【文献】
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2000年 5月 9日,Vol.97, No.10,pp.5399-5404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜7のいずれか1項に記載のタンパク質をアフィニティーリガンドとして水不溶性の基材からなる担体に固定することからなる、請求項12〜14のいずれか1項に記載のアフィニティー分離マトリックスの製造方法。
請求項12〜14のいずれか1項に記載のアフィニティー分離マトリックスに免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を吸着させることを含む、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の精製方法。
溶出される免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に含まれる、宿主由来タンパク質、および/または免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の凝集体の含量が低減されている、請求項17に記載の精製方法。
【背景技術】
【0002】
抗体は、抗原と呼ばれる物質に特異的に結合する機能、および、他の生体分子や細胞と協同して抗原を有する因子を無毒化・除去する機能を有する。抗体という名は、このような抗原に結合するという機能を重視した名前であり、物質としては「免疫グロブリン(Ig)」と呼ばれる。
【0003】
近年、遺伝子工学、タンパク質工学、および、細胞工学の発展に伴い、抗体医薬と呼ばれる、抗体の有する機能を利用した医薬品の開発が盛んに行われている。抗体医薬は、従来の医薬と比較して、標的分子に対してより特異的に働くために、副作用を軽減させ、かつ、高い治療効果が得られることが期待されており、実際に様々な病態の改善に寄与している。
【0004】
一方、抗体医薬は、生体に大量に投与されることから、他の組み換えタンパク質医薬品と比較してその純度が品質に与える影響は大きいと言われている。よって、純度の高い抗体を製造するために、抗体に特異的に結合する分子をリガンドとして用いた吸着材料を利用するアフィニティークロマトグラフィー等の手法が一般的に用いられている。
【0005】
抗体医薬として開発されているのは、基本的にモノクローナル抗体であり、組み換え培養細胞技術等を用いて大量に生産されている。「モノクローナル抗体」とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体を指す。現在上市されている抗体医薬のほとんどは、分子構造的には免疫グロブリンG(IgG)サブクラスである。IgG抗体にアフィニティーを有する免疫グロブリン結合性タンパク質として、プロテインAがよく知られている。プロテインAは、グラム陽性細菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)によって生産される細胞壁タンパク質の1種であり、シグナル配列S、5つの免疫グロブリン結合性ドメイン(Eドメイン、Dドメイン、Aドメイン、Bドメイン、Cドメイン)、および、細胞壁結合ドメインであるXM領域から構成されている(非特許文献1)。抗体医薬製造工程における初期精製工程(キャプチャー工程)には、プロテインAがリガンドとして水不溶性担体に固定化されたアフィニティークロマトグラフィー用カラム(以下、プロテインAカラム)が一般的に利用されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
プロテインAカラムの性能を改良するために、様々な技術開発がなされてきた。リガンドの側面からの技術開発も進んでいる。最初は天然型のプロテインAがリガンドとして利用されてきたが、タンパク質工学的に改変を加えた組み換えプロテインAをリガンドとして、カラムの性能を改良する技術も多数見られるようになった。
【0007】
代表的な組み換えプロテインAとしては、免疫グロブリン結合活性がないXM領域を除去した組み換えプロテインAが挙げられる(rProtein A Sepharose(登録商標)、GEヘルスケア・ジャパン(株)製)。XM領域を除去した組み換えプロテインAをリガンドとしたカラムは、従来品よりもタンパク質の非特異吸着が抑えられるという利点があり、現在、工業的にも広く使用されている。
【0008】
その他に、プロテインAに1個のCysを変異導入した組み換えプロテインA(特許文献1)、または、複数のLysを変異導入した組み換えプロテインA(特許文献2)をリガンドとして利用する発明がある。これらの技術は、水不溶性担体への固定化において効果を示し、抗体のカラムへの結合容量や固定化リガンドのリーク低減で利点を有する。
【0009】
改変を加えた組み換えプロテインAとして、Bドメインに変異を導入した改変ドメイン(Zドメインと呼ばれる)をリガンドに利用する技術もよく知られている(非特許文献1、非特許文献4、特許文献3)。Zドメインは、Bドメインに対して、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入した改変ドメインである。なお、Zドメインでは、Bドメイン1位のAlaをValに置換する変異も同時に導入されているが、これは、遺伝子工学的に複数のドメインを連結したコード遺伝子を作製し易くすることを目的とした変異であり、ドメインの機能に対して影響は及ぼさない(例えば特許文献4にはZドメイン1位のValをAlaに置換した変異体を用いた実施例がある)。
【0010】
ZドメインはBドメインよりもアルカリ耐性が高いことが知られており、殺菌・洗浄効果の高いアルカリ溶液を用いた洗浄によるカラムの繰返し使用に利点を有する。Zドメインをベースとして、Asnを他のアミノ酸に置換することによって更なるアルカリ耐性を付与したリガンドが発明され(特許文献5、特許文献6)、工業的使用も開始されている。
【0011】
このように、プロテインAの免疫グロブリン結合性ドメイン(E、D、A、B、および、Cドメイン)に対して、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入することの有用性は広く認知されている。実際に、1987年にこの「G29A」の変異が公開されてから、後に開発された改変プロテインAに関する先行技術においても、この「G29A」の変異が導入されている(特許文献2、特許文献4、特許文献6)。
【0012】
Zドメインのもう1つの特徴としては、免疫グロブリンのFab領域への結合能が弱くなっていることが挙げられる(非特許文献5)。この特徴によって、結合した抗体を酸で解離する工程において、抗体が解離され易いという利点がある(非特許文献1、特許文献7)。抗体が解離され易いと、より少ない容量の溶出液でより高濃度の抗体含有溶出液を回収可能とすることができる。近年、抗体医薬製造において1バッチあたりの細胞培養液量が10,000リットルを超えるようになり、抗体発現レベルはこの数年で10g/Lまでの向上が実現しつつある(非特許文献6)。下流となる精製工程も、必然的にその処理スケールの増大への対応が求められており、少ない容量の溶出液でより高濃度の抗体含有溶出液を回収可能とする技術改良への期待は非常に大きい。
【0013】
Zドメインの他に、改変プロテインA・リガンドとして、プロテインAのCドメインをベースとした研究が進められている(特許文献4)。これらのリガンドは、野生型Cドメインが本来有しているアルカリ耐性の高さを生かすことを特徴としており、Bドメインをベースとして作成されたZドメインに代わる、新しいベース・ドメインとして注目されている。しかしCドメインに関して検証した結果、Cドメインに結合した抗体を酸で解離する工程において、抗体が解離されにくいという欠点があった。非特許文献2や特許文献4において、Cドメインの免疫グロブリンのFab領域への結合能が強いことが示されており、この特徴が、抗体が酸で解離されにくい原因となっていると推測された。この欠点を改善するために、29位のGlyをAlaに置換する変異を導入したCドメインを用いて抗体酸解離特性を検証したところ、野生型のCドメインと比較すると抗体が解離されやすい傾向が見られたが、まだ不十分であった。抗体は低pHにおいて凝集したり、抗体活性が低下したりすることが知られている。このような現象は、抗体の製造において精製工程の負荷(工数の増加や収率の低減)になるだけでなく、医薬品として重大な副作用をもたらす場合もある。そのため、より高いpHで溶出可能なプロテインAクロマト担体が必要とされている。抗体酸解離特性の向上に関する変異としては、33位のSerの置換、18位のHisの置換や、各種アミノ酸残基のHisへの置換などが知られている(特許文献8、9、10)。
【0014】
一方、プロテインAの変異導入については数多く研究されているが、プロテインAの抗体部位、特にFc結合部位については、アミノ酸置換変異導入により、抗体結合活性の著しい低下を引き起こすことがある。その中でも13位のPhe、17位のLeu、31位のIleといった疎水性アミノ酸残基はFcとの結合に不可欠なアミノ酸残基とされている(非特許文献7、8)。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明のタンパク質は、配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、またはCドメインに由来するアミノ酸配列において、Fc結合部位の疎水性アミノ酸残基を他の疎水性アミノ酸残基または極性無電荷アミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、前記置換前と比較して酸性pH領域での抗体結合能が低下していることを特徴とするタンパク質である。
