【実施例】
【0067】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0068】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、触媒としてヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)を20部と、反応溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液に、イソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0069】
上記で得られた粉末を、FT−IR(堀場製作所社製、商品名:FT−720、以下の製造例でも同様の装置を使用して測定)にて赤外分光分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinepakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による高速液体クロマトグラフィー分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0070】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0071】
【0072】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.4%であった(計算値)。
【0073】
【0074】
<実施例で使用する転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の製造>
[実施例用の樹脂合成例1]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)24.1部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)186部を加え、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm
-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として105.6mgKOH/gであった。アミン価の測定方法については、後述する。
【0075】
次いで、この樹脂溶液に、カチオン化剤として、カチオマスターG(商品名、四日市工業社製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、固形分70%水溶液)50.6部を加え、60℃で反応を行った。そして、FT−IRにて、カチオン化剤のエポキシ基由来の910cm
-1のピークが消失したことを確認してカチオン化反応を終了し、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0076】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記の樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、70℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂合成例1で得た樹脂製の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、外観、機械強度(破断強度及び破断伸度)を後述する方法で評価した。また、樹脂について、後述する方法で、分子量(GPCで測定)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。その際、水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタンの水酸基価を測定し、カチオン化反応が100%行われたものとして計算した。以下の例についても同様である。その結果を表1に示した。
【0077】
[実施例用の樹脂合成例2]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒のTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0078】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、前記した樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0079】
[実施例用の樹脂合成例3]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例2で得た化合物I−Bを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を21.9部、ジエチレントリアミンを16.6部、反応溶媒のTHFを208部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として65.2mgKOH/gであった。
【0080】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを34.9部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0081】
[実施例用の樹脂合成例4]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを19.0部、トリエチレンテトラミン(東京化成社製)10.2部、反応溶媒のTHFを194部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として60.8mgKOH/gであった。
【0082】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを30.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。樹脂の水酸基価は実施例1と同様にして算出した。結果を表1に示した。
【0083】
[実施例用の樹脂合成例5]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、イミノビスプロピルアミン(東京化成社製)15.3部、反応溶媒のTHFを193部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として50.8mgKOH/gであった。
【0084】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0085】
[比較例用の樹脂合成例a]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒のTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、実施例用の樹脂合成例2のカチオン化を行う前の2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の溶液と同様のものを得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例2と同様であり、得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0086】
次いで、この樹脂溶液に、無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部を加え室温で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm
-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。この反応溶液に、反応触媒としてトリエチルアミン16.9部を加え、転相乳化前の、構造中にカルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0087】
[比較例用の樹脂合成例b]
