(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861134
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ヒアルロン酸産生促進剤及びヒアルロン酸産生促進用食品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7028 20060101AFI20210412BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20210412BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20210412BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20210412BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20210412BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61P17/06
A61K8/60
A61Q19/00
A23L33/125
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-177769(P2017-177769)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2019-52113(P2019-52113A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】507045904
【氏名又は名称】ヤクルトヘルスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 智弘
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2017−0091459(KR,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0095296(KR,A)
【文献】
特開2001−302490(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/213652(US,A1)
【文献】
Agricultural and Food Chemistry,2004年,Vol.52,p.916-926
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 8/00
A23L 33/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコラファニンを有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項2】
グルコラファニンを有効成分とするヒアルロン酸産生促進用食品。
【請求項3】
グルコラファニンを有効成分とする皮膚保湿機能改善剤。
【請求項4】
グルコラファニンを有効成分とする皮膚保湿機能改善用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒアルロン酸の産生を促進するヒアルロン酸産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、D−N−アセチルグルコサミンとD−グルクロン酸が交互に結合して形成された直鎖状の高分子多糖であり、皮膚、軟骨、関節液、臍帯、眼硝子体、その他の結合組織に存在する。このうち、最も多くヒアルロン酸が含まれているのは皮膚である。
皮膚の真皮及び表皮は、表皮細胞、線維芽細胞、及び真皮細胞外マトリックス等によって構成されているが、ヒアルロン酸は、コラーゲン、エラスチン等と共に真皮細胞外マトリックスを構成し、表皮細胞や線維芽細胞等の細胞の外にあって、細胞の保護、組織水分の保持、柔軟性の維持、潤滑性の保持等において重要な役割を担っている。
【0003】
皮膚のヒアルロン酸の産生量は、加齢とともに減少することが知られており、その結果、細胞の保湿力を低下させて乾燥、肌荒れ、シミ、皺等の症状を引き起こす原因となる。また、近年、紫外線等の外的要因も、ヒアルロン酸量の減少を誘導する因子とされており、乾燥肌や肌荒れの要因となると考えられる。したがって、ヒアルロン酸産生の促進は、皮膚の保湿機能を維持又は改善する上で重要である。
【0004】
そこで、ヒアルロン酸産生を促進する素材を天然物から探索する試みがなされ、植物の抽出物(特許文献1、特許文献2)やその成分(特許文献3)の他、種々の物質にヒアルロン酸産生促進作用があることがこれまでに報告されている。
【0005】
一方、ブロッコリー等のアブラナ科の植物には、スルフォラファンの前駆体グルコシノレートであるグルコラファニンが多く含まれ、当該植物の組織中に含まれるグルコラファニンは、組織が破壊されると内在性の酵素ミロシナーゼにより加水分解され、スルフォラファンを生じることが知られている(非特許文献1)。また、ヒトがグルコラファニンを摂取した場合においても、腸内細菌の働きによって、スルフォラファンに変換されて、腸管から吸収されると考えられている。
【0006】
斯かるスルフォラファンやその前駆体グルコシノレートであるグルコラファニンには、体内の代謝過程で生じる発ガン物質の活性化を打消す第二相解毒酵素を強く誘導する作用があること、ガン治療に対して有効であること(特許文献4)等が報告されている。
しかしながら、グルコラファニンやスルフォラファンにヒアルロン酸産生促進作用や皮膚の保湿機能を改善する作用があることはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−018734号公報
【特許文献2】特開2012−056919号公報
【特許文献3】特開2012−136473号公報
