(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダ(101,107)として形成された第2本体における前記第2材料エリア(12)は、10重量%から100重量%のCr2O3と、それに対応して90重量%から0重量%のAl2O3とを有する層である、請求項1、2又は3のいずれか一項に記載のトライボロジーシステム(1;2)。
【背景技術】
【0004】
用語「内燃エンジン」は、ここでは、ガソリン、ディーゼル又はガス燃料(CNG、LNG)のような化石燃料により動作可能なすべての内燃機関、詳しくは往復ピストンエンジン、を含むものとする。
【0005】
燃料の良好な利用、及びバイオ燃料のような添加剤の使用を目的として内燃エンジンにおける動作温度を高くすると、ガソリン、ディーゼル及びガス燃焼のエンジンにおける表面の熱的及び化学的安定性に課される要求が高くなる。こうした高い要求は、エンジンコンポーネントのためのコンパクト材料(バルク材料とも称する)の選択により、限られた程度で又は多大な費用でのみ満たすことができる。
【0006】
用語「コンパクト材料」又は「バルク材料」とは、表面特性を改善するべくコーティングを受ける対象となる基材の材料を称する。当該材料は、コーティング対象となり得る材料、例えば鋼、Al、インコネル等、すなわち内燃エンジンのコンポーネントが生成される材料及びエンジニアリング材料、のすべてを含む。鋼の中でもとりわけ、例えば42CrMo4は、ピストンが作られる典型的な材料である。
【0007】
コンパクト材料の特性をコスト効率よく改善する一つの方法は、例えば窒化、物理的気相成長法(PVD)、又は熱溶射法(HVOF又はプラズマ)を使用した粉末若しくはワイヤのスプレイコーティングによる表面処理である。これらのプロセスは、コンパクト材料としては生成することができない材料、又は多大な努力によってのみしか生成できないが、その修正がたとえ表面の相対的に薄いエリアのみに影響を与えるとしても、コンパクト材料表面の摩耗、摩擦及び腐食に劇的な影響を与え得る材料、を生成するべく使用することができる。
【0008】
通常、内燃エンジンにおけるトライボロジーパートナーの表面は、異なる材料又は異なるコンパクト材料からなるが、これらは、所定の供用寿命を目的として最適化されて供用サイクル数が低減される。すなわち供用寿命が適合される。このような場合、材料又は層厚さが調整されるのが普通である。
【0009】
摩耗を低減したいとの願望に加え、摩擦損失を低減することも、内燃エンジンの開発におけるもう一つの目標である。この側面のもとでも、目標となる表面修正は、トライボロジーシステムにおいて重要な役割を果たす。複数表面の機械的特性及びその相互の適合に加え、表面材料はまた、油との濡れ性、並びに、添加剤及び表面の化学反応の、化学的に不安定にならないような所定の制御性、のような重要な機能を想定している。これらの事実はすべて、内燃エンジンのトライボロジーシステムが極めて複合的であり、複数の表面の選択及び調整には柔軟性が必要となることを示す。薄層はここで、コンパクト材料の場合よりも高度な柔軟性を与えてくれる。
【0010】
特許文献1は、シリンダ内側のコーティング、すなわちシリンダランニング表面、を記載する。その層は、プラズマ溶射によって塗布される。ほとんどが鉄製の層はまた、FeO及びFe2O3を含み、その結合酸素の割合は1〜4重量%であり、Fe2O3の割合は0.2重量%未満である。プロセスガスに対して5〜50重量%の割合での酸化物セラミックス粉末の混合が、かなり良好な摩擦係数を達成するべく特に有利として推奨されている。TiO2、Al2O3−TiO2及びAl2O3−ZrO2が、酸化物セラミックス粉末として示される。
【0011】
特許文献2は、往復ピストンエンジンのためのシリンダランニング表面層をクレームし、この層がプラズマ溶射法により塗布されている。この方法で生成された層は、結合酸素の含有量が0.5〜8重量%であり、埋め込まれたFeO及びFe2O3の結晶を含む。加えて、この層は、多孔度が0.5〜10%であり、所定の粗さまで磨かれる。この層の細孔は、潤滑剤用のリザーバとして作用するマイクロチャンバを形成し、トライボロジーシステムにおける油の均一な分散を促進する。
【0012】
特許文献3は、表面窒化とPVDコーティングとの組み合わせからなるピストンリングの表面処理を記載する。ピストンリングのランニング表面からシリンダランニング表面まで、CrN層がコーティングされ、好ましくはイオンメッキにより堆積される。他の表面はすべてが窒化プロセスを受ける。非窒化ピストンリング表面上のPVD層の堆積は主に、コーティングにおけるクラックの防止を意図する。
【0013】
特許文献4は、鉄系材料から作られたコーティングピストンリングをクレームする。表面上には、Al5Fe2を包含して高硬度を有する耐摩耗層が堆積される。この文献はまた、この層の、52〜55重量%のAl及び45〜48重量%のFeからなる化学組成もクレームする。
【0014】
特許文献5は、ピストン及びシリンダランニング表面からなるトライボロジーシステムを記載する。ピストンはまた、シリンダライナとトライボロジー接触するピストンリングのための凹部も有する。加えて、ピストンスカートは、その表面に、潤滑膜を改善するための溝構造が与えられるように設計される。ピストンリング及びピストンスカートはまた、摺動特性を改善するべくDLC層が、とりわけ様々な潤滑剤と併用されかつ同潤滑剤に適合されてコーティングされる。
【0015】
これらの例は、表面が、摩耗を低減して摩擦損失も低減するべくコーティングされる。様々なコーティング材料は、この目標を達成するべく使用することができる。これらの材料を基材表面に塗布するべく異なるプロセスが用いられる。さらに、最新技術によりはっきりとしたのは、それぞれの条件下でトライボロジー接触パートナーの有利な表面調整を達成するには、極めて異なる基材材料をコーティングする必要があるということである。
【0016】
