(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は、フェライト系オーステナイト鋼合金を指す。このような鋼は、フェライト相とオーステナイト相を含む微細構造を有する。本発明が関連する二相鋼合金は、Cr及びNの高い含有量と、Niの低い含有量とを特徴とする。これに関する引用文献には、国際公開第95/00674号及び米国特許第7347903号が含まれる。本明細書に記載される二相鋼は、耐食性が高く、したがって、例えば尿素製造プラントの高腐食環境において使用することができる。
【0003】
尿素(NH
2CONH
2)は、尿素プラントの尿素合成区間において、高温(典型的には150℃〜250℃)及び高圧(典型的には12〜40MPa)で、アンモニアと二酸化炭素から製造することができる。この合成においては、二つの連続する反応工程が起こると考えることができる。第1の工程では、アンモニウムカルバメートが形成され、次の工程では、このアンモニウムカルバメートが脱水されて尿素が得られる。第1の工程(i)は発熱性であり、第2の工程は吸熱性の平衡反応として表現することができる(ii):
(i)2NH
3+CO
2−>H
2N−CO−ONH
4
(ii)H
2N−CO−ONH
4<−>H
2N−CO−NH
2+H
2O
【0004】
典型的な尿素製造プラントでは、上記反応は尿素合成区間で実施され、尿素を含む水溶液が得られる。一又は複数の後続の濃縮区間において、この溶液は濃縮されて最終的に溶液ではなく融解状態の尿素が得られる。この融成物には更に、顆粒化、造粒、ペレット化又は圧縮成形といった一又は複数の仕上げ工程が実施される。
【0005】
剥離方法による尿素の調製に頻繁に使用される方法は、二酸化炭素除去方法であり、これは例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A27, 1996, pp 333-350に記載されている。この方法では、合成区間に続いて一又は複数の回収区間がある。合成区間は、反応器、剥離器、凝縮器、及び必ずしも必要ではないが好ましくは、動作圧が12〜18MPa、例えば13〜16MPaであるスクラバーを含む。合成区間では、尿素反応器を出た尿素溶液が剥離器に供給され、変換されていない大量のアンモニア及び二酸化炭素が尿素水溶液から分離される。
【0006】
このような剥離器は、シェルアンドチューブ式熱交換器とすることができ、この場合、尿素溶液がチューブ側の上部に供給され、尿素の合成に使用される二酸化炭素が剥離器の下部に加えられる。シェル側において、溶液を加熱するために流れが加えられる。尿素溶液は熱交換器の下部から出され、一方蒸気相は剥離器の上部から出される。前記剥離器を出る蒸気は、アンモニア、二酸化炭素、不活性ガス、及び少量の水を含有する。
【0007】
前記蒸気は、横型又は縦型とすることができる水中式凝縮器又は流下膜式熱交換器で凝縮される。横型の水中式熱交換器は、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A27, 1996, pp 333-350に記載されている。形成された溶液は、凝縮されたアンモニア、二酸化炭素、水及び尿素を含み、凝縮されていないアンモニア、二酸化炭素及び不活性蒸気と共に再循環される。
【0008】
処理条件は、高温のカルバメート溶液により高腐食性である。過去には、これにより、たとえステンレス鋼から作製されたものであっても、尿素製造設備は腐食して早期交換されることが多いという問題が生じていた。
【0009】
これは、特に、設備、即ち、前述の腐食性条件の影響を受けるその関連部品を、国際公開第95/00674号に記載される二相鋼(Safurex(登録商標)によっても知られる)から作製することにより解決された。しかしながら、上記は尿素製造の大きな進歩を反映するものであるとはいえ、剥離器に特定の問題が存在している。典型的なカルバメート剥離器は、複数(数千)のチューブを備える。チューブを通して、液体膜は下方へと流れ、剥離ガス(典型的にはCO
2)は上方へと流れる。供給は通常、すべてのチューブが同じ積載量の液体を有して液体の流れが同じ速度になるように行われる。というのは、液体がすべてのチューブを同じ速度で流れない場合、剥離器の効率は低下するためである。このような供給は、一般に小さな穴を有するシリンダー形態の液分散器を含む。
【0010】
経験的に、液分散器は、比較的頻繁な交換を必要とした。特に、穴の大きさと形状は、液分散器が上述のような耐食性の二相鋼から作製されているという事実にも関わらず、明らかに腐食の結果として時間の経過と共に変化する。したがって、その影響を受けた分散器は、剥離器における液体のスループットを異にすることとなり、その結果、剥離器に望ましい等積載量の効率が低下する。
【0011】
したがって、当技術分野では、剥離器内の液分散器を腐食に対して更に耐性にする耐食性の材料を提供することが望まれている。
【発明の概要】
【0012】
先述の需要の一又は複数に対処するために、本発明は、一態様において、フェライト系オーステナイト鋼合金を提供する。その元素組成(重量%)は:
C(0〜 0.05);
Si(0〜0.8);
Mn(0〜4.0);
Cr(29〜35超);
Ni(3.0〜10);
Mo(0〜4.0);
N(0.30〜0.55);
Cu(0〜0.8);
W(0〜3.0);
S(0〜0.03);
Ce(0〜0.2);
であり、残りはFeと不可避の不純物である。
