【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、腰掛け部と背もたれ部とを有する車両用座席であって、背もたれ部は、第1の背もたれ部と、座席高さ方向における第1の背もたれ部の上方に配置された第2の背もたれ部とを備え、第2の背もたれ部は、少なくとも座席幅方向を向いた変位運動によって第1の背もたれ部に対して変位可能である車両用座席によって達成される。本発明によれば、第2の背もたれ部の第1の変位位置において、第2の背もたれ部の第1の変位位置を固定し、第2の背もたれ部に加えられて変位運動の方向に作用する力によって解除することができる機械的相互作用が、第1の背もたれ部と第2の背もたれ部との間に形成される。
【0008】
結果として、例えば非変位位置としての初期位置から出発する第2の背もたれ部の変位運動を開始させる力を、例えば第1の変位位置から出発する第2の背もたれ部の戻りの変位運動を開始させる力と同じ方向に、第2の背もたれ部へと加えることができる。例えば、運転者は、第2の背もたれ部を、変位運動を開始させるために最初に自身の右肩(事例1)(または、左肩(事例2))を使用して動かし、したがって戻りの変位運動を開始させるために再び自身の右肩(事例1)(または、左肩(事例2))を使用して押さなければならず、両方の操作において、左肩(事例1)(または、右肩(事例2))から出発する力の方向ベクトルは、少なくとも変位運動に従い、かつ/または変位運動に実質的に等しい。この文脈における「実質的に等しい」は、初期位置において第2の背もたれ部が運転者および/または座席幅方向に関して異なる整列を有し得ることを考慮することを意味する。
【0009】
変位運動が少なくとも座席幅方向を向いているという事実は、この変位運動の方向が、座席幅方向を向いた成分だけを有し、あるいは座席幅方向を向いた成分を少なくとも有することを意味するが、座席長さ方向および/または座席高さを向いたさらなる成分も有してよい。変位運動の方向は、好ましくは、同じ座席幅方向の成分を常に有し、すなわち座席幅の左方向および右方向ではなく、左側への座席幅方向または右側への座席幅方向のいずれかに少なくとも比例的に向けられる。
【0010】
車両用座席に座る車両の運転者が、横方向または後方に整列した着座作業姿勢の際に、少なくとも肩および/または胸部領域の高さにおいて、背もたれの中心から横方向にずれて支持されるようなやり方で、第2の背もたれ部を第1の背もたれ部に対して配置することができると好都合である。
【0011】
したがって、第2の背もたれ部は、座席高さ方向において第1の背もたれ部の上方に配置されるようなやり方で構成される。また、第2の背もたれ部は、好ましくは、少なくとも初期位置において、座席長さ方向および/または座席幅方向に第1の背もたれ部の境界面よりも突出するようなやり方で配置された部分が存在しないようなやり方で構成される。
【0012】
第1の背もたれ部を、腰掛け部へと堅固に、あるいは好ましくは座席幅方向に配置された軸を中心にして枢動可能に、接続することができる。腰掛け部、したがって車両用座席全体を、例えば車両の車体に堅固に接続された座席下部構造へと堅固に、あるいは好ましくは座席高さ方向に配置された軸を中心にして枢動可能に、接続することができる。
【0013】
好ましくは、第2の背もたれ部の2つの側方、前方、および/または後方境界面はそれぞれ、第1の背もたれ部の対応する境界面の安定した幾何学的連続を呈し、この幾何学的連続は、随意により第1および第2の背もたれ部の間の分離ギャップによって中断される。したがって、第2の背もたれ部の側方、前方、および/または後方境界面を、いずれの場合も、好ましくは第1の背もたれ部の境界面からの対応する相手方と同じ空間表面方程式によって記述することができる。
【0014】
したがって、好ましくは、第2の背もたれ部を、第1の背もたれ部に対して左方または右方のいずれか、あるいは両方向に移動させることができる。例えば、右利きの運転者は、左肩を支えることができるように、右側の座席幅方向を向いた方向の変位運動を好むかもしれないと考えられる。しかしながら、左利きの運転者にも適切な座席を提供するために、鏡像反転の車両用座席を開発することは当業者にとって容易である。
【0015】
好ましくは、第2の背もたれ部は、第1の背もたれ部に対して第2の背もたれ部の全幅の半分まで実質的に変位可能である。変位運動の方向が、変位運動の全期間にわたって一定でないことが有利であり、すなわち変位運動の方向は、好ましくは直線に従うのではなく、例えば二次元または三次元曲線、あるいは直線または曲線であってよい異なる部分を有する曲線に従う。
