特許第6861164号(P6861164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861164酸素固溶チタン材料焼結体およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861164
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】酸素固溶チタン材料焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20060101AFI20210412BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20210412BHJP
   B22F 3/14 20060101ALI20210412BHJP
   C22C 1/04 20060101ALI20210412BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20210412BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20210412BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   C22C1/05 E
   B22F3/24 C
   B22F3/24 F
   B22F3/14 101B
   C22C1/04 E
   C22F1/18 H
   B22F3/10 F
   !C22F1/00 628
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 603
   !C22F1/00 687
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 650A
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-548725(P2017-548725)
(86)(22)【出願日】2016年10月26日
(86)【国際出願番号】JP2016081766
(87)【国際公開番号】WO2017077922
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-215846(P2015-215846)
(32)【優先日】2015年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241241(JP,A)
【文献】 特開平05−001342(JP,A)
【文献】 特開昭60−224727(JP,A)
【文献】 住田雅樹、外1名,チタンとガラス廃材を出発材料としたTi5Si3粒子分散型チタン基複合材料のin-situ固相合成,材料とプロセス,日本,2005年 3月 1日,Vol.18 No.3,Page.694
【文献】 森久史、外6名,酸化物添加と還元雰囲気焼結法によるベータ型チタン合金の高強度・高靭性プロセス,材料,日本,2006年 4月15日,Vol.55 No.4,Page.449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/05
B22F 3/10
B22F 3/14
B22F 3/24
C22C 1/04
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α相を有するチタン成分からなるマトリクスと、
前記チタン成分の結晶格子内に固溶した酸素原子と、
前記チタン成分の結晶格子内に固溶限度まで固溶した金属原子とを備え、
α相への固溶限度を超えた前記金属原子と前記チタン成分との化合物が、前記マトリクス中に分散しており、
前記金属原子は、Si,Al,Cu,Nb,Be,Co,MnおよびVからなる群から選ばれたものである、酸素固溶チタン材料焼結体。
【請求項2】
α相を有するチタン成分からなるマトリクスと、
前記チタン成分の結晶格子内に固溶した酸素原子と、
前記マトリクス中に析出し分散して存在する金属成分とを備え、
前記金属成分は、Snである、酸素固溶チタン材料焼結体。
【請求項3】
α相を有するチタン成分からなるチタン成分粉末と、チタン以外の金属の酸化物粒子とを混合する工程と、
前記混合によって得られる混合粉末を圧縮力を加えて成形する工程と、
前記圧縮成形によって得られる圧縮成形体を酸素を含まない雰囲気の固相温度域で加熱して焼結する工程とを備え、
前記焼結工程は、
前記金属酸化物を、金属原子と酸素原子とに分解することと、
前記金属酸化物から解離した酸素原子をチタン成分の結晶格子内に固溶することと、
前記金属酸化物から解離した金属原子をチタン成分のマトリクス中に残存させることとを含み、
前記金属酸化物粒子の平均粒子径は、1μm〜10μmであり、
前記金属酸化物粒子の量は、混合粉末全体に対して質量基準で0.1〜7%の範囲であり、
前記固相温度域の加熱焼結温度は、その下限が700℃であり、その上限が、前記金属酸化物を構成する金属の沸点以下の温度、及び前記チタン成分の融点以下の温度のうちのいずれか低い方である、酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物粒子は、Si,Ta,Cu,Nb,Co,Fe,Mn,V,Sn,Cr,Al,Be,ZrおよびMgからなる群から選ばれた金属の酸化物粒子である、請求項3に記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物から解離した金属原子は、前記加熱焼結処理により、前記チタン成分の結晶格子内に固溶する、請求項3または4に記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物から解離した金属原子は、前記加熱焼結処理により、前記チタン成分と反応して化合物を形成して前記マトリクス中に分散する、請求項3または4に記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物から解離した金属原子は、前記加熱焼結処理により、前記チタン成分のマトリクス中に析出する、請求項3または4に記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記圧縮成形工程と前記焼結工程とを同時に行う、請求項3〜7のいずれかに記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記焼結工程の後に、焼結体の組織を均質化するための熱処理を行う工程をさらに備える、請求項3〜8のいずれかに記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記加熱焼結した後に得られる焼結体を塑性加工する工程をさらに備える、請求項3〜9のいずれかに記載の酸素固溶チタン材料焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高強度チタン材料に関するものであり、特に酸素を固溶させた酸素固溶チタン焼結体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンは、鋼の約1/2の低比重を有する軽量素材であり、耐腐食性や強度に優れた特徴を有することから、軽量化ニーズが強い航空機、鉄道車両、二輪車、自動車などの部品や、家電製品や建築用部材に利用されている。また、優れた耐腐食性の観点から、医療用素材としても利用されている。
【0003】
しかしながら、チタンは、鉄鋼材料やアルミニウム合金と比較して、素材コストが高いために利用対象が限定されている。特に、チタン合金は、1000MPaを超える高い引張強さを有するものの、延性(破断伸び)が十分ではなく、また常温または低温域での塑性加工性に乏しいといった課題がある。他方、純チタンは、常温にて25%を超える高い破断伸びを有しており、低温域での塑性加工性にも優れているものの、引張強さが400〜600MPa程度と低い点が課題である。
【0004】
チタンに対する高強度と高延性の両立、および素材コストの低減に関する要求は極めて強いことから、これまでに様々な検討が行われてきた。特に、低コスト化の観点から、バナジウム、スカンジウム、ニオブなどの高価な元素ではなく、酸素といった比較的安価な元素による高強度化が従来技術として多く検討されてきた。
【0005】
