(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861445
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】電位測定に基づく電子集積多電極検出システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20210412BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
G01N27/416 346
G01N27/30 F
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-543796(P2019-543796)
(86)(22)【出願日】2018年2月11日
(65)【公表番号】特表2020-506398(P2020-506398A)
(43)【公表日】2020年2月27日
(86)【国際出願番号】CN2018076326
(87)【国際公開番号】WO2018149380
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年10月12日
(31)【優先権主張番号】201710079915.X
(32)【優先日】2017年2月15日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507389842
【氏名又は名称】四川大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】肖 丹
(72)【発明者】
【氏名】王 春玲
(72)【発明者】
【氏名】袁 紅雁
(72)【発明者】
【氏名】段 志娟
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−220062(JP,A)
【文献】
特開2008−096447(JP,A)
【文献】
特開2007−271371(JP,A)
【文献】
特開2010−164310(JP,A)
【文献】
特開2005−269987(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0000796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ電極アレイ(10)と、
マルチ電極アレイ信号入力端子(21)、高入力インピーダンスの電圧フォロワー(22)、位相シフトフィルタ回路(23)、拡張可能モジュールの入力端子(24)、加算回路(25)及び総出力信号端子(26)を含む回路ユニット(20)と、を備え、
前記マルチ電極アレイの出力信号は、前記回路ユニットにカップリングし、回路ユニット内の位相シフトフィルタ回路により反転され、加算回路で加算されて総出力信号が取得され、
前記総出力信号を収集することを特徴とする電位測定に基づく電子集積多電極検出システム。
【請求項2】
使われる電極は電位測定に基づく電極であることを特徴とする請求項1に記載の電子集積多電極検出システム。
【請求項3】
電極の数は2以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子集積多電極検出システム。
【請求項4】
前記位相シフトフィルタ回路(23)は、2つの電極からの一対の信号を反転することを特徴とする請求項1−3のいずれか一項に記載の電子集積多電極検出システム。
【請求項5】
前記総出力信号はポテンショメータに接続して信号収集することを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載の電子集積多電極検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
この出願は、2017年2月15日に出願された「電位差測定に基づく電気的統合多電極検出システム」と題する中国特許出願第201710079915.Xの優先権を主張する。その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、分析検出機器に関し、生命科学、環境科学、薬物臨床などを含む分析および検出の分野に関し、特に、微量イオン濃度の変化を伴うサンプルの分析に使用できる検出に関し、汎用的な電位測定に基づく電子集積多電極検出システムである。
【背景技術】
【0003】
