特許第6861478号(P6861478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6861478
(24)【登録日】2021年4月1日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】フミン含有排水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20210412BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20210412BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20210412BHJP
   C02F 9/02 20060101ALI20210412BHJP
   C02F 9/04 20060101ALI20210412BHJP
   C02F 9/14 20060101ALI20210412BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C02F1/44 F
   C02F3/12 S
   C02F3/12 N
   C02F3/10 Z
   C02F9/02
   C02F9/04
   C02F9/14
   C02F1/58 E
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-118447(P2016-118447)
(22)【出願日】2016年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-39118(P2017-39118A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2019年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-160388(P2015-160388)
(32)【優先日】2015年8月17日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】安保 貴永
(72)【発明者】
【氏名】枡田 守弘
【審査官】 目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−066584(JP,A)
【文献】 特開平06−254595(JP,A)
【文献】 特開2002−346581(JP,A)
【文献】 特開2001−276844(JP,A)
【文献】 特開昭59−014795(JP,A)
【文献】 特開2016−013537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00−71/82
C02F1/44
C02F1/52/−1/64
C02F3/00−3/34
C02F9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フミンを含む排水を処理する方法であって、下記の工程(i)〜(iv)を含む方法。
(i)排水に酸を添加しpHを5.0以上7.0以下に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(ii)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(iii)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(iv)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過工程。
【請求項2】
フミンを含む排水を処理する方法であって、下記工程(a)〜(e)を含む方法。
(a)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(b)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(c)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(d)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和工程;
(e)前記中和工程で中和された排水を膜濾過する、膜濾過工程。
【請求項3】
前記返送工程において、前記不溶化工程にある排水100体積部に対し、前記分離工程で分離された不溶化したフミンを含む排水2体積部以上10体積部未満を返送する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記返送工程において、前記不溶化工程にある排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質1倍量に対し、前記分離工程で分離された不溶化したフミンを含む浮遊物質4.5倍量以上24倍量以下を返送する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記不溶化工程において、塩酸または硫酸あるいはそれらの混合物を添加し、pHを調整する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記膜濾過工程が、生物処理と膜分離処理とを組み合わせた膜分離活性汚泥処理である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生物処理が、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせにより行われる処理である、請求項記載の方法。
【請求項8】
前記膜濾過工程の後段で生物担体による処理を行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記生物担体の担体が活性炭である、請求項記載の方法。
【請求項10】
前記排水が、石炭の一部をガス化させる加熱処理を含む工程から生じる排水、又は、家畜のし尿を含む排水である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
