特許第6861273号(P6861273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6861273ゼオライト膜複合体、および、ゼオライト膜複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861273
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ゼオライト膜複合体、および、ゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20210412BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210412BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210412BHJP
   C01B 39/20 20060101ALI20210412BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/12
   B01D69/10
   C01B39/20
   C01B39/48
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-509084(P2019-509084)
(86)(22)【出願日】2018年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2018008312
(87)【国際公開番号】WO2018180243
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年9月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-71540(P2017-71540)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-71566(P2017-71566)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-71567(P2017-71567)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-112634(P2017-112634)
(32)【優先日】2017年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/121889(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/121888(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/121887(WO,A1)
【文献】 特開2016−169139(JP,A)
【文献】 特開2016−147801(JP,A)
【文献】 特開2016−204245(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0137518(US,A1)
【文献】 三谷 絵美 他,FAUゼオライト水熱転換法によるAFXゼオライトの高機能化,第119回触媒討論会講演予稿集,2017年 3月10日,P.188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C01B 39/00 − 39/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜複合体であって、
支持体と、
前記支持体上に形成されたAFX型のゼオライト膜と、
前記支持体と前記AFX型のゼオライト膜との間に位置するFAU型のゼオライト膜と、
を備える。
【請求項2】
請求項1に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記AFX型のゼオライト膜は、アルミノケイ酸塩系ゼオライトからなるゼオライト膜である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゼオライト膜複合体であって、
前記AFX型のゼオライト膜が前記支持体に直接的に接触している。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記FAU型のゼオライト膜が、Y型またはX型のゼオライト膜である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記支持体が、多孔質である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体であって、
前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。
【請求項7】
ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)FAU型の種結晶を取得する工程と、
b)支持体上に前記FAU型の種結晶を付着させる工程と、
c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記FAU型の種結晶からAFX型のゼオライトを成長させて前記支持体上にAFX型のゼオライト膜を形成する工程と、
d)前記AFX型のゼオライト膜から構造規定剤を除去する工程と、
を備え、
前記b)工程と前記c)工程との間において、前記支持体上の前記FAU型の種結晶を水熱合成により膜状に成形する工程をさらに備える。
【請求項8】
請求項7に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記c)工程が終了した状態で、前記支持体と前記AFX型のゼオライト膜との間の少なくとも一部にFAU型のゼオライト膜が存在する。
【請求項9】
