特許第6861161号(P6861161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861161エアバッグ用基布、エアバッグ、及びエアバッグ用基布の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861161
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】エアバッグ用基布、エアバッグ、及びエアバッグ用基布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/02 20060101AFI20210412BHJP
   D06M 23/16 20060101ALI20210412BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20210412BHJP
   B60R 21/235 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   D03D1/02
   D06M23/16
   D06M15/643
   B60R21/235
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-543275(P2017-543275)
(86)(22)【出願日】2016年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2016078324
(87)【国際公開番号】WO2017057299
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-195240(P2015-195240)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】小寺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】坂下 耕一
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−363835(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0260976(US,A1)
【文献】 特開平05−262193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる経糸及び緯糸により構成された合成繊維織物と、
前記合成繊維織物の一方の面に被覆されている合成樹脂層と、
を備え、
前記合成繊維織物の経糸及び緯糸のうちの一方の糸のみが、前記合成樹脂層から露出している、エアバッグ用基布。
【請求項2】
前記合成樹脂層から露出しない糸に付着している当該合成樹脂の重量が、前記合成樹脂層から露出する糸に付着している当該合成樹脂の重量に対して、105%以上である、請求項1に記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記合成繊維織物を構成する経糸及び緯糸の初期引張抵抗度が、7〜15N/texである、請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
前記合成繊維織物においては、前記合成樹脂層から露出する糸の織密度が、露出しない糸の織密度よりも低い、請求項1から3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
単位面積当たりの前記合成樹脂層の重量が、10〜40g/m2である、請求項1から4のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のエアバッグ用基布を少なくとも1つ備えている、エアバッグ。
【請求項7】
合成繊維からなる経糸及び緯糸により構成された合成繊維織物を準備するステップと、
前記合成繊維織物の少なくとも一方の面に対し、前記合成繊維織物の経糸及び緯糸のうちの一方のみが露出するように、合成樹脂層を被覆するステップと、
を備えている、エアバッグ用基布の製造方法。
【請求項8】
前記合成繊維織物を構成する経糸及び緯糸の初期引張抵抗度が、7〜15N/texである、請求項7に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項9】