【0016】
好ましくは、第1の変位位置は、上述の機械的相互作用によって固定される唯一の変位位置である。好ましくは、第2の背もたれ部が第1の背もたれ部に対して最大限に変位した少なくとも1つの極限位置が存在する。第1の変位位置は、好ましくは、この極限位置ではない。
【0017】
第1の変位位置における第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の相対位置を固定するために、好ましくは第1の背もたれ部に配置された第1のロック部および第2の背もたれ部に配置された第2のロック部を備えるロック装置が好ましくは設けられ、第1のロック部は、好ましくは、第2のロック部のフック部材の第1の端部を案内することができる案内曲線部と、フック部材をロックすることができるロック位置とを有する湾曲スロットを備える。湾曲スロットは、好ましくは、例えば鋳造部品または切削部品として構成されるスロット部材の一部である。
【0018】
したがって、フック部材は、変位運動および/または戻りの変位運動の際に、湾曲スロットに関して移動し、例えば湾曲スロットの位置が変化しない一方で、湾曲スロットに向かい、あるいは湾曲スロットから遠ざかるように移動するように意図される。第2の背もたれ部の初期位置において、フック部材は、好ましくは湾曲スロットから離れており、すなわち湾曲スロットに係合していない。
【0019】
したがって、変位運動の過程において、フック部材は湾曲スロットに係合する。好ましくは、フック部材は、第2の背もたれ部が第1の背もたれ部に関して充分に大きく変位するとすぐに、湾曲スロットとの係合が自動的に生じるように配置される。したがって、好都合には、フック部材の第1の端部が湾曲スロットの入口に直接隣接して位置する第2の背もたれ部の第2の変位位置が存在する。湾曲スロットは、好ましくは、ただ1つの入口を有し、他の場所では閉じた湾曲スロットとして形成される。湾曲スロットを、その特殊な形状ゆえに、「ハート型カーブ」と呼ぶこともできる。
【0020】
フック部材の第1の端部を湾曲スロット内で移動させることができるよう、好都合な実施形態によれば、第2のロック部のフック部材が、第2の端部によって、第2の背もたれ部が第1の変位位置にあるときに湾曲スロットに対して垂直に位置する軸を中心にして枢動できるように取り付けられることが意図される。好ましくは、フック部材は、この1つの回転自由度のみを有し、かつ/または並進自由度を有さない。
【0021】
好ましくは、ばね部材がさらに配置され、フック部材の第2の端部およびフック部材の中間部分に接続される。このばね部材は、例えば、弾性プラスチック部品として構成され、フック部材が湾曲スロットにまだ係合していないときにフック部材を確実に出発位置に位置させるように働く。好ましくは、その弾性ゆえに、このばね部材は、フック部材が湾曲スロットの形状によって必要とされる程度まで軸を中心にして回転することを可能にする一方で、フック部材の第1の端部がもはや湾曲スロットに係合していないときに、フック部材をフック部材の出発位置へと戻す。これは、例えば、第2の背もたれ部が戻りの変位運動の最中に再び第2の変位位置に位置した場合である。
【0022】
本発明の意味において、「第1の変位位置」、「第2の変位位置」、などの用語が、第2の背もたれ部が変位運動または戻りの変位運動において初期位置から出発してこれらの変位位置を占める時系列について、いかなる言明も許さないことを指摘しておかなければならない。初期位置から出発する変位運動において、好ましくは、最初に第2の変位位置に到達し、次いで極限位置のうちの第1の極限位置に到達し、次いで固定位置である第1の変位位置に到達する。上述のように戻りの変位運動が開始され、第1の変位位置の固定が解除された場合、第2の背もたれ部は、第1の変位位置から出発し、まず極限位置のうちの第2の極限位置に到達し、次いで第1の変位位置に再び到達した後に、初期位置へと戻る。
【0023】
好ましくは、フック部材と湾曲スロットとの間の相互作用が、湾曲スロット内のフック部材の運動が、常に一方向、例えば時計回りにのみ可能であり、反時計回りには不可能であるように保証する。湾曲スロットは、好ましくは、フック部材が第1の変位位置から第1の極限位置へと戻ることを防止するストッパ部材を備える。
【0024】
