(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861469
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】定量X線分析及びマトリックス厚み補正方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/207 20180101AFI20210412BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20210412BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20210412BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20210412BHJP
【FI】
G01N23/207
G01N23/223
G01N23/2206
G01N23/083
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-39688(P2016-39688)
(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-161577(P2016-161577A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】14/636,950
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100103779
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 定雄
(72)【発明者】
【氏名】ザーカーダス チャラランポス
(72)【発明者】
【氏名】カーチェンコ アレクサンデル
(72)【発明者】
【氏名】ハーヘマン ペトロネラ エメレンティアナ
(72)【発明者】
【氏名】ヘテシュキ ミレン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ホーヘンホフ ヴェルザラス
(72)【発明者】
【氏名】カウペル ディック
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−255769(JP,A)
【文献】
特開昭61−010749(JP,A)
【文献】
特開2011−089987(JP,A)
【文献】
特開2007−225314(JP,A)
【文献】
特開平04−355313(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0288058(US,A1)
【文献】
J.Robert Carter et al.,Quantitative Analysis of Quartz and Cristobalite in Bentonite Clay Based Products by X-ray Diffraction,Anal.Chem.,1987年,Vol.59,pp.513-519
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分析の方法であって、
試料の元素組成を決定するために蛍光X線測定を行うステップと;
前記試料を偏向することなく直接に透過するエネルギーEの透過X線の強度を測定することによりX線の補正測定を行うステップと;
前記エネルギーEのX線源からのX線を、前記試料の表面に入射角度ψ
1で照射することにより、透過型のX線回折測定を行い、予め定められた成分のX線回折ピークに対応する出口角ψ
2におけるX線検出器により、前記エネルギーEにおける回折X線の測定強度I
d(θ
fl)を測定するステップと;
X線回折測定における測定されたX線強度と、前記補正測定と、
前記蛍光X線測定によって決定された元素組成と組成元素の質量減衰係数から計算された試料の質量減衰係数とを使用してマトリックス補正されたX線強度を演算するステップ;
を有
しており、
前記マトリックス補正の測定の強度Idcは、以下の式(3)により計算され、
【数2】
マトリックス補正係数Mflは以下の式(4)により、補正測定から計算された積μρdと、蛍光X線測定から決定された元素組成から計算された試料の質量減衰係数μとを使用して計算される、
X線分析方法。
【数3】
【請求項2】
前記補正測定を行うステップと蛍光X線測定を行うステップは同時に行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補正測定からビア-ランバートの法則を使用して積μρdを計算するステップを有する請求項1又は2に記載の方法。
ここで、μ(E)は質量減衰係数、ρは試料密度、dは試料の厚さである。
【請求項4】
試料の全ての成分の合計から試料の質量減衰係数μ(E)を下記式(2)により計算するステップを有する請求項1〜3に記載のいずれかの方法。
【数1】
ここで、w
iは試料成分の割合、μ
iは対応する試料成分の質量減衰係数、nelは試料成分の数である。
【請求項5】