【0041】
プロテインAは、免疫グロブリン結合性ドメインであるE、D、A、B、およびCドメインからなるタンパク質である。E、D、A、B、およびCドメインは、免疫グロブリンの相補性決定領域(CDR)以外の領域に結合することができる免疫グロブリン結合性ドメインであり、いずれのドメインも、免疫グロブリンのFc領域、Fab領域、および、Fab領域中の特にFv領域に結合する活性を有する。なお、本発明においてプロテインAの由来は特に限定されないが、スタフィロコッカス(Staphylococcus)に由来するプロテインAであることが好ましい。
【0042】
「タンパク質」という用語は、ポリペプチド構造を有するあらゆる分子を含むものであって、断片化された、または、ペプチド結合によって連結されたポリペプチド鎖も、「タンパク質」という用語に包含される。また、「ドメイン」とは、タンパク質の高次構造上の単位であり、数十から数百のアミノ酸残基配列から構成され、なんらかの物理化学的または生物化学的な機能を発現するに十分なタンパク質の単位をいう。
【0043】
ドメインに由来するアミノ酸配列は、アミノ酸を置換する前のアミノ酸配列を指す。ドメインに由来するアミノ酸配列は、プロテインAのE、D、A、B、またはCドメインの野生型アミノ酸配列のみに限定されず、アミノ酸の置換、挿入、欠失、および、化学修飾により部分的に改変されたアミノ酸配列であっても、Fc領域への結合能を有しているタンパク質である限りこれに含まれる。ドメインに由来するアミノ酸配列として、例えば、配列番号1〜5に記載のスタフィロコッカスのプロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインを構成するアミノ酸配列が挙げられ、また、プロテインAのE、D、A、B、および、Cドメインに対して、Cドメインの29位に対応するGlyをAlaに置換する変異を導入したアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。また、BドメインにA1VとG29Aという変異を導入したZドメインもFc領域への結合能を有しているので、ドメインに由来するアミノ酸配列に該当する。ドメインに由来するアミノ酸配列は、化学安定性が高いドメイン、または、その変異体であることが好ましい。
【0044】
ドメインに由来するアミノ酸配列は、Fc領域への結合能を有する。ドメインに由来するアミノ酸配列と、配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、またはCドメインとの配列同一性は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明のタンパク質は、プロテインAのE、D、A、B、またはCドメインに由来するアミノ酸配列において、Fc結合部位の疎水性アミノ酸残基を他の疎水性アミノ酸残基または極性無電荷アミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列を含む。
【0046】
アミノ酸の置換は、元のアミノ酸を削除し、その位置に、種類の異なる別のアミノ酸を追加する変異のことを意味する。なお、アミノ酸を置換する変異の表記について、置換位置の番号の前に、野生型、または、非変異型のアミノ酸を付し、置換位置の番号の後に、変異したアミノ酸を付して表記する。例えば、29位のGlyをAlaに置換する変異は、G29Aと記載する。
【0047】
Fc結合部位の疎水性アミノ酸残基としては、Cドメインの5位に対応するPhe、13位に対応するPhe、17位に対応するLeu、31位に対応するIleが挙げられる。なお、「対応する」とは、
図1に示すようにプロテインAのE、D、A、B、およびCドメインをアラインした時に、縦列に同じ位置となることをいう。
【0048】
置換する他の疎水性アミノ酸残基としては、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Met、Phe、Trpが挙げられ、中でもAla、Val、Leu、Ile、Pheが好ましい。ここで、他の疎水性アミノ酸残基とは、置換の対象となる元の疎水性アミノ酸残基とは異なる疎水性アミノ酸残基を意味する。例えば、置換の対象となる元のアミノ酸残基がCドメインの5位または13位に対応するPheである場合には、他の疎水性アミノ酸残基としては、前述した他のアミノ酸残基のうちPhe以外のアミノ酸残基が挙げられる。置換の対象となる元のアミノ酸残基がCドメインの17位に対応するLeuである場合には、他の疎水性アミノ酸残基としては、前述した他のアミノ酸残基のうちLeu以外のアミノ酸残基が挙げられる。置換の対象となる元のアミノ酸残基がCドメインの31位に対応するIleである場合には、他の疎水性アミノ酸残基としては、前述した他のアミノ酸残基のうちIle以外のアミノ酸残基が挙げられる。
【0049】
置換する極性無電荷アミノ酸残基としては、Ser、Thr、Gln、Asn、Tyr、Cysが挙げられ、中でもSer、Thr、Gln、Asn、Tyrが好ましい。
【0050】
より具体的な置換態様としては、Cドメインの5位に対応するPheのAla、Tyrへの置換、Cドメインの13位に対応するPheのTyrへの置換、Cドメインの17位に対応するLeuのIle、Val、Thrへの置換、Cドメインの31位に対応するIleのLeu、Ser、Thr、Valが挙げられる。この中でも、CドメインにおけるF5A、F5Y、CドメインにおけるF13Y、CドメインにおけるL17I、L17V、L17T、CドメインにおけるI31L、I31S、I31T、I31V、BドメインにおけるI31L、I31Tが好ましい。
【0051】
Fc結合部位のアミノ酸置換の数は、置換前と比較して酸性pH領域での抗体結合能が低下していれば特に限定されないが、変異導入前のタンパク質の立体構造の維持や中性領域での抗体結合能の維持の観点からは、4個以下が好ましく、2個以下であることがより好ましい。2個のアミノ酸置換の態様としては、例えばCドメインにおけるL17IとI31Lの置換や、E、D、A、またはBドメインにおいて、Cドメインの17位及び31位に対応する位置のアミノ酸を同様に置換する方法が挙げられる。
【0052】
置換前と比較して酸性pH領域での抗体結合能が低下している限り、Fc結合部位の疎水性アミノ酸残基の他の疎水性アミノ酸残基または極性無電荷アミノ酸残基への置換する以外に、任意のアミノ酸置換を含んでいてもよい。このようなアミノ酸置換としては、CドメインにおけるG29Aの置換が挙げられる。また、E、D、A、またはBドメインにおいて、Cドメインの29位に対応する位置のアミノ酸の同様の置換が挙げられる。
【0053】
さらに、任意のアミノ酸置換としては、Cドメインの40位に対応するValのVal以外のアミノ酸残基への置換が挙げられ、具体的にはCドメインにおけるV40Qの置換が挙げられる。また、疎水性アミノ酸残基、酸性アミノ酸残基、または極性無電荷アミノ酸残基の塩基性アミノ酸残基への置換が挙げられ、具体的にはCドメインにおけるCドメインにおけるA12R、L19R、L22R、Q26R、Q32R、S33H、V40Hの置換、またはE、D、A、B、またはBドメインにおける同様の置換が挙げられる。
【0054】
配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、またはCドメインに由来するアミノ酸配列において、Fc結合部位の疎水性アミノ酸残基を他の疎水性アミノ酸残基または極性無電荷アミノ酸残基に置換して得られるアミノ酸配列と、配列番号1〜5に記載のプロテインAのE、D、A、B、またはCドメインとの配列同一性が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明のタンパク質において、次に示すアミノ酸残基が、90%以上保持されていることが好ましく、95%以上保持されていることがより好ましい;Gln−9、Gln−10、Tyr−14、Pro−20、Asn−21、Leu−22、Gln−26、Arg−27、Phe−30、Leu−34、Pro−38、Ser−39、Leu−45、Leu−51、Asn−52、Gln−55、およびPro−57(残基番号はCドメインに対応する)。
【0056】
本発明のタンパク質は、置換前と比較して酸性pH領域での抗体結合能が低下していることを特徴とする。酸性pH領域としては、弱酸性領域、具体的にはpH3〜6の範囲が挙げられる。
【0057】
