【文献】
Trends in Food Science & Technology,2012年,Vol. 25,p.24-33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(i)で調製する前記出発組成物のカルボン酸官能基量n(ca)と工程(ii)で調製する前記L−リジン含有組成物のL−リジン量n(lys)との比R=n(ca)/n(lys)が、0.9<R<1.1、0.95<R<1.05、および、0.98<R<1.02から選択される範囲にあるようにして、工程(ii)におけるL−リジン含有組成物を調製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
工程(i)で調製する前記出発組成物は、x(fe)wt%以下の脂肪酸エステルを含み、x(fe)は、5、3、1、0.3、および0から選択されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
前記生成物組成物の少なくともspwt%が、L−リジン由来の陽イオンならびにEPAおよびDHAから選ばれる一種以上および他の天然脂肪酸由来の陰イオンからなる1つ以上の塩からなり、spは、90、95、97、98、99、および100から選択されるようにして、工程(i)における出発組成物と工程(ii)におけるL−リジン含有組成物とを調製することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる組成物であって、L−リジン由来の陽イオンならびにEPAおよびDHAから選ばれる一種以上および他の天然脂肪酸由来の陰イオンからなる1つ以上の塩を少なくとも90wt%含むことを特徴とする組成物。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の範囲では、用語「PUFA」は、用語「多価不飽和脂肪酸」に置き換えることが可能であり、以下のように定義される:脂肪酸は、炭素鎖の長さと飽和特性に基づいて分類される。短鎖脂肪酸は、2〜6個程度の炭素原子を有しており、通常、飽和している。中鎖脂肪酸は、6〜14個程度の炭素原子を有しており、通常は飽和している。長鎖脂肪酸は、16〜24個以上の炭素原子を有しており、飽和していても、不飽和であってもよい。炭素鎖がより長い長鎖脂肪酸では、1箇所または2箇所以上で不飽和の状態となっており、それぞれ、「一価不飽和」、「多価不飽和」と表される。本発明の範囲では、20個以上の炭素原子を有する長鎖多価不飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸またはPUFAと称する。
【0007】
PUFAは、確立されている命名法に従い、脂肪酸中の二重結合の数および位置によって分類される。LC−PUFAは、脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置によって、主に2つの系列または類に分けられる。すなわち、ω−3系列は第3炭素において二重結合を有し、一方、ω−6系列は第6炭素まで二重結合を有さない。このように、ドコサヘキサエン酸(「DHA」)は、メチル末端から3番目の炭素で始まる二重結合を6つ備え、22個の炭素鎖長を有し、「22:6 n−3」(all−cis−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸)と称される。他の重要なω−3系PUFAは、エイコサペンタエン酸(「EPA」)であり、「20:5 n−3」(all−cis−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸)と示される。重要なω−6系PUFAは、アラキドン酸(「ARA」)であり、「20:4 n−6」(all−cis−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)と示される。
【0008】
他のω−3系PUFAとして、以下のものが挙げられる。
エイコサトリエン酸(ETE)20:3(n−3)(all−cis−11,14,17−エイコサトリエン酸)、エイコサテトラエン酸(ETA)20:4(n−3)(all−cis−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸)、ヘネイコサペンタエン酸(HPA)21:5(n−3)(all−cis−6,9,12,15,18−ヘネイコサペンタエン酸)、ドコサペンタエン酸(イワシ酸)(DPA)22:5(n−3)(all−cis−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n−3)(all−cis−9,12,15,18,21−テトラコサペンタエン酸)、テトラコサヘキサエン酸(ニシン酸)24:6(n−3)(all−cis−6,9,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン酸)。
【0009】
他のω−6系PUFAとして、以下のものが挙げられる。
エイコサジエン酸20:2(n−6)(all−cis−11,14−エイコサジエン酸)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA)20:3(n−6)(all−cis−8,11,14−エイコサトリエン酸)、ドコサジエン酸22:2(n−6)(all−cis−13,16−ドコサジエン酸)、アドレン酸22:4(n−6)(all−cis−7,10,13,16−ドコサテトラエン酸)、ドコサペンタエン酸(オズボンド酸)22:5(n−6)(all−cis−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸)、テトラコサテトラエン酸24:4(n−6)(all−cis−9,12,15,18−テトラコサテトラエン酸)、テトラコサペンタエン酸24:5(n−6)(all−cis−6,9,12,15,18−テトラコサペンタエン酸)。