前記予め定められた成分はフリーライムである、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記予め定められた成分の既知の濃度を持つ複数の試料について請求項1乃至5のいずれかの方法に従う方法を実施することにより校正ラインを得るステップと;
未知の試料について請求項1の方法を行うことにより、未知の試料中の予め定められた成分の量を測定するステップ、
を有する方法。
【請求項7】
校正ラインを得るステップは、前記予め定められた成分の既知の濃度を持つ前記複数の試料の濃度の関数として補正された強度に直線を当てはめるステップを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
実質的に水平に延伸する試料を支持する試料台と;
前記試料台の一方の側に位置するX線源と;
蛍光X線検出器と;
透過型幾何でX線回折を実施するための、前記試料台の他方の側に位置する回折X線検出器と;
制御装置とを有するX線装置であって、
前記制御装置は、当該X線装置に、請求項1乃至7のいずれかの方法を実施させるように構成される、
X線装置。
【請求項9】
前記試料台の上方に位置し、前記X線源から放射され、前記試料を偏向することなく透過するX線の強度を測定するための透過X線検出器を更に有する、請求項8に記載のX線装置。
【請求項10】
前記X線源は、Ag-Ka放射線の線源である、請求項8又は9に記載のX線装置。
【請求項11】
前記試料台と上方の前記X線検出器との間に、Ag-Kb放射線を濾過するフィルタを更に有する、請求項10に記載のX線装置。
【請求項12】
前記フィルタは、チューブスペクトルの連続放射線を濾過する、(a)Rh又はPd及び(b)Ag又は原子番号が47より大きい他の元素の積層体である、請求項11に記載のX線装置。
【請求項13】
前記X線源及び前記蛍光X線検出器は前記試料台の下方に設けられ、前記回折X線検出器は前記試料台の上方に設けられる、請求項8乃至12のいずれかに記載のX線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定量X線分析とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を使用する材料分析は多くの応用分野や産業において正確なデータを提供している。蛍光X線測定は試料中の組成元素の決定を可能にする。しかしながら、ある応用分野においては、これは十分でなく、また、単に組成元素を決定するだけでなく、試料の結晶相のような構造パラメータを決定する要請が存在し、これらではX線回折が使用される。
【0003】
代表的には、高い解像度のX線回折測定が反射モードで実施され、ここではX線の入射ビームが試料の第1の面に入射し、次いで、試料の同じ面で回折角2θで回折されたX線が検出器により検出される。
【0004】
ある応用分野においては、X線回折測定を透過モードで行うようにすることが有用であり、このモードでは、X線は試料の第1の面に入射し、第1の面から第2の面に試料を通過した後、回折角2θで回折したX線が測定される。
【0005】
この透過ジオメトリ(幾何学的構造)での測定に伴う問題は、試料そのものがX線を吸収することである。したがって、試料中のX線の吸収は通常は知られていないので、試料の与えられたいかなる相における量を決定するための回折X線の正確な定量分析を行うことは困難である。試料中の種々の成分の濃度の僅かな変化は吸収に大きな変化をもたらす。成分がわかってなく、吸収に影響を与えるため、これが試料中の与えられた成分の量を測定するように設計されたX線定量分析の問題点である。
【0006】
圧縮された粉体の試料を測定するときの更なる問題点は、圧縮されたペレットの厚さdと密度ρ、即ちより一般的に使用される積x=rd(“質量厚み”“mass thickness”又は“表面密度”(“surface density”)として知られている)が通常は正確に知られていないことである。質量厚みの値はペレットの重量とその面の面積に対する割合として直接に得られる。しかしながら、その結果得られる数値は十分に正確でなく、透過測定の質に大きな誤差を生じる。
【0007】
更に、工業利用においては、圧縮粉末試料を作り、できるだけ早く測定することが望まれている。X線測定を行う前に質量厚みの測定を正確に行うことは一般的に好ましくない。
【0008】
これらの考慮すべきことは、
図1を参照することによりわかるが、
図1は、0%、10%、20%及び30%の種々のバインダーパーセントでワックスバインダーが混合された標準のセメントクリンカー材料(ポートランド セメント クリンカー:Portland cement clinker)の3つの試料の試料厚みの関数としての理論的に計算されたフリーライム(遊離CaO:遊離酸化カルシウム)の回折強度を示している。
【0009】
厚みのより大きい試料はより大きい回折の材料を含む、-2倍の厚みの試料は2倍の量のフリーライムを持つ-にもかかわらず、実際、回折強度は小さいといことを留意されたい。
【0010】
工業利用において頑丈な試料を保証する現実的な試料の厚み(3mmより大きい)と希釈割合(10%-20%)は、かなりの非線形レジームとなる。これは、小さい厚みの偏差が測定された、或いは計算された強度に大きな影響を及ぼすことを意味する。これが、質量厚みの推定が質の悪い結果を生じる主たる理由である。