酸性領域での抗体結合能はIgG Sepharoseを用いたpHグラジエント溶出試験(実施例1)、分子間相互作用解析装置を用いた酸性pH領域での抗体結合能の測定や、リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスの抗体溶出試験(実施例5)により評価できる。例えば、IgG Sepharoseを用いたpHグラジエント溶出試験の場合、変異導入前(例えば、C−G29A.2d)のタンパク質と比較して、酸性領域での抗体結合能が低下した変異体はより高いpHで溶出する。変異導入前のタンパク質の溶出ピークのピークトップから算出される溶出pHを基準とした場合に、変異体の溶出pHが0.05以上高いことが好ましく、0.1以上高いことがより好ましい。また、リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスの抗体溶出試験では、高pHの溶出液(例えば、pH4)を用いて抗体を溶出した場合に、変異導入前(例えば、C−G29A.2d)のリガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスと変異体を固定化したアフィニティー分離マトリックスのそれぞれの抗体回収率を比較する。変異導入前のリガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスと比較して変異体を固定化したアフィニティー分離マトリックスの抗体回収率が1%以上高いことが好ましく、5%以上高いことがより好ましい。
【0058】
本発明のタンパク質は、前記アミノ酸置換が導入された単一のドメインのみからなるタンパク質であってもよく、前記アミノ酸置換が導入されたドメインを2個以上連結して得られる複数ドメインからなるタンパク質であってもよい。
【0059】
複数ドメインからなるタンパク質である場合、連結するタンパク質は、同種のドメインに由来するタンパク質(ホモダイマー、ホモトリマー等のホモポリマー)であってもよいし、種類の異なるドメインに由来するタンパク質(ヘテロダイマー、ヘテロトリマー等のヘテロポリマー)であってもよい。連結するタンパク質の数は、2個以上であることが好ましく、2〜10個であることがより好ましく、2〜6個であることがさらに好ましい。
【0060】
複数ドメインからなるタンパク質において、単量体タンパク質同士、単ドメイン同士の連結のされ方としては、リンカーとなるアミノ酸残基を介さずに連結する方法、または、1または複数のアミノ酸残基で連結する方法が挙げられるが、これらに限定されない。連結に用いられるアミノ酸残基の数は特に限定されず、連結様式および連結数も、単量体タンパク質の3次元立体構造を不安定化しないものであれば特に限定されない。
【0061】
また、前記タンパク質、または前記複数ドメインからなるタンパク質を1つの構成成分として、機能の異なる他のタンパク質と融合されている融合タンパク質も、本発明のタンパク質に含まれる。融合タンパク質の例としては、アルブミンやGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)、MBP(マルトース結合タンパク質)が融合したタンパク質を例として挙げることができるが、これに限定されるものではない。GST、MBPとの融合タンパク質として発現することにより、タンパク質の精製を容易にすることができる。また、DNAアプタマーなどの核酸、抗生物質などの薬物、PEG(ポリエチレングリコール)などの高分子が融合されている場合も、本発明と同じ効果を奏するものであれば、本発明のタンパク質に含まれる。
【0062】
本発明は、上述のタンパク質をコードするDNAにも関する。DNAは、それを構成する塩基配列を翻訳したアミノ酸配列が、本発明のタンパク質を構成するものであればよい。そのような塩基配列は、通常用いられる公知の方法、例えば、ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(以下、PCRと略す)法を利用して取得できる。また、公知の化学合成法で合成することも可能であり、さらに、DNAライブラリーから得ることもできる。当該塩基配列は、コドンが縮重コドンで置換されていてもよく、翻訳されたときに同一のアミノ酸をコードしている限り、本来の塩基配列と同一である必要性は無い。
【0063】
本発明のDNAは、野生型または変異型のプロテインAのドメインをコードする従来公知のDNAに対して、部位特異的に変異を導入することにより得られる。部位特異的な変異の導入は、以下のように、組み換えDNA技術、PCR法等を用いて行うことができる。
【0064】
組み換えDNA技術による変異の導入は、例えば、本発明のタンパク質をコードする遺伝子中において、変異導入を希望する目的の部位の両側に適当な制限酵素認識配列が存在する場合に、それら制限酵素認識配列部分を前記制限酵素で切断し、変異導入を希望する部位を含む領域を除去した後、化学合成等によって目的の部位のみに変異導入したDNA断片を挿入するカセット変異法によって行うことができる。
【0065】
また、PCRによる部位特異的変異の導入は、例えば、タンパク質をコードする二本鎖プラスミドを鋳型として、+および−鎖に相補的な変異を含む2種の合成オリゴプライマーを用いてPCRを行うダブルプライマー法により、行うことができる。
【0066】
また、複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNAは、本発明の単量体タンパク質(1つのドメイン)をコードするDNAを、意図する数だけ直列に連結することにより作製することができる。例えば、複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNAの連結方法は、DNA配列に適当な制限酵素部位を導入し、制限酵素で断片化した2本鎖DNAをDNAリガーゼで連結することができる。制限酵素部位は1種類でもよいが、複数の異なる種類の制限酵素部位を導入することもできる。或いは、複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNAは、プロテインAをコードするDNA(例えば、国際公開第06/004067号)に上記の変異導入法を適用することで作製することも可能である。ここで、複数ドメインからなるタンパク質をコードするDNAにおいて、各々の単量体タンパク質をコードする塩基配列が同一の場合には宿主にて相同組み換えを誘発する可能性があるので、連結されている単量体タンパク質をコードするDNAの塩基配列間の配列同一性が90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。
【0067】
本発明のベクターは、前述したタンパク質または複数ドメインからなるタンパク質をコードする塩基配列、およびその塩基配列に作動可能に連結された宿主で機能しうるプロモーターを含む。通常は、前述したタンパク質をコードするDNAを、ベクターに連結もしくは挿入することにより得ることができる。
【0068】
遺伝子を挿入するためのベクターは、宿主中で自律複製可能なものであれば特に限定されず、プラスミドDNAやファージDNAをベクターとして用いることができる。遺伝子を挿入するためのベクターは、例えば、大腸菌を宿主として用いる場合には、pQE系ベクター(キアゲン社製)、pET系ベクター(メルク社製)、および、pGEX系ベクター(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)のベクターなどが挙げられる。ブレビバチルス属細菌を宿主として用いる場合には、例えば、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、または、pHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pHT210(特開平6−133782号公報)、または、大腸菌とブレビバチルス属細菌とのシャトルベクターであるpNCMO2(特開2002−238569号公報)などを使用することができる。
【0069】
ベクターで宿主を形質転換することにより、形質転換体を得ることができる。宿主としては、特に限定されるものではないが、安価に大量生産する上では、大腸菌、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のバクテリア(真正細菌)を好適に使用しうる。より好ましくは、枯草菌、ブレビバチルス属、スタフィロコッカス属、ストレプトコッカス属、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)等のグラム陽性菌がよい。さらに好ましくは、プロテインAの大量生産への適応例(国際公開第06/004067号)が公知である、ブレビバチルス属細菌がよい。
【0070】
ブレビバチルス属細菌としては、特に限定されないが、例えば、Brevibacillus agri、B.borstelensis、B.brevis、B.centrosporus、B.choshinensis、B.formosus、B.invocatus、B.laterosporus、B.limnophilus、B.parabrevis、B.reuszeri、B.thermoruberが挙げられる。好ましくは、ブレビバチルス・ブレビス47株(JCM6285)、ブレビバチルス・ブレビス47K株(FERM BP−2308)、ブレビバチルス・ブレビス47−5Q株(JCM8970)、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31株(FERM BP−1087)およびブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK株(FERM BP−4573)が挙げられる。生産量の向上などの目的に応じて、上記ブレビバチルス属細菌のプロテアーゼ欠損株、高発現株、または、芽胞形成能欠失株のような変異株(または、誘導株)を使用してもよい。具体的に挙げれば、ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31由来のプロテアーゼ変異株であるブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−OK(特開平6−296485号公報)や、芽胞形成能を有しないブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31−SP3(国際公開第05/045005号)が使用できる。
