特許第6861424号(P6861424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクトシオナーノエ オブシェストヴォ“タツフィムファルムプレパラティ”の特許一覧 ▶ フェデラルノエ ゴスダーツヴェノエ アヴトノムノエ オブラゾヴァテルノエ ウシュレヅデノエ ヴィッシェゴ オブラゾヴァニヤ“カザンスキー(プリヴォルジュスキー)フェデラルニーユニバーシテット”の特許一覧

特許6861424細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法
<>
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000007
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000008
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000009
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000010
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000011
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000012
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000013
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000014
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000015
  • 特許6861424-細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861424
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/08 20060101AFI20210412BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210412BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   A61K31/08
   A61K47/10
   A61P43/00 121
【請求項の数】3
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-545237(P2019-545237)
(86)(22)【出願日】2017年10月31日
(65)【公表番号】特表2020-503370(P2020-503370A)
(43)【公表日】2020年1月30日
(86)【国際出願番号】RU2017000809
(87)【国際公開番号】WO2018084749
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】2016143074
(32)【優先日】2016年11月2日
(33)【優先権主張国】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】519159709
【氏名又は名称】アクトシオナーノエ オブシェストヴォ“タツフィムファルムプレパラティ”
(73)【特許権者】
【識別番号】519159710
【氏名又は名称】フェデラルノエ ゴスダーツヴェノエ アヴトノムノエ オブラゾヴァテルノエ ウシュレヅデノエ ヴィッシェゴ オブラゾヴァニヤ“カザンスキー(プリヴォルジュスキー)フェデラルニーユニバーシテット”
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】シュチルリン,ユーリイ グリゴレヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】イクサノヴァ,アルフィヤ ガブドゥラッハトヴナ
(72)【発明者】
【氏名】バディーヴ,ユーリイ ヴラディミロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】バラキン,コンスタンティン ヴァレリーヴィッチ
【審査官】 星 功介
(56)【参考文献】
【文献】 ロシア国特許出願公開第00127401(RU,A)
【文献】 Current Pharmaceutical Design,2014, Vol.20, No.5,pp.793-807
【文献】 Biomacromolecules,2013, Vol.14, No.2,pp.424-430
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴエーテルポリオール構造のキラル複合体(光学的に活性な混成分子)群に属する、細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤であって、式4:
【化1】
,
(式中、n=2〜6のポリオキシプロピレンヘキソールと、
式5:
【化2】
,
(式中、m=5〜9のポリオキシプロピレングリコールとの混合物である、細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤。
【請求項2】
ソルビトール((2S、3R、4R、5R)−ヘキサン−1,2,3,4,5,6−ヘキソール)および二官能性酸素含有化合物H−R−Hの混合物を調製し、式中、R=−O−;[−OCHCH(CH)]O−、およびk=1〜7であり、この混合物とプロピレンオキシドとをアルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物の存在下でさらに相互作用させ、前記得られた生成物を酸でさらに中和し、続けて、前記得られた生成物を精製して目的の請求項1に記載のATP依存性逆細胞輸送体の阻害剤を得ることを含み、得られた請求項1に記載の阻害剤が、215〜240mg KOH/gのヒドロキシル価を有し、化合物4が1000〜1500Daの分子量を有し、化合物5が300〜500Daの分子量を有し、ならびに化合物4および5のモル比が0.9〜1.1である、請求項1に記載のATP依存性逆細胞輸送体の阻害剤を製造する方法。
【請求項3】
前記化合物4および5モル比が、1:1であることを特徴とする、請求項1に記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的活性物質、すなわち、オリゴエーテルポリオール(OEP)構造のキラル複合体(光学的に活性な混成分子)群の開発の分野に関し、この物質は、ABC輸送体(ATP結合カセット輸送体)と略記される細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤である。本発明は、生物学、薬理学、医薬品、医学、農業および生態学の分野で使用して、請求されたABC輸送体の阻害剤の作用に基づいて細胞の多剤耐性の機序を抑えることにより、薬物−抗腫瘍、心臓血管、抗アレルギー性、抗炎症性およびその他の薬物を含む生理学的に活性物質の作用の有効性を大きく高めることができる。
【背景技術】
【0002】
最も急を要する最近の薬物療法の問題の1つは、異常細胞の多剤耐性−薬物に対する細胞の自然または獲得免疫−であり、それらの作用機序および構造は様々である。病理学的細胞薬剤耐性の出現の主要な機序の1つは、ABC輸送体ファミリーのATP依存性ポンプを用いて、細胞中に侵入する生体異物分子を再捕捉するおよび細胞中に放出する能力である(非特許文献1)。
【0003】
ABC輸送体ファミリーには、P−gp糖タンパク質(P−糖タンパク質)、多剤耐性関連タンパク質(MRP)および乳癌耐性タンパク質(BCRP)が含まれる。これらのABC輸送体の活性は、病理過程が細胞中で起こると発現が大きく増大し、薬物療法の有効性の大きな低下に繋がる。このような効果は、標的薬剤を含む、腫瘍の化学療法用のほとんどの薬物の例に対し詳細に示され、研究されている(非特許文献2)が、また、多くの他の病態においても同様に、ABC輸送体は薬物の有効性を大きく低減させる。ABC輸送体は、広い基質特異性を有し、異なる治療薬群の多くの薬物の逆捕捉および細胞からの放出を行っている。
【0004】