【0011】
更に、
図2に示すうように、回折強度は、また、正確な組成に依存する。
【0012】
図2は、ポートランド セメント クリンカーの3個の異なる試料についての3つのグラフを示している。これらの試料の間では全体的に類似しているものの、回折強度は試料の間で異なっており、このことは、吸収の影響が試料間で異なる正確な組成の関数であることを示すものである。約3mmの厚みにおいては、約8%の回折強度の差が現れている。このことが、また、フリーライムの濃度の定量測定を回折測定から計算することを困難にしている。
【0013】
定量測定についての変化する組成の効果は、測定される試料、即ち、マトリックス、の組成に依存するため、マトリックス補正として知られている。マトリックス補正を計算することは、一般的に難しい。したがって、この困難を避ける測定方法に対する要請がある。
【0014】
回折することなしに媒体を直接に通過する電磁波の吸収は、ビア-ランバート(Beer-Lambert)の法則により、以下の式で与えられる。
【0015】
【数1】
ここで、I
0はオリジナル強度、Iは材料を通過した後の強度、μは材料の質量減衰係数、ρは材料の密度及びdは材料の厚さ(即ち、材料内の放射線の通路の長さ。)。
【0016】
X線定量測定における吸収の影響の計算は、多くの理由により上記簡単な式が示すよりさらに複雑である。第1に、ある試料は厚さに制限がある。圧縮粉末試料では、十分に長い時間取り扱うことができ、また、測定できるような試料の好適な厚さは、少なくとも2mm、好ましくは3mmである。
【0017】
しかしながら、これらの厚さにおいては多くの場合に必要となる代表的なX線エネルギーにとって、試料中の厚みにおけるX線の吸収は50%より高い。
【0018】
このことは、吸収の影響は大きく、単純なビア-ランバートの法則からのずれがかなりのものとなることを意味している。大きな吸収は、測定の強度と試料中の特定の成分の濃度との間の関係が直線的とはならないことを意味している。
【0019】
単純なビア-ランバートの法則を使用することにより、単一の値、積μρdにより単純に測定されたX線強度への吸収の影響を導き出すことが可能である。
【0020】
しかしながら、厚さとマトリックスの変動について測定された回折強度を補正するために、積μρdと質量吸収係数μが必要となる。同じ積μρdを持つが、(例えば)異なるμを持つ2つの試料は、単純にビア-ランバートの法則によれば同じ減衰が現れるであろうが、この応用では測定される回折の強度は同じとはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、X線回折の厚みとマトリックス補正を量的に実行する方法への要求が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の第1の態様によると、X線分析の方法が提供され、この方法は;
試料の組成元素を決定するために蛍光X線分析を実行し;
前記試料を偏りなく直接に透過するエネルギーEにおける透過X線の強度を測定することにより、X線の補正測定を行い;
X線源から出るエネルギーEのX線を試料に角度ψ
1で照射し、所定の組成のX線回折ピークに対応する出口角度ψ
2におけるエネルギーEの回折されたX線の測定強度I
d(θ
fl)をX線検出器により測定し;
X線回折測定により測定されたX線強度、補正測定、組成元素と前記元素の質量減衰係数から計算される前記試料の質量減衰係数を使用してマトリックス補正されたX線強度を計算する、ことを含む。
【0023】
このように測定を実施することにより、試料を通過するX線の吸収の影響について回折X線強度を補正することが可能となり、したがって、透過モードにおいても量的な測定が可能となる。この補正の理論は以下に示す。
【0024】
補正測定を行うステップと蛍光X線測定を行うステップは同時に行われる。これにより、試料の測定を完了させるための時間は可能な限り短縮される。
【0025】
積μρdは、補正測定からビア-ランバート(Beer-Lambert law)の法則を使用して計算することができ、ここで、μ(E)は質量減衰係数、ρは試料密度、dは試料の厚さである。
【0026】
試料の質量減衰係数μ(E)は試料の全ての成分について合計により求められる。
【0027】
【数2】
ここで、w
iは試料の成分の割合、μ
iは対応する成分の質量減衰係数である。
【0028】
マトリックス補正される測定強度I
dcは以下の式により計算することができる。
【0029】
【数3】
マトリックス補正係数M
flは以下の式により計算される。:
【0030】
【数4】
上記方法は、クリッカー試料のフリーライムを量を決定するための特別の応用例である。
【0031】
この方法は、校正のステップを含んでいる。この方法は以下のステップを含む。:
既知の濃度を持つ予め定めた成分を持つ複数の試料について、上述の方法を実施して校正線を得る、及び
未知の試料について、上述の方法を実施して未知の試料の所定の成分の量を測定する。
【0032】
上記校正は、既知の濃度を持つ所定の成分の複数の試料の濃度を関数として補正された強度に直線を当てはめることを含むことができる。
【0033】