前記合成繊維織物においては、前記合成樹脂層から露出する糸の織密度が、露出しない糸の織密度よりも低い、請求項7または8に記載のエアバッグ用基布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用基布、これを備えたエアバッグ、及びエアバッグ用基布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両が衝突したときの衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、エアバッグ装置が普及している。エアバッグ装置は、衝突時に、乗員と内装構造物との間の 空間に瞬時に膨出し、乗員が直接、インパネやサイドドア、ハンドルなどに衝突する際の衝撃を吸収する機能をもつものである。そのため、エアバッグ装置としては、車両の衝突などの衝撃を受けたときの急激な減速を検知するセンサ、センサからの 信号を受けて膨出用の高圧ガスを発生するインフレーター、インフレーターからの膨出用の高圧ガスにより、膨出展開して乗員の衝撃を緩和するエアバッグ袋体、および、エアバッグシステムが正常に機能しているか否かを 判断する 診断回路を、通常備えている。
【0003】
また、近年においては、車両に対する側突事故やロールオーバ等の事故において、乗員の頭部を保護する目的で、車室内において車両の側面に沿って膨張展開するカーテンエアバッグを設けた車両が、数多く使用されている(例えば、特許文献1)。このカーテンエアバッグは、次のように動作する。すなわち、車両に対する側突事故やロールオーバ等の事故の発生が検知されると、あるいはこれらの事故の発生が予測されると、インフレーターから噴射された膨張ガスがカーテンエアバッグ内に流入して、カーテンエアバッグを膨張展開させる。
【0004】
このカーテンエアバッグは、乗員の頭部への衝撃を吸収するために、車両が横転している数秒間という長時間にわたっての内圧保持が求められており、エアバッグの気密性を高めるために、縫製部にシール材によりシールされ、気密性を上げている事が多い。例えば、基布を2枚重ねて縫製する際に、縫製ラインに沿って合成樹脂に接着するシール材を塗布している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−306312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シール材を用いたカーテンエアバッグ用基布の合成樹脂はシール材との接着性を確保するために、樹脂量が一定量以上必要であり、樹脂量を安易に減らすことができない。すなわち、表面の樹脂量が少ないと、シール材との密着性が不良になり、気密性を保持できなくなるという問題が発生する。
【0007】
また、次のような問題もある。エアバッグ装置のような安全装置(以下、モジュールと記す)は、多くの構成部品からなり、その結果、車内に搭載された各モジュールの重量も多くなり、モジュールの構成部品を、軽く、小さくするための工夫がなされている。
【0008】
エアバッグのモジュールの構成部品およびバッグ取り付け治具などの軽量化は実施されているが、エアバッグ用の基布での軽量化はあまり進んでいない。特にシールカーテンエアバッグ用の基布はシール材との密着性が重要であり、必要最低限の樹脂量を必要としているため、基布での軽量化は実現されていない。
【0009】
例えば、上述した特許文献1には、扁平形状の繊維を使用することによって、繊維束のフィラメント数を減らすことでのエアバッグ軽量化方法を開示しているが、大幅な軽量化には繋がっていない。また扁平糸は一部分しか有していない点からエアバッグ軽量化の効果としては少ない可能性があった。
【0010】
本発明は、合成樹脂の量を低減しながら、シール性能の接着性を損なうことなく、エアバッグを作製することができるエアバッグ用基布、これを備えたエアバッグ、及びエアバッグ用基布の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るエアバッグ用基布は、合成繊維からなる経糸及び緯糸により構成された合成繊維織物と、前記合成繊維織物の少なくとも一方の面に被覆されている合成樹脂層と、を備え、前記合成繊維織物の経糸及び緯糸のうちの一方の糸のみが、前記合成樹脂層から露出している。
【0012】
上記エアバッグ用基布においては、前記合成樹脂層から露出しない糸に付着している当該合成樹脂の重量を、前記合成樹脂層から露出する糸に付着している当該合成樹脂の重量に対して、105%以上にすることができる。
【0013】
上記各エアバッグ用基布においては、前記合成繊維織物を構成する経糸及び緯糸の初期引張抵抗度を、7〜15N/texにすることができる。
【0014】
上記各エアバッグ用基布では、前記合成繊維織物において、前記合成樹脂層から露出する糸の織密度を、露出しない糸の織密度よりも小さくすることができる。
【0015】
上記エアバッグ用基布においては、単位面積当たりの前記合成樹脂層の重量を、10g〜40g/m2とすることができる。
【0016】
本発明に係るエアバッグは、上述したいずれかのエアバッグ用基布を少なくとも1つ備えている。
【0017】