【0071】
宿主細胞へのベクターの導入方法としては、例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、アグロバクテリウム感染法、パーティクルガン法、または、ポリエチレングリコール法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、得られた遺伝子の機能を宿主で発現する方法としては、本発明で得られた遺伝子をゲノム(染色体)に組み込む方法なども挙げられる。
【0072】
上記の形質転換体、またはDNAを用いた無細胞タンパク質合成系により、タンパク質を製造することができる。
【0073】
形質転換体を用いてタンパク質を製造する場合、形質転換細胞を培地で培養し、培養菌体中(菌体ぺリプラズム領域中も含む)、または、培養液中(菌体外)に本発明のタンパク質を生成蓄積させることにより製造することができ、該培養物から所望のタンパク質を採取することができる。
【0074】
形質転換細胞を用いてタンパク質を製造する場合には、形質転換体の細胞内および/またはペリプラズム領域内にタンパク質を蓄積することも可能である。この場合、細胞内に蓄積すると、発現タンパク質の酸化を防ぐことができ、培地成分との副反応もない点で有利であり、ペリプラズム領域内に蓄積すると、細胞内プロテアーゼによる分解を抑えることができる点で有利である。一方、タンパク質を製造する場合に、形質転換体の細胞外にタンパク質を分泌することも可能である。この場合、菌体破砕や抽出の工程が不要となるため、製造コストが抑えられる点で有利である。
【0075】
本発明の形質転換細胞を培地で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。得られた形質転換体の培養に用いる培地は、該タンパク質を高効率、高収量で生産できるものであれば特に制限は無い。具体的には、グルコース、蔗糖、グリセロール、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、カザミノ酸などの炭素源や窒素源を使用することが出来る。その他、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マグネシウム塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩等の無機塩類が必要に応じて添加される。栄養要求性の宿主細胞を用いる場合は、生育に要求される栄養物質を添加すればよい。また、必要であればペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ネオマイシンなどの抗生物質が添加されてもよい。
【0076】
さらに、菌体内外に存在する宿主由来のプロテアーゼによる当該目的タンパク質の分解、低分子化を抑えるために、公知の各種プロテアーゼ阻害剤、すなわち、Phenylmethane sulfonyl fluoride(PMSF)、Benzamidine、4−(2−aminoethyl)−benzenesulfonyl fluoride(AEBSF)、Antipain、Chymostatin、Leupeptin、Pepstatin A、Phosphoramidon、Aprotinin、Ethylenediamine tetra acetic acid(EDTA)、および/または、その他市販されているプロテアーゼ阻害剤を適当な濃度で添加してもよい。
【0077】
さらに、本発明のタンパク質を正しくフォールディングさせるために、例えば、GroEL/ES、Hsp70/DnaK、Hsp90、Hsp104/ClpBなどの分子シャペロンを利用してもよい。この場合、例えば、共発現、または、融合タンパク質化などの手法で、本発明のタンパク質と共存させることができる。なお、本発明のタンパク質の正しいフォールディングを目的とする場合には、正しいフォールディングを助長する添加剤を培地中に加える、および、低温にて培養するなどの手法もあるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
大腸菌を宿主として得られた形質転換細胞を培養する培地としては、LB培地(トリプトン 1%、酵母エキス 0.5%、NaCl 1%)、または、2×YT培地(トリプトン 1.6%、酵母エキス 1.0%、NaCl 0.5%)等が挙げられる。
【0079】
ブレビバチルス属細菌を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、TM培地(ペプトン 1%、肉エキス 0.5%、酵母エキス 0.2%、グルコース 1%、pH7.0)、または、2SL培地(ペプトン 4%、酵母エキス 0.5%、グルコース 2%、pH7.2)等が挙げられる。
【0080】
また、培養温度は、15〜42℃、好ましくは20〜37℃で、通気攪拌条件で好気的に数時間〜数日培養することにより本発明のタンパク質を、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)、または、培養溶液(細胞外)に蓄積させて回収する。場合によっては、通気を遮断し嫌気的に培養してもよい。
【0081】
組み換えタンパク質が分泌生産される場合には、培養終了後に、遠心分離、ろ過などの一般的な分離方法で、培養細胞と分泌生産されたタンパク質を含む上清を分離することにより生産された組み換えタンパク質を回収することができる。
【0082】
また、培養細胞内(ぺリプラズム領域内を含む)に蓄積される場合にも、例えば、培養液から遠心分離、ろ過などの方法により菌体を採取し、次いで、この菌体を超音波破砕法、フレンチプレス法などにより破砕し、および/または、界面活性剤等を添加して可溶化することにより、細胞内に蓄積生産されたタンパク質を回収することができる。
【0083】
本発明のタンパク質を無細胞タンパク質合成系により製造する場合、無細胞タンパク質合成系としては、特に限定されず、例えば、原核細胞由来、植物細胞由来、高等動物細胞由来の合成系などを使用することができる。
【0084】
本発明のタンパク質の精製はアフィニティークロマトグラフィー、陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせることによって行うことができる。
【0085】
得られた精製物質が目的のタンパク質であることの確認は、通常の方法、例えばSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、N末端アミノ酸配列分析、ウエスタンブロッティング等により行うことができる。
【0086】
上記の方法により生産したタンパク質を、水不溶性の基材からなる担体にアフィニティーリガンドとして固定化して、アフィニティー分離マトリックスを製造することができる。ここで、「アフィニティーリガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から目的の分子を選択的に捕集(結合)する物質(官能基)を指す用語であり、本発明においては、免疫グロブリンに対して特異的に結合するタンパク質を指す。本明細書においては、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティーリガンド」と同意である。
【0087】
本発明に用いる水不溶性の基材からなる担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレンなどの合成高分子や、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの多糖類からなる有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる有機−有機、有機−無機などの複合担体などが挙げられる。市販品としては、多孔質セルロースゲルであるGCL2000、アリルデキストランとメチレンビスアクリルアミドを共有結合で架橋したSephacryl S−1000、メタクリレート系の担体であるToyopearl、アガロース系の架橋担体であるSepharose CL4B、および、セルロース系の架橋担体であるCellufineなどを例示することができる。ただし、本発明における水不溶性担体は、例示したこれらの担体のみに限定されるものではない。
【0088】
また、本発明に用いる水不溶性担体は、本アフィニティー分離マトリックスの使用目的および方法からみて、表面積が大きいことが望ましく、適当な大きさの細孔を多数有する多孔質であることが好ましい。担体の形態としては、ビーズ状、モノリス状、繊維状、膜状(中空糸を含む)などいずれも可能であり、任意の形態を選ぶことができる。
【0089】
