特許第6861063号(P6861063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861063窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物および窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861063
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物および窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20210412BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20210412BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20210412BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
   !H01L21/304 622D
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-58042(P2017-58042)
(22)【出願日】2017年3月23日
(65)【公開番号】特開2018-159033(P2018-159033A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178310
【氏名又は名称】山口精研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】永尾 忠徳
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰裕
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−034986(JP,A)
【文献】 特開2006−206343(JP,A)
【文献】 特開2006−060074(JP,A)
【文献】 特開2008−201984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
C09G 1/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子、分散剤、酸、水素イオン供給剤および水を含有し、前記分散剤がアルミナゾルであり、前記水素イオン供給剤が無機酸塩および有機酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、かつpH値(25℃)が0.1以上5.0未満である窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項2】
前記アルミナ粒子の平均粒子径(D50)が0.1〜10.0μmであり、組成物中の濃度が1〜50質量%である請求項1に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項3】
前記酸が無機酸および有機酸の中から選ばれる、少なくとも1種である請求項1または2に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項4】
前記酸が無機酸であり、硝酸、硫酸、塩酸、およびリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項5】
前記酸が機酸であり、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、プロピオン酸、および乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項6】
前記水素イオン供給剤が無機酸塩であり、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化
アルミニウム、リン酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、およびリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項7】
前記水素イオン供給剤が有機酸塩であり、シュウ酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、マロン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム、マレイン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、および乳酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項8】
前記研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.5以上4.0未満である請求項1〜7のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の研磨剤組成物を研磨機に供給して研磨に使用した後、前記研磨剤組成物を回収し、再び回収した前記研磨剤組成物を前記研磨機に供給する循環供給方式で前記研磨剤組成物を使用して窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路あるいは集積回路パッケージ等の材料をはじめとする各種電子材料として用いることができるセラミックス材料の研磨に使用される研磨剤組成物に関する。特に半導体デバイスをつくるための窒化アルミニウム単結晶基板、あるいは半導体実装用の高機能放熱基板として普及している窒化アルミニウム多結晶基板の研磨に使用される研磨剤組成物に関し、中でも放熱性に優れた窒化アルミニウム多結晶基板を効果的に研磨するのに有用な研磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムを主成分とする粉末を焼結して得られる窒化アルミニウム多結晶体は、絶縁性および機械的強度に優れ、金属導体との接合が容易であり、更に、高い熱伝導特性を有するので、半導体実装用の高機能放熱基板として急速に普及しつつある。このような放熱基板は、一般に以下のような方法で製造される。