上記エアバッグにおいては、一対の前記エアバッグ用基布を備え、前記一対のエアバッグ用基布は、前記合成樹脂層が互いに対向するように重ね合わされるとともに、シール材によって互いに固定されており、前記シール材を通過するように縫製されているものとすることができる。
【0018】
上記エアバッグにおいて、前記シール材は、線状に形成することができる。
【0019】
本発明に係るエアバッグ用基布の製造方法は、合成繊維からなる経糸及び緯糸により構成された合成繊維織物を準備するステップと、前記合成繊維織物の一方の面に対し、当該合成繊維織物の経糸及び緯糸のうちの一方のみが露出するように、合成樹脂層を被覆するステップと、を備えている。
【0020】
上記エアバッグ用基布の製造方法においては、前記合成繊維織物を構成する経糸及び緯糸の初期引張抵抗度を、7〜15N/texにすることができる。
【0021】
上記各エアバッグ用基布の製造方法では、前記合成繊維織物において、前記合成樹脂層から露出する糸の織密度を、露出しない糸の織密度よりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、合成樹脂の量を低減しながら、シール性能の接着性の損なうことなく、エアバッグを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るエアバッグ用基布の平面図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3】エアバッグの断面図である。
図4】実施例及び比較例の物性及び評価結果を示す表である。
図5】実施例1の表面性状を示す写真である。
図6】比較例1の表面性状を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るエアバッグ用基布、これを備えたエアバッグ、及びエアバッグ用基布の製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るエアバッグ用基布の平面図、図2図1のA−A線の一部断面図である。以下では、説明の便宜のため、図1中の方向に沿って、エアバッグ用基布について説明するが、本発明は、この方向に限定されるものではない。
【0025】
<1.エアバッグ用基布>
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るエアバッグ用基布は、合成繊維織物1と、この合成繊維織物1の一方の面(図2では上面)に被覆された合成樹脂2からなる合成樹脂層と、を備えている。そして、被覆された合成樹脂2の表面からは、合成繊維織物1を構成する経糸11及び緯糸12の一方が露出し、他方が合成樹脂2によって覆われ、見えないようになっている。以下では、一例として、緯糸12が合成樹脂2から露出し、経糸11が合成樹脂によって覆われている態様について説明するが、これを反対にすることができるのはもちろんである。なお、図1及び図2の例では、合成樹脂2が、合成繊維織物1の一方の面に被覆されているが、両面に被覆することもできる。以下、各部材について詳細に説明する。
【0026】
<1−1.合成繊維織物>
本発明における合成繊維織物1とは、合成繊維糸条を用いて製織される織物を意味する。織物は機械的強度に優れ、厚さを薄くできるという点で優れている。織物の 組織は特に限定されるものでなく、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織、多軸織などを挙げることができる。なかでも、機械的強度により優れた平織物が特に好ましい。
【0027】
合成繊維糸条の種類は特に限定されるものでなく、例えば、ナイロン66、 ナイロン6、ナイロン12、ナイロン46などのポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート、 ポリブチレンテレフタレートなどの ポリエステル繊維;ポリエチレン、ポリプロピレンなどの ポリオレフィン繊維;ポリビニルアルコール繊維;ポリ塩化ビニリデン繊維; ポリ塩化ビニル繊維;アクリルなどのポリアクリロニトリル系繊維;ポリウレタン繊維;芳香族ポリアミド繊維;ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などを挙げることができる。なかでも、 製造が容易で、かつ耐熱性に優れるという理由により、ポリアミド繊維およびポリエステル繊維が好ましい。より好ましくは、糸自体の伸びが少ない、ポリエステル繊維を用いることによって、加工の際に織物の経方向の張りが強くなり、経糸が緯糸に食い込む形となり、その基布状態で樹脂を塗布することによって、経糸もしくは緯糸の一方が合成樹脂によって完全に被覆された領域を有する基布表面を得ることができる。
【0028】
特に、合成繊維糸条としては、初期引張抵抗度(JIS L1013 8.10)が、7〜15N/texである材料が選択されることが好ましい。
【0029】
