(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861202
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】発酵によるバニリンの改良された製造
(51)【国際特許分類】
C12P 7/22 20060101AFI20210412BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20210412BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
C12P7/22
C12N1/20 A
!C12M1/00 D
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-506264(P2018-506264)
(86)(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公表番号】特表2018-521683(P2018-521683A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016067997
(87)【国際公開番号】WO2017025339
(87)【国際公開日】20170216
【審査請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】15306279.9
(32)【優先日】2015年8月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508079739
【氏名又は名称】ローディア オペレーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ショーヴェ, マリー
(72)【発明者】
【氏名】フーシェ, ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ガリナ, ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】ピロー, ギヨーム
【審査官】
坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−267131(JP,A)
【文献】
特開昭61−088872(JP,A)
【文献】
特開平11−069990(JP,A)
【文献】
Desalination,2009年,Vol. 241,pp. 357-364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00 − 41/00
C12M 1/00 − 3/00
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質からの生物変換によってバニリンを製造する方法であって、少なくとも、
− 基質の生物変換によってバニリンを形成することが可能な少なくとも1種の微生物を発酵槽中で培養すること、
− 前記微生物によって変換される少なくとも1種の基質を前記発酵槽に供給すること、及び
− 前記発酵槽の発酵ブロスからそのように製造されたバニリンを回収すること
からなる工程を含み、
− 前記基質が少なくとも部分的に発酵槽の発酵ブロスに連続的に添加され、及び
− 前記基質の連続添加中、発酵ブロスの流れが分離装置によって発酵槽から連続的に抽出され、それにより、(i)前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)と、(ii)前記微生物を含む発酵ブロス組成物(b)とが与えられ、
前記バニリンが組成物(a)の全て又は一部から回収され、及び組成物(b)が全て又は少なくとも部分的に発酵槽でリサイクルされる方法であって、
微生物が、バシラス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、及びセラチア(Serratia)からなる群において選択される、方法。
【請求項2】
基質の最初の投入量が発酵槽に添加され、及び引き続き又は同時に、一部の基質が発酵槽中の発酵ブロスに連続的に添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発酵槽の滞留時間が1〜24時間の範囲である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
基質の供給の流量Qfeed及び組成物(a)の流れの流量Q(a)が、前記発酵槽中の発酵ブロスの一定の体積を維持するように調整される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基質がフェルラ酸である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
基質が、7〜9の範囲のpHを有する溶液の形態で連続的に供給される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が前記発酵槽の発酵ブロスのための栄養成分も含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
発酵ブロス中において基質の濃度が5〜60g/Lの範囲である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