【0003】
窒化アルミニウム原料粉末と焼結助剤等の添加剤とを充分混合した後、各種成形法により成形し、脱脂、焼成して焼結基板を形成する。その後、焼結基板の表面を研磨により平滑にし、さらに焼結基板の表面に金属薄膜層を形成し、その金属薄膜層上に電子素子(例えばレーザーダイオード)を装着する。
【0004】
ところが、近年の電子素子の小型化、高密度化の要請により、電子素子が装着される窒化アルミニウム多結晶基板表面の平滑性も著しい精度の向上が求められている。窒化アルミニウム多結晶基板の表面を平滑にするための研磨は、砥粒の分散液を研磨面に存在させ、これをパッドによって研磨面に押し付けて擦ることにより実施される。
【0005】
しかしながら、窒化アルミニウム多結晶基板は、結晶粒界が脆いので、一般的な研磨加工では、その研磨加工中に脱粒などが発生し、十分な平滑性が達成できないという問題がある。窒化アルミニウム多結晶基板の研磨において、研磨速度を高めながら、表面平滑性を向上させる方法の提案がなされている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−272506号公報
【特許文献2】特開平4−223852号公報
【特許文献3】特開平4−114984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、窒化アルミニウム焼結基板を、特定の粒径のダイアモンド砥粒を特定の砥粒密度(単位体積当たりの砥粒量)にした固定砥粒で研磨する方法が提案されている。特許文献2では、窒化アルミニウム焼結基板を、アルミナと酸化クロムの複合砥粒で研磨する方法が提案されている。特許文献3では、窒化アルミニウム焼結基板を、ウレタン樹脂製パッドと酸化セリウム砥粒の組み合わせで研磨する方法が提案されている。しかしながら、これらの方法によっても、窒化アルミニウム多結晶基板を、高い研磨速度で良好な表面平滑性に仕上げることは達成されていない。
【0008】
本発明の課題は、窒化アルミニウム多結晶基板を、高い研磨速度で良好な表面平滑性に仕上げるための窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物および窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、以下の研磨剤組成物を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
[1] アルミナ粒子、分散剤、酸、水素イオン供給剤および水を含有し、前記分散剤がアルミナゾルであり、前記水素イオン供給剤が無機酸塩および有機酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、かつpH値(25℃)が0.1以上5.0未満である窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0011】
[2] 前記アルミナ粒子の平均粒子径(D50)が0.1〜10.0μmであり、組成物中の濃度が1〜50質量%である前記[1]に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0013】
] 前記酸が無機酸および有機酸の中から選ばれる、少なくとも1種である前記[1]または2]に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0014】
] 前記酸が無機酸であり、硝酸、硫酸、塩酸、およびリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[]に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0015】
] 前記酸が有機酸であり、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、プロピオン酸、および乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[]に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0017】
] 前記水素イオン供給剤が無機酸塩であり、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、およびリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[〜[5]のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0018】
] 前記水素イオン供給剤が有機酸塩であり、シュウ酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、マロン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム、マレイン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、および乳酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記[〜[5]のいずれか1項に記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0019】
] 前記研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.5以上4.0未満である前記[1]〜[]のいずれかに記載の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物。
【0020】
] 前記[1]〜[]のいずれかに記載の研磨剤組成物を研磨機に供給して研磨に使用した後、前記研磨剤組成物を回収し、再び回収した前記研磨剤組成物を前記研磨機に供給する循環供給方式で前記研磨剤組成物を使用して窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物は、研磨速度を向上させ、かつ研磨後の表面平滑性を向上させる。特に結晶粒界が脆い窒化アルミニウム多結晶基板に好適である。