リガンドの固定化方法については、例えば、リガンドに存在するアミノ基、カルボキシル基、または、チオール基を利用した、従来のカップリング法で担体に結合してよい。カップリング法としては、担体を臭化シアン、エピクロロヒドリン、ジグリシジルエーテル、トシルクロライド、トレシルクロライド、ヒドラジン、および、過ヨウ素酸ナトリウムなどと反応させて担体を活性化し(あるいは担体表面に反応性官能基を導入し)、リガンドとして固定化する化合物とカップリング反応を行い固定化する方法、また、担体とリガンドとして固定化する化合物が存在する系にカルボジイミドのような縮合試薬、または、グルタルアルデヒドのように分子中に複数の官能基を持つ試薬を加えて縮合、架橋することによる固定化方法が挙げられる。
【0090】
また、リガンドと担体の間に複数の原子からなるスペーサー分子を導入してもよいし、担体にリガンドを直接固定化してもよい。したがって、固定化のために、本発明のタンパク質に対して、化学修飾してもよいし、固定化に有用なアミノ酸残基を加えてもよい。固定化に有用なアミノ酸としては、側鎖に固定化の化学反応に有用な官能基を有しているアミノ酸が挙げられ、例えば、側鎖にアミノ基を含むLysや、側鎖にチオール基を含むCysが挙げられる。本発明の本質は、本発明においてタンパク質に付与した効果が、該タンパク質をリガンドとして固定化したマトリックスにおいても同様に付与されることにあり、固定化のためにいかように修飾・改変しても、本発明の範囲に含まれる。
【0091】
アフィニティー分離マトリックスは、本発明のタンパク質を固定化して得られるので、本発明のタンパク質自体の活性に基づき、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に結合することができる。よって、本発明のタンパク質およびアフィニティー分離マトリックスを利用して、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質をアフィニティーカラム・クロマトグラフィ精製法により分離精製することが可能となる。「免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質」とは、プロテインAが結合するFc領域側の部位を含むタンパク質のことである。ただし、プロテインAが結合できれば、Fc領域を完全に含むタンパク質である必要はない。
【0092】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質としては、免疫グロブリンG、または、免疫グロブリンG誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
前記「免疫グロブリンG誘導体」とは、例えば、ヒト免疫グロブリンGの一部のドメインを他生物種の免疫グロブリンGのドメインに置き換えて融合させたキメラ型免疫グロブリンGや、ヒト免疫グロブリンGのCDR(Complementarity Determinig Regions)部分を他生物種抗体のCDR部分に置き換えて融合させたヒト型化免疫グロブリンG、Fc領域の糖鎖に分子改変を加えた免疫グロブリンG、ヒト免疫グロブリンGのFv領域とFc領域とを融合させた人工免疫グロブリンG、有用タンパク質とヒト免疫グロブリンGのFc領域とを融合させた融合タンパク質などの、プロテインAが結合し得る改変型人工タンパク質を総称する名称である。有用タンパク質としては、各種受容体、サイトカイン、ホルモン、酵素が挙げられる。例えば、受容体としてはTNF受容体、VEGF受容体、CTLA4の細胞外領域が挙げられ、サイトカインとしてはトロンボポエチン受容体ペプチドが挙げられ、ホルモンとしてはGLP−1ペプチドが挙げられ、酵素としては血液凝固第VIII因子、血液凝固第IX因子、ホスファターゼが挙げられる。
【0094】
また、結合する領域をFab領域(特にFv領域)、および、Fc領域、というように広く定義したが、抗体の立体構造はすでに既知であるので、本発明のタンパク質およびアフィニティー分離マトリックスが結合する対象となるタンパク質は、タンパク質工学的にプロテインAが結合する領域の立体構造を保持した上で、Fab領域やFc領域にさらなる改変(断片化など)が施されたものであってもよい。
【0095】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を、担体に固定化されたリガンドを含むアフィニティー分離マトリックスと接触させ、アフィニティー分離マトリックスに吸着させる工程、およびpH3.0以上の溶出液をアフィニティー分離マトリックスと接触させ、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を溶出させる工程により、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を精製できる。
【0096】
抗体様タンパク質の精製方法の第一工程では、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を、担体に固定化されたリガンドを含むアフィニティー分離マトリックスと接触させることにより、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質をアフィニティー分離マトリックスに吸着させる。具体的には、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を含有する緩衝液を中性となるように調整した後、該溶液をアフィニティー分離マトリックスを充填したアフィニティーカラムに通過させ、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を吸着させる。緩衝液としては、例えば、クエン酸、2−(N−morpholino)ethanesulfonic acid(MES)、Bis−Tris、N−(2−Acetamido)iminodiacetic acid(ADA)、Piperazine−1,4−bis(2−ethanesulfonic acid)(PIPES)、N−(2−Acetamido)−2−aminoethanesulfonic acid(ACES)、3−(N−Morpholino)−2−hydroxypropanesulfonic acid(MOPSO)、N,N−Bis(2−hydroxyethyl)−2−aminoethanesulfonicacid(BES)、3−(N−morpholino)propanesulfonic acid(MOPS)、N−Tris(hydroxymethyl)methyl−2−aminoethanesulfonic acid(TES)、4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazineethanesulfonicacid(HEPES)、Triethanolamine、3−[4−(2−hydroxyethyl)−1−piperazinyl]propanesulfonic acid(EPPS)、Tricine、Tris、Glycylglycine、Bicine、N−Tris(hydroxymethyl)methyl−3−aminopropanesulfonic acid(TAPS)、もしくはダルベッコリン酸緩衝生理食塩水などの緩衝液が挙げられる。免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質をアフィニティー分離マトリックスに吸着させる際のpHは、pH6.5〜8.5であることが好ましく、pH7〜8であることがより好ましい。抗体様タンパク質をアフィニティー分離マトリックスに吸着させる際の温度は、1〜40℃であることが好ましく、4〜25℃であることがより好ましい。
【0097】
第一工程に次いで、アフィニティーカラムに純粋な緩衝液を適量通過させ、カラム内部を洗浄してもよい。この時点では所望の抗体様タンパク質はカラム内のアフィニティー分離マトリックスに吸着されている。洗浄のために使用する緩衝液は、第一工程で使用する緩衝液と同じものを使用できる。
【0098】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の精製方法の第二工程では、pH3.5以上の溶出液をアフィニティー分離マトリックスと接触させ、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を溶出させる。溶出液としては、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、ギ酸緩衝液、プロピオン酸緩衝液、γ−アミノ酪酸緩衝液、乳酸緩衝液が挙げられる。
【0099】
溶出液のpHは、pH3.0以上であれば抗体を回収することが可能であるが、より高いpHの溶出液を用いれば抗体の凝集や活性低下を回避できるため好適である。具体的には、pH3.5以上がより好ましく、pH3.6以上がさらに好ましく、pH3.75以上がさらにより好ましく、pH3.8以上が特に好ましく、pH3.9以上が最も好ましく、pH4.0以上がより最も好ましい。溶出液のpHの上限はpH6.0であることが好ましい。
【0100】
