特許第6861174号(P6861174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861174ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体、該水分散体を用いてなるガスバリア性フィルム及びヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861174
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体、該水分散体を用いてなるガスバリア性フィルム及びヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20210412BHJP
   C08J 7/048 20200101ALI20210412BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20210412BHJP
【FI】
   C08G71/04
   C08J7/048CER
   C08J7/04CEZ
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-10942(P2018-10942)
(22)【出願日】2018年1月25日
(65)【公開番号】特開2019-127548(P2019-127548A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】淺井 暁子
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−194029(JP,A)
【文献】 特開2010−242052(JP,A)
【文献】 特開2001−187857(JP,A)
【文献】 特開2016−204592(JP,A)
【文献】 特開2012−012546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00− 18/87
C08G 71/00− 71/04
C08L 1/00−101/14
C08J 7/00− 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転相乳化されて、水中に、ヒドロキシポリウレタン樹脂が0.001μm〜0.1μmの粒子径にて分散されてなる水分散体であり、
前記ヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位を有してなることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY及び/又はYと結合する構造であってもよい。−Y−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCHを示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
[上記一般式(11)中、Rは脂肪族炭化水素を示し、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R、R、Rは、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは、0〜3の整数である。]
【請求項2】
さらに、前記ヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を有する繰り返し単位とは別の構造の繰り返し単位が混在しており、該別の構造の繰り返し単位が、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素である化学構造を有するものである請求項1に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
【請求項3】
前記ヒドロキシポリウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、その構造中のカチオン性基の濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である請求項1又は2に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
【請求項4】
前記ヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応によりなる合成物であり、前記五員環環状カーボネート構造を有する化合物の一部又は全部が、二酸化炭素を原料とする合成物である五員環環状カーボネート構造を有する化合物で、樹脂の全質量のうちの1〜20質量%が、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
【請求項5】
基材と、該基材の少なくとも一方の面にヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜層が形成されてなり、該被膜層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によって形成された、その厚みが0.1〜100μmで、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m・day・atm以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記被膜層を形成しているヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基の一部が、金属キレート化合物により架橋されている請求項5記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物との重付加反応を用いてヒドロキシポリウレタン樹脂を合成する工程を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法であって、
前記少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物の一部又は全部に、二酸化炭素を原料として合成した五員環環状カーボネート化合物を用い、
親水性溶剤中で、前記五員環環状カーボネート化合物と、下記一般式(12)で示される、分子内に少なくとも2つの1級アミノ基と、少なくとも1つの2級アミノ基のどちらも有する化合物とを重付加反応させて、2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を得、
得られた樹脂に、カチオン性基とエポキシ基の両方を構造中に有する化合物を反応させて、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位をその構造中に有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得、
その後に水を加えて転相乳化させて水分散体にすることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY及び/又はYと結合する構造であってもよい。−Y−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCHを示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
[上記一般式(11)中、Rは脂肪族炭化水素を示し、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R、R、Rは、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは、0〜3の整数である。]
[一般式(12)中のR、R、Rは、それぞれ独立して、その化学構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは0〜3の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤用のバインダー樹脂として利用できる、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の技術に関する。さらに詳しくは、水分散塗料などの材料とした場合、機能性の観点から、従来の溶剤系の塗料で形成した被膜とも遜色のない被膜形成ができる、耐熱性塗料やガスバリア性塗料が得られ、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムなどの製品の提供が可能になるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の技術に関する。さらに、本発明は、構成するヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中に二酸化炭素を組み込むことが可能であることから、高度な環境対応製品の提供の実現も可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、強度、柔軟性、耐摩耗性、耐油性に優れた樹脂であり、塗料や接着剤用の樹脂として広く使用されている。近年、新規なポリウレタン系の樹脂として化学構造中にウレタン結合と水酸基を併せ持つヒドロキシポリウレタン樹脂が開発され、その工業的な応用が期待されている(特許文献1参照)。既存のポリウレタン樹脂が、イソシアネート化合物とポリオールとを原料として得られるのに対し、ヒドロキシポリウレタン樹脂は、エポキシ化合物、二酸化炭素及びアミン化合物を原料に用い、これらの原料の組み合わせにより製造される。原料として使用された二酸化炭素は、ヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中に−CO−O−結合として組み込まれることから、温室効果ガスである二酸化炭素の有効利用の観点からも注目されるべき樹脂材料である。