糸条の形態は特に限定されるものでなく、例えば、フィラメント糸、紡績糸、 混紡糸、混繊糸、交撚糸、捲回糸などを挙げることができる。なかでも、生産性、コスト面、機械的強度に優れ、また、単糸の広がりにより低通気性が得られやすいという理由により無撚あるいは甘撚のフィラメント糸が好ましい。単糸単繊維ともいう)の断面形状は特に限定されるものでなく、例えば、丸、扁平、三角、長方形、平行四辺形、中空、星型などを挙げることができる。生産性やコストの点では丸断面が好ましく、布帛の厚さを薄くできる為にエアバッグの収納性が良くなるという点では扁 平断面が好ましい。
【0030】
単糸強度(引張強度)は5.4g/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは7.0g/dtex以上である。単糸強度が5.4g/dtex 未満であると、エアバッグとしての物理的特性を満足することが困難となるおそれがある。
【0031】
糸条の総繊度は155〜700dtexであることが好ましく、より好ましくは235〜550dtexである。総繊度が155dtex未満であると、布帛の 強度を維持することが困難となるおそれがある。総繊度が700dtexを越えると、布帛の厚さが増大し、エアバッグの収納性が悪くなる。
【0032】
また、本発明において、織物の経糸と緯糸の密度を必ずしも同じ本数にしなくてもよく、経糸本数と緯糸本数が異なる密度で織られた織物とすることができる。この場合、少ない本数の糸の数が、多い本数の糸の数の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
<1−2.合成樹脂>
合成繊維織物に被覆される合成樹脂2としては、例えば、クロロプレンゴム、ハイバロンゴム、フッ素ゴムなどの含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン三元共重合ゴム、ニロリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソブチレンイソプレンゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム類、および、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、およびフッ素樹脂などの含ハロゲン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、アミド樹脂、オレフィン樹脂およびシリコーン樹脂などの樹脂類があげられ、これらは単独または併用して使用される。なかでも可撓性、耐熱性および耐候性に優れる点で、シリコーンゴムおよびシリコーン樹脂が好ましい。
【0034】
シリコーン化合物は通常 市販されているものを用いることができ、その タイプは、 無溶剤型、溶剤希釈型、水分散型など特に限定されない。
【0035】
また、本発明においてシリコーン化合物には、シリコーン被膜硬化後の粘着性低減や シリコーン皮膜の補強などの目的で、ポリウレタン化合物、アクリル化合物、ポリエステル化合物など、他の高分子材料を含んでいてもよい。さらに、硬化剤、接着向上剤、充填剤、補強剤、顔料、難燃助剤などの 添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
合成繊維織物1上に被覆される合成樹脂2の量は、10〜40g/m2であることが好ましく、10〜25g/m2であることがさらに好ましい。これは、合成樹脂の量が10g/m2より小さいと、後述するように、合成樹脂とシール材の密着性能が低下するからであり、40g/m2より大きいと、軽量化が図れないためである。以下、この合成樹脂の量を、樹脂付与量ということがある。
【0037】
<2.エアバッグ用基布の製造方法>
本発明に係るエアバッグ用基布は、上述した合成繊維織物1の一方又は両方に合成樹脂2を塗布することで製造される。合成樹脂2の塗布方法は、特には限定されないが、例えば、1)コーティング法(ナイフ、キス、リバース、コンマ、スロットダイおよびスリップなど)、2)浸漬法、3)印捺法(スクリーン、ロール、ロータリーおよびグラビアなど)、4)転写法(トランスファー)、5)ラミネート法、および6)スプレーなどにて噴霧する方法などがあげられる。なかでも、設定できる塗布量の幅の大きい点で、コーティング法が好ましい。
【0038】
ところで、本発明に係るエアバッグ用基布では、上記のように、緯糸12が合成樹脂2から露出し、経糸11が合成樹脂2によって覆われているが、そのようにするための1つの方法としては、合成繊維織物1において、緯糸12が合成繊維織物1の表面側に浮き上がり、経糸11が合成繊維織物1の内部に沈むように構成することである。合成繊維織物1がこのような態様であると、沈んだ経糸11が合成樹脂2によって覆われ、浮き上がった緯糸12は、合成樹脂2が塗布されても覆われず、合成樹脂2の表面から露出する。
【0039】