網羅的ではない例として、ABC輸送体基質は(非特許文献3):鎮痛剤(アシマドリン、フェンタニール、モルヒネ、ペンタゾシン);抗生物質(アンピシリン、アジスロマイシン、セフォペラゾン、セフトリアキソン、クラリスロマイシン、ドキシサイクリン、エリスロマイシン、グラミシジンA、グラミシジンD、グレパフロキサシン、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レボフロキサシン、リファンピシン、スパルフロキサシン、テトラサイクリン、バリノマイシンなど);抗ウイルス薬(デラビルジン、ロピナビル、ラミブジン、ネルフィナビル、ジドブジン);抗不整脈薬(アミオダロン、ジゴキシン、リドカイン、プロパフェノン、キニジン、ベラパミル);抗癌剤(5−フルオロウラシル、アクチノマイシンD、ビサントレン、クロラムブシル、コルヒチン、シスプラチン、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、ゲフィチニブ、イリノテカン、メトトレキセート、マイトマイシンC、ミトキサントロン、パクリタキセル、タモキシフェン、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、など);抗ヒスタミン剤(シメチジン、フェキソフェナジン、ラニチジン、テルフェナジン);抗高脂血症剤(ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン);カルシウムチャネル遮断薬(アジドピン、ベプリジル、ジルチアゼム、フェロジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、チアパミル、ベラパミル);抗HIV薬(アンプレナビル、インジナビル、ロピナビル、ネルフィナビル、サキナビル、リトナビル);免疫抑制薬(シクロスポリンA、シロリムス、タクロリムス)抗うつ剤(クロルプロマジン、フェノチアジン)および多くの他の天然、合成または半合成起源の医薬化合物である。
【0005】
したがって、効果的で安全な細胞のATP依存性逆輸送体阻害剤の生成は、薬物を含む広範囲の生理学的に活性物質の有効性を増大するための有望な手法である。このような薬物の生成は、活性物質の治療量を大きく低減し、その結果として、それらの副作用が大きく低減することにより、薬理学および医学における質的飛躍をもたらすであろう。
【0006】
ABC輸送体を阻害できる承認された薬物を含む研究レベルの技術由来の広範囲の化合物が知られている。したがって、抗癌剤の作用に対する癌細胞の感受性を高める薬物としてのABC輸送体阻害剤の生成に関して大規模な研究作業が実施された(非特許文献3)。特に、P−gp阻害剤として、アトルバスタチン、アムロジピン、シクロスポリンA、ジスルフィラム、ニフェジピン、ベラパミル、製剤GF120918、LY475776、LY335979、MS−209、OC144−093、プルロニックL61、PSC−833、R101933、S9788、VX−710、XR−9576、V−104による抗腫瘍併用化学療法が活発になり、研究された。アジスロマイシン、シクロスポリンA、フロセミド、グリベンクラミド、プロベネシド、MK−571がMRP2の阻害剤として研究された。シクロスポリンA、ジピリダモール、エラクリダー、フミトレモルジンC、ノボビオシン、オルタタキセル、レセルピン、リトナビル、タリキダール、GF120918、VX−710、XR−9576がBCRP阻害剤として研究された。
【0007】
これらは、技術レベルから既知であるので、3つのABC輸送体阻害剤世代が区別される:
世代1:シクロスポリンA、ベラパミル(例として)。これらの化合物は、効果的な逆輸送阻害剤であるが、それ自体で高い毒性がある。化学療法剤としてのそれらの使用は、効果のある臨床成績に繋がらなかった。
世代2:PSC−833およびVX−710(例として)。これらの化合物も、効果的な逆輸送阻害剤である。しかし、化学療法剤としてのそれらの使用は、いずれも効果のある臨床成績に繋がらなかった。加えて、薬物−薬物相互作用に関連する治療の顕著な副作用が観察された。
世代3:GF120918、LY335979、R101933およびXR9576(例として)。これらの化合物は、インビトロモデルに対し、世代1および世代2よりもさらに効果的な逆輸送阻害剤である。しかし、化学療法剤としてのそれらの使用は、低い安全性(望ましくない副作用)および不十分な治療効力のいずれかの理由で、効果のある臨床成績に繋がらなかった。
【0008】
一般に、この分野での研究の現状は、インビトロレベルでの狭い範囲の成功が特徴であるが、しかし、インビボへの移行、およびさらには臨床試験への移行は通常、望ましい効果をもたらさない。その理由は、主として、組成物の望ましくない副作用の存在、最適でない薬物動態学、ならびに阻害効果の有効性の欠如が原因である(非特許文献3)。同時に、全ての最近の研究では、この方向でのさらなる探求の見通しが述べられている。
【0009】
これに基づいて、この手法の見通しを完全に実現するために、より活性でより安全なABC輸送体の阻害剤が必要であることが明らかになる。
【0010】
出願日における明確な特徴に合致するための請求された技術的解決策の類似体またはプロトタイプは特定されなかったが、しかし、出願者は、意図した目的のための課題を解決する多数の手段を特定した。
【0011】
請求された技術的解決策は、同時に、治療効力を大きく増大し、安全性を高め、ならびに活性医薬物質のコストを大きく低減し、その物質を得るための製造プロセスの能力を改善する独創的な手法を用いる。同時に、請求された技術的解決策は、以前には世界で未知であった製品により、国際市場へ参入する機会を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Choi Y.H.,ABC transporters in multidrug resistance and pharmacokinetics,and strategies for drug development / Y.H.Choi,A.M.Yu //Curr.Pharm.Des.20(2014),P.793−807
【非特許文献2】Tiwari A.K.Revisiting the ABCs of multidrug resistance in cancer chemotherapy / A.K.Tiwari,K.Sodani,C.L.Dai,C.R.Ashby Jr.,Z.S.Chen // Curr.Pharm.Biotechnol.12(2011),P.570−594
【非特許文献3】Chen Z.,Mammalian drug efflux transporters of the ATP binding cassette(ABC)family in multidrug resistance:A review of the past decade./ Z.Chen,T.Shi,L.Zhang,P.Zhu,M.Deng,C.Huang,T.Hu など// Cancer Letters,370(2016),P.153−164
【非特許文献4】C.Kantor Biophisicheskaya chimiya [Biophysical chemistry].Volume 2.Metody issledovania struktury i funktsii biopolimerov/ [Methods of study of structure and function of biopolymers] C.Kantor,P.Shimmel,− Moscow:MIR Publ.,1985.
【非特許文献5】Batrakova E.V.Mechanism of sensitization of MDR cancer cells by Pluronic block copolymers:Selective energy depletion / E.V.Batrakova,S.Li,W.F.Elmquist など// Br J Cancer.−2001.−V.85,N.12.−P.1987−1997.
【非特許文献6】Kabanov A.V.An essential relationship between ATP depletion and chemosensitizing activity of Pluronic block copolymers / A.V.Kabanov,E.V.Batrakova,V.Y.Alakhov // J Control Release.2003.− V.91,N.1−2.− P.7583.
【非特許文献7】Gautherot,J.Effects of Cellular,Chemical,and Pharmacological Chaperones on the Rescue of a Trafficking−defective Mutant of the ATP−binding Cassette Transporter Proteins ABCB1/ABCB4 / J.Gautherot,A−M.Durand−Schneider,D.Delautier,J−L.Delaunay,A.Rada,J.Gabillet,C.Housset,M.Maurice,T.Ait−Slimane // HEJOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY.− 2012.− Vol.287.− No. 7.− P.5070−5078.
【非特許文献8】Takahashi,K.Purification and ATPase Activity of Human ABCA1 / K.Takahashi,Y.Kimura,N.Kioka,M.Matsuo,K.Ueda // The Journal of biological chemistry.2006.Vol.281,no.16.P.10760−10768.