請求項7または8に記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記c)工程が終了した状態で、前記AFX型のゼオライト膜が前記支持体に直接的に接触している。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記FAU型の種結晶が、Y型またはX型のゼオライトである。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1つに記載のゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記b)工程において、前記FAU型の種結晶が、前記支持体の表面のうち前記ゼオライト膜複合体の製造時における略鉛直面または下向きの面に付着される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上にゼオライト膜が形成されたゼオライト膜複合体に関連する。
【背景技術】
【0002】
現在、支持体上にアルミノケイ酸塩系のゼオライト膜を形成してゼオライト膜複合体とすることにより、ゼオライトを利用した特定のガスの分離や分子の吸着等の用途の様々な研究や開発が行われている。当該ゼオライト膜としては、DDR型、LTA型、FAU型、MFI型またはCHA型のゼオライトにより形成された膜が知られている。
【0003】
例えば、国際公開第2012/046545号(文献1)では、多孔質アルミナ管の表面にFAU型のゼオライト膜を形成し、水熱合成により当該FAU型のゼオライト膜の表面の一部をCHA型のゼオライト膜に転換させる技術が開示されている。また、国際公開第2015/159986号(文献2)では、多孔質支持体上にFAU型のゼオライトを種結晶として付着させて水熱合成を行うことにより、支持体上にCHA型のゼオライト膜を形成する技術が開示されている。
【0004】
一方、米国特許第5194235号明細書(文献3)では、Y型のゼオライト粉末を原料として、AFX型のゼオライト(SSZ−16)粉末を製造する方法が開示されている。
【0005】
ところで、AFX型のアルミノケイ酸塩系のゼオライトについては、膜化に成功したことを示す報告例は存在しない。そこで、実用可能なAFX型のゼオライト膜の開発が期待されている。なお、文献3に開示されている製造方法は、AFX型のゼオライト粉末に関するものであり、AFX型のゼオライト膜の製造には適していない。仮に、文献3の製造方法を利用して支持体表面にゼオライト膜を製造しようとした場合、Y型のゼオライト粉末を含む合成ゾル中に支持体を浸漬して水熱合成が行われるが、Y型のゼオライト粉末は、合成ゾルが貯溜された容器底に沈降しやすいため、ゼオライト膜を好適に製造することは困難である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、AFX型のゼオライト膜を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体は、支持体と、前記支持体上に形成されたAFX型のゼオライト膜と、前記支持体と前記AFX型のゼオライト膜との間に位置するFAU型のゼオライト膜とを備える。本発明によれば、AFX型のゼオライト膜を提供することができる。
【0008】
好ましくは、前記AFX型のゼオライト膜は、アルミノケイ酸塩系ゼオライトからなるゼオライト膜である。
【0009】
好ましくは、前記AFX型のゼオライト膜が前記支持体に直接的に接触している。
【0011】
より好ましくは、前記FAU型のゼオライト膜が、Y型またはX型のゼオライト膜である。
【0012】
好ましくは、前記支持体が、多孔質である。
【0013】
好ましくは、前記支持体が、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。
【0014】
本発明は、ゼオライト膜複合体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係るゼオライト膜複合体の製造方法は、a)FAU型の種結晶を取得する工程と、b)支持体上に前記FAU型の種結晶を付着させる工程と、c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記FAU型の種結晶からAFX型のゼオライトを成長させて前記支持体上にAFX型のゼオライト膜を形成する工程と、d)前記AFX型のゼオライト膜から構造規定剤を除去する工程とを備え、前記b)工程と前記c)工程との間において、前記支持体上の前記FAU型の種結晶を水熱合成により膜状に成形する工程をさらに備える。本発明によれば、AFX型のゼオライト膜を提供することができる。
【0016】
より好ましくは、前記c)工程が終了した状態で、前記支持体と前記AFX型のゼオライト膜との間の少なくとも一部にFAU型のゼオライト膜が存在する。
【0017】
好ましくは、前記c)工程が終了した状態で、前記AFX型のゼオライト膜が前記支持体に直接的に接触している。
【0018】
好ましくは、前記FAU型の種結晶が、Y型またはX型のゼオライトである。
【0019】
好ましくは、前記b)工程において、前記FAU型の種結晶が、前記支持体の表面のうち前記ゼオライト膜複合体の製造時における略鉛直面または下向きの面に付着される。
【0021】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施の形態に係るゼオライト膜複合体の断面図である。
図2】ゼオライト膜複合体の拡大断面図である。
図3】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
図4】混合ガスを分離する装置を示す図である。
図5】第2の実施の形態に係るゼオライト膜複合体の拡大断面図である。