いくつかの場合、コーティング対象コンポーネントの幾何学的形状もまた、コーティングプロセスを決定付ける。これは、例えば、シリンダボアをコーティングする必要がある場合に当てはまる。このコンポーネントの内側部分をこのようにコーティングするには、PVD法よりも溶射法の方が、はるかに適切である。100μmを上回り又は500μmをも上回る厚い層を堆積しなければならない場合であっても、そのような方法は、PVDコーティングよりもはるかに有効である。これはすなわち、基材をバッチプロセスにおいてコーティングできる場合、10μm又は30μmまでの範囲にある薄層にとって経済的な利点を有する。
【0017】
摩耗及び摩擦損失に関して特別なトライボロジーシステムの層の対形成を試験することは、もちろん、実際の内燃エンジンにおいて実行されるのが最善となり得る。しかしながら、こうした試験は、すべての可能な材料組み合わせに対して行うにはコストがかかりすぎる。加えて、未知の材料の組み合わせが、内燃エンジンに損傷を与え得るリスクも存在する。この損傷は、試験スタンド全体の破壊をももたらし得る
【0018】
上記は、層を選択して層の対形成をすることについて、可能性が多様であることと、いかに困難であるかの双方を示す。
【0019】
したがって、目的は、詳しくは内燃エンジンのための改善されたトライボロジーシステムを与えることにある。ここで、2体それぞれが内燃エンジンのコンポーネントを形成し、それらの表面には2つの材料エリアが形成され、当該材料エリアは、動作中に少なくとも所定の面積において互いに接触し合ってトライボロジー接触を形成する。詳しくは、ピストンリング及びシリンダからなるか又はシリンダ及びピストンからなるトライボロジーシステムを改善する必要性が存在する。ここでの目的はまた、詳しくは、層として設計される材料エリアが生成され得るさらなる材料又は材料組み合わせを与えることにある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態に関する一般的な説明が最初になされた後、図面を参照して実施形態の詳細な説明が続く。
【0025】
一実施形態において、トライボロジーシステムは、それぞれが内燃エンジンのコンポーネント、詳しくはピストン、ピストンリング又はシリンダを形成する第1本体及び第2本体を含み、第1本体及び第2本体の表面は、動作中に少なくともいくつかの領域において互いに接触してトライボロジー接触を形成する第1材料エリア及び第2材料エリアを含み、第1材料エリア及び/又は第2材料エリアは、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層として形成され、内燃エンジンの燃焼室近くに存在するクリティカルなトライボロジーシステムにとって特に好ましい特性を有する。
【0026】
酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層を、異なるプロセスにおいて、内燃エンジンにとって典型的なコンパクト材料を含む異なる材料に塗布することができる。
【0027】
鋼(例えば品質42CrMo4)は、ピストンが製造される典型的な材料である。ピストンとピストンコネクタ(さらにピストンスカート)におけるそのランニング表面とにとってさらなる典型的な材料は例えば、11〜13%のSiと、Cu、Mg及びNiの少量の添加物とを有する包晶アルミニウム・ケイ素合金である。例えばセラミックス、炭素繊維及び多孔性金属材料から作られる補強要素が、特に高い応力がかかるピストン領域に特別に配列される軽金属複合材料も存在する。
【0028】
シリンダは通常、クランクケースの一部であり、モノメタル設計において、例えば鋳鉄合金又はアルミニウム・ケイ素合金から製造することができる。かかるシリンダのランニング表面は、鋳造用の材料に直接形成される。
【0029】
いわゆる塗布技術において、シリンダスリーブがクランクケースの中にインサートされる。この場合、スリーブはGCI材料、アルミニウム材料、又はさらにアルミニウム・ケイ素合金から作られ、適切に機械加工されたレセプタクルにおいてクランクケースにインサート、又はプレス、シュリンク若しくは鋳造される。
【0030】
いわゆる複合技術においては、適切な金属及びセラミック材料が複合されて作られた円筒形状体が鋳型にインサートされ、高圧下で溶融アルミニウム合金により浸潤されてクランクケースが形成される。
【0031】
すべてのシリンダのシリンダランニング表面は、トライボロジーランニングパートナーとして設計され、精細なボアリング又はターニング及びその後のホーニングによりピストン及びピストンリングに対するシール表面となる。
【0032】
金属シールとして作用して燃焼室をクランクケースに対してシールするピストンリングに対しては、様々な設計及び材料が存在する。鋼又はねずみ鋳鉄材料が広く使用される。この場合、リングランニング表面を補強することも一般的な慣習となっている。リングランニング表面は、シリンダ摺動路と、すなわち耐摩耗保護層とトライボロジーシステムを形成する。すでに言及したリングランニング表面のコーティングに加え、クロム・セラミック層、クロム・ダイヤモンド層又はモリブデン系コーティングも与えられる。窒化又は硝化浸炭プロセスにおいて、窒素と、いくつかの場合には炭素とを、ピストンリングの表面に、拡散により組み入れることができる。
【0033】
コーティングとして作られた第1材料エリア及び第2材料エリアがそれぞれ、ランニング表面を形成するコンポーネントの表面上に配列される設計が存在する。コンポーネント、すなわちピストン、ピストンリング又はシリンダに対し、これらは、ピストンのピストンシャフト摺動路であり、ピストンリングのリングランニング表面であり、及びシリンダ内側のシリンダ摺動路である。これらの表面は、それぞれが本発明に係るトライボロジーシステムを形成するそれぞれのランニング表面を形成し、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層として設計することができる。
【0034】
ピストンリングとして形成された第1本体における第1材料エリアが、化学組成(A
l−xCr−y)2O3を有する酸化アルミニウムクロムに基づく化学組成(A
l−xCr−y)2O3を有する層となる設計が存在する。ここで、0.1<x<1かつy<0.5、0.5<x<1かつy<0.5、又はx=0.7かつy=0.3である。かかるコーティングは、異なる摩擦パートナー(シリンダランニング表面上の第2材料エリア)に対し、乾燥状態及び潤滑状態の双方において正のトライボロジー特性を示す。
