【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高性能・高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発/先端複合技術型シリコン太陽電池、高性能CIS 太陽電池の技術開発/CIS 太陽電池モジュール高性能化技術の研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第5工程は、前記第6工程の前に、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、前記第2分割溝に露出している前記第1電極層及び前記光電変換層を曝す第10工程を有する請求項1〜3の何れか一項に記載の光電変換モジュールの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物系半導体を光電変換層として備える光電変換素子が知られている。
【0003】
このような光電変換素子として、例えば、化合物半導体であるカルコゲン元素(例えば、S又はSe)を含むカルコゲナイド系光電変換素子が知られている。
【0004】
カルコゲナイド系光電変換素子としては、例えば、I−III−VI
2族化合物半導体を有するCIS系光電変換素子、及び、I
2−(II−IV)−VI
4族化合物半導体を有するCZTS系光電変換素子が挙げられる。上述した化合物半導体は、p型の導電性を有する光電変換層として用いられる。
【0005】
光電変換素子は、基板上に第1電極層、光電変換層、バッファ層、及びn型の導電性を有し、透明な第2電極層が順次積層して形成される。
【0006】
バッファ層は、透明であり、n型の導電性又はi型の導電性(真性)を有している。バッファ層が、n型の導電性を有する場合には、光電変換層とバッファ層とが積層されて、pn接合が形成される。また、バッファ層が、i型の導電性を有する場合には、化合物系光電変換層とバッファ層とn型の導電性を有する第2電極層が積層されて、pin接合が形成される。
【0007】
非特許文献1は、バッファ層を形成する材料として、ZnO、ZnS、又はZnOとZnSの混晶Zn(O,S)等を用いることを提案している。
【0008】
非特許文献1は、Zn(O,S)を用いて形成されたバッファ層を有する光電変換素子が、ZnOを用いて形成されたバッファ層を有する光電変換素子よりも開放電圧が高くなって、高い光電変換効率を有することを開示している。
【0009】
また、非特許文献1は、Zn(O,S)が、硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比であるS/Znが高い程、高い抵抗率を示すことを開示している。Zn(O,S)を用いて形成されたバッファ層を有する光電変換素子の開放電圧が、ZnOを用いて形成されたバッファ層を有する光電変換素子よりも高くなる理由として、ZnOよりZn(O,S)のバッファ層の方が、光電変換層の伝導帯の下端のエネルギー準位と、第2電極層の下端のエネルギー準位との間に、所望の大きさのスパイクを有し易いことが考えられる。
【0010】
特許文献1は、複数の光電変換単位セルが直列に接続されて形成される光電変換モジュールを開示している。一の光電変換単位セルは、上述した光電変換素子と同様の構造を有する。
【0011】
図1は、従来例の光電変換モジュールを示す図である。
【0012】
光電変換モジュール101は、第1光電変換単位セル110a及び第2光電変換単位セル110bと、第1光電変換単位セル110aと第2光電変換単位セル110bとを電気的に接続する導電層120を備える。
【0013】
第1光電変換単位セル110aは、基板111と、基板111上に配置される第1電極層112と、第1電極層112上に配置される光電変換層113と、光電変換層113上に配置されるバッファ層115と、バッファ層115上に配置される第2電極層116を有する。第2光電変換単位セル110bは、第1光電変換単位セル110aと同様の構造を有する。
【0014】
第1光電変換単位セル110aの第1電極層112と、第2光電変換単位セル110bの第1電極層112とは、第1分割溝G1によって電気的に絶縁される。
【0015】
第1光電変換単位セル110aの光電変換層113及びバッファ層115及び第2電極層116と、第2光電変換単位セル110bの光電変換層113及びバッファ層115及び第2電極層116とは、第3分割溝G3によって電気的に絶縁される。
【0016】
導電層120は、バッファ層115と同じ材料を用いて、バッファ層115と一体に形成される。導電層120は、第1光電変換単位セル110aの第1電極層112と、第2光電変換単位セル110bの第2電極層116とを電気的に接続する。
【0017】
光電変換モジュール101の製造工程では、まず、基板111上に第1電極層112が形成され、次に、第1電極層112を分割する第1分割溝G1が形成される。次に、第1電極層112上に、化合物半導体を用いて光電変換層113が形成される。次に、光電変換層113を分割する第2分割溝G2が、第1分割溝G1の第1の側(
図1中、第1分割溝G1の右側)に形成される。次に、第2分割溝G2に露出している第1電極層112上に導電層120が形成され、光電変換層113上にバッファ層115が形成される。次に、バッファ層115上及び導電層120上に第2電極層116が形成される。次に、第2電極層116とバッファ層115と光電変換層113との積層体を分割する第3分割溝G3が、第2分割溝G2の上記第1の側(
図1中、第2分割溝G2の右側)に形成される。バッファ層115及び第2電極層116は、例えば、MOCVD法のような同一の製造方法を用いて、連続して形成される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明者は、上述した課題を解決するために、光電変換モジュールの製造方法の改良を検討した。その結果、バッファ層を形成する工程が、酸素原子及び亜鉛原子を含み、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気に、第2分割溝に露出している第1電極層及び光電変換層を曝す第1工程と、酸素原子及び亜鉛原子を含み、第1比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気に、第2分割溝及び光電変換層を曝す第2工程とを有することにより、解決できる知見を得た。
【0033】
まず、本明細書に開示する光電変換モジュールの製造方法により形成された光電変換モジュールについて説明した後、光電変換モジュールの製造方法について、説明する。
【0034】
以下、本明細書で開示する光電変換モジュールの好ましい一実施形態を、図を参照して説明する。但し、本発明の技術範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0035】
図2は、本明細書に開示する光電変換モジュールの一実施形態を示す図である。
【0036】
本実施形態の光電変換モジュール1は、第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bと、第1光電変換単位セル10aと第2光電変換単位セル10bとを電気的に接続する導電層20を備える。
【0037】