例えば、特開2012−241241号公報(特許文献1)は、酸素固溶チタン材料を得るための方法として、チタン粉末とTiO粒子との混合粉末成形体を焼結してTiO粒子を熱分解させ、解離した酸素原子をチタン中に固溶させる方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−241241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2012−241241号公報に開示された方法では酸素原子の固溶のみによってチタン材料の強度化を図っているが、チタン材料を種々の用途に適用する観点から、酸素原子による固溶強化に加えて、他の金属原子または化合物を含むことによる特性向上を発現するようにすることが望まれる。
【0008】
本発明の目的は、酸素原子の固溶強化に加えて、他の金属または化合物をマトリクス中に含むことによる特性向上を実現し得る高強度チタン焼結体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの局面において、本発明に従った酸素固溶チタン焼結体は、α相を有するチタン成分からなるマトリクスと、チタン成分の結晶格子内に固溶した酸素原子と、チタン成分の結晶格子内に固溶した金属原子とを備える。
【0010】
一つの実施形態では、α相への固溶限度を超えた金属原子とチタン成分との化合物が、マトリクス中に分散している。
【0011】
他の局面において、本発明に従った酸素固溶チタン焼結体は、α相を有するチタン成分からなるマトリクスと、チタン成分の結晶格子内に固溶した酸素原子と、マトリクス中に分散して存在する金属成分とを備える。
【0012】
一つの実施形態では、金属成分は、マトリクス中に析出した金属原子である。他の実施形態では、金属成分は、金属原子とチタン成分との化合物である。
【0013】
上記の金属原子または金属成分の金属は、例えば、Si,Ta,Cu,Nb,Co,Fe,Mn,V,Sn,Cr,Al,Be,ZrおよびMgからなる群から選ばれた金属である。
【0014】
本発明に従った酸素固溶チタン焼結体の製造方法は、α相を有するチタン成分からなるチタン成分粉末と、チタン以外の金属の酸化物粒子とを混合する工程と、混合によって得られる混合粉末を圧縮力を加えて成形する工程と、圧縮成形によって得られる圧縮成形体を酸素を含まない雰囲気の固相温度域で加熱して焼結する工程とを備える。上記の焼結工程は、金属酸化物を、金属原子と酸素原子とに分解することと、金属酸化物から解離した酸素原子をチタン成分の結晶格子内に固溶することと、金属酸化物から解離した金属原子をチタン成分のマトリクス中に残存させることとを含む。
【0015】
酸化物粒子は、例えば、Si,Ta,Cu,Nb,Co,Fe,Mn,V,Sn,Cr,Al,Be,ZrおよびMgからなる群から選ばれた金属の酸化物粒子である。
【0016】
好ましくは、固相温度域の加熱焼結温度は、その下限が700℃であり、その上限が、金属酸化物を構成する金属の沸点以下の温度、及びチタン成分の融点以下の温度のうちのいずれか低い方である。
【0017】
金属酸化物から解離した金属原子は、加熱焼結処理により、チタン成分の結晶格子内に固溶する。または、金属酸化物から解離した金属原子は、加熱焼結処理により、チタン成分と反応して化合物を形成してマトリクス中に分散する。または、金属酸化物から解離した金属原子は、加熱焼結処理により、チタン成分のマトリクス中に析出する。
【0018】
一つの実施形態では、圧縮成形工程と焼結工程とを同時に行う。好ましくは、酸素固溶チタン焼結体の製造方法は、加熱焼結した後に得られる焼結体に対して均質化熱処理を行う工程をさらに備える。また、好ましくは、酸素固溶チタン焼結体の製造方法は、加熱焼結した後に得られる焼結体を塑性加工する工程をさらに備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属酸化物から解離した酸素原子の固溶強化、および金属酸化物から解離した金属原子の固溶強化、析出強化または分散強化により、高強度チタン焼結体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】チタンおよび酸素の2元系状態図である。
図2】酸化物の標準生成自由エネルギーと温度との関係を示す図である。
図3】Mg+10容量%CaO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図4】Ti+5質量%SiO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図5】Ti+5質量%Ta系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図6】Ti+5質量%αAl系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図7】Ti+5質量%γAl系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図8】Ti+5質量%CuO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図9】Ti+5質量%CuO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図10】Ti+5質量%Nb系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図11】Ti+5質量%BeO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図12】Ti+5質量%CoO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図13】Ti+5質量%FeO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図14】Ti+5質量%MnO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図15】Ti+5質量%V系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図16】Ti+5質量%ZrO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図17】Ti+5質量%SnO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図18】Ti+5質量%Cr系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図19】Ti+10質量%MgO系混合粉末および焼結体のX線回折結果を示す図である。
図20】Ti+5質量%SiO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図21】Ti+5質量%Ta系混合粉末焼結体の組織写真である。
図22】Ti+5質量%αAl系混合粉末焼結体の組織写真である。
図23】Ti+5質量%γAl系混合粉末焼結体の組織写真である。
図24】Ti+5質量%CuO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図25】Ti+5質量%CuO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図26】Ti−5質量%Nb系混合粉末焼結体の組織写真である。
図27】Ti+5質量%BeO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図28】Ti+5質量%CoO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図29】Ti+5質量%FeO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図30】Ti+5質量%MnO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図31】Ti+5質量%V系混合粉末焼結体の組織写真である。
図32】Ti+5質量%ZrO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図33】Ti+5質量%SnO系混合粉末焼結体の組織写真である。
図34】Ti64+ZrO系混合粉末焼結押出材の応力−伸び線図である。
図35】Ti+ZrO系混合粉末焼結押出材の応力−伸び線図である。