図6】ゼオライト膜複合体の製造の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るゼオライト膜複合体1の断面図である。図2は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1は、支持体11と、支持体11上に形成されたゼオライト膜12とを備える。図1に示す例では、支持体11は、長手方向(すなわち、図中の上下方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられた略円柱状のモノリス型支持体である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。図1では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面上に形成され、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する。図1では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または角柱状等であってもよい。
【0024】
本実施の形態では、支持体11はガスを透過可能な多孔質であり、ゼオライト膜12はガス分離膜である。ゼオライト膜12は分子篩作用を利用する分子分離膜として他の用途に用いられてもよい。例えば、ゼオライト膜12は浸透気化膜としても利用可能である。ゼオライト膜複合体1は、さらに他の用途に利用されてもよい。支持体11はガスを透過しないもの(例えば、非多孔質)であってもよい。
【0025】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々なものが採用可能である。支持体11の材料として、例えば、セラミックス焼結体、金属、有機高分子、ガラス、カーボン等を挙げることができる。セラミックス焼結体としては、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。金属としては、アルミニウム、鉄、ブロンズ、ステンレス鋼等が挙げられる。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド等が挙げられる。
【0026】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0027】
ゼオライト膜12がガス分離膜として利用される場合、好ましくは、ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は、他の部位の平均細孔径よりも小さい。このような構造を実現するために、支持体11は多層構造を有する。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができ、それぞれは同じでもよいし異なっていてもよい。平均細孔径は、水銀ポロシメータ、パームポロメータ、ナノパームポロメータ等によって測定することができる。支持体11の表面近傍における平均細孔径は、好ましくは、0.001μm〜1μmであり、気孔率は、好ましくは、20%〜60%である。このような構造は、好ましくは、表面から1μm〜50μmの範囲に設けられる。
【0028】
ゼオライト膜12の厚さは、好ましくは、0.1μm〜10μmである。ゼオライト膜12を厚くするとガス分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くするとガス透過速度が増大する。ゼオライト膜12は、支持体11に直接的に接触している。具体的には、ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面に直接的に接触している。図1に示す例では、ゼオライト膜12と支持体11との間に他のゼオライトは存在しておらず、ゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面に略全面に亘って直接的に接触している。
【0029】
ゼオライト膜12は、構造がAFX型であるゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「AFX」であるゼオライトである。ゼオライト膜12は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含有する。本実施の形態では、ゼオライト膜12は、少なくともAl、SiおよびO(酸素)を含有するアルミノケイ酸塩系ゼオライトである。既述のように、支持体11の材料としては様々なものが採用可能である。ゼオライト膜12がアルミノケイ酸塩系である場合、支持体11は、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体であることが好ましい。支持体11では、例えば、アルミナ焼結体上にチタニア層を有する構造を有していてもよい。
【0030】
図3は、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例を示す図である。まず、FAU型のゼオライト粉末からFAU型の種結晶が取得される(ステップS11)。換言すれば、当該種結晶は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「FAU」であるゼオライトである。ステップS11において取得されたFAU型の種結晶は、好ましくは、Y型またはX型のゼオライトである。より好ましくは、当該種結晶は、Y型のゼオライトである。上述のFAU型のゼオライト粉末は、水熱合成により生成したものであってもよい。あるいは、市販のFAU型のゼオライト粉末をそのまま、上記FAU型のゼオライト粉末として使用してもよい。
【0031】
種結晶は、Si、AlおよびPのうちいずれか2つ以上を含有する。本実施の形態では、種結晶は、少なくともAl、SiおよびOを含有するアルミノケイ酸塩系ゼオライトである。FAU型の種結晶中のAlに対するSiの割合(すなわち、組成割合)は、好ましくは1倍以上かつ250倍以下であり、より好ましくは1.6倍以上かつ100倍以下である。
【0032】