そして、このように、緯糸12が合成繊維織物1の表面側に浮き上がり、経糸11が合成繊維織物1の内部に沈むためには、例えば、合成繊維織物1を以下の(1)または(2)のように構成することができる。
【0040】
(1)合成繊維糸条の初期引張抵抗度(JIS L1013 8.10)が、例えば、7〜15N/texである材料を用いると、合成繊維糸条が硬いため、製織されても、経糸又は緯糸の一方が、合成繊維織物の表面に向かって浮き上がりやすくなる。なお、初期引張抵抗度が7N/texより小さいと、一方の糸が浮き上がりにくく、15N/texより大きいと、糸が硬すぎて、エアバッグとしての収納性が悪化するため、好ましくない。このような初期引張抵抗値を有する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステルを好適に用いることができる。
【0041】
(2)経糸と緯糸の密度(織密度)が相違すると、織物の経緯の張力バランスが崩れる。その結果、糸の本数の多い方向で張力が強くなり、糸の本数の少ない方向で張力が弱くなる。これにより、張力の弱い方向の糸に、張力の強い糸が食い込む表面状態になり、張力の弱い糸が合成繊維織物の表面側に浮き上がりやすくなる。但し、少ない本数の糸の数が、多い本数の糸の数の80%以上であることが好ましい。例えば、2.54cm当たりの経糸の数が59本である場合、緯糸の数は59〜47本とすることができる。
【0042】
以上のような(1)または(2)、あるいは(1)及び(2)の両方を適用することで、一方の糸を浮き上がりやすくすることができる。なお、(1)のような合成繊維糸条を用いる場合には、経糸と緯糸の数を同じにしても、一方の糸が浮き上がりやすくなる。
【0043】
また、緯糸12が合成樹脂2から露出し、経糸11が合成樹脂2によって覆われるためのもう一つの方法としては、合成繊維織物1の一方の糸にのみ合成樹脂2が塗布されるように、合成樹脂2を合成繊維織物1上に印刷する方法がある。この場合、例えば、グラビア印刷などを用い、合成樹脂が、一方の糸のみを覆うように、ドットパターンを有する印刷版を用いることができる。
【0044】
上記のように、一方の糸が合成樹脂に覆われ、他方の糸が合成樹脂から露出する場合には、合成樹脂2によって覆われている糸に付着している樹脂量の、合成樹脂2から露出している糸に付着している樹脂量に対する割合が、105%以上であることが好ましい。これは、105%より小さいと、露出している糸に付着している樹脂量が多くなりすぎ、軽量化の実現が難しくなるからである。以下、この割合を樹脂量割合ということがある。
【0045】
<3.エアバッグの作製>
上記のように構成されたエアバッグ用基布は、適宜シールや縫製がなされてエアバッグとなり、これを折り畳んだ後、インフレータに取付けられ、運転席/助手席用エアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置、またはサイドエアバッグ装置などとして使用される。具体的には、エアバッグは、次のように作製することができる。例えば、図3に示すように、一枚のエアバッグ用基布10の合成樹脂側の面にシール材13を線状に塗布し、その上にもう一枚のエアバッグ用基布10を合成樹脂側の面をシール材13側に向けて重ね合わせ、2枚のエアバッグ用基布10をシール材13により固定する。その後、シール材13上に縫製を行えば、エアバッグを得ることができる。縫製は、特には限定されないが、例えば、上糸14と下糸15を用いた本縫いにより行うことができる。図3の例では、糸調子を調整し、下糸15が直線状に延びるようにしている。
【0046】
縫製14は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い目により行えばよい。また、縫製糸の繊度は、235dtex(50番手相当)〜2800dtex(0番手相当)、運針数は2〜10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目線間の距離は2.2mm〜8mm程度として、多針型ミシンを用いればよいが、縫製部距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。
【0047】
また、エアバッグ用基布同士を固定するシール材13としては、例えば、シリコーン樹脂、シリコーンゴムを使用することができる。
【0048】
<4.特徴>
以上のようなエアバッグ基布によれば、経糸11及び緯糸12の一方のみが合成樹脂2から露出し、他方の糸は合成樹脂2に覆われるようになっているため、すべての糸を合成樹脂2で覆うのに比べ、合成樹脂2の量を低減することができる。そのため、エアバッグ用基布の重量を低減することができ、ひいてはエアバッグ本体の重量を低減することができる。
【0049】