【0003】
ヒドロキシポリウレタン樹脂は、既存のポリウレタン樹脂と同様に機械強度に優れた樹脂として使用できる。さらに、既存のポリウレタン樹脂の構造中にはない水酸基に由来した機能性を生かした応用が検討されており、例えば、水酸基の架橋反応を利用した耐熱性塗料としての応用(特許文献2)や、水酸基由来のガスバリア性を利用したガスバリア性フィルムへの応用が検討されている(特許文献3)。
【0004】
ヒドロキシポリウレタン樹脂の応用用途としては、塗料、コーティング分野が有望である。ヒドロキシポリウレタン樹脂は、ウレタン結合と共に水酸基を有する化学構造をもつため、有機溶剤に対する溶解性が低く、各用途で使用される基材や加工装置に応じて異なることも多く、多様な溶剤組成への対応が困難である点が応用上の問題となっている。これに対し、ヒドロキシポリウレタン樹脂を水分散体とすることで、この問題を解消すると同時に、近年、溶剤系塗料からの置き換えが進んでいる水系の塗料として応用することが検討され、提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
しかしながら、この技術は、水分散体を得るためにヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基をハーフエステル法によりカルボキシル基化したものであることから、ハーフエステル部分の加水分解に起因して、水分散体の保存安定性が悪い点で課題があった。また、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基を反応に利用し、減少させることは、耐水性の向上に寄与するといった利点の反面、水酸基の機能性を利用する用途においては欠点になる。別の手法として、原料にカルボン酸を含有するアミン化合物を使用し、カルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得る方法がある(特許文献5参照)。しかし、この方法は、合成反応系内でカルボキシル基とアミノ基がイオン結合を形成するため、環状カーボネートとの反応が進行しにくく、また、DMF(ジメチルホルムアミド)などの高沸点溶剤中での反応が必要であり、高分子量化も困難であるといった欠点もある。さらに、使用した高沸点溶剤は、転相乳化後に減圧留去ができないという問題もあり、水分散体(エマルジョン)の製造方法としては完全なものではなかった。
【0006】
これら問題を解決する手法として、本発明者らは、既に、2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を合成し、主鎖中のアミノ基をカルボキシル基化する方法を提案している(特許文献6参照)。この手法により得られる水分散体は、保存安定性に優れ、ガスバリア性に優れた被膜が得られるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3072613号明細書
【特許文献2】特開2011−102005号公報
【特許文献3】特開2012−172144号公報
【特許文献4】特開2007−297544号公報
【特許文献5】特開平6−25409号公報
【特許文献6】特開2016−194029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、さらに開発を進め、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の利用を展開していく過程で、下記の課題を認識するに至った。すなわち、これまでに開発されたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法は、いずれもヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中にアニオン性基を含有させる手法のものであり、このことに起因する実用上の課題があることを見出した。具体的には、アニオン性基を有する樹脂の水分散体の欠点として、酸性条件下で、分散状態が不安定になるといった実用上の課題がある。また、特に、高性能の被膜を得ることを可能にするため、例えば、塗料として使用する際に、ベースとなるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体に各種フィラーや架橋剤を添加させることを行うことがあるが、この際に、酸性を有する添加剤との組み合わせや、酸性条件下での分散性に優れたフィラーとの併用ができないといった、材料の選択に対する制限の問題や、そのことが原因して、より機能性に優れた被膜形成が可能な材料の提供ができないといった問題がある。
【0009】
従って、本発明の目的は、水系塗料やコーティング剤の被膜形成用の樹脂として使用可能であり、ヒドロキシポリウレタン樹脂を利用した場合の従来技術の課題を克服し、実用化のために重要となる、良好な分散状態の安定性を実現したヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の提供、さらには、例えば、酸性を有する添加剤との組み合わせや、酸性条件下での分散性に優れたフィラーとの併用が可能になるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の提供、及び、該水分散体を使用することで、よりガスバリア性に優れた被膜形成を可能にし、より優れたガスバリア性フィルム等の機能性製品を実現できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、下記の本発明によって達成される、すなわち、本発明は、[1]転相乳化されて、水中に、ヒドロキシポリウレタン樹脂が0.001μm〜0.1μmの粒子径にて分散されてなる水分散体であり、前記ヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための下記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位を有してなることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体を提供する。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
【0011】
【0012】
[上記一般式(11)中、R4は脂肪族炭化水素を示し、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R1、R2、R3は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは、0〜3の整数である。]
なお、上記で規定した粒子径は、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)である。
【0013】
上記した本発明の[1]ヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の好ましい形態としては、下記の構成のものが挙げられる。
[2]さらに、前記ヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を有する繰り返し単位とは別の構造の繰り返し単位が混在しており、該別の構造の繰り返し単位が、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有するものである前記[1]に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
[3]前記ヒドロキシポリウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、その構造中のカチオン性基の濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である前記[1]又は[2]に記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
[4]前記ヒドロキシポリウレタン樹脂は、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応によりなる合成物であり、前記五員環環状カーボネート構造を有する化合物の一部又は全部が、二酸化炭素を原料とする合成物である五員環環状カーボネート構造を有する化合物で、樹脂の全質量のうちの1〜20質量%が、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める前記[1]〜[3]のいずれかに記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体。
【0014】
本発明は、別の実施の形態として、
[5]基材と、該基材の少なくとも一方の面にヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜層が形成されてなり、該被膜層が、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によって形成された、その厚みが0.1〜100μmで、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m2・day・atm以下であることを特徴とするガスバリア性フィルムを提供する。
【0015】
また、上記ガスバリア性フィルムの好ましい形態として、
[6]前記被膜層を形成しているヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中の水酸基の一部が、金属キレート化合物により架橋されている前記[5]に記載のガスバリア性フィルムが挙げられる。
【0016】
本発明は、別の実施形態として、
