(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、太物電線や、平型導体及び丸型導体等の高い剛性の配索材は、配索作業時の撓み量が小さいため、配索材の公差や、接続相手導体の公差により、組付け作業性が低下したり、締結できなかったりする可能性がある。即ち、配索材、締結穴及び接続相手導体の全てが高い精度でないと締結できない可能性がある。そのため、車両フロント側の車載バッテリーからリア側のインバータ等まで長尺の太物電線を用いた配索材では、公差が大きいと導体接続部を締結できない可能性がより高まるので、高い組付け精度が要求されて製造コストの上昇に繋がるという問題があった。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、高い剛性を有する配索材の組付け性を向上させることができる導体接続部の公差吸収構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 接続相手導体と、剛性の高い配索材の導体の端部に形成されて前記接続相手導体の接続面と平行な導体片部と、平行に重ねられた前記接続相手導体と前記導体片部とを前記接続面に垂直な方向で貫通して前記接続相手導体及び前記導体片部を締結して電気的に接続する締結部材と、前記接続相手導体及び前記導体片部の少なくとも一方に設けられ、前記剛性の高い配索材の接続方向に沿って延在若しくは点在して前記締結部材を前記剛性の高い配索材の延在方向の異なる位置で貫通させる公差吸収部と、を備え
、前記公差吸収部は、短径が前記締結部材の外径と略等しく、長径が前記剛性の高い配索材の接続方向に沿って延在して前記短径より大きく形成された長穴であり、導電性材料からなる複数の平板部が、絶縁層により各平板部間を電気的に絶縁して積層され、前記接続相手導体が、それぞれの前記平板部の外周縁から相互に離間して突出形成され、前記平板部及び前記接続相手導体が、前記導体片部が挿入される接続開口部を備えた絶縁樹脂製の接続ボックスに収容され、前記締結部材が、前記長穴の延在方向で前記接続ボックスに形成されたガイド溝に沿って移動自在に設けられていることを特徴とする導体接続部の公差吸収構造。
【0008】
上記(1)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、接続相手導体と、剛性の高い配索材の導体片部とは、締結部材を貫通させた公差吸収部で電気的に接続される。この際、接続相手導体と導体片部とは、双方を貫通する締結部材に対して、公差の範囲で位置ズレが生じるが、締結部材が公差吸収部に挿通されるので、公差吸収部では剛性の高い配索材の延在方向の異なる位置で締結部材が貫通できる。そこで、太物電線や、平型導体及び丸型導体等の剛性の高い配索材においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【0010】
更に、上記(
1)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、締結部材は、長穴の延在方向に移動が可能となる。接続相手導体や剛性の高い配索材に生じている公差の範囲の位置ズレは、この締結部材の移動により吸収される。これにより、締結部材は、接続相手導体及び導体片部に挿通不能となる状態が抑制される。
【0014】
更に、上記(
1)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、接続ボックスの接続開口部に、長穴を有した接続相手導体が配置される。接続開口部に形成されたガイド溝は、長穴を貫通する締結部材を、長穴の長手方向に移動自在に案内する。接続相手導体や剛性の高い配索材に生じている公差の範囲の位置ズレは、この締結部材の移動により吸収される。これにより、締結部材は、接続相手導体及び導体片部に挿通不能となる状態が抑制される。
また、接続相手導体は、積層された複数の平板部のそれぞれに設けられる。複数の接続相手導体は、導体の数と等しい平板部の合計の厚みと、その間に設けられる絶縁層の合計の厚みとの和のみが積層方向の厚みとなり、薄厚に形成できる。これにより、配索空間の省スペース化を図りつつ、太物電線や、平型導体及び丸型導体等においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【0015】