【非特許文献9】Batrakova,E.V.Effect of pluronic P85 on ATPase activity of drug efflux transporters / E.V.Batrakova,S.Li,Y.Li,V.Y.Alakhov,A.V.Kabanov // Pharm Res.2004.V.21,N.12.P.2226−2233.
【非特許文献10】Regev,R Membrane fluidization by ether,other anesthetics,and certain agents abolishes P−glycoprotein ATPase activity and modulates efflux from multidrug−resistant cells / R.Regev,Y.G.Assaraf,G.D.Eytan // Eur J Biochem.1999.Vol.259.pp.18−24.
【非特許文献11】Womack,M.D.Detergent effects on enzyme activity and solubilization of lipid bilayer membranes / M.D.Womack,D.A.Kendall,R.C.MacDonald // Biochimica et Biophysica Acta(BBA)− Biomembranes.− 1983.− Vol.733.−NO 2.− P.210−215.
【非特許文献12】Batrakova,E.V.Mechanism of pluronic effect on P−glycoprotein efflux system in blood−brain barrier:contributions of energy depletion and membrane fluidization / E.V.Batrakova,S.Li,S.V.Vinogradov など// J Pharmacol Exp Ther.− 2001.− Vol.299.−NO 2.− P.483−493.
【非特許文献13】SP1049C [Electronic resource].− 2016.− Mode of access:http://www.supratek.com/pipeline/products
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
請求された技術的解決策の目的は、300〜500Daの分子量のポリオキシプロピレングリコールおよび1000〜1500Daの分子量のポリオキシプロピレンヘキソールからなるオリゴエーテルポリオールの細胞の逆ABC輸送体の阻害剤(OEP阻害剤)を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求された技術的解決策の目的は、次の化学プロセスを下記スキームに従って実施することにより達成される:
【0015】
【化1】
ここで、
1−ソルビトール((2S、3R、4R、5R)−ヘキサン−1,2,3,4,5,6−ヘキソール);
2−二官能性酸素含有化合物、式中、R=−O−;[−OCHCH(CH)]−O−、k=1〜7;
3−ポリプロピレンオキシド;
M(OH)x‘−金属水酸化物、式中、Mは、アルカリまたはアルカリ土類金属、x=1または2;
n=2〜6、ほとんどの場合n=4;
m=5〜9、ほとんどの場合、m=7である。
【0016】
このように、この方法のために請求された技術的解決策は、一度に、1つの反応器中で、1ステップで、等モル比率の光学的に活性な化合物4および化合物5を含む目的の複合体が与えられる比率で加えた入手可能な試薬を用いて、実施される。
【0017】
全体として、プロセスは、後述のように、上記スキームに従って実施される。
【0018】
最初の反応物質1および2は、反応器−重合装置中に装填され、アルカリ触媒が加えられ、撹拌が開始され、均一塊を得るために、反応混合物が窒素雰囲気中、90〜100℃で30分間維持される。その後、化合物3の計算量を、重合反応器中で0.39MPa(4kgf/cm)以下の圧力を与える速度、および115℃以下の温度で供給する。この後で、反応生成物は、圧力低下が止むまで、115℃以下の温度で1〜1.5時間保持される。
【0019】
反応物質1、2およびM(OH)の比が、それらのプロピレンオキシドとの反応の結果として、化合物4と5の等モル混合物が得られるように計算される。n=4の化合物4およびm=7の化合物5は、記載のアニオン性オリゴマー化反応で形成された主要オリゴマー成分である。化合物3の量は、得られた化合物4と5の等モル混合物が215〜240mgKOH/gの範囲内のヒドロキシル価を有するように、計算される。
【0020】
プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール、ヘプタプロピレングリコール、もしくは水、またはこれらの混合物は、二官能性酸素含有化合物2として機能し得る。アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物が酸素含有化合物またはソルビトールと相互作用する場合、水が放出され、得られた標的生成物4と5の等モル比を計算する場合には、これも考慮に入れる必要がある。
【0021】
化合物4に関しては、最適分子量は1200Daであるが、化合物4は1000〜1500Daの範囲でも有効性を示す。化合物5に関しては、最適分子量は400Daであるが、化合物5は300〜500Daの範囲でも有効である。指定範囲を超える分子量も同様に可能であるが、得られたABC輸送体阻害剤の活性が幾分低下することを伴う。
【0022】
ABC輸送体阻害剤は、別法によっても得ることができ、それ自体の注目度のためにこれは出願者によっては提供されないが、化合物1と2を、アルカリ触媒作用の条件下で、等モル量で更に機械的混合をして、それぞれ、プロピレンオキシド3と反応させることにより、化合物4と5を別々に得ることから構成される。
本発明は、以下で図により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】OEP阻害剤の粘度対温度のプロットである。
図2】OEP阻害剤のHPLC−MSスペクトル図である。
図3】条件的正常ヒト腫瘍細胞に対する化合物の最大半量増殖阻害濃度(CC50およびIC50、μM)を示す。
図4】HPLC−MSデータによる分析した細胞ライセート中のOEP阻害剤の内容を示す。
図5】エフェクター:OEP阻害剤;ドキソルビシンならびにOEP阻害剤、コレステロールおよびトリトンX−100の配合物の添加後の細胞懸濁液中のDPHT(1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン)の蛍光偏光を示す。(A)MCF−7細胞;(B)MDR MCF−7/Vinを含む細胞。懸濁液密度は、2x10個の細胞/mlであり、25℃で次の濃度を有する:OEP阻害剤−8.7、87および870μg/ml;ドキソルビシン−1μM;コレステロール−100μg/ml;トリトンX−100〜0.05%。
図6】極性CaCo−2細胞中のドキソルビシンの経上皮輸送のヒストグラムである。略語:頂端面−基底面輸送(A−B)、基底面−頂端面輸送(B−A)。
図7】ドキソルビシン、OEP阻害剤、またはそれらの組み合わせで48時間処理後の、元のおよび遺伝子改変MCF−7細胞の免疫ブロッティングの結果の写真である。
図8】Sf9細胞の単離膜(0.2mg/mlのタンパク質)のヒトP−糖タンパク質のATPアーゼ活性に与えるエフェクターの作用を示す。対照:5mmolのATPおよび0.1mmolのビンブラスチンの存在下での膜の基本活性。
