特許第6861266号(P6861266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861266
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】調整機能を有する車両用座席
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/22 20060101AFI20210412BHJP
   B60N 2/38 20060101ALI20210412BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20210412BHJP
   A47C 7/46 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B60N2/22
   B60N2/38
   B60N2/64
   A47C7/46
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-222084(P2019-222084)
(22)【出願日】2019年12月9日
(65)【公開番号】特開2020-108998(P2020-108998A)
(43)【公開日】2020年7月16日
【審査請求日】2020年3月23日
(31)【優先権主張番号】10 2018 132 594.0
(32)【優先日】2018年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512112699
【氏名又は名称】グラマー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、ルイディシュ
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−175144(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0015045(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0015046(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102006052207(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00−90
A47C 7/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰掛け部(2)および背もたれ部(3)を有しており、前記背もたれ部(3)は、第1の背もたれ部(4)と、座席高さ方向(1z)における前記第1の背もたれ部(4)の上方に配置された第2の背もたれ部(5)とを備え、前記第2の背もたれ部(5)は、少なくとも座席幅方向(1y)を向いた変位運動によって前記第1の背もたれ部(4)に対して変位可能である車両用座席(1)であって、
前記第2の背もたれ部(5)の第1の変位位置(P1)において、前記第2の背もたれ部(5)の前記第1の変位位置(P1)を固定し、かつ前記第2の背もたれ部(5)に加えられて前記変位運動の方向に作用する力(F)によって解除することができる機械的相互作用が、前記第1の背もたれ部(4)と前記第2の背もたれ部(5)との間に形成される、ことを特徴とする車両用座席(1)。
【請求項2】
前記第1の背もたれ部(4)に配置された第1のロック部(7)と、前記第2の背もたれ部(5)に配置された第2のロック部(8)とを備えるロック装置(6)が設けられ、前記第1のロック部(7)は、前記第2のロック部(8)のフック部材(13)の第1の端部(13a)を案内することができる案内曲線部(12a、12b)と、前記フック部材(13)をロックすることができるロック位置(12c)とを有する湾曲スロット(12)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用座席(1)。
【請求項3】
前記第2のロック部(8)の前記フック部材(13)は、第2の端部(13b)によって、前記第2の背もたれ部(5)の前記第1の変位位置(P2)において好ましくは前記湾曲スロット(12)に垂直に位置する軸(19)を中心にして、枢動可能に取り付けられている、ことを特徴とする請求項2に記載の車両用座席(1)。
【請求項4】
前記第1の背もたれ部(4)および前記第2の背もたれ部(5)に接続されたエネルギ貯蔵部材(10)を備えるリセット装置(9)が設けられ、前記エネルギ貯蔵部材は、前記第1の背もたれ部(4)に対する前記第2の背もたれ部(5)の変位運動からもたらされる第1の量のエネルギを蓄え、前記第1の背もたれ部(4)に対する前記第2の背もたれ部(5)の戻りの変位運動を実行するために提供するようなやり方で構成および形成されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両用座席(1)。