また、合成樹脂2の量は減るものの、一方の糸が覆われる量の合成樹脂2は塗布されているため、エアバッグ用基布にシール材を塗布した場合、シール材をエアバッグ用基布の合成樹脂2に十分に密着させることができ、シール材が剥離するのを防止することができる。
【0050】
なお、上記実施形態では、経糸11及び緯糸12の一方のみが合成樹脂2から露出し、他方の糸は合成樹脂2に覆われ、露出しないようになっているが、本発明においては、他方の糸は、完全に露出しない場合に限られず、上述した効果を得ることができる限りは、わずかな露出は許容される。例えば、樹脂に覆われるべき糸は、平面視において、合成樹脂2から露出している糸の露出面積に対し5%以内の露出は許容される。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
A.実施例及び比較例の準備
ここでは、実施例1〜3及び比較例1,2に係るエアバッグ用基布を作製し、表面性状及び性能の評価を行った。以下、詳細に説明する。
【0053】
まず、実施例1〜3及び比較例1,2において、糸の織密度、総繊度、樹脂付与量、及び樹脂量割合は、以下のとおり測定した。
【0054】
<織密度測定方法>
織物の経糸、緯糸それぞれにおいて、10cm間での糸の本数を確認し、2.54cm間の糸の本数を算出した。
【0055】
<糸の総繊度>
JIS L 1013 8.3.1 B法に準じて計測を実施した。
【0056】
<樹脂付与量>
合成樹脂の塗布前の重量と塗布後の重量の差によって、樹脂付与量を算出した。具体的には、塗布前の合成繊維織物と塗布後のエアバッグ用基布を、それぞれ10cm×10cmの大きさに裁断
したものを準備し、合成樹脂の塗布の前後の重量差から、1m2当たりの樹脂付与量を算出した。
【0057】
<樹脂量割合>
合成樹脂の塗布後のエアバッグ用基布を、10cm×10cmに裁断した後、ここから、経糸、緯糸をそれぞれ10本ずつ抜き取った。その後、合成樹脂に被覆されている糸に付着している樹脂量(g/m)の、合成樹脂から露出する糸に付着している樹脂量(g/m)に対する割合(%)を求めた。これを樹脂量割合とした。
【0058】
次に、実施例1〜3及び比較例1,2の作製方法について説明する。
(実施例1)
丸断面のポリエステル繊維、470dtex/144フィラメントの糸を経糸および緯糸として製織し、経糸の織密度が46本/2.54cmと緯糸の織密度が46本/2.54cmの平織の合成樹脂織物を得た。続いて、この合成樹脂織物を経糸と緯糸の織密度がともに生機と同じになるようにして定法により熱セットをおこなった。
【0059】
次に、合成樹脂として、粘度15,000mPa・sの無溶剤系シリコーン樹脂を準備した。そして、接触部における刃の厚さ0.1mmのステンレス製ナイフとウレタン製ベッドを用いて、挟み力2.5N/cmで合成樹脂織物を挟み、合成樹脂のコーティングをおこなった。その後、ピンテンター乾燥機を用いて180℃、60秒で熱処理をし、樹脂付与量が25g/m2のエアバッグ用基布を得た。樹脂量割合は、108%であった。
【0060】
(実施例2)
実施例1との相違は、以下の通りであり、記載のない事項は実施例1と同じである。丸断面のナイロン繊維、470dtex/72フィラメントの糸を経糸および緯糸として製織し、経糸の織密度が46本/2.54cmと緯糸の織密度が46本/2.54cmの 平織の合成繊維織物を得た。また、合成樹脂として、粘度15,000mPa・sの 無溶剤系シリコーン樹脂を準備し、合成繊維織物に対し、ドットパターンを使用してグラビア印刷機にて転写した。樹脂量割合は、175%であった。
【0061】
(実施例3)
実施例1との相違は、以下の通りであり、記載のない事項は実施例1と同じである。丸断面のナイロン66繊維、350dtex/72フィラメントの糸を経糸および緯糸として製織し、経糸の織密度が63本/2.54cmと緯糸の織密度が60本/2.54cmの 平織の合成繊維織物を得た。樹脂量割合は、107%であった。
【0062】
(比較例1)
合成繊維織物は、実施例2と同じである。その後、実施例1と同様の方法で、合成樹脂を塗布した。樹脂量割合は、103%であった。
【0063】
(比較例2)
合成繊維織物は、実施例2と同じである。その後、実施例1と同様の方法で、合成樹脂を塗布した。続いて、実施例1と同様の方法で、合成樹脂を塗布したが、樹脂付与量30g/m2とした。樹脂量割合は、103.5%であった。
【0064】
B.評価
次に、上記実施例1〜3及び比較例1,2に対し、以下の通り、樹脂被覆判定、及びシール接着試験を行った。
【0065】
<樹脂被覆判定>
SEMによる反射電子像(観察倍率50倍)により、各実施例及び比較例の表面性状を観察した。合成樹脂によって繊維束のフィラメントが完全に被覆されており、目視により当該フィラメントを確認できない状態を「A」判定とした。一方、合成樹脂によって完全に被覆されておらず、繊維束のフィラメントの露出を目視により確認できるものは、「B」判定とした。