ステップS11では、ゼオライト粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該ゼオライト粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0033】
続いて、支持体11が準備される(ステップS12)。そして、種結晶を分散させた溶液に支持体11が浸漬され、FAU型の種結晶が支持体11上に付着される(ステップS13)。ステップS13において、支持体11は、例えば、長手方向が重力方向に略平行な状態で当該溶液に浸漬される。すなわち、各貫通孔111の内側面は、重力方向に略平行な略鉛直面(すなわち、法線が実質的に水平方向を向く面)である。各貫通孔111には、種結晶を分散させた上記溶液が充填される。そして、各貫通孔111内の溶液が、支持体11の外側面から支持体11を介して吸引され、支持体11の外部へと排出される。当該溶液に含まれる種結晶は、支持体11を通過することなく、各貫通孔111の内側面上に留まって当該内側面に付着する。これにより、種結晶付着支持体が製造される。なお、種結晶は、他の手法により支持体11上に付着されてもよい。
【0034】
ステップS13において種結晶が付着された支持体11(すなわち、種結晶付着支持体)は、原料溶液に浸漬される。そして、水熱合成によりFAU型の種結晶を核としてAFX型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にAFX型のゼオライト膜12が形成される(ステップS14)。水熱合成時の温度は、好ましくは、110〜200℃である。原料溶液は、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を混合して調製される。原料溶液にはAl源は含まれていなくてもよいが、必要に応じて加えられてもよい。このとき、原料溶液中のケイ素源とSDAとの配合割合等を調整することにより、緻密なゼオライト膜12を得ることができる。
【0035】
ステップS14が終了した状態では、AFX型のゼオライト膜12は、支持体11に直接的に接触している。また、AFX型のゼオライト膜12と支持体11との間には、他のゼオライトは存在しない。なお、AFX型のゼオライト膜12と支持体11との間に、FAU型の種結晶が部分的に残っていてもよい。ステップS14の終了後、加熱によりゼオライト膜12中のSDAが分解されて除去される(ステップS15)。
【0036】
次に、ゼオライト膜複合体1の製造の実施例および比較例について説明する。
【0037】
<実施例1>
まず、モノリス型の支持体11を、Y型のゼオライト結晶を種結晶として分散させた溶液に浸漬し、当該Y型の種結晶を支持体11の各貫通孔111の内側面に付着させた。Y型の種結晶の粒径は、例えば、メディアン径で200nm〜300nmである。支持体11上に付着させた種結晶の厚さは、例えば、約1μmである。また、コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、および、SDA(構造規定剤)である1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−C4−ジクアットジブロミドを純水に溶解させ、組成が23SiO:10NaO:2.8SDA:1000HOの原料溶液を作製した。
【0038】
続いて、種結晶を付着させた支持体11を当該原料溶液に浸漬し、170℃にて50時間水熱合成した。これにより、支持体11上にAFX型のゼオライト膜12が形成された。水熱合成後、支持体11およびゼオライト膜12を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。X線回折測定の結果、得られたゼオライト膜12はAFX型ゼオライトであった。ゼオライト膜12の厚さは、例えば、約2μmである。
【0039】
支持体11およびゼオライト膜12の乾燥後、ゼオライト膜12のN(窒素)透過量を測定した。ゼオライト膜12のN透過量は、0.005nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、ゼオライト膜12は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜12を500℃にて20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させた。
【0040】
次に、図4に概略構造を示す装置にて混合ガスの分離試験を実施した。上述のように、ゼオライト膜12は、支持体11が有する複数の貫通孔111の内側面に形成されている。支持体11の両端部はガラス21にて封止され、支持体11は外筒22内に収められる。すなわち、ゼオライト膜複合体1が外筒22内に配置される。さらに、支持体11の両端部と外筒22との間にはシール部材23が配置される。この状態で、混合ガスが矢印251にて示すように支持体11の各貫通孔111内に導入され、外筒22に設けられた孔221からゼオライト膜12を透過したガスが矢印252にて示すように回収される。
【0041】
分離試験でのガス導入圧は、0.2MPaGである。上記混合ガスとして、COとCHとの比が50:50であるものを用いた。その結果、ゼオライト膜12におけるCO/CHのパーミアンス比は50であった。これにより、ゼオライト膜12は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0042】
<比較例1>
まず、コロイダルシリカ、Y型のゼオライト結晶、水酸化ナトリウム、および、SDA(構造規定剤)である1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−C4−ジクアットジブロミドを純水に溶解させ、組成が23SiO:1Al:10NaO:2.8SDA:1000HOの原料溶液を作製した。
【0043】
