【実施例】
【0037】
(評価試験1)
まず、界面活性剤のHLB値と義歯安定剤の除去能との関係を検証した。
【0038】
以下の表1に示す11種類の界面活性剤を精製水に溶解させた水溶液(濃度0.1体積%)を調整した。尚、界面活性剤1〜7及び11は日光ケミカル株式会社製、界面活性剤8は和光純薬工業製、界面活性剤9は三菱ケミカルフーズ製、界面活性剤10は和光純薬工業製である。また、コントロールとして精製水を使用した。歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤としてタフグリップクリーム(登録商標、小林製薬株式会社)を1g塗布した試料を用意し、調整した各界面活性剤の水溶液150mlまたは精製水に24時間浸漬させた。その後、各界面活性剤の水溶液または精製水から試料を取り出し、アクリルレジンの表面を目視により観察し、各界面活性剤による義歯安定剤の除去能を評価した。評価基準は次の通りである。
<評価基準>
○:アクリルレジンの表面全体から油脂成分が除去されている。
△:アクリルレジンの表面から概ね油脂成分が除去されているが、油脂成分が一部残存している。
×:アクリルレジンの表面全体に細かい油脂成分が残存している。
【0039】
【表1】
【0040】
HLB値が9.6〜16の範囲内である界面活性剤3〜9を使用した場合、評価は○または△であり、アクリルレジンの表面から概ね油脂成分が除去されていた。これに対して、HLB値が9.6〜16の範囲外である界面活性剤1、2、10、11及び精製水を使用した場合、いずれもアクリルレジンの表面全体に油脂成分が残存していた。表1に示した結果より、界面活性剤のHLB値が9.6〜16であることが、義歯安定剤、特に、義歯安定剤に基材として含まれている油脂成分を除去するために必要であることが確認された。
【0041】
(評価試験2)
次に、表1に示した11種類の界面活性剤のうち、特に義歯安定剤の除去能に優れる界面活性剤4〜8用いて、義歯の浸漬時間と義歯安定剤の除去能との関係を検証した。
【0042】
表1に示した界面活性剤4〜8を精製水に溶解させた水溶液(濃度0.1体積%)を調整した。また、コントロールとして精製水を使用した。歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤としてタフグリップクリーム(登録商標、小林製薬株式会社)1gを均一に塗布した複数の試料を用意し、調整した各界面活性剤の水溶液150mlに浸漬させた。試料の浸漬開始から1時間後、3時間後、6時間後、12時間後及び24時間後に試料表面を目視により観察し、塗布した義歯安定剤の残余面積の割合(アクリルレジンに対する義歯安定剤の塗布面積のうち、残存する義歯安定剤が占める領域の面積の割合)を整数値で求め、以下の評価基準に基づいて残余面積の割合を採点した。また、各界面活性剤またはコントロールの評価に用いた試料のn数を2〜5とし、n個の試料のスコアの平均値を
図1に示す評価値とした。<評価基準>
5:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存しており、残余面積の割合が100%である。
4:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存しており、残余面積の割合が76〜99%である。
3:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存しており、残余面積の割合が51〜75%である。
2:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存しており、残余面積の割合が26〜50%である。
1:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存しており、残余面積の割合が1〜25%である。
0:アクリルレジンの表面に義歯安定剤が残存していない。
【0043】
図1は、表1に示した界面活性剤4〜8のそれぞれについて、義歯の浸漬時間と義歯安定剤の残存量との関係を示すグラフである。
図1に示すように、界面活性剤4〜8の水溶液に試料を浸漬した場合、浸漬開始から6時間経過時には、コントロールと比べて義歯安定剤の残余面積が減少し、浸漬開始から24時間経過時における義歯安定剤の残余面積は、コントロールと比べて顕著に減少した。また、界面活性剤4〜8の中でも、界面活性剤8(オクチルフェノールエトキシレート、商品名:Triton X−100)は、義歯安定剤の除去量及び除去速度のいずれも他の界面活性剤より優れていることが確認された。