図9】OEP阻害剤(87、430、2175μg/ml)、ドキソルビシン(10μM)およびそれらの配合物(OEP阻害剤87μg/ml+DOX10μM)で処理した細胞MCF−7(A)およびMCF−7/Vin(B)中のライセートのATP含量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
さらに、出願者は、OEP阻害剤を得るための方法の実施例を提供する。
【実施例1】
【0025】
ソルビトール−水出発系からOEP阻害剤を得る方法。
27.3g(0.15mol)のソルビトールを、機械的撹拌機、冷却器、熱電対、酸化物注入管を備えた鋼製重合反応器に装填し、0.6g(0.01mol)の水酸化カリウムを2.51g(0.139mol)の水に加えた。反応器を窒素で3回フラッシングする。撹拌を開始し、均一塊を得るために、窒素雰囲気中、90〜100℃で30分間保持される。温度を115℃に上げ、270g(4.65mol)のプロピレンオキシドを、重合反応器中で0.39MPa(4kgf/cm)以下の圧力を与える速度、および115℃以下の温度で少しずつ分けて供給する。計算量のプロピレンオキシドを供給後、反応生成物は、圧力低下が止むまで、120℃以下の温度で1〜1.5時間保持される。
【0026】
得られたOEP阻害剤をオルトリン酸の50%の水溶液を用いてpH6.5〜7.5に中和し、80〜90℃の温度で真空下で水を除去し、帯布を通してモンモリロナイトで濾過する。全ての操作後、270gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は645mPa・s、密度は、1.038g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、220mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例2】
【0027】
ソルビトール−プロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
28.7g(0.157mol)のソルビトールを、機械的撹拌機、冷却器、熱電対、酸化物注入管を備えた鋼製重合反応器に装填し、0.63g(0.01mol)の水酸化カリウムを10.98g(0.145mol)のプロピレングリコールに加えた。反応器を窒素で3回フラッシングする。撹拌を開始し、均一塊を得るために、窒素雰囲気中、90〜100℃で30分間保持される。温度を115℃に上げ、274g(4.73mol)のプロピレンオキシドを、重合反応器中で0.39mPa(4kgf/cm)以下の圧力を与える速度、および115℃以下の温度で少しずつ分けて供給する。プロピレンオキシドの計算量を供給後、反応生成物は、圧力低下が止むまで、120℃以下の温度で1〜1.5時間保持される。
【0028】
得られたOEP阻害剤をオルトリン酸の50%の水溶液を用いてpH6.5〜7.5に中和し、80〜90℃の浴温度、真空下で水を除去し、帯布を通してモンモリロナイトで濾過する。全ての操作後、285gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は618mPa・s、密度は、1.035g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、231mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例3】
【0029】
ソルビトール−ジプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.3g(0.15mol)、KOH−0.6g(0.011mol)、ジプロピレングリコール−18.5g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、255g(4.4mol)である。中和および濾過後、308gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は623mPa・s、密度は、1.036g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、227mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例4】
【0030】
ソルビトール−トリプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.3g(0.15mol)、KOH−0.61g(0.011mol)、トリプロピレングリコール−26.7g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、246g(4.24mol)である。中和および濾過後、280gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は629mPa・s、密度は、1.036g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、229mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例5】
【0031】
ソルビトール−テトラプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.29g(0.15mol)、KOH−0.6g(0.011mol)、テトラプロピレングリコール−34.75g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、246g(4.24mol)である。中和および濾過後、285gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は620mPa・s、密度は、1.034g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、233mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【0032】
ペンタ、ヘキサ、およびヘプタプロピレングリコールを、プロピレングリコールとプロピレンオキシドとをアルカリ触媒条件下で反応させることにより得た。ヒドロキシル価をそれぞれの試料について測定した。
【実施例6】
【0033】
ソルビトール−ペンタプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.3g(0.15mol)、KOH−0.61g(0.011mol)、ペンタプロピレングリコール−42.8g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、230g(3.95mol)である。中和および濾過後、285gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は627mPa・s、密度は、1.033g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、231mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例7】
【0034】