【0010】
本発明の実施形態において使用する好ましいω−3系PUFAは、ドコサヘキサエン酸(「DHA」)とエイコサペンタエン酸(「EPA」)である。
【0011】
理論に縛られることを望むものではないが、本発明の方法によって達成した酸化安定性の向上は、リジンとPUFAとの間で塩が生成された結果であると考えられる。これに相当する安定性の向上は、遊離酸のままであるPUFA、または、エステルもしくは例えばNa
+、K
+、Ca
2+もしくはMg
2+を有する無機塩の一部を生成するPUFAにおいては見られない。
【0012】
本発明の方法によって酸化に対して安定させることが可能なω−3系多価不飽和脂肪酸を含む組成物は、相当量のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸を含むいずれの組成物でもよい。そのような組成物はさらに、遊離状態の天然脂肪酸を含んでもよい。そのような組成物はさらに、単独で、室温かつ標準大気圧で、固体、液体、または気体である成分を含んでもよい。それに相当する液体成分としては、蒸発によって容易に除去することができ、それゆえ揮発性成分と見なし得る成分と、蒸発によって除去することが難しく、それゆえ不揮発性成分と見なし得る成分とが挙げられる。本発明の範囲では、気体成分は揮発性成分と見なされる。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、および超臨界二酸化炭素である。
【0013】
本発明の方法によって酸化に対して安定化させることが可能なω−3系多価不飽和脂肪酸を含む組成物は、好適な原料から得てもよく、該原料は、さらに、そのような原料を加工する好適な方法により加工されていてもよい。典型的な原料としては、魚体、野菜、および他の植物の一部、ならびに、微生物および/または藻類の発酵に由来する原料が挙げられる。通常、そのような原料は、さらに、相当量の他の天然脂肪酸を含有する。そのような原料を加工する典型的な方法は、原料の抽出および分離等、原油を得る工程、沈降精練、脱酸、漂白、および脱臭等、原油を精製する工程、さらに、脱酸、エステル交換、濃縮、および脱臭等、精製油からω−3系PUFA濃縮物を製造する工程を含んでもよい(例えば、EFSA Scientific Opinion on Fish oil for Human Consumption参照)。原料の加工はさらに、ω−3系PUFAエステルの少なくとも一部を、それに対応するω−3系遊離PUFA、またはその無機塩に変換する工程を含んでもよい。
【0014】
本発明の方法によって酸化に対して安定化させることが可能なω−3系多価不飽和脂肪酸を含む好適な組成物は、ω−3系PUFAおよび他の天然脂肪酸のエステルから主に成る組成物から、エステル結合を切断し、その後、エステルとして結合していたアルコールを除去することによって得ることができる。エステル結合の切断は、塩基性条件下で行われることが好ましい。エステル結合を切断するための方法は、当技術分野では周知である。
【0015】
本発明の範囲では、組成物を酸化に対して安定化させるとは、そのような組成物の酸化安定性を高めるということを意味する。組成物の酸化安定性を定量化するための基準の一つは、ランシマット試験における誘導時間である。ランシマット試験を実施するためのプロトコルは当技術分野においては周知であるか、ランシマット試験を実施するために使用される器具の製造業者によって提供される。組成物の酸化安定性の別の基準の一つは、以下のようにして得られる。すなわち、2つ以上の組成物または化合物の試料の酸化安定性の比較は、(1)まず、試料の酸化度を測定し、続いて、(2)試料を比較可能な(酸化)条件下に置き、その後、(3)試料の酸化度を測定することによって実施できる。酸化の増加程度が最も小さい試料は、与えられた条件下で酸化に対する安定性が最も高いことを表し、一方、酸化の増加程度が最も大きい試料は、与えられた条件下で酸化に対する安定性が最も低いことを表す。試料の酸化の増加程度は、例えば、酸化条件下に置く前後に得られた値の相違等、絶対数として表すことができ、または、その増加程度は、酸化条件下に置く前後に得られた値の比等、相対数として表すこともできる。酸化条件に曝露した結果、酸化度が減少した場合は、酸化に対する安定性が非常に高いことが示唆され、このことは、比較可能な酸化条件に曝露した結果、酸化度が変わらなかった試料の安定性のレベルよりもいっそう高いと解釈されるべきなのは明らかである。
【0016】
当技術分野において、試料の酸化度を定量化するための基準が幾つか知られている。本発明の最も広い範囲においては、これらの基準のいずれも使用することができる。本発明の好ましい実施形態において、酸化度を定量化するのに、以下の基準のうち1つ以上を使用する:過酸化物価(PV)、アニシジン価(AV)、Totox価。PVは、1次酸化生成物(二重結合におけるヒドロペルオキシド生成)の基準であり、AVは、2次分解生成物(カルボニル化合物)の基準である。Totox価は、Totox=2×PV+AV(式中、PVは試料1kg当たりのミリ当量O
2で規定される)のようにして計算される。過酸化物価(PV)およびアニシジン価(AV)を求める手順は文献に記載されている(例えば、Official Methods and Recommended Practices of the AOCS,第6版、2013、David Firestone編、ISBN978−1−893997−74−5参照;または、例えば、PVは、Ph.Eur.2.5.5(01/2008:20505)に従って測定することができ、AVは、Ph.Eur.2.5.36(01/2008:20536)に従って測定することができる)。
【0017】
試料の過酸化物価(PV)を測定する手順例は、以下のように実施される。
試薬および溶液:
1.酢酸−クロロホルム溶液(7.2mlの酢酸と4.8mlのクロロホルム)。
2.飽和ヨウ化カリウム溶液。暗所に保管すること。
3.チオ硫酸ナトリウム溶液、0.1N。市販されている。