【特許文献4】特表2016−514135号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem., 52: 916-926 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、安全性が高く、長期に適用可能なヒアルロン酸産生促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、多くの天然物の中からヒアルロン酸産生促進剤を見出すべく検討した結果、グルコラファニン及びスルフォラファンが線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生を促進する作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)〜4)に係るものである。
1)グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を有効成分とするヒアルロン酸産生促進剤。
2)グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を有効成分とするヒアルロン酸産生促進用食品。
3)グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を有効成分とする皮膚保湿機能改善剤。
4)グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を有効成分とする皮膚保湿機能改善用食品。
【発明の効果】
【0012】
グルコラファニン及びスルフォラファンは、ブロッコリーやケールから容易に取得可能であり、長期投与又は摂取可能である。したがって、本発明によれば、安全性の高いヒアルロン酸産生促進剤が提供され、ヒアルロン酸の減少に起因する皮膚保湿機能の低下、それに伴う乾燥肌、肌荒れの予防又は改善効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】グルコラファニンのヒアルロン酸産生促進効果を示す図。
【
図2】スルフォラファンのヒアルロン酸産生促進効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグルコラファニン(Glucoraphanin)は、別名:1−チオ−β−D−グルコピラノース1−[N−(ヒドロキシスルホニルオキシ)−5−(メチルスルフィニル)ペンタンイミダート]であり、スルフォラファン(Sulforaphane)は4−(メチルスルフィニル)ブチルイソチオシアナートである。
前述したとおり、グルコラファニンは、スルフォラファンの前駆体グルコシノレートであり、アブラナ科植物中で酵素ミロシナーゼにより加水分解されてスルフォラファンを生じる。また、ヒトがグルコラファニンを摂取した場合においても、スルフォラファンに変換されて、腸管から吸収される。
【0015】
グルコラファニン及びスルフォラファンは、グルコラファニン及び/又はスルフォラファンを含有する植物から公知の方法で単離精製することにより取得することができる。
【0016】
グルコラファニン及び/又はスルフォラファンを含有する植物としては、例えばアブラナ科(Brassicaceae)植物、好ましくはアブラナ科アブラナ属(Brassica)の植物が例示される。具体的には、ケール、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ等が挙げられる。これらの植物においては、グルコラファニン又はスルフォラファンの含有量の点で、ケールやキャベツではその葉や茎、ブロッコリーやカリフラワーではその花蕾を使用することが望ましい。ケールの品種は、ハイパール(農林水産省品種登録第20555号)、ハイクロップ、エステ、エキストラ・カールド・スコッチ等が利用できる。また、グルコラファニン又はスルフォラファンの含有量を高めたケールに属する新品種を使用することもできる。さらに、グルコラファニン又はスルフォラファンの含有量を指標とすることで、ヒアルロン酸産生促進作用が高いケールに属する新品種の開発を行うこともできる。
【0017】
また、単離精製されたグルコラファニン及びスルフォラファンは市販されており、本発明においては、当該市販品を使用することもできる。
【0018】
本発明において、グルコラファニン又はスルフォラファンは、単離されたグルコラファニン、スルフォラファンのみならず、上記のグルコラファニン又はスルフォラファンを含有する植物又はその加工品(例えば、該植物の粉砕物、該植物の凍結乾燥物、該植物の搾汁、該植物の抽出物等)を使用することができる。例えば、ケール搾汁物やその乾燥物等が使用可能である。
【0019】
グルコラファニン及び/又はスルフォラファンを含有する植物の加工品、すなわちその粉砕物、凍結乾燥物、及び搾汁は、当業者によって通常用いられる処理方法で、上記植物を処理することにより得ることができる。また、抽出物は、上記の植物から当業者によって通常用いられる抽出処理方法によって得ることができる。例えば、当該植物を粉砕し、水又は含水溶媒(水−アルコール混合溶液等)で含浸又は抽出する方法が挙げられる。
【0020】
斯くして得られた植物の加工品は、必要に応じて、合成吸着剤による処理、ろ過処理、濃縮処理等の分離・精製工程に供することにより、グルコラファニン及び/又はスルフォラファンの含有割合を高めてもよい。
【0021】
本発明のグルコラファニン及びスルフォラファンは、後記実施例に示すように、正常ヒト皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸産生を促進する。したがって、グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品は、ヒアルロン酸産生促進剤となり、ヒアルロン酸産生促進のために使用できる。
本発明において、ヒアルロン酸の産生促進とは、ヒト皮膚真皮の繊維芽細胞のヒアルロン酸の産生能を促進または改善し、これにより、ヒト皮膚においてヒアルロン酸量が増大し得ることを意味する。皮膚のヒアルロン酸量を増加させることによって、皮膚保湿機能が維持・改善され、乾燥肌、肌荒れの予防又は改善に効果を奏する。したがって、グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品は、皮膚保湿機能改善剤にもなり得る。