(
2) 前記ガイド溝には、前記締結部材を前記ガイド溝の一端側へ付勢する付勢部材が挿入されていることを特徴とする上記(
1)に記載の導体接続部の公差吸収構造。
【0016】
上記(
2)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、締結部材は、付勢部材の付勢力に抗して最適な位置へ移動が可能となる。移動された締結部材は、付勢部材を蓄勢した位置で、接続相手導体と導体片部とを締結する。接続相手導体に導体片部が接続されない場合、締結部材は、付勢部材の付勢力よりガイド溝の一端側に片寄せられた状態で保持される。これにより、例えば導体片部が未接続となった接続相手導体においても車両走行時等の振動による締結部材のがたつきが抑制される。
【0017】
(
3)
接続相手導体と、剛性の高い配索材の導体の端部に形成されて前記接続相手導体の接続面と平行な導体片部と、平行に重ねられた前記接続相手導体と前記導体片部とを前記接続面に垂直な方向で貫通して前記接続相手導体及び前記導体片部を締結して電気的に接続する締結部材と、前記接続相手導体及び前記導体片部の少なくとも一方に設けられ、前記剛性の高い配索材の接続方向に沿って延在若しくは点在して前記締結部材を前記剛性の高い配索材の延在方向の異なる位置で貫通させる公差吸収部と、を備え、前記公差吸収部は、前記剛性の高い配索材の接続方向に沿って点在した複数の締結用挿通穴であり、導電性材料からなる複数の平板部が、絶縁層により各平板部間を電気的に絶縁して積層され、前記接続相手導体が、それぞれの前記平板部の外周縁から相互に離間して突出形成され、前記平板部が、絶縁樹脂製の接続ボックスに収容され、前記接続相手導体が、前記接続ボックスの接続開口部から突出することを特徴とする導体接続部の公差吸収構造。
【0018】
上記(
3)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、締結部材は、点在する複数の締結用挿通穴の内、接続相手導体及び導体片部の双方に貫通可能となる最適な締結用挿通穴を選択して挿通される。接続相手導体や剛性の高い配索材に生じている公差の範囲の位置ズレは、この最適な締結用挿通穴の選択により吸収される。これにより、締結部材は、接続相手導体及び導体片部に挿通不能となる状態が抑制される。
更に、上記(3)の構成の導体接続部の公差吸収構造によれば、接続ボックスの接続開口部から接続相手導体が突出する。突出した接続相手導体には、剛性の高い配索材の接続方向に沿って複数の締結用挿通穴が点在する。締結部材は、点在する複数の締結用挿通穴の内、接続相手導体及び導体片部の双方に貫通可能となる最適な締結用挿通穴を選択して挿通される。これにより、締結部材は、接続相手導体及び導体片部に挿通不能となる状態が抑制される。
また、接続相手導体は、積層された複数の平板部のそれぞれに設けられる。複数の接続相手導体は、導体の数と等しい平板部の合計の厚みと、その間に設けられる絶縁層の合計の厚みとの和のみが積層方向の厚みとなり、薄厚に形成できる。これにより、配索空間の省スペース化を図りつつ、太物電線や、平型導体及び丸型導体等においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る導体接続部の公差吸収構造によれば、高い剛性を有する配索材の組付け性を向上させることができる。
【0020】
以上、本発明について簡潔に説明した。さらに、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細はさらに明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態に係る導体接続部の公差吸収構造は、車載用の剛性の高い配索材の接続に適用される。剛性の高い配索材とは、太物電線や、所謂複層型電線を含む。太物電線は、芯線断面積が8mm
2(所謂8sq)以上の電線を指す。複層型電線は、複数の平型導体が絶縁層を介し積層されて構造体となったり、絶縁被覆された複数の丸型導体が束ねられて構造体となったりした配索材を指す。以下、本明細書中では、これら太物電線、複層型電線を「高剛性配索材」とも称する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る導体接続部12の公差吸収構造を表す分解斜視図である。