ソルビトール−ヘキサプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.31g(0.15mol)、KOH−0.6g(0.011mol)、ヘキサプロピレングリコール−50.87g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、222g(3.83mol)である。中和および濾過後、283gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は615mPa・s、密度は、1.037g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、225mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【実施例8】
【0035】
ソルビトール−ヘプタプロピレングリコール出発系からのOEP阻害剤の調製。
実施例2に示した方法により反応を実施した。出発物質の量:ソルビトール−27.3g(0.15mol)、KOH−0.61g(0.011mol)、ヘプタプロピレングリコール−58.9g(0.14mol)。プロピレンオキシドの量は、214g(3.83mol)である。中和および濾過後、283gのわずかに黄色の生成物が得られる。粘度は623mPa・s、密度は、1.036g/cm(20℃)である。ヒドロキシル価は、224mg KOH/g(GOST 25261−82 cl.3.1)である。
【0036】
得られたOEP阻害剤は無色またはわずかに黄色い液体で、室温で575〜715MPa・sの粘度(図1は、OEP阻害剤の粘度の温度依存性を示す)、1.01〜1.05g/cm(20℃)の範囲の密度を有する。ヒドロキシル価は215〜240mg KOH/gであり、10%溶液(エタノール/水=70/30)のpHは5.5〜7.5である。
【0037】
OEP阻害剤は、小さい質量(400〜1200Da)およびより重い質量(1500〜2000Da)の両方の範囲中の一組のm/cピーク(図2)により特徴付けられ、これは、重縮合反応生成物の統計的セットの存在を反映している。分析は、Extend Guardプレカラム(1x17mm、粒子サイズ5μm)を備えたAgilent ZORBAX Extend−C18クロマトグラフィーカラム(カラム寸法は、1x150mm、粒子サイズは3.5μm)を用いて、Agilent 1260 Binary Systemクロマトグラフ(真空脱気装置G1379B、2成分勾配ポンプG1312B、カラムサーモスタットG1316A、自動サンプラーG1367E、自動サンプラー用サーモスタットG1330B)により実施した。検出器は、DuoSprayイオン化源を備えた高解像度四重極飛行時間質量分光計AB Sciex 5600である。移動相:溶媒Aは、水とメタノール(90:10%)混合物中の10mMの蟻酸アンモニウム溶液であり;溶媒Bはアセトニトリル中の0.1%ギ酸である。OEP阻害剤の最強ピークを生物学的マトリックス中の定量分析に使用した。
【0038】
請求された技術的解決策の技術的結果は、オリゴエーテルポリオール構造のキラル複合体(光学的に活性混成分子)を得る方法であり、このキラル複合体は、抗癌、心臓血管、抗アレルギー、抗炎症およびその他の医薬化合物の内の1つ由来の生理学的活性物質の作用の有効性を大きく高めるための、細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤(OEP阻害剤)である。
【0039】
さらに、出願者は、請求された技術的解決策を実施するために使用される表記および略語を示す。
ABC(ATP結合カセット)
APS−過硫酸アンモニウム
ATP(アデノシン三リン酸)−アデノシン 3−リン酸塩
C−シトシン
DOX−ドキソルビシン
EGTA(エチレングリコール−ビス(2−アミノエチルエテル)−N,N,N’,N’−四酢酸)
FAM−6−カルボキシフルオレセイン
G−グアニン
HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)
LC−MS−質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー
m/c−質量電荷比
P−gp−P−糖タンパク質
pH−水素指数
(無機リン酸塩)
T−チミン
U/μL−マイクロリットル単位
Vin−ビンブラスチン
260−260nmの波長の値(Å単位)
A−アデニン
DMSO−ジメチルスルホキシド
DNA−デオキシリボ核酸
DPHT−ジフェニルヘキサトリエン
薬物−薬用製品
DF−剤形
Mkg−マイクログラム
ML−ミリリットル
MDR−多剤耐性
MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物、黄色テトラゾール)−テトラゾリウム色素
RPM−回転数/分
OEP−オリゴエーテルポリオール
RNA−リボ核酸
PSB−リン酸塩緩衝液
EDTA−エチレンジアミン四酢酸
【0040】
材料および方法
化学試薬および材料
ドキソルビシン(DOX)塩酸塩、ウアバイン八水和物、ペンタエチレングリコール98%、Β−メルカプトエタノール、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、硫酸ベリリウム四水和物、フッ化ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムは、Sigma−Aldrich(USA)から購入した。ブロモフェノールブルー、デオキシコール酸ナトリウム、トリス塩酸塩(トリス(オキシメチル)アミノメタン塩酸塩)、過硫酸アンモニウム(APS)、ナトリウムドデシルスルフェート(SDS)は、Amresco(USA)から購入した。MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物)は、Life Technologies(USA)から購入した。L−グルタミン、ダルベッコ溶液(Ca2+およびMg2+イオン不含)トリプシン−EDTA溶液、ハンクス溶液(フェノールレッド不含)、α−MEMおよびDMEM培地は、PanEco(ロシア)から購入した。1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン(DPHT)、ジチオスレイトール(1,4−ビス(スルファニル)ブタン−2,3−ジオール)、アスコルビン酸、コレステロール、トリトン(登録商標)X−100、ビンブラスチン硫酸塩、ATP二ナトリウム含水塩、ヘペス(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)は、Acros Organicsから購入した。ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、Heliconから購入した。
【0041】
細胞培養条件:
細胞MCF−7、MCF−7/Vin、HSF、CaCo−2、HCT−15、HCT−116、OVCAR−4、PC−3、A−498、NCI−H322M、M−14、SNB−19、SF Cells−539(表1)を、10%ウシ胎仔血清、L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したα−MEM培地を用い、5%CO雰囲気中、37℃で単分子膜が形成されるまで培養する。細胞懸濁液を得るために、細胞単分子膜はトリプシン処理した後、血清含有α−MEM培地の添加によりトリプシンを不活化する。Neubauerチャンバー中でトリパンブルー色素排除法により細胞計数を実施した。細胞を1:6の比率で週2回継代する。
【0042】
【表1】
【実施例9】
【0043】
OEP阻害剤の細胞傷害性効果のインビトロ調査