ここで、ASTM E 3−01による試料調製を用いてDNV−RP−F112、Section7により決定されたオーステナイトのスペーシングは、試料上において、20μm未満、例えば15μm未満、例えば8〜15μmの範囲であり;且つ試料の三つの直交する平面にそれぞれ取得された三つの断面に必要に応じて決定された平均的なオーステナイト相の長さ/幅の比から選択された、最大の平均的オーステナイト相の長さ/幅の比は、5未満、例えば3未満、例えば2未満であり;
平均的オーステナイト相の長さ/幅の比は、以下の手順で決定されたものである:
i.試料の横断面を準備する;
ii.まず6μm、次に3μmの粒子サイズの回転ディスク上のダイヤモンドペーストを用いて表面を研磨し、研磨面を生成する;
iii.20℃で最大30秒間にわたり、Murakamiの薬剤(30gの水酸化カリウムと30gのK
3Fe(CN)
6を100mlのH
2O中において混合することにより飽和溶液を調製し、この溶液を使用前に室温に冷却することにより提供される)を使用して表面をエッチングすることによりフェライト相を着色する;
iv.相の境界が区別できるように選択した倍率を用いる光学顕微鏡下において、エッチングされた状態の横断面を観察する;
v.画像の上に、オーステナイト−フェライト相の境界を観察するために適合されたグリッド距離を有するクロスグリッドを投影する;
vi.グリッド交差がオーステナイト相にあるとして同定できるようにグリッド上のグリッド交差を少なくとも10個無作為に選択する;
vii.それら10個のグリッド交差の各々において、オーステナイト相の長さ/幅の比を、オーステナイト相の長さと幅を測定することにより決定する(長さは、オーステナイト相からフェライト相へ遷移する相の境界における二地点間に直線を引いたとき、中断されない最長距離であり;幅は、同じ相の長さに直交して測定される中断されない最長距離と定義される);
viii.10個の測定されたオーステナイト相の長さ/幅の比の、オーステナイト相の長さ/幅の比の数値平均として、平均的なオーステナイト相の長さ/幅の比を計算する。
【0013】
本発明の一実施態様では、測定される試料は、5mmを上回る少なくとも一つの寸法、例えば長さ、幅、又は高さを有する。
【0014】
別の態様では、本発明は、フェライト系オーステナイト合金粉末に熱間等方圧加圧法を実施することにより得られる成形品を提供し、このフェライト系オーステナイト合金粉末は、重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 29〜35超;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜0.8;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
を含み、残りはFe及び不可避の不純物である。
【0015】
また別の態様では、本発明は、上述又は後述で尿素製造プラントの構成機器の建設材料として定義されたフェライト系オーステナイト合金の使用に関し、ここでこの構成機器は、カルバメート溶液と接触することが意図されており、且つ一又は複数の機械加工面若しくは穿孔表面を含む。
【0016】
更なる態様では、本発明は、耐食性フェライト系オーステナイト合金の物品を製造する方法を提供し、この方法は:
a.重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 29〜35超;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜0.8;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
と、Feと不可避の不純物である残りとを含むフェライト系オーステナイト合金を溶解する工程;
b.融成物を微粒子化して平均粒子サイズが約100−150μmであり、最大粒子サイズが約500μmである粉末を生成する工程;
c.製造する物品の形状を画定する鋳型を提供する工程;
d.鋳型の少なくとも一部に粉末を充填する工程;
e.工程dで充填した前記鋳型に、所定の温度、所定の圧力で、所定の期間にわたり熱間等方圧加圧法(HIP)を実施し、前記粉末の粒子を冶金学的に互いに結合させて物品を生成する工程
を含む。
【0017】
特定の態様では、本発明は、尿素製造プラントのカルバメート剥離器のための液分散器に関し、液分散器は上述の物品である。
【0018】
別の態様では、本発明は、尿素の製造のためのプラントに関し、前記プラントは、反応器、剥離器及び凝集器を含む高圧尿素合成区間を含み、剥離器は上述の液分散器を含む。
【0019】
また別の態様では、本発明は、尿素の製造のための既存のプラントを改造する方法を提供し、前記プラントは、耐食性フェライト系オーステナイト合金から作製された液分散器及びチューブを有する剥離器を備えており、この耐食性フェライト系オーステナイト合金は、重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 29〜35超;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜0.8;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
と、Fe及び不可避の不純物である残りとを含み;この方法は、液分散器を上述の液分散器で置き換えることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