[7]少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物との重付加反応を用いてヒドロキシポリウレタン樹脂を合成する工程を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法であって、前記少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物の一部又は全部に、二酸化炭素を原料として合成した五員環環状カーボネート化合物を用い、親水性溶剤中で、前記五員環環状カーボネート化合物と、下記一般式(12)で示される、分子内に少なくとも2つの1級アミノ基と、少なくとも1つの2級アミノ基のどちらも有する化合物とを重付加反応させて、2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を得、得られた樹脂に、カチオン性基とエポキシ基の両方を構造中に有する化合物を反応させて、前記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるための前記一般式(11)で表されるカチオン性基を含む化学構造からなる繰り返し単位をその構造中に有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得、その後に水を加えて転相乳化させて水分散体にすることを特徴とするヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法を提供する。
【0017】
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水系塗料やコーティング剤を構成する被膜形成用樹脂として有用な材料になり、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水中における分散状態が安定で良好な、保存性などにも優れるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体が提供される。具体的には、本発明によって提供されるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、従来技術で提供される水分散体と比較して、酸性条件下においても分散状態が不安定になるといったことがなく安定性に優れ、長期間の保存が可能である。さらに、本発明によって提供される水分散体は、分散しているヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基を、所望する一定量にコントロールできることから、該樹脂によって形成される塗膜(被膜層)の性能を、従来の溶剤型ヒドロキシポリウレタン樹脂によって形成される塗膜と同等のものにすることができる。さらに、本発明によって提供されるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、従来技術と比較し、酸性条件下での分散安定性に優れることから、従来の水分散体では組み合わせることができなかった添加剤やフィラーなどを併用することができ、より高性能の被膜の形成を実現することができる。
【0019】
本発明で提供されるヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、水系の塗料などの被膜形成用樹脂として利用ができるので、これを用いることで溶剤系の塗料で問題となっている使用時における有機溶剤の環境中への放出がなくなり、形成される塗膜(被膜層)の性能は、溶剤系の塗料を使用した場合と遜色がなく、環境負荷を低減した水系塗料などの提供を実現できる。また、本発明を特徴づけるヒドロキシポリウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料(形成材料)に使用して製造することができるので、本発明の技術は、水系材料であることによる環境負荷の低減に加えて、さらなる環境負荷の低減に貢献した製品の提供を可能にでき、この点でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の水分散体について測定した粒度分布の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、転相乳化されて、水中に、ヒドロキシポリウレタン樹脂が0.001μm〜0.1μmの粒子径にて分散されてなる水分散体に関し、ヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に、下記一般式(1)で示される、水を加えて転相乳化させるためのカチオン性基を含む化学構造を有する繰り返し単位を、全部或いは一部に有してなることを特徴とする。すなわち、本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、一般式(1)に示されているように、必須とする繰り返し単位中に、一般式(11)で表される、水を加えて転相乳化をするためのカチオン性基(以下、単に「カチオン性基」と呼ぶ場合がある。)を含んで構成されていることを特徴とし、これにより、酸性条件下で不安定になることがあった点が解決され、水中に、ヒドロキシポリウレタン樹脂を安定に分散させることを達成している。
【0022】
[上記一般式(1)中のXは、ないか、或いは、モノマー単位由来の脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造を示す。式中の*は、結合手であることを示す記号である。]
【0023】
【0024】
[上記一般式(11)中、R4は脂肪族炭化水素を示し、該構造中には酸素原子を含んでもよい。R1、R2、R3は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは、0〜3の整数である。]
【0025】
本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、分散されている樹脂が、その構造中に、前記一般式(1)で示される繰り返し単位を有してなることを必須とする。したがって、樹脂の全部が、この繰り返し単位で構成されていてもよいし、これに限定されず、ヒドロキシポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位に、上記必須の繰り返し単位とは別の構造の繰り返し単位が混在している構成のものであってもよい。上記必須の繰り返し単位とは別の構造の繰り返し単位の好ましいものとしては、例えば、前記一般式(1)で示される繰り返し単位の−Z−部分が異なる化学構造のもの、具体的には、前記一般式(11)で示されるカチオン性基を含む化学構造に替えて、−Z−部分が、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造のものが挙げられる。
【0026】
また、本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂が、その構造中に有する繰り返し単位である前記一般式(1)で示される構造は、樹脂中のすべての繰り返し単位が同一の構造であってもよいが、前記一般式(1)で示される構造に該当するものが複数種類混在するものであってもよい。例えば、その構造中に有する繰り返し単位が、一般式(1)中のY1とY2がいずれも式(2)の化学構造のものであってもよいし、これと、例えば、一般式(1)中のY1が式(3)で、Y2が式(6)の化学構造のものとが混在したヒドロキシポリウレタン樹脂であってもよい。
【0027】
一般的なポリマーエマルジョンの製造方法としては、界面活性剤を乳化剤として使用する強制乳化型と、ポリマー鎖中に親水性基を導入しポリマー鎖自らに乳化粒子を形成させる自己乳化型がある。本発明の水分散体は、上記した自己乳化型に属するものであり、前記一般式(11)の構造に示されているように、樹脂の構造中に、乳化に必要な親水性基としてカチオン性基である4級アンモニウム構造を導入したことで、自己乳化を可能にしている。このため、一般式(1)中の−Z−が、炭化水素又は芳香族炭化水素である構造のものを混在させる程度は、樹脂全体で、そのカチオン性基濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲内となるようにすることが好ましい。
【0028】
前記一般式(1)で示される繰り返し単位を有してなる構造のヒドロキシポリウレタン樹脂は、以下の工程により製造できる。1分子中に2以上の五員環環状カーボネート(以下、単に環状カーボネート或いは環状カーボネート化合物と呼ぶ場合がある)を有する化合物と、1分子中に2以上のアミノ基を有する化合物の重付加反応によって得られる。
【0029】
ヒドロキシポリウレタン樹脂の高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、環状カーボネートの開裂は2種類であり、以下のモデル反応が示す2種類の構造が発生することが知られている。
【0030】
【0031】
本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂の製造に使用する上記環状カーボネートとしては、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものが好ましい。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0032】
【0033】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を、重付加反応に使用することで、得られるポリウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素を原材料として有効利用する立場からはできるだけ多くなる方がよい。例えば、上記した合成方法によってヒドロキシポリウレタン樹脂を得ることで、その構造中に二酸化炭素を1〜20質量%の範囲で含有させることができる。
【0034】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、エポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを併用してもよい。