4.1%デンプン溶液。市販されている。
5.蒸留水または脱イオン水。
【0018】
手順:
試薬の空試験を実施する。
1.100mlのガラス栓付きエルレンマイヤーフラスコに、2.00(±0.02)gの試料を入れて秤量する。重量を0.01g単位で記録する。
2.メスシリンダーを用いて、12mlの酢酸−クロロホルム溶液を添加する。
3.試料が完全に溶解するまで、フラスコ内をかき混ぜる(ホットプレート上で注意深く温めることが必要な可能性もある)。
4.1mlのモールピペットを用いて、0.2mlの飽和ヨウ化カリウム溶液を添加する。
5.フラスコに栓をし、正確に1分間、フラスコの内容物をかき混ぜる。
6.その直後に、メスシリンダーを用いて12mlの蒸留水または脱イオン水を添加し、栓をして勢いよく振り混ぜて、ヨウ素をクロロホルム層から遊離させる。
7.ビュレットに0.1Nチオ硫酸ナトリウムを充填する。
8.溶液の最初の色が深い赤みがかったオレンジ色である場合、明るい色になるまで混ぜながらゆっくりと滴定する。溶液が最初から明るい琥珀色である場合は、工程9に進む。
9.分注装置を用いて、指示薬として1mlのデンプン溶液を添加する。
10.水溶液(上層)において青みがかった灰色が消えるまで滴定する。
11.使用された滴定剤の滴定量(mls)を小数第2位まで正確に記録する。
計算:
S=試料の滴定
B=空試験の滴定
過酸化物価=(S−B)×Nチオ硫酸塩×1000/試料の重量
【0019】
試料のアニシジン価(AV)を測定する手順例は、以下のように実施される。
アニシジン価は、光学濃度の100倍と定義され、光学濃度は、溶剤と試薬との混合物100ml中の1gの被検物を含有する溶液を含む1cmセルにおいて下記の方法に従って測定される。できるだけ迅速に作業を実施し、活性光線被曝を回避する。
【0020】
試験液(a):0.500gの被検物をトリメチルペンタンに溶解し、同じ溶剤で25.0mlに希釈する。
【0021】
試験液(b):5.0mlの試験液(a)に、2.5g/lのp−アニシジン氷酢酸溶液を1.0ml添加し、振り混ぜ、光から保護して保管する。
【0022】
標準溶液:5.0mlのトリメチルペンタンに、2.5g/lのp−アニシジン氷酢酸溶液を1.0ml添加し、振り混ぜ、光から保護して保管する。補正液としてトリメチルペンタンを用いて、350nmでの試験液(a)の吸光度の最大値を測定する。350nmでの試験液(b)の吸光度を、試験液(b)の調製のちょうど10分後に、補正液として標準溶液を用いて測定する。下記の式からアニシジン価(AV)を計算する。
AV=(25×(1.2×A1−A2))/m
A1=350nmでの試験液(b)の吸光度
A2=350nmでの試験液(a)の吸光度
m=試験液(a)中の被検物の質量(グラム)
【0023】
(1)酸化度を測定し、(2)酸化条件下に置き、(3)酸化度を再度測定することによって、酸化に対する試料の安定性を比較する際、本発明の範囲では、過酸化物価(PV)および/またはアニシジン価(AV)を測定することによって、工程(1)および(3)における酸化度を評価するのが好ましく、さらに、工程(2)における酸化条件を以下のうちから1つ選択するのが好ましい:少なくとも10日間の設定期間にわたって室温で空気に曝露した状態で開放型容器に保管;少なくとも3日間の設定期間にわたって50℃で空気に曝露した状態で開放型容器に保管。
【0024】
本発明の範囲では、ある方法を用いて組成物の酸化安定性を向上させるということは、組成物の酸化安定性を表す少なくとも一つの基準、例えば、上述した少なくとも一つの基準が、組成物に対して前記方法を実施した後に向上するということを意味する。
【0025】
本発明の範囲では、少なくとも1つのω−3系多価不飽和脂肪酸成分を含む出発組成物は、相当量の少なくとも1つのω−3系多価不飽和脂肪酸成分を含むいずれの組成物でもよく、該組成物においては、各種(すなわち、分子種)のω−3系遊離PUFA(「遊離」は遊離カルボン酸官能基の存在を示唆する)が、異なるω−3系多価不飽和脂肪酸成分を構成している。そのような組成物はさらに、遊離状態の他の天然脂肪酸を含んでもよい。加えて、そのような組成物は、単独で、室温かつ標準大気圧で、固体、液体、または気体である成分をさらに含んでもよい。これに相当する液体成分としては、例えば、蒸発によって容易に除去することができ、それゆえ揮発性成分と見なし得る成分と、蒸発によって除去することが難しく、それゆえ不揮発性成分と見なし得る成分とが挙げられる。本範囲では、気体成分は揮発性成分と見なされる。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、および超臨界二酸化炭素である。
【0026】
したがって、典型的な出発組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも25wt%のPUFA含有量PC(すなわち、1つ以上のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸の総含有量)と、75wt%以下の他の遊離状態の天然脂肪酸と、単独で室温かつ標準大気圧で固体または液体である、5wt%以下の他の成分とを含む。しかし、それぞれの出発材料を精製することで、より高い純度のω−3系多価不飽和脂肪酸を得ることができる。本発明の好ましい実施形態において、出発組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも50wt%のPUFA含有量PC(すなわち、1つ以上のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸の総含有量)と、50wt%以下の他の遊離状態の天然脂肪酸と、単独で室温かつ標準大気圧で固体または液体である、5wt%以下の他の成分とを含む。