電位差分析は、分析化学の重要な分野であり、溶液中の物質の電位の変化を検出するための分析方法である。イオン選択電極などの電位ベースの電極検出は、電位差分析で広く使用されている検出技術である。電位ベースの電極検出は、選択性が良く、検出が便利で速く、価格が安く、シンプル機器のため、持ち運びが簡単であるという利点を持ち、リアルタイムおよびオンライン分析に使用することができ、科学研究、臨床診断、環境モニタリングで広く使用されてある。それにもかかわらず、イオン選択性電極には、実際の応用において多くの挑戦と制限がある。まず、イオン選択電極は、感応膜で構成される、イオンに対しネルンスト応答を選択的に生成できる表示電極の一種であるため、ネルンストの関係に従って測定されるイオンの活性を取得する。ネルンストの式の理論的な勾配値は59.2/nmV(nは電極反応に関与する電子の数を指す)であることがよく知られ、ネルンスト応答の勾配値の理論値によって制限されるため、イオン選択性電極の感度は実際の作業でこの値を突破することが困難である。ただし、多くのサンプルのイオン分析では、検出感度に高い要求がある。環境科学、特に生命科学研究と臨床診断では、イオン検出の感度に対する要求がとても高い。これは、イオン選択電極の検出感度よりも高い要求を提出し、同時に検出結果の確度と精度に高い要求を提出する。従来の電極検出の場合、理論的な勾配値(59.2/n mV)により、測定精度に起因する相対濃度誤差は0.17%に達する。誤差に対し比較的に高い要求を提出する検出及び一定と慣習のサンプルの分析検出では、この相対誤差は比較的に大きく、正確な測定の要件を満たすことができない。
【0004】
最初のイオン選択電極であるフッ化セシウム単結晶電極が1966年に導入された以来、イオン選択電極関連センサーの研究は、急速に発展し、さまざまなイオン検出用の選択電極が次々に発売され、イオン検出に関するセンサー研究の波を開始する。これは、検出限界を下げて電極選択性を改善するために、主に新しい膜材料の開発、新しい分析モードの導入などを含む。もちろん、これらの研究は検出感度を改善するための幾つかの研究を含むが、報告された研究では検出感度がそれほど改善されない。知られるように、検出感度が向上し、同時に高い確度と精度を達するという報告はあらない。上記の報告から、人間社会の発展、環境の変化などにより、イオン濃度とその変化の監視がますます注目されていることを確認することは難しくあらない。しかし、日常生活活動や臨床などの多くの場合、イオン濃度の変化は非常に小さいため、このような小さな変化を検出するには、高感度の検出方法だけでなく、信頼できる正確な検出結果も必要である。そして、これは、イオンセンサー検出技術に対し今もなお挑戦である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明により解決される技術的問題は、電位測定に基づく電子統合多電極検出システムを提供することである。検出システムは、複数の電極の同時測定によりネルンスト応答の勾配値を大幅に改善し、検出感度を大幅に向上させることができる。電子集積回路ユニットは、バックグラウンド干渉を低く抑えながら感度を大幅に向上させ、それにより検出結果の確度と精度を向上させる。本発明の電子集積多電極検出システムは、測定精度に起因する相対濃度誤差を従来の方法の±0.2%から±0.006%に低減することができ、電極数が増加するにつれて誤差が減少するため、一定と慣習のサンプルの分析及びライフサイエンス、環境科学などの分野において、誤差に対し比較的に高い要求を提出する分析検出に使用でき、電位測定に基づく汎用検出システムであり、広い応用の可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
技術的問題を解決するために本発明に採用される解決手段は、多電極の単純な直列接続の代わりに、電子集積モジュール回路により多電極が位相シフトされ、フィルタされた後、加算されることである。電位測定に基づく電子集積多電極検出システムはマルチ電極アレイ(10)、回路ユニット(20)、総信号出力および収集(30)を含む。マルチ電極アレイからの出力信号は、回路ユニット内の位相シフトフィルター回路を通過し、加算回路を通過して総出力信号を取得する。
【0007】
本発明の回路ユニットには位相シフトフィルタ回路技術が採用されており、電力周波数AC信号を主要部分とする干渉信号を除去し、バックグラウンドノイズを低減し、検出の安定性と精度を改善する。
【0008】
本発明の検出感度は、電極の数の増加に比例して増加するため、拡張モジュール(24)は、他の同一または異なる多電極検出回路モジュールから信号を入力するように設計されている。
【0009】
本発明は、ネルンスト応答の勾配値が大幅に改善され、検出感度が著しく向上し、検出結果の確度と精度が改善されるという有益な効果を有する。m本の電極で構成される電子集積多電極検出システムを使用すると、単電極の勾配値の59.2/nmVから59.2m/nmVに増加し、感度も単電極のm倍に増加する。濃度誤差は、単電極の1/m倍に減少する。本発明の電子集積多電極システムは、生命科学、環境科学、薬物臨床などを含む多くの分野で、微量イオン濃度の変化を広く監視することができ、一定と慣習のサンプルの分析で使用することができ、電位測定に基づく汎用検出システムである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】は、本発明の電子集積多電極検出システムの構造および回路ユニットを示す概略図である。
図1は、10個の電極入力の回路図を示している。10個以下の電極を使用する場合、余分な入力を接地できる。10個以上の電極を使用する場合、拡張モジュール端(24)により接続する。
【
図2】は、電子集積多電極検出システムにおいて、30本の塩素イオン電極、10本のフッ素イオン電極、および10本のpH電極とそれぞれ対応する単電極の線形関係の比較図である。
【