比較例用の樹脂合成例aと同様にして、実施例用の樹脂合成例2のカチオン化を行う前の2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の溶液と同様のものを得た。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gである。
【0088】
次いで、この樹脂溶液に、12N塩酸11.6部を加え、アミノ基を中和することでアミノ基をカチオン性基とすることで、カチオン性基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0089】
[比較例用の樹脂合成例c]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを27.1部、反応溶媒のTHFを190部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂は、2級アミノ基を含まない通常のヒドロキシポリウレタン樹脂である。
【0090】
次いで、この樹脂溶液に、無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部及び反応触媒としてトリエチルアミン16.9部を加え60℃で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm
-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。得られた樹脂は、水酸基の約50%がハーフエステル化しカルボキシル基化したヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0091】
(評価方法)
以上で説明した実施例用の樹脂合成例1〜5及び比較例用の樹脂合成例a〜cでそれぞれ得た各樹脂、及び各樹脂で作製した各フィルムの特性について、以下の方法及び基準で測定或いは評価した。また、各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。測定結果或いは評価結果を表1にまとめて示した。
【0092】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各合成例で使用したヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例用の樹脂合成例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%、であり、これより実施例用の樹脂合成例1のポリウレタン中の二酸化炭素濃度の算出値は、下記の通りになる。
(100部×20.5%)/159.5全量=12.9質量%
【0093】
[分子量]
本発明では、樹脂の分子量を、DMFを移動相としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。具体的には、東ソー社製のGPC−8220(商品名)で、カラムとして、Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000を使用して測定した。測定結果を、ポリスチレン換算値として重量平均分子量を表した。
【0094】
[水酸基価]
水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、下記のようにして求めた値を水酸基価として表1中に示した。すなわち、表1中の水酸基価は、カチオン化前のアミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価を、JIS K−1557に準拠した滴定法により測定した実測値を基に、カチオン化反応が100%行われたものとし、使用したカチオン化剤の質量、及び、カチオン化剤とアミノ基との反応により水酸基が1基発生するものと仮定して算出した計算値である。
【0095】
[カチオン性基の濃度]
反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基辺りの分子量を算出し、カチオン性基の濃度とした。単位はg/molである。
例えば、実施例1の場合に使用したカチオン化剤の有効成分量は35.4gであり、カチオン化剤の分子量は151.6であることから、下記のように算出される。
159.5全量(g)÷(35.4÷151.6)=683g/mol
【0096】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれも、ヘイズメーターのHZ−1(商品名、スガ試験機社製)を用いて測定した。ここで、ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
<評価基準>
○:全光線透過率が90%以上で、且つ、ヘイズが0.5%以下
×:○に該当しないもの
【0097】
[機械強度]
作製したそれぞれの樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度と破断点伸度を測定した。具体的には、JIS K−6251に準拠して、オートグラフのAGS−J(商品名、島津製作所社製)を使用し、室温(25℃)で測定した。
【0098】
【0099】
本発明の実施例の水分散体に使用される水を加えて転相乳化する前のヒドロキシウレタン樹脂は、表1に示されているように、従来処方と同様の簡易的な処方によりカチオン性基を導入することができ、また、該樹脂で形成した複層フィルムを含めて、物性的に従来のヒドロキシポリウレタン樹脂と同等であることが確認された。さらに、表1に示されているように、本発明の実施例の水分散体に使用される樹脂は、従来の処方で得た比較例の水分散体に使用される樹脂よりも多くの水酸基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂になることがわかった。その理由は、本発明の実施例の水分散体に使用される樹脂を構成する、構造中のカチオン性基は、エポキシ基とアミノ基との反応により導入されることから、カチオン性基を導入すると同時に水酸基が生成したことによると考えられる。
【0100】
<水分散体の製造>
[実施例1]
撹拌及び減圧蒸留が可能な反応容器内に、実施例用の樹脂合成例1で得た樹脂溶液(THF溶液)100部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、本実施例の、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.008μm(=8nm)であった。粒度分布は、Microtrac UPA−EX150(商品名、日機装社製)を用いて測定した。
図1に、測定した際の水分散体の粒度分布を示した。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し評価したところ、良好な安定を示した。
【0101】
上記で得られた水分散体に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8W(商品名、ローム&ハースジャパン社製)を0.5部添加し、塗料を作製した。そして、得られた塗料を用い、下記のようにして基材に塗布することでガスバリア性フィルムを作製した。具体的には、基材として、厚み40μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)であるパイレンP1111(商品名、東洋紡社製、酸素透過率実測値:1500mL20μm/m
2・day・atm)を用い、そのコロナ処理面上に、塗料を、乾燥時の膜厚が10μmになるように塗布し、100℃にて乾燥することで、基材上に被膜層を形成して複層フィルムを得た。得られた複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性、表面抵抗値及びガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。結果を表2に示した。
【0102】
[実施例2〜5]