OEP阻害剤のヒト腫瘍および条件的正常細胞の増殖性潜在能力に与える効果を、MTT試験を用いて、72時間のインキュベーション中に調査した。1000個の細胞を96ウェルプレートのウエルの90μlの培地中に加え、COインキュベーター中で24時間インキュベートして、細胞を基材に付着させた。次に、調査化合物(OEP阻害剤)の調製溶液の一定分量を10μl/ウエルの量で加えた。試験を3回繰り返した。分析した化合物の代わりに、類似の量のmQをプレートの対照ウエル中に導入した。試験物質を適用後、細胞をCOインキュベーター中で、標準条件下で72時間培養した。次に、試験物質を含む培地を真空アスピレータを使ってプレートから取り出し、栄養培地および5mg/mlのMTT試薬を加え、COインキュベーター中で3〜4時間インキュベートした。インキュベーション時間の終了後、MTT試薬含有培地を真空アスピレータで取りだし、100μlのDMSOを加え、5〜10分間インキュベートした。出現した紫色の染色を、Tecanプレートリーダーを用いて555nmで検出した(基準波長は650nm)。用量反応曲線をプロットし、最大半量細胞増殖阻害濃度(IC50)を決定した。結果を図3の表2に示す。
【0044】
このように、表の詳細分析により、調査した細胞のIC50の大部分では、OEP阻害剤は、1.5mg/mlを超え、これは、請求された複合体が完全に安全であるということを示す、明確に解釈可能な結論を出すことができる。同時に、SNB−19神経膠芽腫およびSF−539膠肉腫細胞に対し、OEP阻害剤の特異性(ぞれぞれ、IC50が0.46±0.12mg/mlおよび0.46±0.12mg/ml)を確認することができ、これは、わずかであるとはいえ、これらの細胞型に対するそれ自体のある程度の抗腫瘍作用を示している。
【実施例10】
【0045】
MCF−7およびMCF−7/Vin細胞の細胞膜のミクロ粘性に対するOEP阻害剤の効果の評価
細胞膜の生理学的活性に影響を与える重要な物理化学的特性は、二重層中の脂質の流動性の尺度であるミクロ粘性であり、これは、膜透過性および膜タンパク質の機能動作に重要な役割を果たしている。原形質膜ミクロ粘性を評価するために、ジフェニルヘキサトリエン(DPHT)の親油性指標の使用に基づいた蛍光法を用いる。DPHTの蛍光は、細胞膜流動性に依存する。
【0046】
2x10個の細胞/mlの密度の細胞懸濁液を、1μMの最終濃度のDPHTと共に30分間インキュベートした。次に、一定分量(10μl)のOEP阻害剤溶液を多チャンネル分注器を用いて、8.7、87および870μg/mlの最終濃度まで細胞懸濁液に加えた試料、さらに、1μMの濃度のドキソルビシンを細胞懸濁液に加えた試料、およびそれとOEP阻害剤との配合物(DOX 1μM+OEP阻害剤 8.7μg/ml;DOX 1μM+OEP阻害剤 87μg/ml)試料とした。100μg/mlの最終濃度のコレステロール、ならびに0.05%の濃度の親油性合成洗剤トリトンX−100を、細胞膜のミクロ粘性を大きく変えた陽性対照として試験した。一定分量の試料を導入直後に、DPHTの蛍光偏光を10分の間隔で1時間にわたり検出した。
【0047】
MCF−7およびMCF−7/Vin細胞の細胞膜のミクロ粘性に対するOEP阻害剤の効果の結果を図5に示す。
【0048】
このように、得られたデータは、8.7、87、および870μg/mlの濃度のOEP阻害剤、ならびにドキソルビシン、さらにはOEP阻害剤とのその配合物は、MCF−7およびMCF−7/Vin細胞懸濁液中のDPHTの蛍光偏光を大きく変化させなかったことを示す。蛍光偏光は、フルオロフォア微小環境の粘度に比例する(非特許文献4)ので、このことから、試験しているOEP阻害剤は、試験細胞の細胞膜のミクロ粘性に影響を与えなかったということが結論づけられる。細胞膜のリン脂質よりも大きな粘度を有するコレステロールは、DPHT蛍光の偏光および膜のミクロ粘性を大きく高めた。強力な合成洗剤であるトリトンX−100は、DPHT蛍光の偏光の大きな低下からも明らかなように、細胞膜を徐々に溶解する。調査しているOEP阻害剤は、哺乳動物細胞の細胞膜のミクロ粘性に大きな作用を示さず、これは、腫瘍細胞の細胞膜の脂質二重層に対し不活性であることを示す。
【実施例11】
【0049】
耐性腫瘍細胞中のOEP阻害剤の蓄積の評価
いくつかのエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの疎水性ブロックコポリマーは、細胞の細胞膜の障壁に侵入し、細胞質中に蓄積し、細胞内のオルガネラおよび酵素に影響を及ぼす能力を有することが知られている。特に、プルロニックP85は、ミトコンドリアの膜のミクロ粘性を変化させる特性、および酸化的リン酸化を脱共役させる特性を有することが示された(非特許文献5、6)。これに関して、試験したOEP阻害剤の細胞内の蓄積程度を決定することに着目した。細胞ライセート中の阻害剤含量の特定と定量化を、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(HPLC−MS)を用いて実施した。
【0050】
MCF−7/RES細胞を50,000個の細胞/プレートのウエルの量で、6ウェルプレートに分散させて、37℃、5% CO下で24時間培養した。一定分量の阻害剤を細胞に加え、その最終濃度を8.7、87、および870μg/mlとし、37℃、5% CO下で96時間培養した。対応する量の脱イオン水を対照試料に加えた。インキュベーション時間の終了後、OEP阻害剤含有培地をアスピレータで集めた。ハンクス溶液で懸濁させることによりプレート表面から細胞を分離し、15mlのチューブに移し、少なくとも5回洗浄した(400g、4分)。150μlの内部標準−10−5Mの濃度のペンタエチレングリコール−含有脱イオン水を細胞ペレットに加えた。凍結および解凍(−75℃で4分間、37℃の水浴中で2分間インキュベート)を2サイクル行って細胞を溶解し、続けて、4分間超音波処理した。その後の、Life Technologies Pierce(登録商標)BCA Proteinアッセイキットを用いた試料中のタンパク質量の測定のために、一定分量のライセートを採取した。700μlの冷却メタノールを細胞ライセートに加え、−20℃で15分間インキュベートし、続けて、0℃で20分間、17400gの遠心分離を行った。上清を清浄なチューブに移し、凍結乾燥機中で真空下で乾燥した。分析の直前に、乾燥した細胞ライセートを、200μlの0.1%ギ酸補充メタノール/水(1:1)混合物に溶解した。全てのHPLC−MS実験を、AB Sciex 5600質量分析計(AB Sciex,USA)と連結したAgilent 1260 Infinityクロマトグラフ(Agilent Technologies,Inc.,USA)のクロマトグラフシステムを使って実施した。
【0051】
耐性腫瘍細胞中のOEP阻害剤の蓄積の評価の結果を図4の表3に示している。
【0052】
OEP阻害剤の細胞内蓄積のHPLC−MS分析は、OEP阻害剤と培養した(阻害剤濃度:8.7、87および870μg/ml、培養時間は96時間)細胞ライセート中のフェムトおよびピコモル量のポリマーの存在を示した。培地中のOEP阻害剤の濃度の8.7〜870μg/mlへの増加と一緒に、細胞内の含量の増加が観察されなかったことは注目に値する。濃度依存性の非存在およびライセート中のOEP阻害剤の低含量は、検出された微量のOEP阻害剤が、細胞膜上のその非特異的吸着と関連し、細胞の細胞質中へのその浸透に起因しないことを示唆する。したがって、複合体は高度に安全であると、結論できる。
【実施例12】
【0053】
CaCo−2細胞の細胞膜を横切るドキソルビシンの経上皮輸送に対するOEP阻害剤の効果の評価
極性CaCo−2細胞では、逆P−gp輸送体は、細胞膜の頂端面側に位置し、ドキソルビシンを含む多数の基質の逆輸送(B−A)を可能とする。
【0054】