【0035】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、が好ましいものとして挙げられる。
【0036】
本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂の製造に使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、1分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれも環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物について、構造式を挙げて例示する。なお、以下に列挙した構造式中にあるRは、水素原子、CH3のいずれかである。
【0037】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。
【0038】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。
【0039】
本発明を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂の好ましい製造方法としては、二酸化炭素を原料に用い、先に述べたようにして合成された上記に列挙したような五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、2つ以上のアミノ基を有するアミノ化合物との重付加反応によって製造することが挙げられる。この際に使用するアミノ化合物としては、下記一般式(12)で示される、分子内に2つ以上の1級アミノ基と、1つ以上の2級アミノ基のどちらも有する化合物が挙げられる。下記一般式(12)で示されるアミノ化合物は、従来公知の多官能アミンを併用することができる。
【0040】
[一般式(12)中のR1、R2、R3は、それぞれ独立して、その化学構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基を示す。nは0〜3の整数である。]
【0041】
上記一般式(12)で示される化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどが挙げられ、これら化合物の1種又は2種類以上を使用することが可能である。
【0042】
上記アミン化合物と併用できる多官能アミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン(別名:ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミン(別名:メタキシレンジアミン)などの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0043】
一般式(12)で示されるアミノ化合物の構造中の2級アミノ基は、環状カーボネートとの反応が起こらず、主鎖中に2級アミノ基を主鎖に含んだヒドロキシポリウレタン樹脂の合成ができることは、既に「J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2005,43,5899−5905」に報告されている。本発明においても、反応形態は、上記文献に記載されている通りであるので、2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を次反応の中間体として利用することとなる。環状カーボネート化合物と、一般式(12)で示される化合物を含むアミン化合物との反応条件は、例えば、両者を混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させればよく、このようにすることで、中間体の2級アミノ基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂を得ることができる。
【0044】
上記反応は、無溶剤で行うことも可能であるが、本発明においては次工程の反応及び乳化工程を考慮して、親水性溶剤中で行うことが好ましい。この際に使用し得る親水性溶剤の好ましいものを例示すると、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、特に好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するものであるテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。
【0045】
本発明を特徴づけるヒドロキシポリウレタン樹脂の製造は、上記したように、特に触媒を使用せずに製造を行うことができる。また、反応を促進させる目的で、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量としては、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部の範囲内で使用する。
【0046】
次に、ヒドロキシポリウレタン樹脂へのカチオン性基導入反応について説明する。本発明の製造方法では、前記した方法で得られた、中間体としての2級アミノ基を主鎖に含むヒドロキシポリウレタンの2級アミノ基と、カチオン性基とエポキシ基の両方を構造中に有する化合物(以下、「カチオン化剤」と略す)との反応によって、ヒドロキシポリウレタン樹脂にカチオン性基を導入する。
【0047】
具体的には、中間体のヒドロキシポリウレタン樹脂の有する2級アミノ基と、カチオン化剤の有するエポキシ基とを反応させることで、ヒドロキシポリウレタン樹脂にカチオン性基を導入することができる。上記2級アミノ基とエポキシ基との反応は、室温でも進行させることが可能であるが、製造時間を短縮するために、2級アミノ基を主鎖に含むヒドロキシポリウレタン樹脂の重合反応に続けて、同様の反応温度下で反応を行うことが好ましい。例えば、中間体を得る合成の際に、親水性溶剤であるテトラヒドロフランを使用した場合であれば、ヒドロキシポリウレタン樹脂の合成温度である40℃〜60℃程度の温度で、次の重合反応を続けて行うことが好ましい。
【0048】
上記の反応に使用可能なカチオン化剤は、カチオン性基とエポキシ基の両方を有する化合物であれば特に限定されるものでなく、例えば、ジアルキルアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物をメチルクロライドにて4級化することで得ることができる。
【0049】
一般的に使用されるカチオン化剤として市販されているものもあり、それらを使用することが簡易である。例えば、下記構造式で示されるグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0050】
【0051】
本発明者らの検討によれば、上記したヒドロキシポリウレタン樹脂の重合反応で使用する、環状カーボネート化合物の種類やアミン化合物の種類及び2級アミンを含むアミンの使用比率、カチオン化剤の種類によって、得られるヒドロキシポリウレタン樹脂中のカチオン性基量を制御することができる。
【0052】
また、本発明者らの検討によれば、樹脂の構造中のカチオン性基量と乳化粒子径は、カチオン性基量が多くなるほど乳化粒子径は小さくなる傾向があった。逆に、カチオン性基が少なくなると乳化粒子径が大きくなり、ある程度の大きさからは乳化状態が不安定となることがわかった。このような理由から、本発明では、本発明の水分散体を構成する、水中に分散した状態のヒドロキシポリウレタン樹脂の乳化粒子の粒子径を、d50が0.001μm〜0.1μm(1nm〜100nm)の範囲内のものとした。その用途にもよるが、好ましくは0.005μm〜0.05μmの範囲内のものであるとよい。本発明で規定した、ヒドロキシポリウレタン樹脂の粒子径は、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)である。後述するように、実施例では、水分散体中におけるポリマー分散粒子の粒度分布を、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計であるMicrotrac UPA EX−150(商品名、日機装社製)で測定した粒度分布から得たd50の値で示した。
【0053】
また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量にも影響を受けるため、樹脂粒子の重量平均分子量が10000〜100000の範囲内の樹脂であることが好ましく、より好ましくは、20000〜70000である。
【0054】
また、ヒドロキシポリウレタン樹脂の構造中に導入させるカチオン性基の量は、少なすぎると十分な転相乳化ができず、多すぎると、形成した被膜の耐水性に悪影響を及ぼすため、カチオン性基濃度が500g/mol〜2000g/molの範囲内となるようにすることが好ましい。さらには、650〜1300g/molの範囲内となるようにすることがより好ましい。なお、「カチオン性基濃度」とは、反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基当たりの分子量を算出したものである。
【0055】
本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体を利用することで、被膜層やフィルムを形成することができる。本発明の特徴は、形成した被膜層やフィルムが、優れたガスバリア性を有するものとなることにある。ガスバリア性は、樹脂の構造中の水酸基の存在により発揮されるものであり、形成したフィルムのガスバリア性の程度は、使用する被膜形成樹脂の構造中の水酸基量に依存する。本発明者らの検討によれば、水酸基が少なすぎる場合はガスバリア性に劣り、逆に多すぎる場合は、特にガスバリア性に対しての問題を生じないが樹脂が固くなり、形成した被膜層の基材への密着性が悪くなるという別の問題が生じる。このため、優れたガスバリア性の実現と、良好なフィルムとしての機能の実現の両立を考慮すると、樹脂の構造中における水酸基量の好ましい範囲は、水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である。