フミンを含む排水を処理する装置であって、下記の構成(I)〜(IV)を備える装置。
(I)排水に酸を添加しpHを5.0以上7.0以下に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(II)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(III)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(IV)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過器。
【請求項12】
フミンを含む排水を処理する装置であって、下記の構成(A)〜(E)を備える装置。
(A)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(B)前記不溶化槽で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(C)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(D)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和槽;
(E)前記中和槽で中和された排水を膜濾過する、膜濾過器。
【請求項13】
前記中和槽及び前記膜濾過器が一体に構成された、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
フミンを不溶化させる不溶化槽に、酸を添加して槽内のpHを調整する、pH調整手段を備える、請求項11〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
フミン分離後の排水を中和する中和槽に、アルカリを添加して槽内のpHを調整する、pH調整手段を備える、請求項12又は13に記載の装置。
【請求項16】
膜濾過器において、生物処理と膜分離処理を組み合わせた膜分離活性汚泥処理が行われる、請求項11〜15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記生物処理が、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせにより行われる処理である、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記膜濾過器の後段に生物担体による処理を行う生物担体槽を備える、請求項11〜17のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フミン含有排水の処理方法及び処理装置に関する。より詳しくは、排水中のフミンを不溶化させて分離した後、排水を膜濾過する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性物質を含有する排水を浄化処理する方法として、中空糸膜等の濾過膜を用いて排水を濾過する方法が知られている(特許文献1、2)。濾過膜は、次第に汚れが付着して濾過性能が低下してしまうため、通常、定期的に膜を洗浄することにより、濾過性能を回復させている。例えば、水酸化ナトリウム等の強アルカリ薬剤を用いて洗浄する方法(特許文献3)や、塩素酸又はその塩と界面活性剤の混合液を用いて洗浄する方法(特許文献4)が提案されている。
【0003】
疎水性物質を含有する排水において、膜閉塞を誘発する物質の1つにフミンが挙げられる。フミンは排水を酸性にすることによって不溶化させることができ、沈殿させて除去することが可能であるが、排水の性状によっては沈降不良のために十分に除去できず、膜閉塞を引き起こす場合がある。
【0004】
膜濾過による排水処理におけるフミンの除去方法としては、例えば、フミン含有排水に、オゾン、超音波、過酸化水素、紫外線又は光触媒等を作用させてフミンを酸化、分解した後に膜濾過を行う方法(例えば、特許文献5〜7)、フミン含有排水に、凝集剤を作用させ、フミンを凝集沈殿させて排水中より除去した後に膜濾過を行う方法(例えば、特許文献8〜9)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−152781号公報
【特許文献2】特開平5−245472号公報
【特許文献3】特開2010−36183号公報
【特許文献4】特開2013−31839号公報
【特許文献5】特開平11−347587号公報
【特許文献6】特開2003−24957号公報
【特許文献7】特開2003−88885号公報
【特許文献8】特開2002−326088号公報
【特許文献9】特開2002−346581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献5〜7記載の方法は、酸化に必要なエネルギーが莫大で、運転のための設備及び試薬等にも多大なコストを必要とし、また夾雑物の影響も受けやすいという問題がある。また、特許文献8〜9記載の方法は、凝集剤を使用することにより、凝集沈殿物の量が増え、その処理コストがかさむという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、フミンを含有する排水の膜濾過による処理において、高効率かつ低コストに排水中のフミンを除去するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]〜[18]を提供する。
[1]フミンを含む排水を処理する方法であって、下記の工程(i)〜(iv)を含む方法。
(i)排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(ii)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(iii)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(iv)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過工程。