【0022】
本発明の窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法は、長い時間をかけて窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する際に、経済性を考慮して研磨剤組成物を循環させて基板に供給する場合であっても、研磨速度を向上させ、かつ研磨後の表面平滑性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない範囲において、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
1.研磨剤組成物
本発明の窒化アルミニウム多結晶基板用研磨剤組成物は、アルミナ粒子と、分散剤と、酸と、水素イオン供給剤と水を含むものである。また、pH値(25℃)が0.1以上5.0未満である。
【0025】
(1)アルミナ粒子
本発明で使用されるアルミナ粒子は、α−アルミナであっても、中間アルミナであっても、α−アルミナと中間アルミナの混合物であってもよい。中間アルミナとしては、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナなどが挙げられる。窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する際に、研磨速度を出来るだけ高くする観点からは、α−アルミナが好ましく用いられる。
【0026】
アルミナを製造する際の原料としては、ギブサイト:Al・3HO、ベーマイト:Al・HO、擬ベーマイト:Al・nHO(n=1〜2)などが挙げられる。これらのアルミナ原料は、例えば以下のような方法で調製される。
【0027】
ギブサイト:Al・3H
ボーキサイトを水酸化ナトリウムの熱溶液で溶解し、不純分をろ過により除去して得られた溶液を冷却し、その結果得られた沈殿物を乾燥することにより得られる。
【0028】
ベーマイト:Al・H
金属アルミニウムとアルコールとの反応により得られるアルミニウムアルコキシド:Al(OR)を加水分解することにより得られる。
【0029】
擬ベーマイト:Al・nHO(n=1〜2)
ギブサイトをアルカリ性雰囲気下、水蒸気で処理して得られる。
【0030】
これらのアルミナ原料を焼成することなどにより、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナなどが得られる。
【0031】
アルミナ粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは0.1〜10.0μmであり、より好ましくは0.1〜5.0μm、さらに好ましくは0.2〜2.0μmである。平均粒子径が0.1μm以上であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。平均粒子径が10.0μm以下であることにより、研磨後の基板の表面平滑性の悪化を抑制することができる。
【0032】
アルミナ粒子の比表面積は、好ましくは1〜100m/g、より好ましくは2〜80m/g、さらに好ましくは3〜70m/gである。アルミナ粒子の比表面積が1m/g以上であることにより、研磨後の基板の表面平滑性の悪化を抑制することができる。アルミナ粒子の比表面積が100m/g以下であることにより、研磨速度の低下を抑制することができる。
【0033】
研磨剤組成物中のアルミナ粒子の濃度は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜45質量%、さらに好ましくは3〜40質量%である。アルミナ粒子の濃度が1質量%よりも少ないと、十分な研磨速度が得られず、50質量%より多くしてもそれ以上の研磨速度の向上が認められず経済的ではない。
【0034】
(2)分散剤
本発明で使用される分散剤は、アルミナゾル、セルロース類、ポリカルボン酸(塩)、ポリカルボン酸の繰り返し単位を含む共重合体、および縮合リン酸塩からなる群より選ばれる、少なくとも1種である。
【0035】
窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する場合には研磨に長時間を要するため、経済性の観点から研磨剤組成物を循環供給方式で使用することが好ましいが、その際、アルミナ粒子が経時や静置で沈降することを防止する必要がある。また、研磨剤組成物の取り扱いの面から、長期保存中にアルミナ粒子が沈降した場合であっても、簡単にアルミナ粒子が再分散されることが望ましい。このため、研磨剤組成物には、分散剤を含む。
【0036】
アルミナゾルとは、水酸化アルミニウムまたは水和アルミナを水溶液中にコロイド状に分散させたものである。水和アルミナには、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、ギブサイト、バイヤライトなどを挙げることができる。
【0037】
水酸化アルミニウムが水溶液中にコロイド状に分散したアルミナゾルとしては、アルミニウム塩のゾル化生成物を使用することが好ましい。アルミニウム塩のゾル化生成物は、各種アルミニウム塩と、水と反応して水酸基を発生しやすい化合物との反応によって得られる。また、各種アルミニウム塩と水酸基を含有する化合物との反応によっても得られる。使用される各種アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。使用される水と反応して水酸基を発生しやすい化合物としては、アンモニア、アルキルアミン、アミン系キレート化合物、アミノカルボン酸、アミノカルボン酸系キレート化合物、アミノホスホン酸系キレート化合物などが挙げられる。使用される水酸基を含有する化合物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0038】
水和アルミナが水溶液にコロイド状に分散したアルミナゾルとしては、ベーマイトゾルを使用することが好ましい。ベーマイトゾルは、ベーマイトまたは擬ベーマイトを各種アルミニウム塩、無機酸、有機酸などと共存させることにより得られる。使用される各種アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。使用される無機酸としては、硝酸、塩酸などが挙げられる。使用される有機酸としては、酢酸、グルコン酸などが挙げられる。