図36】Ti+ZrO系混合粉末焼結押出材の応力−伸び線図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[Ti−Oの2元系状態図]
図1は、チタンおよび酸素の2元系状態図を示している。図1から明らかなように、αーTi結晶は、最大で33原子%まで酸素を固溶することができる。このように多量の酸素を固溶できるのは、αーTi結晶が六方最密充填構造(hexagonal close-packed structure:hcp)を有するからである。多量の酸素を固溶できるのはチタンだけであり、他の金属では見られない特徴である。
【0022】
ところが、チタン材料を溶製法で作製する場合には、酸素を多量に固溶することができない。なぜなら、液相状態では結晶格子が形成されておらず、固相状態になる際に六方最密充填構造の結晶格子を作って酸素を取り込むだけだからである。
【0023】
[酸化物の標準生成自由エネルギー−温度図]
そこで、本願の発明者は、固相状態で酸素原子をチタンのマトリクス中に取り込む手法として、チタンと金属酸化物との反応を利用することができないかを検討した。
【0024】
図2は、酸化物の標準生成自由エネルギーと温度との関係を示す図である。出典は、丸善株式会社発行の「改訂第3版 金属データブック」(編者:社団法人日本金属学会)である。図2のグラフで、横軸に示す特定の温度域で縦軸の標準生成自由エネルギーが下方に位置する(エネルギーが低い)金属酸化物は、上方に位置する(エネルギーが高い)金属酸化物よりも安定性が高い。したがって、熱力学の原理によれば、特定の温度域で標準生成自由エネルギーが下方に位置する金属MLは、上方に位置する金属MUの酸化物に対して還元作用を発揮し、金属MUの酸化物を分解し、解離した酸素原子を取り込むことが予測できる。
【0025】
この予測を実証するために、本願の発明者は、図2のグラフで標準生成自由エネルギーがチタン(Ti)よりも高い金属MUの酸化物粒子とチタン粉末の混合粉末を固相状態(チタンの融点未満)で焼結する実験を行った。その結果、金属MUの酸化物が分解し、解離した酸素原子がチタンの結晶格子内に固溶し、なおかつ、解離した金属MUの原子がチタンの結晶格子内に固溶したり、チタンのマトリクス中に析出したり、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散したりすることを確認した。
【0026】
さらに、本願の発明者は、酸化チタニウムよりも標準生成自由エネルギーが下方に位置する金属MLの酸化物であっても、固相状態での焼結時にチタンとの反応によって分解し、酸素原子及び金属原子を解離する現象を見出した。解離した酸素原子はチタンの結晶格子内に固溶し、なおかつ、解離した金属MLの原子が、チタンの結晶格子内に固溶するか、チタンのマトリクス中に析出するか、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散することを確認した。このような挙動は、熱理学の原理に反するものであり、チタン粉末を用いた固相温度域での焼結過程においてのみ見られる現象である。
【0027】
[六方最密充填構造を有するマグネシウム]
マグネシウム(Mg)は、チタンと同様に六方最密充填構造を有するが、酸素を固溶できる量が極めて小さい。そのため、マグネシウム粉末と他の金属の酸化物粒子との混合粉末を焼結しても、両者の間で化学反応は生じない。
【0028】
本願の発明者は、酸化マグネシウム(MgO)よりも安定な酸化物である酸化カルシウム(CaO)粒子と、マグネシウム粉末とを混合し、400〜525℃の範囲で加熱して両者が化学反応するかどうかを確かめた。混合粉末全体に対する酸化マグネシウム粒子の量は、10容量%であった。図3は、この実験のX線回折結果を示す。図3において、4つの線は、下から順に、混合原料、400℃焼結、450℃焼結、525℃焼結の線を表している。
【0029】
「●」印で示すCaOのピークは、加熱処理しても消失せずにそのまま残っており、「△」印で示すMgのピーク位置のシフトも生じていない。この図3から読み取れることは、加熱下においてもマグネシウムと酸化カルシウムとは化学反応しておらず、酸化カルシウムが分解していないということである。
【0030】
マグネシウムは、チタンと同じ六方最密充填構造を有しているものの、酸素を固溶できる量が小さいため、チタンに見られるような化学反応や酸素固溶現象を生じないことを確認した。
【0031】
[実験したチタン粉末及び金属酸化物粒子との混合粉末]
実験で使用したチタン粉末の材料は、純チタンであった。純チタンは、α相(六方最密充填構造の結晶格子)を有しているので、酸素原子等を多く固溶できる。今回の実験では使用していないが、純チタン粉末の代わりにα相を有するチタン合金粉末でも、純チタンと同様に、酸素原子等を多く固溶できる。α相を有するチタン合金の例として、Ti−6%Al−4%V、Ti−Al−Fe系チタン合金、Ti−Al−Fe−Si系チタン合金等を挙げることができる。
【0032】
使用した純チタン粉末の平均粒子径は28μmであったが、10μm〜150μm程度までの粒子径のものを使用してもよい。
【0033】
金属酸化物を形成する金属として、Si、Ta、Cu、Nb、Co、Fe、Mn、V、Sn、Cr、Al、Be、Zr、Mg等を使用できる。これらの金属の酸化物として、固相焼結する温度範囲においてTiOよりも標準生成自由エネルギーが高い(TiOよりも熱力学的に不安定)金属酸化物は、SiO、Ta、CuO、CuO、Nb、CoO、FeO、MnO、V、SnO、Crである。他方、固相焼結する温度範囲においてTiOよりも標準生成自由エネルギーが低い(TiOよりも熱力学的に安定)金属酸化物は、α−Al、β−Al、BeO、ZrO、MgOである。
【0034】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、1μm〜10μm程度である。混合時に金属酸化物粒子が凝集せずにチタン成分粉末粒子上に分散するようにするために、予めチタン成分粉末粒子表面に接着性を有するオイルをコーティングしておくのが望ましい。
【0035】
[焼結体の製造方法]
(1)混合工程
平均粒子径が28μmの純チタン粉末と、種々の金属酸化物粒子とを、ボールミルを用いて乾式下で混合した。金属酸化物粒子の量は、混合粉末全体に対して質量基準で、0.1〜7%の範囲にするのが好ましい。金属酸化物粒子の量が0.1%未満だと、金属酸化物粒子添加の効果が十分に発揮されない。他方、金属酸化物の量が7%を超えるようだと、チタン材料焼結体が硬くなりすぎて、脆くなる傾向がある。
【0036】
ボールミルを用いて実験を行った際の混合処理条件は、以下の通りである。
【0037】
ボールミルを用いた乾式混合処理
回転数:90rpm
混合時間:1H
混合粉末全体に対する金属酸化物の量:5質量%
【0038】
(2)成形工程
上記の混合処理によって得られた混合粉末を圧縮力を加えて成形した。この圧縮成形は、焼結工程と別個に行っても良いし、焼結処理時に同時に行っても良い。
【0039】
焼結処理前に圧縮成形する場合には、冷間で行っても良いし、温間で行っても良い。成形型としてスチール製を用いることができるので、成形圧力を300〜800MPa程度にすることができる。
【0040】
圧縮成形と固相焼結を同時に行う放電プラズマ焼結処理においては、成形型としてカーボン製を用いることになるので、型の強度面から、成形圧力を100MPa程度以下にすることが必要である。
【0041】
(3)焼結工程
実験では、混合粉末に対して30MPaの加圧力を加えて成形しながら放電プラズマ焼結処理を行った。放電プラズマ焼結処理装置の条件は、以下の通りであった。
【0042】
焼結温度:1000℃(固相温度域)
保持時間:1H
雰囲気:真空(4Pa以下)
【0043】
焼結温度の下限は、金属酸化物が分解する700℃程度である。焼結温度の上限は、チタン成分の融点以下、および金属酸化物を形成する金属の沸点以下のうちのいずれか低い方である。
【0044】
圧縮成形工程と別に焼結工程を行う場合には、焼結時の雰囲気を真空にする必要はなく、酸素を含まない不活性ガスの雰囲気であっても良い。
【0045】
上記の焼結処理時に、金属酸化物は酸素原子と金属原子とに分解する。解離した酸素原子は、チタン成分の六方最密充填構造の結晶格子内に固溶する。解離した金属原子は、金属の種類によって、以下のいずれかの挙動をする。
【0046】
a)チタン成分の六方最密充填構造の結晶格子内に固溶する。
b)チタン成分のマトリクス中に析出する。析出は、結晶内および/または結晶粒界上である。
c)チタン成分と反応して化合物を形成してチタン成分のマトリクス中に分散する。分散は、結晶内および/または結晶粒界上である。