続いて、実施例1の支持体11と同様の支持体を当該原料溶液に浸漬し、170℃にて50時間水熱合成した。比較例1では、実施例1とは異なり、原料溶液に浸漬する支持体に種結晶は付着させていない。当該水熱合成により、支持体上に部分的にAFX型のゼオライトが形成されたが、支持体の貫通孔の内側面全面を覆う緻密なゼオライト膜は形成されなかった。
【0044】
<比較例2>
まず、実施例1の支持体11と同様の支持体を、AFX型のゼオライト結晶を種結晶として分散させた溶液に浸漬し、当該AFX型の種結晶を支持体の各貫通孔の内側面に付着させた。続いて、比較例1と同様の原料溶液に浸漬し、170℃にて50時間水熱合成した。当該水熱合成により、支持体上に部分的にAFX型のゼオライトが形成されたが、支持体の貫通孔の内側面全面を覆う緻密なゼオライト膜は形成されなかった。
【0045】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1は、支持体11と、支持体11上に形成されたAFX型のゼオライト膜12とを備える。このように、ゼオライト膜複合体1では、AFX型のゼオライト膜12を提供することができる。
【0046】
上述のように、支持体11は多孔質である。これにより、ゼオライト膜複合体1において、ゼオライト膜12を分離膜(例えば、ガス分離膜)として使用することができる。また、支持体11は、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。これにより、FAU型のゼオライト結晶である種結晶の支持体11に対する付着性を向上することができる。
【0047】
ゼオライト膜複合体1の製造方法は、FAU型の種結晶を取得する工程(ステップS11)と、支持体11上に当該FAU型の種結晶を付着させる工程(ステップS13)と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成によりFAU型の種結晶からAFX型のゼオライトを成長させて支持体11上にAFX型のゼオライト膜12を形成する工程(ステップS14)と、当該AFX型のゼオライト膜12から構造規定剤を除去する工程(ステップS15)とを備える。これにより、AFX型のゼオライト膜12を提供することができる。
【0048】
上述のように、FAU型の種結晶は、Y型またはX型のゼオライトである。これにより、ステップS14において、AFX型のゼオライト膜12を効率良く形成することができる。また、FAU型の種結晶は、Y型のゼオライトであることがより好ましい。これにより、ステップS14において、AFX型のゼオライト膜12をさらに効率良く形成することができる。
【0049】
ゼオライト膜複合体1の製造方法では、ステップS13において支持体11上にFAU型の種結晶を付着させることにより、比較例1とは異なり、支持体11上に緻密なAFX型のゼオライト膜12を形成することができる。したがって、当該製造方法は、支持体11の表面のうち、重力の影響により結晶が付着しにくい面へのゼオライト膜12の形成に特に適している。換言すれば、当該製造方法は、ステップS13において、支持体11の表面のうちゼオライト膜複合体1の製造時における略鉛直面または下向きの面に、FAU型の種結晶が付着される場合に特に適している。当該製造方法により、ゼオライト膜複合体1の製造時における略鉛直面または下向きの面に対しても、緻密かつ均等なゼオライト膜12を形成することができる。なお、上述の下向きの面とは、法線が水平よりも下向きになる面であり、法線が鉛直下方を向く面、および、法線が斜め下を向く面の双方を含む。もちろん、種結晶は、支持体11の表面であれば、上向きの面等、どの方向を向く面に付着されてもよい。
【0050】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るゼオライト膜複合体1aについて説明する。図5は、ゼオライト膜複合体1aの一部を拡大して示す断面図である。ゼオライト膜複合体1aは、図1に示す支持体11およびAFX型のゼオライト膜12に加えて、FAU型のゼオライト膜13をさらに備える。ゼオライト膜複合体1aでは、支持体11の形状等、その他の構造は図1に示すゼオライト膜複合体1と同様であり、以下の説明においても同符号を付す。
【0051】
FAU型のゼオライト膜13は、支持体11とAFX型のゼオライト膜12との間に位置する。FAU型のゼオライト膜13は、好ましくは、Y型またはX型のゼオライト膜である。より好ましくは、FAU型のゼオライト膜13は、Y型のゼオライト膜である。ゼオライト膜12およびゼオライト膜13の合計厚さは、好ましくは、0.1μm〜10μmである。ゼオライト膜13の厚さに対するゼオライト膜12の厚さの割合は、例えば、1倍以上かつ100倍以下である。ゼオライト膜12の割合を大きくするとガス分離性能が向上する。ゼオライト膜12の割合を小さくするとガス透過速度が増大する。
【0052】
FAU型のゼオライト膜13は、支持体11に直接的に接触している。換言すれば、ゼオライト膜13は、貫通孔111(図1参照)の内側面に直接的に接触している。図5に示す例では、ゼオライト膜13と支持体11との間に他のゼオライトは存在しておらず、ゼオライト膜13は、貫通孔111の内側面に略全面に亘って直接的に接触している。また、AFX型のゼオライト膜12は、貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆するが、支持体11には直接的に接触しておらず、FAU型のゼオライト膜13に略全面に亘って直接的に接触している。すなわち、図5に例示するAFX型のゼオライト膜12は、FAU型のゼオライト膜13を介して、支持体11に間接的に接触している。
【0053】
なお、ゼオライト膜複合体1aでは、FAU型のゼオライト膜13は、必ずしも貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆する必要はなく、貫通孔111の内側面を部分的に被覆していてもよい。換言すれば、FAU型のゼオライト膜13は、貫通孔111の内側面上において、部分的に存在する。この場合、AFX型のゼオライト膜12は、FAU型のゼオライト膜13が存在する領域では、FAU型のゼオライト膜13に直接的に接触しており、支持体11には直接的に接触していない。また、FAU型のゼオライト膜13が存在しない領域では、AFX型のゼオライト膜12は、支持体11に直接的に接触している。