微生物が、ストレプトマイセス・セトニィ(Streptomyces setonii)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
分離装置がバニリンの選択的な同時抽出も可能にする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分離装置が、膜溶媒抽出(MBSE)に基づく濾過膜装置である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分離装置が、未変換の基質と生物変換生成物とを含む組成物(a)を形成する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
組成物(a)からのバニリンの選択的な回収を可能にする後続の且つ補完的な分離技術を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
補完的な分離技術が、吸着カラムの樹脂へのバニリンの選択的な吸着に基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
補完的な分離技術が液−液抽出に基づく、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
補完的な分離技術が、バニリンを含まず且つ未変換の基質を含む組成物の回収を可能にし、前記バニリンを含まず且つ未変換の基質を含む組成物が少なくとも部分的に発酵槽中でリサイクルされる、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記回収されたバニリンの精製工程又は精製工程の組み合わせを更に含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物変換反応による基質からのバニリン製造の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学名が4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒドであるバニリンは、食品、飲料、香料、医薬品、及びポリマー中で使用されている最も重要な芳香族フレーバー化合物のうちの1つである。バニリンは、歴史的には、バニラ・パニフォリア(Vanilla planifolia)、バニラ・タヒテンシス(Vanilla tahitiensis)、及びバニラ・ポンポナ(Vanilla pompona)の鞘から抽出されていた。需要が益々増加している今日では、世界中のバニリン産出量の5%未満が天然のバニラの鞘由来である。現在、バニリンの製造のために化学合成が最も重要な方法である。
【0003】
しかし、化学合成は香料及び化粧品の製造に適しているものの、農産品産業では法律上の問題が生じ得る。また、合成風味料は、更に天然由来の風味料よりも消費者にあまり好まれない傾向がある。
【0004】
そのため、微生物を利用するバイオテクノロジープロセスによって製造されるバニリンを得る試みがなされている。
【0005】
これらのプロセスは、次の基質:リグニン、フェノール性スチルベン、イソオイゲノール、オイゲノール、フェルラ酸、糖類、バニリン酸、フェノール性スチルベン、廃棄物残渣、及び芳香族アミノ酸を、好都合な微生物(例えば、バシラス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、及びセラチア(Serratia)等)の触媒作用下で変換することに基づく。Kaur及びChakrabortyの最近の総説(Kaur B,Chakraborty D.“Biotechnological and molecular approaches for vanillin production:a review.”Appl Biochem Biotechnol.2013 Feb;169(4):1353−72)には、バニロイドの生物変換のために使用される複数の生合成経路及び適切な細胞が列挙されている。特許出願である欧州特許第1734128号明細書にも発酵及び生体内変換によるバニリンの製造方法が開示されている。
【0006】
しかし、ほとんどの生物変換及び発酵の生産性は、多くの場合、微生物に対する生成物の毒性によって制限される。特に、バニリンを製造するためにバイオテクノロジーの経路を使用するほとんどの既知のプロセスは、微生物に対するバニリンの毒性及び分解の問題を有している。更に、バニリンの収率はバニリンアルコール及びバニリン酸などの分解生成物へのバニリンの更なる変換による影響を受ける。
【0007】
そのため、産業界における現在の課題は、収率及び選択率を改善するためにこれらの阻害要因を克服することである。
【0008】
この目的のため、抽出プロセスを生物変換工程と連結させることが既に提案されている。
【0009】
そのため、バイオバニリンのための従来の連結プロセスのスキームは、一般的に、次の部分を含む:
− 通常、発酵槽である生体内変換部分であって、微生物は、バニリン及びほとんどの場合に基質からの副生成物を合成する、生体内変換部分、
− バイオマス濾過部分であって、細胞は、合成された生成物と残留基質とを含む濾液から物理的に分離され、その後、発酵槽中でリサイクルされる、バイオマス濾過部分、及び
− 選択的な分離部分であって、バニリンなどの目的生成物は、発酵槽へリサイクルされる他のものから抽出される、選択的な分離部分。