【0039】
セルロース類としては、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
【0040】
ポリカルボン酸(塩)としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルカリ金属塩、ポリメタクリル酸アルカリ金属塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸アミン塩、ポリメタクリル酸アミン塩等が挙げられる。
【0041】
ポリカルボン酸(塩)の繰り返し単位を含む共重合体としては、ポリアクリル酸とスルフォン酸基を含む構成単位との共重合体、ポリアクリル酸とポリアクリル酸エステルとの共重合体などが挙げられる。
【0042】
縮合リン酸塩としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、酸性メタリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0043】
これらの分散剤の中でも、アルミナゾルが好ましく用いられる。
【0044】
研磨剤組成物中の分散剤の含有量は、好ましくは0.01〜5.00質量%であり、さらに好ましくは、0.02〜2.00質量%である。0.01質量%未満では、アルミナ粒子の分散効果が低下する。5質量%を超えると研磨剤組成物の粘度が上昇し、研磨剤組成物の流動性が低下する懸念がある。
【0045】
(3)酸
本発明で使用される酸は、無機酸および有機酸の中から選ばれる、少なくとも1種である。無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、フッ酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸などが挙げられるが、その中でも硝酸、硫酸、塩酸、リン酸が好ましい。有機酸としては、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、プロピオン酸、乳酸などが挙げられる。研磨剤組成物中の酸の含有量は、pH値(25℃)の設定に応じて適宜決められる。
【0046】
(4)水素イオン供給剤
水素イオン供給剤は、研磨剤組成物中の水素イオン濃度が減少した時に、安定して水素イオンを供給することができるものである。窒化アルミニウムの研磨においては、pHが上昇すると基板が一部分解してアンモニアが発生し、さらにpHの上昇が加速し、基板の表面荒れが進行する。本発明の水素イオン供給剤は安定して水素イオンを供給することができるため、長時間研磨においてもpHの変動を小さくすることができる。本発明の研磨剤組成物は、pH値(25℃)を0.1以上5.0未満の範囲とするように水素イオン供給剤が含まれている。
【0047】
本発明で使用される水素イオン供給剤は、無機酸塩および有機酸塩から選ばれる、少なくとも1種である。無機酸塩どうし、有機酸塩どうし組み合わせて2種以上使用しても良いし、無機酸塩と有機酸塩を組み合わせて2種以上使用しても良い。
【0048】
無機酸塩としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0049】
有機酸塩としては、シュウ酸アンモニウム、リンゴ酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、マロン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム、マレイン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、乳酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0050】
研磨剤組成物中の水素イオン供給剤の含有量は、好ましくは0.01〜15.00質量%であり、さらに好ましくは0.02〜10.00質量%である。0.01質量%未満では、pH安定化効果が低下する。15.00質量%を超えると研磨剤組成物の粘度が上昇し、循環供給方式での研磨に支障をきたすようになる。
【0051】
(5)水
本発明で使用される水は、蒸留水、イオン交換水などの不純物を除去した水が、好ましく用いられる。研磨後の洗浄性を考慮すると、イオン交換水が好ましい。水は、研磨剤の流動性を制御する機能を有するので、その含有量は、研磨速度のような目標とする研磨特性に合わせて適宜設定することができる。例えば、水の含有割合は、研磨剤組成物の40〜90質量%とすることが好ましい。水の含有量が、研磨剤組成物の40質量%未満では、研磨剤の粘性が高くなり、流動性が損なわれる場合がある。一方、水の含有量が90質量%を超えると、砥粒濃度が低くなり、十分な研磨速度が得られない場合がある。
【0052】
(6)その他の成分
本発明の研磨剤組成物は、任意成分として酸化剤、抗菌剤などを含むことができる。
【0053】
(pH)
本発明の研磨剤組成物のpH値(25℃)は、0.1以上5.0未満であり、好ましくは0.5以上4.0未満である。研磨剤組成物のpH値(25℃)が0.1未満では、研磨後の基板表面の平滑性が悪化する懸念がある。一方、研磨剤組成物のpH値(25℃)が5.0以上では、窒化アルミニウム多結晶基板の分解が起こり始め、アンモニアが遊離するようになるため、研磨の作業性と基板の表面粗度の面から好ましくない。
【0054】
(研磨剤組成物の調製方法)
本発明の研磨剤組成物は、各成分を公知の方法で混合することにより、調製することができる。研磨剤組成物は、経済性の観点から、通常、濃縮液として製造され、これを使用時に希釈する場合が多い。研磨剤組成物は、そのまま使用してもよいし、濃縮液であれば希釈して使用すればよい。濃縮液を希釈する場合、その希釈倍率は、特に制限されず、濃縮液における各成分の濃度や研磨条件に応じて適宜決定できる。尚、前述した各成分の含有量は、使用時における含有量である。
【0055】