【請求項5】
前記エネルギ貯蔵部材(10)は、ばね部材の形態であり、例えば帯ばね部材または引張ばね部材の形態である、ことを特徴とする請求項4に記載の車両用座席(1)。
【請求項6】
減衰装置(11)が、前記第1の背もたれ部(4)と前記第2の背もたれ部(5)との間に配置され、前記減衰装置は、前記第1の背もたれ部(4)に対する前記第2の背もたれ部(5)の戻りの変位運動の際にもたらされる余分な第2の量のエネルギを消散させるように構成および形成されている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用座席(1)。
【請求項7】
前記エネルギ貯蔵部材(10)の固定部材(23)、前記第1のロック部(7)、および/または前記減衰装置(11)が、前記第1の背もたれ部(4)に接続された共通の取り付け部材(18)上でお互いに対して取り付けられ、かつ/または堅固に配置されている、ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の車両用座席(1)。
【請求項8】
前記第2の背もたれ部(5)は、ガイド装置(15)によって前記第1の背もたれ部(4)に固定され、前記第2の背もたれ部(5)の変位運動を前記ガイド装置(15)によって実行することができる、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両用座席(1)。
【請求項9】
前記ガイド装置(15)は、前記取り付け部材(18)と、互いに前記座席高さ方向(1z)に離して配置された2つの棒状ガイド部材(16、17)とを備え、前記取り付け部材(18)は、前記ガイド部材(16、17)の少なくとも一方に対してスライドし、かつ/または転がるように取り付けられている、ことを特徴とする請求項7に記載の車両用座席(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛け部と背もたれ部とを有する車両用座席であって、背もたれ部は、第1の背もたれ部と、座席高さ方向における第1の背もたれ部の上方に配置された第2の背もたれ部とを備え、第2の背もたれ部は、少なくとも座席幅方向を向いた変位運動によって第1の背もたれ部に対して変位可能である車両用座席に関する。
【背景技術】
【0002】
トラクタ、建設機械、またはフォークリフトの商用車の座席などの車両用座席に調整機能を備えることが、先行技術から知られている。これらは、例えば、背もたれの第1の部分に関係し、背もたれの第2の部分を背もたれの第1の部分に関して初期姿勢から変位位置へと変位させることができる。車両の運転者について良好な支持、したがって充分な安らぎを保証するために、たとえ運転者が運転姿勢を2つの極端に異なる運転姿勢の間で変化させる場合でも、支持面をあらゆる運転姿勢においてできる限り大きくすべきである。
【0003】
例えば、左手でハンドルを握る運転者が、右肩で背もたれの第2の部分に圧力を加えることによって、この変位を開始させることができる。その後に、運転者は、自身の肩または背中の上部を背もたれのこの部で支え、後ろを振り返って車両の背後の領域をより良好に観察することができる。
【0004】
上述のような背もたれの一部分のみの変位は、とりわけ座席高さ方向の軸を中心にして車両用座席の全体を回転させることを提案する技術的解決策に対して、車室において省スペースになることが明らかになっている。これは、トラクタなどの車両が追加の機能および拡張の結果としてますます重くなり、車輪がますます幅広くなっているが、車両の全幅を広げることは道路の使用の承認が危うくなりかねないがために許されない近年の展開に鑑み、きわめて重要である。
【0005】
背もたれの第2の部分の変位を戻すべき場合に、例えば背もたれの第2の部分を手動で押し戻さなければならないことが、先行技術からこれまでに知られている。これらの以前からの解決策の欠点は、この戻りの変位を開始可能にするために、運転者がハンドルから手を離し、次いで背中を反対方向に向けなければならないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、戻りの変位を可能な限り容易かつ迅速に開始させることができるようなやり方で、一般的な車両用座席をさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、腰掛け部と背もたれ部とを有する車両用座席であって、背もたれ部は、第1の背もたれ部と、座席高さ方向における第1の背もたれ部の上方に配置された第2の背もたれ部とを備え、第2の背もたれ部は、少なくとも座席幅方向を向いた変位運動によって第1の背もたれ部に対して変位可能である車両用座席によって達成される。本発明によれば、第2の背もたれ部の第1の変位位置において、第2の背もたれ部の第1の変位位置を固定し、第2の背もたれ部に加えられて変位運動の方向に作用する力によって解除することができる機械的相互作用が、第1の背もたれ部と第2の背もたれ部との間に形成される。