CaCo−2細胞をMillicell 96 2成分プレートに、10,000個細胞/ウエルで播種し、37℃、5% Co下で21日間インキュベートした。Millicell−ERS測定器を用いて、単分子膜の健全性を電気抵抗値(TEER)を測定することにより調べ、少なくとも3KΩ/ウエルのTEER値で、実験を開始した。頂端面(A)から基底面(B)への領域[A−B]のドキソルビシンの輸送速度を測定するために、90μlのドキソルビシンまたはドキソルビシンとOEP阻害剤(0.087〜870μg/ml)を3つのフィルター付きウエルに加え、250μlのHBSS緩衝液を下側プレートのアクセプターウエルに加えた。基底面(B)から頂端面(A)の領域[B−A]のドキソルビシンの輸送速度を測定するために、90μlのHBSS緩衝液を1%DMSOと共に3つのフィルター付きウエルに加え、250μlのドキソルビシンまたはドキソルビシンとOEP阻害剤(0.087〜870μg/ml)を下側プレートのウエルに加えた。組み立てたMillicell 96 CaCo−2システムを37℃で2時間、震盪機上で、300rpmで攪拌しながらインキュベートした。その後、70μlの一定分量をインサートの各部分より採取し、Agilent Infinity 1290 クロマトグラフ(Agilent Technologies)を備えたQTRAP 5500システム(Applied Biosystems)によるHPLC−MS分析に供した。
【0055】
ドキソルビシンの経上皮輸送に対するOEP阻害剤の効果の評価結果を、CaCo−2細胞の細胞膜を横切るドキソルビシンの透過速度として、図6に示す。
【0056】
図から分かるように、CaCo−2細胞は、膜の基底面から頂端面部分へ(B−A)ドキソルビシンを輸送する。膜の頂端面部分に位置するP−gpに作用するOEP阻害剤は、ドキソルビシンの逆輸送を抑制し、方向A−Bの含量を:8.7μg/mlの濃度で1.9倍、87μg/mlの濃度で3.5倍および870μg/mlの濃度で3.8倍、増大させる。実験データは、3回の独立した実験の平均±標準偏差により示される。統計処理のために、ボンフェローニの補正を導入した多重比較に対しスチューデントの基準、P≦0.05を用いた。したがって、逆ABC輸送体のATP依存性阻害剤は、高度に効果的であると結論することが可能であると思われる。
【実施例13】
【0057】
P−gp(ABCB1)発現に対するOEP阻害剤の効果
OEP阻害剤は、活性グリコシル化アイソフォーム190kDa ABCB1を除去できるが、不活性高マンノースアイソフォーム175kDa輸送体は、細胞中に蓄積される。
【0058】
3x10個の細胞/cmの濃度の、MCF−7、MCF−7−ABCC1−DsRed(過剰発現MRP−1を含む)、MCF−7−ABCC2−BFP(過剰発現MRP−2を含む)、MCF−7−ABCB1−GFP(過剰発現P−gpを含む)細胞を、完全DMEM栄養培地中で、3μMの最終濃度としたドキソルビシン;または261μg/mlの最終濃度としたOEP阻害剤;または3μM:261μg/mlの最終濃度としたドキソルビシン−OEP阻害剤配合物と共に、5% CO雰囲気下、37℃で48時間培養した。適合させ、変更したABCAMプロトコル(http://www.abcam.com/ps/pdf/protocols/wb−beginner.pdf)を用いて、免疫ブロット法(Western Blot)によりタンパク質を調査した。ABCB1に対するモノクローナル抗体(カタログ番号sc−13131、Santa Cruz)を、1:200の希釈で用いた。1:10,000で希釈したHRP標識抗マウス抗体−(カタログ番号ab6728、Abcam)を2次抗体として使用した。β−アクチンに対するモノクローナル抗体(カタログ番号mAbcam 8226、Abcam)を、1:2000の希釈で用いた。分析の結果をChemiDoc XRS+システム(Bio−Rad)で可視化した。
【0059】
P−gp発現(ABCB1)に対するOEP阻害剤の効果の結果を図7に示す。
【0060】
ABCB1タンパク質は、190kDaと175kDaの分子量の2つのアイソフォームにより表される(図7、上段と下段のバンド)。同時に、190kDaアイソフォームは、タンパク質のグリコシル化活性型であり、175kDaのバンドは高マンノース不活性タンパク質である(非特許文献7)。結果は、MCF−7対照細胞は、等価量の活性および不活性タンパク質を含むことを示す。ドキソルビシンへの曝露は、タンパク質の活性型の量を高め、一方、OEP阻害剤はほぼ完全に活性型のABCB1を除去する。同時に、不活性型の輸送体は細胞中に蓄積される。複合薬へ曝露された細胞は、活性型および高マンノース型の両方のタンパク質を発現する。不活性型の発現は、OEP阻害剤が輸送体のドキソルビシン媒介活性化を部分的に逆転させることができることを実証している。我々は、ABCC1およびABCC2遺伝子を過剰発現している細胞中でも類似の状況を確認している。したがって、OEP阻害剤は、逆ABC輸送体のATP依存性阻害剤の活性を抑制できると結論することが可能である。
【実施例14】
【0061】
ABCB1の過剰発現を有する膜のATPアーゼ活性に対するOEP阻害剤の効果
膜P−糖タンパク質のATPアーゼ活性を、ヒト組換えP−糖タンパク質を過剰発現している単離昆虫細胞膜ヨトウガ(Sf9系統)の市販の調製物を用いて方法(非特許文献8)に従って調査した。P−糖タンパク質の触媒作用中のATP加水分解は、無機リン酸塩(Pi)の形成に付随して起こることが、分光光度法反応により検出される。OEP阻害剤は、直接濃度依存性的にATPアーゼ活性を抑制し、濃度が増加すると、阻害効果が高まることが示された。
【0062】
8.7〜870μg/mlの濃度の試験OEP阻害剤を、P−糖タンパク質および基質を過剰発現している組換え膜と共に、1.5mlのマイクロチューブ中で3回繰り返してインキュベートした。逆輸送体の活性および酵素のATPアーゼ活性に比例して、反応生成物の光学密度を880nmで測定した。非特異的酵素活性阻害剤−フッ化物ベリリウム−を対照として使用した。
【0063】
対照阻害剤および試験化合物の存在下でのSf9細胞の単離膜のヒトP−糖タンパク質のATPアーゼ活性の得られた値を図8にヒストグラムとして示す。
【0064】
OEP阻害剤は、P−糖タンパク質のATPアーゼ活性を大きく抑制することが確認された。OEP阻害剤の阻害活性は、阻害剤の濃度が8.7から87μg/mlに増加するに伴いわずかに低下するが、870μg/mlの濃度ではその活性は大きく増加する。文献における通常の見解は、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両親媒性ブロックコポリマーは、脂質膜中への組み込みおよび輸送体の脂質微小環境のミクロ粘性の変化に起因して、P−糖タンパク質のATPアーゼ活性を阻害するということである(非特許文献9〜11)。調査中のOEP阻害剤は、細胞膜のミクロ粘性を大きく変化させず、したがって、その作用機序は、P−糖タンパク質に対する直接阻害効果の可能性を排除しない。したがって、OEP阻害剤は、P−gpのATP依存性逆ABC輸送体の活性を大きく抑制すると結論することが可能である。
【実施例15】
【0065】
MCF−7およびMCF−7/Vin細胞中のATPのレベルに対するOEP阻害剤の効果