広義には、本発明は、尿素剥離器内の液分散器において依然として生じる腐食が横断端の周囲腐食の影響を受けているという思慮による洞察に基づいている。これは、横断面を作製することにより生じる、表面において起こる腐食を指している。この種の腐食は、疲れ腐食(化学的環境における機械疲労)、塩化物の応力腐食割れ、侵食腐食(化学的環境における粒子摩耗)、隙間腐食又は点食といった他の種類の腐食とは異なる。
【0022】
本発明者らは、上述及び後述に定義される、HIPを実施したフェライト系オーステナイト合金から構成機器を作製することにより、穿孔又は機械加工工程により前記構成機器中に生成されるいずれの横断面においても、横断面の周囲腐食に対する脆弱性が低下するか及び/又は払拭されるという驚くべき発見に至った。
【0023】
発明者らはまた、腐食の結果としての前記構成機器の全体の重量損失は、類似であるがHIP法(即ち、熱間押し出し後の低温加工)によって製造されていないフェライト系オーステナイト鋼から作製された同一構成機器と比較して有意に小さいという驚くべき発見に至った。HIPを実施した材料は、相(又は微細構造)の分布及び形状に関して等方性となることが分かった。二相鋼の二相の性質により、この材料がマイクロスケールでは必ず異方性となることが理解されるであろう。また、HIPを実施した材料において、単一の粒体はその結晶構造により異方性である。ランダムな方向性を有する多種多様な粒体が、メソスケール又はマイクロスケールにおいて等方性となるのであろう。
【0024】
これらスケールは、オーステナイトのスペーシングの大きさに関連すると理解することができる。HIPが実施された二相の構成機器では、前記スペーシングは通常8〜15umである。
【0025】
本発明において、フェライト系オーステナイト合金及び物品は、フェライト系オーステナイト鋼合金粉末を熱間等方圧加圧法に供すことによって得られ、このフェライト系オーステナイト鋼粉末は、重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 29〜35超;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜0.8;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
を含み、残りはFe及び不可避の不純物である。
【0026】
このようにして得られる合金、及び物品は、特に、上述のように、オーステナイトのスペーシング及び平均的なオーステナイト相の長さ/幅の比に関して特徴付けることができる。
【0027】
記載される実験では、とりわけ、試料のエッチングされた状態の横断面を観察するために光学顕微鏡が使用される。顕微鏡は、金属組織学的試験に適した任意の光学顕微鏡とすることができる。倍率は、相の境界が区別できるように選択される。当業者であれば、普通、相の境界が見えるかどうかを評価することができ、したがって適当な倍率を選択することができるであろう。DNV RP F112によれば、倍率は、10〜15の微細構造単位が各ライン(画像にを横切って引かれた直線)と交差するように選択されなければならない。典型的倍率は100×〜400×である。
【0028】
実験では、クロスグリッドが画像に投影され、このグリッドは、オーステナイト−フェライト相の境界を観察するために適合されたグリッド距離を有する。典型的には、20〜40のグリッド交差が提供される。
【0029】
フェライト系オーステナイト鋼合金は、国際公開第05/00674号又は米国特許第7347903号の開示内容に従って作製することができる。当業者であれば、これら開示内容に照らして合金鋼を生成することができるであろう。加えて、これら開示内容は、ここで参照したことにより本明細書に包含される。
【0030】
フェライト系オーステナイト鋼合金の元素組成は、一般に上述又は後述に定義される通りである。
【0031】
炭素(C)は、本発明ではどちらかというと不純物元素と考慮され、フェライト及びオーステナイト相の両方において限定された溶解性を有する。この限定された溶解性とは、カーバイドの沈殿が高過ぎる割合で存在し、結果として耐食性が低下する危険を意味する。したがって、C含有量は、最大で0.05重量%、例えば最大で0.03重量%、例えば最大で0.02重量%に制限されなければならない。
【0032】
シリコン(Si)は、製鋼において脱酸素添加剤として使用される。しかしながら、高すぎるSi含有量は、中間相の沈殿を生じる傾向を増大させ、Nの溶解性を低下させる。このために、Si含有量は最大0.8重量%、例えば最大0.6重量%、例えば0.2〜0.6重量%の範囲、例えば最大0.5重量%に制限されなければならない。
【0033】
マンガン(Mn)はNの溶解性を上昇させるため、且つオーステナイトを安定させると考えられていることから合金元素としてNiを置換するために添加される。適切には、0〜4.0重量%、例えば0.8〜1.50重量%、例えば0.3〜2.0重量%、例えば0.3〜1.0重量%のMn含有量が選択される。
【0034】
クロム(Cr)は、大部分の種類の腐食に対する耐性を向上させる最も能動的な元素である。尿素合成において、Cr含有量は耐性のために極めて重要であり、そのためCr含有量は、構造安定性の観点から可能な限り最大化されなければならない。オーステナイトに十分な耐食性を得るために、Cr含有量は、26〜35重量%の範囲、例えば28〜30重量%の範囲、例えば29〜33重量%の範囲でなければならない。本発明では、Cr含有量は特に、29%を上回り、例えば29〜33、29〜30を上回る。興味深い実施態様では、Cr含有量は29.5%を上回り、例えば29.5〜33、例えば29.5〜31、例えば29.5〜30を上回る。