【0056】
先に説明したような方法で得られた、水中でイオン性基となるカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂は、その溶剤溶液に水を徐々に添加することで転相乳化させることができ、容易に、本発明のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体であるO/W型のエマルジョンにできる。転相させる際に添加する水の使用量は、ヒドロキシポリウレタンの樹脂の化学構造、樹脂の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、粘度、といったファクターに依存するが、概ね、転相前の樹脂100部に対して、50部〜200部程度である。転相を行う際に使用する装置は、合成反応に使用する装置と同様の装置でよいが、連続式の乳化機や分散機を使用することもできる。通常、転相工程は、特に加熱する必要はなく、転相前の樹脂溶液に対する水の溶解性を低くするために、例えば、10℃〜30℃程度の低い温度で行うことが効率的で好ましい。
【0057】
さらに、転相乳化して作製したO/W型エマルジョンを減圧条件下で加熱することで、ヒドロキシポリウレタン樹脂の製造に使用した溶剤を揮発させれば、樹脂分のみが水中に分散してなる態様の本発明の水分散体を得ることができる。この際の加熱条件及び減圧条件は、揮発させる溶剤の沸点により異なるが、水が先に蒸発しないことが好ましい条件であり、概ね、300Torr〜50Torr、20℃〜70℃の範囲で調整する。なお、本発明の水分散体は、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂を分散させてなるものであるが、最終的な溶媒が必ずしも水単独である必要はなく、転相前の溶剤が残存していても使用可能であり、用途に合わせて調節すればよい。
【0058】
本発明の水分散体は、例えば、上記したようにして得られる、水中に、本発明で規定する特有の構造を有するヒドロキシポリウレタン樹脂が、0.001μm〜0.1μmの粒子径にて分散した水分散体である。水中における該ヒドロキシポリウレタン樹脂の含有量は、用途によっても異なり特に限定されないが、水分散体中の固形分で、例えば、10〜50質量%程度であることが好ましい。
【0059】
本発明の水分散体は、加工時(使用時)の必要特性に合わせて各種レオロジー調整剤を添加して使用することができる。また、本発明の水分散体は、必要に応じて各種添加剤を加えてもよく、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。
【0060】
また、本発明の水分散体は、さらに、水に溶解・分散可能な硬化剤を配合した形態として使用することで、架橋塗膜(被膜)を作成できるものになる。この際に使用できる硬化剤としては、特に制限はないが、例えば、水酸基と反応可能な水分散性成分、ポリイソシアネート類、ブロックイソシアネート類、エポキシ化合物、アルミニウムやチタニウムやジルコニアなどの金属キレート化合物、メラミン樹脂、アルデヒド化合物、などが挙げられる。また、カルボキシル基と反応可能は架橋剤も使用可能であり、前記化合物に加えて水分散性カルボジイミドなども使用可能である。
【0061】
本発明の水分散体を塗布し乾燥することで得られる被膜は、優れたガスバリア性を有するものであるが、その一方で、その構造中に導入させたカチオン性基による親水性に起因し、耐水性に劣るという欠点がある。しかし、形成被膜が耐水性に劣るという問題は、前記した硬化剤を使用すれば向上させることができる。耐水性に問題のないガスバリア性の被膜を得る目的で使用する、特に有用な架橋剤(硬化剤)としては、金属キレート化合物が挙げられる。金属キレート化合物と水酸基の硬化反応は、架橋点間の距離が短く、且つ、高密度の架橋が行えることより、架橋により樹脂の構造中の水酸基量が減少するにも関わらず、一定の湿度下においてガスバリア性を向上させることができる。
【0062】
金属キレート化合物の使用形態上は、水溶性であることが好ましく、カチオン性基のカウンターイオンと反応が起こらない化合物でキレート化されたものが好ましい。このような金属キレート化合物として好ましい化合物は、チタンの乳酸キレートや、ジルコニウムのアミノカルボン酸キレートが挙げられる。
【0063】
また、上記のキレート化合物との配合液を作製する場合には、水分散体は弱酸性であることが溶液の安定性上好ましい。本発明の水分散体は、従来のアニオン型水分散体と異なり、酸性条件下で安定であるため、塩酸、リン酸、乳酸などの酸を加え、pHを酸性に調整し使用することができる。
【0064】
本発明の水分散体を使用して塗膜(被覆層)を得る方法としては、本発明の水分散体を基材となるフィルムの少なくとも一方の面に、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーターなどによって塗布し、水及び残存している溶剤を揮発させることが挙げられる。このようにすることで、基材と、該基材の少なくとも一方の面に、本発明の水分散体によって形成したヒドロキシポリウレタン樹脂被膜層とを有してなる、本発明のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0065】
本発明の水分散体を用いて形成されたヒドロキシポリウレタンからなる被膜層は、該被膜層の厚みが0.1〜100μmであり、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において、50mL/m2・day・atm以下である、優れたガスバリア性を示すものとなる。より好ましい形態としては、前記ヒドロキシポリウレタン被膜層を形成しているヒドロキシポリウレタン樹脂の有する水酸基の一部が、金属キレート化合物によって架橋されていることが挙げられる。
【0066】
上記で基材として使用するフィルム材料は、特に限定されるものではなく、従来から包装材料として使用される高分子材料は全て使用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系樹脂、その他ポリイミド等とこれらの樹脂の共重合体等が挙げられる。また、これらの高分子材料には、必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を適宜に含ませることができる。
【実施例】
【0067】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0068】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、触媒としてヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)を20部と、反応溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液に、イソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0069】
上記で得られた粉末を、FT−IR(堀場製作所社製、商品名:FT−720、以下の製造例でも同様の装置を使用して測定)にて赤外分光分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinepakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による高速液体クロマトグラフィー分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0070】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0071】
【0072】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.4%であった(計算値)。
【0073】
【0074】
<実施例で使用する転相乳化前のヒドロキシポリウレタン樹脂の製造>
[実施例用の樹脂合成例1]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ジエチレントリアミン(東京化成工業社製)24.1部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフラン(以下、THFと略記)186部を加え、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として105.6mgKOH/gであった。アミン価の測定方法については、後述する。
【0075】
次いで、この樹脂溶液に、カチオン化剤として、カチオマスターG(商品名、四日市工業社製、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、固形分70%水溶液)50.6部を加え、60℃で反応を行った。そして、FT−IRにて、カチオン化剤のエポキシ基由来の910cm-1のピークが消失したことを確認してカチオン化反応を終了し、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0076】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記の樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、70℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂合成例1で得た樹脂製の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムについて、外観、機械強度(破断強度及び破断伸度)を後述する方法で評価した。また、樹脂について、後述する方法で、分子量(GPCで測定)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。その際、水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、カチオン化前のアミノ基含有ヒドロキシポリウレタンの水酸基価を測定し、カチオン化反応が100%行われたものとして計算した。以下の例についても同様である。その結果を表1に示した。