先に説明した実施例用の樹脂合成例2〜5で得た樹脂溶液を100部用い、実施例1と同様にして転相乳化を行って、実施例2〜5の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えていずれの実施例も固形分が28%となるように調整した。いずれも、外観上均一な水分散体であった。そして、得られた各水分散体を用い、いずれも実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得られた各実施例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、それぞれの結果を表2に示した。
【0103】
[比較例1]
比較例用の樹脂合成例aで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にして、イオン交換水100部を添加し転相乳化を行い、その後に溶媒のTHFを減圧留去することで水分散体を得た。そして、得られた水分散体を用いて実施例1と同様にして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを加え塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本比較例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0104】
[比較例2]
比較例用の樹脂合成例bで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にしてイオン交換水100部を添加し転相乳化を行った。しかし、水の量が増えるに従い樹脂が析出し、転相乳化を行うことができなかった。そのため評価は中止した。
【0105】
[比較例3]
比較例用の樹脂合成例cで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にしてイオン交換水100部を添加し転相乳化を行い、THFを減圧留去することで水分散体を得た。そして、実施例1と同様にして、得られた水分散体にレオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを加え塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて比較用の複層フィルムを作製した。上記で得た本比較例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0106】
[比較例4]
比較例1で得たレオロジー調整剤を添加する前の水分散体に対し、酸性条件下で使用される添加剤の使用可能性を判断する目的で、2N塩酸を加えてpH4に調整しようとしたところ、樹脂が析出してしまい、良好な塗料にできなかった。そのため評価は中止した。また、2N塩酸によるpH調整を行わずに比較例1で得た水分散体に、酸性条件下で使用するオルガチックスTC−310(商品名、チタンラクテート、マツモトファインケミカル社製、以下、TC−310と略記)を添加したところ、樹脂が析出してしまい、その場合も塗料の作製ができなかった。
【0107】
[比較例5]
比較例3で得たレオロジー調整剤を添加する前の水分散体に対し、酸性条件下で使用される添加剤の使用可能性を判断する目的で、2N塩酸を加えpH4に調整しようとしたところ、樹脂が析出してしまい、良好な塗料にできなかった。そのため評価は中止した。また、2N塩酸によるpH調整を行わずに比較例3で得た水分散体に、酸性条件下で使用するTC−310を添加した場合も、樹脂が析出してしまい、その場合も塗料の作製ができなかった。
【0108】
(評価)
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体の特性、及び、各水分散体を用いて得た塗料で作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。結果を表2にまとめて示した。
【0109】
[粒子径]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体について、Microtrac UPA−EX150(商品名、日機装社製)を使用し、粒度分布を測定した。そして、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)を、各水分散体の粒子径として、表2中に示した。
【0110】
[保存安定性]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体を、密閉したポリ容器に入れ、50℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、1か月、3か月、6か月後の状態を目視で観察し、それぞれ、以下の基準で評価し、結果を表2に示した。
<評価基準>
○:粒子の沈降は無く、外観上の変化が見られない
△:粒子が沈降しているが、撹拌によって簡単に再分散する
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降し、撹拌しても再分散できない
【0111】
[酸性条件下での安定性]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体に塩酸を加え、pH4に調整して酸性条件とした際の分散体の安定性を目視観察で確認した。結果を表2に示した。
○:外観上の変化は見られない
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降し、撹拌しても再分散できない
【0112】
[塗膜外観]
実施例1〜5及び比較例1、3で作製した各複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を表2中に示した。
<評価基準>
○:透明均一で光沢のある塗膜表面である
△:塗膜表面の光沢が無く濁っている
×:集物による凹凸がある
【0113】
[表面抵抗]
実施例1〜5及び比較例1、3で作製した各複層フィルムについて、25℃、湿度60%の環境中にて、ハイレスタ−UP MCP−HT−450(商品名、三菱化学株式会社製)を使用して表面抵抗値(Ω)を測定した。
【0114】
[ガスバリア性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。測定値は複層フィルムとしての値であり、単位はmL/m
2・day・atmである。なお、該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られた被膜層(塗膜)の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所社製)を使用して実測し、10μmであることを確認している。
【0115】
【0116】
表2に示したように、本発明の実施例の水分散体は、粒子径が小さく、安定性に優れ、特に、pHを4に調整した酸性条件下でも不安定とならない水分散体であることが確認できた。具体的には、まず、従来の処方で作製された、比較例3の、水酸基の一部をカルボキシル化したヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体に比べて、長期間の保存が可能となることが確認された。長期間の保存安定性が向上した理由は、樹脂の構造中に導入した特有の構造のカチオン性基によると考えられる。すなわち、従来のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、樹脂の構造中へのカルボキシル基の導入をハーフエステルにより行っていたために、加水分解によりカルボキシル基変性部位が脱離してしまい、保存安定性に課題があったのに対し、本発明の実施例の水分散体を構成する、アミド結合を介してカチオン性基を導入したヒドロキシポリウレタン樹脂は、加水分解を起こしにくいことによると考えられる。
【0117】