【0008】
結果として、例えば非変位位置としての初期位置から出発する第2の背もたれ部の変位運動を開始させる力を、例えば第1の変位位置から出発する第2の背もたれ部の戻りの変位運動を開始させる力と同じ方向に、第2の背もたれ部へと加えることができる。例えば、運転者は、第2の背もたれ部を、変位運動を開始させるために最初に自身の右肩(事例1)(または、左肩(事例2))を使用して動かし、したがって戻りの変位運動を開始させるために再び自身の右肩(事例1)(または、左肩(事例2))を使用して押さなければならず、両方の操作において、左肩(事例1)(または、右肩(事例2))から出発する力の方向ベクトルは、少なくとも変位運動に従い、かつ/または変位運動に実質的に等しい。この文脈における「実質的に等しい」は、初期位置において第2の背もたれ部が運転者および/または座席幅方向に関して異なる整列を有し得ることを考慮することを意味する。
【0009】
変位運動が少なくとも座席幅方向を向いているという事実は、この変位運動の方向が、座席幅方向を向いた成分だけを有し、あるいは座席幅方向を向いた成分を少なくとも有することを意味するが、座席長さ方向および/または座席高さを向いたさらなる成分も有してよい。変位運動の方向は、好ましくは、同じ座席幅方向の成分を常に有し、すなわち座席幅の左方向および右方向ではなく、左側への座席幅方向または右側への座席幅方向のいずれかに少なくとも比例的に向けられる。
【0010】
車両用座席に座る車両の運転者が、横方向または後方に整列した着座作業姿勢の際に、少なくとも肩および/または胸部領域の高さにおいて、背もたれの中心から横方向にずれて支持されるようなやり方で、第2の背もたれ部を第1の背もたれ部に対して配置することができると好都合である。
【0011】
したがって、第2の背もたれ部は、座席高さ方向において第1の背もたれ部の上方に配置されるようなやり方で構成される。また、第2の背もたれ部は、好ましくは、少なくとも初期位置において、座席長さ方向および/または座席幅方向に第1の背もたれ部の境界面よりも突出するようなやり方で配置された部分が存在しないようなやり方で構成される。
【0012】
第1の背もたれ部を、腰掛け部へと堅固に、あるいは好ましくは座席幅方向に配置された軸を中心にして枢動可能に、接続することができる。腰掛け部、したがって車両用座席全体を、例えば車両の車体に堅固に接続された座席下部構造へと堅固に、あるいは好ましくは座席高さ方向に配置された軸を中心にして枢動可能に、接続することができる。
【0013】
好ましくは、第2の背もたれ部の2つの側方、前方、および/または後方境界面はそれぞれ、第1の背もたれ部の対応する境界面の安定した幾何学的連続を呈し、この幾何学的連続は、随意により第1および第2の背もたれ部の間の分離ギャップによって中断される。したがって、第2の背もたれ部の側方、前方、および/または後方境界面を、いずれの場合も、好ましくは第1の背もたれ部の境界面からの対応する相手方と同じ空間表面方程式によって記述することができる。
【0014】
したがって、好ましくは、第2の背もたれ部を、第1の背もたれ部に対して左方または右方のいずれか、あるいは両方向に移動させることができる。例えば、右利きの運転者は、左肩を支えることができるように、右側の座席幅方向を向いた方向の変位運動を好むかもしれないと考えられる。しかしながら、左利きの運転者にも適切な座席を提供するために、鏡像反転の車両用座席を開発することは当業者にとって容易である。
【0015】
好ましくは、第2の背もたれ部は、第1の背もたれ部に対して第2の背もたれ部の全幅の半分まで実質的に変位可能である。変位運動の方向が、変位運動の全期間にわたって一定でないことが有利であり、すなわち変位運動の方向は、好ましくは直線に従うのではなく、例えば二次元または三次元曲線、あるいは直線または曲線であってよい異なる部分を有する曲線に従う。
【0016】
好ましくは、第1の変位位置は、上述の機械的相互作用によって固定される唯一の変位位置である。好ましくは、第2の背もたれ部が第1の背もたれ部に対して最大限に変位した少なくとも1つの極限位置が存在する。第1の変位位置は、好ましくは、この極限位置ではない。
【0017】