本第1実施形態に係る高い剛性の配索材には、後述する配索材85が用いられる。配索材85からなる上流側配索材99は、第1高剛性配索材96と第2高剛性配索材98とが、導体接続部12により電気的に接続される。導体接続部12により接続される第1高剛性配索材96と第2高剛性配索材98とのそれぞれの端部は、クランプ123によりフロアパネル等に固定される。この導体接続部12は、後述の公差吸収構造を備えている。
【0024】
図2に示すように、上流側配索材99及び下流側配索材97は、例えば電源ケーブルとして用いる場合、車両のフロント(Fr)側のフロントクロスメンバ91とリア(Rr)側のリアクロスメンバ93とを跨いでフロアパネル95に沿って車両前後方向に配索されている。また、配索材85からなる分岐配索材101は、車両のトンネル部92を跨いでフロアパネル95に沿って車両左右方向に配索され、接続ボックス11を介して上流側配索材99及び下流側配索材97に電気的に接続されている。
【0025】
そして、車両のフロント(Fr)側とリア(Rr)側に渡ってフロアパネル95に沿って配索されて相互接続されたこれら上流側配索材99、下流側配索材97及び分岐配索材101により、車載バッテリーから車両の各所の機器へ電源を供給することができる。
【0026】
上流側配索材99や下流側配索材97は、上記のように設置箇所に合わせた構造で作られる。すなわち、上流側配索材99や下流側配索材97は、複層型電線である配索材85によって剛性の高い構造体となる。このため、例えば上流側配索材99のように車両前後方向の半分以上の長尺となる場合、製造性、搬送性を考慮して、
図3の(a)に示す第1高剛性配索材96と、
図3の(b)に示す第2高剛性配索材98等とに分割して製造されることが好ましい。
【0027】
本実施形態の配索材85は、絶縁層55に被覆された導体である平型導体87A〜87Dを下層側より積層することで、多回路に対応が可能な複層型電線を構成している。
図4及び
図5には、4層の平型導体87A〜87Dからなる配索材85の場合を例示するが、層数(枚数)はこれに限定されない。
【0028】
それぞれの平型導体87A〜87Dの配索材接続部89は、配索材85の全幅を層数で分割した幅で形成することができる。
図示例の4回路は、例えば下層より48Vのマイナス、48Vのプラス、12Vのプラス、12Vのマイナスの順で平型導体87A〜87Dを積層して配索材85を構成することができる。この場合、隣接する層は、同極同士とすることが好ましい。図示例の配索材85では、「48Vのプラス」と「12Vのプラス」とが2層目の平型導体87Bと、3層目の平型導体87Cとで隣接する。このように、多回路を積層した配索材85では、同極を隣接配置することにより耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0029】
本第1の実施形態に係る導体接続部12の公差吸収構造は、
図1に示したように、接続相手導体となる第1高剛性配索材96の配索材接続部89と、導体片部となる第2高剛性配索材98の配索材接続部90と、締結部材となる締結ボルト52と、公差吸収部となる第2高剛性配索材98の配索材接続部90に穿設される長穴22と、を有する。
【0030】
導体片部である配索材接続部90は、接続相手導体である配索材接続部89の接続面と平行となる。
締結部材である締結ボルト52は、平行に重ねられた配索材接続部89と配索材接続部90とを接続面に垂直な方向で貫通して、固定ナット51が螺合されることにより配索材接続部89と配索材接続部90とを締結して電気的に接続する。
【0031】
本第1の実施形態の公差吸収部となる長穴22は、配索材接続部89及び配索材接続部90の少なくとも一方に設けられる(
図1に示す例では、配索材接続部90に設けられる)。長穴22は、第2高剛性配索材98の接続方向に沿って延在して締結ボルト52を配索材接続部90の延在方向の異なる位置で貫通させる。接続相手導体である配索材接続部89には、通常のボルト固定穴43が穿設されている。このボルト固定穴43が、長穴22であってもよい。
【0032】
公差吸収部である長穴22は、短径が締結ボルト52のネジ外径と略等しく、長径が配索材接続部90の接続方向に沿って延在して短径より大きく形成される。