【0035】
他の設計において、シリンダとして形成される第2本体の第2材料エリアは、10重量%から100重量%のCr2O3とそれに対応する90重量%から0重量%のAl2O3の組成を有する混合アルミナ・クロム酸化物層である。かかる層は、(例えば熱溶射を使用した)適切なコーティング法によりシリンダランニング表面に塗布され、上に示された組成(A
l−xCr−y)2O3を有する(第1材料エリアにより形成された)酸化アルミニウムクロムに基づく他層にとっての良好なトライボロジーパートナーとなる。
【0036】
表面粗さに好ましい影響を与えることによりトライボロジー特性をさらに改善し得る設計が存在する。ここで、表面粗さRaとして、μm単位の以下の値、すなわち1≦Ra≦0.5;0.15≦Ra≦0.4;Ra=0.15又はRa=0.4が第1材料エリアに当てはまり、以下の値、すなわち0.1≦Ra≦0.5;0.15≦Ra≦0.45;Ra=0.15又はRa=0.45が第2材料エリアに当てはまる。
【0037】
熱溶射法を使用して材料エリアが形成される設計が存在する。溶射材料(これは例えばAl2O3及びCr2O3のような異なるコンポーネントとの粉末混合物となり得る)が、集中された高エネルギー熱源の中に導入され、融合又は一部溶融され、溶射粒子の形態で高速でコーティング対象基材の表面に投入される。このプロセスは、シリンダランニング表面又はさらにピストンシャフト摺動路のような広い表面をコーティングするのに特に適切である。一般的な方法は、高速フレーム溶射(HVOF)、いわゆるコールドガス溶射、アーク溶射、及びプラズマ溶射である。得られる層の組成は、近似的に開始材料(粉末混合物)の組成に対応する。
【0038】
熱溶射において、層厚さは、50mmから400mmであり、詳しくはさらに150μmから800μmである。
【0039】
材料の一つがPVD法(物理的気相成長法)を使用して、詳しくは陰極スパーク蒸発を使用して形成される設計も存在する。周知のPVD法において、気相又はプラズマからのイオン、原子又は分子の堆積により、トライボロジー保護層が基材(コーティング対象コンポーネントのベース材料)の表面に作られる。これを目的として、必要な開始材料(例えば金属、セラミックス等)が、熱的に蒸発又は微粒化されてコンポーネント上に再び凝縮される。
【0040】
いわゆる陰極スパーク蒸発及びいわゆる陰極微粒化(又はMSIP(マグネトロンスパッタイオンプレーティング))は双方とも、かなり以前に確立されたプロセスであり、コーティングツール及びコンポーネントのために使用され、これらが使用されて大抵の異なる層を堆積することができる。
【0041】
例えば、PVD法により形成された材料エリアが10から30μmの層厚さを有する設計が存在する。
【0042】
一つの材料エリアがMo、MoN、MoCuN、DLC又はta−Cに基づく層として形成され、一つの材料エリアが酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層として形成される設計も存在する。
【0043】
Mo、MoN、MoCuNは、トライボロジー特性を改善する耐性層である。
【0044】
DLC(ダイヤモンド様炭素)層は一般に、本質的に炭素からなるいわゆる薄膜システムを含み、PVD又はCVD(化学的気相成長)法を使用して塗布される。これらの層は、グラファイト、ダイヤモンド様、若しくは非晶質炭素、又はプラズマポリマー層と同様の炭素水素層である。
【0045】
ta−Cに基づく層はまた、いわゆるDLC層であり、グラファイト結合とダイヤモンド様結合との間の所定の比によって区別される。ここでは、ダイヤモンド様結合部分が支配的となる。このようなta−Cに基づく層はまた、詳しくは酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層とのトライボロジー組み合わせにおいても、優れたトライボロジー特性を与える。
【0046】
当該層の少なくとも一つが、少なくとも80GPaのユニバーサル硬さを有する設計が存在する。層の硬さは、耐摩耗性の指標となることが多い。
【0047】
本発明は詳しくは、本発明に係るトライボロジーシステムを備えた内燃エンジンに関する。上述したトライボロジーシステムは、シリンダ/ピストンエリアの摺動摩擦負荷により熱的に高応力を受けるコンポーネントにおいて特に有利となる。これらのシステムは、ピストンシャフト摺動路(ピストンスカート摺動路)及びシリンダ摺動路から形成されるトライボロジーシステムと同様に、ピストンリング8/9(複数のリング)とシリンダ摺動路とのトライボロジーシステムも含む。
【0048】
酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層として形成される少なくとも一つのさらなる表面エリアがピストンに与えられる設計が存在する。これらのエリアは、詳しくはピストンリング溝エリア、ピストンクラウン、又はさらにはピストンシャフトを含む。ここで、耐熱性かつ堅牢な硬層が、これらのエリアの高い応力をベース材料へと伝達するのに役立つ。
【0049】
図1に戻ると、この図は、動作時に振動するピストン102が配列されたシリンダ101を備えた内燃エンジン100のコンポーネントを、模式的な縦断面図において例示する。ピストン102には、ピストンリング溝104に配列された3つのピストンリング103が与えられる。シリンダ壁105は冷却チャネル106を有し、実際のシリンダボアが、ここでは、インサートされた(随意的な)シリンダライナ107によって形成される。シリンダライナ107の内表面108にはシリンダランニング表面が形成される。
【0050】
ピストン102は、上端にピストンクラウン109を有する。円筒形状のピストンリング溝エリア110がピストンクラウン109に境界を有してピストンコネクタ111に合流する。
【0051】
一方ではシリンダ101又はシリンダスリーブ107(もしあれば)が、他方ではピストンリング103又はピストンコネクタ111が、ここではトライボロジーシステム1及び2を形成する。
【0052】
図1Aは、トライボロジーシステム1を示す。ここでは、ピストンリング103が第1本体を形成し、その表面では、少なくともリングランニング表面112のエリアにおいて、第1材料エリア11は、例えば(A