本発明の別の好ましい実施形態において、出発組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも75wt%のPUFA含有量PC(すなわち、1つ以上のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸の総含有量)と、25wt%以下の他の遊離状態の天然脂肪酸と、単独で室温かつ標準大気圧で固体または液体である、5wt%以下の他の成分とを含む。本発明の別の好ましい実施形態において、出発組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも90wt%のPUFA含有量PC(すなわち、1つ以上のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸の総含有量)と、10wt%以下の他の遊離状態の天然脂肪酸と、単独で室温かつ標準大気圧で固体または液体である、5wt%以下の他の成分とを含む。本発明の別の好ましい実施形態において、出発組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも90wt%のPUFA含有量PC(すなわち、1つ以上のω−3系遊離多価不飽和脂肪酸の総含有量)と、10wt%以下の他の遊離状態の天然脂肪酸と、単独で室温かつ標準大気圧で固体または液体である、1wt%以下の他の成分とを含む。
【0027】
本発明の方法の工程(ii)において調製されるリジン組成物は、相当量の遊離リジン(Lys)を含む組成物である。リジン組成物は、さらに、単独で室温かつ標準大気圧で固体、液体、または気体である成分を含んでもよい。これに相当する液体成分としては、蒸発によって容易に除去することができ、それゆえ揮発性成分と見なし得る成分と、蒸発によって除去することが難しく、それゆえ不揮発性成分と見なし得る成分とが挙げられる。本範囲では、気体成分は揮発性成分と見なされる。典型的な揮発性成分は、水、アルコール、および超臨界二酸化炭素である。典型的なリジン組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも95wt%、97wt%、98wt%、または99wt%の遊離リジンを含有する。好ましいリジン組成物は、揮発性成分を考慮に入れずに、少なくとも98wt%の遊離リジンを含有する。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、揮発性成分を考慮に入れなければ、出発組成物は主に遊離PUFAと他の遊離状態の天然脂肪酸とを含み、リジン組成物は主に遊離リジンを含んでおり、これにより、リジンとPUFAと他の天然脂肪酸とからなる塩から主になる生成物組成物が得られる。
【0029】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、工程(i)における出発組成物と工程(ii)におけるリジン組成物の調製は、少なくともspwt%の前記生成物組成物がリジン由来の陽イオンと1つ以上のω−3系多価不飽和脂肪酸および他の天然脂肪酸由来の陰イオンとからなる1つ以上の塩からなり、spは、90、95、97、98、99、および100から選択されるようにして行う。
【0030】
本発明の方法の工程(iii)において、出発組成物とリジン組成物とを化合させる。リジン由来の陽イオンとω−3系多価不飽和脂肪酸由来の陰イオンとからなる少なくとも1つの塩を含む生成物組成物を生成することができるいかなる手段によっても化合させることができる。したがって、出発組成物とリジン組成物を化合させる典型的な方法は、各組成物の水溶液、水−アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、その後、溶剤を除去する方法である。または、出発組成物およびリジン組成物の残留成分に依るが、溶剤を添加しなくてもよく、出発組成物とリジン組成物を直接化合させれば十分である。本発明の範囲では、出発組成物と組成物とを化合させる好ましい方法は、各組成物の水溶液、水−アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、その後、溶剤を除去する方法である。
【0031】
本発明の範囲では、リジン由来の陽イオンは、リジンをプロトン化することで得られる陽イオンである。
【0032】
本発明の範囲では、ω−3系多価不飽和脂肪酸由来の陰イオンは、ω−3系多価不飽和脂肪酸を脱プロトン化することで得られる陰イオンである。
【0033】
なお、リジンと多価不飽和脂肪酸との塩自体は、当技術分野において知られていた(欧州特許(EP−B1)第0734373号明細書参照)が、そのような塩が、遊離PUFAまたはPUFAエステルと比較して、酸化劣化に対してより高い安定性を示すということは知られていなかった。
【0034】
リジンとω−3系PUFAとの塩に固有の安定性を考慮すると、相当量の酸化防止剤をこれらの塩に添加する必要はない。したがって、本発明の好ましい実施形態において、工程(iii)で得られる生成物組成物は、あまり多くない量の酸化防止剤を含む。ここで、あまり多くない量とは、生成物組成物が、5wt%未満、3wt%未満、1wt%未満、または0.1wt%未満の酸化防止剤を含むということを意味する。さらに好ましい実施形態において、生成物組成物は、酸化防止剤を全く含まない。本発明の好ましい実施形態において、生成物組成物は、あまり多くない量の酸化防止剤を含む。ここで、あまり多くない量とは、生成物組成物が、5wt%未満、3wt%未満、1wt%未満、または0.1wt%未満の酸化防止剤を含むということを意味し、また、この酸化防止剤は、ビタミンCとそのエステル、エリソルビン酸とそのエステル、ビタミンEとそのエステル、ポリフェノールとそのエステル、カロチノイド、没食子酸塩とそのエステル、ブチルヒドロキシアニソールとそのエステル、ブチルヒドロキシトルエンとそのエステル、ローズマリー油、およびヘキシルレゾルシノールとそのエステルから選択される。さらに好ましい実施形態においては、生成物組成物は、酸化防止剤を全く含まず、この酸化防止剤とは、ビタミンCとそのエステル、エリソルビン酸とそのエステル、ビタミンEとそのエステル、ポリフェノールとそのエステル、カロチノイド、没食子酸とそのエステル、ブチルヒドロキシアニソールとそのエステル、ブチルヒドロキシトルエンとそのエステル、ローズマリー油、およびヘキシルレゾルシノールとそのエステルから選択されるものである。