【0033】
なお、本実施形態に係る公差吸収構造は、必ずしも平型導体87A〜87Dからなる配索材85と接続されなくてもよい。例えば、
図6に示すように、絶縁被覆された複数の丸型導体117が、クランプ123等により束ねられて構造体となった配索材119を接続することもできる。各丸型導体117は、LA端子状に形成された配索材接続部121が、それぞれ接続される。この場合、配索材接続部121に、公差吸収部である長穴22が穿設される。
【0034】
次に、上述した第1の実施形態に係る公差吸収構造の作用を説明する。
本第1の実施形態に係る導体接続部の公差吸収構造では、接続相手導体である第1高剛性配索材96の配索材接続部89と、導体片部となる第2高剛性配索材98の配索材接続部90とは、締結ボルト52を貫通させた公差吸収部である長穴22を介して電気的に接続される。
この際、配索材接続部89と配索材接続部90とは、双方を貫通する締結ボルト52に対して、公差の範囲で位置ズレが生じるが、締結ボルト52が公差吸収部である長穴22に挿通されるので、長穴22では配索材接続部90の延在方向の異なる位置で締結ボルト52が貫通できる。そこで、平型導体87A〜87Dからなる高剛性配索材においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【0035】
即ち、締結ボルト52等の締結部材は、一般的に位置ズレが大きい場合、接続相手導体と導体片部との双方を貫通不能となるが、細物電線や中物電線等の剛性が高くない配索材では、撓みが可能な範囲で位置ずれを吸収でき、締結ボルト52の貫通が可能となる。これに対し、平型導体87A〜87D等の高剛性配索材では、細物電線や中物電線等に比べて剛性が高いため、締結ボルト52の貫通が不能となる場合がある。しかしながら、公差吸収部を長穴22とした本第1の実施形態の公差吸収構造では、締結ボルト52が長穴22の延在方向に移動可能となるので、平型導体87A〜87D等の高剛性配索材に生じている公差の範囲の位置ズレは、この締結ボルト52の移動により吸収される。これにより、締結ボルト52は、配索材接続部89及び配索材接続部90に挿通不能となる状態が抑制される。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。
図7は本発明の第2の実施形態に係る公差吸収構造を備える接続ボックス11の外観斜視図である。なお、本第2の実施形態では、上記第1の実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
【0037】
本第2の実施形態に係る導体接続部の公差吸収構造は、接続相手導体が、接続ボックス11に設けられる。
【0038】
図7〜
図9に示すように、本第2の実施形態に係る接続ボックス11は、積層導電性部材13を収容する絶縁性の収容ケースである。接続ボックス11は、収容ボックス15と蓋ケース17とを有し、これら収容ボックス15と蓋ケース17とにより積層導電性部材13を覆っている。接続ボックス11は、偏平な略6面体で形成される。接続ボックス11のそれぞれの側辺部には、合計4つの接続開口部19が各側辺部から突出して形成される。それぞれの接続開口部19は、複数(図示例では4つ)の接続口21を有する。各接続口21には、後述の第1〜第4の接続片35,37,39,41が配置される。各接続口21に配置されるそれぞれの接続片には、高剛性の配索材85からなる平型導体(導体)87A〜87Dが電気的に接続される。本第2の実施形態では、積層導電性部材13の第1〜第4の接続片35,37,39,41と第2高剛性配索材98の平型導体87A〜87Dとのそれぞれの接続部が、導体接続部12Aとなる。
【0039】
図8に示すように、接続ボックス11に収容される積層導電性部材13は、複数の平板状の導電性材料からなる平板部23A〜23Dを積層してなる。積層される平板部23A〜23Dの数は、接続する第2高剛性配索材98(配索材85)の平型導体87A〜87Dの数となる。本第2の実施形態において、第2高剛性配索材98の平型導体87A〜87Dの数は4本であるので、平板部23A〜23Dは4枚となる。
【0040】
