【文献】
住田雅樹、外1名,チタンとガラス廃材を出発材料としたTi5Si3粒子分散型チタン基複合材料のin-situ固相合成,材料とプロセス,日本,2005年 3月 1日,Vol.18 No.3,Page.694
【文献】
森久史、外6名,酸化物添加と還元雰囲気焼結法によるベータ型チタン合金の高強度・高靭性プロセス,材料,日本,2006年 4月15日,Vol.55 No.4,Page.449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
[Ti−Oの2元系状態図]
図1は、チタンおよび酸素の2元系状態図を示している。
図1から明らかなように、αーTi結晶は、最大で33原子%まで酸素を固溶することができる。このように多量の酸素を固溶できるのは、αーTi結晶が六方最密充填構造(hexagonal close-packed structure:hcp)を有するからである。多量の酸素を固溶できるのはチタンだけであり、他の金属では見られない特徴である。
【0022】
ところが、チタン材料を溶製法で作製する場合には、酸素を多量に固溶することができない。なぜなら、液相状態では結晶格子が形成されておらず、固相状態になる際に六方最密充填構造の結晶格子を作って酸素を取り込むだけだからである。
【0023】
[酸化物の標準生成自由エネルギー−温度図]
そこで、本願の発明者は、固相状態で酸素原子をチタンのマトリクス中に取り込む手法として、チタンと金属酸化物との反応を利用することができないかを検討した。
【0024】
図2は、酸化物の標準生成自由エネルギーと温度との関係を示す図である。出典は、丸善株式会社発行の「改訂第3版 金属データブック」(編者:社団法人日本金属学会)である。
図2のグラフで、横軸に示す特定の温度域で縦軸の標準生成自由エネルギーが下方に位置する(エネルギーが低い)金属酸化物は、上方に位置する(エネルギーが高い)金属酸化物よりも安定性が高い。したがって、熱力学の原理によれば、特定の温度域で標準生成自由エネルギーが下方に位置する金属MLは、上方に位置する金属MUの酸化物に対して還元作用を発揮し、金属MUの酸化物を分解し、解離した酸素原子を取り込むことが予測できる。
【0025】
この予測を実証するために、本願の発明者は、
図2のグラフで標準生成自由エネルギーがチタン(Ti)よりも高い金属MUの酸化物粒子とチタン粉末の混合粉末を固相状態(チタンの融点未満)で焼結する実験を行った。その結果、金属MUの酸化物が分解し、解離した酸素原子がチタンの結晶格子内に固溶し、なおかつ、解離した金属MUの原子がチタンの結晶格子内に固溶したり、チタンのマトリクス中に析出したり、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散したりすることを確認した。
【0026】
さらに、本願の発明者は、酸化チタニウムよりも標準生成自由エネルギーが下方に位置する金属MLの酸化物であっても、固相状態での焼結時にチタンとの反応によって分解し、酸素原子及び金属原子を解離する現象を見出した。解離した酸素原子はチタンの結晶格子内に固溶し、なおかつ、解離した金属MLの原子が、チタンの結晶格子内に固溶するか、チタンのマトリクス中に析出するか、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散することを確認した。このような挙動は、熱理学の原理に反するものであり、チタン粉末を用いた固相温度域での焼結過程においてのみ見られる現象である。
【0027】
[六方最密充填構造を有するマグネシウム]
マグネシウム(Mg)は、チタンと同様に六方最密充填構造を有するが、酸素を固溶できる量が極めて小さい。そのため、マグネシウム粉末と他の金属の酸化物粒子との混合粉末を焼結しても、両者の間で化学反応は生じない。
【0028】
本願の発明者は、酸化マグネシウム(MgO)よりも安定な酸化物である酸化カルシウム(CaO)粒子と、マグネシウム粉末とを混合し、400〜525℃の範囲で加熱して両者が化学反応するかどうかを確かめた。混合粉末全体に対する酸化マグネシウム粒子の量は、10容量%であった。
図3は、この実験のX線回折結果を示す。
図3において、4つの線は、下から順に、混合原料、400℃焼結、450℃焼結、525℃焼結の線を表している。
【0029】
「●」印で示すCaOのピークは、加熱処理しても消失せずにそのまま残っており、「△」印で示すMgのピーク位置のシフトも生じていない。この
図3から読み取れることは、加熱下においてもマグネシウムと酸化カルシウムとは化学反応しておらず、酸化カルシウムが分解していないということである。
【0030】
マグネシウムは、チタンと同じ六方最密充填構造を有しているものの、酸素を固溶できる量が小さいため、チタンに見られるような化学反応や酸素固溶現象を生じないことを確認した。
【0031】
[実験したチタン粉末及び金属酸化物粒子との混合粉末]
実験で使用したチタン粉末の材料は、純チタンであった。純チタンは、α相(六方最密充填構造の結晶格子)を有しているので、酸素原子等を多く固溶できる。今回の実験では使用していないが、純チタン粉末の代わりにα相を有するチタン合金粉末でも、純チタンと同様に、酸素原子等を多く固溶できる。α相を有するチタン合金の例として、Ti−6%Al−4%V、Ti−Al−Fe系チタン合金、Ti−Al−Fe−Si系チタン合金等を挙げることができる。
【0032】
使用した純チタン粉末の平均粒子径は28μmであったが、10μm〜150μm程度までの粒子径のものを使用してもよい。
【0033】
金属酸化物を形成する金属として、Si、Ta、Cu、Nb、Co、Fe、Mn、V、Sn、Cr、Al、Be、Zr、Mg等を使用できる。これらの金属の酸化物として、固相焼結する温度範囲においてTiO
2よりも標準生成自由エネルギーが高い(TiO
2よりも熱力学的に不安定)金属酸化物は、SiO
2、Ta
2O
5、CuO、Cu
2O、Nb
2O
5、CoO
2、FeO、MnO、V
2O
3、SnO、Cr
2O
3である。他方、固相焼結する温度範囲においてTiO
2よりも標準生成自由エネルギーが低い(TiO
2よりも熱力学的に安定)金属酸化物は、α−Al
2O
3、β−Al
2O
3、BeO、ZrO
2、MgOである。
【0034】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、1μm〜10μm程度である。混合時に金属酸化物粒子が凝集せずにチタン成分粉末粒子上に分散するようにするために、予めチタン成分粉末粒子表面に接着性を有するオイルをコーティングしておくのが望ましい。
【0035】
[焼結体の製造方法]
(1)混合工程
平均粒子径が28μmの純チタン粉末と、種々の金属酸化物粒子とを、ボールミルを用いて乾式下で混合した。金属酸化物粒子の量は、混合粉末全体に対して質量基準で、0.1〜7%の範囲にするのが好ましい。金属酸化物粒子の量が0.1%未満だと、金属酸化物粒子添加の効果が十分に発揮されない。他方、金属酸化物の量が7%を超えるようだと、チタン材料焼結体が硬くなりすぎて、脆くなる傾向がある。
【0036】
ボールミルを用いて実験を行った際の混合処理条件は、以下の通りである。
【0037】
ボールミルを用いた乾式混合処理
回転数:90rpm
混合時間:1H
混合粉末全体に対する金属酸化物の量:5質量%
【0038】
(2)成形工程
上記の混合処理によって得られた混合粉末を圧縮力を加えて成形した。この圧縮成形は、焼結工程と別個に行っても良いし、焼結処理時に同時に行っても良い。
【0039】
焼結処理前に圧縮成形する場合には、冷間で行っても良いし、温間で行っても良い。成形型としてスチール製を用いることができるので、成形圧力を300〜800MPa程度にすることができる。