第1の変位位置における第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の相対位置を固定するために、好ましくは第1の背もたれ部に配置された第1のロック部および第2の背もたれ部に配置された第2のロック部を備えるロック装置が好ましくは設けられ、第1のロック部は、好ましくは、第2のロック部のフック部材の第1の端部を案内することができる案内曲線部と、フック部材をロックすることができるロック位置とを有する湾曲スロットを備える。湾曲スロットは、好ましくは、例えば鋳造部品または切削部品として構成されるスロット部材の一部である。
【0018】
したがって、フック部材は、変位運動および/または戻りの変位運動の際に、湾曲スロットに関して移動し、例えば湾曲スロットの位置が変化しない一方で、湾曲スロットに向かい、あるいは湾曲スロットから遠ざかるように移動するように意図される。第2の背もたれ部の初期位置において、フック部材は、好ましくは湾曲スロットから離れており、すなわち湾曲スロットに係合していない。
【0019】
したがって、変位運動の過程において、フック部材は湾曲スロットに係合する。好ましくは、フック部材は、第2の背もたれ部が第1の背もたれ部に関して充分に大きく変位するとすぐに、湾曲スロットとの係合が自動的に生じるように配置される。したがって、好都合には、フック部材の第1の端部が湾曲スロットの入口に直接隣接して位置する第2の背もたれ部の第2の変位位置が存在する。湾曲スロットは、好ましくは、ただ1つの入口を有し、他の場所では閉じた湾曲スロットとして形成される。湾曲スロットを、その特殊な形状ゆえに、「ハート型カーブ」と呼ぶこともできる。
【0020】
フック部材の第1の端部を湾曲スロット内で移動させることができるよう、好都合な実施形態によれば、第2のロック部のフック部材が、第2の端部によって、第2の背もたれ部が第1の変位位置にあるときに湾曲スロットに対して垂直に位置する軸を中心にして枢動できるように取り付けられることが意図される。好ましくは、フック部材は、この1つの回転自由度のみを有し、かつ/または並進自由度を有さない。
【0021】
好ましくは、ばね部材がさらに配置され、フック部材の第2の端部およびフック部材の中間部分に接続される。このばね部材は、例えば、弾性プラスチック部品として構成され、フック部材が湾曲スロットにまだ係合していないときにフック部材を確実に出発位置に位置させるように働く。好ましくは、その弾性ゆえに、このばね部材は、フック部材が湾曲スロットの形状によって必要とされる程度まで軸を中心にして回転することを可能にする一方で、フック部材の第1の端部がもはや湾曲スロットに係合していないときに、フック部材をフック部材の出発位置へと戻す。これは、例えば、第2の背もたれ部が戻りの変位運動の最中に再び第2の変位位置に位置した場合である。
【0022】
本発明の意味において、「第1の変位位置」、「第2の変位位置」、などの用語が、第2の背もたれ部が変位運動または戻りの変位運動において初期位置から出発してこれらの変位位置を占める時系列について、いかなる言明も許さないことを指摘しておかなければならない。初期位置から出発する変位運動において、好ましくは、最初に第2の変位位置に到達し、次いで極限位置のうちの第1の極限位置に到達し、次いで固定位置である第1の変位位置に到達する。上述のように戻りの変位運動が開始され、第1の変位位置の固定が解除された場合、第2の背もたれ部は、第1の変位位置から出発し、まず極限位置のうちの第2の極限位置に到達し、次いで第1の変位位置に再び到達した後に、初期位置へと戻る。
【0023】
好ましくは、フック部材と湾曲スロットとの間の相互作用が、湾曲スロット内のフック部材の運動が、常に一方向、例えば時計回りにのみ可能であり、反時計回りには不可能であるように保証する。湾曲スロットは、好ましくは、フック部材が第1の変位位置から第1の極限位置へと戻ることを防止するストッパ部材を備える。
【0024】
さらなる利点は、フック部材が、湾曲スロットを通る経路に沿って移動するときにフック部材の第1の端部が後方境界面に接触するようなやり方で配置されることである。さらに、湾曲スロットの後方境界面が、経路の方向に沿って連続的に配置された段部を有し、各々の段部が、経路の方向においてこの段部に先行する段部と比べて下がるように構成されると好都合である。これも、フック部材の第1の端部が経路とは反対の方向(例えば、反時計回り)に戻されることを防止する。
【0025】
第2の背もたれ部の初期位置への自動的な復帰を可能にするために、エネルギ貯蔵部材を第1の背もたれ部および第2の背もたれ部に接続して備えるリセット装置を設け、このエネルギ貯蔵部材を、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の変位運動からもたらされる第1の量のエネルギを蓄え、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の戻りの変位運動の実行のために供給するようなやり方で構成および形成すると、好都合であることが明らかになっている。