本第2の実施形態において、平面視で方形の各平板部23A〜23Dは、積層された各平板部23A〜23Dの外周縁25から積層方向に重ならないように横並に突出する第1〜第4の接続片35,37,39,41を有する。これら第1〜第4の接続片35,37,39,41は、高剛性配索材である第2高剛性配索材98の平型導体87A〜87Dに対応してそれぞれ接続される(
図10参照)。第1〜第4の接続片35,37,39,41は、複数群の接続部を構成する。図示例の積層導電性部材13は、各側辺部に、第1群の接続部27と、第2群の接続部29と、第3群の接続部31と、第4群の接続部33と、の合計4群の接続部が設けられる。第1群〜第4群のそれぞれの接続部27,29,31,33には、第1〜第4の接続片35,37,39,41が配置される。各接続片には、第2高剛性配索材98、下流側配索材97及び分岐配索材101の平型導体87A〜87Dをボルト締結によりそれぞれ接続するための長穴22が穿設されている。本第2の実施形態では、第1〜第4の接続片35,37,39,41のそれぞれに穿設された長穴22が、公差吸収部となる。
【0041】
図9は
図7に示した接続ボックス11の分解斜視図である。
本第2の実施形態において、第1〜第4の接続片35,37,39,41がそれぞれ突設された各平板部23A〜23Dは、それぞれ2種類の平板形状部材45,47から形成される。積層導電性部材13は、下上層の第一層に平板形状部材45の表が上向き、第二層に平板形状部材47の表が上向き、第三層に平板形状部材47の裏が上向き、第四層に平板形状部材45の裏が上向きとなって積層される。これにより、第1群〜第4群のそれぞれの接続部27,29,31,33には、
図8に示したように、第1〜第4の接続片35,37,39,41が各平板部23A〜23Dの外周縁25から積層方向に重ならないように横並に突出した状態となる。
【0042】
収容ボックス15の接続開口部19における各接続口21の底部には、締結部材であるスタッドボルト49が後述のガイド溝24に沿って移動自在に設けられている。スタッドボルト49は、第1〜第4の接続片35,37,39,41の長穴22にそれぞれ挿通される。長穴22を貫通したスタッドボルト49には、固定ナット51が螺合される。これにより、ボルト固定穴43が穿設された各平型導体87A〜87Dの配索材接続部89は、第1〜第4の接続片35,37,39,41にそれぞれ締結可能となっている。同時に、スタッドボルト49は、積層導電性部材13を収容ボックス15に固定する役割も有している。このようにして、収容ボックス15に固定された積層導電性部材13は、蓋ケース17がケース固定ネジ53により収容ボックス15に固定されることで、接続ボックス11内に収容されてその殆どが覆われる。
【0043】
図11に示すように、接続ボックス11の接続開口部19におけるそれぞれの接続口21の底壁には、接続相手導体である第1〜第4の接続片35,37,39,41に穿設された長穴22の延在方向に沿ってガイド溝24が形成されている。ガイド溝24は、蟻溝で形成されることにより、スタッドボルト49の四角形に形成した頭部をスライド自在に係合する。これにより、それぞれの接続口21に配置された第1〜第4の接続片35,37,39,41の長穴22には、スタッドボルト49が長穴22の長手方向に移動自在に設けられる。
【0044】
上記の積層導電性部材13は、複数の平板部23A〜23Dの間に、各平板部間を電気的に絶縁する絶縁層55を有する。この絶縁層55は、例えば各平板部23A〜23Dの表面及び裏面の少なくとも一方に粉体塗装により形成することができる。本実施形態においては、各平板部23A〜23Dの表裏面に絶縁層55が形成されている。この粉体塗装には、主に「静電塗装法(吹き付け塗装)」と、「流動浸漬法(浸漬塗装)」との2つがある。
【0045】
本第2の実施形態に係る導体接続部12Aの公差吸収構造は、接続相手導体である第1〜第4の接続片35,37,39,41が、それぞれの平板部23A〜23Dの外周縁25から相互に離間して突出形成され、スタッドボルト49が、長穴22の延在方向に沿って接続ボックス11に形成されたガイド溝24に沿って移動自在に設けられている。公差吸収部である長穴22を有した第1〜第4の接続片35,37,39,41は、接続ボックス11における接続開口部19の各接続口21に配置される。この各接続口21には、導体片部である第1高剛性配索材96の配索材接続部89がそれぞれ挿入される。接続口21に挿入された配索材接続部89のボルト固定穴43には、第1〜第4の接続片35,37,39,41の長穴22に挿通されたスタッドボルト49が挿通される。このスタッドボルト49に固定ナット51が螺合されることにより、接続相手導体であるである第1〜第4の接続片35,37,39,41に、導体片部である配索材接続部89が電気的に接続される。