【0035】
ニッケル(Ni)は、主にオーステナイトを安定化させる元素として使用され、その含有量はできる限り低く維持されなければならない。酸素含有量の低い尿素環境においてオーステナイトステンレス鋼の耐性が悪い重要な理由は、それらのNi含有量が比較的高いことであると思われる。本発明では、フェライト含有量を30〜70体積%の範囲にするために、3〜10重量%のNi含有量、例えば3〜7.5重量%、例えば4〜9重量%、例えば5〜8重量%、例えば6〜8重量%のNi含有量が必要である。
【0036】
モリブデン(Mo)は、合金の不動態を向上させるために使用される。MoはCr及びNと共に、孔食及び隙間腐食に対する耐性を最も効果的に上昇させる元素である。更に、Moは、Nの固体溶解性を上昇させることにより窒化物の沈殿を生じる傾向を抑える。しかしながら、高すぎるMo含有量は、中間相の沈殿を生じるリスクを伴う。したがって、Mo含有量は、0〜4.0重量%の範囲、例えば1.0〜3重量%、例えば1.50〜2.60重量%、例えば2〜2.6重量%でなければならない。
【0037】
窒素(N)は、強力なオーステナイト形成物であり、オーステナイトの再構築を強化する。加えてNは、Nの含有量が高まるとオーステナイト相のCr及びMoの相対的なシェアが増大するように、Cr及びMoの分布に影響する。これは、腐食に対するオーステナイトの耐性が上昇すること、及び構造安定性が維持されつつ合金中のCrとMoの含有量が高まることを意味する。しかしながら、Nが完全なオーステナイト鋼においても中間相の形成を抑制することが周知である。したがって、Nは、0.30〜0.55重量%の範囲、例えば0.30〜0.40重量%、例えば0.33〜0.55重量%、例えば0.36〜0.55重量%でなければならない。
【0038】
銅(Cu)は、硫酸などの酸環境において、通常の耐食性を向上させる。しかしながら、Cuの高い含有量は、孔食及び隙間腐食に対する耐性を低下させる。したがって、Cuの含有量は、最大1.0重量%、例えば最大0.8重量%に制限されなければならない。本発明では、Cu含有量は、特に最大0.8%である。
【0039】
タングステン(W)は、孔食及び間隙腐食に対する耐性を向上させる。しかし、高すぎるWの含有量は、特にCr及びMbの高い含有量と組み合わさると、中間相の沈殿を生じるリスクを高める。したがって、Wの量は、最大3.0重量%、例えば最大2.0重量%に制限されなければならない。
【0040】
硫黄(S)は、易溶な硫化物の形成により耐食性に悪影響を与える。したがって、Sの含有量は、最大0.03重量%、例えば最大0.01重量%、例えば最大0005重量%、例えば最大0.001重量%に制限されなければならない。
【0041】
セリウムは、最大0.2重量%の割合でフェライト系オーステナイト合金に添加されてよい。
【0042】
本発明によるフェライト系オーステナイト合金のフェライト含有量は、耐食性のために重要である。したがって、フェライト含有量は、30〜70体積%の範囲、例えば30〜60体積%の範囲、例えば30〜55体積%の範囲、例えば40〜60体積%の範囲でなければならない。
【0043】
用語「最大」が使用されるとき、当業者であれば、別の数字が特に言及されていない限り、範囲の下限が0重量%であることを理解するであろう。
【0044】
本発明によれば、別の組成物は、重量%で:
C 最大0.03;
Mn 0.8〜1.50;
S 最大0.03;
Si 最大0.50;
Cr 29〜30超;
Ni 5.8〜7.5;
Mo 1.50〜2.60;
Cu 最大0.80;
N 0.30〜0.40;
W 0〜3.0;
Ce 0〜0.2;
を含み、残りはFe及び不可避の不純物である。
【0045】
本発明によるまた別の組成は、重量%で:
C 最大0.03;
Si 最大0.8;例えば0.2〜0.6;
Mn 0.3〜2;例えば0.3〜1;
Cr 29〜33超;
Ni 3〜10;例えば4〜9;例えば5〜8;例えば6−8;
Mo 1〜3;例えば1〜1.3;例えば1.5〜2.6;例えば2−2.6;
N 0.36〜0.55;
Cu 最大0.8;
W 最大2.0;
S 最大0.03;
Ce 0〜0.2;
を含み、残りはFe及び不可避の不純物であり、フェライト含有量は、30〜70体積%の範囲、例えば30〜60体積%の範囲、例えば30〜55体積%の範囲、例えば40〜60体積%の範囲である。
【0046】
熱間等方圧加圧法(HIP)は、当技術分野で既知の技術である。当業者であれば知るように、熱間等方圧加圧法に供される二相鋼合金の場合、それは粉末の形態で供給されなければならない。そのような粉末は、高温の合金を微粒子化すること、即ち高温の合金を、液体状態であるうちにノズルを通して噴霧する(それにより、溶融した合金をオリフィスに強制的に通す)こと、及びその後急速に合金を凝固させることにより、生成することができる。微粒子化は、当業者に既知の圧力で実施される。これは、そのような圧力は微粒子化を実施するために使用される機器に左右されるためである。好ましくは、ガス噴霧の技術が採用され、ノズルを出る直前の高温の金属合金流にガスが導入されて、混入されたガスが膨張するときに乱流を形成させ(加熱により)、ガスは外部の大きな収集体積へとオリフィスを出てゆく。収集体積は、好ましくは、溶融金属のジェット流の乱流を更に促進するためのガスで充填される。
【0047】
粒子のサイズ分布のD