l−0.7Cr−0.3)2O3層のような酸化アルミニウムクロムに基づく層として形成される。本発明に係る他の組成に関し、以下は(A
l−xCr−y)2O3が当てはまる。ここで、0.1≦x≦1かつy≦0.5であり、0.5≦x≦1かつy≦0.5である。層厚さは10から30μmであり、硬さが少なくとも18GPaである。層は、表面粗さ(単位がμmのRa)がRa=0.15又はRa=0.4であり、他の実施形態では0.1<Ra<0.5の範囲内にある。ピストンリング103のための他の適切なコーティングは、表1bにC2及びD2として示される。
【0053】
第2材料エリア12が、シリンダ摺動路108の層として形成され、当該層はアルミナ及び酸化クロムの混合物から形成され、Al2O3の重量含有量が62重量%であり、Cr2O3の重量含有量が38重量%である。表面粗さはRa=0.45μmである(表1aのE1)。代替的に、第1材料エリアは、Ra=0.15μmの表面粗さ(表1aのD1)を有する酸化クロム(Cr2O3)層として形成される。
【0054】
代替的に、第2材料エリア12は酸化アルミニウムクロム層から形成され、酸化クロム含有量が10から100の重量%含有量を構成し、酸化アルミニウム含有量が90から0の、対応する相補的重量%をなす。第2材料エリアに対する他の適切なコーティングはまた、表1aのA1、B1及びC1として示される層システムとすることができる。
【0055】
このように、単数又は複数のピストンリング103(第1本体)と、シリンダ105又はシリンダスリーブ107(第2本体)とがそれぞれ、接触表面112及び108と、単数若しくは複数の第1材料エリア11との及び第2材料エリア12との、トライボロジーシステムを形成する。ここで、接触表面は、動作中に互いに対して滑り合う。
【0056】
すなわちピストン速度が低い又はゼロともなるピストンの上死点及び下死点において、大きな乾燥摩擦が存在する動作条件が存在する。エンジン油により形成される2つの表面間の潤滑膜がその後、大きく破壊される。
【0057】
反転ポイント間のピストンの往復動中に湿潤摩擦又は潤滑摩擦が生じる。その後、エンジン油が有効な潤滑膜を、材料エリア11及び12間に形成する。これが、摩擦及び摩耗を大幅に低減する。
【0058】
潤滑剤が材料エリア11及び12間の完全な膜としては存在しないが当該表面の凹部では利用可能となる混合摩擦条件も生じ得る。この潤滑効果は、潤滑剤吸収能力が低い(例えば研磨された又はつや消し表面上の)低表面粗さによる滑らかな表面よりも、(例えば磨かれた表面上の)高表面粗さの方が強くなる。
【0059】
第2トライボロジーシステム2が
図1Bに示される。詳細な例示1Bが、第1材料エリア11が形成された表面113上のピストンコネクタ111を示す。当該表面には、表1aにおいてA1、B1、C1、D1又はE1として示されるコーティングが与えられる。代替的に、表面113はまた、シリンダ摺動路108のコーティングに関連して上述された異なるコーティングも有し得る。ここでもまた、第1トライボロジーシステム1と同様、シリンダ105におけるピストン102の動きの状態に応じて動作中に、乾燥摩擦、潤滑摩擦又は混合摩擦が生じる。
【0060】
ピストンの他の表面エリアに、さらなる随意的なコーティングも与えることができるが、他方、ピストンクラウン(
図1C参照)において、耐熱性及び耐圧性を改善する層114を与えることもできる。ピストンリング溝エリア110に、詳しくはピストンリング溝104のエリアに、他の層115を与えることもできる。ここで、表1aに挙げられた層A1、B1、C1、D1、E1、及びさらにはモリブデン、モリブデン窒素、モリブデン銅窒素、DLC又はta−Cに基づく層も使用することができる。
【0061】
さらに、例えば、ピストンリング103に(第1材料エリア11において)酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層が与えられる場合、それと協働する層(第2材料エリア12)を、Mo、MoN、MoCuN、DLC又はta−Cに基づく層としてシリンダ摺動路108に形成できることも当てはまる。
【0062】
それとは反対に、そのような層が単数又は複数のピストンリング103に与えられる場合、シリンダ摺動路108には、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層、詳しくは上に又は下に詳述される特性を有する層、が与えられる。同じことは、シリンダ摺動路111とピストンシャフト摺動路113とにより形成されるトライボロジーシステムにも当てはまる。
【0063】
以下において、
図2から16は、試験を、とりわけ、本発明に係る上述の実施形態につながる関連試験設定及びいくつかの試験結果とともに説明するべく使用される。この種類の重要な試験は、材料の摩耗及び摩擦の挙動を特徴付けることができる振動摩擦摩耗(SRV)試験(DIN51834)である。これらの試験により、その後の塗布の多くのトライボロジー状況をシミュレートすることができるので、本体のコーティング及び対抗体の有用な事前選択をすることができる。すなわち、実際の燃焼エンジンにおいて、コーティングを選択するときに、ほぼ事前にある程度最適化された解決策を使用することができるので、微調整のみが必要となる。これは、接触圧力又は温度のようなSRV試験のパラメータを、すでに行われたエンジン試験の結果を反映する態様で調整することにより達成される。
【0064】
かかるSRV試験を、本発明に係る調査を目的として使用し、試験のパラメータが、トライボロジー接触での不完全な潤滑がシミュレートされる態様で選択された。パラメータは、不完全な潤滑の場合と、「乾燥」すなわち潤滑剤なしで試験が行われる場合との双方において使用された。実験により、かかる試験が、2つの基本的な摩耗挙動に関する情報を与えることが示された。乾燥試験により、トライボロジー接触のパートナーの、上述したすべての焼き付き挙動が調査され、トライボパートナーの相対的な摩耗が明らかになる。このような高接触圧力下での潤滑試験により、不十分な潤滑がシミュレートされる。これらの試験条件により、トライボパートナーの摩耗についての情報が得られるとともに、材料組み合わせの相対的な比較を許容する摩擦係数も得られる。