第1光電変換単位セル10aは、基板11と、基板11上に配置される第1電極層12と、p型の導電性を有し、第1電極層12上に配置され、化合物半導体により形成される光電変換層13と、光電変換層13上に配置されるシード層14を有する。また、第1光電変換単位セル10aは、シード層14上に配置され、i型又はn型の導電性を有し且つ高抵抗を有するバッファ層15と、n型の導電性を有し、バッファ層15上に配置される第2電極層16を有する。第2光電変換単位セル10bは、第1光電変換単位セル10aと同様の構造を有する。
【0038】
第1光電変換単位セル10aの第1電極層12と、第2光電変換単位セル10bの第1電極層12とは、第1分割溝G1によって電気的に絶縁される。
【0039】
第1光電変換単位セル10aの光電変換層13及びシード層14及びバッファ層15及び第2電極層16と、第2光電変換単位セル10bの光電変換層13及びシード層14及びバッファ層15及び第2電極層16とは、第3分割溝G3によって電気的に絶縁される。
【0040】
導電層20は、第2光電変換単位セル10bのバッファ層15と同じ材料を用いて、第2光電変換単位セル10bのバッファ層15と一体に形成される。よって、導電層20は、第2光電変換単位セル10bのバッファ層15とつながっている。
【0041】
導電層20は、第1光電変換単位セル10aの第1電極層12と、第2光電変換単位セル10bの第2電極層16とを電気的に直列に接続する。
【0042】
図2に示す例では、光電変換モジュール1は、2つの光電変換単位セルを備えているが、光電変換モジュール1は、3つ以上の光電変換単位セルを備えていて、各光電変換単位セル同士が、導電層を介して直列に接続されていてもよい。光電変換モジュール1は、
図2に示すように、第1光電変換単位セル10aのバッファ層15と一体に形成される他の導電層20を備えていてもよい。
【0043】
基板11として、例えば、ソーダライムガラス若しくは高歪点ガラス若しくは低アルカリガラス等のガラス基板、ステンレス板等の金属基板、又はポリイミド樹脂等の樹脂基板を用いることができる。基板11は、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属元素を含んでいてもよい。
【0044】
第1電極層12として、例えば、Mo、Cr、Ti等の金属を材料とする金属導電層を用いることができる。金属導電層を形成する材料は、S等のVI族元素との反応性の低い材料を用いることが、後述するセレン化法又は硫化法を用いて光電変換層13を形成する時に、第1電極層12の腐食を防止する観点から好ましい。光電変換単位セルが、他の光電変換単位セルの上に配置されて、いわゆるタンデム型の光電変換素子セル積層体を形成する場合には、光電変換単位セルは、透明な基板11及び透明な第1電極層12を有することが好ましい。ここで、基板11及び第1電極層12が透明であるとは、下に配置される他の光電変換単位セルが吸収する波長の光を透過することを意味する。なお、光電変換単位セルは、基板を有していなくてもよい。また、透明な第1電極層12の材料としては、III族元素(Ga,Al,B)がドープされた酸化亜鉛や、ITO(Indium Tin Oxide)を用いることができる。第1電極層12の厚さは、例えば、0.1〜1μmとすることができる。
【0045】
光電変換層13としては、カルコゲナイド系化合物半導体又はCdTe系化合物半導体を用いることができる。カルコゲナイド系化合物半導体としては、I−III−VI族化合物(I−III−VI
2族化合物とも表現され得る)により形成されるCIS系化合物半導体、又は、I−(II−IV)−VI族化合物半導体(I
2−(II−IV)−VI
4族化合物半導体とも表現され得る)により形成されるCZTS系化合物半導体を用いることができる。
【0046】
光電変換層13の厚さは、例えば、0.5〜3μmとすることができる。光電変換層13は、薄膜で形成されることが好ましい。
【0047】
光電変換層13がI−III−VI
2族化合物半導体を用いて形成される場合、I族元素としては、例えば、銅(Cu)又は銀(Ag)又は金(Au)を用いることができる。III族元素として、例えば、ガリウム(Ga)又はインジウム(In)又はAl(アルミニウム)を用いることができる。VI族元素として、例えば、セレン(Se)又は硫黄(S)又は酸素(O)又はテルル(Te)を用いることができる。具体的には、CIS系化合物半導体として、Cu(In、Ga)Se
2、Cu(In、Ga)(Se、S)
2、Cu(In、Ga)S
2、CuInS
2等が挙げられる。
【0048】
光電変換層13がI
2−(II−IV)−VI
4族化合物半導体を用いて形成される場合、I族元素としては、例えば、銅(Cu)又は銀(Ag)又は金(Au)を用いることができる。II族元素としては、例えば、亜鉛(Zn)を用いることができる。IV族元素としては、例えば、スズ(Sn)を用いることができる。VI族元素としては、例えば、セレン(Se)又は硫黄(S)又は酸素(O)又はテルル(Te)を用いることができる。具体的には、CZTS系化合物半導体として、Cu
2(Zn、Sn)Se
4、Cu
2(Zn、Sn)S
4、又はこれらの混晶であるCu
2(Zn、Sn)(Se、S)
4等が挙げられる。
【0049】
シード層14は、バッファ層15の結晶成長を促す働きを有する。シード層14を配置することにより、結晶欠陥の少ないバッファ層15を形成することができる。欠陥の少ない結晶構造を有するバッファ層15が得られることにより、光電変換単位セルの開放電圧が向上する。また、シード層14は、バッファ層15の成長速度を促進する働きを有する。シード層14は、光電変換層13が吸収する波長の光を透過することが好ましい。
【0050】
シード層14として、例えば、Zn及びVI属元素を含む化合物を用いることができる。Zn及びVI属元素を含む化合物としては、例えば、ZnO、ZnS、Zn(OH)
2又はこれらの混晶であるZn(O、S)、Zn(O、S、OH)が挙げられる。
【0051】
シード層14の厚さは、例えば、1nm〜50nmとすることができる。
【0052】
バッファ層15は、上述したシード層14と共に、光電変換層13と、pn接合又はPin接合を形成する。また、バッファ層15は、高抵抗及び所定の厚さを有することにより、シード層14と共に、光電変換層13と第2電極層16との間にシャントパスが形成されることを防止して、漏れ電流を低減すると共に、並列抵抗を高める。更に、バッファ層15が、光電変換層13の伝導帯の下端のエネルギー準位と、第2電極層16の下端のエネルギー準位との間に、所定の大きさのスパイクを有するようにして、光電変換特性(例えば開放電圧)を高めるようにすることが好ましい。
【0053】
バッファ層15を形成する材料として、例えば、Zn及びOを含む化合物を用いることができる。Zn及びOを含む化合物としては、例えば、ZnO、Zn(OH)
2、ZnOとZnSの混晶であるZn(O、S)又はこれらの混晶であるZn(O、S、OH)、若しくは(Zn、Mg)O、(Zn、Mg)(O、S)、ZnSnOが挙げられる。ここで、(Zn、Mg)Oは、ZnOとMgOとの混晶であり、(Zn、Mg)(O、S)は、ZnOとMgOとZnSとMgSとの混晶である。
【0054】
バッファ層15の厚さは、例えば10〜200nm、特に20〜150nmとすることが好ましい。
【0055】
導電層20は、第1光電変換単位セル10aの第1電極層12上から、第2光電変換単位セル10bの光電変換層13及びシード層14の側面上を延びて、第2光電変換単位セル10bのバッファ層15とつながっている。
【0056】
導電層20は、第2光電変換単位セル10bのバッファ層15と一体に形成されるので、バッファ層15と同様の材料を用いて形成される。
【0057】