【0047】
(4)均質化熱処理工程
加熱焼結した後に得られる焼結体の組織を均質化するための熱処理を行った。
【0048】
(5)熱間塑性工程
均質化熱処理を行った焼結体を熱間にて押出加工した。熱間押出加工は塑性加工の一種であるが、熱間押出加工に代えて熱間鍛造加工あるいは熱間圧延加工を行っても良い。焼結体を熱間にて塑性加工することによって、酸素固溶チタン焼結体の強度を一層向上することができる。後述する引張試験の試料は、焼結体を熱間押出加工したものである。
【0049】
[焼結体の特性評価]
本願発明者は、以下の評価を通して、チタン成分からなる粉末と、チタン以外の金属の酸化物粒子とを混合して、加圧焼結することによって、金属酸化物から解離した酸素原子及び金属原子がチタン材料中に固溶、析出、又は分散していること、さらに焼結体の硬度が上昇していること、さらに焼結体の押出材の引張強度が上昇していることを確認した。
【0050】
a)原料混合粉末(焼結前)及び焼結体のX線回折
b)焼結体の組織写真
c)焼結体のマイクロビッカース硬度(Hv)の測定
d)焼結体押出材の常温での引張試験
【0051】
[金属酸化物の分解および解離した酸素原子および金属原子の挙動の確認]
図4図19は、X線回折結果を示す図であり、最も下に位置する線は純チタンと金属酸化物粒子との混合粉末(焼結前)を示し、最も上に位置する線は金属酸化物粒子を示し、中間に位置する線は放電プラズマ焼結処理後の焼結体を示している。各図において、記号「〇」は金属酸化物の存在を表すピークを示し、記号「△」は純チタンを表すピークを示し、記号「◆」はチタンと金属との化合物を表すピークを示し、記号「◇」は金属成分を表すピークを示している。
【0052】
(1)Ti+5質量%SiO
図4に示すTi+5質量%SiOの混合粉末を参照する。SiO粒子(最も上に位置する線)には、回折角21度付近および27度付近に、SiOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、SiOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0053】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角21度付近および27度付近のSiOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、SiOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、シリコン酸化物の分解によって解離した酸素原子およびシリコン原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0054】
さらに焼結体に注目すると、チタンとシリコンとの化合物(Ti−Si系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、シリコン酸化物の分解によって解離したシリコン原子がチタンと反応してTi−Si系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0055】
図20の組織写真を見れば、T−Si系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0056】
(2)Ti+5質量%Ta
図5に示すTi+5質量%Taの混合粉末を参照する。Ta粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角23度付近および27度付近に、Taのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、Taのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0057】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角23度付近および27度付近のTaのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Taが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にややシフトしていることが認められる。これは、タンタル酸化物の分解によって解離した酸素原子およびタンタル原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0058】
さらに焼結体に注目すると、チタンとタンタルとの化合物(Ti−Ta系化合物)のピークや、タンタルのピークが現れていない。このことは、タンタル酸化物の分解によって解離したタンタル原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0059】
図21の組織写真を見れば、Ti−Ta系化合物やTa成分がマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0060】
(3)Ti+5質量%αAl
図6に示すTi+5質量%αAlの混合粉末を参照する。αAl粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近および43度付近に、αAlのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、αAlのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0061】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近および43度付近のαAlのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、αAlが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、アルミニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびアルミニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0062】
さらに焼結体に注目すると、チタンとアルミニウムとの化合物(Ti−Al系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、アルミニウム酸化物の分解によって解離したアルミニウム原子がチタンと反応してTi−Al系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0063】
図22の組織写真を見れば、Ti−Al系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0064】
(4)Ti+5質量%γAl
図7に示すTi+5質量%γAlの混合粉末を参照する。γAl粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角36度付近に、γAlのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角36度付近にγAlのピーク「〇」が現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0065】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角36度付近のγAlのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、γAlが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、アルミニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびアルミニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0066】
さらに焼結体に注目すると、回折角37度付近にチタンとアルミニウムとの化合物(Ti−Al系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、アルミニウム酸化物の分解によって解離したアルミニウム原子がチタンと反応してTi−Al系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0067】