【0040】
圧縮成形と固相焼結を同時に行う放電プラズマ焼結処理においては、成形型としてカーボン製を用いることになるので、型の強度面から、成形圧力を100MPa程度以下にすることが必要である。
【0041】
(3)焼結工程
実験では、混合粉末に対して30MPaの加圧力を加えて成形しながら放電プラズマ焼結処理を行った。放電プラズマ焼結処理装置の条件は、以下の通りであった。
【0042】
焼結温度:1000℃(固相温度域)
保持時間:1H
雰囲気:真空(4Pa以下)
【0043】
焼結温度の下限は、金属酸化物が分解する700℃程度である。焼結温度の上限は、チタン成分の融点以下、および金属酸化物を形成する金属の沸点以下のうちのいずれか低い方である。
【0044】
圧縮成形工程と別に焼結工程を行う場合には、焼結時の雰囲気を真空にする必要はなく、酸素を含まない不活性ガスの雰囲気であっても良い。
【0045】
上記の焼結処理時に、金属酸化物は酸素原子と金属原子とに分解する。解離した酸素原子は、チタン成分の六方最密充填構造の結晶格子内に固溶する。解離した金属原子は、金属の種類によって、以下のいずれかの挙動をする。
【0046】
a)チタン成分の六方最密充填構造の結晶格子内に固溶する。
b)チタン成分のマトリクス中に析出する。析出は、結晶内および/または結晶粒界上である。
c)チタン成分と反応して化合物を形成してチタン成分のマトリクス中に分散する。分散は、結晶内および/または結晶粒界上である。
【0047】
(4)均質化熱処理工程
加熱焼結した後に得られる焼結体の組織を均質化するための熱処理を行った。
【0048】
(5)熱間塑性工程
均質化熱処理を行った焼結体を熱間にて押出加工した。熱間押出加工は塑性加工の一種であるが、熱間押出加工に代えて熱間鍛造加工あるいは熱間圧延加工を行っても良い。焼結体を熱間にて塑性加工することによって、酸素固溶チタン焼結体の強度を一層向上することができる。後述する引張試験の試料は、焼結体を熱間押出加工したものである。
【0049】
[焼結体の特性評価]
本願発明者は、以下の評価を通して、チタン成分からなる粉末と、チタン以外の金属の酸化物粒子とを混合して、加圧焼結することによって、金属酸化物から解離した酸素原子及び金属原子がチタン材料中に固溶、析出、又は分散していること、さらに焼結体の硬度が上昇していること、さらに焼結体の押出材の引張強度が上昇していることを確認した。
【0050】
a)原料混合粉末(焼結前)及び焼結体のX線回折
b)焼結体の組織写真
c)焼結体のマイクロビッカース硬度(Hv)の測定
d)焼結体押出材の常温での引張試験
【0051】
[金属酸化物の分解および解離した酸素原子および金属原子の挙動の確認]
図4〜
図19は、X線回折結果を示す図であり、最も下に位置する線は純チタンと金属酸化物粒子との混合粉末(焼結前)を示し、最も上に位置する線は金属酸化物粒子を示し、中間に位置する線は放電プラズマ焼結処理後の焼結体を示している。各図において、記号「〇」は金属酸化物の存在を表すピークを示し、記号「△」は純チタンを表すピークを示し、記号「◆」はチタンと金属との化合物を表すピークを示し、記号「◇」は金属成分を表すピークを示している。
【0052】
(1)Ti+5質量%SiO
2
図4に示すTi+5質量%SiO
2の混合粉末を参照する。SiO
2粒子(最も上に位置する線)には、回折角21度付近および27度付近に、SiO
2のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、SiO
2のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0053】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角21度付近および27度付近のSiO
2のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、SiO
2が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、シリコン酸化物の分解によって解離した酸素原子およびシリコン原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0054】
さらに焼結体に注目すると、チタンとシリコンとの化合物(Ti−Si系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、シリコン酸化物の分解によって解離したシリコン原子がチタンと反応してTi−Si系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0055】
図20の組織写真を見れば、T−Si系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0056】
(2)Ti+5質量%Ta
2O
5
図5に示すTi+5質量%Ta
2O
5の混合粉末を参照する。Ta
2O
5粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角23度付近および27度付近に、Ta
2O
5のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、Ta
2O
5のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0057】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角23度付近および27度付近のTa
2O
5のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Ta
2O
5が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にややシフトしていることが認められる。これは、タンタル酸化物の分解によって解離した酸素原子およびタンタル原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0058】
さらに焼結体に注目すると、チタンとタンタルとの化合物(Ti−Ta系化合物)のピークや、タンタルのピークが現れていない。このことは、タンタル酸化物の分解によって解離したタンタル原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0059】
図21の組織写真を見れば、Ti−Ta系化合物やTa成分がマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0060】
(3)Ti+5質量%αAl
2O
3
図6に示すTi+5質量%αAl
2O
3の混合粉末を参照する。αAl
2O
3粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近および43度付近に、αAl
2O
3のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、αAl
2O
3のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0061】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近および43度付近のαAl
2O
3のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、αAl
2O