さらなる利点は、フック部材が、湾曲スロットを通る経路に沿って移動するときにフック部材の第1の端部が後方境界面に接触するようなやり方で配置されることである。さらに、湾曲スロットの後方境界面が、経路の方向に沿って連続的に配置された段部を有し、各々の段部が、経路の方向においてこの段部に先行する段部と比べて下がるように構成されると好都合である。これも、フック部材の第1の端部が経路とは反対の方向(例えば、反時計回り)に戻されることを防止する。
【0025】
第2の背もたれ部の初期位置への自動的な復帰を可能にするために、エネルギ貯蔵部材を第1の背もたれ部および第2の背もたれ部に接続して備えるリセット装置を設け、このエネルギ貯蔵部材を、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の変位運動からもたらされる第1の量のエネルギを蓄え、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の戻りの変位運動の実行のために供給するようなやり方で構成および形成すると、好都合であることが明らかになっている。
【0026】
したがって、変位運動によって消費されるエネルギを、好ましくはエネルギ貯蔵部材によって少なくとも一時的に蓄えることができる。エネルギ量の推定を、変位運動によって実行される第2の背もたれ部の全体経路と、これに必要な力との積を使用して行うことができる。
【0027】
好ましくは、エネルギ貯蔵部材は、ばね部材、例えば帯ばね部材または引張ばね部材の形態にて構成される。このばね部材は、例えば、変位運動の際に引き伸ばされ、機械的固定が解除された後に再び自動的に収縮し、エネルギを再び放出する。
【0028】
さらなる利点は、減衰装置が第1の背もたれ部と第2の背もたれ部との間に配置され、この減衰装置が、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の戻りの変位運動の際にもたらされる余分な第2の量のエネルギを消散させるように構成および形成される場合である。この余分な量のエネルギは、例えばエネルギ貯蔵部材の予めの引張りから生じる。
【0029】
例えば、減衰装置は、好ましくは第2の背もたれ部の直線運動を流体内に取り付けられたブレーキディスクの回転運動に変換することによって、摩擦を発生させてエネルギを消散させるフリーホイール(変位運動の方向)を備えた粘性ブレーキ(シリコーンブレーキ)として構成される。あるいは、線形ダンパとして構成されてもよい。減衰装置は、戻りの変位運動を滑らかに実行できるため、ユーザの快適性を向上させる。
【0030】
上述の運動プロセスを実現すると同時に、単純化された機構を提供するために、エネルギ貯蔵部材の固定部材、第1のロック部、および/または減衰装置を、第1の背もたれ部に接続された共通の取り付け部材上でお互いに対して取り付け、かつ/または堅固に配置すると、好都合であることが明らかになっている。取り付け部材は、好ましくは、例えばフランジ部材を介して第1の背もたれ部に堅固に接続される。
【0031】
さらに、第2の背もたれ部は、好ましくは、ガイド装置によって第1の背もたれ部に固定され、第2の背もたれ部の変位運動をガイド装置によって実行することができる。
【0032】
さらに、ガイド装置は、好ましくは、取り付け部材と、互いに座席高さ方向に離して配置された2つの棒状ガイド部材とを備え、取り付け部材は、ガイド部材の少なくとも一方に対してスライドし、かつ/または転がるように取り付けられる。ガイド装置のガイド部材は、好ましくは、第2の背もたれ部に堅固に接続され、かつ/または第2の背もたれ部の全幅にわたって(座席幅方向に)配置される。
【0033】
好ましくは、変位運動の方向は、ガイド部材の推移に従って構成される。ガイド部材は、好ましくは、その全幅に関して、少なくとも第2の背もたれ部の初期位置において、例えば上方を向くなど、座席高さ方向を向き、かつ/または例えば後方を向くなど、座席長さ方向を向くように構成された湾曲を有する。
【0034】
したがって、滑り軸受によって、取り付け部材をガイド部材に対して移動させることができ、したがって、第2の背もたれ部の変位運動を実行することができる。
【0035】
本発明の意味において、用語「軸」および「平面」は、とくには仮想的な意味でも使用される。ここで言及される軸および平面は、必ずしも機械的な部材によって形成される必要はなく、車両用座席の形状をよりよく理解するための仮想の参照部材であってもよい。
【0036】
本発明のさらなる利点、目標、および特徴が、本発明による車両用座席の種々の実施形態を例として図示および説明する添付の図面および以下の説明を参照して解説される。