図23の組織写真を見れば、Ti−Al系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0068】
(5)Ti+5質量%CuO
図8に示すTi+5質量%CuOの混合粉末を参照する。CuO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角33度付近に、CuOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角33度付近にCuOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0069】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角33度付近のCuOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、CuOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、銅酸化物の分解によって解離した酸素原子および銅原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0070】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンと銅との化合物(Ti−Cu系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、銅酸化物の分解によって解離した銅原子がチタンと反応してTi−Cu系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0071】
図24の組織写真を見れば、Ti−Cu系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0072】
(6)Ti+5質量%Cu
図9に示すTi+5質量%CuOの混合粉末を参照する。CuO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角30度付近に、CuOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角30度付近にCuOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0073】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角30度付近のCuOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、CuOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、銅酸化物の分解によって解離した酸素原子および銅原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0074】
さらに焼結体に注目すると、回折角43度付近にチタンと銅との化合物(Ti−Cu系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、銅酸化物の分解によって解離した銅原子がチタンと反応してTi−Cu系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0075】
図25の組織写真を見れば、Ti−Cu系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0076】
(7)Ti+5質量%Nb
図10に示すTi+5質量%Nbの混合粉末を参照する。Nb粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角22度付近に、Nbのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角22度付近にNbのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0077】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角22度付近のNbのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Nbが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ニオブ酸化物の分解によって解離した酸素原子およびニオブ原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0078】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとニオブとの化合物(Ti−Nb系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、ニオブ酸化物の分解によって解離したニオブ原子がチタンと反応してTi−Nb系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0079】
図26の組織写真を見れば、Ti−Nb系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0080】
(8)Ti+5質量%BeO
図11に示すTi+5質量%BeOの混合粉末を参照する。BeO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角44度付近に、BeOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角44度付近にBeOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0081】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ベリリウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびベリリウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0082】
なお、焼結体において、回折角44度付近に、BeOのピークが現れているが、これは、今回の実験では、BeOの全てが分解しておらず、未分解のBeOが残っていることを示す。良好な混合状態にしたり、焼結温度等の条件を変更したりすれば、BeOの全てを分解させることは可能である。
【0083】
さらに焼結体に注目すると、回折角33度付近にチタンとベリリウムとの化合物(Ti−Be系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、ベリリウム酸化物の分解によって解離したベリリウム原子がチタンと反応してTi−Be系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0084】
図27の組織写真を見れば、Ti−Be系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0085】
(9)Ti+5質量%CoO
図12に示すTi+5質量%CoOの混合粉末を参照する。CoO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角31度付近に、CoOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角31度付近にCoOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0086】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角31度付近のCoOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、CoOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、コバルト酸化物の分解によって解離した酸素原子およびコバルト原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0087】