3が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、アルミニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびアルミニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0062】
さらに焼結体に注目すると、チタンとアルミニウムとの化合物(Ti−Al系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、アルミニウム酸化物の分解によって解離したアルミニウム原子がチタンと反応してTi−Al系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0063】
図22の組織写真を見れば、Ti−Al系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0064】
(4)Ti+5質量%γAl
2O
3
図7に示すTi+5質量%γAl
2O
3の混合粉末を参照する。γAl
2O
3粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角36度付近に、γAl
2O
3のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角36度付近にγAl
2O
3のピーク「〇」が現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0065】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角36度付近のγAl
2O
3のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、γAl
2O
3が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、アルミニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびアルミニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0066】
さらに焼結体に注目すると、回折角37度付近にチタンとアルミニウムとの化合物(Ti−Al系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、アルミニウム酸化物の分解によって解離したアルミニウム原子がチタンと反応してTi−Al系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0067】
図23の組織写真を見れば、Ti−Al系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0068】
(5)Ti+5質量%CuO
図8に示すTi+5質量%CuOの混合粉末を参照する。CuO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角33度付近に、CuOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角33度付近にCuOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0069】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角33度付近のCuOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、CuOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、銅酸化物の分解によって解離した酸素原子および銅原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0070】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンと銅との化合物(Ti−Cu系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、銅酸化物の分解によって解離した銅原子がチタンと反応してTi−Cu系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0071】
図24の組織写真を見れば、Ti−Cu系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0072】
(6)Ti+5質量%Cu
2O
図9に示すTi+5質量%Cu
2Oの混合粉末を参照する。Cu
2O粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角30度付近に、Cu
2Oのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角30度付近にCu
2Oのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0073】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角30度付近のCu
2Oのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Cu
2Oが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、銅酸化物の分解によって解離した酸素原子および銅原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0074】
さらに焼結体に注目すると、回折角43度付近にチタンと銅との化合物(Ti−Cu系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、銅酸化物の分解によって解離した銅原子がチタンと反応してTi−Cu系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0075】
図25の組織写真を見れば、Ti−Cu系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0076】
(7)Ti+5質量%Nb
2O
5
図10に示すTi+5質量%Nb
2O
5の混合粉末を参照する。Nb
2O
5粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角22度付近に、Nb
2O
5のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角22度付近にNb
2O
5のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0077】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角22度付近のNb
2O
5のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Nb
2O