【0054】
図6は、ゼオライト膜複合体1aの製造の流れの一例を示す図である。ステップS21〜S23は、ゼオライト膜複合体1の製造におけるステップS11〜S13(図3参照)と略同様であり、ステップS25〜S26は、ステップS14〜S15と略同様である。ゼオライト膜複合体1aの製造では、ステップS13,S14に対応するステップS23,S25の間に、後述するステップS24が行われる。
【0055】
具体的には、まず、FAU型のゼオライト粉末からFAU型の種結晶が取得される(ステップS21)。ステップS21において取得されたFAU型の種結晶は、好ましくは、Y型またはX型のゼオライトである。より好ましくは、当該種結晶は、Y型のゼオライトである。上述のFAU型のゼオライト粉末は、水熱合成により生成したものであってもよい。あるいは、市販のFAU型のゼオライト粉末をそのまま、上記FAU型のゼオライト粉末として使用してもよい。
【0056】
続いて、支持体11が準備される(ステップS22)。そして、種結晶を分散させた溶液に支持体11が浸漬され、FAU型の種結晶が支持体11上に付着される(ステップS23)。ステップS23において、支持体11は、例えば、長手方向が重力方向に略平行な状態で当該溶液に浸漬される。すなわち、各貫通孔111の内側面は、重力方向に略平行な略鉛直面(すなわち、法線が実質的に水平方向を向く面)である。各貫通孔111には、種結晶を分散させた上記溶液が充填される。そして、各貫通孔111内の溶液が、支持体11の外側面から支持体11を介して吸引され、支持体11の外部へと排出される。当該溶液に含まれる種結晶は、支持体11を通過することなく、各貫通孔111の内側面上に留まって当該内側面に付着する。これにより、種結晶付着支持体が製造される。なお、種結晶は、他の手法により支持体11上に付着されてもよい。
【0057】
ステップS23において種結晶が付着された支持体11(すなわち、種結晶付着支持体)は、原料溶液に浸漬される。そして、水熱合成によりFAU型の種結晶を膜状に成形することにより、FAU型のゼオライト膜13が形成される(ステップS24)。換言すれば、ゼオライト膜13は、膜状に成形されたFAU型の種結晶である。FAU型のゼオライト膜13は、支持体11の貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆している。ステップS24により形成されたFAU型のゼオライト膜13の厚さは、例えば、1〜10μmである。
【0058】
水熱合成時の温度は、好ましくは、80〜120℃である。原料溶液は、ケイ素源およびアルミニウム源等を混合して調製される。ステップS24が終了した状態では、FAU型のゼオライト膜13は、支持体11に直接的に接触している。また、FAU型のゼオライト膜13と支持体11との間には、他のゼオライトは存在しない。なお、FAU型のゼオライト膜13と支持体11との間に、FAU型の種結晶が部分的に残っていてもよい。
【0059】
ステップS24において表面上にFAU型のゼオライト膜13が形成された支持体11は、原料溶液に浸漬される。そして、水熱合成によりFAU型のゼオライト膜13(すなわち、膜状に成形されたFAU型の種結晶)を核としてAFX型のゼオライトを成長させることにより、FAU型のゼオライト膜13上にAFX型のゼオライト膜12が形成される(ステップS25)。AFX型のゼオライト膜12は、支持体11の貫通孔111の内側面を略全面に亘って被覆している。水熱合成時の温度は、好ましくは、110〜200℃である。原料溶液は、Si源およびSDA等を混合して調製される。原料溶液にはAl源は含まれていなくてもよいが、必要に応じて加えられてもよい。このとき、原料溶液中のSi源とSDAとの配合割合等を調整することにより、緻密なゼオライト膜12を得ることができる。
【0060】
ステップS25が終了した状態では、支持体11とAFX型のゼオライト膜12との間にFAU型のゼオライト膜13が存在する。AFX型のゼオライト膜12は、FAU型のゼオライト膜13に直接的に接触している。また、FAU型のゼオライト膜13は、ステップS24が終了した状態と同様に、支持体11の貫通孔111の内側面に略全面に亘って直接的に接触している。
【0061】
ステップS25により形成されたAFX型のゼオライト膜12の厚さは、例えば、0.1〜10μmである。ステップS25におけるAFX型のゼオライト膜12の形成により、FAU型のゼオライト膜13の厚さは減少する。換言すれば、ステップS25終了後のゼオライト膜13の厚さは、ステップS24終了後かつステップS25開始前のゼオライト膜13の厚さよりも小さい。ステップS25終了後のFAU型のゼオライト膜13の厚さは、例えば、0.05〜9.95μmである。ステップS25終了後のFAU型のゼオライト膜13におけるSi/Al比は、ステップS24終了後かつステップS25開始前のFAU型のゼオライト膜13におけるSi/Al比とおよそ同じである。ステップS25の終了後、加熱によりゼオライト膜12中のSDAが分解されて除去される(ステップS26)。
【0062】
ゼオライト膜複合体1aの製造では、ステップS25において、FAU型のゼオライト膜13が減少することにより、支持体11の貫通孔111の内側面が、FAU型のゼオライト膜13から部分的に露出してもよい。この場合、支持体11の貫通孔111の内側面のうち、FAU型のゼオライト膜13から露出している部位は、AFX型のゼオライト膜12に直接的に接触する。
【0063】
また、ステップS25において、FAU型のゼオライト膜13の略全体が、AFX型のゼオライト膜12の形成に利用されて消失してもよい。この場合、貫通孔111の内側面の略全体が、AFX型のゼオライト膜12に直接的に接触し、図1および図2に示すゼオライト膜複合体1と同様の構造となる。