【0010】
従来の発酵プロセスで既に考えられているいくつかの分離技術の代表例としては、特に前述の液−液抽出、膜溶媒抽出(MBSE)、及び樹脂(又は溶媒含浸樹脂)への吸着であってもよい。
【0011】
しかし、発酵槽中にバニリンがなお多量に存在することになることから、生物変換工程とその後の抽出プロセスとを連結することは、微生物に対するバニリンの毒性の問題を完全には解決しない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、微生物に対するその阻害を抑制し、バニリン製造についての生産性及び選択性を増加させるために基質の更なる生物変換を進めることを目的として、発酵ブロス中のバニリン濃度を低減させることが可能な方法を提案することである。
【発明の概要】
【0013】
より詳しくは、本発明は、基質からの、及び特にフェルラ酸からの生物変換によりバニリンを製造する方法であって、少なくとも、
− 基質の生物変換によってバニリンを形成することが可能な少なくとも1種の微生物を発酵槽中で培養すること、
− 前記微生物によって変換される少なくとも1種の基質を前記発酵槽に供給すること、及び
− 前記発酵槽の発酵ブロスからそのように製造されたバニリンを回収すること
からなる工程を含み、
− 前記基質が少なくとも部分的に発酵槽の発酵ブロスに連続的に添加され、及び
− 前記基質の連続添加中、発酵ブロスの流れが分離装置によって発酵槽から連続的に抽出され、それにより、(i)前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)と、(ii)前記微生物を含む発酵ブロス組成物(b)とが与えられ、
前記バニリンが組成物(a)の全て又は一部から回収され、及び組成物(b)が全て又は少なくとも部分的に発酵槽でリサイクルされる、方法に関する。
【0014】
このように、本発明者らは、発酵ブロスからバニリンを形成されたままの状態での連続的に製造及び除去するのに好都合な新規な手法を発見した。特に、本発明の方法は、有利には、発酵槽中でのバニリンの滞留時間を短縮することと、発酵ブロス中のバニリン濃度を、微生物に関するその毒性レベル未満に維持することとを可能にする。
【0015】
更に、新鮮な基質を発酵槽に連続的に供給することにより、より多くの基質を変換させることによる生物変換を促すことができる。
【0016】
連続的な基質の添加、ブロスの連続的な抽出、及び前記微生物を含む発酵ブロス組成物(b)の全て又は一部のリサイクルを伴う本発明の方法は、発酵ブロスの内容物の連続的な修正を意味する。前記修正は、微生物の代謝に対して予測不可能な結果を有し得る。バニリンを生成する微生物の代謝スキームは複雑である。そのため、本発明の方法で観察されるバニリンへの生物変換の改善は予測できなかった。
【0017】
好ましい実施形態によれば、基質の最初の投入量が発酵槽に添加され、及び引き続き又は同時に、一部の基質が発酵槽中の発酵ブロス中に連続的に供給される。
【0018】
別の好ましい実施形態によれば、組成物(b)は、発酵槽中に全体として戻される。
【0019】
別の好ましい実施形態によれば、発酵ブロスは、分離装置としての膜濾過装置を通して抽出され、それにより、(i)前記微生物を含まない濾液(a)と、(ii)前記微生物を含む保持液(b)とが与えられる。
【0020】
ある具体的な実施形態によれば、分離装置は、前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)の形成のみに特化される。このように形成された組成物(a)は、バニリンと、未変換の基質と、不純物(バニリン酸、バニリルアルコール、及びグアイアコールなど)とを主成分とする。
【0021】
この変形形態では、本発明の方法は、組成物(a)からのバニリンの選択的な回収を可能にする補完的な分離技術を含む。特に、有利には、濾過装置である分離装置は、この組成物(a)からのバニリンの選択的な回収を可能にする補完的な分離装置と連結されてもよい。
【0022】
例えば、組成物(a)は、バニリンが液−液抽出によって抽出され得るタンク中に集められてもよい。
図1はこの実施形態を示している。
【0023】
組成物(a)中に含まれるバニリンは、樹脂などの吸着材に選択的に吸着されてもよい。この吸着材は、通常、バニリンのための抽出溶媒を使用することにより、バニリンを回収及び精製するために引き続き処理される。
図2はそのような実施形態を示している。
【0024】
両方の場合において、未変換の基質を含む組成物は、有利には、全て又は部分的に発酵槽中でリサイクルされてもよい。
【0025】
別の具体的な実施形態によれば、分離装置は、バニリンの同時の選択的抽出を可能にする。
図3はこの実施形態を示している。
【0026】
本発明の方法では、通常、1つのみの発酵槽が使用される。しかし、当業者が容易に理解できるように、方法は、複数の発酵槽を用いて容易に実施することも可能であり、その際、多くの場合にこれらは並列配置にされる。複数の発酵槽が使用される場合、これらは互いに実質的に同一又は同一であってもよく、またそれに加えて、発酵槽は実質的に又は厳密に同じ方法で機能してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】分離装置である液−液抽出装置と連結している本発明の方法の例を示す。
【