他の態様は、本発明はX線装置であり、当該X線装置は;
実質的に水平に延在する試料を支持する試料台と;
前記試料台の一方の側に位置するX線源と;
蛍光X線検出器と;
透過ジオメトリでX線回折を行うための前記試料台の他方の側に位置する蛍光X線検出器と;
制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記X線装置に上記の方法を実行させるようにされている。
【0034】
このような装置は、上述のような測定を行うことができる。
【0035】
上記X線装置は、前記X線源から射出され、回折することなしに前記試料を透過するX線の強度を測定するため、前記試料台の上に位置する透過X線検出器を含む。この透過X線検出器は、上記回折X線検出器とは異なるように、例えば、異なるフィルタと異なるコリメータ装置を備え、回折測定と透過測定が同時に分離して最適に行えるようにされている。
【0036】
X線源はAgKa放射線の線源である。
【0037】
前記試料台と透過X線検出器との間に設けられ、このフィルタはAgKb放射線を濾過する。
【0038】
このフィルタは、チューブス(X線管)ペクトルの連続放射線を濾過するための(a)Rh又はPd及び(b)Ag又は原子番号が47より大きい他の元素の積み重ねとするこができる。
【0039】
X線源と蛍光X線検出器は、試料台の下に設けることができ、回折X線検出器は試料台の上部に設けられる。
【0040】
以下に図面を参照して本発明の実施例を述べる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】ワックス中の粉末の異なる濃度の試料についての厚みに対する測定強度を示すグラフである。
【
図2】異なる組成の試料についての厚みに対する測定強度を示すグラフである。
【
図3】下記の「理論」セクションで考えられる形状における入射X線と出射X線を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明は、試料の厚みに明確な知見無しに透過形態におけるX線回折における測定される光子強度の補正に適用できる方法に関する。
【0043】
理論
透過ジオメトリで実行されるX線回折測定は、測定される試料片が、生成された光子が背面側から一定の出口角度で逃げることができるように限定された厚みを持つことを必要としている。理論的計算は、測定される光子強度は試料の厚さと共に組成の両方に依存するであろうことを予見している。
【0044】
この意味において、試料の調整に関しての測定の再現性は、試料の調整中に異なる希釈割合(バインダー/材料)が適用されることを前提とすると、単一の試料から調整された試料片においてさえもかなりの影響を受ける。
【0045】
X線が試料を通過する吸収は以下により決定される:
上式は、試料片の質量減衰係数(通常、cm
2/gで表される)で、試料片に含まれる全ての元素の重量比w
i、及び各元素の励起エネルギーEにおける各元素の質量減衰係数μ
i(E)を含むため試料片の組成に直接に関連する。
【0046】
この式及びこの書類の他の式で使用される関連する記号の定義をここでまとめておく。
【0047】
【表1】
図3に示すように、入射角ψ
1で試料に入射し、更に、出射角ψ
2で特定の元素により回折されるX線を考える。
【0048】
ここで、数学の理解のために例を示す。
この例では、測定を通じて、特定の(予め定めた)成分はフリーライムであるが、他の成分についても適用可能である。
【0049】
入射線はAG-Kaであるとすると、第1次回折は回折角2θ=13.3°であると想定される。したがって、この例では、入射角ψ
1=57°とすると、出射角ψ
2=57°+13.3°=70.3°となる。
【0050】
この回折ピークに対応する出射角において、シンチレーション検出器により観察される強度は、以下の式により与えられる。
【0052】
【数6】
は、角度θ
flにおける自己吸収項である。
【0053】
σ
flは、回折ピークにおける測定された所定の成分の散乱断面積であり、σ
othlは他の全ての成分の散乱断面積であることを留意されたい。
【0054】
そこで、以下のように書くことができる。
【0055】
【数7】
この式の左側はマトリックス及び厚み補正された回折線強度I
dc(θ
fl)を示している。
【0056】
第2の部分は2つの項の和である。1つはフリーライム相から出た回折信号であり、他の項は他の結晶及びアモルファス相の影響を示すものである。
【0057】
クリンーカータイプの限られた範囲内においては、このファクターは一定のバックグランドとみなすことができ、式(7)は以下のように書き直すことができる。
【0059】
一般的に、評価式(6)は、直線からはかなりかけ離れている。しかしながら、本発明者は、ある試料は、組成元素を決定することができる蛍光X線分析により十分に良好に特徴づけられることを認識している。したがって、吸収μは単純に吸収の合計で、試料中に存在する既知の化合物により決定されるため、式(2)を使用することができる。これは、μの値に通ずるものである。
【0060】
試料中の直接の透過を測定し、式(1)のビア・ランバートの法則を使用して積μρdを計算することも可能である。
【0061】