さらに焼結体に注目すると、回折角37度付近にチタンとコバルトとの化合物(Ti−Co系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、コバルト酸化物の分解によって解離したコバルト原子がチタンと反応してTi−Co系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0088】
図28の組織写真を見れば、Ti−Co系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0089】
(10)Ti+5質量%FeO
図13に示すTi+5質量%FeOの混合粉末を参照する。FeO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角42度付近に、FeOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角42度付近にFeOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0090】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角42度付近のFeOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、FeOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、鉄酸化物の分解によって解離した酸素原子および鉄原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0091】
さらに焼結体に注目すると、チタンと鉄との化合物(Ti−Fe系化合物)のピークや、鉄のピークが現れていない。このことは、鉄酸化物の分解によって解離した鉄原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0092】
図29の組織写真を見れば、Ti−Fe系化合物やFe成分がチタンのマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0093】
(11)Ti+5質量%MnO
図14に示すTi+5質量%MnOの混合粉末を参照する。MnO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角31度付近および41度付近に、MnOのピーク「〇」が現れている。
【0094】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、マンガン酸化物の分解によって解離した酸素原子およびマンガン原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0095】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとマンガンとの化合物(Ti−Mn系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、マンガン酸化物の分解によって解離したマンガン原子がチタンと反応してTi−Mn系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0096】
図30の組織写真を見れば、Ti−Mn系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0097】
(12)Ti+5質量%V
図15に示すTi+5質量%Vの混合粉末を参照する。V粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角24度付近に、Vのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角24度付近にVのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0098】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角24度付近のVのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Vが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、バナジウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびバナジウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0099】
さらに焼結体に注目すると、回折角29度付近にチタンとバナジウムとの化合物(Ti−V系化合物)のピークが新たに出現している。このことは、バナジウム酸化物の分解によって解離したバナジウム原子がチタンと反応してTi−V系化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散していることを意味する。
【0100】
図31を参照すれば、Ti−V系化合物がチタンのマトリクス中に分散していることを確認できる。
【0101】
(13)Ti+5質量%ZrO
図16に示すTi+5質量%ZrOの混合粉末を参照する。ZrO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近に、ZrOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角25度付近にZrOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0102】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近のZrOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、ZrOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、ジルコニウム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびジルコニウム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0103】
さらに焼結体に注目すると、チタンとジルコニウムとの化合物(Ti−Zr系化合物)のピークや、ジルコニウムのピークが現れていない。このことは、ジルコニウム酸化物の分解によって解離したジルコニウム原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0104】
図32の組織写真を見れば、Ti−Zr系化合物やZr成分がチタンのマトリクス中に現れていないことを確認できる。
【0105】
(14)Ti+5質量%SnO
図17に示すTi+5質量%SnOの混合粉末を参照する。SnO粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角30度付近に、SnOのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)には、SnOのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0106】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角30度付近のSnOのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、SnOが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にややシフトしていることが認められる。これは、すず酸化物の分解によって解離した酸素原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0107】
さらに焼結体に注目すると、回折角41度付近に、すずのピークが現れていることが認められる。これは、すず酸化物の分解によって解離したすず原子が、チタンのマトリクス中に析出していることを意味する。
【0108】
図33の組織写真を見れば、Sn成分がチタンのマトリクス中に析出していることを確認できる。
【0109】
(15)Ti+5質量%Cr
図17に示すTi+5質量%Crの混合粉末を参照する。Cr粒子(最も上に位置する線)には、例えば回折角25度付近に、Crのピーク「〇」が現れている。混合粉末(最も下に位置する線)にも、回折角25度付近にCrのピークが現れると共に、回折角35度付近、38度付近および40度付近に純チタンのピーク「△」が現れている。