【0026】
したがって、変位運動によって消費されるエネルギを、好ましくはエネルギ貯蔵部材によって少なくとも一時的に蓄えることができる。エネルギ量の推定を、変位運動によって実行される第2の背もたれ部の全体経路と、これに必要な力との積を使用して行うことができる。
【0027】
好ましくは、エネルギ貯蔵部材は、ばね部材、例えば帯ばね部材または引張ばね部材の形態にて構成される。このばね部材は、例えば、変位運動の際に引き伸ばされ、機械的固定が解除された後に再び自動的に収縮し、エネルギを再び放出する。
【0028】
さらなる利点は、減衰装置が第1の背もたれ部と第2の背もたれ部との間に配置され、この減衰装置が、第1の背もたれ部に対する第2の背もたれ部の戻りの変位運動の際にもたらされる余分な第2の量のエネルギを消散させるように構成および形成される場合である。この余分な量のエネルギは、例えばエネルギ貯蔵部材の予めの引張りから生じる。
【0029】
例えば、減衰装置は、好ましくは第2の背もたれ部の直線運動を流体内に取り付けられたブレーキディスクの回転運動に変換することによって、摩擦を発生させてエネルギを消散させるフリーホイール(変位運動の方向)を備えた粘性ブレーキ(シリコーンブレーキ)として構成される。あるいは、線形ダンパとして構成されてもよい。減衰装置は、戻りの変位運動を滑らかに実行できるため、ユーザの快適性を向上させる。
【0030】
上述の運動プロセスを実現すると同時に、単純化された機構を提供するために、エネルギ貯蔵部材の固定部材、第1のロック部、および/または減衰装置を、第1の背もたれ部に接続された共通の取り付け部材上でお互いに対して取り付け、かつ/または堅固に配置すると、好都合であることが明らかになっている。取り付け部材は、好ましくは、例えばフランジ部材を介して第1の背もたれ部に堅固に接続される。
【0031】
さらに、第2の背もたれ部は、好ましくは、ガイド装置によって第1の背もたれ部に固定され、第2の背もたれ部の変位運動をガイド装置によって実行することができる。
【0032】
さらに、ガイド装置は、好ましくは、取り付け部材と、互いに座席高さ方向に離して配置された2つの棒状ガイド部材とを備え、取り付け部材は、ガイド部材の少なくとも一方に対してスライドし、かつ/または転がるように取り付けられる。ガイド装置のガイド部材は、好ましくは、第2の背もたれ部に堅固に接続され、かつ/または第2の背もたれ部の全幅にわたって(座席幅方向に)配置される。
【0033】
好ましくは、変位運動の方向は、ガイド部材の推移に従って構成される。ガイド部材は、好ましくは、その全幅に関して、少なくとも第2の背もたれ部の初期位置において、例えば上方を向くなど、座席高さ方向を向き、かつ/または例えば後方を向くなど、座席長さ方向を向くように構成された湾曲を有する。
【0034】
したがって、滑り軸受によって、取り付け部材をガイド部材に対して移動させることができ、したがって、第2の背もたれ部の変位運動を実行することができる。
【0035】
本発明の意味において、用語「軸」および「平面」は、とくには仮想的な意味でも使用される。ここで言及される軸および平面は、必ずしも機械的な部材によって形成される必要はなく、車両用座席の形状をよりよく理解するための仮想の参照部材であってもよい。
【0036】
本発明のさらなる利点、目標、および特徴が、本発明による車両用座席の種々の実施形態を例として図示および説明する添付の図面および以下の説明を参照して解説される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1a】第2の背もたれ部が第1の変位位置にある本発明による車両用座席の正面図である。
図1b】第2の背もたれ部が初期位置にある図1aからの車両用座席の正面図である。
図2】第2の背もたれ部が第1の変位位置にある図1aからの車両用座席の正面図である。
図3a】第2の背もたれ部が第1の変位位置にある図1aからの車両用座席の側面図である。
図3b】第2の背もたれ部が初期位置にある図1aからの車両用座席の側面図である。
図4a】標記の平面E1−E1に沿った図3bによる車両用座席の断面図である。
図4b】標記の平面E2−E2に沿った図1bによる車両用座席の断面図である。
図5a】標記の平面E3−E3に沿った図2による車両用座席の断面図である。
図5b図5aの詳細図である。
図6a】湾曲スロットを有するスロット部材の上面図である。
図6b】湾曲スロットを有するスロット部材の上面図である。