【0044】
次に、表1に示した11種類の界面活性剤のうち、最も義歯安定剤の除去能に優れる界面活性剤8用いて、界面活性剤の濃度と義歯安定剤の除去能との関係を検証した。
【0045】
(評価試験3)
表1に示した界面活性剤8を精製水に溶解させ、濃度が0.01%、0.02%、0.05%、0.10%、0.20%、0.50%及び1.00%(いずれも体積%)の水溶液を調整した。上記の評価試験2と同様に、歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤としてタフグリップクリーム(登録商標、小林製薬株式会社)1gを均一に塗布した複数の試料を用意し、調整した各界面活性剤の水溶液150mlに浸漬させた。試料の浸漬開始から1時間後、3時間後、6時間後、12時間後及び24時間後に試料表面を目視により観察し、塗布した義歯安定剤の残余面積の割合を評価試験2と同様に整数値で求め、評価試験2で説明した評価基準に基づいて残余面積の割合を採点した。また、各界面活性剤またはコントロールの評価に用いた試料のn数を2〜5とし、n個の試料のスコアの平均値を
図2に示す評価値とした。
【0046】
図2は、表1に示した界面活性剤8について、界面活性剤の濃度毎に、義歯の浸漬時間と義歯安定剤の残存量との関係を示すグラフである。
図2に示すように、界面活性剤8の水溶液に試料を浸漬した場合、界面活性剤濃度が0.02体積%以上であれば、義歯安定剤の除去能が発揮され、界面活性剤濃度が0.05体積%以上であれば、より優れた義歯安定剤の除去能が発揮されることが確認された。
【0047】
(実施例1及び2)
次に、本発明に係る義歯洗浄剤を具体的に実施した実施例として、市販の義歯洗浄剤の水溶液に上記の界面活性剤8を添加した溶液を調整し、義歯安定剤の除去能を検証した。精製水150mlに、界面活性剤8(オクチルフェノールエトキシレート、商品名:Triton X−100)を0.2体積%となるように溶解させた水溶液を調整した。調整した水溶液に、酵素入りポリデント(登録商標、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)を1錠投入した溶液を実施例1及び2に係る義歯洗浄剤溶液とした。また、比較例においては、精製水150mlに酵素入りポリデント(登録商標、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)を1錠投入した溶液を義歯洗浄剤溶液とした。
【0048】
実施例1及び比較例1においては、歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤として新ポリグリップ無添加(登録商標、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)1gを均一に塗布した複数の試料を用意し、調整した義歯洗浄剤溶液に浸漬させた。
【0049】
実施例2及び比較例2においては、歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤としてタフグリップクリーム(登録商標、小林製薬株式会社)1gを均一に塗布した複数の試料を用意し、調整した義歯洗浄剤溶液に浸漬させた。
【0050】
試料の浸漬開始から1時間後、3時間後、6時間後、12時間後及び24時間後に試料表面を目視により観察し、上記の評価試験2と同じ評価方法及び評価基準に基づき、均一に塗布した義歯安定剤の残余面積の割合を採点した。また、各界面活性剤またはコントロールの評価に用いた試料のn数を2〜5とし、n個の試料のスコアの平均値を
図3に示す評価値とした。
【0051】
図3は、実施例及び比較例に係る義歯洗浄剤溶液の義歯安定剤除去能を示すグラフであって、義歯の浸漬時間と義歯安定剤の残余面積の割合との関係を示すグラフである。
図3に示すように、市販の義歯洗浄剤に界面活性剤8(オクチルフェノールエトキシレート、商品名:Triton X−100)を添加した実施例1及び2に係る義歯洗浄剤溶液を用いた場合、市販の義歯洗浄剤のみを用いた比較例1及び2に係る義歯洗浄剤溶液と比べて、義歯安定剤の除去量及び除去速度のいずれも向上することが確認された。
【0052】