【0110】
焼結体(中央に位置する線)に注目すると、回折角25度付近のCrのピークが消失している。このことは、焼結処理によって、Crが分解したことを意味する。35度付近、38度付近および40度付近には、純チタンのピークが現れているが、焼結前に比べると焼結処理後の純チタンのピークの位置は、一方の角度側にシフトしていることが認められる。これは、クロム酸化物の分解によって解離した酸素原子およびクロム原子がチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶しているからである。
【0111】
さらに焼結体に注目すると、チタンとクロムとの化合物(Ti−Cr系化合物)のピークや、クロムのピークが現れていない。このことは、クロム酸化物の分解によって解離したクロム原子の全てがチタンの六方最密充填構造の結晶格子内に固溶していることを意味する。
【0112】
(16)Ti+10質量%MgO
図19に示すTi+10質量%MgOの混合粉末を参照する。混合粉末(上に位置する線)には、回折角42度付近にMgOのピークが現れているが、焼結体ではこのMgOのピークは消失している。このことは、焼結処理によってMgOが分解したことを意味する。
【0113】
[焼結体のマイクロビッカース(Hv)硬度計測結果]
上記に記載した各種焼結体(純チタン粉末と金属酸化物粒子の混合粉末成形体を放電プラズマ焼結したもの)を下記の条件で押出加工し、硬度測定及び引張強度測定のための試料を作成した。
【0114】
下記の条件でマイクロビッカース硬度(Hv)を測定して、以下の結果が得られた。なお、各試料に対して20か所の硬度を測定して、その平均硬度を算出した。
【0115】
硬度測定条件:荷重 100g/時間 15秒間
純Ti:208
Ti+5%SiO:779
Ti+5%Ta:434
Ti+5%αAl:861
Ti+5%γAl:626
Ti+5%CuO:471
Ti+5%CuO:466
Ti+5%Nb:459
Ti+5%BeO:661
Ti+5%CoO:656
Ti+5%FeO:519
Ti+5%MnO:809
Ti+5%V:847
Ti+5%ZrO:567
Ti+5%SnO:387
Ti+5%Cr:544
【0116】
上記の測定結果から明らかなように、純チタン粉末と金属酸化物粒子との混合粉末を焼結したものは、純チタンに比べてマイクロビッカース硬度が大幅に上昇している。特に、Ti+5%SiOの焼結体、Ti+5%αAlの焼結体、Ti+5%MnOの焼結体、Ti+5%Vの焼結体の硬度の上昇が著しい。このように焼結体の硬度が上昇するのは、焼結処理時に、金属酸化物が分解し、解離した酸素原子がチタンの結晶格子内に固溶するとともに、解離した金属原子がチタンの結晶格子内に固溶するか、チタンのマトリクス中に析出するか、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散することによって、強度が増大しているからである。
【0117】
[Ti64+ZrO系焼結体の押出材の引張試験結果]
Ti64+ZrO系焼結体の押出材の試料に対して、常温で引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。その結果を以下の表1および図34の応力−伸び線図に示す。なお、Ti64合金の化学組成は、Ti−6Al−4Vである。
【0118】
【表1】
【0119】
表1および図34から理解できることは、Ti64合金粉末とZrO粒子との混合粉末焼結押出材は、Ti64合金粉末の焼結押出材に比べて、硬度および引張強度が高くなっていることである。その効果は、ZrOの添加量が0.1質量%で表れている。
【0120】
伸び(%)に注目すると、ZrOの添加量が0.1質量%〜0.7質量%の試料は、Ti64の焼結押出材に比べて高い伸び性を発揮しているが、ZrOの添加量が0.9質量%の試料はTi64焼結押出材に比べて伸び性が劣っている。
【0121】
上記の結果から判断すると、Ti64−ZrOの焼結押出材の場合、硬度、引張強度、伸びの特性を向上させるためにはZrOの添加量を0.1質量%〜0.8質量%の範囲に調整するのが好ましい。
【0122】
[Ti+Al(α)系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径1.8μmのαアルミナ粒子(αAl)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にAl粒子を0.0〜1.5質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0123】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1273K、保持時間3.6ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1273Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0124】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で180秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ15mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を6、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0125】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10−4−1とした。その結果を表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
表2の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+αAl系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、αAlの添加量が増えると、伸びが低下する。具体的には、αAlの量が1.5質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0128】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。10%以上であればより好ましいとされる。係る観点からすれば、Ti+1.0質量%αAl系焼結押出材は、伸び値が15.5%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0129】
表2の結果から、αAlの添加量(混合粉末全体に対して)を0.1質量%〜1.3質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0130】
[Ti+V系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.2μmの酸化バナジウム粒子(V)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にV粒子を0.0〜1.5質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0131】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1273K、保持時間3.6ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1273Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0132】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で180秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ15mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を6、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0133】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10−4−1とした。その結果を表3に示す。
【0134】
【表3】
【0135】