【0046】
図12に示す本第2の実施形態の変形例に係る導体接続部12Bの公差吸収構造のように、接続ボックス11における接続開口部19のガイド溝24には、付勢部材26が、奥壁とスタッドボルト49の頭部との間に配設されていてもよい。付勢部材26としては、例えば圧縮コイルスプリングを用いることができる。ガイド溝24に挿入された付勢部材26は、スタッドボルト49を、
図12の右方へ付勢する。付勢されたスタッドボルト49は、第1〜第4の接続片35,37,39,41の長穴22の一端(
図12中、右端)に当接して移動が規制される。スタッドボルト49は、付勢部材26の付勢力に抗して長穴22に沿って移動が可能となる。従って、この構成によれば、第2高剛性配索材98の配索材接続部89が接続されていないスタッドボルト49は、長穴22の一端側に片寄せられた状態に保持される。
【0047】
図13に示すように、例えば車載バッテリー107から一度、ジャンクションボックス105を通し、各所の機器109に電源を送る従来の車両における配索例の場合、電線長が長くなる問題があった。また、余計な電線111が増えるため、重量アップやコストアップに繋がる問題があった。
これに対し、
図14に示すように、接続ボックス11と配索材85(第1高剛性配索材96、第2高剛性配索材98、下流側配索材97及び分岐配索材101等)を用いた車両における配索例では、車載バッテリー107からの配索材85の必要箇所に接続ボックス11を介装し、それぞれの接続ボックス11から各所の機器109に電源を送ることがでるので、電線長を短くできる。また、余計な電線が増えないため、重量及びコストを低減することができる。
【0048】
次に、上述した第2の実施形態に係る公差吸収構造の作用を説明する。
本第2の実施形態に係る導体接続部12Aの公差吸収構造では、接続ボックス11の接続開口部19に、長穴22を有した接続相手導体である第1〜第4の接続片35,37,39,41が配置される。接続開口部19に形成されたガイド溝24は、長穴22を貫通するスタッドボルト49を、長穴22の長手方向に移動自在に案内する。第1〜第4の接続片35,37,39,41や第2高剛性配索材98などの剛性が高い配索材に生じている公差の範囲の位置ズレは、このスタッドボルト49の移動により吸収される。これにより、スタッドボルト49は、第1〜第4の接続片35,37,39,41及び配索材接続部89に挿通不能となる状態が抑制される。
【0049】
また、接続相手導体としての第1〜第4の接続片35,37,39,41は、積層された複数の平板部23A〜23Dのそれぞれに設けられる。複数の第1〜第4の接続片35,37,39,41は、平型導体87A〜87Dの数と等しい平板部23A〜23Dの合計の厚みと、その間に設けられる絶縁層55の合計の厚みとの和のみが積層方向の厚みとなり、薄厚に形成できる。これにより、配索空間の省スペース化を図りつつ、第2高剛性配索材98においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【0050】
また、本第2の実施形態の変形例に係る導体接続部12Bの公差吸収構造では、スタッドボルト49は、付勢部材26の付勢力に抗して最適な位置へ移動が可能となる。移動されたスタッドボルト49は、付勢部材26を蓄勢した位置で、第1〜第4の接続片35,37,39,41と配索材接続部89とを締結する。第1〜第4の接続片35,37,39,41に配索材接続部89が接続されない場合、スタッドボルト49は、付勢部材26の付勢力よりガイド溝24の一端側に片寄せられた状態で保持される。これにより、例えば配索材接続部89が未接続となった第1〜第4の接続片35,37,39,41においても車両走行時等の振動によるスタッドボルト49のがたつきが抑制される。
【0051】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。
図15は本発明の第3の実施形態に係る公差吸収構造を備える接続ボックス28の外観斜視図、