50は、通常80〜130μmである。
【0048】
結果として得られる粉末は、次いで鋳型(即ち、生成される物品の形状を画定するフォーム)に移される。鋳型の所望の部分が充填され、充填された鋳型は熱間等方圧加圧法(HIP)に供され、前記粉末の粒子が互いに冶金学的に結合して物品を生成する。本発明によるHIP法は、フェライト系オーステナイト合金の融点を下回る所定の温度、好ましくは1000〜1200℃の範囲で実施される。所定の等方圧は≧900bar、例えば約1000barであり、所定の時間は1〜5時間の範囲である。
【0049】
本発明によれば、本開示によるHIP法に続いて加熱処理を実施してもよく、例えば得られた物品を1000〜1200℃の温度範囲で1〜5時間にわたって処理した後にクエンチすることができる。
【0050】
物品全体が単一のHIP工程で作製されるかどうかに応じて、鋳型の少なくとも一部が充填される。一実施態様によれば、鋳型は完全に充填され、物品は単一のHIP工程で作製される。HIPの後、物品は鋳型から取り外される。通常これは、鋳型自体を、例えば機械加工又は酸洗浄により取り外すことにより実施される。
【0051】
得られる物品の形状は、鋳型の形状、及び鋳型の充填度により決定される。好ましくは、鋳型は、物品に所望の端面形状を提供するように作製される。例えば、管状液分散器を作製しようとする場合、鋳型は管を画定するように機能するであろう。液分散器中に作製される上述の穴は、後で穿孔することにより適切に作製することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、上述又は後述に定義される特定のHIP材料の等方性により、穴は二相合金パーツの残りの部分と同程度に耐食性であろうと考える。
【0052】
その結果、本HIP法は、それに従って下記のように記載される。
【0053】
第1の工程では、最終的な物品の形状又は輪郭の少なくとも一部を画定するフォーム(鋳型、カプセル)を提供する。このフォームは、典型的には、炭素鋼板といった、互いに溶接される鋼薄板から製造される。フォームは、任意の形状を有することができ、フォームの充填後に溶接によりシールすることができる。フォームは、最終的な構成機器の一部を画定することもできる。この場合、フォームは、既成の構成機器、例えば鍛造又は鋳造される構成機器に溶接することができる。フォームは、最終的物品の最終形状を有する必要はない。
【0054】
第2の工程では、上述又は後述で定義される粉末を提供する。粉末は、粒子が分散したプレアロイ粉末であり、即ち粉末は異なる大きさの粒子を含み、粒子の大きさは500um未満である。
【0055】
第3の工程では、粉末を、構成機器の形状を画定するフォームに注ぎ込む。その後フォームは、例えば溶接によりシールされる。フォームをシールする前に、例えば真空ポンプを使用することにより、粉末混合物に真空を適用してもよい。真空は、粉末混合物から空気を取り除く。空気は基質の延性に悪影響を与えうるアルゴンを含むため、粉末混合物から空気を取り除くことは重要である。
【0056】
第4の工程では、充填されたフォームを、所定の温度及び所定の等方圧での所定の時間にわたる熱間等方圧加圧法(HIP)に供し、合金の粒子を互いに対して冶金的に結合させる。そこで、フォームは、通常熱間等方加圧チャンバー(HIPチャンバー)と呼ばれる加熱可能な圧力チャンバ内に配置される。
【0057】
加熱チャンバーは、ガス、例えばアルゴンガスにより、500barを超える等方圧に加圧される。典型的には、等方圧は900〜1100barを上回り、例えば950〜1100barであり、最も好ましくは約1000barである。チャンバーは、材料の融点を下回るように選択された温度まで加熱される。温度が融点に近づくにつれ、脆弱な縞状部分を形成しうる融解相が形成されるリスクが高まる。しかしながら、低温では、拡散プロセスの速度が落ち、HIPを実施した材料には多孔性が残り、材料間の金属結合が弱まる。その結果、温度は、1000〜1200
℃の範囲、好ましくは1100〜1200
℃であり、最も好ましくは約1150
℃である。フォームは、所定の圧力及び所定の温度で所定の期間にわたり、加熱チャンバー内に保持される。HIPの実施中に粉末粒子間で起こる拡散プロセスは、時間が好ましい限りにおいて、時間依存性である。したがって、HIP工程の継続時間は、前記圧力及び温度に達した後、1〜5時間の範囲内である。
【0058】
HIP実施後、フォームは、圧密化された構成機器から剥がされる。最終製品は、剥離後、熱処理されてもよい。
【0059】
これに関し、本発明は、別の実施態様において、フェライト系オーステナイト合金からなる物品の製造方法に関し、この方法は:
a)前記物品の形状の少なくとも一部を画定するフォームを提供し;重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 29〜35超;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜0.8;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
と、Feと不可避の不純物である残りとを含む粉末混合物を提供する工程;
b)前記粉末混合物で前記フォームの少なくとも一部を充填する工程;
c)前記フォームを、所定の温度及び所定の等方圧での所定の時間にわたる熱間等方圧加圧法に供し、粉末粒子を互いに対して冶金的に結合させる工程
を含む。
【0060】