本実施形態の光電変換モジュール1では、後述するように、導電層20は、バッファ層15と同時に形成される。導電層20は、バッファ層15とは異なり、導電層20の下にシード層が配置されないので、導電層20の成長速度は、バッファ層15よりも遅くなる。
【0058】
従って、導電層20の厚さは、バッファ層15よりも薄い。導電層20の厚さが薄いことは、第1光電変換単位セル10aと第2光電変換単位セル10bとの直列接続抵抗を低減する観点から好ましい。
【0059】
上述したバッファ層15及び導電層20に求められる機能を得る観点から、光電変換層13の形成材料と、バッファ層15及び導電層20を形成する材料について、以下に説明する。
【0060】
光電変換層13が、I−III−VI
2族化合物を用いて形成される場合には、バッファ層15は、ZnOとZnSとの混晶を用いて形成されることが好ましい。ここで、バッファ層15におけるSの原子数のZnの原子数に対する比が、0.16〜0.35の範囲にあることが、第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bの開放電圧を向上させる観点から好ましい。
【0061】
また、光電変換層13が、Seを含まないI−III−VI
2族化合物を用いて形成される場合には、バッファ層15は、(Zn、Mg)O、又は、(Zn、Mg)(O、S)を用いて形成されることが好ましい。なお、セレンを含まないとは、実質的にバンドに影響を及ぼさない程度にはSeやその他の元素を含有することも含むことを意味する。
【0062】
更に、光電変換層13が、I
2−(II−IV)−VI
4族化合物を用いて形成される場合には、バッファ層15は、ZnOとZnSとの混晶を用いて形成されることが好ましい。ここで、バッファ層15におけるSの原子数のZnの原子数に対する比が、0.16〜0.35の範囲にあることが、第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bの開放電圧を向上させる観点から好ましい。
【0063】
第2電極層16は、バッファ層15上から導電層20上に延びるように配置される。第2電極層16は、導電層20と電気的に接続する。また、第2電極層16は、バッファ層15を介しても、導電層20と電気的に接続する。
【0064】
第2電極層16は、n型の導電性を有し、禁制帯幅が広く且つ低抵抗の材料によって形成されることが好ましい。また、第2電極層16は、光電変換層13が吸収する波長の光を透過することが好ましい。
【0065】
第2電極層16は、例えば、III族元素(B、Al、Ga、In)がドーパントとして添加された酸化金属を用いて形成される。具体的には、B:ZnO、Al:ZnO、Ga:ZnO等の酸化亜鉛、ITO(酸化インジウムスズ)及びSnO
2(酸化スズ)が挙げられる。また、第2電極層16として、ITiO、FTO、IZO又はZTOを用いてもよい。
【0066】
上述した本実施形態の光電変換モジュール1によれば、光電変換単位セルの光電変換率を向上すると共に、光電変換単位セル間の接続抵抗を低減して、発電出力を向上できる。
【0067】
次に、上述した光電変換モジュールの製造方法の好ましい一形態を、図面を参照しながら、以下に説明する。
【0068】
まず、
図3に示すように、基板11上に、第1電極層12が形成される。第1電極層12は、例えば、スパッタリング(DC、RF)法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition法:CVD法)、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、蒸着法、イオンプレーティング法等を用いて形成される。
【0069】
次に、
図4に示すように、メカニカルスクライブ法又はレーザスクライブ法を用いて、第1電極層12を分割する第1分割溝G1が形成される。第1分割溝G1が形成されることにより、電気的に絶縁された複数の第1電極層12が形成される。第1分割溝G1の底には、基板11が露出する。
【0070】
次に、
図5に示すように、複数の第1電極層12上に、化合物半導体を用いて光電変換層13が形成される。光電変換層13は、第1分割溝G1の底に露出している基板11上にも形成される。
【0071】
光電変換層13として、CIS系化合物半導体を形成する方法として、例えば、(1)I族元素及びIII族元素のプリカーサ膜を形成し、プリカーサ膜とVI族元素との化合物を形成する方法(セレン化法又は硫化法)と、(2)蒸着法を用いて、I族元素及びIII族元素及びVI族元素を含む膜を成膜する方法(蒸着法)が挙げられる。
【0072】
(セレン化法又は硫化法)
プリカーサ膜を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法又はインク塗布法が挙げられる。スパッタリング法は、ターゲットであるスパッタ源を用いて、イオン等をターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された原子を用いて成膜する方法である。蒸着法は、蒸着源を加熱して気相となった原子等を用いて成膜する方法である。インク塗布法は、プリカーサ膜の材料を粉体にしたものを有機溶剤等の溶媒に分散して、第1電極層上に塗布し、溶剤を蒸発して、プリカーサ膜を形成する方法である。
【0073】
I族元素であるCuを含むスパッタ源又は蒸着源としては、Cu単体、Cu及びGaを含むCu−Ga、Cu及びGa及びInを含むCu−Ga−In等を用いることができる。III族元素であるGaを含むスパッタ源又は蒸着源としては、Cu及びGaを含むCu−Ga、Cu及びGa及びInを含むCu−Ga−In等を用いることができる。III族元素であるInを含むスパッタ源又は蒸着源としては、In単体、Cu及びInを含むCu−In、Cu及びGa及びInを含むCu−Ga−In等を用いることができる。
【0074】
Cu及びIn及びGaを含むプリカーサ膜は、上述したスパッタリング法又は蒸着法を用いて形成される膜を単体又は積層して構成され得る。
【0075】
プリカーサ膜の具体例として、Cu−Ga−In、Cu−Ga/Cu−In、Cu−In/Cu−Ga、Cu−Ga/Cu/In、Cu−Ga/In/Cu、Cu/Cu−Ga/In、Cu/In/Cu−Ga、In/Cu−Ga/Cu、In/Cu/Cu−Ga、Cu−Ga/Cu−In/Cu、Cu−Ga/Cu/Cu−In、Cu−In/Cu−Ga/Cu、Cu−In/Cu/Cu−Ga、Cu/Cu−Ga/Cu−In、Cu/Cu−In/Cu−Ga等が挙げられる。また、プリカーサ膜は、これらの膜を更に積層した多重積層構造を有していてもよい。
【0076】
ここで、上述したCu−Ga−Inは、単体の膜を意味する。また、「/」は、左右の膜の積層体であることを意味する。例えば、Cu−Ga/Cu−Inは、Cu−Ga膜とCu−In膜との積層体を意味する。Cu−Ga/Cu/Inは、Cu−Ga膜とCu膜とIn膜との積層体を意味する。
【0077】
光電変換層13は、上述したプリカーサ膜を、VI族元素と反応させて形成される。例えば、VI族元素の硫黄及び/又はセレンを含む雰囲気において、プリカーサ膜を加熱することにより、プリカーサ膜と硫黄及び/又はセレンとの化合物が形成(硫化及び/又はセレン化)されて、光電変換層13が得られる。なお、VI族元素を含むようにプリカーサ膜を形成してもよい。
【0078】
(蒸着法)
蒸着法では、I族元素の蒸着源及びIII族元素の蒸着源及びVI族元素の蒸着源又はこれら複数の元素を含む蒸着源を加熱し、気相となった原子等を第1電極層12上に成膜して、光電変換層13が形成される。蒸着源としては、上述したプリカーサ法で説明したものを用いることができる。
