圧力を高めると、エチレングリコール及びプロピレングリコールの安定性が向上することを示している。
【0051】
参考例9:
グリコールアルデヒドダイマー(1.0g)を脱イオン水(14.5g)中に溶解した。この溶液を、5%のRuを炭素上に担持してなる触媒(Sigma Aldrich、0.20g)と共にオートクレーブ中に仕込んだ。このオートクレーブを水素で三回洗浄し、次いで表に記載の圧力に水素で加圧した。この混合物を15分間の間で室温から80℃に加熱し、そして3時間攪拌した。次いで、このオートクレーブを室温に冷却して、水素圧の減少を記録した。
【0052】
この生成物混合物を、濾過によって触媒から単離し、そしてHPLC及びGCで分析した。
【0053】
参考例10:
参考例9の方法を30barの圧力下に繰り返した。
【0054】
参考例11:
参考10の方法を100℃の温度下に繰り返した。
【0055】
参考例9〜11の結果を表4に示す。エチレングリコールに対して存在する1,2−ブタンジオール(1,2−BDO)の量を示す。反応圧の増加が、生成する1,2−ブタンジオール(1,2−BDO)の減少の結果となり、その結果、よりマイルドな条件下でエチレングリコール生成物の純度が高まることが分かる。
【0056】
【表4】
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
エチレングリコールの製造方法であって、次のステップ
a.糖を熱分解して、熱分解生成物組成物を得るステップ;及び
b.触媒及び溶媒の存在下にステップa.の熱分解生成物組成物を水素化するステップ;を含み、ステップb.の反応の圧力が40bar以上である、前記方法。
2.
ステップb.の生成物が精製される、上記1に記載の方法。
3.
ステップa.の糖が、グルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、マンノース、アラビノース及びガラクトースからなる群から選択される一種以上の糖を含む、上記1または2に記載の方法。
4.
ステップb.の溶媒が、水、アルコール、及び水とアルコールからなる群から選択される、上記1〜3のいずれか一つに記載の方法。
5.
アルコールが、メタノール、エタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群の一種以上から選択される、上記4に記載の方法。
6.
熱分解生成物組成物がホルムアルデヒドを含む、上記1〜5のいずれか一つに記載の方法。
7.
熱分解生成物組成物が、グリコールアルデヒド、グリオキサール、ピルブアルデヒド及びアセトールからなる群から選択される一種以上のC2〜3含酸素化合物を含む、上記1〜6のいずれか一つに記載の方法。
8.
ステップb.の触媒が、ルテニウム、ルテニウム合金、パラジウム、白金及びニッケルからなる群から選択される金属成分を含む、上記1〜7のいずれか一つに記載の方法。
9.
ステップb.の触媒金属成分が、1:1〜1:15のホルムアルデヒド:触媒金属成分の比率で存在する、上記1〜8のいずれか一つに記載の方法。
10.
ステップb.が、30bar〜120barの圧力で行われる、上記1〜9のいずれか一つに記載の方法。
11.
ステップb.が、40℃〜160℃の温度で行われる、上記1〜10のいずれか一つに記載の方法。
12.
ステップb.におけるC含酸素化合物からエチレングリコールへの転化率が少なくとも70%である、上記1〜11のいずれか一つに記載の方法。
13.
ステップb.におけるC含酸素化合物からエチレングリコールへの選択率が少なくとも75%である、上記1〜12のいずれか一つに記載の方法。
14.
ステップa.の熱分解生成物組成物が、1:2〜1:20のホルムアルデヒド:グリコールアルデヒドの比率でホルムアルデヒドを含む、上記1〜13のいずれか一つに記載の方法。
15.
ステップb.の生成物が、0.01:1以下の1,2−BDO:エチレングリコール重量/重量比を含む、上記1〜14のいずれか一つに記載の方法。
16.
ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル樹脂、繊維またはフィルムの製造のための、上記1〜15のいずれか一つに従い製造されるエチレングリコールの使用。
17.
防氷剤、冷却剤、凍結防止剤または溶媒としての、上記1〜15のいずれか一つに従い製造されたエチレングリコールの使用。