上述及び後述される本発明により作製される物品が液分散器に限定されないことを理解されたい。実際、上述又は後述に定義されるフェライト系オーステナイト合金と、上述又は後述に記載されるHIP法は、上述又は後述に言及される同じ要件を満たす必要のある任意の適切な物品を製造するために使用されてもよい。本発明の更なる利点は、高腐食環境において使用される物品、及び上記液分散器と同様に横断面が周囲腐食し易い表面を含む物品の場合に特に有利である。
【0061】
極めて腐食性の高い環境は、尿素製造プラントの高圧合成区間である。既述のように、本発明が特にふさわしい用途を見出すそのような合成区間におけるパーツの一つは、剥離器に使用される液分散器である。しかしながら、本発明は、同種の合成区間のための他の構成機器を製造するためにも有利に使用することができる。
【0062】
これら他の構成機器には、とりわけレーダーコーンが含まれる。これは、尿素反応器又は高圧剥離器の液体レベルの測定のためのレーダーの使用を指す。これらレーダーレベル測定システムは、前記用途に支配的な腐食性環境に曝されるレーダーコーンを備える。レーダーコーン自体は、機械加工されていることにより、本発明によって製作されることにより耐食性に関して更に向上の余地のある表面を呈する。
【0063】
尿素プラントにおける用途のまた別の領域は、高圧(制御)バルブの本体又は高圧排出器の本体である。耐食性のフェライト−オーステナイト鋼から高圧(制御)バルブの本体又は高圧排出器の本体を製造するためには、機械加工、穿孔、又はそれらの組み合わせが必要である。したがって、これらのパーツは横断面の周囲腐食の影響を受け易い。
【0064】
したがって、本発明は、この態様においては、尿素製造プラントの構成機器のための建設材料として、上述のような本発明による物品の使用又は上述の方法により製造された物品の使用に関する。この場合、構成機器は、カルバメート溶液と接触することが意図されており、一又は複数の機械加工表面を含む。
【0065】
一実施態様では、建設材料としての前記使用は、本発明による物品を、使用される構成機器の形状を概ね、又は正確に有するように作製することにより実現される。典型的には、液分散器の場合と同様に(又はレーダーコーンにおいても、及びバルブ本体に関して)、これは、形状が予め決められていること、及び穴だけはHIPによって製造された物品中に穿孔しなければならないことを意味する。或いは、製造される物品は単なるブロック(又は他のいずれかの未加工形状)であり、その上に、旋削加工、螺旋切り加工、穿孔、のこ切断、及びミリング加工、又はそれらの組み合わせ、例えばミリング加工又はのこ切断とその後の穿孔といった様々な技術を用いることにより、所望の最終的な構成機器を作製することができる。これは、最終的な構成機器がバルブ本体のような比較的単純な形状を有している場合に特に適している。
【0066】
本発明は、更なる態様において、上述の構成機器にも関する。特に、これは、液分散器、腐食性の液体に曝される機器のハウジング、例えばレーダーコーン、バルブ本体又は排出器本体からなる群より選択される構成機器を指す。好ましくは、本発明は、尿素製造プラントのカルバメート剥離器のための液分散器を提供し、この液分散器は、記載した任意の実施態様において上記に定義された本発明による物品であるか、又は記載した任意の実施態様において本発明の上記方法によって製造された物品である。
【0067】
本発明は、尿素プラントの建設に特に利点を提供する。この態様では、本発明はしたがって尿素の製造のためのプラントにも関する。前記プラントは、反応器、剥離器、及び凝集器を含む高圧尿素合成区間を備え、ここで剥離器は上述のような本発明による液分散器を含む。同様に、本発明は、特に上述に定義したような耐食性二相鋼をHIPに供することにより得られる一又は複数の他の構成機器を含む尿素プラントを提供する。このような構成機器は特に、レーダーコーン又は(制御)バルブ並びに排出器の本体である。
【0068】
尿素プラントは、いわゆるグラスルートプラント、即ち新規に建設されたプラントとすることができる。しかしながら、本発明は、既存の尿素製造プラントの改造に関しても、特に既存のプラントが、特にそのようなプラントの高圧合成区間のパーツ中に、プラントが稼働する高度に腐食性の条件下において高度に腐食性のカルバメートと接触する耐食性の二相鋼を用いるように作製されている場合、大きな利点を伴って特定の用途を見出す。上述又は後述に定義される、HIPが実施されたフェライト系オーステナイト鋼合金は、従来の完全にオーステナイトステンレス鋼で建設された既存のプラントに使用できるだけでなく、チタン又はジルコニウムといった高反応性の材料を用いて建設されたプラントにも使用することができる。
【0069】
これに関して、本発明は、尿素の製造のための既存のプラントを改造する方法を提供し、前記プラントは剥離器を備え、そのチューブ及び液分散器は、重量%で:
C 0〜0.05;
Si 0〜0.8;
Mn 0〜4.0;
Cr 26〜35;
Ni 3.0〜10;
Mo 0〜4.0;
N 0.30〜0.55;
Cu 0〜1.0;
W 0〜3.0;
S 0〜0.03;
Ce 0〜0.2;
と、Fe及び不可避の不純物である残りとを含む、耐食性フェライト系オーステナイト合金から作製されている。この方法は、液分散器を、上述又は後述に記載の本発明による液分散器、即ち、特に上記に定義したように、耐食性二相鋼を、熱間等方圧加圧法に供することにより得られる液分散器で置き換えることを含む。同様の態様では、本発明は、そのような既存の尿素プラントを、耐食性のフェライト−オーステナイト鋼から作製された任意の所望の構成機器を、本発明により記載される構成機器により置き換えることにより改造することにも関する。これは特に、一又は複数の機械加工表面を含む構成機器を指し、好ましくは液分散器、レーダーコーン、及びバルブ本体からなる群より選択される。