アフィニティー分離マトリックスからの抗体の溶出には複数のpHの溶出液を用いて段階的に溶出することも可能である。また、pHの異なる2種類以上の溶出液(例えばpH6とpH3)を用いたグラジエント溶出でpHに勾配をつけて溶出すれば、より高度に精製できるため、好適である。本発明のアフィニティー分離マトリックスは特に高いpH条件下で抗体を溶出することが可能であるため、グラジエント溶出ではその一部にpH4〜6溶出液を含むことが好ましい。吸着時、洗浄時、溶出時の緩衝液には界面活性剤(例えば、Tween20やTriton−X100)やカオトロープ剤(例えば、尿素やグアニジン)、アミノ酸(例えば、アルギニン)を添加することも可能である。
【0101】
同様に、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を溶出させる際の、アフィニティー分離マトリックスを充填したアフィニティーカラム内のpHは、pH3.0以上であることが好ましく、pH3.5以上であることがより好ましく、pH3.6以上であることがさらに好ましく、pH3.75以上であることがさらにより好ましく、pH3.8以上であることが特に好ましく、pH3.9以上であることが最も好ましく、pH4.0以上であることがより最も好ましい。pH3.0以上の条件で溶出すると、抗体へのダメージを低減できる(Ghose S.他、Biotechnology and bioengineering、2005年、92巻、6号)。また、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を溶出させる際の、アフィニティー分離マトリックスを充填したアフィニティーカラム内のpHの上限はpH6.0であることが好ましい。本発明の精製方法では、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質をより中性側の酸性溶出条件で解離でき、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を酸性条件下で溶出させたときの溶出ピーク・プロファイルがよりシャープである。クロマトグラフィーの溶出ピーク・プロファイルがよりシャープになることで、より少ない容量の溶出液で、より高濃度の抗体含有溶出液を回収できる。
【0102】
免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を溶出する際の温度は、1〜40℃であることが好ましく、4〜25℃であることがより好ましい。
【0103】
本発明の精製方法により回収される免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の回収率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。回収率は、例えば、下記式により算出される。
回収率(%)=(溶出した免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の濃度(mg/mL)×溶出した液量(ml))÷(負荷した免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の濃度(mg/mL)×負荷した液量(ml))×100
【0104】
本発明の精製方法では、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を発現させるための宿主に由来するタンパク質(HCP)の混入を低減できる。また、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の凝集体の混入も低減できる。これらのタンパク質の混入により、抗体の製造における精製工程の負荷増大(工数の増加や収率の低減)や不純物タンパク質が医薬品として重大な副作用をもたらす可能性があるが、本発明の精製方法ではこれらの問題を回避できる。
【0105】
本発明のアフィニティー分離マトリックスは免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質と宿主由来タンパク質を分離するのに効果的である。宿主細胞タンパク質の由来となる宿主細胞は免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を発現できる細胞であり、特に遺伝子組換え技術が確立されているCHO細胞や大腸菌が例として挙げられる。これらの宿主由来タンパク質は、市販のイムノアッセイキットによって定量することが可能である。例えば、CHO HCP ELISAキット(Cygnus社)を用いれば、CHO細胞由来のタンパク質を定量できる。
【0106】
本発明のアフィニティー分離マトリックスでは免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の凝集体、例えば、溶出液中の免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質の総量に対して、少なくとも、1%、5%、もしくは10%の凝集体を含む溶液から、凝集していない免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質を精製し、凝集体を除去するのに効果的である。凝集体の含有量は、例えばゲルろ過クロマトグラフィーにより分析、定量することができる。
【0107】
本発明のアフィニティー分離マトリックスは、リガンド化合物や担体の基材が完全に機能を損なわない程度の、適当な強酸性、または、強アルカリ性の純粋な緩衝液(適当な変性剤、または、有機溶剤を含む溶液の場合もある)を通過させて洗浄することにより、再利用が可能である。
【0108】
本発明のタンパク質およびアフィニティー分離マトリックスの、免疫グロブリンのFc領域を含むタンパク質に対する親和性は、例えば、表面プラズモン共鳴原理を用いたBiacoreシステム(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)などのバイオセンサーによって試験することができる。本発明のタンパク質が有する免疫グロブリンに対する親和性は、ヒト免疫グロブリンG製剤に対する親和性を後述のBiacoreシステムにより測定した時に、結合定数(K
A)が10
6(M
−1)以上であることが好ましく、10
7(M
−1)以上であることがより好ましい。
【0109】
測定条件としては、本発明のタンパク質が免疫グロブリンのFc領域に結合した時の結合シグナルが検出できる条件であればよく、温度20〜40℃(一定温度)にて、pH6〜8の中性条件にて測定することで簡単に評価することができる。
【0110】
結合相手の免疫グロブリン分子としては、例えば、ポリクローナル抗体であるガンマグロブリン・ニチヤク(ヒト免疫グロブリンG)(日本製薬社製)や市販医薬品のモノクローナル抗体が挙げられる。
【0111】
親和性の違いは、同じ測定条件にて、同じ免疫グロブリン分子に対する結合反応曲線を得て、解析した時に得られる結合パラメータにて、変異を導入する前のタンパク質と変異を導入した後のタンパク質とを比較することで当業者が容易に検証することができる。
【0112】
結合パラメータとしては、例えば、結合定数(K
A)や解離定数(K
D)を用いることができる(永田他 著、「生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法」、シュプリンガー・フェアラーク東京、1998年、41頁)。本発明の各ドメインの変異体とFabの結合定数は、Biacoreシステムを利用して、センサーチップにVH3サブファミリーに属する免疫グロブリンのFabフラグメントを固定化して、温度25℃、pH7.4の条件下にて、各ドメイン変異体を流路添加する実験系で求めることができる。なお、文献によっては結合定数は親和定数と表記されることもあるが、基本的に両者の定義は同じである。
【実施例】
【0113】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施では、組換えDNAの作製や操作などは特に断わらない限り下記の実験書に従って実施した。(1)T.Maniatis,E.F.Fritsch,J.Sambrook著、「モレキュラー・クローニング/ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning/A Laboratory Manual)」、第2版(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory刊(米国)。(2)村松正實編著「ラボマニュアル遺伝子工学」、第3版(1996)、丸善株式会社刊。また、本実施例で用いる試薬、制限酵素等については特に明記しない限り、市販品を用いた。
【0114】
実施例で取得した各種タンパク質を「ドメインを示すアルファベット−導入した変異(野生型ではWild)」の形で表記する。例えば、プロテインAの野生型Cドメインは「C−wild」、変異G29Eを導入したCドメイン変異体は「C−G29E」と表記する。2種類の変異を同時に導入した変異体の表記は、スラッシュを用いて併記する。例えば、変異G29E、および、変異S13Lを導入したCドメイン変異体は、「C−G29E/S13L」と表記する。また、単ドメインを複数連結したタンパク質は、ピリオドの後に、連結した数に「d」をつけて表記する。例えば、変異G29E、および変異S13Lを導入したCドメイン変異体を5連結したタンパク質は「C−G29E/S13L.5d」と表記する。
【0115】