[2]フミンを含む排水を処理する方法であって、下記工程(a)〜(e)を含む方法。
(a)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(b)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(c)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(d)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和工程;
(e)前記中和工程で中和された排水を膜濾過する、膜濾過工程。
[3]前記返送工程において、前記不溶化工程にある排水100体積部に対し、前記分離工程で分離された不溶化したフミンを含む排水2体積部以上10体積部未満を返送する、[1]又は[2]の方法。
[4]前記返送工程において、前記不溶化工程にある排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質1倍量に対し、前記分離工程で分離された不溶化したフミンを含む浮遊物質4.5倍量以上24倍量以下を返送する、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5]前記不溶化工程において、塩酸または硫酸あるいはそれらの混合物を添加し、pHを調整する、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6]前記膜濾過工程が、生物処理と膜分離処理とを組み合わせた膜分離活性汚泥処理である、[1]〜[5]のいずれかの方法。
[7]前記生物処理が、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせにより行われる処理である、[6]の方法。
[8]前記膜濾過工程の後段で生物担体による処理を行う、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]前記生物担体の担体が活性炭である、[8]の方法。
[10]前記排水が、石炭の一部をガス化させる加熱処理を含む工程から生じる排水、又は、家畜のし尿を含む排水である、[1]〜[9]のいずれかの方法。
【0009】
[11]フミンを含む排水を処理する装置であって、下記の構成(I)〜(IV)を備える装置。
(I)排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(II)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(III)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(IV)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過器。
[12]フミンを含む排水を処理する装置であって、下記の構成(A)〜(E)を備える装置。
(A)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(B)前記不溶化槽で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(C)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(D)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和槽;
(E)前記中和槽で中和された排水を膜濾過する、膜濾過器。
[13]前記中和槽及び前記膜濾過器が一体に構成された、[11]又は[12]の装置。
[14] フミンを不溶化させる不溶化槽に、酸を添加して槽内のpHを調整する、pH調整手段を備える、[11]〜[13]のいずれかの装置。
[15] フミン分離後の排水を中和する中和槽に、アルカリを添加して槽内のpHを調整する、pH調整手段を備える、[11]〜[14]のいずれかのの装置。
[16]膜濾過器において、生物処理と膜分離処理を組み合わせた膜分離活性汚泥処理が行われる、[11]〜[15]のいずれかの装置。
[17]前記生物処理が、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせにより行われる処理である、[16]の装置。
[18] 前記膜濾過器の後段に生物担体による処理を行う生物担体槽を備える、[11]〜[17]のいずれかの装置。
【0010】
フミン酸に代表される「フミン」は、土壌や石炭などの中に含まれている物質であり、動植物の遺骸や排泄物の化学的・生化学的な分解、又は微生物による合成の結果生成する複雑な化学構造を有し、褐色を呈する分子量数百〜数万の高分子化合物である。フミンは、単一の化合物からなるものではなく、構造を特定できない複数種の有機物を含んでいる混合物である。フミンの代表的な元素組成は、炭素:50〜65%、水素:4〜6%、酸素:30〜41%であり、その他微量の窒素、リン、イオウなどを含んでいる。また、フミンは、主に芳香族からなり、カルボキシル基、フェノール性水酸基、カルボニル基、水酸基などの官能基を有する。フミンは、酸性領域のpH条件下で不溶化する。フミンは、排水中に有機色素(着色成分)として存在し、生物処理による分解が困難な水質汚濁物質の一種(COD)ともなっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、フミンを含有する排水の膜濾過による処理において、高効率かつ低コストに排水中のフミンを除去するための技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
<フミン含有排水の処理方法>
本発明に係るフミン含有排水の処理方法は、下記の工程(i)〜(iv)を含むことを特徴とする。
(i)排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(ii)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(iii)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(iv)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過工程。