【0077】
[実施例用の樹脂合成例2]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒のTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、中間体としての構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0078】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、前記した樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0079】
[実施例用の樹脂合成例3]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例2で得た化合物I−Bを100部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)を21.9部、ジエチレントリアミンを16.6部、反応溶媒のTHFを208部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として65.2mgKOH/gであった。
【0080】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを34.9部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0081】
[実施例用の樹脂合成例4]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを19.0部、トリエチレンテトラミン(東京化成社製)10.2部、反応溶媒のTHFを194部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として60.8mgKOH/gであった。
【0082】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを30.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。樹脂の水酸基価は実施例1と同様にして算出した。結果を表1に示した。
【0083】
[実施例用の樹脂合成例5]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、イミノビスプロピルアミン(東京化成社製)15.3部、反応溶媒のTHFを193部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、構造中に2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として50.8mgKOH/gであった。
【0084】
次いで、カチオン化剤のカチオマスターGを25.3部加え、60℃で反応を行い、転相乳化前のカチオン性基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基の濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0085】
[比較例用の樹脂合成例a]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを13.6部、ジエチレントリアミンを12.0部、反応溶媒のTHFを188部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、実施例用の樹脂合成例2のカチオン化を行う前の2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の溶液と同様のものを得た。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例2と同様であり、得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gであった。
【0086】
次いで、この樹脂溶液に、無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部を加え室温で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。この反応溶液に、反応触媒としてトリエチルアミン16.9部を加え、転相乳化前の、構造中にカルボキシル基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0087】
[比較例用の樹脂合成例b]
比較例用の樹脂合成例aと同様にして、実施例用の樹脂合成例2のカチオン化を行う前の2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の溶液と同様のものを得た。得られた樹脂のアミン価は、樹脂分100%の換算値として52.1mgKOH/gである。
【0088】
次いで、この樹脂溶液に、12N塩酸11.6部を加え、アミノ基を中和することでアミノ基をカチオン性基とすることで、カチオン性基を含むヒドロキシポリウレタン樹脂溶液を得た。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0089】
[比較例用の樹脂合成例c]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、へキサメチレンジアミンを27.1部、反応溶媒のTHFを190部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂は、2級アミノ基を含まない通常のヒドロキシポリウレタン樹脂である。
【0090】
次いで、この樹脂溶液に、無水フタル酸(東京化成工業社製)16.3部及び反応触媒としてトリエチルアミン16.9部を加え60℃で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了した。得られた樹脂は、水酸基の約50%がハーフエステル化しカルボキシル基化したヒドロキシポリウレタン樹脂溶液である。そして、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観及び機械強度と、樹脂の、分子量(GPC)、カチオン性基濃度及び水酸基価を測定した。結果を表1に示した。
【0091】
(評価方法)
以上で説明した実施例用の樹脂合成例1〜5及び比較例用の樹脂合成例a〜cでそれぞれ得た各樹脂、及び各樹脂で作製した各フィルムの特性について、以下の方法及び基準で測定或いは評価した。また、各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。測定結果或いは評価結果を表1にまとめて示した。
【0092】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各合成例で使用したヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例用の樹脂合成例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%、であり、これより実施例用の樹脂合成例1のポリウレタン中の二酸化炭素濃度の算出値は、下記の通りになる。
(100部×20.5%)/159.5全量=12.9質量%
【0093】
[分子量]
本発明では、樹脂の分子量を、DMFを移動相としたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した。具体的には、東ソー社製のGPC−8220(商品名)で、カラムとして、Super AW2500+AW3000+AW4000+AW5000を使用して測定した。測定結果を、ポリスチレン換算値として重量平均分子量を表した。
【0094】
[水酸基価]
水酸基価についてはカチオン化後の測定が困難なことより、下記のようにして求めた値を水酸基価として表1中に示した。すなわち、表1中の水酸基価は、カチオン化前のアミノ基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基価を、JIS K−1557に準拠した滴定法により測定した実測値を基に、カチオン化反応が100%行われたものとし、使用したカチオン化剤の質量、及び、カチオン化剤とアミノ基との反応により水酸基が1基発生するものと仮定して算出した計算値である。
【0095】
[カチオン性基の濃度]
反応に使用したカチオン化剤の量からカチオン性基1基辺りの分子量を算出し、カチオン性基の濃度とした。単位はg/molである。
例えば、実施例1の場合に使用したカチオン化剤の有効成分量は35.4gであり、カチオン化剤の分子量は151.6であることから、下記のように算出される。
159.5全量(g)÷(35.4÷151.6)=683g/mol
【0096】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれも、ヘイズメーターのHZ−1(商品名、スガ試験機社製)を用いて測定した。ここで、ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
<評価基準>
○:全光線透過率が90%以上で、且つ、ヘイズが0.5%以下
×:○に該当しないもの
【0097】
[機械強度]