【0022】
上記ヒアルロン酸産生促進剤は、ヒアルロン酸産生を促進するため、皮膚保湿機能を改善するための医薬品、医薬部外品、化粧品、サプリメント又は食品(ヒアルロン酸産生促進用食品、皮膚保湿機能改善用食品)となり、或いはこれらへ配合するための素材又は製剤となり得る。また、本発明のグルコラファニン及びスルフォラファンは何れも経口摂取した場合に体内に吸収されることから、細胞評価試験の結果と同じ効果を奏すると考えられる。
尚、上記食品には、一般飲食品のほか、ヒアルロン酸産生、皮膚保湿機能改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が包含される。
【0023】
本発明のグルコラファニン及びスルフォラファンを含む上記医薬品(医薬部外品を含む)は、任意の投与形態で投与され得る。投与に際しては、有効成分を経口、直腸内、注射、外用等の投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬品製剤の形態で投与することができる。
【0024】
例えば、経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥剤等が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、賦形剤等の慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0025】
また、外用剤(化粧品、医薬品および医薬部外品を含む。)の形態としては、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤の他、各種化粧品の形態(例えば、化粧水、乳液、各種クリーム、パック、美容液等の基礎化粧料、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の頭髪用製品、入浴剤等の浴用化粧品、ファンデーション、口紅、マスカラ、アイシャドウ等のメーキャップ化粧品、日焼け止め等)が挙げられる。
【0026】
また、上記外用剤には、必須成分であるグルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品の他に、通常、外用剤に配合される任意成分を配合することができる。このような任意成分としては、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、粉体、ビタミン類、アミノ酸類、水溶性高分子、発泡剤、顔料、植物抽出物、動物由来成分、海藻抽出物、各種薬剤、添加剤、水等を挙げることができる。
【0027】
また、グルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を配合した上記食品の形態は、各種食品組成物の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のグルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記の医薬品(医薬部外品を含む)、化粧品及び食品中のグルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、グルコラファニン及び/又はスルフォラファンとして、製剤全質量の0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜1質量%ある。
【0029】
本発明のグルコラファニン及び/又はスルフォラファン、又はこれを含有する植物若しくはその加工品を医薬品、化粧品又は食品として、或いは医薬品や食品に配合して使用する場合の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、グルコラファニン及び/又はスルフォラファンとして、好ましくは0.1mg〜100g、より好ましくは1mg〜10gである。
また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分け、数週間〜数ヶ月間継続して投与することが好ましい。
【実施例】
【0030】
実施例1.ヒアルロン酸産生促進作用の評価
(1)試験品
・グルコラファニン:Glucoraphanin、 Cayman Chemical社
・スルフォラファン:R,S−Sulforaphane、LKT Laboratories社
【0031】
(2)細胞及び培養条件
細胞株:正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、クラボウ)
細胞は、37℃、5%二酸化炭素の雰囲気下にて培養を行った。培地は、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Life Technologies社)を使用した。
【0032】
(3)試験品溶液の調製
エタノールにグルコラファニン、スルフォラファンを各々溶解し、以下に示す濃度の試験品溶液を調製した。
・グルコラファニン:15.625、3.906μg/mL
・スルフォラファン:0.39、0.097μg/mL
【0033】
(4)ヒアルロン酸産生試験
NHDFを96well micro plateに1×10
4cells/100μL/wellの濃度で播種し、24時間、前培養した。前培養後、上記で調製した各試験品溶液を各wellに加え48時間の培養を行った。培養上清を回収し、ELISA法(Hyaluronan Quantikine ELISA Kit(R&D Systems社))にてヒアルロン酸量を測定した。試験品未添加群(コントロール)のヒアルロン酸量を100%として、各試験品添加群のヒアルロン酸量産生率を、全細胞の総タンパク質量を測定しタンパク質量当たりのヒアルロン酸産生量で求めた。試験は、3回実施しその平均値を算出した(n=3)。
【0034】
(5)結果
結果を
図1及び2に示す。
グルコラファニン及びスルフォラファンには、コントロールと比較して有意なヒアルロン酸産生率の増加が認められた。