【0079】
また、光電変換層13として、CZTS系化合物半導体を形成する方法として、CIS系化合物半導体と同様に、(1)I族元素及びII族元素及びIV族元素のプリカーサ膜を形成し、プリカーサ膜とVI族元素との化合物を形成する方法(セレン化法又は硫化法)と、(2)蒸着法を用いて、I族元素及びII族元素及びIV族元素及びVI族元素を含む膜を成膜する方法(蒸着法)が挙げられる。
【0080】
CZTS系化合物半導体をセレン化法又は硫化法を用いて形成する場合には、上述したI族元素のスパッタ源又は蒸着源と共に、II族元素及びIV属元素のスパッタ源又は蒸着源を使用して、プリカーサ膜が形成された後、プリカーサ膜とVI族元素との反応物であるCZTS系化合物半導体が形成される。
【0081】
また、CZTS系化合物半導体を蒸着法を用いて形成する場合には、上述したI族元素及びVI族元素の蒸着源と共に、II族元素及びIV属元素の蒸着源を使用して、CZTS系化合物半導体が形成される。
【0082】
次に、
図6に示すように、光電変換層13上に、シード層14が形成される。
【0083】
シード層14の形成方法としては、溶液成長法(Chemical Bath Deposition法:CBD法)、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:MOCVD法)、スパッタリング法、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、蒸着法、イオンプレーティング法等を用いることができる。なお、CBD法とは、プリカーサとなる化学種を含む溶液に基材を浸し、溶液と基材表面との間で不均一反応を進行させることによって薄膜を基材上に析出させるものである。
【0084】
次に、
図7に示すように、メカニカルスクライブ法又はレーザスクライブ法を用いて、シード層14と光電変換層13との積層体を分割する第2分割溝G2が、第1分割溝G1の第1の側(
図7中、第1分割溝G1の右側)に形成される。第2分割溝G2が形成されることにより、電気的に絶縁されたシード層14と光電変換層13との複数の積層体が形成される。第2分割溝G2の底には、第1電極層12が露出する。
【0085】
そして、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及びシード層14が曝される。酸素原子は、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及び光電変換層13に吸着する。
【0086】
以下、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及びシード層14が曝す工程を、バッファ層を形成する第0工程ともいう。
【0087】
亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気を形成する方法としては、例えば、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:MOCVD法)、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、溶液成長法(Chemical Bath Deposition法:CBD法)等を用いることができる。本明細書では、雰囲気は、気相及び液相を含む意味である。
【0088】
酸素源としては、例えば、水(H
2O)、一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)等の酸化物、又は酸素(O
2)、オゾン(O
3)等を用いることができる。
【0089】
次に、
図8に示すように、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及びシード層14が曝される。酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子は、第2分割溝G2に露出している第1電極層12上及びシード層14上に吸着して、第1領域15aが形成される。第1領域15aは、第2分割溝G2に露出している光電変換層13及びシード層14の側面上にも形成される。第1領域15aは、バッファ層15及び導電層20の一部を形成する。
【0090】
なお、本明細書では、第1比を有する雰囲気に光電変換層13を曝すことは、シード層14が形成された光電変換層13を、第1比を有する雰囲気に曝すことを含む。
【0091】
以下、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気を用いて、第1領域15aを形成する工程を、バッファ層を形成する第1工程ともいう。
【0092】
酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子を含む雰囲気を形成する方法としては、例えば、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:MOCVD法)、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、溶液成長法(Chemical Bath Deposition法:CBD法)等を用いることができる。
【0093】
酸素源としては、上述したのと同じものを用いることが出来る。
【0094】
亜鉛源としては、例えば、ジエチル亜鉛((C
2H
5)
2Zn)、ジメチル亜鉛((CH
3)
2Zn)又はその他の有機亜鉛化合物、又は無機亜鉛化合物を用いることができる。
【0095】
硫黄源としては、例えば、硫化水素(H
2S)又は硫黄の蒸気(例えば、硫黄を加熱して生成される)を用いることができる。
【0096】
酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子を含む雰囲気における酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比は、第1領域15aを形成する時に使用される酸素源(O源)及び亜鉛源(Zn源)からの各元素の供給量を調整することにより制御される。
【0097】
第1領域15aにおけるSの原子数のZnの原子数に対する比S/Znは、0.16〜0.35の範囲にあることが好ましい。比S/Znが0.16以上であることにより、第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bの開放電圧を向上できる。また、比S/Znが0.35以下であることにより、第1光電変換単位セル10aと第2光電変換単位セル10bとの直列接続抵抗を低減できる。
【0098】
第1領域15aを形成する材料としては、例えば、ZnO、Zn(OH)
2、ZnOとZnSの混晶であるZn(O、S)又はこれらの混晶であるZn(O、S、OH)、若しくは(Zn、Mg)O、(Zn、Mg)(O、S)、ZnSnOが挙げられる。
【0099】
第1領域15aは、第2領域15bを形成する成膜速度よりも低い成膜速度を用いて形成されることが好ましい。
【0100】
次に、
図9に示すように、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、上述した第1比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比(>第1比)を有する雰囲気に、第2分割溝G2及びシード層14上の第1領域15aが曝される。酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子は、第2分割溝G2内部の第1領域15a上及びシード層14上の第1領域15a上に吸着し、第2領域15bが形成されて、バッファ層15及び導電層20が得られる。