【0070】
上述の方法では、フェライト系オーステナイト合金の元素組成は、上述又は後述のフェライト系オーステナイト合金の実施態様のうちのいずれか一つのものである。
【0071】
上述のプラントは、その主な高圧合成区間の構成機器に関連して記載されている。当業者であれば、このようなプラントには一般にどのような構成機器が存在するか、及びこれら構成機器が互いに対して及び互いに関連してどのように配置されているかが分かっている。Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol 37, 2012, pp 657 - 695を引用する。
【0072】
本明細書において実施態様について考察する場合、このような実施態様の組み合わせは、別々に考察される場合も、本発明によって明確に予見される。
【0073】
本発明は、非限定的な図面及び後述の実施例を参照することにより更に説明される。実施例では、フェライト系オーステナイト合金は、通常以下のように熱間等方圧加圧法に供される:
【0074】
第1の工程では、フォームが提供される。フォームは、鋳型又はカプセルとも呼ばれ、最終的な物品の形状又は輪郭の少なくとも一部を画定する。このフォームは、互いに溶接される鋼薄板といった鋼薄板から作製することができる。
【0075】
第2の工程では、粉末混合物の形態で、上述又は後述で定義される合金が提供される。粉末混合物は異なる大きさの粒子を含むものと理解されたい。
【0076】
第3の工程では、粉末混合物は物品の形状を画定するフォームに注がれる。第4の工程では、充填されたフォームが、所定の温度及び所定の等方圧での所定の時間にわたるHIPに供され、合金の粒子が互いに対して冶金的に結合する。
【実施例】
【0077】
実施例1
この実施例では、複数の異なる製造方法により製造されたフェライト−オーステナイト合金の資料が提供される。試料はその微細構造の調査に供される。
【0078】
五つの試料が選択された。四つの試料はSafurex級のものであり、もう一つはHIP法によって製造されたSAF2507(前Sandvik)級のものであった。試料のリストを表1に示す。
【0079】
【0080】
上記試料から金属組織学的標本を調製した。標本を、ASTM E 3 −01[1]に従って調製した(硬度の高い材料のための調製方法2が使用された)。ASTM E 3に記載の提案される指定に従って、各試料から異なる方向に三つの断面、即ち、横断面、半径方向縦断面、及び接線方向縦断面を切り出した。標本を最大30秒間にわたり修飾されたMurakami試薬中でエッチングすることにより、フェライト相に着色した。エッチング液を、30gのKOHと30gのK
3Fe(CN)
6とを60mlのH
2O中において混合することにより調製し、試用前に放置して室温(20℃)まで冷ました。
【0081】
試料2を、以下の非限定的な例に従って調製した。上述又は後述に定義される合金は、ガス噴霧されて500μmを下回る大きさにふるいにかけられる球状の粉末粒子を形成する。
【0082】
プレアロイ粉末を、溶接された板金からなるフォームに注ぐ。充填された鋳型を真空引きした後、鋳型を溶接によりシールする。その後、鋳型を加熱可能な圧力チャンバー、即ち熱間等方圧加圧チャンバー(HIPチャンバー)内に配置する。加熱チャンバーを、アルゴンガスにより等方圧1000barに加圧した。チャンバーを約1150℃の温度に加熱し、試料をその温度に2時間保持した。HIP実施後、HIPを実施した構成機器を、合金の状態図に得られる所望の移相平衡を提供する温度に加熱する。熱処理を2時間実施した後、直ちに水でクエンチする。熱処理後、鋳型を機械加工により取り外す。
【0083】
調製された標本に対し、三つの異なる測定が実施された;
1.DNV−RP−F112、Section7(2008)[2]による、オーステナイトのスペーシング写真を伸長方向に水平に方向付け、測定を行うラインを写真において鉛直に方向付けた。
2.伸長方向に平行に測定されるオーステナイトのスペーシングと伸長方向に垂直に測定されるオーステナイトのスペーシングとの比と定義されるオーステナイトのスペーシング比(通常の手順では、伸長の方向に垂直なオーステナイトのスペーシングを測定する)。測定は、各標本に使用するフレームを一つに限るという点以外、DNV−RP−F112に従って実施した。
3.平均的なオーステナイト相の長さ/幅の比。平均的オーステナイト相の長さ/幅の比を、以下の手順に従って測定した:
a.オーステナイトのスペーシングに使用したフレームの種類(DNV−RP−F112)を使用した。
b.クロスグリッドを画像に投影し、20〜40個のグリッドの交差部を生成した。
c.グリッド交差部のうち10個を無作為に選択し、グリッド交差部をオーステナイト相にあるとして明確に識別した。
d.それら10個の交差部の各々について、10個の相の各々に関し、オーステナイト相/幅の比を、オーステナイト相の長さと幅を測定することにより決定した。ここで、長さは、相の境界における二地点間に直線を引いたとき、中断されない最長距離であり(相の境界は、オーステナイト相からフェライト相への遷移である);幅は、同じ相の長さに直交して測定される中断されない最長距離と定義される。