【0065】
様々な層材料が実験において調査された。層の選択は、内燃エンジンのピストンリングとシリンダ摺動路とのトライボロジー接触をさらに発展させて改善するように行われた。すなわち、層は、第1グループ1では熱溶射法を使用して、第2グループ2ではPVD法を使用して、好ましくはスパッタリングにより、さらに好ましくは反応性陰極スパーク蒸発により生成された。
【0066】
試験片をコーティングするべく、2つのコーティング法が使用された。すなわちグループ1のサンプル試料には、シリンダ摺動路への塗布に好適であることが実験により示されている層、又はこの塗布に対して調べられる層が与えられた。
【0067】
グループ2の試料が、ピストンリングコーティングに適切であることが実験により示されている材料、又はかかる塗布のために特性が明らかにされるべき材料によりコーティングされた。層は、平面状試験片に堆積され、部分的に事後処理された。試験は、鋼の対抗体(100Cr6)及び酸化アルミニウムの双方により行われた。
【0068】
図2は、SRV試験を行うべく使用された装置の模式的な設定を示し、本文において使用される用語を記載する。試験は、かなり多い数の層材料に対して行われたが、それらのすべてがここに記載されるわけではない。
【0069】
内燃エンジン分野の開発に向けられた2つの重要な技術的目標は、摩耗を低減してコンポーネント供用寿命及び供用時間間隔を延ばすこと、並びに摩擦損失を低減して効率を改善することにある。
【0070】
重要な側面はまた、内燃エンジンにおいて使用される材料の温度安定性に関する。ここでの傾向は、燃焼プロセスが高温で生じることによりエンジン効率も増加し得るように温度安定性を改善することにある。こうした高温においてコンパクト材料表面を保護して周囲温度及び高温双方で良好なトライボロジー特性を有する温度安定層材料をサーチすることは、これらの調査の他の重要な理由である。
【0071】
図2は、乾燥条件(左側)及び潤滑条件(右側)のSRV試験の原理を記載する。トライボロジーシステム又はトライボシステムは、2つのトライボパートナー、すなわち本体(K)及び対抗体(GK)からなる。実験では、Kが層によりコーティングされる一方、鋼(100Cr6)及び酸化アルミニウムから作られた球状の研磨されたGKが使用された。Kは、ベースに強固にクランプされて加熱される。GKが、Kのコーティングされた表面上の2つの矢印で示される力により、K上を水平振動による振動態様で動く間、負荷Lが同時に適用される。潤滑試験(右側)においては、この振動に潤滑剤Sが追加される。
【0073】
表1a及び表bは、試験を受けた層材料を示す。これらの材料のいくつかは、すでに技術的に導入され、又はすでにエンジン試験(A1、B1、C1)に適格とされている。加えて、トライボロジー特性は未知であるが改善された温度安定性(D1、E1、C2、D2)が見込まれるさらなる材料が試験された。これらの材料は主に、酸化物由来であるが、そのいくつかは本発明の内容に属する。表1a及びbは、試験された材料のいくつかのみを記載し、これらの層が有していた表面粗さも示す。これはもちろん、異なる事後処理に依存する。
【0074】
これらの調査では、これらの事後処理のためにホーニング、グラインディング又はつや消しのような一般的な方法のみが使用されたので、本発明が技術的に実装されることが、コーティングのみならず事後処理に対しても保証される。表は、層材料をコーティング法に応じてグループ分けする。すなわち、シリンダランニング表面への塗布が意図される層が表1aに与えられ、ピストンリングのコーティングが意図されるものが表1bに与えられる。この分け方がされたのは、異なるコーティング法が、リング及びライナのコーティングに対して異なる程度とすることが適切だからであるが、制限と見なしてはならない。
【0075】
さらに、異なるコーティング法において生成された同じ化学組成の層材料がまた、トライボロジーシステムにおいて同じ特性を有することは必須ではない。これは、例えば、異なる層厚さ、又は層の多孔度又は残留応力に関する機械的特性に起因し得る。シリンダランニング表面の層に対しては熱溶射法が使用され、厚さが150μmから800μmのコーティングが生成された。ピストンリング材料のコーティングに対してはPVD法が使用された。PVD法は、この場合に選択された層に対する反応性陰極スパーク蒸発である。ただし、これを目的として、熱蒸発又はスパッタリングのような他のコーティング法も使用することができる。
【0076】
平坦なサンプルがコーティングされた。熱溶射により生成されたサンプルすべてが、熱溶射されたシリンダ摺動路の事後処理を目的として生成時に使用される標準的なホーニングに対応する表面粗さを有するように事後処理を受けた。
【0077】
スパーク蒸発を使用して生成された層は、事後処理なしか、又は標準的なつや消し法を使用して事後処理された。層材料の製造プロセスへの割り当て、選択、及びさらなる詳細が、事後処理のタイプ、及び得られた表面粗さとともに、表1a及び表1bに与えられる。
【0078】
SRV試験において、研磨された鋼(100Cr6)及び酸化アルミニウムの球が対抗体として使用された。2つの異なる油により乾燥及び潤滑双方の試験が行われた。試験は、高温での層の安定性をも調査するべく、周囲温度において、及び使用される潤滑剤の安定性限度に近い160℃までの温度に対して行われた。
【0079】
試験により以下の結果が得られた。
1.時間の関数としての摩擦係数の曲線
2.様々な条件下でのコーティングの摩耗
3.様々な条件下での対抗体の摩耗
【0080】
結果は表形式で与えられる。摩擦係数は、各試験の終わりで得られた値が表に組み入れられる。コーティング及び対抗体の摩耗の評価は、光学顕微鏡摩耗画像の光学的評価、及び光学走査表面プロファイルの定量評価に基づく。表形式で与えられる値の良好な理解を目的として、すべてのタイプの結果と、SRV試験において調べられた条件とに対し、一例が与えられる。
【0081】
図3は、研磨された鋼球を対抗体とした、事後処理された低合金鋼の層(A1)、及び研磨されたAl−Cr−O層(D2)の摩擦係数の時間経過を示す。SRV試験は、乾燥、すなわち潤滑なしで行われた。測定時間の終わりの摩擦係数が、A1に対しては0.86、D2に対しては0.76であることがわかる。曲線D2のノイズは、酸化物層の方が低合金鉄よりも高い。
