特許第6861060号(P6861060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68610604,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861060
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/12 20060101AFI20210412BHJP
   C07C 25/18 20060101ALI20210412BHJP
   C07C 17/392 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C07C17/12
   C07C25/18
   C07C17/392
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-52503(P2017-52503)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-154584(P2018-154584A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中谷 仁郎
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−012728(JP,A)
【文献】 特開平07−233106(JP,A)
【文献】 特開2004−262769(JP,A)
【文献】 特開平06−199745(JP,A)
【文献】 特開2005−314158(JP,A)
【文献】 特開平10−236991(JP,A)
【文献】 特開2000−319209(JP,A)
【文献】 特開平06−072918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/12
C07C 17/392
C07C 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3′−ジメチルビフェニルをヨウ素化剤と反応させる4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法であって、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを反応液中に反応晶析する工程、および析出した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを固液分離する工程を含み、前記ヨウ素化剤として、ヨウ素(I2)および過ヨウ素酸(HIO4)を、モル比(I2/HIO4)が0.8〜1.5になる比率で使用する4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法。
【請求項2】
前記反応液の濃縮操作および溶媒抽出操作を行わずに、反応液から4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを分離する請求項に記載の4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法に関し、さらに詳しくは、工業的に優れた4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルは、ファインケミカル、樹脂・プラスチック原料、電子情報材料、光学材料など、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物である。特に、有機EL表示装置や電子写真機の電荷輸送材料および有機金属構造体(MOF)の原料として、有用な化合物である。
【0003】
4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造法としては、非特許文献1で記載されているような4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニルを亜硝酸ナトリウムと反応させ、ジアゾニウム塩に転化し、続いて、ヨウ化カリウムと反応させるサンドマイヤー反応が一般的に用いられる。
【0004】
また、特許文献1では、酢酸含有量が比較的高い水溶液で3,3′−ジメチルビフェニルにヨウ素と過ヨウ素酸とを加熱することによる4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造法が開示されている。
【0005】
しかし、非特許文献1に記載された方法では、高価な4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニルを原料として用いること、および収率が60〜65%と高くないことから、この方法で製造された4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルが高価なものとなってしまっていた。また原料として、用いる4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニルは、労働安全衛生法で、特化則第一類に分類された化合物であり、毒性が高く、これを取り扱う労働者の安全確保が必須となっている。
【0006】
特許文献1では、出発原料として3,3′−ジメチルビフェニルを用いているが、反応液中における基質濃度が低く、反応が十分進行しない。このため、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの収率が低くなっていた。また、生成物が反応液に溶解するため、そこから4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを取り出すためには、多量の水と、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを抽出するため、塩化メチレンなどの抽出溶媒を加える必要があり、操作が煩雑になるとともに、生産性が低かった。また多量の廃液が発生するため、その処理でコストがかかるとともに、塩化メチレンは毒性があるため、安全確保や環境負荷に対する課題も大きかった。
【0007】
これら方法は、工業的使用に課題があり、生産性の高い、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−12728号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Synlett 2015、26、1480−1485