【0066】
<シール接着試験>
上記各実施例及び比較例に係るエアバッグ用基布(N=3とする)を100cm×10cmに裁断した。次に、エアバッグ用シリコーンシール材(東レダウコーニング製/2液タイプ/破断伸度1600%以上)を、裁断したエアバッグ用基布の長さ方向に、当該基布の一端から10mmの位置に塗布した。その後、同じサイズに裁断したエアバッグ用基布を重ね、シール材が、厚み1mm、幅8mmとなるよう圧着した。続いて、この重ね合わせた基布を、塗布したシールに対して垂直方向に5cm幅でカットし試験片とした。
【0067】
続いて、試験片をシール塗布位置中心に上下に開き、両端をそれぞれオートグラフ(島津製作所製 AG−IS MO型)の上下つかみ具に挟み、つかみ具間50mm、速度は200mm/minの条件で剥離試験を実施した。そして、各試験片のCF率の算出によって行った。なお、CF率とは剥離試験を実施したサンプルにおける凝集破壊しているシール材の面積比率を示し、凝集破壊(Cohesive Failure)とはシール材自身が破壊した場合をいう。反対に、シール材がエアバッグ用基布の表面で剥離する場合を界面破壊という。すなわち、シール材自身で破断した面積を凝集破壊面積とし、シール材とエアバッグ用基布との界面で破断した面積を界面破壊面積とした場合に、100×(凝集破壊面積)/(界面破壊面積+凝集破壊面積)により求められる比率をCF率といい、CF率100%とはシール材層のみで破断が生じていることを意味する。
【0068】
判定基準は、CF率100%の状態を「A」判定とする。CF率が90%以上100%未満のものを「B」判定、CF率が60%以上90%未満を「C」判定、60%未満を「D」判定とした。なお、例えば、カーテンエアバッグのように、エアバッグ用基布が内圧を保持するために、シール材と合成樹脂との界面での剥離が発生しないことが求められている。そのため、破壊される場合には、シール材自身が凝集破壊することが好ましい。
【0069】
<評価結果>
結果は、図4に示すとおりである。まず、樹脂被覆判定の結果について説明する。実施例1〜3は、すべて、合成繊維織物の経糸が合成樹脂によって完全に被覆されており、緯糸が合成樹脂から露出していた。例として、図5に、実施例1の表面性状の写真を示す。同図によれば、合成樹脂の表面から、緯糸のみが露出し、経糸は合成樹脂に完全に被覆されていることが分かる。なお、実施例1は、初期引張抵抗度が示すとおり、比較的硬いポリエステルを繊維として用いているため、緯糸が浮き上がり、合成樹脂から露出していると考えられる。一方、実施例3は、ポリエステルよりも柔らかいナイロンを樹脂として用いているが、経糸と緯糸の数(密度)が異なるため、数の少ない緯糸が浮き上がり、合成樹脂から露出していると考えられる。
【0070】
一方、比較例1,2では、経糸、緯糸の両方とも樹脂によって完全に被覆されておらず、合成樹脂から露出していた。例として、図6に比較例1の表面性状の写真を示す。図6に示すように、比較例1では、経糸及び緯糸の両方が合成樹脂から露出している。なお、比較例1は、樹脂付与量は、実施例1〜3と同じであるが、比較的軟らかいナイロンを樹脂として用い、経糸と緯糸の数が同じであるため、いずれかの糸が浮き上がるような挙動が発生しなかったと考えられる。また、比較例1,2は、いずれも樹脂量割合が105%以下であり、このことからも経糸及び緯糸のいずれも合成樹脂から露出していることが分かる。
【0071】
次に、シール接着試験の結果について説明する。実施例1〜3は、いずれも、樹脂付与量が少ないにもかかわらず、エアバッグ用基布とシール材との接着強度が良好であり、シール材はすべて凝集破壊であった。剥離破壊モードとして、凝集破壊は最も優れたモードである。ここで、凝集破壊が発生したということは、エアバッグ用基布の界面において、シール材と合成樹脂との密着性能が、シール材自体の剥離強度よりも強いことを意味する。これは、合成樹脂の表面から経糸のみが露出し、エアバッグ用基布の表面に占める合成樹脂の割合が多く、より広い面積でシール材と密着していることによると考えられる。
【0072】
一方、比較例1では、経糸、緯糸の両方とも合成樹脂から露出し、合成樹脂によって完全に被覆されていないため、シール材との接着性は不良であった。すなわち、シール材は凝集破壊でなく、エアバッグ用基布とシール材との界面での界面剥離であることが確認された。比較例2では、経糸、緯糸の両方とも合成樹脂によって完全に被覆されておらず、シール材との接着性は不良であった。接着試験においては、シール材は一部凝集破壊であったが、ほとんどがエアバッグ用基布とシール材との界面での界面剥離になっていた。
【符号の説明】
【0073】
1 合成繊維織物
11 経糸
12 緯糸
2 合成樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6