2.窒化アルミニウム多結晶基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物を用いて窒化アルミニウム多結晶基板を研磨する装置としては、特に制限は無く、窒化アルミニウム多結晶基板を保持する治具(キャリア)と研磨パッドとを備える研磨機を用いることができ、両面研磨機および片面研磨機のいずれでもよい。
【0056】
研磨パッドとしては、特に制限は無く、従来公知のものが使用できる。研磨パッドの材質としては、例えばポリウレタンなどが挙げられる。研磨パッドの形状は、例えば不織布状のもの、スウェード状のものなどが好ましく使用される。
【0057】
本発明の研磨剤組成物を研磨機に供給する方法は、予め研磨剤組成物の構成成分が、十分に混合された状態で、研磨パッドと窒化アルミニウム多結晶基板の間にポンプ等で供給する方法、研磨の直前の供給ライン内等で構成成分を混合して供給する方法などを用いることができる。研磨速度向上の観点および研磨機負荷軽減の観点から、予め研磨剤組成物の構成成分が十分に混合された状態で、研磨剤組成物を、研磨パッドと窒化アルミニウム多結晶基板の間にポンプ等で、循環供給方式で供給するやり方が好ましく用いられる。循環供給方式とは、研磨剤組成物を研磨機(研磨パッドと基板との間)に供給して研磨に使用した後、その研磨剤組成物を回収し、再び回収した研磨剤組成物を研磨機(研磨パッドと基板との間)に供給することで研磨剤組成物を循環供給して研磨に使用する方式をいう。研磨剤組成物を循環させて基板に供給すると、研磨に時間を要する硬い基板であっても、経済性を考慮しながら研磨速度を向上させ、かつ研磨後の表面平滑性を向上させることができる。なお、上記研磨方法は、窒化アルミニウム単結晶基板でも同様に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例および比較例で本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(1)平均粒子径・比表面積
本発明で使用されるアルミナ粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機((株)島津製作所製、SALD2200)を用いて測定した。アルミナ粒子の平均粒子径は、体積を基準とした小粒径側からの積算粒径分布が50%となる平均粒子径(D50)である。本発明で使用されるアルミナ粒子の比表面積は、BET法で測定した。
【0060】
(2)研磨条件
研磨試験を行う際の研磨条件を以下に示す。
研磨加工機 不二越機械工業(株)製、SLM−100(片面研磨機)
研磨対象物 多結晶窒化アルミニウム 2inch基板
研磨パッド LP−66(ウレタンパッド)
研磨圧力 240g/cm
定盤回転数 45rpm
研磨剤供給速度 200ml/min(循環供給方式)
研磨時間 6hr
【0061】
(3)研磨速度の算出方法
研磨速度(μm/hr)=窒化アルミニウム多結晶基板の研磨前重量(g)−窒化アルミニウム多結晶基板の研磨後重量(g)÷窒化アルミニウム多結晶基板の研磨面積(cm)÷窒化アルミニウム多結晶基板の密度(g/cm)÷研磨時間(min)×1000(μm/cm)×60(min/hr)
【0062】
(4)窒化アルミニウム多結晶基板の表面粗さ(Ra)
表面粗さ(Ra)は、Zygo社製の走査型白色干渉法を利用した三次元表面構造解析顕微鏡を用いて測定した。測定条件は、Zygo社製の測定装置(New View 5000(測定倍率25倍))とZygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用い、フィルターを使用せずに、測定エリアは280μm×210μmとした。
【0063】
(5)窒化アルミニウム多結晶基板のピット
OLYMPUS社製の顕微鏡(OLS 4100(倍率100倍))で基板表面のピットの有無を観察した。ピットが多数ある場合は「×」、ピットが僅かに認められる場合は「△」、ピットが認められない場合は「○」とした。
【0064】
(6)研磨剤組成物の調製方法
実施例1〜10および比較例1〜4で使用した研磨剤組成物は、下記の材料を、下記の含有量または添加量で含んだ研磨剤組成物である。これらの研磨剤組成物を使用して研磨試験を行った結果を表1に示した。
【0065】
[アルミナ粒子](α−アルミナ、平均粒子径(D50)=0.2μm、比表面積=6.0m/g)、22質量%(実施例1、3、5、7、9、比較例3、4で使用)
[アルミナ粒子](α−アルミナ、平均粒子径(D50)=2.0μm、比表面積=5.0m/g)、22質量%(実施例2、4、6、8、10で使用)
[ジルコニア粒子](平均粒子径(D50)=1.2μm、比表面積=6.0m/g)、22質量%(比較例1で使用)
[シリカ粒子](平均粒子径(D50)=0.3μm、比表面積=6.0m/g)、22質量%(比較例2で使用)
[アルミナゾル](サソール社製、DISPAL 18HP)、0.5質量%(実施例1〜10、比較例1、2、4で使用)
[硝酸アルミニウム] 2.5質量%(実施例1、2、5、7〜10、比較例1〜3で使用)
[マロン酸アンモニウム] 0.5質量%(実施例3、4、6〜10で使用)
[硝酸] pH値(25℃)が設定値になるように必要量を添加(実施例1、2、5、7、8、比較例1〜4で使用)
[マロン酸] pH値(25℃)が設定値になるように必要量を添加(実施例3、4、6、9、10で使用)
【0066】
【表1】
【0067】
(7)考察
実施例1および2と比較例1および2の対比により、砥粒としてアルミナを使用することにより、ジルコニア又はシリカを使用した場合よりも研磨速度が増大し、表面粗さとピットも改善されることがわかる。実施例1と比較例3の対比により、分散剤を使用することによって研磨速度が増大し、表面粗さとピットも改善されることがわかる。実施例1と比較例4の対比により、水素イオン供給剤を使用することにより、研磨中のpH上昇が抑制され、研磨速度が増大し、表面粗さとピットも改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明の研磨剤組成物は、集積回路あるいは集積回路パッケージをはじめとする各種電子材料の放熱基板として用いられる窒化アルミニウム多結晶基板の製造に使用することができる。また、半導体デバイスをつくるための基板材料として用いられる窒化アルミニウム単結晶基板を、エピタキシャル成長に適した基板表面とするための表面処理に使用することもできる。