(実施例1)IgG固定化担体を用いたCドメイン変異体の抗体結合能の評価
プロテインAのCドメイン体にG29A変異を導入したC−G29A.2d(配列番号6)をコードするDNAの5’末端にPstI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号7)に、表1に記載のアミノ酸置換変異を導入した改変型C−G29A.2dの人工合成遺伝子を、外注によって全合成した(ユーロフィンジェノミクス社製)。このサブクローニング後の発現プラスミドを、制限酵素PstIおよびXbaI(タカラバイオ社製)で消化し、取得したDNA断片を、同じ制限酵素で消化したブレビバチルス発現用ベクターpNCMO2(タカラバイオ社製)へライゲーションし、改変型C−G29A.2dのアミノ酸配列をコードするDNAがブレビバチルス発現用ベクターpNCMO2に挿入された発現プラスミドを調製した。なお、プラスミドの調製にはエシェリヒア・コリJM109株を用いた。
【0116】
ブレビバチルス・チョウシネンシスSP3株(タカラバイオ社製)を得られたプラスミドで形質転換し、改変型C−G29A.2dを分泌生産する遺伝子組換え体を育種した。この遺伝子組換え体を60μg/mLのネオマイシンを含む30mLのA培地(ポリペプトン 3.0%、酵母エキス 0.5%、グルコース 3%、硫酸マグネシウム 0.01%、硫酸鉄 0.001%、塩化マンガン 0.001%、塩化亜鉛 0.0001%)にて、30℃で3日間の振盪培養を行った。
【0117】
上記の手順で発現される、C−F5A/G29A.2d、C−F5Y/G29A.2d、C−F5G/G29A.2d、C−F5M/G29A.2d、C−F13Y/G29A.2d、C−F13W/G29A.2d、C−L17I/G29A.2d、C−L17I/G29A/I31L.2d、C−L17T/G29A.2d、C−L17V/G29A.2d、C−G29A/I31L.2d、C−G29A/I31F.2d、C−G29A/I31N.2d、C−G29A/I31L/S33H.2d、C−G29A/I31L/V40Q.2d、C−G29A/I31S.2d、C−G29A/I31T.2d、C−G29A/I31V.2dのアミノ酸配列を、それぞれ、配列表の配列番号10〜27に記載する。
【0118】
培養後、培養液から遠心分離(15,000rpm、25℃、5分間)により菌体を除去した後、高速液体クロマトグラフィーで培養上清中の改変型C−G29A.2dの濃度を測定した。IgG固定化担体を用いて、培養上清中の改変型C−G29A.2d及びC−G29A.2dの溶出試験を下記の条件で実施した。
【0119】
<IgG固定化担体を用いた溶出試験の条件>
担体:IgG Sehparose FF(GEヘルスケア社製)
カラム:オムニフィットカラム(ディバ・インダストリーズ社製)、カラム径0.66cm、ベッド高6.4cm、カラムボリューム:2.19mL
流速:0.8mL/min、接触時間2.7min
負荷量:470μL(リガンド濃度1.3mg/mL)
平衡化buffer:50mM トリス塩酸、150mM NaCl buffer pH7.5
溶出条件:50mM クエン酸buffer pH6.0→50mM クエン酸buffer pH3.0(20CV)
【0120】
C−G29A.2dの溶出pHを基準としたときの、改変型C−G29A.2dの溶出pHの差を算出した。結果を表1に示す。いずれの改変型C−G29A.2dもC−G29A.2dと比較して、IgG固定化担体からの溶出pHが高かった。この結果は、C−G29A.2dを固定化した担体と比較して、改変型C−G29A.2dを固定化した担体はより高いpHで抗体を溶出できることを示している。
【0121】
【表1】
【0122】
(実施例2)分子間相互作用解析装置を用いたCドメイン変異体の抗体結合能の評価
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore 3000(GEヘルスケア社製)を用いて、実施例1で取得した各種タンパク質の免疫グロブリンとの親和性を解析した。本実施例では、ヒト血漿から分画したヒト免疫グロブリンG製剤(以後は、ヒトIgGと記する)を利用した。
【0123】
ヒトIgGをセンサーチップに固定化し、各種タンパク質をチップ上に流して、両者の相互作用を検出した。ヒトIgGのセンサーチップCM5への固定化は、N−hydroxysuccinimide(NHS)、および、N−ethyl−N’−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochroride(EDC)を用いたアミンカップリング法にて行い、ブロッキングにはEthanolamineを用いた(センサーチップや固定化用試薬は、全てGEヘルスケア社製)。ヒトIgG溶液は、ガンマグロブリン「ニチヤク」(日本製薬社製)を標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、pH7.4)に1.0mg/mLになるよう溶解して調製した。ヒトIgG溶液を、固定化用緩衝液(10mM CH
3COOH−CH
3COONa、pH5.0)で100倍に希釈し、Biacore 3000付属のプロトコルに従い、ヒトIgGをセンサーチップへ固定した。また、チップ上の別のフローセルに対して、EDC/NHSにより活性化した後にEthanolamineを固定化する処理を行うことで、ネガティブ・コントロールとなるリファレンスセルも用意した。
【0124】
各種タンパク質は、ランニング緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、0.005% P−20、pH7.4)を用いて、10〜1000nMの範囲で適宜調製し(各々について、異なるタンパク質濃度の溶液を3種類調製)、各々のタンパク質溶液を、流速20μL/minで30秒間センサーチップに添加した。測定温度25℃にて、添加時(結合相、30秒間)、および、添加終了後(解離相、60秒間)の結合反応曲線を順次観測した。各々の観測終了後に、Glycine−HCl 10mM pH3.0(GEヘルスケア社製)を添加してセンサーチップを再生(30秒間)した(センサーチップ上に残った添加タンパク質の除去が目的であり、固定化したヒトIgGの結合活性がほぼ完全に戻ることを確認した。)。
【0125】
得られた結合反応曲線(リファレンスセルの結合反応曲線を差し引いた結合反応曲線)に対して、システム付属ソフトBIA evaluationを用いた1:1の結合モデルによるフィッティング解析を行い、結合速度定数(k
on)、解離速度定数(k
off)、および、結合定数(K
A=k
on/k
off)を算出した。結果を表2に示す。
【0126】
表2に示すように、改変型C−G29A.2dのヒトIgGに対する結合パラメータは、C−G29A.2d(対照)と同程度であった。具体的には、ヒトIgGに対する結合定数は、いずれのリガンドも10
8M
−1以上を示した。いずれの改変型C−G29A.2dも中性pH領域では変異導入前のC−G29A.2dと同程度の抗体結合能を有していた。
【0127】
【表2】
【0128】
(実施例3)IgG固定化担体を用いたBドメイン変異体の抗体結合能の評価
プロテインAのBドメイン体にG29A変異を導入したB−G29A.2d(配列番号8)をコードするDNAの5’末端にPstI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号9)に表3に記載のアミノ酸置換変異を導入した改変型B−G29A.2dの人工合成遺伝子を、外注によって全合成した(ユーロフィンジェノミクス社製)。実施例1と同様にして、組換え発現し、得られた培養上清についてIgG固定化担体を用いて溶出試験を実施した。
【0129】
上記の手順で発現される、B−G29A/I31L.2d、B−G29A/I31T.2dのアミノ酸配列を、それぞれ、配列表の配列番号28〜29に記載する。
【0130】
溶出試験の結果を表3に示す。いずれの改変型B−G29A.2dもB−G29A.2dと比較して、IgG固定化担体からの溶出pHが高かった。この結果は、実施例1で示した変異はCドメインに限らず、Bドメインにも同様の効果をもたらすことを示している。
【0131】
【表3】
【0132】
(実施例4)分子間相互作用解析装置を用いたBドメイン変異体の抗体結合能の評価
実施例3で取得した各種タンパク質の免疫グロブリンとの親和性を実施例2と同様にして解析した。結果を表4に示す。改変型B−G29A.2dのヒトIgGに対する結合パラメータは、B−G29A.2d(対照)と同程度であった。いずれの改変型B−G29A.2dも中性pH領域では変異導入前のB−G29A.2dと同程度の抗体結合能を有していた。
【0133】
【表4】
【0134】
(実施例5)改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスの抗体溶出試験