【0014】
本発明に係るフミン含有排水の処理方法は、より具体的には、下記工程(a)〜(e)を含むものとされる。
(a)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化工程;
(b)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離工程;
(c)前記分離工程で分離された不溶化したフミンを前記不溶化工程に返送する、返送工程;
(d)前記分離工程で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和工程;
(e)前記中和工程で中和された排水を膜濾過する、膜濾過工程。
【0015】
(不溶化工程)
本工程は、排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる工程である。
【0016】
本発明において処理対象となるフミン含有排水は、特に限定されないが、例えば、石炭の一部がガス化する加熱処理を含む工程から生じる排水(石炭加熱排水)、又は畜産業から排出されるし尿を含む排水である。
【0017】
石炭加熱排水としては、例えば、石炭乾留、石炭ガス化、石炭液化及びコークス化等における工程から生じる排水が挙げられる。また、石炭加熱排水として、加熱した石炭と水の反応である水性ガス化の工程や、カルシウムカーバイド製造の工程から生じる排水も挙げられる。石炭加熱排水は、これらの工程で、ガス回収、化学種の分離、回収、精製、及び機器洗浄等に伴って発生する排水である。石炭加熱排水は、生活排水や産業排水、水や海水等と混合される場合もある。石炭加熱排水に含有される物質としては、フェノール類、シアン、アンモニア、硫化水素イオン、チオシアン、タール状油分、炭化水素化合物及び芳香族化合物等が挙げられる。
【0018】
畜産業から排出される排水としては、牛、豚、鶏、馬等の家畜の施設から生じる畜産し尿、飼育廃水等の排水、又は、畜産し尿及び飼育排水等を発酵させた消化液を挙げることができる。畜産し尿はフミンを多く含むことから、本発明に係る処理方法が特に有効に適用される。
【0019】
排水に添加される酸は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸;又はこれらの混合物などであってよい。塩酸、硫酸又はこれらの混合溶液は、排水処理水質への影響が少ないため、好ましい。さらに、塩酸は、硫化水素の発生を抑制でき、生物処理への影響も少ないため、特に好ましい。
【0020】
pHは、排水中のフミンが不溶化する条件であればよく、5.0以上7.0以下となることが好ましく、5.7以上6.9以下であれば、後段の中和工程が不要となる。pHが酸性条件であればフミンの不溶化を生じさせるのに十分であるが、上記pH範囲とすることで、不溶化工程後に排水の中和を行う必要がなく、あるいは中和を行う場合にも必要なアルカリの量を少なくでき、経済的である。排水の中和は、不溶化工程後、排水を生物処理する前又は放流する前に必要となる。一方、pHを1.0以上5.0未満、好ましくは2.0以上4.5以下にすることで、後段の中和工程が必要になる場合もあるが、フミン除去効率には有効である。pH範囲は、水処理条件に合わせて、適宜選択することができる。
【0021】
(分離工程)
本工程は、不溶化工程で不溶化したフミンを分離する工程である。
【0022】
フミンの分離は、砂ろ過、加圧浮上分離、遠心分離、ベルトプレス、沈澱池による沈殿等によって行うことができる。処理の連続性や、次に説明する返送工程を考慮すると、沈澱池による沈殿が好ましい。
【0023】
(返送工程)
本工程は、分離工程で分離された不溶化したフミンを不溶化工程に返送する工程である。分離工程で分離された不溶化したフミンを不溶化工程に返送することにより、不溶化工程における、フミンを含む浮遊物質の沈降速度を高め、フミンの除去効率を高めることができる。
【0024】
不溶化工程に返送されるフミンを含む浮遊物質の量は、フミン除去効率の観点から、返送先の不溶化工程にある排水100体積部に対して、分離工程で分離された不溶化したフミンを含む排水2体積部以上10体積部未満が好ましく、3体積部以上8体積部以下がより好ましく、3.5体積部以上7体積部以下がさらに好ましく、4体積部以上6体積部以下が特に好ましい。また、フミン除去効率の観点から、返送先の不溶化工程にある排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質1倍量に対し、分離工程で分離された不溶化したフミン含む浮遊物質4.5倍量以上24倍量以下が好ましく、7.3倍量以上20.0倍量以下がより好ましく、8.5倍量以上18.0倍量以下がさらに好ましく、9.5倍量以上15.0倍量未満が特に好ましい。
【0025】
不溶化工程にある排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質の量、及び分離工程で分離された不溶化したフミンを含む排水中の同浮遊物質の量は、濾過残渣の重量測定法、光度計による濁質測定等によって決定できるが、簡便性や連続的な測定を考慮すると、光度計による濁質測定が好ましい。
【0026】
分離工程で分離された不溶化したフミンを含む返送液は、返送ライン及びポンプ等により分離工程から不溶化工程に直接返送されてもよいが、返送ライン上に設けたタンク等に一時貯留した後、不溶化工程に戻してもよい。これにより、上記所定量のフミンを含む浮遊物質を安定的に不溶化工程に返送することが可能となる。また、一時貯留用のタンク内に、浮遊物質量を測定する装置が設けられていてもよい。
【0027】
(中和工程)
本工程は、分離工程で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する工程である。
【0028】
(膜濾過工程)
本工程は、中和工程で中和された排水を膜濾過する。膜濾過工程は中和工程と同時に行われてもよい。
【0029】