e.10個の測定されたオーステナイト相の長さ/幅の比の、オーステナイト相の長さ/幅の比の数値的平均として、平均的なオーステナイトの長さ/幅の比を算出した。
【0084】
複数の異なる金属組織学的標本の測定に使用された倍率及びグリッドの距離を表2に示す。
【0085】
上述の方法は、フェライト系の相及びフェライト−オーステナイト相の測定にも使用できる。例えば、フェライト−オーステナイト相が上述の方法に使用されるとすれば、表2に開示されるものと同じ大きさの倍率の結果が得られるであろう。
【0086】
【0087】
試料1〜5の各々について、金属組織学的標本の各々の写真をそれぞれ
図1〜5に示す。各図には、上記断面(横断面、放射方向断面、及び接線方向縦断面)に対応する三つの写真が示されている(上、中、及び下)。
【0088】
オーステナイト相のスペーシングは四つのフレームで測定し、各フレームについて最少でも50個の測定値をとった。オーステナイトのスペーシングは、可能であれば伸長方向に垂直に測定した。すべての標本に対し、オーステナイトのスペーシングはフレームに鉛直に測定した。微細構造に対するフレームの方向は、いずれの場合も
図1〜5の写真に示すものと同一であった。測定の平均値を表3に示す
【0089】
オーステナイトのスペーシング比は、垂直方向に測定されたオーステナイトのスペーシングを除算することにより算出された。まずオーステナイトのスペーシングを、通常のオーステナイトのスペーシングの測定と同じ方法で、伸長方向に垂直な方向に対応する写真の鉛直方向に測定した。次いで、オーステナイトのスペーシングを、伸長方向に平行な方向に対応する同じ写真の水平方向に測定した。鉛直方向の測定結果を表4に、水平方向の測定結果を表5に、それぞれ示す。
【0090】
微細構造の伸長方向に平行及び垂直な測定のオーステナイトのスペーシング比を表6に示す。
【0091】
オーステナイト相の長さ/幅の比の測定結果を表7に示す。この結果は、平均的なオーステナイト相の長さ/幅の比として提示されており、この値は各金属組織学的標本の10個の測定値の数値平均である。
【0092】
オーステナイトのスペーシング測定値は、HIPを実施した材料が三つの断面に類似したオーステナイトのスペーシングを有し、その意味でチューブ製品の場合より等方性が高いことを示している。
【0093】
オーステナイトのスペーシング比は、HIPを実施した材料が、従来のSafurexより等方性の高い微細構造(位相分布)を有することを示している。
【0094】
平均的オーステナイト相の長さ/幅の比の測定の結果は、HIPを実施した横方向の標本など、等方性の位相分布を有する金属組織学的標本がすべて3未満の値を呈していることを示す。異方性の分布を有する標本は3を上回る値を有し、多くの場合値はもっと高い。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
実施例2
二つの試験試料をSafurex(登録商標)級の鋼から準備した。試料は液分散器に使用される典型的な構造を呈するもので、半分の輪に三つの穴が穿孔されたものであった。
【0101】
試料2HIPは、本発明に従ってHIP法により作製した。試料2REFは、棒材料からの熱間押し出しとそれに続くに冷間ピルガ圧延による管の形成により従来的に作製した。
【0102】
試料をシュトライヒャー腐食試験に供した。シュトライヒャー試験は、材料の耐食性を決定するための標準試験として本技術分野において既知である(ASTM A262−02:オーステナイトステンレス鋼の粒間腐食に対する感受性を検出するための標準手順;粒子B:スルフェート−硫酸試験)。
【0103】
その後、試料から微小調製物を得た。これら試料では、オーステナイトのスペーシング(DNV−RP−F112による)及びオーステナイトの長さ/幅の比は、互いに垂直な二方向において決定された。後者を
図6に示す。図中:
L=長手方向(圧延又はピルガ方向)
T=移動方向(圧延又はピルガ方向に垂直)
断面1(CA1)は、T方向に垂直である。
断面2(CA2)は、L方向に垂直である。
【0104】
結果を、材料の重量減少及び選択的腐食に関して表8に示す。HIPを実施した本発明の材料は、重量の損失が実質的に小さく、且つ選択的腐食が実質的に小さかった。
【0105】
図7には、以下の断面1(CA1)の顕微鏡写真が示される:
(a)試料2HIP;
(b)試料2REF。
写真は、試料2HIPが見た目上試験条件による影響を殆ど受けていないこと、一方試料
2REFが大きな損傷を有することを明確に示すものである。
【0106】
【0107】
実施例3
二つの試料を実施例2のようにして調製した。
【0108】
試料3HIPは、本発明に従ってHIP法により作製した。試料3REFは、棒材料からの熱間押し出しとそれに続く冷間ピルガ圧延による管の形成により従来的に作製した。
【0109】
尿素製造における典型的な状態に試料を曝した。すなわち、試料を、尿素、二酸化炭素、水、アンモニア及びアンモニウムカルバメートを含有する溶液に浸した。条件は下記の通りであった:
【0110】
その後、実施例2と同じように、試料から微小調製物を得た。これら試料では、オーステナイトのスペーシング(DNV−RP−F112による)及びオーステナイトの長さ/幅の比は、互いに垂直な二方向において決定された。再度
図6を参照のこと。
【0111】
結果を、材料の重量減少及び選択的腐食に関して表9に示す。HIPを実施した本発明の材料は、重量の損失が実質的に小さく、且つ選択的腐食がなかった。
【0112】