【0082】
これらの試験条件のもと、トライボロジーシステムは、当業者にとってトライボロジー接触における「焼き付き」として示される摩擦係数の値を有する。かかる値は、ここに説明される塗布に対して回避する必要がある。
【0083】
図4は層の摩耗を示す。これを目的として、層表面の光学顕微鏡画像が、試験後に取得された(上欄の画像)。層表面における明白な変化が、振動鋼球が動く約1mmの長さのエリアに見られる。EDX測定を使用して、A1及びD2双方について対抗体(100Cr6)の材料を検出することができる。すなわち、材料は、対抗体から層へ移動し(焼き付き)、対抗体の摩耗を示す。
【0084】
層摩耗を詳細に特徴付けるべく、振動する運動方向に直交するように表面が機械的に走査された。これは、図面において白線により示される。製造者Nanofocus社のタイプ「μ−Surf」(登録商標)の共焦点白色光顕微鏡が、本測定のデバイスとして使用された。走査において得られたA1の表面プロファイルは、A1の部分的材料塗布及び部分的層摩耗による表面粗さの増加を示す。D2の表面プロファイルにおいて、少ない摩耗が観察される。振動する動きの両エッジに塗布がされ、中間には、スクラッチを除いてアブレーションがほとんど存在しない。摩耗尺度(1が摩耗なし、5が摩耗強)に基づくと、この摩耗はA1に対して約2、D2に対して1〜2と評価される。
【0085】
摩擦係数のサイズは、トライボロジー分野の当業者に説明することができる。0.8近辺の値は、鋼上の鋼の乾燥摩擦にとって典型的であり、この場合、材料を層に移動することによって実現される。さらなる摩耗値が表2に与えられる。B1及びC2の値において、マイナス符号が摩耗値の後ろにつけられた。これは、対抗体の非常に強い材料の移動が、これら2つの層において生じたこと、すなわち、摩耗は存在しないが、層に対抗体材料が蓄積されたこと、を示すと考えられる。表の値は、C1の例外を除き、層が鋼に対して高い摩耗耐性であることを示す。しかしながら、トライボロジーシステムにおいて、鋼耐摩耗層が対抗体としての鋼と組み合わせられる場合、説明された層に対し乾燥条件を避ける必要があることが示される。これらの条件のもと、改善された表面粗さであっても、明確には対抗体材料を焼き付きから防ぐことができない。
【0086】
コーティングされた本体の摩耗に加え、トライボロジーシステムにおいて、トライボシステムの摩耗挙動を最適化するにあたっては、もちろん対抗体の摩耗も重要となる。したがって、
図5において、対抗体の、この場合研磨された100Cr6鋼球の摩耗が、層と接触する球エリアの光学顕微鏡画像を取得することによって調べられる。いわゆる摩耗キャップの直径が摩耗の尺度であり、それによって依然として摩耗体積を計算することができる。表の評価を目的として、ここで再び1から5の尺度が使用される。再びであるが、1は摩耗なしを意味し、5は非常に高い摩耗を意味する。
図5における写真に関し、A1は4に、D2は3に評価される。
【0087】
さらに目立つのは、D2の摩擦係数における経時的な低ノイズである。摩耗エリアにおける光学顕微鏡画像及び表面プロファイルを使用して層摩耗を調べることにより、2つの層に対して異なる結果が得られる(
図7)。明白な層摩耗が、A1に関連して観察され、4と見積もられる。十分に驚くべきことだが、D2に層摩耗を見出すことができない。接触エリアの一種類の滑らかさのみが存在する。これに基づくと、層摩耗は1と評価される。
【0088】
酸化アルミニウム対抗体の摩耗が
図8に示される。対抗体の摩耗は、双方の層システムにとって、100Cr6対抗体の場合よりも明らかに小さい。A1(左上)について、対抗体は、多くのスクラッチを有する接触表面を示す。対抗体の丸みの、引き続いての測定(左下)により、酸化アルミニウム対抗体の表面が粗くなっていることが確認される。そうでなければ、球半径に有意な変化が観察されないこととなるのであるが。この材料対は、そのような粗い表面につながる破壊を生じさせると仮定することができる。これらが突発することの背景は、未だにはっきりとは明らかにされていない。D2に対し、観察される対抗体の摩耗は存在しない(右欄)。これは、高い接触圧力のもとで動作する潤滑なしのトライボロジーシステムにとって驚くべき結果である。A1及びD2に対する修正された表面品質の写真における円形エリアは、選択された条件で試験が進行して、各材料対にとって典型的な本体及び対抗体の接触エリアの領域の変形のみが特徴となる場合の、変形エリアを示す。したがって、この変形は必ずしも、100Cr6球の場合には存在していたような摩耗キャップとはならない。再びであるが、この証拠は、当初半径を与えて球の平坦化を示すnanofocus社による表面走査によって与えられる。乾燥SRV試験に対する顕著な結果が、酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層の層対が利用可能な本体及び対抗体により与えられる。
【0089】
潤滑剤によるSRV試験の結果が以下に提示される。異なる摩擦係数につながる様々な潤滑剤による試験が行われた。しかしながら、摩耗の点では、これらの差異は小さいか又は区別不能である。通常、接触エリアの異なる色付けが可視とされる。調べることにより、これが主に、油における異なる添加剤に起因することが示された。添加剤の処置は本発明の主題ではないので、これらの差異を詳細に扱うことはしない。
【0090】
図9は、A1(1)及びD2(2)に対する経時的な摩擦係数を示す。これは、潤滑剤としてのディーゼル油(ここでは油1と称する)、及び対抗体としての鋼球により測定された。A1が、ならし運転において0.20の摩擦係数を有する一方、D2の当該摩擦係数は0.18である。乾燥試験と比べての摩擦係数の相対的な差異は小さくなった。すなわち、潤滑条件下での材料の影響は目立たなくなった。コーティングの表面品質もまた大きく影響する。すなわち、熱溶射プロセスの結果A1に現れた表面の孔又は多孔構造が、潤滑剤を表面に保持するのに適切となり、ひいてはトライボロジーシステムを特に、不十分な潤滑の場合に安全にする。概要において、これはまた、C2とD2とを比較するとわかる。研磨されていない層C2が研磨されたものよりも低い摩擦係数を有するからである。表3は、潤滑SRV試験に対するすべての摩擦係数を、対抗体としての鋼と一緒に示す。