図16は蓋ケース17を外した
図15に示す接続ボックス28の外観斜視図である。なお、本第3の実施形態では、上記第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し重複する説明は省略する。
図15に示すように、本第3の実施形態の接続ボックス28は、ケース141が略6面体で形成される。接続ボックス28のそれぞれの側辺部には、合計4つの接続開口部19が各側辺部から突出して形成される。それぞれの接続開口部19は、複数(図示例では2つ)の接続口21を有する。なお、接続ボックス28におけるこれら電源の分岐方向は、高剛性配索材186(
図19参照)の配索方向に依存するため、図示例の形状に限らず、最適な位置を選択・加工することで自由に分岐方向を変更することができるものである。
【0052】
各接続口21には、後述の第1の接続片47A〜47Dおよび第2の接続片49A〜49Dが配置される。各接続口21に配置されるそれぞれの接続片には、高剛性配索材186のそれぞれの平型導体(導体)32,34(
図19参照)が電気的に接続される。各接続片には、高剛性配索材186の平型導体32,34をボルト締結によりそれぞれ電気的に接続するためのボルト固定穴179が穿設されている
【0053】
それぞれの接続口21は、隔壁195により仕切られている。それぞれの接続口21の底部には、例えばスタッドボルト80を植設する凹部191が形成されている。なお、スタッドボルト80は、ケース141に予めインサート成形されていてもよい。ケース141のそれぞれの角部の外側には、ケース141に蓋ケース17を固定ネジ(図示せず)により共締め固定するためのネジ穴193が形成されている。
【0054】
図17及び
図18に示すように、接続ボックス28に収容される積層導電性部材113は、複数の平板状の導電性材料からなる第1平板部131及び第2平板部133を積層してなる。
本第3の実施形態において、平面視で方形の各平板部131及び133は、積層された各平板部131及び133の外周縁から積層方向に重ならないように横並に突出する第1の接続片47A〜47D及び第2の接続片49A〜49Dを有する。
【0055】
第1平板部131は、第1の接続片47Aと第1の接続片47Bとに挟まれる角部が空きスペース183となり、平板部積層時には、ここに第2平板部133における第2の接続片49Aと第2の接続片49Bとが配置される。一方、第2平板部133は、第2の接続片49Cと第2の接続片49Dとに挟まれる角部が空きスペース183となり、平板部積層時には、ここに第1平板部131における第1の接続片47Cと第1の接続片47Dとが配置される。ケース141には、第1平板部131及び第2平板部133を収容する平板部収容凹部187が形成されている。
【0056】
図19に示すように、本第3の実施形態に係る導体接続部12Cの公差吸収構造は、第1平板部131及び第2平板部133における第1の接続片47A及び第2の接続片49Aと、高剛性配索材186における平型導体32,34の配索材接続部189との間に設けられる。従って、これら第1の接続片47A及び第2の接続片49Aと、平型導体32,34の配索材接続部189とに、公差吸収部が設けられている。
【0057】
本第3の実施形態において、公差吸収部は、高剛性配索材186の接続方向に沿って点在した複数の締結用挿通穴38である。
本第3の実施形態では、第1の接続片47A及び第2の接続片49Aのみを接続ボックス28の接続開口部19から突出させる構成としたが、第1の接続片47A〜47D及び第2の接続片49A〜49Dは、任意の接続片を突出させる構成とすることができる。
【0058】
次に、上述した第3の実施形態に係る公差吸収構造の作用を説明する。
本第3の実施形態に係る導体接続部12Cの公差吸収構造では、締結部材である締結ボルト52は、接続開口部19から突出した第1の接続片47A及び第2の接続片49Aと、高剛性配索材186の配索材接続部189とに点在する複数の締結用挿通穴38の内、
図20に示すように、例えば第1の接続片47A及び配索材接続部189の双方に貫通可能となる最適な締結用挿通穴38を選択して挿通される。第1の接続片47Aや高剛性配索材186に生じている公差の範囲の位置ズレは、この最適な締結用挿通穴38の選択により吸収される。これにより、締結ボルト52は、第1の接続片47A及び配索材接続部189に挿通不能となる状態が抑制される。