これらの2つの情報により、マトリックス強度補正M,即ち、試料中の他の元素の吸収の影響に対する測定値を、式(6)のそれらの値と置換えることにより補正すること、により、X線回折の測定強度を補正することも可能である。
【0062】
したがって、特定の成分に対応する蛍光X線分析ラインについて機器の校正を行った後、試料中の吸収を補正し、式(7)からI
dc(θ
fl)を得ることが可能である。この値から、また、校正曲線を使用して、特定の成分の重量割合が決定される。
【0063】
実施例
X線装置2は、試料6を支持する試料台4を有する。
【0064】
実際、この装置2は試料台4の下に設けられるX線源10を備える通常の蛍光X線分析装置である。この実施例においては試料台4の下に蛍光X線を測定するための蛍光X線検出器12が存在する。蛍光X線検出器は、X線をエネルギーの関数としてX線強度を測定するエネルギー分散型X線検出器であるか、或いは特定の波長のX線のみを選別する結晶を備える波長分散型X線検出器とすることができる。この結晶は、異なる波長を選別するように可動とされるか、或いは、関心のある特定の波長を選別するように固定することができる。
【0065】
通常の蛍光X線分析装置に、ゴニオメータ上の試料台4の上部に設けられる透過X線検出器14が加えられ、角度の関数として回折X線を検出できるようにしている。
【0066】
下記に説明するように、補正X線検出器30が透過X線検出器に隣接して設けられている。コリメータ16及びフィルタ18を含む他の多くの要素が設けられる。
【0067】
この装置は、メモリ22とプロセッサ24を含む制御装置20により制御される。
【0068】
図示された実施例では、X線源10はAg-Ka線を出射し、Ag-Kb線及び連続放射線を濾過するようにされている。フィルタはAg-Kb線を濾過するRH又はPdの層と連続線を濾過する他の層を含む多層フィルタとすることができる。他の大きい原子番号の層も、Ag或いは他の元素がAgに加えて使用することができる。
【0069】
単純なピンホール光学系がコリメーションに使用することができる。
【0070】
使用に際し、試料6が圧縮粉末法により調整される。粉末は、試料台の上に載せられるようにリングの形状でワックスと共に圧縮される。特定の例では、試料はクリンカー試料で、測定されるべき予め定めた成分はフリーライム(free lime)である。
【0071】
測定の第1段階において、X線源が(シャッタを除くことにより)起動され、X線が試料に入射される。この場合、蛍光X線測定が蛍光X線検出器により行われる。
【0072】
補正X線検出器30が、入射X線と直接に線上に、即ち、直接に透過するX線を検出するように設けられている。補正X線検出器は試料を透過するX線の強度、したがって、試料中の吸収を測定する。
【0073】
検出器が重複するのを避けるため、また、検出器30によって記録される放射線が回折測定のためのものと同じでることを確保するため、適度の厚みを持つAgフィルタ32が試料と検出器との間に配置され、Ag-Kb線を濾過し、また、可能のある連続線を濾過するようにしている。
【0074】
このフィルタは、Ag-Kb線を濾過するPh或いはPdの層と、連続線を濾過するAgのような他の層を含む多層フィルタとすることができる。
【0075】
次に、入射角ψ=57°を与える位置の線源と出射角ψ=57°+13.3°を与える位置の透過X線検出器により通過する回折ピーク2θ
fl=13.3°における強度の測定が測定される。
【0076】
この情報は、前記式(1)、(2)、(5)及び(6)を使用して合体し、(蛍光X線分析により得られる)特定の元素についての情報だけでなく、(X線回折だけにより得られる)1又は複数の相についての情報を得ることができる。
【0077】
これらの測定と校正は、全て、測定を実行するために装置を制御する制御装置20のプロセッサ22を制御するメモリ24内に記憶されるコードにより制御されて実行される。
【0078】
当業者であれば、この装置と方法は、利用できる特定の装置に適合するように変更することができることを理解できるであろう。例えば、異なる放射線スペクトルを持つ異なるX線源が使用できる。回折測定と透過測定を検出器14,30に同じ検出器を使用することもできる。
【0079】
実験例
本方法の適用性と共に、実施される近似の有効性をテストするために実験例が実施された。圧縮ペレットの組が、0%、0.5%、1%、1.5%、2%、3%、4%及び5%に等しい最終FL(フリーライム)濃度を生成する適宜のフリーライム量を混入したクリンカーマトリックスから製造された。
【0080】
式(8)によれば、FLの濃度と補正された回折強度との関係を示す補正ラインを形成することが可能である。結果が
図5に示されている。
【0081】
比較のため、補正されない強度もFL濃度の関数としてプロットされている。この補正の適用は、補正線の質を顕著に改善することに留意されたい。変動が少なく、直線の勾配が急であることが示され、このことは、正確な強度測定を可能とするものである。
【符号の説明】
【0082】
2 X線装置
4 試料台
6 試料
10 X線源
12 蛍光X線検出装置
14 透過X線検出装置
16 ゴニオメータ
18 フィルタ
20 制御装置
22 メモリ
24 プロセッサ