【0091】
これらの試験条件下で得られた層摩耗が
図10に示される。A1は、2の値という低い層摩耗を示し、それ以外は接触エリアにおいて滑らかにする効果を示す。D2に対しては層摩耗が測定されない(値1)。ここでもまた、測定された表面プロファイルにおいて明確に実証されてはいないが、滑らかにすることが生じ得る。層摩耗に対する他の値が再び、表3に与えられる。層A1、B1及びC1に対して低摩耗だけが測定される一方、酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づくすべての層は摩耗を示さない。
【0092】
潤滑剤油1による鋼対抗体の摩耗が
図11に示される。双方の構成に対して表面変色が見られる。A1の場合に100Cr6球の表面プロファイルは、わずかな摩耗(値1〜2)を示す。すなわち、表面変色は接触表面の弾性変形単独により引き起こされ、その変色は、油の中の添加剤又はその分解生成物から主に生じる薄膜により引き起こされる。D2に対し、接触表面の変色のサイズはA1のものと同様であるが、100Cr6球の表面プロファイルは値2を有する低摩耗を示す。鋼の本体は、層E1及びC2により、さらに顕著な摩耗を受ける。酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づくすべての層は、20GPaを超える非常に高い微小硬さを有し(ISO14577規格により測定)、これらの層が対抗体としての鋼とともに使用される場合、それに従って表面品質を選択することが重要となる。
【0093】
酸化アルミニウム対抗体によるSRV試験の結果には、大いに興味が引かれる。D2に対する2つのトライボパートナーの乾燥条件下では、すでに決定されている摩耗が存在し得ないからである。再びであるが
図10は、摩擦係数の時間経過を示す。試験の終了において、A1に対しては0.19の値の結果であり、D2に対しては0.18である。ここでもまた、摩擦係数へのコーティング材料の相対的な影響は、乾燥試験よりも低い。明らかなことに、材料表面、油及び添加剤の相互作用から生じてそれ自体が変色を表す表面の形成は、重要な役割を果たす。B1は最も高い摩擦係数を有する。それ以外では、他のすべての材料に対して0.18の摩擦係数が測定された。これらの試験において、驚くべきことに、摩擦係数は、すでに鋼に対して導入されているA1層及びC1層の場合よりも低い。
【0094】
図13は層摩耗を示す。これは、A1に対して非常に低く(値2)、むしろ滑らかにする効果のみを示す。これは、特に、層が多くの孔を包含するバックグラウンドに対し、良好な挙動である。これはひいては、こうした表面の幾何学形状が、良好なトライボロジー特性に寄与すること、すなわち潤滑剤が層の凹部に保持されて摩擦損失を低減すること、を示す。D2に対しては層摩耗が測定できない(値1)。層は安定している。ただし、ここでも所定の滑らかにする効果が疑われる。高摩耗を示すのはB1(値5)及びさらにはC1(値4)である。詳しくは、層B1は、本体及び対抗体を協調させることがどれほど重要であるかを示す。B1は鋼に対しては最も低い摩擦係数を示し、酸化アルミニウムに対しては最も高い摩擦係数を示すからである。
【0095】
図14は、酸化アルミニウム対抗体の摩耗を特徴付ける。A1又はD2のいずれも、球の摩耗を示さない(双方とも値1)。表面プロファイルにおいて測定された表面エリアの粗さは、材料の所与の多孔度に対して特徴的である。スクラッチは、試験中に層表面と対抗体との間に生じる材料のわずかな噴出により引き起こされ、実際のエンジン試験とは対照的に、我々の試験設定中に油とともに移送されて離れるということがない。
【0096】
表2及び3は、異なる試験条件に対する2つの対抗体材料に関して試験された層材料の結果をまとめる。定量的な見積もりが、前述の文で例示された測定から得られた。これらの調査に基づき、これまでのSRV試験の結果が、以下のようにまとめられる。
【0097】
SRV:対抗体としての100Cr6による乾燥
・すべての試験に対し、100Cr6鋼対抗体のかなりの摩耗が存在する。
・試験は、0.8付近の範囲の摩擦係数において安定する。これは
、対抗体の材料が各層に対して潤滑であり(移動され)、ひいては鋼・鋼接触をもたらす
という事実に起因する。したがって、ここで調べられたすべての層に対し、対抗体の明らかかつ高い摩耗が観察される。
【0098】
SRV:対抗体としての酸化アルミニウムによる乾燥
・層A1、B1及びC1は層摩耗を示すが、この摩耗は、ここで選択される層に対し、表に含まれなかった他の一般的な材料よりも低い。
・調査された酸化物層は、2つのグループに分けられる。高い表面粗さ(E1)のグループは、0.8近辺の摩擦係数を有し、摩擦係数の時間経過において強いノイズを示す。第2グループ(D1、C2、D2)は、0.6近辺の摩擦係数を有し、ひいては他の層からはっきりと目立つ。このグループの層は、0.4μm未満のRaという表面粗さを有する。
・滑らかにする効果とは別に、Cr及びAl−Crに基づくすべての酸化物層(D1、C2、D2)は層摩耗を示さない。
【0099】
SRV:対抗体としての100Cr6による潤滑
・調べられたすべての層の摩擦係数は、0.2未満の値を示し、B1及びD1が最低であった。
・酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づかない層(A1、B1、C1)は、値2という低い摩耗を示す。
・酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層(D1、C2、D2)において、層摩耗を検出することができない。
・E1及びC2、すなわち表面粗さが大きな硬い酸化物層を例外として、すべての他の層材料が、1〜2又は2という小さな対抗体摩耗値を有する。潤滑条件下の及び対抗体としての100Cr6による層の表面粗さは明らかに、重要な役割を果たし、かかる材料対が実現される場合、ならし挙動を最適化する必要があり、層粗さRaを0.2μm未満にする必要がある。