2x10個の細胞/mlの密度の細胞懸濁液(MCF−7またはMCF−7/Vin)をOEP担体(最終濃度87,430および2175μg/ml)またはドキソルビシン(最終濃度10μM)、またはそれぞれ10μMおよび87μg/mlの濃度のドキソルビシンおよびOEP阻害剤の配合物と共に、25℃で2時間インキュベートした。その後、細胞を遠心分離(300g、4分)により沈降させ、細胞中のATP産生を活性化する緩衝液中で洗浄した。緩衝液組成:NaCl(122mM)、NaHCO(25mM)、グルコース(10mM)、KCl(3mM)、MgSO(1.2mM)、(KHPO)(0.4mM)、CaCl(1.4mM)およびヘペス(10mM)。得られた細胞ペレットを冷却溶解緩衝液中で強力に撹拌しながら5分間溶解した。溶解緩衝液の組成:トリス塩酸(0.05M)、EDTA(2mM)、トリトンX−100(1%)、NaF(10mM)。細胞ライセートを直ぐに凍結し、分析まで−74℃で貯蔵した。分析の直前に細胞ライセートを解凍し、20,000gで7分間、細胞デブリから遠心分離し、次工程のATP含量の分析のために上清を収集した。Lumtekにより製造された高感受性ATP試薬を使って、ルシフェラーゼ、D−ルシフェリンおよびATPを含む反応における化学発光技術を用いて細胞ライセート中のATP含量を測定した。試料中のATP濃度に比例するルシフェリン酸化反応中の化学発光強度を、Infinite 200 PROプレートリーダー(TECAN)を使って測定した。
【0066】
MCF−7およびMCF−7/Vin細胞中のATPレベルに対するOEP阻害剤の効果の結果を図9に示す。
【0067】
OEP阻害剤の2時間曝露は、高濃度であっても、MCF−7およびMCF−7/Vin細胞中のATP含量の低下をもたらさないことが確認された。文献から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの疎水性のブロックコポリマーは、細胞質中への浸透およびミトコンドリア膜の機能状態に対する影響の結果として、培養液中の哺乳動物細胞のATP含量を低下させることが知られている。特に、プルロニックP85は、ミトコンドリアの膜のミクロ粘性を変化させ、酸化的リン酸化を脱共役させることが示された(非特許文献12、6)。得られたデータと、文献データとを比較すると、調査したOEP阻害剤は、構造の性質に起因して、細胞のサイトゾル中に浸透せず、ミトコンドリアの機能に影響を与えないことが結論できる。ドキソルビシンとOEP阻害剤との組み合わせ使用(OEP阻害剤87μg/ml+DOX10μM)も同様に、MCF−7およびMCF−7/Vin細胞中のATP生合成を抑制しなかった。したがって、逆ABC輸送体のATP依存性阻害剤は、腫瘍細胞中のATP生合成プロセスに影響を与えないと結論することが可能である。
【実施例16】
【0068】
OEP阻害剤のインビボ毒性のパラメーター
OEP阻害剤の急性毒性の調査を、静脈内および胃内投与法により、両方の性の、CD−1系統(6〜8週齡)のマウス、スプラーグドーリーラット(6〜8週齡)およびSoviet Chinchillaウサギ(2〜2.5kg)で実施した。
【0069】
食料を与えていない(8時間以上の期間)が水は自由に与えた動物に対し、胃内投与を実施した。投与の量は、投与の直前に記録した体重を基準にして、各動物に対し個別に計算した。フィードは投与の1時間後に新しくした。
【0070】
種々の投与経路によるOEP阻害剤の急性毒性(LD50)のパラメーターを表4に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
得られた結果によると、OEP阻害剤は、毒性の程度に従って、胃内投与の場合、非毒性物質に属し、静脈内に投与される場合には、低毒性物質に属する。第3相の臨床試験が行われている薬物SP1049Cの一部である活性プルロニックL−61のほとんどは、より高い毒性を有する(非特許文献13)ことが知られている。このように、マウスの静脈内投与経路によるプルロニックL−61のLD50は、800mg/kgに相当する。したがって、毒性クラスに従って、逆ABC輸送体のATP依存性阻害剤は、プルロニックL−61と比較してより安全である低毒性および非毒性化合物に割り付けることができると結論することが可能である。
【0073】
出願者により提供される上記情報は、請求された細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤は、生細胞および組織による薬物の吸収を大きく増加させるという結論に繋がる。同時に、細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤は、高い安全性と有効性を特徴とする。
【0074】
したがって、実験の結果として、目標は達成され−細胞のATP依存性逆輸送体の新規阻害剤が得られた。
【0075】
請求された技術的解決策の技術的結果は、実施した研究の結果として、OEP阻害剤が、出発系の調製、出発系のアルカリ触媒の存在下でのオキシプロピル化、得られた生成物の中和、目的のOEP阻害剤を得るための精製を含む方法により得られ、出発系中のソルビトール比率:アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物:二官能性酸素含有化合物が、それらのプロピレンオキシドとの反応の結果として、ポリオキシプロピレングリコールとポリオキシプロピレンヘキソールの等モル混合物が得られるように計算されることを特徴とすることである。
【0076】
請求された細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤は:
−文献に記載されているほとんどのABC輸送体の阻害剤と比較して、ヒト細胞培養物に対して低細胞毒性を有する;
−後天性薬剤耐性を有するMCF−7系統およびMCF−7/RES細胞の腫瘍細胞の細胞膜のミクロ粘性に影響を与えない;
−細胞膜を通ってMCF−7の腫瘍細胞中へ浸透しない;
−8.7〜870μg/mlの濃度範囲で、これは、ドキソルビシンのP−gp媒介逆輸送の特異的阻害をもたらし、アクセプターウエル中の濃度をそれぞれ1.9〜3.8倍増大させる;
−活性グリコシル化アイソフォーム190kDa ABCB1を除去でき、一方、不活性高マンノースアイソフォーム175kDa輸送体は、細胞中に蓄積される;
−ヒトP−糖タンパク質を過剰発現したSf9細胞の単離膜のATPアーゼ活性を抑制する;
−ATPの細胞内のレベルを変化させない;
−毒性の程度に従って、胃内投与の場合、非毒性物質に属し、静脈内に投与される場合には、低毒性物質に属する;
−製造の容易さ、原材料の安さ、生産が既存の化学産業企業で実施できる;
−以前には世界で未知であった製品により、国際市場へ参入する機会を与える。
【0077】
参考文献のリストは、請求された技術的解決策が関連する最先端技術を記載するいくつかの刊行物を含む。
【0078】
同時に、特許請求の範囲を逸脱することなく、請求された技術的解決策に基づいて、様々な修正および/または変更が実施できることに留意されたい。
【0079】
請求された技術的解決策は、本発明の独立請求項で与えられた一連の特徴に基づいて、本発明に該当する「新規」の基準に適合する。理由はこの一連の特徴は、出願者により調査された技術のレベルからは特定されなかったためである。
【0080】
請求された技術的解決策は、本発明に該当する「進歩性」の基準に適合する。理由は、得られた細胞のATP依存性逆輸送体の阻害剤およびそれを得る方法は、以前には解決できない問題を解決する可能性、すなわち、治療効力の顕著な増大をもたらし、安全性を大きく高め、また、完成剤形のコストを大きく低減する可能性を提供するためである。
【0081】
請求された技術的解決策は、既知の材料、装置および技術を用いて特殊化された事業で生産に使用できるので、本発明に該当する「産業上の利用可能性」の基準に適合する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B