実施例1と同様に培養して得られた培養物を遠心分離して菌体を分離し、培養上清に酢酸を添加してpHを4.5に調整後、一時間静置し、目的のタンパク質を沈殿させた。遠心分離で沈殿を回収し、緩衝液(50mM Tris−HCl、pH8.5)にて溶解した。次に、HiTrap Qカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を利用した陰イオン交換クロマトグラフィーにて目的タンパク質を精製した。具体的には、目的タンパク質溶液を、陰イオン交換用緩衝液A(50mM Tris−HCl、pH8.0)にて平衡化したHiTrap Qカラムに添加し、陰イオン交換用緩衝液Aで洗浄後、陰イオン交換緩衝液Aと陰イオン交換緩衝液B(50mM Tris−HCl、1M NaCl、pH8.0)を利用した塩濃度勾配にて、途中に溶出される目的タンパク質を分取した。分取した目的タンパク質溶液を超純水に透析し、透析後の水溶液を最終精製サンプルとした。なお、カラムを用いたクロマトグラフィーによるタンパク質精製は、全てAKTA avantシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社製)を利用して実施した。
【0135】
水不溶性基材として、市販の活性化型プレパックカラム「Hitrap NHS activated HP」1mL(GEヘルスケア社製)を使用した。このカラムは、架橋アガロースをベースとし、タンパク性リガンド固定化用のN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)基が導入済みである。製品マニュアルに従い、最終精製サンプルをリガンドとして固定化し、アフィニティー分離マトリックスをそれぞれ調製した。
【0136】
具体的には、最終精製サンプルをカップリング緩衝液(0.2M 炭酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH8.3)で終濃度約13mg/mLに希釈した溶液を1mL調製した。氷浴で冷やした1mM HClを、流速1mL/minで2mL分流す操作を3回行い、カラム中のイソプロパノールを除去した。その後すぐに、先に調製したサンプル希釈溶液を同じ流速で1mL添加し、カラムの上下に栓をして25℃で30分間静置することで、取得したタンパク質をカラムに固定化した。その後開栓し、カップリング緩衝液を同じ流速で3mL流して、未反応タンパク質を回収した。その後、ブロッキング用緩衝液(0.5M エタノールアミン、0.5M NaCl、pH8.3)を2mL流す操作を3回実施し、洗浄用緩衝液(0.1M 酢酸、0.5M NaCl、pH4.0)を2mL流す操作を3回実施し、最後に標準緩衝液(20mM NaH
2PO
4−Na
2HPO
4、150mM NaCl、pH7.4)を2mL流してアフィニティー分離カラムの作製を完了した。得られたアフィニティー分離マトリックスを用いて、下記条件で抗体溶出試験を実施した。対照として同様に調製したC−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスについても試験した。抗体回収率は溶出液の吸光度を測定して、算出した。結果を表5に示す。
【0137】
<改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスを用いた抗体溶出試験の条件>
カラム:プレパックカラムHitrap NHS activated HP」1mL(GEヘルスケア社製)(各リガンドを固定化した担体を含むカラム)
流速:0.33mL/min、接触時間3.0min
負荷液:ガンマグロブリン「ニチヤク」(日本製薬社製)5mL(リガンド濃度1mg/mL)
平衡化buffer:ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ・アルドリッチ社製)
溶出条件:
溶出1:50mM クエン酸buffer(4CV)、試験A:pH4.0、試験B:pH3.75、試験C:pH3.5
溶出2:50mM クエン酸buffer pH3.0(4CV)
【0138】
【表5】
【0139】
C−G29A.2dのアフィニティー分離マトリックスと比較すると改変型C−G29A.2dを用いて調製したアフィニティー分離マトリックスは高いpH(4.0〜3.5)での溶出液中の抗体回収率が高かった。本結果より、実施例1で示したIgG Sepharoseを用いた試験で溶出pHが高かったリガンドは、リガンドを固定化したアフィニティー分離マトリックスを用いて高いpHで溶出した場合に、抗体回収率が高くなることが示された。
【0140】
(実施例6)IgG固定化担体を用いたCドメイン変異体の抗体結合能の評価
プロテインAのCドメイン体にG29A変異を導入したC−G29A.2d(配列番号6)をコードするDNAの5’末端にPstI認識サイト、3’末端にXbaI認識サイトを付与したDNA(配列番号7)に、表6に記載のアミノ酸置換変異を導入した改変型C−G29A.2dの人工合成遺伝子を、外注によって全合成した(ユーロフィンジェノミクス社製)。
【0141】
上記の手順で発現される、C−F5G/G29A.2d、C−F5M/G29A.2d、C−F13W/G29A.2d、C−G29A/I31F.2d、C−G29A/I31N.2dのアミノ酸配列を、それぞれ、配列表の配列番号30〜34に記載する。
【0142】
実施例1と同様にしてプラスミドを調製後、遺伝子組換え体を育種し、改変型C−G29A.2dを含む培養液を得た。IgG固定化担体を用いて、培養上清中の改変型C−G29A.2d及びC−G29A.2dの溶出試験を実施例1と同じ条件で実施した。
【0143】
C−G29A.2dの溶出pHを基準としたときの、改変型C−G29A.2dの溶出pHの差を算出した。結果を表6に示す。いずれの改変型C−G29A.2dもC−G29A.2dと比較して、IgG固定化担体からの溶出pHが高かった。この結果は、C−G29A.2dを固定化した担体と比較して、改変型C−G29A.2dを固定化した担体はより高いpHで抗体を溶出できることを示している。
【0144】
【表6】
【0145】
(実施例7)分子間相互作用解析装置を用いたCドメイン変異体の抗体結合能の評価
表面プラズモン共鳴を利用したバイオセンサーBiacore 3000(GEヘルスケア社製)を用いて、実施例6で取得した各種タンパク質の、免疫グロブリンとの親和性を、実施例2と同じ条件で解析した。免疫グロブリンとして、ヒトIgGを使用した。
【0146】
表7に示すように、改変型C−G29A.2dのヒトIgGに対する結合パラメータは、C−G29A.2d(対照)と同程度であった。具体的には、ヒトIgGに対する結合定数は、いずれのリガンドも10
9M
−1以上を示した。いずれの改変型C−G29A.2dも中性pH領域では変異導入前のC−G29A.2dと同程度の抗体結合能を有していた。
【表7】
【0147】
(実施例8)改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスの抗体と宿主由来不純物の分離挙動評価
実施例5で得られた、C−G29A/I31L.2dを固定化したアフィニティー分離マトリックスと、TNF受容体−Fc融合タンパク質(エタネルセプト)を含むCHO細胞培養上清(バイオセロス社製)を用いて、下記条件で抗体溶出試験を実施した。対照として同様に調製したC−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスを用いた溶出試験も実施した。抗体回収率は、溶出液の吸光度を測定して算出した。宿主由来不純物(HCP)はCHO HCP ELISAキット(Cygnus社製)を用いて定量した。対照のC−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスを用いた結果を
図2に示し、改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスを用いた結果を
図3に示す。
【0148】
<改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスを用いた抗体溶出試験の条件>
カラム:プレパックカラムHitrap NHS activated HP」1mL(GEヘルスケア社製)(各リガンドを固定化した担体を含むカラム)
流速:1mL/min(サンプル負荷時のみ0.33mL/min、接触時間3.0min)
負荷液:TNF受容体−Fc融合タンパク質を含むCHO細胞培養上清(バイオセロス社製)16.1mL(濃度0.62mg/mL)
平衡化buffer:ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマ・アルドリッチ社製)
溶出条件:
溶出1:50mM クエン酸buffer(pH6→pH3)のグラジエント溶出(20CV)
溶出2:50mM クエン酸buffer pH3.0(5CV)
【0149】
図2〜3に示されるように、C−G29A.2dのアフィニティー分離マトリックスと比較すると、改変型C−G29A.2dを用いて調製したアフィニティー分離マトリックスからは高いpHでTNF受容体−Fc融合タンパク質が溶出された。また、溶出画分に含まれる宿主由来不純物量は改変型C−G29A.2dを用いて調製したアフィニティー分離マトリックス使用時の方が低かった。具体的にはピークトップのフラクションのHCP含量が、C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスでは4187ppmであり、改変型C−G29A.2dアフィニティー分離マトリックスでは3109ppmだった。この結果は、実施例1のIgG Sepharoseを用いた試験で溶出pHが高かったリガンドは、改変前のリガンドと比較して、溶出液中の宿主由来不純物量を低減できることを示している。