濾過膜としては、特に限定されないが、中空糸膜、平膜、チューブラ膜、モノリス型膜等が挙げられ、容積充填率が高いことから中空糸膜が好ましい。濾過膜として中空糸膜を用いる場合、その材質としては、セルロース、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデンジフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)等が挙げられ、耐薬品性やpH変化に強いことから、ポリフッ化ビニリデンジフロライド(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)が好ましい。濾過膜としてモノリス型膜を用いる場合は、セラミック製の膜を用いることができる。
【0030】
濾過膜に形成される微細孔の平均孔径は、0.01〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.45μmがより好ましい。微細孔の平均孔径が前記下限値以上であれば、膜濾過に要する圧力を小さくしやすい。微細孔の平均孔径が前記上限値以下であれば、濁質成分の濾液への漏出を抑制しやすい。
【0031】
本工程は、生物処理と膜分離処理とを組み合わせた膜分離活性汚泥処理により、有機物や窒素分等の水質汚濁物質の除去を行うものであってもよい。この場合において、生物処理は、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせであってよい。
【0032】
本工程の後段では、生物担体による処理を行ってもよい。この場合において、担体には、活性炭が好適に用いられ得る。本工程後の排水は、必要に応じてさらにpHを調整した後、河川等に放流されてもよい。
【0033】
以上説明した本発明に係る処理方法によれば、分離工程で分離された不溶化したフミンを不溶化工程に返送することにより、不溶化工程における、フミンを含む浮遊物質の沈降速度を高め、分離工程におけるフミンの除去効率を高めることができる。従って、本発明に係る処理方法によれば、分離工程に続く膜濾過工程においてフミンによる膜閉塞を生じにくく、膜濾過の洗浄頻度や洗浄剤の使用量を減らして、安定的かつ低コストに膜濾過運転を行うことができる。また、本発明に係る処理方法によれば、凝集剤を用いることなく、分離したフミンを含む浮遊物質自体を、該浮遊物質の沈降を促進させるために用いるので、最終的な凝集沈殿物の量を減らして処理コストを抑えることできる。
【0034】
なお、従来の凝集剤を用いたフミンの除去技術では、無機凝集剤(特に鉄系の無機凝集剤)を用いる場合に、凝集剤がフミンと錯体を形成することで酸性領域におけるフミンの溶解性が高まり、フミンが不溶化しにくくなる問題があった。本発明に係る処理方法によれば、上記のように凝集剤を用いる必要がないため、このような問題も解決することが可能である。
【0035】
<フミン含有排水の処理装置>
本発明に係るフミン含有排水の処理装置は、上述した不溶化工程、分離工程、返送工程、中和工程及び膜濾過工程を実施するため構成を備える。本発明に係るフミン含有排水の処理装置は、下記の構成(I)〜(IV)を備えることを特徴とする。
(I)排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(II)前記不溶化工程で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(III)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(IV)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水を膜濾過する、膜濾過器。
【0036】
本発明に係るフミン含有排水の処理装置は、より具体的には、下記の構成(A)〜(E)を備えるものとされる。
(A)排水に酸を添加しpHを5未満に調整し、排水中のフミンを不溶化させる、不溶化槽;
(B)前記不溶化槽で不溶化したフミンを分離する、分離槽;
(C)前記分離槽で分離された不溶化したフミンを前記不溶化槽に返送する、返送ライン;
(D)前記分離槽で得られたフミン分離後の排水にアルカリを添加しpHを5以上9以下に中和する、中和槽;
(E)前記中和槽で中和された排水を膜濾過する、膜濾過器。
【0037】
本発明に係る処理装置において、不溶化槽、分離槽、返送ライン、中和槽及び膜濾過器は、従来公知の送液ライン、ポンプ及びバルブ等によって流体連結される。
【0038】
(不溶化槽)
不溶化槽では、排水中のフミンが不溶化される。不溶化槽は、フミンを含む排水が貯留できるものであれば特に限定されないが、フミン含有排水及び酸の添加によって劣化しにくいものが好ましい。
【0039】
不溶化槽は、上述した酸の添加とpHの調整を行うための手段として、例えばpH計と酸添加装置とを備える。
【0040】
(分離槽)
分離槽では、不溶化槽で不溶化されたフミンが分離される。
【0041】
分離槽では、砂ろ過、加圧浮上分離、遠心分離、ベルトプレス、沈澱池による沈殿等にが行われる。処理の連続性や、次に説明する返送工程を考慮すると、沈澱池による沈殿が行われることが好ましい。
【0042】
(返送ライン)
返送ラインは、分離槽で分離された不溶化したフミンを不溶化槽に返送する。
【0043】
返送ラインは、通常用いられる配管やポンプを用いて分離槽と不溶化槽とを接続し、分離槽で分離された不溶化したフミンを含む返送液を送液可能に構成したものである。
【0044】
返送ラインには、分離槽で分離された不溶化したフミンを含む返送液を一時貯留するタンク等が設けられることが好ましい。また、一時貯留用のタンク内に、フミンを含む浮遊物質量を測定する装置が設けられていてもよい。これにより、上述した所定量のフミンを含む浮遊物質を安定的に不溶化槽に返送することが可能となる。なお、浮遊物質量の測定装置は、返送元の分離槽内に設けられていてもよい。
【0045】
(中和槽)
中和槽では、分離槽で得られたフミン分離後の排水にアルカリが添加され、そのpHが5以上9以下に中和される。中和槽は、pHの調整を行うための手段として、アルカリ溶液を貯留するタンクや、排水のpHの測定装置、pHの測定値に基づいて必要量のアルカリ溶液を排水中に添加する添加装置等を備える。