5が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ニオブ酸化物の分解によって解離した酸素原子およびニオブ原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0078】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとニオブとの化合物(Ti−Nb系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、ニオブ酸化物の分解によって解離したニオブ原子がチタンと反応してTi−Nb系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0079】
図26の組織写真を見れば、Ti−Nb系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0080】
(8)Ti+5質量%BeO
図11に示すTi+5質量%BeOの混合粉末を参照する。BeO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角44度付近に、BeOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角44度付近にBeOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0081】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ベリリウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびベリリウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0082】
なお、焼結体において、回折角44度付近に、BeOのピークが現れているが、これは、今回の実験では、BeOの全てが分解しておらず、未分解のBeOが残っていることを示す。良好な混合状態にしたり、焼結温度等の条件を変更したりすれば、BeOの全てを分解させることは可能である。
【0083】
さらに焼結体に注目すると、回折角33度付近にチタンとベリリウムとの化合物(Ti−Be系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、ベリリウム酸化物の分解によって解離したベリリウム原子がチタンと反応してTi−Be系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0084】
図27の組織写真を見れば、Ti−Be系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0085】
(9)Ti+5質量%CoO
2
図12に示すTi+5質量%CoO
2の混合粉末を参照する。CoO
2粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角31度付近に、CoO
2のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角31度付近にCoO
2のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0086】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角31度付近のCoO
2のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、CoO
2が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、コバルト酸化物の分解によって解離した酸素原子およびコバルト原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0087】
さらに焼結体に注目すると、回折角37度付近にチタンとコバルトとの化合物(Ti−Co系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、コバルト酸化物の分解によって解離したコバルト原子がチタンと反応してTi−Co系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0088】
図28の組織写真を見れば、Ti−Co系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0089】
(10)Ti+5質量%FeO
図13に示すTi+5質量%FeOの混合粉末を参照する。FeO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角42度付近に、FeOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角42度付近にFeOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0090】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角42度付近のFeOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、FeOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、鉄酸化物の分解によって解離した酸素原子および鉄原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0091】
さらに焼結体に注目すると、チタンと鉄との化合物(Ti−Fe系化合物)のピークや、鉄のピークが現れていない。このことは、鉄酸化物の分解によって解離した鉄原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0092】
図29の組織写真を見れば、Ti−Fe系化合物やFe成分がチタンのマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0093】
(11)Ti+5質量%MnO
図14に示すTi+5質量%MnOの混合粉末を参照する。MnO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角31度付近および41度付近に、MnOのピーク「〇」が現れている。
【0094】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、マンガン酸化物の分解によって解離した酸素原子およびマンガン原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0095】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとマンガンとの化合物(Ti−Mn系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、マンガン酸化物の分解によって解離したマンガン原子がチタンと反応してTi−Mn系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0096】
図30の組織写真を見れば、Ti−Mn系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0097】
(12)Ti+5質量%V
2O
3
図15に示すTi+5質量%V
2O
3の混合粉末を参照する。V
2O
3粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角24度付近に、V
2O
3のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角24度付近にV
2O
3のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0098】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角24度付近のV
2O
3のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、V
2O
3が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、バナジウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびバナジウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0099】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとバナジウムとの化合物(Ti−V系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、バナジウム酸化物の分解によって解離したバナジウム原子がチタンと反応してTi−V系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0100】
図31を参照すれば、Ti−V系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0101】
(13)Ti+5質量%ZrO
2
図16に示すTi+5質量%ZrO
2の混合粉末を参照する。ZrO
2粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近に、ZrO
2のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角25度付近にZrO
2のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0102】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近のZrO
2のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、ZrO
2が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ジルコニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびジルコニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0103】
さらに焼結体に注目すると、チタンとジルコニウムとの化合物(Ti−Zr系化合物)のピークや、ジルコニウムのピークが現れていない。このことは、ジルコニウム酸化物の分解によって解離したジルコニウム原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0104】
図32の組織写真を見れば、Ti−Zr系化合物やZr成分がチタンのマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0105】
(14)Ti+5質量%SnO
図17に示すTi+5質量%SnOの混合粉末を参照する。SnO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角30度付近に、SnOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、SnOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0106】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角30度付近のSnOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、SnOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にややシフトしていることが認められる。これは、すず酸化物の分解によって解離した酸素原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0107】
さらに焼結体に注目すると、回折角41度付近に、すずのピークが現れていることが認められる。これは、すず酸化物の分解によって解離したすず原子が、チタンのマトリクス中に析出していることを意味する。
【0108】
図33の組織写真を見れば、Sn成分がチタンのマトリクス中に析出していることを確認できる。
【0109】
(15)Ti+5質量%Cr
2O
3
図17に示すTi+5質量%Cr
2O
3の混合粉末を参照する。Cr
2O
3粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近に、Cr
2O
3のピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角25度付近にCr
2O
3のピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0110】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近のCr
2O
3のピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Cr
2O
3が分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、クロム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびクロム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0111】
さらに焼結体に注目すると、チタンとクロムとの化合物(Ti−Cr系化合物)のピークや、クロムのピークが現れていない。このことは、クロム酸化物の分解によって解離したクロム原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0112】
(16)Ti+10質量%MgO
図19に示すTi+10質量%MgOの混合粉末を参照する。混合粉末(上に位置する線)には、回折角42度付近にMgOのピークが現れているが、焼結体ではこのMgOのピークは消失している。このことは、焼結処理によってMgOが分解したことを意味する。
【0113】
[焼結体のマイクロビッカース(Hv)硬度計測結果]
上記に記載した各種焼結体(純チタン粉末と金属酸化物粒子の混合粉末成形体を放電プラズマ焼結したもの)を下記の条件で押出加工し、硬度測定及び引張強度測定のための試料を作成した。
【0114】
下記の条件でマイクロビッカース硬度(Hv)を測定して、以下の結果が得られた。なお、各試料に対して20か所の硬度を測定して、その平均硬度を算出した。
【0115】
硬度測定条件:荷重 100g/時間 15秒間
純Ti:208
Ti+5%SiO
2:779
Ti+5%Ta
2O
5:434
Ti+5%αAl
2O
3:861
Ti+5%γAl
2O
3:626
Ti+5%CuO:471
Ti+5%Cu
2O:466
Ti+5%Nb
2O
5:459
Ti+5%BeO:661
Ti+5%CoO
2:656
Ti+5%FeO:519
Ti+5%MnO:809
Ti+5%V
2O
3:847
Ti+5%ZrO
2:567
Ti+5%SnO:387
Ti+5%Cr
2O
3:544
【0116】