作製したそれぞれの樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度と破断点伸度を測定した。具体的には、JIS K−6251に準拠して、オートグラフのAGS−J(商品名、島津製作所社製)を使用し、室温(25℃)で測定した。
【0098】
【0099】
本発明の実施例の水分散体に使用される水を加えて転相乳化する前のヒドロキシウレタン樹脂は、表1に示されているように、従来処方と同様の簡易的な処方によりカチオン性基を導入することができ、また、該樹脂で形成した複層フィルムを含めて、物性的に従来のヒドロキシポリウレタン樹脂と同等であることが確認された。さらに、表1に示されているように、本発明の実施例の水分散体に使用される樹脂は、従来の処方で得た比較例の水分散体に使用される樹脂よりも多くの水酸基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂になることがわかった。その理由は、本発明の実施例の水分散体に使用される樹脂を構成する、構造中のカチオン性基は、エポキシ基とアミノ基との反応により導入されることから、カチオン性基を導入すると同時に水酸基が生成したことによると考えられる。
【0100】
<水分散体の製造>
[実施例1]
撹拌及び減圧蒸留が可能な反応容器内に、実施例用の樹脂合成例1で得た樹脂溶液(THF溶液)100部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、本実施例の、水中にヒドロキシポリウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が28%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布は、d50=0.008μm(=8nm)であった。粒度分布は、Microtrac UPA−EX150(商品名、日機装社製)を用いて測定した。図1に、測定した際の水分散体の粒度分布を示した。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し評価したところ、良好な安定を示した。
【0101】
上記で得られた水分散体に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8W(商品名、ローム&ハースジャパン社製)を0.5部添加し、塗料を作製した。そして、得られた塗料を用い、下記のようにして基材に塗布することでガスバリア性フィルムを作製した。具体的には、基材として、厚み40μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)であるパイレンP1111(商品名、東洋紡社製、酸素透過率実測値:1500mL20μm/m2・day・atm)を用い、そのコロナ処理面上に、塗料を、乾燥時の膜厚が10μmになるように塗布し、100℃にて乾燥することで、基材上に被膜層を形成して複層フィルムを得た。得られた複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)、耐水性、表面抵抗値及びガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。結果を表2に示した。
【0102】
[実施例2〜5]
先に説明した実施例用の樹脂合成例2〜5で得た樹脂溶液を100部用い、実施例1と同様にして転相乳化を行って、実施例2〜5の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えていずれの実施例も固形分が28%となるように調整した。いずれも、外観上均一な水分散体であった。そして、得られた各水分散体を用い、いずれも実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得られた各実施例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、それぞれの結果を表2に示した。
【0103】
[比較例1]
比較例用の樹脂合成例aで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にして、イオン交換水100部を添加し転相乳化を行い、その後に溶媒のTHFを減圧留去することで水分散体を得た。そして、得られた水分散体を用いて実施例1と同様にして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを加え塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本比較例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0104】
[比較例2]
比較例用の樹脂合成例bで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にしてイオン交換水100部を添加し転相乳化を行った。しかし、水の量が増えるに従い樹脂が析出し、転相乳化を行うことができなかった。そのため評価は中止した。
【0105】
[比較例3]
比較例用の樹脂合成例cで得た樹脂溶液100部に、実施例1と同様にしてイオン交換水100部を添加し転相乳化を行い、THFを減圧留去することで水分散体を得た。そして、実施例1と同様にして、得られた水分散体にレオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを加え塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて比較用の複層フィルムを作製した。上記で得た本比較例の水分散体及びフィルムについて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0106】
[比較例4]
比較例1で得たレオロジー調整剤を添加する前の水分散体に対し、酸性条件下で使用される添加剤の使用可能性を判断する目的で、2N塩酸を加えてpH4に調整しようとしたところ、樹脂が析出してしまい、良好な塗料にできなかった。そのため評価は中止した。また、2N塩酸によるpH調整を行わずに比較例1で得た水分散体に、酸性条件下で使用するオルガチックスTC−310(商品名、チタンラクテート、マツモトファインケミカル社製、以下、TC−310と略記)を添加したところ、樹脂が析出してしまい、その場合も塗料の作製ができなかった。
【0107】
[比較例5]
比較例3で得たレオロジー調整剤を添加する前の水分散体に対し、酸性条件下で使用される添加剤の使用可能性を判断する目的で、2N塩酸を加えpH4に調整しようとしたところ、樹脂が析出してしまい、良好な塗料にできなかった。そのため評価は中止した。また、2N塩酸によるpH調整を行わずに比較例3で得た水分散体に、酸性条件下で使用するTC−310を添加した場合も、樹脂が析出してしまい、その場合も塗料の作製ができなかった。
【0108】
(評価)
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体の特性、及び、各水分散体を用いて得た塗料で作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。結果を表2にまとめて示した。
【0109】
[粒子径]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体について、Microtrac UPA−EX150(商品名、日機装社製)を使用し、粒度分布を測定した。そして、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)を、各水分散体の粒子径として、表2中に示した。
【0110】
[保存安定性]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体を、密閉したポリ容器に入れ、50℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、1か月、3か月、6か月後の状態を目視で観察し、それぞれ、以下の基準で評価し、結果を表2に示した。
<評価基準>
○:粒子の沈降は無く、外観上の変化が見られない
△:粒子が沈降しているが、撹拌によって簡単に再分散する
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降し、撹拌しても再分散できない
【0111】
[酸性条件下での安定性]
実施例1〜5及び比較例1、3の各水分散体に塩酸を加え、pH4に調整して酸性条件とした際の分散体の安定性を目視観察で確認した。結果を表2に示した。
○:外観上の変化は見られない
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降し、撹拌しても再分散できない
【0112】
[塗膜外観]
実施例1〜5及び比較例1、3で作製した各複層フィルムについて、形成した被膜層の外観(塗膜外観)を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を表2中に示した。
<評価基準>
○:透明均一で光沢のある塗膜表面である
△:塗膜表面の光沢が無く濁っている
×:集物による凹凸がある
【0113】
[表面抵抗]
実施例1〜5及び比較例1、3で作製した各複層フィルムについて、25℃、湿度60%の環境中にて、ハイレスタ−UP MCP−HT−450(商品名、三菱化学株式会社製)を使用して表面抵抗値(Ω)を測定した。
【0114】
[ガスバリア性]
実施例及び比較例で作製した各複層フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。測定値は複層フィルムとしての値であり、単位はmL/m2・day・atmである。なお、該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られた被膜層(塗膜)の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所社製)を使用して実測し、10μmであることを確認している。