図3】は、異なる溶液中において、30本の塩素イオン電極、10本のpH電極、とそれぞれ対応する単電極の滴定曲線の比較図である。
【
図4】は、ベースラインノイズマップの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を、図面および実施形態と相まって以下にさらに説明する。
【0012】
本発明の電位測定に基づく電子集積多電極検出システムは、マルチ電極アレイ(10)、回路ユニット(20)、総信号出力および収集(30)を含む。
図1を参照すると、前記回路ユニットは、主に、マルチ電極アレイ信号入力端子(21)、高入力インピーダンスの電圧フォロワー(22)、位相シフトフィルタ回路(23)、拡張可能モジュールの入力端子(24)、加算回路(25)及び総出力信号端子(26)を含む。
【0013】
飽和カロメル電極は参照電極として使用され、マルチ電極アレイは作用電極であり、多電極内の各電極の出力信号は電子集積多電極検出システムにカップリングし、総出力信号はシステムの回路ユニットを検出することにより得られ、電位コレクターにカップリングし、信号を収集する。
【0014】
位相シフトフィルター回路(23)は、2つの電極からの一対の信号を反転するために回路ユニットで使用される。これにより、電源周波数AC信号を主要部分とする干渉信号を除去し、バックグラウンドノイズを低減し、検出の安定性を向上させることができる。
【0015】
回路ユニットでは、加算回路を利用してマルチ電極の信号を加算し、位相シフトフィルター回路と相まって、低バックグラウンドノイズを維持しながら検出感度を大幅に高める。これにより、サンプル中の微量イオン濃度の変動を正確に監視できる。
【0016】
実施例1:線形関係の実験。
図2は、本発明の検出システムにおいて、作用電極として塩化物イオン電極、フッ化物イオン電極、およびpH電極を使用し、参照電極として飽和カロメル電極を使用することにより得られる異なるイオン濃度の線形関係図である。単電極の線形関係と比較して、30本の塩化物イオン―電子集積多電極検出システムの勾配値(1711.2 mV)(
図2a、曲線1)は単電極の勾配値(57.2 mV)(
図2a、 曲線2)約30倍であり、10本のフッ化物イオン電極―電子集積多電極検出システムの勾配値(564.7mV)(
図2b、曲線1)および10 本のpH電極―電子集積多電極検出システムの勾配値(576.2mV)(
図2c、曲線1)は、単フッ化物イオン電極(57.3 mV)(
図2b、曲線2)および単pH電極(57.7 mV)(
図2c、曲線2)の約10倍であることが分かる。実験により、本発明の電位測定に基づく電子集積多電極検出システムの感度が著しく向上し、その向上の程度は電極数の増加に比例することが証明されている。m本の電極の感度は、単電極の感度の約m倍である。
実施例2:本発明の検出システムにおける異なる溶液中の異なるイオン電極の滴定実験。
【0017】
図3aは、飽和カロメル電極が参照電極とし、30本の塩化物イオン電極と単塩化物イオン電極が作用電極とする条件で、一滴の0.1 mol/L塩化カリウムを100 mLの1.0×10
-3 mol/L塩化カリウム溶液に滴下する変化の曲線図。30本の塩化物イオン電極の変化は約30 mV(理論値29 mV)であり、単塩化物電極の変化は0.8 mV(理論値0.9 mV)である。
【0018】
図3bは、飽和カロメル電極を参照電極とし、10本のpH電極と単pH電極を作用電極とする条件で、一滴の1mol塩酸を100mLの緩衝液(pH9)に滴下する変化の曲線図。10本のpH電極の変化は24 mV(理論値23 mV)であり、単pH電極の変化は2 mV(理論値2 mV)である。
【0019】
図3cは、飽和カロメル電極を参照電極とし、10本のpH電極と単pH電極を作用電極とする条件で、1.0×10
-3 mol/L塩酸溶液を100mLの1.0×10
-3 mol/Lヒスチジン溶液に一滴ずつ滴下する変化の曲線図。
【0020】
図3dは、飽和カロメル電極を参照電極とし、10本のpH電極と単pH電極を作用電極とする条件で、1.0×10-3 mol/L水酸化ナトリウム溶液を100mLの1.0×10
-3 mol/Lリン酸溶液に一滴ずつ滴下する変化の曲線図。
【0021】
この実験は、マルチ電極―電子集積多電極検出システム(
図3a、b、c、dの曲線1)で、滴定線の変化が単電極の変化(
図3a、b、c、dの曲線2)よりも著しく高いことを証明する。本発明の検出システムは、検体中のイオン濃度の微量変化の検出に対して明らかな利点を有することが示されている。
【0022】
実施例3:ベースラインノイズの比較実験。
図4から、単pH電極(
図4、曲線3)および位相シフトフィルター回路なしの2つのpH電極(
図4、曲線1)のベースラインノイズは、位相シフトフィルター回路(
図4、曲線2)による2つのpH電極のベースラインノイズよりも大幅に大きいことがわかる。実験により、電位測定に基づく電子集積多電極検出システムの検出システムは、バックグラウンド干渉を有効的に低減し、検出の安定性を改善できることが示されている。低バックグラウンド干渉を維持しながら検出感度を大幅に改善することにより、正確な検出結果を得ることができる。