【0064】
次に、ゼオライト膜複合体1aの製造の実施例について説明する。
【0065】
<実施例2>
まず、実施例1と同様に、モノリス型の支持体11を、Y型のゼオライト結晶を種結晶として分散させた溶液に浸漬し、当該Y型の種結晶を支持体11の各貫通孔111の内側面に付着させた。Y型の種結晶の粒径は、例えば、メディアン径で200nm〜300nmである。支持体11上に付着させた種結晶の厚さは、例えば、約1μmである。また、コロイダルシリカ、アルミン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを純水に溶解させ、組成が23SiO:1Al:22NaO:1000HOの原料溶液を作製した。
【0066】
続いて、種結晶を付着させた支持体11を当該原料溶液に浸漬し、100℃にて10時間水熱合成した。これにより、支持体11上にFAU型のゼオライト膜13が形成された。水熱合成後、支持体11およびゼオライト膜13を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。X線回折測定の結果、得られたゼオライト膜13はY型ゼオライトであった。ゼオライト膜13の厚さは、例えば、約2.0μmである。
【0067】
次に、コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、および、SDA(構造規定剤)である1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−C4−ジクアットジブロミドを純水に溶解させ、組成が23SiO:10NaO:2.8SDA:1000HOの原料溶液を作製した。そして、表面にY型のゼオライト膜13が形成された支持体11を当該原料溶液に浸漬し、170℃にて10時間水熱合成した。これにより、支持体11およびY型のゼオライト膜13上にAFX型のゼオライト膜12が形成された。水熱合成後、支持体11、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12を純水にて十分に洗浄した後、100℃で乾燥させた。X線回折測定の結果、得られたゼオライト膜12はAFX型ゼオライトであった。AFX型のゼオライト膜12の厚さは、例えば、約2μmである。また、ゼオライト膜12形成後のY型のゼオライト膜13の厚さは、例えば、約1.0μmであった。
【0068】
支持体11、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12の乾燥後、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12(以下、まとめて「積層ゼオライト膜14」とも呼ぶ。)のN透過量を測定した。積層ゼオライト膜14のN透過量は、0.005nmol/m・s・Pa以下であった。これにより、積層ゼオライト膜14は、実用可能な程度の緻密性を有していることが確認された。その後、ゼオライト膜12を500℃にて20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させた。
【0069】
次に、実施例1と同様に、図4に概略構造を示す装置にて混合ガスの分離試験を実施した。上述のように、積層ゼオライト膜14は、支持体11が有する複数の貫通孔111の内側面に形成されている。分離試験でのガス導入圧は、0.2MPaGである。上記混合ガスとして、COとCHとの比が50:50であるものを用いた。その結果、ゼオライト膜12におけるCO/CHのパーミアンス比は62であった。これにより、積層ゼオライト膜14は、十分に実用可能な分離性能を有していることが確認された。
【0070】
以上に説明したように、ゼオライト膜複合体1aは、図1に示すゼオライト膜複合体1と同様に、支持体11と、支持体11上に形成されたAFX型のゼオライト膜12とを備える。このように、ゼオライト膜複合体1aにおいても、AFX型のゼオライト膜12を提供することができる。
【0071】
上述のように、ゼオライト膜複合体1aは、支持体11とAFX型のゼオライト膜12との間に位置するFAU型のゼオライト膜13をさらに備える。ゼオライト膜複合体1aでは、比較的緻密かつ均等な膜状に成形されたFAU型ゼオライト(すなわち、ゼオライト膜13)上にAFX型のゼオライト膜12を形成することにより、AFX型のゼオライト膜12を形状精度良く形成することができる。
【0072】
一方、図1および図2に例示するゼオライト膜複合体1では、AFX型のゼオライト膜12が支持体11に直接的に接触している。すなわち、AFX型のゼオライト膜12と支持体11との間には、他のゼオライトは存在しない。これにより、AFX型のゼオライト膜12の形成を簡素化することができる。
【0073】
ゼオライト膜複合体1aでは、FAU型のゼオライト膜13は、Y型またはX型のゼオライトである。これにより、ステップS25において、AFX型のゼオライト膜12を効率良く形成することができる。また、FAU型のゼオライト膜13は、Y型のゼオライトであることがより好ましい。これにより、ステップS25において、AFX型のゼオライト膜12をさらに効率良く形成することができる。
【0074】
上述のように、支持体11は多孔質である。これにより、ゼオライト膜複合体1aにおいて、AFX型のゼオライト膜12(あるいは、FAU型のゼオライト膜13が残存している場合は積層ゼオライト膜14)をガス分離膜等の分離膜として使用することができる。また、支持体11は、アルミナ焼結体、ムライト焼結体またはチタニア焼結体である。これにより、FAU型のゼオライト結晶である種結晶の支持体11に対する付着性を向上することができる。
【0075】
ゼオライト膜複合体1aの製造方法は、ゼオライト膜複合体1と同様に、水熱合成にてFAU型のゼオライトを生成してFAU型の種結晶を取得する工程(ステップS21)と、支持体11上に当該FAU型の種結晶を付着させる工程(ステップS23)と、原料溶液に支持体11を浸漬し、水熱合成によりFAU型の種結晶からAFX型のゼオライトを成長させて支持体11上にAFX型のゼオライト膜12を形成する工程(ステップS25)と、当該AFX型のゼオライト膜12から構造規定剤を除去する工程(ステップS26)とを備える。これにより、AFX型のゼオライト膜12を提供することができる。