【0115】
【0116】
表2に示したように、本発明の実施例の水分散体は、粒子径が小さく、安定性に優れ、特に、pHを4に調整した酸性条件下でも不安定とならない水分散体であることが確認できた。具体的には、まず、従来の処方で作製された、比較例3の、水酸基の一部をカルボキシル化したヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体に比べて、長期間の保存が可能となることが確認された。長期間の保存安定性が向上した理由は、樹脂の構造中に導入した特有の構造のカチオン性基によると考えられる。すなわち、従来のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体は、樹脂の構造中へのカルボキシル基の導入をハーフエステルにより行っていたために、加水分解によりカルボキシル基変性部位が脱離してしまい、保存安定性に課題があったのに対し、本発明の実施例の水分散体を構成する、アミド結合を介してカチオン性基を導入したヒドロキシポリウレタン樹脂は、加水分解を起こしにくいことによると考えられる。
【0117】
また、本発明の水分散体を構成するヒドロキシポリウレタン樹脂は、表2に示したように、比較例1の水分散体を構成する、アミック酸構造によりカルボキシル基を導入することで保存安定性を改良したヒドロキシポリウレタン樹脂と比べ、同等の安定性を有し、しかも、比較例1の水分散体を構成する樹脂がアニオン性基を有することによる問題点であった酸性(pH4に調整)条件下での安定性も改善され、この点で、より優れた分散安定性を示すものであることが確認された。すなわち、本発明の実施例のカチオン化されたヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によれば、酸性条件下でも安定であるという、従来の水分散体では達成できなかった効果を実現できる。
【0118】
さらに、表2に示されているように、本発明の実施例のヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムは、比較例1及び比較例3の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムと比較して、ガスバリア性に優れることが確認された。また、表2に示されているように、本発明の実施例の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムは、比較例1及び比較例3の水分散体によって形成した被膜層を有するフィルムと比較して、表面抵抗値が低いことが確認された。このことは、本発明の実施例の水分散体で形成された被膜層(塗膜)は、汚れが付きにくいという利点を有するものになることを示している。
【0119】
[実施例6]
実施例1で得られたレオロジー調整剤を添加する前の水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加え、pH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。pHを調整したものに、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wと、架橋剤であるTi乳酸キレート(商品名:オルガチックスTC310、マツモトファインケミカル社製、固形分44%)を5.0部加え、ディスパーで分散し塗料を作製した。得られた塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを、50℃で2日間エージング処理した後に、実施例1と同様にして、複層フィルムを得、その塗膜外観、耐水性、表面抵抗値及びガスバリア性を評価した。結果を表3に示した。
【0120】
[実施例7、8]
実施例6と同様に、実施例2、3で得た樹脂溶液を用い、それぞれの水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加えpH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。いずれの水分散体も安定な状態であった。そして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを5.0部と、架橋剤のTi乳酸キレートであるオルガチックスTC310を5.0部加え、ディスパーで分散し、塗料を作製した。この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを50℃で2日間エージング処理した後に、実施例6と同様にして、複層フィルムの塗膜外観、表面抵抗値及びガスバリア性を評価するとともに、さらに、後述する方法で耐水性及び耐溶剤性を評価した。結果を表3に示した。
【0121】
[実施例9、10]
実施例6と同様に、実施例4、5で得た樹脂溶液を用い、それぞれの水分散体100部(固形分28%)に、2N塩酸を徐々に加えpH試験紙で確認しながらpHを4に調整した。いずれの水分散体も安定な状態であった。そして、レオロジー調整剤のプライマルRM−8Wを5.0部と、架橋剤として塩化ジルコニル化合物(商品名:オルガチックスZC−126、マツモトファインケミケル社製、固形分30%)を5.0部加え、ディスパーで分散し、塗料を作製した。この塗料を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを50℃で2日間エージング処理した後、実施例6と同様にして、複層フィルムの、塗膜外観、表面抵抗値及びガスバリア性を評価するとともに、さらに、後述する方法で、耐水性及び耐溶剤性を評価した。結果を表3に示した。
【0122】
(評価)
上記で得た実施例6〜10の各水分散体を用いて得た塗料で作製した各フィルムについて、前記した実施例1〜5で行ったと同様の方法で評価した。具体的には、前記した実施例1〜5で行ったと同様の方法及び評価基準で、「塗膜外観」、「表面抵抗」及び「ガスバリア性」を評価したのに加えて、以下の方法及び基準で、「耐水性」及び「耐溶剤性」についても評価した。結果を表3にまとめて示した。また、比較のために、架橋剤を用いない構成の実施例1で得た各複層フィルムについても同様の方法で「耐水性」及び「耐溶剤性」を評価し、先に表2で示したその他の評価結果とともに、表3に示した。
【0123】
[耐水性]
実施例1及び実施例6〜10で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で24時間経過後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表3中にまとめて示した。
<評価基準>
○:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0124】
[耐溶剤性]
実施例1及び実施例6〜10で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面にテトラヒドロフランをスポイトにて数滴滴下し、直ぐにウエスにてふき取った。そして、ふき取り後の表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表3中にまとめて示した。
<評価基準>
○:変化が見られない
△:塗膜に拭き取り跡が残る
×:塗膜の一部が剥離
【0125】
【0126】
表3中の実施例1の結果に示されているように、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜は、樹脂の構造中に有するカチオン性基によって発現する親水性のため、耐水性には劣る。しかし、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜は、前記したように、その構造中のカチオン性基の効果により表面抵抗値が低く、汚れが付きにくいという利点を有する。また、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜が耐水性に劣る点については、表3の実施例6〜10に示したように、架橋剤を使用することで解決することができる。すなわち、本発明の実施例6〜10の水分散体では、酸性条件下でのみで使用可能な金属キレートを配合して塗料化することを実現しており、その結果、表3に示したように、金属キレートによる架橋によって、複層フィルムの耐水性や耐溶剤性を向上させることが実現できる。
【0127】
表2及び表3に示したように、本発明の水分散体中のヒドロキシポリウレタン樹脂からなる被膜が形成された複層フィルムは、水酸基の量がガスバリア性向上に寄与することから、比較例1及び3の樹脂からなる被膜が形成された複層フィルムと比較し、ガスバリア性に優れたものになる。さらに、表2及び表3の結果から、金属キレートを架橋剤として用いた実施例6〜10の方が、実施例1〜5の場合よりも高いガスバリア性を示すことが確認された。架橋剤として金属キレートを用いることで、架橋により樹脂の構造中の水酸基量が減少するにも関わらず、架橋後の被膜の高いガスバリア性を実現できた理由は、金属キレート化合物と水酸基の硬化反応は、架橋点間の距離が短く、且つ、高密度の架橋が行えることで達成されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、工業的に要求される長期間の保存が可能なヒドロキシポリウレタン樹脂の水分散体を提供することができる。安定な水分散体状態を得るために、水を加えて転相乳化する前のヒドロキシウレタン樹脂の構造中にカチオン性基を導入したが、水酸基も同時に存在していることより従来のヒドロキシポリウレタン樹脂によって形成した被膜と同様の機械強度を有しており、従来の想定用途への応用が期待できる。さらに、本発明を特徴づけるヒドロキシポリウレタン樹脂は、その原料に二酸化炭素を使用することができるものであるので、地球環境保護の面からも期待される技術である。
図1