上記の測定結果から明らかなように、純チタン粉末と金属酸化物粒子との混合粉末を焼結したものは、純チタンに比べてマイクロビッカース硬度が大幅に上昇している。特に、Ti+5%SiO
2の焼結体、Ti+5%αAl
2O
3の焼結体、Ti+5%MnOの焼結体、Ti+5%V
2O
3の焼結体の硬度の上昇が著しい。このように焼結体の硬度が上昇するのは、焼結処理時に、金属酸化物が分解し、解離した酸素原子がチタンの結晶格子内に固溶するとともに、解離した金属原子がチタンの結晶格子内に固溶するか、チタンのマトリクス中に析出するか、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散することによって、強度が増大しているからである。
【0117】
[Ti64+ZrO
2系焼結体の押出材の引張試験結果]
Ti64+ZrO
2系焼結体の押出材の試料に対して、常温で引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。その結果を以下の表1および
図34の応力−伸び線図に示す。なお、Ti64合金の化学組成は、Ti−6Al−4Vである。
【0119】
表1および
図34から理解できることは、Ti64合金粉末とZrO
2粒子との混合粉末焼結押出材は、Ti64合金粉末の焼結押出材に比べて、硬度および引張強度が高くなっていることである。その効果は、ZrO
2の添加量が0.1質量%で表れている。
【0120】
伸び(%)に注目すると、ZrO
2の添加量が0.1質量%〜0.7質量%の試料は、Ti64の焼結押出材に比べて高い伸び性を発揮しているが、ZrO
2の添加量が0.9質量%の試料はTi64焼結押出材に比べて伸び性が劣っている。
【0121】
上記の結果から判断すると、Ti64−ZrO
2の焼結押出材の場合、硬度、引張強度、伸びの特性を向上させるためにはZrO
2の添加量を0.1質量%〜0.8質量%の範囲に調整するのが好ましい。
【0122】
[Ti+Al
2O
3(α)系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径1.8μmのαアルミナ粒子(αAl
2O
3)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にAl
2O
3粒子を0.0〜1.5質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0123】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1273K、保持時間3.6ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1273Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0124】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で180秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ15mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を6、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0125】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10
−4s
−1とした。その結果を表2に示す。
【0127】
表2の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+αAl
2O
3系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、αAl
2O
3の添加量が増えると、伸びが低下する。具体的には、αAl
2O
3の量が1.5質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0128】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。10%以上であればより好ましいとされる。係る観点からすれば、Ti+1.0質量%αAl
2O
3系焼結押出材は、伸び値が15.5%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0129】
表2の結果から、αAl
2O
3の添加量(混合粉末全体に対して)を0.1質量%〜1.3質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0130】
[Ti+V
2O
5系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.2μmの酸化バナジウム粒子(V
2O
5)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にV
2O
5粒子を0.0〜1.5質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0131】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1273K、保持時間3.6ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1273Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0132】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で180秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ15mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を6、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0133】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10
−4s
−1とした。その結果を表3に示す。
【0135】
表3の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+V
2O
5系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、V
2O
5の添加量が多くなると、伸びが低下する。具体的には、V
2O
5の量が1.5質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0136】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。10%以上であればより好ましいとされる。係る観点からすれば、Ti+1.0質量%V
2O
5系焼結押出材は、伸び値が24.1%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0137】
表3の結果から、V
2O
5の添加量(混合粉末全体に対して)を0.1質量%〜1.3質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0138】
[金属酸化物粒子の分解によって解離した金属原子(金属成分)の強化機構]