(評価試験4)
評価試験4として、表1に示した界面活性剤8と、以下の界面活性剤12及び13の義歯安定剤の除去能の差を検証した。
・界面活性剤12:ポリオキシエチレン(8)アルキルエーテル(商品名:エマルゲン1108、花王株式会社)、HLB値 13.5
・界面活性剤13:ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸グリセリル(商品名:ユニグリ(登録商標)MK−207、日油株式会社)、HLB値 13.0
【0053】
界面活性剤8、12及び13を精製水に溶解させた水溶液(濃度0.1体積%)を調整した。歯科用の加熱重合型アクリルレジン(面積25mm
2、厚み2mm)の表面に、クリームタイプの義歯安定剤としてタフグリップクリーム(登録商標、小林製薬株式会社)または新ポリグリップ無添加(登録商標、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)を1g塗布した試料を用意し、調整した各界面活性剤の水溶液150mlに24時間浸漬させた。試料の浸漬開始から1時間後、3時間後、6時間後、16時間後及び24時間後に試料表面を目視により観察し、塗布した義歯安定剤の残余面積の割合(アクリルレジンに対する義歯安定剤の塗布面積のうち、残存する義歯安定剤が占める領域の面積の割合)を整数値で求め、上記の評価試験2の評価基準に基づいて残余面積の割合を採点した。尚、界面活性剤8の1時間後、3時間後、6時間後及び16時間後のn数は6、24時間後のn数は12、界面活性剤12及び13の1時間後、3時間後、6時間後及び16時間後のn数は2、24時間後のn数は4であり、n個の試料のスコアの平均値を
図4に示す評価値とした。
【0054】
図4は、界面活性剤8、12及び13のそれぞれについて、義歯の浸漬時間と義歯安定剤の残存量との関係を示すグラフである。尚、
図4(a)は、義歯安定剤としてタフグリップクリームを用いた場合のグラフであり、
図4(b)は、義歯安定剤として新ポリグリップ無添加を用いた場合のグラフである。
図4に示すように、界面活性剤12及び13は、義歯安定剤の除去量及び除去速度のいずれにおいても界面活性剤8(オクチルフェノールエトキシレート、商品名:Triton X−100)と同等であり、HLB値が9.6〜16の範囲内である非イオン界面活性剤が優れた義歯安定剤の除去能を有していることが確認された。
【0055】
(評価試験5)
評価試験5として、上記の界面活性剤8、12及び13と、以下の界面活性剤14との汚垢の除去能を評価した。
・界面活性剤14:ヤシ油アルキルベタイン(商品名:パイオニンC−157−A、竹本油脂株式会社)
【0056】
モデル汚れとして、以下の材料からなる汚垢組成物を調製した。まず、牛脂及び大豆を混合した油脂にクロロホルムを加え、すぐにモノオレイン及びオイルレッドを加え、牛脂が溶けるまで攪拌した。
[汚垢組成物]
牛脂 80g
大豆油 40g
モノオレイン 1.5g
オイルレッド 0.4g
クロロホルム 120ml
【0057】
基板として、スライドガラス及びアクリル板(いずれも76mm×26mm×1mmの大きさ)を用意した。基板は予め計量した。調製した汚垢組成物をビーカーに55mmの深さにいれ、恒温槽で35℃に加温した。加温した汚垢組成物中に基板を浸漬させ、基板をビーカーの底部に当接させた状態を1〜2秒維持してからゆっくりと引き上げた。基板の下部に溜まった汚垢組成物をティッシュペーパーで吸い取り、汚垢組成物に浸漬した部分が下になるように吊して35℃の恒温槽に入れ、一晩乾燥させた。乾燥後の基板の下部に固まって溜まった汚垢組成物を取り除いて基板上の汚垢組成物を均一な状態にし、計量した。染色バスケットに3枚の試料を間隔を空けて立て、恒温槽で35℃に保温した界面活性剤の水溶液を入れた染色バットに染色バスケットを入れて5分間静置した。尚、界面活性剤の濃度は、界面活性剤8及び12〜14のいずれも0.5体積%とした。静置後、浮き出た汚垢組成鬱を流水で洗い流し、汚垢組成物に浸漬した部分が下になるように吊して35℃の恒温槽に入れ一晩乾燥させた。乾燥後の基板を計量し、下記式に基づいて洗浄率を算出した。
洗浄率(%)=(洗浄前の汚垢質量−洗浄後の汚垢質量)/洗浄前の汚垢質量×100
【0058】