【0100】
SRV:対抗体としての酸化アルミニウムによる潤滑
・摩擦係数は、B1(0.21)を除いてすべてが0.18から0.20の範囲にある。
・層摩耗はB1の場合に非常に高く、C1及びE1の場合に中くらいであり、A1では低い。酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層D1、C2及びD2の場合、層摩耗を観察することができる。
・試験により、ほとんどの層に対し対抗体のわずかな摩耗が生成されるが、A1、D1及びD2に対しては摩耗が存在しない。
【0101】
最終的に、試験はまた、高温でも行われる。これを目的として、異なる、ある程度は温度安定性の油2が使用された。この油の使用によっては、室温でのこれまでのSRV試験の知見とは原則的に何も変わらなかった。油2は、わずかに異なる摩擦係数を与えたが、コーティング及び対抗体の摩耗挙動に対し、他の定量的な結果は何も与えなかった。
【0102】
これは、このことがすべての他の油にも当てはまるという意味ではない。他の添加剤単独での使用により、摩擦係数の劇的な変化をもたらすことができる。しかしながら、これは、これらの調査の内容ではないので、詳細に説明することはしない。高温でのSRV試験のために使用される油2は、160℃の温度までの試験に対して安定であった。
【0103】
表4は、室温(RT)、100℃及び160℃で試験された試験層を示す。表は試験層のわずかな選択のみを示し、主に、本発明の主題となる層材料に集中する。
【0104】
再びであるが、すでに上述したように、摩擦係数の時間経過、層摩耗、及び対抗体の摩耗が、これらの層及び対抗体に対して試験された。以下において、この手順が、一例を使用して再び実証されるが、今回は光学顕微鏡画像はなく、表面プロファイルのみが示される。摩擦係数の決定、並びに層摩耗及び対抗体摩耗の定量評価が、すでに上述された評価と同様に行われた。
【0105】
図15a〜15cは、対抗体としての酸化アルミニウムを有するコーティングシステムA1、D1及びD2に対する、潤滑(油2)SRV試験のための摩擦係数の時間経過を示す。室温における異なるコーティング材料の比較により、A1及びD1並びにD2間の明確な差異が明らかになる。これらは高温で減少するが、消滅するわけではない。すべての温度に対し、層D1及びD2は最も低い摩擦係数を有する。
【0106】
図16は、層A1及びD2に対する層摩耗と対抗体摩耗とを比較する。A1が値2という低い層摩耗を有する一方、D2は層摩耗を示さない。加えて、双方の層に対して酸化アルミニウム対抗体の摩耗が存在しない。
【0107】
まとめると、高温でのSRV試験に対して以下のことがいえる。
【0108】
SRV:対抗体としての100Cr6による高温での潤滑
・すべての調査済みの層に対する摩擦係数は、0.2近辺の値を示す。室温において、層D1及びD2はそれぞれ、約0.18及び0.16の値を有する。これは、A1のもの(0.20)よりも有意に低い。高温において、これらの差異は次第に消滅するが、酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層は依然として最も低い摩擦係数を有する。
・A1が、すべての温度範囲に対し低い層摩耗を示す一方、酸化物層D1及びD2は層摩耗を示さない。他方、多くの非酸化物層が摩耗を受ける。B1及びC2を例外として、対抗体にはわずかな摩耗のみが存在する。ここで、層の表面粗さ、及び恐らくはトライボシステムのならし挙動もまた、重要な役割を果たす。所定の時間周期の後、対抗体摩耗は、接触表面のサイズにわたって安定する。
【0109】
SRV:対抗体としての酸化アルミニウムによる高温での潤滑
・室温における摩擦係数はわずかに低く、高温に対してはわずかな増加を示す。しかしながら、0.2近辺となるすべての場合において、酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層D1及びD2は、A1の場合よりも低い。
・低い層摩耗は、A1の場合、すべての温度において生じ、大きな摩耗はB1の場合に生じる。酸化クロム及び酸化アルミニウムクロムに基づく層は摩耗を有しない。
・すべての層に対し、測定できる対抗体の摩耗が存在しない。
【0110】
一緒になってトライボロジー接触を形成する本体105、107及び対抗体103、111を有するトライボロジーシステム1又は2が記載されてきた。本体105、107の表面108が、少なくとも接触領域において第1コーティング12によりコーティングされ、対抗体103、111の表面112が、少なくとも接触領域において第2コーティング11によりコーティングされ、特徴とされるのは、第1及び第2コーティング12、11の少なくとも一方が、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層であることである。
【0111】
トライボロジーシステム1又は2において、他方の層11、12は、Mo、MoN、MoCuN、DLC又はta−Cに基づく層を含み得る。
【0112】
トライボロジーシステム1又は2において、第1及び第2コーティング12、11双方が、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層を含み得る。
【0113】
コーティング12、11の少なくとも一方、好ましくはコーティング12、11の双方が(A
l−xCr−y)2O3の化学組成を有し得る。ここで、0.1≦x≦1かつy≦0である。
【0114】
これらのコーティング12、11の少なくとも一つ、好ましくはコーティング12、11の双方が、18GPa以上の硬さを有し得る。
【0115】
トライボロジーシステムは、ガソリン、ディーゼル又はガスの燃焼のために設計されるのが好ましい内燃エンジン100の一部となり得る。
【0116】
例えば、本体をピストンリング103とし、対抗体を、例えばシリンダランニング表面108とすることができる。好ましくは、内燃エンジン100の他の表面は、酸化クロム又は酸化アルミニウムクロムに基づく層によりコーティングされ、特にシリンダリング溝104、ピストンスカート(ピストンコネクタ111)、ピストンコネクタ摺動路113、及び/又はピストンクラウン109が好ましい。