【0035】
本発明によれば、生成物組成物は、出発組成物よりも高い酸化安定性を示す。これは、組成物の酸化安定性を表す少なくとも一つの基準、例えば、上述した少なくとも一つの基準が、出発組成物よりも生成物組成物において、より高い酸化安定性を示すことを意味している。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、定量的な塩の形成を促進するために、遊離カルボン酸官能基とリジンは、およそ等モル量で調製される。したがって、本発明の方法の好ましい実施形態において、工程(ii)のリジン組成物の調製は、工程(i)で調製される出発組成物のカルボン酸官能基の量n(ca)と工程(ii)で調製されるリジン組成物の遊離リジンの総量n(lys)との比R=n(ca)/n(lys)が、0.9<R<1.1、0.95<R<1.05、および、0.98<R<1.02から選択される範囲にあるようにして行う。特に好ましい実施形態において、Rは、0.98<R<1.02の範囲にある。工程(i)で調製される出発組成物のカルボン酸官能基量n(ca)は、当技術分野においてはよく知られている標準分析手順、例えば酸塩基滴定等によって測定することができる。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、工程(i)で調製される出発組成物はあまり多くない量の脂肪酸エステルを含み、したがって、脂肪酸エステルの量があまり多くない生成物組成物が生成される。したがって、本発明の好ましい実施形態において、工程(i)で調製される出発組成物は、x(fe)wt%以下の脂肪酸エステルを含み、したがって、最大x(fe)wt%の脂肪酸エステルを含む生成物組成物が生成される。ここで、x(fe)は、5、3、1、0.3、および0から選択される。特に好ましい実施形態においては、x(fe)は1である。
【0038】
上述したように、リジンと多価不飽和脂肪酸との塩自体は、当技術分野において知られていた(欧州特許(EP−B1)第0734373号明細書参照)が、そのような塩が、遊離PUFAまたはPUFAエステルと比較して、酸化分解に対してより高い安定性を示すということは、知られていなかった。重要なことに、さらに、リジン−PUFA塩は「非常に濃厚で透明な油であり、低温で蝋状の外観および稠度を有する固体に変換する。」と記載されている(欧州特許(EP−B1)第0734373号明細書、1頁47〜48行目参照)。その結果、当業者は、噴霧乾燥手順を介して、リジンとω−3系PUFAとの塩を得ることが出来るとは予測できなかった。代わりに、当業者は、そのような塩は、(a)相当量の溶剤、酸化防止剤、および保護膜が無い状態での高温度下の酸化損傷により、噴霧乾燥条件下で劣化し、また、(b)凝集して塊となり、そのような塊は、蝋状の固体のように推定される塩の外観から鑑みて噴霧乾燥方法が機械的な面で適用できないと予測したであろう。したがって、容易な方法で噴霧乾燥を介して、実際にリジンとω−3系PUFAとの塩が得られることが現時点で見出されていることは、注目に値すべきことである。噴霧乾燥の条件は常に、使用する特定の噴霧乾燥装置に適合していなければならない。しかし、本ケースでそのような適合を行うことは、当業者による日常の実験作業の範囲に充分収まるものである。
【0039】
本発明の方法による噴霧乾燥工程を実施するために、水溶液、水−アルコール溶液、またはアルコール溶液を使用する。PUFAのLys塩は純アルコール溶媒にはほとんど溶解しないことが分かった。さらに、そのような塩は、純水に高濃度で溶解すると、ゲル状の外観を呈することも分かった。したがって、そのような問題を回避するために、水−アルコール溶媒系を使用してもよい。したがって、本発明の好ましい実施形態において、噴霧乾燥条件下の混合物の溶剤は、20wt%〜90wt%の水と80wt%〜10wt%のアルコール溶媒とを含有する水−アルコール溶媒系である。
【0040】
固体生成物組成物の溶剤含有量は、噴霧乾燥条件および使用する基質により異なるが、固体生成物組成物において溶剤含有量が非常に少なくても酸化損傷が生じないことが、現在、見出されている。上述したとおり、このことは予測することはできなかったであろう。したがって、本発明により、溶剤含有量が少ない固体生成物組成物を得ることが好ましい。このように、本発明によると、工程(iii)において、まず、出発組成物およびリジン組成物の水溶液、水−アルコール溶液、またはアルコール溶液を混合し、次に、その混合物を噴霧乾燥条件下に置いて、リジン由来の陽イオンとω−3系多価不飽和脂肪酸由来の陰イオンとからなる少なくとも1つの塩を含む固体生成物組成物を生成し、その生成物組成物は、SC<5wt%、SC<3wt%、SC<1wt%、およびSC<0.5wt%から選択される溶剤含有量SCを有する。本発明の特に好ましい実施形態において、SCは、SC<1wt%として選択される。
【0041】
本発明はさらに、本発明の方法のいずれかによって得ることができる組成物を含む。
【0042】
本発明はさらに、ω−3系多価不飽和脂肪酸を含む食品を製造するために、本発明の方法のいずれかによって得ることができる組成物を使用することを含む。
【0043】