表2に、界面活性剤8及び12〜14の洗浄率を示す。尚、評価試験5は、基板と界面活性剤の組み合わせごとに3点ずつ行い、表2に示す値は、3点の試験結果として算出された洗浄率の平均値である。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、界面活性剤8の水溶液の洗浄率は、スライドガラスに汚垢組成物を付着させた試料に対しては高かったが、義歯床と同じ材質のアクリル板に汚垢組成物を付着させた試料に対しては26.3%まで低下した。また、界面活性剤12及び13の水溶液の洗浄率は、スライドガラスに汚垢組成物を付着させた試料及びアクリル板に汚垢組成物を付着させた試料のいずれに対しても低い値となった。これに対して、両性界面活性剤である界面活性剤14の洗浄率は、アクリル板に汚垢組成物を付着させた試料に対して80%以上の高い値となった。これらの結果より、アクリル樹脂製の義歯床に付着した汚垢を除去するには、非イオン界面活性剤よりも両性界面活性剤を用いることが有効であることが確認された。
【0061】
(実施例3〜6)
次に、本発明に係る義歯洗浄剤を具体的に実施した実施例として、非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤を含有する水溶液を調製し、義歯安定剤及び汚垢の除去能を検証した。以下の実施例及び比較例では、非イオン界面活性剤として、上記の界面活性剤13(ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸グリセリル(商品名:ユニグリ(登録商標)MK−207、日油株式会社)、HLB値 13.0)を使用した。また、両性界面活性剤として、下記の界面活性剤15を使用した。
・界面活性剤15:ヤシ油ジメチルアミノ酢酸ベタイン(商品名:ニッサンアノン(登録商標)BF、日油株式会社)
【0062】
義歯安定剤の除去能は、次のように評価した。基板として、50mm×50mm×2mmの大きさのアクリル板を用意した。クリームタイプの義歯安定剤として新ポリグリップ無添加(登録商標、グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン)を用意し、義歯安定剤1gに対してオイルレッド0.002gを混合し着色した。この着色は、基板に残存する義歯安定剤の視認性を向上させるためのものである。基板の表面に、着色した義歯安定剤1gを均一に塗布したものを試料として複数用意した。
【0063】
界面活性剤13及び15を表3に記載の濃度(単位:体積%)で含有する水溶液を調製した。恒温槽で35℃に保持した界面活性剤の水溶液に、調製した試料を45°の角度で浸漬させ、35℃で12時間静置した。試料の浸漬開始から12時間後に試料表面を目視により観察し、塗布した義歯安定剤の残余面積の割合(アクリル板に対する義歯安定剤の塗布面積のうち、残存する義歯安定剤が占める領域の面積の割合)を整数値で求め、上記の評価試験2の評価基準に基づいて残余面積の割合を採点した。
【0064】
汚垢の除去能は、基板としてアクリル板(76mm×26mm×1mmの大きさ)を用い、上記の評価試験5と同様の方法により評価した。界面活性剤水溶液に対するアクリル板の浸漬時間は12時間とし、表3に記載の組成の界面活性剤水溶液のそれぞれについて3点ずつ試験を行った。
【0065】
表3に、実施例3〜6及び比較例3〜5に係る義歯洗浄剤のそれぞれについて、界面活性剤の組成、義歯安定剤の残存面積の評価値(評価試験2の評価基準に基づくスコア)及び洗浄率を併せて示す。表3に示す洗浄率の値は、3点の試験結果として算出された洗浄率の平均値である。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、実施例3〜6及び比較例3〜5に係る義歯洗浄剤は、HLB値が9.6〜16である非イオン界面活性剤を含有することにより、12時間の浸漬で、アクリル板に塗布した義歯安定剤の大部分を除去することができた。また、実施例3〜6に係る義歯洗浄剤は、汚垢組成物の洗浄率も70%以上と高くなった。これに対して比較例3〜5に係る義歯洗浄剤は、両性界面活性剤の含有量が、使用時の水溶液の状態での非イオン界面活性剤の50%未満であるため、汚垢組成物の洗浄率がいずれも低い値となった。表3の結果より、非イオン界面活性剤と両性界面活性剤を併用し、両性界面活性剤の含有量を、使用時の水溶液の状態での非イオン界面活性剤の含有量の50質量%以上とした義歯洗浄剤は、クリーム状の義歯安定剤及び汚垢のいずれに対しても優れた除去能を有することが確認された。