図6c図6aおよび図6bによるスロット部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図面の一部は、いずれも、軸1x(座席長さ方向、前方から後方への矢印方向)、1y(座席幅方向、左方から右方への矢印方向)、および1z(座席高さ方向、上方から下方への矢印方向)で構成されるデカルト座標系である。また、軸1xおよび1zが延びる仮想の平面であって、車両用座席1を座席幅方向1yにおける中央において分割する仮想の平面Aも示されている。
【0039】
図1b、図3b、図4a、および図4bは、それぞれ、第2の背もたれ部5の初期位置P0を示している。図1a、図2図3a、図5a、および図5bは、それぞれ、第2の背もたれ部5の第1の変位位置P1を示している。
【0040】
とくには、図1a〜図3bは、腰掛け部2および背もたれ部3を有しており、背もたれ部3は、第1の背もたれ部4と、座席高さ方向1zにおける第1の背もたれ部4の上方に配置された第2の背もたれ部5とを備えている本発明による車両用座席1を示している。第2の背もたれ部5を、少なくとも座席幅方向1yに向けられた変位運動によって第1の背もたれ部4に対して変位させることができる。
【0041】
図5aおよび図5bが、第2の背もたれ部5の第1の変位位置P1において、第2の背もたれ部5の第1の変位位置P1を固定し、第2の背もたれ部5に加えられて変位運動の方向に作用する力Fによって解除することができる機械的相互作用が、第1の背もたれ部4と第2の背もたれ部5との間に形成されることを示している。力Fの方向ベクトルの例が、図1aに示されている。
【0042】
図1aと図1bとの比較が、例えば非変位位置としての初期位置P0から出発する第2の背もたれ部5の変位運動を開始させる力F’を、例えば第1の変位位置P1から出発する第2の背もたれ部5の戻りの変位運動を開始させる力Fと同じ方向に、第2の背もたれ部5へと加えることが可能であり、力FおよびF’の方向ベクトルは実質的に等しいことを示している。この文脈における「実質的に等しい」は、初期位置P0にある第2の背もたれ部5が、第1の変位位置P1と比較して、運転者および/または座席幅方向1yに関して異なる整列を有するという事実を、考慮することを意味する。
【0043】
この場合、第2の背もたれ部5を右肩での圧力によって変位させることができる座席1が示されている。したがって、力FおよびF’ならびに変位運動は、座席幅方向1yを向いた成分のみを有し、あるいは少なくとも座席幅方向1yを向いた成分を有するが、座席長さ方向1xおよび/または座席高さ方向1zを向いたさらなる成分をさらに有してもよい。この場合、変位運動の方向は、右座席幅方向1yの成分を常に有する。
【0044】
したがって、第2の背もたれ部5を、初期位置P0から左方に移動させることができるが、第1の背もたれ部4に対して両方向に移動させることはできない。
【0045】
この場合に、第2の背もたれ部5は、その全幅の実質的に半分まで、第1の背もたれ部4に対して変位可能である(平面Aが第2の背もたれ部5の横方向右側の端部5rにおいて第2の背もたれ部5と交差している図1aの図を参照)。最大変位位置P3またはP4(後述される極限位置)は、図面には示されていない。この場合、変位運動の方向は、変位運動の全過程にわたって一定というわけではない。
【0046】
この場合、第1の変位位置P1は、上述の機械的相互作用によって固定される唯一の変位位置である。第2の背もたれ部5が最大限に変位し、したがって第1の変位位置P1よりもさらに第1の背もたれ部4に対して変位した2つの極限位置P3およびP4が存在する(以下の図6bの説明を参照)。この場合、第1の変位位置P1は、これらの極限位置P3およびP4のいずれでもない。
【0047】
図4a、図4b、図5a、および図5bが、この場合には第1の背もたれ部4に配置された第1のロック部7および第2の背もたれ部5に配置された第2のロック部8を備えるロック装置6が設けられることを示している。
【0048】
第1のロック部7は、図6a〜図6cによれば、第2のロック部8のフック部材13(図6a〜図6cには示されておらず、ここではとくに図5aが参照される)の第1の端部13aを案内することができる案内曲線部12a、12bを有する湾曲スロット12を備え、湾曲スロット12は、フック部材13をロックすることができるロック位置12cを有する。このロック装置6は、第1の変位位置P1において第1の背もたれ部4に対する第2の背もたれ部5の相対位置を固定するように意図されている。この場合、湾曲スロット12は、例えば鋳造部品または切削部品として構成されるスロット部材20の一部である。可能な素材は、例えば亜鉛合金またはAlCuMgPb(材料番号3.1645)である。
【0049】
したがって、フック部材13は、変位運動および/または戻りの変位運動の際に、湾曲スロット12に関して移動し、例えば湾曲スロット12の位置が変化しない一方で、湾曲スロットに向かい、あるいは湾曲スロットから遠ざかるように移動するように意図される。この場合、第2の背もたれ部5の初期位置P0において、フック部材13は、湾曲スロット12から離れており、すなわち湾曲スロット12に係合していない(図4aおよび図4bによる図を参照)。
