特許第6861430号(P6861430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノーベルファーマ株式会社の特許一覧

特許6861430ホスフェニトインナトリウム水和物及びその合成中間体の製法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861430
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ホスフェニトインナトリウム水和物及びその合成中間体の製法
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/72 20060101AFI20210412BHJP
   C07F 9/6506 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C07D233/72
   C07F9/6506
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-190904(P2016-190904)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-52859(P2018-52859A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】日色 健
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 博
(72)【発明者】
【氏名】薦田 太一
(72)【発明者】
【氏名】春田 拓視
(72)【発明者】
【氏名】川飛 翔
(72)【発明者】
【氏名】板谷 慧子
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−509071(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101311167(CN,A)
【文献】 特開昭58−052274(JP,A)
【文献】 C.G.WERMUTH編,「最新 創薬化学 下巻」,株式会社 テクノミック,1999年,第347〜365頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D201/00−519/00
C07F 9/00− 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造方法であって、
5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程の後、
得られた反応物に水を加えて結晶を析出させ、続いて析出した結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行う工程を含み、かつアルカリ性物質を用いない方法。
【請求項2】
ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、
5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(フェニトイン)、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程の後、
得られた反応物に水を加えて結晶を析出させ、続いて析出した結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行う工程を含み、かつアルカリ性物質を用いずに3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを製造する工程を含む方法。
【請求項3】
前記ホスフェニトインナトリウム水和物が、ホスフェニトインナトリウム・7水和物である請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物及びその合成中間体の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフェニトインナトリウムは抗けいれん作用を持つ化合物であり、従来経口剤として用いられてきたフェニトインの水溶性プロドラッグである。フェニトインを水溶性のプロドラッグとすることで、静脈内投与時の局所刺激作用を大幅に軽減し、経口フェニトイン製剤等の投与が不可能な場合にも投与可能な製剤である。
【0003】
特許文献1には、フェニトインを水酸化ナトリウム等の強塩基の存在下でアルデヒドまたはケトンと反応させて2−ヒドロキシアルキルフェニトインを製造する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、アルカリ金属ホスフェートを、3−(クロロメチル)−または3−(ブロモメチル)−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンと処理して、所望の生成物、同様にその方法で用いられる種々の中間体を得る、リン酸2,5−ジオキソ−4,4−ジフェニル−イミダゾリジン−1−イルメチルエステルのジエステル製造の改良された方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2795412号
【特許文献2】特許第4035642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、原料費を抑え、合成中間体の収率をより高くし、工程数を減らすことにより、全製造工程にかかる時間を短縮するとともに製造コストを低減することができるホスフェニトインナトリウム水和物、及びその合成中間体の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、最終生成物であるホスフェニトインナトリウム水和物を製剤化した際の濁りを防止できる、ホスフェニトインナトリウム水和物、及びその合成中間体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造方法であって、5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(フェニトイン)、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程を含み、かつアルカリ性物質を用いない方法である。
【0008】
本発明は、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造方法であって、5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程の後、得られた反応物に水を加えて結晶を析出させ、続いて析出した結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行う工程を含む方法である。
【0009】
本発明は、5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの製造方法であって、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの溶液に塩化チオニル等を反応させた後、生成する3−クロロメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを単離せずに溶液のままジベンジルリン酸カリウムと反応させる工程を含む方法である。
【0010】
本発明は、5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造方法であって、3−クロロメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンとジベンジルリン酸カリウムを反応させ、続いて結晶化及びろ過した後、湿結晶を乾燥せずに水素と反応させる工程を含む方法である。
【0011】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンと水酸化ナトリウムとを反応させた溶液中に、酸で洗浄処理した活性炭を加えてろ別する工程を含む方法である。
【0012】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンと水酸化ナトリウムとを反応させた溶液をろ別した後、ろ液にアセトンを加えて攪拌して結晶を析出させ、析出した結晶を室温及び常圧下で乾燥する工程を含む方法である。
【0013】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(フェニトイン)、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程を含み、かつアルカリ性物質を用いずに3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを製造する工程を含む方法である。
【0014】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(フェニトイン)、ホルムアルデヒド及びアルコールを加熱する工程の後、この工程の反応物に水を加えて結晶を析出させ、続いて析出した結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行う工程を含む方法である。
【0015】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの溶液に塩化チオニル等を反応させた後、生成する3−クロロメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを単離せずに溶液のままジベンジルリン酸カリウムと反応させる工程を含む方法である。