図2】分離装置である吸着カラムと連結している本発明の方法の別の例を示す。
【
図3】分離装置としてバニリン用の選択膜を主体とする濾過装置を使用する本発明の方法の別の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発酵ブロス
前述したように、本発明の方法は、基質をバニリンに変換できる少なくとも1種の微生物を発酵槽中で培養する予備工程を含む。
【0029】
本発明において、用語「培養」は、適切な培地中での微生物の増殖を指すために使用される。
【0030】
用語「適切な培地」は、炭素源若しくは炭素基質、窒素源、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、及びリン酸アンモニウム;リン源;例えばマグネシウム塩、コバルト塩、及び/又はマグネシウム塩などの金属塩など、細胞の維持及び/又は増殖に必須又は有益である養分、並びにアミノ酸及びビタミンなどの増殖因子を含む培地(例えば、無菌の液体培地)を指す。典型的な培地は、10g/lの酵母エキスと、20g/lのペプトンと、20g/lの炭素源とからなる。
【0031】
本発明の用語「炭素源」とは、酵母の通常の増殖を促進するために当業者が使用し得る任意の炭素源を指す。酵母は、これらの主要炭素及びエネルギー源として糖類を使用するが、従来と異なる炭素源も可能である。
【0032】
炭素源は、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、ラクトース、エタノール、セロビオース、グリセロール、及び多糖(セルロースなど)、並びにこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。特に好ましい炭素源は、エタノール及び/又はグルコースである。
【0033】
好適な窒素源の例は、硝酸塩及びアンモニウム塩などの無機窒素源;並びに酵母エキス、大豆かす、綿実油かす、カゼイン、カゼイン加水分解物、小麦グルテン、及びコーンスティープリカーなどの有機窒素源である。
【0034】
使用できる無機塩は、例えば、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、及び鉄の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、及びリン酸塩である。
【0035】
培養工程は、pH、温度、pO
2、及び曝気の制御された条件下で行われ、条件は当業者に周知である。
【0036】
培養温度は、好ましくは10〜55℃の範囲、特に好ましくは30〜45℃の範囲である。培地のpHは、好ましくは3〜9、特に4〜8である。
【0037】
微生物は、従来の基質の生物変換によりバニリンを形成できる任意の微生物であってもよい。
【0038】
好都合な微生物としては、バシラス(Bacillus)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、及びセラチア(Serratia)からなる群において選択される微生物が特に挙げられるが、好ましくはストレプトマイセス・セトニィ(Streptomyces setonii)であり、より好ましくはATCC39116株である。
【0039】
基質
既に前述したように、複数の種類の炭素基質を検討することができる。
【0040】
より具体的には、基質は糖類(グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、及びラクトースなど、グルコースが好ましい)、フェルラ酸、バニリン酸、フェニルアラニン、オイゲノール、及びこれらの混合物からなる群において選択される。
【0041】
より好ましくは、基質はフェルラ酸である。
【0042】
本発明の方法によれば、この基質の少なくとも一部が発酵槽中に連続的に添加される。
【0043】
これは、基質の連続的な供給が添加の唯一のルートを構成しない場合があることを意味する。
【0044】
そのため、具体的な実施形態によれば、基質の最初の投入量が発酵ブロスに添加されてもよく、及び一部の基質が引き続いて又は同時に、通常、溶液の形態で発酵槽中の発酵ブロス中に連続的に添加される。
【0045】
より詳しくは、基質の最初の投入量が発酵槽に添加され、良好な酵素活性を確保するために生物変換はバッチ式で促進される。その後、基質の新たな溶液が連続的に発酵槽に投入される。
【0046】
上述したように、本発明の方法は、基質の連続供給と同時に、発酵ブロスの流れが分離装置によって発酵槽から抽出され、それにより、(i)前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)と、(ii)前記微生物を含む発酵ブロス組成物(b)とが与えられることを含む。
【0047】
基質の連続供給と同時のこの一部の発酵ブロスの連続的な抽出により、発酵槽中の発酵ブロスの一定の体積を維持すると共に、本明細書で上述した利点を有する発酵槽中でのバニリンの滞留時間の効率的な制限が可能になる。
【0048】
有利には、発酵槽中での滞留時間は、1〜24時間、好ましくは3〜10時間の範囲である。したがって、基質の供給の流量Q
feed及び組成物(a)の流れの流量Q
(a)のそれぞれは、発酵槽の滞留時間を短縮するように調節されてもよい。
【0049】
Q
(a)及びQ
feedは、有利には近い値を有していてもよく、特に同じである。
【0050】