【0101】
このように、第2分割溝G2が形成された、シード層14と光電変換層13と第1電極層12とが積層された基板11は、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気に曝される。
【0102】
なお、本明細書では、第2比を有する雰囲気に光電変換層13を曝すことは、第1領域15a及びシード層14が形成された光電変換層13を、第2比を有する雰囲気に曝すことを含む。
【0103】
以下、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気を用いて、第2領域15bを形成する工程を、バッファ層を形成する第2工程ともいう。
【0104】
第2領域15bを形成する材料としては、例えば、ZnO、Zn(OH)
2又はこれらの混晶であるZn(O、S)、Zn(O、S、OH)若しくは(Zn、Mg)O、(Zn、Mg)(O、S)、ZnSnOが挙げられる。
【0105】
バッファ層を形成する第1工程の第1比と、バッファ層を形成する第2工程の第2比との比は、0.53〜0.89の範囲にあることが、光電変換モジュール1の光電変換効率を向上する観点から好ましい。
【0106】
酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子を含む雰囲気における酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比は、第2領域15bを形成する時に使用される酸素源(O源)及び亜鉛源(Zn源)からの各元素の供給量を調整することにより制御される。
【0107】
第2比を第1比よりも大きくするには、例えば、バッファ層を形成する第2工程における亜鉛源(Zn源)からの亜鉛原子の供給量を第1工程と同じにして、第2工程における酸素源(O源)からの酸素原子の供給量を第1工程よりも増加すればよい。
【0108】
また、第2比を第1比よりも大きくするには、バッファ層を形成する第2工程において、亜鉛源(Zn源)からの亜鉛原子の供給量を第1工程よりも増加する時は、第2工程における酸素源(O源)からの酸素原子の供給量を、亜鉛原子の供給量の増加割合以上に増加すればよい。
【0109】
上述したバッファ層を形成する第1工程及び第2工程は、以下に説明するように行うことができる。
【0110】
(基板を固定してバッファ層を形成する方法)
基板11が固定された状態で、まず、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及びシード層14が曝されて、第2分割溝G2に露出している第1電極層12上及びシード層14上に、第1領域15aが形成される。なお、硫黄原子は上記の雰囲気に含まれても、含まれなくてもよい。
【0111】
次に、基板11が固定された状態で、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気に、第2分割溝G2及びシード層14が曝されて、第2分割溝G2内部の第1領域15a上及びシード層14上の第1領域15a上に、第2領域15bが形成される。なお、硫黄原子は上記の雰囲気に含まれても、含まれなくてもよい。
【0112】
更に、基板11が固定された状態で、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、上述した第2比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第3比を有する雰囲気に、第2分割溝G2内部の第2領域15b及びシード層14上の第2領域15bを曝さしてもよい。
【0113】
(基板を移動してバッファ層を形成する方法)
まず、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気内に基板11を移動させて、第2分割溝G2に露出している第1電極層12及びシード層14が上記雰囲気に曝されて、第2分割溝G2に露出している第1電極層12上及びシード層14上に、第1領域15aが形成される。なお、硫黄原子は上記の雰囲気に含まれても、含まれなくてもよい。
【0114】
次に、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気内に基板11を移動させて、第2分割溝G2及びシード層14が上記雰囲気に曝されて、第2分割溝G2内部の第1領域15a上及びシード層14上の第1領域15a上に、第2領域15bが形成される。なお、硫黄原子は上記の雰囲気に含まれても、含まれなくてもよい。
【0115】
更に、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、上述した第2比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第3比を有する雰囲気内に基板11を移動させて、第2分割溝G2内部の第2領域15b及びシード層14の第2領域15bを上記雰囲気に曝さしてもよい。
【0116】
また、バッファ層を形成する第2工程では、バッファ層を形成する第1工程よりも、雰囲気に含まれる亜鉛原子の数を増加させることが、光電変換モジュール1の光電変換効率を向上する観点から好ましい。
【0117】
具体的には、バッファ層を形成する第2工程では、バッファ層を形成する第1工程よりも、雰囲気に含まれる亜鉛原子の数を、1.24倍以上、特に1.87倍以上増加させることが好ましい。
【0118】
更に、バッファ層を形成する第1工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比S/Zn−1は、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比S/Zn−2と同じであることが、光電変換モジュール1の光電変換効率を向上する観点から好ましい。
【0119】
本明細書において、比S/Zn−1が比S/Zn−2と同じであることは、比S/Zn−2の比S/Zn−1に対する比が、0.90〜1.10の範囲内にあることをいう。
【0120】
酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子を含む雰囲気における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比は、第1領域15a及び/又は第2領域15bを形成する時に使用される硫黄源(S源)及び亜鉛源(Zn源)からの各元素の供給量を調整することにより制御される。
【0121】
例えば、バッファ層を形成する第1工程及び第2工程において、硫黄源(S源)からの硫黄原子の供給量及び亜鉛源(Zn源)からの亜鉛原子の供給量を、同じにすればよい。
【0122】
また、バッファ層を形成する第2工程において、硫黄源(S源)からの硫黄原子の供給量を第1工程よりも増加する時は、第2工程における亜鉛源(Zn源)からの亜鉛原子の供給量を、硫黄原子の供給量と対応させて増加すればよい。
【0123】
酸素原子及び亜鉛原子及び硫黄原子を含む雰囲気を形成する方法としては、上述したのと同じ方法を用いることが出来る。
【0124】
酸素源としては、上述したのと同じものを用いることが出来る。
【0125】
亜鉛源としては、上述したのと同じものを用いることが出来る。
【0126】
硫黄源としては、上述したのと同じものを用いることが出来る。