表3の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+V系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、Vの添加量が多くなると、伸びが低下する。具体的には、Vの量が1.5質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0136】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。10%以上であればより好ましいとされる。係る観点からすれば、Ti+1.0質量%V系焼結押出材は、伸び値が24.1%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0137】
表3の結果から、Vの添加量(混合粉末全体に対して)を0.1質量%〜1.3質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0138】
[金属酸化物粒子の分解によって解離した金属原子(金属成分)の強化機構]
α相を有するチタン成分からなるチタン成分粉末と金属酸化物粒子とを混合して焼結すれば、金属酸化物が分解し、解離した酸素原子はチタンの結晶格子内に固溶し、解離した金属原子はチタンの結晶格子内に固溶したり、チタンのマトリクス中に析出したり、チタンとの化合物を形成してチタンのマトリクス中に分散する。金属酸化物を形成する金属の種類によって、金属原子または金属成分の強化機構が異なる場合がある。以下の表4は、金属原子または金属成分の強化機構を整理したものである。
【0139】
【表4】
【0140】
表4において、Ti+5%SiOの焼結体押出材の場合、シリコン原子はTiの結晶格子内に固溶すると共に、シリコン原子の一部がTiと反応してTi−Si系化合物を形成しTiのマトリクス中に分散する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化、シリコン原子の固溶強化、およびTi−Si系化合物の分散強化である。この強化機構により、チタン成分材料の硬さ、耐摩耗性、耐熱性を向上する。
【0141】
Ti+5%Taの焼結体押出材の場合、タンタル原子はチタンの結晶格子内に固溶する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化およびタンタル原子の固溶強化であり、この強化機構によりチタン成分材料の延性を向上し、生体親和性を付与する。
【0142】
Ti+5%SnOの焼結体押出材の場合、すず原子はTiのマトリクス中に析出する。チタンに対する強化機構は、酸素原子の固溶強化およびすず原子の析出強化であり、この強化機構によりチタン成分材料の延性を向上する。
【0143】
[Ti+ZrO系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果、並びにZrOの好ましい添加量]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.0μmの酸化ジルコニウム粒子(ZrO)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にZrO粒子を0.0〜4.0質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0144】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度1173K、保持時間10.8ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製した焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1773Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0145】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で300秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ10mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を18.5、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0146】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10−4−1とした。また、硬度測定条件:荷重:50g/時間:15秒間とし、各試料に対して20か所のマイクロビッカース硬度(Hv)を測定してその平均硬度を算出した。
【0147】
その結果を図35と表5に示す。
【0148】
【表5】
【0149】
図35と表5の結果から明らかなように、純Tiと比較して、Ti+ZrO系焼結押出材は、降伏強さ(YS)および引張強さ(UTS)が大幅に上昇する。他方、ZrOの添加量が多くなると、伸びが低下する。具体的には、ZrOの量が4.0質量%になると、伸びが著しく低下する。
【0150】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。係る観点からすれば、Ti+3.0質量%ZrO系焼結押出材は、伸び値が8.2%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0151】
表5の結果から、ZrO粒子の添加量(混合粉末全体に対して)を0.5質量%〜3.5質量%程度にするのが好ましいと考えられる。
【0152】
[Ti+ZrO2系混合粉末焼結押出材の製法および引張試験結果、並びに好ましい焼結温度]
(1)粉末混合工程
水素化脱水素化法で作製された平均粒径20μmの純Ti粉末と、平均粒径2.0μmの酸化ジルコニウム粒子(ZrO)とを準備した。純Ti粉末にオイルを0.02質量%添加し、卓上ボールミルで1時間混合することによって、Ti粉末表面にオイルを塗布した。オイルを塗布した純Ti粉末にZrO粒子を3.0質量%(混合粉末全体に対して)の範囲で添加し、ロッキングミル混合装置を用いて周波数60Hz、混合時間1時間の条件にて混合し、混合粉末を作製した。
【0153】
(2)真空加圧焼結工程および均質化熱処理工程
上記の混合粉末に対して、放電プラズマ焼結機(SPS)を用いて、焼結温度を1073K、1173K、1273Kの3条件とし、保持時間10.8ks、加圧力30MPa、真空度6Pa以下の条件で、加圧真空焼結を行った。このようにした作製したそれぞれの焼結体に対して、均質化処理のために、真空電気炉にて1773Kで10.8ksの熱処理を施した。
【0154】
(3)熱間押出工程
上記の熱処理後の各焼結体に対して、赤外線急速加熱炉を用いてArガス雰囲気中にて1273Kまで2K/sの昇温速度で昇温し、1273Kの温度で300秒間保持した後、直ちに油圧駆動式プレス機にて熱間押出加工を施して、直径φ10mmの押出棒材を作製した。その際、押出比を18.5、押出速度をラム速度で3mm/sとした。
【0155】
(4)引張試験
上記の焼結押出棒材に対して、常温大気雰囲気にて引張試験を行い、引張強さ(MPa)と伸び(%)を測定した。ひずみ速度は、5×10−4−1とした。
【0156】
その結果を図36と表6に示す。
【0157】
【表6】
【0158】
図36と表6の結果から明らかなように、焼結温度を1173K以上とすることで、破断伸びが大幅に上昇する。1073Kの焼結過程において、添加したZrO粒子は熱分解するものの、素地を構成するTi粉末間での焼結が不十分であるために延性が得られず、その結果、伸び値が著しく低下する。
【0159】
構造用材料として利用する場合には、伸び値は5%以上であれば問題視されない。係る観点からすれば、焼結温度を1173Kおよび1273Kとした場合のTi+3.0質量%ZrO系焼結押出材の伸び値は、それぞれ8.2%と10.1%であるので、構造用材料として十分に使用できる。
【0160】
表6の結果から、Ti粉末+ZrO粒子の混合粉末を用いて、ジルコニウム原子と酸素原子が固溶したTi系焼結押出材を作製する際の焼結温度は1123K以上に設定することが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明に係る酸素固溶チタン焼結体およびその製造方法は、高強度チタン材料を得るのに有利に利用され得る。
図1
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