【0076】
上述のように、ゼオライト膜複合体1aの製造方法は、ステップS23とステップS25との間において、支持体11上のFAU型の種結晶を、水熱合成により膜状に成形する工程(ステップS24)をさらに備える。ステップS24では、支持体11上における種結晶の配置の均等性が向上する。したがって、膜状に成形されたFAU型の種結晶(すなわち、ゼオライト膜13)からAFX型のゼオライト膜12を形成することにより、AFX型のゼオライト膜12を形状精度良く形成することができる。
【0077】
また、ステップS25が終了した状態で、支持体11とAFX型のゼオライト膜12との間にFAU型のゼオライト膜13が存在する。この場合、ステップS25において、AFX型のゼオライト膜12の表面とは反対側の面を、常にFAU型のゼオライト膜13に接触させた状態でAFX型のゼオライト膜12を成長させることができるため、AFX型のゼオライト膜12をさらに形状精度良く形成することができる。
【0078】
一方、図1および図2に例示するゼオライト膜複合体1の製造では、支持体11上に付着させたFAU型の種結晶を膜状に成形しておらず、ステップS14が終了した状態で、AFX型のゼオライト膜12が支持体11に直接的に接触している。これにより、AFX型のゼオライト膜12の形成を簡素化することができる。
【0079】
上述のように、FAU型の種結晶およびゼオライト膜13は、Y型またはX型のゼオライトである。これにより、ステップS25において、AFX型のゼオライト膜12を効率良く形成することができる。また、FAU型の種結晶およびゼオライト膜13は、Y型のゼオライトであることがより好ましい。これにより、ステップS25において、AFX型のゼオライト膜12をさらに効率良く形成することができる。
【0080】
ゼオライト膜複合体1aの製造方法では、ステップS23において支持体11上にFAU型の種結晶を付着させることにより、上述の比較例1とは異なり、支持体11上に緻密なAFX型のゼオライト膜12を形成することができる。したがって、当該製造方法は、支持体11の表面のうち、重力の影響により結晶が付着しにくい面へのゼオライト膜12の形成に特に適している。換言すれば、当該製造方法は、ステップS23において、支持体11の表面のうちゼオライト膜複合体1aの製造時における略鉛直面または下向きの面に、FAU型の種結晶が付着される場合に特に適している。当該製造方法により、ゼオライト膜複合体1aの製造時における略鉛直面または下向きの面に対しても、緻密かつ均等なゼオライト膜12を形成することができる。なお、種結晶は、支持体11の表面であれば、上向きの面等、どの方向を向く面に付着されてもよい。
【0081】
上記ゼオライト膜複合体1,1aおよびその製造方法では、様々な変更が可能である。
【0082】
FAU型のゼオライト結晶である種結晶は、Y型およびX型以外のゼオライト結晶であってもよい。また、図5に示すゼオライト膜複合体1aでは、FAU型のゼオライト膜13は、Y型およびX型以外のゼオライト膜であってもよい。
【0083】
例えば、実施例1および実施例2の原料溶液には、FAU型のゼオライト結晶が含まれていてもよい。この場合、当該FAU型のゼオライト結晶は、好ましくはY型またはX型のゼオライト結晶であり、より好ましくはY型のゼオライト結晶である。
【0084】
種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12は、純粋なアルミノケイ酸塩である必要はなく、他の元素が含まれてもよい。例えば、種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12には、アルカリ金属やアルカリ土類金属が含まれてもよい。また例えば、種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12には、コバルト(Co)原子やP原子が含まれてもよい。例えば、種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12は、Si原子、Al原子、P原子、O原子から構成されるシリコアルミノリン酸塩(SAPO)系ゼオライトであってもよい。種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12は、必ずしもAl、SiおよびOの全てを含有する必要はない。さらには、種結晶、ゼオライト膜13およびゼオライト膜12は、Si、AlおよびPのうち、必ずしも2つ以上を含有する必要もない。
【0085】
ゼオライト膜複合体1,1aは、AFX型のゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜に限られず、炭素膜やシリカ膜等の無機膜、または、ポリイミド膜やシリコーン膜などの有機膜であってもよい。
【0086】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0087】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のゼオライト膜複合体は、例えば、ガス分離膜として利用可能であり、さらには、ガス以外の分離膜や様々な物質の吸着膜等として、ゼオライトが利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
1,1a ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 AFX型のゼオライト膜
13 FAU型のゼオライト膜
S11〜S15,S21〜S26 ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6