本発明の範囲では、食品として、以下のものが含まれるが、これらに限定されない。焼成製品、ビタミンサプリメント、健康補助食品、粉末飲料、パン生地、バッター、焼成食品、例えば、ケーキ、チーズケーキ、パイ、カップケーキ、クッキー、バー、パン、ロールケーキ、ビスケット、マフィン、ペストリー、スコーン、およびクルトン;液体食品、例えば、清涼飲料、エネルギー飲料、乳児用調合乳、流動食、フルーツジュース、マルチビタミンシロップ、食事代替品、薬用食品、およびシロップ;半固形食品、例えば、ベビーフード、ヨーグルト、チーズ、シリアル、およびパンケーキミックス;エネルギー補給用バー等の食品バー;加工肉;アイスクリーム;冷凍デザート;冷凍ヨーグルト;ワッフルミックス;サラダドレッシング;および、代替エッグミックス;さらに、クッキー、クラッカー、甘味製品、スナック、パイ、グラノーラ/スナックバー、およびトースターペストリー;塩味加工したスナック、例えば、ポテトフライ、コーンチップス、トルティーヤチップス、押出スナック、ポップコーン、プレッツェル、ポテトチップス、およびナッツ;特製スナック、例えば、ディップ、ドライフルーツ、肉製スナック、ポークスクラッチ、健康食品バー、および餅/コーンケーキ;キャンディー等の砂糖菓子スナック;即席麺やキューブ状または顆粒状の即席スープ等のインスタント食品。
【0044】
本発明はさらに、ω−3系多価不飽和脂肪酸を含む栄養製品を製造するために、本発明の方法のいずれかによって得ることができる組成物を使用することを含む。
【0045】
本発明の範囲では、栄養製品として、例えば、ビタミン、ミネラル、繊維質、脂肪酸、またはアミノ酸の補給するための、機能性食品、栄養補助食品、または健康補助食品のいずれのタイプも含まれる。
【0046】
本発明はさらに、ω−3系多価不飽和脂肪酸を含む医薬品を製造するために、本発明の方法のいずれかによって得ることができる組成物を使用することを含む。
【0047】
本発明の範囲では、医薬品として、さらに、薬学的に許容し得る賦形剤、および、薬学的活性剤、例えば、スタチン等のコレステロール低下剤、抗高血圧薬、抗糖尿病薬、抗認知症薬、抗うつ剤、抗肥満症薬、食欲抑制薬、および記憶および/または認知機能増強剤等が含まれる。
【0048】
本発明の好ましい方法は、以下の選択肢のうちの1つにより特徴づけられる。
・0.90<R<1.10、x(fe)=5;PC=25;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=3;PC=25;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=2;PC=25;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=1;PC=25;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=5;PC=25;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=3;PC=25;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=2;PC=25;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=1;PC=25;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=5;PC=25;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=3;PC=25;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=2;PC=25;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=1;PC=25;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=5;PC=50;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=3;PC=50;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=2;PC=50;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=1;PC=50;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=5;PC=50;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=3;PC=50;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=2;PC=50;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=1;PC=50;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=5;PC=50;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=3;PC=50;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=2;PC=50;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=1;PC=50;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=5;PC=75;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=3;PC=75;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=2;PC=75;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=1;PC=75;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=5;PC=75;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=3;PC=75;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