定義によれば、滞留時間は流量が大きくなるにつれて短くなる。
式中、t
rは、時間(h)単位での滞留時間であり、
Vは、L単位での発酵槽の有効体積であり、
Q=Q
(a)=Q
feedは、L/h単位での流量である。
【0051】
基質の供給の流量Q
feed及び組成物(a)の流れの流量Q
(a)は、有利には発酵槽中の発酵ブロスの一定の体積を維持するためにも調節される。
【0052】
組成物(a)の流量Q
(a)と等しいQ
feedの流量を維持するために、3つのポンプ、すなわち発酵槽中への基質の流れを供給するためのものと、発酵槽から一部の発酵ブロスを連続的に抽出するための別のものと、組成物(a)のライン上の別のものとを使用することが有利な場合がある。
【0053】
基質は、好ましくは8〜9の範囲のpHを有する水溶液の形態で好ましくは供給される。この水溶液は、前記発酵槽の発酵ブロスのための栄養成分を含んでいてもよい。特に、これは、基質が補われた塩及び養分を有する完全培地で構成されていてもよい。
【0054】
好ましい実施形態によれば、基質の濃度、特にフェルラ酸の濃度は、発酵ブロス中において5〜60g/Lの範囲である。
【0055】
分離装置
既に本明細書の上で提示したように、これは、一部の発酵ブロスの連続的な抽出のための、並びにその結果の(i)前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)と、(ii)発酵ブロス組成物(b)との連続的な形成のための分離装置を介して進行し、後者は、少なくとも部分的に発酵槽中でリサイクルされる。
【0056】
前記組成物の分離が可能な任意の装置を本発明で使用することができる。好ましくは、分離装置は濾過膜装置である。そのような濾過装置は、抽出された発酵ブロスから、微生物を含む保持液と、微生物がない濾液との回収を可能にする。
【0057】
第1の実施形態によれば、分離装置は、抽出された発酵ブロスからのバニリンの選択的な同時抽出を可能にする。
【0058】
そのような分離装置は、有利には、膜溶媒抽出(MBSE)に基づく濾過膜装置であってもよい。本発明のために好都合な膜は疎水性膜であり、特にPTFE膜である。
【0059】
選択的な分離装置から回収された未変換の基質の溶液は、その全て又は部分的に発酵槽中でリサイクルされてもよい。
【0060】
この具体的な実施形態は
図3に図式化されている。
【0061】
別の実施形態によれば、分離装置は、発酵ブロスからバニリンを選択的に抽出できない。そのため、これは微生物に関してのみ選択性を示す膜を主体とする濾過装置の場合であってもよい。その結果、分離装置は、未変換の基質と生物変換生成物とを含む組成物(a)を形成する。
【0062】
そのような場合、本発明の方法は、この組成物(a)からバニリンを抽出するための後続の且つ補完的な分離技術を含む。
【0063】
この補完的な分離技術は、バニリンの期待される抽出を行うために有用な任意の従来の方法であってもよい。
【0064】
第1の実施形態によれば、これは液−液抽出である。
【0065】
バニリンの抽出溶媒は、当業者に公知の抽出溶媒の中から選択されてもよい。特に、これは、アルコール、酢酸アルキル、ヘキサン、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよく、好ましくはN−イソブチルアセテートである。
【0066】
この具体的な実施形態に関して、国際公開第2015/011112号明細書及び欧州特許第0885968号明細書の内容を参照することができる。本発明の方法のこの具体的な実施形態は、
図1に示されている。
【0067】
第2の実施形態によれば、これは、吸着カラムの樹脂へのバニリンの選択的な吸着に基づく分離技術であってもよい。
【0068】
例えば、ポリスチレン樹脂又はポリフェノール樹脂などのそのような吸収材樹脂は、当業者に公知である。
【0069】
これは、Amberlite XAD−2、Amberlite XAD−7、XAD−16、Lewatit OC 1062、又はOC 1064(米国特許第6133003号明細書中で言及)などの吸収材樹脂であってもよい。バニリンは、引き続き従来の抽出溶媒を用いてそのような樹脂から抽出される。そのようなプロセスの具体的な実施形態が
図2に示されている。
【0070】
補完的な分離装置の種類がどのようなものであろうとも、この補完的な分離技術によっても回収される、バニリンを含まず且つ未変換の基質を含む組成物は、少なくとも部分的に発酵槽中でリサイクルされてもよい。
【0071】
本発明の方法により得られるバニリンは、そのまま使用されても更に精製されてもよい。典型的な精製工程は、溶媒での抽出、蒸留、結晶化から構成されてもよく、又は例えば抽出若しくは蒸留などの前記精製工程と、それに続く結晶化との組み合わせであってもよい。
【0072】
図1〜3は、本発明の方法の具体的な実施形態を示している。発酵培地、微生物、及び好ましくは一部の基質が入っている発酵槽(1)に、制御された流量Q
feedで基質(10)の溶液が連続的に供給される。一部の発酵ブロス(11)は、発酵槽から分離装置(2)へ連続的に循環され、それにより、制御された流量Q
(a)を有する、前記微生物を含まない発酵ブロス組成物(a)の流れ(12)又は(16)、及び(ii)発酵槽(1)へリサイクルされ戻される、前記微生物を含む発酵ブロス組成物(b)の流れ(13)が得られる。
【0073】