【0016】
本発明は、ホスフェニトインナトリウム水和物の製造方法であって、3−クロロメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンとジベンジルリン酸カリウムを反応させ、続いて結晶化及びろ過した後、湿結晶を乾燥せずに水素と反応させる工程を含む方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、原料費を抑え、合成中間体の収率をより高くし、工程数を減らすことにより、全製造工程にかかる時間を短縮するとともに製造コストを低減することができるホスフェニトインナトリウム水和物、及びその合成中間体の製造方法、並びに、最終生成物であるホスフェニトインナトリウム水和物を製剤化した際の濁りを防止できる、ホスフェニトインナトリウム水和物、及びその合成中間体の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法を、合成スキームを参照しながら説明する。
【0019】
スキーム1:3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(3−ヒドロキシメチルフェニトイン)の製造
【化1】
【0020】
5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(フェニトイン)とホルムアルデヒド水溶液を、エタノールなどのアルコールと共に加熱し、水酸化ナトリウムや炭酸カリウムなどのアルカリ性物質は用いずに3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを製造する。フェニトインとホルムアルデヒド水溶液のみでもこの反応は進み、アルカリ性物質を用いる必要がないため製造コストを抑えることができる。
【0021】
また、スキーム1においてホルムアルデヒド水溶液及びアルコールを加熱する工程の後、得られた反応物に水を加えて結晶を析出させ、続いて析出した結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行い、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンを製造することができる。結晶をアルコールで洗浄した後に乾燥を行うことで、副産物としてのフェニトインを例えば3%未満に抑えることができ、目的とする合成中間体の収率、ひいては最終生成物であるホスフェニトインナトリウム水和物の収率をより上げることができる。
ここで用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、またはイソプロパノール等の低級アルコールを用いることができる。これらアルコールの中でも、エタノールを用いることが好ましい。
【0022】
スキーム2:5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの製造
【化2】
【化3】
【0023】
スキーム1で得られた3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの溶液に、塩化チオニル等を反応させる。
ここで生成する3−クロロメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンは単離せずに、溶液のまま次の工程(2)に進むことができる。単離工程を省いて次の工程に進めるため、製造工程を1〜2日短縮することができる。
【0024】
続いて、反応混合物を冷却し有機層を分離して、乾燥、濃縮し、溶媒を加えてジベンジルリン酸カリウム、炭酸カリウム、ヨウ化カリウムと反応させる。反応混合物を冷却し、酢酸エチルを加えて水で洗浄した後活性炭を加えて攪拌、ろ過し、有機層から5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの湿結晶を得ることができる。
【0025】
スキーム3:
【化4】
【0026】
スキーム2で得られた5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの湿結晶をそのまま、水素と反応させる。詳しくは、得られた湿結晶をメタノール及びパラジウム炭素を混合しながら水素ガスを通気して反応させる。反応終了後、減圧濃縮し、濃縮物にアセトンを加えて加熱し、次いで冷却してトルエンを加え、10℃以下で撹拌し、析出した結晶をろ別してトルエンで洗浄、減圧乾燥して5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンを得ることができる。5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの湿結晶をそのまま工程に用いても、水素との反応は進み、その結果製造工程を約1日短縮することができる。
【0027】
スキーム4:
【化5】
【0028】
スキーム3で得られた5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンに、水及びエタノールを混合して撹拌し、pHをアルカリに調整して溶解する。続いて、酸で洗浄処理した活性炭(例えば、Cabot Norit Nederland社製NORIT(登録商標) SX PLUS)を加えて撹拌してろ別し、ろ液にアセトンを加えて冷却、撹拌し、析出した結晶をろ別し湿結晶を得たのち、これを乾燥してホスフェニトインナトリウム水和物を得ることができる。酸で洗浄処理した活性炭を用いることで、ホスフェニトインナトリウム水溶液として製剤化する際に、濁りの無い製剤を得ることができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造
フェニトイン30kg、37%ホルムアルデヒド19kg及びエタノール60Lを約50℃に加熱して数時間撹拌した。次いで反応物を冷却し、水を60L加えて撹拌し、析出した結晶をろ別してエタノール60Lで洗浄した。得られた湿ケーキを減圧乾燥し、3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン(30kg、収率100wt%)を得た。
【0030】
(実施例2)
5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの製造
3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン30kg、ジメチルホルムアミド0.6L、塩化チオニル13.5kg及び酢酸エチル150Lを約50℃に加熱して30分以上撹拌した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル60L及び水150Lを加えて混合して有機層を分離した。分離した有機層に無水硫酸ナトリウム3kgを加えて乾燥し、容量が約60Lになるまで減圧濃縮した。
濃縮した溶液に、酢酸エチル30Lを加え、さらにジベンジルリン酸カリウム30kg、炭酸カリウム0.7kg及びヨウ化カリウム0.35kgを加えた後、約70℃に加熱して数時間撹拌した。反応混合物を冷却し、酢酸エチル60Lを加えて水で洗浄した後、活性炭1.3kgを加えて撹拌し、ろ別した。有機層を減圧濃縮し、トルエン300Lを加えて加熱撹拌した後、冷却した。析出した結晶をろ別してトルエンで洗浄し、5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの湿結晶を得た。
【0031】
(実施例3)
5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオンの製造
実施例2で得られた5,5−ジフェニル−3−[ビス(フェニルメチル)ホスホノキシメチル]−2,4−イミダゾリジンジオンの湿結晶(得られた状態のままのもの)、メタノール150L及び5%パラジウム炭素1.5kgを混合しながら水素ガスを通気して反応させた。反応終了後、減圧濃縮し、濃縮物にアセトン60Lを加えて60℃以上で30分以上加熱した。次いで冷却してトルエン30Lを加え、10℃以下で一夜撹拌した。析出した結晶をろ別してトルエンで洗浄し、減圧乾燥を一夜行って5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオン(20kg、収率67wt%(3−ヒドロキシメチル−5,5−ジフェニル−2,4−イミダゾリジンジオン基準))を得た。
【0032】
(実施例4)
ホスフェニトインナトリウム水和物の製造
5,5−ジフェニル−3−ホスホノキシメチル−2,4−イミダゾリジンジオン20kg、水35L及びエタノール50Lを混合して撹拌しながら約4%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.2〜9.3に調節した。次いで酸で洗浄処理した活性炭(Cabot Norit Nederland社製NORIT(登録商標) SX PLUS)0.9kgを加えて撹拌してろ別し、ろ液にアセトン300Lを加え冷却しながら30分間撹拌した。析出した結晶をろ別し湿結晶を室温、常圧で一夜乾燥してホスフェニトインナトリウム水和物(23kg、収率115wt%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により得られたホスフェニトインナトリウム水和物(例えば、7水和物)を水溶液とすることにより、フェニトインのプロドラッグであるホスフェニトインナトリウム水和物を注射により投与し、抗けいれん剤として使用することができる。