【0050】
したがって、変位運動の過程において、フック部材13は湾曲スロット12に係合する。この場合、フック部材13は、第2の背もたれ部5が第1の背もたれ部4から充分に大きく変位するとすぐに、湾曲スロット12との係合が自動的に生じるように配置される。この場合に、フック部材13の第1の端部が湾曲スロット12の入口12dに直接隣接して位置する第2の背もたれ部5の第2の変位位置P2が存在する(図6bを参照)。
【0051】
この場合に、湾曲スロット12は、ただ1つの入口12dを有し、他の場所では閉じた湾曲スロットとして形成される。湾曲スロット12は、その特殊な形状ゆえに、「ハート型カーブ」とも呼ばれる(図6bによる図も参照されたい)。
【0052】
フック部材13の第1の端部を湾曲スロット12内で移動させることができるよう、第2のロック部8のフック部材13は、第2の背もたれ部5が第1の変位位置P1にあるときに湾曲スロット12に対して垂直に位置する軸19(図5aおよび5bを参照)を中心にして枢動できるように、第2の端部13bによって取り付けられる。この場合、フック部材13は、この1つの回転自由度のみを有し、並進自由度は有していない。
【0053】
この場合に、ばね部材21がさらに配置され、このばね部材21は、フック部材13の第2の端部13bおよびフック部材13の中間部13mに接続されている。この例において、このばね部材21は、弾性プラスチック部品として構成され、(例えば、図4aおよび図4bに示されるように)フック部材13が湾曲スロット12にまだ係合していないときにフック部材13を確実に出発位置に位置させるように働く。この場合、その弾性ゆえに、このばね部材21は、フック部材13が少なくとも湾曲スロット12の形状によって必要とされる程度まで軸19を中心にして回転することを可能にする一方で、フック部材13の第1の端部13aがもはや湾曲スロット12に係合していないときに、フック部材13を出発位置へと戻す。これは、例えば、第2の背もたれ部5が戻りの変位運動の最中に再び第2の変位位置P2に位置した場合である。
【0054】
図6a、図6b、および図6cは、湾曲スロット12が配置されたスロット部材20を示している。軸20x(スロット部材20の長さ方向)、20y(スロット部材20の幅方向)、および20z(スロット部材20の高さ方向)を有するデカルト座標系も示されている。図6aは、スロット部材20の上面図を示しており、スロット部材20は、スロット部材20の長さ方向20xにおいて湾曲スロットを境界付けている湾曲スロット12の後方境界面25を有している。図6bは、スロット部材20の上面図を示しており、後方境界面25の詳細は示されていない。図6cは、スロット部材20の斜視図を示している。
【0055】
点線は、フック部材13の第1の端部13aの経路13’を示しており、フック部材13の第1の端部13aは、上部背もたれ部5の変位運動または戻りの変位運動の際に、この経路を移動する。経路13’は、後方境界面25に平行または実質的に平行に延びるように配置されている。
【0056】
フック部材13の第1の端部13aのそれぞれの位置に対応する上部背もたれ部5の位置を表す種々の位置P0、P1、P2、P3、およびP4が、それぞれ示されている。位置P1は、フック部材13の第1の端部13aのロック位置12cでもあり、すなわち上部背もたれ部5が第1の変位位置P1にある場合、フック部材13の第1の端部13aはロック位置12cにある。
【0057】
初期位置P0から出発する変位運動は、最初に第2の変位位置P2に到達し、次いで極限位置のうちの第1の極限位置P3に到達し、次いで固定位置である第1の変位位置P1に到達する。上述のように戻りの変位運動が開始され、第1の変位位置P1の固定が解除された場合、第2の背もたれ部5は、第1の変位位置P1から出発し、まず極限位置のうちの第2の極限位置P4に到達し、次いで第1の変位位置P2に再び到達した後に、初期位置P0へと戻る。
【0058】
この場合に、フック部材13と湾曲スロット12との間の相互作用が、運動、すなわち湾曲スロット12内のフック部材13の経路13’が、常に時計回りにのみ可能であり、反時計回りには不可能であるように保証する。この場合、湾曲スロット12は、フック部材13が第1の変位位置P1から第1の極限位置P3へと戻ることを防止するストッパ部材22を備える。
【0059】