【0127】
第2領域15bにおけるSの原子数のZnの原子数に対する比S/Znは、0.16〜0.35の範囲にあることが好ましい。比S/Znが0.16以上であることにより、第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bの開放電圧を向上できる。また、比S/Znが0.35以下であることにより、第1光電変換単位セル10aと第2光電変換単位セル10bとの直列接続抵抗を低減できる。
【0128】
次に、
図10に示すように、バッファ層15上に第2電極層16が形成される。
【0129】
第2電極層16の形成方法としては、例えば、スパッタリング(DC、RF)法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、蒸着法、イオンプレーティング法等を用いることができる。
【0130】
ここで、バッファ層15と第2電極層16とを、同じ方法を用いて連続して形成することについて、以下に説明する。
【0131】
バッファ層15を、ZnO又はZn(O,S)等のZn及びOを含む材料を用いて、MOCVD法を用いて形成した場合、第2電極層16も、MOCVD法を用いて連続して形成することができる。バッファ層15及び第2電極層16は、いわゆるインサイチュウ(In−Citu)法を用いて形成できる。例えば、第2電極層16をB:ZnOを用いて形成する場合、ジボラン等の硼素含有ガスを硼素源として追加すればよい。第2電極層16をAl:ZnO又はGa:ZnO又はIn:ZnOを用いて形成する場合も、同様に、Al源又はGa源又はIn源を追加して、MOCVD法を用いて第2電極層16を形成することができる。
【0132】
バッファ層15を、ZnO又はZn(O,S)等のZn及びOを含む材料を用いて、スパッタリング法により形成した場合、第2電極層16も、スパッタリング法を用いて連続して形成することができる。バッファ層15及び第2電極層16は、いわゆるインサイチュウ(In−Citu)法を用いて形成できる。例えば、スパッタリング法を用いて、第2電極層16を、B:ZnO、Al:ZnO、Ga:ZnO等の酸化亜鉛、又はITO(酸化インジウムスズ)及びSnO
2(酸化スズ)、又はITiO、FTO、IGZO又はZTOを用いて形成することができる。
【0133】
バッファ層15と第2電極層16とを、同じ方法を用いて連続して形成することにより、光電変換モジュール1の生産性を向上して、製造コストを低減できる。
【0134】
なお、バッファ層15上に第2電極層16を形成する前に、実質的にドーパントを添加していない真性な導電性を有する酸化亜鉛層(i-ZnO)を、バッファ層15上に少なくとも部分的に形成し、この真性な酸化亜鉛層上に第2電極層16を形成してもよい。真性な酸化亜鉛層を、バッファ層15と第2電極層16との間に配置することにより、第1光電変換単位セル10aと第2光電変換単位セル10bの並列抵抗が向上する。
【0135】
真性な酸化亜鉛層の厚さは、100〜1000nm、特に200〜500nmとすることが好ましい。真性な酸化亜鉛層の形成方法としては、例えば、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition法:ALD法)、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition法:MOCVD法)、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法等を用いることができる。
【0136】
真性な酸化亜鉛層は、バッファ層15及び第2電極層16と同じ方法を用いて連続して形成されることが、光電変換モジュール1の生産性を向上する観点から好ましい。
【0137】
次に、
図2に示すように、メカニカルスクライブ法又はレーザスクライブ法を用いて、第2電極層16とバッファ層15とシード層14と光電変換層13との積層体を分割する第3分割溝G3が、第2分割溝G2の第1の側(
図2中、第2分割溝G2の右側)に形成されて、第3分割溝G3により分割された第1光電変換単位セル10a及び第2光電変換単位セル10bを備えた光電変換モジュール1が得られる。第3分割溝G3の底には、第1電極層12が露出する。
【0138】
上述した本実施形態の光電変換モジュールの製造方法によれば、バッファ層15及び第2電極層16が同じ方法を用いて連続して形成できるので、製造が容易である。
【0139】
本発明では、上述した実施形態の光電変換モジュール及び光電変換モジュールの製造方法は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更が可能である。
【0140】
例えば、上述した実施形態では、光電変換モジュールの各光電変換単位セルは、シード層を有したが、各光電変換単位セルは、シード層を有していなくてもよい。また、光電変換モジュールの各光電変換単位セルは、真性な導電性を有する酸化亜鉛層(i-ZnO)を有したが、各光電変換単位セルは、真性な導電性を有する酸化亜鉛層(i-ZnO)を有していなくてもよい。
【実施例】
【0141】
以下、本明細書に開示する光電変換モジュールについて、実施例を用いて更に説明する。ただし、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0142】
(実施例1)
まず、ガラス板である基板上に、スパッタリング法を用いて、Moを含む第1電極層が形成された。次に、レーザスクライブ法を用いて、第1電極層を分割する第1分割溝が形成された。次に、I族元素であるCu並びにIII族元素であるIn及びGaを有するプリカーサ膜が、スパッタリング法を用いて、第1電極層上に形成された。次に、プリカーサ膜を、VI族元素であるSeを含む雰囲気(セレン化水素含有雰囲気)において加熱して、プリカーサ膜とSeとの化合物を形成した。更に、プリカーサ膜を、VI族元素であるSを含む雰囲気(硫化水素含有雰囲気)において加熱し、プリカーサ膜とSとの化合物を形成して、Cu(In,Ga)(Se,S)
2からなる光電変換層を得た。次に、CBD法を用いて、Zn(O、S、OH)であるシード層が光電変換層上に形成された。次に、メカニカルスクライブ法を用いて、シード層と光電変換素層との積層体を分割する第2分割溝が形成された。
【0143】
次に、バッファ層を形成する第0工程において、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝に露出している第1電極層及びシード層が曝された。酸素源として、水を用いた。
【0144】
次に、バッファ層を形成する第1工程において、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層及びシード層が曝されて、第1領域が形成された。第1比は、1.0であった。酸素源として、水を用いた。亜鉛源として、ジエチル亜鉛を用いた。硫黄源として、硫化水素を用いた。
【0145】
次に、バッファ層を形成する第2工程において、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、上述した第1比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気に、第2分割溝及びシード層が曝されて、第2領域が形成されて、導電層が得られた。第2比は、1.5であった。従って、第1比と第2比との比は、0.67(=1.0/1.5)であった。酸素源として、水を用いた。亜鉛源として、ジエチル亜鉛を用いた。硫黄源として、硫化水素を用いた。第2工程における水の供給量は、第1工程の0.92倍であった。また、第2工程におけるジエチル亜鉛の供給量は、第1工程の0.62倍であった。第2工程における硫化水素の供給量は、第1工程の0.62倍として、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比を、第1工程と同じにした。