=2;PC=75;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=1;PC=75;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=5;PC=75;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=3;PC=75;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=2;PC=75;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=1;PC=75;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=5;PC=90;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=3;PC=90;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=2;PC=90;SC<1wt%
・0.90<R<1.10、x(fe)=1;PC=90;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=5;PC=90;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=3;PC=90;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=2;PC=90;SC<1wt%
・0.95<R<1.05、x(fe)=1;PC=90;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=5;PC=90;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=3;PC=90;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=2;PC=90;SC<1wt%
・0.98<R<1.02、x(fe)=1;PC=90;SC<1wt%
本明細書に記載されるように工程(iii)において噴霧乾燥を利用する本発明の方法によって得られる好ましい組成物は、以下の選択肢のうちの1つにより特徴づけられる。
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=95
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<3wt%、sp=97
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<3wt%、sp=97
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=95
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<1wt%、sp=97
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<1wt%、sp=97
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=95
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=90
・0.90<R<1.10、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=95
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=90
・0.95<R<1.05、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=1、SC<0.5wt%、sp=97
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=95
・0.98<R<1.02、x(fe)=3、SC<0.5wt%、sp=97
実験例
分析方法:
【0049】
欧州薬局方2.5.5(01/2008:20505)に従って過酸化物価(PV)を測定することによって、1次酸化生成物(二重結合におけるヒドロペルオキシド)を定量化した。Ph.Eur.2.5.36(01/2008:20536)の記載に従ってアニシジン価(AV)を測定することによって、2次酸化生成物(カルボニル化合物)を定量化した。
【0050】
オリゴマーPUFA成分とその誘導体(まとめてオリゴマー含有物と称する)を、ゲルクロマトグラフィー法(GPC、溶離剤として、トリフルオロ酢酸を含有するテトラヒドロフランを有するスチロールジビニルベンゼン相を使用)によって定量化した。屈折率(RI)検出器を検出に使用した。試料の成分の特定反応因子が不明であったため、クロマトグラムの総面積の分画比に基づいて、比率を算出した。
【0051】
含水量は、カールフィッシャー滴定によって測定した。
【0052】
エタノール含有量は、1−H−NMR分光法によって測定した。
【0053】
酸価は、水酸化カリウムを用いた滴定によって測定した。
実験例1:エイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA−OEt)から得られるエイコサペンタエン酸(EPA)
【0054】