また、本発明の水分散体を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、表2に示したように、比較例1の水分散体を構成する、アミック酸構造によりカルボキシル基を導入することで保存安定性を改良したヒドロキシポリウレタン樹脂と比べ、同等の安定性を有し、しかも、比較例1の水分散体を構成する樹脂がアニオン性基を有することによる問題点であった酸性(pH4に調整)条件下での安定性も改善され、この点で、より優れた分散安定性を示すものであることが確認された。すなわち、本発明の実施例のカチオン化されたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によれば、酸性条件下でも安定であるという、従来の水分散体では達成できなかった効果を実現できる。
【0118】
さらに、表2に示されているように、本発明の実施例のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムは、比較例1及び比較例3の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムと比較して、ガスバリア性に優れることが確認された。また、表2に示されているように、本発明の実施例の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムは、比較例1及び比較例3の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムと比較して、表面抵抗値が低いことが確認された。このことは、本発明の実施例の水分散体で形成された被膜層(塗膜)は、汚れが付きにくいという利点を有するものになることを示している。
【0119】
[実施例6]
実施例1で得られたレオロジー調整剤を添加する前の水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加え、pH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。pHを調整したものに、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wと、架橋剤であるTi乳酸キレート(商品名:オルガチックスTC310、マツモトファインケミカル社製、固形分44%)を5.0部加え、ディスパーで分散し塗料を作製した。得られた塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを、50℃で2日間エージング処理した後に、実施例1と同様にして、複層フィルムを得、その塗膜外観、耐水性、表面抵抗値及びガスバリア性を評価した。結果を表3に示した。
【0120】
[実施例7、8]
実施例6と同様に、実施例2、3で得た樹脂溶液を用い、それぞれの水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加えpH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。いずれの水分散体も安定な状態であった。そして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを5.0部と、架橋剤のTi乳酸キレートであるオルガチックスTC310を5.0部加え、ディスパーで分散し、塗料を作製した。この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを50℃で2日間エージング処理した後に、実施例6と同様にして、複層フィルムの塗膜外観、表面抵抗値及びガスバリア性を評価するとともに、さらに、後述する方法で耐水性及び耐溶剤性を評価した。結果を表3に示した。
【0121】
[実施例9、10]
実施例6と同様に、実施例4、5で得た樹脂溶液を用い、それぞれの水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加えpH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。いずれの水分散体も安定な状態であった。そして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを5.0部と、架橋剤として塩化ジルコニル化合物(商品名:オルガチックスZC−126、マツモトファインケミケル社製、固形分30%)を5.0部加え、ディスパーで分散し、塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを50℃で2日間エージング処理した後、実施例6と同様にして、複層フィルムの、塗膜外観、表面抵抗値及びガスバリア性を評価するとともに、さらに、後述する方法で、耐水性及び耐溶剤性を評価した。結果を表3に示した。
【0122】
(評価)
上記で得た実施例6〜10の各水分散体を用いて得た塗料で作製した各フィルムについて、前記した実施例1〜5で行ったと同様の方法で評価した。具体的には、前記した実施例1〜5で行ったと同様の方法及び評価基準で、「塗膜外観」、「表面抵抗」及び「ガスバリア性」を評価したのに加えて、以下の方法及び基準で、「耐水性」及び「耐溶剤性」についても評価した。結果を表3にまとめて示した。また、比較のために、架橋剤を用いない構成の実施例1で得た各複層フィルムについても同様の方法で「耐水性」及び「耐溶剤性」を評価し、先に表2で示したその他の評価結果とともに、表3に示した。
【0123】
[耐水性]
実施例1及び実施例6〜10で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で24時間経過後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表3中にまとめて示した。
<評価基準>
○:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0124】
[耐溶剤性]
実施例1及び実施例6〜10で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面にテトラヒドロフランをスポイトにて数滴滴下し、直ぐにウエスにてふき取った。そして、ふき取り後の表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表3中にまとめて示した。
<評価基準>
○:変化が見られない
△:塗膜に拭き取り跡が残る
×:塗膜の一部が剥離
【0125】
【0126】
表3中の実施例1の結果に示されているように、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜は、樹脂の構造中に有するカチオン性基によって発現する親水性のため、耐水性には劣る。しかし、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜は、前記したように、その構造中のカチオン性基の効果により表面抵抗値が低く、汚れが付きにくいという利点を有する。また、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜が耐水性に劣る点については、表3の実施例6〜10に示したように、架橋剤を使用することで解決することができる。すなわち、本発明の実施例6〜10の水分散体では、酸性条件下でのみで使用可能な金属キレートを配合して塗料化することを実現しており、その結果、表3に示したように、金属キレートによる架橋によって、複層フィルムの耐水性や耐溶剤性を向上させることが実現できる。
【0127】
表2及び表3に示したように、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜が形成された複層フィルムは、水酸基の量がガスバリア性向上に寄与することから、比較例1及び3の樹脂からなる被膜が形成された複層フィルムと比較し、ガスバリア性に優れたものになる。さらに、表2及び表3の結果から、金属キレートを架橋剤として用いた実施例6〜10の方が、実施例1〜5の場合よりも高いガスバリア性を示すことが確認された。架橋剤として金属キレートを用いることで、架橋により樹脂の構造中の水酸基量が減少するにも関わらず、架橋後の被膜の高いガスバリア性を実現できた理由は、金属キレート化合物と水酸基の硬化反応は、架橋点間の距離が短く、且つ、高密度の架橋が行えることで達成されたものと考えられる。