【0146】
次に、真性な酸化亜鉛層(i-ZnO)が、バッファ層上に形成された。真性な酸化亜鉛層は、酸素源としての水と、亜鉛源としてのジエチル亜鉛を用いて、MOCVD法により形成された。次に、真性な酸化亜鉛層上に、第2電極層(B:ZnO)が形成された。第2電極層は、酸素源としての水と、亜鉛源としてのジエチル亜鉛と、硼素源としてのジボランを用いて、MOCVD法により形成された。次に、メカニカルスクライブ法を用いて、第2電極層とバッファ層とシード層と光電変換層との積層体を分割する第3分割溝が形成されて、実施例1の光電変換モジュールが得られた。上述した製造条件を用いて、複数の実施例1の光電変換モジュールが形成された。
【0147】
(実施例2)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を1.2倍にして、第1比を1.2に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、実施例2の複数の光電変換モジュールを得た。なお、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比は、第1工程と同じにした。実施例2の第1比と第2比との比は、0.80(=1.2/1.5)であった。
【0148】
(実施例3)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を0.39倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.5倍にして、第1比を0.8に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、実施例3の複数の光電変換モジュールを得た。なお、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比は、第1工程と同じにした。実施例3の第1比と第2比との比は、0.53(=0.8/1.5)であった。
【0149】
(実施例4)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を0.5倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.5倍にして、第1比を1.0としたことを除いては、実施例1と同様にして、実施例4の複数の光電変換モジュールを得た。なお、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比は、第1工程と同じにした。実施例4の第1比と第2比との比は、0.67(=1.0/1.5)であった。
【0150】
(実施例5)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を0.67倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.5倍にして、第1比を1.33に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、実施例5の複数の光電変換モジュールを得た。なお、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比は、第1工程と同じにした。実施例5の第1比と第2比との比は、0.89(=1.33/1.5)であった。
【0151】
(実施例6)
メカニカルスクライブ法を用いて、シード層と光電変換層との積層体を分割する第2分割溝の形成までは、実施例1と同様である。
【0152】
次に、バッファ層を形成する第0工程において、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝に露出している第1電極層及びシード層が曝された。酸素源として、水を用いた。
【0153】
次に、バッファ層を形成する第1工程において、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比を有する雰囲気に、第2分割溝G2に露出している第1電極層及びシード層が曝されて、第1領域が形成された。第1比は、1.0であった。酸素源として、水を用いた。亜鉛源として、ジエチル亜鉛を用いた。硫黄源として、硫化水素を用いた。
【0154】
次に、バッファ層を形成する第2工程において、酸素原子及び亜鉛原子と共に硫黄原子を含み、上述した第1比よりも大きい、酸素原子数の亜鉛原子数に対する第2比を有する雰囲気に、第2分割溝及びシード層が曝されて、第2領域が形成されて、導電層が得られた。第2比は、1.5であった。従って、第1比と第2比との比は、0.67(=1.0/1.5)であった。酸素源として、水を用いた。亜鉛源として、ジエチル亜鉛を用いた。硫黄源として、硫化水素を用いた。第2工程における水の供給量は、第1工程の1.86倍であった。また、第2工程におけるジエチル亜鉛の供給量は、第1工程の1.24倍であった。第2工程における硫化水素の供給量は、第1工程の1.24倍として、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比を、第1工程と同じにした。
【0155】
真性な酸化亜鉛層(i-ZnO)を、バッファ層上に形成する工程以降は、実施例1と同様である。
【0156】
(実施例7)
亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝に露出している第1電極層及びシード層を曝さらす工程(バッファ層を形成する第0工程)を行わなかった。また、バッファ層を形成する第1工程において、実施例6に対して水の供給量を0.87倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.66倍にして、第1比を1.3に変更した。また、バッファ層を形成する第2工程において、第1工程に対して水の供給量を2.13倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を1.87倍にして、第2比を1.5にした。また、第2工程における硫化水素の供給量を第1工程の1.87倍として、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比を、第1工程と同じにしたことを除いては、実施例6と同様にして、実施例7の複数の光電変換モジュールを得た。実施例7の第1比と第2比との比は、0.87(=1.3/1.5)であった。バッファ層を形成する第1工程における第1の亜鉛供給量と、第2工程における第2の亜鉛供給量との比は、0.53であった。
【0157】