α相を有するチタン成分からなるチタン成分粉末と金属酸化物粒子とを混合して焼結すれば、金属酸化物が分解し、解離した酸素原子はチタンの結晶格子内に固溶し、解離した金属原子はチタンの結晶格子内に固溶したり、チタンのマトリクス中に析出したり、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散する。金属酸化物を形成する金属の種類によって、金属原子または金属成分の強化機構が異なる場合がある。以下の表4は、金属原子または金属成分の強化機構を整理したものである。
【0140】
表4において、Ti+5%SiO
2の焼結体押出材の場合、シリコン原子はTiの結晶格子内に固溶すると共に、シリコン原子の一部がTiと反応してTi−Si系化合物を形成しTiのマトリクス中に分散する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化、シリコン原子の固溶強化、およびTi−Si系化合物の分散強化である。この強化機構により、チタン成分材料の硬さ、耐摩耗性、耐熱性を向上する。
【0141】
Ti+5%Ta
2O
5の焼結体押出材の場合、タンタル原子はチタンの結晶格子内に固溶する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化およびタンタル原子の固溶強化であり、この強化機構によりチタン成分材料の延性を向上し、生体親和性を付与する。
【0142】
Ti+5%SnOの焼結体押出材の場合、すず原子はTiのマトリクス中に析出する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化およびすず原子の析出強化であり、この強化機構によりチタン成分材料の延性を向上する。
【0143】
[Ti+ZrO
2系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果、並びにZrO
2の好ましい添加量]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.0μmの酸化ジルコニウム粒子(ZrO
2)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にZrO
2粒子を0.0〜4.0質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0144】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1173K、保持時間10.8ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1773Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0145】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で300秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ10mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を18.5、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0146】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10
−4s
−1とした。また、硬度測定条件:荷重:50g/時間:15秒間とし、各試料に対して20か所のマイクロビッカース硬度(Hv)を測定してその平均硬度を算出した。
【0149】
図35と表5の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+ZrO
2系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、ZrO
2の添加量が多くなると、伸びが低下する。具体的には、ZrO
2の量が4.0質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0150】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。係る観点からすれば、Ti+3.0質量%ZrO
2系焼結押出材は、伸び値が8.2%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0151】
表5の結果から、ZrO
2粒子の添加量(混合粉末全体に対して)を0.5質量%〜3.5質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0152】
[Ti+ZrO2系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果、並びに好ましい焼結温度]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.0μmの酸化ジルコニウム粒子(ZrO
2)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にZrO
2粒子を3.0質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0153】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度を1073K、1173K、1273Kの3条件とし、保持時間10.8ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製したそれぞれの焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1773Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0154】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の各焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で300秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ10mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を18.5、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0155】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10
−4s
−1とした。
【0158】
図36と表6の結果から明らかなように、焼結温度を1173K以上とすることで、破断伸びが大幅に上昇する。1073Kの焼結過程において、添加したZrO
2粒子は熱分解するものの、素地を構成するTi粉末間での焼結が不十分であるために延性が得られず、その結果、伸び値が著しく低下する。
【0159】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。係る観点からすれば、焼結温度を1173Kおよび1273Kとした場合のTi+3.0質量%ZrO
2系焼結押出材の伸び値は、それぞれ8.2%と10.1%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0160】
表6の結果から、Ti粉末+ZrO
2粒子の混合粉末を用いて、ジルコニウム原子と酸素原子が固溶したTi系焼結押出材を作製する際の焼結温度は1123K以上に設定することが好ましいと考えられる。