92.0%と算出されたEPA含有量(総重量に対して92.0wt%の遊離EPA)、5.0A/gのアニシジン価、6.5mmol/kgの過酸化物価、および0.2面積%のオリゴマー含有量(ゲルクロマトグラフィー、RI検出器)を有するエイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA−OEt)(市販品、標準品質)5.00kgを、(窒素で不活性化された)30Lダブルジャケット容器に投入し、5.0Lのエタノールで希釈した。1.6kgのNaOH(50%)溶液を添加し、その結果生じた溶液を30℃〜50℃で30分間撹拌した。続いて、反応混合物を15Lの水で希釈し、その後、1.4Lのリン酸(85%)を添加した。引き続き10分間撹拌した後、相分離し、生成物相を5Lの水で洗浄した。4.639kgのエイコサペンタエン酸を、3.1A/gのアニシジン価および8.6mmol/kgの過酸化物価を有する油として得た。オリゴマー含有量は測定されなかった。
実験例2:ドコサヘキサエン酸エチルエステル(DHA−OEt)から得られるドコサヘキサエン酸(DHA)
【0055】
82.8%と算出されたDHA含有量(総重量に対して82.8wt%の遊離DHA)、92.8%のω−3系PUFA総含有量(総重量に対して92.8wt%のω−3系遊離PUFA)、16.0A/gのアニシジン価、26.1mmol/kgの過酸化物価、および0.4面積%のオリゴマー含有量(ゲルクロマトグラフィー、RI検出器)を有するドコサヘキサエン酸エチルエステル(市販品、標準品質)5.00kgを、(窒素で不活性化された)30Lダブルジャケット容器に投入し、5.0Lのエタノールで希釈した。1.6kgのNaOH(50%)溶液を添加し、その結果生じた溶液を30℃〜50℃で30分間撹拌した。続いて、反応混合物を15Lの水で希釈し、その後、1.4Lのリン酸(85%)を添加した。引き続き10分間撹拌した後、相分離し、生成物相を5Lの水で洗浄した。4.622kgのドコサヘキサエン酸を、1.7A/gのアニシジン価および7.9mmol/kgの過酸化物価を有する油として得た。オリゴマー含有量は測定されなかった。
実験例3:エイコサペンタエン酸(EPA)およびL−リジン(L−Lys)から得られるエイコサペンタエン酸−L−リジン塩(EPA−Lys)
【0056】
実験例1から得られ、滴定において177.8mgKOH/gの酸価を示すエイコサペンタエン酸2.00kgを、2kgのエタノールに溶解し、1.69kgのL−リジン水溶液(51.3wt%)と化合させた。二流体ノズルと、入口温度が170℃、出口温度が80℃である300mm×900mmの乾燥チャンバとを備えた特注の噴霧乾燥機を用いて、得られた均質な溶液を噴霧乾燥した。含水量が0.24%であり、エタノール含有量が<0.1%であるベージュ色粉末1.798kgを得た。得られた塩は、2.1A/gのアニシジン価および1.3mmol/kgの過酸化物価を示した。オリゴマー含有量は測定されなかった。
実験例4:ドコサヘキサエン酸(DHA)およびL−リジン(L−Lys)から得られるドコサヘキサエン酸−L−リジン塩(DHA−Lys)
【0057】
実験例2から得られ、滴定において166.3mgKOH/gの酸価を示すドコサヘキサエン酸2.00kgを、2.0kgのエタノールに溶解させ、1.81kgのL−リジン水溶液(51.3wt%)と化合させた。二流体ノズルと、入口温度が170℃、出口温度が80℃である300mm×900mmの乾燥チャンバとを備えた特注の噴霧乾燥機を用いて、得られた均質な溶液を噴霧乾燥した。含水量が0.27%であり、エタノール含有量が<0.1%であるベージュ色粉末1.892kgを得た。得られた塩は、3.1A/gのアニシジン価および1.7mmol/kgの過酸化物価を示した。オリゴマー含有量は測定されなかった。
実験例5:エイコサペンタエン酸(EPA)およびNaOHから得られるエイコサペンタエン酸ナトリウム塩(EPA−Na)
【0058】
実験例1と同様にして得られ、滴定時に183.3mgKOH/gの酸価を示すエイコサペンタエン酸50gを、50mlのエタノールに溶解し、水30ml中の6.54gの水酸化ナトリウムと撹拌しながら化合させた。得られた均質な溶液を、入口温度が140℃、出口温度が約80℃であるBuchi製ラボ用噴霧乾燥機B190を用いて噴霧乾燥した。28.6gの淡いベージュ色粉末を得た。室温で3ヶ月間保管した後、得られた塩は、灰色の外観を呈し、その時点で、41.1A/gのアニシジン価および5.0mmol/kgの過酸化物価を示した。オリゴマー含有量は、2.4面積%(ゲルクロマトグラフィー、RI検出器)と測定された。
実験例6:ドコサヘキサエン酸(DHA)およびNaOHから得られるドコサヘキサエン酸ナトリウム塩(DHA−Na)
【0059】
実験例2と同様にして得られ、滴定時に169.5mgKOH/gの酸価を示すドコサヘキサエン酸50gを、50mlのエタノールに溶解し、水30ml中の6.04gの水酸化ナトリウムと撹拌しながら化合させた。得られた均質な溶液を、入口温度が140℃、出口温度が約80℃であるBuchi製ラボ用噴霧乾燥機B190を用いて噴霧乾燥した。27.5gの淡いベージュ色粉末を得た。室温で3ヶ月間保管した後、得られた塩は、灰色の外観を呈し、その時点で、77.9A/gのアニシジン価および6.9mmol/kgの過酸化物価を示した。オリゴマー含有量は、3.4面積%(ゲルクロマトグラフィー、RI検出器)と測定された。
実験例7:高温(50℃)かつ空気に曝露させた状態での保管に関する、PUFAおよびその誘導体の安定性についての検討
【0060】
実験例1および2においてそれぞれ使用した液体エチルエステルEPA−OEtおよびDHA−OEt、ならびに、実験例1および2において得られた液体脂肪酸EPAおよびDHAのそれぞれ約50gを、内径約60mmの250mlショット製デュラン瓶に充填した(充填高約20mm)。
【0061】
実験例3および4においてそれぞれ得られた固体リジン−塩、EPA−LysおよびDHA−Lysのそれぞれ約50gを、250mlポリエチレン製広口瓶(55mm×55mm×80mm)に充填した(充填高約60mm〜70mm)。
【0062】
これらの瓶を全て一緒に、50℃で、換気バルブを開いた乾燥オーブンに、蓋が開いた状態で入れ、26日間保管した。続いて実施した分析の結果と、室温で保管した(実験例5および6参照)ナトリウム塩に対して得られた結果とを、以下の表(表1)にまとめた。