また、フック部材13は、湾曲スロット12を通る経路13’に沿って移動するときに第1の端部12aが後方境界面25に接触するようなやり方で配置される。さらに、湾曲スロット12の後方境界面25は、経路13’の方向に沿って連続的に配置された段部25a〜eを有し、各々の場合において、1つの段部(例えば、25b)は、経路13’の方向においてこの段部に先行する段部(25a)と比べて下がるように構成され、かつ/または段によって後方へと互い違いに構成される。これも、フック部材の第1の端部13aが経路13’とは反対の方向に戻されることを防止する。
【0060】
第2の背もたれ部5の初期位置P0への自動的な復帰を可能にするために、エネルギ貯蔵部材10を第1の背もたれ部4および第2の背もたれ部5に接続して備えるリセット装置9(図5aおよび図5bを参照)が設けられ、このエネルギ貯蔵部材は、第1の背もたれ部4に対する第2の背もたれ部5の変位運動からもたらされる第1の量のエネルギを蓄え、第1の背もたれ部4に対する第2の背もたれ部5の戻りの変位運動の実行のために供給するようなやり方で構成および形成される。
【0061】
図4aおよび図4bが、予め引っ張られた状態の帯ばね部材の形態で存在するこのエネルギ貯蔵部材10を、初期の姿勢にて示している。図5aおよび図5bは、引き伸ばされた状態のこのエネルギ貯蔵部材10を示している。帯ばね部材の場合、予め引っ張る力は、経路にほとんど無関係である。また、予め引っ張られた状態よりも伸ばされた(引き伸ばされた)状態においてばね張力がより大きい引張ばね部材を組み込むことも考えられる。
【0062】
この場合に、第1の背もたれ部4と第2の背もたれ部5との間に、第1の背もたれ部4に対する第2の背もたれ部5の戻りの変位運動の際にもたらされる余分な第2の量のエネルギを消散させるように構成および形成された減衰装置11が配置されることも示されている。この場合、減衰装置11は、線形ダンパとして構成されている。
【0063】
この場合、エネルギ貯蔵部材10の固定部材23、第1のロック部7、および/または減衰装置11は、第1の背もたれ部4に接続された共通の取り付け部材18に取り付けられ、お互いに対して堅固に配置される。取り付け部材18が、フランジ部材24を介して第1の背もたれ部4に堅固に接続されることが示されている。
【0064】
この場合、第2の背もたれ部5は、ガイド装置15によって第1の背もたれ部4にさらに固定され、第2の背もたれ部5の変位運動をガイド装置15によって実行することができる。
【0065】
さらに、ガイド装置15は、取り付け部材18と、座席高さ方向1zに互いに間隔を置いて配置された2つの棒状ガイド部材16、17とを備え、取り付け部材18は、滑り軸受27によって両方のガイド部材16、17に対してスライド可能に取り付けられる。この場合、ガイド部材16、17は、少なくとも第2の背もたれ部5の初期位置P0において座席高さ方向1z(図4aによる図を参照)および座席長さ方向(図4bによる図を参照)に向くように構成された曲率を有する。
【0066】
滑り軸受27は、取り付け部材18を棒状ガイド部材16、17のうちの下方の棒状ガイド部材17に対してスライド可能に取り付ける第1の滑り軸受部27aと、取り付け部材18を棒状ガイド部材16、17のうちの上方の棒状ガイド部材16に対してスライド可能に取り付ける第2の滑り軸受部27bとを備える。この場合に、減衰装置11は、座席高さ方向1zにおける2つのガイド部材16および17の間に配置される。
【0067】
この場合、ガイド部材16、17の端部は、それぞれスリーブ26を介して第2の背もたれ部5に堅固に接続され、第2の背もたれ部5の全幅にわたって(座席幅方向1yに)配置される。
【0068】
上述の実施形態が、本発明による車両用座席の初期構成にすぎないことを、理解すべきである。この点において、本発明の構成は、この実施形態に限定されない。
【0069】
出願書類に開示されるすべての特徴が、単独または組み合わせにて先行技術に対して新規である限りにおいて、本発明に不可欠であると主張される。
【符号の説明】
【0070】
1 車両用座席
1x 座席長さ方向
1y 座席幅方向
1z 座席高さ方向
2 腰掛け部
3 背もたれ部
4、5 背もたれ部
5r 右側の端部
6 ロック装置
7、8 ロック部
9 リセット装置
10 エネルギ貯蔵部材
11 減衰装置
12 湾曲スロット
12a、12b 案内曲線部
12c ロック位置
13 フック部材
13a、13b 端部
15 ガイド装置
16、17 棒状ガイド部材
18 取り付け部材
19 軸
20 スロット部材
20x 長さ方向
20y 幅方向
20z 高さ方向
21 ばね部材
22 ストッパ部材
23 固定部材
24 フランジ部材
25 境界面
25a−e 段部
26 スリーブ
27 滑り軸受
27a、b 滑り軸受部
A、E1、E2、E3 平面
F、F’ 力
P0 初期位置
P1 第1の変位位置
P2 第2の変位位置
P3、P4 極限位置
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b
図6c