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、毒性が高い原料を使用せず、かつ生産効率が高い工業的に優れた4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の製造方法は、3,3′−ジメチルビフェニルをヨウ素化剤と反応させる4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法であって、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを反応液中に反応晶析する工程、および析出した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを固液分離する工程を含み、前記ヨウ素化剤として、ヨウ素(I2)および過ヨウ素酸(HIO4)を、モル比(I2/HIO4)が0.8〜1.5になる比率で使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法は、毒性の高い原料や抽出溶媒を使用せず、高い反応収率で、かつ反応液に析出した生成物である4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを、濃縮操作や溶媒抽出操作を必要とせず、固液分離することで、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを簡便に取得できることから、生産効率が高く、工業的に優れた製造方法である。
【0013】
本発明で得られる4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルは、特に、有機EL表示装置や電子写真機の電荷輸送材料および有機金属構造体(MOF)の原料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の詳細を記載する。
本発明の4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの製造方法は、3,3′−ジメチルビフェニルを出発基質とする。3,3′−ジメチルビフェニルは、通常用いられる製造方法で調製することができる。好ましくは、特許第5210639号公報に記載された製造方法で調製することにより、工業的に高い収率で生産性に優れた3,3′−ジメチルビフェニルを得ることができる。
【0015】
本発明の製造方法において、3,3′−ジメチルビフェニルにヨウ素化剤を反応させて、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを反応液中に反応晶析する工程を含む。ここで「反応晶析」とは4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルが生成する反応過程から反応が終了するまでの間に、反応液中に生成した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルが析出することをいう。また反応が終了するとは、さらに反応工程を継続しても収率が高くならなくなるとき、または工業的な生産効率の観点から反応工程を終了するのが有利になるとき、をいう。
【0016】
4,4′−ジヨード3,3′−ジメチルビフェニルへのヨウ素化反応において、用いるヨウ素化剤は、ヨウ素および過ヨウ素酸を使用する。過ヨウ素酸としては、過ヨウ素酸以外に、過ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸水和物も用いることができる。
【0017】
本発明で用いるヨウ素(I2)と過ヨウ素酸(HIO4・2H2O)の比率は、モル比(I2/HIO4)で0.8〜1.5であり、0.9〜1.4がより好ましい。モル比(I2/HIO4)が0.8未満であると、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの収率を高くすることができないことがある。またモル比(I2/HIO4)が1.5を超えると、生成した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルが、反応液に溶解してしまい析出しないため、分離に手間がかかり生産効率が低下することがある。
【0018】
本発明で用いるヨウ素化剤の量は、3,3′−ジメチルビフェニルに対し、ヨウ素と過ヨウ素酸に含まれるヨウ素原子換算で、2.0〜3.0が好ましい。ヨウ素化剤をヨウ素原子換算で2.0〜3.0の範囲で使用することにより、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの収率を高くし、反応液中に反応晶析することができる。
【0019】
本発明において使用する溶媒としては、ともに添加する強酸に対して安定であり、水と混合できるものが選択され、たとえば、液体のカルボン酸が好ましく用いられる。液体のカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸が挙げられるが、好ましくは、酢酸が用いられる。また、水を溶媒へ混合する割合は、1〜10重量%であることが好ましい。また、溶媒の使用量は、3,3′−ジメチルビフェニルに対し1〜20重量倍が好ましく用いられる。
【0020】
また、本発明において、ヨウ素化剤の活性化剤として、強酸を添加する。用いる強酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸、メタンスルフォン酸、p−トルエンサウルフォン酸などの有機酸が挙げられるが、好ましくは、硫酸が用いられる。
【0021】
強酸の用いる量は、3,3′−ジメチルビフェニルに対し、0.05〜5モル倍が好ましく用いられる。
【0022】
本発明の製造方法では、3,3′−ジメチルビフェニル、ヨウ素および過ヨウ素酸を溶媒に溶解し、強酸を添加した溶液を加熱する。反応温度は、70〜110℃で、好ましくは、80〜100℃である。70℃未満だと、中間体のモノヨウ素化体である4−ヨード3,3′−ジメチルビフェニルが残存してしまう。110℃以上になるとヨウ素あるいは過ヨウ素酸の昇華や分解が起こり、反応が十分に進まない。反応時間は、1〜10時間が好ましく、より好ましくは2〜7時間がよい。