図1及び2では、組成物(a)は、分離装置(2)から補完的な分離装置(3)又は(4)へ循環される。
【0074】
図1では、分離装置は、少なくとも1種の抽出溶媒(14)及び組成物(a)(12)が供給される抽出装置(3)である。液−液抽出が抽出装置内へ行われ、装置の内容物は、その後、デカンテーションによって相分離できるように保持槽(5)へ移される。バニリンを含む抽出溶液(15)は集められ、残りの溶液(16)は発酵槽中でリサイクルされ戻される。
【0075】
図2では、分離装置はバニリン用の吸着カラム(4)である。組成物(a)(12)は吸着カラムを通って循環し、バニリンを含まない組成物(17)は、吸着カラムの端部で回収されて発酵槽へポンプで戻される。バニリンは吸着カラムから更に抽出される。
【0076】
図3では、分離装置(2)は、膜溶媒抽出(MBSE)に基づく濾過装置である。抽出された発酵ブロス(11)は、前記装置の膜を通って循環することで、発酵槽にポンプで戻されるバニリンを含まない組成物(13)と、バニリンを含む組成物(16)とを与える。
【0077】
本発明による方法の実施例について言及する以降の追加的な記載から、本発明をよりよく理解できるであろう。
【0078】
しかし、これらの実施例は本発明の主題の例示の目的で示されているに過ぎず、決してこれを限定するものではないことは明確に理解されるべきである。
【実施例】
【0079】
実施例1:
0.1gのKH
2PO
4、0.4gのNa
2HPO
4、12H
2O、1gの酵母エキス、0.02gのMgSO
4,7H
2O、38gの水中に2gのグルコースを含む溶液10gが入っている500mLの振とうフラスコに1mLのストレプトマイセス・セトニィ(Streptomyces setonii)ATCC39116株を接種し、37℃、150rpmで24時間培養する。
【0080】
12gの酵母エキス、1.2gのMgSO
4、7H
2O、48gのグルコース、及び1391gの水が入っている2L(総容積)の発酵槽に、振とうフラスコ中で準備した50mLの予備培養物を接種する。株を大気圧において約24時間にわたり0.67vvmで曝気しながら、37℃、1000rpm(Rushtonタービン)の発酵条件で培養する。最初のpHは7であり、この増殖期中には調整しない。バイオマスは8〜10g/L(乾燥重量)に到達し得る。
【0081】
実施例2:
ストレプトマイセス・セトニィ(Streptomyces setonii)を実施例1に従って培養した。300mLの溶液を発酵槽から取り出す。pHを8.3に上げて一定に保ち、曝気を0.47vvmに下げ、撹拌速度を変化させて溶存酸素を30%で一定に維持する。温度及び圧力は変更しない。
【0082】
24gのフェルラ酸、16gのNaOH(30%)、及び240gの水を含む溶液を発酵槽中に添加する。
【0083】
6時間後、35g/Lのフェルラ酸を含む溶液を0.159L/hで連続的に供給する。並行して、発酵培地を、PVDF膜(カットオフ=0.15μm)を備えた精密濾過モジュールタイププランRAYFLOW100(Orelis)を使用して濾過する。膜の全表面は0.2m
2であり、入口圧力は約1.5barであり、出口圧力は約1barである。
【0084】
フィルターには133.4L/hの流れで供給される。これらの条件では、濾液の流れは1.9L/hであり、保持液の流れは131.5L/hである。濾過は24時間行った。低い方の測定された濾液の流れは1.1L/hである。いずれの時点でも濾液は微生物を含んでいなかった。
【0085】
保持液を発酵槽中に再び入れ、0.160L/hの濾液を取り出す(濾液の他の部分は発酵槽中に再び入れる)。この連続プロセスを39時間行う。試料を定期的に抜き出してHPLCで分析する。
【0086】
最終的に0.52molのフェルラ酸が消費され、0.24molのバニリンが製造され、合計で0.47molの生成物(バニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、及びグアイアコール)が製造された。
【0087】
発酵槽中の最大バニリン濃度は、生物変換の25.5時間後に観察され、これは10.6g/Lである。
【0088】
実施例3:
ストレプトマイセス・セトニィ(Streptomyces setonii)を実施例1に従って培養した。300mLの溶液を発酵槽から取り出す。pHを8.3に上げて一定に保ち、曝気を0.47vvmに下げ、撹拌速度を変化させて溶存酸素を30%で一定に維持する。温度及び圧力は変更しない。
【0089】
24gのフェルラ酸、16gのNaOH(30%)、及び240gの水を含む溶液を発酵槽中に添加する。
【0090】
6時間後、28g/Lのフェルラ酸を含む溶液を0.27L/hで連続的に供給する。並行して、発酵培地を実施例2に記載の精密濾過モジュールを使用して濾過する。
【0091】
保持液を発酵槽中に再び入れ、0.27L/hの濾液を取り出す(濾液の他の部分は発酵槽中に再び入れる)。この連続プロセスを44時間行う。試料を定期的に抜き出してHPLCで分析する。
【0092】
最終的に1.03molのフェルラ酸が消費され、0.42molのバニリンが製造され、合計で0.89molの生成物(バニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、及びグアイアコール)が製造された。
【0093】
発酵槽中の最大バニリン濃度は、生物変換の24.5時間後に観察され、これは8.9g/Lである。