(実施例8)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例6に対して水の供給量を2倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を2倍にして、第1比を1.0にした。また、バッファ層を形成する第2工程において、第1工程に対して水の供給量を0.93倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.62倍にして、第2比を1.5にした。また、第1工程における硫化水素の供給量を実施例6に対して2倍とし且つ第2工程における硫化水素の供給量を第1工程に対して0.62倍として、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比を、第1工程と同じにしたことを除いては、実施例6と同様にして、実施例8の複数の光電変換モジュールを得た。実施例8の第1比と第2比との比は、0.67(=1.0/1.5)であった。バッファ層を形成する第1工程における第1の亜鉛供給量と、第2工程における第2の亜鉛供給量との比は、1.67であった。
【0158】
(実施例9)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例6に対して水の供給量を3.69倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を3.69倍にして、第1比を1.0にした。また、バッファ層を形成する第2工程において、第1工程に対して水の供給量を0.50倍とし且つジエチル亜鉛の供給量を0.33倍にして、第2比を1.5にした。また、第1工程における硫化水素の供給量は実施例6に対して3.69倍とし且つ第2工程における硫化水素の供給量は第1工程に対して0.33倍として、バッファ層を形成する第2工程における硫黄原子数の亜鉛原子数に対する比を、第1工程と同じにしたことを除いては、実施例6と同様にして、実施例9の複数の光電変換モジュールを得た。実施例9の第1比と第2比との比は、0.67(=1.0/1.5)であった。バッファ層を形成する第1工程における第1の亜鉛供給量と、第2工程における第2の亜鉛供給量との比は、3.03であった。
【0159】
(比較例1)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を1.5倍として、第1比を1.5に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、比較例1の複数の光電変換モジュールを得た。比較例1の第1比と第2比との比は、1.00(=1.5/1.5)であった。
【0160】
(比較例2)
バッファ層を形成する第1工程において、実施例1に対して水の供給量を2.0倍として、第1比を2.0に変更したことを除いては、実施例1と同様にして、比較例2の複数の光電変換モジュールを得た。比較例2の第1比と第2比との比は、1.33(=2.0/1.5)であった。
【0161】
実施例1から実施例9、並びに、比較例1及び比較例2において、バッファ層の第2領域におけるSの原子数のZnの原子数に対する比S/Znは、0.16〜0.35の範囲にあった。比S/Znは、ICP発光分析法を用いて測定した結果より算出された。バッファ層の厚さは20nm〜150nmの範囲にあった。
【0162】
実施例1〜5及び比較例1、2の光電変換モジュールの発電出力Pmax、曲線因子FF及び直列抵抗Rsの評価結果を、
図11に示す。発電出力Pmaxは、比較例1の発電出力Pmaxの平均値で規格されている。曲線因子FFは、比較例1の曲線因子FFの平均値で規格されている。直列抵抗Rsは、比較例1の直列抵抗Rsの平均値で規格されている。
【0163】
図11の横軸は、バッファ層を形成する第1工程の第1比と、第2工程の第2比との比である。
図11の横軸の値が1.00よりも小さいことは、バッファ層を形成する第1工程の第1比が、バッファ層を形成する第2工程の第2比よりも小さいことを意味する。
【0164】
実施例1〜5は、
図11の横軸の値が1.00よりも小さい。一方、比較例1及び2は、
図11の横軸の値が1.00以上である。
【0165】
実施例1〜5の光電変換モジュールは、比較例1及び2に対して、直列抵抗Rsが大きく低下すると共に曲線因子FFが向上した。その結果、実施例1〜5の光電変換モジュールは、比較例1及び2に対して、発電出力Pmaxが向上した。
【0166】
比較例2の光電変換モジュールは、実施例1〜5及び比較例1の光電変換モジュールに対して、直列抵抗Rsが大きく且つ曲線因子FFが低いので、最も低い発電出力Pmaxを示した。
【0167】
この理由として、比較例2の光電変換モジュールは、
図11の横軸の値が1.33と最も大きいことが考えられる。即ち、バッファ層を形成する第1工程の雰囲気における酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比が、バッファ層を形成する第2工程の第2比に対して最も大きかった。
【0168】
実施例1〜5の光電変換モジュールの中では、実施例3〜5は、直列抵抗Rsが低く且つ曲線因子FFが高いので、より高い発電出力Pmaxを示す。また、実施例3〜5の光電変換モジュールは、比較例1及び2に対して、直列抵抗Rs及び曲線因子FFの変動が少ないので、発電出力Pmaxの変動も小さい。
【0169】
この理由として、実施例3〜5の光電変換モジュールは、バッファ層を形成する第2工程では、バッファ層を形成する第1工程よりも、雰囲気に含まれる亜鉛原子の数を増加させていることが考えられる。
【0170】
従って、光電変換モジュールの発電出力Pmaxを向上させる製造条件として、以下の2つが考えられる。
1.バッファ層を形成する第1工程の雰囲気における酸素原子数の亜鉛原子数に対する第1比が、バッファ層を形成する第2工程の第2比よりも小さいこと。
2.バッファ層を形成する第2工程では、バッファ層を形成する第1工程よりも、雰囲気に含まれる亜鉛原子の数を増加させること。
【0171】
実施例6〜9の光電変換モジュールは、上述した項目2について調べたものである。
【0172】
実施例6〜9の光電変換モジュールの発電出力Pmax、曲線因子FF及び直列抵抗Rsの評価結果を、
図12に示す。発電出力Pmaxは、実施例8の発電出力Pmaxの平均値で規格されている。曲線因子FFは、実施例8の曲線因子FFの平均値で規格されている。直列抵抗Rsは、実施例8の直列抵抗Rsの平均値で規格されている。
【0173】
図12の横軸は、バッファ層を形成する第1工程における第1の亜鉛供給量と、第2工程における第2の亜鉛供給量との比である。
図12の横軸の値が1.00よりも小さいことは、バッファ層を形成する第1工程における第1の亜鉛供給量が、第2工程における第2の亜鉛供給量よりも少ないことを意味する。
【0174】
実施例6及び7は、
図12の横軸の値が1.00よりも小さい。一方、実施例8及び9は、
図12の横軸の値が1.00以上である。
【0175】
実施例6及び7の光電変換モジュールは、実施例8及び9に対して、直列抵抗Rsが低下すると共に曲線因子FFが向上した。その結果、実施例6及び7の光電変換モジュールは、実施例8及び9対して、発電出力Pmaxが向上した。
【0176】
また、実施例6及び7の光電変換モジュールは、実施例8及び9に対して、直列抵抗Rs及び曲線因子FFの変動が少ないので、発電出力Pmaxの変動も小さい。
【0177】
この理由として、実施例6及び7の光電変換モジュールは、バッファ層を形成する第2工程では、バッファ層を形成する第1工程よりも、雰囲気に含まれる亜鉛原子の数が増加していること考えられる。
【0178】
なお、実施例6の光電変換モジュールは、亜鉛原子を含まず且つ酸素原子を含む雰囲気に、第2分割溝に露出している第1電極層及びシード層を曝さらす工程(バッファ層を形成する第0工程)を用いて形成されている。一方、実施例7の光電変換モジュールは、バッファ層を形成する第0工程を用いずに形成されている。実施例6及び実施例7の光電変換モジュールは、同等の発電出力Pmaxを示している。