【0059】
また、本第3の実施形態に係る導体接続部12Cの公差吸収構造では、接続相手導体としての第1の接続片47A〜47D及び第2の接続片49A〜49Dが、積層された複数の第1平板部131及び第2平板部133のそれぞれに設けられる。複数の第1の接続片47A〜47D及び第2の接続片49A〜49Dは、平型導体32,34の数と等しい第1平板部131及び第2平板部133の合計の厚みと、その間に設けられる絶縁層55の合計の厚みとの和のみが積層方向の厚みとなり、薄厚に形成できる。これにより、配索空間の省スペース化を図りつつ、高剛性配索材186においても、公差の範囲で生じる位置ズレが吸収可能となる。
【0060】
従って、本実施形態に係る導体接続部12〜12Cの公差吸収構造によれば、高い剛性を有する配索材85の組付け性を向上させることができる。
【0061】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0062】
例えば、上記の構成の分岐ボックスは、平板部が四角形である場合を例に説明したが、平板部の形状はこれに限定されず、円形、長円形、楕円形の他、三角形、五角形、六角形、八角形等の多角形でもよい。
【0063】
ここで、上述した本発明に係る導体接続部の公差吸収構造の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[6]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 接続相手導体(配索材接続部89)と、
剛性の高い配索材(第2高剛性配索材98)の導体の端部に形成されて前記接続相手導体の接続面と平行な導体片部(配索材接続部90)と、
平行に重ねられた前記接続相手導体と前記導体片部とを前記接続面に垂直な方向で貫通して前記接続相手導体及び前記導体片部を締結して電気的に接続する締結部材(締結ボルト52)と、
前記接続相手導体及び前記導体片部の少なくとも一方に設けられ、前記剛性の高い配索材の接続方向に沿って延在若しくは点在して前記締結部材を前記剛性の高い配索材の延在方向の異なる位置で貫通させる公差吸収部(長穴22)と、
を備えることを特徴とする導体接続部(12)の公差吸収構造。
[2] 前記公差吸収部は、
短径が前記締結部材(締結ボルト52)の外径と略等しく、長径が前記剛性の高い配索材(第2高剛性配索材98)の接続方向に沿って延在して前記短径より大きく形成された長穴(22)であることを特徴とする上記[1]に記載の導体接続部(12)の公差吸収構造。
[3] 前記公差吸収部は、
前記剛性の高い配索材(高剛性配索材186)の接続方向に沿って点在した複数の締結用挿通穴(38)であることを特徴とする上記[1]に記載の導体接続部(12C)の公差吸収構造。
[4] 導電性材料からなる複数の平板部(23A〜23D)が、絶縁層(55)により各平板部間を電気的に絶縁して積層され、
前記接続相手導体(第1〜第4の接続片35,37,39,41)が、それぞれの前記平板部の外周縁から相互に離間して突出形成され、
前記平板部及び前記接続相手導体が、前記導体片部(配索材接続部89)が挿入される接続開口部(接続開口部19)を備えた絶縁樹脂製の接続ボックス(11)に収容され、
前記締結部材(スタッドボルト49)が、前記長穴(22)の延在方向で前記接続ボックスに形成されたガイド溝(24)に沿って移動自在に設けられていることを特徴とする上記[2]に記載の導体接続部(12A)の公差吸収構造。
[5] 前記ガイド溝(24)には、前記締結部材(スタッドボルト49)を前記ガイド溝の一端側へ付勢する付勢部材(26)が挿入されていることを特徴とする上記[4]に記載の導体接続部(12B)の公差吸収構造。
[6] 導電性材料からなる複数の平板部(第1平板部131及び第2平板部133)が、絶縁層(55)により各平板部間を電気的に絶縁して積層され、
前記接続相手導体(第1の接続片47A及び第2の接続片49A)が、それぞれの前記平板部の外周縁から相互に離間して突出形成され、
前記平板部が、絶縁樹脂製の接続ボックス(28)に収容され、
前記接続相手導体が、前記接続ボックスの接続開口部(19)から突出することを特徴とする上記[3]に記載の導体接続部(12C)の公差吸収構造。