【0046】
(膜濾過器)
膜濾過器では、中和槽で中和された排水の膜濾過が行われる。膜濾過器は中和槽と一体に構成されるものであってもよい。
【0047】
膜濾過器が備える濾過膜としては、上述した、中空糸膜、平膜、チューブラ膜、モノリス型膜等が挙げられる。また、濾過膜に形成される微細孔の平均孔径も、上述したとおり、0.01〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.45μmがより好ましい。
【0048】
膜濾過の形態としては、濾過膜を膜の一次側と二次側とが隔離されるようにハウジング内に固定してモジュールとし、モジュールの一次側に中和槽を接続し、二次側にポンプを接続した形態を採用できる。また、モジュールを中和槽内のフミン分離後の排水に浸漬し状態で膜濾過を行う形態も採用できる。さらに、膜モジュールとしては、濾過膜の下方に、膜面洗浄用の曝気手段を設けたものを用いてもよい。前記曝気手段としては、公知のものを採用できる。
【0049】
膜濾過器を生物反応槽として用い、生物処理と膜分離処理とを組み合わせた膜分離活性汚泥処理により、有機物や窒素分等の水質汚濁物質の除去を行ってもよい。この場合において、生物処理は、嫌気処理、無酸素処理及び好気処理の1又は2以上の組み合わせであってよい。
【0050】
膜濾過器の後段には、生物担体による処理を行う生物担体槽が設けられていてもよい。この場合において、担体には、活性炭が好適に用いられ得る。
【実施例】
【0051】
(試験排水の調製)
試験排水の調製には、コークス化工程によって生じた排水(石炭加熱排水)を用いた。石炭加熱排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを11以上に調整し、空気により曝気を行ってNH4−Nの一部を除去した後、pHを再調整して「試験排水」とした。試験排水
は、pHが6.2であり、NH4−N 110mg/Lを含み、CODCrが3900mg
/Lであった。試験排水中のフミンを含む浮遊物質量は74mg/Lであった。
【0052】
フミンを含む浮遊物質量の定量は、孔径0.45μmのPVDF製膜(ミリポア社製)で試験排水を吸引ろ過し、当初の膜乾燥重量と濾過後の膜乾燥重量との差分をとることによって行った。
【0053】
(試験返送水と浄化水の調製)
上記試験排水を、変質を防ぐために冷蔵で保持しながら1ヵ月程度沈殿処理し、上清を取り除くことにより、フミンを含む浮遊物質を高濃度に含有する排水を「試験返送水」として得た。取り除いた上清は、「浄化水」とした。試験返送水中のフミンを含む浮遊物質の濃度は18,170mg/Lであった。また、浄化水中には、フミンを含む浮遊物質は実質的に含まれないとみなすことが可能である。
【0054】
[実施例1]
試験排水100.0体積部に対し、試験返送水5.0体積部と、浄化水15.0体積部とを添加、撹拌し、撹拌停止後24時間経過時の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、12mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=12.3)
【0055】
[実施例2]
試験排水100.0体積部に対し、試験返送水2.5体積部と、浄化水17.5体積部とを添加、撹拌し、撹拌停止後24時間経過時の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、22mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=6.1)
【0056】
[比較例1]
試験排水100.0体積部に対し、浄化水20.0体積部を添加、撹拌し、撹拌停止直後の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、59mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=0)
【0057】
[比較例2]
試験排水100.0体積部に対し、浄化水20.0体積部を添加、撹拌し、撹拌停止後24時間経過時の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、24mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=0)
【0058】
[比較例3]
試験排水100.0体積部に対し、試験返送水10.0体積部と、浄化水10.0体積部とを添加、撹拌し、撹拌停止後24時間経過時の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、26mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=24.6)
【0059】
[比較例4]
試験排水100.0体積部に対し、試験返送水20.0体積部を添加、撹拌し、撹拌停止後24時間経過時の上清中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量を測定したところ、24mg/Lであった。
(試験返送水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量/試験排水中の不溶化したフミンを含む浮遊物質量=49.1)
【0060】
[結果のまとめ]
試験排水に、フミンを含む浮遊物質を高濃度に含有する試験返送水を添加した実施例1及び実施例2(試験排水100体積部に対してそれぞれ試験返送水5体積部、2.5体積部)では、試験返送水の添加を行っていない比較例2に比べて、静置24時間後の浮遊物質量が減少した。すなわち、試験返送水の試験排水中への添加によって、試験排水における浮遊物質の沈降速度が高まり、沈降が良好となることが分かった。
【0061】
試験排水に、試験返送水を多量に添加した比較例3及び比較例4(試験排水100体積部に対してそれぞれ試験返送水10体積部、20体積部)では、試験返送水の添加を行っていない比較例2に比べて、静置24時間後の浮遊物質量が同等以上であり、浮遊物質の沈降速度は遅く、沈降は不良であった。