【0023】
本発明の製造方法において、析出した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを固液分離する工程を含む。本発明では、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルが生成すると、反応が終了するまでに反応液から析出することから、固液分離することで単離することができる。このため、反応液を濃縮したり溶媒抽出する必要がない。固液分離の方法として、通常行われる固液分離方法を用いることができ、例えば濾過、フィルタープレス、遠心分離、等を例示することができる。
【0024】
単離された4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルは、さらに溶媒等に溶解させて、再結晶することで、精製することができる。
【0025】
本発明の製造方法により得られた4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルは有用な化合物であることから、これを効率よく工業的に得られることの意義は大きい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、ここで用いている試薬類のメーカーグレードは、いずれも1級レベル以上に相当するものである。
【0027】
[合成例1]
テトラヒドロフラン136.8g(1.90mol;nacalai tesque社製)、マグネシウム粉末11.5g(0.47mol;中央工産社製)、m−クロ口トルエン5g(0.008mol ;和光純薬社製)を温度計付き反応器に投入し、系内を窒素置換しながら、撹拌した。ターシャリーブチルマグネシウムクロライド 1g(0.008mol ;東京化成社製)を添加し、系内の水分を除去した。続いて、臭化工チル4.3g(0.04mol;和光純薬社製)を加えた。暫く撹拌し、発熱が起こることを確認した。次に反応液温度 5〜50℃に保ちながら、m−クロロトルエン45g(0.35mol)を滴下した。滴下終了後、60℃で3時間撹拌しながら、熟成した(グリニャール試薬収率83%)。
【0028】
次に、塩化鉄(III)1.9g(0.012mol ;和光純薬社製)にテトラヒドロフラン7.1g(0.10mol)を加えた液に、1,2−ジクロロプロパン53.6g(0.74mol;和光純薬社製)を加え、触媒含有溶液を調製した。これを上記グリニャール試薬溶液に、反応液温度30〜50℃に保ちながら滴下し、カップリング反応を行った。滴下終了後、50℃で3時間反応を行った。反応終了後、冷却し、反応液を水に展開し、ジエチルエーテル(nacalai tesque社製特級)で油層を抽出し、これに内部標準物質であるアセトフェノン(nacalai tesque社製特級)を加えて、ガスクロマトグラフィー法(カラム:GLサイエンス社製:イナ一トキャップ1 長さ60m×径0.25mm、膜厚0.40μm)で分析した。m−クロ口トルエンに対する3,3′−ジメチルビフエ二ルの収率は79.4%であった。また、副生したクロロ3,3′−ジメチルビフェニルは、3,3′−ジメチルビフェニルに対して、1.4重量%であった。
【0029】
[実施例1]
酢酸11.5g、水1.6g、硫酸0.5gを温度計付き四つ口フラスコ100mlに投入し、系内を窒素置換した。これに合成例1で得られた3,3′−ジメチルビフェニル1.0g(0.0055mol)、ヨウ素1.4g(0.0055mol;和光純薬社製)、過ヨウ素酸2水和物1.3g(0.0055mol;和光純薬社製)を加え(I/HIO=1.0モル比)、反応温度90℃で3時間攪拌した。
【0030】
反応終了後、反応液をろ過して、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルをケークとして取得した。このケークをアセトン20gに溶解し、この溶液に含まれる不溶物をろ過した後、濃縮晶析により、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを再結晶させた。結晶をろ別後、これを減圧乾燥して、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニル1.78gを取得した(収率74.8%)。
【0031】
取得した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを液体クロマトグラフィー法(LC)で分析した結果、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの純度は、99.2%であった。
【0032】
[実施例2]
実施例1において、過ヨウ素酸2水和物1.1g(0.0046mol;和光純薬社製)を加え(I/HIO=1.2モル比)に変更し、実施例1と同様に実施し、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニル1.71gを取得した(収率72.0%)。
【0033】
取得した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを液体クロマトグラフィー法(LC)で分析した結果、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの純度は、98.7%であった。
【0034】
[比較例1]
実施例1において、過ヨウ素酸2水和物0.36g(0.0016mol;和光純薬社製)を加え(I/HIO=3.44モル比)に変更し、実施例1と同様に実施した。
4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルは、反応液中に析出せず、固液分離で取得できなかった。
【0035】
[比較例2]
実施例1において、過ヨウ素酸2水和物6.38g(0.028mol;和光純薬社製)を加え(I/HIO=0.2モル比)に変更し、実施例1と同様に実施し、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニル0.84gを取得した(収率34.9%)。
【0036】
取得した4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルを液体クロマトグラフィー法(LC)で分析した結果、4,4′−ジヨード−3,3′−ジメチルビフェニルの純度は、99.3%であった。